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関連審決 審判1995-14404
関連ワード 物の発明 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  手続違反 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  共有 /  技術的意義 /  不存在 /  実施 /  構成要件 /  のみ用いる /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 10年 (行ケ) 183号 審決取消請求事件
原告 バンガード・プロダクツ・コーポレーション代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁護士 山崎行造
同 寺井勇人
訴訟代理人弁理士 岡田希子
同 斉藤晴男
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成7年審判第14404号事件について平成10年1月23日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成元年11月9日を国際出願日とし(パリ条約による優先権主張1988年(昭和63年)11月10日、アメリカ合衆国)、発明の名称を「電子装置用の複合エラストマーガスケットシールド」とする発明につき特許出願(平成2年特許願第500748号)をしたところ、平成7年5月8日に拒絶査定を受けたので、同年7月3日に拒絶査定不服の審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成7年審判第14404号事件として審理した結果、平成10年1月23日、出訴期間として90日を付加して、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年2月16日に原告に送達された。
2 本願発明の要旨(特許請求の範囲の請求項1、4及び7に係る発明につき、
それぞれ「本願第1発明」、「本願第4発明」、「本願第7発明」という。) (1) 本願第1発明 可撓性のガスケット要素より成る電磁干渉を消すためのガスケットシールドにおいて、前記ガスケット要素は、大きな弾性と強靱性とを有する比較的厚いエラストマーの内層と、それに複合されている比較的薄いエラストマーの外層とより成り、
前記内層は前記外層よりも約10倍厚く、且つ、前記外層の厚さは約8ミル以下であり、前記外層には金属粒子が充填されていて、電気エネルギーを大きく減衰することができるように改良されたガスケットシールド。
(2) 本願第4発明 可撓性のガスケット要素よりなる電磁干渉を消すためのガスケットシールドにおいて、前記ガスケット要素は、大きな弾性と強靱性とを有する比較的厚いエラストマーの内層と、それに複合されている比較的薄いエラストマーの外層とより成り、
前記内層は非導電性で、エアロゾルシリカで強化されたシリコンゴムから成り、前記外層の厚さは8ミル以下であり、前記外層には金属粒子が充填されていて、電気エネルギーを大きく減衰することができるように改良されたガスケットシールド。
(3) 本願第7発明 化学的に固定された金属基体を更に包含する請求項1又は4記載のガスケットシールド。
3 審決の理由 別紙審決書の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、本願第1発明及び本願第4発明は、本願発明の優先権主張の日(昭和63年11月10日)前の昭和58年12月1日に頒布された実願昭57-76186号(実開昭58-179708号)のマイクロフィルム(甲第8号証、以下「引用例1」という。)に記載された考案に基づいて、本願第7発明は、引用例1記載の考案、及び同じく昭和62年4月21日に頒布された米国特許第4659869号の発明に係る明細書(甲第9号証、以下「引用例2」という。)記載の発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、引用例1及び引用例2の記載事項、本願第1発明及び本願第4発明と引用例1記載の考案との相違点の認定は認めるが、審決は、その一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点についての判断を誤り(取消事由2、3)、効果を看過した(取消事由4)結果、本願第1発明及び本願第4発明は、引用例1記載の考案に基づいて当業者が容易に発明ができたものとの誤った判断に至ったものである。
また、審決が周知事項として引用した甲第10ないし第13号証は、本願発明の属する技術分野において周知とはいえないものであるが、たとえ周知であるとしても、再度拒絶理由を通知して反論の機会を与えなかったことは、特許法159条2項で準用する同法50条違反がある(取消事由5)。 さらに、審決は、本願第4発明について、証拠を示すことなく周知事項を認定し、かつ本願第1発明についての判断を誤った結果、進歩性の判断を誤っている(取消事由6)。
以上のとおり、審決は、本願第7発明の前提となる本願第1発明及び本願第4発明に対する判断を誤っているものであるから、本願第7発明に対する進歩性の判断も誤っている(取消事由7)。
したがって、審決は、違法であるから取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点(内層と外層との「複合」)の認定の誤り) (1) 審決は、本願第1発明と、引用例1記載の考案との一致点として、本願第1発明の「外層」に相当する引用例1記載の考案の「導電被服層」が「(内層に)複合されている」と認定しているが、これは、以下のとおり、構成上の差異、
及び作用効果を見逃したものであるから誤りである。
ア 構成上の差異の看過 本願第1発明における「複合」の意味は、本願発明に係る明細書(以下「本願明細書」という。)中の「ガスケット部分14は、・・・ダイ内における複合押出成形によって恒久的に接着される、非金属ではあるが導電性を有するエラストマー内側部16と、金属を充填したエラストマー製外側被膜あるいはカバー18より形成されている」(甲第2号証の2、3頁18行ないし21行、甲第5号証により補正)、「金属粒子を充填したエラストマー18を、・・・エラストマー基体16に化学的に結合することによって」(甲第2号証の2、4頁19行、20行、甲第6号証により補正)、「両層は分子を共有する形で複合押出成形によって結合されている」(甲第2号証の2、5頁4行)等の記載からすれば、内層と外層とが単に物理的に結びつけられている場合(弱い結合)を包含しないこと、すなわち、内外層の複合押出成形による結合や、内外層における同じエラストマーを用いて得られる結合に限定されるわけではないが、そのような結合で達成されるような結合強度で、内層と外層が一体化されている状態を指すことが認められる。
一方、引用例1記載の考案は、導電性被服層がゴム状弾性主体に対する化学メッキ処理による金属化又は導電性塗料による被覆によるものであり、上記の「複合」には当たらない。
イ 作用効果の差異の看過 本願第1発明では、外層が「(内層に)複合されている」ことにより、内層、外層が一体化されて外層の耐剥離性が著しく高められるので、製品としての屈曲性及び伸縮性が飛躍的に向上した性能の高いガスケットシールドがもたらされ、さらに、外層をエラストマー構成としたことにより、外層が高い耐摩耗性、耐引裂力、
反発弾性、屈曲性、伸縮性の効果を奏する。
一方、引用例1記載の考案では、例えば、化学メッキ処理によった場合、導電被覆層とゴム状弾性主体の結合は、両者の性質の相違から当然弱くなるので、剥離が簡単に起き、十分な外層の耐減耗性、耐引裂力、反発弾性、屈曲性及び伸縮性が得られない。
このように、本願第1発明は、引用例1記載の考案からは全く想到し得ない格別の作用効果を備えるものである。 (2) 以上のように、本願第1発明と引用例1記載の考案とは、その構成及び作用効果を明らかに異にしており、本願第1発明が実現しようとしている技術思想を引用例1記載の考案が持たないのは明白である。
(3) 被告は、乙第1号証を引用して、塗装等により表面層が単に物理的に結びつけられている場合も複合であると主張している。
しかしながら、乙第1号証中の「合成高分子は、モノマーを出発物質とすることができるので、複合の種々のプロセスを通じて重・縮合という化学操作が重要な役割を果たす」との記載からすれば、高分子の場合の「複合」は、複数の材料が単に結びつけられている状態ではなく、モノマーが重・縮合した場合のような、より強固な結合状態を指すことが明らかである。
2 取消事由2(相違点(外層がエラストマーでないこと)についての判断の誤り) 審決が「外層を金属粒子を充填したエラストマーとすることは当業者ならば容易になし得たことである」とした判断は、以下のとおり、引用例1記載の考案と周知例とを組み合わせる契機がないばかりでなく、組み合わせること自体も困難であるから誤りである。
(1) 引用例1記載の考案と周知技術例との組合わせの契機の不存在 引用例1記載の考案には、外層にエラストマーを用いることは示されていない。
このことは、引用例1記載の考案は、主体をゴム状弾性体とすることにより、「開閉部分の間隔の大小の大きさに十分順応して大きさを変形できる」(甲第8号証2頁8行ないし12行、5頁1行、2行)構成とし、「大きさを変形できる」のは、
ゴム状弾性体を中心としているからで、これにより引用例1記載の考案は完成しており、その導電被覆層をも弾性体とすべき契機は存在しない。
しかも、審決が周知と認定する技術は、金属粒子を配合し塗布後にエラストマーを形成するもので、挙げられた周知技術例はすべて、導電性エラストマー組成物に関するものであるから、本願第1発明における「複合エラストマー」に関するものでもなく、二層ゴム状弾性体に関する記載もない。
してみると、審決が周知技術例として挙げた甲第10ないし第13号証は、二層構造の製品の外層にこれらの周知技術を用いることは全く想定していない。
以上のように、周知技術例として挙げられた甲第10ないし第13号証には、二層構造体の外被材を構成することは想定しておらず、引用例1の発明がそれ自体完成したものである点に鑑みれば、引用例1記載の考案における二層ゴム状弾性体の外層を構成するために、上記の各周知技術を引用例1記載の考案に適用する契機は存在しないといわざるを得ない。
したがって、「外層を金属粒子を充填したエラストマーとすることは当業者ならば容易になし得たことである」とした審決の判断は誤りである。
(2) 引用例1記載の考案と周知技術例の組合わせの困難性 甲第10ないし第13号証の周知技術例は、各々導電ウレタン系エラストマー塗料、シリコーン系エラストマーの導電性組成物、導電性エチレン/アクリル系エラストマー塗料であり、これらのものは、引用例1に記載される内層の材料としてのゴム紐とは強い親和性を示しはしないから、内層と外層は「複合」しない。
よって引用例1記載の考案と甲第10ないし第13号証に周知技術として記載された事項を組み合わせることはできない。
3 取消事由3(相違点(内層及び外層の特定事項の不存在)の判断の誤り) 審決が「内層を外層よりも約10倍厚くすることは当業者ならば容易になし得たこと」と判断したことは、誤りである。
(1) 本願第1発明の内外層比10対1との構成について 内層、外層の比率を約10対1にすることにより、外層の耐久性、反発弾性率、
複合押出成形の可能性を保った上で、最も効率よく電磁波の遮蔽が可能であることが、以下に述べる研究結果から判明したものであるから、このことは、審決が判断したように当業者が適宜容易に決定し得るものではない。
原告の長年にわたるガスケットの設計及び商業市場への供給から得られた経験に基づく知見によれば、ドア、扉口、蝶番、ふた、カバーなどによる容易な密閉には、ガスケットの圧縮歪力が1インチ当たり0.5から1.2ポンドの範囲にあることが必要であり、特定の重厚な作りを持つ製品については、この基準を緩やかにし、上限を2.0 lbs./inchに設定すべきである。また、圧縮歪み力の下限値が0.5 lbs./inchであることも、原告の長年の経験により分かっており、上記下限値を下回ると、電気抵抗値は大きく上昇し、これにより遮蔽の効果が大きく下落する。電気抵抗値の上限値については、低い電気抵抗は優れた遮断効果をもたらし、原告の実際的経験から0.1オーム以下の抵抗値が望ましいことが分かっており、これを上限値と考えるべきである。
これらの知見に基づいて、甲第14号証(1999年6月17日に原告が実施した試験結果報告書)に記載された試験片の試験結果を検討してみると、内外層比率10対1、及び10.3対1を有する試験片1及び4が優れた遮蔽効果を発揮する低い電気的抵抗及び商業的電磁遮蔽機器に要求される適切な値の圧縮歪み力を有することから、内層と外層の比率を約10対1とする意義は明らかである。この点は、甲第17号証(1999年11月18日付けの試験結果報告書)の試験結果によっても確認されている。
(2) 本願発明の外層の厚さ8ミル以下との構成について 本願第1発明に記載された「約8ミル以下」という要件は、8ミル以下ならば無限に外層を薄くできるものではなく、当然一定の下限が要求されるものである。 すなわち、引用例1に記載されるような極めて薄い外層を金属粒子充填エラストマーで構成する場合、外層に対応する超微粒子を充填する必要が生じるが、超微粒子が高い密度で充填されると、耐摩耗性、耐引張強さ、耐引裂力、弾性等を外層にもたらすエラストマーの含有比率が低くなり、外層の物性が劣化し、しかも、外層、内層の確実な結合が実現し得なくなる。このように、1ミクロンを下回るような超微粒子を使用し金属充填エラストマーの外層を構成することによって物性の優れた外層が提供されることはあり得ない。
してみると、当然に一定の下限厚さが要求されることとなり、その厚さは、エラストマー外層に充填可能な金属粒子が最低でも直径0.3ミル(7.5μ)が必要となり、外層厚さは金属粒子直径の3から4倍の厚さにする必要があることが当業者の常識であるから、安全性を配慮して、約2ミル(50μ)の外層の厚みが下限となる。なお、このことは、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に、「比較的薄いエラストマーの外層」と記載されていることからも裏付けられる。したがって、エラストマーの外層を引用例1のゴム状弾性主体の外層と同じ0.1μの薄さにすることは本願発明においては考えられないことであり、引用例1記載の考案の開示を前提として当業者が内層を外層より約10倍厚くすることに想到することは全く不可能である。
4 取消事由4(効果の看過) 本願第1発明は、「(内層に)複合されている」エラストマーを外層に使用することにより、外層の耐剥離性、耐減耗性、耐引裂力、反発弾性、屈曲性及び伸縮性を調和させた上、さらに金属粒子を充填したエラストマーを外層にのみ用いることにより、低コストの効率のよい電磁遮蔽を実現することができる。さらに、内層に「複合されている」エラストマーを外層に使用することにより、両者の分子共有を利用した複合押出成形も可能にし(甲第2号証の2、2頁28行ないし3頁3行)、外層を単独でシールド材料として使用した場合に生じる物理的性質の貧弱化をも克服する(同4頁11行ないし15行)のであって、これらの効果は、引用例1及び周知例として挙げられた甲第10ないし第13号証には記載されていない。
5 取消事由5(特許法159条違反) 本願第1発明では、内層と外層とを複合する必要があり、そのためには、内層エラストマーと外層エラストマーを構成する材料とで、ある種の組合せが必要である。したがって、外層を形成することのできる材料のみが示されている甲第10ないし第13号証は、本願発明に対して周知技術を開示する文献であるとはいえない。
また、「伝導性エラストマー」自体の周知性の有無についてみると、本願発明は、電子装置用ガスケット・シールドであるから、電気装置の部品の分野であり、
他方、周知技術例として挙げられた甲第10ないし第13号証は、各々帯電防止塗料、接着性導電性組成物、導電性塗料組成物、導電性エラストマー塗料を開示するもので、何れも化学の分野に分類されるものであるから、「導電性エラストマー」に係わる技術は、引用例1(甲第8号証)の技術分野である「電気装置の部品の分野」に開示された考案と組み合わせるに適した(適用上の適正がある)技術、すなわち周知技術であるとはいえない。さらに、電気装置の分野において「導電性エラストマー」に関する多数の公知文献が存在していたといえないし、当該業界においてよく知られていたともいえない。
したがって、審判官が引用例1の記載事項と甲第10ないし第13号証の記載事項との組合せから本願発明が容易になし得たと判断したのであれば、審決に先立ち、甲第10ないし第13号証を引用例として、原告に再度拒絶理由を通知すべきであった。
また、仮に、甲第10ないし第13号証が周知技術に当たるとしても、平成9年7月23日付けの拒絶理由通知書(甲第21号証)では、引用例1記載の考案と周知技術との組合せについては全く言及していなかったのであるから、原告は、同号証の記載内容を考慮した反論の機会を与えられなかった。
このように、審判において、特許法159条2項で準用する同法50条に違反する手続がなされたのであるから、審決には違法があり、取り消されるべきである。
6 取消事由6(本願第4発明の進歩性判断の誤り) 審決が、「シリコンゴムの強化剤としてエアロゾルシリカを使用することは周知であるから、エアロゾルシリカでシリコンゴムを強化することは当業者ならば適宜容易になし得たことである。」と判断したことは誤りである。
すなわち、本願発明の出願前に「シリコンゴムの強化剤としてエアロゾルシリカを使用することは周知」であることを示す証拠は示されていないから、この点につき進歩性が欠如しているとの判断は誤りである。
仮に、本願出願前にエアロゾルシリカが周知であったとしても、本願第4発明は、本願第1発明の内層を、「非導電性でエアロゾルシリカで強化されたシリコンゴムから成る」と限定したものである。
ところが、審決は、上記のとおり、本願第1発明に対して誤った判断をしており、これを前提とした本願第4発明に対する進歩性の判断も誤りである。
7 取消事由7(本願第7発明の進歩性判断の誤り) 本願第7発明は、本願第1発明1又は本願第4発明の「複合された内層及び外層」をその必須要件として含むガスケットシールドである。
ところが、審決は、上記のとおり、本願第7発明の前提となる本願第1発明及び本願第4発明に対する判断を誤っているものであるから、本願第7発明に対する判断も誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定、判断に誤りはなく、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(一致点(内層と外層との「複合」)の認定の誤り)に対して 本願明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には、「複合」について定義する記載は認められない。
一方、日本化学会編「複合材料」化学総説 No8(乙第1号証)には、「2.2複合プロセス」に一応の分類として「1.積層、2.混合、3.析出、4.含浸」と分類され、「2.2.1 積層」には、「積層には、1)接着剤による接着積層、・・・3)押出し積層、4)その他、塗装、・・・表面重合、表面析出などによる表面層の形成などがある」と記載されている。当該記載によれば、塗装などにより表面層が単に物理的に結びつけられている場合も「複合」であるといえるから、審決に誤りはない。
原告は、「複合」の意味として、内外層の複合押出成形による結合や、内外層に同じエラストマーを用いて得られる結合で達成されるような結合強度で内層と外層が一体化されている状態を指す旨主張する。
しかしながら、特許請求の範囲に記載された本願第1発明について、「複合」を原告主張のように限定して解釈すべき理由は存在しないから、原告の主張は、特許請求の範囲に係わる発明に基づかない主張であり、失当である。
2 取消事由2(相違点(外層がエラストマーでないこと)についての判断の誤り)に対して 引用例1記載の考案の作用効果である「電磁遮蔽できるとともに間隙の大きさに十分に追従して変形できる」を奏するために、この導電性被覆層は内層と同様な弾性を有することが望ましいことは明らかであり、「導電性塗料として金属粒子を配合し塗布後にエラストマーを形成するものは周知である(・・・)ことも考慮すれば、引用例1において外層を金属粒子を充填したエラストマーとすることは当業者ならば容易になし得たことである」とした審決の判断に誤りはない。
原告は、甲第10ないし第13号証は、各々導電ウレタン系エラストマー塗料、
シリコーン系エラストマーの導電性組成物、導電性エチレン/アクリル系エラストマー塗料であり、これらのものは、引用例1に記載される内層の材料としてのゴム紐とは強い親和性を示しはしないから、内装と外層は「複合」しない旨主張する。
しかしながら、導電ウレタン系エラストマー塗料、シリコーン系エラストマー、
エチレン/アクリル系エラストマーは、「ゴム状弾性体」に対して親和性を示さないとの事実はなく、原告の主張は失当である。
3 取消事由3(相違点(内層及び外層の特定事項の不存在)の判断の誤り)に対して (1) 本願第1発明の内外層比10対1との構成について 原告は、内外層約比10対1が最適な比率であることの根拠として甲第14号証及び第17号証を提出している。
しかしながら、約10対1という内外層比が最適な比率であるというならば、内外層比以外のガスケットに係わる諸条件(長さ、外形及び内径等のサイズ)等を同一として内外層比のみを変えたデータを提示して説明しなければならないところ、
甲第17号証に示される資料には、長さは6インチで共通であるが、外径内径等の諸条件を同一としたデータではなく、しかも、本願第1発明に係るガスケットは、
この長さが6インチのものに限定されるものではない。
また、甲第14号証には、試験片の長さは6インチで共通しているが、各試験片の大きさ(甲第17号証での外径及び内径の大きさ等に相当)については記載がなく、しかも、本願第1発明に係るガスケットは、この長さ6インチのものに限定されるものではない。
以上のとおり、内外層比以外の諸条件(長さ、外径及び内径等のサイズ等)も考慮しなければ、その効果の確認をすることはできないところ、原告提出の甲第14号証及び第17号証には、それらの諸条件が一定でない条件の下で行われた実験によって得られた約10対1という内外層比が適切であるという知見は疑わしい。
さらに、約10対1の内外層比が最適な比率であると主張する前提となる「圧縮歪み力」の値が「0.5から1.2ポンドの範囲内」、「上限を2.0 lbs./inchに設定することが妥当」であり、「電気抵抗値」の値が「0.1オーム以下」であることが「原告の経験」から分かっている旨主張するが、これらのことは、本願明細書のどこにも記載がないし、本願発明の出願前に当業者の経験から分かっていることを証するに足るものは何もなく、当業者の経験から分かっているものでもない。
なお、原告は、甲第19号証を根拠として、0.1オーム以下の 電気抵抗値を示す製品が上市されていることを立証しようとしているが、そこで記載されている「オームーインチ」の単位と甲第14、第15号証及び第17号証でいう電気抵抗値「オーム」の単位は、同じではなく、何ら関連性はない。
(2) 8ミル以下について 本願第1発明は、「外層の厚さは約8ミル以下であり」との記載から明らかなように、外層の厚さは約8ミル以下であればよく、内層との兼ね合いから下限が要求されるものではなく、しかも、1ミル(25μm)未満の外層は包含されないことは、本願明細書及び図面に記載されておらず、しかも、本願明細書及び図面等の記載から自明のことでもないから、原告の主張は本願第1発明に基づかない主張で失当である。
4 取消事由4(効果の看過)に対して 引用例1記載の考案は、「間隙の大きさに十分追従して変形できるなど、きわめて有効」(甲第8号証5頁1行、2行)なものであるから、剥離が簡単に起きるとは到底認められず、また、「この考案によれば、ゴム状弾性主体の表面全域に亘って導電化された導電被覆層を有するので、各種電子機器の筐体などのパッキン材または、シール材として用いることができる。」(同4頁13行ないし16行)ものであるから、本願第1発明の「ガスケットシールド」が備える特性を備えるものであり、原告の主張は、失当である。
5 取消事由5(特許法159条違反)に対して 本願明細書の特許請求の範囲請求項(1)、(4)、(7)に記載されている「エラストマー(の外層)」の構成は、平成9年7月23日の拒絶理由通知時には、発明の構成要件とはなっておらず、当該拒絶理由通知後の同年11月7日付けの手続補正書(甲第7号証)において発明の構成要件として付加されたものであるから、上記拒絶理由には「導電性塗料として金属粒子を配合し塗布後にエラストマーを形成するものは周知である。」との判断を示す必要は一切なかったのである。
そして、補正後の構成要件に対しても上記拒絶理由を維持することができるとの判断に立った上で、本願出願前に既に「金属粒子を配合し塗布後エラストマーを形成するもの」が導電性塗料として使用し得ることが当業者の技術常識であった旨を確認的に例示したものである。
このように、審決は、引用例1記載の考案と周知例として例示した各文献に開示された周知技術の組合せから本願発明が容易になし得たとしたのではなく、多々存在する金属粒子を配合した導電性塗料の中から、塗布後にエラストマーを形成するものを選択することは当業者が必要に応じてなし得る設計事項にすぎないと認定しているのである。
以上のとおり、審判における拒絶理由の主旨(予め通知した理由の主旨)と審決の理由の主旨との間に実質的な齟齬を生じるものではなく、その理由を異にするものではなく、原告の主張は失当である。
なお、一般論として、審決における、周知事実の提示、あるいは、周知事実の参考例の提示については、特許法159条2項に規定する拒絶理由を通知し、意見陳述の機会を与える必要は認められないというのが通説、判例である。
また、原告は、「伝導性エラストマー」自体は周知であったとはいえないし、導電性エラストマーに係わる技術は、引用例1記載の考案と組み合わせるのに適した(適用上の適正がある)技術であるということもできない旨主張する。
しかしながら、甲第10号証には、「ウレタンエラストマーを主成分とし、・・・導電性粉末は酸化錫を主成分とし、・・・帯電防止用透明塗料」が記載され、(産業上の利用分野)として、「電子・電機部材」と記載されており、甲第11号証には、「ゴム状弾性を有する熱可塑性ポリブロックオルガノポリシロキサンコポリマーと少なくとも表面が導電性の粒子からなることを特徴とする潜在的に接着性の導電性組成物」が記載され、「本発明は、特に電子装置の表面の接着結合に用いることのできる」ことが記載され、甲第12号証には、「未架橋のシリコーンゴムと、導電性で、且つ平均粒径が10〜5000Åである超微粉金属粒子とを含有することを特徴とする導電性塗料組成物」が記載され、甲第13号証には「エラストマー100重量部に対し、導電性粒子5〜50重量部を配合した組成物を有機溶剤に溶解して成ることを特徴とする導電性エラストマー塗料」が記載され、
「本発明は・・・雑音防止用高圧抵抗電線を構成する・・・」ことが記載されているように、導電性塗料として金属粒子を配合し塗布後にエラストマーを形成するものは周知であり、しかも、「電気装置の部品の分野」において適用上の適正があるものとして周知であることが明らかである。
6 取消事由6(本願第4発明の進歩性の判断の誤り)に対して シリコンゴムの強化剤として「エアロゾルシリカ」つまり合成シリカを使用することは、例えば乙第2ないし第4号証に示されるように周知であり、原告の主張は失当である。
また、上記のとおり、審決は本願第1発明に対して誤った判断をしていないから、この誤りを前提として本願第4発明に対する進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
7 取消事由7(本願第7発明の進歩性判断の誤り)に対して 上記のとおり、審決は、本願第1発明及び本願第4発明に対して誤った判断をしていないから、この誤りを前提として本願第7発明に対する進歩性の判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
理 由1 取消事由1(一致点(内層と外層との「複合」)の認定の誤り)について (1) 構成上の差異について ア 本願明細書には、本願第1発明の構成中の「複合」の用語について、特定の意味として定義する記載は認められず、しかも、本願明細書には「本明細書で使用した言葉遣いおよび用語は、説明のためであって限定するためではないことを理解すべきである。」(甲第2号証の2、6頁下1、2行)と記載されている。
そこで、本願明細書中の特許請求の範囲において、「複合」の用語は、「比較的厚いエラストマーの内層」と「比較的薄いエラストマーの外層」とが「複合されている」と表現され、「複合」は内・外層材料間の関係を規定する用語として使用されていると認められるから、材料分野における技術用語として、普通の意味として使用されていると解すべきである(特許法施行規則24条、様式29〔備考〕7、
8参照)。
そして、材料分野における「複合」とは、一般に、複数の素材を組み合わせることを意味するものであることは当裁判所に顕著であるところ(「岩波理化学辞典(第5版)」1167頁「複合材料」の項目参照)、材料分野における学術文献である日本化学会編「複合材料」化学総説NO8(昭和50年6月5日発行、乙第1号証)をみると、「2.2複合プロセス」として、「複合のプロセスも非常に多種多様であるが、一応の分類を試みると、次の四つを数えることができる。」として、「1.積層、2.混合、3.析出、4.含浸」と分類し、「2.2.1 積層」として、「積層には、1)接着剤による接着積層、・・・3)押出し積層、4)その他、塗装、ドーピング、電着、真空蒸着、スパッタリング、表面重合、表面析出などによる表面層の形成などがある。」と記載されており、複数の材料を組み合わせるものとして、多種、多様な手段があることが認められるのであり、本願第1発明における「複合」の用語もこれと同様に解するのが相当である。
そして、引用例1(甲第8号証)には、本願第1発明の「外層」に該当し得る「導電被覆層2a」が、本願第1発明の「内層」に該当し得る「ゴム状弾性主体」に形成される手段として、「導電被覆層2、2aは化学メッキ処理又は、真空蒸着処理等による金属化手段が最も好ましく、約0.1μ程度の厚さで、ゴム状弾性主体1、1aの外表面に緻密に形成するものである。また導電性塗料による塗布する手段によっても同様に導電被覆層2、2aを得ることができる。」(3頁12行ないし17行)と記載され、「真空蒸着」、「塗料」による形成手段が記載されていることが認められところ、当該手段は、上記文献「複合材料」に記載されているように、「複合材料」の形成手段に相当すると認められるのであるから、引用例1記載の考案における「ゴム状弾性主体」と「導電被覆層」とは「複合」されたものであると認めることができる。
したがって、審決が「導電被覆層」に関して「(内層に)複合されている」と認定し、当該事項を一致点と認定した点に誤りはない。
イ 原告は、本願明細書中の「ガスケット部分14は、・・・ダイ内における複合押出成形によって恒久的に接着される、非金属ではあるが導電性を有するエラストマー内側部16と、金属を充填したエラストマー製外側被膜あるいはカバー18より形成されている」(甲第2号証の2、3頁18行ないし21行、甲第5号証により補正)、「金属粒子を充填したエラストマー18を、・・・エラストマー基体16に化学的に結合することによって」(同4頁19行、20行、甲第6号証により補正)、「両層は分子を共有する形で複合押出成形によって結合されている」(甲第2号証の2、5頁4行)の記載を根拠として、本願第1発明における「複合」の意味は、内層と外層とが単に物理的に結びつけられている場合(弱い結合)を包含しないこと、すなわち、内外層の複合押出成形による結合や、内外層に於ける同じエラストマーを用いて得られる結合に限定されるわけではないが、そのような結合で達成されるような結合強度で、内層と外層が一体化されている状態を指す旨、また、上記乙第1号証中の「合成高分子は、モノマーを出発物質とすることができるので、複合の種々のプロセスを通じて重・縮合という化学操作が重要な役割を果たす」との記載を根拠にして、高分子の場合、「複合」は、複数の材料が単に結びつけられている状態ではなく、モノマーが重・縮合した場合のような、より強固な結合状態を指すことが明らかである旨主張している。
しかしながら、乙第1号証中の原告指摘の記載からは、「複合」には「重・縮合という化学操作」によるものを含むことは理解することができても、上記の全体の記載内容からすれば、これに限られる趣旨ではないことを明らかに読みとることができる。また、本願明細書中の原告指摘の「発明の詳細な説明」中の記載箇所についてみても、本願発明では、特許請求の範囲の請求項1として本願第1発明の構成を、請求項4として本願第4発明の構成をそれぞれ特定して記載した上で、請求項5として、「前記内層と外層とが互いに化学的に結合されている請求項1又は4記載のガスケットシールド。」、請求項6として、「前記内層と外層とが複合押出成形されている請求項1又は4記載のガスケットシールド。」として、内層と外層との複合関係について、その構成をさらに限定して特定したものと理解することができるのであるから、原告指摘の上記の記載箇所は、本願第1発明の「複合」について、原告主張の意味に限定して解釈すべき根拠とすることはできない。他に、本願明細書には、原告の上記主張を裏付ける記載を見いだすことはできないばかりか、
かえって、前記のとおり、「本明細書で使用した言葉遣いおよび用語は、説明のためであって限定するためではない」旨の記載がなされていることからすれば、原告指摘の本願明細書や乙第1号証の記載箇所を根拠として、「複合」の意味を原告主張のように限定して解釈することができないことは明らかであるというべきであって、原告の上記主張はいずれも採用することができない。
(2) 作用効果の差異について 原告が「外層の耐剥離性が著しく高められる」と主張する効果は、原告が主張するように、本願第1発明における「複合」が、重・縮合のようにより強固な結合状態であることを前提する効果であるところ、「複合」が当該結合状態のみを意味するものでなく、接着、塗装、真空蒸着等をも含むことは前判示のとおりであるから、原告の主張は、その前提において失当であり、採用することができない。
(3) 結論 したがって、審決が引用例1記載の考案の「導電被覆層」が「(内層に)複合されている」と一致点として認定したことに誤りはなく、取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点(外層がエラストマーでないこと)についての判断の誤り)について 甲第8号証によれば、引用例1記載の考案は、「各種電子機器の遮蔽用の筐体などのパッキン材または、シール材として用いることができる」(4頁15行、16行)導電被覆構造を有するゴム状弾性体に関するものであり、その構成は、「ゴム状弾性主体の表面全域に亘って導電化された導電被覆層を有する」(同頁13行、
14行)ものであり、当該構成の作用として、「蓋体と容体との接続部に嵌合して使用すれば、完全に金属遮蔽できるので電磁波などによる電波障害を防ぐことができる。ことに中核部分がゴム状弾性主体1、1aであるため開閉部分の間隙の大小の大きさに十分順応して大きさを変形でき、従って気密性が保たれて遮蔽を確実にすることができる。」(同頁3行ないし9行)というものであると認められる。
以上の引用例1記載の考案に係る技術内容によれば、筐体などのシール材として、電磁シールド機能のための導電体とシール作用のゴム状弾性体との二層構造から構成されること、及び、それらが剥離することなく一体的に動作しなければ電磁シールド、シール機能が確実に果たせないことが明らかであり、このことは、本願明細書(甲第2号証の2)中の「・・・これらの目的及びそれら以外の目的は、本発明に従って、大きな強さを有する支持層と、電磁放射を消す、あるいは、減衰する優れた能力を有する比較的薄い被覆層とを、好ましくは複合押出成形によって2層に形成したエラストマーのガスケットを提供することによって達成される。」(2頁28行ないし3頁3行)との記載と同様の構造と作用効果であると認められる。
そして、導電体としての導電性エラストマーは、甲第10ないし第13号証として挙げられているように周知であるから、導電体の選択肢から導電性エラストマーを除外すべき技術上の理由は認められないばかりではなく、審査における拒絶査定の備考欄(甲第3号証)にも、本願発明と同様のガスケットシールドの電磁シールド機能用の導電体として、導電性エラストマー(導電ゴムシート)が用いられていることが記載されている。
そうすると、ガスケットシールドに用いられる電磁シールド用の導電体として導電性エラストマーを採用する契機は十分に存在するものであるというべきであるから、これに反する原告の主張は採用することができない。
付言すると、物体相互間の熱膨張係数差等による応力によって、亀裂、剥離等が生じ得ることは技術常識に属することが明らかであるところ、当該係数等の物理的性質が同様であるか又はその相違が小であれば、この亀裂、剥離等の可能性が低くなることも、当業者にとつて明らかであると認められるから、この知見からすれば、外層部材としては、電磁シールド機能の観点から導電性を具備し、かつ、亀裂・剥離防止等の観点から内層部材と物理的性質が同様、又は近似する部材が要請されることがあることは明らかであるというべきである。 したがって、外層部材として、導電性を有し、かつ、エラストマーからなる内層部材と同様又は近似する性質を有する部材として、導電性エラストマーを選択することは、当業者であれば容易に想起し得ることであると認められる。
また、原告は、甲第10ないし第13号証は、各々導電ウレタン系エラストマー塗料、シリコーン系エラストマーの導電性組成物、導電性エチレン/アクリル系エラストマー塗料であり、これらのものは、引用例1に記載される内層の材料としてのゴム紐とは強い親和性を示しはしないから、内装と外層は「複合」しない旨主張する。
しかしながら、本願第1発明や引用例1記載の考案における二層の材料間の「複合」には、原告が主張する複合押出成形による結合等のより強固な結合に限定されるものでなく、接着、塗装、真空蒸着等も含まれるものであることは、前判示のとおりであるから、導電ウレタン系エラストマー塗料、シリコーン系エラストマーの導電性組成物、導電性エチレン/アクリル系エラストマー塗料等の導電性エラストマーを、引用例1記載の考案における内層と「複合」させることができないとする技術的理由は認め難く、原告の上記主張も採用することができない3 取消事由3(相違点(内層及び外層の特定事項の不存在)の判断の誤り)について (1) 本願第1発明における内外層比10対1との構成について 原告は、甲第14及び第17号証より、本願第1発明において、内外層比を10対1とするときに優れた性能を示すことが明らかである旨主張している。
そこで、甲第14号証及び第17号証をみると、同各号証には、内外層比を変化させた値と、25%圧縮時における圧縮歪み力及び電気抵抗について、前者の値が2 lbs./inch以下、0.5 lbs./inch以上、後者の値が0.100オーム以下を満足させる内外層比は、約10対1であるとみられる試験結果が示されている。
さらに、原告は、この圧縮歪み力2 lbs./inch以下、0.5 lbs./inch以上、電気抵抗が0.100オーム以下とした根拠として、甲第18、第19号証を提出している。
しかしながら、甲第18号証には、シリコン芯部の上に、銀充填エラストマーが施された電磁障害ガスケットが、約30メガヘルツ超において60-80デシベルの遮蔽有効性があること、及びその圧縮-歪み特性について、歪み0%から60%の範囲において、圧縮(ポンド/インチ)が非直線特性を示すグラフが記載されているだけで、25%圧縮時に、圧縮歪み力2 lbs./inch以下、0.5 lbs./inch以上とする根拠は明記されていない。
また、甲第19号証には、「以下の表は、あなたの用途のための最適な設計範囲をあなたが見出すのに役立つことが意図されている。」、「この頁の全てのデータは、・・・典型的な値として解釈されるべきである。」と記載され、当該表には、
銀ファブリック/高弾性ウレタンフォーム、C2ファブリック/高弾性ウレタンフォームについて、圧縮が10、20、30、40、50%の5段階についてオーム-インチ、ポンド/フートの各値が各々記載されている。しかしながら、圧縮を25%とした段階は記載されていない。しかも、25%圧縮時に、圧縮歪み力2 lbs./inch以下、0.5 lbs./inch以上とする根拠、及び電気抵抗がが0.100オーム以下とする根拠は示されていない。
以上のとおり、甲第18、第19号証では、圧縮が25%である段階が記載されておらず、圧縮が10から50ないし60%までが設計範囲、すなわち使用範囲として記載されていること、及び、圧縮-歪み特性が非直線特性を持つものであるとの記載から圧縮が25%のときの特性値が代表値であるとは認められないものである。
それにもかかわらず、甲第14号証及び第17号証には、25%圧縮のみの評価しか記載されていない。しかも、これらの試験結果報告書からも、内外層比10対1が他の使用圧縮範囲においても最適であることを証する点、並びに、圧縮歪み力2 lbs./inch以下、0.5 lbs./inch以上及び電気抵抗が0.100オーム以下という限定が技術的意義を有することは、いずれも認めることができない。
このように、甲第14号証及び第17号証に示された内外層比10対1の構成は、少なくとも、圧縮率25%の限定値を前提とするものであるところ、本願第1発明には、当該圧縮比の限定はなされておらず、しかも、上記の各証拠によっては、当該限定の技術的意義は認められないのであるから、本願第1発明における内外層比10対1という構成について、原告が主張するような技術的は意義を肯定することはできず、この構成を単なる設計的事項であるとした審決の判断が誤りであるとは認め難い。
(2) 本願第1発明における8ミル以下との構成について 原告は、本願第1発明における「8ミル以下」との要件においても、当然一定の下限が要求されるのであり、引用例1の外層厚さは、本願発明においては考えられない厚さであるから、引用例1を根拠に内外層比を10対1とすることは容易になし得ない旨主張し、この主張に沿う証拠として、甲第15号証(原告代表者作成の1999年6月29日付け宣誓供述書)を提出している。
甲第15号証には、外層の厚さに関して、「私は、そもそも例えば約0.1ミクロンの大きさの銀製の球形状粒子であり乾燥粉末状のものなど市販されていないと理解している」(訳文3頁16行ないし18行)、「如何なる実用的及び使用上の観点からみても、1ミクロンを下回る大きさの粒子を使用し金属充填エラストマーによりなる外層を構成することにより良好な遮蔽素材がもたらされることはあり得ない。」(同4頁2行ないし4行)と記載されている。
しかしながら、本願第1発明においては、充填金属として「銀」との限定はされていない。しかも、周知技術例として挙げられた甲第10号証には、有機バインダーと導電性粉末とを含有した帯電防止用透明塗料において、「導電性粉末は酸化錫を主成分としその粒径が0.2μmを下回り、そのことにより上記目的が達成される。」(2頁右上欄12行ないし14行)と記載されており、金属粒子充填の導電性エラストマーとして1ミクロン以下の金属粒径を用いることが記載される。しかも、1ミクロン以上、以下の金属粒径の性能比較について、本願明細書には記載されていないばかりでなく、当該「性能」の相違を証する記載も認められない。また、原告は外層厚は2ミルを下限とするとも主張しているが、このことについても、本願明細書には何ら記載されていないし、また、本願第1発明は、エラストマーに充填する金属粒子径や外層の厚さの下限を特定する構成をとるものではない。
なお、原告は、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に「比較的薄いエラストマーの外層」と記載されていることをもって、本願第1発明におけるエラストマーの外層に下限があることを裏付けている旨主張しているが、上記の記載のみをもって、本願第1発明におけるエラストマーの外層の厚さの下限を特定するものと認めることができないことは、その文言上明らかであるというべきである。
したがって、原告の上記主張も採用することができない。
4 取消事由4(効果の看過)について 原告が主張し、本願明細書にも記載されるような物理的性質(引裂力、圧縮歪)等の効果は、エラストマー自体が保有するものであることが明らかである、弾性、
伸びが大、耐久性大、耐摩耗性等の特性(共立出版株式会社発行「化学大辞典1」983頁の「エラストマー」の項目参照)によるものであると認められるから、当業者であれば、外層にエラストマーを採用することによって当然に予測できる程度の効果であると認められる。
また、原告主張の金属を充填した外層を単独でシールド材として使用した場合に生じる物理的性質の貧弱化を克服するという効果は、本願明細書(甲第2号証の2)中に、「現在入手可能な4種類のタイプのキャビネットシールド手段がある。
これらは以下のとおりである」と記載され、その「金属を充填したエラストマー」に関して「物理的性質が貧弱(圧縮歪み、引裂きなど)」(2頁9行ないし16行)、「金属充填剤はエラストマーを強化することなく、希釈剤として作用する」(4頁15行、16行)、「これらの目的及びそれら以外の目的は、本発明に従って、大きな強さを有する支持層と、電磁放射を消す、あるいは、減衰する優れた能力を有する比較的薄い被覆層とを、好ましくは複合押出成形によって2層に形成したエラストマーのガスケットを提供することによって達成される。」(2頁下から2行ないし3頁3行)と記載されていることから明らかなように、導電性エラストマーとエラストマー内層との機能別の二層構造とすることによる効果であると認められる。
一方、引用例1記載の発明では、引用例1(甲第8号証)中に、「蓋体と容体との接続部に嵌合して使用すれば、完全に金属遮蔽できるので電磁波などによる電波障害を防ぐことができる。ことに中核部分がゴム状弾性主体1、1aであるため開閉部分の間隙の大小の大きさに十分順応して大きさを変形でき、従って気密性が保たれて遮蔽を確実にすることができる。」(4頁3行ないし9行)、「この考案によれば、ゴム状弾性主体の表面全域に亘って導電化された導電被覆層を有する」(同頁13行、14行)と記載されていることから、間隙の大小の大きさに十分順応して大きさを変形できる中核部分のゴム状弾性主体1、1a、すなわち、エラストマーの特性の内層と、電磁シールド機能の導電体外層という機能別の二層構造とされているのであるから、この外層を上記の本願第1発明におけるような導電性エラストマーに代替することによって、原告主張の効果は当然に奏するものであり、
しかも、その効果は、当業者にとって容易に予測し得る範囲内のものであると認められる。
以上のように、原告主張の効果は、いずれも格別のものとは認めることはできず、原告の主張は採用することができない。
5 取消事由5(特許法159条違反)について 特許法159条2項の規定により審判官が再度拒絶理由の通知をすることを要するか否かは、拒絶理由通知制度の趣旨が、審査官又は審判官が出願を拒絶すべき理由を発見したときに、出願人に対しその旨を通知することによって、出願人に意見書及び手続補正書を提出する機会を与え、もって特許出願制度の適正妥当な運用を図ることにあるから、改めて通知をするのでなければ、出願人の防御権行使の機会を奪い、出願人の利益保護に欠けることになるか否かを考慮して判断すべきである。
そこで、以上の観点から、審決が周知技術として認定した事項について検討する。
審決は、周知事項として、導電性塗料として金属粒子を配合し塗布後にエラストマーを形成することを認定しているが、本願発明が物の発明であることを勘案すれば、審決が、形成方法ではなく、形成された物として「金属粒子充填の導電性エラストマー」を周知事項として認定したものであることは明らかである。このことは、周知技術例として提示した甲第10号証に「本発明の帯電防止用透明塗料は有機バインダーと導電性粉末とを含有し、該有機バインダーは水酸基含有共重合体とウレタンエラストマーとを主成分とし」(2頁右上欄7行ないし10行)と記載されているように「導電性エラストマー」が周知技術例として挙げられており、同じく甲第13号証にも、「導電性エラストマー」が記載されていることからも明らかである。
そして、審決が周知事項と認定した「金属粒子充填の導電性エラストマー」と同様の「導電性エラストマー」が「電磁シールド」用導体として用いられることは、
審査における平成7年5月8日付け拒絶査定の備考欄(甲第3号証)に「先の引用例[実願昭59-165084(実開昭61-79597号)のマイクロフイルム]には、厚さ2oのエラストマー(導電ゴムシート)の外側表面に厚さ約8ミル以下(0.076o厚さ)のエキスパンドメタル等の金属を埋設して形成した、金属を充填した厚さ8ミル以下の外層と、該外層の10倍より厚いエラストマーの内層とから成るガスケットシールドが記載されている。」と記載されているように、
審判における平成9年7月23日付拒絶理由通知の以前に出願人である原告に通知されていることが認められる。
しかも、当時、拒絶理由の対象となった発明には「金属粒子充填の導電性エラストマー」は発明の構成とはなっておらず、当該拒絶理由通知後の手続補正により当該構成が付加されたものであることは、被告が指摘するとおりである。
そうすると、審判における拒絶理由の対象となった本願第1発明、本願第4発明及び本願第7発明は、拒絶理由通知の当時には、「導電性エラストマー」の構成が付加されていなかったために、当該拒絶理由には、「導電性エラストマー」については記載されていなかったのではあるが、「導電性エラストマー」は、前判示の弾性・導電性等の特性から変形を受ける箇所の導体として用いられることは、例えば、拒絶査定に上記のとおり記載された実願昭59-165084(実開昭61-79597号)のマイクロフイルムに記載されるように、一般的な使用態様であることは明らかであり、しかも、拒絶査定の備考欄として、これを引用して、「エラストマーの外側表面に金属を埋設して形成した外層、外層の10倍より厚いエラストマーの内層」という記載が出願人である原告に通知されていたことを考慮するならば、原告がその後の審判における拒絶理由に接した際に、エラストマー内層に対する外層である「電磁シールド」用導体として、「導電性エラストマー」を選択する点についても示唆されていたと評価することもできるのであり、「電磁シールド」用部材としての「導電性エラストマー」の周知性に対する原告の防御権の行使に実質的に影響を及ぼすような手続違反があることを肯定することはできない。
以上によれば、審決には、原告主張の特許法159条2項の規定違反の事由は認めることができず、原告の主張は採用することはできない。 なお、「導電性エラストマー」自体の周知性について、原告は、本願発明は、電子装置用ガスケット・シールドであるから、電気装置の部品の分野であり、他方、
周知技術例として挙げられた甲第10ないし第13号証は、各々帯電防止塗料、接着性導電性組成物、導電性塗料組成物、導電性エラストマー塗料を開示するもので、何れも化学の分野に分類されるものであるから、「導電性エラストマー」に係わる技術は、引用例1(甲第8号証)の技術分野である「電気装置の部品の分野」に開示された考案と組み合わせるに適した技術、すなわち周知技術であるとはいえず、さらに、電気装置の分野において「導電性エラストマー」に関する多数の公知文献が存在していたといえず、当該業界においてよく知られていたともいえない旨主張している。
しかしながら、甲第10ないし第13号証に記載された導電性エラストマーは、
何れも「導電性・・塗料、組成物」と電気伝導に関する特性を具備する部材である以上、電気装置の部品に相違しないものであると認められるから、甲第8号証の電気装置の部品と関連する技術分野であることは明らかであり、また、「導電性エラストマー」に関する文献は少なからず存在するものであり、その周知性を優に認定することができるものであるから、原告の上記主張も採用することはできない。
6 総括 以上のとおり、原告が本願第1発明について主張する審決取消事由は、いずれも理由がないから、審決が、本願第1発明について、引用例1記載の考案に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした判断に誤りはない。
したがって、その余の原告の主張(本願第4発明及び本願第7発明に係る審決取消事由)について判断するまでもなく、本願発明の特許出願に対する拒絶査定について、不服の審判請求を成り立たないものとした審決に誤りはないことに帰着する。
7 結論 以上の次第で、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史