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関連審決 審判1998-29
関連ワード 29条1項3号 /  進歩性(29条2項) /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  実質的に同一 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 95号 審決取消請求事件
原告 スペクトラ−フィジックス・インコーポレイテッド
訴訟代理人弁護士 竹内澄夫
同 得丸大輔
同 弁理士 堀明彦
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 青山待子
同 豊岡静男
同 小林信雄
同 宮川 久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第29号事件について平成11年9月22日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、1985年(昭和60年)5月1日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和61年4月30日、名称を「Nd-YAGレーザ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭61-98411号)が、平成9年7月16日に拒絶査定を受けたので、平成10年1月5日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成10年審判第29号事件として審理した上、平成11年9月22日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年11月29日原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の請求項1、23及び30に記載された各発明(以下、順に「本願第1発明」、「本願第2発明」及び「本願第3発明」という。)の要旨 【請求項1】高効率でダイオードポンプするコンパクトなネオジム-YAGレーザであって、
a) 前端部と後端部を有するネオジム-YAGレーザロッド、
b) ハウジング内の前端部前方の固定した位置にネオジム-YAGロッドを保持する手段を有するハウジング、
c) Nd:YAGロッドをポンプするためのレーザダイオードで、ロッドをポンプするために実質的にロッドに適合する出力周波数を有し、ハウジング内でロッドの後ろでロッド心合わせされて固定されているレーザダイオード、
d) レーザ空洞の前端部を形成する反射面を有する出力カップラー、
e) Nd:YAGロッドを内部に有するレーザ空洞の後端部を形成する後方ミラー手段、
f) レーザ空洞内の周波数二倍器であって、レーザロッドの出力ビームを受け、その波長を二等分し、周波数を二倍するために配置された周波数二倍器、
g) レーザビームを偏光し、効率的な周波数二倍化をするための、レーザ内にある偏光手段とから成る装置。
【請求項23】高効率を有するネオジム-YAGダイオードポンプレーザであって、
a) ハウジング、
b) ハウジング内に固着されたレーザダイオードであり、少なくとも約20%の効率を有して、約0.8ミクロンの波長の出力ビームを有し、該ダイオードを冷却するための冷却手段を備えるレーザダイオード、
c) レーザダイオードの前にあり、ハウジング内でダイオードのビームの光路内に維持されたNd:YAGレーザロッドで、ダイオードがレーザロッドをポンプするダイオードの出力に十分に適合するレーザロッド、
d) レーザロッドを内包するレーザ空洞を形成する前部及び後部ミラー手段、
とから成る装置。
【請求項30】高効率で可視光スペクトルのレーザビームを作る方法であって、a) ネオジム-YAGレーザロッドを有するレーザ空洞を形成する工程と、
b) 近赤外線出力ビームを生成するべく、ロッドをポンプするためにロッドと十分に一致する出力周波数を有するレーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程、
c) 空洞中の周波数二倍器を使用して、近赤外線出力ビームの周波数を二倍化する工程、
d) 周波数二倍化の効率を促進するためにレーザ空洞内でレーザビームを偏光する工程、とから成る方法。
3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願第1発明は、Walter Koechner「Solid-State Laser Engineering」Springer- Verlag New York Inc.(1976年)277頁、516頁〜521頁(審判における「原審甲第3号証」、本訴甲第2号証、以下「引用例」という。)及び特開昭50-45595号公報記載の各発明に基づいて、本願第2発明は、引用例記載の発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、それぞれ当業者が容易に想到し得たものであり、また、本願第3発明は、引用例発明と実質的に同一であるから、本願発明は、特許法29条2項及び同条1項3号の規定により、特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本願第1〜第3発明の要旨の認定(審決書2頁3行目〜4頁8行目)、本願第1発明と引用例との一致点及び相違点(相違点イ〜ハ)の認定(同6頁11行目〜7頁13行目)、上記相違点ハについての判断(同8頁5行目〜12行目)、本願第2発明と引用例発明との相違点の認定(同9頁4行目〜7行目)並びに本願第3発明と引用例発明との一致点の認定(同9頁16行目〜10頁7行目)中、「高効率」及び「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」が一致するとの認定を除く部分の認定は認める。
審決は、本願第1発明に係る上記相違点イ、ロ及び本願第2発明に係る上記相違点についての判断を誤り(取消事由1〜3)、また、本願第3発明と引用例発明との同一性の判断を誤った(取消事由4)ものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本願第1発明に係る相違点イについての判断の誤り) 審決は、本願第1発明と引用例発明との相違点イ、すなわち「本願第1発明が、『高効率でコンパクトな構造』というものであるのに対して、第1引用例記載の発明(注、引用例発明)には、その点が記載されていない」(審決書7頁4行目〜6行目)点について、「固体レーザ構造を、効率が高くかつコンパクトなものにすることは、固体レーザについてよく知られている一般的なーつの方向であって、
上記原審甲第2号証(注、The Optical Society of America「APPLIED OPTICS」Vol.18、No.23〔1979年〕3882頁〜3883頁、本訴甲第3号証)にも、そのことが示唆されている」(同7頁16行目〜18行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、甲第3号証記載の発明はLNPレーザを使用しているのに対し、
本願第1発明はネオジム-YAGレーザロッドを使用しているところ、同じ固体レーザといっても、極めて薄いLNP薄膜を使用するLNPレーザーと、明確な前・後端部を有する厚いロッドを使用するYAGレーザとでは、コンパクト化のための対応措置が明らかに異なり、それぞれ固有の形態に伴う効率性及びコンパクト性に関する問題を抱えているのであるから、「一般的な一つの方向」と大くくりにすることはできず、両者は技術分野が全く異なるといってもよい。
また、レーザ装置は、光学系を含み、高い精度が要求されるものであって、
機械的な振動や不安定性に弱いため、その影響を取り除き効率を上げるためには、
各固体レーザの固有の性質に基づいた検討が必要であるところ、甲第3号証記載の発明からは、YAGレーザを効率よくコンパクトなものとするための示唆を得ることはできない。
なお、被告は、ネオジム-YAGレーザを用いたレーザ加工機は微細加工に使用されているものであるから、効率が高く、かつ、コンパクトなものとすることは、必然的な一つの方向であり、周知の課題であった旨主張するが、微細加工に使用されているからといって、直ちにこのような課題に結びつくものではない。
2 取消事由2(本願第1発明に係る相違点ロについての判断の誤り) 審決は、本願第1発明と引用例発明との相違点ロ、すなわち「本願第1発明が、『ハウジング内の前端部前方の固定した位置にレーザロッドを保持する手段を有するハウジング』を構成するのに対して、第1引用例記載の発明(注、引用例発明)は、ハウジング構造について特に記載がない」(審決書7頁7行目〜10行目)点について、「固体レーザがハウジング構造を有することは当然なことであって、上記原審甲第2号証(注、本訴甲第3号証)にも、ハウジング内にレーザロッドその他を収納することが示唆されている」(同7頁末行〜8頁4行)と判断するが、誤りである。
すなわち、甲第3号証には、「マウント」及び「ボディー」についての記載はあるものの、当該「マウント」は、LNPレーザ薄膜とそのミラーのみを収納しているだけであって、ダイオードとそのレンズが収納されておらず、しかも、機械的な振動や不安定性からの影響を受け易く、効率向上に資するものとはいえない。
また、甲第3号証の「ボディー」についての記載は、その直径と長さ以外に具体的構成については全く説明がなく、どのような形態であるのか図示もされておらず、
この「ボディー」をもって、本願第1発明の「ハウジング」と同視することはできない。
3 取消事由3(本願第2発明に係る相違点についての判断の誤り) 審決は、本願第2発明と引用例発明との相違点、すなわち「本願第2発明において、ポンピング用レーザダイオードが、ハウジング内に固着され・・・るのに対して、第1引用例記載の発明(注、引用例発明)は、それらの点について記載がない」(審決書9頁4行目〜7行目)点について、「ポンピングレーザダイオードが固体レーザロッドなどと共にハウジング内に固着されることは、上記原審甲第2号証(注、本訴甲第3号証)にも示されているように、よく知られていることであ」る(同9頁8行目〜10行目)と判断するが、誤りである。
すなわち、甲第3号証記載の発明において、「マウント」に固着されているのは固体レーザとミラーのみであり、ダイオードやレンズ等は固着されておらず、
しかも、甲第3号証の「ボディー」を「ハウジング」と同視することができないことは、上記2で述べたとおりである。
4 取消事由4(本願第3発明と引用例発明との同一性の判断の誤り) 引用例発明は、本願第3発明の構成中、「高効率」及び「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」(構成要件b)を備えないものであるから、
「本願第3発明は、第1引用例記載の発明(注、引用例発明)と実質的に同一であると認められる」(審決書10頁8行目〜9行目)とした審決の判断は誤りである。
すなわち、引用例(甲第2号証)の516頁〜521頁及び図10.10(518頁)には、非線形材料を使用して周波数を二倍化し共鳴させるためのオシレータが記載されているものの、このような記載からは、上記図10.10に図示された装置(以下「図10の装置」という。)が、その光源としてレーザダイオードを使用しているか否かは明らかでない。引用例の277頁には、レーザダイオードでポンプするネオジム-YAGレーザに関する記載があるものの、図10の装置と組み合わせて使用する旨の記載はない。したがって、図10の装置が光源としてレーザダイオードを使用しているとはいえず、「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」において両者は相違するというべきである。
次に、引用例発明の目的は可視光レーザの連続出力にあるところ、引用例発明が、コンパクト化、長寿命かつ高効率を目的とするものとはいえないから、「高効率」の構成を備えるものではない。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(本願第1発明に係る相違点イについての判断の誤り)について 原告は、効率性及びコンパクト性に関する課題において、LNPレーザーとネオジム-YAGレーザーとは相違する旨主張するが、株式会社オーム社昭和57年12月15日発行の「レーザーハンドブック」(乙第1号証)216頁にも記載されているように、本願発明の特許出願前から、固体レーザ装置の高効率、高寿命、コンパクト化などを目的として、各種レーザなどの励起光源が開発、使用されており、しかも、ネオジム-YAGを用いたレーザ加工機は、半導体基板の穴あけ、切断、集積回路などの微細加工を行うものであり、半導体工業以外でも高精度を必要とする多くの微細加工に使用されているものであるから、ネオジム-YAGレーザを効率の高くコンパクトなものとすることは、必然的な一つの方向であり、
周知の課題であったというべきである。
2 取消事由2(本願第1発明に係る相違点ロについての判断の誤り)について 原告は、甲第3号証記載の「マウント」及び「ボディー」は、本願第1発明の「ハウジング」と同視することができない旨主張するが、甲第3号証には、「LNPレーザは3次元可変マウントに取付けられ、該マウント、レンズ及びLDは直径6p及び長さ10pの一つのボディに組み立てられる」(3883頁左欄5行目〜7行目、同訳文1頁26行目〜28行目)と記載されており、これに図1を参酌すれば、「反射ミラーやLNP結晶が取り付けられたマウント、コンデンサーレンズ及びポンピングレーザーダイオードが直線的に配列されて一つのボディ(ハウジング)に固定収納されたもの」が記載されているというべきである。
また、一般に、固体レーザがハウジング構造を有することは、加工機として実用化されるための利便性、安全性等から当然のことというべきであり、さらに、
ネオジム-YAGレーザロッド、励起ランプ及びミラーを含む光学要素をハウジングに収納しモジュールとすることは、特開昭59-64190号公報(乙第2号証)に記載されているように、本願発明の特許出願前に周知である。したがって、
引用例には、ネオジム-YAGレーザがハウジングを有することについては記載がないものの、そのレーザダイオードとネオジム-YAGレーザロッドをハウジング内の前後に固定、収納することは、当業者が容易に想到し得たものである。そして、レーザロッドとレーザダイオードをハウジング内に固定、収納すれば、それらの位置決め、調整等が容易となり、コンパクトで高効率のものが得られることは明らかである。
3 取消事由3(本願第2発明に係る相違点についての判断の誤り)について この点の反論は、上記2で述べたところと同じである。
4 取消事由4(本願第3発明と引用例発明との同一性の判断の誤り)について 引用例(甲第2号証)は、その目次からも明らかなように、「2 固体レーザ材料の性質」、「3 レーザ発振器」、「4 レーザ増幅器」、「5 光共振器」、
「6 光ポンプシステム」、「10 非線形装置」といった固体レーザを構成する各パーツごとに項を設けて解説がなされているものである。すなわち、引用例は、各項から適当なパーツを選択し、それらを組み合わせて一つの固体レーザ装置を構成することが意図されているということができる。
そして、引用例には、「Nd:YAG及びNd:YAlO3レーザーの空洞内周波数二倍化のための非線形材料の選択はLiNbO3、Ba 2NaNb 5O 15 、
及びLiIO3に限定される。Qスイッチレーザーの外部調波生成用に通常使用される材料である、KDP及びその同形体の非線形性は非常に小さいため低パワーCWレーザーで有用ではない。フラッシュランプポンプシステムと比較すると、内部周波数二倍化CWレーザーにおいて、しばしば平均パワーは高いがピークパワーは低い。したがって、高い非線形係数、小さい吸収損失及び良好な光学品質が特定の結晶を選択するための決定要因である」(517頁24行目〜33行目、同訳文4頁20行目〜末行)と記載され、図10.10には、非線形材料としてBa2NaNb5O 15 を用いることが図示されている。
以上によれば、非線形材料としてBa2NaNb5O15を用いたネオジム-YAG内部周波数二倍化CWレーザにおいて、引用例の「6 光ポンプシステム」の項に記載されたものの中から、フラッシュランプポンプシステム以外の光ポンプシステム、すなわち、半導体レーザダイオードのピーク放出波長をネオジム-YAG吸収バンドに一致させる光ポンプシステムを選択し、高効率のレーザビームを作る方法を構成することが実質的に記載されているというべきである。
したがって、本願第3発明が引用例発明と実質的に同一であるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由4(本願第3発明と引用例発明との同一性の判断の誤り)について (1) 本願第3発明と引用例発明との同一性に関する審決の認定中、「高効率」及び「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」との構成以外の構成において、両者が一致することは当事者間に争いがない。
(2) 「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」について 原告は、引用例(甲第2号証)の518頁に図示された図10の装置の光源としてレーザダイオードを使用しているか否かは明らかでなく、引用例の277頁に記載されたレーザダイオード光源が図10の装置に使用されるとの記載はない旨主張する。
確かに、引用例の図10の装置に関する直接的な記載としては、「出力用の前方凹面鏡と後方凹面鏡とからなる共振器中に、1.06μmを発振するNd:YAGレーザロッドと、1.06μmを二倍周波数の0.53μmに変換する非線形結晶体と、非線形結晶体に供給するレーザ光に偏光を与えるブリュースター板とを配置した空洞構造が示されている」(審決書4頁12行目〜17行目。この記載事項の認定は当事者間に争いがない。)との記載が見られるにとどまり、その励起光源としてレーザダイオードを特定した記載はないものの、前記「レーザーハンドブック」(乙第1号証)の「固体のレーザー媒質を光励起し、レーザー光を発生あるいは増幅させる装置を固体レーザーと呼ぶ。固体レーザー装置は大別して、励起光源、レーザー媒質、共振器の3部分から構成される」(216頁左欄3行目〜6行目)との記載によれば、Nd:YAGレーザのような固体レーザ装置は、励起光源、レーザ媒質及び共振器を必須の構成要素としていることが認められ、図10の装置が固体レーザを構成するものである以上、当然に励起光源を必要とすることは自明である。
他方、引用例(甲第2号証)の277頁31行目〜41行目(同訳文4頁8行目〜16行目)には、「半導体ポンプのNd:YAGレーザーに関するほとんどの報告は、単一ダイオード若しくはアレイのいずれかとしてGaAsレーザダイオード・・・を含んでいた。・・・ダイオードポンプのNd:YAGレーザーにおいて、ダイオードのピーク放出波長をNd:YAG吸収バンドに一致させることが重要である。・・・主に利用されてきたポンプバンドは0.807及び0.867μmである」との記載があり、これによれば、Nd:YAGレーザについて「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」が明示されていることは明らかである。
そこで、引用例の277頁に記載された「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」を、引用例の518頁に図示された図10の装置に使用することが開示されているといえるかどうかについて検討するに、引用例(甲第2号証)は、「Solid-State Laser Engineering」(固体レーザエンジニアリング)と題する600頁を超える技術書の一部であり、「1 光増幅」、「2 固体レーザ材料の性質」、「3 レーザ発振器」、「4 レーザ増幅器」、「5 光共振器」、「6 光ポンプシステム」(上記277頁の記載部分が含まれる。)、「7 熱除去」、
「8 Qスイッチ及び外部スイッチング装置」、「9 モード固定」、「10 非線形装置」(上記518頁の記載部分が含まれる。)、「11 レーザの応用に関する設計」及び「12 光学機器のダメージ」の全12章から成るものである。そして、固体レーザ装置の必須の構成要素である励起光源、レーザ媒質及び共振器は、上記の各章中、それぞれ「6 光ポンプシステム」、「2 固体レーザ材料の性質」及び「5 光共振器」に対応するものと認められるが、その余の9章も含めた全体として「固体レーザ」という一つのテーマを扱っているのであるから、各章の記載が相互に関連するものであることは当然であり、上記3章もそれ自体で完結した独立の記述と見るべきではない。
そうすると、「10 非線形装置」の章に記載された図10の装置について、当該章の記載自体としてはNd:YAGレーザの励起光源について特定していないとしても、レーザダイオード光源を使用することを妨げるような記載も見当たらず、他方、励起光源に関する「6 光ポンプシステム」の章に記載された「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」がNd:YAGレーザという図10の装置と同一の媒質に関して記載されていることからすると、引用例全体として見た場合に、図10の装置に「レーザダイオードでレーザロッドをポンプする工程」を組み合わせて使用することが開示されているということができる。
よって、この点の原告の主張は採用することができない。
(3) 「高効率」について 次に、原告は、引用例発明1が本願第3発明の「高効率」との要件を満たさない旨主張する。そこで、まず、「高効率」の意義について検討するに、本願第3発明の要旨に規定する「高効率で可視光スペクトルを作る方法」との文言から、
「高効率」が「可視光スペクトルを作る」上での高い効率性をいうものであることは明らかであるところ、構成要件cが「空洞中の周波数二倍器を使用して、近赤外線出力ビームの周波数を二倍化する工程」と規定することからすると、本願第3発明のネオジム-YAGレーザロッドからの出力は可視光ではなく、その周波数を二倍化した光が可視光であると認められるから、結局、「高効率」とは、周波数二倍化が高効率に行われるとの趣旨と解される。そして、周波数二倍化が高効率に行われるための構成としては、構成要件dが「周波数二倍化の効率を促進するためにレーザ空洞内でレーザビームを偏光する工程」を規定しており、しかも、本願第3発明の要旨が、柱書きで「高効率で可視光スペクトルのレーザビームを作る方法であって」と包括的に発明の内容を規定した上で、その具体的な構成を構成要件a〜dに分説するという体裁が採られていることも踏まえると、上記「高効率」とは、構成要件dと同義をいうものにすぎないと解するのが相当である。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しても、「可視光スペクトルを作る」上での「高効率」性について、これと異なる解釈を採用すべき根拠は見いだせず、かえって、「更に別の目的はレーザダイオードアレーによってポンプされたNd:YAGロッドを用いて、可視スペクトル・・・でNd:YAGレーザビームを作り出すための効果的方法を提供することである。本発明の以上のその他の目的は以下の構成から成る高効率でダイオードポンプされたコンパクトなNd:YAGレーザを提供することによって達成される。・・・効果的に周波数二倍化を促進するために偏光レーザビームのためのレーザ空洞内に偏光手段が備えられている構成である。」(甲第4号証8欄38行目〜9欄9行目)との記載からすると、本願第3発明の構成要件d自体から、可視スペクトルを作る上での高効率性が実現されることが記載されているということができる。
したがって、「高効率」は構成要件dと同義をいうものにすぎないと解すべきところ、構成要件dの構成を引用例発明が備えることについて当事者間に争いがないのであるから、これを本願第3発明と引用例発明との相違点ということはできない。
(4) そうすると、本願第3発明が引用例発明と実質的に同一であるとした審決の判断に誤りはなく、本願第3発明は特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができないというべきである。
2 結論 以上のとおり、原告の取消事由4の主張は理由がないから、その余の点について判断するまでもなく、本件特許出願について拒絶査定をすべきものとした審決の判断は正当というべきであり、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条
民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利