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関連審決 不服2001-6695
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10005号 審決取消請求事件
原告 日本写真印刷株式会社
訴訟代理人弁護士 阿部隆徳
同 弁理士 伊藤晃
同 和田充夫
同 中塚雅也
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 内田正和
同 治田義孝
同 立川功
同 涌井幸一
同 宮下正之
同 大日方和幸
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/07/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2001-6695号事件について平成16年4月6日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成6年4月27日,発明の名称を「透明タッチパネル」とする発明について特許出願(特願平6-114403号,優先権主張1993年〔平成5年〕4月28日・日本,以下「本件出願」という。)をしたが,平成13年3月22日に拒絶の査定を受けたので,同年4月26日,拒絶査定不服の審判請求をした。特許庁は,同請求を不服2001-6695号事件として審理した結果,平成16年4月6日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月20日,原告に送達された。
2 平成8年4月26日付け手続補正書によって補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の要旨 透明でかつ可撓性を有する可動電極フィルムと,可動電極フィルムの上面に形成された透明なハードコート層と,可動電極フィルムの下面に形成された透明な可動電極と,可動電極フィルムと可動電極との間に形成された透明な収縮性樹脂層と,可動電極フィルムの下方に対向して配置された固定電極支持体と,可動電極フィルムの下面に対向する固定電極支持体の上面に形成された固定電極と,可動電極フィルムの可動電極が形成された下面と固定電極支持体の固定電極が形成された上面との間に形成されたスペーサーとを備えたことを特徴とする透明タッチパネル。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明が,特開平2-5308号公報(甲4,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明との対比を誤り(取消事由1),相違点についての判断を誤り(取消事由2),その結果,本願発明が引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論を導き出したもので,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り) 審決は,「『可動電極フィルム2と固定電極支持体8との間隔は適切に保たれる。』(段落【0024】【0025】)によれば,可動電極フィルム(2)の『反りを相殺して平面等になす』ためのものであるから,本願発明の『収縮性樹脂層』は,引用例のプラスチック基板(1)のたわみを防止するために基板(1)の反対面に設けられる『金属酸化物被膜(4)』に対比され,両者は同様の技術的意義を有する点で共通し,『反り・たわみ防止層』といえるものである。」(審決謄本4頁下から第2段落)とし,この認定を前提として,本願発明と引用発明との対比を行っている。しかし,本願発明と引用発明とは,前者の収縮性樹脂層,後者の金属酸化物被膜において,反り・たわみを防止するためのメカニズムが全く異なっており,また,オリゴマーが析出することを防止し,ひいては可動電極フイルムが白化するのを防止する機能を有するか否かで相違し,材質も相違しており,総じて,両者の技術的意義が全く相違しているから,本願発明の収縮性樹脂層と引用例の金属酸化物被膜とは対比し得る関係にない。対比するとすれば,層構造において,本願発明の収縮性樹脂層と同じ位置にあり,これと同じ材質を有するハードコート被膜とを対比されるべきである。
したがって,本願発明の収縮性樹脂層と引用発明の金属酸化物被膜とを対比させている審決の認定は誤りであり,これを前提とする本願発明と引用発明との対比も誤りである。
2 取消事由2(相違点(@)についての判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点(@)として,「本願発明にあっては,反り・たわみ防止層を収縮性樹脂層として,可動電極フィルムと可動電極との間に形成しているのに対して,引用例にあっては,反り・たわみ防止層を金属酸化物被膜として,プラスチック基板(1)の導電性を有する被膜(3)とは反対面の硬化被膜上に形成している点」(審決謄本5頁第4段落)を認定した上,相違点(@)について,「引用例においては,反り・たわみ防止層の具体的材料を『金属酸化物被膜』として電極の反対面に設けるものではあるが,その根拠はたわみ防止以外の記載がなく明かではないものの,通常,収縮性材料として『樹脂』を選択することは当業者の周知慣用技術であり,反り・たわみの発生状態を考慮して収縮性材料の被膜を設けるものであって当業者が適宜定め得る設計事項であるから,上記引用例に記載されたものにおいても,前記周知慣用技術参酌して前記反り・たわみを防止できるように,これを可動電極フィルムと可動電極との間に形成することにより本願発明のように構成することは当業者が容易になし得ることである。」(同5頁最終段落〜6頁第1段落)と判断したが,誤りである。
(2) 引用例(甲4)の実施例において,プラスチック基板の反対面に金属酸化物被膜が設けられた場合に,「130℃に設定したオーブン中に1時間放置後,導電被膜の外観とたわみを目視で判定したが,まったく異状は認められなかった。」(5頁左下欄19行目〜同右下欄1行目)との記載があるから,金属酸化物被膜は,耐熱性を有するものである。ところで,引用例の装置は,単なる積層構造であるので,金属酸化物被膜と他の部材とのそれぞれの機能が連携して作用することによって装置全体としての耐熱性を発揮させるとは考えにくいから,引用発明において耐熱性を実現させているのは金属酸化物被膜の存在である。したがって,引用発明のプラスチック基板の反対面にハードコート被膜(以下「第2ハードコート被膜」という。)を介して設けられる金属酸化物被膜は,プラスチック基板のたわみを防止するためのものではなく,この金属酸化物被膜が優れた耐熱性を有することで,第2ハードコート被膜に熱的悪影響が及ぶ,すなわち,第2ハードコート被膜が熱収縮を起こすのを防止することで反りを防止するものというべきである。そうすると,本願発明と引用発明とは,反り・たわみを防止するという結果だけみれば部分的には共通しているものの,本願発明は,収縮性樹脂層による積極的な熱収縮を許容しつつ,ハードコート層の熱収縮による反りを相殺して反り・たわみを防止するのに対し,引用発明においては,上記のとおり,金属酸化物被膜により第2ハードコート被膜に熱的悪影響が及ぶことを防止することによって反り・たわみを防止するものであって,両者は,反り・たわみを防止するためのメカニズムが全く異なる。
このように,本願発明と引用発明とは,前者の収縮性樹脂層,後者の金属酸化物被膜において,反り・たわみを防止するためのメカニズムが全く異なっているから,引用発明には,本願発明のような,可動電極フィルムと可動電極の間に形成された収縮性樹脂層と可動電極フィルムの上面に形成されたハードコート層との間の熱収縮率の差を利用して反りを相殺することにより可動電極の反りを一方向に制御するという技術的課題がないから,引用発明における反り・たわみ防止層の具体的材料である金属酸化物被膜を,本願発明のように収縮性樹脂層に替えることについての動機付けがない。
(3) 仮に,被告主張のとおり,引用発明における反り防止の解決原理が,収縮しない硬い層である金属酸化物被膜において,第2ハードコート被膜の反り・たわみを抑えることにより反りを防止するものであるとしても,本願発明と引用発明とは技術的課題が異なるから,金属酸化物被膜1層が第2ハードコート被膜の反り・たわみを抑えることによって反りを防止するという引用発明から,2層間の熱収縮率の差を利用して相殺を故意に起こし反り・たわみを防止するという本願発明に想到することについての動機付けがない。
(4) 加えて,本願発明の収縮性樹脂層は,可動電極フイルムからオリゴマーが析出することを防止し,ひいては可動電極フイルムが白化するのを防止する機能を有しているのに対し,引用発明においてオリゴマー析出防止の機能を発揮しているのはプラスチック基板の表面に直接設けられているハードコート被膜であり,金属酸化物被膜ではない。また,本願発明の収縮性樹脂層の材質は収縮性のある樹脂であるのに対し,引用発明の金属酸化物被膜は収縮性がない材質であるから,両者は材質の面で相違している。そうすると,引用発明の金属酸化物被膜を,本願発明の収縮性樹脂層に替えることについての動機付けはないというべきである。
(5) 被告は,反り・たわみを防止する具体的手段として,本願発明のように,凸方向に反る側,すなわち収縮しない側に収縮する層を設けて打ち消し合うようにすることは,例えば,乙1及び2にみられるように,周知慣用技術である旨主張する。
しかし,周知技術とは,「その技術分野において一般的に知られている技術であって,例えば,これに関し相当多数の公知文献が存在し,又は業界に知れわたり,あるいは例示する必要がない程よく知られている技術」をいい,慣用技術とは,「周知技術であって,かつ,よく用いられている技術」をいうから,乙1及び2というわずか二つの文献から周知慣用技術が認定されるものではない。
また,乙1及び2に記載された技術は,「収縮する層」によって反り防止を実現するものであり,「収縮しない層」によって反り防止を実現する引用発明とは原理が相反するため,これを引用発明に組み合わせることは積極的に排除され,引用発明への適用の阻害事由となる。
(6) 審決は,「通常,収縮性材料として『樹脂』を選択することは当業者の周知慣用技術であり,反り・たわみの発生状態を考慮して収縮性材料の被膜を設けるものであって当業者が適宜定め得る設計事項であるから,上記引用例に記載されたものにおいても,前記周知慣用技術参酌して前記反り・たわみを防止できるように,これを可動電極フィルムと可動電極との間に形成することにより本願発明のように構成することは当業者が容易になし得ることである。」(審決謄本6頁第1段落)としているのに,被告は,本件訴訟において,反り・たわみを防止する具体的手段として,本願発明のように,凸方向に反る側,すなわち収縮しない側に収縮する層を設けて打ち消し合うようにすることは周知慣用技術であるとし,これを乙1及び2によって立証しようとしているが,これは,審決の理由と異なる理由を掲げての主張であって,当審における審理の範囲を超えており,違法である。
被告は,さらに,乙3ないし8まで提出するが,乙1及び2と同様に違法であるのみならず,時機に後れた攻撃防御方法にほかならず,その提出は許されない。
(7) 仮に,審決の判断するように,引用発明の金属酸化物被膜を収縮性樹脂層に置き換え,かつ,これをプラスチック基板と導電性被膜との間に形成することが当業者にとって容易にし得ることであるとしても,なぜ容易にし得るのか,特に収縮性樹脂層をなぜプラスチック基板と導電性被膜との間に形成できるのかの根拠を全く説明していないから,審決は,この点について判断を遺脱しているものというべきである。
被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り)について 原告は,本願発明の収縮性樹脂層と引用発明の金属酸化物被膜の作用,機能,材質の相違を理由に,本願発明の収縮性樹脂層と引用例の金属酸化物被膜とは対比し得る関係にない旨主張する。
原告は,本願発明の収縮性樹脂層と引用発明の金属酸化物被膜の作用・機能の相違を強調しているが,審決は,本願発明の収縮性樹脂層と引用発明の金属酸化物被膜の相違を,相違点(@)において,材質による相違と認定している。そして,収縮性樹脂層と金属酸化物被膜の作用,機能の相違は,相違点(@)についての判断において,引用発明の金属酸化物被膜を収縮性樹脂層に置き換えて所要箇所に設けることが容易か否かの判断において考慮されるべきことであるから,原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(相違点(@)についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明が,金属酸化物被膜により第2ハードコート被膜に熱的悪影響が及ぶことを防止することによって反り・たわみを防止するものであって,本願発明とは反り・たわみを防止するためのメカニズムが全く異なる旨主張する。
しかし,引用例(甲4)の実施例において,「130℃に設定したオーブン中に1時間放置後,導電被膜の外観とたわみを目視で判定したが,まったく異状は認められなかった。」(5頁左下欄19行目〜右下欄1行目)と記載されているとおり,これは全体の装置として熱によりたわみが発生しなかったことを述べているのである。上記のとおり,引用例には,発明全体の装置に関して耐熱性があると記載されているにもかかわらず,原告は,金属酸化物被膜が耐熱性のために設けられたと曲解した上で議論を進めるものであって,失当というほかない。
また,一般に,反り・たわみを防止する手段として,まず最初に思いつくものは反り・たわみが起きる力に対してその反り・たわみの力を抑えようとすることであり,引用例には,たわみを防止するために層を設けるとの記載しかないことから,金属酸化物被膜が熱耐性のために設けたとは考えられない。このことは,引用例には,「基板の反対面に金属酸化物被膜が設けられる」と記載されており,「ハードコート被膜の上面に金属酸化物被膜を設ける」,もしくは「基板の一番上に金属酸化物被膜を設ける」とは記載されていないことからも,耐熱性について述べているものでないことが明らかである。
さらに,原告は,本願発明と引用発明とは,反り・たわみを防止するという結果だけみれば部分的には共通しているものの,本願発明は,収縮性樹脂層による積極的な熱収縮を許容しつつ,第2ハードコート層の熱収縮による反りを相殺して反り・たわみを防止するのに対し,引用発明においては,上記のとおり,金属酸化物被膜により第2ハードコート被膜に熱的悪影響が及ぶことを防止することによって反り・たわみを防止するものであって,両者は,反り・たわみを防止するためのメカニズムが全く異なる旨主張するが,誤りである。
すなわち,反り・たわみ防止という解決しようとする技術的課題に対して,本願発明は,そのため基板の反対面に収縮性樹脂層を設けるものであるのに対し,引用発明は,基板の反対面に金属酸化物被膜という反り・たわみ防止層を設ける手段を適用して解決するものである。このように,本願発明と引用発明は,「反り・たわみ防止」という点で技術的課題は同じであり,その技術的課題を解決する具体的手段が異なるものである。
ところで,反り・たわみを防止する具体的手段として,本願発明のように,凸方向に反る側,すなわち収縮しない側に収縮する層を設けて打ち消し合うようにすることは,例えば乙1及び2にみられるように,周知慣用技術である。
そこで,引用発明のように,収縮する第2ハードコート層に対して,その直近に金属酸化物被膜,すなわち収縮しない硬い層を設けて,第2ハードコート層の収縮を受け止め,これによって反り・たわみを防止することに替えて,本願発明のように,収縮するハードコート層に対して収縮しない側に収縮樹脂層を設けることにより,反り・たわみを防止するような構成とすることは容易にし得ることである。
引用発明の金属酸化物被膜は,全体の反り・たわみを防止しているのであるから,金属酸化物被膜を全体のどの箇所に入れて全体の反り・たわみを防止させるかは,当業者が当然に考慮するものであって,その防止する機能を発揮させるためには,そのために必要な箇所に挿入されることになる。そして,この必要な箇所は,本願発明は収縮性樹脂であるから,可動電極フィルムの可動電極側であり,引用発明ではプラスチック基板の可動電極と反対側となるのである。
(2) 原告は,本願発明の収縮性樹脂層は,可動電極フイルムからオリゴマーが析出することを防止し,ひいては可動電極フイルムが白化するのを防止する機能を有しているのに対し,引用発明の金属酸化物被膜にはそのような機能はない旨主張する。しかし,本件明細書(甲3)の発明の詳細な説明中の「また,可動電極フィルム2の上面をハードコート層1で覆い,下面を収縮性樹脂層3で覆うことにより,可動電極フィルム2からオリゴマーが析出しなくなるので,可動電極フィルム2が白化するのを防止することができる。」(段落【0026】)との記載によれば,本願発明のオリゴマー析出防止機能は,単に可動電極フィルムの上下を別の層で覆うことにより得られるものであり,引用発明においても,プラスチック基板はハードコート被膜と金属酸化物被膜により覆われており,本願発明と変わらないことが明らかである。
(3) 原告は,被告の乙1及び2の提出を争っている。しかし,一般に,本願発明と引用例記載の発明との相違点を判断するに当たって,当業者において周知慣用技術であれば,審判段階において特段の引用文献等を提示する必要はない。周知慣用技術であるが審決段階で提示しなかった証拠を訴訟段階で提出することは何ら問題はない。
周知慣用技術であることの立証は,乙1及び2で十分であるが,この二つの書証だけでは周知慣用技術とはいえないとの原告の主張にかんがみ,念のために,周知慣用技術であることの補強として乙3ないし8を追加提出するものであるから,乙3ないし8の提出が時機に後れた攻撃防御方法であるとの原告の主張は失当である。
(4) 原告は,引用発明の金属酸化物被膜を収縮性樹脂層に置き換え,かつ,これをプラスチック基板と導電性被膜との間に形成することが当業者にとって容易にし得ることであるとしても,なぜ容易にし得るのか,特に収縮性樹脂層をなぜプラスチック基板と導電性被膜との間に形成できるのかの根拠を全く説明していないから,審決は,この点について判断を遺脱していると主張する。
しかし,審決は,容易想到性の判断として,「上記引用例に記載されたものにおいても,前記周知慣用技術参酌して前記反り・たわみを防止できるように,これを可動電極フィルムと可動電極との間に形成することにより本願発明のように構成することは当業者が容易になし得ることである。」(審決謄本6頁第1段落)と説示しているから,原告主張のような判断の遺脱はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明と引用発明との対比の誤り)について (1) 引用例(甲4)に,「高透明性,軽量性,高導電性,耐衝撃性,高耐久性に優れているものであって,液晶表示電極,入力タブレットなどの画像入力装置に使用されるもので,アクリル樹脂やポリカーボネイトなどからなる透明なプラスチック基板(1)と,プラスチック基板(1)の上面に形成されたメラミン樹脂やアクリル樹脂などからなる透明なハードコート被膜(2)と,プラスチック基板(1)の下面に形成された透明なハードコート被膜(2)を介在したIn及び/又はSnからなる酸化物の透明な導電性を有する被膜(3)と,プラスチック基板(1)の上面に形成された透明なハードコート被膜(2)を介在したSiO2やTiO 2などからなる透明な金属酸化物被膜(4)とにより構成され,前記金属酸化物被膜(4)は,熱加工によって硬化被膜と導電性を有する被膜間に熱収縮差が生じて発生するたわみを防止するため,プラスチック基板(1)の導電性を有する被膜(3)とは反対面の硬化被膜上に形成されたものである,入力タブレット。」(審決謄本3頁最終段落〜4頁第1段落)との技術(引用発明)が記載されていることは,当事者間に争いがない(なお,「例えば,プラスチック基板(1)の導電性を有する被膜(3)とは反対面の硬化被膜上に形成されたものである,入力タブレット。」の記載中の「例えば」の語は,当事者間に争いがあるので,除外する。)。
上記第2の2の本願発明の要旨及び引用発明の上記技術内容にかんがみれば,本願発明と引用発明とが同一技術分野に属することは明らかであるところ,証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,引用発明の「入力タブレット」は本願発明の「透明タッチパネル」に,引用発明の「ハードコート被膜(2)」は本願発明の「ハードコート層」に,引用発明の「導電性を有する被膜(3)」は本願発明の「可動電極」に,引用発明の「プラスチック基板(1)」は本願発明の「可動電極フイルム」に,引用発明の「金属酸化物被膜(4)」は本願発明の「収縮性樹脂層」にそれぞれ相当すると認められるので,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,「透明でかつ可撓性を有する可動電極フィルムと,可動電極フィルムの上面に形成された透明なハードコート層と,可動電極フィルムの下面に形成された透明な可動電極と,透明な反り・たわみ防止層とを備えた透明タッチパネル。」であることにおいて一致し,一方,「(@)本願発明にあっては,反り・たわみ防止層を収縮性樹脂層として,可動電極フィルムと可動電極との間に形成しているのに対して,引用例にあっては,反り・たわみ防止層を金属酸化物被膜として,プラスチック基板(1)の導電性を有する被膜(3)とは反対面の硬化被膜上に形成している点,(A)本願発明にあっては,タッチパネルの構成が,可動電極フィルムの下方に対向して配置された固定電極支持体と,可動電極フィルムの下面に対向する固定電極支持体の上面に形成された固定電極と,可動電極フィルムの可動電極が形成された下面と固定電極支持体の固定電極が形成された上面との間に形成されたスペーサとを備えた構成であるのに対して,引用例にあっては,この構成が明示されていない点」で相違するものということができる。
そうすると,本願発明と引用発明との対比についての審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は,本願発明と引用発明とは,前者の収縮性樹脂層,後者の金属酸化物被膜において,反り・たわみを防止するためのメカニズムが全く異なっており,また,オリゴマーが析出することを防止し,ひいては可動電極フイルムが白化するのを防止する機能を有するか否かで相違し,材質も相違しており,総じて,両者の技術的意義が全く相違しているから,本願発明の収縮性樹脂層と引用例の金属酸化物被膜とは対比し得る関係にない旨主張する。
しかし,本願発明の進歩性を検討するに当たっての本願発明と引用発明との対比は,両者の構成の異同に着目して行われるものであり,反り・たわみを防止するためのメカニズムが異なるか否か,オリゴマーが析出することを防止し,ひいては可動電極フイルムが白化するのを防止する機能を有しているか否かなどといった作用・効果の相違は,構成の想到の困難性を推測させる事情となり得ることは格別,それ自体として,直ちに両発明の構成についての対比認定を左右するものではない。審決も,その見地から,上記(1)のとおり,引用例の金属酸化物被膜が本願発明の収縮性樹脂層に相当するものと評価した上,本願発明と引用発明とを構成において対比し,本願発明の収縮性樹脂層と引用例の金属酸化物被膜とを相違点(@)として摘示した上,その容易想到性について判断しているのであって,両発明の対比認定には何ら誤りはない。
原告の上記主張は,独自の見解によるものであって,採用することができない。
2 取消事由2(相違点(@)についての判断の誤り)について (1) 引用例(甲4)には,次の記載がある。
@ 「両面にハードコート被膜を有するプラスチック基板を片面の少なくともその一部に,導電性を有する被膜を設け,さらに該基板の反対面に金属酸化物被膜を設けたことを特徴とする導電性を有するプラスチック成形体。」(特許請求の範囲) A 「本発明は,かかる従来技術の欠点を解消しようとするものであり,被膜とプラスチック基板との接着強度が良好で,耐久性,耐熱性に優れ,かつ後加工時に発生する熱膨張,収縮によるたわみの発生がない導電性を有するプラスチック成形体を提供することを目的とする。」(1頁右下欄19行目〜2頁左上欄4行目) B 「[課題を解決するための手段]本発明は,上記目的を達成するために,下記の構成を有する。『両面にハードコート被膜を有するプラスチック基板の片面の少なくともその一部に,導電性を有する被膜を設け,さらに該基板の反対面に金属酸化物被膜を設けたことを特徴とする導電性を有するプラスチック成形体。』」(2頁左上欄5行目〜12行目), C 「次に,本発明における導電性を有する被膜の反対面の硬化被膜上に設けられる金属酸化物被膜としては,特に限定されないが例えばSiO2,SiO,ZrO2,Al 2O 3,TiO,TiO 2,Ti 2O 3,Y 2O 3,Yb 2O 3,MgO,Ta2O 5,CeO 2,HfO 2などが挙げられる。・・・これらの金属酸化物被膜の形成方法としては,成膜しやすさの点から真空蒸着法またはスパッタリング法が好ましく用いられ,またその膜厚としては,耐熱性の点からは1μm以下が好ましいが,反対面の導電膜の種類,厚みによって決定されるべきものであり,特に限定されるものではない。導電性を有するプラスチック成形体をいわゆる入力タブレットと称される画像入力素子などに使用する場合は,種々の加工が必要であり,たとえば熱加工によって硬化被膜と導電性被膜間に熱収縮差が生じてたわみが発生する。このたわみを防止するために本発明においては,基板の反対面に金属酸化物被膜が設けられるものである。本発明の実施例1で得られたプラスチック成形体の縦断面図を図面に示した。図面中1はプラスチック基板,2はハードコート被膜,3は導電性を有する被膜,4は金属酸化物被膜を示す。」(4頁右上欄14行目〜右下欄2行目) D 「比較例2 実施例1において導電性被膜の反対面のSiO2被膜を設けない以外は,すべて同様に行ったところ,シート抵抗150Ω/□,全光線透過率84%,接着性は良好であったが耐熱テストにおいてたわみが認められた。」(5頁右下欄12行目〜17行目) E 「[発明の効果] 本発明により得られる導電性を有するプラスチック成形体には,以下のような効果がある。(1)優れた耐熱性を有するため,熱膨張,収縮によるたわみが発生せず,液晶表示電極,画像入力素子などの熱処理による後加工が必要な分野において有用である。・・・」(5頁右下欄18行目〜6頁左上欄4行目) (2) 上記記載によれば,引用例には,導電性を有する被膜とハードコート被膜との間において熱膨張,収縮の差に起因するたわみが生じるが,ハードコート被膜に金属酸化物被膜を設けることによって,たわみを防止することができるとの技術が開示されているものと認めることができる。
この点について,原告は,引用発明のプラスチック基板の反対面に第2ハードコート被膜を介して設けられる金属酸化物被膜は,プラスチック基板のたわみを防止するためのものではなく,この金属酸化物被膜が優れた耐熱性を有することで,第2ハードコート被膜に熱的悪影響が及ぶ,すなわち,第2ハードコート被膜が熱収縮を起こすのを防止することで反りを防止するものというべきである旨主張するが,引用例を精査しても,引用例の記載から原告主張のような技術を読み取ることは困難であり,独自の見解に基づく主張というほかなく,失当である。
(3) 一方,引用例(甲4)の[従来の技術]の欄には,「現在,導電成形体として,無機ガラスを基板としたものが広く使用されているが,無機ガラスを基板とした導電成形体は,耐衝撃性に乏しく,割れ易い,また重いなどの欠点を有する。
そのため一方で,プラスチック成形体への変更が検討されている。例えば,特開昭58-208039号公報では,ポリスルホン樹脂を基板とし,その上に,導電膜を形成してなる成形体が示されている。また,特開昭62-215202号公報では,プラスチック基板上にハードコート被膜が形成され,さらにその上に金属酸化物からなる導電膜が形成されてなる成形体が示されている。」(1頁左下欄19行目〜右下欄10行目),[本発明が解決しようとする課題]の欄には,「しかしながら,特開昭58-208039号公報の技術は,プラスチック成形体との接着強度が不良である,また,後加工時に発生する熱膨脹,収縮によるたわみが発生するといった問題点を有していた。また,特開昭62-215202号公報の技術についても,熱膨脹,収縮によるたわみが発生するといった問題点を有していた。」(同頁右下欄12行目〜18行目),「導電性を有するプラスチック成形体をいわゆる入力タブレットと称される画像入力素子などに使用する場合は,種々の加工が必要であり,たとえば熱加工によって硬化被膜と導電性被膜間に熱収縮差が生じてたわみが発生する。このたわみを防止するために本発明においては,基板の反対面に金属酸化物被膜が設けられるものである。」(4頁左下欄12行目〜18行目)との記載があり,上記記載によれば,プラスチック成形体(あるいは「透明タッチパネル」)において,プラスチック基板(あるいは「可動電極フィルム」)に収縮性樹脂を設ける技術が,本件出願当時,周知であったものと認められ,しかも,その当時,既にプラスチック成形体(あるいは「透明タッチパネル」)の収縮性樹脂等の熱膨脹,収縮によるたわみの発生が周知の問題となっていたものである。
(4) 以上認定の事実によると,当業者が,プラスチック成形体(あるいは「透明タッチパネル」)に,引用発明の前段階の技術(「比較例2」参照)に当たる周知の収縮性樹脂を使用することは,ごくありふれた選択であるということができる。そうすると,原告が指摘する,乙1及び2による周知慣用技術の立証の可否の点について検討するまでもなく,引用発明において,発生するたわみを防止する手段として設けられている金属酸化物被膜を,収縮性樹脂に置き換えてたわみ防止の工夫をしてみようと考えることは,当業者にとって格別困難なことではないというべきである。
(5) 原告は,引用発明における反り防止の解決原理が,収縮しない硬い層である金属酸化物被膜において,第2ハードコート被膜の反り・たわみを抑えることにより反りを防止するものであるとしても,本願発明と引用発明とは技術的課題が異なるから,金属酸化物被膜1層が第2ハードコート被膜の反り・たわみを抑えることによって反りを防止するという引用発明から,2層間の熱収縮率の差を利用して相殺を故意に起こし反り・たわみを防止するという本願発明に想到することについての動機付けがない旨主張するので,検討する。
ア 本件明細書(甲3)の発明の詳細な説明には,次の記載があることが認められる。
@ 「印刷時の加熱処理により,前記したハードコート層1の未架橋部分の架橋が進行することになるので,ハードコート層1の熱収縮率は,可動電極フィルム2の熱収縮率を上回ることになる。そのため,ハードコート層1と接着一体化された可動電極フィルム2は,中央部がくぼむ向きに反りが生じ(図4参照),可動電極フィルム2と固定電極支持体8とが異常接近することになる。その結果,くぼみ部分を中心に干渉縞が現れやすくなり,外観および視認性が悪くなる。」(段落【0005】) A 「収縮性樹脂層3は,可動電極フィルム2の下面に透明に形成する。
収縮性樹脂層3としては,ハードコート層1として用いた樹脂と同じものを使用すると,製造上好都合である。また,メラミン樹脂,アクリル樹脂など,透明な架橋性樹脂を用いてもよい。収縮性樹脂層3は,可動電極フィルム2が最終的に中央がくぼまず,平面になるように,あるいはわずかに凸になる向きに反るために必要な厚みが必要である。具体的には,収縮性樹脂層3の厚さは,ハードコート層1の厚みの0.5〜3倍であるようにするのが好ましい。収縮性樹脂層3の厚さがハードコート層1の厚みの0.5倍に満たない場合は,可動電極フィルム2が最終的に中央がくぼまないようにすることが困難となる。また,収縮性樹脂層3の厚さがハードコート層1の厚みの3倍を越える場合は,可動電極フィルム2が最終的に中央が凸になる向きに大きく反る恐れが大きくなる。」(段落【0015】) B 「可動電極フィルム2の上面に形成されたハードコート層1の熱収縮率と,可動電極フィルム2の下面に形成された収縮性樹脂層3と可動電極4などを合計したものの熱収縮率とがほぼ同じである場合には,可動電極フィルム2の反りは相殺されて平面となる(図2参照)。また,上記の場合よりも収縮性樹脂層3の熱収縮率を大きく設定した場合には,可動電極フィルム2は中央が凸になる向きに反りが生じる(図1参照)。したがって,可動電極フィルム2と固定電極支持体8との間隔は適切に保たれる。」(段落【0024】及び【0025】) C 「さらに,収縮性樹脂層3の熱収縮率は,収縮性樹脂層3の種類と厚みを調整することによって任意のものとすることができ,ハードコート層1などの熱収縮率とのバランスを調整できる。」(段落【0027】) D 「この発明の透明タッチパネルは,以上の構成および作用からなるので,次の効果が得られる。すなわち,可動電極フィルムに反りが発生しないか,反りが発生してもわずかに凸になり,可動電極フィルムと固定電極支持体との間隔が適切に保たれるので,干渉縞の発生を防ぐことができる。したがって,LCDなどのディスプレイなどの上に透明タッチパネルをセットし,透明タッチパネルを介して下の画像を見たとき,干渉縞が現れず,外観および視認性に優れたものとなる。
また,可動電極フィルムからオリゴマーが析出しなくなるので,可動電極フィルムが白化することがなく,透明タッチパネルは透明性が高く外観および視認性に優れたものとなる。また,収縮性樹脂層3の種類と厚みを調整することによって可動電極フィルムの反りを制御することができるので,ハードコート層の厚みを大きくすることが容易にできる。したがって,透明タッチパネルの表面強度は高いものとなる。」(段落【0041】〜【0044】) イ 上記記載によれば,本願発明においては,「収縮性樹脂層3は,可動電極フィルム2が最終的に中央がくぼまず,平面になるように,あるいはわずかに凸になる向きに反るために必要な厚みが必要であ」り,「収縮性樹脂層3の種類と厚みを調整することによって可動電極フィルムの反りを制御することができる」のであり,「可動電極フィルム2の上面に形成されたハードコート層1の熱収縮率と,可動電極フィルム2の下面に形成された収縮性樹脂層3と可動電極4などを合計したものの熱収縮率とがほぼ同じである場合には,可動電極フィルム2の反りは相殺されて平面となる・・・。また,上記の場合よりも収縮性樹脂層3の熱収縮率を大きく設定した場合には,可動電極フィルム2は中央が凸になる向きに反りが生じる」のである。そうすると,本願発明において,ハードコート層の熱収縮による反りを相殺して反り・たわみを防止するという作用効果を奏じさせるために収縮性樹脂層の種類と厚みをどのように調整するかを発明の構成としていない以上,ハードコート層の熱収縮による反りを相殺して反り・たわみを防止するという作用効果を奏することに結び付けることはできない。
このように,本願発明においては,収縮性樹脂層による積極的な熱収縮を許容しつつ,ハードコート層の熱収縮による反りを相殺して反り・たわみを防止するなどといった技術的意義を論ずる余地はなく,「要は反りやたわみを防止するために収縮力を得ることができる材料であればよく,具体的材料の選択では製造上その他の構成要素との適合性があればよいものと認められ,その余に技術的事項として格別の根拠・・・があるものとは認められない。」(審決謄本5頁最終段落)とした審決の判断は正当であり,原告の上記主張は,採用することができない。
(6) 原告は,本願発明の収縮性樹脂層は,可動電極フイルムからオリゴマーが析出することを防止し,ひいては可動電極フイルムが白化するのを防止する機能を有しているのに対し,引用発明の金属酸化物被膜にはそのような機能はない旨主張する。
本件明細書(甲3)の発明の詳細な説明によると,「また,可動電極フィルム2の表面に,可動電極フィルム2の非架橋成分であるオリゴマーと称される重合体が析出し,白化状態となることがあった。特に,可動電極フィルム2としてポリエチレンテレフタレートを用いたとき,顕著であった。オリゴマーの析出は,加熱・加湿によって促進されるため,透明タッチパネルの製造工程における熱処理や,透明タッチパネルの環境耐性試験を経た後に析出しやすい。したがって,可動電極フィルム2の表面が白化することにより,透明タッチパネルの透明性が損なわれ,外観および視認性が悪くなる。」(段落【0006】),「また,可動電極フィルム2の上面をハードコート層1で覆い,下面を収縮性樹脂層3で覆うことにより,可動電極フィルム2からオリゴマーが析出しなくなるので,可動電極フィルム2が白化するのを防止することができる。」(段落【0026】),「また,可動電極フィルムからオリゴマーが析出しなくなるので,可動電極フィルムが白化することがなく,透明タッチパネルは透明性が高く外観および視認性に優れたものとなる。」(段落【0043】)との記載がある。
上記記載によれば,可動電極フィルム2の表面にオリゴマーと称される重合体が析出し,白化状態となることがあるが,可動電極フィルム2の上面をハードコート層1で覆い,下面を収縮性樹脂層3で覆うことにより,可動電極フィルム2からオリゴマーが析出しなくなり,可動電極フィルム2が白化するのを防止することができるというのであり,要するに,オリゴマーの析出防止は,可動電極フィルムの両面が収縮性樹脂層で被われることで達成されるのである。
そうすると,引用発明においても,プラスチック基板は,両面が収縮性樹脂であるハードコート層に覆われているところ,金属酸化物被膜を収縮性樹脂に置換したとしても,両面が収縮性樹脂に覆われた状態が変わるわけではないから,引用発明がオリゴマーの析出防止の作用効果を奏することは明らかである。
(7) 原告は,審決の判断するように,引用発明の金属酸化物被膜を収縮性樹脂層に置き換え,かつ,これをプラスチック基板と導電性被膜との間に形成することが当業者にとって容易にし得ることであるとしても,なぜ容易にし得るのか,特に収縮性樹脂層をなぜプラスチック基板と導電性被膜との間に形成できるのかの根拠を全く説明していないから,審決は,この点について判断を遺脱している旨主張する。
審決には,「結論及び理由」を記載しなければならないが(特許法157条2項4号),必ずしも,審決において行ったすべての認定及び判断の経過が逐一記載されていなければならないというものではない。本件において,審決は,「上記引用例に記載されたものにおいても,前記周知慣用技術参酌して前記反り・たわみを防止できるように,これを可動電極フィルムと可動電極との間に形成することにより本願発明のように構成することは当業者が容易になし得ることである。」(審決謄本6頁第1段落)と判断しているところ,原告の指摘する点について明記はしていないものの,「本願発明のように構成することは当業者が容易になし得る」と結論付けていることからすれば,上記の点も含めて総合的に判断していることが明らかであるから,原告の判断遺脱の主張は,失当というほかない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 青柳馨
裁判官 宍戸充