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関連審決 審判1998-35008
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 36号 審決取消請求事件
原告 日綜産業株式会社
訴訟代理人弁護士 矢野義宏
同 鈴木泰文
同 弁理士 天野泉
被告 三伸機材株式会社
訴訟代理人弁護士 中島和雄
同 弁理士 青山正和
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が平成10年審判第35008号事件について平成11年12月2日にした審決を取り消す。
前提となる事実(争いのない事実)
1 特許庁における手続の経緯 原告は、発明の名称を「工事用可搬式歩廊」とする特許第2132611号の発明(昭和58年7月31日出願の特願昭58年140207号の分割として平成4年8月31日出願、平成9年10月9日設定登録。以下「本件特許発明」という。)の特許権者である。
被告は、平成10年1月7日、本件特許発明について無効審判の請求をし、特許庁は、この請求を平成10年審判第35008号事件として審理した結果、平成11年12月2日、「特許第2132611号発明の特許を無効とする。」との審決をし、その謄本は同月27日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨(平成8年7月29日付け手続補正書による補正後の特許請求の範囲請求項1に係る発明。以下「本件発明」という。) 被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、
当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり、
主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に連設された足場板とからなり、
副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成され、
主歩廊と副歩廊の枠体には各足場板上側短手方向に折り畳み自在な門型の手摺が附設され、
主歩廊の足場板の一端には傾斜面が形成され、
主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ、
各手摺は支柱と支柱に保持された横材とからなると共に各支柱の下端部分は各枠体に固着されたソケットに上下移動自在に挿入され、
更に副歩廊の各枠体端部には連結金物がそれぞれ取り付けられ、
一方の連結金物の内側と他方の連結金物の外側には中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成している 工事用可搬式歩廊。
3 審決の理由 別紙の審決書の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、原告による平成8年7月29日付け手続補正書による補正が適法な補正であると判断し、本件発明の要旨を上記2のとおり認定した上で、本件発明は、実願昭48-28593号(実開昭49-132627号)明細書のマイクロフィルム(甲第4号証。以下「引用例1」という。)、実願昭55-185645号(実開昭57-109146号)明細書のマイクロフィルム(甲第5号証。以下「引用例2」という。)、実公昭52-1476号公報(甲第6号証。以下「引用例3」という。)、実公昭58-5801号公報(甲第7号証。以下「引用例4」という。)、英国特許第1375962号明細書(甲第8号証。以下「引用例5」という。)、実公昭50-36823号公報)(甲第10号証。以下「引用例6」という。)、米国特許第3889779号明細書(甲第11号証。以下「引用例7」という。)、実公昭54-9176号公報(甲第12号証。以下「引用例8」という。)にそれぞれ記載されたもの及び周知の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法123条1項に該当するので、本件特許発明は、無効とされるべきであると判断した。
原告主張の審決の取消事由の要点
審決の理由中、原告による平成8年7月29日付け手続補正書による補正が適法な補正であるとの判断、及び本件発明の要旨の認定は認める。引用例の記載事項の認定のうち、引用例2の「C型部材2は足場板1の枠体であり、その下端外側は上向きにフック状となっており、このフック状部分は枠体を補強する機能を有することは明らかであり、また、この上向きフック状部分に固定治具本体3を係合させるのであるから、このフック状部分は、係合片としての機能をも有すると認められる。」(審決書16頁13行ないし19行)、引用例5の「プラットホームは吊りさげて用いられることもあること」(同20頁17行、18行)、引用例6の「第7図には、二つの足場板を接合金具8によって連設した構成が記載され」(審決書22頁1〜2行)との認定部分は、いずれも争うが、その余の認定部分は認める。
本件発明と引用例1記載の考案との対比については、引用例1についての「網体の上面は滑り止めの機能を有するものと認められる。」(同24頁15行、16行)との認定部分、及び本件発明と引用例1記載の考案が「主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ」(同25頁9行、10行)ている点で一致しているとの認定部分は、いずれも争い、その余の認定部分は認める。相違点1ないし6の認定、及び相違点5についての判断は、いずれも認める。
審決は、本件発明と引用例1記載の考案との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点1、2、3、4、6についての判断を誤り(取消事由2)、そのため本件発明の進歩性を誤って否定し、本件特許発明を無効とした審決は違法であるから取り消すべきである。
1 取消事由1(一致点の認定についての誤り)(1) 引用例1記載の足場板は、梁材間に架設するものではなく、梁材上に沿って梁材上に載置されるものであるから、作業者、歩行者の重量に耐え得る安全性の配慮が希薄なのであり、また、足場板たる枠体2Cと板体2Dは、右方縦杆2Aに揺動自在に結合し、枠体2Cを跳ね上げた時にその下方の空間から梁材に対する筋配等の諸作業を行うものである。したがって、本件発明の歩廊と引用例1記載の足場板とは、使用目的、構造が根本的に異なるから、引用例1は、本件発明と対比する引用例となり得ないものであって、審決が、単に一方の足場板に対して他方の足場板が伸縮自在に挿入されている点のみをもって、両者が基本的に同じであると判断したのは早計である。
被告は、引用例1記載の足場板が、受け棒4G、4Gにフック1D、2Eを係止することにより、これら受け棒4G、4G間に掛け渡されるのであるから、梁材等の水平支持材間に架設されるものであることに変わりないと主張する。
しかし、引用例1記載の受け棒4Gは、水平支持材とはいっても、梁材とは別部材であって、梁材上に布枠を設置するための道具の機能を有するにすぎないものであるから、本件発明のような梁材等の水平支持材とは異なり、これを示唆するものではない。
(2) また、審決は、引用例1記載の網体1Cについて、「網体の上面は滑り止めの機能を有するものと認められる。」と認定したが、引用例1には、網体の構造、材質が明記されていないし、ツルツルとした金属、プラスチックス等で網体を成型した場合には滑り止めの機能は生じないから、単に網体という記述からは滑り止めの機能を想定することはできない。
したがって、審決の上記認定は誤りであって、この誤った認定に基づいて本件発明と引用例1記載の考案が「主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ」た点において一致するとした審決の認定は、誤りである。
2 取消事由2(相違点の判断についての誤り)(1) 相違点1(本件発明の歩廊が被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されているのに対し、引用例1記載の考案は、梁材の上に設けられていること)について 一般に建築、土木分野で「被構築物」というと、ビルディング、橋、船舶等の大型で高層のものをいうのが普通であって、少なくとも枠組足場は「被構築物」ではない。そして、船舶、建築物等の大型で高層の被構築物の梁材間に直接足場板を架設するような方法は従来存在していない。審決が例示する引用例2、引用例5は、
枠組足場間、慣用の足場間に足場板を架設することを示すだけであって、歩廊を被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設することが周知であることを示すものではない。したがって、審決が「歩廊を被建築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設することは、仮設用の歩廊において周知の技術的事項であって、
この点に技術的意義があるとは認められない」(審決書27頁9行ないし13行)と判断したことは、誤りである。
(2) 相違点2(本件発明の足場板が一対の枠体と枠体の内側間に連設されているのに対し、引用例1記載の考案の右方枠体の足場板は、左方枠体の足場板と異なり、枠体間に連設されていないこと)について 引用例1記載の足場板は梁材に対する工事を行うためには、どうしても枠体2Cと板体2Dを跳ね上げて下方に開口部を形成しなければならないが、本件発明は、
梁材間に歩廊を架設し、この歩廊上で梁材に対する諸作業を行うものであるから、
足場板を跳ね上げる必要がなくて作業者にとっても安全であり、また、副歩廊の伸縮も容易であるから、引用例1記載の足場板と比べて、作用効果が異なる。
したがって、審決が「本件特許発明のように主副複数の歩廊を有するものにおいて、歩廊の足場板を一対の枠体間に連設すること」について、「この点に技術的意義があるとは認められない。」(審決書28頁1行ないし7行)と判断したことは、誤りである。
(3) 相違点3(本件発明の副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成されているのに対し、引用例1の枠体には該補強部が設けられていないこと)について 引用例1記載の足場板(布枠A)は、前後端のフック1D、2Eを介して受け棒4Gに引掛けながら梁上に固定するものであるのに対し、引用例2記載の足場板1は、両側部のC型部材2を利用して枠組足場8のパイプ5に固定するものである、
すなわち、両者は、足場板の技術分野に属することでは共通しても、使用場所と取付構造が根本的に異なるから、引用例2に記載の技術を引用例1に記載の技術に転用することは当業者といえども容易ではないし、仮に引用例2記載のC型部材を引用例1記載の足場板の側部に転用しても、何の意味もない。
したがって、審決が「上記相違点に係る本件特許発明の構成は、引用例1に記載された歩廊の枠体の構造に換えて甲第5号証に記載された枠体の構造を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。」(審決書28頁17行ないし29頁1行)と判断したことは、誤りである。
(4) 相違点4(本件発明の主歩廊と副歩廊の枠体にある手摺が、引用例1記載の布枠Aには設けられていないこと)について 引用例1記載の足場板(布枠A)は、手摺用の支柱4Bとは分離されており、足場板を手摺側の受け棒4Gに引掛けるものであるから、引用例1には、足場板の前後枠2B、2Bの側部に折り畳み式の手摺を取り付けようとする示唆がない。したがって、引用例4に記載された枠組足場用の足場枠における折り畳み式の手摺を、
引用例1の足場板の前後枠2B、2Bの側部に転用しようとする発想は、当業者といえども生まれない。
したがって、審決が「引用例1に記載された手摺の構造に換えて、甲第7号証に記載された手摺の構造を適用することにより上記相違点に係る本件特許発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。」(審決書29頁17行ないし30頁1行)と判断したことは、誤りである。
(5) 相違点6(本件発明の副歩廊の各枠体端部の連結金物は、一方の連結金物の内側と他方の連結金物の外側には中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成しているのに対し、引用例1記載の連結金物はそのような形状となっていないこと)について 本件発明の連結金物は、それ自体が単独の連結部材であるから、副歩廊同士を自在に継ぎ足し、隣接する歩廊同士を長手方向に接続できたり、この連結金物を利用して他の引掛金物や補助歩廊を結合することができるものであり、複数の歩廊を縦横無尽に配設することができるものであるのに対し、引用例6の図6、図7に示す接合金具8は、フックにすぎないから、隣接する2つの足場板1を連設するには、
フックを引掛ける丸棒が必ず必要となるものであり、また、引用例1記載のフックも、受け棒4Gに引掛けるものであるから、フック同士を直接結合して足場板を連設させようとする技術的な示唆を与えるものではない。したがって、段部を備えた足場板が引用例6に開示されているとはいえ、これを引用例1記載の足場板に置換したとしても、丸棒を必要としない本件発明の連結金物を当業者が想到することはできない。
被告の反論の要点
原告の主張はいずれも失当であり、審決の一致点の認定及び相違点についての判断に誤りはなく、違法な点は存在しない。
1 取消事由1(一致点の認定についての誤り)に対して 原告は、引用例1記載の足場板は梁材間に架設するものではなく、梁材上に沿って梁材上に載置されるものであると主張するが、引用例1記載の足場板は、受け棒4G、4Gにフック1D、2Eを係止することにより、これら受け棒4G、4G間に掛け渡されるのであるから、梁材等の水平支持材間に架設されるものであることに変わりない。
原告は、単に一方の足場板に対して他方の足場板が伸縮自在に挿入されている点のみをもって、両者が基本的に同じであると判断するのは早計であると主張するが、審決は、本件発明と引用例1記載の考案とを比較して、一致点、相違点を抽出しているのであり、両者が基本的に同じであるなどとは判断していない。
また、原告は、網体について、ツルツルした金属、プラスチックス等で網体を成形した場合には滑り止めの機能は生じないと主張するが、足場板を原告主張のようなもので成形することは考えられず、「網目を有する網体」が滑り止めのためであることは当業者であれば当然に理解し得ることである。
2 取消事由2(相違点の判断についての誤り)に対して(1) 相違点1について 引用例2及び引用例5に記載のものも、枠組足場等における「水平支持材」間に架設あるいは吊設されていることには相違ない。なお、原告は、船舶、建築物等の大型で高層の被構築物の梁材間に直接足場板を架設するような方法は従来存在していないと主張するが、本件発明に係る明細書の特許請求の範囲には、そのことをうかがわせる記載はない。
(2) 相違点2について 原告は、引用例1では、梁材に対する工事を行うためには枠体2Cと板体2Dを跳ね上げて下方に開口部を形成する必要があるが、本件発明では、梁材間に架設した歩廊上で梁材に対する諸作業を行うものであるから、引用例1記載の足場板に比べて作用、効果が異なると主張するが、審決は、引用例1の「左方枠体にも示されるように」(審決書27頁18行、19行)と指摘して、足場板を一対の枠体間に連設した構成が周知であることを述べているから、審決の判断に誤りはない。
(3)相違点3について 原告は、引用例1記載の足場板と引用例2記載の足場板とは技術分野は共通しても、使用場所と取付構造が異なるから、引用例2記載の技術を引用例1記載の考案に転用することは、当業者にとっても容易ではないと主張する。
しかし、引用例1記載の考案は、足場板を受け棒4G間に架設する構成であり、
引用例2記載の考案も、足場板をパイプ5に固定するものであるから、このパイプ5と引用例1の受け棒4Gは、足場板を支持固定するという同じ機能を有するものである。したがって、パイプ5に取り付けられる引用例2記載の足場板の側縁部のC型部材を、引用例1記載の受け棒4Gの部分に適用しようとすることは、当業者が容易に想到し得る程度のものである。
(4) 相違点4について 原告は、引用例1には、足場板の前後枠2B、2Bの側部に折り畳み式の手摺を取り付けようとする示唆はないから、引用例4記載の枠組足場用の足場枠における折り畳み式の手摺を転用しようとするような発想は、当業者であっても生まれないと主張する。
しかし、引用例1は、そこに開示された手摺が足場板に直接固定されているものではないとはいえ、足場板上を歩行する作業者のために足場板の枠体の側部に取付けようとすることを十分に示唆するものである。したがって、引用例1記載の手摺の構造に換えて、引用例4記載の手摺の構造を適用することにより本件発明の構成とすることは、当業者にとっては容易である。
(5) 相違点6について 原告は、引用例6にはフック同士を直接結合して足場板を連設させようとする技術的な示唆がないこと、段部を備えた足場板が引用例6に開示されているとはいえ、これを引用例1記載の足場板に置換しても、丸棒を必要としない本件発明の連結金物が想到されるものではないと主張する。
しかし、本件明細書の特許請求の範囲には、単に「連結金物」と記載されているだけであり、どのようにして連結するかの具体的手段についてまでは記載されていないから、連結金物とは、隣接する二つの部材を文字通り連結状態とするものであればよく、両者間に丸棒等を介在しようが、丸棒に代えてボルトのような締結部材を介在しようが、連結状態とするものであれば「連結金物」として何ら機能が異なるものではない。
したがって、引用例1記載のフックを連結金物とし、そのフックに換えて引用例6記載のものを適用することにより、当業者が本件発明の構成を容易に想到することができたとした審決の判断に誤りはない。
理 由 1 取消事由1(一致点の認定についての誤り)について (1) 本件発明と引用例1記載の考案とを対比すると、これらが、「被構築物の梁材等に設けられて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、当該歩廊は主歩廊と主歩廊の一端あるいは両端に長さ調節自在に副わせて保持した副歩廊とからなり、主歩廊と副歩廊は一対の枠体と枠体の内側間に設けられた足場板とからなり、副歩廊の各枠体端部には連結金物がそれぞれ取り付けられている工事用可搬式歩廊」(審決書25頁2行ないし13行参照)である点で一致することについて争いがない。
原告は、引用例記載1の足場板(布枠A)は、梁材上に載置されるものであるから、歩行者等の重量に耐え得る安全性の配慮が希薄であり、また、枠体2Cと板体2Dを右方縦杆2Aに揺動自在に結合して、これを跳ね上げて下方の空間から梁材に対する作業を行うものであるから、本件発明の歩廊と引用例1記載の足場板とは、使用目的と構造が根本的に異なるものであり、引用例1は、本件発明と対比する引用例となり得ないものであると主張している。
確かに、引用例1が開示する布枠Aは、梁材の上に載置されているものではあるが、これは、上記のとおり、本件発明と同じく被構築物の梁材等に設けられて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする「歩廊」であるから、その設置状況に応じてその材質、構造等について安全性の配慮をすべきものであることは、当業者にとって自明のことであり、このように「歩廊」において安全性が求められることについては、引用例1(甲第4号証)に、「このように本願のものによれば・・・確実で安全な作業を行うことができる。」(5頁5行ないし8行)と記載され、本件発明においても、本件発明に係る明細書(甲第2号証の1)に、「本発明の歩廊によれば・・・作業用足場とした場合は作業の安全性と能率化を図ることができる。」(段落【0099】)と記載されていることからも明らかである。そして、引用例1(甲第4号証)には、本体の布枠Aを構成する各部材の材質や構造の強度について限定して特定する記載はなく、また、その構成からみて、梁材の上に載置されなければ機能を奏さないとする技術的理由はないから、布枠Aの設置状況に応じて、
その強度が作業者の重量に耐えられる材質、構造のものを選択するなどして、安全性を確保し得る構造計算をすることは、当業者としての当然の設計事項にすぎないものと認められる。
そうすると、引用例1が開示する布枠Aが梁材の上に載置されるものであっても、作業者の「歩廊」であることで本件発明と共通するものである以上、引用例1は、本件発明と同じ技術分野に属する先行技術となり得ることは明らかであるというべきである。
そして、審決は、引用例1の開示する歩廊が梁材の上に設けられているのに対して、本件発明の歩廊が被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されていることについて、相違点1として認定して、その判断をしているし、引用例1の布枠Aは、その実施例では、原告主張のとおり、右方枠体の足場板が跳ね挙げる構成となっていることについても、これを踏まえて相違点2を認定し、その判断をしているものと認められる。
したがって、審決が引用例1記載の考案を、本件発明と同じ技術分野に属する先行技術として本件発明と対比し、上記のとおりの一致点の認定をしたことに誤りはなく、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 次に、原告は、引用例1には網体の構造、材質が明記されていないし、
ツルツルとした金属、プラスチックス等で網体を成型した場合には滑り止めの機能は生じないものであって、単に網体という記述からは滑り止めの機能を想定することはできないから、審決が引用例1の網体について「網体の上面は滑り止めの機能を有するものと認められる。」(審決書24頁15行、16行)と判断したことは誤りであると主張する。
しかしながら、引用例1(甲第4号証)には、「左方枠1は・・・その表面には適当網目を有する網体1Cあるいは板体が張設されている」(2頁11行ないし15行)、「右方枠体2は・・・上記枠体2Cには網目を有する網体あるいは板体2Dが張設されている」(3頁1行ないし6行)と記載されているから、引用例1の考案において、主歩廊(左方枠1)と副歩廊(右方枠体2)の足場として、「網目を有する網体」が採られており、これは、審決が認定するとおり、本件発明の「足場板」に相当することが認められる(このことは原告も争わない。)。したがって、引用例1記載の「網体」は、被構築物の梁材等に設けられて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、作業者がその上面を歩行用あるいは作業用の足場として使用するものであると認められるから、その材質、構造等について、
安全上の配慮をして設計すべきものであることは、当業者として自明のことであると認められる。そして、引用例1には、網体の材質、構造について、上記の安全性を阻害するような構成のものとして限定する記載はないのであるから、引用例1記載の考案は、作業用の歩廊の足場として上面が網目上の構造のものを採ることによって、人が歩行、移動等の動作をするときに、上面に形成された網目により、靴底との接触面に凹凸が生じて、靴底が滑るのを防止する機能を一般に奏するものであることは、当然に開示されていると認められる。これに反し、そのような作業用の歩廊の足場を構成する網体の材質、構造として、原告が主張するように、ツルツルとした金属、プラスチックス等の材質で構成され、かつ滑り止めの機能が生じ得ない構造のものが採られるということは、上記の技術常識からは想起し難いというべきであり、引用例1記載の網体が原告の主張するような構成、構造のものとして開示されているとは到底認められないから、原告の上記主張は失当というほかなく、
審決が引用例1の網体について、上記のとおり「網体の上面は滑り止めの機能を有するものと認められる。」として、引用例1記載の考案と本件発明との一致点として、「主歩廊と副歩廊の各足場板の上面には滑り止めが設けられ、」(審決書25頁9行、10行)と認定したことは相当である。
(3) 以上のとおり、審決の一致点の認定に、原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断についての誤り)について(1) 相違点1(本件発明の歩廊が被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されているのに対し、引用例1記載の考案は、梁材の上に設けられていること)について ア 原告は、一般に建築、土木分野で「被構築物」というと、ビルディング、
橋、船舶等の大型で高層のものをいうのが普通であって、少なくとも枠組足場は「被構築物」ではなく、審決が例示する引用例2、引用例5は、枠組足場間、慣用の足場間に足場板を架設することを示すだけであって、歩廊を被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設することが周知であることを示すものではない旨主張して、審決が「歩廊を被建築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設することは、仮設用の歩廊において周知の技術的事項であって、この点に技術的意義があるとは認められない」(審決書27頁9行ないし13行)と判断したことは誤りであると主張している。
イ 原告の上記主張は、本件発明の構成中の「水平支持材」は、梁材等の「被構築物の水平支持材」に限られるものであり、被構築物を構築する際に築造される枠組足場等の足場の水平支持材を含まないことを前提とする主張であると理解することができる。
しかしながら、争いのない本件発明の要旨によると、本件発明は、平成8年7月29日付け手続補正書(甲第2号証の2)による補正後の本件発明に係る明細書の特許請求の範囲請求項1に記載のとおり、「被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊において、・・・工事用可搬式歩廊。」という構成を採るものであるから、本件発明の歩廊は、この記載の文言のとおり、「被構築物の梁材」を例示とする「水平支持材間」に「架設あるいは吊設されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする工事用可搬式歩廊」との構成を採るものとして特定されているものであると解するのが相当である。したがって、この構成中の「水平支持材」は、「被構築物の梁材」や「被構築物の水平支持部材」に限られるものではなく、工事用に仮設される枠組足場等の足場であっても、その水平面上に設置される枠材(鋼材等)の支持材は、この「水平支持材」に該当すると解される。このことは、一般に、建物等の被構築物の構築に当たっては、作業者が歩行あるいは作業するために水平面上に設置する足場(歩廊)が不可欠であり、その足場の構成としては、例えば、建物の構造体で、
水平面に位置する梁材と梁材との間に設置されるもののほかに、建物の構造体の周辺に、仮設の枠組みを築造して、その水平面に位置する枠材(鋼材等)と枠材との間に設置されるものも、広く慣用されていることは、当業者にとって自明のことであると認められるところ、本件発明に係る明細書(甲第2号証の1)においても、
発明の詳細な説明】欄に、【産業上の利用分野】として、「本発明は、例えば、
船体建造作業用、その他工事に用いる可搬式歩廊に関するもの・・・」とのみ記載され(段落【0001】)、【従来の技術】として、「船舶あるいは建物等の被構築物の構築にあっては、所謂作業足場の確保や作業者の歩行路確保のために船腹に突出するピースや建物の梁材等の水平支持材間に歩廊が架設されたりあるいは吊設されたりする。」(段落【0002】)とのみ記載され、【実施例】の説明として、「本発明の歩廊は、上記のように構成されているので、工事現場での設置に際しては、所望の設置箇所へ搬送し、被構造物の水平支持部材上に、例えば、船舶であれば船腹から突出するピース上に、また建物であれば梁材上等に主歩廊10あるいは副歩廊20の端部を載せるとか、あるいは、本発明の歩廊同士を互いに接続して上記梁材等に近接させて平行に設置する、等任意の向きで設置して使用する。」(段落【0046】)と記載され、工事用の仮設の歩廊である本件発明の歩廊同士を接続することが開示されているが、工事用の仮設の歩廊が設置、接続される「水平支持材」について、上記の慣用の工事作業用の枠組足場等の足場を構成する枠材を除外したり、梁材等の被構築物を構成する部材のみに限定する趣旨の記載がないことからも裏付けられるものである。
なお、原告は、船舶、建築物等の大型で高層の被構築物の梁材間に直接足場板を架設するような方法は従来存在していない旨主張しているが、本件発明は、その構成中の「水平支持部材」として、「船舶、建築物等の大型で高層の被構築物の梁材」のみに限定するものではないから、原告のこの主張は、本件発明に係る明細書の特許請求の範囲の記載に反し、明らかに失当である。のみならず、本件発明に係る明細書(甲第2号証の1)には、上記の【従来の技術】である船腹に突出するピースや建物の梁材等の水平支持材間に架設されたりあるいは吊設されたりする歩廊の具体例について、段落【0003】として続けて記載し、図1にも示しているのであり、原告のこの主張は、本件発明に係る明細書中の発明の詳細な説明の記載にも反するものである。
このように、原告の上記アの取消事由の主張は、その前提において失当であって、採用することができない。
ウ さらに、原告の上記アの主張は、審決が「歩廊を被建築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設することは、仮設用の歩廊において周知の技術的事項である」と認定したことが誤りであると主張するものであるが、この主張も次のとおり失当である。
エ 審決が周知の技術的事項であると認定するに当たり、例示した技術文献である引用例2、引用例5には、次の技術的事項が記載されていることが認められる。
(ア) 引用例2(甲第5号証)には、「従来の枠組足場間に設ける鋼製足場板の両端の固定は第1図の枠組足場に鋼製足場板の取付説明図及び第2図の鋼製足場板の両端を固定する説明図に示すように、枠組足場1′間に設ける鋼製足場板2′の両端を枠組足場1′のパイプ3′にワイヤ4′で固縛していた。かかる固定手段ではワイヤの取付け取外しに時間がかかり、ワイヤの再使用がしにくい等の欠点があった。本考案は従来の鋼製足場板を枠組足場に取付ける場合の上記の欠点を排除することを目的として考案されたものである。」(1頁10行ないし20行)と記載され、第1図も参酌すれば、引用例2に記載の技術は、枠組足場間に直接架設する鋼製足場板を前提とし、枠組足場に対する足場板の取付の改良を図ったものであると認められる。
(イ) 引用例5(甲第8号証)には、「直立構造体上で建築作業あるいは修復作業を行うためには、作業員または道具を運ぶため構造体の面に沿って縦方向に間隔をおいて作業用プラットホームを組み立てるか吊り下げる必要がある。多くの場合、特に、構造体の表面が、一つまたはそれ以上の面で湾曲している場合、異なる長さのプラットホームを備えていることが必要である。従来、この問題に対応するために異なる長さの標準規格の剛体のプラットホームを備えておくことが必要であったので、本発明は、その一つの目的として、広範囲なさまざまな長さの間隙を橋渡しするのに使用できる標準的なテレスコープ状に延長可能なプラットホームを提供することである。」(訳文1頁7行ないし14行)と記載されており、直立構造体の建築作業において、作業員又は道具を運ぶため構造体の面に沿って縦方向に間隔をおいて作業用プラットホームを組み立てるか吊り下げる必要があり、引用例5に記載の技術は、この改良を図ったものであると認められる。
オ 以上、審決が周知の技術事項が記載されたものとして例示した引用例2及び引用例5の各記載内容に、本件発明に係る明細書(甲第2号証の1)の記載内容(本件発明の出願前の【従来の技術】として、上記イのとおり、「船舶あるいは建物等の被構築物の構築にあっては、所謂作業足場の確保や作業者の歩行路確保のために船腹に突出するピースや建物の梁材等の水平支持材間に歩廊が架設されたりあるいは吊設されたりする。」(段落【0002】)と記載され、続けて、その具体例(段落【0003】)が記載されていること)を併せて考慮すれば、本件発明に係る明細書上、従来の技術として記載されている「仮設用の歩廊を、被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設する」という事項は、周知慣用の技術であると明らかに認められるから、これと同旨の審決の認定に誤りはなく、原告の上記ウの主張も採用することができない。
(2) 相違点2(本件発明の足場板が一対の枠体と枠体の内側間に連設されているのに対し、引用例1記載の考案の右方枠体の足場板は、左方枠体の足場板と異なり、枠体間に連設されていないこと)について ア 原告は、引用例1記載の考案の右方枠体では、枠体2Cと板体2Dを跳ね上げて下方に開口部を形成する構成であるから、本件発明の構成と作用効果が異なると主張する。
イ しかしながら、引用例1記載の考案は、梁の上にその長さ方向に設けた仮設通路用の布枠を開示するものであるから、その右方枠体において、枠体2Cと板体Dを跳ね上げて下方に開口部を形成することは、梁についての作業を行うために採られた構成であると認められ、本件発明では、歩廊は「被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設される」ものであって、梁の上に設けられるものではないから、開口部を形成する構成をとる必要がないものと認められる。
すなわち、本件発明と引用例1記載の考案とでは、梁材との関係における歩廊の設置形態の相違により、引用例1記載の右方枠体において、相違点2に係る構成上の相違が生じたものと認められるのであり、審決は、本件発明の相違点2に係る「歩廊の足場板を一対の枠体間に連設する」との構成が、引用例1記載の考案における「左方枠体」にも示されたように、仮設用の歩廊において周知の技術的事項であると認定し(審決書27頁17行ないし28頁1行)、また、本件発明に係る「主副複数の歩廊を有するものにおいて、歩廊の足場板を一対の枠体間に連設する」との構成が、引用例5(甲第8号証)、引用例7(甲第11号証)に記載されているように、仮設用の歩廊において周知の技術的事項であると認定し(同28頁1行ないし6行)、これらのことを理由として、相異点2について「技術的意義があるとは認められない。」と判断した(同28頁6行)ものであって、その判断過程に誤りはないと認められる。
ウ 原告は、引用例1記載の考案について、審決が相違点として挙げた構成に基づく作用効果を主張するにすぎないものであって、その主張は失当である。
(3) 相違点3(本件発明の副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成されているのに対し、引用例1記載の枠体には該補強部が設けられていないこと)について ア 原告は、引用例1記載の足場板(布枠A)は、前後端のフック1D、2Eを介して受け棒4Gに引掛けながら梁上に固定するものであるのに対し、引用例2記載の足場板1は、両側部のC型部材2を利用して枠組足場8のパイプ5に固定するものであり、両者は、足場板の技術分野に属することでは共通しても、使用場所と取付構造が根本的に異なるから、引用例2に記載の技術を引用例1に記載の技術に転用することは当業者といえども容易ではないし、仮に引用例2記載のC型部材を引用例1記載の足場板の側部に転用しても、何の意味もない旨主張し、このことを理由として、審決が「上記相違点に係る本件特許発明の構成は、引用例1に記載された歩廊の枠体の構造に換えて甲第5号証に記載された枠体の構造を適用することにより、当業者が容易に想到できたことである。」(審決書28頁17行ないし29頁1行)と判断したことは、誤りであると主張している。
イ しかしながら、審決は、本件発明と引用例1記載の考案との相異点3として、本件発明の「副歩廊の枠体下端外側には上向きフック状の係合片からなる補強部が形成されている」のに対し、引用例1記載の枠体には「該補強部が設けられていない」ことを認定した上で、「歩廊の枠体の下端外側に上向きフック状の係合片からなる補強部を形成すること」は、引用例2(甲第5号証)に記載されていると認定し(審決書28頁9行ないし11行)、この補強部を本件発明のように特に「副歩廊」に限定したことは、本件発明においても、主歩廊の枠体の下端外側に上向きフック状の係合片からなる補強部を形成していることから、特に技術的意義があるとは認められないと判断しており(同28頁12行ないし17行)、本件発明に係る明細書(甲第2号証の1)によると、本件発明の実施例において、審決認定のとおり、主歩廊の枠体の下端外側に上向きフック状の係合片からなる補強部を形成している構成の歩廊が開示されている(段落【0018】及び図2、3参照)ことが認められるから、この審決の判断は相当であると認められる。
その上で、審決は、本件発明と引用例1記載の考案との上記の相異点3について、補強部が設けられていないという引用例1に記載の歩廊の枠体の構造に代えて、引用例2(甲第5号証)に記載の補強部が設けられた枠体という構造を適用することによって、当業者が容易に想到することができたと判断したものである(同28頁17行ないし29頁1行)。
そして、本件発明の歩廊が被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設されているのに対し、引用例1記載の歩廊は、梁材の上に設けられていることは、
審決が先に相異点1として認定した上で、「仮設用の歩廊を、被構築物の梁材等の水平支持材間に架設あるいは吊設する」という事項は、周知慣用の技術であるから、この点に技術的意義があるとは認められないと判断しており、この審決の判断が相当であることは、上記(1)に判示のとおりである。したがって、引用例1記載の歩廊を、水平支持材間に架設あるいは吊設する場合に、これと同じく水平支持材間に設置される、引用例2記載の歩廊における「補強部が設けられた枠体」という構造を、引用例1記載の枠体の構造として採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることは明らかであると認められるから、上記の審決の判断過程には誤りがないと認められる。
原告の上記アの主張は、審決が本件発明の「枠体下端外側の上向きフック状の係合片からなる補強部」に対応する構成における相異点としては認定していない、引用例1記載の歩廊の「フック1D、2E」との構造に、引用例2記載の枠体の「C型部材2」の構造を転用することを想到する場合の困難性を指摘するものともいえるものであって、採用することができない。
(4) 相違点4(本件発明の主歩廊と副歩廊の枠体にある手摺が、引用例1記載の布枠Aには設けられていないこと)について ア 原告は、引用例1では、足場板が手摺用の支柱と分離し、足場板を手摺側の受け棒に引掛けるものであるから、足場板の前後枠の側部に折り畳み式の手摺を取付けることを示唆するものではないこと、したがって、引用例4に記載された枠組足場用の足場枠における折り畳み式の手摺を、引用例1の足場板の前後枠の側部に転用しようとする発想は、当業者であっても生まれないと主張している。
イ しかしながら、前記1(1)のとおり、被構築物の梁材等に設置されて作業者の歩行あるいは諸作業を可能にする歩廊では、その設置状況に応じてその構造等について安全性の配慮をすべきものであることは、当業者にとって自明のことであると認められるから、引用例1記載の足場板(歩廊)を、被構築物の梁材等の水平支持材間に架設又は吊設する際に、作業者の歩行や作業上の安全を図ることは当然の設計事項であり、引用例4の手摺を引用例1の足場板(歩廊)の枠の側部に適用することは、当業者であれば容易に想到することができるものと認められる。
したがって、原告の上記アの主張は採用することができない。
(5) 相違点6(本件発明の副歩廊の各枠体端部の連結金物は、一方の連結金物の内側と他方の連結金物の外側には中央部より先端側の肉厚をやゝ薄くして段差部を形成しているのに対し、引用例1記載の連結金物はそのような形状となっていないこと)について ア 原告は、引用例6の図6、図7に示す接合金具8がフックにすぎないから、隣接する2つの足場板1を連設するには、フックを引掛ける丸棒が必ず必要となるものであり、引用例1記載のフックも受け棒に引掛けるものであるから、フック同士を直接結合して足場板を連設させようとすることを技術的に示唆するものではないこと、引用例6に開示された段部を備えた足場板を引用例1記載の足場板に置換したとしても、丸棒を必要としない本件発明の連結金物を当業者が想到することはできないと主張している。
イ しかしながら、本件発明に係る明細書(甲第2号証の1、2)によれば、本件発明に係る明細書の特許請求の範囲には、「連結金物」と記載されているだけであり、連結金物の具体的な構成やこれが取り付けられた副歩廊が連結される態様について特定する記載はなく、その実施例として、原告指摘の丸棒を必要としない連結金物が記載されているにすぎないことが認められるから、本件発明の「連結金物」には、引用例6が開示するフックの形状の連結金物も含むものと解されるのであり、引用例6のフックであっても、本件発明の連結金物に相当するというべきである。
原告上記アの主張は、本件発明における「連結金物」が、その実施例に係る丸棒を必要としないものに限定されることを前提とするものであり、その前提において失当であるから、採用することができない。
3 結論 以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 古城春実
裁判官 橋本英史