関連審決 | 審判1998-35554 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 着想 / 参酌 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
86号
審決取消請求事件
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原告 日高株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁護士 滝澤功治 同 羽田由可 同 弁理士 鳥巣実 被告 河淳株式会社代表者代表取締役 【B】 訴訟代理人弁理士 赤塚賢次 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/12/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成10年審判第35554号事件について平成12年1月7日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「ストックカート」とする特許第2724665号発明(平成5年6月29日出願、平成9年12月5日設定登録)の特許権者である。 原告は、平成10年11月10日、被告を被請求人として、上記特許の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本件発明」という。)につき特許無効の審判の請求をし、平成10年審判第35554号事件として特許庁に係属したところ、被告は、平成11年9月24日、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、その請求に係る訂正を「本件訂正」という。)をした。 特許庁は、上記無効審判事件につき審理した上、平成12年1月7日に「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年2月16日原告に送達された。 2 特許請求の範囲の請求項1の記載 (1) 設定登録時の明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載 ネスティング可能な台車と、この台車の先端部に着脱可能に取付けられた可動棚枠と、前記台車の後端部に固定された固定棚枠と、この固定棚枠の棚板支持バーと前記可動棚枠の棚板支持バーに両端部の係止片が係止されるかあるいは前記固定棚枠の外側フレームと前記可動棚枠の外側フレームとに両端部の係止片が係止される棚板あるいは荷崩れ防止の側枠として使用することができる棚板部材とからなることを特徴とするストックカート。 (2) 本件訂正に係る訂正明細書(以下単に「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載 ネスティング可能な台車と、この台車の先端部に着脱可能に取付けられた可動棚枠と、前記台車の後端部に固定された固定棚枠と、この固定棚枠の棚板支持バーと前記可動棚枠の棚板支持バーに両端部のフック状の係止片が係止され棚板として使用することができ、且つ、前記固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとに前記両端部のフック状の係止片が係止されるとともに、前記固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バーとに前記両端部のフック状の係止片が載置され荷崩れ防止の側枠として使用することができる棚板部材とからなることを特徴とするストックカート。 (以下、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る本件発明を「本件訂正発明」という。) 3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、@訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載が、特許法36条5項1号及び2号(特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則6条2項の規定によりなお従前の例によるとされる特許出願について適用される同法による改正前の特許法36条5項1号及び2号の趣旨と解される。以下「特許法旧36条5項1号及び2号」という。)に規定する要件を満たしておらず、また、A本件訂正発明が、実願平2-101500号(実開平4-58477号)のマイクロフィルム(審判、本訴とも甲第1号証)及び実願平1-42615号(実開平2-132575号)のマイクロフィルム(審判、 本訴とも甲第3号証)に基づき当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法29条2項に該当し、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求は認められないとの請求人(原告)の主張を排斥し、本件訂正請求は同法134条2項及び5項で準用する同法126条1項ただし書ないし3項の規定(上記改正前の特許法134条2項の規定並びに同条5項において準用する同法126条2項及び3項の各規定の趣旨と解される。)に適合するから、これを認めるとして、本件発明の要旨を訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1のとおり認定した上、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件訂正請求の内容の認定(審決書2頁11行目〜6頁12行目)、甲第1〜第5号証の記載事項の認定(同9頁4行目〜12頁1行目)、本件訂正発明と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点の認定(同18頁8行目〜19頁9行目)は認める。 審決は、本件訂正請求の適否に関し、訂正明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法旧36条5項1号及び2号に規定されている記載要件を満たさない不備があるのに、同各号該当性の判断を誤り(取消事由1)、さらに、本件訂正発明は甲第1、第3号証記載の各発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るのに、その判断を誤り(取消事由2)、本件訂正請求を認めた結果、本件発明の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(訂正明細書の記載不備) 訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1には、係止片が固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームに「係止」される旨が記載されている一方、本件特許の願書に添付された図面のうち【図8】(以下単に【図8】という。)にあるストッパーピンが記載されていない。しかし、ストッパーピンは、係止片の「係止」のために不可欠であって、本件発明の必須の構成要素であるから、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法旧36条5項1号及び2号所定の記載要件を満たさないというべきである。この点についての審決の認定判断の誤りについて、以下詳説する。 (1) 審決は、訂正明細書の段落番号【0014】の記載について、「該記載・・・前段では、棚板部材の係止について記載され、後段では、棚板部材の固定について記載されているとともに、該後段は、『取付けて使用できる。』と記載されているように、棚板部材による固定が任意のものとして記載されている。」(審決書14頁6行目〜12行目)と認定した上、【図8】の記載内容からして、「本件特許発明の訂正後の請求項1・・・に記載される『係止』の技術的意味は、『当接』のような形態をも含むものと解することができるとともに、ストッパーピン22は、必ずしも特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項でもない。」(審決書15頁7行目〜12行目)とする。 しかしながら、「係止」という用語は、広く一般的に認知されたものではないが、少なくとも「係」という文字と「止」という文字を組み合わせて一語を構成する以上、その意味は、「フック状の係止片が何かの部材に引っ掛かっていなければならない」と解釈するのが常識的な理解というべきであり、他方、「当接」という用語は、そこに使用されている漢字の意味からして、単に当たって(あるいは接触して)いる状態を意味するものというべきであるから、「係止」の技術的意味に「当接」が含まれるとする審決の判断は、失当である。 (2) 次に、審決は、「前記【図8】には、棚板部材31のフック状の係止片34は・・・その一側方を固定棚枠15の外側フレーム16に当接され、さらにその他側方は、ストッパーピン22に当接することなく、少し間隔をあけてストッパーピン22が配置される形態として図示されている。」と認定している(審決14頁12行目〜末行)。 確かに、【図8】は、審決が指摘するような形態を図示しているが、たまたまいわゆる係止の状態にある瞬間を表したものにすぎない。なぜならば、ストッパーピン22が存在しない場合には、フック状の係止片34は、固定棚枠15の外側フレーム16に当接あるいは接触しているだけであるから、振動等が作用すれば、棚板部材31のフック状の係止片34は、固定棚枠15の外側フレーム16から離間する可能性がある。したがって、ストッパーピン22は、棚板部材31のフック状の係止片34を固定棚枠15の外側フレーム16に対して係止するための手段であり、本件発明に必須の構成要素ということになる。 (3) さらに、審決は、「前記棚板部材の側板としての使用形態での係止で、ストッパーピンが必須であるということにならない。」(審決書17頁6行目〜8行目)と認定しているが、棚板部材を側板として使用する場合に、フック状(L形)の係止片のみによっては垂直な角形の外側フレーム16、24に対して係止することができないことは前記のとおりである。すなわち、外側フレームによって、外側に倒れることは阻止されているが、この状態では、棚板部材は、垂直な姿勢を保つことができず、内側に移動するか、又は倒れる可能性があるのであって、固定状態にあるとはいえない。 2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り) 本件訂正発明は、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の発明を適用し、 従来周知の技術(甲第2、第4、第5号証参照)を参酌することにより、当業者が容易になし得た発明であるから、特許法29条2項に該当するものである。この点についての審決の認定判断の誤りを以下詳説する。 (1) 審決は、本件訂正発明と甲第1号証記載の発明との相違点として、「本件発明の棚板部材は、『固定棚枠の棚板支持バーと前記可動棚枠の棚板支持バーに両端部のフック状の係止片が係止され棚板として使用することができ、且つ、前記固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとに前記両端部のフック状の係止片が係止されるとともに、前記固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バーとに前記両端部のフック状の係止片が載置され荷崩れ防止の側枠として使用することができる棚板部材』であるのに対し、甲第1号証のものは、『固定棚枠の棚板支持バーと前記可動棚枠の棚板支持バーに両端部のフック状の係止片が係止され棚板として使用することができる棚板部材』である点」(審決書18頁17行目〜19頁9行目)を挙げた上、この相違点についての判断において、本件訂正発明が「係止について具体的に特定されていなければ、甲第1号証の棚板部材を棚板として使用したり、荷崩れ防止の側枠として使用し、棚板部材の両端部の係止片を、固定棚枠の外側フレームとに係止して荷崩れ防止の側枠として使用できるようにすることは容易に為し得るものである」(同20頁5行目〜11行目)としつつ、本件訂正発明は、「係止片の形状ならびにその掛け止め手段について『固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとに前記両端部のフック状の係止片が係止されるともに、前記固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バーとに前記両端部のフック状の係止片が載置され荷崩れ防止の側枠として使用することができる』と特定しているのであり、そしてその特定事項により、例えば棚板部材が、前後方向に直行する水平方向の後側への脱落を確実に防止可能であり、その技術的意味を充分推認可能であるのに対して、甲第3号証ならびに他の甲第2、4、5号証をみてもその点について記載も示唆もない。」(同20頁13行目〜21頁5行目)としている。 (2) しかし、棚板部材を中間棚として使用したり、荷崩れ防止の側枠として使用したりすることは、甲第3号証に記載されているのであって、本件訂正発明との相違点は、棚板部材の一端が回動自在に枢着され、取り外しできない点にすぎない。そして、この点について、甲第1号証記載の発明の棚板部材は、本件訂正発明と同様に、固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バー上に係止可能な断面L型フック状の係止片を備え、取り外し自在な構成としたものであり、また、固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バー29、33も備えているから、甲第1号証の棚板部材を、甲第3号証に記載されているように荷崩れ防止用の側枠として使用しようと思えば、棚板部材37の両端の係止片を、外側フレーム26、32からやや離れた位置で棚板支持バー29、33上に載置した後、外側フレーム26、32に接触する位置まで棚板支持バー29、33上に沿って移動させることにより、外側フレーム26、32に両端の係止片を当接することができる。そして、被告の主張によれば、この状態で側枠としての使用が可能であるということであるから、甲第1号証に記載のストックカートの棚板部材をそのまま用いて、すなわち、格別の工夫をこらす必要もなく、 甲第1号証の棚板部材37を本件訂正発明の棚板部材のように、棚板として使用したり、荷崩れ防止の側枠として使用したりすることができるということになる。 (3) さらに、甲第2、第4、第5号証には、棚板を必要なときにだけ棚板として機能させ、不使用時には邪魔にならないように折り畳んで係止させることにより垂直状態に保持するようにした構造が開示されており、棚板を水平に支持したり垂直に折り畳んだりすることが従来周知の技術であることが裏付けられている。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(訂正明細書の記載不備)について 原告は、本件発明においてストッパーピンが必須の構成要素である旨主張するが、ストッパーピンは任意の構成要素にすぎない。すなわち、「係止」なる用語の技術的意味については、一義的に定められるものではないから、まず特許明細書及び図面の記載を参照すべきところ、【図8】によれば、棚板部材31のフック状の係止片34は、固定棚枠15の外側フレーム16とストッパーピン22との間で、その下部を棚板支持バー17に載置され、その一側方を固定棚枠15の外側フレーム16に当接されているが、その他側方はストッパーピン22に当接することなく、少し間隔をあけてストッパーピン22が配置されている。この状態で、ストッパーピン22がなくとも、棚板部材31のフック状の係止片34は、その下部を棚板支持バーに載置され、固定棚枠15の外側フレーム16と可動棚枠23の外側フレーム24とに係止又は当接される形態で掛かり止めされていることに変わりはない。 原告は、【図8】は、たまたま係止の状態にある瞬間を表したものにすぎないと主張するが、【図8】で示される形態は、棚板部材31のフック状係止片34が固定棚枠15の外側フレーム16に引っ掛かる状態で係止又は当接されており、固定棚枠15の棚板支持バー17にフック状の係止片34が載置された状態にあり、かつ、棚板部材31の自重も加わっているから、フック状係止片34が固定棚枠15の外側フレーム16から瞬時に外れることはない。 なお、ストッパーピン22がない場合、振動等の必要以上の外力が内側に作用すれば、棚板部材31のフック状の係止片34は、固定棚枠15の外側フレーム16から離間する可能性はある。しかし、本件訂正発明は、「必要以上の外力が作用する場合」や「振動等が作用する場合」を要件としたものではないし、棚板部材31を荷崩れ防止用の側枠として使用する場合、たとい、必要以上の外力が内側(荷が載置される側)に作用して、棚板部材31が内側へ移動しても問題はない。要は、 棚板部材が、固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとに両端部のフック状の係止片が係止されるとともに、前記固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バーとに前記両端部のフック状の係止片が載置されて側枠として使用できればよく、この使用形態で、 荷崩れにより棚板部材31が外側への押圧力を受けた場合、荷に抗して荷崩れを防止できれば足りるのである。 2 取消理由2(容易想到性の判断の誤り)について 甲第3号証記載の棚板部材はその一端が枢着され、取り外しができないものであるから、甲第1号証記載のストックカートの棚板部材を取り外して側枠としてそのまま適用することには無理がある。 甲第1号証には、断面がL形のフック状の係止片が示されてはいるが、【図8】に示すような本件訂正発明の備える係止片については記載もなければ示唆すらない。すなわち、本件訂正発明の係止片は、断面がL形のフック状であることに加えて、さらに、「棚板部材が荷崩れ防止用の側枠として使用される際、固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとに両端部のフック状の係止片を係止されるとともに、前記固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バーとに前記両端部のフック状の係止片が載置される」ような形態を採るものであって、このような形態を採るフック状の係止片は、甲第1号証には開示されていない。さらに、本件発明の特許公報添付図面において、棚板本体部と係止片は別部材として示されているのに対し、甲第1号証の第10図においては、棚板本体部と係止片は連続する一体構造のものが示されている点で両者は相違する。 また、甲第1号証記載の発明のフック状の係止片は、同号証の第10図に断面図として示されているところ、断面といってもいずれの場所の切断線に沿って見た図であるか不明である。そうすると、甲第1号証には、「断面がL形のフック状の係止片」しか示されていないことになるから、その実際の形状は無数に存在し、例えば、別紙参考図1〜4に示されるものなどが考えられ、特定できないものである。 そして、別紙参考図5は、甲第1号証の第10図のストックカートの本体部であるが、このストックカート本体部に別紙参考図1〜4の棚板部材を側枠として使用したとしても、いずれの棚板部材も、Y1>X、Y 2>X、Y 3>X、Y 4>Xの関係にあり、断面がL形のフック状の係止片を固定棚枠の外側フレームや可動棚枠の外側フレームに係止したり、両側の棚板支持バー29、33に載置したりすることは到底できない。 さらに、本件訂正発明のストックカートは荷載置用棚板と荷崩れ防止用側枠の両機能を有する棚板部材を備えるものであっても、簡単な構造を有し、安価に製造できるという甲第1号証や甲第3号証には記載のない特有の効果を奏するものである。したがって、本件訂正発明は甲第1号証と甲第3号証とを組み合わせても、当業者が容易に成し得るものではない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正明細書の記載不備)について (1) 原告は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1にはストッパーピンが記載されていないところ、これが設けられていない場合には、係止片が固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームに「係止」されているとはいえないから、ストッパーピンは本件発明の必須の構成要素であって、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載には特許法旧36条5項1号及び2号所定の記載要件を満たさない不備がある旨主張する。 しかし、本件特許公報(甲第13号証)によれば、【図8】の棚板部材を側枠として使用している形態を示す2点鎖線による図示は、係止片34の下側縁が棚板支持バー17に載置された上、そのL字状部分の内側が形成する直交2面が固定棚枠15の外側フレーム16の直交2面と接触している状態を示すとともに、ストッパーピン22については、係止片34と接触することなく、少し間隔を空けて配置されていることが認められ、これに、訂正明細書(甲第14号証)の段落番号【0014】の「上記構成のストックカート36は図1に示すように、棚板部材31のフック状の係止片34、34、34、34を固定棚枠15の外側フレーム16と可動棚枠23の外側フレーム24とに係止させるとともに、棚板支持バー17、 17、25、25のストッパーピン22、22、30、30に支持させることにより、棚板部材31が固定状態で側枠となるように取付けて使用できる。」との記載を総合すれば、訂正明細書は、係止片のL字状部分が外側フレームとそれぞれ直交2面で接触し合っている状態を指して「係止」の用語を使用していると認めるのが相当であり、したがって、ストッパーピンは、係止片と固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとの「係止」には直接関係がないものであって、本件訂正発明の必須の構成要素ということはできない。 この点について、原告は、「係止」というためには、フック状の係止片が何かの部材に引っ掛かっていなければならない旨主張するが、日刊工業新聞社発行の「特許明細書の作成用語集」第2版(甲第10号証)には、「係止」について、 「かかわり合わせて止める。」としか記載されておらず、原告の上記主張を基礎づけるものとはいえないし、「係止」の用語が原告主張のような一義的な意味を有していることを認めるに足りる証拠はない。したがって、「係止」の意義について、 訂正明細書及び図面の記載を参照するとした審決の認定手法及び上記認定と同旨の認定に誤りはないというべきである。 (2) 次に、原告は、【図8】は、たまたま係止の状態にある瞬間を表したものにすぎず、ストッパーピンが存在しない場合に、振動等が作用すれば、係止片34は固定棚枠の外側フレーム16から離間するか、又は倒れる可能性があり、固定状態にあるとはいえない旨主張する。 しかし、そもそも、本件訂正発明は、そのような振動や外力を想定した上での棚板部材の固定を目的とするものではなく、原告の上記主張は、本件訂正発明にその目的外の事項を付加することを前提とするものであって、失当というべきである。すなわち、訂正明細書(甲第14号証)の【発明が解決しようとする課題】欄の「従来のストックカートは一対の棚枠に両端部が支持される棚板を用いているため、一対の棚枠の両側部が開放状態となっており、正しく棚板や台車上に荷物を積載しなければ荷崩れが生じやすいという欠点があった。また、一対の棚枠の一側部に側枠を取付けることも考えられているが、部品点数が多くなり、コスト高になるという欠点があった。本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、部品点数を増加させることなく、棚板部材を棚板として使用することができるとともに、荷崩れ防止用の側枠としても使用することができるストックカートを提供することを目的としている。」(段落番号【0003】、【0004】)との記載によれば、本件訂正発明は、部品点数を増加させることなく、棚板部材を棚板としても荷崩れ防止用の側枠としても使用することができるストックカートを提供することを目的としているものであって、訂正明細書に記載された本件訂正発明の作用、効果等に係るその他の記載を参酌しても、必要以上の振動や外力によって棚板部材のフック状の係止片が固定棚枠や可動棚枠の外側フレームから離間することを防ぐことを目的としているものとは認められないから、これを防止するための構成であるストッパーピンが必須であるということはできない。 かえって、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の「前記固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとに前記両端部のフック状の係止片が係止される」との記載からすると、棚板部材の両側のフック状の係止片は、それぞれ固定棚枠と可動棚枠の各外側フレームと、上記認定のとおりの形態で接触していることが明らかであって、接触面にはいくばくかの摩擦力が作用するから、ある程度棚板部材が倒れることを妨げようとすることが理解される。 (3) 以上のとおり、ストッパーピンが本件発明の必須の構成であるとの原告の主張は採用することができないから、これを前提とする記載不備の主張は理由がなく、 この点の審決の認定判断に誤りはない。 2 取消理由2(容易想到性の判断の誤り)について (1) 審決の認定する本件訂正発明と甲第1号証記載の発明との一致点及び相違点については当事者間に争いはなく、審決は、その相違点について、「確かに係止について具体的に特定されていなければ、甲第1号証の棚板部材を棚板として使用したり、荷崩れ防止の側枠として使用し、棚板部材の両端部の係止片を、固定棚枠の外側フレームと可動棚枠の外側フレームとに係止して荷崩れ防止の側枠として使用できるようにすることは容易に為し得るものであると認められる」(審決書20頁5行目〜11行目)としつつ、「訂正後の本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、係止片の形状ならびにその掛け止め手段について『固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームとに前記両端部のフック状の係止片が係止されるとともに、前記固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バーとに前記両端部のフック状の係止片が載置され荷崩れ防止の側枠として使用することができる』と特定しているのであり、そしてその特定事項により、例えば棚板部材が、前後方向に直行(注、「直交」の誤記と認められる。)する水平方向の後側への脱落を確実に防止可能であり、その技術的意味を充分推認可能であるのに対して、甲第3号証ならびに他の甲第2、4、5号証をみてもその点について記載も示唆もない。」(同20頁11行目〜21頁5行目)と判断している。 この摘示からすると、審決は、本件訂正発明においては、棚板としての使用形態をとる場合及び側枠としての使用形態をとる場合のいずれについても、係止片の形状及びその掛け止め手段が特定されていることをその特徴とし、フック状の係止片が外側フレームと係止すれば、棚板部材の脱落を確実に防止可能であるとして、このような特徴と効果を進歩性を認める根拠とするものと理解することができる。 (2) しかしながら、まず、係止片の形状について検討するに、審決は、本件訂正発明と甲第1号証記載の発明とが、ともに「ネスティング可能な台車と、この台車の先端部に着脱可能に取付けられた可動棚枠と、前記台車の後端部に固定された固定棚枠と、この固定棚枠の棚板支持バーと前記可動棚枠の棚板支持バーに両端部のフック状の係止片が係止され棚板として使用することができる棚板部材とからなるストックカート」(審決書18頁10行目〜16行目)である点で一致するとしているのであって、そうだとすれば、係止片が「フック状」である点において、両者に相違はない。そして、本件訂正発明は、係止片の形状につき、「フック状」であるという以上に具体的に規定していないのであるから、結局、係止片の形状については、本件訂正発明と甲第1号証記載の発明との間に構成上の相違があるとすることはできず、したがって、進歩性を認める根拠となり得ないというべきである。 この点について、被告は、甲第1号証には、断面がL形のフック状の係止片が示されているが、【図8】に示すような係止片は記載されていない旨、また、甲第1号証記載の係止片は棚板部材と連続する一体構造のものであって、本件訂正発明のもののように別部材とされていない旨主張する。しかし、上記のとおり、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1は、フック状係止片の長さ、形状、個数、部材構成等について何も規定しておらず、これを【図8】等に示すとおりの係止片であると限定的に解釈することはできない。被告の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであって、採用することはできない。 (3) 次に、係止片による掛け止め手段について見るに、甲第1号証には棚板部材を側枠として使用することの開示はないが、甲第3号証には、「回動枠を、側枠間の中間部に水平に位置させて、棚板としての機能を発揮させることができる。一方、・・・垂直に位置させ、第三の側枠としての機能を発揮させることができる。」(明細書3頁10行目〜17行目)、「この考案によれば、棚板又は側枠として機能できる回動枠を設けたので・・・」(同7頁15行目〜16行目)との記載があって、棚板部材を棚板としても側枠としても使用することが開示されており、これと甲第1号証に接した当業者であれば、甲第1号証に記載された棚板部材を側枠としても使用するとの着想に至ることは容易というべきである。 そして、上記のとおり、本件訂正発明のフック状の係止片と構成上の相違のないフック状の係止片を備えた甲第1号証記載の発明の棚板部材を、上記の着想に基づいて側枠として使用しようとすれば、これを垂直にしなければならないから、その両端部分を固定棚枠及び可動棚枠の棚板支持バーに載置することは当然なことであって、また、係止片のL字状部分をわざわざ内側に向けるとも考え難いから、固定棚枠及び可動棚枠の外側フレームに係止するように使用することに格別の困難性があるとはいえない。そうすると、係止片による掛け止め手段に関しても、 本件訂正発明のように構成することは容易というべきである。 この点について、被告は、甲第3号証記載の棚板部材はその一端が枢着され、取り外しができないものであるから、甲第1号証に記載のストックカートの棚板部材を棚板としての使用形態からこれを取り外して側枠としてそのまま適用することには無理がある旨主張する。しかし、甲第1号証記載の発明と甲第3号証記載の発明の組合せの趣旨は、甲第3号証記載の棚板部材を上記の構成を備えたものとしてそのまま甲第1号証の棚板部材と置換するものではなく、甲第1号証の棚板部材がフック状の係止片を備えることを前提に、棚板部材を垂直に立てて側枠と兼用できるようにするとの着想を甲第3号証記載の発明から得て、甲第1号証に適用するというものであり、被告の上記主張は、このような両発明の組合せの趣旨を正解しないものというべきである。 また、被告は、甲第1号証記載のフック状の係止片の形状は特定できないものの、別紙参考図1〜4のいずれであっても、Y1>X、Y 2>X、Y 3>X、Y4>Xの関係にあり、これを固定棚枠の外側フレームや可動棚枠の外側フレームに係止したり、棚板支持バーに載置したりすることはできない旨主張する。しかし、 甲第1号証の添付図面及び明細書の説明を総合しても、別紙参考図1〜4のY1〜Y4と別紙参考図5のXとの関係が被告の主張のとおりであると断定することはできない上、仮に、この点が被告の主張のとおりであるとしても、単に上下の棚板支持バー間の間隔を変更すれば、棚板部材を垂直に立てて棚板支持バーに載置すること及び外側フレームに係止することが可能となり、この程度の変更を困難とする理由を見いだすことはできない。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 (4) さらに、審決が本件訂正発明の進歩性の論拠の一つとする棚板部材の確実な脱落防止という効果については、上記のようなフック状の係止片による掛け止め手段が採用される以上、当然に得られるものにすぎないというべきである。なお、 被告は、本件訂正発明は、簡単な構造を有し、安価に製造できるという甲第1号証や甲第3号証には記載のない特有の効果を奏するものである旨主張するが、甲第1号証記載の発明の構造をそのまま維持するとしても、また、前示のような多少の変更を加えるとしても、本件訂正発明の構成と格別異なることはないから、被告主張の本件発明の効果と比較しても格別異なるところはないというべきである。 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由2は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 宮坂昌利 |