審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成16ワ9373職務発明対価金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ10584職務発明の対価請求事件 | 判例 | 特許 |
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ16635「窒素磁石」に係る発明の対価請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ20521特許権持分移転登録手続等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 考案者 / 職務発明 / 改良発明 / 相当の対価(相当な対価) / 黙示の合意 / 共同開発 / 寄せ集め / 公知技術 / 出願公開 / 先行技術 / 補償金請求権 / 共同出願 / 名義変更 / 共有 / 着想 / 警告 / クレーム / ライセンス / 登録実用新案 / 存続期間 / 実施 / 加工 / 業として / 算定方法 / 販売数量(販売数) / 実施料 / 同意 / 実施権 / 通常実施権 / 実施許諾(実施の許諾) / 対価 / クロスライセンス / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 変更 / |
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事件 |
平成
16年
(ワ)
10514号
職務発明の対価等請求事件
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原告A 訴訟代理人弁護士 伊原友己 同 加古尊温 被告 株式会社藤井合金製作所 訴訟代理人弁護士 山上和則 同 藤川義人 補佐人弁理士 園田敏雄 同 宮崎栄二 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2005/07/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 被告は、原告に対し、199万0601円及びこれに対する平成8年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを100分し、その1を被告の、その余を原告の各負担とする。 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告は、原告に対し、1億8000万円及びこれに対する平成8年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
本件は、被告の従業員であった原告が、その在職中にした職務発明1件及び職務考案3件につき、特許法35条3項又は実用新案法11条3項に基づいて、特許ないし実用新案登録を受ける権利を使用者である被告に承継したことに対する相当な対価の未払分の支払いを請求した事案である。 1 前提となる事実(証拠により認定した事実は末尾に証拠を掲げた。その余は争いがない事実である。) (1) 被告は、ガスコンセントを含むガス栓等のガス器具用部品の製造販売等を業とする株式会社である。 原告は、昭和41年2月14日、被告に入社し、平成10年11月までは技術部ないし研究所で製品開発に従事し、その後平成13年3月20日の退職までは品質管理部に所属していた。 原告の役職は、昭和46年から研究所設計主任、昭和47年から研究所第一設計係長、昭和51年から研究所開発第一課長、平成4年から研究所次長、平成10年10月から研究所部長、同年11月から品質管理部部長であった(乙第5号証の1ないし19及び弁論の全趣旨)。 (2) 原告は、被告に在職し、その研究所に勤務している期間中、その職務として、ガスコンセントに関し、別紙職務発明・考案目録記載の発明及び考案(以下同目録の記載にしたがって「本件発明」及び「本件考案1」ないし「本件考案3」という。)をし(ただし、本件発明及び本件考案2は、原告の単独発明ないし単独考案として特許出願ないし実用新案登録出願がされ、本件考案1及び3は、同目録記載のとおり原告外数名の共同考案として実用新案登録出願がされている。)、その特許ないし実用新案登録を受ける権利を被告に譲渡した。 本件発明及び本件各考案については、別紙職務発明・考案目録記載のとおり、特許ないし実用新案登録がされた(これらの特許及び登録実用新案を、以下「本件特許」及び「本件実用新案1」ないし「本件実用新案3」という。)。 (3) 被告は、「ガスコンセント」という呼称を付して製造販売している全ての商品(以下「本件商品」という。)のガス栓本体部分において、本件発明及び本件考案1を実施している。 また、被告は、本件商品のうちの壁埋込みタイプであるR型の着脱ユニット部分において、本件考案3を実施している。 なお、被告は、これまで、本件考案2を実施したことはない。 (4) 被告は、原告に対し、工業所有権報償規定に基づいて、本件発明及び本件各考案について、下記のとおり、出願報償金及び登録報償金を支払った。 本件発明 出願報償金3000円、登録報償金10000円 本件考案1 出願報償金2000円、登録報償金 5000円 本件考案2 出願報償金2000円、登録報償金 5000円 本件考案3 出願報償金1000円、登録報償金 3000円 また、被告は、原告に対し、同規定に基づいて、本件考案1に対する特別報償として3万円を、本件発明及び本件考案2を含めた多数の発明並びに考案(ただし、本件考案1及び3は含まない。)に対する特別報償として、部下2名と共に10万円(一人3万3333円に相当する。)を支払った。 2 争点 (1) 本件特許権及び本件各実用新案権により被告が受けるべき利益の額 〔原告の主張〕 ア 本件商品の総売上高は、本件特許権の権利期間満了日までで、121億円を下らないと見込まれる。 このうち、本件特許権及び本件各実用新案権によって、本件発明及び本件各考案を他者が実施することを禁ずることによる超過売上高は、総売上高の2分の1に相当する60億5000万円を下らない。 そして、本件商品の利益率は10パーセント程度であるから、上記超過売上高により、被告は6億0500万円の利益を上げることができるところ、これが、本件特許権及び本件各実用新案権により被告が受けるべき独占の利益の額に相当する。 あるいは、被告が本件発明及び本件各考案について、他者に実施許諾したとすると、総売上高の2分の1に相当する60億5000万円を他者が売り上げることとなる。 そして、その場合の実施料率は売上高の10パーセントを下らないから、被告は6億0500万円の実施料を得ることができるところ、これが、本件特許権及び本件各実用新案権により被告が受けるべき独占の利益の額に相当する。 したがって、本件特許権及び本件各実用新案権により被告が受けるべき独占の利益の額は、6億0500万円を下らない。 イ ガスコンセントは一体の製品であり、補修部品としての別売りはともかくとして、プレートや付属品が本体とは別に大量に売れるというものではない。着脱ユニットやプレートセットは、本来は、一つのパッケージにしてもよいものを、 ガスコンセントの施工の便宜から、別のパッケージにしているにすぎないものである。したがって、プレートや付属品の売上にも、被告が受けるべき独占の利益は含まれているというべきであり、これを控除すべきものではない。 なお、本件商品の販売につき、被告が他社へ支払った実施料は、被告が受けるべき独占の利益額の算定にあたって考慮すべき性質のものではない。 ウ(ア) 本件発明はガス栓における基本的技術であり、その価値は極めて高い。 また、本件特許に、被告が主張するような特許無効理由は存在しない。 本件発明がされ、これを大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)に提案して、新型ガスコンセントの開発に目処が立ったことが、大阪ガスと被告を含めた新型ガス栓の共同開発に繋がったのであり、本件発明がもたらした被告への大阪ガスの信任の大きさは計り知れない。また、被告は、本件特許権を有しているからこそ、大阪ガスの新型ガスコンセントのシェアのほとんどを獲得できているものである。 (イ) 本件考案1は、本件発明の製品としての信頼性を大きく高める技術であるから、その価値は本件発明に匹敵するほどのものである。 被告は、本件実用新案権1の権利期間いっぱいに独占の利益を享受してきたのであるから、本件考案1が価値のないものであると主張することは許されない。 (ウ) 本件考案2は、現時点で被告において実施していないものではあるが、本件考案3は本件考案2を発展させたものであるから、本件考案3の基本技術として、高く評価されるべきものである。 (エ) 本件考案3を考案したからこそ、被告は大阪ガスの要求を満たすことができ、より大きな受注に繋がったものである。 被告は、本件商品のうちR型全てに本件考案3を実施してきたものであるから、本件考案3が価値のないものであると主張することは許されない。 エ 被告は、独占の利益は特許権ないし実用新案権の登録後にしか生じないと主張するが、特許ないし実用新案登録を受ける権利の対価請求権は、その承継時に定まるのであるから、登録前であっても独占の利益が観念されるべきであり、少なくとも、補償金請求権が発生する公開の時点からは、独占の利益が観念できるものである。 〔被告の主張〕 ア 本件商品の販売開始は平成2年11月である。 被告の第50期(平成2年8月1日から平成3年7月31日まで)から第63期(平成15年8月1日から平成16年7月31日まで)における本件商品(「ガス栓本体」、「着脱ユニット」及び「プレート」を指し、これらがセットとなっているものと単体で販売されたもののいずれも含む。)の売上高は77億8040万6178円であり、平成16年8月分の本件商品の売上高は5393万3061円であり、その合計は78億3433万9239円である。 このうち、ガス栓本体(本件発明及び本件考案1が実施されている部分である。)の売上高は、55億6006万8490円であり、R型着脱ユニット(本件考案3が実施されている部分である。)の売上高は、7624万8586円である。 このような従来実績を踏まえると、本件商品の売り上げについて、今後もガス栓本体については年間6億円、R型着脱ユニットについては年間390万円の売り上げがあると予想され、これを平成16年9月から本件特許権の権利期間が満了する平成18年6月までの22か月分で計算すると、今後、ガス栓本体については11億円、R型着脱ユニットについては357万5000円の売り上げが得られるものと予想される。 これらを合算すると、本件特許権の権利期間満了までのガス栓本体の売上高は66億6006万8490円、R型着脱ユニットの売上高は7982万3586円となる。 なお、本件商品のガス栓本体には、本件発明及び本件考案1とは関係のない、金具等の付属品が含まれているため、これらの売上高分は控除すべきである。そこで、ガス栓本体のうち本件発明及び本件考案1の実施部分(以下単に「実施部分」という。)の売上高を製造原価比率によって算出すると、平成2年11月から平成16年8月までの実施部分の売上高は、18億8952万1371円であり、平成16年9月から本件特許権の権利期間が満了する平成18年6月までの22か月分の予想売上高は、3億5926万円となり、これらを合計すると、22億4878万1371円となる。 イ 特許権ないし実用新案権が独占権を生じるのは、これらの登録以後である。 したがって、本件発明及び本件各考案について、特許ないし実用新案登録を受ける権利の承継を受けたことによって被告が得るべき利益を算定するにあたっては、登録前の売上に対応する分は算定されるべきではないか、相当低く算定されるべきである。 ウ(ア) 被告を含めたガス機器メーカー5社と大阪ガス、東京瓦斯株式会社(以下「東京ガス」という。)、東邦瓦斯株式会社(以下「東邦ガス」という。)のガス会社3社との間で平成10年3月30日付で締結された「ガスコンセントに関する実施契約書」(乙37)に基づき、被告は、本件商品の販売にあたって、これまで200万円余りの実施料を支払ってきた。今後、年間60万円を5年間にわたり支払い続けるとすれば、支払総額は、約500万円となる。 (イ) 被告とガス機器メーカー3社及び東京ガスとの間で平成14年6月10日付けで締結された「ガスコンセント(4社権利)に関する実施許諾契約書」(乙49)に基づき、被告は、本件商品の販売にあたって、第63期末(平成16年7月31日)までに、約1200万円の実施料を支払ってきた。 (ウ) 被告とガス機器メーカー1社及び東京ガスとの間で平成14年6月10日付けで締結された「ガスコンセント(2社権利)に関する実施許諾契約書」(乙50)に基づき、被告は、本件商品の販売にあたって、第63期末(平成16年7月31日)までに、約110万円の実施料を支払ってきた。 (エ) 被告とガス機器メーカー1社及び東京ガスとの間で平成15年9月22日付けで締結された「過流出防止弁に関する実施許諾契約書」(乙51)に基づき、被告は、本件商品の販売にあたって、第63期末(平成16年7月31日)までに、約1860万円の実施料を支払ってきた。 (オ) 被告と大阪ガスとの間で締結した「既設埋込型ガス栓取替用埋込型ガスコンセントの実施に関する契約書」に基づき、被告は、本件商品の販売にあたって、4万7820円の実施料を支払った。 (カ) これらの実施料は、「使用者が得るべき利益」の算定にあたって勘案すべきである。 エ(ア) 本件発明は、基本発明ではなく、スライド式ガス栓に公知の先行技術を組み合わせて利用した改良発明にすぎず、他に容易に想起可能な代替手段は数多く存在する。 そのうえ、無効審判請求がされた場合、無効とされる可能性もある。 したがって、本件特許権の排除的効力は著しく弱い。 (イ) 本件考案1は、基本的には公知の技術の単なる利用によるスライド式ガス栓の一つの実施技術であり、しかも種々に存在する公知技術の利用に特徴があるにすぎないから、他社が代替技術を実施するのは容易である。 したがって、本件実用新案権1による排除的効力は実質的に存在しない。 (ウ) 本件考案2及び3は、いずれも、公知技術を単に寄せ集めた一つの実施技術にすぎず、代替可能な技術が多々存在する。 したがって、本件実用新案権2及び3による排除的効力も実質的に存在しない。 (エ)a 本件商品の大阪ガスへの売上実績は、被告の技術力に基づく信用を背景としたものであり、また、後記(2)の〔被告の主張〕のとおり、被告を含めたガス会社とガス機器メーカーによる共同開発に被告が参加することができたことによるものであって、本件発明及び本件各考案が貢献したものではない。 また、大阪ガスに本件商品と同種商品を販売することができる事業者としては、被告の他には株式会社ハーマン(以下「ハーマン」という。)があるのみであるが、被告とハーマンとの間には、大阪ガスに納入する商品については、 どちらか一方のみが特許権等を有していたとしても、他方に対して権利行使をしないという黙示の合意が存在するから、本件特許権及び本件各実用新案権は、大阪ガスに納入する商品に関しては、ハーマンに対して排除的効力を有しておらず、結果として、大阪ガスに販売される商品について、本件特許権及び本件各実用新案権は排除的効力を有していない。 したがって、大阪ガスへの売上について本件発明及び本件各考案の営業貢献は存在しない。 b 東京ガスは、ピストンリング方式を採用しているから、本件発明及び本件各考案の実施品が採用される余地はなく、本件発明及び本件各考案の営業貢献は存在しない。 c 東邦ガスは、大阪ガス方式と東京ガス方式を併用しており、本件発明及び本件各考案の実施品が採用される余地はあるが、本件発明及び本件各考案によらない東京ガス方式により参入することも可能であるから、本件特許権及び本件各実用新案権には排除的効力はなく、営業貢献も存在しない。 d また、本件商品は、多数の権利の実施品であり、これらによる排除的効力があるため、本件特許権及び本件各実用新案権が存在しないとしても、第三者が本件商品を販売することはできない。しかも、ガス会社に対するガス機器の販売は、ガス会社のメーカーに対する信頼性が重要であり、技術力だけでは、ガス機器をガス会社に自由に販売できるものではない。 e 加えて、本件考案1は、後記(2)の〔被告の主張〕のとおり、被告を含めたガス会社とガス機器メーカーによる共同開発において考案されたものであり、これらの会社の間では、これらのガス機器メーカーが考案の実施品をこれらのガス会社に販売した場合には、お互いに実施料の授受は行わないことになっているのであるから、本件実用新案権1は、これらのガス機器メーカーがこれらのガス会社に製品を販売するについて、排除的効力を元々有しないものである。 (オ) 以上の事情に照らせば、被告が本件特許権及び本件各実用新案権を取得することにより、本件発明及び本件各考案を実施する権利を独占することによって得られる利益は、存在しない。 また、仮にこれが存在するとしても、独占の利益を算定するための仮想のライセンス料は、世間相場よりも相当低いものと見るべきである。 (2) 被告が貢献した程度(原告と被告の配分) 〔原告の主張〕 ア 本件発明及び本件各考案がされた経緯 (ア) 本件発明は、昭和61年の初めころ、大阪ガス株式会社(以下「大阪ガス」という。)から新しいガス栓のアイデアを提出して欲しいとの要望を受けた被告が、同年3月頃、全社員に対して新規アイデアの募集をしたのに対し、原告が、従来のテーパー状ではなく円筒状の形態をとるガス栓をひらめき、これを技術思想にまとめて被告に提出したものである。 (イ) 本件発明等のアイデアの提供を受け、昭和61年11月ころから、 大阪ガスを含めたガス会社3社と被告を含めたガス機器メーカー5社(以下「本件8社」という。)が、新型ガス栓を共同開発することになり、昭和63年9月下旬まで共同開発(以下「本件8社共同開発」という。)が進められた。 (ウ) 本件考案1は、本件8社共同開発の中で、原告の発明である円筒スライド栓の開閉に用いられる内蔵スプリングに課題が見出され、この解決策として原告が本件考案1をし、被告が共同開発会議に提案したものである。したがって、 本件考案1は、実質的には原告の単独考案である。 (エ) 本件考案2も、本件8社共同開発の中において、原告の考案を、被告が共同開発会議に提案したものであって、原告の単独考案である。 (オ) 本件考案3は、本件考案2をユニット化したものであるところ、実質的には被告内において原告とその部下の2名が考案したものであり、共同考案者となっている大阪ガスの従業員は実質的には考案者ではない。 イ 被告が貢献した程度 原告は、勤務時間の内外や昼夜を問わず、思索を練って発明ないし考案に至ったものである。 本件発明及び本件各考案は、大規模な実験設備や大勢の人員を要するようなものではなく、被告による研究開発投資もほとんどなかったのであるから、被告が貢献した程度はわずかである。また、権利化における被告の貢献については、 特許ないし実用新案登録を受ける権利の承継後の事情であり、被告において広いクレームでの権利化を目指したことで手続を複雑化させたものでもあるし、特許事務所に依頼して手続していたものでもあるから、通常以上の貢献はない。 したがって、原告が研究所勤務の技術者であったことを考慮しても、被告が貢献した程度は70パーセントを上回ることはない。 ウ 本件各考案について、共同考案者間において原告が貢献した程度 上記アのとおり、本件考案1は実質的には原告の単独考案であり、本件考案2は原告の単独考案である。 本件考案3については、実質的には原告とその部下の2名の考案であり、その元となった本件考案2は原告の単独考案であるから、原告の貢献度は高いというべきである。 〔被告の主張〕 ア 本件発明及び本件各考案がされた経緯 (ア) 新型ガスコンセントの開発は、昭和61年度から、大阪ガスが開発計画をスタートさせ、被告にもその計画を開示したことから、被告においてもその仕様の下で開発を開始したものである。 被告は、同年2月17日、新機構コックに関するブレーンストーミング及び基礎実験方法を議題として会議を行ったが、この段階で、本件発明の主要要素は出尽くしていた。 昭和61年3月25日、大阪ガスが、新機構ガス栓仕様等の説明会を開催し、ツマミ無しのガスコンセント、ソケットの突棒で栓を突いてガスの供給、 遮断を実現すること、新型ガスコンセントの外観イメージ、ソケットの着脱仕方などの開発の方向性が示された。 被告は、大阪ガスの開発仕様に基づいて社内全体にアイデアを募集したところ、合計約80点の提案があった。その中には、円筒栓の提案も、原告も含めて4名からされていた。 同年4月8日、被告は井上トータルデザインに対し、ソケット着脱機構外観のデザインを依頼した。そのデザイン(乙23の3c)において、本件商品のうちR型の着脱機構とほとんど同じものが示されている。 同年5月の打合せで、栓式については原告他1名のチームの担当となった。原告は、同月、円筒回転栓の性能確保試験を行い、また、翌6月、スライド低減機構の各種試験を行い、試験成績書をまとめた。 同月30日、被告は、新機構ガスコック説明書等を大阪ガスに提出して提案をした。 被告は、大阪ガスからの要求事項、開発経緯、試作品の内容、試験内容等を、試験成績書の情報やデータを元にまとめ、同年7月1日、本件発明として特許出願した。 (イ) 昭和61年10月から11月にかけて、本件8社による共同開発の話が本格化し、本件8社共同開発が開始された。昭和62年3月27日付で締結された共同開発契約では、本件8社共同開発により得られた発明等は、本件8社で共有にすることとされている。そして、これに該当するものは、本件8社が共同で出願しており、その際、発明者等も本件8社から各社を代表して1名ずつ入っているが、実際の発明者等が誰なのかは厳密に検討されたものではない。 (ウ) 本件8社共同開発の昭和63年4月7日の会議では、被告及びハーマンから、円筒スライド栓の試験報告において、栓が戻らない旨の報告がされ、第2回試作品は栓用スプリングを2個式とすることの検討がされた。その後、同年5月10日の会議では、被告から、スプリングの座屈対策でスプリングを2本使用することが報告された。 本件考案1は、上記の技術的問題を解決することを目的としてされたものである。 (エ) 本件8社共同開発の昭和61年12月17日の会議では、ミツワガス機器からソケット取外し機構の設計図面が報告されているが、これは本件考案2の原型ともいえる。 本件考案2は、昭和61年3月に大阪ガスから提示された仕様説明書での外観イメージを元として同年4月に井上トータルデザインに依頼して得られたデザインと、同年12月にミツワガス機器から提示された機構を設計要素として考慮して設計されたものである。 本件考案2は、本件8社共同開発によるものであるから、本来本件8社の共同出願とする必要があったが、被告は、出願を先行させ、後に出願人の名義変更によって共同出願とすることにしたものである。 (オ) 本件8社共同開発が終了した昭和63年12月、被告は、大阪ガスと共同して、製品開発を行うこととなった。 ガスコンセントのソケット取外し機構について、施工するときの利便性を向上させるため、大阪ガスからの要望で、大阪ガスと被告との間で検討が行われた。 ところで、本件8社共同開発の昭和62年4月の共同開発会議では、 各社からソケット離脱機構についての提案がされており、このうち、ハーマン、ミツワガス機器、サンコーガス精機からの提案は本件考案3の要素をほぼ充たしており、これに被告の提案を加えると本件考案3となるものである。 このように基本部分が既に生じていたものをまとめ、実用新案登録出願をしたのが本件考案3である。 イ 被告が貢献した程度 (ア) 本件発明については、その基本コンセプトを提案したのは原告ではない。 上記ア(ア)のとおり、大阪ガスからの提案と、これを受けた被告でのブレーンストーミング会議において、本件発明の基本構成と特徴的構成は、製品開発の構成として位置づけられ、あるいは確認、指摘されていたものである。 (イ) 本件考案1については、その二つある特徴的構成のうちの一つは、 既に公知のものであって、被告に存し、研究所員が自由に閲覧することができる技術文献に記載されているものであり、もう一つは、これを備えていなくとも実用上格別の支障がないものである。そして、このようなアイデアは、原告独自のアイデアといえるか疑問である。 (ウ) 本件考案2については、上記ア(エ)のとおり、昭和61年3月に大阪ガスから提示された仕様説明書での外観イメージを元として同年4月に井上トータルデザインに依頼して得られたデザインと、同年12月にミツワガス機器から提示された機構を設計要素として考慮して設計されたものであり、原告の貢献度は極めて低い。 (エ) 本件考案3については、上記(ウ)のような本件考案2を基礎としたものである上、上記ア(オ)のとおり、本件8社共同開発の昭和62年4月の共同開発会議において、ハーマン、ミツワガス機器、サンコーガス精機からのソケット離脱機構についての提案は本件考案3の要素をほぼ充たしていたものであり、これに被告の提案を加えると本件考案3となるものであり、加えて、大阪ガスとの共同開発によるものであるから、やはり原告の貢献度は極めて低い。 (オ) 上記の事情に加え、@被告は、本件発明及び本件各考案に至る過程で、試作品の作成、試験、試験結果の評価にあたり、被告の人的、物的資源を供与していること、A本件発明及び本件各考案は、研究所開発第一課長としての原告の職務遂行過程そのものにおいてされたものであること、Bこれらの他、本件発明及び本件各考案がされるに至るまで、被告は、多額の人件費、研究開発費、施設、設備等を提供し、また、被告に蓄積されていた経験やノウハウ等も利用されていること、C本件特許権及び本件各実用新案権の登録に至るまで、被告の特許担当者や弁理士の多大な貢献がされていること、といった事情が存在する。 (カ) 以上の各事情に照らせば、本件発明及び本件各考案がされるについて、被告の貢献度は100パーセントか、それに限りなく近いものというべきであり、したがって、原告の貢献度はほとんどないものというべきである。 (3) 被告が原告に対して支払うべき相当な対価の額 〔原告の主張〕 被告が原告に対して支払うべき相当な対価は、原告が本件特許権及び本件各実用新案権を有することによって得られる独占の利益の額に、本件発明及び本件各考案がされるについて原告が貢献した程度を乗じて算定すべきである。 そして、上記(1)及び(2)の〔原告の主張〕のとおり、本件特許権及び本件各実用新案権により被告が受けるべき独占の利益の額は6億0500万円を下らず、本件発明及び本件各考案がされるについて被告が貢献した程度は70パーセントを上回ることはなく、本件考案1は実質的に原告の単独考案であり、本件考案3は原告の単独考案である本件考案2をユニット化して発展させたものであるから、 共同考案者間において原告が貢献した程度は高いというべきである。 したがって、被告が原告に対して支払うべき相当な対価の額は、6億0500万円に30パーセントを乗じて得られる1億8150万円を下回らない。 そして、既に被告が原告に対して支払った、「前提となる事実」(4)記載の報償金を控除しても、少なくとも1億8000万円は未払いのままである。 よって、原告は、被告に対し、上記1億8000万円及び本件特許権及び本件各実用新案権のうち最終の登録日の後の日である平成8年9月1日以降の遅延損害金の支払いを求める。 〔被告の主張〕 上記(1)及び(2)の〔被告の主張〕で主張した事情に照らせば、被告が原告に対して支払うべき相当な対価の額は、既に被告が原告に対して支払った「前提となる事実」(4)記載の報償金を超えるものではない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明及び本件考案3について特許又は実用新案登録を受ける権利を被告に承継させたことに対する対価について (1) 争点(1)(被告が受けるべき利益の額)について ア いわゆる独占の利益の算定方法について 本件において、被告が本件発明及び本件考案3を実施して本件商品を製造販売していることは当事者間に争いがなく、一方、本件発明及び本件考案3について、被告が他者に実施を許諾して実施料を得ているという事情は認められない。 また、本件実用新案権3は、被告と大阪ガスとの共有にかかるものであるが、後記エ(ア)Aのとおり、大阪ガスは、本件考案3を実施した製品を自ら製造していない。 このような場合、本件発明ないし本件考案3の実施品の販売額(ただし、本件商品の全体の販売額をそのまま計算に用いるべきか否かについては後記ウで検討する。)のうち、本件発明ないし本件考案3について特許ないし実用新案登録を受ける権利を得たために売り上げることができた部分(すなわち、職務発明ないし考案についての法定の通常実施権に基づく実施を超える部分である。以下「超過実施分」という。)について、相当な実施料率を乗じて得られるべき実施料を算出し、これをもって、被告が本件発明ないし本件考案3について特許ないし実用新案登録を受ける権利を得たことにより得られるべき利益であると考えるのが合理的である。 ただし、本件実用新案権3は、被告と大阪ガスとの共有にかかるものであり、後記カのとおり、このような事情に基づく調整が必要となる。 そこで以下、上述の算定方法により、被告が得られるべき利益の額を算定する。 イ 対象となる時期について 職務発明又は職務考案について、特許又は実用新案登録を受ける権利を使用者等が承継し、特許又は実用新案登録を出願した場合、これにより使用者等がいわゆる独占の利益を受けることができる期間は、特許ないし実用新案登録の出願公開時から、特許権ないし実用新案権の権利存続期間満了時までであると解するべきである。 なぜならば、特許又は実用新案登録を受ける権利を承継し、特許又は実用新案登録を出願しても、使用者等は、他者による当該発明又は考案の実施を禁ずることも、当該発明又は考案を実施している他者に金銭を請求することもできないから、この期間は、使用者等がいわゆる独占の利益を受けているということはできない。 これに対し、特許ないし実用新案登録の出願公開がされたときは、使用者等は、未だ他者による当該発明又は考案の実施を禁ずることはできないが、一定の条件の下ではあるものの、当該発明又は考案を実施している他者に対し補償金を請求することができるようになるのであるから、この時点以降は、使用者等に、特許又は実用新案登録を受ける権利の承継を受けたことによる利益を観念することができる。 したがって、本件においても、本件発明については、特許出願公開日である昭和63年1月21日から本件特許権の権利存続期間満了日である平成18年7月1日までの間において、本件考案3については、実用新案登録出願公開日である平成4年2月4日から本件実用新案権3の権利存続期間満了日である平成17年5月24日までの間において、それぞれ本件発明ないし本件考案3によって被告が受けるべき利益のうち、被告が特許ないし実用新案登録を受ける権利の承継を受けたことによる利益の額を算定すべきものである。 ウ 本件発明ないし本件考案3の実施品の販売額について (ア) 本件商品は、ガス栓本体部分、着脱ユニット部分、プレートセット部分からなり、それぞれ別個に箱詰めされて販売されている(争いがない)。 そして、被告は、本件発明を、本件商品のガス栓本体部分において実施し、本件考案3を、本件商品のうちR型の着脱ユニット部分において実施している。 このような場合、本件発明ないし本件考案3の実施品の販売額としては、本件発明についてはガス栓本体部分の販売額を、本件考案3についてはR型の着脱ユニット部分の販売額を、それぞれ把握すべきである。 この点、原告は、ガスコンセントは一体の製品であり、着脱ユニットやプレートセットは、施工の便宜から、別のパッケージにしているにすぎないものであり、これらがガス栓本体部分とは別に大量に売れるというものではないから、 本件商品全体の販売額を基礎とすべきであると主張する。 しかしながら、仮に原告の主張のとおり、ガスコンセントが一体の製品であるとしても、本件特許権はガス栓本体の主要部分であるガス弁に関するものであり、本件実用新案権3は着脱ユニットの主要部分であるソケット取外し機構に関するものであることを考慮すれば、本件発明あるいは本件考案3が、本件商品全体の売上に寄与したものということはできず、本件発明が寄与した売上部分はその実施されたガス栓本体部分に、本件考案3が寄与した売上部分はその実施されたR型の着脱ユニット部分に、それぞれ限定されると解すべきである。 また、被告は、本件商品のガス栓本体部分には、本件発明とは関係のない金具等の付属品が含まれているから、これらの販売額部分は基礎とすべきではないと主張する。 確かに、本件発明は、ガス栓のうちガス弁に関するものであり(甲5)、ガス栓本体部分全体についての技術ではないが、かといってガス栓本体部分の全体に影響を及ぼさないような一部品に係る技術というものでもなく、ガス栓の中心部分に係る技術であること、また、上記のとおり、ガス栓本体部分は、これを一つの単位として箱詰めされて販売されていることに照らせば、金具等の付属品の販売額部分を控除するのは相当ではなく、ガス栓本体部分全体の販売額を基礎とすべきである。 (イ) 本件発明の実施品(ガス栓本体部分)の販売額 上記のとおり、本件においては、本件発明に関しては、特許出願公開日である昭和63年1月21日から本件特許権の権利存続期間満了日である平成18年7月1日までの間における、本件発明の実施品である本件商品のうちのガス栓本体部分の販売額及び販売見込額を算出する必要がある。 乙第45号証によれば、本件商品の販売開始時期は早くとも平成2年8月以降であり、販売開始から平成16年8月末までのガス栓本体部分の販売額は55億6006万8490円であると認められる。 そして、同号証によって認められる、平成3年8月から平成4年7月までの第51期から、平成15年8月から平成16年7月までの第63期までの13年間にわたって、年間のガス栓本体部分の販売額が最高でも5億7500万円余りであったことを考慮すると、平成16年9月以降のガス栓本体部分の販売見込額について、年間6億円という被告の主張も、合理性を有するものとして認めることができる。 そうすると、平成16年9月から平成18年7月1日までの22月間についてのガス栓本体部分の販売見込額は、下記の計算式のとおり、11億円となる。 ○計算式 600,000,000÷12×22=1,100,000,000 したがって、昭和63年1月21日から平成18年7月1日までの間のガス栓本体部分の販売額及び販売見込額の合計は、66億6006万8490円と認められる。 (ウ) 本件考案3の実施品(R型着脱ユニット部分)の販売額 上記のとおり、本件においては、本件考案3に関しては、実用新案登録出願公開日である平成4年2月4日から本件実用新案権3の権利存続期間満了日である平成17年5月24日までの間における、本件考案3の実施品である本件商品のうちのR型着脱ユニット部分の販売額及び販売見込額を算出する必要がある。 乙第46号証によれば、本件商品のうちR型着脱ユニット部分の販売開始時期は早くとも平成5年8月以降であり、販売開始から平成16年7月末までのR型着脱ユニット部分の販売額は7624万8586円であると認められる。 そして、同号証によれば、R型着脱ユニット部分の販売額は、販売を開始した平成5年8月から平成6年7月までの第53期から、平成12年8月から平成13年7月までの第60期までの間は、年間約580万円から970万円までの間を推移していたものの、平成13年8月から平成14年までの第61期から、 平成15年8月から平成16年7月までの第63期においては、それぞれ約420万円、約450万円、約380万円と、それ以前に比べて減少していることが認められ、これと前記直近の3年分の販売額とを考慮すれば、平成16年8月以降のR型着脱ユニット部分の販売見込額としては、年間420万円と認めるのが相当である。 そうすると、平成16年8月から平成17年5月24日までの9.8月間についてのR型着脱ユニット部分の販売見込額は、下記の計算式のとおり、343万円となる。 ○計算式 4,200,000÷12×9.8=3,430,000 したがって、平成4年2月4日から平成17年5月24日までの間のR型着脱ユニット部分の販売額及び販売見込額の合計は、7967万8586円と認められる。 (エ) 本件商品の販売に際して他社に支払った実施料について 被告は、被告と他社との契約に基づき、本件商品の販売にあたって、 他社が特許権等を有する発明等の実施料を支払っているから、この事情は使用者が得るべき利益の算定にあたって勘案すべきであると主張する。 確かに、製品の販売にあたって他社に発明等の実施料を支払っている場合は、製品の販売に要する経費が増大することとなり、使用者が得るべき利益に影響を及ぼすことは否定できない。 しかしながら、上記のとおり、他社に支払うべき実施料は、製品の販売に要する経費の一項目である。したがって、本件のように、いわゆる独占の利益を、職務発明ないし考案についての法定の通常実施権に基づく実施を超える部分(超過実施分)と相当な実施料率を基に算定すべき場合においては、上記他社に支払うべき実施料は、販売額から控除すべき性質のものではなく、超過実施分に乗じるべき相当な実施料率の算定にあたって考慮すべきものである。 したがって、ここでは他社に支払った実施料については考慮しない。 エ 本件発明ないし本件考案3の実施品の販売額のうち、超過実施分の占める割合について (ア) 乙第45号証、当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、本件発明ないし本件考案3の実施品を含む本件商品であるガスコンセントの市場について、以下の事情が認められる。 @ 本件商品は、ガス栓である。都市ガス用ガス栓は、ガス事業法によるガス工作物であり、ガス事業者が自社のガス工事のために購入して使用するものであって、一般のガス器具のように市場で流通するものではない。したがって、都市ガス用の本件商品の購買者は、基本的にガス事業者に限定される。 A ガス栓の保安維持責任はガス事業者にあることから、そのガス栓の購買先は、従来からの信頼の高いメーカーに限られ、一定の購買量を当該メーカーに付加しつつ、ガス事業者の要求仕様による開発を指示し、あるいは品質確保について指導している。 そして、ガスコンセントについては、本件8社共同開発に参加したガス機器メーカー5社以外に、これを製造販売している業者はない。 B 平成12年度版ガス事業便覧(乙3)に掲載された需要家メーター取付数のガス事業者別比率から見たガス事業者のシェアは、東京ガスが約34パーセント、大阪ガスが約25パーセント、その他のガス事業者が合計で約41パーセントである。 C 全国の都市ガス事業者の中で、東京ガスと大阪ガスのシェアが極めて大きいため、両社の開発によるガス栓が都市ガス業界の標準となり、他のガス事業者にも採用され、購買されている。 D ガスコンセントの方式には、現在のところ、本件発明が実施され得る円筒スライド栓方式のほかにピストンリング方式が存在し、大阪ガスは前者を、 東京ガスは後者を採用している。その他のガス事業者は、それぞれ、これらのいずれか一方あるいは双方を採用している。(弁論の全趣旨) E 平成15年度における財団法人日本ガス機器検査協会のガス栓の検査数は、341万7970個であり、同年度における被告によるガス栓の販売数は、115万2543個であったから、ガスコンセント以外のガス栓も含めたガス栓全体の市場における被告のシェアは、約34パーセントに達する。 F 被告の本件商品の販売個数は、平成7年ころ以降、20万個を若干上回ることが多く、平成15年8月から平成16年7月末の期間をみると、本体セット換算で26万3478個となっている。 (イ) 上記(ア)の各事情に照らせば、被告が本件特許権や本件実用新案権3を有するからといって、そのことが、それまでガス器具メーカーとしてガス栓を製造販売していなかった業者が新たにガスコンセントの市場に参入することを排除する主たる要因となるものではなく、ガスコンセントを含めたガス栓市場の性質と現状そのものが、新たな業者の市場参入を妨げる大きな要因となっているものと認められる。 したがって、本件特許権や本件実用新案権3が、ガスコンセントの市場に、それまでガス栓を製造販売していなかった業者の新規参入を排除することに果たす役割は、非常に小さいものといわなければならない。 しかしながら、上記のようなガス栓市場の性質と現状は、確かにその市場に参加する業者の変動を妨げる大きな要因であるものの、ガス栓の供給者になるために、ガス会社からの高い信用を得なければならないという事情を考慮してもなお、将来にわたって新規業者の参入排除を保障するまでのものではない。後記オ(イ)のとおり、本件8社共同開発により得られた技術について、本件8社以外のガス機器メーカーに実施を許諾することが否定されていないことも、これを裏付けるものである。 したがって、本件特許権や本件実用新案権3を含めた諸権利が存在することが、被告が本件商品を販売している市場への新規業者の参入を困難にさせる効果を有することを完全に否定することはできない。 (ウ) また、円筒スライド栓方式を含め、大阪ガスが採用する方式のガス栓市場における被告のシェアは、上記(ア)B及びEに基づいた被告の試算(被告準備書面(1)43頁参照)によっても約76パーセントにすぎず、被告以外にも大阪ガスや同社と同じ方式を採用するガス事業者の信用を得て、ガス栓を販売している業者、すなわち被告の競争者が存在するものと認められる。 このように市場における競争者が存在することに照らせば、被告が本件特許権や本件実用新案権3を有することにより、市場における競争上、一定の有利な地位に立つことができたものと認めるのが相当である。 なお、被告は、本件商品と同種商品を販売する事業者としては、ハーマンがあるのみであるが、被告とハーマンとの間には、大阪ガスに納入する商品については、どちらか一方のみが特許権等を有していたとしても、他方に対して権利行使をしないという黙示の合意が存在すると主張する。しかしながら、上記被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない(仮に、被告の上記主張を認めるとしても、 被告とハーマンとの間のそのような関係は、いわば黙示の包括的クロスライセンス契約が締結された状態というべきであるから、これによって被告はハーマンが有する特許権等の技術を自由に利用することができるという利益を得ており、本件特許権及び本件実用新案権3も、そのような包括的クロスライセンスの場に提供されることで被告が上記の利益を得ることに寄与しているというべきであるから、いずれにしても、被告が職務発明ないし考案についての法定の通常実施権を得ている以上の利益を被告に得させているものということができる。)。 また、被告は、本件商品は、多数の権利の実施品であるから、本件特許権及び本件各実用新案権が存在しないとしても、第三者が本件商品を販売することはできないとも主張する。しかし、被告以外の業者が円筒スライド栓方式のガスコンセントを供給する際に、本件商品と全く同一の製品を製造販売する必要はなく、これと同等品であれば足りるのであるから、被告の主張はその前提を欠くものである。しかも、被告の主張自体、本件特許権及び本件実用新案権3が、他の「多数の権利」と共に、被告が他者との競争上優位に立つために資するものであることを含意するものでもあるから、いずれにしても、上記判示したところを左右するものではない。 (エ) ところで、使用者等は、従業者等が職務発明について特許を受けたときには、その特許権・実用新案権を承継しなくても、これについて法定の通常実施権を有しており、もともと当該発明・考案を実施するに当たって、特許権者・実用新案権者に実施料を支払って実施する第三者と比較して、当該実施料の分だけ製造原価の面で優位に立っているものである。したがって、ブランド力、技術力等において第三者が被告を相当上回る等特段の事情のない本件においては、本件特許権及び本件実用新案権3を被告が承継せず、第三者が原告からその実施許諾を受けたとしても、その者は、被告と対等の立場で競争できたとは認められない。 (オ) なお、ガス栓やガスコンセントの市場においても、特許権や実用新案権を有することに一定の経済的意義が存することは、例えば、後記オのように、 本件商品の販売に際して、被告が他社に実施料を支払っていることや、本件特許権や本件実用新案権3について、被告自身がその費用を負担して出願し、登録後も権利存続期間満了に至るまで、権利維持に費用を支出していることからも明らかである。 この点につき、被告は、ガス栓メーカー業界では、知的財産権を取得することによって他社を排除するというよりも、他社による知的財産権の取得により、自己の営業を妨害されないようにするという防衛的な色彩が強いと主張するが、上記述べたところに照らして採用することができない。 (カ) ところで、被告は、本件発明及び本件考案3につき、いずれも、代替手段が数多く存在すると主張する。 しかしながら、代替手段となる技術が存在するからといって、それだけで、特許権や実用新案権がその経済的価値を失うというものではなく、代替技術の存在に加え、代替技術の方が、技術的な側面や経費的な側面等において優れているか、少なくとも同等であるなどといった事情があるときにはじめて、その特許権や実用新案権の経済的価値が損なわれるものというべきである。 なぜならば、たとえ特許権や実用新案権に係る技術に代替技術が存在するとしても、その代替技術が技術面、経費面等で劣るものであれば、特許権や実用新案権に係る技術を利用する意義は十分に存在するものであるし、あるいは特許権や実用新案権に係る技術を実施した製品が、代替技術を実施した製品に比べて高い競争力を有する蓋然性も高いからである。 これを本件についてみるに、本件発明及び本件考案3について、上記のような特許権や実用新案権の経済的価値を損なわせるような事情は認められない。したがって、本件発明及び本件考案3について、仮に代替技術が存在するとしても、これによって、被告が本件発明や本件考案3につき特許ないし実用新案登録を受ける権利を有することにより得られるべき利益がないものということはできない。 (キ) また、被告は、本件特許は無効とされる可能性があるとも主張する。 しかしながら、本件特許について、少なくとも平成16年9月2日までの間に、特許無効審判が請求されたことはなく(甲4)、その後、本件の口頭弁論終結時までに特許無効審判が請求されたといった事情も認められない。また、被告が、本件特許権を行使すべく、他社と交渉し、あるいは他社に警告したところ、 本件特許について特許無効理由が存在する旨の反論を受けたり、あるいは交渉の働きかけや警告を無視されたといった事情の主張もなく、そのような事情が存在したとも認められない。 このような状況に照らせば、仮に、被告が主張するように、本件特許が無効とされる可能性があるとしても、それは抽象的な可能性にとどまるものであって、他社が本件特許権を無視して経済活動をしたというものでもないから、少なくとも本件の口頭弁論終結時までの間、被告は本件発明につき特許を受ける権利を有することにより利益を得ていたものと認めることができる。 そして、上記の状況に加え、本件特許権の権利存続期間が約1年2月を残すのみであることに照らすと、今後、本件特許について特許無効審判が請求されるなどといった事情が生じる可能性も高くはないものと認められるから、結局、 仮に、本件特許に無効とされる可能性があるとしても、被告が本件発明につき特許を受ける権利を有することにより得られるべき利益の多寡に影響を及ぼすものではないと解すべきである。 (ク) そして、上記(ア)ないし(オ)で各検討した事情を総合考慮すると、 本件発明ないし本件考案3の実施品の販売額のうち、超過実施分は、販売額の30パーセントを占めるものと認めるのが相当である。 オ 超過実施分に乗じるべき相当な実施料率について (ア) 乙第45ないし第51号証によれば、本件商品の中には、本件発明及び本件考案3のほか、「ガスコックにおけるソケットの固定解除装置」(登録第2521054号実用新案)、「ガスコックにおけるソケットの安全装置」(登録第2501091号実用新案)、「ガスコック」(登録第965072号意匠)、 「電気コンセント付きガスコック」(登録第904427号意匠)、「ガスコック」(登録第904454号意匠)、「ガスコック」(登録第956992号意匠)、「ガスコック」(登録第2560351号実用新案)、「ガスコック」(登録第2560265号実用新案)、「カバー付きガスコック」(登録第904444号意匠)、「過流出防止弁」(登録第2043447号実用新案)及び「スライド弁等」(特公平8-10031号公報に係る特許ほか約10件の実用新案及び意匠)の実施品であるものがあり(ただし、同時に全部を実施することになるわけではない。)、平成16年7月末までの間に、ガス栓本体部分の販売数量は約240万個であるのに対し、上記実施数量は、被告から東京ガス、大阪ガス、東邦ガスに対する販売で「スライド弁等」(特公平8-10031号公報に係る特許ほか約10件の実用新案及び意匠)を実施した分を除いても延べ210万個以上に上っていること、被告は、その実施数量に応じた約定実施料を支払っていることが認められる。 もっとも、上記各証拠によっても、被告が本件商品の販売にあたって実施している発明等の詳細は明らかではなく、例えば、その対象が「埋込型ガスコンC型意匠」や「埋込型ガスコンCE型意匠」とされ、本件商品のうちガス栓本体部分やR型着脱ユニットへの実施がされているか多大な疑問が残るものも存在する。 (イ) 乙第37号証によれば、本件特許権や本件実用新案権3に関するものではないが、本件8社共同開発の過程で開発された技術等(前記「スライド弁等」(特公平8-10031号公報に係る特許ほか約10件の実用新案及び意匠))に関し、その一部または全部を実施するガスコンセントを販売する場合の実施料について、本件8社のうちのガス機器メーカー5社が本件8社のうちのガス事業者以外の者に販売するときには、製品1個当たり7.5円とする旨の契約がされており、この契約に添付された、本件8社以外のガス機器メーカーに実施許諾をする際の標準契約書式では、原則として、本件8社のうちのガス事業者に販売するときには、製品1個当たり20円、それ以外のガス事業者に販売するときには、製品1個当たり30円とされていることが認められる。 また、乙第49ないし第51号証によれば、これも本件特許権や本件実用新案権3に関するものではないが、被告は、ガスコンセントの販売において、 前記(ア)記載の発明・考案・意匠を実施する際に、製品1個(1口)当たり、1件の権利について6円ないし60円の実施料を支払っていた(ただし、特許権等の共有権者全員に実施料を支払う場合の合計額)ことが認められる。 (ウ) 乙第45及び第46号証によれば、平成16年8月までにおける本件商品のガス栓本体部分の平均単価は約2298円であり、平成16年7月までにおける本件商品のR型着脱ユニット部分の平均単価は、Rタイプにつき約383円、R2タイプにつき約657円であることが認められる。 (エ) 以上の各事情に加え、本件に現れた諸事情を総合考慮すると、本件発明及び本件考案3のいずれについても、超過実施分に乗じるべき実施料率としては、それぞれ販売額の2パーセントが相当である。 カ 本件実用新案権3が被告と大阪ガスとの共有にかかることによる調整 (ア) 乙第49ないし第51号証は、いずれも、東京ガスとガス機器メーカーの共有にかかる特許権等についての実施許諾契約書であるが、このいずれにおいても、実施品を東京ガスに販売するに際しては、実施料を支払わず、また、実施品を大阪ガス又は東邦ガスに販売するに際しては、権利者であるガス機器メーカーに対してのみ実施料を支払い、東京ガスに対しては実施料を支払わない旨が規定されていることが認められる。 また、上記オ(イ)のとおり、本件8社共同開発の過程で開発された技術等に関し、本件8社の契約に添付された標準契約書式では、本件8社以外のガス機器メーカーに実施許諾をする際の実施料について、原則として、本件8社のうちのガス事業者に販売するときには、製品1個当たり20円、それ以外のガス事業者に販売するときには、製品1個当たり30円とされていることが認められる。 以上の各事実に照らせば、ガス事業者とガス機器メーカーの共有にかかる特許権等について、これを他のガス機器メーカーに実施を許諾するにあたっては、その製品販売時の実施料につき、権利の共有者であるガス事業者に販売する際には、これを支払わないこととするか、あるいは他のガス事業者に販売するときよりも低額にする旨の条件とするのが、業界における慣行であると推認することができる。 したがって、本件においても、本件考案3についての超過部分のうち、大阪ガスに販売した部分については、上記オで検討した相当実施料率よりも低減した実施料率を乗ずるべきものというべきであり、その実施料率としては、上述の事情に照らして、上記オで検討した相当実施料率の3分の2とするのが相当である。 (イ) そこで、被告による本件商品の販売額における、大阪ガス向けの販売額と、その他のガス事業者向けの販売額の比率を検討する。 ガス事業者のシェアは、上記エ(ア)Bのとおり、 ○ 東京ガス:大阪ガス:その他=34:25:41 であるところ、他に特段の証拠も事情もないから、ガスコンセント市場におけるガス事業者のシェアも、これとほぼ等しいと推定することができる。 そして、上記エ(ア)Dのとおり、大阪ガスは本件発明が実施され得る円筒スライド栓方式を、東京ガスはピストンリング方式を採用し、その他のガス事業者はそれぞれこれらのいずれか一方あるいは双方を採用しているところ、その他のガス事業者全体における円筒スライド栓方式の採用割合は、特段の証拠も事情もないから、上記東京ガスと大阪ガスのシェアの比によって推定すべきである。 したがって、本件商品の市場となる、円筒スライド栓方式のガスコンセント市場におけるガス事業者のシェアの比は、 ○ 大阪ガス:その他=25:41×{25÷(34+25)} ≒25:17 となる。 そして、他に特段の証拠も事情もない以上、この比が、超過実施分における、大阪ガス向けの販売額と、その他のガス事業者向けの販売額の比率であると推定するのが相当である。 キ 結論 以上をまとめると、被告が本件発明ないし本件考案3について特許ないし実用新案登録を受ける権利を得たことにより得られるべき利益は、以下のとおり算定される。 (ア) 本件発明について 3996万0411円 ○計算式 6,660,068,490×0.3×0.02≒39,960,411 (イ) 本件考案3について 38万3216円 ○計算式 79,678,586×0.3×{25÷(25+17)}×{0.02×(2/3)} +79,678,586×0.3×{17÷(25+17)}×0.02 ≒383,216 (2) 争点(2)(被告が貢献した程度〔原告と被告の配分〕)について ア 本件発明がされた経過について (ア) 当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件発明がされた過程について、以下のような事情があったものと認められる。 @ 昭和61年2月3日、被告が、大阪ガスから、同年度の開発計画として、ピアノタッチ式ガスコックの開発仕様書を受け取り、これを受けて、被告においても開発を開始した。 A 被告は、同年2月17日、研究所において新機構コックに関するブレーンストーミングと基礎実験方法についての会議を行った。 ブレーンストーミングでは、操作方法について、回転、ピアノ方式、押す、引く、スライド、タッチ方式、擦る、叩く、センサ作動といったアイデアが、開閉機構(摺動)について、栓、ディスク、スライド、バルブ、はさむ、バタフライ、チャッキ弁、ゲート弁、液体密閉、膨張、ボールといったアイデアが、 形状について、円形、球形、矩形、円錐、扇形といったアイデアが、材質(表面処理)について、黄銅、セラミック、ゴム、樹脂、エコノール、タフラム、ニダックスといったアイデアが、リセット方法について、スライド方式、ばね式、てこ式、 逆圧、マグネットといったアイデアが、トルクを軽くする方法について、面圧を軽くする、摺動面を小さくする、材質、潤滑剤、ベアリング、加工精度、スライド方向といったアイデアが出された。 また、基礎実験については、開閉機構や開閉動作を行う際の力を小さくすることを考える必要がある、摩擦力を小さくするにおいては、摩擦係数を小さくするには限界があり、面圧を小さく(浮かす)ことでどうか、ただし、開閉動作中で行いゴミかみを考慮し浮かすのはミクロン単位とする、回転による開閉動作よりもスライドさせた方が良い、といった検討から、当面、摺動の際の摩擦力を調べるといった実験を行うこととし、摩擦力に関係する要素を取り上げ、比較するための条件として、当時実験中のディスクバルブの形状・機構を用いることとした(乙16)。 B 同年3月25日、被告が、大阪ガスから、ソケット着脱方式の新機構ガスコックの開発方針の説明を受けた。そこでは、開発は3ステップに分けて行われることとされ、第1ステップでは、ガスの供給、遮断をボタンの押し込みで操作するスイッチと、ソケットの取り外しをボタンの押し込みで操作するスイッチの2個の押しボタンを用いるガスコンセントの開発が、第2ステップでは、ガスの供給、遮断をフェザータッチのボタンで操作するスイッチの1個の押しボタンを用い、ソケットの取り外しはソケット自体の押し込みによって行うガスコンセントの開発が、最終の第3ステップでは、ソケットの突棒のストロークをディスク等の回転運動に変換することでガス弁を開閉し、または、ガス弁をソケットの突棒で直接開閉することにより、ソケットの着脱そのものによってガスの供給、遮断を操作し、ソケットの取り外しはソケット自体の押し込みによって行う、押しボタン無しのガスコンセントの開発が、それぞれ要求された(乙17ないし19)。 C 上記Bと前後して、被告は、新機構ガスコックについてのアイデアを、被告社内全体から募集した。これに応じた提案は80点近くに上ったが、その中には、円筒スライド栓方式を提案するものとして、原告の提案(乙21のB)の他にも、少なくとも2つの提案(乙21のF、G)があった(乙20、21)。 D 被告は、新機構ガスコックについて、栓式、バルブ式、ディスク式と複数の方式で並行して開発を行うこととし、同年5月16日及び同月30日の打合せによって、栓式の開発担当者を原告他1名のチームで行うこととした(乙24、25)。 E 原告は、同年5月7日から同月20日にかけて、試作された円筒回転栓を用いてその性能確認試験を行い、また、同年6月2日から同月13日にかけて、試作された円筒スライド栓を用いてスライド低減機構栓各種試験を行った。 F 同年6月30日、被告は、大阪ガスに対し、新機構ガスコックの提案を行った。 被告が提案した方式には、円筒回転栓方式(数種類)、磁石式円筒回転栓方式、円筒スライド栓方式、回転ディスク方式、スライドディスク方式があった(乙28の1ないし29)。 G 同年7月1日、被告は、原告を発明者として、本件特許出願をした。 (イ) 上記(ア)の各事情によれば、本件発明は、大阪ガスから提示された開発仕様に基づき、被告において新機構ガスコックを開発するに当たり、研究所内でのブレーンストーミングや社内での新機構ガスコックについてのアイデア募集を経て、原告他1名が栓式機構の開発担当者として選任され、その開発の中で、原告を中心に、実現可能な技術としてまとめ上げられたものであると認めることができる。 (ウ) なお、この点につき、被告は、本件発明の基本構成と特徴的構成は、大阪ガスからの提案と、これを受けた被告でのブレーンストーミング会議において、製品開発の構成として位置づけられ、あるいは確認、指摘されていたものであると主張する。 しかしながら、大阪ガスからの開発仕様の提示においては、具体的なガスコックの機構については限定されておらず(乙15、18、19)、それ故に、被告においても様々な方式で多種類の機構を開発し、大阪ガスに提案したものであるから(上記(ア)D、F)、大阪ガスからの提案において、本件発明の基本構成や特徴的構成が示されていたとはいえない。 また、被告研究所におけるブレーンストーミング会議も、正にブレーンストーミングとして様々なアイデアを出し合うことを主眼としたものであり、実際にも上記(ア)Aのとおり多種多様なアイデアが出されたものの、具体的かつ詳細な技術内容に及ぶものであったとは認めがたいから、これで製品開発の方向性が定められたとか、本件発明の基本構成や特徴的構成が確認されたということもできない。 そして、上記(イ)のとおり、本件発明に、大阪ガスから提示された開発仕様や、研究所内でのブレーンストーミングや社内での新機構ガスコックについてのアイデア募集が影響を与えたことがあるとはいえ、特許を受けるべき発明としては、単なるアイデアの断片ではなく、実現可能な技術としてまとめ上げることが必要となるのであるから、本件発明における原告の貢献が存在しないとか、皆無に近いということはできない。 (エ) また、原告は、本件発明は、被告によるアイデアの募集に対し、原告が、従来のテーパー状ではなく円筒状の形態をとるガス栓をひらめき、これを技術思想にまとめて被告に提出したものであると主張する。 しかしながら、上記(ア)の各事情に照らせば、原告が独自に本件発明の着想に至り、これを独自に実現可能な技術としてまとめ上げたものであるとは認められず、他に原告の上記主張を裏付ける証拠はない。 イ 本件考案3がされた経過について 争いのない事実、甲第11号証(本件実用新案権3の実用新案登録公報)、乙第39号証(被告と大阪ガスとの平成元年3月2日に行われた会議の会議議事録)及び弁論の全趣旨によれば、本件考案3は、ソケット取外し装置に関しては既に本件8社共同開発により本件考案2が考案されていたところ、実際の施行現場における便宜から、ソケット取外し機構をユニット化するようにとの大阪ガスの要望を受け、被告において、被告の指示により、被告の従業員であった原告外1名を中心として開発がされたものであると認められる。 ウ その他の事情について 上記ア及びイの本件発明及び本件考案3がされた経過の他、本件発明及び本件考案3に関して、以下のような事情が認められる。 @ 本件発明及び本件考案3をした当時、原告は被告の研究所開発第一課長として製品開発に携わっており、本件発明及び本件考案3のいずれも、本来的にその職務に属するものであった(前記「前提となる事実」(1)、(2))。 A 原告は、本件発明及び本件考案3に際し、被告の施設や設備を利用し、また発明者ないし考案者とはされていない他の被告従業員も、本件発明ないし本件考案3の過程に関与していた(発明ないし考案の効果確認や試作品の製作については当事者間に争いがなく、その余の過程についても、上記ア及びイの本件発明及び本件考案3がされた経過に照らしてこのように推認することができる。)。 エ なお、被告は、本件8社共同開発の昭和62年4月の共同開発会議で各社から提案されたソケット離脱機構のうち、ハーマン、ミツワガス機器、サンコーガス精機からの提案は本件考案3の要素をほぼ充たしており、これに被告の提案を加えると本件考案3となるから、原告の貢献度は極めて低いと主張する。 確かに、乙第34号証の13の1及び第35号証の9の1ないし5によれば、上記共同開発会議で、各社がソケット離脱機構を提案していることが認められるものの、上記各号証によれば、ここで提案された機構と本件考案3との間には、発想において通じるところがあるとしても、具体的な構成にはなお相違が認められるところであるから、上記事情から原告の貢献が極めて低いということはできない。 また、被告は、昭和61年4月8日に、被告が井上トータルデザインに依頼してデザインされた、ソケット着脱機構外観のデザイン(乙23の3c)に、 本件商品のうちR型の着脱機構とほとんど同じものが示されているとも主張する。 しかしながら、乙第23号証の3cのデザインは、具体的にどのような構成をとるものか必ずしも明らかではないから、これによって原告の貢献が極めて低いという根拠とはならない。 さらに、被告は、本件特許権及び本件実用新案権3の登録に至るまで、 被告の特許担当者や弁理士の多大な貢献がされていることを主張する。 確かに、本件特許権は、出願から2度の拒絶理由通知を受け、そのたびに手続補正をしながらも、拒絶査定を受け、不服審判を請求しつつ手続補正をし、 さらに2度の拒絶理由通知を受け、そのたびに手続補正をし、その結果、出願公告及び特許査定に至ったものであること、本件実用新案権3は、出願から2度の拒絶理由通知を受け、そのたびに手続補正をして、登録査定に至ったものであることは、当事者間に争いがない。しかしながら、これらはいずれも通常の出願手続においてあり得べき範囲を越えるものではなく、それぞれの出願過程における一件書類である乙第40及び第43号証(いずれも枝番を含む。)に照らしても、被告の特許担当者や出願代理人において、通常の貢献を越える、特段多大な貢献をしたものとまで認めることはできないから、出願過程における被告の貢献は、これを特に考慮すべきものとはいえない。 オ 被告と発明者ないし考案者との間での貢献の程度を考慮した割合 職務発明・職務考案の特許・実用新案登録を受ける権利の譲渡の相当の対価を算定するに当たっては、使用者等が、事業を計画してから、発明・考案の完成を経てさらにそれが事業として採算が取れるようにするまでに様々なリスクを負担していること、及び、従業者等も、発明・考案を譲渡せずに利益を得ようとすると、ライセンス先の発見やライセンス先の事業化の失敗などのリスクがあることを考慮すべきである。すなわち、前記(1)の方式により算定した被告が受けるべき利益は、本件発明及び本件考案3が無事に完成され、これに係る事業計画が成功し、魅力的な独占の利益が発生しているという結果を前提として算定したものであって、 上記リスクは考慮されていないけれども、権利の譲渡の対価を算定するに当たって、リスクの大小を考慮することは不可欠であるから、前記(1)の方式により被告が受けるべき利益を算定した場合には、使用者等が貢献した程度を考慮して前記権利の譲渡の相当の対価の額を定める際には、上記リスクがあることを前提とすべきである。 このことを前提として、上記アないしウの各事情のほか、本件に現れた諸事情を総合勘案すると、本件発明及び本件考案3がされるにあたって、被告と発明者(原告)ないし考案者(原告外1名)の関係で、被告が貢献した程度を考慮して、 権利の譲渡の対価額を定めに当たり、被告が受けるべき利益に乗ずべき割合は、いずれについても5パーセント)と認めるのが相当である。 カ 本件考案3の共同考案者らの間における原告の貢献の程度について 本件考案3がされた経過については、上記イのとおり認められるところ、被告従業員であった共同考案者である原告ともう1名との間の関係は、本件の全証拠によっても明らかではないから、両名の間の本件考案3への貢献の程度は、 同程度と認めるべきである。 (3) 争点(3)(被告が原告に対して支払うべき相当な対価の額)について ア 被告が原告に対して支払うべき相当な対価の額は、被告が本件発明ないし本件考案3について特許ないし実用新案登録を受ける権利を得たことにより受けるべき利益の額(上記(1))に、本件発明及び本件考案3がされるについて、被告が貢献した程度を考慮した割合(上記(2))を乗じて算定すべきである。 したがって、被告が原告に対して支払うべき相当な対価の額は、以下のとおり算定される。 (ア) 本件発明について 199万8021円 ○計算式 39,960,411×0.05≒1,998,021 (イ) 本件考案3について 9580円 ○計算式 383,216×0.05×0.5≒9,580 イ 前記「前提となる事実」(4)のとおり、被告は、原告に対し、既に、本件発明について特許を受ける権利の対価として、1万3000円を、本件考案3について実用新案登録を受ける権利の対価として、4000円を、それぞれ支払っている(なお、本件発明及び本件考案2を含めた多数の発明並びに考案に対する特別報償として、3万3333円も支払っているが、「多数の」発明及び考案について特許ないし実用新案登録を受ける権利の対価というだけで、その内訳等は明らかではないから、本件発明について特許を受ける権利の対価としての既払額には算入することができない。)。 したがって、これら既払額を控除すると、本件発明について特許を受ける権利の相当な対価のうち、198万5021円が、本件考案3について実用新案登録を受ける権利の相当な対価のうち、5580円が、それぞれ未払いであることとなる。 2 本件考案1及び2について実用新案登録を受ける権利を被告に承継させたことに対する対価について (1) 本件考案1について ア 本件考案1は、原告の主張によっても、本件発明を改良するものであるところ(前記争点(1)〔原告の主張〕ウ(イ))、その実用新案登録出願公開(平成2年6月4日)は、本件特許の出願公開(昭和63年1月21日)よりも遅く、また本件実用新案権1の権利存続期間満了日(平成15年7月15日)は本件特許権の権利存続期間満了日(平成18年7月1日)よりも早いのであるから、被告が本件商品を販売している市場について、本件特許と独立して、本件考案1のみの実施を独占したり、あるいは他者に実施を許諾することは現実的な事柄ではない。 したがって、本件発明について特許を受ける権利の承継を被告が受け、 被告が本件特許権を有している以上、これとは別に、本件考案1について実用新案登録を受ける権利を被告が承継したことによって被告が得ることができる利益は、 極めて小さいものといわざるを得ない。 イ 加えて、本件考案1は、本件8社共同開発の中で考案に至ったものであることは当事者間に争いがないところ、本件8社共同開発の共同開発契約書(乙36)によれば、その中で開発された技術についての工業所有権は、その参加8社の共有とすることが定められており(10条1項)、現に本件考案1についても、本件8社共同で実用新案登録出願がされ、本件実用新案権は8社の共有となっている。 なお、原告は、本件考案1は実質的に原告の単独考案であると主張するが、その実用新案登録出願に際して原告を含めた8名(本件8社各1名)の共同考案として出願されたというばかりでなく、本件8社共同開発の開発会議議事録(乙34〔枝番を含む〕)及び開発会議に提出された資料(乙35〔枝番を含む〕)によっても、本件考案1が実質的に原告の単独考案であるとは認めがたく、かえって、昭和63年4月7日の開発会議で被告及びハーマンから、栓が戻らない旨の報告がされ、これを受けて第2回試作品は栓用スプリング2個式の検討がされ、同年5月10日の開発会議で被告からスプリングを2本使用することの報告がされるなど、本件考案1は本件8社の共同開発の過程で徐々に形成され、完成に至った技術であると認めることができるから、仮に原告が本件考案1について実用新案登録を受ける権利を被告に譲渡しなくとも、本件8社のうち被告を除く7社が実用新案登録を受ける権利を有し、登録によって実用新案権者となったであろうことに変わりはない。 したがって、仮に原告が本件考案1について実用新案登録を受ける権利を被告に承継させなくとも、本件8社のうち、原告を除く7社も、実用新案権者又は職務考案についての法定の通常実施権者として、本件考案1の実施権を有するのであるから、原告がこれら7社に本件考案1の実施を許諾して実施料を得る見込みはない。 ウ しかも、前記1(1)エ(ア)Aのとおり、本件8社共同開発に参加したガス機器メーカー5社を除いて、ガスコンセントを製造する能力と、これをガス会社に販売する能力を併せ持つガス機器メーカーは、少なくとも現時点まで存在しないことが認められるのであるから、仮に原告が本件考案1について実用新案登録を受ける権利を被告に承継させなかったとしても、原告が、本件発明とは別個に、本件8社以外の者に本件考案1の実施を許諾して実施料を得る見込みは低く、しかもこのような実施許諾をする際には、本件実用新案権1の共有者である被告以外の7社の同意を得ることが必要となるのであるから、そのような実施許諾により実施料を得る見込みはほとんどないものといわざるを得ない。 エ そして、被告が、これまで、本件考案1について他者に実施を許諾し、 実施料を得ていたという事情は認められない。 オ 以上のとおりの検討に照らせば、原告が本件考案1について実用新案登録を受ける権利を被告に承継させたことに対する相当な対価は、既に被告が原告に支払った3万7000円(前記「前提となる事実」(4))を超えるものとは認められない。 (2) 本件考案2について 本件考案2は、被告において実施されたことはなく、また、被告が、これまで、他者に実施を許諾し、実施料を得ていたという事情も認められない。 このことからすれば、被告が本件考案2について実用新案登録を受ける権利を得たことにより得た利益は、極めて小さいものといわざるを得ず、原告が得るべき相当な対価も、既に被告が原告に支払った7000円(前記「前提となる事実」(4))を超えるものとは認められない。 (3) 以上のとおり、本件考案1及び2について実用新案登録を受ける権利を被告に承継させたことに対する相当な対価は、いずれも、既に被告において原告に支払った金額を超えるものではないから、これらについての原告の請求はいずれも理由がない。 3 結論 以上のとおりであるから、原告の請求は、主文第1項掲記の限度で理由がある。 よって、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
(別紙)職務発明・考案目録1本件発明発明の名称ガス弁発明者原告出願人被告出願昭和61年7月1日(特願昭61-155684号)公開昭和63年1月21日(特開昭63-13970号)公告平成7年2月22日(特公平7-15312号)登録平成8年2月2日(第2013589号)特許権者被告権利存続期間満了日平成18年7月1日2本件考案1考案の名称直動摺動弁考案者原告外7名出願人被告外7名(本件8社)出願昭和63年11月22日(実願昭63-152218号)公開平成2年6月4日(実開平2-72871号)公告平成5年7月15日(実公平5-27750号)登録平成6年4月6日(第2014001号)実用新案権者被告外7名(本件8社)権利存続期間満了日平成15年7月15日3本件考案2考案の名称ソケット取外し装置考案者原告出願人当初は被告、後に被告外7名(本件8社)に変更出願昭和63年5月20日(実願昭63-67111号)公開平成元年11月30日(実開平1-169692号)公告平成6年8月22日(実公平6-31273号)登録平成7年5月23日(第2062822号)実用新案権者被告外7名(本件8社)権利存続期間満了日平成15年5月20日4本件考案3考案の名称ガス栓のソケット取外し機構考案者原告外2名出願人被告及び大阪ガス出願平成2年5月24日(実願平2-54333号)公開平成4年2月4日(実開平4-13893号)登録平成8年8月2日(第2515960号)実用新案権者被告及び大阪ガス権利存続期間満了日平成17年5月24日以上 |
裁判長裁判官 | 山田知司 |
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裁判官 | 高松宏之 |
裁判官 | 守山修生 |