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関連審決 審判1999-16997
関連ワード 容易に実施 /  発明の詳細な説明 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 394号 審決取消請求事件
原告 【A】
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第16997号事件について平成12年9月14日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成2年6月22日、名称を「単極誘導における銅円板の内部に空間を作りその空間を真空にすることによる蓄電方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平2-162572号)が、平成11年10月5日に拒絶査定を受けたので、同月22日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成11年審判第16997号事件として審理した上、
平成12年9月14日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年10月6日原告に送達された。
2 本願発明の要旨 単極誘導における銅円板(1)を二枚重ねにして、その銅円板(1)の内円周及び外円周部分に銅輪(2)、(3)をはさみ、二枚の銅円板(1)の間に空間(4)を作り、その空間部(4)を真空にして、銅円板(1)を回転して発電させたときに、使用した電気の余りの電気を真空部分(4)に蓄電する方法 3 審決の理由 審決は、本件明細書の記載が、「エーテル」の実在及びボイル・シャールの法則の金属体中における適用を前提とするところ、これらが定説に反するものであり、かつ、その定説を覆す根拠も示されていないから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条3項(注、平成2年法律第30号による改正前の特許法36条3項の趣旨と解される。)に規定する要件を満たすものではなく、本件出願は拒絶されるべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
1 審決は、エーテルの実在及びボイル・シャールの法則の金属体中における適用を肯定することができないことが定説であるとする誤った見解に基づき、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術事項を誤認して(取消事由)、本件明細書の発明の詳細な説明には記載不備がある旨の誤った判断をしたものであるから、
違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(技術事項の誤認) (1) 審決は、「本願明細書の記載が『エーテル』の存在、及びボイル・シャールの法則の金属体内への適用を前提としており、これらが定説に反するものあることが明らかである以上、明細書の詳細な説明に、当業者が特許請求の範囲に記載のものを、容易に実施できる程度に記載されているとはいえないといわざるを得ない」(審決謄本2頁30行目〜34行目)とするが、以下のとおり、誤りである。
(2) 本願発明は、ファラデーの発見した単極誘導における銅円板の内部に空胴を作り、その空胴を真空にすることにより、銅円板を回転して、発電させたときに、使用した電気の余りの電気を真空部に蓄電させる方法であり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載の内容は次のとおりである。
本願発明は、金属体中におけるボイル・シャールの法則の適用及びエーテル説の適用を前提として作り上げられている。いかなる気体原子より成る理想気体もボイル・シャールの法則を満たしている理由として次のア、イの仮説を導入する。
ア エーテルは膨張・収縮性のある流動体で、あらゆる空間を充たしており、理想気体がボイル・シャールの法則を満たしているのは、気体原子ではなく、
そこに介在するエーテルである。
イ エーテルはボイル・シャールの法則 を満たし、
を満たす。
以上の仮説に基づいて説明する。銅円板を冷却すると、銅円板の体積は、
ほとんど変化しないのに、温度は低下するから、仮説イ エーテル密度(c)×温度(T)=k・圧力(P) (kは定数) より、金属体中の圧力が、それにつれて低くなるか、エーテル密度が濃くなる。
ここでのエーテル密度は自由電子の密度を意味しており、金属体中の圧力が低くなれば、エーテル、すなわち、自由電子をそこに導入しやすくなり、また、
それにより圧力が増せば、エーテル密度、すなわち自由電子密度が濃くなることを意味するから、単極誘導において大電流が得られやすくなる。
しかるに、二枚の銅円板及び二つの銅輪で囲まれた空間部を真空にすると、銅円板内の銅原子間にあるエーテルの圧力と空間部の圧力差により、銅円板に流れる電流の余剰分が、その空間部に流れ込み、空間部の圧力が高くなると、逆に銅円板に電流が流れて、そこに蓄電的効果を生じさせる。
(3) 以上のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は十分であり、これを記載不備とした審決の判断は誤りである。光は横波ではなく、光の進行方向に平行な正弦波の主軸を中心とした正弦波を軸の回りを一回転してできる振動子の波であり、ホイヘンスのエーテル説を認め得るはずである。もし、電子が粒子であり、
しかも、電子の運動が横波であると主張するならば、その粒子が、なぜ、正弦波を描くのか、その運動の根拠を指摘しなければならない。また、原告は、本件審判請求書において、光速度は媒質によって異なり不変でない事実、ホイヘンスの光の波動説及びマクスウェルの光の電磁場説を指摘しているが、審決がそれに対する応答を一切していないのは、定説を単に理由なしに信じ込んでいるにすぎない。以下、
さらに詳説する。
(4) ボイル・シャールの法則の金属体中における適用について 現在、ボイル・シャールの法則は気体の法則として定説になっているが、
それに密度を挿入した式、すなわち、
が満たされて、気体の法則が完成される。なお、密度には、気体分子密度とエーテル密度があるが、気体の法則においては、エーテル密度を指している。この気体の法則を用いて、単極誘導理論を述べる。
エーテルは、膨張収縮性のある流動体で、気体の法則(1)式を満たす。
すなわち、単極誘導における銅円板は、それを冷却しても体積はほとんど変化しないから、(1)式の体積Vは、ほぼ一定で、定数とみなしてよい。すなわち、
(1)式は、
となり、温度Tを低下させると、銅円板内の電子圧力、すなわち、エーテルの圧力Pが低くなるか、エーテル密度Dが濃くなる。圧力Pが低くなることは、銅円板にエーテル、すなわち、電子が入りやすくなることを意味し、密度Dが濃くなることは、銅円板に多量の電子が含まれることを意味するから、銅円板を冷却すると大電流が得られるようになる。
また、電気抵抗の温度による変化に、
r=r0(1+βt) (r、r0はt℃、0℃における比抵抗、βは抵抗の温度係数で約1/273K-1)があるが、これを整理して、T 0=273とすると、
すなわち、
となる。
また、オームの法則、V(電圧)=R(抵抗)×J(電流)より、導線に流れる電子に関して、抵抗は導線の長さlに比例して、断面積Sに反比例するから、(3)式より、
(lは導線の長さ、Sは導線の断面積) となり、J(電流)は電子密度Dに比例し、V(電圧)は導線に流れる電子の圧力Pとみなされる。よって、これらをオームの法則に代入して、
(a、bは定数) となる。そうすると、(4)式は(2)式に一致するから、抵抗の温度係数βが気体の膨張率1/273K-1に等しいのは、単なる偶然ではない。したがって、ボイル・シャールの法則は金属体中においても適用される。
また、電子気体にはフェルミ統計が適用されるのは事実であるが、フェルミ統計は、気体の法則、すなわち、
の一部を構成しているのである。フェルミ統計は、低温低振動領域において適用されるのであるが、低振動とは、準定常電流における部分を意味しており、気体の法則における低温低圧のことを指している。そして、黒体において、空胴放射における放射線を測定するのであるが、黒体には、細穴から放出されるエーテルの波長は測定できても、密度D及び体積Vを測定できない不備な面を持っている。いずれにしても、電子気体はフェルミ統計を満たし、フェルミ統計は気体の法則の一部を構成するものである。
(5) エーテルの実在について まず、電気に関するガウスの法則の応用によって、クーロンの法則の成り立ちを述べる。クーロンの法則は、
であり、ε。は真空中の誘電率であるが、実際には真空ではあり得ない。なぜならば、エーテルは、あらゆる空間に存在し、分子内をも通り抜けられる流動体であるからである。
よって、ガウスの法則において、任意の閉面内における電子の総和を真空の誘電率で除したものは、その電子が真空とされるエーテル密度の濃度の倍率を意味する。そして面積積分と体積積分とを関係づけるガウスの積分定理 より、任意の閉面内において、空間の電荷がゼロに近い場合、すなわち、いわゆる真空の誘電率ε。の場合、電荷q1に関する体積積分は、
となり、また、q1よりq2までの距離rに至る球面積4πr2上に及ぼす電場の強さは、
となる。したがって、強さEの電場の中にある電荷q2の受けるクーロン力は、
となる。
以上のことより、エーテルは、あらゆる空間に存在することが認められる。
(6) なお、被告が引用する乙第2号証の文献中には、【F】の実験について、
これは地球のエーテルに対する相対速度の測定を試みたものであると述べられているが、地球上のエーテルも、ほぼ地球の速度と同じ速さで運動しているので、エーテルの相対速度を測定できないのは、当然である。すなわち、卑近な例で述べれば、動いている船上に立っている人の速度を、船上で計っているようなもので、人が船の進行方向に動こうが、船の横方向に動こうが、船が一定速度で動いている限り、人の歩く速度に変わりはない。【F】の実験でエーテルに対する相対速度の測定差が出ないのは当然であり、乙第2号証記載の定説は誤りである。
被告の反論
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。
2 取消事由(技術事項の誤認)について 原告のいずれの主張及び証拠も、光等の電磁振動を伝達するエーテルと称される媒質の存在を前提とするものであるところ、これが存在しないことが定説となっていることは、平成元年6月25日丸善株式会社発行の「MARUZEN 物理学大辞典」92頁(乙第2号証)に、「現在では、エーテルが存在するといういかなる証拠もない」と記載されているように、明らかである。なお、原告の別の発明(昭和59年12月7日出願、名称は「単極誘導における銅円板の低温冷却による効率的発電方法」)に係る特許出願に対する拒絶査定についての不服審判請求を不成立とした審決を維持した当庁平成6年(行ケ)第22号審決取消請求事件の判決(乙第1号証)においても、「かつては存在するものと考えられていた『エーテル』は実在しない、というのが今日の定説である」と認定されている。
当裁判所の判断
1 取消事由(技術事項の誤認)について 平成11年3月30日付け手続補正書による補正後の本件明細書の発明の詳細な説明中には、「本発明は金属体内でのポイル・シャールの法則(注、「ボイル・シャールの法則」の誤記と認める。)の適用、及びエーテル説の適用を前提として作り上げられている。」(甲第2号証明細書1頁13行目〜15行目)、「エーテルは膨張・収縮性のある流動体で、あらゆる空間を充しており」(同1頁18行目〜19行目)、「銅円板(1)を冷却すると・・・単極誘導において大電流が得られやすくなる。」(同2頁7行目〜3頁1行目)、「二枚の銅円板(1)及び、二つの銅輪(2)(3)で囲まれた空間部(4)を真空にすると、銅円板(1)内の銅原子間にあるエーテルの圧力と空間部(4)の圧力差により、銅円板(1)に流れる電流の余剰分が、その空間部(4)に流れ込み、空間部(4)の圧力が高くなると、逆に銅円板(1)に電流が流れて、そこに蓄電的効果を生じさせる。」(同3頁2行目〜8行目)との記載があることが認められ、本願発明がエーテルの実在を前提とし、本件明細書の発明の詳細な説明もその前提で記載されていることは明らかである。
しかしながら、前掲「MARUZEN 物理学大辞典」92頁(乙第2号証)の「エーテル仮説」の欄には、「19世紀に、【G】と彼の同時代の人々は、
波動運動が真空中を伝播するということを想像することもできなかった。そこで彼らは、エーテルと称するある媒質が空間を満たし、それが電磁振動を伝達すると仮定した。19世紀の後半に、何十ものモデルが提出されたが、すべてなんらかの点で破綻してしまった。・・・絶対エーテル座標系の存在を直接実験によって立証しようとする試みはすべて失敗した。このような実験のうちで最もよく知られているのは【F】の実験で、これは地球のエーテルに対する相対速度の測定を試みたものである。・・・現在では、エーテルが存在するといういかなる証拠もない。」との記載があり、これによれば、エーテルはかつては実在するものと考えられていたが、現在ではエーテルが存在するという根拠は一般に承認されおらず、エーテルは存在しないというのが今日の定説ということができる。
そうすると、この定説を覆す特段の理由がない限り、エーテルの存在を肯定することはできないというべきところ、この点に関し、原告は、上記第3の2(5)のとおり主張した上、証拠として自己作成の説明文書(甲第4、第9号証)や別件の特許出願に係る明細書及び図面(甲第6、第7、第10、第11号証)を提出するにとどまり、その内容も、導出根拠の明確でない式を根拠とするものであって、その理論的な正統性が広く承認されていることを認めるに足りる証拠もない。したがって、これをもって前示定説を覆す特段の理由とすることは到底できないから、原告の主張は独自の見解というほかはない。
また、銅円板を冷却することにより、大電流が得られやすくなり、二枚の銅円板及び二つの銅輪で囲まれた空間部を真空にすると、蓄電的効果を生ずるという、本件明細書の発明の詳細な説明中に記載された技術事項を実証する実験結果等も何ら提出されていない。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に本願発明を実施することができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているということはできない。
2 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利