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関連審決 審判1999-35458
関連ワード 容易に発明 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  発明の要旨認定 /  実施 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 142号 審決取消請求事件
原告 帝人製機株式会社代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 三中英治
同 三中菊枝
被告 村田機械株式会社代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁理士 平井保
同 酒井雅英
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35458号事件について平成12年3月15日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は、名称を「糸条巻取機におけるボビンホルダの回転制御装置」とする特許第1631027号発明(昭和62年6月8日出願、平成3年12月26日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告は、平成11年8月27日、本件特許の無効審判を請求し、特許庁は、同請求を平成11年審判第35458号事件として審理した。被告は、平成11年12月17日、本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載の訂正(平成11年法律第41号附則2条13項により、無効審判における明細書の訂正についてはなお従前の例によるとされる。以下「本件訂正」という。)を請求した。
(2) 特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成12年3月15日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月5日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前のもの ボビンを挿着するボビンホルダに、コントローラによって回転数が可変制御される誘導モータを連結し、該誘導モータの可変回転によってボビン上にパッケージとして巻取られる糸条の巻取速度を一定として巻取る糸条巻取機において、上記コントローラ内に、誘導モータへの現在の回転数指令値と過去の回転数指令値とを比較する回路を設けたことを特徴とする糸条巻取機におけるボビンホルダの回転制御装置。
(2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には下線を付す。) ボビンを挿着するボビンホルダに、コントローラによって回転数が可変制御される誘導モータを連結し、該誘導モータの可変回転によってボビン上にパッケージとして巻取られる糸条の巻取速度を一定として巻取る糸条巻取機において、上記コントローラ内に、誘導モータへの現在の回転数指令値と回転数指令値の細かな変動 の影響 を排除 することのできる 所望時間前 の過去の回転数指令値とを比較し 、
両者 の間に所定 の幅を越える 相違 があるか 否かを 判定 する回路を設けたことを特徴とする糸条巻取機におけるボビンホルダの回転制御装置。
3 審決の理由 審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本件訂正が特許請求の範囲減縮を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、また、本件訂正にかかる本件発明(以下「訂正発明」という。)は、実公昭61-45083号公報(以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできないから、本件出願の際独立して特許を受けることができないとする理由はなく、本件訂正は特許法134条2項の規定並びに同条5項において準用する、なお従前の例とされる平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項及び3項の規定に適合するとして本件訂正を認め、訂正発明は引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできないから、訂正発明の本件特許を無効とすることはできないというものである。
原告主張の審決取消事由
審決は、訂正発明の要旨認定を誤り(取消事由1)、本件訂正が新規事項の追加に当たることを看過し(取消事由2)、本件訂正が特許請求の範囲を実質的に変更するものであることを看過し(取消事由3)、訂正発明と引用例発明の相違点の認定を誤った(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正発明の要旨認定の誤り) (1) 審決は、「特許明細書に記載された上記記載事項からみて、比較する2つの回転数指令値のうち、『過去の回転数指令値』が『細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の回転数指令値』を意味することは明らかであって、具体的には、現在の回転数指令値と5秒乃至20秒前の回転数指令値とを比較するものである。」(審決謄本4頁15行目〜19行目)と認定したが、誤りである。
(2) 審決は、上記「過去の回転数指令値」を5秒ないし20秒前の回転数指令値と認定するが、特許請求の範囲には5秒ないし20秒前との記載はなく、発明の詳細な説明においても、このような記載はない。審決の上記認定は、誤りである。
2 取消事由2(新規事項の追加) 本件訂正前の本件明細書(以下「訂正前明細書」という。)には、回転数指令値が細かな変動を経るとの記載、数秒以前の回転数指令値との差が所定幅を超える場合にアラーム回路を作動させると記載はあるが、回転数指令値の細かな変動とその影響を排除することのできる時間との関係については、全く開示がない。また、訂正前明細書には、巻取速度を下向き凸の曲線に沿って減少していることの影響を排除することができる旨開示され、「所望時間」の語句も一箇所記載されているが、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができる」との記載はなく、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間」についての開示もないから、これの要件を特許請求の範囲に付加することは、新規事項の追加に該当する。
3 取消事由3(特許請求の範囲の実質的な変更) 訂正前明細書においては、「第2図示のように下向き凸の曲線に沿って減少していることの影響を排除し得ており、上記細かな変動を誤って増大方向への急激な転向と判定してしまう可能性を低減している。」(甲第2号証6欄25行目〜28行目)との記載があり、回転数指令値の細かな変動の影響を排除することは、考えられていない。回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができるとの要件を付加する本件訂正は、本来存在した細かな変動の影響を無にすることであり、
特許請求の範囲を実質的に変更するものである。
4 取消事由4(訂正発明と引用例発明の相違点の認定の誤り) (1) 審決は、訂正発明と引用例発明の対比において、「現在の回転数指令値と比較する回転数指令値が明らかに相違するとともに、具体的な判定(判別)内容も相違している。」(審決謄本6頁37行目〜38行目)と認定したが、誤りである。
(2) 訂正発明には、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができる所望時間」との要件があるが、時間の長短は何ら規定されておらず、これが現在から5ないし20秒前の回転数指令値であると解する根拠もない。このように、
「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができる所望時間」との限定は訂正発明にとって実質的に何らの技術的な意味もなく、訂正発明の解釈に際して、
このような限定を考慮することはできない。したがって、訂正発明の要件である「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値」は単に「過去の回転数指令値」と解さざるを得ない。一方、引用例発明においても、現在値と過去の最低値とを比較しているが、ここにいう過去の最低値は、訂正発明の過去の回転数指令値に相当するから、現在の回転数指令値と比較する回転数指令値が訂正発明と引用例発明とにおいて相違するとの審決の認定は誤りである。
(3) 訂正発明においては、現在の回転数指令値と過去の回転数指令値とを比較し、両者の値に、正負いずれの方向であっても所定の幅を超える相違がある場合には、アラーム回路へ作動信号を出力する。しかしながら、通常の糸条の巻取りは巻始めから巻終りまで実質的に一定の糸速度で行われ、スピンドル型巻取機では、巻取りにつれてパッケージ径が大きくなり、正常巻取時にはスピンドルの回転数は糸条パッケージの巻太りにつれて必ず低下するものである。したがって、訂正発明を実際にスピンドル型巻取機に適用した場合には、引用例発明と同様、現在の測定値が過去の測定値より許容値以上大きい場合に、アラーム回路へ作動信号を出力する態様となるものである。また、訂正発明においては、引用例発明と同様、巻取機の運転自体を停止することが排除されておらず、また、巻取機の運転停止に代えて回転数指令値を所定の幅内へ収束するようにPI制御回路に作用させることは、本件発明の技術分野において日常行なわれていることである。そうすると、糸条パッケージの巻太りにつれてスピンドルの回転数が必ず低下するスピンドル型糸条巻取機における、ボビンホルダの回転制御について見れば、訂正発明は、引用例発明とその作用効果において実質的な差異はなく、「具体的な判定(判別)内容も相違している。」(審決謄本6頁末行〜7頁11行目)との審決の認定は、誤りである。
被告の反論
1 取消事由1(訂正発明の要旨認定の誤り)について (1) 訂正前明細書において、現在の値と比較する「数秒」前の値とは、回転数指令値記憶装置が回転数指令値を保持する5秒、10秒、20秒前の値であることは明らかであり、また、訂正前明細書記載の「所望時間」とは、回転数指令値記憶回路が回転数指令値を保持する「数秒(5〜20秒程度)」に相当する。
(2) 審決の摘示する「5秒乃至20秒」前の回転数指令値は、前記「所望時間」の実施例における具体的数値であり、「所望時間」がこれに限定されるものではない。審決は、「具体的には、現在の回転数指令値と5秒乃至20秒前の回転数指令値とを比較するものである」(審決書4頁17行目〜19行目)と述べるが、
「具体的には」とは、「具体的な実施例で見れば」という意味で、前記「所望時間」の具体的数値を例示したにすぎないものである。したがって、審決が「所望時間」を「5秒乃至20秒前」であると認定したとの原告の主張は当を得ないものである。
2 取消事由2(新規事項の追加)について 原告は、訂正前明細書には、「回転数指令値の細かな変動」と「その影響を排除することができる時間」との関係は開示されていない旨主張する。しかしながら、回転数指令値は、漸減しているにもかかわらず、細かな変動により一時的に増大することが示されており、現在の回転数指令値で細かな変動の影響を受け一時的に増大したものを、直前の回転数指令値と比較すると、比較回路は、これを急激な増大と判定しアラーム作動信号を出すという、細かな変動の影響を受けた制御がされる。そこで、「所望時間」を現在の回転数指令値との差において回転数指令値の細かな変動を排除できる時間とすることにより、細かな変動の影響を排除しなければならない。このように、訂正前明細書には、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前」について開示されており、その技術的意義も開示されているから、本件訂正は、新規事項の追加に当たらない。
3 取消事由3(特許請求の範囲の実質的な変更)について 前項記載のとおり、訂正前明細書には、「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値」が記載されている。原告の指摘する訂正前明細書の記載は、現在の回転数指令値が細かな変動により一時的に増大しても、その影響を排除することを示しているのであり、この記載があるからといって、本件訂正が特許請求の範囲を実質的に変更するものということはできない。
4 取消事由4(訂正発明と引用例発明の相違点の認定の誤り)について (1) 引用例発明には、訂正発明の「現在の回転数指令値と回転数指令値の細かな変動の影響を排除することができる所望時間前の過去の回転数指令値とを比較し、両者の間に所定の幅を越える相違があるか否かを判定する回路」という構成がなく、これにより、回転数指令値の細かな変動の影響を排除し、回転数指令値の急激な増大及び減少に対応できる制御を行うという訂正発明の効果を奏しないものである点で、両者は、著しく相違する。
(2) 原告は、前記相違点に係る訂正発明の構成は、技術的に意味がないとして、この構成を無視し、単に「過去の回転数指令値」として訂正発明を認定し、これと引用例発明とを比較しているが、前記のとおり、この構成に技術的意義があることは明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由4(訂正発明と引用例発明の相違点の認定の誤り)について (1) 審決(甲第1号証)は、「本件訂正発明では、現在の回転数指令値と比較する回転数指令値が、回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値であって、両者の値に所定の幅を越える相違がある場合にはアラーム回路へ作動信号を出力するものであるのに対して、甲第1号証(注、引用例)に記載された発明では、現在値(現在の回転数指令値に相当)と比較する過去の値が最低値記憶回路14に記憶された巻始めから測定の現在までのうちでの最低値であって、・・・判定する回路も符号判別回路であって、現在値が最低値より許容値以上大の場合(正で所定の幅を越えたときに相当)と判別したときに停止信号を出力するものであるから、現在の回転数指令値と比較する回転数指令値が明らかに相違するとともに、具体的な判定(判別)内容も相違している。」(審決謄本6頁27行目〜38行目)と認定し、現在の回転数指令値と比較する回転数指令値の相違(以下「相違点1」という。)及び具体的な判定内容の相違(以下「相違点2」という。)を相違点として認定した。
(2) 相違点1について 訂正明細書の特許請求の範囲に記載された「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値」との要件は、「過去の回転数指令値」を「現在の回転数指令値」と比較し、両者の間に所定の幅を超える相違があるかどうかを判定した結果が、回転数指令値の細かな変動の影響を排除できるような「所望時間前の過去の回転数指令値」と解すべきである。被告は、
所望時間は「数秒」に相当すると主張するが、被告の主張する実施例の記載により訂正明細書の特許請求の範囲をこのように限定することはできない。
引用例(甲第5号証)には、「可変周波数電源装置5の出力の周波数は・・・所定周期でサンプリングし現在値Miとして保持する・・・次いで、保持回路12に保持された現在値Miは、第一の源算(注、「減算」の誤記と認める。)回路13に入りレジスタ構成の最低値記憶回路14に保持された最低値Mmが減算され、・・・その減算値(Mi-Mm)は正負判別回路15に入る。正負判別回路15は・・・減算値(Mi-Mm)が負-すなわち、現在値Miが最低値Mmより小-の場合には・・・現在値Miが最低値Mmとして最低値記憶回路14に記憶される。すなわち、最低値記憶回路14には巻始めから測定の現在までのうちでの最低値が記憶される。・・・第2の減算回路17からは第2の減算値(Mi-Mm-S)が出力される。・・・符号判別回路18は第2の減算値(Mi-Mm-S)が正-すなわち、現在値Miが最低値Mmより許容値S以上大-の場合のみ巻取機を停止する停止信号Aを出力するようになしてあるので、符号判別回路18からは第2の減算値(Mi-Mm-S)が正の時のみ停止信号Aが出力される。」(3欄30行目〜4欄18行目)との記載がある。このように、引用例発明では、
現在値Miとそれまでの最低値Mmが比較され、MiがMmより小の場合に、最低値Mmが更新されるものである。
また、引用例(甲第5号証)には、「本考案は、正常巻取時のスピンドル型巻取機においてはスピンドルの回転数は糸条パッケージの巻太りにつれて必ず低下することに着目してなされたものである。」(3欄2行目〜5行目)との記載がある。そうすると、仮に、引用例発明において現在値Mi(回転数指令値)の細かな変動がないとすると、正常巻取時には現在値Miは必ず前回の保持値よりも小さくなり、現在値Miが前回の保持値以上となるかどうかの単純な判定により、異常の検出が可能となる。しかしながら、引用例発明は、そのような単純な構成を採用していないのであるから、現在値Miの細かな変動があることを前提として、その影響を排除すべく、最低値記憶回路、第1及び第2の減算回路等の構成を採用したものであり、許容値Sは、そのような細かな変動の振幅を上回る値として選定されていると認められる。また、異常が発生した際に、直ちに現在値Miが前回保持値を許容値S以上上回るのであれば、わざわざ最低値を記憶するまでもなく、現在値Miと前回保持値の比較を行えば足りるものであるから、最低値記憶回路を設けたことの技術的意義は、異常があったとしても、現在値Miが許容値S以上上昇するには、サンプリング周期(前回との時間差)では時間的に不足するからにほかならない。そうすると、引用例発明において現在値Miの細かな変動があることや、その影響を排除することについて、直接的記載がないことは事実であるとしても、現在値Miと比較される最低値Mmは、現在値Miの細かな変動を排除できる程度の時間だけ前のものであるといわざるを得ない。
したがって、引用例発明の最低値Mmは、訂正後発明の「回転数指令値の細かな変動の影響を排除することのできる所望時間前の過去の回転数指令値」と異ならないから、「現在の回転数指令値と比較する回転数指令値が明らかに相違する」との相違点1に係る審決の認定は誤りである。
(3) 相違点2について 訂正発明は、現在の回転数指令値及び所望時間前の過去の回転数指令値について、「両者の間に所定の幅を越える相違があるか否かを判定する回路を設けた」ものである。また、訂正明細書(甲第3号証)には、「初期の区間(I)では現在の回転指令値と5秒以前の値とが、それに続く中期の区間(U)では現在の回転指令値と10秒以前の値とが、さらに後期の区間(V)では現在の回転指令値と20秒以前の値とが比較回路(18)において比較される。そして、上記現在の値と数秒前の過去の値との相違が所定幅(例えば「10」)以内であれば巻取りは最後まで滞りなく実行され」(明細書5頁2行目〜7行目)との記載があり、本件明細書(甲第2号証)添付の第2図(4頁)には、回転数指令値が約30000であるA点から、細かな変動を伴いながら、回転数指令値が減少する様子が図示されており、初期の区間(I)での5秒間、中期の区間(U)での10秒間、及び後期の区間(V)での20秒間において、回転数指令値がいずれも1000程度減少する図が記載されている。この図によれば、糸条巻取機が正常に動作している場合、現在から5ないし20秒以前の回転数指令値は、現在の回転数指令値よりも1000程度大きいから、現在の回転数指令値が過去の回転数指令値よりも所定の幅を超えて小さいことになる。しかしながら、これを異常と判定するのであれば、第2図の例において巻取りが実行され得ないこととなり不合理である。したがって、「所定の幅を越える相違」とは、現在の回転数指令値が過去の回転数指令値よりも所定の幅を超えて大きいことを意味すると解するほかはない。
なお、訂正明細書(甲第3号証)には、「急激に増大または減少方向へと向かいつつある回転指令値を上記所定の幅内へ収束するように作用させるものであってもよい」(明細書4頁21行目〜23行目)との記載があるが、訂正発明が回転数の急激な減少を検出することができない以上、訂正明細書に「減少方向」の記載があっても、訂正発明の内容に係る上記認定が左右されるものではない。現に、
訂正明細書においても、急激に減少方向へと向かいつつある回転数指令値に言及するのは上記の箇所のみであり、その余の部分においては、「誘導モータの回転が異常に加速して」(同2頁5行目)、「発信するパルス数が実際に発信すべきパルス数よりも少なくなった場合には、・・・ボビンホルダ(3)の回転を急に上昇させるように過大な回転指令値が出力される」(同5頁8行目〜12行目)、「過大な回転指令値(B)が出力され始めると当該値は比較回路(18)においてその異常を判定され」(同5頁13行目〜14行目)、及び「パッケージに異常な加速を与えてパッケージがボビンホルダから外れる等の重大な事故を引起こすおそれがない。」(同6頁8行目〜9行目)と記載されており、訂正明細書は、一貫して、急激に増大方向へと向かいつつある回転数指令値を異常と認識していることは明らかである。
一方、引用例発明では、「現在値Miが最低値Mmより許容値S以上大-の場合のみ巻取機を停止する停止信号Aを出力する」のであるから、訂正発明の「両者の間に所定の幅を越える相違があるか否かを判定する回路を設けた」構成と相違するものでない。
したがって、「具体的な判定(判別)内容も相違している。」との相違点2に係る審決の認定も誤りである。
(4) そうすると、審決が訂正発明と引用例発明の相違点として認定した相違点1及び相違点2は、いずれも両発明の相違点とは認められないから、審決は、これら相違点の認定を誤り、ひいては、訂正発明の独立特許要件の判断を誤ったというべきである。
2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由4は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男