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関連審決 異議1997-70292
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  慣用技術 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  取消決定 /  異議申立 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 280号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社三洋物産代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 後呂和男
同 高木芳之
同 小林洋平
同 松浦弘
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成9年異議第70292号事件について平成11年7月23日にした決定を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「パチンコ機における変動入賞装置」とする特許第2523389号の発明(平成2年4月23日特許出願、平成8年5月31日設定登録
以下「本件発明」という。)の特許権者である。
訴外【G】は、本件発明について特許異議の申立てをした。
特許庁は、この申立てを平成9年異議第70292号事件として審理し、原告は、平成9年10月20日付け訂正請求書により願書添付の明細書の特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正を請求し、平成11年4月23日付け手続補正書により訂正明細書の特許請求の範囲等の補正(以下、補正後の訂正につき「本件訂正」という。)をしたが、特許庁は、平成11年7月23日、「特許第2523389号の特許を取り消す。」との決定をし、その謄本は平成11年8月12日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨 (1) 本件訂正前 遊技盤の遊技領域を落下する打球を受入れ易い状態と受入れ難い状態とに変化する開閉部材を有する変動入賞装置において、該変動入賞装置は、少なくとも前記開閉部材を開閉自在に支持し、且つ前記遊技盤の表面に取り付けられる取付基板と、
該取付基板の後面側であって前記遊技盤の肉厚内にほぼ収納配置され、且つ前記開閉部材を駆動する電気的駆動源と、から構成されていることを特徴とするパチンコ機における変動入賞装置。
(2) 本件訂正後(下線部が訂正された箇所である。以下「訂正発明」という。) 遊技盤の遊技領域を落下する打球を受入れ易い状態と受入れ難い状態とに変化する開閉部材を有する変動入賞装置において、該変動入賞装置は、少なくとも前記開閉部材を開閉自在に支持し、且つ前記遊技盤の表面に取り付けられる取付基板と、
該取付基板の後面側であって前記遊技盤の肉厚とほぼ同じ突出巾で突出され且つその後面が閉塞される囲い枠 内にほぼ収納配置され、且つ前記開閉部材を駆動する電気的駆動源と、から構成されていることを特徴とするパチンコ機における変動入賞装置。
3 決定の理由 別紙1の決定書の理由写し(以下「決定書」という。)のとおり、上記の訂正請求に対する補正を認めた上で、本件訂正は、特許請求の範囲減縮等に相当するが、訂正発明は、刊行物(特公昭55-8190号公報、甲第5号証。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものとは認められず、本件訂正は、特許法120条の4第3項で準用する同法126条4項の規定に該当しないので、認められないと判断し、本件訂正前の本件発明について、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、同法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法113条2号に該当し、取り消されるべきであると判断した(なお、決定書15頁11行の「相当し」から15行の「明らかであるので」までは、「相当するので」の誤記である。)。
原告主張の決定の取消事由の要点
決定の理由のうち、引用例の記載事項、引用発明の「支箱」が訂正発明の「囲い枠」に相当するとした点以外の訂正発明と引用発明との一致点の認定、及び相違点の認定は認めるが、決定は、訂正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、決定が認定した相違点の判断を誤ること(取消事由2ないし4)により、
独立特許要件の判断を誤り、本件訂正を認めなかったものであるから、違法であり、取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 決定は、「引用発明の「支箱」は、・・・訂正発明の「囲い枠」に相当する」(決定書11頁9行ないし13行)と認定するが、誤りである。引用例には「支箱19が窓口17を囲繞した状態で形成されている」との記載があり(甲第5号証3欄19、20行)、「囲繞」とは「かこいめぐらすこと。」の意であるが、引用例の第5図を参照すれば、引用発明の「支箱」は、基板16の後面側から突設された左右一対の支片に過ぎず、実質的に「箱」の体をなしていないものである。一方、訂正発明の「囲い枠」についてみると、「囲う」とは「とりまく。かこむ。」ことの意であり、この「囲い枠」は電気的駆動源の周囲をとりまく構成であることが明らかである。このように、引用例に開示されている「「支箱」と称する一対の支片」と、訂正発明の「囲い枠」とは、全く異なるものである。
(2) また、訂正発明の「囲い枠」とは、訂正発明の課題が「遊技盤の後面側に配置される入賞球通路の設定の際に、開閉部材を駆動する電気的駆動源が邪魔とならないようなパチンコ機における変動入賞装置を提供する」ことであることに鑑みれば、開閉部材が閉止している状態のみでなく、開閉部材が開放している状態をも含んで、囲い枠内の構成(電気的駆動源だけでなく、他の構成も含む。)が取付基板の後面側から突出しないような構成としなければならないことは当然である。ところが、引用例の第4図を参照すれば、操作杆29は遊技盤4の後端面より僅かに開閉蓋23側に配置されるようになっており、かつ両フック31、32の係合片部31a、32aにおける先端が遊技盤4の後端面、すなわち一対の支片19の後端、とほぼ同一の位置にあることは明らかであるから、電磁石28が駆動して、開閉蓋23が開放するときには、両フック31、32が支軸33を中心として回動することにより、両フック31、32の下端部は、遊技盤4の後端面、すなわち一対の支片19の後端から露出してしまうことが明らかとなる。このため、引用発明の構成に基づいて、一対の支片19の後面を閉塞しようとした場合には、両フック31、32の後面側については、取付基板4の後面から突出せざるを得ず、そのようにして一対の支片19の後面の一部が突出した状態で閉塞されたとすれば、
入賞球を通すための通路を取付基板の後面側に円滑に配置することはもはや不可能であり、両フック31、32の位置を迂回させた通路を配置しなければならなくなる。そのような構成では、たとえ電気的駆動源が入賞球を通すための通路の配置に際して邪魔にならないとしても、訂正発明の課題を達成することができないのは明らかであって、引用発明の「支箱」は、この点からも、訂正発明の「囲い枠」と異なるものである。
この点について、被告は、「引用例の第4図からは、せいぜい電磁石28が遊技盤の肉厚内に収まっていることが把握される程度のものであり、原告が主張するように解釈しなければならないとする理由はどこにもない。」と主張するが、この主張は、引用例を解釈するに当たり、電磁石28が遊技盤の肉厚内に収まっているという被告に有利な一部の構成のみを取り出し、第1フック31及び第2フック32の一部が支箱19と称する一対の支片の後面側から突出するという被告に不利な残りの構成を排除しようとするものであり、客観的妥当性に欠けるもので不当である。
また、被告は、「仮に、引用例に記載の構成が、原告が主張するとおりであったとしても、囲い枠が閉塞される面について、これが遊技盤の後面側全面とほぼ同一面であることは、訂正発明の要旨とするところではなく、また、その実施例においても、囲い枠後面側の閉塞面に後方へ突出部分が存在する」とも主張する。
確かに、訂正発明は、被告が主張するように、形式的には囲い枠が閉塞される面の位置については記載されていないようにも見える。しかしながら、「該取付基板の後面側であって前記遊技盤の肉厚とほぼ同じ突出巾で突出され且つその後面が閉塞される囲い枠内にほぼ収納配置され」との記載、及び訂正発明の課題に鑑みれば、実質的には、囲い枠が閉塞される面が遊技盤の後面側全面とほぼ同一面であることは、当業者には明らかである。また、訂正発明の実施例(第1図)において、
囲い枠後面側の閉塞面に後方へ突出する部分は、符号55a及び55bで示されるところであるが、この部分は、入賞球通路としての第1入賞空間25及び第2入賞空間24を形成するためのものであり、上記の訂正発明の課題の中の「入賞球通路の設定」に直結するものである。一方、引用発明において、遊技盤の後端面に突出するのは、入賞球を通過させる通路ではなく、開閉部材を駆動させるための構成であり、訂正発明が解決しようとする課題に記述された問題点がそのまま残っているものである。
すなわち、訂正発明の実施例と引用発明とは、共に遊技盤の後端面に突出する構成を備えている点において共通するかもしれないが、その突出する構成が、訂正発明の実施例では、訂正発明の課題を解決するための手段である一方、引用発明では、訂正発明の課題を解決するのではなく問題点そのものである点が相違している。
2 取消事由2(相違点Aの判断の誤り) (1) 決定は、相違点Aとして、「囲い板が、訂正発明では、その後面が閉塞されているのに対して、引用発明では、その後面については特に記載がない点」(決定書12頁8行ないし10行)を認定し、この相違点Aの判断として、「パチンコ機における変動入賞装置において、入賞装置の開閉部材を駆動する電気的駆動源等を収納する部の後面を閉塞することは周知技術(例えば、特開昭56-80277号公報等参照)であるから、引用発明の囲い枠の後面に適用し、前記囲い枠の後面を閉塞させることは、容易に想到することができたものと認める。」(決定書13頁1行〜8行)としているが、この判断は誤りである。
(2) そもそも、訂正発明は、電気的駆動源の後面側に入賞球を通す構造を備えた変動入賞装置を提供するためのものである。具体的には、甲第2号証2頁左欄第2行ないし12行に記載のように、従来「変動入賞装置を遊技盤に取り付けた状態で、ソレノイドが遊技盤の後面よりもさらに後方に位置する」ために、「変動入賞装置よりも上方に位置する入賞口、あるいは入賞装置に入賞した入賞球を誘導する通路を設定する際に、ソレノイドが邪魔となってソレノイドを避けるような複雑な通路とせざるを得ないという問題」があり、その問題を解決するために、「遊技盤の後面側に配置される入賞球通路の設定の際に、開閉部材を駆動する電気的駆動源が邪魔とならないようなパチンコ機における変動入賞装置を提供する」ものである。
一方、引用発明において、たとえ電磁石28が入賞球通路の配置に際して邪魔になることはないと仮定したとしても、上記1(2)のとおり、第1フック31と第2フック32との下端部を支箱19内に収容するためには、支箱19の後面が遊技盤4の後面から突出した状態で閉塞せざるを得ず、入賞球の通路を複雑な形態としなければならないのであるから、訂正発明の課題を達成することはできない。
以上のことから、引用例には、訂正発明の構成及び技術的課題が示唆されているとはいえないのである。そして、この引用発明と、ただ単に蓋を設けたというだけの「周知技術」とを組み合わせることについては、引用例には何の示唆もないのであるから、決定の上記判断は誤りである。
3 取消事由3(相違点@の判断の誤り) 本件決定は、相違点@として、「入賞装置に開閉可能に支持される開閉部材が、
訂正発明では、取付基板に支持されているのに対して、引用発明では、支箱の受溝に支持されている点」(決定書12頁4行ないし7行)を認定し、この相違点@の判断として、「開閉部材を基板に支持することは、開閉部材の取付けにおいて、ごく普通に行われていることであるから、引用発明の開閉部材を支箱の受溝に支持させる代わりに基板に支持することは、開閉部材の種類に応じて当業者が容易に設計変更できる程度のものにすぎない。」(決定書12頁14行ないし20行)としているが、この判断は、何らかの引用文献に基づくものではなく、単に被告の意見又は感想に基づくものにすぎず、十分な判断がなされているとはいえないから、誤りである。
被告は、乙第3号証及び乙第4号証によって「開閉部材を基板に支持することは、開閉部材の取付において、ごく普通に行われていることである」ことが周知であると主張するが、これは、本訴において初めて提出された新たな証拠に基づいた主張であり、原告の適正手続を保証することができず、違法である。
4 取消事由4(相違点Bの判断の誤り) 本件決定は、相違点Bとして、「開閉部材は、訂正発明では、開閉自在であるが、引用発明では、開閉可能である点」(決定書12頁11行、12行)を認定し、この相違点Bの判断として、「開閉部材を開閉自在にすることも、開閉部材においてごく普通に行われていることであるから、引用発明の開閉可能な開閉蓋を、
開閉自在にすることも、当業者が必要に応じて容易に設計変更できる程度のものにすぎない。」(決定書13頁9行ないし14行)としているが、この判断は、何らかの引用文献に基づくものではなく、単に被告の意見又は感想に基づくものにすぎず、十分な判断がなされているとはいえないから、誤りである。
また、本訴において初めて提出された乙第1ないし第3号証による主張、立証が違法なことは、取消事由3と同様である。
被告の反論の要点
原告の主張はいずれも失当であり、決定の認定、判断には誤りはなく、違法な点は存在しない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して (1) 決定が、引用発明として引用しているのは、引用例に記載された具体的な実施例そのものでなく、具体的な実施例から把握されるまとまりのある技術的思想である。そして、引用例の記載によれば、入賞器を構成する部材を単に収納するだけでなく、必要な部材を支持する機能を有することから、支箱と名付けたものである。引用例の実施例においても、第3図、第4図に示されるように、電磁石28は、遊技盤の肉厚内に収まっており、入賞器の基板の後面側においては、入賞球通路と電磁石28とが干渉しないように構成することは当然のことであり、また、電磁石28は、各表示手段の点灯表示時であっても、操作杆29を吸引傾動するにすぎず、遊技盤の後面側には全く突出することはないことから、遊技盤の後面側における入賞球通路の配置に際して電磁石28が邪魔になることはないことは明らかである。
したがって、基板16とあいまって、支箱19が有する上記の機能は、訂正発明の囲い枠が取付基板とあいまって有する機能と同一であることから、引用発明の「支箱」は訂正発明の「囲い枠」に相当すると認定したものであって、決定の認定に誤りはない。
(2) 原告は、「開閉蓋23が開放するときには、・・・両フック31、32の下端部は、遊技盤4の後端面、すなわち一対の支片19の後端から露出してしまう」と主張するが、特許出願の願書に添付した図面は、設計図ではなく、特許を受けようとする発明の内容を明らかにするための説明図にとどまり、その部分の寸法や角度等がこれにより特定されるものではないから、引用例の第4図からは、せいぜい電磁石28は遊技盤の肉厚内に収まっていることが把握される程度のものであり、原告が主張するように解釈しなければならないとする理由はどこにもない。
仮に、引用例に記載の構成が原告の主張するとおりであったとしても、囲い枠が閉塞される面について、これが遊技盤の後面側全面とほぼ同一面であることは、訂正発明の要旨とするところではなく、また、その実施例においても、囲い枠後面側の閉塞面に後方へ突出部分が存在することは、訂正発明の願書添付の図面(甲第2号証)の第1図からも明らかである。してみると、囲い枠後面側の閉塞面の後方へ突出部分が存在することは、訂正発明が解決しようとする課題、すなわち、入賞球通路の設定の際に開閉部材を駆動する「電気的駆動源」が邪魔にならないような構成とすることとも何ら矛盾するものではない。
2 取消事由2(相違点Aの判断の誤り)に対して (1) 引用発明においては、電磁石28が支箱19側に固支され、電磁石28は、遊技盤の肉厚とほぼ同じ突出巾の支箱19内にあるから、支箱19は、遊技盤の裏面側に突出しない構造であることは明らかであり、遊技盤の後面側における入賞球通路の配置に際して電磁石28が邪魔になることはないことは明らかである。したがって、引用例には、本件発明の構成及び技術的課題が示唆されている。
一方、周知技術である甲第7号証(特開昭56-80277号公報)には、入賞装置の開閉部材を駆動する電気的駆動源等を収納する部の後面を閉塞することが開示されている。
そして、引用発明の支箱19の後面は、構造的にみて、これを閉塞することを阻害する技術的な要因はないから、引用例の支箱19の後面を、閉塞することに何ら問題はなく、上記の周知技術の閉塞の構成を、引用発明の支箱19(訂正発明の「囲い枠」に相当する)の後面に適用し、支箱19(囲い枠)の後面を閉塞させることは、当業者が容易に想到することができたことである。
(2) したがって、相違点Aに係る決定の判断には、何ら誤りはない。
3 取消事由3(相違点@の判断の誤り)に対して (1) 乙第3号証(実公昭54-32618号公報)には、「取付板8の前面に枢軸9、9’で回動自在に設けた一対の翼片4、4’」(2欄16行ないし17行)と記載され、乙第4号証(実公昭58-31588号公報)には、「1は取付板であって、その下方部に玉入口2を設け、該玉入口の前部に・・・チャッカー6を取付け、そのチャッカーの前面板8と、取付板1の・・・軸9、9により一対の開閉翼板10、10を軸支する。」(2欄27行ないし32行)と記載されている。
(2) したがって、「開閉部材を基板に支持することは、開閉部材の取付けにおいて、ごく普通に行われていること」(決定書12頁15ないし17行)とした決定の認定に誤りはなく、これに続く「引用発明の開閉部材を支箱の受溝に支持させる代わりに基板に支持することは、開閉部材の種類に応じて当業者が容易に設計変更できる程度のものにすぎない。」(決定書12頁17行ないし20行)とした決定の判断にも誤りはない。
(3) そして、判例(東京高裁平成2年(行ケ)第228号事件・平成4年5月26日判決、東京高裁平成3年(行ケ)第49号事件・平成4年3月25日判決、東京高裁昭和59年(行ケ)第203号事件・昭和60年12月24日判決)が、「周知慣用技術は、当業者が熟知しよく用いられている技術であるから、周知慣用の技術内容を特定すれば足り、その根拠を一々例示することを要するものでない。」旨判示するとおり、本件の異議申立てに対する審理の段階において、周知慣用技術の根拠として証拠を提出して原告に対し明細書又は図面について訂正する機会を保証しなかったとしても、これが違法とされることはないことは明らかである。
4 取消事由4(相違点Bの判断の誤り)に対して (1) 乙第1号証(実公昭57-24381号公報)には、「1は・・・玉入口2を開設した取付板で、・・・その下側辺部には扉板3が軸4、4によって開閉自在に軸着されている。」(1欄36行ないし2欄3行)、及び「18は・・・ソレノイドで、・・・プランジャ20の下端を作動レバー10の上面に接触させ、
これが消磁しているときは・・・ばね21の作用により・・・扉板3を・・・玉入口2を塞ぐ閉じ位置に保持する。また、前記ソレノイド18は・・・特定入賞口に打玉が入ったとき、或いは・・・遊技条件を満たしたとき励磁し、・・・一定個数の入賞玉をカウントしたとき消磁する・・・」(2欄21行ないし33行)と記載され、乙第2号証(実願昭60-103875号(実開昭62-12388号)のマイクロフィルム)には、「扉板23がその両端の軸受部23a、23bにはめ込められる軸24、24によって取付板20に対して回転自在に取付けられている。」(8頁1行ないし4行)、及び「このソレノイド40の動作は、遊技盤面の特定入賞口に打玉が入ったとき、または・・・遊技条件を満たしたときに励磁し、
プランジャ42がばね43に抗して上方へ吸引する。この結果、作動レバー33が矢印Pの逆方向へ回動し、・・・扉板23は自重とテンション巻ばね30の作用で開成する。・・・検出スイッチ35が一定個数の入賞玉Bをカウントしたとき、ソレノイド40は消磁され・・・作動レバー33の回動により係合腕25が扉板23とともに回転して玉入口を22を閉じる。」(11頁5行ないし18行)と記載され、さらに、乙第3号証(実公昭54-32618号公報)には、「取付板8の背面・・・に景品玉制御装置(・・・)の・・・スイッチ・・・を介して応動するソレノイド1を設け、該ソレノイド1によって上下運動をする作動杆2に両面ラック3を連設し、かつ取付板8の前面に枢軸9、9’で回動自在に設けた一対の翼片4、4’」(2欄11行ないし17行)と記載されている。
(2) したがって、「開閉部材を開閉自在にすることも、開閉部材においてごく普通に行われていること」(決定書13頁10、11行)とした決定の認定に誤りはなく、これに続く「引用発明の開閉可能な開閉蓋を、開閉自在にすることも、当業者が必要に応じて容易に設計変更できる程度のものにすぎない。」とした決定の判断にも誤りはない。
(3) また、審判の段階において周知慣用技術の根拠として証拠を提出して原告に対し明細書又は図面について訂正する機会を保証しなかったとしても、これが違法とならないことは、上記3(3)のとおりである。
理 由1 取消事由1(一致点の認定(引用発明の「支箱」が訂正発明の「囲い枠」に相当するとの認定)の誤り)について (1) 引用例の「発明の詳細な説明」欄に、決定が認定したとおり、「この入賞器15では、基板16中央部に横長の窓口17が形成されており、基板16裏面には、遊戯盤4の孔18内に嵌挿される支箱19が窓口17を囲繞した状態で形成されている」(甲第5号証3欄16行ないし20行)との記載事項があることは、
原告においても争いがなく、甲第5号証によれば、引用発明における「電磁石28」は、「支箱19」の内側(窓口17側)に固支されていることが認められるから(同号証4欄2行ないし4行、第3図ないし第5図参照)、結局、引用発明は、
「支箱19」について、遊戯盤4の孔18内に嵌挿され、「窓口17」や「電磁石28」を囲繞した状態を形成する部材として構成していることが認められる。
そして、「囲繞」の用語は、「かこいめぐらすこと」の意義を有することは、原告においても認めるところであるから、引用発明は、「支箱19」について、「窓口17」や「電磁石28」をかこいめぐらす部材として構成しており、したがって、訂正発明における「囲い枠」に相当すると認められる。
(2) この点に関し、原告は、引用発明の「支箱」は、第5図を参照すれば、
一対の支片にすぎず、電気的駆動源の周囲をとりまく構成の訂正発明の「囲い枠」とは全く異なる旨主張している。
しかし、訂正発明の技術的意義は、次のとおりであると認められる。すなわち、
甲第3号証によれば、訂正発明が解決しようとする課題は、従来技術では、パチンコ機の遊技盤の変動入賞装置における開閉部材を駆動する電気的駆動源(ソレノイド)が、遊技盤の後面よりもさらに後方に位置しており、このため、変動入賞装置よりも上方に位置する入賞口、あるいは入賞装置に入賞した入賞球を誘導する通路を設定する際に、電気的駆動源が邪魔となって、これを避けるような複雑な通路とせざるを得ないという問題があったので、遊技盤の後面側に配置される入賞球通路の設定の際に、開閉部材を駆動する電気的駆動源が邪魔とならないようなパチンコ機における変動入賞装置を提供することを目的とするものであること(【従来の技術】、【発明が解決しようとする課題】の各欄参照)、そして、訂正発明は、その課題を解決するための手段として、訂正発明の要旨の構成をとり(【課題を解決するための手段】欄参照)、この構成によって、変動入賞装置を遊技盤に装着したときに、電気的駆動源の全部又は大部分が遊技盤の厚みの中に位置することになり、
遊技盤の後面側にほとんど突出することがなく、このため、遊技盤の後面側に配置される入賞球通路が電気的駆動源によって邪魔されることなく自由に設定することができるという作用、効果を果たすという技術的意義があるものであること(【作用】、【発明の効果】の各欄参照)が認められる。
一方、引用発明における「支箱19」をみると、確かに、引用例(甲第5号証)の第5図の分解斜視図には、「支箱19」として、その部材のみでは「電磁石28」の周囲の全てをかこむ形状のものとして明確には図示されていないが、他方、
引用例の「発明の詳細な説明」欄に記載されている上記(1)の内容並びに引用例の第3図の縦断面図及び第4図の横断面図によれば、引用発明の入賞器15では、
「支箱19」は、基板16裏面において、遊戯盤4の孔18内に嵌挿されており、
この遊技盤4の孔18の上面の部分と、電磁石28及びその操作杆29の下部に位置する部材(第3図の縦断面図中、29の部材と22の部材の間に位置し、斜線で図示されている部材)とあいまって、電磁石28の周囲のほぼ全面をかこむ部材として表示されていることが認められるのであり、「発明の詳細な説明」では、このように表示された図面を参照して、引用発明の一実施例について(甲第5号証2欄36、37行参照)、上記のとおり、「孔18内に嵌挿される支箱19が窓口17を囲繞した状態で形成されている」とその構成を示していることが認められる。また、電磁石28が支箱19の内側に固支されていることは、上記(1)に認定したとおりである。
したがって、引用発明は、「支箱19」について、その部材や他の部材とあいまって、上記(1)のとおり、「窓口17」、「電磁石28」を囲繞した状態を形成する部材として構成していることが認められるのである。
そして、この引用発明の「支箱19」の構成に、上記認定の訂正発明の技術的意義を併せて考察すれば、引用発明の「支箱19」は、電磁石28をかこんでいる枠として「囲い枠」に相当すると評価することができるのであり、訂正発明及び引用発明の各明細書等を含む本件全証拠をもってしても、これを訂正発明における「囲い枠」とは技術的意義を異にするものであると把握すべき根拠は見いだし難い。
このように、原告の上記主張は採用することができず、決定が「引用発明の「支箱」は、遊戯盤の孔内18に嵌挿され、窓口17を囲繞した状態で形成されていると記載されていることから、訂正発明の「囲い枠」に相当する」と認定した点に誤りはない。
(3) また、原告は、訂正発明の「囲い枠」とは、訂正発明の課題に鑑みれば、開閉部材が閉止している状態のみでなく、開閉部材が開放している状態をも含んで、囲い枠内の構成が取付基板の後面側から突出しないような構成としなければならない旨主張している。
しかし、原告が取付基板の後面側から突出すると主張している引用発明の「第1フック31」及び「第2フック32」は、訂正発明が解決すべき課題として、従来技術において遊技盤の後面から突出して設置されていることを問題とする「電気的駆動源」ではない別の部材であるばかりか、訂正発明の「囲い枠」に相当する「支箱19」の外部に存在する部材であることは、引用例(甲第5号証)における「支箱19の左外部に、第1フック31と、第2フック32とが共通の支軸33に独立して枢着垂下されている。」との記載(同号証4欄11行ないし13行)及び第5図から明らかである。
そして、訂正発明は、「囲い枠」に関する構成として、「取付基板の後面側であって前記遊技盤の肉厚とほぼ同じ突出巾で突出され且つその後面が閉塞され」、
「電気的駆動源がほぼ収納配置され」ることを要件とするだけであり、この電気的駆動源とは別個の部材をも「囲い枠」で覆いこみ、また、囲い枠の外部に存する部材をも遊技盤の後面から突出しないことを要件とするものではないことは、訂正発明の要旨及び上記認定の訂正発明の技術的意義に照らし明らかであるから、引用発明の「第1フック31」及び「第2フック32」が取付基板や遊技盤の後面から突出しているか否かという点は、訂正発明の構成とは関わりがないのであって、原告の上記主張は明らかに失当である。
なお、原告は、訂正発明の「囲い枠」は、囲い枠内の構成が取付基板の後面側から突出しないような構成としなければならない旨主張しているところ、原告が取付基板の後面側から突出すると主張する引用発明の「第1フック31」及び「第2フック32」は、上記認定のとおり、「支箱19」の外部に存在するものであるから、引用発明の「支箱19」の内部の構成としては、開閉部材が開放している状態をも含めて取付基板(遊技盤)の後面側から突出する部材は存在しておらず、原告の上記主張は、この点からも失当である。
(4) 以上のとおり、取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点Aの判断(囲い枠の後面を閉塞する構成の容易想到性)の誤り)について (1) 前判示のとおり、訂正発明の課題は、パチンコ機における遊技盤の後面側に配置される入賞球通路の設定の際に、開閉部材を駆動する電気的駆動源が邪魔とならない変動入賞装置を提供することであり、その課題を解決するために訂正発明の要旨の構成をとることによって、電気的駆動源の全部又は大部分が遊技盤の厚みの中に位置することになり、遊技盤の後面側にほとんど突出することがなく、このため、遊技盤の後面側に配置される入賞球通路が電気的駆動源によって邪魔されることなく自由に設定することができるという作用、効果を果たすという点に、訂正発明の技術的意義があるものであるところ、甲第3号証によれば、訂正発明の実施例の作用、効果についても、訂正明細書の「発明の詳細な説明」欄に、「ソレノイド50a、50bの全部が遊技盤9の厚みの中に位置することになり、遊技盤9の後面側にほとんど突出することがない。このため、遊技盤9の後面側に配置される入賞球通路21がソレノイド50a、50bによって邪魔されることがなく、自由に設定できることになる。」(同号証8頁13行ないし16行)とだけ記載されていることが認められる。
したがって、訂正発明の上記の課題を果たすための構成としては、電気的駆動源(ソレノイド)が遊技盤の厚みの中に位置し、その後面側に突出しなければよいと理解されるのであって、囲い枠の後面を閉塞する構成とこの課題との間に、特別の技術的関連を見いだすことはできない。なお、甲第3号証によれば、訂正明細書には、上記記載のほかに、「蓋体53の裏面両サイドには、前記始動入賞口15a、
15bに入賞した入賞球を前記した第2入賞空間24に誘導する第2入賞空間誘導部材55a、55bが取り付けられている。」(同号証7頁20行ないし22行)との記載も認められるが、この第2入賞空間誘導部材が上記課題における「入賞球通路」の一種であるとしても、囲い枠を蓋板で閉塞しなければ、第2入賞空間誘導部材を取り付けることができないとは認められないのであるから、訂正発明の課題と引用発明における相違点A(囲い枠の後面の閉塞性)との間に、格別の技術的関連はないといわざるを得ない。
そして、決定は「パチンコ機における変動入賞装置において、入賞装置の開閉部材を駆動する電気的駆動源等を収納する部の後面を閉塞することは周知技術(例えば、特開昭56-80277号公報等参照)である」(決定書13頁2行ないし5行)と認定し、これを「引用発明の囲い枠の後面に適用し、前記囲い枠の後面を閉塞させることは容易に想到することができた」ものと判断したものであるところ、
甲第7号証によれば、決定が引用した特開昭56-80277号公報には、発明の名称を「パチンコ機の変動入賞装置」とする発明において、電気的駆動源に相当する「電磁石20」を収納する「ケース22」の後面が閉塞されていることが、第2図、第4図として明瞭に図示されていることが認められるから、決定の上記の認定、判断は相当であり、誤りはない。
(2) この点に関し、原告は、引用発明では、第1フック31と第2フック32との下端部を支箱19内に収容するためには、支箱19の後面が遊技盤4の後面から突出した状態で閉塞せざるを得ず、入賞球の通路を複雑な形態としなければならないのであるから、訂正発明の課題を達成することはできず、引用例には、訂正発明の構成及び技術的課題が示唆されているとはいえない旨主張している。
しかし、前判示のとおり、原告が指摘する引用発明における第1フック31と第2フック32は、電気的駆動源とは別個の部材であり、囲い枠(支箱19)の外部に存在するものであり、訂正発明の構成において、電気的駆動源と別個の部材を取付基盤(遊技盤)の後面側から突出しないこととすることは、その要件となっておらず、また、訂正発明の技術的課題と関連するものではないのであるから、原告の上記主張は、前提において失当であり、採用することができない。
(3) 以上のとおり、取消事由2も理由がない。
3 取消事由3(相違点@の判断(開閉部材を基板に支持することの容易想到性)の誤り)について (1) 甲第5号証によれば、引用発明では、開閉蓋23の支軸部24が基板16に平行であり(第5図参照)、そのままでは基板16に開閉蓋23を支持し難い構造となっているため、「支軸部24、24を止箱9の各受溝25、25内に嵌合して傾動可能に支持」(同号証3欄28行ないし30行)したものと認められる。
他方、この点に関する周知技術についてみると、乙第3号証(実公昭54-32681号公報)の「取付板8の前面に枢軸9、9’で回動自在に設けた一対の翼片4、4’」(同号証1頁2欄16、17行)との記載及び第1図、並びに、乙第4号証(実公昭58-31588号公報)の「図中1は取付板であって、・・・軸9,9により一対の開閉翼板10、10を軸支する。」(同号証1頁2欄27行ないし32行)との記載及び第1、第2図によれば、開閉部材に相当する乙第3号証の「翼片4、4’」及び乙第4号証の「開閉翼板10、10」は、その「枢軸9、
9’」(乙第3号証)及び「軸9、9」(乙第4号証)が取付板(訂正発明の「取付基板」に相当する。)に垂直であり、開閉部材が取付板に支持されていることが認められる。
したがって、開閉部材の回動軸が取付基板に垂直であるような変動入賞装置が存在すること、及びそのような変動入賞装置では開閉部材を取付基板に支持することは、いずれも周知であると認められるのであるから、「引用発明の開閉部材を・・・基板に支持することは、開閉部材の種類に応じて当業者が容易に設計変更できる程度のものにすぎない。」(決定書12頁17行ないし20行)との決定の判断は相当であり、誤りはない。
(2) 原告は、乙第3、第4号証は本訴において初めて提出された新たな証拠であり、これらの証拠に基づく主張は違法である旨主張しているが、これらの証拠は「開閉部材を基板に支持することは、開閉部材の取付において、ごく普通に行われていることである」(決定書12頁15行ないし17行)という決定の周知技術の認定を裏付けるものとして提出されたものであって、これらの証拠を新たな引用例として新たな主張をするものでないことは明らかである。そして、周知技術とは、文献等を例示するまでもなく、当業者が当然に熟知している技術であるから、
特段の事情がない限り、特許庁審判官が異議手続や決定において、周知技術を例示する文献等を摘示しなかったからといって、直ちに決定が違法となるものではなく、本件の異議手続や決定において周知技術を例示する文献等を摘示すべきであったことをうかがわせる特段の事情も認められない。
したがって、被告が本訴において乙第3、第4号証を提出し、これらの証拠によって決定が認定した周知技術の存在を立証することは許されるものであり、原告の上記主張は理由がない。
(3) 以上のとおりであるから、取消事由3も理由がない。
4 取消事由4(相違点Bの判断(引用発明の開閉蓋を開閉自在にする点の容易想到性)の誤り)について (1) 甲第5号証によれば、引用例には「開放傾動された開閉蓋23は、その連繋ピン34が第2フック32の案内溝32b上端部にあって、かつ第1フック31の側縁に係止拘束されたままとなって互いの平衡作用により、その開放状態が安定に固定化保持されている。・・・拡開された下可動入賞器15において、打球Bがいずれの受入口21Aに入ると、その打球Bは開閉蓋23における当該の蓋片23aから案内片27側へ転動流下し、その自重をもって案内片27を押下げ・・・これにより、開閉蓋23は元の閉鎖状態に向けて上傾回動される」(同号証4頁7欄37行ないし8欄6行)との記載があることが認められ、引用発明では、開放状態の開閉蓋23が「打球Bがいずれの受入口21Aに入る」ことにより閉鎖状態に復帰する点で、訂正発明の開閉部材が「開閉自在」であることと相違することは、
決定が認定したとおりである。
他方、この点に関する周知技術をみると、乙第1号証(実公昭57-24381号公報)には「扉板3が軸4,4によって開閉自在に軸着されている」(同号証2欄2、3行)、「ソレノイド・・・、が消磁しているときは・・・扉板3を・・・玉入口2を塞ぐ閉じ位置に保持する。」(同号証2欄22行ないし28行)、及び「ソレノイドが励磁されると、・・・扉板は自重で前方に回動して開き玉入口を開放する。」(同号証2欄36行ないし3欄4行)との記載が認められ、扉板3(訂正発明の「開閉部材」に相当する。)の開閉状態はソレノイドが励磁・消磁の何れであるかのみで定まり、開閉自在であると認められる。同様に、乙第2号証(実願昭60-103875号(実開昭62-12388号)のマイクロフィルム)には「扉板23が・・・取付板20に対し回転自在に取付けられている。」(同証8頁1行ないし3行)、及び「ソレノイド40の動作は、・・・励磁し、・・・扉板23は自重とテンション巻ばね30の作用で開成する。・・・ソレノイド40は消磁され・・・扉板23とともに回転して玉入口22を閉じる。」(同号証11頁5行ないし18行)との記載が、乙第3号証(実公昭54-32618号公報)には「ソレノイド1によって上下運動をする作動杆2に両面ラック3を連設し、かつ取付板8の前面に枢軸9、9’で回動自在に設けた一対の翼片4、4’」(同号証2欄14行ないし17行)との記載がそれぞれ認められ、乙第2、第3号証においても、開閉部材は開閉自在であることが認められる。さらに、乙第4号証(実公昭58-31588号公報)においても「ソレノイドの非駆動と駆動とによって開閉翼板の起立及び傾動を制御する」(同号証1欄末行ないし2欄1行)との記載が認められ、開閉部材は開閉自在であると認めることができる。
そうすると、変動入賞装置の開閉部材を開閉自在とすることは周知技術であるというべきであり、「開閉部材を開閉自在にすることも、開閉部材においてごく普通に行われていることであるから、引用発明の開閉可能な開閉蓋を、開閉自在にすることも、当業者が必要に応じて容易に設計変更できる程度のものにすぎない。」(決定書13頁10行ないし14行)との決定の認定、判断は相当であり、誤りはない。
(2) また、被告が本訴で初めて提出する乙第1ないし第4号証により決定が認定した周知技術の存在を立証することが違法とされることはなく、この点に関する原告の主張は採用することができないことは、前記3(2)に判示するとおりである。
(3) 以上のとおり、取消事由4も理由がない。
5 結論 以上の次第で原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史