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関連審決 異議1998-72354
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事件 平成 11年 (行ケ) 165号 特許異議決定取消請求事件
原告兼脱退原告承継人 【A】
訴訟代理人弁護士 武田峯生脱退原告 アドバンストエレクトロニクス株式会社 代表者代表取締役 【B】
被告 特許庁長官【C】
指定代理人 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/10/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 被告が平成10年異議第72354号事件について平成11年3月26日にした決定を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経過 原告ら(脱退原告を含む。以下同じ)は、発明の名称を「ディスク」とする登録第2676030号発明(昭和60年6月14日出願、平成9年7月25日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者であった。
特許庁は、訴外【G】他6名から、上記特許について特許異議の申立てを受け、これを平成10年異議第72354号事件としてその審理を始めた。原告らは、平成10年8月6日付けの取消理由通知を受けたので、同年10月8日、特許異議意見書及び訂正請求書(以下、この訂正を「本件訂正」という。)を提出し、
その後更に同年12月3日付けで訂正拒絶理由通知を受けたので、原告らは、更に、平成11年2月15日、特許異議意見書及び手続補正書(以下、この補正を「本件補正」という。)を提出した。特許庁は、上記事件について審理をした結果、同年3月26日、「特許第2676030号の特許を取り消す。」との決定をし、平成11年5月12日、その謄本を原告らに送達した。
その後、脱退原告は、上記特許権の持分の全部を、平成12年5月24日付けで原告に譲渡し、同年6月8日付けで持分移転の登記がなされた。
2 特許請求の範囲 (1) 設定登録時の特許請求の範囲1ないし3の項(以下、順に「登録時発明1」、「登録時発明2」、「登録時発明3」といい、これらを「登録時発明」と総称することがある。) 「1.ディジタル情報を記憶し、情報処理装置のディスクドライブ装置に着脱可能なディスクであって、
少なくとも、第1の記憶領域と第2の記憶領域と第3の記憶領域とを有し、
前記第1の記憶領域は前記情報処理装置が初期に読み出す位置に配置され、前記第2の記憶領域から前記情報処理装置へ次に実行されるプログラムを読み出すためのブーツストラッププログラムが記憶されており、
前記第2の記憶領域は前記ブーツストラッププログラムにより読み出される位置に配置され、前記情報処理装置を動作させて前記第3の記憶領域に格納されたアプリケーションプログラムを実行するために、使用に先だって前記第3の記憶領域に格納された複数のアプリケーションプログラムを選択可能に表示し、選択指示に従って選択されたアプリケーションプログラムを読み出して実行するシステムプログラムが記憶されており、
前記第3の記憶領域は前記システムプログラムの管理下で読み出される位置にあって、前記複数のアプリケーションプログラムが前記システムプログラムにより選択読み出しが可能に配置されていることを特徴とするディスク。
2.更に、第4の記憶領域を有し、前記アプリケーションプログラムに使用される各種情報が読み出し可能に配置されていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のディスク。
3.前記着脱可能なディスクは光ディスクであることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項記載のディスク。」 (2) 訂正請求に係る特許請求の範囲(1)ないし(3)の項(以下、順に「訂正発明1」、「訂正発明2」、「訂正発明3」といい、これらを「訂正発明」と総称することがある。) 「(1)ディジタル情報を記憶し、情報処理装置のディスクドライブ装置に着脱可能なディスクであって、
少なくとも、第1の記憶領域と第2の記憶領域と第3の記憶領域とを有し、
前記第1の記憶領域は前記情報処理装置が初期に読み出す位置に配置され、前記第2の記憶領域から前記情報処理装置へ次に実行されるプログラムを読み出すためのブーツストラッププログラムが記憶されており、
前記第2の記憶領域は前記ブーツストラッププログラムにより読み出される位置に配置され、前記情報処理装置を動作させて前記第3の記憶領域に格納されたアプリケーションプログラムを実行するために、使用に先だって前記第3の記憶領域に格納された複数の選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示し、オペレータの選択指示に従って選択されたアプリケーションプログラムを前記第3の記憶領域から読み出して実行するシステムプログラムが記憶されており、
前記第3の記憶領域は前記システムプログラムの管理下で読み出される位置にあって、前記複数の選択すべきアプリケーションプログラムが前記システムプログラムにより選択読み出しが可能に配置されていることを特徴とするディスク。
(2)更に、第4の記憶領域を有し、前記アプリケーションプログラムに使用される各種情報が読み出し可能に配置されていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載のディスク。
(3)前記着脱可能なディスクは光ディスクであることを特徴とする特許請求の範囲第1項又は第2項記載のディスク。」 (3) 本件補正に係る特許請求の範囲(以下「補正後発明」という。) 「デジタル情報を記憶し、情報処理装置の光ディスクドライブ装置に着脱可能でCDブーツを実現する一枚の光ディスクであって、
少なくとも、第1の記憶領域と第2の記憶領域と第3の記憶領域と第4の記憶領域とを有し、
前記第1の記憶領域は前記情報処理装置が初期に読み出す位置に配置され、前記第2の記憶領域から前記情報処理装置へ次に実行されるプログラムを読み出すためのブーツストラッププログラムが記憶されており、
前記第2の記憶領域は前記ブーツストラッププログラムが読み出す位置に配置され、前記情報処理装置を動作させて前記第3の記憶領域に格納されたアプリケーションプログラムを実行するためのシステムプログラムであって、使用に先立って前記第3の記憶領域に格納された、選択時に該システムプログラムが実行しなければならない予め固定された複数のアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示し、オペレータの選択指示に従って選択されたアプリケーションプログラムを前記第3の記憶領域から読出して実行する該システムプログラムが記憶されており、
前記第3の記憶領域は前記システムプログラムの管理下で読み出される位置にあって、前記選択表示されたアプリケーションプログラムを含む予め固定された複数のアプリケーションプログラムが前記システムプログラムにより選択読み出しが可能に配置されており、
前記第4の記憶領域は前記アプリケーションプログラムが使用する位置に配置され、文字情報、グラフィック情報、音声情報を含む情報が読み出し可能に記憶されていることを特徴とする光ディスク。」 3 本件決定の理由 本件決定の理由は、別紙決定書の理由の写しのとおりである(ただし、決定書2頁8行ないし9行、6頁13行、17行、18頁12行ないし13行において、訂正請求の日付を平成10年12月25日としたのは、平成10年10月8日の誤記である。)。要するに、@本件補正は、出願当初の明細書(以下「当初明細書」という。)に記載されていない事項を発明の要旨として追加するものであって不適法であるとし、A本件訂正について、訂正発明は、1984年(昭和59年)8月31日株式会社アスキー発行「標準MS-DOSハンドブック」17頁ないし23頁、30頁ないし45頁、208頁ないし217頁(以下「引用刊行物1」という。)に記載された技術(以下「引用発明1」という。)、特開昭58-56146号公報(以下「引用刊行物2」という。)に記載された技術(以下「引用発明2」という。)及び引用刊行物1にも示されている“AUTOEXEC.BAT”に係る周知の技術(以下「周知技術」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとし、B特許異議申立てについて、本件発明(登録時発明)は、引用発明1、同2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は特許法29条2項に違反してなされたものである、ということである。
原告主張の取消事由の要点
本件決定は、@本件補正について、これが当初明細書の発明の要旨を変更するもので不適法であると誤った判断をし(取消事由1)、A本件訂正の許否についての検討において、引用発明1の認定を誤り、その結果、同発明と訂正発明との相違点を看過し(取消事由2)、また、訂正発明の進歩性の判断を誤り(取消事由3)、その結果、訂正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとの誤った結論を導き、B特許異議申立てについての検討においても、本件訂正の許否についての検討の場合と同様に、引用発明1の認定を誤り、その結果、同発明と本件発明(登録時発明)との相違点を看過し(取消事由4)、また、
本件発明(登録時発明)の進歩性の判断を誤り(取消事由5)、その結果、本件特許が特許法29条2項に違反してなされたものであるとの誤った結論を導いたものであり、そのうえ、本件発明の審査経過、審理経過、異議経過における被告の対応にも違法があったものであるから(取消事由6)、本件決定は、取り消されなければならない。
1 取消事由1(本件補正についての判断の誤り) 本件決定は、当初明細書には、第3の記憶領域に記憶されたアプリケーションプログラムには選択表示されるアプリケーションプログラム以外のアプリケーションプログラムを含み得ることが記載も示唆もされていないから、本件補正は、当初明細書に記載されていない事項を発明の要旨として追加するものであって、不適法であると判断した。
しかし、本件補正により追加された「選択表示されるアプリケーションプログラム以外のアプリケーションプログラム」が、第3の記憶領域に記憶されるアプリケーションプログラムに含まれ得ることは、当初明細書の記載から自明の事柄であり、したがって、上記判断は、誤っている。
より具体的にいうと、当初明細書(甲第1号証中の明細書の部分)には、第3の記憶領域に記憶されたアプリケーションプログラムとして「選択表示されるアプリケーションプログラム以外のアプリケーションプログラム」を含み得ることを排除する記載は一切ないのであり、また、当初明細書中には、アプリケーションプログラムに関して、「プログラム領域には、当該処理において使用する全てのプログラムを格納する構成としている。」(甲第1号証9頁3行〜5行)、「例えばステップS6でCRT6に選択すべきアプリケーションの選択画面等を表示し、」(同11頁12行〜13行)、「選択入力があれば、ステップS8で対応するアプリケーションプログラムをCD装置4より読込み、ステップS9に示す如く、読出したアプリケーションプログラムに従い処理を実行する。」(同11頁14行〜12頁2行)との記載があるから、当初明細書においては、第3の記憶領域に、当該処理に使用するすべてのプログラムを格納しておき、ステップS6で、その中の選択すべきアプリケーションの選択画面等を表示するものであることが明らかであり、したがって、本件補正により追加された「選択表示されるアプリケーションプログラム以外のアプリケーションプログラム」は、第3の記憶領域に記憶されるアプリケーションプログラムに含まれ得るのである。
2 取消事由2(引用発明1の誤認及びこれに基づく同発明と訂正発明との相違点の看過) (1) 本件決定は、引用刊行物1に記載されたMS-DOS(マイクロソフト社製のディスク・オペレーション・システム(Disk Operation System))の“COMMAND.COM”が本件発明のシステムプログラムに相当すると認定している(12頁3行〜5行)。しかし、引用刊行物1のどこを見ても、COMMAND.COMがシステムプログラムであることを示す記載も示唆もないから、本件決定は、“COMMAND.COM”の認定、ひいては引用発明1の認定を誤っているものである。
(2) 引用発明1の“EDLIN”(「ラインエディタ」のこと。アプリケーションプログラムの一つ)は、外部コマンドの一つであり、これをCOMMAND.COMが制御しているにもかかわらず、そのCOMMAND.COMがシステムプログラムではないのであるから、結局、引用発明1は、システムプログラムが「オペレータの選択指示に従って選択されたアプリケーションプログラムを前記第3の記憶領域から読み出して実行」するという訂正発明の構成を具備していないことになる。
これを、訂正発明と引用発明1との相違点としてより正確にいえば、訂正発明は、システムプログラムが「複数の選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示し、オペレータの選択指示に従って選択されたアプリケーションプログラムを・・・読み出して実行する」構成、
アプリケーションプログラムが「システムプログラムにより選択読み出しが可能に配置されている」構成を具備しているのに対し、引用発明1は、これらの構成を具備していない点で相違している、ということになる。このように、本件決定は、両発明の間の上記相違点を看過し、その結果、同相違点に係る進歩性の判断をしないままその結論に至っているから、その余の点のいかんにかかわらず違法であることが明らかである。
3 取消事由3(訂正発明の進歩性の判断の誤り) (1) 対比方法の不当性 そもそも、訂正発明は、特許請求の範囲の記載全体の構成要素の関連で成り立っているものであるから、これを分解して引用発明1や同2と比較することは無意味であり、むしろ、引用発明1と同2に同じ技術課題はあるのか、その課題に基づいて引用発明1と同2を組み合わせることができるのか、組み合わせることができる場合に、どれだけの技術的工夫をすれば訂正発明となるのか、を直接比較すべきである。本件決定は、訂正発明を細切れにしたうえ、引用発明1及び同2を無原則に寄せ集めてこれと比較しているのであり、これが許されないことは明らかである。本件決定は、訂正発明を引用発明1や同2と対比する方法について、既に誤っているものである。
(2) 引用発明2の認定の誤り 引用刊行物2に記載されているのは、選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト毎に選択可能に表示する技術であって、訂正発明に係る特許請求の範囲にあるような「選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示する」技術ではない。
すなわち、引用発明2においては、システムが立ち上がった後、オペレータがPSKキー(プログラムセクションキー)を押すと、「割り込み」処理が行なわれて、第2図に記載されたプログラムテーブルの表示フローが実行されるのである。したがって、ここでいう「割り込み」とは、現在のシステム状態のいかんにかかわらずPSKキーの入力を優先して処理する機能であり、たとい前に実行開始されたプログラムが実行中であっても、オペレータのPSKキー入力があると実行中のプログラムを中断してプログラムテーブルを表示するというものである。すなわち、引用刊行物2に記載されているのは、オペレータの望むときに、オペレータがリクエストさえすれば、プログラム一覧をみることができるという技術なのである。
(3) 周知技術の認定の誤り システムの起動直後にAUTOEXEC.BATで指定されたアプリケーションプログラムがオペレータによるリクエストなしに実行されるとの技術は、周知の事項ではない。なお、引用刊行物1には、上記技術についての記載はなく、単に、216頁のFig.1.9において、「AUTOEXEC.BATの実行」との記載があるのみである。
仮に上記技術が周知の事項であるとしても、AUTOEXEC.BATによって指定されるのは、アプリケーションプログラムであるから、訂正発明のようにシステムプログラムがオペレータのリクエストなしに一覧表示をして、オペレータの選択指示を制御するという構成に該当することはない。
また、引用発明1においては、複数のアプリケーションプログラムがディスクAにある(甲第9号証の1、31頁Fig.2.4)のに対して、AUTOEXEC.BATはディスクドライブBにある(同32頁Fig.2.5)ため、複数のアプリケーションプログラムとAUTOEXEC.BATとは1枚のディスク上にはない。
(4) 引用発明1と同2、周知技術の組合せの動機の欠如 引用発明1における“dir”によるファイルの一覧表示は、オペレータのリクエストを必須とするオペレータ主導の表示であるのに対して、訂正発明における「選択可能に表示し」は、オペレータのリクエストなしにシステムプログラムにより実行されるシステム主導の表示であり、両者は、技術内容が異なっている。
また、引用発明1は、MS-DOSを操作するオペレータによるオペレーションの方法を記載することを目的としており、上記周知技術においてAUTOEXEC.BATで実現しようとしているのは、MS-DOSのブート・プログラムによるブート動作時に、ある目的とするアプリケーションプログラムの実行を自動的に始めようとする機能である。一方、引用発明2のプログラムの一覧表示は、オペレータが見たいと望んだそのときに所定のキーを押せばいつでも表示可能であることに意義があるものである。このように、訂正発明の、プログラムの一覧表示をオペレータのリクエストなしにコンピュータ主導で実現したいという課題、いわゆる動機付けは、これらの中に一切みられないばかりか、そこにみられるのは、むしろ、全く逆の目的でなされている技術なのである。
このようなとき、当業者が、これらを強いて組み合わせ、訂正発明のような動作をする構成を創作しようとすることはあり得ない。
(5) 訂正発明2及び同3についての進歩性の判断の誤り 本件決定は、訂正発明2に関して、「アプリケーションプログラムが別途情報を必要とする場合、その情報のための領域を設け、そこに必要とする情報を記憶することは周知慣用の事項である。」と認定しているが、この認定は誤りである。
また、本件決定は、訂正発明3に関して、「フロッピーディスクを同じ着脱可能な記録媒体である光ディスクとした事に全く意義は認められない」と認定しているが、この認定も誤りである。本件出願当時に、フロッピーディスクを光ディスクで代替することが可能であったことの証明がなされていないからである。
4 取消事由4(引用発明1の誤認及びこれに基づく同発明と本件発明(登録時発明)との相違点の看過) 本件決定は、引用発明1の認定を誤り、この誤った認定に基づき、本件発明と引用発明1との相違点を看過したものである。
取消しの具体的理由は、取消事由2において述べたのとほぼ同様である。本件発明と引用発明1との相違点を指摘すると、本件発明は、システムプログラムが「複数のアプリケーションプログラムを選択可能に表示し、選択指示に従って選択されたアプリケーションプログラムを読み出して実行する」構成、アプリケーションプログラムが「システムプログラムにより選択読み出しが可能に配置されている」構成を具備するのに対し、引用発明1においては、これらの構成を具備していない点で相違していることになる。このように、本件決定は、両発明の相違点を看過し、その結果、同相違点に係る進歩性の判断をしないままその結論に至っているから、その余の点のいかんにかかわらず違法であることが明らかである。
5 取消事由5(本件発明(登録時発明)の進歩性の判断の誤り) 本件決定は、本件発明についての進歩性の判断を誤ったものである。
取消しの具体的な理由は、取消事由3において述べたのと同様である。
6 取消事由6(本件発明の審査経過、審理経過、異議経過における被告の対応の違法性) 本件決定を含めた被告の本件特許及び本件訂正に対する対応の違法性は、本件決定における審理の経過によって明瞭であり、本件決定の結論に重大な影響を及ぼすものである。
本件発明は、出願(昭和60年6月14日)から最初の拒絶理由通知まで6年4月、最初の拒絶理由通知から拒絶査定まで4月、拒絶査定に対する審判請求から拒絶理由通知まで4年2月、拒絶理由通知から特許査定まで11月をそれぞれ経過し、審査期間の短縮、特許裁判の短縮が叫ばれているにもかかわらず、この審査期間の長さは異常であり、このような経過から、被告は、本件出願に対して、特に審査の引き伸ばしをしたのではないかと疑わざるを得ない。ところが、被告は、何故このような長期間を要したかについて明らかにしていない。
また、本件発明が特許査定を受けるまで、MS-DOSのAUTOEXEC.BATについて何ら問題にされておらず、査定後の7件の異議申立てにおいても、AUTOEXEC.BATについては一切言及されていなかった。ところが、
被告は、本件決定において、異議申立人さえも想定していなかったAUTOEXEC.BATを持ち出し、引用発明2のプログラム一覧表示を指定することは当業者が容易になし得たものと判断し、本件特許を取り消すという不当な判断をした。被告は、本件特許を取り消したいとの意向を、異議申立人ら以上に強く持って、既に引用された刊行物から新たな組合せを探し出したものといわざるを得ない。
さらに、被告は、引用発明1の認定において、本件発明に係る特許請求の範囲とほとんど同一の認定をしたり、原告の訂正請求書の提出日を誤って記載したりしているが、これらも重大な過失である。
以上のとおり、本件特許に係る手続について、被告の真摯で公正な審査を疑わしむる事実があり、これらは、本件決定の結論にも重大な影響を及ぼすことが明らかである。
被告の反論の要点
本件決定の認定判断は、いずれも正当であって、本件決定を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(本件補正についての判断の誤り)について 当初明細書には、アプリケーションプログラムに関して、「23a〜23dはパッケージ化された各アプリケーションプログラムa〜dの記憶領域である。」(甲第1号証中の明細書9頁11行及び12行)と記載してあり、この「パッケージ化された各アプリケーションプログラム」という語は、一般的にいって、それ自体で完結したものを表す語であって、他に従属する、あるいは、他のアプリケーションプログラムの実行を必須の要件とする場合には使用されない用語であり、しかも、当初明細書中には、これが他に従属する関係にあることを示す記載は存在しないから、上記記載は、「選択表示されるアプリケーションプログラム」と第3の記憶領域のアプリケーションプログラムが同一であることを示すものである。
このように、当初明細書の特許請求の範囲において、第3の記憶領域に存在するのは「選択表示されるアプリケーションプログラム」のみであるから、それ以外のアプリケーションプログラムを追加することは、要旨の変更に当たるのである。
2 取消事由2(引用発明1の誤認及びこれに基づく同発明と訂正発明との相違点の看過)について 原告は、引用刊行物1のどこをみても、COMMAND.COMがシステムプログラムであることを示す記載も示唆もないと主張する。
しかし、引用刊行物1で「システムプログラム」の語が使用されているからといって、直ちに、その語が本件発明にいう「システムプログラム」に相当するということになるわけのものではない。また、COMMAND.COMが、引用刊行物1において「システムプログラム」と呼ばれていないとしても、そのことから直ちに、その語が、本件発明にいう「システムプログラム」に相当しないということになるわけのものではない。
このことは、乙第1号証(1985年(昭和60年)1月1日CQ出版株式会社発行「インターフェース」1月号)の図2ないし図4及び203頁ないし205頁の「MS-DOSの構成」の項において、システムプログラム(OS)がIO.SYSとMSDOS.SYSを指す場合と、IO.SYS、MSDOS.SYS、COMMAND.COM及び外部コマンドからなる部分を指す場合があることが示されていることからも明らかである。
3 取消事由3(訂正発明の進歩性の判断の誤り)について (1) 引用発明2の認定の誤りについて 原告は、引用刊行物2において、システムが立ち上がった後、オペレータがPSKキーを押すと、「割り込み」が発生して、第2図に記載のプログラムテーブルの表示フローが実行されるという点を捉えて、本件決定を論難している。しかし、原告の主張は、訂正発明が有していない機能を殊更取り上げてこれが引用刊行物2に記載されていると述べているにすぎないもので、同刊行物に審決認定の機能が記載されていないことにつながるものではなく、訂正発明の進歩性の判断における本件決定の当否とは何ら関係のないことである。
(2) 周知技術の認定の誤りについて 本件決定は、MS-DOSにおいてアプリケーションプログラムの自動実行にAUTOEXEC.BATを利用することが周知であると述べているのであり(決定書28頁16行〜29頁5行)、上記事項の周知性は、乙第1号証及び同第2号証からも明らかである。
また、「AUTOEXEC.BATの実行」が、システムが立ち上がるときに自動的に実行される複数ステップの最後のステップとして実行されるものであること、すなわち、オペレータによるリクエストなしに実行されるものであることは、引用刊行物1の記載から明らかである。
原告は、AUTOEXEC.BATで指定されるのは、アプリケーションプログラムであるから、訂正発明のようにシステムプログラムがオペレータのリクエストなしに一覧表示をして、オペレータの選択指示を制御することにはならないという。しかし、本件決定は、訂正発明にいう「オペレータによるリクエスト無しに」がMS-DOSにおけるAUTOEXEC.BATの機能そのものであると述べているのであり、また、AUTOEXEC.BATで指定されるものがアプリケーションプログラムと限らないことは、乙第2号証(1985年(昭和60年)10月5日株式会社アスキー発行「標準MS-DOSハンドブック」第1版第8刷、
初版は1984年(昭和59年)7月10日)において、AUTOEXEC.BATで、“date”、“time”という内部コマンドを指定していることからも明らかである。
原告は、引用発明1においては、複数のアプリケーションプログラムがディスクAにある(甲第9号証の1、31頁のFig.2.4)のに対して、AUTOEXEC.BATはディスクドライブBにある(同32頁のFig.2.5)という。しかし、AUTOEXEC.BATは、ユーザー等が、MS-DOSを購入した後、利用目的に応じて作成し、システムディスクに格納するものであるから、
マイクロソフト社から供給されるパッケージ(標準MS-DOS)にはAUTOEXEC.BATは存在しないのであり(乙第1号証の205頁、乙第2号証の73頁参照)、購入時のシステムディスクの内容を示しているFig.2.4にAUTOEXEC.BATが存在していないのは当然のことであり、Fig.2.5は、
購入されたシステムディスクからシステム構成及び利用目的に応じて作成された、
特定のユーザーのシステムディスクの内容を示すものである。
(3) 引用発明1と同2、周知技術の組合せの動機の欠如について あるオペレーティングシステム(OS)が持つ機能を他のオペレーティングシステム(OS)に取り入れることは広く行われていることである(乙第1号証の202頁及び203頁参照)。MS-DOSというオペレーティングシステム(OS)に、引用発明2のオペレーティングシステム(OS)が有している機能(システムの起動直後にオペレータのプログラム選択を支援する、という機能)を持たせようとすること自体は、オペレーティングシステム(OS)の分野で広く行われていることの繰り返しにすぎない。
(4) 訂正発明2及び同3についての進歩性の判断の誤りについて 本件発明は昭和60年の出願に係る発明であり、昭和62年法律第27号による改正前の特許法36条4項の適用があるものであるから、訂正発明2及び同3は、本件において訂正の当否を判断すべき独立の対象にはならない。本件決定は、原告が平成11年2月15日付け手続補正書により請求項2、同3の構成を審理の対象である請求項1の構成として付加しようとしたため、その進歩性の判断を行ったにすぎないものである。
4 取消事由4(引用発明1の誤認及びこれに基づく同発明と本件発明(登録時発明)との相違点の看過)について 取消事由4に対する反論は、取消事由2に対する反論において述べたのと同様である。
5 取消事由5(本件発明(登録時発明)の進歩性の判断の誤り) 取消事由5に対する反論は、取消事由3に対する反論において述べたのと同様である。
6 取消事由6(本件発明の審査経過、審理経過、異議経過における被告の対応の違法性) 本件の手続に要した期間は、電子情報分野の他の案件に比して不当に長いものではない。また、異議審理での特許取消理由通知及び訂正拒絶理由通知は、各異議申立人が主張する取消理由、及び特許法の規定を総合的に判断してなされている。その結論は原決定に記載されたとおりのものである。
AUTOEXEC.BATが議論の対象となったのは、原告が平成10年10月8日付け訂正請求で、発明の構成として「オペレータによるリクエスト無しに」を付加した結果であるから、それ以前に、AUTOEXEC.BATが議論の対象とならなかったのは当然である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件補正についての判断の誤り)について (1) 特許法120条の4第2項は、特許異議の申立ての係属中、特許権者は、
所定の期間内において、特許請求の範囲減縮、誤記又は誤訳の訂正、明りようでない記載の釈明を目的とする場合に限り、願書に添付した明細書又は図面の訂正を請求することができるものと定め、また、 同条3項で準用する同法131条2項は、提出した訂正請求書の補正は、その要旨を変更するものであつてはならない旨を定めているから、訂正請求書の補正は、訂正請求書に記載された訂正請求の趣旨の要旨を変更するものであってはならないものと解すべきである。
(2) 本件についてみると、前記第2(当事者間に争いのない事実)の2(特許請求の範囲)の(2)と(3)を対比すれば明らかなとおり、本件補正は、第3の記憶領域に関して、訂正明細書の特許請求の範囲の記載においては、「前記第3の記憶領域は前記システムプログラムの管理下で読み出される位置にあって、前記複数の選択すべきアプリケーションプログラムが前記システムプログラムにより選択読み出しが可能に配置されている」とされていたのを、「前記第3の記憶領域は前記システムプログラムの管理下で読み出される位置にあって、前記選択表示されたアプリケーションプログラムを含む予め固定された複数のアプリケーションプログラムが前記システムプログラムにより選択読み出しが可能に配置されており、」と変更しようとするものである(甲第7号証の2)。
そうすると、本件補正は、第3の記憶領域に存在するプログラムについて、「前記複数の選択すべきアプリケーションプログラム」の構成を、「前記選択表示されたアプリケーションプログラムを含む予め固定された複数のアプリケーションプログラム」との構成に変更し、「前記選択表示されたアプリケーションプログラム」(補正後の「前記選択表示されたアプリケーションプログラム」の文言は、補正前の「前記複数の選択すべきアプリケーションプログラム」を言い換えたにすぎないものと認める。)以外のアプリケーションプログラムをも含む構成としたのである。
すなわち、本件補正は、補正前には、第3の記憶領域に存在するプログラムが、「選択表示されるアプリケーションプログラム」のみであったものを、これにこれ以外のアプリケーションプログラムをも加えたものになるように、その構成を変えるものである。
このような構成の変更が、新たに加えられたアプリケーションプログラムを第3の記憶領域に存在するプログラムに包含させることが、周知慣用の技術の付加であって発明の同一性に影響しないといった格別の事情が認められない限り、発明の同一性を失わせ、構成を異にする別個の発明とすることは、論ずるまでもないところである。ところが、本件全証拠を検討しても上記事情を認めることはできない。したがって、本件補正は、訂正請求書に記載された理由の要旨を変更するものであって、不適法であることが明らかである。
(3) 原告は、当初明細書には、第3の記憶領域に記憶されたアプリケーションプログラムとして「選択表示されるアプリケーションプログラム以外のアプリケーションプログラム」を「含み得る」ことを排除する記載は一切ないなどと主張する。しかし、「含み得る」ことを排除する記載がないことは、「含み得る」ことが記載されていることと同じではなく、まして、特定のものを含み得ることが記載されていることにつながることにはならないから、主張自体失当というほかない。
本件決定は、補正における要旨変更の有無を、当初明細書を基準として検討している点で誤っているものの、本件補正を要旨を変更する不適法なものとして却下したその結論において、相当である。
2 取消事由2(引用発明1の誤認及びこれに基づく同発明と訂正発明との相違点の看過)について 原告は、引用刊行物1におけるCOMMAND.COMは訂正発明におけるシステムプログラムに相当しないとし、その根拠として、同刊行物のどこをみても、COMMAND.COMがシステムプログラムであることを示す記載も示唆もないなどと主張する。
(1) 確かに、引用刊行物1(甲第9号証の1)をみると、MS-DOSにおいて、IO.SYS、MS-DOS.SYSがシステムプログラムと称されている一方、COMMAND.COMは、コマンド・プロセッサーと称されており、COMMAND.COMがシステムプログラムであるとする明示の記載はない。
しかしながら、同号証を更に検討すると、引用刊行物1に関し、次の事実が認められる。
(イ) MS-DOSにおけるCOMMAND.COMについて、「“COMMAND.COM”はユーザーとMS-DOSの本体(MSDOS.SYS)とのインターフェイスを行う部分であり、ユーザーは“COMMAND.COM”と対話しながらDOSに仕事を与えます。換言すれば“COMMAND.COM”はユーザーの入力したコマンドラインを解析し、対応するコマンドの実行あるいはプログラムの呼出しを行います。」(21頁5行〜8行)との記載がある。
上記記載及び図示によれば、COMMAND.COMは、ユーザーとMS-DOSの本体(MSDOS.SYS)とのインターフェイスを行う部分であり、ユーザーの入力したコマンドラインを解析し、対応するコマンドの実行あるいはアプリケーションプログラムの呼出しを行うものであることが認められる。
(ロ) 「MS-DOSのすべての働きは、そのソフトウェア体系に含まれるプログラムのうち、“MSDOS.SYS”、“IO.SYS”、“COMMAND.COM”の3つのモジュールとしてメモリ上の所定の位置に配置され、制御されています。」(210頁5行〜7行)、「リセット直後にROMの中のプログラムが起動され、まずROM-BIOSのセットアップ(使用開始準備)・・・が行われます。その後、システムディスクからROM-BIOSがブート手続きのプログラムをメモリ上へロードします(Fig.1,4)。」(211頁14行〜18行)、「このブート・プログラムが正しくロードされると、ROM-BIOSからこのプログラムへ制御が移ります・・・。次にブート・プログラムは、MS-DOSの中心となる3つのファイルのうち、“IO.SYS”と“MSDOS.SYS”をメモリ上へロードします(Fig1.5)。」(212頁4行〜7行)、
「“IO.SYS”、“MSDOS.SYS”の初期化動作は、Fig.1.7の状態ですべて終了しました。後は“COMMAND.COM”をメモリ上へロードして制御を移せば、初期化の処理はすべて終了することになります。」(215頁 8行〜10行)との記載があり、また、216頁のFig.1.9「初期化動作の流れ」には、COMMAND.COMをロードした後、AUTOEXEC.BATが実行され、コマンド待ちの状態となることが図示されている。
上記記載によれば、COMMAND.COMは、MSDOS.SYS、
IO.SYSとともに、MS-DOSにおける制御の中心となっているモジュールであり、ユーザーがMS-DOSを起動させてからコマンドの入力を開始する前の段階においてメモリにロードされ、ユーザーからコマンドが入力されると、ユーザーの入力したコマンドラインを解析し、対応するコマンドの実行あるいはアプリケーションプログラムの呼出しを行うものであることが認められる。
(ハ) 「このように、MS-DOSがいくつかのファイルに分かれて構成され、各ファイルが機能分担を行いながらもさらに相互に複雑な関係を持っているのには、いくつかの理由があります。まず初めに、なぜ3つの部分(COMMAND.COM/MSDOS.SYS/IO.SYS)に分かれているのかを考えてみます。」(216頁14行〜17行)、「MS-DOSでは、コンソール(スクリーン+キーボード)、ディスク、プリンタ、また、もし接続されていればサポートするものとして通信回線、クロック・デバイスの5種類が基本となっています。これらのハードウェアを操作するデバイス・ドライバは、多分に機種に依存せざるを得ないものなので、これらはまとめて1つのファイルにしてあります。それが“IO.SYS”なのです。」(217頁3行〜7行)、
「次に、機種に依存しない部分について考えてみましょう。この部分には、システムコールを処理するルーチン(デバイスやファイル、メモリなどの管理)やユーザーが入力したコマンドを解釈、実行するルーチンがあります。このうち前者は“MSDOS.SYS”で、後者は“COMMAND.COM”で実行されます。“COMMAND.COM”が別ファイルになっているのは、主にその機能に起因しますが(MSDOS.SYSとCOMMAND.COMの働きはまったく異なる)、さらに、必要に応じて新しいコマンド・プロセッサと置き換えるため、という理由もあります。MS-DOSの最新バージョンでは、VISUALSHELLと呼ばれるコマンド・プロセッサがあり、機能的には“COMMAND.COM”とほとんど同じですが、その操作の大半はマウスを使ってインタラクティブ(対話的)に行うことができます。このように、コマンド・プロセッサを置き換えて使うためにも、“COMMAND.COM”は“MSDOS.SYS”と分離していなければならないのです。」(217頁15行〜26行)との記載がある。
上記記載によれば、IO.SYS、MS-DOS.SYS、COMMAND.COMは、MS-DOSというシステムを制御する機能を有する点では変わりがないものの、機能の分担や操作の便宜などのために異なったモジュールとなっているにすぎないことが認められる。
(ニ) なお、COMMAND.COMがアプリケーションプログラムの一つである“EDLIN”(行単位でテキストの編集を行う「ラインエディタ」のことである。)を制御していることは、原告も認めるところであり、少なくとも、COMMAND.COMがアプリケーションプログラムを制御する限りにおいては、それがアプリケーションプログラムに当たらないことは自明である。
(2) 以上によれば、引用発明1におけるCOMMAND.COMは、MSDOS.SYS、IO.SYSとともに、MS-DOSにおける制御の中心となっているモジュールであり、ユーザーがMS-DOSを起動させてからコマンドの入力を開始する前の段階においてメモリにロードされ、ユーザーからコマンドが入力されると、ユーザーの入力したコマンドラインを解析し、対応するコマンドの実行あるいはアプリケーションプログラムの呼出しを行うものであり、MS-DOSというシステムにおける制御の一端を担っているもので、一種のシステムプログラムであることは明らかである。
(3) 訂正発明においては、特許請求の範囲において「システムプログラム」、
「アプリケーションプログラム」について格別の記載はなく、また、発明の詳細な説明においても、特段の定義をしていないから、これらの語が通常の意味を有するものとして用いられていることは明らかである。
そして、訂正発明に係る特許請求の範囲の記載中には、第2の記憶領域について、「前記ブーツストラッププログラムにより読み出される位置に配置され、
前記情報処理装置を動作させて前記第3の記憶領域に格納されたアプリケーションプログラムを実行するために、使用に先だって前記第3の記憶領域に格納された複数の選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示し、オペレータの選択指示に従って選択されたアプリケーションプログラムを前記第3の記憶領域から読み出して実行するシステムプログラムが記憶されており、」との記載があることが認められる。
訂正発明において、第3の記憶領域に格納されたアプリケーションプログラムを実行するために、使用に先だって前記第3の記憶領域に格納された複数の選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエストなしに選択可能に表示した後、オペレータの選択指示を解析し、アプリケーションプログラムの呼出しを行うためのインターフェイスの役割を担っている部分が、情報処理装置における制御の機能の一つであることは、自明である。
以上によれば、引用発明1におけるCOMMAND.COMは訂正発明の「システムプログラム」に包含されることが、明らかである。
(4) このことは、乙第1号証(1985年(昭和60年))1月1日CQ出版株式会社発行「インターフェース1月号」203頁〜204頁)からも明らかである。すなわち、乙1号証をみると、「パソコンOSの構成」の見出しの下で、「パソコン用OSがはたすべき役割が何であるかということを考えてみると、少なくともつぎの三つをあげることができると思う。@アプリケーションとのインターフエースの提供Aユーザとのインターフェースの提供Bプログラム開発環境の提供」、
「パソコンは、その上で豊富なアプリケーション・プログラム群が走ってこそ、その存在価値が認められるものである。ところが、もしそのパソコンにOSが存在しなくて、ハードウェアが裸のままの環境しかなければ、いざアプリケーションを開発しようとしても、キーボードからの文字入力やフロッピの読み書きなどの入出力処理を、全部アプリケーションのなかで行わなければならない。このような状態では、プログラムの開発効率が悪いばかりでなく、プログラムに柔軟性がなく、ハードウェアのちょっとした変更にともなってプログラムも書き替える必要が生じる。
また、せっかく苦労して開発してプログラムが、ある特定の機種専用のものになってしまう。」(203頁左欄17行〜右欄8行)、「通常、パソコン用OSは図2に示すように、ハードウェア(パソコン)とアプリケーション・プログラムの中間に位置しており、その内部はいくつかの階層に分けられている。図2の物理ドライバ層は、CP/MではBIOS(Basic I/O System)とよばれている部分で、接統している入出力デバイスに対する物理的入出力をつかさどる。」(同頁12行〜18行)、「論理ドライバ層は、いわゆるシステム・コールのサービス・モジュール群とOS全体の機能を管理する部分などから成っている。」(同頁23行〜25行)、「パソコンに何か仕事をさせるためには、ユーザから指令を与えなければならない(ここでいう指令とは、ディスク上のファイルの状態を調べたり、ワープロなどのアプリケーションを起動したりすることである)。このユーザからの指令を受け取って、それを解析し、必要な処理を行うのが図2のユーザ・インターフェース層である。この層は、狭義に解釈するとOSには含まれないが、
非常に密着した関係にあるので、ここではOSの1階層として定義する。」(同頁33行〜204頁左欄4行)との記載があること、図2には、「パソコンOSの構成」との見出しで、ハードウェア部とOS部とアプリケーション部に区分され、OS部は、物理ドライバ、論理ドライバからなる層をもって狭義のOSとされ、これとユーザ・インターフェースとを含めてOSとされることが記載されていること、
図4には、「MS-DOSの構成」との見出しで、「物理ドライバ」、「論理ドライバ」、「ユーザ・インターフェース」に各々対応して「IO.SYS」、「MSDOS.SYS」、「COMMAND.COM」が記載されていることが認められる。
上記認定の記載によれば、COMMAND.COMは、広義のオペレーションシステム(OS)である「ユーザ・インターフェース」であることが認められ、訂正発明にいう「システムプログラム」に包含されるものであることは明らかである。
原告の主張は、採用できない。
原告の取消事由2に関するその余の主張も、上記認定判断に照らし、採用の限りでない。
3 取消事由3(訂正発明の進歩性の判断の誤り)について (1) 対比方法の不当性について 原告は、発明は、請求項全体の構成要素の関連で成り立っており、これを分解して引用発明1及び同2と比較することは無意味であるなどとしたうえ、本件発明と引用発明1及び同2と対比する方法が誤っている旨主張する。
発明は、新規性及び進歩性がある場合に限って登録を認められるものであり、特許を受けようとする発明を特定すべき事項は、そのすべてが特許請求の範囲に記載されているはずであり、特許請求の範囲は、一般に、発明を特定すべき複数の事項(構成要素)の組合せから成り立っているのであるから、新規性進歩性の有無を判断するに当たっては、同一又は近接する技術分野における従来技術中に、
当該発明の構成要素に係る技術が存在するかどうかを検討し、当該発明の構成要素が複数の技術として存在する場合には、当業者が、上記複数の技術を組み合わせて当該発明の構成に容易に想到し得るかどうかを検討するのが、審判、特許異議申立てや取消訴訟事件において行われる常套の検討方法であり、かつ、合理性の認められるところである。
そして、本件決定が、上記常套の検討方法によって検討し前記結論を導いていることは、決定書の記載自体から明らかであり、本件において、上記方法によって検討することが不合理であると認めさせる事情を見出すこともできない。
発明の対比において技術を分解して比較することが無意味であるとする原告の主張は、独自の見解に基づくものであって、採用の限りでなく、また、発明を細切れにして引用刊行物を無原則に寄せ集めて比較しているとする原告の主張も失当というほかない。
(2) 引用発明2の認定の誤りについて 原告は、引用刊行物2に記載されているPSKキー(プログラムセクションキー)の機能を前提にして、同刊行物に開示されているのは、選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト毎に選択可能に表示する技術であって、そこには、「選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示」する技術の記載はない旨主張する。
甲第9号証の2によれば、引用刊行物2には、「一般にイニシャルローディング後に利用者プログラムを選択起動させる場合、プログラム番号をキー入力する方式が採用されていた。・・・そこで、表示モニタ上にプログラム名とプログラム番号との対応テーブルを表示し、プログラム名のみを記憶しているオペレータが表示テーブル上の対応テーブルを参照して該当するプログラム番号を認識し、このプログラム番号をキー入力する方式が採用されるようになった」(2頁左上欄9行〜右上欄2行)、「CPU17はイニシャルプログラムローディングによってシステムが起動された後に、PSKキー112がキー操作された場合、プログラム選択起動のための割り込み処理を実行するようになっている。」(同右下欄11行〜15行)、「PSKキー112がキー操作されるとCPU17は第2図のフローチャートに示されるようにプログラム選択起動のための割り込み処理を実行する。」(同右下欄19行〜3頁左上欄2行)、「ステップS2において、CPU17は外部記憶装置13からプログラム名とプログラム番号との対応を示すプログラムテーブルを読み込み、たとえばプログラム番号順にレジスタ16に保持せしめる。しかる後、CPU17はPSプラグ15をセットする(ステップS3)。次にCPU17は、レジスタ16から1画面分たとえば26プログラム分のプログラムテーブルをプログラム番号順に取り出し・・・第3図に示されるようにCRTモニタ12に表示出力する」(同左上欄10行〜右上欄5行)、「このような状態において、オペレータはプログラムの選択起動を行なうためのキー操作を行なう。たとえばプログラム名がPROGRAM2であるプログラムを選択しようとする場合、オペレータは・・・キー操作することによりプログラム名PROGRAM2のプログラムを指定する。」(同右上欄7行〜左下欄5行)との記載があることが認められる。
上記認定の記載によれば、PSKキー112がキー操作されると、CPU17は、外部記憶装置13からプログラム名とプログラム番号との対応を示すプログラムテーブルを読み込み、レジスタ16に保持せしめるとともに、レジスタ16から1画面分のプログラムテーブルをプログラム番号順に取り出してCRTモニタ12に表示出力し、オペレータがプログラムの選択起動を行なうためキー操作を行なうのを待機する状態となるものであり、本件決定は、上記構成のうちのオペレータによるアプリケーションプログラムの選択を支援するため、システムが起動された後にオペレータにより選択すべきアプリケーションプログラムの一覧を選択可能に表示する技術に着目し、これを引用発明2としていることが明らかである。
原告の主張は、結局、引用刊行物2に記載されてはいるものの、本件決定が引用してはいない、プログラムテーブルをCRTモニタ12に表示出力するためのPSKキー112のキー操作の技術を取り上げて、これが記載されていることを根拠に、そこには引用発明2は開示されていないと主張するものということになり、原告主張の技術が開示されていることは、本件決定が認定する引用発明2が記載されていることと何ら矛盾するものではない以上、主張自体失当という以外にないのである。
(3) 周知技術の認定の誤りについて 原告は、本件決定のいうような、システムの起動直後にAUTOEXEC.BATで指定されたアプリケーションプログラムがオペレータによるリクエストなしに実行されるとの技術は、周知の事項ではなく、引用刊行物1には、単に、
216頁のFig.1.9において、「AUTOEXEC.BATの実行」との記載があるのみで、上記技術についての記載はない旨主張する。
甲第9号証の1によれば、引用刊行物1には、216頁のFig.1.9「初期化動作の流れ」において、COMMAND.COMのロード後、AUTOEXEC.BATが実行され、コマンド待ちとなることが記載されていることが認められる。
乙第2号証の「2.6.4 AUTOEXEC.BAT」欄には、「バッチファイルの特殊な形態として、自動実行バッチファイルと呼ばれるものがあります。・・・他のバッチファイルのようにユーザーのコマンド入力によって実行されるものではなく、MS-DOSのブート時に自動的に実行されるバッチファイルです。なお、自動実行バッチファイルのファイル名は、かならず“AUTOEXEC.BAT”でなければなりません。このバッチファイルは、つねに同じアプリケーションだけを利用するようなユーザーやシステムのブート時にかならず行うような処理の場合に効果的です。Fig.2.70では、マイクロソフト社の開発した作表言語Multiplanを例に“AUTOEXEC.BAT”を作成しています。」(73頁4行〜12行)との記載があり、Fig.2.70には、「A>type autoexec.bat」との表示がなされており、AUTOEXEC.BATがドライブAに存在することを前提とした図となっていることが認められる。
また、乙第1号証の「バッチ処理」欄には、「ふだんよく使う一連の処理をあらかじめ登録しておいて、簡単にそれを呼び出して実行させることができるように、あらかじめシステムで準備されているメカニズムをバッチ処理という。・・・バッチ処理の特殊なものとして、自動実行バッチ処理がある。これは、
システムの起動時にカレント・ディスク内にAUTOEXEC.BATという名前のバッチ・ファイルがあれば、それを自動的に実行するという機能である。この機能を用いれば、MS-DOSの存在をみせずに、特定のアプリケーションを起動させることができ、素人ユーザを対象としたシステムを設計するときに非常に便利である。」(207頁左欄1行〜21行)との記載があることが認められる。
上記認定の記載によれば、AUTOEXEC.BATは、ユーザーのコマンド入力によって実行されるものではなく、MS-DOSのブート時に自動的に実行されるプログラムであるから、AUTOEXEC.BATで指定されたプログラムがオペレータによるリクエストなしに実行されるものであることは明らかである。
そして、AUTOEXEC.BATの存在及びその機能は、それが、いずれもパソコンの一般ユーザー向けの解説書である甲第9号証の1、乙第1号証、乙第2号証に記載されていることからすれば、本件出願当時、当業者の間において周知の事項であったものというべきである。これを周知でなかったとする原告の主張は失当である。
また、原告は、引用刊行物1によると、複数のアプリケーションプログラムがディスクAにあるのに対して、AUTOEXEC.BATは、ディスクドライブBにあるため、複数のアプリケーションプログラムとAUTOEXEC.BATとは1枚のディスク上にはない旨主張する。
しかしながら、本件決定は、AUTOEXEC.BATについて、システムの起動直後に実行したいアプリケーションプログラムを指定することが周知技術であると認定しているのであり、このことは、引用刊行物1において、AUTOEXEC.BATがいずれのディスクにあるかどうかとは関係のないことである。
また、乙第1号証の205頁及び207頁の記載、乙第2号証の73頁の記載によれば、AUTOEXEC.BATは、マイクロソフト社から供給されるパッケージ(標準MS-DOS)には存在せず、これを購入したユーザーが、利用目的に応じて作成し、システムディスクに格納するものであることが認められ、乙第2号証のFig.2.70(73頁)には、AUTOEXEC.BATをディスクAに作成する図が示されており、同事実によれば、AUTOEXEC.BATは、
ユーザーが利用目的に応じて作成し、これを適宜のシステムディスクに格納し得るものである。
したがって、引用刊行物1において、AUTOEXEC.BATが複数のアプリケーションプログラムと異なるディスクに収納されている記載があるからといって、複数のアプリケーションプログラムとAUTOEXEC.BATとを1枚のディスク上に収納することを妨げるものではない。
引用刊行物1において、複数のアプリケーションプログラムとAUTOEXEC.BATとが1枚のディスク上にないことを根拠に、審決の進歩性の判断を論難する原告の主張は、失当というほかない。
原告のその余の主張も、採用の限りでない。
(4) 引用発明1と同2、周知技術の組合せの動機の欠如について 原告は、引用発明1と同2、上記周知技術を組み合わせて本件発明の構成とする動機がない旨主張する。
引用発明1、同2、上記周知技術は、いずれも訂正発明と同様にオペレーティングシステムを技術分野とするものであり、いずれも、プログラムの選択を技術課題としているものである。引用刊行物1に接した当業者が、引用発明1におけるオペレータによるアプリケーションプログラムの選択を容易にしようと考えることはごく自然なことであり、そこで、引用発明1が訂正発明1との対比において欠いている構成(相違点)、すなわち、システムプログラムが「使用に先だって前記第3の記憶領域に格納された複数の選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示」する構成について、引用発明2に開示されている、システムが起動された後にオペレータにより選択すべきアプリケーションプログラムの一覧を選択可能に表示するという技術、また、AUTOEXEC.BATで指定されたプログラムがオペレータによるリクエストなしに実行されるという周知技術に接し、引用発明2に周知技術を組み合わせて、「使用に先だって前記第3の記憶領域に格納された複数の選択すべきアプリケーションプログラムをオペレータによるリクエスト無しに選択可能に表示」する構成とし、これを引用発明1に適用することは、容易になし得ることというべきである。
上記認定判断に反する原告の主張は、いずれも採用の限りでない。
(5) 訂正発明2及び同3についての進歩性の判断の誤りについて 昭和60年6月14日出願の本件発明に適用される昭和62年法律第27号による改正前の特許法36条4項は、「第2項第4号の特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。ただし、その発明の実施態様を併せて記載することを妨げない。」と定め、特許請求の範囲が複数項にわたることを認めてはいるものの、同時に、それは、一つの発明とその実施態様という意味においてのことであることを明示している。そうすると、本件発明については、基となる訂正発明1について独立特許要件を欠く以上、いわゆる実施態様項である訂正発明2及び同3についてはこれを検討するまでもないことになるのである。
以上のとおり、本件においては、訂正発明1について独立特許要件を具備しているか否かを検討すれば足りるのであるから、訂正発明2及び同3の進歩性について本件決定を論難して取消しを求める原告の主張は、主張自体失当というほかない。
4 取消事由4(引用発明1の誤認及びこれに基づく同発明と本件発明(登録時発明)との相違点の看過)について 前記2(取消事由2について)の認定判断に照らせば、原告の取消事由4の主張が理由のないことは明らかである。
5 取消事由5(本件発明の進歩性の判断の誤り)について 前記3(取消事由3について)の認定判断に照らせば、原告の取消事由5の主張が理由のないことは明らかである。
6 取消事由6(本件発明の審査経過、審理経過、異議経過における被告の対応の違法性)について 原告は、本件決定も含めた被告の本件発明に対する対応は、本件決定における審理の不法性によっても明瞭であり、本件決定の結論に重大な影響を及ぼす旨主張する。
しかしながら、本件訴訟は、本件決定の認定判断の当否を訴訟物としているものであるから、原告が主張する被告の本件発明に対する対応の当否は、その性質上、本件訴訟において審理の対象とはならず、それが、本件発明の特許性を問題とする本件決定の結論に影響を及ぼすことはあり得ない。仮に、特許庁の対応に違法があったため、出願人が不当な不利益を被ったというのであれば、出願人は別の方法でその救済を受けるべきものであって、そのような場合があるとしても、そのことゆえに審決の結論が左右されるものではない。
原告の主張は、主張自体失当である。
7 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、
その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸