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関連審決 審判1999-277
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  慣用技術 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 216号 審決取消請求事件
原告 株式会社ニコン代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 伊藤信和
同 渡辺隆男
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第277号事件について平成12年4月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和63年2月1日にした特許出願(特願昭63-21741号)の一部を、発明の名称を「映像再生装置及び映像再生方法」とする発明として平成9年8月25日に新たな特許出願(特願平9-227694号)としたところ、平成10年12月1日を送達日とする拒絶査定を受けたので、同月28日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成11年審判第277号事件として審理した結果、平成12年4月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年5月24日原告に送達した。
2 特許請求の範囲請求項1(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。) 動画の映像として再生される映像信号と該映像信号の再生を遮断する特定信号とが記録されている記録媒体が装填される映像再生装置であって、前記記録媒体に記録された映像信号を再生する再生手段と、前記特定信号を検出する検出手段と、前記再生手段により再生される少なくとも1フレーム分の映像信号を記憶可能なメモリと、前記特定信号に基づいて、前記再生手段からの前記映像信号出力を遮断し、前記再生手段からの映像信号に代えて前記メモリに記憶された映像信号を出力する切換手段とを備え、前記メモリは、前記切換手段により前記特定信号に基づいて出力される映像信号を記憶するメモリとして使用される以外に、適宜に静止画再生するための静止画再生用メモリとして使用されることを特徴とする映像再生装置。
3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり、本願発明は、特開昭62-200878号公報(以下「引用例」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項に該当すると認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由1(手続の経緯、本願発明)は認め、同2(引用刊行物に記載の発明)、3(対比)は争わない。同4(当審の判断)、5(むすび)は争う。
審決は、相違点についての判断を誤ったものであって、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 本願発明は、「前記メモリは、前記切換手段により前記特定信号に基づいて出力される映像信号を記憶するメモリとして使用される以外に、適宜に静止画再生するための静止画再生用メモリとして使用されること」、つまり、特定信号に基づいて出力される映像信号を記憶するメモリを、適宜に静止画再生をするための静止画再生用メモリとして兼用することを特徴とする。
2 審決は、「映像再生装置において、適宜に静止画再生をするために静止画再生用メモリを用いることは、従来から周知の技術的事項(例えば、特開昭61-141280号公報及び特開昭62-163483号公報参照)であるから、上記引用例に記載の発明において、特定信号に基づいて出力される映像信号を記憶するメモリを、適宜に静止画再生をするための静止画再生用メモリとして兼用することは、当業者が容易に想到し得たことである。」(4頁5行〜10行)と判断したが、誤りである。
適宜に静止画再生をするために静止画再生メモリを用いることが、審決の指摘した特開昭61-141280号公報(以下「周知例1」という。)及び特開昭62-163483号公報(以下「周知例2」という。)により、従来から周知の技術的事項であると認めることができるとしても、特定信号に基づいて出力される映像信号を記憶するメモリを、適宜に静止画再生をするための静止画再生用メモリとして兼用するという技術的思想は、引用例、周知例1、2には開示されていない。
また、この「兼用する」ことが、映像再生装置に一般に求められている目的、課題であると、引用例、周知例1、2から認めることもできない。
3 以上のとおり、引用例、周知例1、2には、この「兼用する」ことを特徴とする本願発明の動機づけとなり得るものがないのである。
被告の反論の要点
1 引用例記載の発明である磁気記録再生装置において、スイッチ3、5及び記憶手段4からなる部分は、再生信号処理回路2から出力される通常の再生映像信号が入力され、トップマーキング信号MTの検出によりコントロール信号発生回路6から出力される制御信号に応じて、一画面分の映像信号を出力して静止画を再生する機能を備えている。すなわち、上記スイッチ3、5及び記憶手段4からなる部分は、制御信号がトップマーキング信号MTに対応する点を除けば、記憶手段(メモリ)を用いた静止画再生手段と同じ構成にほかならない。このことは、周知例1、
2の記載をみても明らかなことである。
2 磁気記録再生装置において、静止画再生手段を設けることは周知の慣用技術であり、この静止画再生手段に静止画再生用のメモリを用いることも、周知の事項である。しかも、引用例記載の発明において、静止画再生機能を付加するとともに、記憶手段4を静止画再生用のメモリとして兼用することに何らの阻害要因もない。したがって、引用例記載の発明において、記憶手段4を静止画再生用のメモリとして兼用することは、引用例や周知例1、2に動機付けとなり得る事項の記載がなくても、当業者であれば容易に想到し得たことである。
3 また、本願発明及び引用例記載の発明に係る技術分野において、1つの構成部品や要素に複数の機能を持たせて部品点数を減らすことにより、装置の小型化や低価格化を図ることは、例えば、特開昭59-188862号公報(乙第1号証)、特開昭59-203287号公報(乙第2号証)、実願昭59-132549号(実開昭61-48449号)のマイクロフィルム(乙第3号証)にも記載されているとおり、従来から常に求められている技術的課題である。この点からみても、引用例記載の発明において記憶手段4を静止画再生用のメモリとして兼用することを、当業者が容易に想到し得たことは、明らかである。
当裁判所の判断
1 甲第4号証(引用例)によれば、引用例には、審決の理由2の認定に係る記載があることが認められ、上記記載、特に(C)の「本発明のVTRの編集機能は上述したような構成とされているので、第1図に示したようなカット画面を指定するマーキング信号が記録されているテープを再生する場合、第3図の波形図で示すように時間T1の時点までは、スイッチ3,5は図示した実線の状態となっており、
端子TOUT に通常の再生映像信号V Pが出力されているが、トップマーキング信号MTが固定ヘッド7によって検出されると、コントロール信号発生回路6よりの制御信号によってスイッチ3,5が点線位置に切換わり、記憶手段4に記録されている一画面分の映像信号Vsが静止画として出力される。」との記載によれば、引用例記載の発明は、通常の再生モードのときは、記録媒体から検出された信号は、一部がスイッチ5の切換端子(NOR)を介して映像信号出力端子に出力され、一部が上記スイッチ5の他の切換え端子(MEM)にその出力がつながる1フレームメモリ等の記憶手段に供給されているが、制御信号によって、上記スイッチ5が上記他の切換端子(MEM)に切換えられ、そのときには、上記記憶手段に記憶された一画面分の映像信号が静止画として出力端子に出力される構成であること、及び上記制御信号は、マーキング信号を入力することができる手段によってあらかじめ入力されたマーキング信号(トップマーキング信号及びエンドマーキング信号)によって生じるものであることが認められる。
2 甲第5(周知例1)、第6号証(周知例2)によれば、磁気記録再生装置において、適宜に静止画を再生する手段を設けること、この適宜に静止画を再生する手段に静止画再生用メモリを用いることは、周知の技術であることが認められる。
そして、甲第5、第6号証によれば、周知の適宜に静止画を再生する手段においては、通常の再生モードのときは、記録媒体から検出された信号は、一部がスイッチ(周知例1ではスイッチ5、周知例2ではスイッチ8)の切換端子(周知例1では第1図の上側の端子、周知例2では第1図の端子a)を介して映像信号出力端子に出力され、一部が上記スイッチの他の切換端子(周知例1では第1図の下側の端子、周知例2では第1図の端子b)にその出力がつながる記憶手段(周知例1では1フレームメモリ6、周知例2ではメモリ9)に供給されているが、制御信号によって、上記スイッチが上記他の切換端子(周知例1では第1図の下側の端子、周知例2では第1図の端子b)に切換えられ、そのときには、上記記憶手段に記憶された一画面分の映像信号が静止画として出力端子に出力される構成であること、及び上記制御信号は、任意の指定(周知例1では静止画の操作キー13Fと静止画解除の操作キー13Eの操作、周知例2ではスチル再生釦等の操作釦の操作)によって生じるものであることが認められる。
3 以上のとおり、引用例記載の発明における「一画面分の映像信号を静止画として出力する構成」と、周知の適宜に静止画を再生する手段である「一画面分の映像信号を静止画として出力する構成」とは、制御信号の生じる契機が、前者は、あらかじめ入力されたマーキング信号であるのに対して、後者は、任意の指定である点で異なるものの、その余の点では同じである。
そうである以上、当業者は、引用例記載の発明に、適宜に静止画を再生する手段を設けるということ、及び、そのためには、引用例記載の発明の「一画面分の映像信号を静止画として出力する構成」に、制御信号を任意の指定によって生じさせる周知の手段(操作キー、操作釦等)を付加すれば足りるということに、容易に想到することができたものと認められる。そして、引用例記載の発明に、上記制御信号を任意の指定によって生じさせる周知の手段を付加すれば、引用例記載の発明の「前記メモリは、前記切換手段により前記特定信号に基づいて出力される映像信号を記憶するメモリとして使用される以外に、適宜に静止画再生するための静止画再生用メモリとして使用されること」との構成を備えるに至ることは明らかである。
4 原告は、特定信号に基づいて出力される映像信号を記憶するメモリを、適宜に静止画再生をするための静止画再生用メモリとして兼用するという技術的思想は、引用例、周知例1、2には開示されておらず、この「兼用する」ことが、映像再生装置に一般に求められている目的、課題であると、引用例、周知例1、2から認めることもできないから、引用例、周知例1、2は、「兼用する」ことを特徴とする本願発明の動機づけとなり得るものがないと主張する。
しかし、部品点数を削減して製造費用を削減したり、小型化を図ったりするということが、機械・機器等製造の技術分野においては普遍的な技術的課題であり、その部品点数削減の一手法として、部品を兼用するという常套手段があることは、明らかである。このことは、乙第1ないし第3号証からも裏付けられるところである。そうである以上、当業者には、部品を兼用したいという動機づけがあることもまた、引用例、周知例1、2に記載がなくとも、明らかである。
5 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、本訴請求は、理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担に
ついて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 宍戸充