関連審決 | 審判1997-16000 |
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関連ワード | 考案者 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 慣用技術 / 技術常識 / 登録実用新案 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
174号
審決取消請求事件
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原告 【A】 訴訟代理人弁理士 三中英治 同 三中菊枝 被告 特許庁長官【B】 指定代理人 【C】 同 【D】 同 【E】 同 【F】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/01/15 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成9年審判第16000号事件について平成12年3月27日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和63年4月18日、名称を「ウェットティッシュ包装体」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願昭63-94791号)をしたが、平成9年8月26日、拒絶査定を受けたので、同年9月25日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成9年審判第16000号事件として審理した上、平成10年7月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決をしたが、当庁平成10年(行ケ)第287号審決取消請求事件において、平成11年5月26日言渡しの判決により上記審決が取り消されたので、更に審理をした結果、平成12年3月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月29日、原告に送達された。 2 本願発明の要旨 【請求項1】柔軟な液密性のシートから形成された封入袋とトレイ部材とから構成され、前記封入袋の内部には液体を含浸させたティッシュが連続的に引出し可能に収納されており、該封入袋はその頂面に、取出し口または該取出し口を形成するための切離し用切込み、および前記取出し口または取出し口を形成するための切離し用切込みを覆い且つ繰返し開封・密封可能な可撓性の開閉蓋を有しており、前記トレイ部材は前記封入袋の頂面とウェットティッシュとの間において封入袋の内部に収納され、前記トレイ部材は頂面部と凹部を有しており、前記トレイ部材の頂面部と少なくとも凹部底面の一部とが別部材からなり、前記頂面部とは別部材の凹部底面にウェットティッシュを把持する開口が設けられていることを特徴とするウェットティッシュ包装体。(以下「本願発明1」という。) 【請求項2】トレイ部材が封入袋に固着されていることを特徴とする請求項1記載のウェットティッシュ包装体。(以下「本願発明2」という。) 【請求項3】柔軟な液密性のシートから形成された封入袋とトレイ部材とから構成され、前記封入袋の内部には液体を含浸させたティッシュが連続的に引出し可能に収納されており、該封入袋はその頂面に、取出し口または該取出し口を形成するための切離し用切込み、および前記取出し口または取出し口を形成するための切離し用切込みを覆い且つ繰返し開封・密封可能な可撓性の開閉蓋を有しており、前記トレイ部材は前記封入袋の頂面とウェットティッシュとの間において封入袋の内部に収納され、前記トレイ部材は凹部を有しており、該凹部の底面にウェットティッシュを把持する開口が設けられており、前記収納された各ウェットティッシュがZ状に折畳まれており、隣接するウェットティッシュはそれらの端部が互いに重なり合っており、その重なり合いの程度が前記トレイ部材の凹部の深さの0.5〜4倍であることを特徴とするウェットティッシュ包装体。(以下「本願発明3」という。) 3 審決の理由 審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本願発明1ないし3は、実願昭59-164846号(実開昭61-80273号)のマイクロフィルム(以下「引用例A」という。)、実願昭60-163087号(実開昭62-72970号)のマイクロフィルム(以下「引用例B」という。)及び実願昭60-61169号(実開昭61-178379号)のマイクロフィルム(以下「引用例C」という。)に記載の各考案に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないというものである。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は、本願発明1の容易想到性の判断を誤り(取消事由1)、本願発明2についても同様であり(取消事由2)、さらに、本願発明3(取消事由3)についても同様であるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(本願発明1の容易想到性の判断の誤り) (1) 引用例Aには、本願発明1のような頂面部と凹部を有するトレイ部材を用いることの開示も示唆もなく、まして、頂面部と少なくとも凹部底面の一部とを別部材とするものではない。引用例A記載の考案の課題は、開閉自在なV字状スリットと小孔を有する板体を用いたことによりすべて達成されているから、引用例Aには本願発明1のように凹部を有するトレイ部材を用いるという課題がない。 (2) 引用例B及び引用例C記載の各考案では、合成樹脂から作られたウェットティッシュ容器そのものに凹部を形成しているから、収納容器の把持部材は存在していないし、トレイ部材が柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に設けられたものではない。しかも、引用例B及び引用例Cの天板部は、密閉容器そのものを構成しており、そのまま封入袋の内部に収納することはできず、仮に、これら引用例に記載されている容器をそのまま封入袋の内部に収納しても、本願発明1は得られない。これら引用例に記載されているものを、引用例A記載の考案の板体に替えるためには、引用例B及び引用例Cの取出口のみを切り出して封入袋の内部に収納することが必要となるが、これら引用例においては、取出口を切り出して柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に収納することの開示も示唆もなく、その必要性も認識されていない。 ウェットティッシュについては、ポケット収納タイプ、卓上載置タイプ等種々の形態と技術があり、ウェットティッシュの収納容器についても、いわゆるボトルタイプ、弁当箱タイプ、封入袋タイプ等多岐にわたった用途及び需要に対応しているのであるから、当業者は、技術的な必要性や課題もなく、単にウェットティッシュの容器に係る技術であるという理由により、特定のウェットティッシュの容器の技術を他のウェットティッシュ容器に適用するものではない。したがって、引用例Aにはティッシュ端部が邪魔になるとの問題認識がないから、その問題を解消しようとする課題がなく、また、引用例B及び引用例Cのいずれにも、引き出され把持された次のティッシュ端部が邪魔にならないようにするという技術思想が開示されていない以上、これらの引用例をどのように組み合わせても、柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の中に凹部を有するトレイ部材を入れるという本願発明の構成に、当業者が容易に想到することはできない。 審決は、「ティッシュ把持部材の素材を、例えば把持に適した硬さの素材を選択できるように、容器本体のその他の部材とは別の部材で構成することも、引用例A、Bの記載[A-2]、[B-1]〜[B-3]からみて、周知の事項と認められる。」(審決謄本5頁26行目〜29行目)と認定しているが、この認定内容は、技術的に全く意味不明である。 (3) 実開昭59-106376号(甲第6号証)の考案は、引用例Aの実用新案登録出願と同一の考案者及び出願人による出願であるが、この考案から引用例A記載の考案まで、板体の穴の形状を変えるだけで約2年が費やされている。また、 本件特許出願より後の出願である実開平7-9196号(甲第7号証)では、取出口の形成された浮き板は平板であり、この出願人が、浮き板に凹部を形成した登録実用新案公報第3001857号(甲第8号証)の考案に達するまでに相当の期間を要している。このような本件出願前後の技術水準に照らすと、本件出願当時、引用例Aの板体に凹部を設けることは、当業者が容易に想到し得なかったことが明らかである。 (4) 審決は、「本願発明1の奏する作用、効果も上記各引用例に記載された技術事項から当業者が容易に予測し得る程度のものであって、格別なものがあるとも認められない。」(審決謄本5頁34行目〜36行目)と認定しているが、本願発明1の奏する作用、効果をどのように認定したかについては全く記載していない。 本願発明1においては、取り出されたウェットティッシュとともに引き出された次のウェットティッシュの先端部が、トレイ部材の凹部内に収容される状態となって、開閉蓋を封入袋にぴったりと貼着して閉めることができるので、次のウェットティッシュが乾燥することがなく、また、トレイ部材はその頂面部と少なくとも凹部底面の一部とを別部材としているので、ウェットティッシュを把持する開口を設けた凹部底面部と頂面部について、それぞれ目的に応じた任意の硬さの素材を使用することができるという顕著な効果を奏する。 (5) したがって、本願発明1は、引用例Aないし引用例C記載の考案に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 2 取消事由2(本願発明2の容易想到性の判断の誤り) 引用例A及び引用例Cのいずれにも、ティッシュの取出部が設けられた部位が容器本体に固着されている構成は開示されておらず、本願発明2は、引用例Aないし引用例C記載の考案に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 3 取消事由3(本願発明3の容易想到性の判断の誤り) (1) 引用例Aには、紙片の一部を係合させて折り畳み連続的に引き出し得るようにされたものである旨の記載はあるが、Z状に折り畳まれているとは開示されていない。引用例Bには、ティッシュがL形又はZ形に折り込み積層して容器本体に収納してある旨記載されているが、Z状に折り畳まれたものが、一部を係合させて折り畳み連続的に引き出し得るようにされたものを積層状に収納した状態の代表的なものであるとの記載はない。一方、引用例Bの第2図では、ティッシュはZ状ではなく、箱入りのティッシュペーパーに広く見られるような二つ折りのL形であって、引用例Bにおいては、Z形よりむしろL形のティッシュが代表的なものであると解される。 (2) 本願発明3の、柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の中に、頂面部と凹部を有するトレイ部材を入れたというウェットティシュ包装体の構成は、前記のとおり本件特許出願前には知られていないが、その中に収納された各ウェットティシュの端部を互いに重なり合わせておく構成、まして、その重なり合いの程度を前記トレイ部材の凹部の深さの0.5〜4倍とする構成は、いずれも本件特許出願前には知られていない。そして、本願発明3では、Z状に折畳まれたウェットティッシュの端部の重なり合いの程度をトレイ部材の凹部の深さに対して特定の範囲とすることにより、次回使用のウェットティッシュの端部をトレイ部材の凹部に確実に収容し、ウェットティッシュの端部に邪魔されることなく、確実に開閉蓋を密閉することができるという顕著な効果を奏するものである。 (3) したがって、本願発明3は、引用例Aないし引用例Cから当業者が容易に発明をすることができたものではない。 |
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被告の反論
1 取消事由1(本願発明1の容易想到性の判断の誤り)について (1) ウェットティッシュの容器において、ティッシュを把持する開口が設けられている場合、1枚のティッシュが引き出された後、次のティッシュは先端部近傍が把持されて一定量上面に飛び出すものであり、平らな蓋材を用いた場合、その先端部が蓋をする際に邪魔になることは、当業者が容易に想定し得ることにすぎない。したがって、引用例Aに明示の記載がないとしても、ティッシュの把持部の構成を、飛び出したティッシュの先端部が邪魔にならないようにするという課題は、 当業者が十分に認識し得たもののーつである。 (2) 引用例B及び引用例Cの各々に、ウェットティッシュの包装容器において、その上面のティッシュ引出部周辺に凹部を設けて成るものが示されているように、ウェットティッシュを把持する開口が設けられた引出し部周辺を凹部形状とし、蓋片と把持部との間にティッシュ先端部が収納される空間を形成させることは、従来周知である。引用例Aないし引用例Cは、いずれもウェットティッシュの容器の技術に係るものであり、引用例Aには、従来、容器の一部として形成されていたスリット等の紙片取出部、紙片把持部を容器の内部に収納する部材に設けるものであることが示されており、引用例B及び引用例Cには、容器の一部であってもウェットティッシュを把持する開口を有する箇所が存在し、そのような箇所は把持部材といえるから、その形状を引用例Aにおける板体のような把持部材における把持部近傍の形状として適用することは、当業者にとって格別困難なことではない。 引用例Aでは、「容器あるいは袋体」は気密性のみを勘案した薄板又はラミネート紙等により成形され、板体は比較的強度を有するものであると説明されている。引用例Bでは、容器本体と蓋部材、取出口等は合成樹脂から作られ、スリットを有する「掩蔽片」は、濡れナプキンに比較して復元性と摩擦抵抗がある板状の素材から作られる旨説明されている。すなわち、引用例A及び引用例Bの各容器においては、容器本体及び蓋部材とティッシュ取出部が設けられる部位の素材とは、 それぞれが必要とされる性質に応じて別部材で構成し得ることが開示されている。 (3) 技術水準を示す証拠として原告が提出した甲第6〜8号証のうち、甲第6号証の出願は拒絶査定が確定したものであり、甲第7、第8号証は本件特許出願の後に出願されたものであって、これらの技術内容は、本願発明1の容易想到性を判断する際に考慮すべき技術水準とは関係がない。 (4) 審決は、明記してはいないが、本願発明1の作用効果を本件明細書の「作用」及び「発明の効果」の欄に記載されたとおりのものと認定した上で、それらの作用効果は、当業者が引用例Aないし引用例Cから容易に予測し得る程度のものであると認定した。したがって、審決は、本願発明1の効果を看過してはいない。 2 取消事由2(本願発明2の容易想到性の判断の誤り)について 引用例Aの従来技術の欄に記載された「スリット或いは小孔」を設けられた「上板」、引用例Bのスリットを有する「掩蔽片」、引用例Cの取出口を有する「凹部の底面」の構成に照らすと、ティッシュの取出部の設けられた部位が容器本体に固着されている構成は、従来周知のものである。 3 取消事由3(本願発明3の容易想到性の判断の誤り)について (1) 引用例Bには、適宜の大きさに裁断したティッシュ数枚を互いに断面L形又はZ形に折り込み積層して容器本体に収納した構成が記載され、これを参酌すれば、引用例Aにおいて、その一部を係合せしめて折り畳み連続的に引き出し得るようにされたティッシュは、Z状に折り畳まれたものを含んでいる。 (2) 容器に収納されたウェットティッシュの端部を互いに重なり合わせておくことは、本件出願前に周知慣用である。本願発明3において、トレイ部材の凹部の深さが特定されたものではなく、その深さに対する割合も0.5〜4倍と幅があること、また、その範囲の幅としたことにより格別顕著な作用効果を奏するものではないことに照らすと、本願発明3においてウェットティッシュの端部の重なりの程度を上記の範囲のものとすることは、当業者が適宜決定し得るものである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本願発明1の容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は、引用例Aには本願発明1のように凹部を有するトレイ部材を用いるべきことの課題がないと主張する。しかしながら、引用例A(甲第3号証)には、「本案は湿潤紙片等の包装体の改良に関するものであり、特に・・・紙片の取出しを容易とし、且つ一度開封後の密封性の向上を計るべく勘案された湿潤紙片等の包装体構造に関するものである。」(明細書1頁13行目〜17行目)、「角箱状容器10内には一部を係合せしめて折畳み連続的に引出し得るようなされたものか、或いは長さ方向に適宜の間隔をおいてミシン目等による破断線を施した紙片22を積重状に収納し」(同3頁14行目〜17行目)、「また当初紙片22を取出す際には略V字状のスリット26からなる紙片取出し部28を開いて内部の紙片22の端部を抓み出し、スリット32を通過せしめて紙片引出し部30へと誘導するので取出しが容易であり、使用途中において紙片22が容器内部で破断した際にも容易に紙片22を紙片引出し部30へと導くことができる。」(同6頁6行目〜13行目)と記載されている。これらの記載によれば、引用例A記載の考案では、紙片の取出しを容易とするために、使用途中においては、紙片が容器内部で破断されない限り、ほぼV字状のスリットから成る紙片取出部を開くことなく次の紙片を取り出すことが予定されており、したがって、紙片が引き出される際に、次の紙片の端部が少なくとも一部、共に引き出されるものと認められる。そうすると、紙片取出部の周辺の構成を、飛び出した次の紙片の端部が包装体の密封を妨げることのないような形状とすることは、当業者であれば十分に認識し得た課題であったといわなければならない。 なお、原告は、引用例A記載の考案の課題は、開閉自在なV字状スリットと小孔を有する板体を用いたことによりすべて達成されていると主張するが、ある考案が従前の課題を解決したとしても、完成した考案に新たな別の課題が生じることは、技術の発展において通常生ずることであるから、引用例Aの考案について、 当業者が新たな課題を読み取ることはあり得るというべきである。 (2) 次に、原告は、引用例B及び引用例Cでは、トレイ部材が柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に設けられたものではないと主張する。しかしながら、引用例A(甲第3号証)には、「本案にあっては比較的強度を有する紙片引出し部は別体の板体24により形成し、該板体24を任意の容器、或いは袋体の中へ入れるものであるから包装体は気密性のみを勘案した薄板、またはラミネート紙等により成形することが可能であり、合成樹脂等のフィルムにより袋状にすることも可能である。」(明細書5頁6行目〜12行目)と記載されており、この記載によれば、引用例A記載の考案では、トレイ部材が柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に設けられたものであると認められる。そして、引用例Aないし引用例Cは、それぞれ「湿潤紙片」、「濡れナプキン」、「ウエットペーパー」に関するものであるが、これらは、いずれも本願発明1における「ウェットティッシュ」と同一のものと認められるから、当業者であれば、これらの考案を組み合わせることは容易であるというべきである。したがって、引用例B及び引用例Cにおいて、トレイ部材が柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に設けられたものではないとしても、このことにより、引用例B及び引用例C記載の技術を引用例A記載の考案に組み合わせることを妨げる理由とはならない。 原告は、ウェットティッシュ及びその収納容器にそれぞれ各種のものがあり、当業者が技術的な必要性や課題もなく、単にウェットティッシュの容器に係る技術であるという理由により、特定のウェットティッシュの容器の技術を他のウェットティッシュ容器に適用するものではないと主張する。しかしながら、ウェットティッシュ及びその容器に各種のものがあるとはいえ、これらがウェットティッシュとして共通するものであることに変わりはなく、また、当業者であれば、顧客の需要や用途に応じて各種のウェットティッシュについて技術的な検討をするものであるから、引用例Aないし引用例Cが開示するウェットティッシュの種類が異なっているからといって、これら引用例の組合せが容易でないということはできない。 また、原告は、ティッシュ把持部材の素材を容器本体のその他の部材とは別の部材で構成することが周知の事項であるとした審決の認定が、技術的に全く意味不明であると主張する。しかしながら、引用例A(甲第3号証)に「本案にあっては比較的強度を有する紙片引出し部は別体の板体24により形成し」(明細書5頁6行目〜8行目)と記載されているとおり、材料に形成された紙片引出部に強度が必要であることは当業者の技術常識である。そして、引用例A(甲第3号証)には、「合成樹脂薄板等の・・・複合材、或いは気密加工を施した紙板の・・・複合材等により組立てまたは一体的に成形された各箱状容器10の上板12適所には、 任意形状の開口14をミシン目等による環状の破断線16にて形成し」(明細書3頁7行目〜12行目)と記載されているから、引用例Aの容器は複合材から成るものであると認められる。また、引用例B(甲第5号証)には、「遮蔽片7は、・・・濡れナプキンに比較して復元弾性(クッション性を含む)と摩擦抵抗がある板状の素材、好ましくはポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリエステル・ポリウレタンなどの発泡体、これら発泡体とほぼ同効の合成繊維布が用いられる。」(明細書6頁7行目〜12行目)、「本考案容器は、第1図、第2図に示すように、・・・水密の容器本体1と、蓋部材2とを備え、合成樹脂から作ってある。」(同5頁2行目〜4行目)と記載され、第1、第2図を参酌すれば、遮蔽片が容器本体及び蓋部材とは異なる材料から成るものと認められる。これらの事実に照らすと、ティッシュ把持部材の強度を担保するために所望の強度、復元弾性、摩擦抵抗等の材質を有する材料を適宜選択して用いることは、当業者の技術常識というべきである。そうすると、ティッシュ把持部材の素材を、例えば把持に適した硬さの素材を選択できるように、容器本体のその他の部材とは別の部材で構成することが周知の事項であるとした審決の判断に誤りはない。 (3) 甲第6ないし8号証の考案は、いずれも本件特許出願の手続とは無関係のものである上、これらのうち、甲第6、第7号証の考案は、登録されたものかどうか明らかではなく、また、甲第7、第8号証の考案は、本件特許出願の後に出願されたものであって、本願発明1の容易想到性を判断する際に考慮すべきものではないから、これら証拠は、本願発明の容易想到性に関する上記判断を左右するものではない。 (4) 原告は、本願発明1は、次のウェットティッシュが乾燥することがなく、 凹部底面部と頂面部について、それぞれ目的に応じた任意の硬さの素材を使用することができるという顕著な効果を奏すると主張する。しかしながら、引用例B及び引用例Cには、それぞれ、引き出された次のウェットティッシュが凹部内に収容されることが開示されているから、開閉蓋を封入袋にぴったりと貼着して閉めることにより次のウェットティッシュが乾燥することがないという効果を奏するものと認められる。また、ティッシュ把持部材の素材を容器本体のその他の部材とは別の部材で構成することは、前示のとおり、従来周知の技術手段であるから、目的に応じた任意の硬さの素材を使用することができるという効果は、当業者にとって自明のことである。そうすると、本願発明1についての原告主張の効果は、いずれも当業者が引用例AないしCから予測することのできるものであって、これを超える顕著なものではないというべきである。 2 以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。なお、本件事案にかんがみ、その余の審決取消事由についても付言する。 3 取消事由2(本願発明2の容易想到性の判断の誤り)について 引用例Aにおいて板体と湿潤紙片包装体を互いに固着することは、通常のウェットティッシュの容器がウェットティッシュを把持する開口を容器の蓋部に設けていることを考慮すると、当業者が容易に採用することのできる設計事項にすぎないと認められるから、本願発明2において、トレイ部材を封入袋に固着する構成を採用したことは、当業者が容易に想到することができるというべきである。 4 取消事由3(本願発明3の容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告は、引用例Aでは、紙片がZ状に折り畳まれていることの開示はなく、引用例Bでは、濡れナプキンがZ状ではなく二つ折りのL型となっている旨主張する。しかしながら、引用例B(甲第5号証)には、従来の技術について、「所定大に裁断したパルプ抄紙からなる数枚の乾燥ティッシュを断面L形またはZ形に折り込み積層してボール紙製の容器に収納し、これを比較的に大きく開口しスリットを設けたプラスチックフィルムを介して取り出し口から前記方式で一枚ずつ引き出すようにしたものが実用に供されている。」(明細書2頁16行目〜3頁2行目)、考案が解決しようとする問題点として、「不織布からなる濡れナプキンは、 これを前記乾燥ティッシュのようにL形またはZ形に互に折り込み積層すると、その引き出しによる摩擦抵抗が強くて前記乾燥ティッシュのように連続的に引き出すことができない、という問題があり、・・・本考案は、前記乾燥ティッシュのように、不織布からなる濡れナプキンを折り込み積層して収納して一枚ずつ連続的に引き出すことができるように構成した容器を提供することを目的とする。」(同3頁13行目〜4頁5行目)と記載されているから、引用例B記載の考案は、不織布からなる濡れナプキンをL形又はZ形に互いに折り込み積層して収納したものの使用を予定したものと認められる。引用例Bの第2図が図示するものは、同引用例記載の考案の一実施例にすぎない。 (2) 次に、原告は、ウェットティシュの端部を互いに重なり合わせておくこと、その重なり合いの程度がトレイ部材の凹部の深さの0.5〜4倍とすることは本件特許出願前に知られていないとした上、本願発明3が次のウェットティッシュの端部をトレイ部材の凹部に確実に収容し、ウェットティッシュの端部に邪魔されることなく、確実に開閉蓋を密閉することができるという顕著な効果を奏すると主張する。しかしながら、ウェットティシュの端部を重なり合わせておくことは、引用例A(甲第3号証)にも、「一部を係合せしめて折畳み積重状とした湿潤紙片等を箱形容器内に収納する」(明細書2頁2行目〜3行目)と記載されているように、本件特許出願前の周知慣用技術であり、また、ウェットティッシュの端部の重なりをトレイ部材の凹部の深さの0.5〜4倍とすることは、当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎず、この構成に基づいて本願発明3が格別顕著な効果を奏するものであると認めることもできない。 5 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 長沢幸男 |