関連審決 | 異議1999-71419 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
12年
(行ケ)
315号
特許取消決定取消請求事件
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原告 株式会社日本カプセルプロダクツ代表者代表取締役 【A】 原告 株式会社トミー代表者代表取締役 【B】 両名訴訟代理人弁護士 大場正成 同 尾崎英男 同 嶋末和秀 被告 特許庁長官【C】 指定代理人 【D】 同 【E】 同 【F】 同 【G】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/03/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が平成11年異議第71419号事件について平成12年6月21日にした取消決定を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは、発明の名称を「磁気ディスプレーシステム」とする特許第2873825号の特許(昭和63年11月28日特許出願、平成11年1月14日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 本件特許につき、特許請求の範囲のすべての請求項(請求項1ないし4)に対して特許異議の申立てがあり、その申立ては、平成11年異議第71419号事件として審理された。この審理の過程で、原告らは、願書に添付した明細書(以下、願書に添付した図面をも加えて「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求したが、特許庁は訂正を認めず、平成12年6月21日に「特許第2873825号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定をし、同年8月2日にその謄本を原告らに送達した。 2 本件訂正後の特許請求の範囲(別紙図面参照) (1) 請求項1(以下、この発明を「訂正発明1」という。) 少なくとも1枚が透明な2枚の非磁性体基板間に、油状液体中に分散した、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉とを封入したマイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし、該ディスプレーのうち透明な基板側を表面とし、他の基板側を裏面とし、該裏面から局部的または全面的に磁場を印加することによって、前記マイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、前記ディスプレーの裏面側に吸引移動させ、その移動に対応して、前記マイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を前記ディスプレーの表面側に移動させて、前記ディスプレーの表面が光反射性非磁性粉の反射色を示し、文字や像の形成は、表面から局部的に磁場を印加することによって、その印加部分のマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉の複数粒子を磁気作用によって凝集させつつ、前記ディスプレーの表面側に吸引移動させ、その移動に対応して、その同じマイクロカプセル内の光反射性非磁性粉を、前記ディスプレーの裏面側に移動させて、前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え、文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。 (2) 請求項2(以下、この発明を「訂正発明2」という。) 前記基板間に塗設するマイクロカプセルが、光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉を分散した油状液体を、それと相溶性のない水性媒体の連続相中に懸濁して生じる前記油状液体の液滴界面上に、水性媒体の連続相に添加したポリマー水溶液よりポリマー濃厚相を析出・吸着させて実質的に透明な壁膜を形成するマイクロカプセルである請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。 (3) 請求項3(以下、この発明を「訂正発明3」という。) 前記ディスプレーの表面または裏面より磁場を印加してマイクロカプセル内の光吸収性磁性粉と光反射性非磁性粉のそれぞれの位置を相互に移動させる手段として永久磁石を用いる請求項(1)記載の磁気ディスプレーシステム。 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおり、訂正発明1ないし3は、特開昭60-107689号公報(以下「刊行物1」という。)、特開昭50-160046号公報(以下「刊行物2」という。)、特開昭48-56393号公報(以下「刊行物3」という。)、特開昭55-29880号公報(以下「刊行物4」という。)各記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項に該当するとして、本件訂正を認めず、本件訂正前の特許請求の範囲請求項1ないし4に係る発明も、刊行物1ないし4記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項に該当するとして、本件特許を取り消した。 |
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原告ら主張の決定取消事由の要点
決定の理由(1)(手続の経緯)は認める。同(2)(訂正の適否)のア(訂正明細書の請求項1乃至3に係る発明)及びイ(引用刊行物記載の発明)は認める。 同(2)のウ(対比・判断)の(@)(訂正発明1について)は、相違点bの認定の「微小磁性粉を、単に反転移動させるものである点」(6頁下から3行〜2行)、 及び、相違点a、b、cについての判断(7頁6行〜下から3行)を争い、その余を認める。同(2)のウの(A)(訂正発明2について)、(B)(訂正発明3について)は争う。同(2)のエ(むすび)は争う。同(3)(特許異議の申立てについて)のア(本件発明)、イ(引用刊行物)は認める。同(3)のウ(対比・判断)は、一致点の認定の「更に、後者は、ディスプレーの表面または裏面の一方から局部的または全面的に磁場を印加することを前提としたものであると認められる」(10頁18行〜20行)、相違点bの認定の「微小磁性粉を、単に反転移動させるものである点」(同頁下から3行)、及び、相違点a、bについての判断(11頁2行〜22行)を争い、その余を認める。同(3)のウの(A)、(B)は争う。同(3)のエは争う。 決定は、訂正発明1について、刊行物1記載の発明が実施不能又は未完成であることを看過し(取消事由1)、訂正発明1と刊行物1記載の発明との相違点a、b、cについての判断を誤った(取消事由2ないし4)ものであり、また、訂正発明2、3についても、この誤った判断を前提として本件訂正を認めないと判断したものである。したがって、これらの誤りは、それぞれ決定の結論に影響を与えることが明らかであるから、決定は、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(刊行物1記載の発明が実施不能又は未完成であることの看過) 刊行物1記載の発明は、微小磁石粉を油状液体に分散したマイクロカプセルを使用したものである。そのようにすると、磁石は互いの磁力により吸引し合って一か所に凝集する。ところが、刊行物1には、磁石同士の吸引・凝集を防止する手段は開示されておらず、これでは、同刊行物に接した当業者にとっても、上記発明を実施することは容易でない。したがって、刊行物1記載の発明は、抽象的な、実施不能又は発明未完成のアイデア発明というべきであり、そうである以上、これに他の発明要素を組み合わせることは事実上不可能であるから、刊行物1記載の発明に基づいては、いかなる発明にも想到できないのである。 2 取消事由2(相違点aについての判断の誤り) (1) 訂正発明1の非磁性体基板は、@マイクロカプセル層(バインダーを含む。)を両面から支持する支持基板であり、Aマイクロカプセル層を外側から保護する保護層であり、B書込み・消去をくり返す磁気印加のため、その表面を永久磁石で走査するときの基板となるものであり、Cそのうちの表面の透明基板は、これを通して表示読取りを行う表示板の役割をし、磁気ペン等の書込み用具を繰り返し走査するときのマイクロカプセル層の保護機能を果たすものである。 一方、刊行物2記載の発明の赤いエナメル層は、表示、書込みを行った箇所で、鮮やかな色彩反射を提供する反射面であるから、訂正発明1の非磁性体基板の役割を果たさない。 したがって、刊行物2記載の発明の赤いエナメル層は、訂正発明1の二枚の非磁性体基板のうちの一枚には相当しないから、刊行物2記載の発明から、訂正発明1の相違点aに係る構成は得られない。 (2) 刊行物2記載の発明の赤いエナメル層は、フレーク状の磁性粉の行うシャッター作用において、光が透視できる場合の反射面を提供することにより、透視部分に文字や画像を形成させるものである。一方、刊行物1記載の発明の磁気表示は、表裏をNーS極で異なる色に着色した微小磁石粉の表面又は裏面自体の反射色によって文字・画像を形成するものであるから、底面からの反射光は障害になる。 したがって、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層を組み合わせることについては、そうすべき動機付けがなく、かえってそれについての阻害事由があるというべきである。 (3) 刊行物2記載の発明の場合には、表示は、透明基板を上にしてマイクロカプセル層の外側(底面)を透視することになる。一方、刊行物1記載の発明は、その逆に、マイクロカプセルの中の微小磁石表面を透視するので、マイクロカプセル層の外側に赤いエナメル層のようなものを塗布すれば、表示は透視できなくなる。 この点においても、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層を組み合わせることについては、動機付けの発生を阻害する事由があることになる。 (4) 特開昭63-153197号公報(昭和63年6月25日公開。以下「周知例1」という。)に記載された技術においては、マイクロカプセル層の上面に保護フィルムを塗布しており、決定は、これを基板の一つと解釈したものかもしれない。しかし、この保護フィルムは、バインダー等と一体となったマイクロカプセル層の一部をなすものであって、訂正発明1のものと同じ構成や役割を持つものではないから、訂正発明1の二枚の非磁性体基板とは異なるものである。 3 取消事由3(相違点bについての判断の誤り) (1) 刊行物4の第4図では、磁気印加された部位においては、磁性体が印加部分に偏在しているものの、他の部位においては、磁性体とルチルがランダムに混在していることが示されている。しかし、訂正発明1は、磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり、一方が他を覆う形になるものであって、磁気印加されていない他の部位においても、磁性体と非磁性体がランダムに混在しているものではない。したがって、刊行物4記載の発明は、磁性粉と非磁性粉の泳動により入れ替えを行う方式ではない点で、訂正発明1と相違する。 (2) 刊行物1記載の発明と刊行物4記載の発明は、マイクロカプセル内の内容物及び作動方式においても異なる。このような発明の中核となる点において異なるものを置換して用いることは、発明の骨格を取り換えることであって、全く別の発明を別の観点から行うことになるから、容易に想到し得ることではない。 4 取消事由4(相違点cについての判断の誤り) 刊行物3記載の発明は、マイクロカプセルを利用した発明ではなく、二枚の基板間を多数の小室に物理的に仕切ったものである。 文字や像を、表面から磁場を印加することにより形成し、裏面から磁場を印加することにより消去するという、刊行物3記載の発明のような方式は、マイクロカプセル利用の磁気表示パネルには公知例がなかったものである。これを、マイクロカプセル利用の磁気表示板である刊行物1記載の発明に組み合わせるべき動機付けは全く存在しない。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(刊行物1記載の発明が実施不能又は未完成であることの看過)について 刊行物1に記載不備があったり、あるいは、刊行物1記載の発明が未完成発明であったとしても、そのことは、本件取消決定とは直接関係のない議論であって、取消事由とはなり得ない。 刊行物1記載の発明に、他の発明要素を組み合わせることが不可能であるなどという理由はない。 2 取消事由2(相違点aについての判断の誤り)について (1) 訂正発明1の特許請求の範囲には、「非磁性体基板」は、「少なくとも1枚が透明である」という限定しかない。しかも、発明の詳細な説明においても、裏側の「非磁性体基板」については、「非磁性体」であること以外には何ら限定されていない。 したがって、刊行物2記載の発明の「赤いエナメルの不透明な基体層」は、それが非磁性体である以上、訂正発明1の「非磁性体基板」に該当するのである。 (2) 刊行物2記載の周知技術を刊行物1に適用することは当業者が容易になし得たことである、との決定の判断は、刊行物2記載の赤いエナメル層を刊行物1に記載のマイクロカプセル層の外側に設けることについてのものではなく、マイクロカプセル層を塗設した非磁性体基板を有する磁気ディスプレーにおいて透明な基板を表面に設けることについてのものである。刊行物2記載の発明は、その周知技術の例示にすぎない。刊行物2記載の発明「赤いエナメル層」の点は、相違点aとは関係がない。 3 取消事由3(相違点bについての判断の誤り)について (1) 訂正発明1の特許請求の範囲には、「磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり、一方が他を覆う形になる」ことは記載されていない。訂正発明1では、磁気印加されていない部位においては、磁性体がルチル層の下に覆い隠されていなければならないという原告らの主張は、訂正発明1の構成に基づかない主張である。 刊行物4の第4図の例における、磁気泳動タイプのマイクロカプセルは、 その構造自体において、訂正発明1におけるマイクロカプセルと何ら相違するものではない。 (2) 刊行物1記載の発明も、刊行物4記載の発明も、ともに表面に局部的に磁場を印加することによりマイクロカプセル内の磁性体を移動させ、情報を表示するという共通の作動原理を有し、鮮明な表示を与えるという技術的課題を有している。しかも、磁気マイクロカプセルにおいては、従来から反転型、配向型、泳動型等内容物の異なるものが存在していることは刊行物1ないし4に例示されているとおりである。したがって、刊行物1記載の発明において、鮮明な表示を与えるという技術的課題の範囲内で、異なるタイプの磁気マイクロカプセルを置換して用いることは、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。 4 取消事由4(相違点cについての判断の誤り)について 刊行物1記載の発明の作動原理は、全面に磁場を印加して背景色を表示し、 その表面に局部的に磁場を印加して磁性体の移動による色の変化を利用して情報を表示するものである点で、刊行物3にも記載されている周知の技術とも共通するものである。したがって、この周知の技術を刊行物1記載の発明に適用することは容易である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(刊行物1記載の発明が実施不能又は未完成であることの看過)について 甲第4号証(刊行物1)によれば、同刊行物には、「非磁性体基板に、マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし、磁場を印加することによって、前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え、文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。」との技術的思想が記載されていることが認められる(このこと自体は、原告らも争わないところである。)。 仮に、刊行物1記載の発明が、何らかの理由により、実施不能又は発明未完成であったとしても、刊行物1から「非磁性体基板に、マイクロカプセル層を塗設してディスプレーとし、磁場を印加することによって、前記ディスプレー表面に光の吸収・反射のコントラストを与え、文字や像の形成及び消去を行う磁気ディスプレーシステム。」との技術的思想を認識し、これと他の発明を組み合わせることが不可能となるものではない。したがって、刊行物1記載の発明が、原告ら主張の理由により、実施不能又は発明未完成であるとしても、刊行物1記載の発明に基づいて、いかなる発明も想到できない、などというものではないことは明らかである。 そして、原告らが主張する、マイクロカプセル内の内容物の点について、決定は、 相違点bについての判断において、周知の磁気泳動タイプのマイクロカプセルに置換することが容易であったと判断しており、引用例1記載の発明のマイクロカプセル内の内容物を用いた発明が容易であると判断しているのではないから、仮に、原告ら主張の理由により、実施不能又は発明未完成であるとしても、そのことは決定の判断に影響を及ぼすものではない。原告らの主張は、採用することができない。 2 取消事由2(相違点aについての判断の誤り)について (1) 甲第5号証(刊行物2)によれば、刊行物2には、磁気ディスプレーであって、非磁性体である透明シートと、赤いエナメルの不透明な基体層という、二枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し、透明な基板(透明シート)側を表面とし、他の基板側(赤いエナメルの不透明な基体層)を裏面とする発明が記載されていることが認められる。 甲第8号証(周知例1)によれば、周知例1には、「このようにして得られた磁気カプセルはバインダ-と混合して塗液とし基材上に塗設して目視可能像を形成する磁気記録層とし、必要に応じて磁気記録層表面に保護膜を設けて磁気記録材料とする。基材は紙、合成樹脂シート・・・記録層の支持体となり得るものであれば何ら制限はない。」(4頁左上欄6行〜12行)、「磁気記録層の上に設ける保護フィルムは透明で、傷つき難く、変形し難いものであれば材質は限定されない。ポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸等が好ましく用いられるが、しかし、目視可能記録像の解像力の点からいえば、保護フィルムは薄い程好ましく」(4頁右上欄8行〜13行)との記載があることが認められ、これらの記載によれば、周知例1には、磁気ディスプレーであって、透明で変形し難い非磁性体である保護フィルムと非磁性体である基材という、二枚の非磁性体基板の間にマイクロカプセル層を塗設し、透明な基板(保護フィルム)側を表面とし、他の基板側(基材)を裏面とする発明が記載されているということができる。 以上の事実によれば、磁気ディスプレーにおいて、少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し、透明な基板側を表面とし、他の基板側を裏面とする構成は、本願出願前に周知の技術であったことが認められる。 そうである以上、同じく磁気ディスプレーである刊行物1記載の発明に、 上記周知の技術を適用することは、当業者が容易になし得たものというべきである。 (2) 原告らは、訂正発明1の非磁性体基板は、@マイクロカプセル層(バインダーを含む)を両面から支持する支持基板であり、Aマイクロカプセル層を外側から保護する保護層であり、B書込み・消去をくり返す磁気印加のため、その表面を永久磁石で走査するときの基板となるものであり、Cそのうちの表面の透明基板は、これを通して表示読取りを行う表示板の役割をし、磁気ペン等の書込み用具を繰り返し走査するときのマイクロカプセル層の保護機能を果たすものでなければならないことを前提として、刊行物2記載の発明の非磁性体基板は、表示、書込みを行った箇所で、鮮やかな色彩反射を提供する反射面であるから、訂正発明1の非磁性体基板の役割を果たさないと主張するが、主張自体失当である。 仮に、訂正発明1の非磁性体基板が原告ら主張の各機能を果たさなければならないものであるとしても、決定が刊行物1記載の発明に適用することが容易であると判断したものが、前記(1)の認定に係る周知の技術であることは、決定の記載自体から明らかであり、刊行物2記載の発明において、その非磁性体基板の透明ではない基板が「表示、書込みを行った箇所で、鮮やかな色彩反射を提供する反射面」であるとしても、そのことにより、上記周知の技術、すなわち「少なくとも一枚が透明な二枚の非磁性体基板間にマイクロカプセル層を塗設し、透明な基板側を表面とし、他の基板側を裏面とする構成」が認識できなくなるというものではないからである。したがって、刊行物2記載の発明において、その非磁性体基板の透明ではない基板が「表示、書込みを行った箇所で、鮮やかな色彩反射を提供する反射面」であることは、上記周知の技術を認定する妨げとなるものではない。 (3) また、原告らは、刊行物1記載の発明に、刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層を設けることを前提として、これを組み合わせることについての阻害事由があると主張する。 しかし、決定が刊行物1記載の発明に適用することが容易と判断したものは、刊行物2記載の発明の赤いエナメルの基体層を設けることではなく、前記(1)の認定に係る周知の技術であることは、前示のとおりである(ちなみに、甲第8号証によれば、周知例1には赤いエナメルの基体層が記載されていないことが認められる。)。原告らの主張は、前提を誤るものであって失当である。 3 取消事由3(相違点bについての判断の誤り)について (1) 原告らは、訂正発明1は、磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり、一方が他を覆う形になるものであり、刊行物4には、そのような発明が記載されていないと主張する。 しかし、決定が相違点bについての判断において認定したのは、磁気泳動タイプのマイクロカプセルが刊行物4に開示されているように周知であるという事実であって、刊行物4記載の発明が、「磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり、一方が他を覆う形になるものであって、磁気印加されていない他の部位においても、 磁性体と非磁性体がランダムに混在しているものではある」という事実ではないことは、決定自体から明らかである。そして、甲第7号証(刊行物4)によれば、磁気泳動タイプのマイクロカプセルが周知であることが認められるから、この点に関する決定の認定に誤りはない。 なお、原告らは、訂正発明1について、磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり、一方が他を覆う形になるものであって、磁気印加されていない他の部位においても、磁性体と非磁性体がランダムに混在しているものではないと主張する。しかし、「磁気泳動タイプのマイクロカプセル」が、すべて「磁性体と非磁性体が完全に入れ替わり、一方が他を覆う形になるもの」であるとすることはできない。確かに、訂正発明1は、「裏面から局部的または全面的に磁場を印加することによって、」「ティスプレーの表面が光反射性非磁性粉の反射色を示し」という構成のものであるから、「磁性体と非磁性体が入れ替わる」ことになるものではあるけれども、決定は、その点を相違点cとして認定し、判断しているから、この点についても、判断を遺脱しているものではない。 (2) 原告らは、刊行物1記載の発明と刊行物4記載の発明について、マイクロカプセル内の内容物及び作動方式が異なるから、このような発明の中核となる点において異なるものを置換して用いることは、当業者が容易に想到し得たものではないと主張する。 しかし、甲第7号証(刊行物4)によれば、磁気泳動タイプのマイクロカプセルは、磁力を利用して表示を行うディスプレーであって、内部に移動可能な磁性体を封入したマイクロカプセル配列パネルに、外部から局部的に磁場を印加して磁性体を移動させて表示を行うものについても、適用されていることが認められる。そして、甲第4号証によれば、刊行物1記載の発明は、磁力を利用して表示を行うディスプレーであって、内部に移動可能な磁性体を封入したマイクロカプセル配列パネルに、外部から局部的に磁場を印加して磁性体を移動させて表示を行うものであることが認められる。そうである以上、刊行物1記載の発明に、磁気泳動タイプのマイクロカプセルを適用することは、容易であったものというべきである。 4 取消事由4(相違点cについての判断の誤り)について 甲第6号証(刊行物3)によって認められる同刊行物の記載(とりわけ、 「表示した模様を消去するには、基板(2)あるいは(3)の側から分散系に一様に磁界を作用させ磁性粉(6)を基板(2)ないし(3)のいずれかの表面に集めてしまえばよい。 あるいは分散系に超音波などを照射して磁性粉(6)を分散媒(5)の中に一様に再分散させてもよい。」(2頁右上欄7〜13行)との記載)によれば、磁場の印加手法として、まず、裏面から一様に(全面的に)磁場を印加することによって、ディスプレーの表面を分散媒(光反射性非磁性粉)の反射色とし、次に、表面から局部的に磁場を印加することによって文字や像を形成することが、磁気泳動タイプの磁気ディスプレーにおける周知の手法であったことが認められる。 したがって、上記周知の手法は、刊行物1記載の発明の磁気ディスプレーを磁気泳動タイプとするに伴い当然に採用されるべき選択肢の一つであるものというべきである。 原告らは、刊行物3記載の発明は、マイクロカプセルを利用した発明ではなく、二枚の基板間を多数の小室に物理的に仕切ったものであるから、これを、マイクロカプセル利用の磁気表示板である刊行物1記載の発明に組み合わせるべき動機付けは全く存在しないと主張する。 しかし、上記認定に係る磁場の印加手法が、磁気泳動タイプの磁気ディスプレーにおける周知の手法である以上、これをマイクロカプセルを利用した磁気泳動タイプの磁気ディスプレーに適用できないとする理由はない。原告らの主張は、採用することができない。 5 以上のとおりであるから、 原告ら主張の決定取消事由は理由がなく、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 |
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よって、本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条、民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 山田知司 |
裁判官 | 阿部正幸 |