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関連審決 異議1998-70408
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  方法の発明 /  容易に発明 /  周知技術 /  先行技術 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 13号 特許取消決定取消請求事件
原告 ジーエスイー・ライニング・テクノロジー,インコーポレイテッド 代表者 【A】
訴訟代理人弁理士 奥山尚一
同 有原幸一
同 松島鉄男
同 伊與田 幸穂
同 佐藤秀昭
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成10年異議第70408号事件について平成11年8月31日にした取消決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「漏電探知を容易にして屋外貯液場所をライニングする方法及び同ライナー」とする特許第2655232号の特許(平成5年4月2日特許出願、平成9年5月30日特許権設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
本件特許について、【G】から特許異議の申立てがあり、その申立ては、平成10年異議第70408号事件として審理された。この審理の過程において、平成10年6月8日付けで、本件発明の特許の取消理由通知(以下「第1の取消理由通知」という。)がなされたので、原告は、同年12月21日付けで特許異議意見書を提出し、さらに、平成11年1月28日付けで、本件発明の特許の取消理由通知(以下「第2の取消理由通知」という。)がなされたので、原告は、同年5月12日付けで特許異議意見書を提出した。特許庁は、平成11年8月31日に「特許第2655232号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし、
平成11年9月13日にその謄本を原告に送達した。なお、出訴期間として90日が付加された。
2 本件発明の特許請求の範囲 (1) 請求項1(以下、この発明を「本件発明1」という。) 下記の順に実行される下記のステップからなることを特徴とする、土地の一領域を防水する方法: (a) 貯液場所内のプローブと柔軟性のあるプラスチック・シートとの間に電位差を生ぜしめることによりピン・ホール漏電を信頼可能に探知できるようにするに充分な電気を伝導できる第二の層をそなえた、柔軟性のある前記プラスチック・シートを、前記第二の層と、該第二の層よりも導電性の低い第一の層とを共押し出し成形して形成するステップ。
(b) 防水すべき土地を複数の、前記の、柔軟性のあるシートで、前記第一の層を上にして覆うステップ。
(c) 接合するシート同士の間の継ぎ目部位を作り出すように、突き合わせ継ぎ又は重ね継ぎ方式で前記シートを位置合わせするステップ。
(d) 隣接する前記シート同士を、液体が締め出されるべき領域に面する、プラスチック製の連続した、中断されない障壁を提供するように永久的に接合するステップ。
(2) 請求項2(以下、この発明を「本件発明2」という。) 少なくとも二つのプラスチック層をそなえ、これらの層の一つが他方の層よりも導電性が高く、導電性の高い方の層が、導電性の低い方の層を形成しているプラスチックよりも密度の小さいプラスチックで形成されていることを特徴とする、土で出来た屋外の貯液場所に用いられる、柔軟性のある熱可塑性ライナー。
3 決定の理由 別紙決定書の理由の写しのとおり、本件発明1及び2は、特公平3-11342号公報(以下「刊行物1」という。)、特開昭64-75086号公報(以下「刊行物2」という。)、特開昭58-24449号公報(以下「刊行物3」という。)記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認定判断した。
原告主張の決定取消事由の要点
決定の理由は、12頁15行目から15頁7行目まで、及びこれに基づく結論を争い、その余は争わない。
決定は、本件発明2について特許の取消しの理由を通知しなかったという手続違背の下になされたものであり(取消事由1)、本件発明1と刊行物1記載の発明との相違点(2)、(3)についての判断を誤った(取消事由2、3)ものであって、
これらの誤りがそれぞれ決定の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(手続違背) 第2の取消理由通知は、本件発明1についてのものであり、そこには、本件発明2についての取消理由は含まれていない。
第1の取消理由通知は、本件発明1及び2の双方についてのものであった。
しかし、原告は、これに対する特許異議意見書を提出し、その後、本件発明2についての言及が全くない第2の取消理由通知を受けたのである。このような場合、原告に対し、本件発明2についての取消理由は解消したとの通知がなされたものとみるべきである。
したがって、決定には、本件発明2について取消理由通知をしないで、特許取消決定をした違法があるというべきである。
2 取消理由2(相違点(2)についての判断の誤り) 審決は、「刊行物1に記載された発明について、防水シートのピンホール検出可能な防水施工法の対象を、コンクリート建造物に代えて土地の一領域とすることは、当業者にとって格別困難性のあることとは認められない」(12頁15行〜19行)と判断したが、誤りである。
(1) コンクリート建造物と土地とは、防水技術上、全く異なるものである。
コンクリート建造物の表面は、おおむね平らで、わずかな不均一性しかない。このような平坦なコンクリート建造物の表面であるからこそ、刊行物1記載の2枚の別体の防水シートと導電性シートを用いても、両シート間の接触に関して特に不都合を生じないのである。
ところが、土地の表面は、いかに整地しても、コンクリート建造物の表面のように均一ではなく、凸凹があり、大小の不規則性に満ちているものである。
したがって、刊行物1記載の別体の防水シートと導電性シートを使用すると、前記接触に関して不都合を生じるのである。刊行物1記載の発明は、本件発明の先行技術に対応するものであって、このような導電性シートは、本件明細書に記載されているとおり、本件発明の発明者により、土地の防水には不適当であることが見出されていたものである。
(2) 周知のとおり、コンクリートは電気的に絶縁体である。ところが、地盤は、湿っている際には導電性を有するものである。したがって、当業者は、導電性と防水用の2つのシートを使う刊行物1記載の発明は、土地を防水するためにさほど有効ではないと結論し、これを土地の防水用に転用することに想到し得ないのである。
3 取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り) 決定は、「刊行物1記載の発明について、防水施工の対象をコンクリート建造物から土地の一領域に変えるに当たり、防水シートと導電性シートの導電体との全面的に均一な接触状態が土地の凹凸により保証されないことに配慮して、この防水シートと導電性シートに代えて、ポリオレフィン系シート基材とカーボンブラックを含有する導電性ポリオレフィン系フィルム又はシートとを共押し出しにより積層して一体にしたプラスチック・シートを採用することは、上記周知の事項(判決注・防水シートと導電性シートの導電体の全面的な均一な接触状態を確保するため、防水の層と、導電性樹脂の層とを一体化すること)及び刊行物3記載の発明に倣って当業者が容易に想到し得る程度のことと認められる」(14頁7行〜18行)と判断したが、誤りである。
(1) 本件発明1は、あらかじめ2層を共押し出し成形により形成しておく技術に関するものであって、防水シートと導電材料を工事作業の現場において一体化する技術とは全く関係がない。
決定は、周知例として、実願昭62-83770号(実開昭63-192299号)のマイクロフィルム、実願昭51-158937号(実開昭53-75812号)のマイクロフィルム(以下、これらをまとめて「本件周知例」という。)を挙げる。しかし、本件周知例に開示されている技術は、平滑なコンクリート層の表面に導電性の接着剤や高分子材料を塗布して、その上に防水層を置くものである。このような塗布施工は土地の表面においては全く非現実的であり、不可能である。したがって、本件周知例には、相違点(3)(「ピンホール検出可能な防水施工に使用するシートが、本件発明1においては、上記第一の層と上記第二の層を共押し出し成形して形成された柔軟性のあるプラスチック・シートであるのに対して、刊行物1記載の発明においては、別体の防水シート表面に導電体を有する導電シートである点」)を埋めるような示唆は全くない。
換言すれば、上記のように引用例1と上記周知技術のいずれもがコンクリート建造物に関するものであり、土地の防水に関する本件発明1の解決課題についての認識を全く欠くものであり、技術的思想を本質的に異にするものといわざるを得ないものである。
(2) 刊行物3記載の発明は、IC製品またはその他の電子部品を包装および保管するために用いられる表面導電性複合プラスチック・シートに関するものであって、IC等が静電気により破壊されるので、帯電を防止し、静電気を逃すために導電層を設けたものである。刊行物3記載の発明と本件発明1とは、産業分野が異なり、技術分野、課題、効果のいずれもが全く異なっている。
このような、小さな集積回路の包装に用いる技術を、大規模な野外の土地の防水に関する技術に適用することが容易であるとは考え難い。
被告の反論の要点
1 取消事由1(手続違背)について 第1の取消理由通知は、本件発明1及び2の双方についてのものであった。
そして、審判官は、これに対する特許異議意見書を検討した結果、本件発明1については、これが方法の発明であることに鑑みて、論旨を明確にするために、引用例として刊行物1を追加し、改めて第2の取消理由通知をした。しかし、請求項2に係る発明については、上記意見書を検討しても格別に論旨を変更する必要性が認められなかったので、第2の取消理由通知において触れなかったにすぎない。
以上のとおり、本件発明2につき、第1の取消理由通知により意見書提出及び訂正請求の機会は与えられていたものである。このような場合、そして、第2の取消理由通知において本件発明2について触れていないからといって、そのことが、同発明に対する第1の取消理由通知における取消理由が解消されたことを意味するものではないというべきである。したがって、本件発明2に係る特許の取消決定に、原告主張の手続違背はない。
2 取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について 刊行物1は、防水シートによる防水施工に当たって、施工後に、防水シートに生じているピンホールの検出が可能となるような防水施工が本件の出願前に知られていたことを示すために引用したものであり、土地の防水施工が記載されていることを示すために引用したものではない。刊行物2は、防水シート(遮水シート)による土地の防水施工そのものを示すために引用したものである。
そして、防水シートによる防水施工に当たっては、施工後に、防水シートに生じているピンホールの検出が可能となるような防水施工が知られており、また、
防水シートによる土地の防水施工も知られていれば、防水シートによる土地の防水施工に当たって、施工後にピンホールの検出が可能となるような防水施工にしようとすることは、当業者が容易に想到し得た程度のことと認められる。
したがって、防水シートと導電性シートとの接触状態が維持されることにより防水シートのピンホールの検出が可能な防水施工が公知である以上、その施工の対象をコンクリート建造物に代えて、土地の一領域とすること自体は、そのことにより新たな解決すべき問題が生じるとしても、そのことは別途考察すれば足りることであるから、当業者にとって格別困難性があることとは認められない。
3 取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)について (1) 刊行物1記載の発明においては、防水シートと導電性シートとが別体である。一方、本件周知例記載の発明においては、防水シートと導電性シートとが一体である。これらの事実からみて、防水シートと導電性シートとは、別体であっても一体であっても、施工後に、防水シートに生じているピンホールの検出が可能であることは明らかである。
刊行物3には、表面導電性複合プラスチック・シートを、共押し出しにより一体的に積層成形し得ることが、積層成形時の問題点及びその解決手段とともに記載されている。
したがって、刊行物1記載の発明について、防水シートと導電性シートとを別体のものとするか一体のものとするかは、当業者が任意に選択し得るところであり、これを一体のものとするに当たって、刊行物3に記載されている手段を採用することは、当業者が容易に想到し得る程度のことである。
当裁判所の判断
1 取消理由3(相違点(3)についての判断の誤り)について (1) 甲第7号証(刊行物3)によれば、刊行物3には、「本発明は、ポリオレフィン系樹脂シートの基材の片面もしくは両面にカーボンブラックを含有させたポリオレフィン系樹脂フイルム又はシートを共押出により積層した、機械的強度および耐衝撃性の優れた、IC製品の包装および保管に適した表面導電性複合プラスチックシートに関する。一般にポリオレフィン系樹脂シートは、表面比抵抗値が高く、帯電し易く、これをIC製品の包装容器に使用した場合、IC製品の機能を破壊するので、その改善方法がいろいろ提案されている。」(1頁左下欄12行〜右下欄1行)、「本発明は、・・・カーボンブラック含有樹脂層の押出しも安定化し、かつ二次加工適性もすぐれ、さらに複合シートの機械的強度、耐衝撃性にすぐれ、導電性効果の保持力が長時間にわたり表面比抵抗値が安定した表面導電性複合プラスチックシートを提供しようとするものである。」(2頁右上欄8行〜17行)との記載があることが認められ、この記載によれば、刊行物3記載の発明は、
IC製品を包装する際に、包装材として帯電しやすいポリオレフィン系樹脂シートを用いるとIC製品の機能を損なうことから、ポリオレフィン系樹脂シートの基材の片面若しくは両面にカーボンブラックを含有させたフイルム又はシートを共押出により積層して、帯電を防止しようとするものであることが認められる。そうすると、刊行物1記載の発明を土地の防水シートとして用いた場合のものと、刊行物3記載の発明とは、シートという点で関連性はあるものの、前者は土地の防水に用いるもの、後者はIC製品の包装容器に用いるものであって、用途が全く異なり、これに伴ってシートの大きさと強度において大きく相違するものであることは明らかであり、技術分野が異なるものというべきである。また、上記両発明の導電性シートは、前者はピンホール検出のためのもの、後者は帯電防止のためのものであって、その目的も異なる。
したがって、刊行物3に、ポリオレフィン系樹脂シート基材と、カーボンブラックを含有するポリオレフィン系樹脂フィルム又はシートを共押出しにより積層して一体としたものが記載されているとしても、当業者が、これを上記のように異なるところの大きい、刊行物1記載の発明を土地の防水シートとして用いた場合のものとして用いることには、一般的にいえば、容易には想到し得ないものというべきである。
(2) この点に関して、被告は、刊行物1記載の発明について、防水シートと導電性シートとを別体のものとするか一体のものとするかは、当業者が任意に選択し得るところであると主張したうえ、これを一体のものとするに当たって、刊行物3に記載されている手段を採用することは、当業者が容易に想到し得る程度のことであると主張する。
しかし、刊行物1記載の発明について、防水シートと導電性シートとを一体のものとすること自体は、当業者が任意に選択し得るところであるとしても、そのことは、一体のものとするに当たって、その方法として、前認定のように技術分野も目的も異なる刊行物3記載の発明を採用することを、容易とするものではない。被告の主張は、採用することができない。
(3) 他に、刊行物1記載の発明に刊行物3記載の発明を適用することの示唆、
ないし動機付けとなるものがあると認めるに足りる証拠はない。そうである以上、
相違点(3)に係る本件発明の構成を得ることが、刊行物1記載の発明に、周知の事項及び刊行物3記載の発明にならって当業者が容易に想到できる程度のことである、
とした決定の判断は、誤りというべきである。
2 以上のとおり、相違点(3)についての決定の判断には、誤りがあり、この誤りは、本件発明1についての決定の結論に影響を及ぼすものである。また、本件発明2についての決定の判断は、本件発明1が刊行物1ないし3及び周知の事項から当業者が容易に発明することができたことを前提とするものであるから、この誤りは、本件発明2についての決定の結論にも影響を及ぼすものであることが明らかである。
よって、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 阿部正幸