関連審決 | 異議1998-70327 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 分割出願 / 特許出願日 / 技術的意義 / 均等 / 実施 / 交換 / 設定登録 / 請求の範囲 / 減縮 / 訂正明細書 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
373号
特許取消決定取消請求事件
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原告 日本電信電話株式会社代表者代表取締役 【A】 原告 株式会社ニコン代表者代表取締役 【B】 原告ら訴訟代理人弁理士 伊藤信和、渡辺隆男 被告 特許庁長官【C】 指定代理人 【D】、【E】、【F】、【G】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/01/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告らの求めた裁判
「特許庁が平成10年異議第70327号事件について平成11年9月30日にした決定を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、名称を「投影露光装置」とする特許第2634039号発明(昭和59年10月11日に出願された特願昭59-211269号(原出願)の分割出願として、平成8年3月11日出願。平成9年4月25日設定登録。本件発明)の特許権者である。本件特許について特許異議の申立てがあり、原告らは平成10年11月9日に訂正請求をしたが(平成11年2月26日付手続補正書で補正)、平成11年9月30日本件特許を取り消す旨の決定があり、その謄本は同年10月25日原告らに送達された。 2 本件発明の要旨 (1) 訂正請求前の特許請求の範囲の記載【請求項1】 レチクルを照明する照明光学系と、前記レチクル上のパターンを基板上に投影露光する投影光学系とを有する投影露光装置において、 前記照明光学系は、前記レチクルを均一に照明するために2次光源を形成する均一化光学系と、該2次光源が形成される位置に配置された光学部材とを有し、前記光学部材は、前記2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部を持つ第1領域と、該第1領域以外の領域に形成されかつ該第1領域の透過部よりも低い透過率を持つ第2領域とを有することを特徴とする投影露光装置。 【請求項2】 前記一対の透過部は、前記中心から等距離の位置に配置されていることを特徴とする請求項1記載の投影露光装置。 【請求項3】 前記光学部材は、2対の弓形状の開口部を有するフィルタを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の投影露光装置。 【請求項4】 前記光学部材は、4対の円形状の開口部を有するフィルタを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の投影露光装置。 (2) 訂正請求に係る特許請求第1項の範囲の記載(訂正請求は特許請求の範囲の請求項1の減縮を目的とする。) レチクルを照明する照明光学系と、前記レチクル上のパターンを基板上に投影露光する投影光学系とを有する投影露光装置において、 前記照明光学系は、前記レチクルを均一に照明するために2次光源を形成する均一化光学系と、前記均一化光学系の入射側の照明光の分布を円輪状にする入射光学系と、該2次光源が形成される位置に配置された光学部材とを有し、前記光学部材は、前記2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域と、該第1領域以外の領域に形成されかつ不透過部である第2領域とを有することを特徴とする投影露光装置。 3 決定の理由の要点 (1) 異議申立ての概要 異議申立人【H】は、本件特許の原出願における平成8年3月11日付け手続補正書及び原出願の公開公報である特開昭61-91662号公報(引用例)を提出し、本件請求項1〜4に係る発明は、原出願の発明と同一であり、本件特許は分割要件を満足していないので、本件特許の出願日は分割出願がなされた平成8年3月11日であり、本件請求項1〜4に係る発明は、引用例に記載された発明と同一であるので、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法29条1項の規定に違反してなされたものであるから、特許を取り消すべき旨主張している。 (2) 平成11年4月28日付け取消理由通知の概要 本件特許の請求項1に係る発明は、原出願の明細書又は図面に記載されておらず、かつ、示唆もされていないので、本件特許に係る出願は、特許法40条1項の規定による適法な分割出願であるとすることができず、本件特許出願日は、平成8年3月11日であると認める。 そして、請求項1〜4に係る発明は、特開平4-26751号公報に記載された発明及び引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1〜4に係る発明の特許は取り消すべきものである。 (3) 訂正拒絶理由の概要 訂正請求における請求項1に係る発明(訂正発明)は、原出願の明細書又は図面に記載されておらず、かつ、示唆もされていないので、本件特許に係る出願は、特許法40条1項の規定による適法な分割出願であるとすることができず、本件特許出願日は、平成8年3月11日であると認める。 そして、請求項1に係る発明は、特開平4-26751号公報に記載された発明及び特開昭61-91662号公報(引用例)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、訂正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 したがって、訂正請求は、特許法120条の4第3項で準用する同法126条4項の規定に適合しない。 (4) 引用例に記載された発明の認定 (4)-1 引用例の記載内容 引用例には、以下の事項が記載されている。 引用例の発明の詳細な説明【産業上の利用分野】の項には、「本発明は、半導体集積回路等の製造に要する微細レジストパターンを形成する投影露光装置に関するものである。」と記載されている。 また、引用例の発明の詳細な説明の【発明が解決しようとする問題点】の項には、「・・・従来の装置においては、レチクル8を照射する光の性質を制御するのがコヒーレンシイσ値だけであるため、焦点深度、領域内均一性、線幅制御性等各種条件を満たしつつ微細パターンを形成しようとすると、NAとσとによって決まる限界があった。したがって、投影光学系14の開口数NAと2次光源24の大きさが決まると、パターン形成特性が自動的に決り、さらに解像性能を高めることはできなかった。 本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、 投影光学系の開口数とレチクル照射用2次光源の大きさを固定した後のパターン解像性能をさらに向上させる投影露光装置を提供することにある。」と記載されている。 また、【問題点を解決するための手段】の項には、「このような目的を達成するために本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着可能としたものである。」と記載されている。 さらに、【実施例】の項において、「本発明に係わる投影露光装置に適用される特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。 第1図に示す絞りは円輪状に通過域を有する絞りであり、照射光の透過率が高い石英、フッ化カルシウム、フッ化リチウム等の基板にクロム等の遮光体を蒸着することによって作製することができる。また第2図(a)に示す絞りは透過率に分布を有する絞りである。この透過率の分布は、第2図(b)に示すように、周辺に近づく程透過率が高く中心に近づくと低透過率あるいは完全遮光となる絞りである。 この絞りは、第1図に示す絞り同様に、透過基板に遮光体を径方向に厚さ分布を持たせて付着させることにより作製することができる。なお第2図(b)に示す曲線は、円の周辺に近づく程透過率が高くなる曲線であれば何でもよい。第3図に示す絞りは周辺部のみに数個又はそれ以上の多数個の小開口を有する絞りであり、金属板等に穴をあけることにより作製できる。また、第4図に示す絞りは第1図に示した絞りに近いものを簡便に金属板等をくりぬいて作製するため、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたものである。」と記載されている。 さらに、「第1図に示した円輪状開口絞りを使用した本発明の投影露光装置の一実施例によれば、線幅0.4μm、ピッチ0.8μmのラインアンドスペースまで解像し得ることが確認されている。円輪状開口絞りにおいてはできるだけ外側の光線だけを使うようにする程高解像性となるので、円輪開口絞りの外形、内径により効果はおのおの異なってくるが、いずれの場合も単純な円形開口に比較すると高解像となる。また、第2図〜第4図に示した絞りを用いてもそれぞれ透過光に応じた効果を生じ、これら以外の形状でも外側で高透過率を有する形状ならば何でもよい。」と記載されている。 また、「オプチカルインテグレータ5に入る光の分布を円錐レンズの着脱により周辺円輪状と中央集中型とに切り替え可能とし」と記載され、均一化光学系の入射側の照明光の分布を円輪状にする入射光学系が示されている。 また、【発明の効果】の項には、「以上説明したように本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞り等の均一絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着することにより、薄いレジスト層に従来より微細なパターンをより深い焦点深度で形成することができるので、半導体集積回路等の製造に適用すれば大幅な集積度向上がはかれる効果がある。」と記載されている。 第6図の説明として、2頁右下欄10行〜3頁左上欄18行を参照すると、第6図における第1集光光学系18、均一化光学系19、開口絞り9及び第2集光光学系20は、レチクル8を照明する光学系を構成するから、第6図には、レチクルを照明する照明光学系と、前記レチクル上のパターンを基板15上に投影露光する投影光学系14とを有する投影露光装置が図示され、均一化光学系19の出射側の、 2次光源24が形成される位置に開口絞り9が配置されたものが図示されている。 第3図には、周縁部に8つの円形状の小開口部を有する開口絞りが図示されている。 第4図には、周縁部に4つの弓形状の開口部を有する開口絞りが図示されている。 (4)-2 引用例に記載された発明の認定 引用例には、「第1集光光学系18、均一化光学系19、開口絞り9及び第2集光光学系20からなる、レチクル8を照明する照明光学系と、前記レチクル8上のパターンを投影光学系とを有する投影露光装置において、均一化光学系19と、前記均一化光学系に相当するオプティカルインテグレータに入る光の分布を周辺円輪状とする円錐レンズと、均一化光学系19の出射側の、2次光源24が形成される位置に配置された開口絞り9とを有し、前記開口絞り9は、周縁部に8つの円形状の小開口部を有する金属板又は、周縁に4つの弓形状の開口部を有する金属板である投影露光装置。」の発明が記載されている。 (5) 訂正の適否についての判断 (5)-1 訂正明細書に基づく出願日の認定 訂正発明の必須の構成である「1対の透過部である第1領域」が、原出願の明細書に記載又はその構成の示唆がされているか否かについて検討すると、原出願の明細書には、「1対の透過部である第1領域」なる記載がなく、また、その構成の示唆もない。さらに、原出願の明細書には、「1対の透過部である第1領域」なる構成についての技術的意義に関して何ら記載されておらず、その示唆もされていない。 そうすると、原出願の明細書に記載又は示唆されていない「1対の透過部である第1領域」を構成とする訂正発明は、原出願に包含される発明の一部を分割したものとすることができないので、本件特許に係る出願日は、平成8年3月11日であると認める。 なお、特許権者(原告ら)は、平成11年2月26日付け意見書において、原出願の明細書において「1対の透過部」なる技術上の概念が示唆されている根拠として、原出願の明細書14頁14行〜15頁6行の記載「第1図に示した円輪状開口絞りを使用した本発明の投影露光装置の一実施例によれば、線幅0.4μm、ピッチ0.8μmのラインアンドスペースまで解像し得ることが確認されている。円輪状開口絞りにおいてはできるだけ外側の光線だけを使うようにするほど高解像性となるので、円輪開口絞りの外形、内径により効果はおのおの異なってくるが、いずれの場合も単純な円形開口に比較すると高解像となる。また、第2図〜第4図に示した絞りを用いてもそれぞれ透過光に応じた効果を生じ、これら以外の形状でも外側で高透過率を有する形状ならば何でもよい。」旨の記載を挙げている(原出願の出願当初の図面第1図〜第4図は、本判決別紙原出願当初図面)。 また、この記載から、第1図に示した円輪状開口フィルタによる効果とは異なる、第3図に示された1対の開口部を4組有するフィルタによる透過光の分布に応じた効果、第4図に示された1対の開口部を2組有するフィルタによる透過光の分布に応じた効果が生じる旨主張している。 上記主張について検討すると、原出願の明細書【問題点を解決するための手段】の項には、「本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着可能としたものである。」と記載されていること、また、【実施例】の項において、 「本発明に係わる投影露光装置に適用される特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。 第1図に示す絞りは円輪状に通過域を有する絞りであり、照射光の透過率が高い石英、フッ化カルシウム、フッ化リチウム等の基板にクロム等の遮光体を蒸着することによって作製することができる。また第2図(a)に示す絞りは透過率に分布を有する絞りである。この透過率の分布は、第2図(b)に示すように、周辺に近づくほど透過率が高く中心に近づくと低透過率あるいは完全遮光となる絞りである。この絞りは、第1図に示す絞り同様に、透過基板に遮光体を径方向に厚さ分布を持たせて付着させることにより作製することができる。なお第2図(b)に示す曲線は、円の周辺に近づくほど透過率が高くなる曲線であれば何でもよい。第3図に示す絞りは周辺部のみに数個又はそれ以上の多数個の小開口を有する絞りであり、金属板等に穴をあけることにより作製できる。また、第4図に示す絞りは第1図に示した絞りに近いものを簡便に金属板等をくりぬいて作製するため、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたものである。」 と記載されていること、さらに、【発明の効果】の項には、「以上説明したように本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞り等の均一絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着することにより、薄いレジスト層に従来より微細なパターンをより深い焦点深度で形成することができるので、半導体集積回路等の製造に適用すれば大幅な集積度向上がはかれる効果がある。」と記載されていることからすると、原出願の出願当初の明細書に記載され又は示唆された実施例は、「円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り」なる概念を開示したにすぎない。 そうすると、原出願の願書に最初に添付された図面の第3図及び第4図に示されたものに固有の効果は、「金属板等に穴をあけることにより作成できる」又は、 「簡便に金属板等をくりぬいて作成」できるというものであって、それらの開口部が一対であるか否かによって生ずるものでないから、それらの図に示されたものが、それぞれ、一対の開口部を4組有するもの及び一対の開口部を2組有するものであると解したとしても、これらの図は、「円輪状透過部を有する形状」を単に例示するものとして記載されたにすぎず、「一対の透過部である第1領域」という技術的概念が、原出願の出願当初の明細書又は図面に、記載又は示唆されていたとする根拠とはならない。 (5)-2 訂正拒絶理由において示した引用例との対比 訂正発明と、引用例に記載された発明とを対比すると、引用例に記載された発明の「開口絞り9」及び「円錐レンズ」は、訂正発明の「光学部材」及び「入射光学系」に相当し、引用例に記載された発明において、2次光源24は均一化光学系によって形成され、レチクル8を均一に照明するためのものである。そして、4つの弓形状の開口部は、開口絞り9の周縁部にあることから2次光源の中心から偏心した位置にあたり、開口絞り9は、4つの弓形状の開口部でのみ照明光を透過させるから、透過部である領域と、光を透過させない、すなわち、透過部よりも低い透過率である領域とから構成されている。 そうすると、訂正発明と引用例に記載された発明とは、「レチクルを照明する照明光学系と、前記レチクル上のパターンを投影光学系を基板上に投影露光する投影光学系とを有する投影露光装置において、前記照明光学系は、前記レチクルを均一に照明するために2次光源を形成する均一化光学系と、前記均一化光学系の入射側の照明光の分布を円輪状にする入射光学系と、該2次光源が形成される位置に配置された光学部材とを有し、前記光学部材は、前記2次光源の中心から偏心した位置に配置された透過部を持つ第1領域と、該第1領域以外の領域に形成されかつ第1領域の透過部よりも低い透過率を持つ第2領域とを有する投影露光装置」である点で一致し、訂正発明が、「1対の透過部」なる構成を有するのに対し、引用例に記載された発明は4つの弓形状の透過部を有するものである点で相違する。 上記相違点について検討すると、引用例に記載された発明において、弓形状の開口部は、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたことによって、形成されたものであって、つなぎの部分は、開口絞り9の中央部分を支持するために適宜の数形成すればよいものであるから、引用例に記載された発明において、つなぎの部分を2箇所とし、弓形状の開口部を2つすなわち一対とすることは、当業者が容易になし得るものにすぎず、またそのようにすることに格別の意義は認められない。 そうすると、訂正発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると認められる。 (5)-3 訂正の適否についての結論 そうすると、訂正発明は、出願の際独立して特許を受けることができないものである。 したがって、訂正請求は、特許法120条の4第3項で準用する同法126条4項の規定に適合しない。 以上のとおりであるから、訂正請求は認められない。 (6) 異議申立てに対する判断 (6)-1 特許明細書に基づく出願日の認定 請求項1に係る発明の必須の構成である「1対の透過部を持つ第1領域」が、原出願の明細書に記載又はその構成の示唆がされているか否かについて検討すると、 原出願の明細書には、「1対の透過部を持つ第1領域」なる記載がなく、また、その構成の示唆もない。さらに、原出願の明細書には、「1対の透過部を持つ第1領域」なる構成についての技術的意義に関して何ら記載されておらず、その示唆もされていない。 そうすると、原出願の明細書に記載又は示唆されていない「1対の透過部を持つ第1領域」を構成とする請求項1に係る発明は、原出願に包含される発明の一部を分割したものとすることができないので、本件特許に係る出願日は、平成8年3月11日であると認める。 (6)-2 本件特許の請求項1に係る発明(本件第1発明)と引用例との対比 本件第1発明と、引用例に記載された発明とを対比すると、引用例に記載された発明の「開口絞り9」及び「円錐レンズ」は、本件第1発明の「光学部材」及び「入射光学系」に相当し、引用例に記載された発明において、2次光源24は均一化光学系によって形成され、レチクル8を均一に照明するためのものである。そして、4つの弓形状の開口部は、開口絞り9の周縁部にあることから2次光源の中心から偏心した位置に当たり、開口絞り9は、4つの弓形状の開口部でのみ照明光を透過させるから、透過部である領域と、光を透過させない、すなわち、透過部よりも低い透過率である領域とから構成されている。 そうすると、本件第1発明と引用例に記載された発明とは、「レチクルを照明する照明光学系と、前記レチクル上のパターンを投影光学系を基板上に投影露光する投影光学系とを有する投影露光装置において、前記照明光学系は、前記レチクルを均一に照明するために2次光源を形成する均一化光学系と、該2次光源が形成される位置に配置された光学部材とを有し、前記光学部材は、2次光源の中心から偏心した位置に配置された透過部を持つ第1領域と、該第1領域以外の領域に形成されかつ第1領域の透過部よりも低い透過率を持つ第2領域とを有する投影露光装置。」である点で一致し、本件第1発明が、「1対の透過部」なる構成を有するのに対し、引用例に記載された発明は4つの弓形状の開口部を有するものである点で相違する。 上記相違点について検討すると、引用例に記載された発明において、弓形状の開口部は、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたことによって、形成されたものであって、つなぎの部分は、開口絞り9の中央部分を支持するために適宜の数形成すればよいものであるから、引用例に記載された発明において、つなぎの部分を2箇所とし、弓形状の開口部を2つすなわち一対とすることは、当業者が容易になし得るものにすぎず、またそのようにすることに格別の意義は認められない。 そうすると、本件第1発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると認められる。 (6)-3 本件特許の請求項2に係る発明(本件第2発明)と引用例との対比 引用例に記載された発明における開口絞り9の弓形の開口部も2次光源の中心から等距離に配置されているものと認められるから、本件第2発明は、本件第1発明と同様に上記引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると認められる。 したがって、本件第2発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 (6)-4 本件特許の請求項3に係る発明(本件第3発明)と引用例との対比 上記引用例に記載された発明の開口絞り9も4つの弓形状の開口部を有し、フィルタとして機能するものであるから、本件第3発明は、本件第1発明と同様に上記引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると認められる。 したがって、本件第3発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 (6)-5 本件特許の請求項4に係る発明(本件第4発明)と引用例との対比 上記引用例2に記載された発明の開口絞り9も8つの円形状の開口部を有し、フィルタとして機能するものであるから、本件第4発明は、本件第1発明と同様に上記引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると認められる。 したがって、本件第4発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものである。 (7) むすび 以上のとおりであるから、本件第1〜第4発明に係る特許は、取り消すべきものである。 |
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原告ら主張の決定取消事由
決定は、訂正発明の必須の構成である「1対の透過部である第1領域」が、原出願の明細書に記載がなく、また、その構成の示唆もないと認定しているが、誤りである。その結果、決定は分割要件について誤って判断したものである。 1 原出願の明細書の【実施例】の項には、「本発明に係わる投影露光装置に適用される特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。」と記載され、第3図には、周縁部に8つの円形状の小開口部を有する開口絞りが、第4図には、周縁部に4つの弓形状の開口部を有する開口絞りが図示されている。かかる8つの円形状の小開口部及び4つの弓形状の開口部を別言すれば、4組の一対の開口部及び2組の一対の開口部である。つまり、「1対の透過部である第1領域」なる構成は、原出願の第3図と第4図とに開示された4組の一対の開口部と2組の一対の開口部との共通の構成として表現したものであり、原出願の明細書にはその構成の開示がある。 2 決定は、原出願の明細書の【問題を解決するための手段】の項、【実施例】の項の一部、及び【発明の効果】の項の記載を根拠として次のように認定している。 「原出願の出願当初の明細書に記載され又は示唆された実施例は、『円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り』なる概念を開示したにすぎない。そうすると、原出願の願書に最初に添付された図面の第3図及び第4図に示されたものに固有の効果は、『金属板等に穴をあけることにより作成できる』又は、『簡便に金属板等をくりぬいて作成』できるというものであって、それらの開口部が一対であるか否かによって生ずるものでないから、 それらの図に示されたものが、それぞれ、一対の開口部を4組有するもの及び一対の開口部を2組有するものであると解したとしても、これらの図は、『円輪状透過部を有する形状』を単に例示するものとして記載されたにすぎず、『1対の透過部である第1領域』という技術的概念が、原出願の出願当初の明細書又は図面に、記載又は示唆されていたとする根拠とはならない。」 この認定は、原出願の出願当初の明細書に記載され又は示唆された実施例は、第1図に開示されたような円輪状透過部を有する形状によって中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りのみを開示し、第3図及び第4図は、「円輪状透過部を有する形状」を単に例示するものと判断した結果であり、失当である。 3 そこには以下のとおり、「1対の透過部である第1領域」という技術的概念が記載されている。 (1) 原出願の出願当初の明細書に記載され又は示唆された実施例から導ける概念は、「中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り」であり、その特殊絞りの各実施例が、それぞれ第1図ないし第4図に開示されているのである。そして、訂正発明は、特に第3、第4図に開示された技術的概念を表したものである。 (2) 原出願の明細書の【問題を解決するための手段】の項には、「本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着可能としたものである。」と記載されている。 すなわち、「円輪状透過部を有する形状等」とあるように、原出願の明細書の【問題を解決するための手段】は、中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り(光学部材)として、第1図に示された円輪状透過部を有する特殊絞りのみでなく、他の形状をも意図した記載となっている。つまり、原出願の明細書の【問題を解決するための手段】は、原出願の第3図及び第4図に示された「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する特殊絞りも技術的概念として開示する。 (3) 原出願の明細書の【実施例】の項において、「本発明に係わる投影露光装置に適用される特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。第1図に示す絞りは円輪状に通過域を有する絞りであり、照射光の透過率が高い石英、フッ化カルシウム、フッ化リチウム等の基板にクロム等の遮光体を蒸着することによって作製することができる。・・・第3図に示す絞りは周辺部のみに数個又はそれ以上の多数個の小開口を有する絞りであり、金属板等に穴をあけることにより作製できる。また、第4図に示す絞りは第1図に示した絞りに近いものを簡便に金属板等をくりぬいて作製するため、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたものである。」と記載されている。 (4) 上記引用箇所には、第1図に示された「円輪状透過部を有する形状」の絞りの単に例示として、第3図、第4図に示された絞りを説明する旨の趣旨の類はどこにも記載されていない。それどころか上記引用箇所には「特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。」と記載されている。つまり、 中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りとして、一つの実施例は第1図に示された特殊絞りであり、また別の実施例は第3図に示された特殊絞り、さらに別の実施例は第4図に示された特殊絞りであることを意図している。第3図及び第4図を参照すれば、それぞれ一対の開口部を4組有する特殊絞り及び一対の開口部を2組有する特殊絞りを示唆していることが明らかである。すなわち原出願の明細書の【実施例】の項は、原出願の第3図及び第4図に示された、「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する特殊絞りを開示している。 (5) 原出願の明細書の【発明の効果】の項において、「以上説明したように本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞り等の均一絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着することにより、薄いレジスト層に従来より微細なパターンをより深い焦点深度で形成することができるので、半導体集積回路等の製造に適用すれば大幅な集積度向上がはかれる効果がある。」と記載されている。 つまり、原出願の明細書の【発明の効果】の項は、第1図に示された円輪状透過部の特殊絞りのみでなく、他の形状であっても中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りであれば、微細なパターンをより深い焦点深度で形成することができる旨を開示している。すなわち、原出願の明細書の【発明の効果】は、原出願の第3図,第4図に示された「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する特殊絞りも技術的概念として開示する。 (6) さらに、原出願の明細書の14頁14行〜15頁6行には、「第1図に示した円輪状開口絞りを使用した本発明の投影露光装置の一実施例によれば、線幅0.4μm、ピッチ0.8μmのラインアンドスペースまで解像し得ることが確認されている。円輪状開口絞りにおいてはできるだけ外側の光線だけを使うようにする程高解像性となるので、円輪開口絞りの外形、内径により効果はおのおの異なってくるが、いずれの場合も単純な円形開口に比較すると高解像となる。また、第2図〜第4図に示した絞りを用いてもそれぞれ透過光の分布に応じた効果を生じ、これら以外の形状でも外側で高透過性を有する形状ならば何でもよい。」と記載がある。 この記載は、第1図に示した円輪状開口絞りによる効果とは異なる、第3図に示された1対の開口部を4組有する絞りによる透過光の分布に応じた効果、第4図に示された1対の開口部を2組有する絞りによる透過光の分布に応じた効果が生じる旨を示している。つまり、「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」による効果も、原出願の明細書に開示されている。決定の「原出願の願書に最初に添付された図面の第3図及び第4図に示されたものに固有の効果は、「金属板等に穴をあけることにより作成できる」又は、「簡便に金属板等をくりぬいて作成」できるというものであって、それらの開口部が一対であるか否かによって生ずるものでない」との判断は、上記「第2図〜第4図に示した絞りを用いてもそれぞれ透過光の分布に応じた効果を生じ」の記載を看過したものである。 4 以上のように、訂正発明の必須の構成である「1対の透過部である第1領域」という技術的概念が、原出願の出願当初の明細書及び図面に、記載又は示唆されている。 そうすると、原出願の出願当初の明細書及び図面に記載又は示唆されている「1対の透過部である第1領域」を構成とする前記訂正発明は、原出願に包含される発明の一部を分割したものであり、本件特許に係る出願の出願日は、昭和59年10月11日である。審決は、この点の認定を誤ったものである。 |
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決定取消事由に対する被告の反論
1 原出願の出願当初の明細書及び図面の記載は、「円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り」なる概念を開示しているにすぎない。 2 原出願に開示された特殊絞りの形状についてみると、第1図〜第4図に示された開口部の形状はいずれも円周の全体にわたって開口部の形状を形成したものが開示されているのみであって、「円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り」における「形状等」に含まれる形状はせいぜい「略円輪状透過部を有する形状」と解すべきであって、円周上の一部分のみに透過部を有するものまで含むと解することはできない。 「円輪状透過部を有する形状等」が「1対の透過部である第1領域」という概念を意味するものでもなく、また、第3図及び第4図に示された、8つの小開口、又は4つの弓形開口が、一「対」の透過部の例示としてされたものである根拠もない。そして、一「対」の開口部は、対となる開口部があることを意味し、したがって、開口部の数は偶数でなければならないが、原出願においては開口部の数は偶数でなければならない旨の記載はない。 3 原出願の明細書【問題点を解決するための手段】の項には、「本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着可能としたものである。」と記載されていること、また、【実施例】の項において、「本発明に係わる投影露光装置に適用される特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。第1図に示す絞りは円輪状に通過域を有する絞りであり、照射光の透過率が高い石英、・・・等の基板にクロム等の遮光体を蒸着することによって作製することができる。また第2図(a)に示す絞りは透過率に分布を有する絞りである。この透過率の分布は、第2図(b)に示すように、周辺に近づく程透過率が高く中心に近づくと低透過率あるいは完全遮光となる絞りである。・・・第3図に示す絞りは周辺部のみに数個又はそれ以上の多数個の小開口を有する絞りであり、金属板等に穴をあけることにより作製できる。また、 第4図に示す絞りは第1図に示した絞りに近いものを簡便に金属板等をくりぬいて作製するため、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたものである。」と記載されていること、さらに、【発明の効果】の項には、「以上説明したように本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞り等の均一絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着することにより、薄いレジスト層に従来より微細なパターンをより深い焦点深度で形成することができるので、半導体集積回路等の製造に適用すれば大幅な集積度向上がはかれる効果がある。」と記載されていることからすると、原出願の出願当初の明細書及び図面の第3図及び第4図に記載された実施例は、「円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り」の例示として示されたものである。 |
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当裁判所の判断
1 原出願の明細書の記載 甲第4号証によれば、原出願の出願当初の明細書及び図面(願書添付明細書及び図面)に次の記載があることが認められる。 @「[産業上の利用分野] 本発明は、半導体集積回路等の製造に要する微細レジストパターンを形成する投影露光装置に関するものである。」(2頁12ないし15行) A「[発明が解決しようとする問題点] ・・・従来の装置においては、レチクル8を照射する光の性質を制御するのがコヒーレンシイσ値だけであるため、焦点深度、領域内均一性、線幅制御性等各種条件を満たしつつ微細パターンを形成しようとすると、NAとσとによって決まる限界があった。したがって、投影光学系14の開口数NAと2次光源24の大きさが決まると、パターン形成特性が自動的に決り、さらに解像性能を高めることはできなかった。」(10頁11ないし19行) B「本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、投影光学系の開口数とレチクル照射用2次光源の大きさを固定した後のパターン解像性能をさらに向上させる投影露光装置を提供することにある。」(10頁下から1行ないし11頁4行) C「[問題点を解決するための手段] このような目的を達成するために本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着可能としたものである。」(11頁5ないし10行) D「[作用] 本発明においては、レジストが薄い場合、解像度向上のために2次光源の中心部の光を用いず2次光源の周辺部の光のみによって露光する。」(11頁11ないし14行) E「「発明の効果」 本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞り等の均一絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着することにより、薄いレジスト層に従来より微細なパターンをより深い焦点深度で形成することができるので、半導体集積回路等の製造に適用すれば大幅な集積度向上がはかれる効果がある。また本発明はこのような特殊絞りと従来の均一絞りとを交換可能としたので、膜厚の厚いレジストにも対応できる効果がある。」(16頁下4行ないし15頁8行) F「[実施例] 本発明に係わる投影露光装置に適用される特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。・・・第1図に示す絞りは円輪状に通過域を有する絞りであり、照射光の透過率が高い石英・・・等の基板にクロム等の遮光体を蒸着することによって作製することができる。第2図(a)に示す絞りは透過率に分布を有する絞りである。この透過率の分布は、第2図(b)に示すように、周辺に近づく程透過率が高く中心に近づくと低透過率あるいは完全遮光となる絞りである。・・・第3図に示す絞りは周辺部のみに数個又はそれ以上の多数個の小開口を有する絞りであり、金属板等に穴をあけることにより作製できる。また、第4図に示す絞りは第1図に示した絞りに近いものを簡便に金属板等をくりぬいて作製するため、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたものである。」(11頁15行ないし12頁17行) G「第1図〜第4図に示した絞りを用いた本発明に係わる投影露光装置では、2次光源の中心部の光を用いず2次光源の周辺の光のみによって露光することができるので、レジストを薄くすれば、従来の装置ではとうてい得られなかった微細結晶のパターンを得ることができる。」(14頁3ないし8行) H「第1図に示した円輪状開口絞り・・・においてはできるだけ外側の光線だけを使うようにする程高解像性となるので、円輪開口絞りの外形、内径により効果はおのおの異なってくるが、いずれの場合も単純な円形開口に比較すると高解像となる。また、第2図〜第4図に示した絞りを用いてもそれぞれ透過光に応じた効果を生じ、これら以外の形状でも外側で高透過率を有する形状ならば何でもよい。」(14頁14行ないし15頁6行) 原出願に添付された図面の第1図ないし第4図は別紙原出願当初図面のとおりであり、これによれば、第1図の絞りは、単一の円輪状の開口を備え、第2図の絞りは、開口を備えないが、絞りの中心から周辺部に向けて光の透過率が高まるように構成され、第3図の絞りは、周辺部円周上に等間隔で8個の円形の小開口を備え、 第4図の絞りは周辺部円周上に等間隔で4個の円弧状の開口を備えることが認められる。 2 原出願の明細書における「1対の透過部」についての記載又は示唆の有無 (1) これらの記載及び図面のうち、「円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り」の形状・機能等に関連する記載としては、「本発明は、従来装置が用いていた2次光源の大きさを決める円形絞りの代わりに円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞りを装着可能としたものである。」(C)、「本発明に係わる投影露光装置に適用される特殊絞りとしての2次光源制御用絞りの各実施例を第1図〜第4図に示す。」(F)、「第1図に示す絞りは円輪状に通過域を有する絞りであり、照射光の透過率が高い石英・・・等の基板にクロム等の遮光体を蒸着することによって作製することができる。」(F)、「第2図(a)に示す絞りは透過率に分布を有する絞りである。この透過率の分布は、第2図(b)に示すように、周辺に近づく程透過率が高く中心に近づくと低透過率あるいは完全遮光となる絞りである。」(F)、「第3図に示す絞りは周辺部のみに数個又はそれ以上の多数個の小開口を有する絞りであり、金属板等に穴をあけることにより作製できる。」(F)、「第4図に示す絞りは第1図に示した絞りに近いものを簡便に金属板等をくりぬいて作製するため、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたものである。」(F)、「円輪状開口絞りにおいてはできるだけ外側の光線だけを使うようにする程高解像性となるので、円輪開口絞りの外形、内径により効果はおのおの異なってくるが、いずれの場合も単純な円形開口に比較すると高解像となる。また、 第2図〜第4図に示した絞りを用いてもそれぞれ透過光に応じた効果を生じ、これら以外の形状でも外側で高透過率を有する形状ならば何でもよい。」(H)等があるが、これらはいずれも、絞りの開口部を「対」あるいは「組」として把握することについて、何ら具体的に言及していないことが明らかである。 (2) そして、第4図の絞りについては、「第4図に示す絞りは第1図に示した絞りに近いものを簡便に金属板等をくりぬいて作製するため、円輪開口部の一部につなぎの部分を入れたものである。」(F)と記載されているところ、これによれば、第4図の絞りは、第1図の絞り(この絞りは、単一の円輪状の開口を有し、したがって、その開口を、「対」あるいは「組」として把握する余地がないことは明らかである。)に近いものを簡便に作製することができることにあるとされているのであるから、この記載は、第4図の絞りの開口を「対」あるいは「組」として把握することを示唆するというより、否定するものというべきである。 第3図の絞りについては、「第3図に示す絞りは周辺部のみに数個又はそれ以上の多数個の小開口を有する絞りであり、金属板等に穴をあけることにより作製できる。」(F)と記載されているところ、これによれば、絞りの開口の数は、「数個又はそれ以上の多数個」とのみ記載され、例えば、その数が偶数個であるなど、 「対」あるいは「組」を構成することを示唆する記載を何ら含んでいない。むしろ第3図の絞りについても、その作製法について「金属板等に穴をあけることにより作製できる」(F)とし、円輪状に近い開口を簡便に金属板等をくりぬいて作製できることを特徴とする第4図の絞りと同旨の記載があるのであり、第3図の絞りに関する記載からも、その開口を「対」あるいは「組」として把握することが示唆されているということはできない。 (3) 以上のとおり、原出願の出願当初の明細書及び図面には、第3図及び第4図の絞りの開口を「対」あるいは「組」として把握することについての記載あるいは示唆があるとはいえず、これを抽象化した「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」の概念が記載ないし示唆されているとも認めることはできない。 3 原告らの主張について (1) 原告らは、原出願の出願当初の明細書又は図面には、「円輪状透過部を有する形状等中央部に対して周辺部の透過率が高くなるようにした特殊絞り」の実施例として、第3図に、周縁部に8つの円形状の小開口部を有する開口絞りが、第4図に、周縁部に4つの弓形状の開口部を有する開口絞りがそれぞれ図示されており、 これらは、一対の開口部を4組有する特殊絞り、及び一対の開口部を2組有する特殊絞りといえるから、原出願の当初明細書及び図面には「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する特殊絞りの技術的概念が記載又は示唆されている旨、主張する。 第1図の絞りは、単一の円輪状の開口を備え、第2図の絞りは、絞りの中心から周辺部に向けて光の透過率が高まるように構成され、第3図の絞りは、周辺部円周上に等間隔で8個の円形の小開口を備え、第4図の絞りは周辺部円周上に等間隔で4個の円弧状の開口を備えるものであることは、上記Iのとおりである。 これらの絞りの全周方向の透過光の分布についてみると、第1図及び第2図の絞りでは周辺部の全周から光が均一に透過し、第3図の絞りでは規則的に変化しながらも周辺部の全周から光が透過し、第4図の絞りでは極く一部を除き周辺部の全周からほぼ均一に光が透過するものであって、それぞれ透過光の分布は異なるものの、いずれの絞りにおいても、巨視的にみれば周辺部のほぼ全周から光が透過するものであることが認められる。 仮に原告らが主張するように、第3図、第4図の絞りはそれぞれ、「一対の開口部を4組有する特殊絞り」、「一対の開口部を2組有する特殊絞り」であり、これらから、「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する特殊絞りの技術的概念が記載又は示唆されていると解釈すると、 「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する絞りには、例えば、第3図に示される8個、すなわち4対(組)の開口部のうちの1対(組)の開口部のみを備えたものが包含されることとなる。同様に、第4図の絞りについては、2対(組)の開口部のうちの1対(組)の開口部のみを備えたものが包含されることとなる。 しかしながら、そのような絞りは、周辺部の光のうち、1対(組)の領域からの光のみを透過するものであって、光を透過する領域が偏在し、巨視的に見ても、絞りの周辺部のほぼ全周から光が透過するものではないから、仮に、そのような絞りを備えた投影露光装置を半導体装置の製造に使用すると、そのような開口部を透過した光は、レチクルを均等に照射することができず、その結果、レチクル上のパターンを均一にウエハに投影することが不可能となり、ひいては「パターン解像性能をさらに向上させる投影露光装置を提供する」との本件発明の目的、あるいは「薄いレジスト層に従来より微細なパターンをより深い焦点深度で形成することができる」との効果を達成することができないことは、当業者が直ちに理解し得るところである。 そうすると、第3図及び第4図が、「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する絞りを記載しあるいは示唆するものであると認めることはできない。 (2) 原告らはまた、決定は、原出願の出願当初の明細書の「第2図〜第4図に示した絞りを用いてもそれぞれ透過光の分布に応じた効果を生じ」との記載を看過したものであるとし、この記載は、第3図に示された1対の開口部を4組有する絞り及び第4図に示された1対の開口部を2組有する絞りは、それらの透過光の分布に応じ、第1図に示された絞りと異なる効果が生じる旨を示すものであり、「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」からの透過光による効果を開示するものである旨主張し、その効果は甲第9号証(原告株式会社ニコンの担当者による効果比較)により明らかである旨主張する。 しかしながら、甲第9号証は、第3図に示される8個の開口を有する絞り及び第4図に示される4個の開口を有する絞りと、第1図に示される円輪状の1個の絞りの効果の差異を示すのみであって、上記のような「2次光源の中心から偏心した位置に配置された1対の透過部である第1領域」を有する絞りについてテストしたものでないから、甲第9号証の記載をもって、原告ら主張の効果を認めることはできない。 4 総括 したがって、「『1対の透過部である第1領域』を構成とする前記訂正発明は、 原出願に包含される発明の一部を分割したものとすることができないので、本件特許に係る出願日は、平成8年3月11日である」とした決定の認定に誤りはない。 原告らの決定取消事由は、決定が認定した出願日に誤りがあることを前提にするものであり、理由がない。 |
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結論
以上のとおり、原告ら主張の決定取消事由は理由がないので、原告らの請求は棄却されるべきである。 (平成13年1月18日口頭弁論終結) |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 橋本英史 |