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関連審決 審判1999-12048
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 291号 審決取消請求事件
原告 神富士鉱業株式会社代表者代表取締役 【A】
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第12048号事件について平成12年5月23日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「微弱磁気治療治具」とする発明について、平成6年5月31日に、特許出願(特願平6-118063号)をしたが(なお、甲第2号証によれば、本出願は、平成5年6月3日出願の特願平5-172001号を先の出願とする国内優先権を主張してされたものであることが認められる。)、平成11年6月17日に拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成11年審判第12048号事件として審理した結果、平成12年5月23日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年7月11日原告に送達された。
2 特許請求の範囲 (請求項1) 2〜20ガウスの微弱磁気を有する疼痛用磁気治療治具。
(請求項2) 疼痛が腰椎椎間板ヘルニア、変形性脊椎症または関節炎に起因している請求項1に記載の磁気治療治具。
(請求項3) S極磁気を主として体に供給することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気治療治具。
(請求項4) 磁気治療治具が磁鉄鉱石および/または磁気金属を備えた請求項1に記載の磁気治療治具。
(請求項5) 磁鉄鉱石および/または磁気金属が約4mm以上の粒子である請求項4に記載の磁気治療治具。
(請求項6) 磁気治療治具が炎症性の疼痛治療に使用されるものである請求項1に記載の磁気治療治具。
3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり、本願請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特開平4-150871号公報(以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易になし得たものであり、特許法29条2項に該当し、特許を受けることができないから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由1(本願発明の認定)、同2(引用例の記載事項の認定)は認める。同3のうち、5行目ないし8行目(本願発明と引用例に記載された発明との相違点の認定)は認める。1行目ないし4行目(本願発明と引用例との一致点の認定)は争う。同4(相違点の検討)及び5(結び)は争う。
審決は、引用発明と本願発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点を看過し(取消事由2)、相違点についての判断を誤り(取消事由3)、その結果、進歩性の判断を誤ったものであり、違法であるから取り消されるべきである。
1 取消事由1(磁気の数値範囲についての一致点の認定の誤り) 審決は、本願発明と引用発明とは、2ないし20ガウスの微弱磁気を人体にあてる装置である点で軌を一にするとしている。
しかしながら、引用発明においては、磁気の数値範囲は、10ガウス以上、
好ましくは50ガウスで、疲労回復効果が達成できるものであるとされており、実施例においては100ないし400ガウスの磁気範囲が使用されている。すなわち、引用発明においては、磁気範囲が高ガウスのときに効果があるものとされている。
これに対し、本願発明では、磁気の数値範囲は、2ガウスから徐々に治療効果を出して8〜10ガウスで頂点に達し、10ガウス以上になると治療効果は減少して、20ガウスで消滅するもので、10ガウス以下の磁気を治療に用いるものとされている。
このように、引用発明は、その用いる磁気の数値範囲が本件発明と異なるから、両者の磁気の数値範囲が一致するとした審決は誤っている。
2 取消事由2(静磁場と流動磁場の相違の看過) 流動磁場(電磁場)と静磁場とは、学術的には完全に別分類で区別されている。
引用発明は、流動磁場を用いているのに対し、本願発明は、静磁場を用いている。
審決は、上記相違点を看過している。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り) 引用発明は、足の疲労回復、頭疲労回復、腰疲労回復など一次的疲労回復に使用する健康用具である。
これに対し、本願発明の疼痛用磁気治療治具は、腰椎椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、関節炎等の治療に用いるものである。
上記相違点を前提にした場合、本願発明を引用発明から容易に発明することができたものとすることはできない。審決は、上記相違点を認定しながら、その評価を誤った結果、進歩性の判断を誤ったものである。
被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(磁気の数値範囲についての一致点の認定の誤り)について 引用例には、「熱可塑性重合体を用いて内部に中空部を有する健康用具を形成し、当該中空部には、磁性流体を装填させ、さらに、当該健康用具には、固定磁場を発生させる磁場発生手段が設けられていることを特徴とする流動磁場応用健康用具」に関し、「本発明の必須成分として本発明の健康用具中に封入される磁性流体の磁化は、10ガウス以上」である旨が記載されている。したがって、引用発明と本願発明とは、磁気の数値が「l0〜20ガウス」の範囲で一致している。
原告は本願発明が用いるのは10ガウス以下の磁気であると主張する。しかしながら、本出願の特許請求の範囲請求項1(甲第3号証)には「2〜20ガウス」の磁気を有すると記載されているのであるから、原告の主張は請求項の記載に基づかない主張である。
このように、本願発明と引用発明とは、磁気の数値範囲において一致しているから、これを一致点として認定した審決に誤りはない。
2 取消事由2(静磁場と流動磁場の相違の看過)について 原告は、本願発明が「静磁場」を使用するものであると主張する。しかし、
本出願の特許請求の範囲請求項1には「静磁場」を使用する旨の記載はなく、発明の詳細な説明及び図面にも、「静磁場」という文言の記載も、本願発明を「静磁場」を使用するものに限定する旨の記載もない。そうである以上、本願発明に「流動磁場」を使用するものも含まれることは、明らかというべきである。
このように、本願発明と引用例に記載された発明との間には、原告のいうような相違点は存在しないから、これを相違点として認定しなかった審決に誤りはない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について 引用発明は、「健康用具」と表現されているが、これについては、「腰痛症状がほとんど発覚しなくなったという治療効果に対する回答も得られた」(引用例6頁右上欄12行目〜13行目)との記載があり、また、発明の効果として、疲労防止、疲労回復のほか治療効果を期待することができることが、挙げられている(同7頁左下欄8行目〜11行目)。したがって、引用発明の「健康用具」と、本願発明の「疼痛用磁気治療治具」との間には、格別の相違はないものというべきである。
また、肩凝りや関節炎、腰痛、腰下肢痛疾患等の疾病に対して、磁気治療を施すことは、本出願前周知の技術である(実願昭63-73625号(実開平1-178065号)のマイクロフィルム(乙第1号証)には、従来の技術の項に、磁気治療が、腰痛、肩凝り、胃腸障害、筋肉痛、関節炎等に非常に効果があることが記載され、実願昭54-174294号(実開昭56-93241号)のマイクロフィルム(乙第2号証)には、磁気を利用した保健具が神経病抑制等に効果があることが記載され、実願昭54-174293号(実開昭56-93240号)のマイクロフィルム(乙第3号証)には、磁気を利用した保健具が神経痛抑制等に効果があることが記載されている。)。この周知技術を考慮すれば、引用例記載の手段を本願発明のような疼痛用磁気治療治具に用いることは、当業者が適宜なし得る範囲に属することというべきである。
したがって、審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(磁気の数値範囲についての一致点の認定の誤り)について 原告は、引用発明の用いる磁気の数値が10ガウス以上の高ガウスであるのに対し、本願発明の用いる磁気の数値は10ガウス以下であるので、両者は用いる磁気の数値範囲が異なる旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、本願の特許請求の範囲(請求項1)には、本願発明の「疼痛用磁気治療治具」は、「2〜20ガウスの微弱磁気を有する」ものであると記載されているから、本願発明が、10ガウス以下の磁気を治療に用いるとの原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかないものであって失当である。
そして、引用例(甲第6号証)には、「本発明の必須成分として本発明の健康用具中に封入される磁性流体の磁化は、10ガウス以上」(3頁右下欄8行目〜10行目)との記載があることが認められるから、本願発明における磁気の数値範囲は、引用発明における磁気の数値範囲と10ガウス以上20ガウス以下の範囲で一致する。したがって、両者の間に、磁気の数値範囲において一致点がある旨の審決の認定に誤りはない(もっとも、審決が「両者は2〜20ガウスの微弱磁気を人体にあてる装置である点で軌を一にする」と認定したのは不正確で、正確には、
「両者は10〜20ガウスの微弱磁気を人体にあてる装置である点で軌を一にする」とすべきであった。)。
原告の主張は、採用することができない。
2 取消事由2(静磁場と流動磁場の相違の看過)について 原告は、本願発明が静磁場を用いるものである旨主張し、このことを前提に流動磁場を用いる引用発明とは異なる旨主張する。
しかしながら、本願の特許請求の範囲(請求項1)には「2〜20ガウスの微弱磁気を有する疼痛用磁気治療治具。」と記載されているのみで、微弱磁気による磁場が静磁場であるとの記載はなく、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面にも、本願発明を「静磁場」を用いるものに限定する旨の記載はない。
そうである以上、本願発明の「磁気治療治具」は、「静磁場」を用いるものに限定されず、引用例に記載された発明の「流動磁場」を用いたものをも含んでいると解すべきであり、この磁場の性質に関して、本願発明と引用発明とが相違するということはできない。
原告の主張は、採用することができない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について 本願発明が、「疼痛用磁気治療治具」であるのに対し、引用発明が「健康用具」であることは、当事者間に争いがない。
証拠(乙第1、第3号証)によれば、実願昭63-73625号(実開平1-178065号)のマイクロフィルムには、「磁力線がどうして身体に良好に作用するかは完全に解明されていないのであるが、適当な範囲の磁力線は身体の血行を良くし、細胞の増殖を促進することが知られている。実際には腰痛、肩凝り、胃腸障害、筋肉痛、関節炎等に非常に効果があり多用されている。」(1頁16行目〜2頁4行目)との記載があること、実願昭54-174293号(実開昭56-93240号)のマイクロフィルムには、「即ち、従来より磁気を利用した保健具としては・・・バンド・・・その他諸々のものが知られ、且つ保健強壮用等としてその効果が認められている。(例えば・・・神経痛抑制等。)」(2頁1行目〜7行目)との記載があることが認められる。これらの認定事実によれば、磁気を腰痛、神経痛等の疼痛用に用いることは、本件出願の国内優先権主張の基礎となる先願の出願当時、既に周知であったということができ、これらの周知技術を、引用発明に適用して、本願発明に想到することは容易であったというべきである。したがって、これを容易とした審決の判断に誤りはない。
原告の主張は、採用することができない。
4 原告提出の証拠(甲第4、第7ないし第9号証)について 原告は、「腰痛・腰下肢痛の静磁場療法及び抗菌効果」と題する冊子である甲第4号証を提出し、同号証には、1mT(10ガウス)に着磁した布を、腰部脊椎管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、関節炎等による腰痛、運動痛等の治療に用いた臨床試験において効果が認められたことが記載されている。しかし、同号証は、本願発明の効果を示すものであるとしても、引用発明との関係で本願発明の進歩性を根拠付けるものとはいえないから、前記判断を左右するものではない。
また、甲第7号証(財団法人鉄道総合技術研究所総務部広報課【G】から神富士鉱業【A】への平成7年8月9日付けのファクシミリ)には、「リニアーモーターカーの「磁場」について、「海外では、イギリス国立放射線防護委員会(NRPB)が100Hz以下で20Gs、旧ドイツ工業規格(DIN)が50Hz、50Gsというガイドラインを提唱しています。」「公表されているリニア車内の「客席で10Gs以下」「貫通路で20Gs以下」というのは、車両を設計する上でのハード的な目標値です。」との記載が認められる。しかし、この記載は、交流磁界、直流磁界によって人体へ悪影響を及ぼさないための規格ないし目標値に関する記載にすぎず、2〜20ガウスの磁気を用いる本願発明の効果を示すものではないから、本願発明の進歩性の根拠とすることはできない。
原告は、その出願に係る発明につき米国で特許登録を受けたとして甲第8号証を提出する。しかし、我が国とは異なる法制下における米国特許を本願発明の進歩性の根拠とすることはできない。
さらに、原告は、本願発明に関連して、「中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法」に基づく研究開発等事業計画に係る認定申請をし、大阪府知事からその認定を受けたとして甲第9号証を提出する。しかし、これは特許法とは異なる法律によるものであるから、本願発明の進歩性の根拠とはなり得ない。
したがって、これらの証拠は、いずれも前記判断を左右するものではない。
5 以上によれば、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、
審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵が見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 阿部正幸