運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-35186
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 35号 審決取消請求事件
原告 有限会社マルゼン
原告 ケーエスシー株式会社
両名訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 弁理士 安原正義
被告 株式会社ウエスタン・アームス
訴訟代理人弁護士 宗万秀和
同 高橋隆二
同 弁理士 神原貞昭
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら 特許庁が平成11年審判第35186号事件について平成11年12月3日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「自動弾丸供給機構付玩具銃」とする特許第2561429号発明(平成5年10月8日出願、平成8年9月19日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。原告らは、平成11年4月20日、本件特許について無効審判の請求をした。特許庁は、同請求を平成11年審判第35186号事件として審理した結果、平成11年12月3日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年12月27日、原告らに送達された。
2 本件発明の要旨 【請求項1】グリップ部内に配される弾倉部と(以下「構成要件A」という。)、
上記グリップ部内にガス導出通路部が連結されて配される蓄圧室と(以下「構成要件B」という。)、
銃身部の後端部に設けられ、上記弾倉部における一端の近傍に配される装弾室と(以下「構成要件C」という。)、
該装弾室に供給された弾丸を発射させるべく操作されるトリガに連動して上記ガス導出通路部を開閉制御する開閉弁部と(以下「構成要件D」という。)、
上記銃身部に対して設けられ、該銃身部に沿って移動し得るものとされたスライダ部と(以下「構成要件E」という。)、
該スライダ部における上記銃身部の後方となる部分内に設けられ、上記スライダ部と一体的に移動する部材である受圧部と(以下「構成要件F」という。)、
上記装弾室と上記受圧部との間に配され、上記スライダ部の移動方向に沿う方向に移動可能とされた可動部材と(以下「構成要件G」という。)、
該可動部材内において移動可能に設けられ(以下「構成要件H@」という。)、
上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記装弾室に至る第1のガス通路及び上記ガス導出通路部から上記可動部材内を通じて上記受圧部に至る第2のガス通路の夫々を開閉制御し(以下「構成要件HA」という。)、
上記開閉弁部により上記ガス導出通路部が開状態とされている期間において、
上記第1のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記装弾室に供給する第1の状態から、上記第2のガス通路を開状態として、上記蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させて上記スライダ部を後退させ、それに伴う上記可動部材の後退を生じさせて、上記弾倉部の一端から上記装弾室への弾丸の供給のための準備を行う第2の状態に移行するガス通路制御部と(以下「構成要件HB」という。)、
を備えて構成される自動弾丸供給機構付玩具銃(以下「構成要件I」という。)。
【請求項2】〜【請求項6】は、別添審決書写し4頁14行目〜6頁末行記載のとおりである。
3 審決の理由 審決の理由は、別紙審決書写し記載のとおりであり、本件発明は、実開平5-8285号公報(以下「引用例1」という。)、「Gun」1992年10月号(1992年10月1日国際出版株式会社発行、以下「引用例2」という。)70〜71頁、「月刊アームズマガジン」1993年2月号(平成5年2月1日株式会社ホビージャパン発行)90〜94頁、実願平1-69416号(実開平3-14595号)のマイクロフィルム、実願平1-103470号(実開平3-46787号)のマイクロフィルム、実願平1-92989号(実開平3-38592号)のマイクロフィルム及び「Gun」1986年5月号(1986年5月1日国際出版株式会社発行)112〜115頁に記載された各発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできないとした。
原告ら主張の審決取消事由
1 審決は、本件発明が、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできないとの誤った判断をした(取消事由)ものであるから、違法として取り消されなければならない。
2 取消事由(容易想到性の判断の誤り) (1) 審決は、「特許請求の範囲の請求項1において、上記Gとして『可動部材』の構成を規定した上で、Hの『ガス通路制御部』に関する構成として、『該可動部材内において』という記載や、『上記可動部材内を通じて』という記載があることからみて、上記Gの可動部材と上記Hのガス通路制御部とは、互いに他の構成との関連において、それぞれが一体の構成をなすものとして規定されていることは明らかである。」(審決書13頁11行目〜19行目)、「上記Hのガス通路制御部の構成に関して、上記@〜Bの各要件に分割して、その内の一部の要件のみをGの可動部材と組み合わせて、各甲号証に記載されたものと対比することは適切とはいえない。」(同14頁8行目〜12行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、発明は、各構成要素が関連して一体に理解されるものであり、
構成要件に「上記」や「該」との記載があって初めて一体に理解されるものではない。発明を構成要件に分割するのは、発明の構成要件中、引用例発明が具備する構成要件と具備しない構成要件を明らかにし、その上で、当該発明と引用例発明との相違点を当業者が容易に想到し得たかどうかを判断するためである。審決は、構成要件G及び構成要件H@〜HBのすべての構成要件を満たすガス通路制御部とを備えるようにすることが引用例発明のいずれにも記載も示唆もされていないと認定しただけで、容易想到性の判断を遺脱している。
また、本件発明の構成要件HA及びHBは作用的に記載されているところ、これらの構成要件に記載された作用効果を奏すれば、「ガス通路制御部」及び「可動部材内において移動可能に設けられ」の構成を具備しなくとも、構成要件Hを具備するということができる。
(2) 審決は、「玩具銃において、上記Gとして規定される可動部材と、Hの上記@〜Bの全ての要件を満たすガス通路制御部とを備えるようにすることは、甲第3〜9号証(注、本訴甲第3〜第9号証)のいずれにも記載されていないし、そのことを示唆するものもない。更にいえば、本件発明における、上記Eの『銃身部に対して設けられ、該銃身部に沿って移動し得るものとされたスライダ部』は、その主要部分が銃身の外側に設けられる、遊底とも称される部材であって、甲第3号証記載のローア・ボルトとは、設置部位や形状及び機能が全く相違している。したがって、甲第3号証記載のアッパー・ボルトは、『蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させてスライダ部を後退させ』る部材とはいえないから、当該アッパー・ボルトが上記Bの要件を満たすという前提自体が適切なものではなく、上記Bの要件を備えたガス通路制御部を示す公知例が示されていないことになる。」(審決書14頁13行目〜15頁10行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、本件発明と引用例1(甲第4号証)に記載された玩具空気銃とを対比すると、引用例1の「弾倉5」が本件発明の構成要件Aの「弾倉部」に、
「ガス畜圧室(注、「ガス蓄圧室」の誤記と認める。)4」が構成要件Bの「蓄圧室」に、「弾丸把持チャンバー15」が構成要件Cの「装弾室」に、「放出バルブ10」が構成要件Dの「開閉弁部」に、「遊底28」が構成要件Eの「スライダ部」に、「ピストン21」が構成要件Fの「受圧部」に、「ボルト18」が構成要件Gの「可動部材」に、「突出軸20」が構成要件H@〜HBの「ガス通路制御部」に相当する。そうすると、本件発明の玩具銃では、ガスはまず銃口方向に流れ、次いで後方に流れるのに対して、引用例1の玩具空気銃では、ガスがまず後方に流れ、次いで銃口方向に流れる点で相違するが、その余は一致する。
ところで、引用例2(甲第3号証)には、玩具銃につきガス通路の方向を本件発明に係る玩具銃と同方向にすることが記載されている。ここに記載されたペイントガンは、他の玩具銃と同様に、丸い弾丸を使用し、サバイバルゲームに使用され、同一の玩具銃の雑誌に紹介されるなど他の玩具銃と同様に扱われるものである。
以上のように、引用例1には、ガス通路の方向が逆となる以外は、本件発明の構成要件A〜Iについての記載があり、引用例2には、本件発明と同様のガス通路の方向についての記載と図示があるのであるから、本件発明は、引用例1及び引用例2に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。
(3) 審決は、「本件発明においては、上記Gとして規定される可動部材と、Hの上記@〜Bの全ての要件を満たすガス通路制御部とが、互いの関連構成を有するものとして採用されることによって、ガス通路を極めて短くできると共に、装弾室に装填された弾丸の発射後にスライダ部の移動が開始されるために弾道に狂いが生じにくい等の、独自の作用効果を奏することが可能となっている。」(審決書13頁19行目〜14頁7行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、引用例1の第2のガス通路は、ボルト18を通じてガスが移動するものではない点で、本件発明の構成要件HAに係る第2のガス通路とは異なるものであるが、この点に基づく特段の作用効果を奏するものではない。
被告の反論
1 本件発明の進歩性に係る審決の判断は正当であって、原告ら主張の審決取消事由は理由がない。
2 取消事由(容易想到性の判断の誤り)について (1) 審決は、構成要件Hのガス通路制御部を更にH@〜HBの構成要件に分割し、その一部の構成要件のみを構成要件Gの可動部材と組み合わせて引用例発明と対比することの不適切さを指摘しており、この点で正当である。
進歩性の判断に当たって、発明は全体として考察されなければならないから、複数の構成要件A〜Iの全部が引用例発明のいずれかに分散して示され又は示唆されているとしても、直ちに本件発明の進歩性を否定することは許されない。
(2) 引用例2におけるアッパー・ボルトは、ローア・ボルトと機械的に連結されて一体化しており、ローア・ボルトに伴って移動する。アッパー・ボルトは、エアー・チェンバーからその上部のホールを通じてペイント弾に至るガス通路の開通及び遮断を行うものであって、エアー・チェンバーからシリンダー内のローア・ボルトの端面に至るガス通路を開状態とする動作を行うものではない。したがって、
上記アッパー・ボルトは、本件発明の構成要件HBを満たすものではない。
原告らの主張によれば、本件発明の構成要件H@〜HBを具備した各ガス通路制御部については、すべて引用例1の突出軸20がこれらに該当することになる。しかしながら、引用例1において、放出バルブ10が開状態にあるときの突出軸20の行う状態移行は、ボルト18内を通じて弾丸把持チャンバー15に至るガス通路を閉状態としたもとで、ボルト18内を通じてピストンロッド19に至るガス通路を開状態とし、ガス蓄圧室4からのガスをピストンロッド19に作用させて、ピストンロッド19を遊底28と共に後退させる状態から、次にボルト18内を通じて弾丸把持チャンバー15に至るガス通路を閉状態から開状態に変化させて、ボルト18内のガスを弾丸把持チャンバー15に配された弾丸6に作用させる状態へ移行させるものである。このような突出軸20の状態移行は、本件発明における構成要件Hのガス通路制御部が行う、開閉弁部によりガス導出通路部が開状態とされている期間においての状態移行とは、実質的に逆の関係にある。したがって、引用例1の突出軸20は、本件発明の構成要件Hのガス通路制御部に該当しない。
本件発明は、構成要件H@〜HBを具備するガス通路制御部を備えていることにより、ガスがまず弾丸を発射させるべく供給され、続いてスライダ部を後退させるべく供給されることを主たる特徴とするものであるから、構成要件H@〜HBの全部を具備することが本件発明の「ガス通路制御部」に相当するためには不可欠である。原告らは、構成要件HA及びHBの作用効果を奏すればガス通路制御部の構成に関わりなく構成要件Hを具備すると主張するが、このような主張は、特許請求の範囲に記載された構成要件を無視するものであり失当である。
原告らは、引用例1の「突出軸20」が本件発明の構成要件Hの「ガス通路制御部」に相当すると主張する。しかし、本件発明の構成要件Hは、「ガス導出通路部から可動部材内を通じて装弾室に至る第1のガス通路」と「ガス導出通路部から可動部材内を通じて受圧部に至る第2のガス通路」とを開閉制御するものであるのに対し、引用例1では、本件発明におけるガス導出通路部から可動部材を通じて受圧部に至る第2のガス通路に該当するガス通路がないから、原告らが本件発明の構成要件Hに相当するとしている「突出軸20」は、本件発明における第2のガス通路を開閉制御する「ガス通路制御部」に相当するものではない。
引用例1記載の玩具空気銃では、突出軸20がボルト18を貫通する移動を行って同ボルト内に形成されたガス通路を開閉するものではあるが、ガス蓄圧室4からのガスをまず遊底28を後退させるべく供給し、続いて弾丸6を発射させるべく供給する状態をとることはできても、ガス蓄圧室からのガスをまず弾丸を発射させるべく供給し、続いて遊底を後退させるべく供給する状態をとることはできないものである。これに対して、引用例2記載のペイントガンは、本件発明の構成要件Gの可動部材及び構成要件Hのガス通路制御部に相当する構成を具備しておらず、ガスがペイント弾を発射させるとともにローア・ボルトを後退させるために供給される状態と、ペイント弾の発射後のローア・ボルトの後退に伴ってペイント弾が位置していた部位へのガスの供給が遮断される状態とがとられるのであるが、このような状態の移行は、ローア・ボルトと一体的に移動するアッパー・ボルトによりもたらされるという構成である。したがって、引用例1記載の玩具空気銃に、引用例2記載のペイントガンにおけるガスの供給態様を適用しようとしたとしても、
その際には、引用例1記載の玩具空気銃において、そのボルト及びそれを貫通する突出軸を排除し、引用例2記載のペイントガンにおけるローア・ボルト及びそれと一体的に移動するアッパー・ボルトを含む機構で置き換えることが必要となるが、
両者の構造及び機構が著しく相違するため、当業者がこれらを組み合わせて本件発明に係る玩具銃の構成を得ることはできない。
(3) 本件発明は、構成要件Gと構成要件H@〜Bのすべての要件を満たすガス通路制御部により、審決の判示する独自の作用効果を奏するものである。
当裁判所の判断
1 取消事由(容易想到性の判断の誤り)について (1) 原告らは、構成要件Hを構成要件H@〜HBに分割してその内の一部の要件のみを構成要件Gの可動部材と組み合わせて引用例発明と対比することは適切ではないとする審決の判断を非難する。しかしながら、本件発明の構成要件を分説し、各構成要件が出願時に公知であったかどうかを認定し、構成要件の全部が公知であった場合において、これらの構成要件を組み合わせることの容易想到性の有無を検討することは、発明の進歩性を判断する通常の手法である。本件発明を構成要件A〜Iに分説し、更に構成要件Hを構成要件H@〜HBに分説することは、単に本件発明の請求項1の要件をそのまま分説することにすぎない。
また、原告らは、審決が構成要件G及び構成要件H@〜HBのすべてを満たすガス通路制御部を備えるようにすることは、引用例発明のいずれにも記載も示唆もされていないと認定しただけで、進歩性の判断を遺脱していると主張する。しかしながら、審決は、「更にいえば、本件発明における、上記Eの『銃身部に対して設けられ、該銃身部に沿って移動し得るものとされたスライダ部』は、その主要部分が銃身の外側に設けられる、遊底とも称される部材であって、甲第3号証(注、引用例2)記載のローア・ボルトとは、設置部位や形状及び機能が全く相違している。したがって、甲第3号証記載のアッパー・ボルトは、『蓄圧室からのガスを上記受圧部に作用させてスライダ部を後退させ』る部材とはいえないから、当該アッパー・ボルトが上記B(注、本件発明のHB)の要件を満たすという前提自体が適切なものではなく、上記Bの要件を備えたガス通路制御部を示す公知例が示されていないことになる。」(審決書14頁18行目〜15頁10行目)とした上、「本件発明を、甲第3〜9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」(審決書16頁13行目〜15行目)と判断したのであるから、容易想到性についても判断をしていることが明らかであって、進歩性の判断に遺脱はない。この点で、審決に原告ら主張の誤りはないというべきである。
さらに、原告らは、本件発明の構成要件HA及びHBは作用的に記載されているので、この作用効果を奏すればその構成を具備していなくても足りる旨主張するが、構成要件H@の「可動部材内において移動可能に設けられ」ている構成が本件発明の特許請求の範囲に記載されている以上、本件発明の進歩性を判断する際に、この構成要件を踏まえて検討すべきことは当然であって、原告らの主張は採用することができない。
(2) 原告らは、本件発明と引用例1記載の玩具空気銃を対比して、引用例1の「ピストン21」及び「ボルト18」がそれぞれ本件発明の構成要件Fの「受圧部」及び構成要件Gの「可動部材」に、引用例1の「突出軸20」が本件発明の構成要件H@〜HBの「ガス通路制御部」に相当すること、本件発明の玩具銃では、
ガスはまず銃口方向に流れ、次いで後方に流れるのに対して、引用例1の玩具空気銃では、ガスがまず後方に流れ、次いで銃口方向に流れる点で相違するが、その余は一致すると主張する。
しかしながら、引用例1(甲第4号証)には、「【0039】この弾丸6を発射させるには、引金34を引くことによりシアー35が放出バルブ10の外端を押す。これにより放出バルブ10はバネ12の力に抗して押され、図3に示す如く、放出路11は開く。そこでガス畜圧室(注、「ガス蓄圧室」の誤記と認める。)4に充填されている液化ガスによって発生畜圧(注、「蓄圧」の誤記と認める。)されている気化ガスが放出バルブ10を経て放出路11及び注入口22を通ってシリンダー室16内のボルト18の傘部とピストン21との間に入る。ボルト18は、傘部がシリンダー室16に係止されているためこれ以上前方へ移動できず、ガス圧によってピストン21が押され、ピストンロッド19が勢いよく後退し、このピストンロッド19の後端が遊底28を押し、この遊底28も弾機33の力に抗して急速に後方へ移動する。【0040】上記遊底28を後方に移動させ乍ら後退するピストンロッド19の前端の突出軸20は当該ピストンロッド19の後方移動につれて図3に示す如く、ボルト18の貫通孔17から抜け出る。これによってシリンダー室16の気密性は解放され、その内圧によってガスはボルト18の貫通孔17を通って弾丸把持チャンバー15にくわえられていた弾丸6をインナーバレル14から発射させる。」(12頁1行目〜16行目)と記載されている。
この記載に図3及び図5を総合すると、引金34を引くことにより放出バルブ10が開放し、ガス蓄圧室4に充填された液化ガスは、気化して放出路11と注入口22を通って、シリンダー室16内のボルト18の傘部とピストン21との間の小空間に流入し、ピストン21を押すので、ピストンロッド19が勢いよく後退するものであるが、この移動距離がある程度に達すると、ピストンロッド19がボルト18の貫通孔17から抜け出るので、シリンダー室内のガスは、ボルト18の貫通孔17を通って弾丸6を発射させるものと認められる。
そうすると、放出路11から流出したガスは、ピストンロッド19がボルト18の貫通孔17から抜け出た後、ボルト18の貫通孔17を通って弾丸6の発射に向かうが、この際にも、ピストンロッドの受圧部であるピストン21には、シリンダー室16内のガス圧が作用し続けると認められるから、引用例1では、本件発明の「ガス導出通路部」に相当する「放出路11」から、本件発明の「受圧部」に相当する「ピストン21」に至る通路は、本件発明の「可動部材」に相当する「ボルト18」内を通じるものではないし、この経路を開閉する部材も備えられていないものと認められる。したがって、引用例1には、本件発明の「ガス導出通路部から可動部材内を通じて受圧部に至る第2のガス通路」に相当する経路が存在せず、「第2のガス通路を開閉制御するガス通路制御部」が備わっていないというべきであって、原告ら主張のように、引用例1の「ボルト18」及び「突出軸20」が本件発明の構成要件Gの「可動部材」及び構成要件Hの「ガス通路制御部」に相当するということはできない。また、本件発明において、ガスがまず銃口方向に流れ次いで後方に流れるのに対して、引用例1においては、ガスがまず後方に流れ次いで銃口方向に流れる点で相違するが、その余は両者が一致するということもできない。
そして、本件発明の構成要件G及び構成要件Hに相当する部材は、引用例2記載のペイントガンにも備えられていないから、審決が「本件発明を、甲第3〜9号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。」(審決書16頁13行目〜15行目)と判断したことに誤りはない。
(3) 原告らは、本件発明が特段の作用効果を奏するものではないと主張するが、本件発明は、構成要件G及び構成要件Hにより、弾丸の発射に向かう第1のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを装弾室に供給する第1の状態から、第2のガス通路を開状態として、蓄圧室からのガスを受圧部に作用させることにより、本件明細書(甲第2号証)に記載された「弾丸の発射がトリガに対する操作に迅速に応答して行われ、しかも、装弾室から発射される弾丸が、スライダ部の移動による影響を受けて、その弾道に狂いが生じることになる事態が回避される。」(20欄28行目〜32行目)との作用効果を奏するものと認められる。したがって、本件発明の作用効果について、「本件発明においては、上記Gとして規定される可動部材と、Hの上記@〜Bの全ての要件を満たすガス通路制御部とが、互いの関連構成を有するものとして採用されることによって、ガス通路を極めて短くできると共に、装弾室に装填された弾丸の発射後にスライダ部の移動が開始されるために弾道に狂いが生じにくい等の、独自の作用効果を奏することが可能となっている。」(審決書13頁19行目〜14頁7行目)とする審決の判断に誤りはない。
2 以上のとおり、原告ら主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男