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事件 平成 11年 (ネ) 18号 差止請求権不存在確認等請求控訴事件
控訴人(被告) カースル産業株式会社 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 村林隆一
同 辰巳和正
同 飯田秀郷
同 栗宇一樹
同 和田聖仁
同 早稲本和徳
同 久保田伸
同 秋野卓生
同 岩坪哲
被控訴人(原告) 株式会社アーランド 右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 東谷宏幸
同 小原望
同 豊島茂長
同 岡澤成彦
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原判決を次のとおり変更する。
二 被控訴人が別紙物件目録二記載のレンジフード用フィルター装置を製造・販売することにつき、控訴人において特許番号第一八八二三六三号の特許権に基づき差し止める権利のないことを確認する。
三 控訴人は、被控訴人に対し、金四四一万五四七二円及びこれに対する平成七年一〇月一三日から完済まで民法所定年五分の割合による金員を支払え。
四 被控訴人のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、第一・二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人の請求を棄却する。
三 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
事案の概要
本件は、「排気口へのフィルター取付け方法」に関する特許権を有する控訴人が被控訴人製造・販売のレンジ用フィルター装置(後記物件一・物件二)が右特許権を侵害するとして被控訴人の取引先に侵害警告をしたところ、被控訴人が、
右特許権を侵害しないと主張して、右特許権に基づく差止請求権の不存在確認を求めるとともに、右警告が虚偽の事実を流布したもので営業妨害の不法行為であると主張して、損害賠償金五〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(平成七年一〇月一三日)から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(以下、被控訴人を「原告」、控訴人を「被告」と略称し、その他の略称は原判決の例による。) 一 前提事実(いずれも争いがないか、弁論の全趣旨によって認められる。) 1 当事者 原告は、プラスチック製家庭用品の製造・販売等を業とする株式会社であり、被告は、プラスチック製日用品雑貨・家庭用雑貨製品の製造・販売等を業とする株式会社である。原告会社の代表者は被告会社代表者の実弟であり、元はともに被告会社を経営していた。
2 原告製品 原告は原判決別紙物件目録一記載のレンジフード用フィルター装置(物件一、「磁石付き」)及び本判決別紙物件目録二記載のレンジフード用フィルター装置(物件二、「マジックテープ雄側部分付き」)を製造・販売している(物件一は、現在製造・販売を中止しているが、将来再開の可能性がある。)。
3 被告の権利 被告は次の特許権(「本件特許権」。その発明を「本件発明」という。)を有している。
特許番号 第一八八二三六三号 登録日 平成六年一一月一〇日 発明の名称 排気口へのフィルター取付け方法 出願日 平成二年一月二八日(特願平二ー一七五六〇号) 出願公告日 平成六年二月二日(特公平六ー七八九五号) 特許請求の範囲 【請求項1】装着しようとする排気口を覆う広さのシート状のフィルターで該排気口の入口を直接覆い、該フィルターの周囲を点在する複数の把手付きのマグネットホルダーによって押さえて該排気口に固定することを特徴とする排気口へのフィルター取付け方法 【請求項2】予めフィルターの取付け部分にそれぞれのマグネットホルダーを個別に吸着させる凸縁付の磁性板が固着されていることを特徴とする請求項1記載の排気口へのフィルター取付け方法 【請求項3】予め、装着しようとする排気口の周囲に表面に鉤状突起が設けられた基盤を取付け、その上から該排気口を覆う所定広さのフィルターを被せ、前記鉤状突起に該フィルターの周辺を直接掛止したことを特徴とする排気口へのフィルター取付け方法 (以下、右請求項1の発明を本件発明@、請求項3の発明を本件発明Aという。) 4 被告の行為 被告は、原告の物件一及び物件二の製造・販売行為が本件特許権を侵害すると主張しており、原告の取引先である清水産業株式会社(【大阪府守口市<以下略>】所在)及び株式会社コジット(【大阪市<以下略>】所在)に対し、その旨を口頭で告知した(「本件告知行為」)。
なお、本件告知行為が行われた時期につき、原告は、平成七年一月頃と主張するのに対し、被告はこれを否認している。
二 争点 1 物件一の取付方法は本件発明@の方法と同一(技術的範囲に属するもの)であって、物件一は本件発明@の実施にのみ使用する物か。
2 物件二の取付方法は本件発明Aの方法と同一(技術的範囲に属するもの)であって、物件二は本件発明Aの実施にのみ使用する物か。
3 本件発明には無効事由が存するか。
4 原告は本件発明につき先使用による通常実施権を有するか。
5 本件告知行為は原告に対する不法行為を構成するか。
6 不法行為を構成するときの損害賠償額
争点に関する当事者の主張
一 争点1(物件一の取付方法は本件発明@の方法と同一〔技術的範囲に属するもの〕であって、物件一は本件発明@の実施にのみ使用する物か)について 1 被告の主張 (一) 本件発明@の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A 装着しようとする排気口を覆う広さのシート状のフィルターで該排気口の入口を直接覆い、
B 該フィルターの周囲を点在する複数の把手付きのマグネットホルダーによって押さえて該排気口に固定する C ことを特徴とする排気口へのフィルター取付け方法 (二) 物件一の取付方法は、分説すると次のとおりである。
a 装着しようとする排気口を覆う広さのレンジフードフィルターで該排気口の入口を直接覆い、
b 該フィルターの周囲を点在する最大六個の把手付きの磁石によって押さえて該排気口に固定する c ことを特徴とする排気口へのフィルター取付方法 (三) 物件一の取付方法の構成を本件発明@の構成要件と対比すると、構成aは構成要件Aを、構成bは構成要件Bを、構成cは構成要件Cをそれぞれ充足するので、物件一の取付方法は本件発明@の方法と同一(技術的範囲に属するもの)である。
物件一の磁石の把手は、突起部分が折り曲げられており、その状態で消費者に使用されているといえ、手に取って着脱をすることがし易くなっていることが明らかである。
仮に、突起部分が折り曲げられていなかったとしても、消費者が手に取って着脱をすることにより作業の容易化が図られるという点で、「把手」としての作用効果を有する。
(四) 物件一は、レンジフードフィルターと把手付き磁石とをセットにして、取付方法の説明書とともに一体として販売されている。このように、部品をセットにした商品の場合、当該商品の購入者は、各部品がセットとなった商品を一体として使用するために購入するのであって、その中の個々の部品を個々的に使用するために購入するのではない。したがって、セット商品につき、「実施にのみ使用」する物か否か、すなわち、他の用途があるか否かについて検討するに当たっては、セット商品を一体として、経済的・商業的・実用的な使用可能性があるか否かを検討すべきであり、セットを構成する個々の部品について、他の用途があるか否かを検討すべきではない。
物件一を構成するレンジフードフィルター及び把手付きの磁石のそれぞれは、単独で使用することが可能であるとしても、セット全体としては、本件発明@の実施に使用する以外の使用は考えられないから、物件一は、本件発明@の実施にのみ使用する物である。
2 原告の主張 (一) 物件一を構成する磁石を入れた突起付きケースの突起部分は、排気口を覆うフィルターを磁石並びにケースによって固定する際の固定面積を大きくするためのものであって、磁石を取り外す際の「把手」ではないし、その形状も本件発明@の実施例とは異なる。
また、例えば、フィルターを換気口の金属部分の角が九〇度に折れ曲がった部分に取り付ける場合には、右突起部分を九〇度に折り曲げることで、フィルターを押さえることが可能になることから、突起部分を折り曲げて使用する場合があることが想定されるが、この場合にも、あくまでも突起部分はフィルターを押さえるために使用されるのであって、「把手」として使用されるわけではない。
したがって、物件一の磁石を入れた突起付きケースは本件発明@にいう「把手付きマグネットホルダー」には当たらないから、物件一の取付方法は本件発明@の方法と同一でない(技術的範囲に属しない。)。
(二) 物件一を構成するフィルター及び突起付き磁石は、次のとおり、社会通念上経済的・商業的ないしは実用的と認められる用途が存在し、いずれも本件発明@の実施にのみ使用される物ではない。
フィルターは、レンジフードのみならず、換気扇のフィルター、エアコンのフィルター、空気清浄機のフィルターなどにも用いることができる物であって、現実にもエアコンなどに用いられている例もあるから、物件一を構成しているフィルターが本件発明@の実施にのみ使用される物ではないことが明らかである。
磁石単体が文房具店などで販売されていることからも明らかなとおり、
磁石は、物件一の取付方法のようにレンジフード用フィルターの取付に限らず、金属板を使用した製品に物を止めるのに広く用いられていて、他の実用的といえる用途は多数ある。しかも、市販されている磁石には、把手の付いたマグネットホルダーに入った磁石もあるのであって、把手付きであるから本件発明@の実施にのみ使用する物ということにはならない。
二 争点2(物件二の取付方法は本件発明Aの方法と同一〔技術的範囲に属するもの〕であって、物件二は本件発明Aの実施にのみ使用する物か)について 1 被告の主張 (一) 本件発明Aの構成要件を分説すると、次のとおりである。
A 予め、装着しようとする排気口の周囲に表面に鉤状突起が設けられた基盤を取付け、
B その上から該排気口を覆う所定広さのフィルターを被せ、
C 前記鉤状突起に該フィルターの周辺を直接掛止した D ことを特徴とする排気口へのフィルター取付け方法 (二) 物件二の取付方法は、分説すると次のとおりである。
a 装着しようとする排気口の周囲にマジックテープの雄側部材を取付け、
b その上から該排気口を覆う広さのレンジフードフィルターを被せ、
c 前記マジックテープの雄側部材に該フィルターの周辺を直接掛止する d ことを特徴とする排気口へのフィルター取付方法 (三) 物件二の取付方法の構成を本件発明Aの構成要件と対比すると、構成aでいうマジックテープの雄側部材は、基体の表面に逆J字状突起が設けられ、その基体の裏面には接着剤が塗布されていて、その上に保護紙が貼られており、使用するに当たってはこの保護紙をはがして排気口の周囲に接着するものであるから、
排気口の周囲に表面に鉤状突起が設けられた基盤を取り付けるということができ、
構成要件Aを充足する。
すなわち、マジックテープ(面状ファスナー又は面ファスナー)には、
ループテープとフックテープの二種のものがあり、単にマジックテープといえばループテープを含むことになるが、ループテープでは本件発明の用をなさないので、
本件発明の明細書には、フックテープを明確に説明する鉤状突起と記載しているのである。明細書に使用する用語は、出願前に一般的に用いられていた技術用語を使用して記載するものであるから、マジックテープの雄側部材が鉤状突起を有する基盤として当業者に一般的に認識されていれば、明細書に「鉤状突起を有する基盤にはマジックテープを含む。」旨をあえて記載する必要がない。マジックテープの雄側部材が「鉤状突起が設けられた基盤」に該当することは、本件発明出願前の公知資料(乙二三ないし三八)の存在から明らかなとおり、本件発明出願前から当業者には常識に属することがらであった。乙二三の公知資料の特許請求の範囲には、
「互に引懸けられる様になっている鉤上部材を備えた2個の支持体にて形成された2個の可撓性部分を連結するファスナにおいて、該支持体の一方はその表面上に多数の鉤を備え、他の支持体はその表面上に多数のループを備えたことを特徴とするファスナ」が開示され、また、この明細書には、例示として鉤を形成する様にループを切断する装置の構造が示されており、このようにして形成され鉤を多数備えた支持体がマジックテープの雄側部材であることは明白である。乙二四ないし三八の公知資料には、別紙公知資料目録記載のとおり、同様のマジックテープの雄側部材のものが開示されている。
そして、構成bは構成要件Bを、構成cは構成要件Cをそれぞれ充足するので、物件二の取付方法は本件発明Aの方法と同一(技術的範囲に属するもの)である。 (四) 物件二は、フィルターとマジックテープの雄側部材からなる。もともとマジックテープの雄側部材は、鉤状突起が基盤に取り付けられたもの(雄側部材)と、この鉤状突起に係合するループ状のものを基盤に取り付けたもの(雌側部材)とが対になって使用されて、鞄や袋物を開閉自在とするものであり、一方のみでは開閉自在という機能を実現することはできない。物件二を構成するマジックテープの雄側部材は、逆J字状突起が基盤に取り付けられているのみであって、これに係合するループ状のものを基盤に取り付けたもの(雌側部材)は含まれておらず、フィルターと一緒になって初めて用をなすから、フィルターとマジックテープの雄側部材がセットとして販売されている物件二は本件発明Aの実施にのみ使用される物というべきである。
2 原告の主張 (一) 物件二においては、フィルターを排気口に固定する部材として、マジックテープの雄側部材が備え付けられているものであるが、マジックテープの雄側部材は、その表面にループ状の輪を多数有し、当該ループ状の輪の一部に切れ目が設けられているもので、本件発明Aの構成要件Aの「鉤状突起が設けられた基盤」とは明らかに異なり、実施例の図面における「鉤状突起が設けられた基盤」の形状とも明らかに異なる。
したがって、物件二のマジックテープの雄側部材は、本件発明Aの「鉤状突起が設けられた基盤」に当たらないから、その取付方法は、本件発明Aの方法と同一でない(技術的範囲に属しない)。
(二) マジックテープの雄側部材のみを使用している例は、本件発明Aの実施以外にも広く見られる。
株式会社クラレのマジックテープについての照会に対する回答(甲一〇の1・2)によると、マジックテープの雄側部材は、それのみで多数の分野において種々の用途に用いられていることが明らかであり、本件発明Aの実施以外にも経済的・商業的・実用的な使用方法が存することは明白である。
マジックテープの雄側部材とフィルターとをセットとして販売しているとの被告の主張も的外れである。
すなわち、裁縫用具店などで市販されている粘着テープ付きのマジックテープは、雄側部材と雌側部材とがセットで販売されているところ、消費者が右市販のマジックテープの雄側部材を購入の上、その雄側部材を用いて原告の販売しているフィルターをレンジフードに取り付けた場合、何ら権利侵害の問題は生じない。原告は、消費者が右のように市販のマジックテープの雄側部材を購入する手間を省くために、予めマジックテープの雄側部材とフィルターとをセットとして販売しているにすぎず、間接侵害を構成する事由になり得ない。このことを裏返せば、
物件二を構成するマジックテープの雄側部材は、市販されているマジックテープの雄側部材とセットで用いることにより、本来のマジックテープの雄側部材の用法どおりにも使用することが可能であることを意味し、このことからも、物件二を構成するマジックテープの雄側部材には、社会通念上、経済的・商業的ないし実用的と認められる使用方法が他に存在することが明らかである。
三 争点3(本件発明には無効事由が存するか)について 1 原告の主張 (一) 本件発明@につき 本件発明@は、排気口を覆うフィルターを磁石により取り付けることを内容とするものであるところ、取り付けられるフィルターそのものは、レンジフードに限らず、換気扇用フィルターやエアコン用フィルターにも用いられるもので、
交換用のフィルターそのものには何らの発明も含まれていない。
また、磁石により物を挟んで取り付けるということも、磁石そのものの使用として一般に広くなされている方法にすぎず、このような磁石は一般に文具店等でも容易に入手可能であり、その用法も専ら本件発明@にいう取付方法に用いる目的のみで市場に置かれているわけではない。
したがって、本件発明@は、明らかに公然周知の技術のみから構成される発明であり、特許法123条1項2号の無効事由がある。
(二) 本件発明Aにつき マジックテープの雄側部材そのものは、鞄や財布、その他の袋物の他様々な製品において開口部を閉じる際の部材として用いられており、裁縫用具店その他で様々な用途に用いられることを前提に販売されているのであって、フィルターをマジックテープの雄側部材によって固着するという方法も公然周知の技術のみから構成される取付方法である。
さらに、訴外三菱アルミニウムは、本件発明Aのようなマジックテープの雄側部材を用いた取付方法によるレンジフードフィルターを、平成元年一〇月一五日から製造・販売しており、仮にマジックテープの雄側部材も本件発明Aの「鉤状突起が設けられた基盤」に含まれるとした場合には、そのような取付方法は本件発明Aの出願当時、公然と実施されており、本件発明Aも特許法123条1項2号の無効事由がある。
(三) 本件発明は右のとおり明らかに無効というべきであるから、被告は本件特許権に基づく差止請求権を有しない。
そうでないとしても、本件発明@及び本件発明Aは、本件発明の特許請求の範囲から公然周知の技術からなる取付方法が除かれていると限定的に解釈することによって、初めて有効となる。
したがって、本件発明@の出願当時、磁石によりフィルターを取り付ける方法は公然周知であったから、本件発明@でいう「把手」は限定的に解釈すべきであり、物件一のようなものは含まない。
また、本件発明Aの出願当時、マジックテープの雄側部材でフィルターを取り付ける方法は、公然周知であったから、本件発明Aでいう「鉤状突起」は限定的に解釈すべきであって、それによれば物件二のようなものは「鉤状突起」に含まれない。
2 被告の主張 本件発明@及び本件発明Aは、特許庁の査定によって新規性進歩性があるものとして特許査定されたものであり、公然周知の技術のみからなるわけではない。また、三菱アルミニウム商品が原告主張の時から製造・販売されていたわけではない。したがって、本件発明@及び本件発明Aの構成要件を原告の主張のように縮小解釈する理由はない。
四 争点4ないし争点6について 原判決二五頁三行目から同二九頁四行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
当裁判所の判断
一 争点1について 1(一) 本件発明の特許公報(甲一)により、本件発明@の構成要件を分説すると、次のとおりであることが認められる。
A 装着しようとする排気口を覆う広さのシート状のフィルターで該排気口の入口を直接覆い、
B 該フィルターの周囲を点在する複数の把手付きのマグネットホルダーによって押さえて該排気口に固定する C ことを特徴とする排気口へのフィルター取付け方法 (二) 物件一の取付方法は、原判決別紙物件目録一の記載と検甲二、弁論の全趣旨により分説すると、次のとおりであることが認められる。
a 装着しようとする排気口を覆う広さのレンジフードフィルターで該排気口の入口を直接覆い、
b 該フィルターの周囲を点在する最大六個の磁石を入れた突起付きケースによって押さえて該排気口に固定する c ことを特徴とする排気口へのフィルター取付方法 (三) 右分説によれば、構成aは構成要件Aを充足し、構成cは構成要件Cを充足していることは明らかである。
2 そこで、物件一の構成bが構成要件Bを充足するか(「磁石を入れた突起付きケース」が「把手付きのマグネットホルダー」に該当するか)否かを検討する。
甲一、乙五〇ないし五二、五四によれば、次のとおりいうことができる。
本件発明は、排気口へのフィルター取付け方法に関するものであるが、従来は、換気扇やレンジフード等に取替え可能なフィルターを取り付ける場合、予め合成樹脂等からなる枠で吸入口を覆い、表面から不織布などからなるフィルターを固着する構造となっていて、取付けが面倒な上に、フィルターについた油で枠が汚れるので枠の処理が面倒であるなどの問題があった。これに対し、本件発明は、簡単にフィルターを排気口に取り付けるとともに、取替えも容易なフィルターの取付方法を提供することを目的としたものである(本件特許公報2欄6行から3欄10行まで)。
右課題を解決するため、本件発明@は、装着しようとする排気口を覆う広さのシート状のフィルターで排気口の入口を直接覆い、該フィルターの周囲を点在する複数の把手付きマグネットホルダーによって押さえる構成を採用したものである(同公報3欄11行から20行まで)。
そして、本件明細書には、本件発明@に関し、第1から第4の実施例が挙げられ、(ア)第1の実施例では、不織布10をレンジフードに被せ、複数のマグネットホルダー13によって固定する方法が示され、そのマグネットホルダー13は、周囲に合成樹脂素材の把手14が設けられ、中央部に鉄製の缶15に間隔を開けて配置された強力な磁石16が配置されているものであり(同公報4欄10ないし23行、第1図・第2図)、(イ)第2の実施例では、不織布18を折り曲げて、排気口19の周囲にマグネットホルダー13で押圧しながら取り付ける方法が示され(同公報4欄30ないし34行、第3図)、(ウ)第3の実施例では、予め磁性板20を接着剤21等で排気口の周囲に取り付けた後、フィルター22を被せてマグネットホルダー13によって押圧する方法が示され(同公報4欄35ないし43行、第4図)、(エ)第4の実施例では、製鉄の缶付磁石25を排気口の周囲に適当間隔で取り付け、フィルター26を被せた上から更にキャップ27を被せて、フィルター26を止める方法が示されている(同公報4欄44ないし5欄3行、第5図)。
ところで、本件発明は、審査の過程で、拒絶理由通知がされ、本件発明@については、引例1、2の文献(本件特許公報参考文献1、2)を引き特許法29条1項3号又は29条2項により拒絶すべきものとされた。控訴人は、これに対し、意見書(乙五〇の一)を提出し、本件発明@につき「請求項1記載の発明において最も重要な点は、フィルターの周囲を点在する複数の把手付きのマグネットホルダーで押さえて、フィルターを排気口に取付ける点にあり、これによって、把手部分を持って簡便にマグネットホルダーを外したり装着することができるという利点を有しております。(中略) 一方、御引例1に記載された発明は、レンジフードの開口部に枠体を配置し、該枠体の表面を全面的に覆うフィルターを用意し、磁石片を用いて該枠体に密着固定するレンジフード用フィルターの構造が提案されております。しかしながら、枠を使用という点において本願発明とは相違しており、更には、磁石片には本願発明のように把手も設けられておりません。従って、本願発明は御引例1の公報には開示されておらず、特許法第29条第1項第3号に該当するものではありません。(中略) 次に、御引例1においては、枠体に磁石片を直接取付け場合の他、枠体に帯板を取付け、該帯板に磁石片が嵌入する窪みを設けてフィルターを密着固定させるようにしておりますが、このように形成すると磁石片が取外し難く、結果として汚れたフィルターを取り外し難いという欠点があります。更には、鉄製のレンジフードであってもその周囲に改めて枠体を設ける必要があるので、コスト高になり、更に枠体自体も汚れるという欠点があります。本願発明はかかる点が改良されており、マグネットホルダーに把手が設けられているので、その部分を掴んで簡単にマグネットホルダーの取付け取外しができ、更に枠体は不要という優れた効果を有しております。従って、特許法第29条第2項にも該当しないものであります。」と意見を述べ、引例2(本件特許公報参考文献2)についても同様の観点からの意見を述べた。右意見を受けて本件発明は特許査定され、前記引例1、2の文献が参考文献1、2として公報に記載された。
引例1の文献(本件特許公報参考文献1、乙五四)は、実用新案登録の範囲@を「レンジフードBの開口部(4)に配設して枠体(2)表面を全面的に被覆可能な大きさに形成された1枚の不織布からなるフィルター主体(7)と、該フィルター主体(7)を枠体(2)表面に密着固定させる複数個の磁石片(9)(9)…(9)とからなるレンジフード用フィルターの構造」とし、考案が解決しようとする課題を「しかし乍ら、
上記のような従来のレンジフード用フィルターは、いずれもフィルター枠を有する成型品であるため、フィルター主体の汚れが進んだ時点で使い捨てられるこの種のフィルターとしては、材料費や加工費用が高価に過ぎるという問題点がある。また、形状・寸法が固定されていて融通性がないため、適合して装着し得るレンジフードは一機種ないし数機種に留まる。このため各種のレンジフード、即ち業界内で俗に浅型・深型と称される型式の相違や、製造元の相違によって形状や寸法が異なるものに対応させるためには、多種・多様なフィルターを用意する必要があり、使用者にとっても所有のレンジフードに適合する品種のフィルターを選択しなければならないという不都合があった。本考案は上記のような従来の問題点を解決するためになされたもので、形状・寸法の異なる各種のレンジフードに適応して隙間のない良好な装着が行え、しかも簡便にして安価なレンジフード用フィルターを提供することを目的とするものである(明細書3ないし4頁)。」とし、作用を「考案は上記構成により、レンジフード開口部(4)に配設したフィルター主体(7)の四隅部及び周辺部、中央部の適宜箇所を複数個の磁石片(9)(9)…(9)を用いて枠体(2)表面に密着させるだけの簡単な作業で、該枠体(2)表面をフィルター主体(7)によって全面的に被覆する状態で確実に装着することができ、(中略)また、フィルター主体(7)がレンジフード開口部(4)よりも相当大きい場合は、鋏やカッター等を用いて、該フィルター主体(7)を枠体(2)表面の寸法に合わせて裁断することにより、レンジフードBの外側にはみ出すことなく体裁を整えて装着できる(明細書5ないし6頁)。」とするものである。
右のような、本件発明における課題を解決するための手段や各実施例の説明と図面、手続過程での意見等を参酌すると、本件発明@はマグネットホルダーに把手が設けられているので、その部分を掴んで簡単にマグネットホルダーの取付け取外しができるという点に特徴があるということができ、構成要件Bにいう「把手付きのマグネットホルダー」とは、磁石の入ったケースであって着脱の際手で保持しやすい装置を備えたものをいうと解するのが相当である。
一方、原判決別紙物件目録一の記載と検甲二、乙一二の1ないし4、一四の1ないし3によれば、物件一の「磁石を入れた突起付きケース」は、扁平な円筒状の本体に磁石を収納し、その側面に角を丸めた細長い長方形状の突起部を底面に平行に備えたフライパン型の金属製ケースであり、その通常の使用方法は、本体の開口部を排気口に接着させて使用するものであって、右使用方法においては、ケースの突起部は排気口に平行にほぼ接着する形となるが、実際の販売時に物件一が収納されている袋には、右突起部を底面方向に屈曲させて排気口との間に間隔を空けるようにして使用する状態が写真で掲示されていることが認められる。
右事実を前提に乙一八ないし二〇の各1ないし5とを併せ考えるに、フィルターを排気口に接着させるための突起付きケースにおいて、突起部の機能はケースを着脱する際の把手として以外にはないのが通常であり、一般の購入者も右突起付きケースを使用する際には、突起部を多少折り曲げて使用することが予測されるから、販売する側である原告でもそうした使用方法を予定して右の突起を設けたものと推認するのが相当である。そうでなければ、物件一に右のような突起部を設ける理由と必要を合理的に説明することができない。
以上のような、本件発明@の構成要件Bにいう「把手付きのマグネットホルダー」と物件一の取付方法の構成bにいう「磁石を入れた突起付きケース」との構成・機能を対比すると、物件一の取付方法の構成bは本件発明@の構成要件Bを充足するものというべきである。
そうすると、物件一は本件発明@の方法を実施するためのものということができる。
3 そして、検甲二、乙一二の1ないし4、一四の1ないし3、弁論の全趣旨によれば、物件一は、レンジフードフィルターと磁石を入れた突起付きケースとをセットにして、取付方法の説明書とともに一体として販売されており、このように、部品をセットにした商品の場合には、当該商品の購入者は各部品がセットとなった商品を一体として使用するために購入するのであって、その中の個々の部品を個々的に使用するために購入するのではないと認められる。
したがって、セット商品につき、「実施にのみ使用」する物か否か、すなわち、他の用途があるか否かについて検討するに当たっては、セット商品を一体として、経済的・商業的・実用的な使用可能性があるか否かを検討すべきであり、物件一を構成するレンジフードフィルター及び磁石を入れた突起付きケースのそれぞれは、単独で使用することが可能であるとしても、セット全体としては、本件発明@の実施に使用する以外の使用は考えられないから、物件一は、本件発明@の実施にのみ使用する物というべきである。
よって、原告が業として物件一を製造・販売すること(前記前提事実により認める。)は間接侵害に該当する。
二 争点2について 1(一) 本件発明の特許公報(甲一)により、本件発明Aの構成要件を分説すると、次のとおりであることが認められる。
A 予め、装着しようとする排気口の周囲に表面に鉤状突起が設けられた基盤を取付け、
B その上から該排気口を覆う所定広さのフィルターを被せ、
C 前記鉤状突起に該フィルターの周辺を直接掛止した D ことを特徴とする排気口へのフィルター取付け方法 (二) 物件二の取付方法は、本判決別紙物件目録二の記載と検甲三、弁論の全趣旨により分説すると、次のとおりであることが認められる。
a 装着しようとする排気口の周囲にマジックテープの雄側部材を取付け、
b その上から該排気口を覆う広さのレンジフードフィルターを被せ、
c 前記マジックテープの雄側部材に該フィルターの周辺を直接掛止した d ことを特徴とする排気口へのフィルター取付方法 (三) 右分説によれば、構成bは構成要件Bを充足し、構成dは構成要件Dを充足していることは明らかである。
2 そこで、物件二の構成aが構成要件Aを充足するか、構成cが構成要件Cを充足するか(「マジックテープの雄側部材の表面にあるループ状の輪の片側切断部」が「鉤状突起」に該当するか、「マジックテープの雄側部材」が「鉤状突起を設けた基盤」に該当するか)否かを検討する。
甲一、乙二三ないし三八、五〇ないし五二、五四、弁論の全趣旨によれば、次のとおりいうことができる。
本件発明が、従来技術に比較して、簡単にフィルターを排気口に取り付けるとともに、取替えも容易なフィルターの取付方法を提供することを目的としたものであることは前記のとおりである。
右課題を解決するため、本件発明Aでは、予め装着しようとする排気口の周囲に表面に鉤状突起が設けられた基盤を取り付け、その上から該排気口を覆う所定広さのフィルターを被せ、右鉤状突起に該フィルターの周辺を直接掛け止めする構成を採用している(本件発明の特許公報3欄11行から26行まで)。
そして、右に関し、本件明細書には、第5の実施例が記載され、排気口の周囲に適当間隔で鉤状突起28の設けられた基盤29を磁石30によって取り付け、鉤状突起28にフィルター31の端を引っ掛ける方法が示され、第6図には、内部に磁石30を収納した断面コ字状の基盤29と、その一表面に先端部が鋭く尖って曲がった形状の鉤状突起28が数本設けられたものが図示されている(同公報5欄4ないし10行、第6図)。
しかしながら、本件明細書には、鉤状突起が設けられた基盤として具体的にどのような物件があるかについての言及はなく、したがって、また、面状ファスナー、マジックテープないしマジックテープの雄側部材についての言及もない。
ところで、本件発明は、前記のとおり、審査の過程で拒絶理由通知がされ、本件発明Aについては、引例4、5の文献(本件特許公報5、3の文献)により特許法29条2項により拒絶すべきものとされた。控訴人は、これに対し、意見書(乙五〇の一)を提出し、本件発明Aにつき「御引例4には、換気扇に送風ガイド付きのカバーを設け、該カバーの前面にフィルター支持体を設け、このフィルター支持体とカバーとの間にフィルターを挟んで、フィルターを装着する換気扇が提案されておりますが、このようにするとフィルターを交換する場合にフィルター支持体を取外す必要があり、更に交換しないフィルター支持体が汚れるという問題点があります。更に、フィルターを固定する鉤状突起のつい基板については全く開示されておりません。次に、御引例5には、前面開口にフィルターが張られた合成樹脂シート等からなるカバー本体が装着された換気扇用フィルターカバーが提案されておりますが、本願発明のように換気扇等の排気口の周囲に直接フィルターを取付ける方法とは基本的に相違しており、更にはフィルターを直接鉤状突起によって掛止するという技術的思想については全く開示されておりません。従って、請求項3記載の発明(本件発明Aを意味する。)は御引例4、5から容易に発明できるものではなく、特許法第29条第2項に該当しないものと確信します。即ち、本願発明のように換気扇あるいはレンジフード等の排気口に、枠体等を取付けることなく、直接フィルターのみを取付け、その周辺のみをマグネットホルダーあるいは鉤状突起を備えた基板によって直接支持するという技術的思想は御引例1〜5には開示されておりませんし、御引例1〜5から容易に成しえる発明でもありません。」と意見を述べ、さらに本件公報の参考文献4に記載されている実用新案公報(実公平二ー四三五二号、昭和五八年六月一四日の控訴人出願、昭和五九年一二月二六日に公開公報〔実開昭五九ー一九五四三六〕発行。乙五一。)を指摘した。右公報は、換気扇取り付け用フィルター装置の考案に関するものであって、当該フィルターの固定に「面状ファスナー」(公報第4欄6行、9行、16ないし17行参照。)を用いるものである。右意見を受けて本件発明は特許査定され、本件公報には、前記引例4、5の文献のうち、引例4が参考文献5、引例5が参考文献3として記載され、控訴人の指摘した右の実用新案公報が参考文献4として記載された。
本件発明の出願前、控訴人の指摘した実用新案公報(乙五一)に記載された面状ファスナーが公知の仮止め手段であったことは明らかで、また、面状ファスナーがいわゆる「マジックテープ」を意味するものであること(登録商標である「マジックテープ」が明細書中の表現として使用できないことからくる代替表現であること)は、特許出願などの出願業務に携わる当業者において、周知の事実であった。そして、マジックテープ(面状ファスナー又は面ファスナー)にはループテープとフックテープの二種のものがあり、単にマジックテープといえばループテープを含み、ループテープでは本件発明の用をなさないのであるが、本件発明の明細書にその旨の言及はない。
そうすると、本件発明の明細書には、鉤状突起が設けられた基盤として具体的にどのような物件があるかについての言及はなく、公知であった「面状ファスナー」というマジックテープを代替する表現も全く記載されておらず、また、何らの言及もなく、右拒絶通知に対する意見及び補正においても「鉤状突起を備えた基板によって直接支持する」という手段が強調されているのみで、「面状ファスナー」による支持という手段には全く言及されていない。そして、本件発明における「鉤状突起が設けられた基盤」の指示・表現する仮止め手段がそれ自体一個の完成した仮止め手段である「面状ファスナー」に直接該当することを示す証拠はなく、
また、「鉤状突起が設けられた基盤」という用語が文理上「面状ファスナー」を意味することを示す証拠もない(検乙八号証の1、2の包装袋の裏面の商品名のネーミングの由来の記載が右証拠に当たるとはいえない。)から、本件発明における「鉤状突起が設けられた基盤」は、特許請求の範囲に記載された表現のとおりのものであって、マジックテープの雄側部材を含むものとはいえないと解するほかない。
なお、一般的に、特許公報の参考文献記載の趣旨からすると、本件公報の参考文献に拒絶理由通知にかかる引例文献とともに「面状ファスナー」に言及のある前記文献が付加記載されていることは、右参考文献の仮止め手段が明細書中に言及がないことにより、右説示を裏付けることにはなっても、控訴人の主張を裏付けることにはならない。
控訴人は、本件発明においては、マジックテープのループテープを使用しないためマジックテープについて言及せずにフックテープを明確に説明するために鉤状突起と記載したと主張するが、本件発明の審査手続において右主張事実のようなことがあったことを認めるに足りる証拠はなく、前記補正の経緯・内容に照らしても、右主張は認められない。
右のような、本件発明における課題を解決するための手段や、実施例の説明と図面とを参酌すると、本件発明Aの構成要件Aにいう「鉤状突起が設けられた基盤」とは、排気口に接着する基盤であって、非接着面に先端の曲がった突起を有し、右突起にフィルターを直接掛け止めする装置をいい、マジックテープの雄側部材を含まないと解するのが相当である。
一方、本判決別紙物件目録二の記載と検甲三、乙一五の1ないし4によれば、物件二の「マジックテープの雄側部材」は、長方形状の平板型で、表面にループ状の輪を多数(六〇〇個前後)設け、輪の最頂部からやや下方部の片面に切れ目を設けたもので、裏面の保護紙をはがして排気口に接着できるようにしたものであり、排気口に接着されたマジックテープの雄側部材の表面部にフィルターを直接被せ、フィルターの編み目がループ状の輪の片側の切れ目から輪の内部に挿入されることによって掛止めの作用が発揮されるものであると認められる。
物件二のマジックテープの雄側部材は、その表面にループ状の輪を多数有し、当該ループ状の輪の一部に切れ目が設けられている形態からして、本件発明Aの構成要件Aの「鉤状突起が設けられた基盤」とは明らかに異なり、実施例の図面における「鉤状突起が設けられた基盤」の形状とも明らかに異なる。右ループ状の輪は、これをミクロ的に見れば、切れ目が設けられた輪の内の一方の逆J字状突起部分が一見鉤状突起といえる形態をしているが、逆J字状突起部分のみを切り離して認識すべきものでなく、残る他方の輪の部分を併せた構成として一体的に認識でき、そうすると、先端の曲がった突起を意味する「鉤状突起」を観念させるようなものといえない。そして、多数のループ状の輪の集合した全体として一個の完成した仮止め手段であるマジックテープの雄側部材も「鉤状突起が設けられた基盤」を観念させるようなものといえない。
したがって、マジックテープの雄側部材の表面にあるループ状の輪の片側切断部が「鉤状突起」に該当せず、マジックテープの雄側部材は、本件発明Aの構成要件A・Cでいう「鉤状突起を設けた基盤」に該当しないというべきである。
3 そうすると、物件二は本件発明Aの方法を実施するためのものということができず、したがって、また、本件発明Aの実施にのみ使用する物とはいえない。
したがって、間接侵害は成立しない。
三 争点3について 原告は、本件発明@につき、排気口に取り付けるフィルターそのものは、レンジフードに限らず、換気扇用フィルターやエアコン用フィルターにも用いられる物で、交換用フィルターそのものには何らの発明も含まれておらず、また、磁石により物を挟んで取り付けるということも、磁石そのものの使用として一般に広くなされている方法に過ぎないから、本件発明@は公然周知の技術のみから構成された発明であって無効事由が存すると主張する。
しかしながら、本件発明@についての前記説示によれば、本件発明@が特許登録されたのは、レンジフード等の排気口に直接フィルターを取り付けることができ、また、マグネットホルダーに把手を設けてその着脱を容易にしたことにより、
簡単にフィルターを排気口に取り付けるとともに取替えも容易なフィルターの取付方法を提供する点にあり、従来から一般に利用されている交換用フィルターと磁石を使用して物を挟むという作用効果のみを単に組み合わせた技術ではないことが明らかである。
したがって、本件発明@が公然周知の技術のみからなる無効事由を有する発明ということはできない。
四 争点4について 本件において、原告が本件発明につき先使用による通常実施権を有すると認めるに足りる具体的な立証はなく、原告の右主張を認めることはできない。
五 争点5、6について 当裁判所も、物件二に関する被告の本件告知行為は原告に対する不法行為を構成し、原告はこれにより四四一万五四七二円の損害を被ったものと判断する。その理由は、原判決の「第四 争点に対する当裁判所の判断」の三(四五頁八行目から五二頁五行目まで)中の物件二に関する部分のとおりであるから、これを引用する。
物件一については特許権侵害が成立するから、同物件に関する本件告知行為は不法行為を構成しない。
結論
以上の次第で、原告の本件請求のうち、物件二についての差止請求不存在確認及び前記範囲での損害賠償を求める部分は理由があるから認容すべきであるが、その余の部分は理由がないから棄却すべきである。
したがって、これと異なる原判決は一部不当であるから、本件控訴は右部分の取消しを求める限度で理由がある。
よって、原判決を一部変更することとして、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成一二年一〇月四日)
裁判長裁判官 鳥越健治
裁判官 若林諒
裁判官 西井和徒