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関連審決 審判1991-24001
関連ワード 発明者 /  容易に実施 /  慣用技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  同一の発明 /  技術常識 /  先行技術 /  発明を特定する事項 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  遡及 /  パリ条約 /  優先権 /  共有 /  援用権(援用) /  優先日 /  実施 /  審理範囲 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  取消判決 /  判決の拘束力 /  国際出願 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 180号 審決取消請求事件
原告 ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシャープ代表者 【A】
訴訟代理人弁理士 川口義雄、伏見直哉、田中夏夫
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】、【D】、【E】、【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成3年審判第24001号事件について平成10年5月15日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 本件の手続の経緯 原告は、イギリス国においてした2つの特許出願(1980年6月20日に出願の英国特許出願第8020160号(本件第1優先出願)及び1980年7月16日に出願の英国特許出願第8023151号(本件第2優先出願)に基づく優先権を主張して昭和56年(1981年)6月22日に国際出願された昭和56年特許願第502035号の特許出願(原出願)の一部を特許法44条1項の規定により分割して、平成1年12月27日、名称を「イムノアッセイ法並びに該方法に用いる材料及び装置」(後に「イムノアッセイ方法及び該方法に用いる材料」と補正。
その後更に「イムノアッセイ方法」と補正)とする発明(本願発明)につき特許出願をしたが(平成1年特許願第339898号)、平成3年8月15日拒絶査定を受けたので、平成3年12月13日審判請求をし、平成3年審判第24001号事件として審理された。
同審判事件については、平成6年4月15日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(第1次審決)があったので、原告は、第1次審決の取消訴訟を提起し、東京高等裁判所平成6年(行ケ)第206号事件として審理され(第1次取消訴訟)、平成9年7月3日に上記審決を取り消す旨の判決(第1次取消判決)があり、同判決は確定した。
そこで上記審判事件につき更に審理された結果、平成10年5月15日、出訴期間として90日を附加された上、再度「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(本件審決)があり、その謄本は平成10年6月10日原告に送達された。
2 本願発明の要旨(平成5年7月12日付け手続補正書の特許請求の範囲第1項に記載の事項) 試験物質を含むであろう検定試料(a)、固体支持体上に固定された、試験物質に特異的な非標識結合相手(b)および試験物質に特異的な標識結合相手(c)のすべてを単一インキュベーションステップのために反応混合物中に含むイムノアッセイを実施する方法において、試験物質と試薬(b)および(c)との結合反応間の競合的干渉を、同一試験抗原に対してせまくかつ異なる非干渉特異性の2種のモノクローナル抗体を成分(b)および(c)に使用することにより回避することを特徴とする、前記方法。
3 本件審決の理由の要点 (1) 本願発明の要旨は前項のとおりである。
(2) 拒絶理由の概要 審判において平成9年11月11日付けで通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
「 本願発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された特願昭56-62340号(特開昭57-16355号公報参照。先願)の願書に最初に添付した明細書(先願明細書)に記載された発明と同一であって、しかも、本願発明の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一でもなく、また、本件出願時の出願人が本件出願前の出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。」 (3) 先願明細書の記載事項 先願は、1980年4月25日に出願されたスイス特許出願3209/80-2及び1980年8月4日に出願されたスイス特許出願5898/80-6を基礎とするパリ条約による優先権を主張して、昭和56年(1981年)4月24日に出願されたものである。(以下、スイス特許出願3209/80-2の出願明細書を「先願第1優先明細書」と、スイス特許出願5898/80-6のそれを「先願第2優先明細書」と表記) (a) 先願明細書における、先願第1優先明細書の記載事項との共通事項 先願明細書において、先願第1優先明細書の記載事項と共通するものには、本判決別紙第1「本件審決認定の先願明細書における先願第1優先明細書の記載事項との共通事項」として摘示した事項がある。そこで「先一優」と記した頁数は、先願第1優先明細書の頁数であり、「先」と記した頁数は先願明細書の頁数である。
先願第1優先明細書の日本語訳文は、第1次取消訴訟の甲第5号証邦訳文によった。
(b) 先願明細書における、先願第2優先明細書の記載事項との共通事項 先願第2優先明細書には、上記別紙第1における先願第1優先明細書の記載事項(3.1a)〜(3.1h)のすべてが記載されている。
先願第1優先明細書に記載のない事項であって、先願明細書の記載事項と先願第2優先明細書の記載事項と共通するものには、本判決別紙第2「本件審決認定の先願明細書における先願第2優先明細書の記載事項との共通事項」として摘示した事項がある。そこで「先二優」と記した頁数は、先願第1優先明細書の頁数であり、
「先」と記した頁数は先願明細書の頁数である。
先願第1優先明細書の日本語訳文は、第1次取消訴訟の甲第12号証邦訳文によった。
(4) 本願明細書の記載事項 本件出願は、2つの英国出願、すなわち本件第1優先出願及び本件第2優先出願を基礎として、優先権が主張されている。(以下、本件第1優先出願及び本件第2優先出願の明細書を、それぞれ「本願第1優先明細書」、「本願第2優先明細書」と、原出願の出願当初の明細書を「原出願当初明細書」と表記) (a) 本願第1優先明細書の記載事項 本願第1優先明細書には、本判決別紙第3「本件審決認定の本願第1優先明細書の記載事項」に摘示した事項が記載されている。そこで「本一優」と記した頁数は、本願第1優先明細書の頁数であり、「原当初」と記した頁数は原出願当初明細書の頁数である。
その日本語訳文は、審判の平成5年7月12日付け意見書に添付された参考資料2によった。
(b) 本願第2優先明細書の記載事項 本願第2優先明細書には、本判決別紙第4「本件審決認定の本願第2優先明細書の記載事項」に摘示した事項が記載されている。そこで「本二優」と記した頁数は、本願第2優先明細書の頁数である。
その日本語訳文は、平成9年10月3日の面接記録に添付された資料2に主によっている。
(c) 原出願当初明細書の記載事項 原出願当初明細書には、本願第1優先明細書の記載事項(4.1a)、(4.1c)〜(4.1h)が記載されている。原出願当初明細書の記載事項として言及するときはこれらをそれぞれ原出願当初明細書の記載事項(4.3a)、(4.3c)〜(4.3h)ということにする。
原出願当初明細書には、本願第2優先明細書の記載事項(4.2j)〜(4.2n)は、記載されていない。
原出願当初明細書には、本願第1優先明細書及び本願第2優先明細書に記載のない事項として、本判決別紙第5「本件審決認定の原出願当初明細書の記載事項」に摘示の事項が記載されている。そこで「原当初」と記した頁数は原出願当初明細書の頁数である。
(5) 第1次取消判決の判示事項 第1次取消判決の判示の主な点は、本判決別紙第6「本件審決認定の第1次取消判決の判示事項」に摘示したとおりである。
(6) 判決の拘束 第1次取消判決は、本件審判事件について特許庁を拘束する。
別紙第6の判示事項1より、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であると認定する。
そして、別紙第6の判示事項9より、先願明細書に記載された発明の優先日は、1980年8月4日と認定する。
先願明細書に記載された発明の優先日の認定は、別紙第6の判示事項5に摘示した次の観点から検討された結果である。
【判決の観点】「 2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるためには、前記(a)、(b)の技術常識等に基づき、『2つの異なるモノクローナル抗体』の利用可能性を検証する必要があることは明らかであり、この検証が行われていない限りにおいては、上記2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに使用できる抗体ということはできない。」(「(a)、(b)の技術常識」については、別紙第6の判示事項3及び判示事項4参照) (7) 本願発明の優先日についての本件審決の検討 (a) 優先日検討の観点 先願明細書に記載の発明の優先日はこの【判決の観点】から認定されたのであるから、本件審判事件においては、本願発明の優先日についても、この観点から検討した上でこれを認定するのが妥当である。
本願発明の優先日について、この観点から以下検討する。
(b) 原出願当初明細書の例3 原出願当初明細書の例3(別紙第5の(4.3q)参照)は、試験物質(a)として、K型免疫グロブリンGを使用し、固体支持体上に固定された、試験物質に特異的な非標識結合相手(b)として、マウスモノクローン抗-(ヒトK-鎖)抗体、試験物質に特異的な標識結合相手(c)として、マウスモノクローン抗-(ヒトγ-鎖)抗体を、例1の一般手順で使用する。「例1の一般手順」とは、(4.1h)(別紙第3参照)の「操作順序」を指し、この「操作順序」の工程5で単一インキュベーションステップを行っている。
そうすると、原出願当初明細書の例3(別紙第5の (4.3q)参照)では、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに使用したものであり、本願発明の実施例に該当する。
なお、この例3が、前記【判決の観点】で検討した場合、前記(a)、(b)の技術常識等に基づいた『2つの異なるモノクローナル抗体』をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるための利用可能性が検証されたものといえるか否か、問題が残るといえるが、この例3は、本願第1優先明細書にも、本願第2優先明細書にも記載されていないので、この問題は、優先日の認定の問題と関係がない。
(c) 原出願当初明細書の例2 原出願当初明細書の例2(別紙第5の(4.3p)参照)は、「大豆タンパク質に対する抗体の検定に向けられた酵素結合した抗グロブリン試験」であり、被験抗原を固体表面結合第1抗体及び標識第2抗体を使用して測定する、いわゆる「サンドイッチ」試験形態のものでなく、また、2つの異なるモノクローナル抗体を使用するものでもない。
したがって、この例2では、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるための利用可能性の検証が行われているということはできない。
また、この例2は、本願第1優先明細書にも、本願第2優先明細書にも、記載されていない。
(d) 原出願当初明細書の例1 原出願当初明細書の例1(別紙第3の(4.1h)参照)は、「大豆タンパク質に対する抗体の検定に向けられた酵素結合した抗グロブリン試験」であり、被験抗原を固体表面結合第1抗体及び標識第2抗体を使用して測定する、いわゆる「サンドイッチ」試験形態のものでなく、また、2つの異なるモノクローナル抗体を使用するものでもない。
したがって、この例1では、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるための利用可能性の検証が行われているということはできない。
また、この例1は、本願第1優先明細書にも記載されているが、本願第2優先明細書には記載されていない。
(e) 本願第2優先明細書の記載の定量方法 本願第2優先明細書記載の発明は、蛋白質と反応して不溶性免疫複合体を生成する、モノクローナル抗体を使用する方法に関するものである(別紙第4の(4.2j)参照)。
本願第2優先明細書のサンプル中の特定蛋白質の定量方法は、2つのモノクローナル抗体の組合せをサンプルと反応させることからなる。これらのモノクローナル抗体は、それぞれ検定中の蛋白質分子の2つの別個の抗原性部位(抗原決定基)に対して特異的である。得られた不溶性の抗原-抗体複合体から、もとの抗原濃度の量を測定する。
この定量方法においては、モノクローナル抗体は固体支持体上に固定される必要はなく、また、標識に結合される必要もない。また、この定量方法は、凝集法と呼ばれるものであって、凝集法はもともとポリクローナル抗体で行われていたものであって、抗体の競合的干渉を回避する必要性もないものである。
(f) 本願第2優先明細書の定量方法の実施例 本願第2優先明細書の定量方法の実施例において、「抗体」は、免疫源としてのポリクローナルヒトIgGを用いて誘導し、ヒトIgGで感作した羊赤血球の凝集能があるか否かに基づいて選択されたものである。しかしながら、この抗体がどのような動物種に由来のものか明記していない。
この実施例において使用する抗体として、T〜Wの4つのモノクローナル抗体を挙げていて、モノクローナル抗体Tは、κL鎖に特異的であり、モノクローナル抗体U〜Wは、Fcに特異的であることが示されている。
2つのモノクローナル抗体T、Uの組合せ、及び、2つのモノクローナル抗体U、Vの組合せを使用して濁度変化が実測されていることが、第1図に示されている。これらのモノクローナル抗体の組合せによるものは、ポリクローナル抗体試薬を用いた時に通常得られるものと同程度の濁度変化であることが記載されている。
これらのことから、この実施例は、2つの異なるモノクローナル抗体を使用するものといえるが、この実施例は、いわゆる凝集法とよばれる方法であり、サンドイッチイムノアッセイではない。この凝集法においては、モノクローナル抗体は固体支持体上に固定されるものではなく、また、標識に結合されるものでもない。
凝集法は、もともとポリクローナル抗体で行われていたものであって、抗体の競合的干渉を回避する必要性もないものである。
したがって、この実施例の凝集法では、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるための利用可能性の検証が行われているということはできない。
(g) 本願第1優先明細書、本願第2優先明細書及び原出願当初明細書のその他の記載 前記(a)〜(f)で検討した明細書記載事項以外で、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるための利用可能性の検証が行われているということのできる記載事項は、表記の明細書中には存在しない。
(h) 本願発明の優先権主張日 そうすると、2種の異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに使用するという技術思想が本願第1優先明細書及び本願第2優先明細書に記載されていると認めることはできないから、本願発明は、パリ条約による優先権の利益を享受することができない。
そして、本願発明の実施例に該当するものが原出願当初明細書の例3に記載されているから、本件出願日は、原出願の国際出願日である昭和56年(1981年)6月22日に遡及する。
(8) 本件審決のまとめ 以上のとおり、本願発明と先願明細書に記載の発明とは同一であり、先願明細書記載の発明の優先日は、1980年8月4日である。そして、本件出願日は、パリ条約による優先権の利益を享受することができず、1981年6月22日である。
したがって、本願発明は特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
本件審決には、第1次取消判決の拘束力の範囲の判断の誤りがあり、また本願発明の優先日の認定に誤りがある。本件審決は、これに基づいて本件審判請求を成り立たないものとしたものであり、取り消されるべきである。
1 第1次取消判決の拘束力の範囲の解釈の誤り (1) 第1次審決は、1980年6月20日及び1980年7月16日の優先権を主張する本願発明は、1980年4月25日及び1980年8月4日の優先権を主張する先願明細書に記載された発明と同一であって、しかも本願発明の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一でもなく、また本件出願時の出願人がその出願前の出願に係る先願の出願人と同一でもないので、特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとしたが、第1次取消判決は、先願の1980年4月25日の優先日の基礎となった先願第1優先明細書には2種の異なるモノクローナル抗体を使用する発明が記載されていないとして、審決を取り消した。
このように、第1次取消判決において先願の優先権の効力の是非が検討されたのは、本件出願の優先権の存在を前提としたからであって、本願発明の優先権主張が認められないのであれば、先願の優先権の効力を否定する必要性はないから、第1次取消判決は、本願発明の優先権主張の有効性を是認した上でされたものである。
これに対し、本件審決は、第1次取消判決の理由中の認定判断に従って先願の1980年4月25日の優先権主張の有効性を認めなかったものの、同時に本願発明の1980年6月20日及び1980年7月16日の2つの優先権主張をも否定している。これは、既に確定した第1次取消判決の拘束力が及ぶ範囲内の認定判断と相容れない認定判断をしたというべきであり、行政事件訴訟法33条1項に反する。
(2) そもそも、第1次取消判決は、判示事項5を【判決の観点】として先願の優先日を認定したのではない。
判示事項5は、被告の「先願第1優先明細書の実施例1及び実施例2から、『水不溶性担体結合抗体』と『酵素標識抗体』とは、どちらの抗体もモノクローナル抗体であることが実施例によって具体的に明示されている」という主張の是非を判断するため、裁判所によって審理された判断基準の1つにすぎず、第1次取消判決は、この判示事項5に基づき直接先願の優先日を認定したのではない。
このことは、判示事項5に続く判示事項6において、第1次取消判決が、「上記の観点から、先願第1優先明細書の実施例の記載を検討すると、実施例1及び実施例2の記載から、先願第1優先明細書には、2つのモノクローナル抗体を使用するワンポット法サンドイッチイムノアッセイが記載されているに等しいと認めることはできない。」としていることからも明らかである。
第1次取消判決は、例えば上記の実施例1と実施例2の記載からの検討のように、その理由中に言及されている2(2)〜2(6)のおのおのを審理し、それらを総合して先願の優先日を認定したものである。したがって、本件審決がいうような【判決の観点】というものをあえて指摘するとするならば、それは理由の2(2)〜2(6)の全体である。
2 本願発明の優先日の認定の誤り 以下のとおり、審決は、「2種の異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに使用するという技術思想が本願第1優先明細書及び本願第2優先明細書に記載されていると認めることはできないから、本願発明は、パリ条約による優先権の利益を享受することができない。」と判断したが、誤りである。審決はこの誤りに基づいて本件審判請求を成り立たないものとしたものであって、取り消されるべきである。
(1) 本願第1優先明細書の開示内容 本願第1優先明細書に記載されている事項を検討すると、いわゆるワンポット法サンドイッチイムノアッセイを示していることが明らかでる。
本件審決が認定する本願第1優先明細書の記載事項(4.1e)中、特に、「本発明の特に好適な具体例によると、抗体と酵素または他のマ-カ-との抱合体および(または)(もしあるとすれば)固体表面に結合された抗体は、モノクローナル抗体からなる」という記載にいう固体表面に結合された抗体は、本願発明の抗体(b)に、酵素又は他のマ-カ-との抱合体となっている抗体は本願発明の抗体(c)にそれぞれ相当するのであり、本願第1優先明細書はそのいずれもが「モノクローナル抗体」であり得ること、すなわち「2種の異なるモノクローナル抗体」の使用を明らかに記載している。
本願第1優先明細書には、本件審決が摘示する以外に、本判決別紙第7「原告主張の本願第1優先明細書の記載事項」に記載のとおり、(4.1s)、(4.1t)、(4.1u)の記載事項もある。(4.1s)の記載事項は、特に、その「それから試薬を、例えば患者の血清からなる試験試料適量をくぼみの中に分給し、続いてくぼみの中に排除体を挿入することにより実行する。このようにして、試料と抱合体が殆ど同時に加えられることにより時間のかかる操作手順を減らすことができる。」との記載から明らかなように、ワンポット法サンドイッチイムノアッセイを記載しているのである。
加えて、(4.1t)の記載事項、特に、その「この結合順序を単一段階で完了させることが可能である」という記載、更に、(4.1u)の記載事項、特に、その「工程3および4は省略できる」という記載も同様に、ワンポット法サンドイッチイムノアッセイを記載している。
このように、本願第1優先明細書は、「2種の異なるモノクローナル抗体の使用」及び「ワンポット法サンドイッチイムノアッセイ」を記載しているのであり、
本願発明と同一の発明が記載されているというべきである。
(2) 本願第2優先明細書の記載 本願第2優先明細書には、その実施例において具体的に、2種の異なるモノクローナル抗体(例えばIとII、あるいはIIとIII)を同時に1つの抗原に反応させ、生じた濁度変化Dを260nm波長の光を用いて測定し、この濁度変化の測定値を標準曲線に照らし合わせてもとの免疫成分(抗原)を定量する、凝集(沈降)反応利用検出および定量アッセイが記載されている。
この実施例から、2種の異なるモノクローナル抗体を1つの抗原に同時に反応させても、当該2種の異なるモノクローナル抗体は相互の干渉によってもまた抗原の存在下でも各々の特異活性を失っておらず、抗原との親和力も失われていないことが容易に理解される。これは、第1次取消判決にいう「2つの異なるモノクローナル抗体」の利用可能性の検証に相当する。
(3) 被告の発明の未完成の主張に対して (3)-1 被告は、本願第1優先明細書記載の発明は未完成であるとし、同明細書は開示が不十分であると主張するが、この観点は、本件審決が判断したところとは別個独立のものであって、本件出願を拒絶する新たな主張であって、本訴の審理範囲を逸脱する。
(3)-2 被告は、【G】ら編「酵素免疫測定法」1978年発行(乙第5号証)に基づく主張をする。
しかしながら、同書は、その発行日前までに研究し尽くされた酵素免疫測定法(EIA)を集大成した概論書であり、その発行日当時既に確立された技術常識を記載しているのであって、本願発明も、かかる技術常識を踏まえた上でされたものである。すなわち、本願第1優先明細書には、被告が指摘するようなモノクローナル抗体と酵素の結合手段、抗原と標識化モノクローナル抗体の親和性等々を一つ一つ明記してはいないものの、本願発明はこれら事項を確認、検証し、その上でこの技術常識を超える新規な技術事項として、2つの異なるモノクローナル抗体を使用し、しかもワンポット法にて行うサンドイッチイムノアッセイという方法を提供したのである。明細書には少なくとも新規な発明を特定する事項を記載することが求められこそすれ、既に確立された慣用技術ともいえるような技術常識に関する事項まで、
こと細かに説明することまでは要求されていない。
同書が当時の技術常識を記載したものにすぎないものであって、明細書にモノクローナル抗体と酵素の結合手段、抗原と標識化モノクローナル抗体の親和性等々の技術事項を一つ一つ記載する必要がないことは、先願第2優先明細書を見ても明らかである。
先願第2優先明細書は、その実施例3において、2つの異なるモノクローナル抗体を使用したワンポット法サンドイッチイムノアッセイを記載しているが、そこには、被告が主張するようなモノクローナル抗体と酵素の結合手段、抗原と標識化モノクローナル抗体の親和性等々は記載されていない。そこには、酵素標識モノクローナル抗体として「マウス-抗-CEAモノクローナル抗体-パーオキシダーゼ・コンジュゲート」と、及び固相結合モノクローナル抗体として「マウス-抗-CEAモノクローナル抗体で感作したポリスチレン球」と記載されているだけである。このように、先願第2優先明細書においても、乙第5号証の記載内容を確立された技術常識とし、その上に立脚して発明を説明しているのであって、技術常識としてのモノクローナル抗体と酵素の結合手段、抗原と標識化モノクローナル抗体の親和性等々を記載していないのである。
したがって、モノクローナル抗体と酵素の結合手段、抗原と標識化モノクローナル抗体の親和性等々に関する記載がないことをもって、直ちに「この様な検証行われていない」とか、「分析対象となる抗原、モノクローナル抗体、標識酵素、各種反応条件の組み合わせが決定できない」と断じるのは早計である。
(3)-3 【H】教授はその供述書(甲第8号証)で、同教授が認識している本願第1優先明細書に記載されている発明は、従来単一インキュベーションにてサンドイッチイムノアッセイを行おうとすると、抗体間の重大な干渉が生起していたので、先行技術は単一インキュベーションを避けていたが、本発明は、この干渉という問題を「せまくかつ異なる非干渉的な特異性の2つのモノクローナル抗体の使用」という手段によって解決したとしている。また、【H】教授は、本願第2優先明細書において、そのような「せまくかつ異なる非干渉的な特異性の2つのモノクローナル抗体」が具体的に記載されていることも併せて指摘している(同供述書25項)。
つまり、【H】教授は、本願発明の「せまくかつ異なる非干渉的な特異性の2つのモノクローナル抗体の使用」という中核的特徴事項が明確にかつ具体性をもって記載されていれば、本願発明の実施は可能であり、被告が主張するようなモノクローナル抗体と酵素の結合手段、抗原と標識化モノクローナル抗体の親和性等々は既に確立された慣用の技術であって、これらに関する記載がなければ当業者が実施できないというようなことはない、との意見を表明しているのである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 拘束力に関する主張に対して (1) 本件出願が、先願の存在にもかかわらず特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとされない要件は、
(甲-1)まず、先願第1優先明細書に当該発明が記載されていないこと、かつ (乙-1)本件出願の優先明細書のいずれかに当該発明が記載されていること、
の2つの条件を満足することである。
条件(甲-1)を先願が満足する場合には、本件出願が条件(乙-1)を満足すると否とにかかわらず、本件出願は先願の存在によって、特許を受けることができない状況にある。第1次審決においては、先願第1優先明細書に本件出願の当該発明が記載されているとの認定に基づき、すなわち条件(甲-1)を満たしていないので、条件(乙-1)を満足するか否かに関係ないとし、先願の存在により、本件出願は特許法29条の2の規定の適用を受けないとすることはできず、同条の規定により原告の拒絶査定不服の審判請求は成り立たないと判断したものである。
しかしながら、第1次取消判決において、先願の当該発明につき、先願第1優先明細書に記載されているものとはできないから、当該発明の優先日は1980年4月25日ではなく、同年8月4日である、すなわち条件(甲-1)を満たす旨判示され、第1次審決は取り消された。その結果、当該発明が本件出願の優先明細書のいずれかに記載されていること、すなわち条件(乙-1)を満足しているか否かによって、本件出願が特許法29条の2の規定により特許を受けることができないとされないかどうかが決まることになった。
そこで、本件審決は、第1次取消判決を前提として、条件(乙-1)、すなわち当該発明が本件出願の優先明細書のいずれかに記載されているか否か判断した結果、本件出願の出願日は、パリ条約による優先権の利益を享受することができず、
原出願の国際出願日である1981年6月22日と認定したものである。
(2) なお、第1次取消判決では、「先願第1優先明細書には、酵素標識抗体と水不溶性担体結合抗体とのそれぞれについてモノクロナール抗体を使用した実施例が記載されていることについては、当事者間に争いがない。」としており、判示事項5が裁判所によって審理された判断基準の1つにすぎないとする原告の主張は、妥当ではない。
第1次取消判決の判示事項6の「上記の観点から、先願第1優先明細書の実施例の記載を検討すると、」とあるうちの「上記の観点」とは、判示事項5における観点のことである。第1次取消判決は、この観点から検討した結果、判示事項7の認定に至っており、このことにより先願の優先日を認定している。
原告主張の本願第1優先明細書の記載事項(4.1s)、(4.1t)及び(4.1u)の記載を検討しても、判示事項5における「2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるための利用可能性の検証」が行われているということはできない。
2 本願発明の優先日に関する主張に対して (1) 本願第1優先明細書の開示内容の主張に対して (1)-1 本願第1優先明細書の(4.1e)には「本発明の特に好適な具体例によると、抗体と酵素または他のマーカーとの抱合体及び(又は)(もしあるとすれば)固体表面に結合された抗体は、モノクローナル抗体からなるか、または被検試料中に存在する試験物質がどのような量であっても、望む検定反応(群)が反応における抱合体と免疫吸着剤との間の競合により妨害されないことを保証する程十分に狭い特異性の他の抗体からなる。」との本願発明の試薬(b)及び(c)として使用するモノクローナル抗体に必要な性質、すなわち望む検定反応(群)が反応における抱合体と免疫吸着剤との間の競合により妨害されないことを保証するほど十分に狭い特異性を持つものでなければならないことを記載している記載(5頁19〜27行、
訳文9頁4〜12行)に続き、「十分に狭い特異性のモノクローナル抗体は、例えば単一の抗体産生前駆細胞(群)から誘導された抗体として産生することが出来る。」(5頁28〜31行、訳文9頁12〜15行)と、一般的なモノクローナル抗体産生方法が概略的に記載されているだけである。
(1)-2 また、原告主張の本願第1優先明細書の(4.1s)の記載は、特に「・・排除体は、・・抱合体で被覆できる。適量の抱合体を、なるべくは(例えばショ糖の上塗りとして排除体の先端で乾かして抱合体分子の凝集を防止し、且つ抱合体の緩徐な可溶化を保証することにより、免疫吸着剤が検出すべき物質と反応する機会を得る前に抱合体によって免疫吸着剤が飽和されるのを避ける。」との記載から明らかなように、緩徐放出形の試薬(c)の使用によって反応成分(a)、(b)及び(c)のすべてを単一反応液中で反応に対して単一段階で混合し、試験物質と試薬(b)及び(c)との結合反応間の競合干渉を回避する方法に対応する記載であって、本願発明の試薬(b)、(c)をせまくかつ異なる非干渉特異性の2種のモノクローナル抗体の使用により干渉を避ける方法に対応する記載ではない。
(1)-3 (4.1t)の記載は、単に本願発明の解決手段についての必要な注意事項についての記載であって、課題の解決のため使用できる試薬としていかなるモノクローナル抗体が使用できるか具体的解決手段について記載するものではないし、(4.1u)の記載も,緩徐放出形の試薬(c)の使用により回避する方法に対応する記載にすぎない。
(1)-4 本願第1優先明細書のその他の箇所をみても、ワンポット法サンドイッチイムノアッセイに関連した記載は特に存在しない。
(2) 本願第2明細書の記載の主張に対して 本願第2優先明細書に記載されたイムノアッセイは、サンドイッチ法のイムノアッセイとは異なる、抗体試薬が標識に結合される必要もない凝集法に関するものであって、本願第2優先明細書には、本願発明のワンポット法サンドイッチイムノアッセイについて開示する記載はない。2種のモノクローナル抗体を使用しているその具体例も、当然2種のモノクローナル抗体が不溶性の抗原-抗体複合体の形成に使用される濁度変化により抗原濃度が定量できる凝集法の具体例にすぎない。
したがって、試薬(b)及び(c)としてモノクローナル抗体を使用するワンポット法のサンドイッチイムノアッセイについての本件出願は、本願第2優先明細書の記載に基づいて優先権の主張を享受し得ない。
(3) 本願第1優先明細書記載の発明の未完成 以下のとおり、本願第1優先明細書に記載の発明は未完成であり、発明の開示が不十分である。
(3)-1 【G】ら編「酵素免疫測定法」1978年発行(乙第5号証)26〜27頁には、酵素を被検体であるハプテンと共有結合させると、結合後の酵素の酵素活性は変化するが、その変化の程度は、結合の態様により大きく異なること、したがって、酵素をハプテンの標識として用いる場合には、酵素とハプテン(抗原)との結合態様、及び、酵素に係るpH活性曲線、熱安定性、Km(ミハエリス定数)等の基本的性質を知り、それに基づき、正しい酵素活性測定条件を見いだしておく必要があることが記載されている。これらのことは高感度、高精度のEIA(酵素免疫測定)を実施する観点からすれば、抗原(被検体)が、低分子物質であるハプテンに限らず、高分子量タンパク質の場合についても同様に当てはまることである。そして、EIA(酵素免疫測定)において、抗原と同様に測定対象とされる抗体も、高分子タンパク質であるから、抗体を酵素で標識化する場合においても、酵素と抗体の結合態様、及び、酵素に係る基本的性質を知り、それに基づき、正しい酵素活性測定条件を見いだしておく必要があると考えられる。
また、同書63〜64頁には、標識抗原と抗体との特異的反応においては、反応物の安定性の観点から、抗原決定群と抗体結合群とが近接し、立体幾何学的に適合することが極めて重要なことであり、抗体又は抗原を、酵素により標識した場合においては、酵素が、抗原-抗体反応に関与する(抗体上又は抗原上の)反応基に対し、化学的又は立体的に影響を及ぼし、当該反応における親和力ないし特異性を低下せしめる可能性があるから、酵素で抗体を標識化した後においても、所期の親和力と特異性を維持しているかどうかを検定する必要があることが記載されている。
そうすると、本件第1優先権主張日当時において、高感度、高精度のEIA(酵素免疫測定)を行う場合に、
@ 抗体を標識化した酵素の酵素活性を正しく測定する測定条件を確認し、
A 酵素で標識化した抗体と抗原との抗体抗原反応における親和力及び特異性を検定する という必要があったものであり、それらの確認、検定を不要とするとの技術常識は存在しなかったといえる。
さらに、同書27〜28頁によれば、本件第1優先権主張日当時において、EIA(酵素免疫測定)に特有な注意として、インキュベーンョン溶液中に抗原、抗体及び抗体に結合した酵素(いずれも巨大分子量タンパク質)が同時に存在する場合には、それらが相互に影響し合い、標識酵素の酵素活性が変動することがあるから、所定のイムノアッセイ条件下で、あらかじめ標識酵素の酵素活性を検定する必要があることは技術常識であつたということができる。
(3)-2 このような技術常識に照らせば、2つの異なるモノクローナル抗体を用いて実際に標識酵素を使用するワンポット法イムノアッセイを実施するためには、
標識する酵素、モノクローナル抗体と酵素の結合手段、抗原と標識化モノクローナルの親和性、標識化モノクローナル抗体と他方のモノクローナル抗体の同一抗原に対する競合反応の有無、イムノアッセイ条件下での酵素活性の検定、要求する分析精度が得られる反応条件の設定など各種の確認ないし選択作業を経て、ようやく分析対象になり得る抗原と、モノクローナル抗体、標識酵素、各種反応条件の組合せが決定できるのである。
このような検証が行われていない限りにおいては、単に2つの異なるモノクローナル抗体が入手し得たところで、これが直ちに標識酵素を使用するワンポツト法サンドイッチイムノアッセイに使用できる抗体ということはできない。
(3)-3 そして、本願発明は、標識として酵素を使用する方法を包含していることは、特許請求の範囲第3項、本願公開公報4頁左下欄12〜13行、8頁左上欄10〜15行などの記載から明らかである。
(3)-4 かかる観点から、本願第1優先明細書の記載を検討すると、本願発明で必要なモノクローナル抗体は、単に所定抗原との結合性があればよいというだけのものでなく、ワンポット法サンドイッチイムノアッセイにおいて非標識試薬(b)及び標識試薬(c)として使用した場合に、試験物質と試薬(b)及び(c)との結合反応間の競合的干渉を回避することのできる、「同一試験抗原に対してせまくかつ異なる非干渉特異性」の2種のモノクローナル抗体でなければならないのであるが、本願第1優先明細書には、これらについての記載はなく、当業者がこれを容易に実施しうる程度の具体的開示も全く見当たらない。
(3)-5 以上のとおり、本願第1優先明細書には、2つのモノクローナル抗体を使用するワンポット法サンドイッチイムノアッセイが記載されているとは到底いえない。審決で、本出願につき本願第1優先明細書に基づく優先権を認めないとしたのは、この趣旨による。
(3)-6 【H】教授が供述書(甲第8号証)において、本願発明に必要な1対の非干渉性モノクローナル抗体の選択についても新たな発明の必要がない旨述べているところ(16項、17項)の根拠は、本件優先権主張日前の頒布刊行物記載の論文(Proceedings of THE National Academy of Sciences OF THE UNITED STATES OF AMERICA)第77巻第1号563頁ないし566頁(1980年1月。乙第6号証)であるが、該論文に記載された抗原決定基の違う2つのモノクローナル抗体は、本願発明における「ワンポット法サンドイッチイムノアッセイ」に必要な「同一試験抗原に対してせまくかつ異なる非干渉特異性」を持つ2種の異なるモノクローナル抗体ではない。ここに記載された2つのモノクローナル抗体の抗原決定基の違いを知るための阻止反応方法は、固相に吸着したCEA(抗原)に対して2つのモノクローナル抗体を時間をおいて添加して競合させ、一方の抗体が他方の抗体の抗原との反応を阻止するかどうかで確認したものである。その2つの抗体の一方を他方に遅れて抗原と時間差を置いて反応させる手法は、試験抗原物質と試薬(b)及び(c)との結合反応間の競合的干渉を回避するための本願発明とは別異タイプの、緩徐放出形の試薬(c)を使用する「ワンポット法サンドイッチイムノアッセイ」と共通するものである。
この論文においては、一方のモノクローナル抗体に酵素標識をした場合の両者の抗原に対する結合反応の非干渉特異性の狭さの程度についても検討されているわけでもなく、結局、その2つの抗CEAモノクローナル抗体が、本願発明の「同一試験抗原に対してせまくかつ異なる非干渉特異性」の2種のモノクローナル抗体として、試薬(b)及び(c)として「ワンポット法サンドイッチイムノアッセイ」に使用できるかどうかは、実際に使用して確認、検証してみなければ分からないものでしかない。
(3)-7 単に2種の異なるモノクローナル抗体を入手すれば、標識が抗体の特異性、特に両者の間の非干渉特異性に及ぼす影響や測定条件への影響など種々のアッセイに考慮すべき事項を検証せずに、直ちに本願発明に使用可能な1対のモノクローナル抗体を選択できるとの技術常識が、本件第1優先権主張日当時、存在していたものとは考えられず、乙第6号証記載の2つの抗原決定基の異なるモノクローナル抗体が本件第1優先権主張日の前に知られていたからといって、本願発明に必要な1対の「同一試験抗原に対してせまくかつ異なる非干渉特異性」のモノクローナル抗体の選択についても、本件第1優先権主張日前に確立されていた技術であるとするのは妥当ではない。
当裁判所の判断
1 本願発明の具体化 (1) 甲第2号証の1ないし3によれば、本願明細書の発明の詳細な説明に以下の記載のあることが認められる。
「次のものから本質的になる市販試験キットが入手できる: (a)場合に応じて抗体または抗原で被覆された管または予かじめ形づくられたくぼみの列からなるプレート。
(b)試験試料中に存在するかもしれない検出すべき物質に対する適切な抗体に結合した酵素(いわゆるコンジュゲート)。
(c)酵素活性の測定のための基質。
抗原または抗体の検定を行なうための一つの標準法は下記のものを含む: (1)試験試料に対し使用希釈を決定する、
(2)くぼみを感作するために用いた抗体または抗原の過剰分を除去する、
(3)くぼみを洗浄する、
(4)ある割合の適当に希釈した試験試料を導入する、
(5)約2時間インキュベートして試験試料中の検出すべき物質を感作物質に結合させる、
(6)くぼみを洗浄して未反応物質を除去する、
(7)適当に希釈したコンジュゲートを導入する(約2時間インキュベーションする)、
(8)くぼみを洗浄して未反応物質を除去する、
(9)基質の溶液を加える、
(10)基質と酵素との反応の結果として適当な強度の色が現われるまでインキュベーションする、
(11)反応を、例えば強アルカリで止める、
(12)反応した基質溶液の光学密度を測定する。
この手順は幾つかの抗体/抗原反応の各々が反応平衡まで数時間を要するので時間消費でもある。実際上はより短いインキュベーション時間が用いられるが、感度および(または)経済性を犠牲にしてはじめてなしうることである。
本研究の結果によれば、より少ない検定段階の使用に対する障害は成分の二つの間の防害反応から生ずる望む固定複合体の形成による望まない干渉であると考えられる。選ばれたせまい特異性の、あるいは緩徐放出形の特異的結合材の使用によりこのような干渉を回避でき、そしてより少ない処理段階を用いて高感度の検定を行なうことができる。
本発明によると、試験物質を多分含有する検定下におかれた試料(a)を固体支持体上に固定された試験物質に対する特異的結合相手(b)とまた検出可能なマーカーに抱合された試験物質に対し特異的な結合相手(c)と反応させることにより、存在する試験物質の量と試薬(b)および(c)との間の反応によりマーカーが試験物質を介して支持体に固定された複合体を形成させ、そしてマーカーが試料(a)中に存在する試験物質の何れかの量の指数として検出または検定される特異的な結合検定(例えば、イムノアッセイ)を実施する方法が提供されるが、その特徴とするところは反応成分(a)、(b)および(c)すべてを単一反応液中で反応に対し単一段階で混合し、試験物質と試薬(b)および(c)との結合反応間の競合干渉をせまい特異性の抗体、例えばモノクローン抗体の使用により干渉を避けるか、あるいは緩徐放出形の試薬(c)の使用により回避することにある。」(公開特許公報3頁左下欄11行ないし4頁左下欄1行及び平成3年5月13日付け手続補正書の「補正の内容」の(3)) (2) この記載によれば、発明の詳細な説明に、本願発明の概要として、次の記載があるものと理解することができる。
標準法では、検定に要する時間が長く、また、これを短くするためにはインキュベーション(標準法における(5)及び(7)の工程、参照)の時間を短くすればよいが、これでは十分にインキュベーションができず、検定精度の点で望ましいものではなかった。
そして、この問題を解決するためには、
「試験物質を多分含有する検定下におかれた試料(a)」(標準法における「試験試料」に対応)、
「試験物質に対する特異的結合相手(b)」(標準法における「くぼみを感作するために用いた抗体または抗原」に対応)、及び、
「試験物質に対する特異的結合相手であってマーカー(酵素に代表されるもの)に抱合されたもの(c)」(標準法における「コンジュゲート」に対応) のすべてを同時に混在させ単一反応液中で反応させれば検定に要する時間を短くすることができる(標準法における(5)ないし(7)の工程を、一工程とすることができる)が、このように反応させると、上記(b)と(c)とが互いにそれぞれの試験物質への結合に干渉し合うことがあり、試料(a)中の試験物質の量(数)に対応して形成されるべき、上記(a)、(b)及び(c)が結合したものが、その量(数)に対応して形成されないこととなり、その結果、この結合したものの数を実質的に計数すること(標準法における(12)の工程参照)により、間接的に、試料(a)中の試験物質の量(数)を計量(計数)するという検定の基本的な原理を果たせなくなるという欠点がある。
そこで、本願発明はその解決手段として、上記(b)及び(c)を互いの試験物質への結合に干渉し合わないようなモノクローン抗体を採用したイムノアッセイとする発明を完成したものである。なお、同じく解決手段として、上記(c)を緩徐放出形とする方法を採用することもできる。
(3) 甲第2号証の1ないし3によれば、本願明細書の発明の詳細な説明に、更に以下の記載のあることが認められる。
「例1・・・感作した(大豆タンパク質結合)排除体を用いるイムノアッセイ 家兎抗血清および羊抗家兎/酵素抱合体をPBST中に適当に希釈し、次に下記の操作順序に従う。
1.希釈抗血清をくぼみに置き、次に直ちに感作排除体ペグを置く。
2.排除体ペグ+くぼみ(・・・)+試料を封じた容器に入れ、37℃で約90分間インキュベーションする。かきまぜはこのインキュベーション時間の約半分が経過した後ではじめて行なう。
3.排除体ペグを取り除き、水道の流水下で次にPBSTで洗浄する。
4.洗浄した排除体ペグを酵素のための基質(・・・)を含むくぼみに入れる。
5.排除体ペグ+くぼみ+基質を封じた容器内に入れ、37℃で約45分間インキュベーションする。
6.排除体ペグを取り除き、基質試料の光学密度を測定する。」(公開特許公報10頁右上欄下から2行及び12頁右上欄11行ないし左下欄下から5行)「例3 K型免疫グロブリンGに特異的な検定およびそのための材料の調製は次のように行なわれる。
第3図に示した形のナイロン66から成形されたペグをアルコールおよび蒸留水で洗う。マウスモノクローン抗-(ヒトK-鎖)抗体を、他のタンパク質および洗浄剤を除去したpH8の0.01M水性リン酸塩緩衝液中抗体の20μg/ml溶液に、ペグを室温で数時間または一晩さらすことによりペグに固定する。K鎖に対するモノクローン抗体の調製物(そしてまたγ-鎖に向けられた下で用いた抗体の調製物)は、例えばヒトIgGに抱合されたアフィゲル(Affigel)(Biorad商標)のカラム上親和力クロマトグラフィーにより、それ以外は例1または2と同じ方法で、対応する腹水液から誘導される。(約10mgIgGをゲルmlの抱合に用い、少なくとも2mlゲルを腹水液1mlのクロマトグラフィーに用いる)。
マウスモノクローン(ヒトγ-鎖)抗体を例1におけるようにアルカリ性ホスファターゼで抱合し検定における他の特異的結合試薬をつくる。
次に、例1または2の一般手順をこれら材料と共に用いる」(公開特許公報13頁左上欄5行ないし右上欄10行) (4) これらによれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、例3において、K型免疫グロブリンGを検定するための材料として、マウスモノクローン抗-(ヒトK-鎖)抗体をペグ上に固定されたもの及びマウスモノクローン(ヒトγ-鎖)抗体であってアルカリ性ホスファターゼに抱合されたものを調整すること、並びに、これら材料を例1に示される一般手順に適用し得ることが記載されているものと認めることができる。
(5) 前記(2)で説示したとおりの本願発明の概要からすると、例3において示される2種のモノクローン抗体が、互いのK型免疫グロブリンGへの結合に干渉し合わないようなものであることは明らかである。また、同じく本願発明の概要からして、これらを用いてイムノアッセイを実施するに際して、これらを同時に混在させ単一反応液中でK型免疫グロブリンGと反応させること(例1の一般手順における単一反応液中の操作順序2で行われるインキュベーションステップ)により検定に要する時間を短くすることができるという効果を奏し得ることも明らかである。
してみると、例3は、K型免疫グロブリンGを含むであろう検定用試料(A)、
ペグ上に固定された、K型免疫グロブリンGに特異的な非標識結合相手(B)及びK型免疫グロブリンGに特異的な標識結合相手(C)のすべてを単一インキュベーションステップのために反応混合物中に含むイムノアッセイを実施する方法において、K型免疫グロブリンGと上記(B)及び(C)との結合反応間の競合的干渉を、同一K型免疫グロブリンGに対してせまくかつ異なる非干渉特異性の2種のモノクローナル抗体、すなわち、マウスモノクローン抗-(ヒトK-鎖)抗体とマウスモノクローン(ヒトγ-鎖)抗体とを上記(B)及び(C)に使用することにより回避する方法に属するものであって、これによって初めて、特許請求の範囲第1項に記載の発明が具体化されたものと認めるべきである。
甲第2号証の1ないし3によれば、本願明細書には、例3以外に特許請求の範囲第1項記載の発明が具体化された点についての記載は他にないものと認められる。
2 本願第1優先明細書等の記載 甲第5号証及び第7号証によれば、本願第1優先明細書及び図面並びに本願第2優先明細書及び図面には、上記1で説示した本願明細書の例3の技術内容の記載はないことが認められる。
3 優先権の主張の可否 そうすると、本願第1優先明細書及び図面並びに本願第2優先明細書及び図面には、例3を具体的内容として有する本件特許請求の範囲第1項に記載の発明は記載されていなかったものであり、本件出願は、本件第1優先出願及び本件第2優先出願に基づく優先権を主張することはできないというべきである。
原告は、【H】教授の供述書(甲第8号証)を援用して、本願第1優先明細書等の記載からみれば、ここにワンポット法サンドイッチイムノアッセイにおいて2種の異なるモノクロ-ナル抗体を使用する技術思想が記載されている旨主張する。
しかしながら、甲第8号証の供述記載によっても、本願明細書に記載の例3が本願第1優先明細書等に記載されているとの根拠があるとは認められず、これを根拠とする原告の主張は理由がない。
4 本件審決の当否 (1) 第1次審決は、本件出願がイギリス国においてした本件第1優先出願及び本件第2優先出願に基づく優先権を主張してされたものであることを認定した上、先願明細書に記載の事項を認定し、本願発明が先願明細書(願書に最初に添付した明細書)に記載された発明と同一であると認定した。そして、原告の主張、すなわち、先願の優先権主張の基礎となった先願第1優先明細書には、2種のモノクローナル抗体を使用することが記載されていないので、先願明細書に記載の発明のうちで2種の異なるモノクローナル抗体を使用するものの優先権主張日は1980年8月4日であり、本件優先権主張日である同年6月20日及び7月16日よりも後であるとする原告の主張に対し、先願第1優先明細書には2種の異なるモノクローナル抗体を使用することが記載されていると認定し、原告のこの主張を失当であるとした(甲第6号証)。
これに対し、第1次取消判決は、本願発明が、上記のようなイギリス国においてした2つの特許出願に基づく優先権を主張してされたものであることを当事者間に争いのない事実とした上、「先願の2種の異なるモノクローナル抗体を使用するものの優先権主張日が本件優先権主張日に優先すると誤って判断した違法がある」との原告主張の審決取消事由につき、「2種の異なるモノクローナル抗体を使用することが先願第1優先明細書に記載されているとは認めることはできないから、先願明細書記載の発明のうちで、2種のモノクロナール抗体を使用するものの優先権主張日は、1980年4月25日ではなく、同年8月4日であり、これは本件優先権主張日よりも後であることとなるから、原告主張の取消事由は、その余の点について判断するまでもなく、理由がある。」と判断した(甲第4号証)。
(2) 本件審決は、第1次取消判決の判示事項5【判決の観点】として、
「 以上のことからすれば、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイチイムノアッセイに用いるためには、前記(a)、(b)の技術常識等に基づき、
『2つの異なるモノクローナル抗体』の利用可能性を検証する必要があることは明らかであり、この検証が行われていない限りにおいては、上記2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに使用できる抗体ということはできないと認められる。」 との第1次取消判決の説示を取り上げ、本願優先権主張日を、この判決の観点から検討するとし、本願第1優先明細書等及び本願第2優先明細書等には、2つの異なるモノクローナル抗体を「ワンポット法サンドイッチイムノアッセイ」に用いるための利用可能性の検証が行われたことを明らかとする記載がないから、これらには、「2種の異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに使用するという技術思想」が記載されていないと認定し、この認定に基づき、
本件出願はパリ条約による優先権の利益を享受することができないと判断した。
そして本件審決は、本願発明の実施例に該当するものが原出願当初明細書の例3に記載されている(したがって、本件出願日は原出願の国際出願日である昭和56年(1981年6月22日までは遡及する)が、本願第1優先明細書等及び本願第2優先明細書等には例3が記載されていないと認定している。
(3) そこで、本件審決の当否について検討するに、本件審決は、前記の【判決の観点】に審決取消判決の拘束力があるものとして判断を進めているが、審決が【判決の観点】として指摘する第1次取消判決中の認定、判断部分は、先願の優先権主張日の当否を判断するに際し、先願第1優先明細書の記載事項についての認定を導くための説示にすぎず、本願優先権主張日を認定するに際して、この説示が拘束力を持つものではない。したがって、本件審決には、第1次取消判決の拘束力についての誤解があったといわなければならない。そして、本件審決は、本願優先権主張日の認定を、前記【判決の観点】における説示を前提にして検討を進めているが、
【判決の観点】における(a)、(b)の技術常識は、第1次取消判決では先願第1優先権主張日当時のものとして認定されたものであって、これが本願第1優先権主張日及び本願第2優先権主張日における技術常識なのかどうかについての吟味のないままに前記の判断に至っている。
(4) しかしながら、本件審決は、本願第1優先明細書等及び本願第2優先明細書等には、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるための利用可能性の検証が行われたことを明らかとする記載がないとの判断に至り、本件出願はパリ条約による優先権の利益を享受することができないと結論づけたものであり、前記3で判示したところに従えば、この審決の結論自体は正当なものとして支持することができる。本件審決には、前記のように第1次取消判決の拘束力について誤解した部分があるが、この誤解は、審決の結論に影響を及ぼすものではなく、第1次取消判決の拘束力の範囲の解釈の誤りをいう原告の取消事由は理由がない。
(5) 甲第4号証によれば、第1次取消判決は、「先願発明のうちで2種のモノクローナル抗体を使用するものの優先日は、1980年4月25日ではなく、同年8月4日であり、これは本願の優先日よりも後のこととなるから、原告主張の取消事由は、その余の点について判断するまでもなく、理由がある。」と説示し(理由2(7))、その説示だけからすると、本願発明の優先権主張が認められることを前提としているかのようであるが、本願発明の優先権主張が認められるか否かは、第1次審決で判断するところではなく、また、第1次審決は、先願明細書記載の発明の優先権主張が認められることをもって、本件審判請求を成り立たないものとしたものであるから(甲第6号証)、本願発明の優先権主張の可否の点は、第1次審決が結論を導くのに必要な事項ではなく、したがって、第1次取消訴訟においても判断しなかったものと理解すべきである。
したがって、第1次取消判決が、本願発明の優先権主張の認められることを前提としていたとする原告の主張も採用することができない。
(6) よって、原告主張の審決取消事由はすべて理由がない。
結論
以上のとおりであり、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成13年2月20日口頭弁論終結)
追加
別紙第1本件審決認定の先願明細書における先願第1優先明細書の記載事項との共通事項(3.1a)サンドイッチ法(先一優1頁;先4頁〜5頁)「本(先願)発明は、いわゆる『サンドイッチ原理』による免疫学的測定方法に関する。
このサンドイッチ原理では、抗原、抗体、あるいはハプテンなどの被測定物質を二つの免疫学的に活性な反応パートナーと反応させる。通常、これらの免疫学的に活性な反応パートナーのうちの一方は水不溶性の担体に結合させ、他方には適切なマーキング(標識)を施す。実際は、被測定物質をまず担体に結合した反応パートナーと反応させ、次いで相分離と洗浄の後、免疫学的に担体に結合した物質を標識でマーキングされた第二の反応パートナーと反応させる。更に相分離の後、固相または液相でマーキングの程度を測定する。
従来、被測定物質を免疫学的に測定する場合、二つの対応する免疫学的に活性な反応パートナーを用い、第一及び第二の反応段階を続けて経るように免疫学的反応を起こさなければならないとされていた。」(3.1b)ワンポット法(先一優2頁;先5頁)「本(先願)発明においては驚くべきことに上記の従来の考え方とは反対に、
『ワンポット法』によって上記測定を行うことができ、これにおいては、被測定物質は一回のインキュベーション中に二つの免疫学的に活性な反応パートナー両方と同時に反応させられる。」(3.1c)一回のみのインキュベーション(先一優2頁;先5頁〜6頁)「本(先願)発明は従って、物質を検出および測定する疫学的方法において、マーキングされた免疫学的に活性な反応パートナーを用いるとともに、水不溶性の担体に結合された免疫学的に活性な反応パートナーあるいは前記測定物質をこれらの免疫学的に活性な反応パートナーとともにインキュベーションして水不溶性の担体に結合させた免疫学的に活性な反応パートナーを用い、反応後に固相と液相を分離し、固相または液相中のマーキングの量を被測定物質の量として測定するものであって、免疫反応を行うに当たって、被測定物質および免疫学的に活性な上記両反応パートナーを最初からただ一回のみインキュベートすることを特徴とする。」(3.1d)異なった免疫活性部位に対応する2つの異なった成分(先一優4頁;先9頁)「本(先願)発明方法においては、被測定物質は少なくとも二つの免疫学的に活性な部位(エピトープ)を有していることが必須であり、これらの部位は2つの免疫学的に活性な反応パートナー、即ち担体に結合した反応パートナーと標識を付された反応パートナーによって認識され、あるいはこれらと反応する。2つの免疫学的活性な反応パートナーとしては、どちらも実際測定物質と反応するがそれぞれ異なった免疫活性部位に対応する2つの異なった成分を使用するのが好ましい。」(3.1e)異なるクローンの抗体の組合せ(先一優4頁;先9頁)「抗原の測定のためには、抗原に対して特に好適な抗体が2つあるが、これらの抗体は2種の異なる動物種から産生され、この抗原の異なったエピトープに対応している。異なるクローンの抗体の組み合せ(原文:dieKombinationvonAntikoerpernvonverschiedenenKlons)またはモノクローナル抗体と異なる動物種からの抗体との組み合せが特に好ましい。」(3.1f)実施例1(先一優7頁〜8頁;先12頁〜15頁)先願明細書の実施例1における、「担体側の反応パートナー」は、(ポリスチレン球に感作した)マウス抗-CEAモノクローナル抗体であり、「標識側の反応パートナー」は、ヤギ-抗-CEA抗体パーオキシダーゼ・コンジュゲートである。
(3.1g)実施例4(先一優9頁〜10頁の実施例2;先15頁〜18頁)先願明細書における実施例4は、先願第1優先明細書の実施例2と一致する。
実施例4における、「担体側の反応パートナー」は、(ポリスチレン球に感作した)ウサギ抗-HCG抗体であり、「標識側の反応パートナー」は、マウス-抗-HCGモノクローナル抗体-パーオキシダーゼ・コンジュゲートである。
(3.1h)先願第1優先明細書の特許請求の範囲先願第1優先明細書には特許請求の範囲として下記の事項が記載されており、先願明細書の記載事項と共通している。
(先一優)請求項1:物質を検出および測定する免疫学的方法において、マーキングされた免疫学的に活性な反応パートナーを用いるとともに、水不溶性の担体に結合された免疫学的に活性な反応パートナーあるいは前記測定物質をこれらの免疫学的に活性な反応パートナーとともにインキュベーションして水不溶性の担体に結合させた免疫学的に活性な反応パートナーを用い、反応後に固相と液相を分離し、固相または液相中のマーキングの量を被測定物質の量として測定するものであって、免疫反応を行うに当たって、被測定物質および免疫学的に活性な上記両反応パートナーを最初からただ一回のみインキュベートすることを特徴とする免疫学的方法。
(先一優)請求項2:被測定物質が抗原である、請求項1に記載の方法。
(先一優)請求項3:免疫学的に活性な両反応パートナーが互いに異なる抗体であって、それらは同一の抗原に対するものであるが、当該抗原の異なったエピトープに対応するものである、請求項1または2に記載の方法。
(先一優)請求項4:被測定物質がCEAである、請求項1または2に記載の方法。
(先一優)請求項5:水不溶性の担体に結合した免疫学的に活性な反応パートナーが、マウス-抗-CEAモノクローナル抗体である、請求項4に記載の方法。
(先一優)請求項6:マーキングされた免疫学的に活性な反応パートナーが、酵素でマーキングされたヤギ-抗-CEA抗体である、請求項4または5に記載の方法。
(先一優)請求項7:酵素がパーオキシダーゼである、請求項6に記載の方法。
(先一優)請求項8:抗原がHCGである、請求項1または2に記載の方法。
(先一優)請求項9:水不溶性の担体に結合した免疫学的に活性な反応パートナーがウサギ-抗-HCG抗体である、請求項8に記載の方法。
(先一優)請求項10:マーキングされた免疫学的に活性な反応パートナーが、酵素でマーキングされたマウス-抗-HCGモノクローナル抗体である、請求項8または9に記載の方法。
(先一優)請求項11:酵素がパーオキシダーゼである、請求項10に記載の方法。
(先一優)請求項12:基質として0-フェニレンジアミンを用いるものである、請求項7または11に記載の方法。
(先一優)請求項13:上清を測光測定するものである、請求項12に記載の方法。
別紙第2本件審決認定の先願明細書における先願第2優先明細書の記載事項との共通事項(3.2a)〜(3.2h)別紙第1記載のとおり。
(3.2j)実施例2(先二優10頁〜11頁;先15頁〜18頁)先願明細書における実施例2は、先願第2優先明細書の実施例2と一致する。
実施例2は、「2つの異なる動物種(ヤギ及びネズミイルカ)からのCEA抗体」を用いる患者血漿中のCEAの定量である。
(3.2k)実施例3(先二優12頁〜14頁;先18頁〜22頁)先願明細書における実施例3は、先願第2優先明細書の実施例3と一致する。
実施例3は、「2つの異なるクローンからのモノクローナルCEA抗体(原文:monoklonalenCEA-AntikoerpernvonzweiverschiedenenClons)」を用いる患者血漿中のCEAの定量である。
別紙第3本件審決認定の本願第1優先明細書の記載事項(4.1a)技術分野(本一優1頁1行〜3行:原当初1頁4行〜6行)本願第1優先明細書の発明の技術分野は、特異的結合検定、例えば抗体または抗原の検定(イムノアッセイ)を実施するための方法、およびこれらの方法を実施するための装置、例えば試験キット、に関する。
(4.1b)課題の解決手段および目的(本一優2頁30行〜3頁5行)本願第1優先明細書の発明は、「排除体」を使用することにより、これらの系の効率を改善することを目的とする。
(4.1c)「排除体」の作用(本一優3頁26行〜4頁2行:原当初9頁1行〜12行)「ここに記述した排除体と一緒にくぼみまたはカップを用いると検定反応工程の効率を良くすることができるが、それは第一に、与えられた寸法のミクロタイ夕ーくぼみで遭遇する通常条件と比較して、ミクロタイターくぼみの寸法の縮小あるいは試薬重量の増加を伴なうことなく一層濃縮された試薬を使用できるようになるからであり、そして第二に、これが与えられた液体試薬容量との反応に利用しうる感作された表面積を増加させ、従って感作された表面上の特異的試薬密度を増加させる必要もなく、あるいは過飽和の問題に出合うこともなく比較的速い吸着速度論を達成することができるからである。」(4.1d)図面における排除体(本一優9頁3行〜6行:原当初13頁5行〜7行)「図面の第1図は僅かに小さい相補的形状の丸い断面の丸い底をした排除体2を含む丸底プラスチックミクロタイターくぼみ形容器1を垂直断面図を示している。」(本一優9頁19行〜24行:原当初13頁19行〜24行)「第2図に示した一つの改変において、くぼみ1と同様の二次元配列のくぼみを含むトレー4はふた5を有し、これに排除体2と同様の排除体の相補的1組が装着され、これら排除体は、ふた5とともに一体に例えば中空に成形した突出部の形に形成される。」(本一優10頁21行〜25行:原当初13行〜17行)「第3図および第4図を参照すると、各くぼみ内で検定を行うための装置の特徴的成分は、ここに記載したように検定くぼみ内の液体中に浸けるための、示したようなびょう、棒またはペグの形をした液体排除体11である。」(4.1e)抗体(本一優5頁19行〜31行:原当初5頁9行〜19行)「本発明の特に好適な具体例によると、抗体と酵素または他のマーカーとの抱合体および(または)(もしあるとすれば)固体表面に結合された抗体は、モノクローナル抗体からなるか、または被検試料中に存在する試験物質がどのような量であっても、望む検定反応(群)が反応における抱合体と免疫吸着剤との間の競合により妨害されないことを保証する程十分に狭い特異性の他の抗体からなる。十分に狭い特異性のモノクローナル抗体は、例えば単一の抗体産生前駆細胞(群)から誘導された抗体産生細胞系統から誘導された抗体として産生することができる。」(4.1f)「サンドイッチ」試験(本一優6頁11行〜22行:原当初6頁9行〜20行)「『サンドイッチ』試験形態においては、被験抗原を固体表面に結合した第一抗体へ特異的に吸着させ、そして酵素的または他の(例えば、蛍光または放射性)マーカーを有する第二の抗体を吸着された被験抗原へ特異的に結合させる。特異的にこのように結合されたマーカーは例えば放射分析または蛍光分析、あるいは酵素マーカーを基質に当て、次に生成物測定をするといった直接測定によって被験抗原を測定および定量するために用いられる。このように、特に適当なサンドイッチ試験においては、用いる二つの抗体が同じ被験抗原に関して異なる干渉しない特異性を有することができる。」(4.1g)単一段階での混合、狭い特異性の抗体の使用による干渉の回避(本一優6頁34行〜7頁12行:原当初7頁6行〜17行)「未修飾抗原に対して生じた通常の抗血清からの抗体(ポリクローナル抗体)をサンドイッチまたは抗グロブリン試験で用いるならば、もし全成分を単一段階で混合すると、二つの特異的な吸着反応の間に干渉があるという危険がある。本発明に従って、ここに記載した装置を用いてこのような試験を行なう場合、記載のようなせまい特異性の抗体を用いることにより、さもなければ他の試薬による結合がその後の試験物質の固体表面への吸着を妨げるかもしれない危険があるならば、固体表面への試験物質の結合が、試験物質が他の(マーカー抱合)結合試薬へ露出される前に起こることを保証することにより、このような干渉を回避できる。」(4.1h)例1「大豆タンパク質に対する抗体の検定に向けられた酵素結合した抗グロブリン試験」(本一優14頁1行〜18頁13行:原当初20頁1行〜25頁22行)(a)試験物質(抗体):大豆タンパク質に対する家兎抗体(b)固体支持体上に固定された、試験物質に特異的な非標識結合相手(抗原):大豆タンパク質結合排除体ペグ(c)試験物質に特異的な標識結合相手(抗グロブリン)酵素標識した羊抗家兎IgG操作順序:「家兎抗血清および羊抗家兎/酵素抱合体をPBST中に適当に希釈し、次に下記の操作順序に従う。
工程1希釈抗血清をくぼみに置き、次に直ちに感作排除体ペグを置く。
工程2排除体ペグ+くぼみ+試料を封じた容器に入れ、37℃で約45分間インキュベーションする。
工程3排除体ペグを取り除き、水道の流水下で次にPBSTで洗浄する。
工程4洗浄した排除体ペグを抱合体を含むくぼみにいれる。
工程5排除体べグ+くぼみ+抱合体を封じた容器に入れ、37℃で約45分間インキュベーションする。
工程6排除体ペグを取り除き、水道の流水下で次にPBSTで洗浄する。
工程7洗浄した排除体ペグを酵素のための基質〔シグマ104(商標)〕を含むくぼみに入れる。
工程8排除体ペグ+くぼみ+基質を封じた容器内に入れ、37℃で45分間インキュベーションする。
工程9排除体ペグを取り除き、基質試料の光学密度を測定する。
前述のようにくぼみの底に任意に抱合体を含んだショ糖上塗りを使用するならば、工程3及び4は省略できる:このような場合、工程2を延長し、最初の約45分経過後に撹拌する。」別紙第4本件審決認定の本願第2優先明細書の記載事項(4.2j)発明の目的(本二優2頁下から5行〜最下行)「本発明(本願第2優先明細書記載の発明)の目的は、蛋白質と反応して不溶性免疫複合体を生成する、モノクローナル抗体を使用する方法を提供することである。この不溶性免疫複合体は、前記不溶性複合体の生成を必要とする技術に、モノクローナル抗体を適用することを可能にする。」(4.2k)2つのモノクローナル抗体の組合せ(本二優3頁6行〜14行)「本発明(本願第2優先明細書記載の発明)によれば、サンプル中の特定蛋白質の定量方法は、2つのモノクローナル抗体の組合せをサンプルと反応させることからなる。これらのモノクローナル抗体は、それぞれ検定中の蛋白質分子の2つの別個の抗原性部位(抗原決定基)に対して特異的である。得られた抗原-抗体複合体から、もとの抗原濃度の量を測定する。」(4.2m)クローンされた抗体生成物(theclonedantibodyproduct)(本二優4頁16行〜最下行)「以下の実施例において、抗体は免疫源としてのポリクローナルヒトIgGを用いて誘導し、ヒトIgGで感作した羊赤血球の凝集能があるか否かに基づいて選択した。クローンされた抗体生成物(theclonedantibodyproduct)の特異性を更に、
κL鎖、λL鎖、Fcフラグメント若しくはpFc′フラグメントで感作した羊赤血球に対する凝集能でハッキリさせた。このようにして、以下に示す特異性を有するモノクローナル抗体を選択した。
サンプル特異性TκL鎖」(4.2n)モノクローナル抗体サンプルによる凝集(本二優5頁1行〜最下行)「サンプルUはpFc′フラグメントで感作した細胞を凝集することも判った。
即ち、このサンプルは、IgG分子のcγ3領域にある抗原決定基に対するものである。サンプルV及びWがpFc′感作細胞の凝集を惹起しないことから、これらは、IgG分子のcγ2領域にある抗原決定基に対して特異的であるか、又はFcフラグメントの構造に依存するコンフォーメイショナル決定基であると考えられた。
上記した抗体と反応する抗原は、IgGパラタンパク質である。
抗体サンプルTないしWをそれぞれ別個にまたは組合せて抗原と反応させた。反応を、4%ポリエチレングリコール(MW3000)を含有するリン酸塩緩衝溶液中25℃の温度で行った。反応が行われた液体の濁度変化を、260nm波長の光を用いて測定した。
第1図に見られるように、モノクローナル抗体のサンプルTないしWは、それぞれ抗原と反応させられたが、顕著な濁度変化D(横軸:時間T、600秒まで)は認められなかった。しかし、抗体サンプルUとWの組合せからは測定可能な濁度変化が、サンプルTとUの組合せ及びサンプルUとVの組合せと反応させたものはポリクローナル抗体試薬を用いた時に通常得られるものと同程度の濁度変化が得られた。
第1図から、サンプルT、U及びVの組合せとの反応から得られる濁度変化は、
サンプルUとVの組合せから得られるものよりも小さかった。これは、おそらく反応中に過剰の抗体が存在したためであると考えられる。」別紙第5本件審決認定の原出願当初明細書の記載事項(4.3p)例2「大豆タンパク質に対する抗体の検定に向けられた酵素結合した抗グロブリン試験」(原当初、25頁23行〜26頁17行)原出願当初明細書の例2は、次の材料を使用している。
(a)試験物質(抗体):大豆タンパク質に対する家兎抗体(b)固体支持体上に固定された、試験物質に特異的な非標識結合相手(抗原):大豆タンパク質結合排除体ペグ(c)試験物質に特異的な標識結合相手(抗グロブリン)酵素標識したマウスモノクローン抗-(家兎IgG)この例2の検定は、例1と同様に行うことが記載されている。
(4.3q)例3「K型免疫グロブリンGに特異的な検定」(原当初、26頁18行〜28頁17行)原出願当初明細書の例3は、次の材料を使用している。
(a)試験物質:K型免疫グロブリンG(b)固体支持体上に固定された、試験物質に特異的な非標識結合相手:第3図に示した形のナイロン66から成形されたペグに固定したマウスモノクローン抗-(ヒトK-鎖)抗体(c)試験物質に特異的な標識結合相手アルカリホスファターゼで抱合したマウスモノクローン抗-(ヒトγ-鎖)抗体「例1または2の一般手順をこれら材料と共に用いる。」別紙第6本件審決認定の第1次取消判決の判示事項判示事項1[争いのない事項](理由1)「審決の理由の要点(2)(拒絶理由通知の概要)、(3)(先願明細書の記載事項の認定)及び(4)(本願発明と先願発明の同一)は、当事者間に争いがない。」判示事項2[原告の主張](理由2(5)C)「原告は、ワンポットサンドイッチ法イムノアッセイにおいて2つの反応パートナーのうち1つをモノクローナル抗体とすることが可能であったとしても、実際に2つのモノクローナル抗体が異なる免疫活性部位に対応する2つの成分になり得るかは、実験の確認をまってはじめて決定され得るものであり、このような確認なしに直ちにワンポットサンドイッチイムノアッセイの2つの反応パートナーをモノクローナル抗体とはなし得ないものである旨主張する。」判示事項3[(a)の技術常識](理由2(5)C(a))「先願第1優先権主張日当時において、高感度、高精度のEIA(酵素免疫測定)を行う場合に、
ア)抗体を標識化した酵素の酵素活性を正しく測定する測定条件を確認し、
イ)酵素で標識化した抗体と抗原との抗体抗原反応における親和力及び特異性を検定する必要があったものであり、それらの確認、検定を不要とするとの技術常識は存在しなかったことが認められる。」判示事項4[(b)の技術常識](理由2(5)C(b))「先願第1優先権主張日当時において、EIA(酵素免疫測定)に特有な注意として、インキュベーション溶液中に抗原、抗体及び抗体に結合した酵素(いずれも巨大分子量タンパク質)が同時に存在する場合には、それらが相互に影響し合い、
標識酵素の酵素活性が変動することがあるから、所定のイムノアッセイ条件下で、
あらかじめ標識酵素の酵素活性を検定する必要があることは技術常識であったと認められる。」判示事項5【判決の観点】(理由2(5)C(c))「以上のことからすれば、2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに用いるためには、前記(a)、(b)の技術常識等に基づき、
『2つの異なるモノクローナル抗体』の利用可能性を検証する必要があることは明らかであり、この検証が行われていない限りにおいては、上記2つの異なるモノクローナル抗体をワンポット法サンドイッチイムノアッセイに使用できる抗体ということはできないと認められる。」判示事項6[先願第1優先明細書の実施例](理由2(5)D)「上記の観点から、先願第1優先明細書の実施例の記載を検討すると、実施例1及び実施例2の記載から、先願第1優先明細書には、2つのモノクローナル抗体を使用するワンポット法サンドイッチイムノアッセイが記載されているに等しいと認めることはできない。
・・・、先願第1優先明細書の実施例1に不溶性担体結合反応パートナーとして記載されているマウス-抗-CEAモノクローナル抗体との組合せにおいて、同実施例2に酵素標識反応パートナーとして記載されているマウス-抗-HCGモノクローナル抗体を使用できることを検証したことの記載はなく、そのことをうかがわせる記載も見いだせない。」判示事項7[技術思想](理由2(5)E)「以上によれば、先願第1優先明細書の実施例1及び実施例2の記載から、『2つのモノクローナル抗体の組合せ』を用いるという技術思想が自明であると認めることができない。」判示事項8[被告の主張について](理由2(6))「RIA(放射免疫測定)で2つのモノクローナル抗体を使用することができたことは、直ちにEIA(酵素免疫測定)でその2つのモノクローナル抗体を使用することが可能であることを意味するものではない。
そうすると、乙第1号証(「モレキュラー・イミュノロジー」16巻1005頁ないし1017頁)中のRIAにおける結合親和力(結合活性)が直ちにEIAにおける結合親和力(結合活性)を示すことにはならず、他に、乙第1号証には、EIAにおける上記2つのモノクローナル抗体の利用可能性を示唆する記載はない。したがって、被告の乙第1号証に基づく主張は採用できない。」判示事項9[先願発明の優先日](理由2(7))「そうすると、2種の異なるモノクローナル抗体を使用することが先願第1優先明細書に記載されていると認めることはできないから、先願発明のうちで2種のモノクローナル抗体を使用するものの優先日は、1980年4月25日ではなく、同年8月4日である。」別紙第7原告主張の本願第1優先明細書の記載事項(4.1s)(本一優5頁3〜18行)「本発明の1つの好適な具体例によると、1つ以上の排除体は、検出可能な酵素または他のマ-カ-と免疫学的試薬(例えば抗原または抗体)との抱合体で被覆できる。適量の抱合体を、なるべくは、(例えばショ糖の)上塗りとして排除体の先端で乾かして抱合体分子の凝集を防止し、かつ抱合体の緩除な可溶化を保証することにより、免疫吸着剤が検出すべき物質と反応する機会を得る前に抱合体によって免疫吸着剤が飽和されるのを避ける。それから試薬を、例えば患者の血清からなる試験試料適量をくぼみの中に分給し、続いてくぼみの中に排除体を挿入することにより実行する。このようにして、試料と抱合体が殆ど同時に加えられることにより時間のかかる操作手順を減らすことができる。」(4.1t)(本一優12頁2〜9行)「たとえ二つの結合反応が要求されることがあっても(例えば、試験抗体が固定化抗原に結合し、次に酵素-抱合体グロブリンが試験抗体に結合する)、この結合順序を単一段階で完了させることが可能である。このためには、前記のように抱合抗体が、試験物質の(免疫吸着剤との)結合部位のどれとも競合せずそしてその免疫吸着剤への結合を妨げないように、試薬を注意深く選択する必要がある。」(4.1u)(本一優18頁7〜9行)「前述のようにくぼみの底に任意に抱合体を含んだショ糖上塗りを使用するならば、工程3及び4は省略できる」
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史