関連審決 | 審判1999-1690 |
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関連ワード | 使用方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 技術常識 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
134号
審決取消請求事件
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原告 三洋電機株式会社代表者代表取締役 【A】 原告 鳥取三洋電機株式会社代表者代表取締役 【B】 両名訴訟代理人弁理士 山本明良 被告 特許庁長官【C】 指定代理人 【D】 同 【E】 同 【F】 同 【G】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/02/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が平成11年審判第1690号事件について平成12年3月7日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、平成3年9月19日、名称を「コードレス電話装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平3ー239814号)が、平成10年12月24日に拒絶査定を受けたので、平成11年2月4日、 これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を平成11年審判第1690号事件として審理した上、平成12年3月7日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月31日、原告らに送達された。 2 本願発明の要旨 電話回線に接続された親機と、該親機と無線で結ばれた子機よりなるコードレス電話装置において、前記子機に、充電状態か否かを検出する手段と、少なくとも受話音声を拡声する拡声モード或いは通常受話モードのいずれかを選択する手段と、第1の通話操作がなされたとき、充電状態であれば拡声モードを選択し、充電状態でなければ通常受話モードを選択し、また第2の通話操作がなされたとき、充電状態に関係なく、拡声モードを選択するように前記選択手段を制御する制御手段を設けたことを特徴とするコードレス電話装置。 3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、本願発明が、特開平3-212045号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)並びに特開昭63-234654号公報(以下「周知例1A」という。)及び実願平1-127629号(実開平3-65342号)のマイクロフィルム(以下「周知例1B」という。)に開示された「子機の状態に関係なく必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 |
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原告ら主張の審決取消事由
審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例の記載をそのまま摘記した部分(審決謄本2頁2行目〜末行)の認定、本願発明と引用例発明との相違点の認定は認める。 審決は、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果、本願発明が引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は、引用例発明を「電話回線に接続された親機と、該親機と無線で結ばれた子機よりなるコードレス電話装置において、前記子機に、充電状態か否かを検出する検出部20と、レシーバの感度を切りかえる切りかえ部21と、通話操作がなされたとき、子機が充電器に置かれていればレシーバを高感度にし、子機が充電器に置かれていなければレシーバを通常感度に制御する制御部18を設けるコードレス電話装置」(審決謄本3頁3行目〜8行目)と認定し、この認定に基づいて、本願発明と引用例発明とが「電話回線に接続された親機と、該親機と無線で結ばれた子機よりなるコードレス電話装置において、前記子機に、充電状態か否かを検出する手段と、少なくとも受話音声を拡声する拡声モード或いは通常受話モードのいずれかを選択する手段と、第1の通話操作がなされたとき、充電状態であれば拡声モードを選択し、充電状態でなければ通常受話モードを選択するように前記選択手段を制御する制御手段を設けるコードレス電話装置。」(同3頁21行目〜26行目)である点で一致すると認定した。 (2) しかしながら、引用例には、通話操作がされたときに子機が充電器に置かれているか否かに応じて、レシーバの動作状態を選択することは記載されていない。また、引用例には、レシーバを高感度に設定するには、まず子機を手持ちとする通話動作を経た後、これを専用置台に置く旨が記載されている。したがって、審決が、引用例発明につき「通話操作がなされたとき、子機が充電器に置かれていればレシーバを高感度にし、子機が充電器に置かれていなければレシーバを通常感度に制御する」構成を有すると認定したことは誤りであり、そうすると、「第1の通話操作がなされたとき、充電状態であれば拡声モードを選択し、充電状態でなければ通常受話モードを選択するように前記選択手段を制御する」構成を本願発明と引用例発明との一致点と認定したことも誤りである。 (3) 被告は、周知例1A、特開昭63-262946号公報(以下「周知例2A」という。)、特開昭63-94748号公報(以下「周知例2B」という。)に、通話操作手段を備え、これによって通話操作がされたときに、充電状態であるか非充電状態であるかに応じて通常受話モード又は拡声モードを選択する構成のコードレス電話装置が開示されており、そのような構成が周知であるから、当業者は、引用例の記載に基づき、引用例発明において充電状態であるか非充電状態であるかに応じてレシーバの感度を切り換える選択動作と通話操作とが関係することを、記載されているも同然の自明な技術的事項として理解する旨主張する。 しかしながら、周知例1A、同2A及び同2Bに記載された各発明は、いずれも親機側で拡声受話を行うものであって、子機側で拡声受話を行うコードレス電話装置を開示するものではないから、子機側で拡声受話を行う引用例発明とは明らかに構成が異なるものである。親機側で拡声受話を行うコードレス電話装置と子機側で拡声受話を行うコードレス電話装置とは技術分野を異にするものであり、子機側で拡声受話を行うコードレス電話装置においては、通話操作がされたときに、 充電状態であるか非充電状態であるかに応じて通常受話モード又は拡声モードを選択する構成が周知であるということはできない。したがって、引用例には、たとえ周知技術を参酌したとしても、「通話操作がなされたとき、子機が充電器に置かれていればレシーバを高感度にし、子機が充電器に置かれていなければレシーバを通常感度に制御する」構成が記載されているとはいえないのである。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、本願発明と引用例発明との相違点である「本願発明は、第2の通話操作がなされたとき、子機の充電状態に関係なく、拡声モードを選択する構成を備えているのに対して、引用例に記載の発明(注、引用例発明)は、該構成を備えていない点」(審決謄本3頁29行目〜31行目)について、「本願発明における子機の充電状態に関係なく拡声モードを選択することの技術的意味は、第1の通話操作により子機の充電状態に応じて拡声モード又は通常受話モードが自動的に選択されることによって操作性及び利便性が向上した反面、充電状態でないときには拡声モードが選択されないという制約が生じたので、これを考慮して、第2の通話操作により子機の状態に関係なく任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたことにある」(同3頁34行目〜4頁3行目)とした上で(このことは認める。)、 周知例1A及び同1Bを引用して「子機の状態に関係なく必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機は、拡声モードとしての基本的構成にすぎず、周知技術・・・である」(同4頁5行目〜8行目)とし、「引用例に記載の発明(注、引用例発明)に、前記相違点にかかる、拡声モードとしての基本的構成による利点をも考慮して、子機の状態に関係なく拡声モードを設定する前記周知技術を付加することによって、本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できるものと認められる」(同頁10行目〜13行目)と判断した。 (2) しかしながら、上記1の(3)のとおり、周知例1Aに記載された発明は、 親機(親装置1)側で拡声受話を行うものであって、子機(無線電話機2)側で拡声受話を行うコードレス電話装置を開示するものではない。しかも、周知例1Aにおける親機の拡声モードとは、親機に有線接続された電話回線からの相手方の音声信号を親機のスピーカ38で再生するもので、子機は親機に対し動作的に何らの関与もしないから、周知例1Aには、拡声モードに関する限り、電話回線に有線接続された単体電話機が開示されているにすぎない。このような周知例1Aの記載に基づいて「子機の状態に関係なく必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」が周知技術であると認定したことは誤りである。 この点につき、被告は、審決が、周知例1Aによって親機で拡声受話を行う実施態様を引用したものではないと主張する。しかしながら、親機と子機とから成ることを必須の構成とするコードレス電話装置において、「拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」を認定するためには、あくまでコードレス電話機特有の機能を発揮した態様、すなわち、受話音声の拡声につき、電話回線からの受話信号を親機の送信回路を介して子機に送信し、子機において受信したその信号をアンプを介して拡声用スピーカで再生することにより達成する態様である必要があり、このような態様を備えない周知例1A記載の無線電話装置により、上記周知技術を認定することはできない。 (3) また、周知例1Bには、子機1のオフフックボタンの操作により拡声モードに設定する構成が開示されているが、充電状態にあるときに拡声モードに設定できるか否かは明らかではない。子機1は、周知例1Bの第2図のような立った状態で充電されると考えられるが、このような状態で各キーを操作しようとすると、子機がその力で倒れる可能性があり、充電状態ではキー操作ができないようにされているとも考えられる。したがって、充電状態にあるときには拡声モードに設定できないように構成することも考えられるから、このような周知例1Bの記載に基づいて「子機の状態に関係なく必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」が周知技術であると認定したことも誤りである。 この点につき、被告は、充電状態にあるときにも通話可能であることがコードレス電話機における技術常識であり、子機を把持する形をとれば、子機が立った状態でもキー操作ができるとして、周知例1B記載のコードレス電話装置の子機が、充電状態にあるときにも、拡声モードに設定できる構成であると主張する。しかしながら、充電状態にあるときにも通話可能であることと、充電状態でスピーカホンボタンの操作により拡声モードに設定されることとは何ら関係がない。さらに、子機を把持する等のユーザーによる不確定な使用方法を前提として、子機が立った状態でもキー操作ができるなどとすることが失当であることは明らかである。 したがって、周知例1B記載のコードレス電話装置の子機は、充電状態にあるときには拡声モードに設定できないように構成されていると考えるべきである。 |
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被告の反論
審決の認定及び判断は正当であり、原告ら主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告らは、引用例に、通話操作がされたときに子機が充電器に置かれているか否かに応じて、レシーバの動作状態を選択することは記載されていない旨主張するところ、確かに、引用例には、子機が充電器に置かれているか否かに応じて、レシーバの感度を切り換えるように制御部18が動作することが記載されているにとどまり、制御部18がレシーバの感度を切り換える選択動作と通話操作との関係を説明した明示的記載は認められない。 しかしながら、周知例1A、周知例2A及び周知例2Bには、いずれも通話操作手段(周知例1Aが「発信スイッチ31」、周知例2Aが「オフフック釦」、 周知例2Bが「フックアップキー」)を備え、これによって通話操作がされたときに、充電状態であるか非充電状態であるかに応じて通常受話モード又は拡声モードを選択する構成のコードレス電話装置が開示されており、このような構成は、コードレス電話装置の技術分野において周知一般の形態であるということができる。そうすると、当業者は、引用例の記載に基づき、引用例発明において、上記周知一般の形態と同様、充電状態であるか非充電状態であるかに応じてレシーバの感度を切り換える選択動作と通話操作とが関係することを、技術常識であるから説明を省略したにすぎないが、記載されているも同然の自明な技術的事項として、理解するものというべきである。 なお、原告らは、引用例には、レシーバを高感度に設定するには、まず子機を手持ちとする通話動作を経た後、これを専用置台に置く旨が記載されているとも主張するが、引用例の記載において、子機を手持ちとする通話動作やこれを専用置台に置くことは、一つの動作過程を例示して説明したにすぎないことが明らかであって、そのような制約を伴って通話動作が設定されると解すべき理由はない。 したがって、審決の引用例発明の認定に誤りはなく、ひいて一致点の認定にも誤りはない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 周知例1Aに記載された無線電話装置(コードレス電話装置)は、子機(無線電話機)が親機(親装置1)に装着されているか否か、すなわち、子機が充電状態にあるか否かに関係なく、拡声スイッチ40の操作によって通常通話動作と拡声通話動作との間を移行するものであるから、「子機の状態に関係なく必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」ということができるものである。 原告らは、周知例1Aに記載された発明が、親機側で拡声受話を行うものであって、子機側で拡声受話を行うコードレス電話装置を開示するものではないと主張するが、審決が周知例1Aを引用した趣旨は、拡声モードを備えるコードレス電話機において、必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機が、拡声モードとしての基本的構成にすぎず、周知技術であることを示す点にあり、子機で拡声受話を行う実施態様を引用したものではない。 また、原告らは、周知例1Aにおける拡声モードに関する限り、子機は親機に対し動作的に何らの関与もしない旨主張するが、周知例1Aの第6〜第10図に記載された実施例では、拡声スイッチ40が操作されると、無線電話機2(子機)が親装置1(親機)に非装着の場合は、無線電話機2の送話器16が親装置1のスピーカ38に接続されて、拡声通話動作に設定されるから、子機は親機の動作に関与している。 周知例1Bに記載されたコードレス電話装置は、子機1のスピーカホンボタン6を押すごとに、イヤーピース用スイツチ10とスピーカ用スイッチ11のそれぞれのON、OFF状態が反転して、通常通話モードと拡声モードとが切り換わるものであるから、「子機の状態に関係なく必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」ということができるものである。 原告らは、周知例1Bにおいて、充電状態にあるときに拡声モードに設定できるか否かが明らかではないとか、充電中の立った状態で子機1のキーを操作しようとすると、子機が倒れる可能性があるから、充電状態ではキー操作ができないようにして、拡声モードに設定できないよう構成することも考えられるなどと主張するが、充電状態にあるときにも通話可能となっていることはコードレス電話機における技術常識であり、また、子機を把持する形をとれば、子機が立った状態でも安定したキー操作ができるから、周知例1B記載のコードレス電話装置の子機が、充電状態にあるか否かにかかわらず、拡声モードに設定できる構成であることは明らかである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 引用例に「コードレス子機を置く専用置台を設け、前記コードレス子機はそのコードレス子機が前記専用置台に置かれたことを検出して制御信号を出力する検出手段と、前記制御信号に対応してレシーバ感度を切りかえるレシーバ感度切りかえ手段と、前記制御信号に対応してマイク感度を切りかえるマイク感度切りかえ手段とを備え、前記感度切りかえは前記子機が専用置台に置かれているときには前記子機を手持ち操作するときの感度より高感度にするようにしたコードレス電話装置」(審決謄本2頁4行目〜10行目)、「検出部20は子機が専用置台に置かれているときに、その状態に対応した第1の制御信号出力を制御部18に入力する。 制御部18は・・・前記第1の制御信号入力に対応した第2の制御信号を切りかえ部21に出力する。切りかえ部21は前記第2の制御信号を受けて切りかえ信号をマイクアンプ11およびレシーバ駆動部16に出力する。マイクアンプ11とレシーバ駆動部16はその切りかえ信号を受けて感度が切りかわるようになっている。」(同頁19行目〜25行目)、「子機を手持ちで操作するときは、通常の動作を行う。子機をハンドフリー操作のために専用置台22に置くと検出部20が専用台に置かれたことを検出して第1の制御信号を制御部18に出力する。制御部18はその第1の制御信号を受けて第2の制御信号を切りかえ部21に出力し、切りかえ部21はその第2の制御信号を受けて切りかえ信号をレシーバ駆動部16とマイクアンプ12に出力する。レシーバ駆動部16とマイクアンプ12はそれぞれ感度が手持ち操作の時よりも高くなるように切りかわる。」(同頁27行目〜34行目)、「専用置台は子機内蔵の二次電池の充電器を兼ねたものでも・・・よい。さらに、子機の充電器を兼ねたものであるときに、検出部20の機能は充電電圧の有無でも置きかえることができる。」(同頁35行目〜38行目)との各記載があることは、当事者間に争いがない。 これらの記載によれば、引用例には、コードレス電話装置である引用例発明において、子機に、充電状態か否かを検出する検出部20と、レシーバの感度を切り換えるきりかえ部21と、子機が充電器に置かれていればレシーバを高感度にし、子機が充電器に置かれていなければレシーバを通常感度に制御する制御部18が設けられていることが記載されているということができる。 原告らは、引用例に、レシーバを高感度に設定するには、まず子機を手持ちとする通話動作を経た後、これを専用置台に置く旨が記載されていると主張する。そして、引用例(甲第4号証)には、「子機を手に持って通話をする場合は、 子機は従来のコードレス電話装置と何等変わらない動作を行ない、これを専用置台に置いた場合は、・・・感度の上がったレシーバが子機から離れた位置にある使用者に相手の声を伝える」(2頁左下欄12行目〜18行目)との記載があるが、この記載は、通常受話モードに係る子機を手に持って通話をする動作と、レシーバを高感度にするモード、すなわち拡声モードに係る子機を専用置台に置いたまま通話をする動作(専用置台が子機内蔵の二次電池の充電器を兼ねたものであってもよい旨の記載があることは前示のとおりである。)とを対比させて記述したものであって、レシーバを高感度に設定するために、いったん子機を手持ちとする通話動作をした後、これを専用置台に置く一連の動作が必要である旨を記述したものとは解されない。そして、引用例(甲第4号証)には、他に原告ら主張の記載は見当たらないから、原告らの上記主張は採用することができない。 (2) ところで、引用例に、制御部18がレシーバの感度を切り換える選択動作と通話操作との関係を説明した明示的記載がないことは、被告の自認するところである。 しかしながら、周知例1A(甲第5号証)には、「本発明は・・・無線電話装置に関し」(3欄2行目〜4行目)、「このような無線電話装置は、コードレス電話装置と呼ばれ」(同欄10行目〜12行目)、「無線電話機2の電源は充電可能な二次電池29であり、この電池29は無線電話機2を親装置1に装着した際に、充電端子28が親装置1の給電端子27に接続される。」(5欄13行目〜16行目)、「本発明は、親装置に拡声用スピーカを設けると共に、無線電話機に発信操作手段及びダイヤル操作手段を設け、拡声モード指定時に少なくともこの拡声用スピーカを用いた拡声動作を行なうように構成される」(7欄8行目〜12行目)、「第1図は本発明の一実施例を適用した無線電話装置のブロック図であり、・・・無線電話機2を親装置1に装着すると、端子27、28が接続され、ラインaの電圧が充電電流により低下する。マイクロプロセッサを有する制御回路12は、この電圧低下を検出し、無線電話機2が装着されていると判断する。電圧低下がなければ非装着と判断する。待受け状態において、無線電話機2にて発信スイッチ31が操作され、ON状態となると、・・・制御回路12は無線電話機2が装着されているか否かを検出する・・・。装着されていないと判断すると、通常のダイヤル発信と判断し、・・・無線電話機2が装着されていると判断すると・・・受話拡声状態とする。つまり、有線電話回線3とスピーカ38とを接続することにより、回線3側からのダイヤルトーンがスピーカ38から発音されることになる。」(7欄20行目〜12欄4行目)との各記載があり、これらの記載及び図面第1図によれば、周知例1Aには、無線電話機2(子機)の発信スイッチ31が操作されたときに、子機が親装置1(親機)に装着状態(充電状態)であれば親機のスピーカを用いた拡声モードを選択し、非装着状態(非充電状態)であれば通常受話モードを選択する構成のコードレス電話装置が記載されていると認められる。 また、周知例2A(乙第1号証)には、「コードレス電話機に関する。」(1頁右下欄5行目〜6行目)、「使用者がハンドセットBの操作部24のオフフック(Off Hook)釦を操作すると、制御回路23はデータバスライン25を介してこれを検知し、発呼信号を・・・空中に放射させる。・・・電話回線と接続後、ハンドセットBはべースユニットA上に載置されたままで、充電電池28が充電中とすると・・・べースユニットA内のスイッチSb,Scは増幅回路5,10側にそれぞれ接続され、スピーカ6およびマイクロホン9が動作するようになっている・・・一方、ハンドセットB内のスイッチSe,Sdはそれぞれオフ状態であり、スピーカ17およびマイクロホン18が動作出来ないようになる」(3頁左下欄3行目〜右下欄17行目)、「ハンドセットBがべースユニットAより取られ、 充電中でない場合、充電検出回路14,26はこれを検出し・・・それぞれ制御回路12,23の制御信号により、べースユニットA内のスイッチSb,Scはそれぞれ送信回路3および受信回路8に接続され、ハンドセットB内のスイッチSe,Sdはそれぞれオン状態となる・・・これにより、マイクロホン9およびスピーカ6が切り離される」(4頁左上欄11行目〜20行目)との各記載があり、これらの記載並びに図面第1図(A)及び同(B)によれば、周知例2Aには、ハンドセットB(子機)のオフフック釦が操作されたときに、子機がベースユニットA(親機)上に載置され充電中であれば親装置のスピーカ及びマイクロホンを用いた通話が可能な状態(拡声モード)を選択し、子機が親機から取り上げられ非充電中であれば親装置のスピーカ及びマイクロホンを用いた通話が不可能な状態(通常受話モード)を選択する構成のコードレス電話装置が記載されていると認められる。 さらに、周知例2B(乙第2号証)には、「本発明は・・・コードレス電話装置に関する。」(2欄1行目〜2行目)、「電話機3が充電器4にセットされている状態では、・・・電話機3の充電式電池35は・・・充電回路42により充電されると共に、・・・電話機3の制御部34は・・・充電器4にセットされていることを検知している。この状態で着呼があった場合は、・・・電話機3を取り上げずに10キーパッド304のフックアップキーを押下すると、・・・パワーアンプ電源スイッチ46をONとするので受話信号は増幅されてスピーカ45より受話音が拡声で聞こえる。・・・着呼時に、電話機3を取り上げた場合は、従来と同様にフックアップキーを押下した後レシーバ301を通して受話音を聞くことができる。」(9欄13行目〜11欄11行目)、「次に発呼について説明する。電話機3を充電器4にセットした状態で10キーパッド304を操作して、相手局を呼出すと共に待受時にフックアップキーを押下すると、・・・パワーアンプ電源スイッチ46を0Nにする。これにより、相手局からの受話音が・・・パワーアンプ44で増幅され、スピーカ45より拡声で出力される。・・・電話機3を取り上げた状態では・・・電話機3が充電器4より取り外されていることを検出し、着呼及び発呼は従来と同様に行われる。すなわち呼出音は電話機3の小型スピーカ303より発生し、フックアップスイッチの押下によってレシーバ301より受話音が出力される。この状態では・・・パワーアンプ44の動作は停止している。」(11欄12行目〜12欄16行目)との各記載があり、これらの記載並びに図面第1図及び第2図によれば、周知例2Bには、電話機3(子機)のフックアップキーが操作されたときに、子機が充電器4にセットされ充電中であれば充電器のスピーカを用いた拡声モードを選択し、子機が充電器より取り上げられ非充電中であれば通常受話モードを選択する構成のコードレス電話装置が記載されていると認められる。 そうすると、周知例1A、同2A、同2Bには、いずれもコードレス電話装置において、発信スイッチの操作、オフフック釦の操作、フックアップキーの押下のような通話操作がされたときに、子機が充電中であれば拡声モードを選択し、 非充電中であれば通常受話モードを選択する構成が記載されており、コードレス電話装置の技術分野においては、このような構成は周知であったものと認めることができる。 そして、前示(1)のとおり、コードレス電話装置であって、子機が充電器に置かれていればレシーバを高感度にし、子機が充電器に置かれていなければレシーバを通常感度に制御する制御部18が設けられている旨が引用例に記載されている引用例発明は、周知例1A、同2A、同2Bと技術分野を同じくするものであり、 かつ、上記周知の構成のうちの、子機が充電中であれば拡声モードを選択し、非充電中であれば通常受話モードを選択する構成に相当する構成を有しているといえるから、引用例に明示的な記載のないレシーバの感度の切換え選択動作と通話操作との関係についても、当業者が上記周知の構成を参酌すれば、通話操作がされたときの子機の充電、非充電の状態に対応して上記レシーバの感度の切換え選択動作が行われるものとたやすく理解することができるというべきである。そうすると、審決が、引用例発明を「電話回線に接続された・・・コードレス電話装置において、・・・通話操作がなされたとき、子機が充電器に置かれていればレシーバを高感度にし、子機が充電器に置かれていなければレシーバを通常感度に制御する制御部18を設けるコードレス電話装置。」(審決謄本3頁3行目〜8行目)と認定したこと、ひいて本願発明と引用例発明とが「電話回線に接続された・・・コードレス電話装置において、・・・第1の通話操作がなされたとき、充電状態であれば拡声モードを選択し、充電状態でなければ通常受話モードを選択するように前記選択手段を制御する制御手段を設けるコードレス電話装置。」(同3頁21行目〜26行目)である点で一致すると認定したことは、誤りがないとまではいえないとしても、審決の結論に影響を及ぼすものではないというべきである。 (3) 周知例1A、同2A、同2Bに記載されたコードレス電話装置において拡声のためのスピーカ等の手段が、子機ではなく、親機ないし充電器に設けられていることは前示認定のとおりであるところ、原告らは、その点をとらえて、親機側で拡声受話を行うコードレス電話装置と、引用例発明のように子機側で拡声受話を行うコードレス電話装置とは技術分野を異にするものであり、子機側で拡声受話を行うコードレス電話装置において、通話操作がされたときに、充電、非充電の状態に応じて通常受話モード又は拡声モードを選択する構成が周知であるということはできないと主張する。 しかしながら、コードレス電話装置である点で共通するものが、拡声のための手段が設けられた箇所が異なるという一事により、互いに別異の技術分野に属することになるとは到底解されないところである。また、通話操作がされたときに、充電、非充電の状態に応じて通常受話モード又は拡声モードを選択するというだけの構成に係る技術事項に、その拡声のための手段が設けられた箇所が子機であるか、親機ないし充電器であるかによって有意の差が生ずるものとは考えられず、 したがって、その拡声のための手段が設けられた箇所が親機ないし充電器であれば当該構成が周知であるのに、それが子機であれば周知ではないということもあり得ないというべきである。そうすると、原告らの上記主張は採用することができない。 (4) したがって、審決の一致点の認定に、審決の結論に影響を及ぼすべき誤りがあるということはできない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 本願発明の相違点に係る構成である「充電状態に関係なく、拡声モードを選択する」ことの技術的意義が「第1の通話操作により子機の充電状態に応じて拡声モード又は通常受話モードが自動的に選択されることによって操作性及び利便性が向上した反面、充電状態でないときには拡声モードが選択されないという制約が生じたので、これを考慮して、第2の通話操作により子機の状態に関係なく任意無条件に拡声モードを設定できるようにした」(審決謄本3頁35行目〜4頁3行目)点にあることは、当事者間に争いがない。 ところで、周知例1A(甲第5号証)には、「第6図は、本発明の更に他の実施例を示すブロック図であり、第7図はその外観図である。本実施例では拡声スイッチ40及びスイッチ36が親装置1に設けられている点が前述の実施例と異なる。本実施例によれば、発信スイッチを兼ねた拡声スイッチ40を用い、無線電話機2が装着された状態でこの拡声スイッチ40が操作されると第1の実施例で示したような受話拡声動作を行ない、逆に非装着でこの拡声スイッチ40が操作されると、第2の実施例で示したような拡声通話動作を行なう。・・・無線電話機2より発信操作がなされた後、拡声スイッチ40が操作(ON)されると・・・制御回路12は無線電話機2が装着されているか否かを検出する・・・装着されていないと判断すると、制御回路12はスイッチ35,36をON状態に、スイッチ34をOFF状態にし、拡声通話状態となる。これにより、相手方との通話路確立後、送話器16及びスピーカ38を用いた拡声通話が行なえる。その後、拡声スイッチ40が操作(OFF)されると・・・制御回路12は、スイツチ35をOFF状態に、スイッチ34、36をON状態として・・・通常の通話動作に移行する。」(14欄19行〜16欄3行)、「通常の通話状態にて拡声スイッチ40が操作(ON)され・・・無線電話機2が装着されると・・・受話拡声動作を行なう。 又、無線電話機2が非装着であれば・・・拡声通話動作を行なう」(16欄15行目〜17欄1行目)との各記載があり、この記載及び前示1の(2)の周知例1Aの各記載並びに図面第6図によれば、周知例1Aには、無線電話機2(子機)が親装置1(親機)に装着状態(充電状態)であるか、非装着状態(非充電状態)であるかを問わず、親機に設けられた拡声スイッチ40が操作されるごとに、通常通話動作と少なくとも親機のスピーカを用いた拡声動作(受話拡声動作又は拡声通話動作)との間を移行する構成のコードレス電話装置が記載されていると認められる。 また、周知例1B(甲第6号証)には、「本考案は・・・コードレス電話機に関する」(1頁15行目〜20行目)、「本考案・・・の目的は、子機を机等から取り上げることなく通話が可能であるとともに、子機によるオフフックダイヤルやハンズフリー通話をも可能としたコードレス電話を提供することにある」(3頁13行目〜17行目)、「使用者がオフフックボタン5を押すと、マイクロコンピュータ16がこれを検出し・・・スピーカ用スイッチ11の切換制御入力にスイッチONを指示する切換制御信号を送出する。そのため、・・・無線用送受信ユニット9よりスピーカ用スイッチ11、スピーカ用アンプ14及びスピーカ3を介して、『ツー』という発信音が出力される。・・・これにより、子機1を机等に置いたままで通話を行ういわゆるハンズフリー通話に自動的に入ることができる。また、呼出しに対して相手側が応答した時点でスピーカホンボタン6を押すと、マイクロコンピュータ16がこれを検出し、スピーカ用スイッチ11に対してスイッチOFFを指示する切換制御信号を送出するとともに、イヤーピース用スイッチ10に対してスイッチONを指示する切換制御信号を送出する。これにより、スピーカ用スイッチ11がOFF状態、イヤーピース用スイッチ10がON状態となり、イヤーピース2とマイク4とによる通常の通話が可能となる。また、通常の通話中にスピーカホンボタン6を押すことにより、これを検出したマイクロコンピュータ16がイヤーピース用スイッチ10をOFF状態、スピーカ用スイッチ11をON状態とすることから、再びハンズフリー通話に切り換えることができる。同様に、ハンズフリー通話中にスピーカホンボタン6を押すことにより・・・イヤーピース2とマイク4とによる通常の通話に切り換えることができる」(8頁4行目〜10頁15行目)との各記載があり、これらの記載と図面第1図とによれば、周知例1Bには、子機1に設けられたスピーカホンボタン6が操作されるごとに通常通話動作と子機のスピーカ3を用いたハンズフリー通話(拡声通話)動作との間を移行する構成のコードレス電話装置が記載されていると認められる。 このように、周知例1A、同1Bに、いずれもコードレス電話装置において、子機の状態に関わりなく、必要に応じて任意無条件に拡声モードを設定できる旨が記載されていることにかんがみれば、コードレス電話装置の技術分野において、このような構成とすることは周知の技術事項であったと認めることができる。 そうすると、上記の「充電状態に関係なく、拡声モードを選択する」ことの技術的意義をも考慮し、引用例発明に上記の周知の技術事項を付加して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者において容易に想到することができたものと認められる。 (2) 原告らは、周知例1Aにおける拡声モードが、親機に有線接続された電話回線からの相手方の音声信号を親機のスピーカで再生するもので、子機は親機に対し動作的に何らの関与もしないから、周知例1Aには、拡声モードに関する限り、 電話回線に有線接続された単体電話機が開示されているにすぎないと主張するが、 前示(1)で認定した周知例1Aの各記載及び第6図によると、そこに記載されたコードレス電話装置は、拡声スイッチ40が操作されたとき、子機(無線電話機2)の装着又は非装着状態を検出して受話拡声動作、拡声通話動作を選択し、また、その拡声通話動作においては、子機に設けられた送話器16を、親機(親装置1)に設けられたスピーカ38とともに用いていることが認められるから、拡声モードにおいて子機が親機に対し動作的に何らの関与もしない旨の主張は誤りである。 もっとも、その拡声のためのスピーカが、子機ではなく親機に設けられていることは上記のとおりであるところ、原告らは、その点をとらえ、「拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」が周知であることを認定するためには、コードレス電話機特有の機能を発揮した態様として、受話音声を子機の拡声用スピーカで再生する態様である必要があり、このような態様を備えない周知例1A記載の無線電話装置により、上記周知技術を認定することはできないと主張する。 しかしながら、審決は、周知例1Aにより、拡声のためのスピーカが子機に設けられた点まで含めて周知技術と認定したものではないのみならず、周知例1Aに記載されたものがコードレス電話装置であり、子機の装着又は非装着状態を検出して受話拡声動作、拡声通話動作を選択し、その拡声通話動作においては、子機に設けられた送話器16を用いていることは前示のとおりであって、コードレス電話装置特有の機能がその拡声モードに関係しているのであるから、拡声のためのスピーカが子機に設けられていないからといって、周知例1Aにより、「拡声モードを設定できるようにしたコードレス電話機」が周知であるとした審決の認定が誤りであるとすることはできない。 (3) 周知例1B(甲第6号証)には、子機1の充電に関する記載はなく、したがって、充電状態にあるときに拡声モードを設定できるとの明示の記載も存在しないところ、原告らは、子機1は、第2図のような立った状態で充電されると考えられるが、このような状態で各キーを操作しようとすると、子機がその力で倒れる可能性があるから、充電状態にあるときには拡声モードに設定できないように構成されていると考えるべきである旨主張する。 しかしながら、周知例1B(甲第6号証)には、子機1が第2図のような立った状態で充電される旨の記載はないのみならず、およそコードレス電話機において、子機を充電状態に置く必要があること、子機が充電状態にあるときにも通話可能であることは技術常識というべきところ、周知例1B(甲第6号証)には、スピーカホンボタン6を操作してハンズフリー通話(拡声通話)動作とすることができるための子機の状態について格別の制約がある旨の記載が見当たらないことにかんがみれば、周知例1B(甲第6号証)は、子機が充電状態である場合でも拡声通話動作とすることが可能であることを前提としているものと解するのが相当であり、原告らの上記主張は採用することができない。 (4) したがって、審決の相違点についての判断に誤りはない。 3 以上のとおりであるから、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告らの請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 宮坂昌利 |