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関連審決 異議1997-74691
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  製造方法 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  着想 /  クレーム /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 137号 特許取消決定取消請求事件
原告 ノートンカンパニー 代表者 【A】
訴訟代理人弁護士 宇井正一、弁理士 【B】
被告 特許庁長官【C】
指定代理人 【D】、【E】、【F】、【G】、【H】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/11/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が平成9年異議第74691号事件について平成10年11月6日にした決定中、特許第2597045号の請求項7及び10に係る特許を取り消すとの部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、2分の1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 原告のために、この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成9年異議第74691号事件について平成10年11月6日にした決定を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「研摩布紙材料」とする特許第2597045号の発明(平成2年11月2日特許出願、平成9年1月9日設定登録。本件発明)の特許権者であるが、本件特許のすべての請求項について特許異議の申立てがあり、平成9年異議第74691号事件として係属した結果、平成10年11月6日、「特許第2597045号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。」との決定があり、その謄本は平成11年1月20日原告に送達された。
2 本件発明の要旨【請求項1】支持用部材を有し、且つ、(a)少なくとも一つの基礎接着剤層、
(b)この基礎接着剤層により上記支持用部材へ付着させられた少なくとも一つの砥粒層、及び(c)この少なくとも一つの砥粒層の上の上引き接着剤層を含んでなる、上記支持用部材に付着した塗装研摩材の層を有し、上記少なくとも一つの砥粒層が、少なくとも約15体積%から約75体積%までの割合のゾルゲル法アルミナの砥粒と85体積%以下から約25体積%までの量のアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物を含んでなる、研摩布紙材料。
【請求項2】前記ゾルゲル法アルミナ砥粒が種入りのゾルゲル組成物の砥粒である、請求項1記載の研摩布紙材料。
【請求項3】前記アルミナ-ジルコニア砥粒が約35〜約50%の酸化ジルコニウムを含む近共融組成物を含んでなる研摩材組成物の砥粒である、請求項1記載の研摩布紙材料。
【請求項4】前記塗装研摩材層が砥粒の単一層である、請求項1記載の研摩布紙材料。
【請求項5】前記砥粒の層がゾルゲル法アルミナの砥粒とアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物であり、そしてこの混合物における砥粒の体積比が約50/50である、請求項4記載の研摩布紙材料。
【請求項6】前記ゾルゲル法アルミナの砥粒が種入りのゾルゲル組成物の砥粒である、請求項5記載の研摩布紙材料。
【請求項7】前記混合物中の前記砥粒の粒度が50グリットである、請求項6記載の研摩布紙材料。
【請求項8】前記少なくとも一つの砥粒層が第一の砥粒層及びこの第一の砥粒層の上に用意される第二の砥粒層を含み、これらの両方の砥粒層が前記基礎接着剤層により前記支持用部材へ付着させられており、そして前記上引き接着剤層が上記第二の砥粒層の上にあって、この第二の砥粒層がゾルゲル法アルミナの砥粒とアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物であって当該ゾルゲル法アルミナ砥粒の量が少なくとも15体積%であるものを含んでなる、請求項1記載の研摩布紙材料。
【請求項9】前記第一の砥粒層が溶融アルミナの砥粒層である、請求項8記載の研摩布紙材料。
【請求項10】各層における前記砥粒が36グリットである、請求項9記載の研摩布紙材料。
【請求項11】支持用部材へ付着させられた砥粒の層を含んでなり、この砥粒層が砥粒の混合物を含み、この混合物が約15体積%から約75体積%までのゾルゲル法アルミナの砥粒と約85体積%から約25体積%までの溶融アルミナ-ジルコニア組成物の砥粒とを含んでなる研摩布紙材料。
【請求項12】前記ゾルゲル法アルミナ砥粒が種入りのゾルゲル組成物の砥粒であり、そして前記アルミナ-ジルコニアの砥粒が共融組成物を含む組成物の砥粒であって、これらの砥粒の体積比が50/50である、請求項11記載の研摩布紙材料。
3 決定の理由の要点 (1) 引用刊行物に記載の発明 請求項1〜12に係る本件発明に対して、特許異議の申立てについての審理において通知した取消理由で引用した刊行物1及び刊行物2にはそれぞれ次のことが記載されている。
(1)-1 刊行物1(特開昭60-242972号公報)の記載事項 (1a):合成ゴム、ラテックスとフェノール樹脂の配合物で飽和したレーヨン製太あや織り布を有し、従来の炭酸カルシウム充てんフェノール-ホルムアルデヒドメークコートを適用し、鉱物を従来法で静電気的に被覆し、メークコートは、予備硬化し、従来の炭酸カルシウムを充てんしたサイズコートを適用し、最後に両者を硬化して被覆研摩材シートとすること(5頁上左欄4行〜13行参照)。
(1b):優れた研摩剤粒子の少数部分と劣っている研摩材粒子の残りの主要部分とをほとんどの優れた方の粒子が最も粗い部分に濃縮するように組み合わせること及び優れた研摩粒子は、5〜30重量%組み合わせること、技術的には50%以下組み合わせること、優れた研摩剤粒子に固有の利点を利用する一方で現実に用いる粒子の量を最小にするものを提供すること、いくつかの例においては優れた砥粒と劣った砥粒を混合わせることにより優れた鉱物が単独に存在するものよりより良い研削作用が得られること(3頁下左欄15行〜下右欄12行参照)。
(1c):実施例1〜8においては、研摩材粒子を単一コーティングで塗布したが、
実施例9〜13においては、第1層が粗粒子を含まず、第2層が、不釣り合いに高い割合の粗粒子を含むようにし、材料に最初に接触する研摩材表面により優れた粒子を高濃度にあるようにすること(8頁上左欄14行〜上右欄12行参照)。
(1d):実施例9〜13においては、第1のトリップにおいて溶融アルミナの粒子(等級50)を塗布し、次いで溶融アルミナより優れた鉱物の特定割合を含む鉱物の配合物の形態で塗布すること(8頁上右欄13行〜下左欄第4行)。
(1e):実施例17及び19において、優れた方の砥粒(CUB)に等級36のものを用いること(9頁下右欄12行〜17行参照)。
(1)-2 刊行物2(米国特許第4741743号明細書、1988年(昭和63年)5月3日特許)の記載事項 (2a):30%〜70体積%の共融アルミナ-ジルコニア砥粒と70〜30体積%の焼結ゲル法によるアルミナ砥粒とを混合した砥粒を有機高分子樹脂をボンドとして結合した研削用砥石車では、異なる砥粒の相乗作用により、これらの砥粒を単独で用いた砥石車よりより高い研削作用を達成すること及び砥粒の混合割合を10/90から90/10体積%まで変化させても効果が得られること(第1欄41行〜47行、第1欄67行〜第2欄2行、及び第4欄クレーム1参照)。
(2b):研摩砥粒として、共融アルミナ-ジルコニア砥粒が適していること及び近共融アルミナ-ジルコニア砥粒が約35%〜50%のジルコニア(酸化ジルコニウム)を含むものを用いること(第1欄61行〜65行参照)。
(2c):4種類の種入りゲル焼結アルミナ砥粒が、セラミックコートされた溶融アルミナ(U57A)砥粒と共に評価のため用いられたこと(第3欄19行〜22行参照)。
(2d):7sec/cut(中間的研削条件)においては、アルミナ-ジルコニア砥粒:ゲル焼結法による研摩砥粒が50:50及び67:33体積%の時にいずれかの砥粒を単独で用いたものより耐久性が良い結果を示すこと(第2欄45行〜51行及びTableUを参照)。
(2) 本件各発明についての検討(以下、「本件発明1」などとあるのは、本件発明の請求項番号に対応する。) (2)-1 本件発明1について 刊行物1の(1a)項の記載事項における「レーヨン製太あや織り布」は、本件発明1における「支持用部材」に相当し、以下同じく、「フェノール-ホルムアルデヒドメークコート」は「基礎接着剤層」に、「鉱物」は「砥粒」に、「サイズコート」は「上引き接着剤層」にそれぞれ相当し、(1b)項の記載における「優れた研摩粒子と劣っている研摩粒子の組合せ」は本件発明1における「砥粒の混合物」に相当し、刊行物1における被覆研摩材シートも支持部材たる太あや織り布に付着した塗装研摩材層を有するから、刊行物1には、
「支持用部材を有し、且つ、少なくとも一つの基礎接着剤層、この基礎接着剤層により上記支持用部材へ付着させられた少なくとも一つの砥粒層、及びこの少なくとも一つの砥粒層の上の上引き接着剤層を含んでなる、上記支持用部材に付着した塗装研摩材の層を有し、上記少なくとも一つの砥粒層が、異なる組成の2種類の砥粒の混合物を含んでなる、研摩布紙材料」が記載されているといえる。
そこで、本件発明1と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、異なる組成の2種類の砥粒の混合物が刊行物1に記載の発明においては、「優れた研摩剤粒子と劣った研摩材粒子の混合物」であるのに対し、本件発明1においては、「少なくとも約15体積%から約75体積%までの割合のゾルゲル法アルミナの砥粒と85体積%以下から約25体積%までの量のアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物」である点で相違する。
そこで、この相違点につき検討する。
上記(2a)項の記載事項からみて、刊行物2には、焼結ゲル法によるアルミナ砥粒すなわちゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒を10/90から90/10体積%の割合で混合した砥粒を高分子有機樹脂で結合した砥石車は、それぞれの砥粒を単独で用いたものよりある研削条件においてはより高い研削効果をもたらすことが記載されている。
そして、刊行物1の研摩材製品は、研摩剤シートであり、刊行物2のものは砥石車であり、その製品形態は異なっているものの、刊行物1のものも、刊行物2のものも研摩製品という共通の技術分野に属するとともに、2種類の砥粒を混合することによりそれら砥粒を単独で用いるより優れた研削効果を得るという共通の目的を持つものであり、刊行物2の砥石車における2種類の混合砥粒を研摩剤シートの砥粒層として利用できない理由も見当たらないから、刊行物2記載の2種類の混合砥粒とその混合割合を刊行物1記載の優れた砥粒と劣った砥粒の混合砥粒の代わりに用いて、本件発明1のように構成することは、当業者であれば容易にできたといわざるを得ない。
(2)-2 本件発明2について 本件発明2は本件発明1の構成である「ゾルゲル法アルミナ」を「種入りゾルゲル法アルミナ組成物」と限定するものである。
しかるに、上記(2c)項の記載事項からみて、刊行物2には、種入り焼結アルミナ砥粒すなわち種入りゾルゲル法アルミナ組成物を用いることが記載されているから、刊行物1記載のものと刊行物2記載のものを組み合わせるに当たり、種入りのゾルゲルアルミナ組成物を採用して本件発明2のようにすることは、当業者であれば容易にすることができたといえる。
(2)-3 本件発明3について 本件発明3は、本件発明1の構成であるアルミナ-ジルコニア砥粒を「約35〜約50%の酸化ジルコニウムを含む近共融組成物を含む研摩組成物の砥粒」と限定するものである。
しかるに、上記(2b)項の記載から、刊行物2には、研摩砥粒として、約35%〜約50%の酸化ジルコニウムを含む近共融アルミナ-ジルコニア砥粒を用いることが記載されているから、刊行物1と刊行物2を組み合わせるに当たり、刊行物2記載の上記組成の近共融アルミナ-ジルコニア砥粒を採用して、本件発明3のようにすることは、当業者であれば容易にすることができたといえる (2)-4 本件発明4について 本件発明4は本件発明1の塗装研摩材の層を「砥粒の単一の層」と限定するものである。
しかるに、上記(1c)項の記載からみて、刊行物1には、「研摩材粒子を単一塗装する」すなわち砥粒の単一の層とするものが記載されているから、刊行物1,2を組み合わせるに当たり、砥粒の単一の層を採用して本件発明4のようにすることは、当業者であれば容易にすることができたといえる。
(2)-5 本件発明5について 本件発明5は、本件発明4の構成である砥粒の層を請求項5の記載のように限定するものである。
しかるに、上記(2d)項の記載事項からみて、刊行物2には、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒を50%体積比にて混合した砥粒を用いることが記載されているといえるから、本件発明4の砥粒の単一層に刊行物2記載の砥粒混合物を採用して本件発明5の構成のようにすることは、当業者であれば容易にすることができたといえる。
(2)-6 本件発明6について 本件発明6は、本件発明5における、ゾルゲル法アルミナ砥粒を種入りのゾルゲル組成物の砥粒に限定するものである。
しかるに、上記「(2)本件発明2について」の項で述べたように、ゾルゲル法アルミナとして、種入りゾルゲル法組成物の砥粒を採用することは、刊行物2に記載されているから、本件発明6もやはり刊行物1,2に基づき当業者が容易に発明することができたといわざるをえない。
(2)-7 本件発明7について 本件発明7は、本件発明6における砥粒の粒度を50グリットと規定するものである。
しかるに、上記(1d)項の記載からみて、刊行物1には、等級50すなわち粒度50グリットの砥粒を用いることが記載されている(実施例9〜13)。
したがって、刊行物1と刊行物2のものを組み合わせるに当たり、粒度50グリットのものを採用して本件発明7のようにすることは、当業者ならば容易にすることができたといえる。
(2)-8 本件発明8について 本件発明8は、本件発明1の少なくとも一つの砥粒層を請求項8に記載のものに限定するものである。
しかるに、上記(1c)項の記載事項からみて、刊行物1には、基礎接着剤に付着される砥粒層を支持部材側の第1層とその上に用意される2層とし、第2層に配合物すなわち混合砥粒を用いることが記載されており、一方、混合砥粒として、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒の混合物であってゾルゲル法アルミナ砥粒の量が少なくとも15体積%含むものが刊行物2(上記(2a)項参照)に記載されているから、刊行物1に記載の2層の砥粒層を有する混合砥粒に代えて、刊行物2記載の混合砥粒を採用して本件発明8の構成のようにすることは、当業者が容易にできたことである。
(2)-9 本件発明9について 本件発明9は、本件発明8における第一の砥粒層を溶融アルミナ砥粒層と限定するものである。
しかるに、2層の砥粒層から成るものにおいて、第1層の砥粒に、溶融アルミナ砥粒を採用することは上記(1d)項にみられるように、刊行物1に記載されているから、本件発明9も、刊行物1と刊行物2に基づき当業者が容易に発明することができたといえる。
(2)-10 本件発明10について 本件発明10は、本件発明9における各砥粒層が36グリットと限定するものである。
しかるに、優れた方の砥粒に36グリットのものを用いることが上記(1e)項の記載事項にみられるように刊行物1に記載されているから、本件発明9における2層の砥粒に36グリットの粒度のものを採用して本件発明10のようにすることは、
当業者にとり格別困難なことであるとはいえない。
(2)-11 本件発明11について 本件発明11は、本件発明1の構成から上引き接着層の構成を削除したものである。
しかるに、研摩布紙材料において、上引き接着剤層を用いるか否かは単なる設計的事項にすぎない。そして、「砥粒層が砥粒の混合物を含み、この混合物が約15体積%から約75体積%までのゾルゲル法アルミナの砥粒と約85体積%から約25体積%までの溶融アルミナ-ジルコニア組成物の砥粒」の構成は、上記「(1)本件発明1について」の項において述べたように、刊行物2に記載されているから、本件発明11もやはり、当業者が刊行物1と刊行物2に基づき容易に発明をすることができたといわざるを得ない。
(2)-12 本件発明12について 本件発明12は、本件発明11におけるゾルゲル法アルミナ砥粒を、請求項12記載のように限定するものである。
しかし、上記(2b)項の記載にみられるように、アルミナ-ジルコニア砥粒は、共融組成物を含む砥粒が適当であり、また、(2c)項の記載にみられるように、ゾルゲル法アルミナ砥粒が種入りのゾルゲル組成物砥粒を用いること、(2d)項の記載にみられるように、それらを50:50体積%比とすることがいずれも刊行物2に記載されているから、本件発明12も、刊行物1及び刊行物2に基づき当業者が容易に発明をすることができたといわざるを得ない。
(3) 決定の結論 以上のとおりであるから、本件請求項1〜12に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜12に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきである。
原告主張の決定取消事由
決定は、本件発明及び刊行物1ないし2に記載の事項の認定を誤った結果、誤って本件発明の進歩性を否定したものであるから、取り消されるべきである。
1 粒径画分と砥粒の種類の相違 (1) 刊行物1に記載されているのは、砥粒の異なる粒径画分に優れた砥粒と劣った砥粒を分配使用して砥粒コストを低減するという発明であり、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒の特定割合の混合物が単独の砥粒と比較して改良された研削性能(相乗効果)を示すという本件発明とは、本質的に異なる。
(2) 被覆研摩剤製品に使用する鉱物に関する米国規格協会(ANSI)の規格に従えば、ある公称等級の分級の砥粒は、対照画分(約50〜60%)、対照画分よりも名目上一画分粗い大きな粒子を含む「過等級画分」(約10%)、及び対照画分よりも細かい小さな粒子を含む「微細画分」(約30〜40%)から構成され、
3画分の合計は「全等級」と呼ばれる(刊行物1の2頁右上欄11行〜右下欄13行)。
刊行物1の発明は、具体的には、被覆研摩剤製品(研摩布紙に同じ)の砥粒として、ある公称等級の分級において、「研摩操作において同じ等級の他方の鉱物よりも明らかに優れている」鉱物を、少量の粗い画分に用いることにより、「優れた研摩剤粒子に固有の利点を利用する一方で現実に用いるそのような粒子の量を最小に」し(刊行物1の3頁左下欄16〜18行)、「被覆研摩剤製品に応用する鉱物の総括コストを低減する」(刊行物1の3頁左下欄8〜10行)という発明である。
(3) 被覆研摩剤製品では、砥粒は基材の表面に接着剤層で固定され被研削材に押圧されて研削作用を行うから、粒径の大きい砥粒が基材上に突出して優先的に被研削材と接触して研削作用を担う。粒径の大きいすなわち粗い砥粒が磨耗してくれば中間的大きさの砥粒も被研削材と接触するが、並行して研摩布紙が寿命になるので、ある分級の砥粒の研削作用と主として粗い粒径画分の砥粒によって担われる。
刊行物1に記載されているのは、このように被覆研摩剤製品では主としてその粗い画分の砥粒によって研摩作用が担われることに着目して、粗い画分に優れた砥粒を用いかつその他の画分に劣っている砥粒を用いれば、高価な砥粒の量を実質的に節約することができ、研削性能を大きく低下させることなくトータルの砥粒コストを低減できるという発明である。
(4) これに対して、本件発明は、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒という特定の砥粒の混合物の研削性能が予想外に優れていることを開示する。
本件発明は、特定の種類の砥粒の作用効果に関する発明であって、砥粒の粒径の画分分布に基づく作用効果とは全く関係のない作用効果に関する。
このように、刊行物1に記載の発明と本件発明とでは、発明の技術的思想が全く異質である。
したがって、刊行物1では、砥粒の研削性能に優劣があればどのような砥粒の組合せでもよく、その組合せに基づく効果は粒径画分への砥粒の分配からもたらされるものであるのに対して、本件発明では、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒という特定の砥粒の混合物が特殊にもたらす研削性能の作用効果を開示するものであるから、これらを共に異種の砥粒の組合せ又は混合物であると同一視した決定の認定は刊行物1記載の発明及び本件発明の理解を誤ったものである。
(5) 決定は、刊行物2にゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒の混合砥粒がそれぞれの単独の砥粒より研削性能が改良されることを開示しているので、刊行物2に記載されているこの混合砥粒を刊行物1の砥粒の組合せとして適用して本件発明を創作することが容易であると判断している。
しかし、刊行物1に記載されているのは、優れた砥粒と劣った砥粒とを異なる粒径画分に用いることにより、優れた砥粒の性能を維持しながら、砥粒コストを低減するという発明であるから、2種の砥粒の混合物が研削性能を改良するという効果に関する刊行物2の砥粒混合物を刊行物1の砥粒として用いる理由はない。
仮に、刊行物2の2種の砥粒を刊行物1の砥粒の組合せとして用いるとしても、
2種の砥粒を粗い粒径画分とその他の粒径画分とに分けて配合することになるので、この配合砥粒は刊行物2に開示されている意味での2種の砥粒の混合物ではないものとなる。また、刊行物2の2種の砥粒を刊行物1の砥粒の組合せとして用いて、刊行物1に開示されているような効果が得られたと仮定する場合にも(この仮定は成立しないが)、その効果は、刊行物2の開示とは全く関係がなく、刊行物1で開示されているように、優れた砥粒を粗い粒径画分に使用し劣った砥粒をその他の粒径画分に用いることによる効果であるにすぎないことは明らかである。
(6) 2種の砥粒の優劣について 刊行物1は、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒について、いずれが優れた砥粒でありいずれが劣った砥粒であるとは記載せず、微結晶性アルファアルミナ砥粒と共融アルミナ-ジルコニア砥粒は両方とも常に優れた砥粒として記載し、常に溶融アルミナ砥粒が劣った砥粒であるとして記載している。
また、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒とでは、どちらがより優れた砥粒であるともいえないことは、原告の上級研究員【I】の供述書(甲第5号証)に示される実験結果からも明らかである。
仮に、本件発明のゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒とを、一方を粗い粒径画分に使用し他方の砥粒をその他の粒径画分に使用したとしても、いずれの砥粒も研削性能において優劣がつけがたいものであるから、刊行物1記載の発明に基づく効果(砥粒コストの削減)を奏することがないばかりか、研削性能に明らかな優劣のない砥粒をわざわざ特定の粒径画分に分けて配合する工程のために余分なコストを必要とするので、かえってコストが上昇する不都合があるので、このような砥粒の使用は刊行物1の教示に反し、排斥される。
2 技術分野の相違 (1) 決定が、「刊行物1の研摩材製品は、研摩剤シートであり、刊行物2のものは砥石車であり、その製品形態は異なっているものの、刊行物1のものも、刊行物2のものも研摩製品という共通の技術分野に属するとともに、・・・刊行物2の砥石車における2種類の混合砥粒を研摩剤シートの砥粒層として利用できない理由も見当たらないから、刊行物2記載の2種類の混合砥粒とその混合割合を刊行物1記載の優れた砥粒と劣った砥粒の混合砥粒の代わりに用いて、本件発明1のように構成することは、当業者であれば容易にできたといわざるを得ない。」と判断したのは、研摩布紙と砥石車との技術分野の相違について理解を欠いている。
(2) たとえ、結合砥石車において特定の砥粒が有効であることが知られているとしても、その結合砥石車における砥粒の性能が研摩布紙で使用される場合にどのような性能を示すかを予測することはできないというのが、研摩材の商業的な使用、
また開発研究に基づく歴史的な認識であり、また、研摩材の結合砥石車及び研摩布紙の業界の当業者及び専門家の見解である。
(3) さらに、刊行物2自体、低速研削速度ではゾルゲルアルミナ砥粒が常に優れており、高速研削速度では共融アルミナ-ジルコニア砥粒が常に優れているが、中間研削速度ではこれらの混合砥粒が優れているという特殊な知見を開示するものである。すなわち、刊行物2は、砥石車では一般的にゾルゲルアルミナ砥粒と共融アルミナ-ジルコニア砥粒の混合物が相乗効果を奏するという一般的な開示では決してない。砥石車でも、有機樹脂結合砥石車に限って、しかも、炭素鋼の研削において、低速研削速度ではゾルゲルアルミナ砥粒が常に優れており、高速研削速度では共融アルミナ-ジルコニア砥粒が常に優れるとともに、中間研削速度という特定の条件下では、ゾルゲルアルミナ砥粒と共融アルミナ-ジルコニア砥粒の混合物が意外にも相乗効果を奏することを見いだしたという開示である。刊行物2の開示は、
砥石車の領域においても、限定された条件下での特殊な現象に関する知見である。
このことは、甲第8号証(刊行物2の発明の発明記録原簿の写し)からも、明らかである。
このような限定された領域で成立する知見が、砥石車と異なる研摩布紙の領域でも成立すると考える根拠は全くない。
したがって、刊行物2のこのような限定された開示に基づいて、研摩布紙の研削性能に関する本件発明が当業者にとって容易に想到されるということはない。
(4) 有機結合砥石の研削性能から研摩布紙の研削性能を予想することができないことは、甲第6号証(切削加工の専門家【J】の供述書)及び甲第7号証(原告の従業員【K】の供述書)からも明らかである。
結合砥石と研摩布紙が共通の技術分野であるか否かは、結合砥石の性能から同じ砥粒を用いた研摩布紙の性能を予測できるかという点が重要であるところ、甲第6号証で【J】がその長い経験と習熟した知識から述べているように、また、結合砥石と研摩布紙とは、各種の条件が異なるために、同じ砥粒を用いても、その性能の優劣は一概ではないので、結合砥石と研摩布紙が共通の技術分野ではないというべきである、あるいは、少なくとも刊行物2の開示に基づいて本件発明を予測することはできない。
(5) また、決定が、「刊行物2の砥石車における2種類の混合砥粒を研摩剤シートの砥粒層として利用できない理由も見当たらないから、・・・本件発明1のように構成することは、当業者であれは容易にできたといわざるを得ない」と判断しているのも不当である。
研摩布紙の当業者は、刊行物2の砥石車における2種類の混合砥粒の開示があるとしても、それから刊行物2の砥石車における混合砥粒が研摩布紙において類似の作用効果があるとは考えないし、刊行物2の開示から本件発明の効果が予測されるものでもないから、当業者にとっても刊行物2の開示から本件発明に容易に想到することはできない。
決定は、刊行物2の砥石車の技術分野と、刊行物1及び本件発明の研摩布紙の技術分野とを、相互に容易推考可能な技術分野と考えている点で、本件発明及び刊行物の技術分野の理解を誤ったものである。
3 効果の相違 (1) 決定は、「刊行物1のものも、刊行物2のものものも・・・2種類の砥粒を混合することによりそれらの砥粒を単独で用いるより優れた研削効果を得るという共通の目的を持つものであり、・・・刊行物2記載の2種類の混合砥粒とその混合割合を刊行物1記載の優れた砥粒と劣った砥粒の混合砥粒の代わりに用いて、本件発明1のように構成することは、当業者であれば容易にできたといわざるを得ない。」と述べて、刊行物1の効果が「2種類の砥粒を混合することによりそれらの砥粒を単独で用いるより優れた研削効果を得る」という効果であるとの認識を示し、これを刊行物1のものと刊行物2のものの組合せの容易性の根拠としているが、これは刊行物1の理解を誤ったものである。
(2) 刊行物1に記載されているのは、優れた砥粒を粗い粒径画分に少量で用いるとともに劣った砥粒を残りの粒径画分に用いるものであり、全等級に優れた砥粒を用いた場合と比較して、優れた砥粒の利点をできるだけ失わないようにしながら、
優れた砥粒の量を少量にするとともに、研削性能への影響の小さい画分に大量の劣った砥粒を用いることにより、全砥粒のコストを低減することを効果とする発明である。このことは、刊行物1の記載からも、また刊行物1の発明の本質からも、明らかである。
したがって、刊行物1のものは、本件発明あるいは刊行物2のもののように「2種類の砥粒を混合することによりそれらの砥粒を単独で用いるより優れた研削効果を得る」ことを目的とする発明ではない。
4 砥粒の混合比率 (1) 刊行物1は、「大抵の目的にとってより優れた研摩粒子は全鉱物重量の5〜30重量%(好ましくは10〜20%)を占めるだろう。より優れた粒子を50%以下加えることには技術的には可能であるが、そうするには費用がかかりすぎる。」(3頁右下欄8〜13行)と記載して、30〜50%の範囲の効果を否定している。刊行物1の発明は、砥粒混合物の研削性能の向上を効果とするものではなく、研削性能をできるだけ低下させることなく砥粒コストを削減する発明であるので、50%以下の量は技術的に可能であるが費用がかかりすぎるということは、そのような量では発明の効果を失うに等しい。
(2) 一方、刊行物2は、(1)20〜50%のジルコニアを含む共融アルミナ-ジルコニアと、(2)少なくとも13のクヌープ硬度を有する焼結アルミナゲル砥粒との、体積比で30〜70対70〜30の比率の混合物の砥粒を含む有機ポリマー結合砥石車を開示するものである。
仮に、刊行物2の結合砥石車用として開示されている砥粒混合物を、刊行物1の被覆研摩剤製品の砥粒として用いようとすると、刊行物1の効果を奏するように使用するためには、優れた粒子を全鉱物重量の5〜30重量%(好ましくは10〜20%)の量で含む必要があるが、刊行物2は、逆に、共融アルミナ-ジルコニアと焼結アルミナゲル砥粒とを体積比で30〜70対70〜30の比率で用いるときに研削性能の向上があると開示するものであり、これらの砥粒の混合比率には実質的な意味での重複がないので、刊行物2に記載されている砥粒混合物を刊行物1に用いることは、刊行物1の開示の内容に合致しないものとなり、また仮に重複があったとしても、そのような程度の重複関係では刊行物2の砥粒を刊行物1の砥粒として用いることにはならない。
以上のことからすると、当業者は刊行物2と刊行物1の開示を組み合わせることが有効であるとは考えないというべきである。
決定取消事由に対する被告の反論
1 粒径画分と砥粒の種類の相違について (1) 決定は、「そこで、本件発明1と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、異なる組成の2種類の砥粒の混合物が刊行物1に記載の発明においては、『優れた研摩剤粒子と劣った研摩剤粒子の混合物』であるのに対し、本件発明1においては、『少なくとも約15体積%から約75体積%までの割合のゾルゲル法アルミナの砥粒と85体積%以下から約25体積%までの量のアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物』である点で相違する。」と認定し、「異なる組成の2種類の砥粒の混合物」という用語を用いて、これが、本件発明1では「少なくとも約15体積%から約75体積%までの割合のゾルゲル法アルミナの砥粒と85体積%から約25体積%までの量のアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物」とあるのに対し、刊行物1では「優れた研摩剤粒子と劣った研摩剤粒子」であることを、対比し、相違点を挙げ、その後その相違点について論じている。
したがって、決定では、「(lb)項の記載における『優れた研摩粒子と劣っている研摩粒子の組合せ』」と、「本件発明1における『砥粒の混合物』」とを対応(相当)させて記載し、後でその具体的な相違について論じているから、決定の「(lb)項の記載における『優れた研摩粒子と劣っている研摩粒子の組合せ』は本件発明1における「砥粒の混合物」に相当」との認定に、誤りはない。
また、上記認定に誤りがない以上、「・・・上記少なくとも一つの砥粒層が、異なる組成の2種類の砥粒の混合物を含んでなる、研摩布紙材料」が記載されている」との決定の認定にも誤りはない。
(2) 決定において、刊行物1の粒径画分に関連した相違について触れていないのは、本件発明1に、粒径画分に関して何ら特定がないからである。
したがって、決定がした本件発明1と刊行物1に記載の発明との対比に誤りはない。
(3) 原告は、「刊行物1は、研削性能の異なる砥粒を異なる粒径画分に用いる、
砥粒の粒径分布に関する発明であり、粒径の画分分布に基づく経済効果のみに関心のある発明であり、研削性能の優れた砥粒と劣った砥粒を用いるが、特定の砥粒の優劣には無関心である。しかも、異なる砥粒を特定の粒径の画分分布に組み合わせることを必須とする発明である。」と主張している。
しかし、例えば、刊行物1の6頁左下欄4行〜5行に「『より優れている』AZ(注・アルミナ-ジルコニア)及びHT(注・熱処理溶融アルミナ)鉱物の『より劣っている』AO(注・従来の溶融アルミナ)との配合物」と記載されていることから、原告の主張中、「・・・特定の砥粒の優劣には無関心である。・・・」との部分は誤りである。
また、刊行物1の9頁表Yの例14、例16、11頁表[の対照R〜Xには、全等級同士の2種類の砥粒を混ぜたものが記載されていることから、「・・・しかも、異なる砥粒を特定の粒径の画分分布に組み合わせることを必須とする発明である。」との原告主張も誤りである。
(4) 原告は、「刊行物1は、優れた砥粒と劣った砥粒とを異なる粒径画分に用いることにより、優れた砥粒の性能を維持しながら、砥粒コストを低減するという発明であるから、2種の砥粒の混合物が研削性能を改良するという効果に関する刊行物2の砥粒混合物を刊行物1の砥粒として用いる理由はない。仮に、刊行物2の2種の砥粒を刊行物1の砥粒の組合せとして用いるとしても、2種の砥粒を粗い粒径画分とその他の粒径画分とに分けて配合することになるので、この配合砥粒は刊行物2に開示されている意味での2種の砥粒の混合物ではないものとなる。」旨主張する。
原告の主張は、刊行物1の「優れた研摩剤粒子と劣った研摩剤粒子の混合物」の、各々の成分、割合及び粒径画分に、刊行物2の「2種類の混合砥粒とその混合割合」の各々を適用するという考え、すなわち、刊行物1の「優れた研摩剤粒子」として、刊行物2の「2種類の混合砥粒とその混合割合」のうちの一方の砥粒と割合を適用し、刊行物1の「劣った研摩剤粒子」として、刊行物2の他方の砥粒と割合を適用し、その際に各粒子には刊行物1の粒径画分を採用するという考えに基づいたものである。
しかしながら、決定では、「異なる組成の2種類の砥粒の混合物」という用語を用いて、これが、本件発明1では「少なくとも約15体積%から約75体積%までの割合のゾルゲル法アルミナの砥粒と85体積%以下から約25体積%までの量のアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物」とあるのに対し、刊行物1では「優れた研摩剤粒子と劣った研摩剤粒子の混合物」であることを、相違点として挙げている。
さらに、決定は、刊行物1の「優れた研摩剤粒子と劣った研摩剤粒子の混合物」の代わりに、刊行物2の「2種類の混合砥粒とその混合割合」を用いることについて言及している。
すなわち、決定は、刊行物1の「優れた研摩剤粒子と劣った研摩剤粒子の混合物」(各砥粒の成分、割合及び粒径画分。)を、そのまま、刊行物2の「2種類の混合砥粒とその混合割合」(各砥粒の成分、割合。砥粒はいずれも全等級。)に置き換えることを述べているものである。
2 刊行物1と刊行物2の技術分野の相違について (1) 刊行物1と刊行物2とは共通の技術分野に属するものであり、このことは、
特開昭56-32369号公報(乙第1号証。発明の名称:「研摩材鉱物の製造方法、研摩材鉱物、被覆加工研摩製品、研摩車ならびに不織布研摩製品」)に共通の研摩技術として、同じ研摩粒を、シート、砥石車及び不織布に適用することが記載されていること、及び特開昭60-231462号(乙第2号証)に、共に研摩手段である砥石と研摩布紙の両者に共通に用いられる砥粒について記載されていることからも明らかである。
また、甲第6号証には、切削と仕上げ加工の専門家である【J】が、結合砥石と研摩布紙について、その挙動を技術的に述べたものが記載されており、この記載から、専門家である【J】が、結合砥石と研摩布紙の両者について、研究を行っていたことが理解される。
このことから、結合砥石(例えば、刊行物2に記載されたような砥石車)と、研摩布紙(例えば、刊行物1に記載されたような研摩材シート)とは、同じ専門家が研究の対象とする共通の技術分野であることが理解される。
(2) 刊行物1と刊行物2に記載の発明とは、共通の目的を持つ。
すなわち、 刊行物1に記載された発明は、優れた研摩剤粒子の少数部分と劣っている研摩剤粒子の残りの主要部分とを、ほとんどの優れた方の粒子が最も粗い部分に濃縮するように組み合わせるものである。
例えば、刊行物1の7頁表Uにおいて、「1018鋼」を30psiで研摩する場合には、
実施例4(等級80のAO(従来の溶融アルミナ)砥粒を90%と、等級60のCUB(非溶融アルファアルミナ=ゾルゲル法アルミナ)砥粒を10%とする組合せ。)の方が、対照E(等級80のAO砥粒を100%含むもの。)、又は対照F(等級80のCUB砥粒を100%含むもの。)と比較して、良い結果を示している。なお、ここで、CUB砥粒を等級60として組み合わせているが、これは、等級80のCUB砥粒の過等級画分の代替として用いられているものである(刊行物1の5頁左上欄16行〜右上欄3行を参照。) そして、刊行物1の3頁左下欄18行〜右上欄1行、及び7頁左下欄1行〜6行には、「確かにいくつかの例においては共働作用効果が得られ、構造体はより優れている鉱物のみが存在する被覆研摩剤製品よりも現実により良く作用する。」、「前記の表から観察されるのは、ほとんどすべての場合にCUB鉱物をわずか10%含む製品は「より劣っている」従来の溶融アルミナ100%の鉱物か「より優れている」CUB100%の鉱物のいずれかでつくった製品よりも効率的に作用することである。」と記載されている。
上記のとおり、刊行物1に記載された発明は、粒径画分を異ならせているものの、優れた粒子と劣った粒子とを混合させて、2種類の砥粒を混合することによりそれら砥粒を単独で用いるより優れた研削結果を得るというものであることを示している。
また、刊行物2には、30%〜70体積%の共融アルミナ-ジルコニア砥粒と70〜30体積%の焼結ゲル法によるアルミナ砥粒とを混合した砥粒を有機高分子樹脂をボンドとして結合した研削用砥石車では、異なる砥粒の相乗効果により、これらの砥粒を単独で用いた砥石車よりより高い研削作用を達成することが記載されている。
例えば、刊行物2の第3欄の表Uには、「1018鋼」を、7秒/カットで研削する場合には、50%AZ(共融アルミナ-ジルコニア)と50%ゲル(焼結ゲル法によるアルミナ砥粒)との混合物の方が、100%AZ、又は100%ゲルと比較して、良い結果を示している(第2欄45行〜51行参照。)。
上記のとおり、刊行物2に記載された発明は、AZとゲルとを特定の比率で混合させて、2種類の砥粒を混合することによりそれら砥粒を単独で用いるより優れた研削結果を得るというものであることを示している。
したがって、刊行物1に記載された発明と刊行物2に記載された発明とは、両者いずれにも「2種類の砥粒を混合することによりそれら砥粒を単独で用いるより優れた研削結果を得る」という共通の目的を有していることが明らかである。
3 効果の相違について 刊行物2の2欄3行〜9行には、「本発明の製品は、特定の中間出力レベルにおいて効率が優れるばかりでなく、すべての出力レベルについて最適ではないにしても、良好な妥協を提供するホイールを提供する機会を提供し、広範囲の操作条件をカバーするのに必要なホイールの種類を減少させる経済的利点を有し、全体としてコストを低減する。」と記載されている。
すなわち、刊行物2の砥石車は、すべてのレベルで最適ではないが、広範囲で良い旨が記載されていることから、これを研摩布紙に適用した場合にも同様に、すべてのレベルで最適ではないが、広範囲で良い結果をもたらすことが容易に想到されるといえる。
4 砥粒の混合比率について この点に関する原告の主張も、刊行物1及び2に開示されている内容を正確に理解していないことに基づくものであって、理由がない。
当裁判所の判断
1 本件発明1について (1) 粒径分布について 本件請求項1では、「支持用部材を有し、且つ、(a)少なくとも一つの基礎接着剤層、(b)この基礎接着剤層により上記支持用部材へ付着させられた少なくとも一つの砥粒層、及び(c)この少なくとも一つの砥粒層の上の上引き接着剤層を含んでなる、上記支持用部材に付着した塗装研摩材の層を有し、上記少なくとも一つの砥粒層が、少なくとも約15体積%から約75体積%までの割合のゾルゲル法アルミナの砥粒と85体積%以下から約25体積%までの量のアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物を含んでなる、研摩布紙材料。」と規定されているが、ここには、使用する2種類の砥粒の画分分布ないし粒径分布についての限定はない。
そうすると、本件発明1は、刊行物1に記載された発明のように、2種類の相対的に粗い砥粒と相対的に細かい砥粒を組み合わせて使用するもの、すなわち2種類の砥粒を異なる粒径画分に配分して使用するものを包含することは明らかであるから、本件発明1は、粒径分布に依存しない点で刊行物1に記載された発明と異なる旨の原告の主張は、特許請求の範囲に基づかないものであって、理由がない。
(2) 砥粒の優劣について (2)-1 甲第3号証によれば、刊行物1の4頁左上欄14行ないし右上欄4行に、「述語『より優れている』および『より劣っている』は相当主観的な点を含むかもしれないが、被覆研摩剤技術の当業者はそのような判断を容易にできる。より優れていることあるいはより劣っていることは被加工物片のタイプおよび用いた研摩条件にある程度依存することはもちろんである。それゆえ2つのタイプの研摩剤粒子に対して相対的な『優劣』の最終決定に関しては、2つのタイプのおのおので作られた被覆研摩剤製品を特定の興味ある研摩条件下で、研摩すべきタイプの被加工品を用いて試験すべきである。」と、記載されていることが認められ、この記載によれば、「より優れている」、「より劣っている」との評価は、研削すべき特定の被研摩材料(被加工物片)を、実際の研削条件下で試験することにより、相対的に評価、決定されるべきものとされていることが明らかである。
甲第3号証によれば、刊行物1には、上記の記載に続き「しかしながら現在の最も商業的に重要な研摩操作に関しては、基材に結合した唯一の特定タイプの研摩剤粒子を持つ被覆研摩剤製品で冷延鋼を研摩することを含む試験によって、異なる研摩剤粒子を含む同等の構造体と比較して、相対的な優劣に関して研摩剤粒子を類別するのに非常に信頼性のある試験結果が生じることが分かった。」(4頁右上欄4行ないし11行)との記載に加えて、実地に冷延鋼を研削試験した結果が示されていることが認められる。
この研削試験の結果(刊行物1の4頁右上欄13行ないし右下欄末行)を要約すると、共溶融アルミナ-ジルコニア砥粒を含む研摩布紙は、56分の研削後1分間当たりの研削量が25グラム以下に低下し、その間の全加工量(研削総量)が4580グラムであったのに対し、非溶融アルファアルミナ(ゾルゲル法アルミナ)砥粒を含む研摩布紙は、88分間の研削後においても、1分間当たりの研削量が25グラム以下に低下することがなかったため、88分で研削試験を打ち切ったところ、その間の全加工量は8094グラムであったというものであり、これによれば、刊行物1には、ゾルゲル法アルミナと、アルミナ-ジルコニアとでは、経済的に最も重要な冷延鋼の研削に関しては、相対的に前者が優れた砥粒であり、後者が相対的に劣った砥粒であることが明確に示されているといえる。
(2)-2 そうすると、刊行物1は、砥粒の優劣は、実地の研削試験に基づいて相対的に決めるべきことを明らかにした上で、経済的に最も重要な冷延鋼の研削に関して、ゾルゲル法アルミナ砥粒と溶融アルミナ-ジルコニア砥粒とでは、前者が相対的に優れ、後者が相対的に劣ることを示しているのであるから、刊行物1の発明における優れた砥粒と劣った砥粒の組合せとして、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒を使用することを排斥しているということはできない。
(2)-3 原告は、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒は、研削性能において、いずれがより優れているともいえないことは、甲第5号証(原告の上級研究員【I】の供述書)より明らかであると主張する。
しかしながら、刊行物1の発明でいう砥粒の優劣は、実地の研削試験に基づいて相対的に決めるべきものであるところ、甲第5号証(原告の上級研究員【I】の供述書)に示された実験結果によれば、インコネルを被研削材とした試験では、アルミナ-ジルコニア砥粒よりゾルゲル法アルミナ砥粒が常に優れていることが明らかに認められ、インコネルの研削に関しては、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒の組合せが、刊行物1でいう優劣のある砥粒の組合せに該当することは明らかである。
もっとも、甲第5号証によれば、ステンレス鋼の研削では、原告が主張するように、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒とではいずれがより優れているともいい難いものと認められる。しかしながら、ステンレス鋼において優劣が明らかでないとしても、上記のように優劣が明らかなインコネルの研削に、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒を組み合わせて使用するとの発想が排斥されるものではない。 (2)-4 したがって、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒とは、研削性能において優劣がつけがたいものであって、ゾルゲル法アルミナ砥粒を優れた砥粒とし、アルミナ-ジルコニア砥粒を劣った砥粒として使用することは、
刊行物1の発明から排斥されるとする原告の主張は理由がないというべきである。
(3) 効果について (3)-1 原告は、(イ)刊行物1の発明は、「2種類の砥粒を混合することによりそれらの砥粒を単独で用いるより優れた研削効果を得る」ものではない旨、及び(ロ)刊行物1の発明は、コストを引き下げることを目的とするものである点で、
本件発明と異なる旨主張する。
(3)-2 そこで刊行物1の記載についてみるに、甲第3号証によれば、刊行物1に次の記載のあることが認められる。
@ 「本発明は・・・2つ以上の異なる研摩剤鉱物を用いる被覆研摩剤製品(研摩布紙)に関する。」(2頁右上欄8ないし9行) A 「本発明はより優れた研摩剤粒子の少数部分と劣っている研摩剤粒子の残りの主要部分とを、ほとんどの優れた方の粒子が最も粗い部分に濃縮するように組み合わせる。より優れた粒子により得られる予期せぬ素晴らしい性能が1重量%もの少い量でも時折見られ、より優れた研摩粒子が3%でもっと確かで有意な改良をもたらす。」(3頁右下欄2ないし8行) B 実施例1及び2として、次の内容記載(5頁左上欄3行ないし6頁左下欄7行。特に6頁上欄の表T)。
等級50の溶融アルミナ(AO)の微細画分と対照画分(90重量%)と、等級40の非溶融アルファアルミナ(CUB)の全等級(10重量%)との混合砥粒(実施例1)、あるいは等級50の溶融アルミナ(AO)の微細画分と対照画分(90重量%)と、等級40の共溶融アルミナ-ジルコニア(AZ)の全等級(10重量%)との混合物(実施例2)を布地基材に適用して研摩布紙を作製した。
これらの研摩布紙のエンドレスベルトを用いて1095鋼、1018鋼、304ステンレス鋼、ワスパロイ及びインコネルを、加工圧100psi又は150psiで研削したところ、いずれの場合も、各砥粒をそれぞれ単独で100%使用したものから予測される直線的内挿値よりも大きい研削値が得られた。
C 実施例4として、次の内容記載(6頁左下欄8行ないし7頁左下欄12行。
特に7頁上欄の表U) 等級80の溶融アルミナ(AO)90重量%と等級60の非溶融アルファアルミナ(CUB)10重量%を含む研削ベルトを作製し、1018鋼、304ステンレス、ワスパロイ、インコネル、鋳造アルミニウムを研削したところ、各砥粒を単独で100%使用したものから予測される直線的内挿値より大きい研削値が、すべてのケースで達成された。特に、1018鋼の30psiでの研削、304ステンレス鋼での30及び75psiでの研削、ワスパロイでの30psiでの研削、インコネルの30及び75psiでの研削、鋳造アルミニウムの75psiでの研削では、いずれの砥粒を単独で100%使用した場合に達成される研削性能より、より優れた研削性能が、両砥粒を併用した場合に達成されることが認められる。
D 実施例9ないし13として、次の内容記載(8頁右上欄13行ないし9頁左下欄9行。特に9頁上欄の表X)。
砥粒層を二層構成として、第1層に等級50の溶融アルミナ(AO)砥粒の微細及び対照画分を、第2層に等級50の溶融アルミナ(AO)の微細及び対照画分と等級40のゾルゲル法アルミナ(CUB)砥粒(全等級)の混合物(実施例9、10及び12)、あるいは等級50の溶融アルミナ(AO)の微細及び対照画分と等級40のアルミナ-ジルコニア(AZ)砥粒(全等級)の混合物(実施例11及び13)を含む研摩剤ベルトを作製し、研削試験を行ったところ、1095鋼、1018鋼、304ステンレス鋼において相乗効果が認められた。
E 実施例14ないし17として、次の内容記載(9頁左下欄10行ないし10頁左上欄8行。特に9頁右下欄の表Y。なお、表Yには、実施例19の例が記載されているが、実施例15の例の誤記と認められる。) 等級40の溶融アルミナ(AO)砥粒の微細及び対照画分と、等級36の全等級非溶融アルファアルミナ砥粒(CUB)(=ゾルゲル法アルミナ)の95:5混合物(実施例15)あるいは70:30混合物(実施例17)を用いてANSI標準に従ってエンドレスベルトを作製し、1018鋼を研削試験したところ、等級40の全等級溶融アルミナ砥粒(対照K)又は等級40の全等級非溶融アルファアルミナ砥粒(対照L)をそれぞれ単独で100%使用したものと比較して明らかに相乗効果が認められた。この相乗効果は、等級40の全等級アルミナ砥粒と等級40の全等級非溶融アルファアルミナ砥粒の95:5混合物(実施例14)又は70:30混合物(実施例16)を使用したものと比較しても、顕著なものであった。
(3)-3 上記各記載によれば、刊行物1には、研摩布紙(被覆研摩剤ベルト又は被覆研摩剤円板)において、「より優れた砥粒」の相対的に粗い粒子と、「より劣った砥粒」の相対的に小さい粒子とを組み合わせて使用すること、すなわち、優劣のある2種類の砥粒を異なる粒径画分に配分して使用することにより、研摩布紙の研削性能が、両砥粒の混合割合に比例すると仮定した場合の直線的内挿値より優れているだけでなく、いずれの砥粒を単独で100%使用したものの研削性能より、
両砥粒の混合物を使用した研摩布紙の研削性能の方が、より優れているケースがあることの記載があるということができる。
その中には、ゾルゲル法アルミナ砥粒と溶融アルミナ砥粒の混合物を使用することにより、1018鋼等多くの被研削物において相乗効果が達成されることの記載があり、特に、実施例4における1018鋼の30psiでの研削、304ステンレス鋼での30及び75psiでの研削、ワスパロイでの30psiでの研削、インコネルの30及び75psiでの研削、鋳造アルミニウムの75psiでの研削では、ゾルゲル法アルミナ砥粒及び溶融アルミナを併用することにより、いずれの砥粒を単独で100%使用した場合に達成される研削性能を上回る優れた研削効果が達成されるというものである。
したがって、刊行物1には、「2種類の砥粒を混合することによりそれらの砥粒を単独で用いるより優れた研削効果を得る」ものが記載されているということができ、原告の上記(3)-1の主張(イ)は、理由がない。
(3)-4 そして、甲第2号証(本件発明の特許公報)によれば、本件明細書に「ゾルゲル法の砥粒だけを含有してなる研摩布紙材料はアルミナ-ジルコニアの砥粒だけを含有しているものよりも高価であるから、研摩布紙の製造においてこれら二つの砥粒を混合すれば、結果としてゾルゲル法アルミナの砥粒又はアルミナ-ジルコニアの砥粒だけを含有してなる研摩布紙材料よりも費用及び性能の面で有効な研摩布紙材料が得られる。」(公報第18欄20ないし27行)と記載のあることが認められ、この記載に照らせば、本件発明1も、研削性能の向上を達成するだけでなく、砥粒コストを削減するものでもあることが明らかであるから、上記(3)-1の原告の主張(ロ)も理由がない。
(4) 技術分野の相違について (4)-1 原告は、結合砥石車において特定の砥粒が有効であることが知られているとしても、その砥粒が研摩布紙で使用される場合にどのような性能を示すかを予測することはできず、したがって、結合砥石車と研摩布紙は共通の技術分野ではなく、結合砥石車に関する開示に基づいて研摩布紙に関する本件発明が当業者にとって容易に想到されるということはない旨、主張する。
原告の上記主張は、研摩布紙に関する本件発明1が、特定の砥粒の種類に特有の、画分分布ないし粒径画分に依存しない作用効果を達成するものであることを前提とするものであるが、本件請求項1には、使用する2種類の砥粒の画分分布ないし粒径分布についての限定はなく、したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明のように2種類の相対的に粗い砥粒と相対的に細かい砥粒を組み合わせて使用するもの、すなわち2種類の砥粒を異なる粒径画分に配分して使用するものを包含することは、前記「(1) 粒径分布について」の項において判断したとおりである。したがって、原告の主張は前提において既に理由がない。
(4)-2 一方、甲第4号証によれば、審決が認定したように「刊行物2には、焼結ゲル法によるアルミナ砥粒すなわちゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒を10/90から90/10体積%の割合で混合した砥粒を高分子有機樹脂で結合した砥石車は、それぞれの砥粒を単独で用いたものよりある研削条件においてはより高い研削効果をもたらすこと」が記載されているものと認められる。特に、刊行物2の第3欄の TABLE II には、樹脂結合砥石車で1018炭素鋼を研削する場合、
低速研削では、ゾルゲル法アルミナ砥粒の研削特性が優れ、高速研削では、アルミナ-ジルコニア砥粒の研削特性が優れていることが記載されていることが認められる。
この開示は、砥石車ではあるが、ゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒とは、少なくとも1018鋼の低研削速度又は高研削速度での研削では、優劣があることを示すものであるから、この記載に接した当業者は、優劣を示す砥粒の組合せを、刊行物1に示される粒径画分に従って混合して研摩布紙を構成し、1018炭素鋼の研削に用いれば、砥粒の優劣を砥粒の画分区分の分配に基づく相乗効果が得られる可能性があると肯定的に推測するのが自然である。したがって、刊行物2の記載が砥石車であることを理由に、研摩布紙ではそのような構成によって相乗効果が得られる可能性は極めて小さい、あるいは全くないと判断することはないというべきであり、この認定に反する証拠はない。
(4)-3 以上のとおりであって、刊行物1と刊行物2との技術分野の相違についていう原告の主張も理由がない。
(5) 砥粒の混合比率について 原告は、刊行物1の発明が効果を奏する範囲は、5〜30重量%であり、刊行物2の発明で研削性能の効果がある範囲、すなわち、30〜70対70〜30とは混合比率に実質的な重複がないので、当業者は刊行物2と刊行物1の開示を組み合わせることが有効であるとは考えない旨主張する。
なるほど、甲第3号証によれば、刊行物1には、「大抵の目的にとってより優れた研摩粒子は、全鉱物重量の5〜30%(好ましくは10ないし20%)を占めるだろう。より優れた粒子を50%以下加えることは技術的に実施可能であるが、そうするには一般的には費用がかかりすぎる」(3頁右下欄8ないし12行)と記載されていることが認められる。
他方、甲第4号証によれば、刊行物2には、「研削結果は、本発明の最適の結果が30/70〜70/30の体積比の範囲であること、しかし改良した結果は90/10〜10/90の比で達成できるかもしれないことを示す。」(1欄57ないし60行)と記載されていること0が認められる。
刊行物1は重量%、刊行物2は体積比の記載であるが、刊行物1に「AO,CUB・・・の密度は実質的に等しいので重量比と容量比は本質的に等しい。AZはかなり高い密度を有する・・・」(6頁の表Tの説明)と記載されていること(甲第3号証)に照らすと、刊行物1と刊行物2における砥粒の混合比率が重複しているものということができる。
さらに、刊行物1の発明の相乗効果は、原告が主張するとおり、粒径の大きい砥粒が基材上に突出して優先的に被研削材と接触して研削作用を担うことによるものと認められるが、このような効果は、より優れた砥粒の混合割合が30ないし50%の場合にも当然に奏されるものであり、しかも、この場合、残余の70ないし50%は、相対的に劣った(したがって、安価な)砥粒が使用されることとなるから、なお、その割合に比例したコスト削減が可能なことは明らかである。
そうすると、刊行物1の発明は、優れた砥粒を30ないし50%使用する場合を当然に含むものというべきであり、砥粒の混合比率を刊行物1が重量%、刊行物2が体積比で表現していることを考慮しても、刊行物1の発明と刊行物2の発明における砥粒の混合比率は重複することが明らかであるから、この点に関する原告の主張は理由がない。
2 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1における「ゾルゲル法アルミナ砥粒」及び「アルミナ-ジルコニア砥粒」を、それぞれ、「種入りのゾルゲルの組成物」及び「約35〜約50%の酸化ジルコニウムを含む近共融組成物」にそれぞれ限定するものであるが、本件発明2及び3は、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、決定の上記判断を誤りとすることはできない。
3 本件発明4について 本件発明4は、本件発明1の塗装研摩材層を単一層に限定するものであるが、本件発明4は、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、決定の上記判断を誤りとすることはできない。
4 本件発明5について 本件発明5は、本件発明4におけるゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒の配合の体積比を約50/50に限定するものであるが、本件発明5は、
刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、決定の上記判断を誤りとすることはできない。
5 本件発明6について 本件発明6は、本件発明5のゾルゲル法アルミナ砥粒を「種入りのゾルゲルの組成物」に限定するものであるが、本件発明6は、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、決定の上記判断を誤りとすることはできない。
6 本件発明7について (1) 請求項7は請求項6(ゾルゲル法アルミナの砥粒が種入りのゾルゲル組成物の砥粒)を、請求項6は請求項5(ゾルゲル法アルミナの砥粒とアルミナ-ジルコニアの砥粒の混合物における体積比が約50/50)を、請求項5は請求項4(塗装研摩材層が砥粒の単一層)を、請求項4は請求項1をそれぞれ引用しているところ、請求項7は、これらの引用を踏まえて「前記混合物中の前記砥粒の粒度が50グリットである・・・研摩布紙材料」と規定するものであり、請求項1に「・・・少なくとも一つの砥粒層が、・・・ゾルゲル法アルミナの砥粒と・・・アルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物を含んでなる、研摩布紙材料。」と規定され、請求項5に「前記砥粒の層がゾルゲル法アルミナの砥粒とアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物であり、そしてこの混合物における砥粒の体積比が・・・」と規定されているので、請求項7でいう「前記混合物」は、「ゾルゲル法アルミナの砥粒」と「アルミナ-ジルコニアの砥粒」の混合物を指し、したがって、「前記混合物中の前記砥粒の粒度が50グリットである」とは、「ゾルゲル法アルミナの砥粒」及び「アルミナ-ジルコニアの砥粒」の混合物中の両粒度の粒度が、いずれも50グリットであることを意味する。
(2) これに対し、決定は、「本件発明7は本件発明6における砥粒の粒度を50グリットと規定するものである。しかるに、・・・刊行物1には、等級50すなわち粒度50グリットの砥粒を用いることが記載されている(実施例9〜13)。」と認定している。
甲第3号証によれば、確かに、刊行物1の実施例9ないし13には粒度50グリット(等級50)の溶融アルミナ砥粒を使用した研摩布紙が記載されていることが認められるが、本件発明1についての判断の項の(3)-2のDで示したように、これらの実施例では、粒度50グリットの溶融アルミナ砥粒は、いずれも、粒度40(等級40)の砥粒(ゾルゲル法アルミナ砥粒又はアルミナ-ジルコニア砥粒)と組み合わせて使用されているのであって、そこには、砥粒混合物中の両砥粒の粒度が50グリットのものについての記載はない。
したがって、決定の上記認定は、砥粒の粒度を誤ったものである。
(3) 決定は、上記認定に続き、「したがって、刊行物1と刊行物2のものを組み合わせるに当たり、粒度50グリットのものを採用して発明7のようにすることは、当業者ならば容易にすることができたといえる。」と判断している。
しかしながら、刊行物1に記載の発明は、2種類の砥粒を、異なる粒径画分に配分して使用することにより相乗効果を達成する発明であること、この相乗効果は、
「粒径の大きい砥粒が基材上に突出して優先的に被研削材と接触して研削作用を担う」ことによるものであることは前示のとおりであるから、仮に、当業者が、この刊行物1の発明における2種類の砥粒として、刊行物2に記載されているゾルゲル法アルミナ砥粒とアルミナ-ジルコニア砥粒の組合せを採用することを着想し得るものと仮定しても、刊行物1が示すところに従って両砥粒を異なる粒径画分に配分すれば、両砥粒の粒度は当然に異なるものである。したがって、刊行物1の発明と刊行物2の発明を組み合わせても、2種類の砥粒の粒度をいずれも50グリットとするとの本件発明7の構成が得られないことは明らかである。
(4) そうすると、本件発明7は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者に容易に想到することができたものとする根拠を欠いており、決定は、本件発明7の進歩性についての判断を誤ったものであって、本件発明7に関する決定部分は、取り消されるべきである(原告も、この事由による決定の取消しを主張しているものと理解される。)。
7 本件発明8について 本件発明8は、本件発明1の砥粒層を、基礎接着剤層の上に設けられる第一の砥粒層とその上に設けられる第二の砥粒層の2層構成とするとともに、第二の砥粒層の上に上引き接着剤層を設けるものであるが、本件発明8は、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、決定の上記判断を誤りとすることはできない。
8 本件発明9について 本件発明9は、本件発明8の研摩布紙材料に含まれる2層の砥粒層のうちの第一の砥粒層を溶融アルミナの砥粒層に限定するものであるが、本件発明8は、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、決定の上記判断を誤りとすることはできない。
9 本件発明10について (1) 請求項10は、請求項9を、請求項9は請求項8を、請求項8は請求項1を、それぞれ引用し、請求項10は、これらの引用を踏まえて「各層における前記砥粒が36グリットである」ことを規定するところ、請求項8には「前記少なくとも一つの砥粒層が第一の砥粒層及び・・・第二の砥粒層を含み、・・・この第二の砥粒層がゾルゲル法アルミナの砥粒とアルミナ-ジルコニアの砥粒との混合物・・・を含んでなる、請求項1記載の研摩布紙材料。」と規定され、請求項9には「前記第一の砥粒層が溶融アルミナの砥粒層である、請求項8記載の研摩布紙材料。」と規定されているので、本件発明10は、この請求項8の第一及び第二の砥粒層に含まれる「溶融アルミナ砥粒」、「ゾルゲル法アルミナの砥粒」、及び「アルミナ-ジルコニア砥粒」の粒度が、いずれも36グリットであることを意味する。
(2) これに対し決定は、刊行物1には、「(1e):実施例17及び19において、
優れた方の砥粒(CUB)に等級36のものを用いること」が記載されているとの認定を受け、「本件発明10は、本件発明9における各砥粒層が36グリットと限定するものである。しかるに、優れた方の砥粒に36グリットのものを用いることが上記(1e)項の記載事項に見られるように刊行物1に記載されているから、本件発明9における2層の砥粒に36グリットの粒度のものを採用して本件発明10のようにすることは、当業者にとり格別困難なことであるとはいえない。」と判断した。なお、ここの判断における「実施例19」との記載は、刊行物1第9頁右下欄の表Wにおいて、実施例15を実施例19と誤記していることを受けたものであり、正しくは、実施例15を指すものと認められる。
(3) しかしながら、本件発明1についての判断の項の(3)-2のEで示したように、刊行物1の実施例17及び実施例19(正しくは実施例15)を参照しても、
いずれの実施例においても、36グリットの砥粒は40グリットの砥粒を混合して使用されているにすぎないところ、このような、異なる粒度の砥粒の混合使用について記載するにすぎない刊行物1記載の発明と、刊行物2記載の発明を組み合わせても、本件発明7についての項で判断したのと同じ理由により、本件発明10が得ることはできないものというべきである。
(4) そうすると、本件発明10は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものとする根拠を欠いており、決定は、本件発明10の進歩性についての判断を誤ったものであって、
本件発明10に関する決定部分は、取り消されるべきである(原告も、この事由による決定の取消しを主張しているものと理解される。)。
10 本件発明11について 請求項11は独立請求項であるが、本件発明11は、基礎接着剤層及び上引き接着剤層を含まない点においてのみ本件発明1と異なる。
しかして、前記のとおり本件発明1について、刊行物1と刊行物2に記載のものとの関係を判断したところは、基礎接着剤層及び上引き接着剤層の存否により左右されるものではないし、本件発明11は、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、
決定の上記判断を誤りとすることはできない。
11 本件発明12について 本件発明12は、本件発明11の砥粒層に含まれる砥粒の種類について、ゾルゲル法アルミナ砥粒を「種入りのゾルゲル組成物の砥粒」に、アルミナ-ジルコニアの砥粒を「共融組成物を含む組成物の砥粒」にそれぞれ限定するとともに、これら砥粒の体積比を50/50に限定するものであるが、本件発明12は、刊行物1及び2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとの決定の判断に誤りがあるとすべき具体的な主張、立証はなく、その判断に誤りがあるとすべき事実関係も認められないので、決定の上記判断を誤りとすることはできない。
結論
以上のとおり、原告主張の決定取消事由は、本件発明7及び10についての部分は理由があるので、その関係の原告の請求は認容されるべきであるが、その余は理由がなく、棄却されるべきである。
(平成12年10月26日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史