関連審決 | 異議1999-70947 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 着想 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 訂正の目的 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
137号
特許取消決定取消請求事件
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原告 ソニー株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁護士 中村稔 同 熊倉禎男 同 田中 伸一郎 同 渡辺光 同 弁理士 竹内英人 被告 特許庁長官【B】 指定代理人 【C】 同 【D】 同 【E】 同 【F】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/01/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年異議第70947号事件について平成12年3月9日にした決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和62年7月31日、名称を「光ディスク装置」とする発明(以下「本件発明」という。)につき特許出願をし(特願昭62-192225号)、 平成10年7月3日に特許第2798245号として設定登録を受けた。 【G】は、平成11年3月17日、本件特許につき特許異議の申立てをし、 平成11年異議第70947号事件として特許庁に係属したところ、原告は、同年8月16日、明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明を訂正する旨の訂正請求をし、この訂正請求に係る訂正請求書及び訂正明細書は、同年11月22日付けの手続補正書をもって補正された(以下、この補正を「本件補正」といい、本件補正後の上記訂正請求を「本件訂正請求」という。)。 特許庁は、上記特許異議の申立てにつき審理した上、平成12年3月9日に「特許第2798245号の特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同月28日原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 設定登録時の明細書の特許請求の範囲の記載 再生ビームのスポットの直径より小なる幅を有して所定周波数でウォブリングされた溝が予め形成され、且つ上記溝内に記録可能領域が設けられた光ディスクに対し、 この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、 上記記録可能領域に記録された情報を再生するためのクロック情報を上記検出器の差信号として得られる上記溝のウォブリング周波数成分から検出するとともに、上記記録可能領域に記録された情報を上記検出器の和信号として検出するようにした光ディスク装置。 (2) 本件訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の記載 再生ビームのスポットの直径より小なる幅を有して、両側の側面が同一位相の所定周波数でウォブリングされた一定の深さの溝が予め形成され、且つ上記溝内に反射率が変化する記録可能領域が設けられた光ディスクに対し、 この光ディスクの径方向に対応して分割された検出器を設け、 上記記録可能領域に記録された情報を再生するためのクロック情報を上記検出器の差信号として得られる上記溝のウォブリング周波数成分から検出するとともに、上記記録可能領域に記録された情報を上記検出器の和信号として検出するようにした光ディスク装置。 (以下、訂正明細書に記載された本件発明を「訂正発明」という。) 3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、@本件補正は特許法120条の4第3項において準用する同法131条2項の規定に適合するとした上で、A訂正発明は、特開昭61-236046号公報(甲第4号証、以下「刊行物1」という。)及び特開昭61-260432号公報(甲第5号証、以下「刊行物2」という。)記載の各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、同法120条の4第3項において準用する同法126条4項の規定に適合せず、本件訂正請求は認められないとし、B本件発明の要旨を設定登録時の明細書の特許請求の範囲記載のとおりと認定した上、本件発明は、刊行物1、2記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、同法29条2項の規定により特許を受けることができず、同法113条2号に該当するから、本件特許を取り消すとした。 |
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原告主張の本件決定取消事由
1 本件決定の理由中、本件補正の適否の認定判断(決定謄本1頁理由欄10行目〜2頁35行目)、本件訂正請求に係る訂正の内容の認定(同2頁37行目〜3頁12行目)、本件訂正請求に係る訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否についての認定判断(同3頁14行目〜4頁7行目)、刊行物1、2の記載事項の認定(同4頁25行目〜6頁33行目)並びに訂正発明と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点の認定(同6頁35行目〜7頁36行目)は認める。 本件決定は、訂正発明と刊行物1記載の発明との相違点1、2及び4についての判断を誤り(取消事由)、本件訂正請求は認められないとした結果、本件発明の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである(本件決定の理由中、相違点3については争わない。)。 2 取消事由(相違点についての判断の誤り) (1) 訂正発明の課題 訂正発明は、反射光の強弱によって記録された主情報を読み取る反射率変化型の光ディスクに関するものであり、その技術的課題も、「従来の光ディスクでは、グルーブのウォブリング情報は、トラッキングエラーの情報のみを考慮されたものであった。光ディスクを記録/再生する時に、光ディスクからの再生信号と同期したクロック情報を検出する必要があり、従来では、記録されるデータと共に、 クロック情報を記録していた。その結果、光ディスクの記録可能領域に記録できるデータ量を減少させる問題があった。従って、この発明の目的は、ウォブリングされたグルーブがトラッキング情報のみならず、クロック情報を含むことによって、 光ディスク上に記録できるデータ量を増加させることが可能な光ディスク装置を提供することにある。」(訂正明細書1頁20行目〜28行目)というもので、反射率変化型の光ディスクに固有のものである。 これに対し、刊行物1において具体的な技術として開示されているのは、 MO(光磁気ディスク)に関するもののみで、しかも、MOの主情報の読み取りは反射光の強弱によるものではないから、CDとの互換性の配慮もない。反射率変化型の光ディスクに固有な上記の技術的課題については開示も示唆もない。また、刊行物2その他の従来例においても、「反射率変化型の光ディスクにおいて、ウォブリングされた溝(グルーブ)にトラッキング情報のみならずクロック情報をも含ませ、記録するデータ量を増加させる」との上記のような訂正発明の課題について開示がない。 したがって、訂正発明がこれらの刊行物記載の発明から当業者が容易に想到することができるとの本件決定の判断は誤りである。 (2) 相違点1(「反射率が変化する」記録方法)について 本件決定は、訂正発明と刊行物1記載の発明との相違点1(前者は、溝内に反射率が変化する記録可能領域を設けるのに対し、後者ではどのような記録方法を用いているのか明確でない点)に関して、刊行物1(甲第4号証)の「記録材料層15の溝の底部、即ち、案内溝13の底部に対応する部分が情報信号の書込み状況に応じて反射率が変化するものとされていると、その反射率変化がクロック信号の読取り出力に誤差成分として混入することになる。従って、・・・情報信号の書込み状況に応じた反射率変化を伴わない光磁気記録が行われる垂直磁化膜とされると、クロック信号の読取り出力に混入する誤差成分に対する補償が不必要となって好都合である。」(7頁右上欄17行目〜左下欄8行目)との記載には、「裏返せば、誤差成分の補償さえすれば、刊行物1に記載の発明を『溝内に反射率が変化する記録可能領域』を設ける記録に対しても適用可能であることが示唆されている」とし、この示唆に基づいて、刊行物1記載の発明を反射率変化型の光ディスクに適用することは容易であるとする(決定謄本8頁1行目〜12行目)。 しかし、刊行物1記載の発明に係るディスクは光磁気ディスクであって、 反射率変化型の光ディスクではないところ、本件決定が引用摘示する刊行物1の上記記載は、反射率変化型を採用した場合にはクロック信号等の情報に悪影響を及ぼすことを明示するものであり、しかも、クロック信号の読み取り出力に混入する誤差成分を補償する手段については他に何らの記載もない。したがって、刊行物1は、「ウォブリングされた溝にトラッキング情報のみならずクロック情報をも含ませることにより記録するデータ量を増加させる」技術を反射率変化型の光ディスクに適用することが困難であることが記載されているものと理解すべきであり、本件決定の上記認定及び判断は誤りというべきである。 (3) 相違点2(「和信号として検出」する情報検出方法)について 本件決定は、訂正発明と引用例1記載の発明との相違点2(前者では、記録可能領域に記録された情報を検出器の和信号として検出しているのに対して、後者では、どのように検出されるのか不明である点)に関して、「プッシュプル方式では、2分割された検出器の出力の差から制御信号を、和から主たる記録情報を得るのが通常であり、刊行物1に記載の発明でも、この方式を採用している以上主たる記録情報は、本件訂正発明の検出器に相当する一対の受光素子の和信号から検出されると考えるのが妥当であることから、この相違点は見かけ上のものに過ぎない」(決定謄本8頁24行目〜28行目)とする。 しかし、刊行物1記載の発明に係るディスクは光磁気ディスクであり、光磁気ディスクは反射光の偏光面の回転を検出することにより主信号を読み出すものであるから、反射光の強度は変化せず、一対の受光素子の反射光量を足し合わせたところで主信号を取り出すことはできず、したがって、「刊行物1に記載の発明において、主信号が一対の受光素子の和信号から検出される」との上記認定は科学的事実に反するものであり、この認定に基づく上記判断は誤りである。 また、本件決定は、刊行物1、2等に記載の技術について、「細部では多少の差異はあるが、いずれも溝の内外からの反射光の強度の差から制御信号を検出する点では共通することから、信号の種類によらないで検出法としては同じものとして扱うことができるので、刊行物1に記載の発明に刊行物2に記載のプッシュプル方式の構成を適用することに何の無理もな」い(同9頁27行目〜32行目)とするが、上記のように刊行物1記載の発明は反射光の強度から主信号を読み出すものではないから、これに刊行物2記載のプッシュプル方式を適用する理由はない。 (4) 相違点4(ビームスポット直径と溝幅の大小関係)について 本件決定は、訂正発明と引用例1記載の発明との相違点4(前者では、再生ビームスポットの直径に比して溝の幅が小さいのに対し、後者では、この関係が不明である点)に関して、特開昭61-250843号公報(甲第7号証)、実願昭60-79238号のマイクロフィルム(実開昭61-195521号公報)(甲第8号証の1、2)、実願昭59-76408号のマイクロフィルム(実開昭60-192122号公報)(甲第9号証の1、2)、特開昭58-57640号公報(甲第10号証)を周知例として挙げ、「制御信号の検出の容易さ等の理由から、溝の幅より大きい径の光ビームを用いるのが一般的であって、この相違点も格別のものとは認められない」(決定謄本9頁12行目〜18行目)とする。 しかし、甲第7〜第10号証記載の発明は、トラッキング情報及びクロック情報の双方を含むようにウォブリングされた溝を有するものではない上、訂正発明と同じく反射率変化型で記録可能なディスクに関するものは甲第10号証記載の発明のみであり、しかも、同号証にはワイドグルーブ(グルーブの幅がトラックピッチの半分よりも広いもの)を採用するとの記載はない。ナローグルーブ(グルーブの幅がトラックピッチの半分よりも狭いもの)においては、結果的にビームスポットの直径よりもグルーブの幅が狭くなってしまうこともあるが、そのような構成とすべき必然性はないものであり、訂正発明のように、ワイドグルーブの場合も含めて溝幅よりもスポット径を大きくするという技術的な思想が示されているものではなく、相違点4に係る「再生ビームスポットの直径に比して溝の幅が小さい」構成が一般的であるとはいえない。 また、訂正発明は、溝の幅より大きい径の光ビームを用いる(再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい)ことにより、@記録するとグルーブ底部の記録部分の反射率が低下する方式(「HtoL」)及び同記録部分の反射率が高くなる方式(「LtoH」)のいずれを用いた場合でも、CDとの互換性を保持させることを可能とする、A幅が広い溝内に記録を行うために、記録スポット内の膜の平面性が良く、再生信号のS/Nが良くなる、Bゆらぎが少ないHF信号や安定したプッシュプル信号を得ることができるという顕著な作用効果を奏することができるのであり、上記の構成を格別のものではないとした本件決定の判断は誤りである。 (5) 相違点全体の判断の必要性 本件決定は、単に四つの相違点を個別に検討するだけで相違点全体が持つ意味について検討をしていない。四つの相違点のすべてについてその変更の方向性が同一である等の特段の事情がない限り、本件発明の構成は当業者において容易に想到することができるものではない。例えば、「溝内に反射率が変化する記録可能領域を設ける」(相違点1)構成は、「再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい」(相違点4)構成と何ら関係がないものであり、変更の方向性が同一であるとはいい難い。このような観点からの検討をしていない本件決定は誤りである。 |
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被告の反論
本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 訂正発明の課題について 原告は、訂正発明は、反射率変化型の光ディスクに固有の技術的課題を解決するものである旨主張する。しかし、本件で問題となるのは、刊行物1を前提として訂正発明に想到することが当業者にとって容易であったか否かであり、原告が現実にどのような出発点に立ち、何を前提にしたかは問題でない。本件決定は、各刊行物記載の発明を認定し、本件発明と対比し、そしてそれらの組合せによる容易想到性について判断したものであって、本件決定で引用していない刊行物1中の記載部分に基づく原告の主張は失当である。 2 相違点1(「反射率が変化する」記録方法)について 原告は、刊行物1には「ウォブリングされた溝にトラッキング情報のみならずクロック情報をも含ませることにより記録するデータ量を増加させる」技術の反射率変化型の光ディスクへの適用が困難であることが記載されている旨主張する。 しかし、刊行物1は、上記の技術を、反射率変化型と光磁気方式とに適用した際のそれぞれの優劣を比較しているだけで、反射率変化型の光ディスクへの適用を不可能とする阻害要因を示すものではない。むしろ、原告の指摘する刊行物1の記載は、裏返せば、誤差成分を補償しさえすれば、反射率変化型の光ディスクに対しても適用可能であることが示唆されているといえる。また、反射率変化型の光ディスクには誤差成分の補償が必要であるとの点については、訂正明細書の特許請求の範囲の記載においても、そのような誤差成分を補償するための特別な配慮が規定されているものではない。 さらに、訂正発明も刊行物1記載の発明も、ともにクロック信号の読み取り手段をプッシュプル法による点でも一致しており、前記示唆に基づいて、刊行物1に記載の発明を周知の反射率変化型のものに適用して、所望の作用効果を得ることに想到する程度のことは当業者にとって格別のことではないとした本件決定の判断に誤りはない。 3 相違点2(「和信号として検出」する情報検出方法)について 原告は、刊行物1記載のディスクは光磁気ディスクであり、和信号として主信号を取り出すことはできないから、「刊行物1に記載の発明において、主信号が一対の受光素子の和信号から検出される」との本件決定の認定は誤りである旨主張する。しかし、原告のこの主張は、刊行物1に記載の発明をMO(光磁気デイスク)に適用した場合に限ってのものであるところ、本件決定はMOへの適用を認定したものではないから、上記主張は失当である。刊行物1記載の発明を反射率変化型の光ディスクに採用した場合、トラックエラー信号をプッシュプル方式で検出し、主信号を和信号によって検出することは周知の方法であり、この点の本件決定の認定に誤りはない。 4 相違点4(ビームスポット直径と溝幅の大小関係)について 原告は、「相違点4は格別なものとは認められない」とした本件決定の判断は誤りである旨主張するが、原告も、「溝の幅とビームスポットの直径が同一であっても、または本件発明とは逆に、溝の幅がビームスポットの直径よりやや大きくても、ウォブリング(蛇行)周波数成分からクロック信号を検出することは可能である」(乙第1号証、特許異議意見書4頁18行目〜20行目)と認めており、かつ、反射率変化型の光ディスクにおいては、溝の幅より大きいスポットを用いる(再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい)ことが一般的である(甲第7〜第10号証)ことから、ウォブリング溝にクロック情報を含ませるか否かにかかわらず、「再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい」構成とすることは、当業者がまず最初に着想することである。 さらに、原告は、顕著な作用効果についても主張するが、原告が主張する作用効果の根拠となる明細書の記載は、本件決定でその訂正を認めなかった訂正明細書で初めて主張しているものであって、設定登録時の明細書には記載されていない事項であるから、原告の上記主張は失当である。 5 相違点全体の判断の必要性について 原告は、本件決定は各相違点を個別に検討するのみで発明全体として容易想到性の検討をしていないなどと主張するが、各相違点に係る構成を得ることが容易である以上、その相違点相互に組合せを妨げる特段の事情がない限り、組合せにより得られる全体の構成を得ることもまた容易である。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明の課題について 原告は、訂正発明は、反射率変化型の光ディスクに固有の技術的課題を解決するためのものであるのに、刊行物1、2記載の各発明には、そのような課題の開示がないので、当業者がこれらの刊行物記載の発明から訂正発明を想到するのは容易でない旨主張する。 しかし、訂正明細書(甲第3号証)には、「発明が解決しようとする課題」として、「従来の光ディスクでは、グルーブのウォブリング情報は、トラッキングエラーの情報のみを考慮されたものであった。光ディスクを記録/再生する時に、 光ディスクからの再生信号と同期したクロック情報を検出する必要があり、従来では、記録されるデータと共に、クロック情報を記録していた。その結果、光ディスクの記録可能領域に記録できるデータ量を減少させる問題があった。従って、この発明の目的は、ウォブリングされたグルーブがトラッキング情報のみならず、クロック情報を含むことによって、光ディスク上に記録できるデータ量を増加させることが可能な光ディスク装置を提供することにある。」(1頁20行目〜28行目)との記載があり、この記載によれば、訂正発明は、従来の光ディスクでは、ディスク上の記録領域内に他のデータとともにクロック情報を記録していた結果、記録することができるデータ量が減少するとの課題があったことから、ウォブリングされたグルーブにトラッキング情報のみならずクロック情報をも含ませ、ウォブリング周波数成分から検出可能とすることにより、記録領域内にクロック信号を記録する必要をなくし、記録することができるデータ量を増加させることを目的とするものであると認められる。 そうすると、訂正発明が解決しようとする課題は、ディスク上の記録領域内に記録する情報の種別及び配置に起因する課題であって、反射率変化型であるか光磁気方式であるかという記録方式に起因する課題であるとは認められず、したがって、訂正発明が、反射率変化型の光ディスクに固有な技術的課題を解決するものであるという原告の主張は失当というべきである。 さらに、刊行物1(甲第4号証)には、「従来の技術」として、「書込み可能なディスクには、通常、その基体表面の中央孔の周囲に、中央孔を取り囲む渦巻状の案内溝が予め設けられたものとされる。この案内溝は・・・トラッキング・エラー信号を得るべく使用されるものとなされ、さらには、記録トラックに関連してのディスク上の位置を示すアドレス情報を有するものとされる」(3頁左上欄5行目〜19行目)、「書込み可能なディスクにおいて、予め設けられる案内溝に特定の情報信号が書き込まれており、それが記録トラックへの書込みもしくは記録トラックからの読取りがなされる情報信号に悪影響を及ぼすことがないものとされ・・・る場合には、ディスクを用いての記録及び再生に係る情報量の増大が図れる」(3頁右下欄3行目〜10行目)との記載が、「発明が解決しようとする問題点」として、「従来にあっては、書き込み可能なディスクにおいて、予め設けられた渦巻状の案内溝にクロック信号あるいは特定の情報信号が書き込まれており、それが、記録トラックに書き込まれる情報信号もしくは記録トラックから読み取られる情報信号に悪影響を及ぼさないとされ、しかも、記録もしくは再生時において容易に読み取られるようにされたものは見当たらない。従って・・・セルフクロッキングを行うことができるようにされていることに基づく利点は享受されていない。 斯かる点に鑑み、本発明は・・・この案内溝に、記録もしくは再生時におけるトラッキング・サーボコントロール系のサーボコントロール周波数帯域より高い周波数帯域に属する周波数を有する特定の信号が書き込まれており、斯かる案内溝に書き込まれた特定の信号が、記録トラックに書き込まれる信号、もしくは、記録トラックから読み取られる情報信号に悪影響を及ぼさないものとされ・・・記録トラックから読み取られる情報信号の時間軸の制御等の各種制御に使用し得るようにされたディスク状記憶媒体を提供すること・・・を目的とする」(3頁右下欄15行目〜4頁右上欄11行目)との記載があることが認められる。 これらの記載によれば、刊行物1は、従来、書込み可能なディスクにおいて、案内溝はトラッキング制御信号及びアドレス情報を得るために使用されてはいるものの、案内溝にクロック信号等の特定の信号を書き込み、記録トラックの情報信号の書込み及び読取りに悪影響を及ぼさないようにした書込み可能なディスクが見当たらなかったことから、案内溝に、トラッキング制御周波数帯域より高い周波数を有するクロック信号等の特定の信号を書き込み、当該クロック信号等が記録トラックの情報信号の書込み及び読取りに悪影響を及ぼさないようにすることにより、セルフクロッキングの利点を享受し、記録及び再生に係る情報量の増大を図ることを目的とするものと認められ、訂正発明と、その課題、目的を基本的に同じくするものというべきである。 また、原告は、刊行物1において具体的に開示されているのはMO(光磁気ディスク)に関するもののみで、CDとの互換性の配慮もない旨主張する。しかし、反射率変化型の光ディスクへの適用の可否は後述のとおりであり、CDとの互換性に関しては、訂正発明の課題として取り上げるべき事項であるとはいえない。 すなわち、訂正明細書(甲第3号証)の「発明が解決しようとする課題」の欄にCDとの互換を目的とするとの記載はなく、唯一これに関連する「グルーブ2のウォブリング周波数は、22.05[kHz]とされている。またグルーブ2は、クロック情報およびCD(コンパクトディスク)と同様の絶対時間コードの情報を有している。」(2頁16行目〜18行目)との記載は、訂正発明の実施の形態の一例を示したものにすぎない。そうすると、刊行物1にCDとの互換性への配慮がないとしても、 これに基づいて訂正発明を想到することを困難とするような理由となるものではないというべきである。 2 相違点1(「反射率が変化する」記録方法)について 原告は、刊行物1(甲第4号証)の「記録材料層15の溝の底部、即ち、案内溝13の底部に対応する部分が情報信号の書込み状況に応じて反射率が変化するものとされていると、その反射率変化がクロック信号の読取り出力に誤差成分として混入することになる。従って、・・・情報信号の書込み状況に応じた反射率変化を伴わない光磁気記録が行われる垂直磁化膜とされると、クロック信号の読取り出力に混入する誤差成分に対する補償が不必要となって好都合である。」(7頁右上欄17行目〜左下欄8行目)との記載から、刊行物1記載の発明を反射率変化型の光ディスクに適用することが困難であることが示されている旨主張する。 しかし、グルーブ(溝)内に記録可能領域を設け、光ビームで書込み及び(又は)読取りを可能とするディスクにおいて、当該記録方法として反射率変化型を採用すること自体は、刊行物2(甲第5号証)、甲第6号証の1、2、第9号証の1、2、第10号証に示されているように、周知の技術であると認められる。原告の上記主張は、このような周知の技術を刊行物1記載の発明と組み合せることの阻害要因をいうものと理解されるので、このような観点から検討する。 まず、刊行物1の上記記載は、反射率変化型の光ディスクを採用した場合と、反射率変化を伴わない光磁気記録方式を採用した場合とを比較し、「クロック信号の読取り出力に混入する誤差成分」の観点からすると、光磁気記録方式の方が、誤差成分に対する補償が不必要となる分だけ「好都合である」と比較評価した記載であると認められる。しかし、ここでいう「誤差成分」とは、所望の信号に対して「雑音」といわれるものに当たるところ、雑音に対する補償(雑音抑制)自体は電子回路の分野では一般的に行われている慣用的な手段にすぎず、雑音ないし誤差成分の発生を伴う技術が直ちに当該技術の有効性を否定するものと認めるに足りる証拠はない。そうすると、刊行物1に、反射率変化型を採用することによって生ずる誤差成分の補償手段が具体的に示されていないにせよ、当該補償手段を施すことを困難又は不可能とするような記載もない以上、反射率変化型のディスクを採用した場合に「誤差成分の補償」が必要となるとの刊行物1の上記記載は、刊行物1記載の発明を反射率変化型ディスクに適用することを妨げる記載であるとは認められず、かえって、一定の条件の下でその適用が可能となることを示唆するものと理解することができる。 したがって、「前記示唆に基づいて、刊行物1に記載の発明を周知の反射率変化型のものに適用して、所望の作用効果を得ることに想到する程度のことは当業者にとって格別の想像力を要するとも認められない」とした本件決定の判断に誤りはないというべきである。 3 相違点2(「和信号として検出」する情報検出方法)について 原告は、刊行物1記載の光磁気ディスクでは、主信号を和信号として検出することは不可能であって、相違点2を「見かけ上のものに過ぎない」とした本件決定の判断は誤りである旨主張する。 確かに、光磁気ディスクは、反射光の偏光面の回転を検出して主信号を読み出すものであって、反射光の強度の変化を検出するものではないから、一対の受光素子の反射光量を足し合わせることによって主信号を取り出すことはできず、光磁気ディスクを前提とする限りでは、主信号を和信号として検出することは原理的に不可能である。しかし、本件決定は、刊行物1記載の発明を反射率変化型の光ディスクに適用することを前提とした場合に、「主たる記録情報は、本件訂正発明の検出器に相当する一対の発光素子の和信号から検出されると考えるのが妥当である」(決定謄本8頁26行目〜28行目)と認定しているものであって、光磁気デイスクを前提とする原告の主張は、本件決定を正解しないものであって失当である。 次に、原告は、刊行物1記載の発明に刊行物2記載のプッシュプル方式を適用する理由はない旨主張するが、刊行物2(甲第5号証)及び実願昭56-8472号(実開昭57-122031号)のマイクロフィルム(甲第6号証の1、2)によれば、プッシュプル方式において、2分割された検出器の出力の差から制御信号を、和から主たる記録情報を得ることは、通常用いられる周知の技術であることが認められ、他方、刊行物1(甲第4号証)には、「溝内に記録可能領域が設けられた光ディスクに対し、分割された検出器を設け、上記記録可能領域に記録された情報を再生するためのクロック情報を上記検出器の差信号として得られる上記溝のウォブリング周波数成分から検出するようにした光ディスク」(決定謄本7頁15行目〜19行目参照)が記載されているものと認められるから、両者の構成の共通性に着目して、上記周知の技術を適用することにより、主信号を和信号として検出することに格別の困難性はないというべきである。 よって、相違点2に関する原告の主張は理由がない。 4 相違点4(ビームスポット直径と溝幅の大小関係)について 原告は、甲第7〜第10号証によっても、「ビームスポットの直径に比して溝の幅が小さい」構成が一般的であるとはいえない旨主張する。 しかし、@甲第7号証には、「光ディスク等の記録媒体に光ビームを照射することにより情報の記録・再生を行う光学的情報記録再生装置」(1頁右下欄2行目〜4行目)に関し、「正確な光ビームのトラッキング制御・・・に必要なトラッキングエラー信号を得るには、ディスクに形成した凹部トラックおよび凸部トラックのトラック幅よりやや大きいビームスポットを照射する必要がある。」(2頁右上欄1行目〜6行目)との記載があること、A甲第9号証の2には、「光学式ビデオディスク、光学式ディジタルオーディオディスク等に記録された情報を読取るための光学ヘッド装置におけるトラッキング制御回路」(1頁17行目〜末行)に関し、照射光の直径が溝状のトラック幅よりも大きい構成が第2図に図示されていること、B甲第10号証には、「光学ディスクのような円板状の情報担体に情報を光学的に記録および/または再生する光学的情報記録再生装置のためのトラッキングサーボ引込み装置、特に情報担体に形成された溝状の案内トラックをもつ情報担体のトラッキングサーボ引き込み装置」(1頁右下欄13行目〜18行目)に関し、 「第3図(c)は溝状案内トラック(30)の両方向エッジ(35a)(35b)を含み、溝状案内トラック(30)全体に光スポット(6)が投射されている様子を示す。この場合は入射光ビーム(2)が両エッジ(35a)(35b)にかかっている」(4頁左上欄15行目〜19行目)と記載され、第3図(c)において、ビームスポットの直径が案内溝トラックの幅よりも大きい構成が図示されていることが、それぞれ認められる。 そして、甲第7号証、第9号証の2、第10号証記載の各発明は、いずれも2分割した検出器を径方向に配置しその差信号をトラッキング制御信号とする光ディスク装置に関するものであるから、これらを総合すると、2分割した検出器を径方向に配置しその差信号をトラッキング制御信号とする光ディスク装置に関して、 溝の幅より大きい径の光ビームを用いる構成、すなわち再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい構成は一般的に採用されている周知の技術であると認めることができる。そして、上記のうち甲第9号証の2及び第10号証記載の各発明が、訂正発明と同じく反射率変化型の光ディスクに関するものであることは当該甲号各証の記載から明らかであるから、上記構成を刊行物1記載の発明に適用することに特段の困難があるとはいえず、相違点4を格別のものとは認められないとした本件決定の判断に誤りはないというべきである。 なお、原告は、@上記各発明は、トラッキング情報及びクロック情報の双方を含むようにウォブリングされた溝を有する構成を採用するものではないこと、A甲第7〜第10号証は、訂正発明のように、ワイドグルーブの場合も含めて溝幅よりもスポット径を大きくするという技術的な思想が示されているものではないことから、相違点4に関する本件決定の判断は誤りである旨主張する。しかし、上記@にいう「トラッキング情報及びクロック情報の双方を含むようにウォブリングされた溝を有する」構成は、そもそも刊行物1に記載されているものであって、相違点4に関する本件決定の判断は、このような刊行物1記載の発明の構成を前提に、 「再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい」構成が一般的な周知の技術であることを根拠として刊行物1への適用を容易であるとしたものである。甲第7〜第10号証記載の発明が、トラッキング情報及びクロック情報の双方を含むようにウォブリングされたグルーブを採用していないとしても、このことが上記のような一般的な周知技術の適用を妨げるものとは解し得ないというべきである。次に、上記Aの点については、訂正明細書において、ワイドグルーブは単に実施例として記載されているにすぎず、訂正発明はワイドグルーブかナローグルーブかという点に関して何ら規定するものでないというべきであるから、甲第7〜第10号証がワイドグルーブを前提としないことは、「再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい」構成を刊行物1記載の発明に適用することを何ら妨げるものではない。 さらに、原告は、再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい構成から、@記録するとグルーブ底部の記録部分の反射率が低下する方式(「HtoL」)及び同記録部分の反射率が高くなる方式(「LtoH」)のいずれを用いた場合でも、CDとの互換性を保持させることを可能とする、A幅が広い溝内に記録を行うために、記録スポット内の膜の平面性が良く、再生信号のS/Nが良くなる、Bゆらぎが少ないHF信号や安定したプッシュプル信号を得ることができるとの顕著な作用効果を奏する旨主張する。しかし、@の点(CDとの互換性)及びAの点(溝が「ワイドグルーブ」であることを前提とするものと理解される。)について、それぞれ訂正発明の実施の一例として訂正明細書に関連記載があることは認められるものの、いずれも特許請求の範囲に記載のない事項であって、実施例の限りで想定される作用効果にすぎないというべきである。そして、Bの点は、訂正明細書において、「再生スポットの外側の部分が同一位相のグルーブの両エッジにかか」る構成(甲第3号証、訂正明細書3頁15行目〜16行目)に由来するものとされているところ、この構成は、再生ビームのスポットの直径に比して溝の幅が小さい構成をいうに他ならないから、結局、一般に慣用されている上記構成を採用することによる当然の効果にとどまるものというべきである。以上のとおり、顕著な作用効果をいう原告の主張は理由がない。 5 相違点全体の判断の必要性について 原告は、本件決定は相違点を個別に検討するだけで相違点全体が持つ意味について検討していない旨主張する。しかし、相違点1〜4に係る各構成が相互に矛盾したり、原理的に両立しないといったこれら各構成の組合せを困難とする事情は認められない本件において、相違点1〜4に係る各構成が容易想到であり、かつ、 相違点が全体としても容易想到ということができるから、この点の原告の主張も理由がないというべきである。 6 以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 宮坂昌利 |