運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ12516損害賠償請求事件 判例 特許
平成15ワ1068損害賠償請求事件 平成15ワ28605当事者参加申立事件 判例 特許
平成20ワ8611特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ワ2352特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ3552不当利得返還請求事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  寄せ集め /  技術的範囲 /  共有 /  抵触 /  優先日 /  出願経過 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  権原 /  構成要件 /  具体的態様 /  差止請求(差止) /  侵害 /  逸失利益 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 16年 (ワ) 10541号 特許権侵害差止等請求事件
原告 港製器工業株式会社
訴訟代理人弁護士 松本司佐藤潤
補佐人弁理士 森義明
被告 三伸機材株式会社
訴訟代理人弁護士 中島和雄
補佐人弁理士 山崎哲男
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2005/07/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,貸与してはならない。
2 被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成16年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,発明の名称を「鉄骨柱の傾き調整装置および鉄骨柱の傾き調整方法」とする後記特許権を有する原告が,被告製品は原告の有する同特許権に係る特許発明(請求項1)の技術的範囲に属すると主張して,被告に対し,被告製品の製造・貸与の差止め及び廃棄を求めるとともに逸失利益の損害賠償を請求している事案である。
1 当事者間に争いのない事実等(末尾に証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない。) (1) 原告の有する特許権 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その請求項1の発明を「本件発明」という。)をオカモト産業株式会社(以下「オカモト産業」という。)と共有している(甲1,2)。
優先日 平成12年4月12日(特願2000-110466号) 出願日 平成12年6月16日(特願2000-181970号) 登録日 平成15年10月31日(特許第3487812号) 発明の名称 鉄骨柱の傾き調整装置および鉄骨柱の傾き調整方法 特許請求の範囲 別紙特許公報(甲2。以下「本件公報」という。)【請求項1】該当欄記載のとおり (2) 本件発明の構成要件 本件発明は,次の構成要件に分説できる。
A@ 鉛直に立設された一の鉄骨柱(60)の端部と,該端部に対向する他の鉄骨柱(80)の端部との周面にそれぞれ設けられたエレクションピース(90,90)を連結する連結体(1)に, A 前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を押し広げる屈曲自在の押圧手段(40)が設けられ, B 該押圧手段(40)は, @ 前記連結体(1)に回転自在に支持された可動レバー(41)と, A 該可動レバー(41)の先端部に連結され,且つ,前記鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)側にガイドされながら移動する押圧レバー(42)と, B 前記可動レバー(41)と押圧レバー(42)との連結部をエレクションピース(90,90)の接離方向に対して直交する方向に押圧する調整ボルト(25)とを有し, C 前記押圧レバー(42)が,調整ボルト(25)から入力される押圧力によって,前記他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧すると共に,前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を調整してなる D ことを特徴とする鉄骨柱の傾き調整装置。
(3) 被告の行為 被告は,平成16年7月ころから別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造し,これを工事施工業者に貸与している。
被告製品は,本件発明の構成要件A@及びA,構成要件B@及びA,並びに構成要件Dを充足する。
2 争点 (1) 被告製品は,本件発明の構成要件BBを充足するか。
(2) 被告製品は,本件発明の構成要件Cを充足するか。
(3) 原告の損害
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)(構成要件BBの充足性)について 【原告の主張】 (1) 本件発明の構成要件BBは「前記可動レバー(41)と押圧レバー(42)との連結部をエレクションピース(90,90)の接離方向に対して直交する方向に押圧する調整ボルト(25)とを有し」である。
これに対応する被告製品の構成は,別紙物件目録記載の「構成」欄のbBのとおり「前記可動レバー(41a)と押圧レバー(42a)との連結部(Q1)に設けられ,連結部(Q1)において前記可動レバー(41a)と押圧レバー(42a)とを回動可能に連結する連結軸(q1)が側面に突設され,かつ該連結軸(q1)に直交する挿入孔(t)を備えたセンターホールブロック(h1)と」及びbF「前記可動レバー(41a)(41b)及び押上レバー(42a)(42b)は,前記押上ボルト(26)及びセンターホールブロック(h1)を挟んで対称の位置に二組設けられ」である。
被告製品の可動レバー(41a)(41b),押圧レバー(42a)(42b)及び押上ナット(25)は,それぞれ本件発明の可動レバー(41),押圧レバー(42)及び調整ボルト(25)に相当する。
したがって,被告製品は,構成要件BBを充足する。
(2) 被告は,本件発明の「調整ボルト(25)」が機械用語の「ボルト」の範ちゅうに属するのに対し,被告製品の「押上ナット(25)」は機械用語のナットの範ちゅうに属するから本件発明の「調整ボルト(25)」に該当せず,被告製品は構成要件BBを充足しない旨主張する。
しかし,以下のとおり,被告製品の「押上ナット(25)」は,本件発明の「調整ボルト(25)」と実質同一である。
ア 「ボルト」とは,「金属丸棒の一端にねじを切り,普通は他端に直径より大きな四角,六角などの頭をつけたもの。植込みボルトのように,頭のないものもある。ナットとともに部品の締付け・結合に用いる。」(広辞苑第五版),又は「直径の比較的大きな雄ねじ。ナットと組み合わせ,鉄材などの締め付けや固定に用いる。」(大辞泉)と説明され,他方,「ナット」とは「ボルトにはめて物を締め付けるために用いるもの。多くは六角形で,内面にねじが切ってある。普通ナットのほかに座付・面取・袋・蝶など種々の型ナットがある。」(広辞苑第五版),又は「ボルトと組み合せて,物を締め付けるのに用いる機械部品。ふつう外形が六角形で,中央の穴の内面に雌ねじが切ってある。」(大辞泉)と説明されているように,ボルトとナットとは,両者協働して物を締め付け,結合させる部品である。
そして,本件発明は,その第一実施形態で「その連結部の屈曲角度の調整は,上述した前記他方の板体1bの突設部20のねじ孔21に螺合する調整ボルト25により行われる」(本件公報【0037】)と説明されているように,ナットに相当する「ねじ孔(21)」に「調整ボルト(25)」を締め付けることにより,押圧レバー(42)に押圧力を入力しているのであるが,被告製品においても「押上ナット(25)」を「押上ボルト(26)」に締め付けることにより押圧レバー(42a)に押圧力を入力していることに変わりはない。
イ したがって,被告製品の「押上ナット(25)」と本件発明の「調整ボルト(25)」におけるナットとボルトという相違は,課題解決のための具体的手段における微差にすぎない。
【被告の主張】 (1) 本件発明の「調整ボルト(25)」は,原告が引用する辞書類の定義に示されている本来の意味における機械用語としての「ボルト」の範ちゅうに属する部材でなければならない。上記辞書類によれば,「ボルト」は「ナットとともに部品の締付け・結合に用いる」(広辞苑第五版)又は「ナットと組み合せ,鉄材などの締め付けや固定に用いる」(大辞林)というのであり,その組合せの相手方として常に「ナット」を予定している。そして,本件発明の「調整ボルト(25)」は,「ねじ孔(21)」に螺合して「連結部の屈曲角度の調整」を行うものであり(本件公報【0037】),「ねじ孔(21)」がナットに相当するものであるから,「調整ボルト(25)」は本来的に「ボルト」でなければならない。
(2) これに対し,原告が被告製品においてこれに対応すると主張する「押上ナット(25)」は,調整目的で左右に回転させる部材であることを否定するものではないが,その内部には雌ねじが形成されていて,「押上ボルト(26)」先端部のねじ部(26b)が螺合しているから,機械用語にいう「ナット」の範ちゅうに属する部材であって,「ボルト」の範ちゅうに属するものではない。また,被告製品の「押上ナット(25)」は,「金属丸棒」(広辞苑第五版)でもなく,雄ねじ(大辞林)を有しているわけでもないから,そもそも「ボルト」の定義に当てはまらない部材であり,むしろ,その内部には雌ネジが形成されていて,「押上ボルト(26)」先端部のネジ部(26b)が螺合しているから,「ナット」に分類される部材であることが明らかである。
よって,被告製品の「押上ナット(25)」は,本件発明の「調整ボルト(25)」に該当しない。
(3) 原告は,被告製品の「押上ナット(25)」は本件発明の「調整ボルト(25)」と実質同一である旨主張する。
しかし,本件発明も被告製品も,ともにボルトをナットに締め付けることにより押圧レバーに押圧力を入力する点において共通するとしても,前記のとおり,被告製品のボルトである「押上ボルト(26)」は,頭部が連結部(Q2)に固定されていて調整機能を有しない上,その先端部が「押上ナット(25)」の中空穴の中に完全に収まっていて,その先端部で連結部(Q1)を押圧することができない。これらの点で,被告製品の「押上ボルト(26)」は,本件発明の「調整ボルト(25)」とは機能が全く異なる上,被告製品の「押上ナット(25)」は独立の部材であって,本件発明のように板体(1b)に設けられた「ねじ孔(21)」とは異なるのであるから,両者を実質同一ということはできない。
(4) よって,被告製品は,本件発明の構成要件BBを充足しない。
2 争点(2)(構成要件Cの充足性)について 【原告の主張】 (1) 本件発明の構成要件Cは「前記押圧レバー(42)が,調整ボルト(25)から入力される押圧力によって,前記他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧すると共に,前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を調整してなる」というものである。
被告製品のこれに該当する構成は,別紙物件目録記載のcのとおり,「該押上ナット(25)を回転させ押上ボルト(26)を螺合させることにより,押上ナット(25)がセンターホールブロック(h1)を介して連結部(Q1)を連結部(Q2)の方向に押圧するとともに,押上ボルト(26)に押上ナット(25)方向の力を発生させ,押上ボルト(26)頭部(h2)に支えられた連結部(Q2)を押上ナット(25)方向に引寄せて連結部(Q1)と連結部(Q2)を相互に近接させることにより,押上ブロック(43)を支点軸(P)から離間させ,前記他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧すると共に,前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を調整してなる」である。
このように,被告製品は,押上ナット(25)を回転させることにより入力される押圧力によって,連結部(Q2)をエレクションピース(90)の接離方向に対し直交する方向に押圧することになり,その結果,押圧レバー(42a,42b)が押上ブロック(43)を支点軸(P)から離間させる構造であり,本件発明と作用する押圧力の方向が同一であるから,被告の主張するように本件発明と異なるメカニズムを有するものではない。被告製品は,本件発明に可動レバー(41b)と押圧レバー(42b)をそれぞれ付加した構成にすぎない(本件発明に対する利用発明)。すなわち,被告製品から可動レバー(41b)と押圧レバー(42b)を取り除いた場合でも,押上ナット(25)を回転させることによって押圧力を入力すると,押上ブロック(43)がガイド長孔(G)に沿って支点軸(P)から離間する方向に移動することにより,エレクションピース(90)が押圧される。
したがって,被告製品は構成要件Cを充足する。
(2) なお,被告主張の意見書の主張は,引用文献3(特開平09-256681号公報。以下「乙1公報」という。)の発明と本件発明との相違点を説明したものにすぎず,本件発明の技術的範囲を上記の第一実施形態に限定するような手続補正をしたものではない。 【被告の主張】 (1) 本件発明の構成要件Cは,「前記押圧レバー(42)が,調整ボルト(25)から入力される押圧力によって,前記他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧すると共に,前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を調整してなる」というものである。
争点(1)主張のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Cの必須要件である「調整ボルト(25)」に該当する部材を有しないから,既にこの点において構成要件Cを充足しない。原告は,被告製品は本件発明に可動レバー(41b)と押圧レバー(42b)をそれぞれ付加した構成にすぎないとも主張するが,必須要件である「調整ボルト(25)」に対応する部材を欠くから,利用関係も成立しない。
また,被告製品では,押上ナット(25)を回転させると,その内部に螺合している押上ボルト(26)の螺合が進行して,押上ボルト(26)の頭部(h2)に支えられている連結部(Q2)を連結部(Q1)の側に引き寄せることとなる一方,その引寄力の反力によって,押上ナット(25)がセンターホールブロック(h1)を介して連結部(Q1)を押圧することになり,その結果,連結部(Q1)と連結部(Q2)が相互に近接する方向に移動して,両押圧レバー(42a,42b)が押上ブロック(43)を支点軸(P)から離間させて,他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧するとともに,両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を調整するものである。
このように,被告製品は,単に「調整ボルト(25)」が連結部に押圧力を入力するだけの本件発明とは全く異なるメカニズムにより押圧レバーに押圧力を付与するものであるから,本件発明の構成要件Cを充足しない。
(2) 本件発明の構成要件Cには「調整ボルト(25)から入力される押圧力」が,可動レバー(41)と押圧レバー(42)の連結部に入力される場合の具体的態様についての記載はない。しかし,本件発明の出願経過によれば,平成15年3月14日発送の拒絶理由通知において,2部材間の距離を調節する手段として,回転自在に支持されたレバー及び押圧手段からなるものは引用文献3(乙1公報)に記載されていると指摘されたのに対し,本件発明の共同特許出願人であるオカモト産業は,平成15年5月13日受付の意見書(乙3)において,「本願発明は,調整ボルト(25)が可動レバー(41)と押圧レバー(42)との連結部を押圧する構成であり,調整ボルト(25)の端面で両レバー(41,42)の連結部を移動させるものであり,全く構成が異なります」と主張して特許査定を得ている。
上記によれば,「押上ナット(25)」及び「押上ボルト(26)」いずれの「端面」でも両レバーの連結部を移動させるものではない被告製品は,出願経過において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるというべきであって,本件発明の技術的範囲に属すると主張することは出願経過禁反言の法理に抵触し許されない。
ちなみに,被告製品の「押上ナット(25)」が本件発明の「調整ボルト(25)」と実質同一であるとの原告の主張を前提としても,被告製品において連結部(Q1)を押圧しているのは,センターホールブロック(h1)であって,「押上ナット(25)」の端面ではない。
3 争点(3)(原告の損害) 【原告の主張】 被告は,被告製品を約1000個製造し,平成16年7月初旬より工事施工業者に有償で貸与(リース)している。
原告は,本件発明の実施品を製造し,リース業者に販売しているところ,その利益単価は2万円(販売単価3万8000円,経費単価約1万8000円)である。
よって,原告は被告に対し,本件特許権の共有持分2分の1を乗じた1000万円(2万円×1000個×1/2)の損害賠償請求権を有する。
【被告の主張】 被告製品の製造個数は,500個である。
原告の利益単価,販売単価,経費単価については不知。
原告が被告に対し損害賠償請求権を有することについては争う。
争点(2)に対する判断
1 まず,争点(2)(構成要件Cの充足性)について判断する。
(1) 本件発明の構成要件Cは,「前記押圧レバー(42)が,調整ボルト(25)から入力される押圧力によって,前記他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧すると共に,前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を調整してなる」というものである。そして,本件明細書の【0104】には,本件発明の効果に関して,「連結体に回転自在に支持された可動レバーと,該可動レバーに連結された押圧レバーとの屈曲を,入力される押圧力によって調整するようにすれば,鉄骨柱の傾き調整が容易に行え,作業性の効率化を図るのに有効である。」との記載がある。そうすると,本件発明は,連結体(1)に回転自在に支持された可動レバー(41)と,該可動レバーに連結された押圧レバー(42)との屈曲を,調整ボルト(25)から可動レバー(41)と押圧レバー(42)の連結部に入力される押圧力によって調整することにより,鉄骨柱の傾き調整を容易に行えるようにしたものであると認められる。
そして,調整ボルト(25)が連結部に押圧力を入力する機構に関しては,本件明細書の【0037】に「押圧手段(40)は屈曲自在であり,その連結部の屈曲角度の調整は,上述した前記他方の板体(1b)の突設部(20)のねじ孔(21)に螺合する調整ボルト(25)により行われる」との記載があることから,固定部材である板体(1b)を力の受け部として,その突設部(20)に設けられたねじ孔(21)から調整ボルト(25)が突出し,調整ボルト(25)と板体(1b)のねじ孔(21)との間のネジ機構により調整ボルトが可動レバーと押圧レバーの連結部を押圧して可動レバーと押圧レバーとの屈曲角度を変動させるものであると認められる。
(2) ところで,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 原告は,平成12年6月16日,本件発明につき,オカモト産業と共同で特許出願した(甲1,2)。
イ 特許庁審査官は,本件特許出願につき,以下のとおり記載した平成15年3月5日付けの拒絶理由通知書(乙2)を同月14日に発送した。本件発明は,出願前に日本国内又は外国において頒布された特開平11-303406号公報,特開平08-189201号公報及び乙1公報に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。また,2部材間の距離を調整する手段として,回転自在に支持されたレバー及び押圧手段からなるものは引用文献3(乙1公報)にも記載されている,と。
そして,乙1公報には,大リンクと小リンクによって構成される平行リンクとこの平行リンクを起伏させる送りネジ機構を有するジャッキ機構が開示されており,そのネジ機構の作用については,中実角材のねじ穴と角パイプ中央に設けられたきり穴を貫通する寸切りボルトの中実角材側の突出軸に溶着されたナットを操作して,送りねじ作用によって中実角材と角パイプとが互いに近づいたり遠のいたりし,大リンクを介して中実角材側の小リンクがリンクシャフトを軸にして回動して平行リンクが起伏し,上枠が下枠に対して昇降するとの記載がある(乙1)。
ウ そこで,共同特許出願人であるオカモト産業は,手続補正書を提出して本件公報記載のとおりに明細書を補正するとともに,意見書(乙3)を提出し,乙1公報に記載されたジャッキ機構は,ねじ機構によってリンクを起伏させるという作用において,本件発明の押圧手段(40)と共通しているが,本件発明は,調整ボルト(25)が可動レバー(41)と押圧レバー(42)との連結部を押圧する構成であり,調整ボルト(25)の端面で両レバー(41,42)の連結部を移動させるものであり,全く構成が異なる旨及び本件発明は引用文献1ないし引用文献3に開示された発明とは異質のものであり,また各引用発明の単なる寄せ集めではなく,各引用発明に基づいて容易に想到できるものとはいえない旨述べた(乙3)。
エ 本件発明は,平成15年9月19日に特許査定され,平成15年10月31日に登録された(甲1,2,乙4)。
(3) 上記(2)認定の出願経過によれば,共同特許出願人であるオカモト産業は,上記意見書において,本件発明の押圧手段(40)と乙1公報記載のジャッキ機構との差異の説明として,本件発明の押圧手段は調整ボルト(25)の端面で可動レバー(41)と押圧レバー(42)との連結部を押圧する構成であり,2部材間のねじ機構によってリンクを押し引きしてリンクの屈曲を変更することにより昇降するというジャッキ機構とは異なる構成である,と明確に述べたものである。そして,これに基づいて本件発明が特許として成立したことが認められる。上記意見書は,原告とオカモト産業との共通の特許出願代理人によって作成提出されており,これが原告の意に反して作成提出された等の特段の主張立証がない本件においては,出願経過禁反言の法理に照らし,原告が本件訴訟において上記意見書と異なる主張をすることが許されると解すべき根拠はない。したがって,本件発明の構成要件Cの「押圧レバー(42)が,調整ボルト(25)から入力される押圧力によって,前記他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧する」原理としては,少なくとも乙1公報記載のような2部材間のねじ機構によってリンクを押し引きしてリンクの屈曲を変更することにより昇降するというジャッキ機構を含まないものと解するのが相当である。
(4) 以上の認定判断に基づき,被告製品の構成を本件発明と対比する。
別紙物件目録のbC及びD並びにcによると,被告製品の「押上ナット(25)」は「押上ボルト(26)」と螺合しており,両者がねじ係合をして互いの距離を相対的に近づけることで可動レバー(41a)と押圧レバー(42a)との連結部(Q1)に設けられ連結軸(q1)が側面に突設されたセンターホールブロック(h1)に軸受(J)を介して押圧力を付与する作動装置として機能するものであり,その作用は可動レバーと押圧レバーとの連結部を押圧して可動レバーと押圧レバーとの屈曲を変更してエレクションピースの距離を調整するものであるから,被告製品における押上ナット(25)と可動レバー(41a)と押圧レバー(42a)の関係は,機能的には本件発明における調整ボルト(25)と可動レバー(41)と押圧レバー(42)の関係に相当する。
しかし,被告製品における押圧手段の構造は,2部材(押上ナットと押上ボルト)間のねじ機構により,2つの可動レバー(41a・41b)と2つの押圧レバー(42a・42b)から成るリンクの2つの連結部(Q1・Q2)を押し引きして,リンクの屈曲を変更することにより昇降するジャッキ機構に該当するものであると認められ,このようなジャッキ機構は,上記説示のとおり本件発明の構成要件Cに含まれないものというべきである。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Cを充足しない。
2 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないから,被告製品の製造及び貸与が本件特許権を侵害することを前提とする原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録製品名鉄骨柱調整冶具「鉄人」図面の説明図面1被告製品の正面図図面2図1の右側面図図面3図1の中央断面図図面4図1のW-X-Y-Z線断面図図面5被告製品の要部中央断面図構成a@鉛直に立設された一の鉄骨柱(60)の端部と,該端部に対向する他の鉄骨柱(80)の端部との周面にそれぞれ設けられたエレクションピース(90,90)を連結する連結体(1)にA前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を押し広げる屈曲自在の押圧手段(40)が設けられ,b該押圧手段(40)は,@前記連結体(1)に支点軸(P)にて回転自在に支持された一対の可動レバー(41a)及び可動レバー(41b)と,A該可動レバー(41a)(41b)の各先端部にそれぞれ連結され,且つ,連結体(1)の両側面に形成されたガイド長孔(G)に沿って前記鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)側にガイドされながら移動する一対の押圧レバー(42a)及び押圧レバー(42b)と,B前記可動レバー(41a)と押圧レバー(42a)との連結部(Q1)に設けられ,連結部(Q1)において前記可動レバー(41a)と押圧レバー(42a)とを回動可能に連結する連結軸(q1)が側面に突設され,かつ該連結軸(q1)に直交する挿入孔(t)を備えたセンターホールブロック(h1)と,C前記可動レバー(41b)と押圧レバー(42b)との連結部(Q2)に設けられ,連結部(Q2)において前記可動レバー(41b)と押圧レバー(42b)とを回動可能に連接する連結軸(q2)が側面に突設された頭部(h2)と,前記センターホールブロック(h1)の挿入孔(t)に挿入され先端側にネジ部が形成された軸部(26a)とを備えた押上ボルト(26)と,D該押上ボルト(26)のネジ部(26b)に螺合され,センターホールブロック(h1)の前記押上ボルト(26)の先端側に設けられた軸受(J)及びワッシャ(W)を介して,センターホールブロック(h1)に当接する押上ナット(25)と,E前記押圧レバー(42a)と押圧レバー(42b)を,連結部(Q3)において回動可能に連接する連結軸(q3)が側面に突設された押上ブロック(43)とを有し,F前記可動レバー(41a)(41b)及び押圧レバー(42a)(42b)は,前記押上ボルト(26)及びセンターホールブロック(h1)を挟んで対称の位置に二組設けられ,c該押上ナット(25)を回転させ押上ボルト(26)を螺合させることにより,押上ナット(25)がセンターホールブロック(h1)を介して連結部(Q1)を連結部(Q2)の方向に押圧するとともに,押上ボルト(26)に押上ナット(25)方向の力を発生させ,押上ボルト(26)頭部(h2)に支えられた連結部(Q2)を押上ナット(25)方向に引寄せて連結部(Q1)と連結部(Q2)を相互に近接させることにより,押上ブロック(43)を支点軸(P)から離間させ,前記他の鉄骨柱(80)のエレクションピース(90)を押圧すると共に,前記両鉄骨柱(60,80)のエレクションピース(90,90)間の距離を調整してなるdことを特徴とする鉄骨柱の傾き調整装置図1〜図5
裁判長裁判官 田中俊次
裁判官 松宏之
裁判官 西森みゆき