運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1998-15083
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  優先権 /  国内優先権 /  分割出願 /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 2号 審決取消請求事件
原告 パイオニア株式会社代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁理士 瀧野秀雄
同 松村貞男
同 垣内勇
被告 特許庁長官B
指定代理人 C
同 D
同 E
同 F
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/01/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第15083号事件について平成11年11月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成2年2月16日及び同年10月5日にした特許出願に基づく国内優先権を主張して、同年11月20日、名称を「磁気ヘッド装置」(その後「コンパクトカセットテープ用磁気ヘッド装置」に補正)とする発明につき特許出願をした(特願平2-314805号)が、平成10年7月31日に拒絶査定を受けたので、同年9月24日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第15083号として審理した上、平成11年11月25日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年12月8日原告に送達された。
2 平成10年6月15日付け及び同年10月26日付け各手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 コンパクトカセットテープに記録された情報を読み出すコンパクトカセットテープ用磁気ヘッド装置であって、
磁気ヘッドが固定される磁気ヘッド装着空間と、磁気ヘッド装置をカセットデッキの移動シャーシに取付けるために前記移動シャーシに形成された孔に対応して設けられる一対のビス孔と、を有する取付け台と、
カセットハーフの小開口部に挿入されてテープの走行を規制する一対のテープガイド部と、
前記磁気ヘッド装着空間の両側で各々テープの走行を規制する3.79〜3.83oの溝幅を有する一対のヘッドガイド部とを備え、
前記テープガイド部及び前記ヘッドガイド部は前記ヘッド取付け台とともに合成樹脂により一体成型されることを特徴とするコンパクトカセットテープ用磁気ヘッド装置。
3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭63-247950号公報(甲第4号証、以下「引用例」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本願発明の要旨の認定(審決書2頁5行目〜3頁6行目)、
引用例の記載をそのまま摘記した部分の認定(同3頁8行目〜6頁14行目)は認める。
本件審判手続には、特許法159条2項において準用する同法50条の規定又は同法1条の趣旨に反して、適法な拒絶理由通知をしなかった違法があり(取消事由1)、また、審決は、引用例記載の発明と本願発明との一致点の認定を誤った(取消事由2)結果、本願発明が、引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(適法な拒絶理由通知の欠缺) 拒絶査定に対する不服の審判段階における平成10年10月26日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、本願発明のヘッド取付け台が「磁気ヘッド装置をカセットデッキの移動シャーシに取付けるために前記移動シャーシに形成された孔に対応して設けられる一対のビス孔」を有するとの要件を付加する(これに伴って、請求項1を引用する請求項2記載の発明の構成も変更される。)とともに、請求項3ないし6を新たに加えたものであり、このような補正がされた場合に請求不成立の審決をするときには、更に明細書の補正をしたり、分割出願をする機会を与えるため、特許法159条2項において準用する同法50条の規定又は同法1条の趣旨により、出願人に拒絶理由を通知すべきところ、これをしなかった手続上の違法があるから、審決は取り消されなければならない。
なお、仮に、審決の理由が拒絶査定の理由と異なるものでないとしても、少なくとも、その補正された内容について審理し、補正された請求項に係る発明についても拒絶理由を通知し、請求人に意見を述べる機会を与えるべきであったから、
これを怠った審決は審理不尽の違法がある。
2 取消事由2(一致点の認定誤り) 審決は、引用例(甲第4号証)に「前記補助テープガイド及び前記主テープガイドは前記ヘッド保持部材とともに合成樹脂により一体成型されるコンパクトカセットテープ用磁気ヘッド装置」(審決書8頁7行目〜10行目)が記載されているとした上、引用例に記載された「ヘッド保持部材」、「補助テープガイド」及び「主テープガイド」は、それぞれ本願発明における「ヘッド取付け台」、「テープガイド部」、「ヘッドガイド部」に相当するものであるから、上記記載の構成において本願発明と引用例記載の発明は実質的に一致する旨認定する(同8頁12行目〜9頁19行目)が、誤りである。
すなわち、引用例(甲第4号証)には、「前記した実施例においては主テープガイドと補助テープガイドを別部品にしたものを示したが、この2種のテープガイドは一体に形成するようにしても良い。」(13頁右下欄9行目〜12行目)との記述はあるものの、ここでいう一体形成の技術思想は、ヘッド保持部材と主テープガイドを一体に形成し、基板と補助テープガイドを一体に形成し、この両者を基板を介して一体に形成するものである。これに対し、本願発明の技術思想は、ヘッド取付け台、テープガイド部及びヘッドガイド部のすべてを1ブロックに一体成型するというものである。さらに、本願発明の要旨が規定する「合成樹脂により一体成型される」の「成型」とは、一般に「成形」が「プラスチック材料に熱と圧力をかけて流動化させ、金型などを用いて所定の形状に賦形すること」(株式会社プラスチック・エージ発行の「実用プラスチック用語辞典(第3版)」)をいうのと同様の意味であるが、金型を用いるものであることをより明確にするために「成型」の語を用いたものである。これに対して、引用例の「一体に形成する」とは、主テープガイドを形成したヘッド保持部材と補助テープガイドを形成した基部とを熱融着などにより接合することも考えられるのであり、本願発明の「一体成型」とは異なる。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(適法な拒絶理由通知の欠缺)について 本件出願に対する拒絶査定の理由は、「この出願については、平成10年3月18日付拒絶理由通知書に記載した理由1によって拒絶査定する」というものであり、その拒絶理由通知書の理由1は、「この出願の下記の請求項に係わる発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。」というものであって、すべての請求項である請求項1〜10を拒絶の理由の対象とし、引用例(特開昭63-247950号公報)を引用文献の冒頭に掲げている。
そうすると、審決と拒絶査定とは、ともに本願発明が引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとするものであるから、審決の理由は、拒絶査定の理由と異なるものではなく、審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合に当たらないから、特許法159条2項において準用する同法50条の規定により拒絶の理由を通知する必要はない。
2 取消事由2(一致点の認定誤り)について 原告は、引用例における一体形成の技術思想は、ヘッド保持部材と主テープガイドを一体に形成し、基板と補助テープガイドを一体に形成し、この両者を基板を介して一体に形成するものである旨主張するが、この主張中の「両者を基板を介して一体に形成する」とは、ヘッド保持部材と基板が一体で区別できない状態にあることを意味するものであるから、「基板を介する」との構成は全く意味のないものでなる。そうすると、引用例には「補助テープガイド、主テープガイド及びヘッド保持部材を合成樹脂により一体形成する」ことが記載されていることとなり、これと同旨の審決の認定に誤りはない。
また、原告は、本願発明の「一体成型」が金型を用いた賦形を意味し、引用例に記載された「一体に形成する」ことは、これと異なる旨主張する。しかし、引用例(甲第4号証)には、ヘッド保持部材(33)及びテープガイド部材(48)に関して、「ヘッド保持部材33は、・・・左右方向に細長い底板34と・・・その下端の略前側半分が底板34の左右両端寄りの位置に連続した壁板35、35’と、該壁板35、35’の上端の前端部間に架け渡されるように位置した上板36とが合成樹脂により一体に形成されて成り、底板34の左右両端部に取付孔37、
37’が形成されている。」(7頁右上欄4行目〜14行目)、「テープガイド部材48は、・・・左右方向に長い板状に形成された基部49と、該基部49の左右両端部から上方に向けて立設された立上部50、50’と、該立上部50、50’の後方を向く面・・・から後方へ向けて突出し・・・略長方形状を為すガイド部51、51’とが合成樹脂により一体に形成されて成る。」(8頁左上欄8行目〜6行目)との記載があり、これによれば、技術的に原告主張の意味で一体成型されることが明らかなヘッド保持部材(33)及びテープガイド部材(48)に関する説明においても、一貫して「一体に形成する」と記載されているから、引用例における「一体に形成する」との記載は、本願発明における「一体成型」と同じ意味で用いられていると解するのが相当である。
しかも、引用例における「一体に形成する」ことの意味として、熱融着などの手段が含まれるとしても、原告主張の意味での「一体成型」を阻害する要因はなく、熱融着等の手段に限定的に解釈しなければならない理由はない。
さらに、「一体成型される」との文言は、本件願書に最初に添付された明細書には記載されておらず、その特許請求の範囲の請求項1に「・・・該テープガイド部は前記取付台に一体形成されている」、同請求項4に「・・・前記テープガイド部及びヘッドガイド部は前記取付台に一体形成されている」と記載されていることからしても、「一体形成される」を「一体成型される」と同じ意味で用いていることが明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(適法な拒絶理由通知の欠缺)について 原告は、拒絶査定に対する不服の審判段階において本件補正が行われたにもかかわらず、拒絶理由通知をすることなく審判請求不成立の審決を行ったのは、特許法159条2項において準用する同法50条の規定又は同法1条の趣旨に違反したものである旨主張するので、まず、同法159条2項に規定する「審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当するかどうか判断する。
審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明と引用例記載の発明とを対比し、両者の相違点として「ヘッドガイド部の溝幅」のみを挙げ、当該相違点は設計的事項である旨判断して、本願発明は、引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。他方、本件出願に対する拒絶査定(乙第1号証)の理由は、引用例には「本願請求項1に係る発明と同様に、カセットハーフの小開口部に挿入されてテープの走行を規制するテープガイド部が、ヘッド取付け台に一体形成されている」との拒絶理由通知書(乙第2号証)の記載を引用するとともに、「テープガイドの溝幅を磁気テープの幅とほぼ同じ値に設定する点」については周知技術である旨付記して、結論として、本願発明は同法29条2項の規定により特許をすることができないとしたものである。
そうすると、本件において、審決における審判請求不成立の理由及び拒絶査定の理由は、結局、ともに、本願発明が引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの同一の理由に基づいて特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものであるから、同法159条2項に規定する「審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合」に該当しないことは明らかであって、同項において準用する同法50条の規定に基づく拒絶理由通知が必要となるものではないから、上記規定を根拠として手続上の違法をいう原告の主張は理由がない。
次に、原告は、同法1条の趣旨についても主張するが、同条の趣旨に基づいて、当然に原告の主張するような拒絶理由の通知が要求されるとは考えられず、それ自体失当というべきである。
さらに、原告は、審決の理由と拒絶査定の理由が異なるものでなくとも、補正された請求項に係る発明について拒絶理由を通知して請求人に意見を述べる機会を与えるべきであった旨主張するが、本件の審判段階において拒絶理由通知をする必要がなかったことは上記のとおりであって、原告の主張は根拠を欠くものというほかない。
よって、原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(一致点の認定誤り)について 原告は、引用例には、補助テープガイド及び主テープガイドがヘッド保持部材とともに合成樹脂により「一体成型」される構成は記載されておらず、これを本願発明との一致点とした審決の認定は誤りである旨主張する。
しかし、引用例(甲第4号証)には、ヘッド保持部材及び主テープガイドについて、「該ヘッド保持部材33は、ヘッドベース21の主部21aの左右方向における長さの半分程度の長さを有する左右方向に細長い底板34と、左右方向に離れ、かつ、互いに平行に対向して位置し、側方から見て略矩形の板状を為すと共にその下端の略前側半分が底板34の左右両端寄りの位置に連続した壁板35、35’と該壁板35、35’の上端の前端部間に架け渡されるように位置した上板36とが合成樹脂により一体に形成されて成り、底板34の左右両端部に取付孔37、37’が形成されている。38、38’は上記ヘッド保持部材33の壁板35、35’の後端部に一体に形成された主テープガイドであり」(7頁右上欄4行目〜17行目)と、補助テープガイド部材について「該基部49の左右両側部から上方へ向けて立設された立上部50、50’と該立上部50、50’の後方を向く面の上方に寄った部分から後方へ向けて突出しかつ後方から見て上下方向に長い略長方形状を為すガイド部51、51’とが合成樹脂により一体に形成されて成る。
52、52’は上記ガイド部51、51’の後端部に位置した補助テープガイドであり、該補助テープガイド52、52’はガイド部51、51’の後端部の上下両端部を除く部分が成すテープ接触面53、53’と該テープ接触面53、53’の上下両端から後方へ突出した規制片54、54’及び55、55’とから成り」(8頁左上欄10行目〜右上欄4行目)と、さらに、両者の関係について「尚、前記した実施例においては主テープガイドと補助テープガイドを別部品にしたものを示したが、この2種類のテープガイドは一体に形成するようにしても良い。」(13頁右下欄9行目〜12行目)と、それぞれ記載されている。
以上の記載によれば、引用例には、主テープガイドとヘッド保持部材は合成樹脂により一体に形成されるとの記載とともに、主テープガイドと補助テープガイドを一体に形成することが併せて記載されているのであるから、補助テープガイド、主テープガイド及びヘッド保持部材が合成樹脂により一体に形成されることが記載されていると認めることができ、これと同趣旨をいう審決の認定に誤りはないというべきである。
この点につき、原告は、引用例記載の発明は、ヘッド保持部材及び主テープガイドと補助テープガイドが、基板を介して一体に形成するものであるから、これらすべてを1ブロックに一体成型する本願発明とは異なる旨主張する。しかし、引用例に、補助テープガイド、主テープガイド及びヘッド保持部材が合成樹脂により一体に形成されることが記載されていると認められることは前示のとおりであるから、これらの各構成部分は単一の部品として形成されるものと理解することができ、そのような部品の構成部分にすぎない「ヘッド保持部材及び主テープガイド」と「補助テープガイド」との間に「基板」に相当する構成部分が存在するとしても、原告のいう「1ブロックに一体成型」することと何ら有意の相違を認めることはできず、原告の上記主張は理由がない。
さらに、原告は、本願発明の「一体成型」は、金型を用いて所定の形状に賦形することを意味するので、引用例の「一体に成形」とは異なる旨主張するが、そもそも、本願発明の「一体成型」が金型を用いた形状形成手段に限定されると認めるに足りる証拠はない(なお、原告の引用する「実用プラスチック用語辞典第3版」は、「成形」の用語の説明において、金型の使用を単に例示したものにすぎない。)上、仮に、「一体成型」が原告主張のとおりの意味であるとしても、プラスチック材料によって所定の形状を形成する場合に、プラスチック材料に熱と圧力をかけて流動化させ、金型を用いて所定の形状とする手段が、プラスチック技術における周知の手法であることは、当裁判所に顕著な事実であり、引用例において、補助テープガイド、主テープガイド及びヘッド保持部材を合成樹脂により一体に形成するに当たり、上記周知技術である金型による一体成型の手法を排除しているものとは認められないから、原告の上記主張は採用の限りではない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利