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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ネ1016特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ242不当利得金返還請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ240特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成13ネ1773特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  技術的思想 /  技術的範囲 /  援用権(援用) /  権利の濫用(権利濫用) /  存続期間 /  均等 /  置き換え /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 2647号 損害賠償請求控訴事件
控訴人(原告) 株式会社日本クリンエンジン研究所 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 敦賀彰一
同 川上正彦
被控訴人(被告) 株式会社エーゼット 右代表者代表取締役 【B】
被控訴人(被告) 【B】 右両名訴訟代理人弁護士 露口佳彦
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/03/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
原判決を取り消す。
被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して金一六五〇万円及びこれに対する平成一〇年九月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
事案の概要は、次に控訴人の当審主張を付加するほか、原判決三頁四行目から二二頁五行目までの「第二 事案の概要、第三 争点に関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
一 イ号物件は本件発明の技術的範囲に属する。
1 特許制度の趣旨は、産業政策上の見地から、自己の工業上の発明を特許出願の方法で公開することにより社会における工業技術の豊富化に寄与した発明者に対し、公開の対象として、第三者との間の利害の適正な調和を図りつつ、発明を一定期間独占的・排他的に実施する権利を付与して、これを保護しようとすることにあった(最判昭五五・一二・一八民集三四・七・九一七参照)。したがって、特許における構成要件の文言の解釈も、右見地に依拠して行われるべきであり、そうすると、発明者の利益と第三者のそれとの間の利害の適正な調和という見地から各構成要件を解釈する必要がある。
2 特許出願の際に、将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であって、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願の後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発明に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、
衡平の理念にもとる結果となる。特許法70条にいう技術的範囲に属するか否かを考える際、すべての場合に発明の特許請求の範囲の記載文言のみから、発明の技術的範囲が一律に決定されるべきでない。特許請求の範囲に記載されるのは発明の要旨であり、発明の内容そのものである。特許法70条は、発明の技術的範囲が特許請求の範囲の記載から認められる発明の内容を基準にして定められるものとしていて、発明の技術的範囲を特許請求の範囲の記載そのものに限定すべきものとしていない。ここで技術的範囲と規定されているところからも明らかなように、特許権に基づき差止め等を求め得る範囲は、特許請求の範囲の記載を基準とするある程度の柔軟性のあるものが予定されているというべきである。発明の技術的範囲に属するか否かの認定判断は、侵害とされるものとの対比における技術的範囲の外延の確定作業に帰する。特許請求の範囲に記載の発明に相当し、発明の技術的範囲に属する技術と一見して明らかに理解できるものは、たとえ特許請求の範囲の文言を字義解釈そのままに充足するものでなくても、すなわち、構成要件そのままのものとして充足するものでなくても、発明と均等のものと認めるべきである(同旨・大阪高判平八・三・二九判時一五八六・一一七参照)。
3 イ号物件中の乙部分は、断面積比率によって混合・計量するものでなく、
専ら目盛によって混合・計量しようとするものにすぎず、本件発明との対比上特筆すべき技術的思想を有していない。他方、利用者がイ号物件中の甲部分のみを利用して混合・計量し、乙部分を全く利用しなければ、三以上の組成成分を計量器等で計量する手数を省き、簡易な手法によって各成分を一定比率で混合することが可能であり、本件発明の本質的部分を完全に充足する。利用者は、イ号物件の構造上、
いかなる場合も甲部分を必ず使用するが、二・五リットル以上の混合液を一度に作る場合のみ乙部分を使用する。甲部分を超えて乙部分をも利用して混合計量する場合であっても、特に正確な比率の混合液を求めることに拘泥するのでなければ、乙部分の目盛を敢えて利用しなくても、概ね一定比率の計量混合液を作ることは可能となるし、多くの場合、甲部分を利用するだけでその使用目的を達してしまう。そして、二・五リットル以上の混合液を作る場合であっても、甲部分のみを複数回利用することによって、その目的を達することが可能となる。
4 本件発明の「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上如何なるレベルにおいても一定である」とする構成要件aについては、以上の問題点を視野に入れて解釈すべきであって、その字義にのみ拘泥すべきではない。本件発明の技術的思想は、第一室Aと第二室Bとの断面積比率の差によって、三以上の組成成分を計量器等で計量する手数を省き、簡易な手法によって各成分を一定比率で混合することを可能とすることにあった。そうすると、本件発明の場合、各構成要件の文言や明細書が前記で指摘した問題点を予想して定立されたものと解することは極めて不当であって、構成要件aの「如何なるレベルにおいても」とする文言は、目盛(数字)によって混合・計量することを意識した「目盛」という字句を用いずに、液面の位置・目測によって混合・計量することを意識した「如何なるレベル」という字句を用いたことからして、「専ら目盛に依存して混合・計量する領域」には妥当しないものと解すべきである。
したがって、構成要件aも、構成要件dの「定量比率」という部分も、イ号物件のうち、目盛で混合・計量することを全く想定していない甲部分の領域についてのみ当てはめるべきことであり、専ら目盛で混合・計量することを想定した乙部分の領域にあてはめるべきでなく、甲部分は右構成要件を完全に充足する。イ号物件中の乙部分のみの領域及び甲部分と乙部分とを付加した全体の部分は、本件発明と別個に評価すべき特段の価値を有していない。要するに、イ号物件の本質は、
本件発明の出願後に乙部分を付加することによって、本件発明による差止め等の権利行使を免れるという点にある。
不法行為権利濫用 1 被控訴人らは、本件発明とイ号物件との類似点と相違点について、その目的が同じであることを認識している一方、イ号物件が容器の筒なのに対し、本件発明が一体となっている層が二つあるとか、一個のポリ容器が二つの層に分かれているとかいう程度の認識しか有していなかった。イ号物件の初期形態の商品は、計量の表示が一部不正確で、甲八の一、二の図面に示されたものと相当異なっており、
イ号物件が本件発明の技術的範囲にあるか否かは、イ号物件の当初の形態の商品と本件発明との比較により明らかとなる。そして、イ号物件の当初の形態の商品は、
計量の表示に依存せずに溶液を混合すること、つまり、容器を水平に保つことによってのみ混合計量するものであり、本件発明と同一の形態のものであった。しかるに、原判決は、右の点を看過し、甲八の一、二の図面に示されたイ号物件の形態のみと本件発明とを比較したにすぎない。
2 イ号物件は、本件発明を摸倣して開発した商品であり、被控訴人藤は、イ号物件を販売するに当たり、本件発明にかかる商品が存在することを知っており、
それとイ号物件の当初の形態の商品の目的とが同一であること、両者がその市場において競合する商品であることを明確に認識した上、顧客からの依頼を受けて、本件発明による商品より廉価な商品を市場に出すことを企図していた。これを、要するに、「容器を通常の姿勢に置いた場合、相互の断面積比率が実質上、如何なるレベルにおいても一定である。」との本件発明の構成要件技術的思想との対比上、
全く技術的価値のない計量表示、それも不正確な表示をことさら付加するという姑息な手段を講ずることにより、右構成要件の充足を免れようとしたことが明らかである。
3 被控訴人らは、控訴人が本件発明を有し、これに基づく商品を販売していることを知り、かっ、そのような状況下でイ号物件による商品を市場に出せば、控訴人の本件発明に基づく商品の販売業務が打撃を受けることを知りながら、敢えて、技術的価値のない計量表示、それも不正確な表示を付加するという不当な手段を用いて、本件発明と極めて酷似した商品を市場に流通させたのであるから、当該行為は被控訴人らの不法行為を構成する。
したがって、被控訴人らにおいて、本件発明における「如何なるレベルにおいても」という構成要件援用することは権利の濫用として許されない。
三 損害 被控訴会社は、イ号物件の商品を平成九年度中(平成九年五月から翌一〇年三月まで)に一万個、平成一〇年度(平成一〇年四月から翌一一年三月まで)に二万個販売し、一個当たり三〇〇円の利益をあげたから、平成九年五月から本件発明の存続期間満了直前の平成一〇年一〇月までの販売個数は、平成九年五月から同一〇年三月まで一万個、平成一〇年四月から同年一〇月(七ケ月)まで一万一六六六個、合計二万一六六六個であり、これに一個当たりの利益金三〇〇円を乗ずると、六四九万九八〇〇円となる。すなわち、控訴人は、被控訴人会社のイ号物件の販売により、
少なくとも六四九万九八〇〇円の損害を被った(特許法102条2項参照)。
当裁判所の判断
一 当裁判所も、控訴人の本件請求を棄却すべきものと判断する。
その理由は、次に付加するほか、原判決「第四 当裁判所の判断 (原判決二二頁六行目から末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人の当審主張一について 1の主張自体はそのとおりであるが、そのための具体的解釈の方法としては、一般的に、特許請求の範囲の記載が発明の内包と外延を定めているから、これとイ号物件との異同を検討することとなる。
2の主張にいうところの特許請求の範囲に記載されたものは、発明の内包と外延を定めた発明の内容をなすから、発明そのものであって、その技術的範囲もこれに基づき定められる。構成が違うものは違う発明であり、そのようなものも、
均等の要件を満たす限り、発明の技術的範囲に含まれるというにすぎないのであって、控訴人の主張そのものとしては採用できない。
3の主張は、特許法上の侵害論についての通常の解釈に照らし、採用できない。
被控訴会社の製造販売行為が損害賠償責任を負担すべき違法有責行為か否かを判断するためには、イ号物件につき侵害の有無が判断されなければならないのであって、イ号物件とはいうまでもなく原判決添付別紙イ号図面で特定される製品全体であるから、イ号物件中の乙部分のみの領域及び甲部分と乙部分とを付加した全体の部分が本件発明と別個に評価すべき特段の価値を有していないとしても、右部分が当然に無色となるわけでなく、乙部分が存在することによる何らかの作用ないし作用効果があるのであって、右のようなものとしての乙部分を無視して技術的範囲への属否を判断して良いことにならず、右特段の価値を有していないとの理由により乙部分を無視してイ号物件が本件発明の技術的範囲に属すると評価することはできない。
そして、イ号物件の本質が本件発明の出願後に乙部分を付加することによって本件発明による差止め等の権利行使を免れるためになされたものにすぎないか否かを直接の立証命題として判断することはできず、構成要件の充足の有無、均等の成否でこれを判断するのであって、注入中の溶液が甲部分にある間には右構成要件を充足するかの如きであっても、乙部分にまで至れば甲、乙両部分を通じ全体として第一室Aの溶液と第二室Bの溶液との割合が第一室Aと第二室Bとの横断面積比率と同じでなく、横断面積比率が一定であるという本件発明の本質的部分である右構成要件を充足しない結果となり、均等も成立しないのであり、溶液が乙部分にまで至らず甲部分にのみある状況を想定した場合にも、乙部分の占める物理的割合からすると、同部分が単なる付加であると即断し得ないから、右構成要件を充足せず、均等も成立しないとの判断に変わりはない。
2 控訴人の当審主張二について イ号物件の当初の形態の商品が計量の表示に依存せずに溶液を混合すること、つまり、容器を水平に保つことによってのみ混合計量するものであって本件発明と同一の形態のものであったことを認めるに足りる的確な証拠はなく、控訴人の主張は採用できない。
二 よって、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、主文のとおり判決する。
裁判官 若林諒
裁判官 山田陽三
裁判長裁判官 鳥越健治