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関連審決 審判1999-35359
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  独立特許要件 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 106号 審決取消請求事件
原告 株式会社森井代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 渡辺隆夫
同 弁理士 近藤彰
被告 株式会社エンテック代表者代表取締役 【B】
訴訟代理人弁理士 吉井剛
同 吉井雅栄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35359号事件について平成12年2月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「食品収納容器」とする特許第2879212号発明(平成10年1月31日出願、平成11年1月29日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は、平成11年8月20日、本件特許について無効審判の請求をし、平成11年審判第35359号として特許庁に係属したところ、被告は、同年11月8日に明細書の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。
特許庁は、上記審判事件について審理した上、平成12年2月18日に「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年3月8日原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件特許の設定登録時の明細書の特許請求の範囲請求項1の記載 食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部に設けたことを特徴とする食品収納容器。
(2) 本件訂正請求に係る明細書(以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲請求項1の記載(注、訂正部分を下線で示す。) 食品を収納した状態でそのまま保存したり暖め調理したりなどし得る容器を、上部に開口部を有する容体と、この容体の開口部を閉塞し得る蓋体とで構成し、この蓋体の所定の部分に周囲に日付目盛を配する回転体を水平回動自在に設け、この回転体の上面部にこの回転体を回動操作し得る摘まみ部を設け、この摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け、前記蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を前記回転体の軸芯部にして摘まみ 部に設けたことを特徴とする食品収納容器。
(以下、訂正明細書の特許請求の範囲請求項1記載の本件発明を「訂正発明」という。) 3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、(1)本件訂正請求は、特許請求の範囲減縮を目的とした訂正であって、新規事項の追加に該当せず、訂正発明が本件出願の際独立して特許を受けることができるものであることは(2)のとおりであるから、特許法134条2項及び同条5項において準用する同法126条2項ないし4項の規定に適合するとしてこれを認め、(2)本件発明の要旨を訂正明細書の特許請求の範囲記載のとおりと認定した上、特許無効の申立てにつき、@訂正発明は、請求人(原告)提出の実公平6-44863号公報(審判甲第1号証・本訴甲第3号証、以下「引用例1」という。)、平成8年10月18日発行の実用新案第3030089号公報(審判甲第2号証・本訴甲第4号証、以下「引用例2」という。)、ギフト商品カタログ「シャディ’96総合版」(審判・本訴とも甲第5号証、以下「引用例3」という。)、平成4年7月13日発行の意匠登録第842213号公報(審判甲第9号証・本訴甲第6号証)、実公平6-44846号公報(審判甲第10号証・本訴甲第7号証)、実開昭58-194728号公報(審判甲第11号証・本訴甲第8号証)、実開平2-43287号公報(審判甲第12号証・本訴甲第9号証)及び実開平4-118349号公報(審判甲第13号証・本訴甲第10号証)記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、A本件訂正請求に係る本件発明中請求項2ないし6に係る発明についても、上記各刊行物記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとし、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件訂正請求の訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否についての判断(審決謄本3頁7行目〜20行目)、訂正発明と引用例1記載の発明との一致点及び相違点の認定(同8頁7行目〜30行目)は認める。
審決は、訂正発明の技術課題が技術的意義を持たず、又は公知であることを看過する(取消事由1)とともに、訂正発明の容易想到性の判断を誤り(取消事由2)、本件訂正請求を認めた結果、本件発明の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(訂正発明の技術課題及び作用効果の判断の誤り) 訂正明細書(甲第11号証)には、「従来例は、その構造上、例えば容器内に収納した食品の一部だけを暖め調理しようとした場合、とりあえず、容器内から調理しない食品だけを取り出して電子レンジで残りの食品を暖め調理することになるが、その後、調理しなかった食品を再び容器内に入れて保存しようとした場合、
暖め調理時において摘まみ部を前記蒸気抜孔同志を合致させるために回動させており、日付指示部は日付目盛を指示する以外の位置を指示していることになる為、日付(先の保存日)が変わり分からなくなってしまうという問題点がある。」(段落【0006】)との記載があり、訂正発明はこの問題点を解決することを技術課題としているが、この記載のように当該容器を使用した場合、加熱調理に使用した容器を洗わずに汚れたまま再度同一食品の保存に使用することになる上、一時的保管のための容器を必要とするという通常考えられない事態となる。保存容器内の食品の一部について加熱調理を行う場合の現実的な手順は、調理する食品を取り出して別途加熱調理し、残ったものはそのまま保存するものであり、日付機能と通気機能の完全な独立操作性を付与しなくとも、実用上何ら問題はない。したがって、訂正明細書に記載された技術課題は、全く技術的意義を持たないものである。
仮に、上記の課題が技術的意義を有していたとしても、引用例2及び引用例3に示されているとおり、当該課題及びその作用効果は公知であるから、訂正発明の上記課題の設定に困難性があったとはいえない。
よって、訂正発明は進歩性を欠くというべきところ、審決はこの点を看過している。
2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り) 訂正発明を引用例1〜3記載の各発明(以下、番号に対応して「引用例発明1」などと表記する。)と対比すると、いずれも「電子レンジによる調理可能な食品収納容器で、容体と蓋体とで構成され、日付部と通気部の双方を備えるとともに両部を集中配置とした構成」及び「日付部を回転構造とした構成」において一致するが、通気部の開閉機構の構成に関し、訂正発明が、回転体軸芯部に組み込んだ開閉切り替え機構を採用しているのに対し、@引用例発明1は、回転構造として円板状回転板を採用し、通気部における蓋体に設けた蒸気抜孔の開閉を、回転体自体の回転操作で行う構造(回動開閉機構)を備えたものであり、A引用例発明2は、日付部の回転構造としてリング体を採用し、露出したリング体内の蓋体に直接蒸気抜孔のスライド開閉機構を設けているものであり、B引用例発明3は、蓋体装着部材を回転するリング体とリング体内に設けた蒸気孔の開閉機構とに分離した構成とされており、訂正発明の上記構成を採用していない点で相違する。
しかし、引用例発明1〜3を組み合わせ、これに当業者が適宜行い得る設計変更を施すことにより、上記の構成を得ることは容易というべきである。
すなわち、引用例発明1において、日付指示部と通気部の独立操作性を実現するためには、日付部の内方位置に独立した開閉機構を設ければよいことは容易に想到することができるものであるし、回転体の回転にかかわらず容器内部との貫通孔を設ける位置は、軸芯部分でなければならないことも自明である。さらに、実開昭58-194728号公報(甲第8号証)に示されているとおり、回転摘まみの中心に、回転摘まみの動作と関わりなく、独立して動作する開閉弁機構を組み込むことは公知であるから、回転体の軸芯部に通気孔を形成するとともに開閉弁機構を組み込むことは、当業者にとって困難性はない。
また、引用例発明2、3において、回動部材であるリング体の内方領域の蓋体部分をリング体と連結して一つの回動体とし、蓋体に対して周知の取付手段で装着すれば、回転体において回転軸となる範囲の内側はすべて軸芯部といえるから、
訂正発明の上記の構成を得ることができる。なお、訂正発明は、軸芯部に摘まみ部をも設ける構成としているが、摘まみ部の形成位置は訂正発明の作用効果に全く関わりがないから、単なる設計変更によって採用することができる相違点にすぎない。
以上のとおり、訂正発明は、引用例発明1〜3を組み合わせ、これに設計変更を施すことにより、当業者が容易に想到することができたものである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(訂正発明の技術課題及び作用効果の判断の誤り)について 原告は、訂正明細書に記載された訂正発明の技術課題は技術的に無意義である旨主張するが、食品収納容器に入っている食品の半分を電子レンジで暖める場合に、暖める分を別の皿に移すか、暖めない分を別の皿に移すかは一義的に決まるものではない。そして、後者の方法で従来例の容器が使用されるときには、訂正明細書の段落【0006】に記載のとおり、日付が不明となるとの問題は生じ得るのであるから、この技術課題を非現実的であると決め付ける原告の主張は失当である。
原告は、また、訂正発明の「日付指示部と通気部の独立操作性」に係る技術課題及び作用効果が公知である旨主張するが、訂正発明の技術課題は「日付指示部と通気部との独立操作性を効率的構成により達成すること」であり、作用効果はこの技術課題を達成したことである。そのことは、訂正明細書に「摘まみ部8を摘まんで回転体5を良好に回転し得るのは勿論、摘まみ部8を摘まんで回転させる操作だけで簡易に日付指示部6で日付目盛4を指示することができることとなる。」(段落【0019】。段落【0042】も同趣旨)との記載があるを初め、訂正明細書段落【0020】、同【0021】、同【0022】、同【0043】、同【0045】及び同【0046】にも効率的構成に関する記載があることから明らかである。
2 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について 引用例発明1は、訂正発明の従来例にすぎない。引用例発明1について原告の主張する設計変更を行うに当たっては、既存の通気孔をふさがなければならず、
そのようなことは訂正発明を見た者のみが行い得ることである。したがって、引用例発明1に訂正発明1の備えるスライド開閉式通気部を盛り込むことが容易であるとはいえない。
また、引用例発明2、3は、いずれも、審決が認定(審決謄本8頁32行目〜37行目)するように、蓋体の上面領域に蒸気抜孔を形成し、当該蒸気抜孔を回動又はスライドさせて開閉するための機構を保存日の設定機構とは別個に設けたものが記載されているにすぎず、通気孔を開閉する開閉切り替え機構が回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けられた構造を開示するものではない。
原告は、引用例発明2、3に対して当然の設計変更を施すと訂正発明となる旨主張するが、根拠のない主張であり、訂正発明を見た後にのみ可能な主張というべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)について (1) 審決は、訂正発明と引用例発明1との相違点として、訂正発明は「日付指示部を摘まみ部に設け、蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部にして摘まみ部に設けている」のに対し、引用例発明1では、通気孔を開閉する機構として、回動部材を回動することによってこれに形成した連通孔と通気孔を連通させるようにした構成としている点を挙げる(審決謄本8頁23行目〜30行目)とともに、引用例2、3にも「上記相違点の技術事項(回転体の摘まみ部に日付指示部と開閉切り替え機構を設ける点)についは、記載されておらず、示唆する記載も認めることができない」(同8頁31行目〜末行)とする。
(2) そこで、まず、この種の日付指示部と蒸気抜孔の開閉切り替え機構を有する食品収納容器において、一般的にどのような事項が当業者の適宜行い得る設計変更の範囲内であるかについて検討する。引用例1(甲第3号証)には、「本考案は前記実施例に限定されるものではなく、図4、5に示すように、蓋体2の凹部21の外周部分に日付目盛5を設け、回動摘3に指示目印4を設け、回動摘5の回動操作によって食品の貯蔵収納時の日付メモリ並びにレンジ加熱時の蒸気抜き調整を行っても良い。」(段落【0011】)、「更に図6に示すように、通気孔23a、
24a、25aを同じ大きさ若しくは大小異ならせると共に、回動摘3aに連通孔31を設けず、前記各通気孔の一つ若しくは複数を開閉する切欠部31aを形成した回動摘3aに日付目盛若しくは指示目印を付設しても良い等回動部材が日付指示部の動作を兼ねるのであれば、回動部材の形態並びに通気部の構成及び日付指示部の形態は任意に定めることができる。」(段落【0012】)との各記載が、引用例2(甲第4号証)には、「上記実施形態は、あくまでも一例であり、様々に設計変更可能である。たとえば、本実施形態の上記日付リングは、その上面に日付数字が付されていたが、日付数字は日付リングの側面に付しても良いのはいうまでもない。また、日付数字を特定する指標は、図1(a)に示された位置に限らず、日付リングに隣接して日付数字を特定できる位置であれば何処に設けてもよい。その他、リング上に指標を設け、リングに隣接する位置に日付数字を付すように構成してもよい。」(段落【0034】)、「本実施形態では、日付リングは、日付リングの内側面に突設した環状凸部を環状凹溝の内側内壁のその半径方向に窪んだ環状凹部に係合させることにより嵌合保持されたが、その他、日付リングの外側面に突設した環状凸部を環状凹溝の外側内壁のその半径方向に窪んだ環状凹部に係合させるもの、日付リングの外側面に窪んだ環状凹部を環状凹溝の外側内壁のその半径方向に突出した環状凸部に係合させるもの、日付リングの内側面に窪んだ環状凹部を環状凹溝の内側内壁のその半径方向に突出した環状凸部に係合させるものの何れの組み合わせにより、環状凹溝に日付リングを嵌合保持してもよい。」(段落【0035】)、「必ずしも環状凹溝を設け、その内部に日付リングが収まるように、日付リングを取り付ける必要はなく、フラットな蓋体上に日付リングを取り付けても良いのはいうまでもない。」(段落【0036】)との各記載があることが認められる。
これらの記載によれば、日付指示部と蒸気抜孔の開閉切り替え機構を有する食品収納容器においては、日付指示機能と蒸気抜孔の開閉機能を実現するための構成について、日付目盛と日付指示部のいずれを固定とし、あるいは回転可能とするかなどの点を含め、各部材の担う機構を維持しつつ、その具体的な態様について適宜変更を加えることは、当業者の設計変更の範囲内であるということができる。
(3) 次に、引用例発明3について、フタに固定されている円板状部材をリング状部材と一体化し、その全体を回転可能なようにフタに取り付けることが容易かどうかについて検討する。
ア 引用例3(甲第5号証)の「便利な蒸気穴と日付メモリー付き。調理時はフタをしたまま電子レンジOKの蒸気穴付。保存時は保存した日が一目でわかる日付メモリー付き。」との説明文及び掲載写真によれば、@引用例発明3は、食品を収納したままの状態で保存したり電子レンジで調理することのできる容器であって、容体及び「フタ」とで構成され、この「フタ」には円板状部材及びこれを取り囲む型で配設されるリング状部材が取り付けられていること、A上記円板状部材の上部(上記写真に示される上下の位置関係で示す。以下同じ。)の小径の孔は上記説明文にいう「蒸気穴」であり、同円板状部材下部の縦長形状の孔から突き出している突起物(レバー)のスライド変位によって開閉操作されるものであること、B上記円板状部材は、突起物(レバー)及びこれと一体となってフタと平行に延びる部材がスライド変位できるように、フタとの間に隙間を有する態様でこれに取り付けられていること、C上記円板状部材に対向するフタ部分には、蒸気を抜くための穴があること、D上記リング状部材には、上記円板状部材の指示部と相まって日付を示す機能を持つ数字が記載されており、また、同リング状部材を回動させるための突起状の摘まみが設けられていること、以上の事実が認められる。
イ 上記事実によれば、引用例発明3には、上記アBのとおり、円板状部材とフタの間に隙間があるため、フタに形成された蒸気穴の位置に関係なく、レバー操作によって円板状部材の蒸気穴を開放すれば、蒸気は容器外に抜け出るものと認められ、原告主張のように、円板状部材をリング状部材と一体化し、かつ、これを回転可能としても、蒸気穴の開閉機能を損なうものではない。のみならず、円板状部材とフタの間の隙間を考慮しないとしても、円板状部材が回転する際にその中心に当たる軸芯部の位置は動かないから、蒸気穴を円板状部材の軸芯部に設けることにより、円板状部材が回転しても蒸気穴の位置が変わらないようにし得ることは明らかである。そうすると、フタ側の蒸気穴と円板状部材側の蒸気穴の位置関係を、
円板状部材の回転に関係なく一定に保つ方が、蒸気抜き機能が安定して好ましいということができるから、原告主張の設計変更を行うに当たって、円板状部材の蒸気穴をその軸芯部に配することは、設計変更に伴い当業者が通常行うことのできる範囲内にとどまるものである。
ウ 次に、引用例発明3の有する日付指示機能に着目して検討するに、引用例発明3は、円板状部材とリング状部材との相対的な位置関係によって日付を読み取るものであるから、これらを一体化することは日付指示機能を損なうのではないかとの疑問も生ずるところであるが、引用例発明3において回転可能に設置されているリング状部材に設けられた日付目盛をその外側外周のフタ上に配置することによって、日付指示機能を維持し得ることは明らかである。しかも、このような設計変更は、日付目盛と日付指示部の位置関係を入れ替えることと異なるものではないから、前記(2)の認定事実に照らしても、このような設計変更を妨げる理由はないというべきである。
エ なお、被告は、訂正発明は日付指示部と通気部との独立操作性を効率的構成により達成したとの作用効果について主張する(前記第4の1)。確かに、訂正明細書(甲第11号証)には、「回転体5に設けた摘まみ部8に日付目盛4を指示する日付指示部6を設けたから、摘まみ部8を摘まんで回転体5を良好に回転し得るのは勿論、摘まみ部8を摘まんで回転させる操作だけで簡易に日付指示部6で日付目盛4を指示することができることとなる」(段落【0019】)との記載が認められるが、このような「効率的構成」は引用例1(甲第3号証)においても実現されているところというべきであるし、被告の主張するその余の訂正明細書の記載は、いずれも請求項2以下の発明に関するものであって、訂正発明の作用効果を記載したものとは認められず、採用の限りでない。
オ 以上によれば、引用例3に「蓋体に貫通形成した蒸気抜孔を開閉する開閉切り替え機構を回転体の軸芯部に設ける構成」を採用することは、原告主張の設計変更により当業者が容易に行い得るということができる。
(4) さらに、上記設計変更によって、訂正発明の構成が実現されるかどうかについて検討する。
まず、訂正発明が「摘まみ部」の位置を「軸芯部」と規定しているのに対し、引用例発明3でこの「摘まみ部」に相当すると考えられるのはリング状部材の「突起状の摘まみ」であって、軸芯部に位置していない点で相違する。しかし、リング状部材と円板状部材を一体化して回動可能とする設計変更が容易であることが前示のとおりである以上、この一体化する円板状部材に摘まみを設けることは、当該設計変更に基づく当然の付随事項にすぎず、しかも、円板状部材を回転させるための摘まみとしては、引用例1(甲第3号証)の各図にもあるように、軸芯を通る位置に配置することが操作上好都合であることは明らかであるから、摘まみの位置を軸芯部とする構成を得ることは、蒸気穴の位置について述べたと同様に、設計変更に伴い当業者が通常行うことの範囲内にとどまるものである。
また、訂正発明は「摘まみ部に前記日付目盛を指示し得る日付指示部を設け」ると規定するのに対し、引用例発明3では、日付指示部は摘まみ部に設けられていない点で相違する。しかし、訂正発明における日付指示部は、日付目盛との位置関係により日付表示機能を果たすものにすぎないから、その位置を「摘まみ部」とすることに格別の技術的意義があるとは認められず、上記相違点に係る構成は、
設計変更により適宜採用し得る選択肢の一つにすぎないというべきである。
そして、訂正発明のその余の構成要件については、前示認定のとおりの引用例発明3が当初から有しているか、又は上記設計変更により当業者が通常行うことの範囲内にとどまるものと認められる。
(5) 以上の認定判断からすると、審決の認定に係る訂正発明と引用例1の相違点は、引用例発明3及びその設計変更により当業者にとって容易に想到することができたといい得るから、本件訂正請求は独立特許要件を欠くものではないとしてこれを認めた審決の判断は誤りというべきであり、したがって、審決の本件発明の要旨の認定も誤りであることに帰する。
2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由2は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利