審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成12ワ11471特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成10ワ13560特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14ワ10511特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成11ワ3857損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ11470特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 技術的範囲 / 出願公開 / 特許の有効性 / 技術常識 / 共有 / 権利の濫用(権利濫用) / 技術的意義 / 実施 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(ワ)
17601号
特許権侵害差止等請求事件
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原告 大日本印刷株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁護士 赤尾直人 補佐人弁理士 内田亘彦 同 蛭川昌信 被告 ゼネラル株式会社代表者代表取締役 【B】 訴訟代理人弁護士 久保田 穰 同 増井和夫 補佐人弁理士 岡部正夫 同 臼井伸一 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2001/03/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 被告は,別紙原告物件目録記載の感熱転写シートの製造及び販売を行ってはならない。 2 被告は,原告に対し,金4億8000万円及びこれに対する平成11年8月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 争いのない事実等 (1)ア 原告は,印刷業務及び印刷を行うために必要な物品の製造販売などを目的とする株式会社である。 イ 被告は,印刷用の物品の製造販売などを目的とする株式会社である。 (2) 原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。また,本件特許権に係る明細書(甲2の2)を,「本件明細書」という。)を,ザ・インクテック株式会社と共有している。 登録番号 第2007443号 発明の名称 感熱転写シート 出願日 昭和59年12月18日 出願公告日 平成5年11月18日 登録日 平成8年1月11日 特許請求の範囲請求項1 「ベースフィルム面上にマット層を設け,且つ該マット層上にマット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって,該マット層が下記の成分A,B,C A 熱可塑性樹脂,またはOH基,またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂にアミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートを加えた樹脂, B 無機顔料の微粉末からなるマット剤, C 導電性粉体 からなり,該マット層の平均マット深度が0.15〜2μであり,且つ該マット層の表面抵抗値が109Ω以下であることを特徴とする感熱転写シート。」 (3) 本件考案の構成要件は,次のとおり分説される(以下「構成要件ア」などという。)。 ア ベースフィルム面上にマット層を設け,且つ該マット層上にマット層から剥離する熱溶融性インキ層を有している感熱転写シートであって, イ 該マット層が下記の成分A,B,C A 熱可塑性樹脂,またはOH基,またはCOOH基を有する熱可塑性樹脂にアミノ基を2個以上有する化合物またはジイソシアネートを加えた樹脂, B 無機顔料の微粉末からなるマット剤, C 導電性粉体 からなり, ウ 該マット層の平均マット深度が0.15〜2μであり,且つ該マット層の表面抵抗値が109Ω以下であることを特徴とする エ 感熱転写シート。 (4) 被告は,平成7年1月ころから,感熱転写シートを製造販売している(弁論の全趣旨)。 2 本件は,本件特許権を共有している原告が,被告に対し,被告の製造販売している感熱転写シートは本件発明の技術的範囲に属するから,その製造販売は本件特許権の侵害であると主張して,その製造販売の差止め及びこの侵害による損害の賠償を求める事案である。 |
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争点及びこれに関する当事者の主張
1 争点 (1) 被告の製造販売している感熱転写シートの特定 (2) 被告の製造販売している感熱転写シートが,構成要件アの「剥離する」を充足するか (3) 被告の製造販売している感熱転写シートが,構成要件ウの「平均マット深度が0.15〜2μ」を充足するか (4) 先願の抗弁の成否 (5) 本件特許の有効性 (6) 損害の発生及び額 2 争点に対する当事者の主張 (1) 争点(1)について (原告の主張) 被告の製造販売している感熱転写シートは,別紙原告目録記載のとおりである。 (被告の主張) 原告の上記主張は否認する。 (2) 争点(2)について (原告の主張) 「剥離」は,インキ層がマット層から完全に分離することを意味しない。 一般に,完全な分離でなくとも,圧倒的多数の素材が離れた状態になれば,それを「剥離」と評価することが可能である。 本件発明において,加熱による転写では,一部のインキがマット層に付着して残存することが当然に生じうるし,インキ層が完全に分離しなくとも,マット層表面の凹凸形状を反映した転写及び印字がなされれば,本件発明の作用効果を奏することができる。 本件明細書にも,「剥離」がインキ層の完全な分離を意味するとの記載はなく,「加熱時に剥離性がよいことが必要である。」(公報5欄3ないし4行)との記載は,部分的にインキが残存することを前提にしている。 (被告の主張) 本件発明は,マット層表面の凹凸形状を反映した転写及び印字がなされることで,つや消しの効果を生じさせるものであるから,インキ層は,この効果を奏するため,完全にマット層から剥離しなければならない。 本件明細書においても,加熱時に剥離性が高いことが必要である旨の記載など,インキ層がマット層から完全に分離することに留意した記載がある。 したがって,「剥離」は,マット層とインキ層が実質上完全に剥離することを意味するが,構成要件ウの「平均マット深度が0.15〜2μ」との要件が本件発明の核心であることからすると,「剥離」は,平均マット深度の測定方法と同一の測定方法によって,0.01μmを越えるインキ層の残存あるいはマット層の剥げがないことを意味すると解すべきである。 被告の製造販売している感熱転写シートは,インキ層がマット層から完全に分離せず,印字後アンダーコート上にインキが残留するから,「剥離」を充足しない。 (3) 争点(3)について (原告の主張) ア 「マット」には,つや消し面という意味があり,また,反射面において凹凸面が形成されることでつや消し効果が生じることは,当業者における技術常識に該当する。 本件発明において,マット層に凹凸が形成されることは,マット剤として粒状の無機顔料を使用することから明らかであるし,本件発明が,マット層から剥離して転写されたインク表面における適切なつや消し効果を目的とすることは,本件明細書において,発明の効果として,つや消し印字等を行うことができる旨の記載があること,実施例においてマット層を使用したものとしないものとで光沢度が異なる旨の説明がなされていることから明らかである。 このように,本件発明がつや消し効果を目的とし,この効果が,マット層の表面粗さに由来している以上,「平均マット深度」は,マット層における表面粗さに基づく深さの平均値を意味し,また,当業者も,この意味を,当然に察知することができる。 イ マット層における表面粗さに基づく深さの平均値を算出するには,必然的に基準となる位置が存在しなければならないが,この基準位置は,マット表面を平均に均した平坦面と解すべきである。なぜなら,凹凸が存在しない場合には,全くつや消しの効果が生じず,平均マット深度が0であるので,この平坦面を基準位置とすべきであるからである。そうすると,「平均マット深度」は,表面の凹凸形状を均したことによる平坦面に対する凹部及び凸部の深さの程度の平均値を意味することになる。 本件明細書には,マット層の膜厚について,「好ましい平均マット深度0.15〜2μを確保する上でも,0.2μ以上の厚さが必要である」との記載がある(公報第5欄6〜7行)から,「平均マット深度」の程度を規律する基準位置と,マット層の膜厚を規律する基準位置は,同一でなければならないところ,ここでいうマット層の膜厚は,凹凸の表面を均した平均値である。このことは,@マット層の膜厚の上限値について,本件明細書に,「3μを超えると熱感度が低くなる。」(公報5欄7〜8行)との記載があるところ,熱感度がマット層の厚さによって左右されるのは,熱がマット層を伝達する際に,マット層における熱抵抗に伴って吸収されることに由来するが,このような吸収は,マット層の平均厚さによって規律されること,A本件明細書の実施例において,「コート量1g/uで塗布した。」と,マット層の厚さを「g/u」の単位による平均厚さで表現していること,B本件明細書において,ベースフィルムの厚さは平均厚さによって表現されていると解されること,C本件特許出願当時に存在した感熱転写シートの厚さに関する特許公報(別表1ー1,1-2)において,厚さを「g/u」と平均値で表したものが複数あること,D本件特許出願当時に存在した塗装に関する技術文献(甲79)において,塗膜の厚さの表示は原則として平均値である旨記載されていること,E本件特許出願後に制定された塗料の膜厚測定に関するJIS規格において,本件特許出願時の技術常識を採用して,膜厚を平均値で求める旨規定されていることから明らかである。 ウ 「平均マット深度」の測定基準は,本件特許出願時に存在した基準であって,工業製品全般の表面粗さに適用し得るものとして,昭和59年12月18日当時のJIS規格であるJIS B0601規格(以下「旧JIS規格」という。)の中心線平均粗さ方法によるべきである。 (ア) 中心線平均粗さ方法は,「表面粗さ」を,対象面からランダムに抜き取った各部分における所定の計算方式に基づく算術平均値と定義し,被測定面における断面曲線から,所定の波長より長い表面うねり成分を除去した曲線を粗さ曲線と定義し,粗さを形成する凹凸面を均した平坦面における直線を中心線又は平均線として設定した上で,所定の測定長さにおける粗さ曲線の積分計算を行って,所定の測定長さにおける凹部及び凸部の深さの程度による平均値を表す方法であるから,「平均マット深度」の定義に合致する。 中心線平均粗さ方法においては,うねり成分の波長を除去(カットオフ)のするが,このような波長は,コーティングムラやコーティングの外傷によって生じるものであって,本件発明の想定する凹凸形状形成要因ではなく,また,明らかにつや消しには寄与しないから,除外する方が適切である。旧JIS規格では,経験則及び客観的推定に立脚し,中心線平均粗さの範囲によって,カットオフの基準値を定めているから,このような基準値を採用することに何らの不合理性はない。 中心線平均粗さ方法による0.15μmが,急激なつや消し効果の現象に至らないための下限値であり,中心線平均粗さ方法による2.0μmがインキ層とマット層との剥離性維持及び適切な解像度を得るための上限値であることは,実際の実験の結果からも認められる。 原告は,昭和58年11月8日,本件特許の出願に先立ち,感熱転写シートの特許の出願(特願昭58ー208306,以下「原告先願」という。)をし,この出願においても,「平均マット深度」との用語を用いているが,その実施例において,中心線平均粗さ方法による測定を行っている。この実施例の測定が中心線平均粗さ方法によることは,この実施例におけるマット層の厚さの記載から,又は,この実施例を追試することにより,当業者が容易に把握し得る。本件特許は,その出願審査過程において,この先願発明との対比を経た上で権利付与されたものであること,被告が本件特許の無効審判において本件発明とこの先願の「平均マット深度」の同一性を主張していることからすると,この先願を本件特許の「平均マット深度」の斟酌に用いることは十分許容される。 (イ) 旧JIS規格の十点平均粗さ方法は,以下の理由から,「平均マット深度」の測定方法として適当でない。 十点平均粗さ方法は,凹部及び凸部の概略の平均位置による「幅平均」を算出するもので,特定の位置を基準とする「深度」すなわち「深さの程度」を測定するものではなく,また,連続した表面の全てを「平均」するものではないから,「平均マット深度」の用語自体に明らかに適合しない。 十点平均粗さ方法では,最高から五番目まで及び最深から五番目までの標高の位置が平均の対象となるだけであって,その中間の標高を呈する凹凸は完全に無視されるところ,中間の標高を形成する凹凸もつや消し効果に寄与している。 十点平均粗さ方法による場合,「平均マット深度」が膜厚よりも大きい場合が当然に生じうるが,これは,本件明細書中の,「好ましい平均マット深度0.15〜2μを確保する上でも,0.2μ以上の厚さが必要である」との記載と明らかに矛盾する。 旧JIS規格の解説表において,十点平均粗さ方法は,μmを単位にした場合の有効数字を小数点以下1桁にしているが,これは,「平均マット深度」の下限値である0.15μmの表現形態と合致しない。 十点平均粗さ方法は,10点しかデータを取らないため,測定精度が低いが,あえて,このような測定精度の低い方法に依拠しなければならない理由はない。 実際の測定結果によっても,十点平均粗さ方法による測定値が0.15〜2μmである場合,つや消しの効果が生じない。 (ウ) 自乗平均平方根粗さ方法は,標準偏差値の算出において欠陥を有することなどから,旧JIS規格において採用されておらず,我が国において,表面粗さの基準として一般的に採用されていない。また,本件明細書には,単に「平均」と記載されていて,「平均マット深度」が,凹凸の深さの単純な平均値を算出するものであること,算術平均で求められた膜厚と対比する必要性からすると,「平均マット深度」の「平均」とは,自乗平均のような特殊な平均ではなく,単純な算術平均と解すべきである。 したがって,自乗平均平方根粗さ方法も,「平均マット深度」の測定方法として適当でない。 エ 本件特許出願当時存在した表面粗さの測定方法の中で,「平均マット深度」を測定できるのは,触針式測定方法のみである。 オ 被告の製造販売している感熱転写シートは,旧JIS規格の中心線平均粗さ方法に基づいて,触針式測定方法で「平均マット深度」を測定した場合,その測定値は,0.15ないし2μmの範囲内にあるから,構成要件ウの「平均マット深度が0.15〜2μ」を充足する。 (被告の主張) ア 「平均マット深度」なるものは,学術用語や一般に用いられている技術用語ではなく,本件明細書の記載からもその意味は把握できない。 本件明細書には,「平均マット深度」と,本件発明の効果であるつや消し効果との関係すら説明がないから,「平均マット深度」の意義(効果)も不明であるし,また,「マット」には,凹凸という意味はないから,「マット深度」がマット層の表面粗さと関係すると理解することもできない。 このように,本件特許は,「平均マット深度」の意味が不明であるから,これに基づく権利行使はできない。 イ 「平均マット深度」の測定方法として旧JIS規格を用いることは,本件明細書中に一切記載がない。また,表面粗さの測定方法は,ベック平滑度,自乗平均平方根粗さ,中心線の深さなど旧JIS規格以外の方法もあったこと,紙の表面粗さを測定する方法として最も広く用いられているのはベック平滑度であること,旧JIS規格は,元来,機械表面の粗さを想定したものであって,紙などの光沢のつや消しを直接念頭に置いたものではないことからすると,旧JIS規格が,「平均マット深度」の測定方法として,当業者から当然に推察されるものではない。 また,旧JIS規格において,測定手段は,触針法の他にも種々の方法があり,それによって,測定値が異なるし,触針法においても,触針の先端の大きさによって測定値が異なる。そもそも,触針法では,平均マット深度の下限値である0.15μm程度の大きさの凹部を完全に測定できない。 結局,本件発明において,「平均マット深度」の数値の基準はないというべきであるところ,数値を要件としつつ,その数値の基準のない特許に基づく権利行使はできないというべきである。 ウ 旧JIS規格において,測定方法は,中心線平均粗さ方法以外に,最大高さ方法,十点平均粗さ方法がある。 「平均マット深度」は,「深度」という表現から,頂上から谷底までの距離(以下「頂上-谷底深度」という。)を意味すると解するのが自然であるが,この距離の現実的な評価方法としては,十点平均粗さ方法によるのが合理的である。十点平均粗さ方法においても,頂上-谷底深度の平均を算出するから,「平均マット深度」の「平均」に該当しないとはいえない。 十点平均粗さ方法によると,小さな山や谷を無視することになるが,つや消しの効果は,大きな凹凸が支配的な影響を与えているから,大きな凹凸のみで平均値を算出することは,十分合理的である。 マット層の膜厚は,明細書に特別な注意がない以上,JIS規格に従ってマイクロメーターで測定することになるが,その場合,凸部の高さを基準とした膜厚が測定される。そうすると,マット層の膜厚は,底面から凸部の頂上を連ねた面までの距離が求められるから,十点平均粗さ方法による平均マット深度は,マット層の膜厚よりも当然に小さくなる。したがって,十点平均粗さ方法によっても,マット層の膜厚と平均マット深度の関係についての本件明細書の記載と矛盾しない。 被告の製造販売している感熱転写シートは,十点平均粗さ方法による測定によると,測定値が約2.67μmであるから,「平均マット深度が0.15〜2μ」を充足しない。 (4) 争点(4)について (被告の主張) 特許出願において,出願公開,審査請求という制度がある以上,特許出願によって技術を公開した者が,その後の他の者の権利にかかわりなく,その技術を実施できることは,正義衡平の見地から当然である。 被告の製造販売している熱転写シートは,被告が本件特許に先立って出願した発明(特願昭59-69207号)の技術的範囲に属するから,その実施が本件特許によって妨げられることはない。 (原告の主張) 被告が主張する「先願の抗弁」なるものは,実定法上の根拠がなく認められない。 また,被告が先願と主張する発明は,その明細書において,被告の製造販売している感熱転写シートの構成を具体的に開示していないから,先願の抗弁は成立しない。 (5) 争点(5)について (被告の主張) 本件特許は,「平均マット深度」の意味が不明であるし,「平均マット深度」が所定の数値の範囲内であることで作用効果があることの説明がないから,無効である。 また,「平均マット深度」につき,本件発明と同一の数値範囲である原告の発明が,進歩性がないとして特許庁で拒絶査定を受けたから,本件特許も,同様に,進歩性がなく無効である。 したがって,本件特許は,明らかに無効であるから,本件特許権に基づく差止請求権等の行使は,権利濫用として許されない。 (原告の主張) 本件明細書の実施例を追試すると,「平均マット深度」の上限値及び下限値が,つや消し効果,解像度及びインキの剥離性との関係において,限界的効果を有していることがわかるから,当業者は,本件明細書の実施例を追試することで,本件発明の目的,具体的構成及び効果を確認し得る。したがって,本件明細書は,当業者が実施することができる程度に,発明の目的,構成及び効果を開示しているといえる。 また,本件発明は,原告の先願発明を含め,いかなる従来技術とも相違しているから,進歩性を有している。 (6) 争点(6)について (原告の主張) 被告は,平成9年10月以降,平成11年6月までに,別紙原告物件目録記載の感熱転写シートの製造及び販売によって,4億2000万円の利益を得た。 また,原告は,被告による製造販売と対抗するために,原告の感熱転写シートの販売価格の値下げを行わざるを得ず,これにより6000万円の損害を被った。 (被告の主張) 損害の発生及び額については争う。 |
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争点に対する判断
1 争点(1)について 証拠(検乙1の1及び2)と弁論の全趣旨によると,被告の製造販売している感熱転写シートは,別紙物件目録記載のとおりであると認められる(以下,この目録記載の感熱転写シートを「被告製品」という。)。 2 争点(3)について (1) 「平均マット深度」の意味について 本件特許出願当時,「平均マット深度」という学術用語や一般技術用語がなかったことは当事者間に争いがなく,また,証拠(甲2の2)によると,本件明細書において,「平均マット深度」を定義した記載は全くないことが認められる。 しかしながら,証拠(甲24ないし27,29,31,42ないし48,乙10,18)によると,本件特許出願当時,印刷や紙の技術に関する文献や特許公報において,印字等の表面に凹凸を設けることで,つや消しの効果が生じる旨が記載され,また,つや消し用のインキを「マットインキ」,凹凸のある印刷紙を「マットコート紙」と呼称するなど,「マット」が,つや消し,すなわち光沢度を下げるために表面に凹凸を設けたものという意味で,普通に用いられていたことが認められる。 証拠(甲2の2)と弁論の全趣旨によると,本件発明において,マット層には,無機顔料と導電性粉末が含まれている(構成要件イ)から,本件発明のマット層には凹凸が形成されるものと認められる。また,証拠(甲2の2)によると,本件明細書には,本件発明がつや消し印字等の機能を与える感熱転写シートに関するものであるとの記載(3欄1ないし2行,3欄35ないし38行),本件発明の作用として,「マット層を有しているので,つや消しされた見やすい文字や図形を印字することができる」との記載(8欄20ないし22行),本件発明の効果の1つとして,「つや消し印字」との記載(12欄12ないし14行)があることが認められる。 そうすると,本件発明は,マット層の表面に凹凸を作り,それにより,それと密着するインキ層の底面に雌雄関係の凹凸を形成せしめ,それによって,転写されたインク表面のつや消しを行うことを目的の一つとする発明であると認められる。 以上によると,本件発明の「平均マット深度」にいう「マット」は,マット層に形成された凹凸を意味するものと認められ,「深度」が,深さの度合いを意味すること(甲88,89),凹凸の程度によってつや消しの効果に差異が生じると考えられることからすると,当業者は,本件発明の「平均マット深度」について,マット層全体の凹凸の程度を意味するものと一応理解することができるものと認められる。 (2) 「0.15〜2μ」が,旧JIS規格の中心線平均粗さ方法による表示か否かについて ア 原告は,構成要件ウの「0.15〜2μ」は,旧JIS規格の中心線平均粗さ方法による表示であると主張する。 しかしながら,本件特許請求の範囲において,このような記載はないのみならず,証拠(甲2の2)によると,本件明細書において,「平均マット深度」の表示方法に関する記載は全くなく,「0.15〜2μ」が中心線平均粗さ方法による表示である旨の記載はないことが認められる。 また,証拠(甲4,33,34,90,乙10,11,16)によると,本件特許出願当時,日本工業規格のJIS B0601規格(旧JIS規格)において,工業製品の表面粗さの表示法として,中心線平均粗さ(Ra),最大高さ(Rmax)及び十点平均粗さ(Rz)の3種類の表示方法が規定されており,他にも,自乗平均平方根方法,ベック平滑度などの表面粗さの測定方法があったことが認められるが,このうち,中心線平均粗さ方法が標準的な方法とされていたとも認められず,むしろ,証拠(甲90,乙16)によると,本件特許出願当時,旧JIS規格の表示方法のうち,最も多く使用されていたのは最大高さであると認められる。 イ ところで,証拠(甲4,90,乙16)によると,中心線平均粗さ方法は,被測定面における断面曲線から,所定の波長より長い表面うねり成分を除去した曲線を粗さ曲線と定義し,粗さを形成する凹凸面を均した平坦面における直線を中心線又は平均線として設定した上で,所定の測定長さにおける粗さ曲線の積分計算を行って,所定の測定長さにおける凹部及び凸部の平均値を表す方法であるので,「平均」を求めるという意味において,「平均マット深度」と共通点を有する。 しかしながら,証拠(甲4,乙16)によると,十点平均粗さ方法は,最高から五番目までの標高の平均値から最深から五番目までの標高の平均値を引いた値によって表面粗さを算出するものであることが認められるから,十点平均粗さ方法も,「平均」を求めるという意味において,「平均マット深度」と共通点を有する。また,最高の標高から最低の標高までの距離が「平均マット深度」の「深度」という表現に適合しないともいえない。 ウ 原告は,マット層における表面粗さに基づく深さの平均値を算出するには,必然的に基準となる位置が存在しなければならないが,この基準位置は,マット表面を平均に均した平坦面と解すべきであると主張し,この根拠として,凹凸が存在しない場合には,全くつや消しの効果が生じず,平均マット深度が0であると主張する。しかしながら,凹凸が存在しない場合には,全くつや消しの効果が生じず,平均マット深度が0であるからといって,当然に「平均マット深度」は,マット表面を平均に均した平坦面を基準とするものであるということはできない。上記認定のとおり,中心線平均粗さ方法は,マット表面を平均に均した平坦面を基準とする方法であるが,十点平均粗さ方法は,このような平坦面を基準とする方法でないのであって,このように異なる方法が存することからいっても,原告の上記主張を直ちに採用することはできない。 エ 原告は,本件明細書における,マット層の膜厚に関する「0.2μ以上の厚さが必要である」との記載の膜厚は,凹凸の表面を均した平均値であると主張し,その根拠として,前記第3の2(3)原告の主張イ@ないしEのとおり主張する。 しかしながら,上記@については,熱感度がマット層の厚さによって左右されるのは,熱がマット層を伝達する際に,マット層における熱抵抗に伴って吸収されることに由来するからといって,本件明細書におけるマット層の膜厚の記載が必然的に原告主張に係る「凹凸の表面を均した平均値」によるものとは認められないし,Aについては,本件明細書の実施例において,「コート量1g/uで塗布した。」との記載があるとしても,この記載は,塗布量の記載にすぎず,この記載から必然的に本件明細書におけるマット層の膜厚の記載が原告主張に係る「凹凸の表面を均した平均値」によるものと認めることはできない。また,Bについては,本件明細書には,ベースフィルムの厚さが平均厚さである旨の明示の記載はないうえ,仮にそうであるとしても,ベースフィルムとは異なるマット層の膜厚の記載が原告主張に係る「凹凸の表面を均した平均値」によるものと認めることはできない。Cについては,原告が主張する特許公報(甲第72ないし第78号証)のうち,甲第73号証を除いては,「g/u」によって表示されているのは,塗布量であって厚さではなく,甲第73号証も,厚さを「g/u」によって表示しており,「μm」によって表示しているものではないから,マット層の膜厚の「μm」の表示が原告主張に係る「凹凸の表面を均した平均値」であることが技術常識であったとまでは認められず,そうすると,本件明細書におけるマット層の膜厚の記載が上記「凹凸の表面を均した平均値」によるものと認めることはできない。Dについては,証拠(甲79)によると,「塗装の事典」には,「厚さの表示方法としては,一般に何ヵ所かの測定値の平均値をとってあらわしている」との記載があるが,この記載は,何ヵ所かの測定値を平均すると述べているにすぎず,直ちにこれを原告主張に係る「凹凸の表面を均した平均値」による旨の記載とは認めることはできない。Eについては,証拠(甲80)によると,平成11年に制定された塗料の膜厚測定に関するJIS規格において,塗料の膜厚を膜厚全体の平均値で求める旨規定されていることが認められるが,この規格が制定されたのは,本件特許出願の後であるから,これから本件明細書におけるマット層の膜厚の記載が原告主張に係る「凹凸の表面を均した平均値」によるものと認めることはできない。 かえって,証拠(乙27ないし30)と弁論の全趣旨によると,本件特許出願時に存したJIS規格においては,紙やプラスチックフィルムや塗膜の厚さの測定方法については,マイクロメータを用いて何ヵ所かの厚さを測定し,それらを平均する方法又は紙やプラスチックフィルムを何枚か重ねてマイクロメータを用いて厚さを測定し,その結果を枚数で割る方法が示されていたことが認められる。 これらの方法は,平均を求めるものであるが,マイクロメータを用いていることからすると,何ヵ所か又は何枚かの最大厚さの平均を求めるものであると解されるから,原告が主張する「凹凸の表面を均した平均値」を求める方法とは異なっている。なお,原告は,前記のJIS規格の方法においては,紙やプラスチックフィルムを何枚か重ねて圧力を加えているから,別紙図面Aのとおり重畳し合うフィルムの凹凸面から生じる空隙が失われている旨主張するが,凹凸面はもっと複雑な形態を有していると考えられることからすると,原告が主張するように凸部が互いに入り込んで空隙が失われているとまで認めることはできない。また,原告は,乙第27号証の別紙計算式は,Tが「凹凸の表面を均した平均値」でないと説明できないとも主張するが,Dが見かけ上の密度を求めているのであれば,Tが原告主張のようなものでなくとも不自然でないし,そもそも,原告の主張は,前記のとおり測定方法にそぐわないものである。 もっとも,本件発明のマット層は,前記のとおり,望ましい膜厚が「0.2μ以上3μ以下」と薄く,しかも,ことさら凹凸を設けたものであるので,上記乙号証の紙やプラスチックフィルムや塗膜の厚さの測定方法を直ちに適用できないとも考えられる。しかし,そうであっても,厚さの測定に関する本件特許出願当時のJIS規格の方法が参考にならないということはない。また,これらの方法が参考にならないとすると,本件特許出願当時,本件発明のマット層のような特殊な層の膜厚の表示について,何らかの基準があったことを認めるに足りる証拠はないし,証拠(甲2の2)によると,本件明細書において,「膜厚」の意味を説明する記載は一切ないことが認められるから,参考とするものがないことにならざるを得ない。 したがって,本件明細書における,マット層の膜厚に関する「0.2μ以上の厚さが必要である」との記載の膜厚は,凹凸の表面を均した平均値であるとの原告の主張は,これを認めることができない。 オ 原告は,うねり成分は,明らかにつや消しに寄与しないから,これを除去する中心線平均粗さ方法によるのが適切であって,これを除去しない十点平均粗さ方法によるべきではないと主張する。 しかしながら,証拠(甲4,55,乙16)によると,十点平均粗さ方法においても,基準長さの設定によって,表面粗さの凹凸と区別される長い周期成分を除去するものと認められるから,原告の上記主張はこれを採用することができない。 カ 証拠(甲2の2)によると,本件明細書において,マット層の「膜厚」について,「好ましい平均マット深度0.15〜2μを確保する上でも,0.2μ以上の厚さが必要である」(5欄6ないし7行)との記載があることが認められる。 原告は,「膜厚」をマット層の凹凸の表面を均した平均値と解した上で,十点平均粗さが「膜厚」よりも大きくなる場合があることから,上記記載に照らし,十点平均粗さ方法は「平均マット深度」の測定方法に当たらないと主張する。 しかしながら,上記エのとおり,本件明細書における「マット層の膜厚」が「凹凸の表面を均した平均値」であるとは認められない。 キ 原告は,「平均マット深度」の下限値である「0.15μm」は,小数点以下2桁まで規定されているところ,旧JIS規格の解説表1において,中心線粗さの有効数字が小数点以下2桁までであるのに対し,十点平均粗さの有効数字は小数点以下1桁までであるから,十点平均粗さ方法は本件発明から除外されると主張する。 証拠(乙16)によると,財団法人日本規格協会の発行した「日本工業規格 表面粗さの定義と表示」という書籍に,粗さの程度を示す粗さ数と中心線平均粗さ,十点平均粗さ等との関係についての表が記載され,その中の十点平均粗さは,0.1から0.8までの範囲についてμmを単位とした小数点以下の長さ範囲において有効数字が1桁であるが,中心線平均粗さは,0.10から0.80の範囲についてμmを単位として小数点以下の長さ範囲において有効数字が2桁であることが認められる。 しかしながら,証拠(甲4)によると,旧JIS規格自体においては,中心線平均粗さにつき,0.1から0.8までの範囲について,μmを単位とした小数点以下の長さ範囲において,有効数字1桁で表記していることが認められる。 また,上記表は,各粗さ数等に該当する中心線平均粗さ,十点平均粗さ等の範囲を記載したものにすぎないから,中心線平均粗さや十点平均粗さの実際の表記における有効数字について,上記表から直ちに知ることはできない。 したがって,十点平均粗さの表記がμmを単位とした小数点以下の長さ範囲において有効数字1桁までであるとは認められないから,原告の上記主張はこれを採用することができない。 ク 証拠(甲23,53,67)によると,原告の技術部員が,本件明細書の実施例1に準じた6種類の感熱転写シートを製造し,その表面粗さを中心線平均粗さ方法及び十点平均粗さ方法によって測定したことが認められる。そして,原告は,これらの測定結果に基づいて,つや消し効果が生じるのは,マット層の表面粗さが十点平均粗さで0.15μmから2μmまでの範囲ではなく,中心線平均粗さで0.15μmから2μmまでの範囲であったから,「0.15〜2μ」は,中心線平均粗さ方法による表示であると主張する。 しかしながら,証拠(甲2の2,甲23,53)によると,これらの6種類の感熱転写シートのマット層インキの組成は,各2種類ずつが同じであるが,他の種類との間では異なっていること,いずれの組成も,本件明細書の実施例1と比べた場合,組成物の組成割合が異なっていること,本件明細書の実施例1では,マット層インキをグラビア印刷法で塗布しているのに対し,原告が行った上記測定では,バーコーターで塗布していること,本件明細書の実施例1では,ベースフィルムの厚さが6μmであるが,上記測定では,4.5μmであること,以上の事実が認められる。なお,原告は,上記シートのうち,シート3及び4については,最終的に生成されたマット層の組成割合が本件明細書の実施例1のものとほぼ近似すると主張するが,塗布したマット層インキの組成割合は,上記のとおり相違しており,それにもかかわらず,マット層の表面の状態が影響を受けないことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,上記6種類の感熱転写シートは直ちに対比できるものではないし,上記測定が本件明細書の実施例1に準じて行われたとも認められない。 また,「0.15〜2μ」という数値の技術的意義については,前記(1)認定の事実によると,つや消し効果と何らかの関連があることが知れるが,証拠(甲2の2)によると,本件明細書には,「0.15〜2μ」という数値の技術的意義について何ら記載がないことが認められるから,上記認定以上のことは明らかでない(証拠(甲3,乙7)によると,原告先願の特許請求の範囲には,「平均マット深度が0.15〜2μ」との要件が規定されており,その明細書(甲3の2頁左下欄)には,平均マット深度の技術的意義について記載されていることが認められるが,証拠(甲2の2)によると,原告先願の明細書は,本件明細書に引用されていないことが認められるから,直ちに原告先願の明細書に基づいて,本件発明における「0.15〜2μ」という数値の技術的意義を解釈することはできない。)。そのうえ,証拠(甲2の2)によると,本件明細書の実施例においては,「平均マット深度」について何ら記載がなく,その測定結果の数値さえも記載されていないことが認められる。そうすると,「平均マット深度」に関する限り,原告の上記測定結果を実施例と対比することは困難である。 したがって,上記測定結果から直ちに原告の上記主張を採用することはできない。 ケ 原告は,原告先願の明細書に記載された実施例を追試した結果や,この実施例中のマット層の厚さの記載から,原告先願における「平均マット深度」が中心線平均粗さ方法による表示であるとし,これを本件特許請求の範囲の解釈においても斟酌すべきであると主張する。 しかしながら,原告先願を直ちに斟酌することができないことは,前記クのとおりであるし,また,証拠(甲3,乙7)によると,原告先願の明細書において,「0.15〜2μ」という数値要件が中心線平均粗さ方法による表示であるとの記載やそれを伺わせる記載は何らないこと,この明細書の実施例において「平均マット深度」の数値の記載はあるが,それが,中心線平均粗さである旨の記載はないこと,以上の事実が認められるから,先願発明の特許請求の範囲や明細書の記載から直ちに上記数値要件の表示方法を理解することができないのであって,そうである以上,原告の上記主張を採用することはできない。 コ 原告は,十点平均粗さ方法は,計測する10箇所以外の凹凸が無視されるところ,それ以外の凹凸もつや消しに貢献しているから,十点平均粗さ方法は本件発明から除外されるべきであると主張する。しかしながら,十点平均粗さ方法も,10個所の凹凸を計測することで,粗面全体の粗さの程度を表示するものであるから,直ちに本件発明の「平均マット深度」に当たらないとはいえない。 サ 原告は,十点平均粗さ方法は,中心線平均粗さ方法よりも測定精度が低いことから,本件発明から除外されるべきであると主張するが,十点平均粗さ方法が,本件特許出願当時,表面全体の粗さの程度の表示方法として旧JIS規格において採用されていたものであることからすると,十点平均粗さ方法自体の問題点を理由に,本件発明から除外するということはできない。 (3) 以上述べたところを総合すると,本件特許請求の範囲の「平均マット深度が0.15〜2μ」が,旧JIS規格の中心線平均粗さ方法による表示かどうかは不明であるというほかないから,被告製品の中心線平均粗さ方法による表面粗さが「0.15〜2μ」の範囲内であるとしても,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するということはできない。 3 したがって,原告の請求は,いずれも理由がない。 |
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追加 | |
別紙物件目録第1図面の説明図面感熱転写シートの積層構造を示す断面図符号の説明1熱溶融性インキ層2マット層3基材フィルム層4耐熱層第2構成の説明下方の耐熱層4に積層されているポリエチレンテレフタレートを素材とする基材フィルム層3の面上に,マット層2を設け,且つ該マット層2上に,サーマルヘッドの熱により溶融することによって,マット層2から分離し,かつ,ワックスにカーボンブラックを分散させることによって,黒色に着色している熱溶融性インキ層1を有している感熱転写シートであって,該マット層2においては,ポリエステル系樹脂中に,マイクロシリカ,及びカーボンブラッグが分散しており,表面抵抗値は,109Ω以下の範囲内にあり,前記カーボンブラックの分散により黒色に着色されている感熱転写シート図面別紙原告物件目録第1図面の説明図面感熱転写シートの積層構造を示す断面図符号の説明1熱溶融性インキ層2マット層3基材フィルム層4耐熱層第2構成の説明下方の耐熱層4に積層されているポリエチレンテレフタレートを素材とする基材フィルム層3の面上に,マット層2を設け,且つ該マット層2上に,サーマルヘッドの熱により溶融することによって,マット層2から剥離し,かつ,ワックスにカーボンブラックを分散させることによって,黒色に着色している熱溶融性インキ層1を有している感熱転写シートであって,該マット層2においては,ポリエステル系樹脂中に,マイクロシリカ,及びカーボンブラッグが分散しており,昭和57年改正によるJISB0601規格においてカットオフ値を0.8mmとする中心線粗さに基づく特定を行った場合,当該測定値は,0.15〜2μmの範囲内にあり(原告の測定によれば,約0.50μm),昭和54年改正にかかるJISK6911に準拠した測定方法に基づいて,表面抵抗値を測定した場合,当該抵抗値は,109Ω以下の範囲内にあり,前記カーボンブラックの分散により黒色に着色されていることを特徴とする感熱転写シート図面別表1-11-2別紙図面A別紙計算式D=W/(T×1000)Dは密度,Wは秤量,Tは高さである。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 岡口基一 |
裁判官 | 男澤聡子 |