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関連審決 不服2002-4027
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10299号 審決取消請求事件
原告 コニカミノルタホールディングス株式会社
訴訟代理人弁護士 森崎博之,根本浩,安藤誠悟,弁理士 稲葉良幸,大貫敏 史,土屋徹雄
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 関川正志,深沢正志,立川功,大橋信彦,井上信一,井出英一郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/07/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-4027号事件について平成16年3月1日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って表記を変えた部分がある。
本件は,原告が,本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明(甲2〜5) 出願人:コニカ株式会社(コニカミノルタホールディングス株式会社の旧商号) 発明の名称:「IDカード作成・管理システム」 出願番号:特願平4-332859号 出願日:平成4年12月14日 (2) 本件手続 手続補正日:平成13年12月27日(甲3) 拒絶査定日:平成14年2月5日 審判請求日:平成14年3月7日(不服2002-4027号) 手続補正日:平成14年4月8日(甲4) 手続補正日:平成15年12月25日(甲5) 審決日:平成16年3月1日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成16年3月22日(原告に対し) 2 本願発明の要旨(請求項2以下の記載は省略。以下,平成13年12月27日付け,平成14年4月8日付け,平成15年12月25日付け手続補正書により補正の加えられた当初明細書(甲2)を「本願明細書」という。)【請求項1】検索情報に対応付けて旧顔画像情報を記憶している旧顔画像情報記憶手段と, 検索情報に対応付けてID情報を記憶しているID情報記憶手段と, 被撮影者の顔画像を光電的に撮影して顔画像情報を得る顔画像撮影手段と, 検索情報を入力する検索情報入力手段と, 前記検索情報が入力されると顔画像撮影手段により得られた顔画像情報と入力された検索情報とを対とする顔画像データを作成する顔画像データ作成手段と, 前記検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段と, 顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報とID情報読出し手段から読み出されたID情報とを用いてIDカードを作成するIDカード作成手段と, 前記検索情報が入力されると対応する旧顔画像情報を旧顔画像情報記憶手段から読み出す旧顔画像情報読出し手段と, 顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較し比較結果を出力する顔画像情報比較手段と, 顔画像情報比較手段の出力結果に基づき処理を決定する画像処理手段と, を有することを特徴とするIDカード作成・管理システム。
3 審決の要点 (1) 特開平1-116877号公報(以下「引用例1」という。本訴甲6。)に記載された発明(以下,審決の引用部分も含めて「引用発明」という。) 「検索コードに対応付けて更新前の顔画像情報を記憶している光ディスク1と, 検索コードに対応付けて住所,氏名,免許の種類等の関連データを一元的に記憶管理している図示しないメモリと, 申請者の顔画像を光電的に撮影して顔画像情報を得るCCDカメラ13と, 検索コードを入力するキーボード12aまたはOCRスキャナ11と, 検索コードが入力されるとCCDカメラ13により得られた顔画像情報と検索コードとを対とする顔画像データを記憶する光ディスク装置20と, 検索コードが入力されると対応する住所,氏名免許の種類等の関連データを図示しないメモリから読み出す読出し手段と, CCDカメラ13で撮影した顔の画像に対応するカラーの画像信号と,住所,氏名,免許の種類等の関連データとを合成して免許証を作成する合成部30及び電子プリンタ32と, 検索コードが入力されると対応する更新前の顔画像情報を光ディスク1から読み出す手段とを有する個人認証票発行装置であって, 申請書のイメージデータ及び申請書上の免許証番号とが,OCRスキャナ11により読み取られ,読み取られたイメージデータは,一旦磁気ディスク21aに記憶保存され,読み取られ解読された免許証番号は図示しないメモリに記憶され,次にこの免許証番号を検索キーとして光ディスクオートチェンジャ22内の光ディスク1,…から対応する顔写真の画像データが読み出され,伸長処理等が施された後,漢字入力端末機12のCRTディスプレイ12bに表示され,係員は,表示された顔写真と申請者が一致するか否かの照合を行ない,一致しなかった場合,発行処理を行なわず,一致した場合,キーボード12aにより,一致を指示し,該一致の指示により,免許証番号に対応する住所,氏名,免許の種類等の関連データが図示しないメモリから読み出され漢字入力端末機12のCRTディスプレイ12bに表示され,係員は,表示された表示データと申請書の記載内容とが一致するか否かの照合を行ない,一致しなかった場合キーボード12aで修正し一致した場合,キーボード12aにより,免許証の作成を指示し,該免許証作成の指示により,住所,氏名,免許の種類等からなる印刷データ,属性情報発生部31から発生される固定画像パターン,及び係員がCCDカメラで撮影した申請者の顔の画像信号が合成部30へ出力され,合成部30は,免許証記載事項を表す各パターンデータ,及び画像信号とを合成しその合成結果を電子プリンタ32で免許証の用紙上にプリントアウトし,その一方,CCDカメラ13で撮影した顔画像に対応するカラーの画像信号は,圧縮処理がなされた後,光ディスク装置20に供給され,光ディスク装置20は,該免許証の写真部分に対応するカラーの画像信号,磁気ディスク21に記憶されている申請書のイメージデータ,及び図示しないメモリに記憶されている検索コードを,それらのアドレスが互いに対応するように光ディスク1に記憶するようにした個人認証票発行装置。」 (2) 本願発明と引用発明の対比 「本願発明と引用発明とは, 「検索情報に対応付けて旧顔画像情報を記憶している旧顔画像情報記憶手段と, 検索情報に対応付けてID情報を記憶しているID情報記憶手段と, 被撮影者の顔画像を光電的に撮影して顔画像情報を得る顔画像撮影手段と, 検索情報を入力する検索情報入力手段と, 前記検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段と, 顔画像情報とID情報読出し手段から読み出されたID情報とを用いてIDカードを作成するIDカード作成手段と, 前記検索情報が入力されると対応する旧顔画像情報を旧顔画像情報記憶手段から読み出す旧顔画像情報読出し手段とを有し, 申請者の顔又は申請書上の顔写真と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較し,その結果に基づき処理を決定することを特徴とするIDカード作成・管理システム。」 である点において一致し,次の点で相違する。 (相違点) (相違点1) 本願発明は,検索情報が入力されると顔画像撮影手段により得られた顔画像情報と入力された検索情報とを対とする顔画像データを作成する顔画像データ作成手段を有するのに対して,引用発明は,検索コードが入力され免許証が作成された後にCCDカメラ13により得られた顔画像情報と検索コードとを対とする顔画像データを記憶する光ディスク装置20を有する点。 すなわち,本願発明は,検索情報が入力されると顔画像データを作成しているのに対して,引用発明は,検索コードが入力され免許証が作成された後に,顔画像データを光ディスク装置20に記憶している点。 (相違点2) 本願発明は,顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報とID情報読出し手段から読み出されたID情報とを用いてIDカードを作成しているのに対し,引用発明は,CCDカメラ13からの顔画像情報と図示せぬメモリから読み出された住所,氏名,免許の種類等のデータとを用いて免許証を作成している点。 (相違点3) 本願発明が,顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較し比較結果を出力する顔画像情報比較手段を有しているのに対して,引用発明は,申請者の顔又は申請書上の顔写真と顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを係員が比較しその比較結果を係員がキーボードを操作することにより出力している点。」 (3) 相違点についての判断 「(相違点1について) 本願発明と引用発明とは共に顔画像撮影手段(CCDカメラ13)により得られた顔画像情報と入力された検索情報(検索コード)とを対とする顔画像データを作成(記憶)するという点では軌を一にしており,顔画像データの作成をどの時点とするかは,当業者の設計事項上の問題にすぎない。したがって,それを検索情報が入力された時点とするか,または検索コードが入力され免許証が作成された後とするかは,必要に応じて当業者が適宜なし得ることである。
(相違点2について) 本願発明がIDカード作成のために用いる顔画像情報と引用発明が個人認証票(免許証)作成のために用いる顔画像情報とは,もとをただせば顔画像撮影手段(CCDカメラ13に相当)から得られたものである。このことに鑑みれば,顔画像情報をCCDカメラ13から得るようにするか,又は顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報から得るようにするかは当業者が適宜なし得ることである。 (相違点3について) 2つの顔画像情報,すなわち旧顔画像情報と新顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較して比較結果を出力することは,例えば,当審が拒絶の理由に引用した 特開平02-27484号公報(特に,3頁右上欄7〜17行,4頁左上欄2行〜左下欄3行参照。) 特開平02-187866号公報(特に第6図及び関連説明参照。) 特開昭62-222364号公報(特に,オペレータと機械による二重チェックのうち機械照合回路17により機械的に照合する点。特許請求の範囲第5項,3頁左上欄8行〜同頁右上欄6行参照。) にその旨の記載のあるとおり,当業者には,周知慣用されている技術事項である。そして,この周知技術事項,すなわち2つの顔画像情報を自動的かつ機械的に比較して比較結果を出力する技術事項を引用発明の係員による比較に代え本願発明のごとく構成することは,当業者が適宜なし得ることである。 なお,本件審判請求人は,当審の拒絶の理由の通知に対する意見書において,明細書の段落番号【0017】〜【0019】及び【0030】に記載されている事項を根拠にして,「検索情報の入力をトリガとして,検索情報+撮影顔画像情報のデータの生成とID情報記憶手段からのID情報の読出しとを独立並行的に行う。」ことは,引用例1には記載されておらずかつ当業者が容易に発明することができる事項でもない旨主張する。 しかるに,明細書の段落番号【0017】〜【0019】及び【0030】の記載をみても,「検索情報の入力をトリガとして,検索情報+撮影顔画像情報のデータの生成とID情報記憶手段からのID情報と読出し動作とを独立並行して行う。」との明記がない。そして特許請求の範囲にも「検索情報の入力をトリガとして,検索情報+撮影顔画像情報のデータの生成とID情報記憶手段からのID情報の読出しとを独立並行的に行う。」とは記載されていない。 したがって,本件審判請求人の主張は明細書及び特許請求の範囲の記載に基づかぬ根拠のない主張であり,妥当であるとはいえないものである。」 (4) 結論 「以上のとおり,本願発明は,引用例1及び周知技術とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」
原告の主張の要点
審決は,引用発明と本願発明の一致点の認定を誤るとともに相違点を看過し(取消事由1),相違点1の認定判断を誤り(取消事由2),相違点2及び3の判断を誤り(取消事由3及び4),その結果として本願発明の進歩性を誤認したものであるから違法であり,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過) (1) 審決は,本願発明と引用発明とは,「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」を備えている点で一致すると認定している。
しかしながら,「検索情報が入力されると」との文言は,検索情報の入力後,本人照合を介することなく次の処理が行われることを意味すると解すべきである。本願発明では,検索情報が入力されると対応するID情報がID情報記憶手段から読み出されるのに対し,引用発明では,「ID情報読出し手段」に相当する「システムコントローラ18」に検索情報が入力されると,係員が顔写真と申請者が一致するかの照合を行い,一致の指示がなされた後にようやくID情報の読出しが行われるのであるから,「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出す」ものということはできない。なお,被告は,引用発明の「ホストCPU23」が「ID情報読出し手段」に相当すると主張するが,「ホストCPU23」は「システムコントローラ18」の指示に従って作動するにすぎないのであるから,「ID情報読出し手段」に相当するのは「システムコントローラ18」であると解すべきである。
(2) 審決は,本願発明と引用発明とは,「申請者の顔又は申請書上の顔写真と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較」するものである点で一致すると認定している。
しかしながら,本願発明では,「顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報」と旧顔画像情報読出し手段により読み出された「旧顔画像情報」とを比較するのであるから,審決の上記認定は誤っている。
(3) 本願発明と引用発明とは,「本願発明では,ID情報の読出しとは独立並行して,検索情報と撮影された顔画像とを対応づけて顔画像データを作成し,その顔画像データ中の顔画像を用いて旧顔画像情報との照合及びIDカードの作成を行うという2工程でシステムが動作しているのに対して,引用発明では,顔画像データを作成する前に,係員による照合,ID情報の読出し,免許証の作成を順を追って行っている点」で本質的に相違しているが,審決は,この相違点を看過している。
引用発明に本願発明のような自動照合技術を組み合わせても,撮影により得られた顔画像を直接用いて自動照合し,ID情報の読出し,免許証の作成を順を追って行う構成となるにすぎない。
被告は,本願発明の特許請求の範囲及び明細書には,検索情報及び撮影顔画像情報のデータの生成とID情報記憶手段からのID情報の読出しとが互いを拘束することなく独立並行的に動作しているとの記載はないと主張する。しかしながら,原告の主張は,本願発明の特許請求の範囲,本願明細書の段落【0018】〜【0021】,第6図に基づくものである。
上記のとおり,本願発明は,ID情報の読出しと顔画像データの作成を独立並行的に行っているため,ID情報や旧顔画像の読出しが故障等で実行できない場合でも,顔画像データの作成を継続することができるという利点がある。これに対し,引用発明は,一連の処理(検索コードの入力,係員による照合,ID情報の読出し,撮影,免許証の作成)の実行を順を追って行うことを前提としたシステムであり,処理の対象者は常に一人であるため,免許証作成前において検索コードと顔画像を対応付ける必要がない。そのため,検索コードと顔画像を対応付けた顔画像データの作成を免許証の作成工程に先行して行うという技術思想は生じ得ない。
上記相違点は,当業者が容易に発明することができたものとはいえず,同相違点を看過した審決の誤りは結論に影響を及ぼすものである。
2 取消事由2(相違点1の認定判断の誤り) (1) 審決は,相違点1を「本願発明は,検索情報が入力されると顔画像データを作成しているのに対して,引用発明は,検索コードが入力され免許証が作成された後に,顔画像データを光ディスク装置20に記憶している点。」と認定したが,引用発明における顔画像データの作成は,検索コードを入力されてから,顔画像の照合,ID情報の読出し等の処理を順次経て行われるのであって,「免許証が作成された後に,顔画像データを光ディスク装置20に記憶している」との審決の認定は誤りである。
(2) 仮に,審決の相違点1の認定に誤りがないとしても,審決の相違点1に関する判断は誤りである。
すなわち,前記のとおり,本願発明では,検索情報が入力されてから顔画像データが作成されるまでの間にID情報の読出し等の他の処理が介在していないため,故障によりID情報が読み出せなくなった場合でも,顔画像の撮影は継続することができる。これにより,免許証の更新に来ている人の顔画像の撮影及び顔画像データの作成のみは終了させることができ,利用者にとって極めて利便性の高いシステムを実現することができる。これに対し,引用発明では,ID情報の読出しが,検索コードの入力と顔画像の撮影/顔画像データの作成との間に介在しているので,ID情報の読出しができなくなると,利用者は,ID情報の読出し処理の修復を待つか,再度撮影のために出直さなければならない。
このように,本願発明と引用発明とは,検索情報が入力されてから顔画像データが作成されるまでの間にID情報の読出し等の処理が介在しているかどうかで異なり,それにより利用者の負担が大きく異なるのであるから,仮に審決の相違点1の認定に誤りがないとしても,同相違点に係る構成が単なる設計事項とはいえない。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り) 審決が相違点2として認定しているとおり,引用発明と本願発明とでは,顔画像情報をCCDカメラ13から得るか,又は顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報から得るかという点で相違している。
引用発明では,検索コードの入力,顔画像の照合,ID情報の読出し,顔画像の撮影,ID情報と顔画像との合成,免許証の印刷等の各処理を一人ずつ順を追って処理するので,ID情報との合成時に利用する顔画像は一つであり,撮影した顔画像に検索コードを付与して他の顔画像と区別する必要はない。したがって,引用発明では,顔画像の撮影から免許証作成までの間に顔画像データの作成を行う動機付けが全く存在しない。また,CCDカメラ13で撮影した顔画像情報を使用する引用発明においては,例えば免許証作成に必要な住所等のデータが取得できないといったトラブルが生じた場合,免許証の作成ができないのみならず,撮影自体もその時点で中止せざるを得ないので,カード作成処理の効率が極度に低下してしまう。
これに対し,本願発明では,撮影で得られた顔画像情報を直接用いてIDカードを作成するのではなく,撮影して顔画像データを作成する工程と,顔画像データ中の顔画像情報を読出してIDカードの顔画像を作成する工程との2工程から構成されるので,IDカード作成工程に先行して,顔画像データ作成工程だけを繰り返し実行することが可能である。そのため,本願発明では,IDカード作成に必要な住所等のデータが取得できないといったトラブルが生じた場合,IDカードの作成はできないとしても,撮影を継続して顔画像データを作成し続けることが可能であり,カード作成処理の効率は著しく向上する。
このように,本願発明と引用発明では,相違点2の存在によりカード作成処理の効率が大きく異なってくるのであるから,本願発明の相違点2に係る構成は,引用発明に基づき容易に想到し得たものではない。
4 取消事由4(相違点3の判断の誤り) 審決が,相違点3として認定しているように,引用発明では,申請者の顔又は申請書上の顔写真と旧顔画像情報とを係員が比較するのに対し,本願発明では,顔画像データに含まれる顔画像情報と旧顔画像情報とを比較している。
仮に,審決がいうように,本願発明のような自動的かつ機械的な照合方法を引用発明に適用したとしても,CCDカメラ13により申請者の顔を撮影して得られた顔画像情報と光ディスク1から読み出された旧顔画像情報とを自動照合する構成が想到されるにすぎず,かかる構成が本願発明の構成と全く異なっていることは明白である。
前記のとおり,本願発明は,故障により旧顔画像情報が読み出せなくなった場合でも,顔画像の撮影は継続させることが可能であり,引用発明に比べて顔画像の比較処理を含むIDカード作成処理の効率を大きく向上させることができるという極めて大きな効果を有する。
したがって,本願発明における顔画像データ中の顔画像情報と旧顔画像情報とを比較する構成は,当業者が容易に想到し得るものではない。
被告の主張の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張は全て失当であるから,審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)に対して (1) 原告は,審決が「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」を一致点と認定したことが誤りであると主張するが,本願発明の「ID情報読出し手段」に相当する引用発明の「ホストCPU23」は,システムコントローラ18から免許証番号(「検索情報」に相当)が入力されると,これに対応する住所,氏名,免許の種類等の関連データ(「ID情報」に相当)を図示しないメモリ(「ID情報記憶手段」に相当)から読み出すものである。したがって,引用発明は「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」を備えているということができる。
(2) 原告は,審決が「申請者の顔又は申請書上の顔写真と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較」するものであることを一致点と認定したことが誤りであると主張するが,本願発明において旧顔画像情報と比較する対象である「顔面像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報」は,現在の「申請者の顔」に相当するものにほかならない。その上で,審決は,引用発明において旧顔画像情報と比較される対象は,申請者の顔又は申請書上の顔写真であり,顔画像撮影手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像方法ではないことを相違点3として認定しているのである。したがって,審決の一致点の認定に誤りがあるとはいえない。
(3) 原告は,審決が,本願発明と引用発明の相違点を看過したと主張する。
しかしながら,本願発明の特許請求の範囲及び明細書には,検索情報が入力されてから顔画像データが作成されるまでの間に,ID情報の読出しなどの処理が介在しない旨の記載は存在しない。本願発明の特許請求の範囲請求項1には,「前記検索情報が入力されると…顔画像データを作成する」との構成,及び「前記検索情報が入力されると…ID情報を…読み出す」との構成が互いの関係を規定せずに記載されているにすぎないのであって,これによれば,本願発明には,例えば顔画像データの作成とID情報の読出しとが順を追って行われる場合も含まれることは明らかであり,独立並行的に動作する場合のみに限定されるとは到底いえない。したがって,原告の主張は失当である。 2 取消事由2(相違点1の認定判断の誤り)に対して 原告は,相違点1に関して,審決が「免許証が作成された後に,顔画像データを光ディスク装置20に記憶している」と認定したのは,誤っていると主張する。
しかしながら,引用例1には,免許を作成することが記載されている段落の後に,CCDカメラで撮影した顔の画像に対応するカラーの画像信号が検索コードと対応して光ディスクに記憶することが記載されているから,光ディスク装置20が顔画像データを記憶するタイミングは,「免許証が作成された後に」行われると解釈することが可能である。したがって,審決の相違点1に関する認定に誤りはない。
また,原告は,仮に,審決の相違点1に関する認定を前提としても,本願発明と引用発明とは,検索情報の入力から顔画像データの作成までの間にID情報の読出し等の処理が介在しているか否かにおいて相違し,これにより利用者の負担が大きく異なるのであるから,相違点1に係る構成は単なる設計事項とはいえないと主張する。
しかしながら,本願発明の特許請求の範囲及び明細書には,検索情報を入力するとID情報の読出し等を介することなく顔画像データが作成される旨の記載はない。また,原告は,故障によりID情報が読み出せなくなった場合の効果について主張するが,そのような効果も特許請求の範囲及び明細書には記載されていない。
他方,引用発明においても,免許証の作成処理と光ディスク装置20などによる顔画像データの作成処理とは同時並行的に行われ得るものであり,ID情報の読出しができなくなったとしても,顔画像の撮影及び顔画像データの作成を継続することは可能である。また,カメラで撮った画像を記憶装置に記憶させることは日常的に行われていることを考えれば,ID情報の読出し装置等に故障が生じた場合に顔画像の撮影及び顔画像データの作成を行っておくことは,当業者であれば当然に思いつくことである。
したがって,原告の主張には理由がなく,顔画像データの作成時期を,本願発明のように検索情報が入力された時点とするか,引用発明のように免許証が作成された後にするかは,必要に応じて当業者が適宜なし得ることである。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)に対して 審決は,相違点2について,顔画像情報をCCDカメラ13から得るようにするか,顔画像データに含まれる顔画像情報から得るようにするかは,当業者が適宜なし得ることであると判断したが,この判断に誤りはない。
原告は,引用発明は各処理を一人ずつ順を追って処理するので免許証作成処理の効率が極度に低下するなどと主張するが,前記のとおり,引用発明においては,免許証の作成処理と光ディスク装置20等による顔画像データの作成処理とは同時並行的に別個に行い得るのであり,カメラの画像データを記憶装置に記憶させることも周知の技術事項であるから,引用発明の免許証作成処理の効率が本願発明より格段に低いとはいえない。
4 取消事由4(相違点3の判断の誤り)に対して 審決は,相違点3について,旧顔画像情報と新顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較して比較結果を出力することは周知の技術であり,このような技術事項を引用発明に適用して本願発明のように構成することは当業者が適宜なし得ると判断したが,この判断に誤りはない。
原告は,本願発明は引用発明とはIDカード作成処理の効率が大きく異なると主張するが,前記のとおり,引用発明においては,免許証の作成処理と光ディスク装置20等による顔画像データの作成処理とは同時並行的に別個に行われ得るものであり,ID情報や旧顔画像情報が読み出せなくなったとしても,顔画像の撮影及び顔画像データの作成の継続は可能であるから,IDカード作成処理の効率が本願発明に比べて大きく異なるとはいえない。
また,引用発明では,顔の照合後に,CCDカメラ13によって撮影して現在の顔画像情報を得るようにしているが,引用発明において顔の照合を自動的かつ機械的に比較して行う構成を採用した場合には,顔の照合前に顔画像撮像手段によって撮像して,現在の顔画像情報を得ることとなるのは自明である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り,相違点の看過)について (1) 原告は,引用発明が「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」を備えていないにもかかわらず,これを一致点と認定したのは誤りであると主張する。
ア しかしながら,引用例1には,「システムコントローラ18は,関連データの要求信号と免許証番号とをホストCPU23に出力する。これにより,ホストCPU23は,免許証番号に対応する関連データ,例えば住所,氏名,免許の種類等を図示しないメモリから読み出し,システムコントローラ18に出力する。」(4頁左下7行〜13行)との記載がある。引用発明の「免許証番号」は「検索情報」に,「関連データ」は「ID情報」に,「図示しないメモリ」は「ID情報記憶手段」に,「ホストCPU23」は「ID情報読出し手段」にそれぞれ相当すると認めることができるので,引用発明は,検索情報(免許証番号)が入力されると,対応するID情報(関連データ)をID情報記憶手段(図示しないメモリ)から読み出すID情報読出し手段(ホストCPU23)を備えているということができる。
この点,原告は,引用発明において「ID情報読出し手段」に相当するのは,「ホストCPU23」ではなく「システムコントローラ18」であると主張するが,引用例1の「ホストCPU23は,免許証番号に対応する関連データ,例えば住所,氏名,免許の種類等を図示しないメモリから読み出し,」(4頁左下10行〜12行)との記載によれば,「ID情報読出し手段」に相当するのは「ホストCPU23」であるというべきである。
イ 原告は,「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」の「検索情報が入力されると」とは,「検索情報が入力されると本人照合を介することなく」との意味であると理解した上で,引用発明においては,検索情報の入力とID情報の読出しの間に本人照合を介しているから,上記一致点に係る構成を備えていないと主張する。
しかしながら,「検索情報が入力されると」とは,その文言の通常の意味に照らしても,「検索情報が入力された後に」との意味にすぎないというべきであり,本願発明の請求項1にも「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」と記載されているにすぎないのであるから,上記「検索情報が入力されると」との文言について「本人照会を介することなく」との限定を加えるべき理由はない。したがって,検索情報の入力とID情報の読出しとの間に他の処理が行われた場合であっても,「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」を備えていると認定することは妨げられないというべきであり,原告の主張は失当である。
ウ また,仮に原告の主張するとおり,「検索情報が入力されると」との文言は,「本人照会を介することなく」との意味を含むと解したとしても,引用例1の「係員は…顔写真と申請者が一致するかの照合を行う。この照合により…一致した場合…一致を指示する。この一致の指示は,システムコントローラ18に供給される。すると,システムコントローラ18は,…免許証番号とをホストCPU23に出力する。」(4頁左下1行〜左下9行)との記載によれば,引用発明において,本人照合が行われるのは,ホストCPU23に免許証番号が入力される前であると認められ,検索情報の入力とID情報読出しの間に本人照合が行われるとはいえない。したがって,引用発明が「検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段」を備えていることに変わりはないというべきである。
エ したがって,取消事由1(1)は理由がない。
(2) 原告は,本願発明は「申請者の顔又は申請書上の顔写真と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較」するものではないから,これを一致点とする審決の認定は誤りであると主張する。
確かに,本願発明の請求項1には,「顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較し」と記載されているのであるから,本願発明において旧顔画像情報と比較されるのは,「申請者の顔又は申請書上の顔写真」そのものではなく,申請者を撮影することにより得られた「顔画像情報」であると認められる。したがって,審決が「申請者の顔又は申請書上の顔写真」と旧顔画像情報を比較する点で本願発明と引用発明が一致すると説示した部分は,この限りで正確性を欠くものである。
しかしながら,審決は,「本願発明が,顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報と・・・旧顔画像情報とを比較し・・・ているのに対して,引用発明は,申請者の顔又は申請書上の顔写真と・・・旧顔画像情報とを係員が比較し・・・ている点。」を相違点3と認定し,同相違点について判断を行っているのであるから,審決が上記説示部分に正確性を欠く点のあることは,結論に影響を及ぼすものではない。
したがって,取消事由1(2)は理由がない。
(3) 原告は,本願発明では,ID情報の読出しとは独立並行して,検索情報と撮影された顔画像とを対応付けて顔画像データを作成しているのに対し,引用発明では,顔画像データを作成する前に,係員による照合,ID情報の読出し,免許証の作成を順を追って行っている点で本質的に相違するにもかかわらず,審決はその相違点を看過しており,また,同相違点に係る構成は容易に想到し得るものではないと主張する。
ア まず,相違点の看過の主張について,検討する。
(ア) 本願発明の請求項1のうち,ID情報の読出しと顔画像データの作成に関する部分を改めて摘示すると,以下のとおりである。
「前記検索情報が入力されると顔画像撮影手段により得られた顔画像情報と入力された検索情報とを対とする顔画像データを作成する顔画像データ作成手段と, 前記検索情報が入力されると対応するID情報をID情報記憶手段から読み出すID情報読出し手段と, 顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報とID情報読出し手段から読み出されたID情報とを用いてIDカードを作成するIDカード作成手段と, 前記検索情報が入力されると対応する旧顔画像情報を旧顔画像情報記憶手段から読み出す旧顔画像情報読出し手段と, 顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報と旧顔画像情報読出し手段により読み出された旧顔画像情報とを比較し比較結果を出力する顔画像情報比較手段と, 顔画像情報比較手段の出力結果に基づき処理を決定する画像処理手段と, を有することを特徴とするIDカード作成・管理システム。」 以上の記載によれば,本願発明の特許請求の範囲の記載はその技術的意義を一義的に明確に理解するに十分であるということができるところ,本願発明における各処理手段の順序については,本願発明の特許請求の範囲の記載上何ら限定されていないことが明らかである。もとより,上記記載を総合すれば,顔画像データの作成は,検索情報の入力及び顔画像撮影の後,顔画像情報の比較までの時期に行われ,ID情報の読出しは,検索情報の入力後,IDカード作成までに行われるということはできる。しかしながら,顔画像データ作成とID情報読出しの先後関係については何ら限定されていないのであって,本願発明には,両処理を独立並行して行う場合のみならず,いずれかの処理を先にして順を追って処理を行う場合も含まれるというべきである。したがって,本願発明における顔画像データ作成とID情報読出しは独立並行して行われるものであるとの原告主張は,特許請求の範囲に記載のない限定を加えるものであり,失当である。
(イ) 他方,引用例1には,以下の記載がある。
「ホストCPU23は,免許証番号に対応する関連データ,例えば住所,氏名,免許の種類等を図示しないメモリから読み出し,システムコントローラ18に出力する。・・・ ・・・これにより,係員は,CRTディスプレイ12bで表示される表示データと申請書の記載内容が一致するかの照合を行う。すなわち,住所,氏名,免許の種類等の照合を行う。・・・一致した場合,キーボード12aにより,免許証の作成を指示する。
この免許証の作成の指示は,システムコントローラ18に供給される。すると,システムコントローラ18は,上記関連データ(修正済み)に対応する文字パターン等を用いて免許データつまり住所,氏名,免許の種類等からなる印刷データを作成し,合成部30に出力する。
・・・ また,係員は上記申請者の顔の部分をCCDカメラ13で撮影する。すると,CCDカメラ13はその撮影した顔の画像に対応するカラーの画像信号を合成部30へ出力する。」(4頁左下10行〜右下15行) 上記記載によれば,引用発明では,ホストCPUにより読み出され,システムコントローラ18に出力されたID情報は,必要な修正を加えられた後に合成部30に出力される一方,撮影手段によって申請者の顔の撮影が行われ,その画像データも合成部30に出力されるのであり,ID情報の読出しとCCDカメラによる申請者の顔の撮影は,必ずしも順を追って行わなければならないものではなく,独立並行的に行うこともできると認められる。そうすると,引用発明では,ID情報の読出し,顔画像データの作成が順を追って行われるとの原告主張も採用の限りではない。
(ウ) 以上によれば,本願発明と引用発明は,いずれも,ID情報の読出しと顔画像データの作成を独立並行的に行うこともできれば,順を追って行うこともできる構成となっており,原告の主張するような相違点は存在しないというべきである。
イ 原告は,審決が看過した相違点は,当業者が容易に想到し得るものではないのであるから,上記相違点の看過は結論に影響を及ぼすものであると主張する。
その理由として,原告は,本願発明は,ID情報の読出しを介さずに独立並行的に顔画像データを作成しているため,ID情報の読出しが故障等で実行できない場合でも,顔画像データの作成を継続して実行できるのに対し,引用発明では,一連の処理を順を追って行うことを前提としたシステムであるため,本願発明は事務処理の効率において引用発明より格段に優れている点を挙げる。
しかしながら,そもそも,故障の場合にどのような措置をとるかは,当業者がその状況に応じて対処すべき設計事項であり,本願明細書にも,本願発明の効果について,「以上説明したように本発明にかかるIDカード作成・管理システムによると,顔写真入りのIDカードを作成する場合に,顔画像情報とその他のID情報とを確実に対応付けることができ,しかも,撮影した被撮影者が本人であるか否かの判定手段を備えることで,別人を撮影した結果が利用されることを回避できるという効果がある。」(段落【0046】)と記載されているにすぎず,ID情報の読出しが故障で実行できない場合に顔画像データの作成を継続できることが本願発明の効果である旨の記載は何ら存在しない。
また,引用発明において,ID情報や旧画像の読出しができなくなった場合でも,CCDカメラによる申請者の撮影及び顔画像データの作成を行うことが妨げられるものではなく,カメラで撮った画像を記憶装置を用いて記憶させることは日常的に行われていることであるから,状況に応じて,申請者の顔の撮影及び顔画像データの作成を継続し,同データを検索情報と対にして保存しておくことは,当業者であれば容易になし得るというべきである。したがって,故障によりID情報の読出しができなくなった場合に本願発明と引用発明の事務処理の効率が異なるとする原告の主張も理由がない。
結局のところ,顔画像データ作成とID情報読出しを独立並行して行う構成とするか,順を追って行う構成とするかは,当業者が自由に設計し得る事項にすぎず,原告の主張するような相違点が存在したとしても,それは当業者が容易に想到し得るものであるというべきである。
ウ したがって,取消事由1(3)も理由がない。
2 取消事由2(相違点1の認定判断の誤り)について (1) 原告は,審決が相違点1において「引用発明は,検索コードが入力され免許証が作成された後に,顔画像データを光ディスク装置20に記憶している」と認定したのは誤りであると主張する。
そこで,引用例1における免許証作成と顔画像データの記憶の時期的な関係を検討するに,引用例1には,以下の記載がある。
「係員は上記申請者の顔の部分をCCDカメラ13で撮影する。すると,CCDカメラ13はその撮影した顔の画像に対応するカラーの画像信号を合成部30へ出力する。これにより合成部30は免許証記載事項としての上記各パターンデータ,及び画像信号を対応する位置に合成し,この合成した結果を電子プリンタ32で免許証の用紙上にプリントアウトする。このプリントアウトした免許証をシール処理した後,申請者に渡される。
また,上記CCDカメラ13で撮影した顔の画像に対応するカラーの画像信号は,…システムコントローラ18を介して光ディスク装置20に供給される。
これにより,光ディスク装置20で免許証の写真部分に対応する画像信号が光ディスク1に記憶される。」(4頁右下欄12行〜5頁左上欄10行) 上記記載によれば,引用発明では,申請者の顔の画像に対応する画像信号が合成部30に出力され,免許証の用紙上にプリントアウトされるとともに,システムコントローラ18を介して光ディスク装置20に供給され,検索コードと対応する形で光ディスク1に記憶されるものと認められ,顔画像データの作成は,「免許証が作成された後」に限られるわけではないが,「免許証が作成された後」の時点も当然含むものであるということができる。そうすると,審決が引用発明における顔画像データの作成時点につき「免許証が作成された後」に限定して相違点1の認定を行っても,誤りとはいえない。
この点,原告は,引用発明における顔画像データの作成は,検索コードが入力されてから,顔画像の照合,ID情報の読出し等の処理を順次経て行われるのであって,審決は,顔画像データの作成される時期を正確に認定していないと主張する。
しかしながら,審決は,本願発明と引用発明の顔画像データ作成の時期が異なることに着目して相違点1を認定し,引用発明における顔画像影像作成の時期を免許証作成よりも後であると認定しているのであるから,それより前の段階の処理が順次行われていたかどうかは相違点1の認定とは関係がないというべきである。したがって,相違点1の認定の誤りをいう原告の主張には理由がない。
(2) 原告は,仮に審決の相違点1の認定に誤りがないとしても,その進歩性を否定した判断には誤りがあると主張する。
そもそも,引用発明における顔画像データの作成時期が本願発明より後であるのは,本願発明では,申請者の顔を撮影した顔画像情報を検索情報と対にして顔画像データとし,旧顔画像情報との対比照合を自動的かつ機械的な方法により行うのに対し,引用発明では顔画像比較を係員が申請者の顔又は申請書の写真で行うためであると考えられる。
ところで,旧顔画像情報と新たに撮影された顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較して比較結果を出力すること自体は周知技術であり,また,撮影された顔画像情報を検索情報と関連付けして顔画像データとすることも,引用発明でも採用されている周知の技術事項である。そうすると,比較を行う前に顔画像撮影手段により得られた顔画像情報と当該検索情報を対にして顔画像データを作成した上で,旧顔画像情報と当該顔画像データに含まれる顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較する構成を採用することは,当業者であれば容易に想到し得るというべきである。そして,このように旧顔画像情報と当該顔画像データに含まれる顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較する構成を採用する場合には,比較を行う前に顔画像撮影手段により得られた顔画像情報と当該検索情報を対にして顔画像データを作成しておく必要があるから,「検索情報が入力されると顔画像データを作成」する構成となることは自明である。
これに対し,原告は,引用発明では,検索情報が入力されてから顔画像データが作成されるまでの間にID情報の読出し等の他の処理が介在しているため,故障によりID情報が読み出せなくなった場合には,顔画像の撮影を行うことができなくなり,本願発明と比較して,利便性において劣ると主張する。しかしながら,原告の同主張が理由がないことは,前記判示のとおりである。
以上によれば,本願発明の相違点1に係る「検索情報が入力されると顔画像データを作成している」構成は,引用例1及び周知技術に基づき,当業者であれば容易に想到し得るものであるということができる。
(3) したがって,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点2の判断の誤り)について 原告は,相違点2に関し,審決が,免許証作成に用いる顔画像情報をCCDカメラ13から得るようにするか,又は顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報から得るようにするかは当業者が適宜なし得ると判断したのは,誤りであると主張する。
しかしながら,本願発明の「顔画像情報」も「顔画像撮影手段により得られた」ものであるから,撮影手段によって得られた顔画像情報である点では何ら変わりないというべきであり,IDカードを作成するに当たり,顔画像データ作成手段により作成された顔画像データに含まれる顔画像情報を用いるか,CCDカメラ13からの顔画像情報を用いるかは,当業者が適宜なし得ることであるというべきである。
原告は,免許証作成に必要なID情報が取得できないといった故障が生じた場合,本願発明では顔画像データ作成工程だけを繰り返し実行することが可能なので,事務処理効率において引用発明より優れているなどと主張するが,原告の主張が失当であることは前記判示のとおりである。
したがって,取消事由3は理由がない。
4 取消事由4(相違点3の判断の誤り)について 審決は,引用発明では,申請者の顔又は申請書上の顔写真と旧顔画像情報とを係員が比較するのに対し,本願発明では,顔画像データを用いて比較を行っている点を相違点3として認定した上で,旧顔画像情報と新顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較して比較結果を出力することは,周知技術であり,この周知技術を引用発明の係員による比較に代え本願発明のごとく構成することは,当業者が適宜なし得ることであると判断した。
これに対し,原告は,仮に,引用発明の照合方法を本願発明のような照合方法に代えたとしても,CCDカメラ13により申請者の顔を撮影して得られた顔画像情報と旧顔画像情報とを自動照合する構成が想到されるにすぎないのであるから,相違点3に係る構成は,容易に想到し得るものではないと主張する。 しかしながら,前記判示のとおり,旧顔画像情報と新たに撮影された顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較して比較結果を出力すること自体は周知技術であり,また,カメラで撮影された静止画である顔画像データを記憶し,撮影された顔画像と参照用の顔画像について検索情報との関連付けを行うことも当業者が普通に採用する技術常識である。そうすると,本願発明の構成を引用発明に適用し,検索情報が入力されると顔画像撮影手段により得られた顔画像情報と検索情報とを対とする顔画像データを作成し,旧顔画像情報と新たに撮影した顔画像情報とを自動的かつ機械的に比較して比較結果を出力する構成とすることは,当業者が容易に想到し得るものであるということができる。
原告は,故障により旧顔画像情報やID情報が読み出せなくなった場合,本願発明では顔画像の撮影は継続させることが可能であるのに対し,引用発明では故障が修復するまで免許証作成の全処理が停止してしまうなどと主張するが,原告の同主張に理由がないことは,前記判示のとおりである。
したがって,取消事由4は理由がない。
5 結論 以上のとおり,原告の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文