関連審決 | 異議1998-74662 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 周知技術 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 取消決定 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
441号
特許取消決定取消請求事件
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原告 日本石油化学株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁理士 秋元輝雄 被告 特許庁長官【B】 指定代理人 【C】 同 【D】 同 【E】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/03/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が平成10年異議第74662号事件について平成11年11月10日にした決定を取り消す。 |
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前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「シート防水工法」とする特許第2731838号の発明(平成2年11月30日特許出願、平成9年12月26日設定登録。以下「本件特許発明」という。)の特許権者である。 本件特許発明について、平成10年9月25日に特許異議の申立てがなされ、特許庁は、この申立てを平成10年異議第74662号事件として審理し、原告は、 平成11年4月26日、願書添付の明細書の訂正を請求し、平成11年9月6日、 該訂正請求書の補正を請求したが、特許庁は、平成11年11月10日、別紙の決定書の理由写し(以下「決定書」という。)2頁ないし15頁の「U.訂正の適否についての判断」のとおり、上記の補正及び訂正請求のいずれも認められないとした上で、「特許第2731838号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。」との決定をし、その謄本は同年12月13日に原告に送達された。 2 本件訂正請求前の特許請求の範囲請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。) 不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層した防水シートの一端を、防水シートを防水下地に対して固定させるための係止部材で防水下地に固定し、隣接する他の防水シートの一端を該係止部材上を覆うように積層し、該シート同志の積層面を接合することからなることを特徴(と)するシート防水工法。 3 決定の理由 決定書15頁以下の「V.特許異議申立てについての判断」のとおり、本件発明について、刊行物1(「防水ジャーナル」、1990年3月号43頁ないし51頁、甲第9号証。以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから取り消されるべきであると判断した。 |
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原告主張の決定の取消事由の要点
上記第2の3の決定の理由のうち、本件発明の要旨の認定、引用例の記載事項、 本件発明と引用発明との一致点と相違点の認定は認めるが、決定は、本件発明と引用発明との相違点についての判断を誤り(取消事由1)、本件発明の予測できない効果を看過したものである(取消事由2)から、違法なものとして取り消されるべきである。なお、決定が上記第2の1の補正及び訂正請求を認めないとした結論について、本件では争わない。 1 取消事由1(相違点判断の誤り) (1) 決定は、本件発明と引用発明との相違点として、ポリマー改質アスファルトを用いた防水シートが、本件発明は、「不織布」にポリマー改質アスファルトを含浸・積層した防水シートであるのに対し、引用発明は、その具体的な構成が明らかでないことを認定しながら、ポリマー改質アスファルトを用いた防水シートの構成として、「不織布」にポリマー改質アスファルトを含浸・積層することは、 刊行物2(特開昭54-148088号公報、甲第10号証)、刊行物4(特開平1-105732号公報、甲第12号証)等に示される周知技術にすぎないことを理由として、本件発明の上記構成は、上記周知技術に基づき当業者が容易に想到することができたものであると判断したことは、誤りである。 すなわち、引用発明では、「合いじゃくり部」(防水シート同士の重ね合わせ部を平坦に接合するために設けられた防水シート端部の段差(切欠部))が設けられ、該段差(切欠部)同士を重ね合わせて接合するとなっているところ、刊行物2、4記載の防水シートは、「不織布」を成分として含有するので、これらの防水シートの端部に、引用発明のような合いじゃくり部を設けることは極めて困難であり、合いじゃくり部を設けた場合には、合いじゃくり部分における不織布自体、又はそれを構成する繊維が損傷を受けたり、含浸されたアスファルトが不織布層から流出するために、機械的強度が非常に低下するとともに、防水機能及び接着性能が劣化するものであって、合いじゃくり部を設けた改質アスファルト防水シートによる防水工法である引用発明において、その防水シートとして刊行物2、4に記載のものを採用することは技術的に極めて困難である。 したがって、引用発明の防水工法に、刊行物2、4記載の防水シートを採用することは容易に想到し得ないものであって、決定が、本件発明と引用発明との相違点について、刊行物2、4等に示すように周知技術に基づき当業者が容易に想到することができたとした点は誤りである。 (2) 被告は、特開昭58-41977号公報(乙第1号証)、特開昭61-176754号公報(乙第2号証)、特開平1-304252号公報(乙第3号証)及び実願昭60-170956号(実開昭62-80927号公報)のマイクロフィルム(乙第4号証)を引用し、これらに記載の事項を考慮しても、やはり、 本件発明は当業者が容易に想到できたと主張する。 しかしながら、乙第1ないし第3号証は、防水シートを防水下地に接着剤あるいは接合剤を用いて密着して固定する密着工法に関するものであり、本件発明に係る絶縁工法、すなわち、防水シートを防水下地に密着することなく部分的に固定する工法に関しては全く記載がなく、ましてや、絶縁工法においては防水シートの釘引き裂き力に耐えるだけの強度が必要であるなどの点に関しては、記載もなければ示唆もない。また、乙第4号証は、密着工法、あるいは絶縁工法に関するものかどうかについてすら明確でない。 したがって、乙第1ないし第4号証に記載の事項を考慮しても、本件発明が容易に発明をすることができるとする根拠とはならず、被告の主張は失当である。 2 取消事由2(効果の看過) 引用発明の防水工法は、防水シートの端部に合いじゃくり部を設けて、相隣接する防水シート同士を接合するもので、このために生じる欠点があるのに対し、本件発明は、@防水シート同士の接合部が2枚重ねで所要の厚さを維持することができ、その上、不織布が存在しているので、加熱溶融時にオーバーヒートしても穴が開くおそれは少ない、A接合部の厚みを減らしていないので、上側シートの裏面を充分溶融させて重ねて融着することができる、B下側シートの加熱はむしろ補助程度とすることができて、下側の釘の劣化防止が可能となる、C防水シート同士を重ね合わせるので、突き合わせ段部の隙間が生じ難く、所要の厚さを確保することができ、隙間からの浸水の心配はほとんどない、D本件発明に係わる防水シートは、 風圧力の強い場所でも充分に耐力があり、我が国のように台風の多いところでも使用可能になり、また、下地の乾燥状態を選ばないため、降雨後すぐに施工することができるなど工期を短縮することができる。さらには、補修時に既設の防水層を剥がさずに、その上に施工することができるので、廃シートによる環境問題もないなどの効果を有するとともに、さらに、本件特許発明に係る明細書の「本発明のシート防水工法によれば安価なアスファルト系防水シートを用いて絶縁工法で防水施工ができるようになった。このため、同系防水シートの一般的施工法である密着工法に較べ、熟練を必要とせず、防水下地の乾燥養生時間が短縮され、作業効率が大幅に向上した。本発明で用いる不織布にアスファルトを積層した防水シートは従来の絶縁工法に用いた塩素化ポリエチレン防水シートに較べ熱融着温度が低く、圧着荷重が小さいため防水シート相互の接合がより容易であるため、塩素化ポリエチレン防水シートを用いた絶縁工法に較べても工期が短縮できる。」(甲第2号証10欄31行ないし42行)及び「本発明の主な特徴は、安価なアスファルト系防水シートを用いて絶縁工法で防水施工が行えること、それにより施工の作業性が良いことと、膨れが生じないことである。係止部材による固定は施工の作業性をよくし、しかも防水下地とは密接することなく絶縁されるため、防水下地から発生する気体は全体に分散するため膨れを生じることがない。また、アスファルト系防水シートは、前述の塩素化ポリエチレンおよびクロロスルホン化ポリエチレンを主成分とするシートをポリエステル織布または組布に積層してなる防水シート、あるいはポリ塩化ビニール系樹脂からなる防水シート等に較べ、材料が安価であり、そのため防水シートの厚さを厚くすることが可能であり、このため防水効果が上がる、重量が重く風で飛びにくい、上を人が歩行できるなどの特徴がある。また熱融着温度が低い、圧着荷重が小さいため、相互の接合が容易であるなどの特徴もある。」(同5欄35行ないし50行)との記載の効果を有するもので、決定は、本件発明の予測することができない効果を看過したものである。 |
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被告の反論の要点
原告の主張はいずれも失当であり、決定の判断に誤りはなく、違法な点は存在しない。 1 取消事由1(相違点判断の誤り)に対して 原告は、「合いじゃくり部」を設けた改質アスファルト防水シートによる防水工法が、引用例に記載された発明であることを前提に、該防水シートとして刊行物2、4に記載のものを採用することは、技術的に極めて困難なものであるから、引用発明の防水工法に刊行物2、4記載の防水シートを採用することは容易に想到し得ないものである旨主張している。 しかしながら、決定が引用例に記載されている発明として認定したのは、防水シートの一端に合いじゃくり部を設けてその部分で接合するというものではなく、 「防水シートの一端を、防水シートを防水下地に対して固定させるための係止部材で防水下地に固定し、隣接する他の防水シートの一端を該係止部材上を覆うように積層し、該シート同志の積層面を接合する」という技術的思想であって、引用発明が合いじゃくり部を設けた改質アスファルト防水シートによる防水工法であることを前提にした原告の上記主張は、この点で既に失当である。 そして、防水シートの端部同士を接合するに当たって、端部同士を単に重ね合わせて接合する工法(「A工法」という。)、端部に「合いじゃくり部」を設けて該合いじゃくり部同士を重ね合わせて接合する工法(「B工法」という。)のいずれの工法も周知であること(乙第1ないし第4号証)を考慮しても、やはり、引用例に記載された改質アスファルト防水シートの防水工法において、該防水シートの構成として、刊行物2、4等に記載の周知の防水シートの構成、すなわち、不織布にポリマー改質アスファルトを含侵・積層する構成を採用し、本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものといえる。 したがって、決定には、相異点についての判断の誤りはない。 2 取消事由2(効果の看過)に対して 原告は、決定は本件発明の予測することができない効果を看過したものである旨主張している。 しかしながら、原告主張の効果は、いずれも周知技術や、引用例、刊行物2及び4に記載の発明から容易に予測することができるものである。特に、原告が主張する@防水シート同士の接合部が2枚重ねで所要の厚さを維持でき、その上、不織布が存在しているので、加熱溶融時にオーバーヒートしても穴が開くおそれは少ない、A接合部の厚みを減らしていないので、上側シートの裏面を充分溶融させて重ねて融着することができる、C防水シート同士を重ね合わせるので、突き合わせ段部の隙間が生じ難く、所要の厚さを確保でき、隙間からの浸水の心配はほとんどないという効果は、上記周知のA工法の特徴として知られていたものであり、また、 本件特許発明に係る明細書記載の効果は、いずれもアスファルト系防水シートを用いた引用例、刊行物2及び4に記載の発明から容易に予測することができるものである。 理 由1 取消事由1(相違点判断の誤り)について (1) 争いのない本件発明の要旨並びに引用発明との一致点及び相違点等 決定の理由のうち、本件発明の要旨が、「不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層した防水シートの一端を、防水シートを防水下地に対して固定させるための係止部材で防水下地に固定し、隣接する他の防水シートの一端を該係止部材上を覆うように積層し、該シート同志の積層面を接合することからなることを特徴とするシート防水工法。」であること(決定書16頁1行ないし7行)、本件発明と引用発明とが、「ポリマー改質アスファルトを用いた防水シートの一端を、防水シートを防水下地に対して固定させるための係止部材で防水下地に固定し、隣接する他の防水シートの一端を該係止部材上を覆うように積層し、該シート同志の積層面を接合することからなるシート防水工法」であることで一致しており(同18頁10行ないし20行)、「ポリマー改質アスファルトを用いた防水シートが、請求項1に係る発明は、不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層した防水シートであるのに対し、刊行物1(引用例)記載の発明は、その具体的な構成が明らかでない点」で相違していること(同19頁2行ないし6行)、及び、この相違点に関し、「ポリマー改質アスファルトを用いた防水シートの構成として、不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層する構成は、上記刊行物2、4等に示すように周知技術」であること(同19頁7行ないし11行)は、争いがない。 (2) 原告は、引用発明が「合いじゃくり部を設けた改質アスファルト防水シートによる防水工法」であるとして、このことを前提に、引用発明に刊行物2、4記載の不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層する構成の防水シートを採用することは容易に想到し得ないものであるとして、決定が、上記(1)の相違点の本件発明の構成は、上記(1)の周知技術に基づき当業者が容易に想到することができたものであると判断した点(決定書19頁12行ないし14行)は、誤りである旨主張している。 (3) 上記(1)のとおり、引用発明は、「ポリマー改質アスファルトを用いた防水シートの一端を、防水シートを防水下地に対して固定させるための係止部材で防水下地に固定し、隣接する他の防水シートの一端を該係止部材上を覆うように積層し、該シート同志の積層面を接合することからなるシート防水工法」である点で、本件発明の構成と一致していると認められるところ、甲第9号証によれば、引用例には、その具体的な構成として、原告主張のとおり、積層し合う防水シート双方の端部は、合いじゃくり部を構成しているものが記載されていることが認められる。 (4) しかしながら、乙第1号証(特開昭58-41977号公報)、第2号証(特開昭61-176754号公報)、第3号証(特開平1-304252号公報)及び第4号証(実願昭60-170956号(実開昭62-80927号公報)のマイクロフィルム)によると、防水シートの端部同士を積層して接合するシート防水工法について、本件発明の出願時までの公知の技術文献において、以下のアないしカの各記載があることが認められる。 ア 乙第1号証 「従来陸屋根あるいは屋上の防水に使用するアスフアルトシートは抗張力をもたせた同一の不織布基材にアスフアルトを含浸させたものを使用している。・・・第1図においては下地コンクリート(3)上に防水接着剤(4)を塗布しその上にアスフアルトシート(1)、(1)’をジョイント部が重ね合さるように敷貼する。 図中(2)はジヨイント部の接着剤を示す。」(1頁右下欄18行ないし2頁左上欄14行)、及び防水シートの端部同士を単に積層して接合する構成を示す第1図 イ 乙第2号証 [従来の技術]欄に「第7図に示した工法は、所謂ラップジョイント工法と呼ばれている工法で防水シート(101)を接着剤(102)を用いて防水下地(G)に張りつける。防水シート(101)の接合部は40〜50mm幅に重ね合せ、その重ね合せ部(103)を溶剤溶着法又は加熱溶着法により一体化し・・・この工法はシート防水工法の代表的な施工法であり、すぐれた工法といえる。」(2頁右上欄12行ないし左下欄6行)、及び及び防水シートの端部同士を単に積層して接合する構成を示す第7図 ウ 乙第3号証 「〔従来の技術〕コンクリート建築物の屋上を防水するには、従来スラブコンクリートの上面にシートを配置し、その上面に押えコンクリートを打設する方法が広く行われている。この方法では押えコンクリートのヒビ割れ等から漏水することがあり、近時、高い防水性能、優れた耐候性、軽量化等の点から防水シートを張り付ける防水工法が普及し出している。」(1頁左下欄17行ないし右下欄5行)、 「〔発明が解決しようとする課題〕上記した防水シートを貼り付ける方法では、第7図に示すように防水シート71と72の接合部に段差が生じ、美観上好ましくないばかりでなく、シート端部の重合部の合せ幅にミスが生じると、シートを平行に張り付けることができなくなることから、作業には慎重を要するため作業能率が低下し、また、歩行者が接合部を損傷させ、漏水の原因となる虞れがある・・・本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決し、作業能率が高く、かつ防水シートの接合部に段差が生じることがなく、美観に優れ、しかも歩行者により防水シートが損傷されることのないビル屋上の断熱及び防水構造を得ることができる工法を提供することにある。」(1頁右下欄15行ないし2頁左上欄末行)、及び防水シートの端部同士を単に積層して接合する構成を示す第7図 エ 乙第3号証 「〔課題を解決するための手段〕上記した目的は、・・・防水シートの互いの接合部に相似形の段部を形成し、この段部で両防水シートを接合することによって達成される。」(同2頁右上欄1行ないし7行)、〔実施例〕欄の「各防水シートは、第3図に示すようにそれぞれ互いに相似形の段部4、5が形成され、図示のように両者を接合して防水層が形成される。第3図に示す防水シート3A、3Bを接合する手段としては、例えば接合面を接着剤により接合する方法、接合部を熱溶着により接合する方法等を採用することができる。」(2頁右下欄3行ないし9行)、及び防水シートの端部に合いじゃくり部を設けて該合いじゃくり部同士を積層して接合する構成を示す第3図 オ 乙第4号証 「<従来の技術>コンクリート建築物、構造物に防水シートを施工する場合、その施工面全面にわたる幅を有する防水シートは通常ないので複数の防水シートの両縁を継ぎ合せて施工しなければならない。継ぎ合せは通常隣接する2枚の防水シートの縁を重ね合せ、防水シートが塩化ビニール製防水シートの場合では接着剤を使用して貼り合せ、防水シートがアスファルト製シートの場合では相当に高温にしたコテ等の加熱体を重ね合せた部分に押当てることにより表面を融かして接着していた。これら従来の継ぎ合せ方法は何れの場合も施工に時間がかかるという問題と、 2枚のシートを重ね合せる事により継ぎ合せ部が厚くなり、その結果厚みのバラツキで継ぎ合せ部が凹凸状になり、継ぎ合せ部の防水性の信頼性に欠けるという問題を有する。」(1頁16行ないし2頁10行)。 カ 乙第4号証 「<考案が解決しようとする問題点>本考案は従来用いられている防水シートの継ぎ合せ方法の有する欠点を解消して施工が簡単にできると共に継ぎ合せ部に確実な防水性を付与することのできる積層防水シートを提供することを目的とする。<問題点を解決するための手段>本考案の目的は、少なくとも一層のゴムアスファルト層を有する積層防水シートであって、その積層防水シートの長さ方向両縁部のゴムアスファルト層の部分的切欠部が設けられていることを特徴とする積層防水シートによって達成される。」(2頁11行ないし3頁2行)、「<実施例>以下本考案の積層防水シートの実施例を示す添付図面を参照して本考案をさらに詳述する。 第1図に本考案の積層防水シートの一実施例を示し、第1図(A)は平面図、第1図(B)はその断面図である。・・・。この積層防水シートの両縁には部分的切欠部2L、2Rが積層防水シートの長手方向に設けられている。第1図に示した実施例の積層防水シートでは第1図(B)に示すように、左側の切欠部2Lには下向きに露出ゴムアスファルト層表面3Lを有する段部が設けられ、右側の切欠部2Rには上向きの露出ゴムアスファルト層表面3Rを有する段部が設けられる。この段部の幅Wは少くとも5p、通常は10p〜20pの間で選定される。なお段部の深さは積層防水シートの厚さのほぼ1/2にし、かつ両側の段部の断面形状は互いに相手側を補完し合って継ぎ合せた時に積層防水シート本体の厚さにほぼ一致するように定めるとよい。第2図に第1図に示した積層防水シートが継ぎ合される状態の断面図を示す。すなわち右側の積層防水シート1aの左側の露出ゴムアスファルト層表面3Laと左側の積層防水シート1bの右側の露出ゴムアスファルト層表面3Rbを対向して配置し、両表面を合せた後70℃に加熱したコテでその部分を押付けることによって両アスファルト層が一体化し、この部分の防水性を確実にする。」(5頁12行ないし7頁6行)、並びに防水シートの端部に合いじゃくり部を設けて該合いじゃくり部同士を積層して接合する構成を示す第1図A、B及び第2図 (5) 上記(4)の各記載及び上記のとおり引用例には「合いじゃくり部を設けた防水シートによる防水工法」が記載されていること並びに弁論の全趣旨を総合すれば、防水シートの端部同士を積層して接合するシート防水工法における防水シート同士の重ね合わせの方法として、従来から、防水シートの端部同士を単に積層して接合する構成(被告主張のA工法)が採られていたが、この方法は、その構造が単純であり、また、接合面に充分な厚みがある等の利点がある反面、継ぎ合わせ部が厚くなり、あるいは凹凸状となるために生じる欠点もあったために、防水シートの端部に合いじゃくり部を設けて該合いじゃくり部同士を積層して接合する方法(被告主張のB工法)も採られており、両者とも、本件発明の出願当時周知の技術となっていたことは明らかである。そして、前者の従来からの方法も、その構造の単純さ等の利点から、後者の方法を採る必要性がない場合などに普通に採用されていたものと認められる。 そうすると、本件発明の出願当時における防水シート工法の技術分野において、 防水シートの端部同士を積層して接合するシート防水工法が採られており、その場合に、防水シート同士を重ね合わせる方法として、端部同士を単に積層する方法及び端部に合いじゃくり部を設ける方法のいずれも、当業者が適宜選択し得るものと理解されていたものと認められる。 したがって、引用例には、防水シートの端部同士を積層して接合するシート防水工法が記載されているのであるから、その防水シート同士の重ね合わせの具体的な構成としては、後者の方法(端部に合いじゃくり部を設ける方法)が記載されているとしても、当業者は、この具体的な構成に限定されることなく、そこに示されている技術的思想として、「ポリマー改質アスファルトを用いた防水シートの一端を、防水シートを防水下地に対して固定させるための係止部材で防水下地に固定し、隣接する他の防水シートの一端を該係止部材上を覆うように積層し、該シート同志の積層面を接合することからなるシート防水工法」であると把握して、本件発明との相違点である防水シートの構成については、上記のとおり周知技術であることに争いのない「不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層する構成」を採用することに想到することは容易であるというべきである。 これと同旨の決定の判断に誤りはなく、原告の上記(2)の主張は採用することができない。 2 取消事由2(効果の看過)について (1) 原告は、引用発明の防水工法は、防水シートの端部に合いじゃくり部を設けて相隣接する防水シート同士を接合するもので、このために生じる欠点があるのに対し、本件発明は、種々の効果がある旨主張している。 (2) そこで、原告が主張する効果を検討すると、原告主張の効果のうち、防水シート同士の接合部の厚みを減らしていないので、上側シートの裏面を充分溶融させて重ねて融着することができるとの効果(上記第3の2のA)、及び、防水シート同士を重ね合わせるので、突き合わせ段部の隙間が生じ難く、所望の厚さを確保することができ、隙間からの浸水の心配はほとんどないという効果(同C)は、 いずれも、本件発明が、防水シートの端部に合いじゃくり部を設けて防水シート同士を接合するものではないことを根拠とする主張と認められるところ、上記のとおり、本件発明の要旨は、「不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層した防水シートの一端を、防水シートを防水下地に対して固定させるための係止部材で防水下地に固定し、隣接する他の防水シートの一端を該係止部材上を覆うように積層し、該シート同志の積層面を接合することからなることを特徴とするシート防水工法。」であり、本件発明は、防水シートの端部に合いじゃくり部を設けて防水シート同士を接合することを、本件発明の構成から排除しておらず、上記の各効果は本件発明の構成が有する特有の効果とはいえない。 また、原告の主張するその余の効果は、いずれも、引用発明の上記の本件発明と一致する構成と、防水シートとして不織布にポリマー改質アスファルトを含浸・積層するという周知技術の構成とを組み合わせれば得られる自明な効果にすぎず、当業者であれば、容易に予測し得るものであることは明らかである。 (3) したがって、決定が本件発明の予測することができない効果を看過したとは認めることができず、原告の上記主張も失当である。 3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他決定にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 永井紀昭 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 橋本英史 |