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関連審決 審判1999-1663
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  優先権 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 294号 審決取消請求事件
原告 アスタ・メディカ・アクチエンゲゼルシャフト代表者 A
同 B
訴訟代理人弁護士 清水三郎
同 鹿野直子
同 弁理士 山崎利臣
被告 特許庁長官C
指定代理人 D
同 E
同 F
同 G
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第1663号事件について平成12年3月28日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告主文第1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成2年11月8日(優先権主張、1989年11月9日、1990年5月16日、ドイツ連邦共和国)、名称を「α-リポ酸を含有する調製剤及びその製造方法」(平成10年7月31日付け手続補正書による補正前は「レトロウィルスを撲滅するための医薬品およびその製造法」)とする発明について特許出願(特願平2-301256号)をしたところ、平成10年10月26日、拒絶査定を受けたので、平成11年2月5日、これに対する不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成11年審判第1663号事件として審理した結果、平成12年3月28日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月1日、原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付された明細書(平成10年7月31日付け手続補正書による補正後のもの、以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 α-リポ酸又はその製剤学的に認容性の塩51mg〜6gを含有する固体又は半固体の調製剤。
3 審決の理由 審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本願発明は、特開昭60-184011号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
原告主張の審決取消事由
審決は、本願発明と引用例発明の相違点の判断を誤り(取消事由1)、本願発明の格別な効果を看過した(取消事由2)結果、本願発明は引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから、
違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の判断の誤り) (1) 審決は、「引用例には成人に対する一回投与量はリポ酸として1〜300mgであることが記載されているのであるから、1回投与量の1〜300mgを1つの製剤とすることに何ら困難性があるとはいえず、本願発明がα-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」とした点に格別の創意があるとはいえない。」(2頁20行目〜24行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、引用例発明は、公知の免疫調節剤に認められる重篤な副作用を持たない新しい免疫調節剤を得ることを目的とし、α-リポ酸自体に免疫調節作用という薬理作用が存在することを発見するに至った結果として、α-リポ酸を有効成分とする免疫調節剤として完成されたにとどまるものである。このように、引用例記載の技術思想は、専ら、α-リポ酸の免疫調節という薬理作用及び効果の有無のみを念頭に置くものであり、本願発明のように、固体又は半固体のα-リポ酸の経口投与においてα-リポ酸の体内吸収速度を高め治療効果を高めるという技術的課題の解決を念頭に、1回投与量をα-リポ酸1〜300mgとしているわけではない。
したがって、引用例に成人に対する1回投与量がα-リポ酸1〜300mgであることが記載されているとしても、本願発明が上記技術的課題の解決を念頭にα-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」とした点には、格別の創意があるというべきである。
(2) 引用例の第1図には、α-リポ酸濃度が10-5を超えると抗体応答促進効果が低下する旨記載され、また、引用例発明は、1回投与量をα-リポ酸として1〜300mgに設定しているが、経口投与の製剤例では、α-リポ酸の1剤当たりの量が10mgという低い数値に設定されており、上記抗体応答促進効果に照らすと、
引用例には、調製剤のα-リポ酸含有量を増大させることは、かえって抗体応答促進効果の低下をもたらすことが示唆されている。
したがって、このことからも、本願発明がα-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」という高い数値に設定した点に格別の創意があるということができる。
2 取消事由2(格別な効果の看過) 総量において200mgのα-リポ酸を同じ大きさの錠剤で経口投与した場合、1剤におけるα-リポ酸の含有量が50mgの錠剤を4剤投与する方法によっては、最大血中濃度に到達するまでに必要な時間は0.67時間であるのに対し、1剤におけるα-リポ酸の含有量が200mgの錠剤を1剤投与した場合の上記時間は0.333時間である。このように、本願発明の効果は、投与されたα-リポ酸について治療上有効な吸収速度の上昇が認められることであって、このような格別な効果は、引用例から予測できるものではない。審決は、この効果を看過する点で誤りである。
被告の反論
1 取消事由1(相違点の判断の誤り)について (1) 原告は、本願発明がα-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」とした点に格別の創意がないとはいえない旨主張するが、失当である。
すなわち、引用例には、成人に対するα-リポ酸の1回の投与量は、通常、1〜300mgである旨記載されており、α-リポ酸の含有量のうち51mg〜300mgの範囲である製剤を用い、これを1回で投与することが明確に示されている。しかも、調製剤に含まれる薬効成分の量は、通常、1回の投与量を参考に設定されるのであるから、本願発明がα-リポ酸51mg〜6gを含有する調整剤とする点に格別の創意があるということはできない。
(2) 原告は、引用例には、調製剤におけるα-リポ酸含有量を増大させることはかえって抗体応答促進効果の低下をもたらすことが示唆されている旨主張するが、失当である。
すなわち、引用例に製剤例1として示されているα-リポ酸10mgを含有する製剤は例示にすぎないし、また、製剤例3として、静脈注射剤についてα-リポ酸を25mg含有する製剤が記載されているが、経口投与の場合には静脈注射の投与量の3〜10倍をもって同等の効果を期待し得ることから、製剤例3の注射剤を経口投与剤に代えて投与する場合の必要量に換算すると、経口投与量75〜250mgに相当することが理解可能である。したがって、経口用カプセル剤としてα-リポ酸10mgを含有する製剤の例のみをもって、引用例発明が投与量を比較的低い数値に設定しているということはできない。
さらに、引用例の第1図は、細胞レベルでの実験データであって、α-リポ酸を製剤として投与した場合における投与量及び血中濃度との関係を示しているものではないから、第1図に示されている事項とα-リポ酸の固体又は半固体の調製剤の含有量とを関係づけることはできない。
2 取消事由2(格別の効果の看過)について 原告は、本願発明が、投与されたα-リポ酸について治療上有効な吸収速度の上昇が認められるという格別の効果を有するのに、審決がこの効果を看過する旨主張する。
しかしながら、1回の投与に当たり、投与量に満たない薬剤含有量の製剤を複数個使用するか、投与量の薬剤を含む製剤を1個使用するかは、専ら投与者の意思に左右されるのであって、本願発明の調製剤であっても、使用者が必ず1回に1剤を使用するとは限らない。薬剤の1回投与を1剤で行うか、又は複数剤で行うかという問題と、1剤に含有させる薬剤量の範囲とは、別の事柄である。また、固体製剤には散剤も含まれるのであるから、上記の効果が本願発明の固体又は半固体の調製剤に共通する効果であるということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の判断の誤り)について (1) 引用例(甲第4号証)には、α-リポ酸を有効成分とする免疫調節剤である引用例発明が記載されているところ(特許請求の範囲)、「その投与量は投与方法、症状などによって異なるが、通常、成人に対する一回投与量はリポ酸として1〜300mgであり、1日1回または症状に応じてそれ以上投与することもできる。」(2頁右下欄5行目〜9行目)との記載があるから、α-リポ酸としての1回投与量1〜300mgは、その投与方法や症状などによって決定されることが示されている。そうすると、ここに記載されたα-リポ酸の1回投与量300mgは、投与方法や症状などによって決定される上限値としての技術思想を示すものとして引用例に記載されていることが明らかである。
一方、引用例(甲第4号証)には、「本発明のリポ酸は免疫調節剤として有用であり、通常の処方により経口的または非経口的に投与することができる。経口的には錠剤、カプセル剤、または散剤などの医薬用製剤とし・・・て用いられる。」(2頁左下欄17行目〜右下欄2行目)と記載され、この記載によると、α-リポ酸を含有する調製剤の形態として錠剤、散剤等を採用し得ることが示されている。
そして、1錠の錠剤、1包の散剤など1単位の調製剤に有効成分の1回投与量を包含させることは、服用する際の利便性などを考慮すると、普通に採用し得るものであり、引用例に示されているα-リポ酸の1回投与量300mgを1単位の調製剤の含有量とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。そうすると、α-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」の範囲内である300mgとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、これと同旨の審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、引用例記載の技術思想は、本願発明のように、固体又は半固体のα-リポ酸の経口投与においてα-リポ酸の体内吸収速度を高め治療効果を高めるという技術的課題の解決を念頭に置いたものではなく、本願発明が上記技術的課題の解決を念頭にα-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」とした点には格別の創意があると主張する。
しかしながら、上記のとおり、α-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」とすることは、当業者が容易に想到し得るものであって、本願発明及び引用例発明における技術的課題は、α-リポ酸の含有量に係る上記判断を左右するものではない。
(3) また、原告は、引用例発明では、α-リポ酸の1剤当たりの量が10mg等の低い数値に設定されており、引用例には、調製剤のα-リポ酸含有量を増大させることは、かえって抗体応答促進効果の低下をもたらすことが示唆されている旨主張する。
確かに、引用例発明の製剤例1は、経口用カプセル剤においてα-リポ酸を10mg含有させるものであることが認められるものの(甲第4号証2頁右下欄13行目〜14行目)、これは製剤としての例示にすぎず、また、引用例から調製剤のα-リポ酸含有量の増大を一定範囲に抑えるべき技術思想が読みとれるとしても、引用例には、同時にまた、α-リポ酸の1回の投与量を300mgとする技術思想が示されていることは明らかであるから、これに基づいてα-リポ酸の含有量を「51mg〜6g」とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
2 取消事由2(格別の効果の看過)について 原告の主張は、本願発明が、投与されたα-リポ酸について治療上有効な吸収速度の上昇が認められるという格別の効果を奏するのに、審決がこれを看過したというものである。
検討すると、本願発明の要旨は、「α-リポ酸又はその製剤学的に認容性の塩51mg〜6gを含有する固体又は半固体の調製剤。」であり、吸収速度に係る構成は特許請求の範囲に記載がなく、また、本件明細書及びその図面(甲第2、3号証)にも、本願発明がこのような吸収速度の上昇という効果を奏する旨の記載はないから、本願発明がこのような格別な効果を有するということはできず、原告の主張は、明細書等の記載に基づかないものというほかはない。
3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男