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関連審決 審判1997-19579
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  技術情報 /  優先権 /  実質的に同一 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 96号 審決取消請求事件
原告 ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ代表者 【A】
訴訟代理人弁理士 松本研一
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成9年審判第19579号事件について平成11年10月20日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、1987年(昭和62年)10月9日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和63年10月6日、名称を「安定化ポリフェニレンエーテル-ポリアミド組成物」とする発明につき特許出願をした(特願昭63-251038号)が、平成9年8月1日に拒絶査定を受けたので、同年11月25日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成9年審判第19579号として審理した上、平成11年10月20日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年11月29日原告に送達された。
2 平成9年12月24日付け手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項(1)に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 (a)5乃至95重量部のポリフェニレンエーテル樹脂と95乃至5重量部のポリアミド樹脂との相溶化ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンド、及び (b)樹脂組成物(a)100重量部あたり0.001乃至0.5重量部の式: (式中Mは銅、ニッケル、スズ及びセリウムから成る群から選ばれる金属イオンを表わし、XはCl、Br、F、I、ステアレート及びアセテートイオンから成る群から選ばれるイオン基であり、nは1乃至6の整数を表わし、yはMの正イオン電荷を表わす整数であり、そしてzはXの負イオン電荷を表わす整数である)の金属塩 を含む、熱老化後の物理的特性の保持性が改良された熱可塑性樹脂組成物。
(上記(b)記載の金属塩を以下「成分(b)」という。) 3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特表昭61-502195号公報(甲第3号証、以下「引用例1」という。)及び昭和61年に日本国内において頒布された刊行物である「プラスチックエージ」32巻5号掲載の「ポリアミド系樹脂の最近の用途開発のための安定化処方」(【G】、【H】)(甲第4号証、以下「引用例2」という。)に記載された各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本願発明の要旨の認定(審決書2頁4行目〜3頁14行目)、引用例1、2の記載事項の認定(同4頁10行目〜7頁末行)、本願発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定(同8頁2行目〜9頁9行目)は認める。
審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点(1)、(2)についての判断を誤った(取消事由1、2)結果、本願発明が、引用例1、2記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り) 審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点(1)(本願発明は成分(b)を含むのに対し、引用例1は含有する具体的な添加剤を明記していない点)について、引用例1(甲第3号証)に、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンド熱可塑性樹脂組成物に添加する安定剤として「特に好ましいのはポリアミドに使用するのに好適な安定剤である。例えば・・・ヒンダードフェノールおよびカリウムおよび第一銅塩の組合せを含む安定剤パッケージを使用しうる」(9頁右下欄11行目〜15行目)と記載されていることから、「ポリアミド樹脂の安定剤がポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として使用できるものであるから、ポリアミド樹脂に使用されている安定剤をポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として採用することは当業者であれば容易に想到し得ることである」(審決書10頁2行目〜8行目)とした上、「引用例2に、ポリアミド樹脂の安定化剤としてハロゲン化銅化合物が使用できることが示されている以上、本願発明がポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に添加する安定剤として式・・・の金属塩(注、本願発明の成分(b))を採用することは容易に想到し得たものといえる」(同10頁17行目〜11頁4行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、特開昭49-99599号公報(甲第5号証)、特公昭53-45360号公報(甲第6号証)、特開昭53-92898号公報(甲第7号証)、
米国特許第4496679号明細書(甲第8号証)、米国特許第4536567号明細書(甲第9号証)、Makromol.Chem.180,351-360(1979)(甲第10号証)及びMakromol.Chem.182,1961-1971(1981)(甲第11号証)には、銅化合物がポリフェニレンエーテルの安定性を損なって変色及び熱分解の原因となることが示されており、銅化合物がポリフェニレンエーテルの熱酸化分解を促進することを裏付ける実験結果も報告されている。そうすると、銅化合物をポリフェニレンエーテルからできる限り取り除いておくことは当該技術分野における技術常識であって、本願発明の阻害要因であったというべきである。
なお、刊行物1は、上記のとおり、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に添加する安定剤として「ヒンダードフェノールおよびカリウムおよび第一銅塩の組合せを含む安定剤パッケージ」を例示しているが、この記載は、3種の熱安定剤の組合せから成る「安定剤パッケージ」全体としての有効性をいうものであって、第一銅塩単独での有効性を示唆するものではない。
また、本願発明の効果に関して、審決の引用する引用例1の上記記載からは、イルガノックス1076のようなヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用した場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場合とで物理的特性の保持性という効果に顕著な差が生ずることを予想できないことは後述するとおりであり、この点でも本願発明を想到することは困難である。
したがって、上記の引用例1の記載を考慮したとしても、甲第5〜第11号証で示した技術常識から、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に有害な作用を与えるハロゲン化銅を相溶化ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに配合すればその熱安定性が損なわれるおそれがあると予想されたことに変わりはなく、
本願発明の成分(b)を想到することは困難であったというべきである。
2 取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り) 審決は、本願発明と引用例1記載の発明との相違点(2)(本願発明が熱可塑性樹脂組成物について「熱老化後の物理的特性の保持性が改良された」と規定するのに対し、引用例1には添加剤の有する熱老化後の物理的特性の保持性の改良効果が明記されていない点)について、「ポリアミド樹脂に配合された安定剤の熱安定化試験として、引用例2では、ポリアミド樹脂のオーブン老化後の物理的特性を測定して比較検討しているものである。そうすると、熱老化試験は熱安定化試験といえるから、結局、熱老化後の物理的特性の保持性と熱安定化とに実質的差異は認められず、また、たとえそうではなくとも、本願発明における熱老化後の物理的特性の保持性は、少なくとも引用例2の手段を引用例1の組成物に適用することにより得られることが当業者において容易に想到できる物性にすぎない」(審決書12頁3行目〜13行目)とするが、誤りである。
すなわち、本件明細書の表4(甲第2号証の1、7頁)には、成分(b)としてヨウ化銅(CuI)を配合した本願発明の組成物では、フェノール系酸化防止剤であるイルガノックス1076のみを配合したものに比べ、180°Cで1時間の熱老化した後の室温及び-30°Cでのノッチ付アイゾット衝撃強さ並びに室温及び-30°Cでのシャルピー衝撃強さの保持性が格段に改善され、酸素摂取量も格段に低減することが記載されており、同表2(6頁)には、成分(b)としてヨウ化銅(CuI)を配合した本願発明の組成物では、イルガノックス1076とヨウ化カリウム(KI)の組合せを配合したものに比べて、400°F〜425°Fで1〜2時間熱老化処理した後の室温ダイナタップ衝撃強さの保持性が格段に改善されたことが明記されている。ここで、対照安定剤として用いられたイルガノックス1076は慣用のフェノール系酸化防止剤であり、ハロゲン化銅と同様にポリアミドの熱安定化剤として周知であった。したがって、審決のいう「引用例2の手段を引用例1の組成物に適用」(審決書12頁11行目〜12行目)したとしても、
安定剤の選択いかんによって、本願発明で問題とする熱老化後の物理的物性の保持性という効果に格段の差異が生ずるのであり、引用例1、2からは、イルガノックス1076のようなヒンダードフェノール系酸化剤を使用した場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場合との顕著な効果の差は予測することができず、本願発明を想到することは困難であったというべきである。
引用例1は、変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に任意成分として添加し得る安定剤には概してポリアミド用の熱安定剤が含まれる旨が示されているにすぎず、変成ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定化が具体的課題として提示されているわけでも、変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定化のためにポリアミド用の熱安定剤を採用する旨が明示されているわけでもなく、まして、すべてのポリアミド用熱安定剤が有効であると保証したものでもない。
引用例2には、ポリアミド樹脂用の安定剤でポリアミド樹脂のオーブン老化後の破断時伸びの保持性に改善が見られたとの記載があるとしても、同様の効果が変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に対する熱安定剤の配合でも得られるとは限らず、むしろ、前述のとおり、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に銅化合物が有害な影響を及ぼし、変色及び熱分解の原因となることが周知であったことにかんがみれば、ハロゲン化銅を変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに配合するとポリフェニレンエーテル成分の熱分解が起こって変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの熱安定性を損なうことが予想される。したがって、ポリアミド樹脂についての熱老化後の物理的特性の保持性とポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂に対する熱安定剤の配合とを実質的に同一に考えることはできない。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)について 原告は、甲第5〜第11号証に基づいて、ポリフェニレンエーテルから銅イオンをできるだけ除去することが本願発明出願当時の技術常識であって、本願発明の阻害要因であった旨主張する。確かに、甲第5〜第11号証は、ポリフェニレンエーテルの製造時に使用した触媒化合物である銅塩化合物が存在するとポリマーの変色及び分解が起こるとして、金属触媒残留物を除去することの必要性を述べたものであるが、以下に述べるとおり、これらは本願発明の阻害要因となるものではない。
まず、引用例1(甲第3号証)には、「本発明の実施に当たって使用するのに好適な安定剤には一般にポリアミドまたはポリフェニレンエーテルの何れかと使用するのに好適な既知の任意の熱および酸化安定剤を殆んど含む。特に好ましいのはポリアミドに使用するのに好適な安定剤である。例えば・・・ヒンダードフェノールおよびカリウムおよび第一銅塩の組合せを含む安定剤パッケージを使用しうる。」(9頁右下欄8行目〜15行目)と記載されており、ポリアミドに通常使用されている代表的な安定剤であるヒンダードフェノール、カリウム及び第一銅塩を使用すれば、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として十分その効果が得られることが述べられている。また、引用例1の実施例70には、ポリフェニレンエーテルが30、ポリアミド6.6が40、安定剤(ヒンダードフェノール酸化防止剤と熱安定剤としてのカリウムおよび第一銅塩を含有する安定剤パッケージ)が0.3を含む組成物が開示されている(15頁表14)。そうすると、変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに対しては、ポリフェニレンエーテルと第一銅塩との関係は考慮する必要がないことを示しているのであって、仮に、原告の主張するような阻害要因があったとしても、それは引用例1において払拭されているのである。
当業者がこれらの記載に接した場合、すなわち、引用例1において第一銅塩を含むポリアミドの安定化剤が変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの熱安定剤として有効であるとの教示を得た場合には、変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの安定化に当たって、少なくとも第一銅塩は有効であると考えるのであって、上記甲号各証の知見は本願発明の阻害要因とはなり得ないのである。
2 取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について 原告は、引用例1、2からはイルガノックス1076のようなヒンダードフェノール系酸化防止剤を使用した場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場合とで物理的特性の保持性という効果に顕著な差が生ずることは予想することができず、本願発明を想到することはできない旨主張するが、引用例1の特許請求の範囲の請求項27、28には、「27 更に難燃剤、着色剤および安定剤からなる群から選択した少なくとも1種の添加剤を有効量含有する請求の範囲第1項の組成物/28 安定剤をヒンダードフェノール、ホスファイトおよびホスフェート、カリウム塩および第一銅塩およびそれの組み合わせからなる群から選択する請求の範囲第27項記載の組成物」とあり、第一銅塩単独の使用も含む安定剤の態様が明確に記載されている。そうすると、これに接した当業者は、上記のとおり示された安定剤の成分を単独で又は組み合わせて実施し、安定化効果の比較をするなどして、
好適な安定剤の選択を決定するのであり、本願発明を想到するのに格別のことはない。
また、原告は、甲第5〜第11号証に基づいて、ハロゲン化銅を変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに配合するとポリフェニレンエーテル成分の熱分解が起こって変性ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの熱安定性を損なうことが予想され、ポリアミド樹脂についての熱老化後の物理的特性の保持性とポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂に対する熱安定剤の配合とを実質的に同一に考えることはできない旨主張する。
しかし、甲第5〜第9号証において、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に有害な影響を及ぼす旨記載されている銅化合物は、ポリフェニレンエーテルを製造する際に触媒として用いられる銅-アミン錯体化合物である。したがって、引用例2に記載のポリアミド樹脂の安定剤として使用できる銅塩までがポリフェニレンエーテルの熱安定性に有害な影響を及ぼすことを意味するものではない。また、甲第10、第11号証において、ポリフェニレンエーテルの分解に影響を与える旨記載されているのは、塩化第二銅塩化合物及びCu+2イオンについてであり、引用例1記載の第一銅塩化合物、引用例2記載のハロゲン化銅(第一銅塩化合物の一種)の影響についてまで示しているものではない。したがって、甲第5〜第11号証の上記記載は、引用例2の第一銅塩であるヨウ化銅を引用例1の第一銅塩として採用することに対して、何ら阻害要因となるものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)について 原告は、甲第5〜第11号証に基づいて、ポリフェニレンエーテルから銅化合物をできるだけ除去することが本願発明の特許出願当時の技術常識であって、本願発明の阻害要因であった旨主張する。
確かに、甲第5号証の「ポリマーが金属残留物で汚染されていると変色および分解をもたらすので反応溶液(およびポリマー)から金属触媒残留物を除去することが重要である」(1頁右下欄14行目〜17行目)との記載を初めとして、甲第5〜第9号証には、ポリフェニレンエーテルを製造した場合、銅-アミン錯体その他の触媒残留物が除去されないと、変色や分解の原因となることが記載されており、また、甲第10、第11号証には、塩化第二銅塩化合物及びCu+2イオンの存在がポリフェニレンエーテルの分解に影響を与えることを実験によって示す記載のあることが認められる。そして、ポリフェニレンエーテル製造のための触媒の代表例として第一銅塩が引用例1(甲第3号証6頁右上欄末行〜左下欄15行目)に明示されていることからすると、甲第5〜第11号証からは、第一銅塩であるハロゲン化銅についても、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に有害な影響を与える存在として、これをできるだけ除去することが技術常識であったものと認めることができる。
しかし、第一銅塩とポリフェニレンエーテルとの関係における上記の知見を、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物について類推することの妥当性については、第一銅塩とポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物との関係を直接示す具体的な知見が本願発明の出願当時示されていたかどうか等を踏まえて、更に検討する必要がある。
このような観点から見るに、まず、引用例1(甲第3号証)の(ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンド熱可塑性樹脂組成物に添加する安定剤として)「特に好ましいのはポリアミドに使用するのに好適な安定剤である。例えば・・・ヒンダードフェノールおよびカリウムおよび第一銅塩の組合せを含む安定剤パッケージを使用しうる」(9頁右下欄11行目〜15行目)との記載は、ヒンダードフェノール、カリウム及び第一銅塩の組合せによる「安定剤パッケージ」に関する記載であって、第一銅塩自体としての熱安定化の効果を示すものとしては必ずしも十分とはいえないものの、その特許請求の範囲の請求項28は、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に添加する安定剤を「ヒンダードフェノール、ホスファイトおよびホスフェート、カリウム塩および第一銅塩およびそれらの組合せからなる群から選択する」と記載しており、第一銅塩の単独又は組合せによる使用が明記されていることが認められる。すなわち、第一銅塩がポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に添加する安定剤として有用であることが明らかに示されているということができるから、引用例1記載のポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として、引用例2記載のハロゲン化銅を組み合わせることに格別の困難はないというべきである。他方、甲第5〜第11号証によって示される前記技術常識は、第一銅塩とポリフェニレンエーテルとの関係に関するものにすぎず、第一銅塩をポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の安定剤として使用することを直接開示している引用例1の上記記載を踏まえると、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物についてまで類推することはできないといわざるを得ず、したがって、本願発明の阻害要因となるものではない。そして、他に刊行物1、2記載の各発明の組合せを困難とする格別の事情も見当たらないから、これに基づいて、本願発明の成分(b)を想到することが容易であるとした審決の相違点(1)に係る判断に誤りはないというべきである。
2 取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について 原告は、引用例1、2からは、イルガノックス1076のようなヒンダードフェノール系酸化剤を使用した場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場合との顕著な効果の差は予測することができず、本願発明を想到することは困難である旨主張する。しかし、引用例1記載のポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定化のために、ヒンダードフェノールや第一銅塩等が単独で又は組み合わせて使用することができるという知見が示されていることは前示のとおりである。そして、本願発明の要旨が規定する「熱老化後の物理的特性の保持性が改良された」との要件が、原告主張のように、ヒンダードフェノール系酸化剤を使用した場合とヨウ化銅のようなハロゲン化銅を使用した場合との顕著な効果の差についての具体的な開示がなければ想到することができないとは考えられず、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定化のためにポリアミド樹脂に配合される安定剤を使用するとの引用例1の記載及びポリアミド樹脂の安定剤としてハロゲン化銅化合物を採用して、オーブン老化後の物理的特性を測定して比較した引用例2の記載から容易に想到することができる程度のものというべきである。
また、原告は、ポリフェニレンエーテルの熱安定性に銅化合物が有害な影響を及ぼすことは甲第5〜第11号証に記載のとおり周知であるから、ハロゲン化銅をポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドに配合するとポリフェニレンエーテル成分の熱分解が起こってポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂ブレンドの熱安定を損なうことが予想される旨主張する。しかし、前示のとおり、引用例1に、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定剤として第一銅塩を使用することができるとの明らかな記載がある以上、この記載は、甲第5〜第11号証に基づく上記知見がポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物に類推されるのではないかとの予想を覆す確かな技術情報として受け入れることができるものであって、結局、原告の主張に係る上記の周知の知見は、ポリフェニレンエーテル-ポリアミド樹脂組成物の熱安定剤として第一銅塩が有効であると考えることに対し、何ら障害となるものとはいえない。
よって、相違点(2)についての審決の判断に誤りはないというべきである。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利