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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14ネ4194特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成10ワ6066特許権侵害不存在確認等請求事件 判例 特許
平成15ネ653特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成14ネ4193特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
平成12ネ2147特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  クレーム /  特許出願日 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  同一の作用効果 /  禁反言 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 1266号 特許権使用差止等請求控訴事件
控訴人 ヤーマン株式会社
訴訟代理人弁護士 川崎達也
同 佐々木 史朗
同 南敦
同 細矢眞史
同 上田望美
被控訴人 株式会社エヌ・エス商事
訴訟代理人弁護士 遠藤安夫
補佐人弁理士 後田春紀
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/25
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の光脱毛装置を使用してはならない。
(3) 被控訴人は、その所有又は占有する同目録記載の光脱毛装置を廃棄せよ。
(4) 被控訴人は、控訴人に対し、金3億円及びこれに対する平成10年7月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
本件は、発明の名称を「光脱毛装置」とする特許権を有する控訴人が、被控訴人の経営に係るエステティックサロンにおいて使用されている光脱毛装置は上記特許発明技術的範囲に属し、被控訴人によるその使用は上記特許権を侵害するものであると主張して、被控訴人に対し、当該光脱毛装置の使用の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めた事案である。
本件の争いのない事実、争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」及び「第三 争点及びこれに関する当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決の訂正 原判決14頁7行目及び8行目の「ハロゲン照射器」を「ハロゲンランプ照射器」に、同頁末行の「と均等なものとしてその」を「における当該光拡散用キャップを装着した付属照射プローブと同一の作用効果を奏し、その構成と均等なものとして、本件発明の」に改める。
2 控訴人の主張 2-1 本件発明の構成要件Cにおける「付属照射プローブ」について (1) 原判決は、本件発明の構成要件Cにおける「付属照射プローブ」の意味について、岩波理化学事典第5版が「プローブ」の意味を「奥まった所、隔たった所に用い、細部を非破壊的、遠隔的に観測する器具、物質、電磁波などを称する。また、その概念をさすこともある。外科医学では、身体のくぼみや傷の深さ、方向を探るために用いる先の尖っていない棒状の器具のことを称する。」と記載していることに基づいて、「目的の毛の毛根部等の狭い領域に集中して光を当てることのできる器具を意味する」と解したが、この解釈は、「プローブ」の字義の理解として正確でないばかりか、脱毛器という美容機器が一般的に製造、販売、使用される美容業界における用語法とも全く整合しない。
すなわち、「プローブ」の語は、国語辞典に記載は見られないが、英和辞典の「probe」の項には、「探り針」のほか「試験、試み、精査、探検、偵察、探査」等の記載があり、独和辞典の「Probe」の項には「検査、試験、証拠、実証、見本、標本」等の記載がある。専門用語としては、物理学、医学における基本的な字義は「探り針」であるとされる(南山堂「医学英和大辞典」第11版〔甲18〕、
研究社「理化学英和辞典」初版〔甲19〕等)が、化学の分野では「対象物の計測ないし探査の目的に使用される針状の小道具ないし装置」(丸善「標準化学用語辞典」〔甲25〕)等の意味が、生物学、生理・生化学の分野では、更に転じて「研究しようとする分子や細胞構造に結合している原子団あるいは分子」(化学同人「生理・生化学用語辞典」第1版〔甲27〕)等の意味が、軍事・宇宙用語としては「探査、偵察」(研究社「リーダーズ・プラス」初版〔甲29〕)、「探測機、
探査装置」(研究社「新英和大辞典」第5版〔甲20〕)等の意味が、工学用語としては「電子式装置の検知部を有する小さな筒」(日刊工業新聞社「マグローヒル科学技術用語大辞典」第1版〔甲24〕)、「機器の入力部として作られた別個の小さいユニットで、測定される信号を適当な方法で伝えるために、可とうケーブルによって機器に接続されるもの」(日本規格協会「JIS工業用語大辞典」第2版〔甲52〕)等の意味があるとされる。
このように、「プローブ」の原義は「探り針」の意味と考えられるが、これから発展ないし拡散して様々な意味に用いられており、「プローブ」の語の一般的な意味から本件発明の「付属照射プローブ」の意味を確定することはできない。
しかし、本件発明の「付属照射プローブ」の意味は、本件発明が美容器具の一種である脱毛装置であることから、美容業界における用語法に従って解釈されるべきである。
そこで、美容業界における「プローブ」の用語法を見るに、本件発明の特許出願前後に作成された美容器具の製品パンフレットにおいて、部分そう身、シワ・タルミとり、ニキビ解消を目的とした美容機器において、本体と可とう性ケーブルによって接続され、人体に接触させ、超音波を発するユニットを「超音波プローブ」と称しているもの(甲63)、美顔、そう身を目的とした美容機器において、レーザ、温冷刺激等を与えるユニットを「レーザープローブ」「スティムプローブ」「温冷プローブ」と称しているもの(甲64)があり、いずれも「狭い所に用いられる器具」ではない。このことは、控訴人の出願に係る多数の美容器具に関する特許の明細書(甲65〜77)の記載においても同様である。
以上のような「プローブ」の語の用例を踏まえれば、美容業界において「プローブ」とは、「本体機器と可撓性連結部によって接続された別個の小さいユニットで、対象物に一定の作用を及ぼす器具」をいうと解すべきであり、その発する光線が集束系か拡散系かを問うものではない。したがって、イ号物件のハロゲンランプ照射器は、本件発明の「付属照射プローブ」に当たる。
(2) また、本件明細書の実施例において、本件発明の「付属照射プローブ」により照射される赤色光の皮膚上の照射領域は直径約5ミリメートルの円であるとされるが、皮膚上の毛根の直径は約0.1ミリメートルにすぎない。この毛根の大きさと「付属照射プローブ」の照射領域を比較すれば、本件発明の「付属照射プローブ」が狭いところ、細部に光を当てるという構造を有するものとはいえない。
(3) 被控訴人は、後記3-1(2)のとおり、控訴人が本件発明の特許出願過程で、「付属照射プローブ」が集束系であることを自認した旨主張するが、そもそも「付属照射プローブ」が集束系か拡散系かを問うものでないことは上記のとおりである上、当該出願過程で拒絶理由通知に引用された発明における「プローブ」は、
光を集束するものとはいえず、被控訴人の主張はその前提において誤っている。
(4) 仮に、「付属照射プローブ」の意味が、原判決のいうように「目的の毛の毛根部等の狭い領域に集中して光を当てることのできる器具」であるとしても、イ号製品のハロゲンランプ照射器は、本件発明の「付属照射プローブ」に当たる。すなわち、イ号物件の「光脱毛用光源装置取扱説明書」(乙18)2頁には、「300Wハロゲンランプ・集光ミラー採用型」と記載されており、これが光を拡散して照射するのではなく、集光して照射するものであることが明らかにされている。
2-2 本件発明の構成要件Aにおける光の主強度について 本件発明の構成要件A(それぞれ赤色、青色に対応する可視光領域に主強度を有する2種の発光光源を有すること)について、控訴人は、原審においては、光の放射エネルギーを前提とした主張をしたが、予備的に、以下のとおり主張を追加する。
すなわち、光には放射エネルギーと吸収エネルギーがあるところ、本件発明は脱毛装置に関するものであって、照射光を毛の組織因子に吸収させ、乾固させるものであるから、構成要件Aの「主強度」は、吸収エネルギーによって判断されるべきである。そして、イ号物件のハロゲンランプの吸収エネルギーの主強度は670ナノメートル付近で、これは赤色に対応する可視光領域にあり、同キセノンランプの吸収エネルギーの主強度は450ナノメートル付近で、これは青色に対応する可視光領域にあるから、イ号物件は構成要件Aを充足する。
2-3 フィルターの有無に係る禁反言の原則の適用について (1) 被控訴人は、後記3-3のとおり、イ号物件のキセノンランプには紫外線を除去するフィルターが使用されており、これが本件発明の技術的範囲に属すると主張することは禁反言により許されない旨主張するが、このような主張は、原審においてされなかったものであって、時機に後れた攻撃防御方法の提出として許されないというべきである。
(2) 被控訴人が、イ号物件のキセノンランプに紫外線を除去するためのフィルターを設けたのは、プローブに光線を導くためのミラーに「コールドミラー」を採用するなど有害な紫外光のみを効率的に除去する構成があるにもかかわらず、あえてこれを用いなかったためであり、そのため、本来脱毛に有益な可視光をも除去してしまい、脱毛に関する作用効果を低下させることになっている。したがって、イ号物件の上記フィルターは、本件発明の構成要件に有害的事項を付加してその技術思想を用いるもの(一種のいわゆる不完全利用の場合)であって、本件発明の技術的範囲に属することに変わりはないというべきである。
3 被控訴人の主張 3-1「付属照射プローブ」について (1) 控訴人の主張する「プローブ」の意味は、本件明細書の記載と整合しない。すなわち、同じ「プローブ」との語が用いられていても、これを使用する機器の種類によってその作用効果は全く異なるのであるから、控訴人の提出する証拠は本件発明の「付属照射プローブ」の技術的内容を確定する資料とはならず、当該「プローブ」が使用される装置ごとにその技術的範囲を定めなければならない。そして、本件発明においては、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び願書添付図面において、「付属照射プローブ」が発光光源の光を凸レンズ等の集束光学系により集光する部材として明示されているところである。しかも、本件明細書の特許請求の範囲の請求項5は、「赤色光の付属照射プローブの先端には、照射強度を低減させて照射範囲を拡大させる光拡散用キャップが装着可能であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の装置」と規定するところ、「付属照射プローブ」が控訴人の主張するように拡散系も含むものであるとすれば、このような請求項をわざわざクレームする必要はなかったというべきである。
(2) 控訴人は、本件発明の赤色光の照射領域と毛根の直径の比較に基づいて、
本件発明の「付属照射プローブ」が狭いところ、細部に光を当てる構造を有するものでない旨主張するが、本件明細書の実施例において、赤色光の照射範囲を直径約5ミリメートルとしたのは、複数の毛根部に同時の赤色光を照射することができるという作業効率、皮膚に加わる負担、作用効果等を総合的に見て最適であると判断したからであって、「付属照射プローブ」についての上記解釈を何ら妨げない。
(3) 本件特許出願に対しては当初拒絶査定がされたところ、その拒絶理由は、
本件発明の「付属照射プローブ」が、拒絶理由通知に引用された特開昭60-92701号公報記載の発明の「プローブ」と同一であるというものであった。ところが、控訴人は、同引用に係る発明の「プローブ」が集束系であることは明らかであるにもかかわらず、当該拒絶査定に対する不服審判において、本件発明の「付属照射プローブ」と当該引用に係る発明の「プローブ」の構成及び作用が異なる旨の主張はしなかった。そうすると、控訴人は、本件発明の「付属照射プローブ」が集束系であることを自認したというべきである。
(4) 控訴人は、イ号物件の取扱説明書の「集光ミラー採用型」との記載を理由に、イ号物件のハロゲンランプ照射器は集光して照射するものである旨主張するが、当該ハロゲンランプとして採用されている株式会社LPL製の「ビデオライトVL-G301」は、照射角度調節レバーにより照射角度を約30度から約50度まで調節することができるものにすぎず、光学集束系である凸レンズ等を使用するものではない。上記取扱説明書において「集光ミラー採用型」と記載しているのは、このように照射角度の調節が可能なことをいうものにすぎない。そして、上記ハロゲンランプ照射器は、脱毛部分を含めた広い範囲を加温するために用いられるものであって、本件明細書の実施例の表T「光脱毛法の手順とその効用」(別紙参照)にいう「処置段階 1.プレヒーテング」に相当するが、同「処置段階 2.赤色光の照射」に相当する作用、すなわち毛根部分に集光させる作用を奏するものではない。
3-2 光の主強度について 控訴人は、予備的に、本件発明の構成要件Aは光の吸収エネルギーに基づいて判断されるべきである旨主張するが、本件明細書には「吸収エネルギー」との文言の記載はなく、これを示唆する記載もない。むしろ、一般に、光エネルギーとは、ワットを基本量として計測される放射パワーの時間積分量であると説明されていることから考えても、放射エネルギーのことと理解すべきである。
3-3 フィルターの有無に係る禁反言の原則の適用 イ号物件のキセノンランプ前方には、可視光領域外の有害な紫外線をカットするフィルターが備えられているところ、このようなフィルターが設けられている装置は、本件発明の技術的範囲に属さないというべきである。すなわち、控訴人は、本件特許出願の拒絶査定に対する不服審判において、審判請求理由補充書(乙15)を提出し、「この出願の発明では、光源が二種使用され、それらに特別に可視光以外を遮断するフィルター等を一切使用していない」(8頁14行目〜17行目)と主張しているところであり、このような出願過程における主張に反して、上記フィルターを備えた物件が本件発明の技術的範囲に属すると主張することは、禁反言の原則に反し許されないというべきである。
当裁判所の判断
1 本件発明の構成要件Cにおける「付属照射プローブ」について (1) 控訴人は、美容業界における「プローブ」の用例等を根拠として、本件発明の構成要件Cに規定する「付属照射プローブ」とは、「本体機器と可撓性連結部によって接続された別個の小さいユニットで、対象物に一定の作用を及ぼす器具」をいうと解すべきであり、その発する光線が集束系か拡散系かを問うものではない旨主張する。
しかし、美容機器に関する用語例を示すものとして控訴人の提出する証拠(甲36〜43、63〜77)は、甲66(特開昭61-203980)を除いて、その発行ないし公開時期が、本件特許出願日(平成元年5月19日)以後であるか又は不詳なものであって、しかも、その記載に係る機器は多様な内容を含んでおり、それらに共通する「プローブ」の語義を必ずしも明確にし得るものとは認められず、他方、甲66のみから「プローブ」の意味を確定させることはできない。
そして、「プローブ」との言葉が、一般的な日常用語として定着した意味を有するものとはいえず、特定分野における専門用語としても極めて多義的に用いられていることは、証拠(甲12〜35、50〜62)上明らかであるから、本件明細書の記載に基づいて、その技術的意義を確定する必要がある。
(2) 本件明細書(甲3)には、「付属照射プローブ」の用語を定義する記載はないが、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
ア「〔産業上の利用分野〕この発明は、皮膚表面の脱毛したい領域に可視光を照射して、光熱反応により毛根近傍の生体組織を真皮領域内に限定して乾固させ、永久脱毛を行う光脱毛装置に関する。」(3欄9行目〜12行目) イ「〔作用〕この発明による光脱毛装置では、
(1)赤色光・・・と青色光・・・を発生する二つの光源が装備してあり、所定の強度で赤色光と青色光の照射はそれぞれ皮膚の真皮の深い領域及び浅い領域にある毛の組織因子を乾固させる。
(2)上記二つの光源から出射した光を独立した二個又は単独の一個の照射プローブに導き、このプローブ先端から皮膚に所望の光量を照射できる。
(3)前記プローブの先端に装着できる拡散光学系により赤色光を低照射強度で広範囲な皮膚表面に照射できる。」(4欄12行目〜23行目) ウ「〔実施例〕・・・この発明にかかわる脱毛方法は、処置の順序に従ってそれぞれ予備処置、毛根組織の乾固、脱毛処置及び後処置に区分できる。表T(注、別紙に掲げる。)には、各段階での処置条件及びその時の皮膚組織の反応から見た処置の効果が示してある。
第一段階では、予備処置として比較的弱い照射光(赤色光)を皮膚表面の広い範囲に当て、毛穴を開かせ、皮脂腺の温度を予め上昇させる・・・。
第二及び第三段階では、この発明の主要な処置である主として真皮内の生体組織のみ、即ち皮脂腺及び毛嚢内の毛の因子、毛乳頭等を乾固させる。・・・この場合には、光の照射領域を狭め照射光の光量を第一段階の時よりも強める。・・・ 第四段階は、照射した真皮内で毛根組織が乾固している毛を抜く処置に対応する・・・。
第五段階は、蛋白質分解酵素により毛の因子の蛋白質を分解して、毛の成長、発育を抑制する塗布剤を毛の向き・・・に逆らうように擦り込む。
第六段階では、第五段階で塗布した塗布剤の働きを更に活性化するため、
第一段階と同じように広い照射領域を有する弱い赤色光を脱毛した個所の皮膚表面に当てる。
第七段階では、脱毛によって皮膚に加えた負担を緩和・鎮静化するため、
鎮静用の塗布剤を脱毛個所に塗布して一連の脱毛処置を完了する。
以上の説明から理解できるように、この発明による脱毛装置は、皮膚に強弱及び青・赤色を主成分とする可視光を照射する第一、第二、第三及び第六処置段階に使用されている。」(4欄28行目〜5欄44行目) 「第1A図中の照射プローブ5及び両方の光源3、4中にはレンズの形で暗示してある集束光学系が導入してある。この光学系によって照射光の使用効率と伝送効率を向上させることができる。」(7欄10行目〜13行目) エ「〔発明の効果〕この発明による光脱毛装置によって、
(a)真皮中の毛の因子、皮脂腺、毛嚢内の細胞組織を乾固させ、永久脱毛処置を効果的に行うことができる。
(b)更に、精神的及び生体的に負担のかかる脱毛をより安全に、精神的に不安なく行うための予備光照射が行え、毛穴の開放及び皮脂腺の予備昇温が行なえる。
(c)事後照射によって、乾固させた生体組織に対して蛋白質分解酵素の働きをより活性化させ、永久脱毛を一層確実にする。」(8欄42行目〜9欄1行目) (3) 本件発明の特許出願の願書添付図面の図示及び本件明細書の関連記載によれば、第1A、B図、第2A、B図に図示された装置は、光源近く及び付属照射プローブ内に装備されたレンズによって集束光学系が導入されたものであり、第3A、B図に図示された装置は、光源の背後に装備された反射体12で形成した集光光学系によって前方に向け集光するとともに、ライトパイプ16を経由してプローブ先端から外部に赤色光を出射するものであり、いずれも集束光学系が装備されている。なお、第4図に図示された光導体ケーブルに関して、本件明細書(甲3)には、「光の伝送は光ファイバーの全反射によって効率良く開口部35に導入されるので、特別な集光光学系を装備する必要はない」(8欄36行目〜39行目)との記載もあるが、「第4図には、第2A図及び第2B図で使用できる青色光用の照射プローブが示してある。ここで示すプローブは赤色・青色混合光(第1B図に対応する場合)にも使用できる」(8欄31行目〜34行目)との記載を併せ考えれば、この第4図に示された光導体ケーブルも、光源近くにレンズを装備することを前提としたものであると認められるところであり、結局、実施例として示された装置は、すべて集光光学系が装備されているということができる。
(4) 本件明細書の上記記載及び願書添付図面の図示に基づいて判断するに、本件発明が、「付属照射プローブ」によって皮膚の表面に赤色光と青色光を照射し、
この両者の光熱作用により、毛根組織を乾固させ、永久脱毛を行うものであることは、上記認定の発明の詳細な説明における「産業上の利用分野」、「作用」、「実施例」及び「発明の効果」のすべての記載に一貫して示されているところであって、赤色光と青色光の光熱作用による毛根組織の乾固という作用効果は、本件明細書に「この発明の主要な処置である」(5欄17行目)と記載されているとおり、
光脱毛装置である本件発明の技術的思想の根幹を成すものというべきである。したがって、特許請求の範囲に規定する「付属照射プローブ」の技術的意義を確定させるに際しても、これが赤色光及び青色光を照射するための構成である以上、当該照射に係る光によって、毛根組織を乾固させるという作用効果を奏するものとして解釈されなければならない。そして、毛根組織の乾固という作用効果を奏するためには、単位面積当たりの照射光のエネルギーを一定以上に強度のものとして確保する必要があると考えられるから、特別に強力な光源を使用するのでない限り、レンズその他の集光のための装備を備え、狭い領域に集中して光を照射することのできるものでなければならないというべきである。本件明細書に示された実施例が、レンズを用いたり、反射体とライトパイプを併用するなどの方法を採用することにより、いずれも目的の部位の毛根部等の狭い領域に集中して光を当てることのできる装置とされていることは前示のとおりであるところ、これも、照射する光が毛根組織を乾固させるという本件発明の作用効果を奏するために必要不可欠なものとして装備されていると理解されるものである。
加えて、本件明細書の特許請求の範囲の請求項5には、「赤色光の付属照射プローブの先端には、照射強度を低減させて照射範囲を拡大させる光拡散用キャップが装着可能であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の装置」が規定されているところ、これは、本件発明における赤色光の「付属照射プローブ」が狭い領域に集中して光を照射するものであることを前提としたものであると解されるものであり、「付属照射プローブ」に関する上記の解釈は、このような特許請求の範囲の他の請求項の記載とも整合するものである。
なお、本件明細書の実施例では、毛根組織の乾固のための赤色光の照射領域は約5ミリメートルとされている(別紙の表T「2.赤色光の照射」の処理内容欄参照)ところ、控訴人は、これを皮膚上の毛根の直径と比較すれば、本件発明の「付属照射プローブ」は細部に光を当てるという構造を有するものとはいえない旨主張するが、「付属照射プローブ」の解釈において問題とすべきは、光源の強さとの相関関係において、毛根組織を乾固させるに足りる照射領域が設定されているかどうかであり、毛根の直径と比較して本件発明の実施例に記載された赤色光の照射領域が広いとしても、上記の解釈を何ら左右するものではない。
(5) そこで、「付属照射プローブ」に関する上記の解釈に基づいて、イ号物件のハロゲンランプ照射器が本件発明の「付属照射プローブ」に該当するかどうかを判断する。
証拠(甲5の3、9の1、乙3、18、29の1、2、検甲1)及び弁論の全趣旨によれば、イ号物件のハロゲンランプ照射器には、ビデオ撮影等の際に用いられる照明用の汎用的なランプが使用されており、ランプの背後には反射鏡が装備されているものの、照射角を約30度〜約50度の範囲に設定できるにとどまること、イ号物件に係る分光放射照度等の測定及び計算結果を示した東京都立産業技術研究所作成の平成10年8月21日付け成績書(乙3)の「定格又は仕様」欄には、製造者である丸央産業株式会社の申請に基づき、「拡散型反射板 前面ガラス付」と記載されていること、イ号物件におけるハロゲンランプ照射器の役割は、赤色光を照射することにより皮膚表面の温度を上昇させ、毛穴を広げるためのものにすぎないことが認められる。なお、イ号物件の「光脱毛用光源装置取扱説明書」(乙18)には、そのハロゲンランプを「集光ミラー採用型」と説明する記載があるが、最も照射角を絞っても約30度にとどまるものであることは上記のとおりであるから、実施例で照射領域が直径約5ミリメートルとされている本件発明の赤色光の照射態様とは、毛根組織を乾固させるに足りる光熱作用の有無に関して、明らかな質的な相違があるというべきである。したがって、イ号物件の取扱説明書の上記記載は、単に照射角が調節可能なことを示す趣旨にとどまるというべきであり、
上記の認定を左右するものではない。
そうすると、イ号物件のハロゲンランプ照射器は、狭い領域に集中して光を照射するものではなく、かつ、特別に強力な光源が使用されているものでもないといわざるを得ない。むしろ、イ号物件におけるハロゲンランプ照射器は、本件明細書の表T「光脱毛法の手順とその効用」(別紙参照)の「1.プレヒーテング」に相当する作用効果を奏するものにとどまると解され、同表の「2.赤色光の照射」に相当する毛根組織の乾固という作用効果を奏するに足りるものと認めることはできない。
したがって、イ号物件のハロゲンランプ照射器が本件発明の構成要件Cにおける「付属照射プローブ」に当たるということはできないから、イ号物件が本件発明の技術的範囲に属するものとは認められないというべきである。
(6) 控訴人は、イ号物件のハロゲンランプ照射器は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項5記載の装置における光拡散用キャップが装着された付属照射プローブと同一の作用効果を奏し、その構成と均等である旨主張する(原判決14頁6行目〜末行)が、同請求項記載の光拡散用キャップが装着された付属照射プローブは、毛根組織を乾固するに足りる光を照射するという作用効果を奏するとともに、
照射強度を低減させて「プレヒーテング」にも使用することができるものであると解されるところ、イ号物件のハロゲンランプ照射器が前者の作用効果を奏するものでないことは前示のとおりであって、作用効果の同一性を認めることはできない。
したがって、本件発明の構成要件Cに関し、均等論をいう控訴人の主張は採用することができない。
2 結論 以上のとおり、控訴人の被控訴人に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がない。
よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利