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関連審決 審判1999-35526
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10106審決取消請求事件 判例 特許
平成16行ケ83審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  実質的に同一 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  設定登録 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 280号 審決取消請求事件
原告 リンテック株式会社代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 升永英俊
同 大島崇志
同 池田知美
同 弁理士 谷義一
同 橋本傳一
被告 三水株式会社代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁護士 森田政明
同 弁理士 永井義久
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第35526号事件について平成12年6月13日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、発明の名称を「記録紙」とする特許第2619728号の特許(平成2年1月25日出願、平成9年3月11日設定登録、以下「本件特許」といい、
その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成11年9月27日、本件特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、同請求を平成11年審判第35526号事件として審理した結果、平成12年6月13日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年7月3日、その謄本を原告に送達した。
2 本件発明の特許請求の範囲 (1) 請求項1(以下、この発明を「本件発明1」という。) 下記(A)と(B)の重量比が1から3の範囲の組成物からなる隠蔽層(5)が1から20ミクロンの膜厚で着色原紙(1a)、(1b)の表面に形成されたことを特徴とする、記録紙。
(A)隠蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子 (B)成膜性を有する水性ポリマー (2) 請求項2(以下、この発明を「本件発明2」という。) タコグラフ用の請求項1の記録紙。
3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり、本件発明1、2は、特開昭60-223873号公報(以下「引用例1」という。)、特開昭61-288118号公報(以下「引用例2」という。)、実願昭57-62444(実開昭58-164773号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例3」という。)、実願昭49-156934(実開昭51-83366号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例4」という。)、特公昭43-778号公報(以下「引用例5」という。)記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない、と認定判断して、そのように認めるべきであるとする請求人(原告)の主張を斥けた。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由1(手続の経緯・本件発明)、2(審判請求人の主張)、3(甲第1号証ないし第5号証の記載)は認める。同4(当審の判断)は、6頁2行〜7頁3行を認め、その余を争う。同5(むすび)は争う。
審決は、本件発明1と引用例1記載の発明との相違点についての判断を誤り(取消事由1)、本件発明2の進歩性についての認定判断を誤り(取消事由2)、
本件発明における数値限定の臨界的意義を誤認した(取消事由3)ものであって、
これらの誤りが、その結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1に関する相違点についての判断の誤り) 当業者は、着色原紙の表面の隠蔽層を尖針によって除去して記録(尖針による引っ掻き記録)を行う記録紙につき新規の構成を発明しようとする際に、尖針によって除去して記録できるように隠蔽層を形成する手段として、引用例1記載の発明の水性塗料組成物を用いることを、引用例1ないし4記載の発明に基づいて、容易に導き出し得たというべきである。
(1) 引用例2ないし4記載の発明は、尖針によって除去して記録を行うことができるような隠蔽層を利用して記録用紙等を製造するものである。この隠蔽層を形成する方法として、引用例2記載の発明では、白色顔料のような無地の顔料を塗布し、引用例3記載の発明では、ワックスその他の樹脂からなる不透明樹脂を塗布し、引用例4記載の発明では、被覆層を染料、顔料等で着色している。したがって、着色原紙の表面の隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙につき新規の構成を発明しようとする際に、尖針によって除去して記録できるように隠蔽層を形成する手段として、塗料等を塗布することは、広く知られているということができる。
そして、塗料は、一般的に、バインダーの接着力の強さ及び膜厚を調整することによって、尖針によって除去して記録を行うことができるような隠蔽層を形成することができるものであることは、当業者の技術常識である。すなわち、尖針によって除去して記録を行うことができるような隠蔽層を形成することができるという性質は、一部の塗料だけが有するというものではないのである。
(2) 引用例1記載の発明は、隠蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子と成膜性を有する水性ポリマーで隠蔽層が形成されている水性塗料組成物であり、この水性塗料組成物に含まれる中空孔ポリマー粒子(以下「引用例1の(T)物質」という。)は、白色顔料の一種である。そして、このことは広く知られていることである。
また、白色顔料は、引用例2でも用いられているものである。
(3) そうだとすれば、尖針によって除去して記録できるように隠蔽層を形成する手段として白色顔料を用いる新規の構成を発明しようとする場合、白色顔料として広く知られている引用例1の(T)物質を含む引用例1記載の発明の水性塗料組成物を用いることを導き出すことは、当業者にとって容易であったというほかないのである。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性についての認定判断の誤り) 審決は、本件発明1が、引用例1ないし5記載の発明から容易に発明をすることができたものとは認められないことを前提として、本件発明2についても、同様に認定判断した。しかし、本件発明1についての審決の認定判断は、前述のとおり誤りであるから、これを前提とする本件発明2についての審決の認定判断も、誤りである。
3 取消事由3(数値限定の臨界的意義の誤認) (1) 本件発明1、2の特許請求の範囲から、数値限定に係る記載を削除すると、それは、実質的には、本件特許の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の特許請求の範囲と同一である。
ところが、当初明細書の特許請求の範囲記載の発明については、引用例2ないし4及び実開昭57-59660号公報を引用して進歩性がないとの拒絶理由通知が発せられており、被告も、これを争わずに手続補正を行っていることから明らかなとおり、進歩性がないのである。
(2) 本件発明1の数値限定「(A)と(B)の重量比が1から3の範囲」には、何ら臨界的意義がない。このことは、甲第18号証の実験報告書に記載されている、原告が行った実験(以下「甲第18号証実験」という。)により明らかである。
(3) このように、特許請求の範囲につき、数値限定の臨界的意義がない以上、
本件発明には、進歩性がない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は、引用例1記載の発明の水性塗料組成物は、白色顔料の一種である、と主張する。しかし、引用例1記載の発明の水性塗料組成物は、樹脂粒子がコアー形状である非造膜性ビニル樹脂エマルジョンと造膜性水性樹脂との両者からなる組成物であり、これを顔料であるとすることはできない。
(2) 原告の上記主張を、樹脂粒子がコアー形状である非造膜性ビニル樹脂エマルジョンが顔料に相当するとの意味であると善解するとしても、引用例1には、
「樹脂粒子がコアー形状である非造膜性ビニル樹脂エマルジョン」が塗料の顔料と同視できる旨の記載も、このことを示唆する記載もない。まして、それを塗料の「白色」顔料と同視できる旨の記載やこのことを示唆する記載はない。
引用例1記載の発明の「樹脂粒子がコアー形状である非造膜性ビニル樹脂エマルジョン」が白色顔料の一種である旨の記載がある「中空顔料エマルジョン ローペイク」と題するカタログ(甲第8号証)は、その発行日が不明であり、証拠価値がない。
(3) 他方、引用例2ないし4には、隠蔽層を形成する材料について、具体的な開示はない。のみならず、その隠蔽層の形成材料を改良すべきであるとの技術的課題自体につき、その開示も示唆もない。また、隠蔽層を水性のものにするとの技術的課題についても、その開示も示唆もない。
(4) このように、引用例2ないし4記載の発明をみても、そこから引用例1記載の発明の水性塗料組成物を用いることを導き出す、契機自体が見出せない。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性についての認定判断の誤り)について 上記1のとおり、本件発明1が引用例1ないし5記載の発明から容易に発明をすることができたものとは認められないとの審決の認定判断に誤りはないから、
本件発明2についての審決の認定判断にも誤りはない。
3 取消事由3(数値限定の臨界的意義の誤認)について (1) 審決が認定するとおり、本件発明1、2は、数値限定技術的意義若しくは臨界的意義の有無にかかわらず、特許性を有するものである。
(2) 甲第18号証実験は、本件明細書にNo.2としてあげた配合剤を8μmの塗工厚に限定して行った実験でしかない。したがって、この実験を根拠として、数値限定の意義がないということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点についての判断の誤り)について (1) 以下のとおり、引用例2ないし4には、着色原紙の表層(隠蔽層)を尖針によって除去して記録を行う記録紙において、隠蔽層を形成するに当たり、顔料、
染料、ワックス、樹脂等を使用することが記載されているものの、顔料等として、
具体的に何を使用するかということは、記載されていないことが認められる。
ア 甲第4号証(引用例2)によれば、引用例2には、着色原紙の表層(隠蔽層)を尖針によって除去して記録を行う記録紙であって、「色分けされた下地上に白色顔料などからなる表層を塗布形成し」(1頁左下欄9行〜10行)ているものが記載されているものの、具体的にいかなる「白色顔料」を、いかなる他の物質(ビヒクル、バインダー等の作用をする物質、その他の作用をする物質等)と混合して(白色顔料を単独で下地に塗布するものとは考えがたい。)、下地上に塗布するのかについては、記載がないことが認められる。
イ 甲第5号証(引用例3)によれば、引用例3には、基紙ないしこれに印刷した着色層2の上面に、「ワックスまたはその他樹脂からなる不透明樹脂層」(明細書1頁下から3行〜2行)ないし「ワックスまたは樹脂等からなる不透明樹脂層」(同3頁10行〜11行)をコーティングし、不透明樹脂層11の引っ掻きによる剥離により記録を行う記録紙が記載されていることが認められる。しかし、
同証には、不透明樹脂層の形成に用いる上記「ワックスまたはその他樹脂」が、特定の「顔料」であることをうかがわせる記載はない。
ウ 甲第6号証(引用例4)によれば、引用例4には、着色された紙の基材2を被覆層4で被覆し、被覆層4に加圧ペンを作用させて破損させることにより記録を行う記録紙であって、被覆層4が、「染料、顔料等で着色」(明細書1頁9行〜10行)され、これに加えて「明化剤を添加する」(同3頁18行)ことができ、「染料または顔料や明化剤は市販のものが利用でき」(同4頁1行〜2行)るものが記載されているものの、具体的にいかなる「顔料」を、いかなる他の物質と混合して着色するのかについては、記載がないことが認められる。
(2) 隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙であるためには、記録の際、隠蔽層が、尖針と接した部分は小さな力で容易に除去されなければならないと同時に、それ以外の部分は、原紙に接着し続けているという特性を有しなければならないことは明らかである。すなわち、原紙上の隠蔽層が原紙と強く接着したり、
傷つきにくかったり等の理由で尖針と接しても容易に除去できないのでは、記録紙としての用をなさない。また、隠蔽層が強力な一体の膜となり、特定の部分を尖針によって除去しようとすると、これと一体化して膜を構成している他の部分までが剥がれてしまうのでは、記録できないから、これまた記録紙の用をなさないのである。
(3) そして、顔料(ないし白色顔料)を使用すれば、それが具体的にいかなる顔料であっても、また、その顔料と混合する他の物質がいかなるものであっても、
「隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙」の隠蔽層となり得る、などというものではないことは、明らかである(ちなみに、甲第2号証によれば、本件明細書に参考例として記載された物は、顔料を使用しているが、記録紙としての実用性がなかったことが認められる。)。
(4) ところが、「白色顔料」とこれと混合することができる物質との組合せ(何種類もの物質を混合することも考えられる。)は、極めて多数の例を考えることができるにもかかわらず、本件全証拠によっても、当業者において、そのうちのどれが「隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙」の隠蔽層となり得る性質を有するかということを、机上で化学式や物の形状等から容易に知ることができると認めることはできない。
そして、上記のとおり、「白色顔料」とこれと混合することができる物質との組合せとして、極めて多数の例が考えられるにもかかわらず、その極めて多数の中から、当業者が、引用例1記載の発明を選択し、それが、「隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙」の隠蔽層とすることができるものであることに容易に想到し得たことは、本件全証拠によっても認めることができない。
(5) 原告は、塗料は、一般的に、バインダーの接着力の強さ及び膜厚を調整することによって、隠蔽層を尖針によって除去して記録を行うことができるような隠蔽層を形成することができるものであることは、当業者の技術常識であり、一部の塗料だけが尖針によって除去して記録を行うことができるような隠蔽層を形成することができる性質を有するのではないとして、これを根拠に、当業者が、着色原紙の表面の隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙につき新規の構成を発明しようとする際に、隠蔽層を形成する手段として、引用例1記載の発明の水性塗料組成物を用いることを容易に導き出し得たと主張する。
ア しかし、引用例2ないし4には、隠蔽層を形成するに当たり、顔料、染料、ワックス、樹脂等を使用することが記載されているけれども、塗料を使用することは記載されていない(顔料、染料等は、塗料ではなく、顔料、染料等の特定の物を、特定の他の物質(バインダーとなる物等)と、特定の比率で混合することにより、塗料となり得るものにすぎない。)。他に、原告主張に係る技術常識を認めるに足りる証拠はない。
イ かえって、塗料は、物体の表面を保護し、美装する等の目的で物体に塗布するものであるから(ちなみに、財団法人国際科学振興財団編著「科学大事典」(丸善株式会社昭和60年3月5日発行)には、「塗料・・・固体表面に塗布乾燥後、弾力性硬層を生じて固体表面の保護と同時に美装する流動体」(1007頁)、財団法人日本規格協会編著「JIS工業用語大辞典」(同協会1982年12月6日発行)には、「塗料・・・物体の表面の保護、外観・形状の変化、その他を目的として用いる材料の一種」(855頁)と記載されている。)、強力な一体の塗膜として、下地を保護する特性があることが必要であり、下地との接着力が弱かったり、傷つきやすかったりして、尖針と接した場合に小さな力で容易に除去されてしまうような性質のものでは、折角塗布した目的を達することができないことは明らかである。ところが、隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙であるためには、その隠蔽層は、前記(2)のような特性を有する必要がある。
そうだとすると、隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙の隠蔽層に要求される特性と、塗料に要求される特性は、大きく異なり、むしろ相反するものであるから、塗料は、一般には、「隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙」の隠蔽層として使用できないことが多いものというべきである。
ウ そうである以上、当業者が、水性塗料組成物である引用例1記載の発明を、「隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙」の隠蔽層に適用することは、一層困難があるというべきである。
原告の主張は、採用することができない。
(6) また、原告は、引用例1の(T)物質は、白色顔料の一種であり、白色顔料は、引用例2で用いられているものであるから、当業者は、尖針によって除去して記録できるように隠蔽層を形成する手段として白色顔料を用いる新規の構成を発明しようとする場合、白色顔料として広く知られている引用例1の(T)物質を含む引用例1記載の発明を用いることを容易に導き出し得たと主張する。
確かに、甲第8号証(「中空顔料エマルジョン ローペイク」と題する発行日不明のカタログ)によれば、引用例1記載の発明のうち、引用例1の(T)物質が白色顔料の一種であることが認められる。
しかし、前示のとおり、引用例1記載の発明は、特定の白色顔料と、特定の他の物質とを混合したものとして、考えられる極めて多数のものの一つにすぎず、しかも、一般には、「隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙」の隠蔽層として使用できないことが多い塗料であるから、引用例1の(T)物質が白色顔料であるとしても、それだけでは、これを隠蔽層として使用することに、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。
そうである以上、引用例1の(T)物質が「白色顔料」の一種であり、引用例2記載の発明に「白色顔料」が用いられているとしても、そのことをもって、
これと特定の他の物質とを混合したものである引用例1記載の発明を、「隠蔽層を尖針によって除去して記録を行う記録紙」の隠蔽層とすることに、当業者が容易に想到することができたとすることはできない。
原告の上記主張も、採用することができない。
2 取消事由2(本件発明2の進歩性についての認定判断の誤り)について 取消事由2は、本件発明1と引用例1記載の発明の相違点について、審決がした判断に誤りがあることを前提とするものである。しかし、この点についての審決の判断に誤りがないことは、前示のとおりであるから、取消事由2は、理由がない。
3 取消事由3(数値限定の臨界的意義の誤認)について (1) 当業者が、相違点に係る構成に容易に想到することができたとすることができないことは、前示のとおりである。そうである以上、仮に、本件発明の特許請求の範囲数値限定に臨界的意義がないとしても、そのことをもって、本件発明1、2を、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2) 原告は、本件発明1、2の特許請求の範囲から、数値限定に係る記載を削除すると、それは、実質的には、当初明細書の特許請求の範囲と同一であり、これについては、進歩性がないとの拒絶理由通知が発せられ、被告もこれを争わなかったから、進歩性がないと主張する。
しかし、仮に、本件発明の特許請求の範囲数値限定に臨界的意義がないとしても、そのことをもって、本件発明1、2を、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないことは、前示のとおりであるから、原告の主張は、採用することができない。
そもそも、ある発明に係る特許出願について、拒絶理由通知が発せられ、
出願人が、これに応じた手続補正をしたとしても、そのことをもって、補正前の発明に進歩性がないことに決まるものではない。なぜなら、拒絶理由通知が常に正しいとは限らないことはいうまでもないことであって、発明の進歩性を判断する裁判所の判断が、この拒絶理由通知に拘束される筋合いはないからである。原告の主張は、この点において、前提を誤るものである。
のみならず、甲第10号証(当初明細書)によれば、当初明細書の特許請求の範囲の記載は、「(1)下記(A)及び(B)成分より成る組成物を着色原紙上に被覆させて得られる記録紙。
(A)隠蔽性を有する水性ポリマー粒子 (B)成膜性を有する水性ポリマー (2) タコグラフ用の請求項(1)の記録紙。」 であったことが認められ、上記記載によれば、本件発明1、2の(A)成分が、「隠蔽性を有する水性の中空孔ポリマー粒子」であるのに対し、当初明細書の特許請求の範囲に(A)として記載された成分は、「隠蔽性を有する水性のポリマー粒子」であって、両者は、「中空孔」という限定の有無において異なることが認められる。そうである以上、本件発明1、2の特許請求の範囲から、数値限定に係る記載を削除しても、当初明細書の特許請求の範囲実質的に同一ということはできない。したがって、これが実質的に同一であることを前提とする原告の主張は、
この点においても、前提を誤るものであって、失当である。
4 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴
訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 山田知司
裁判官 阿部正幸