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関連審決 審判1995-12218
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  請求の範囲 /  同一証拠(同一の証拠) /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 326号 審決取消請求事件
原告 日本ピラー工業株式会社
訴訟代理人弁理士鈴江孝一
同 鈴江正二
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 藤井俊二
同 新井重雄
同 大野覚美
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/04/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成7年審判第12218号事件について平成11年8月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経過 (1) 原告は,平成3年1月24日,発明の名称を「流体機器の管継手構造」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をしたが,平成7年5月16日に拒絶の査定を受けたので,同年6月15日,上記査定に対する不服の審判を請求した。特許庁は,同請求を平成7年審判第12218号事件として審理した結果,平成8年12月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(以下「前審決」という。)。原告は,前審決の取消しを求めて当庁に訴えを提起し,当庁では,これを平成9年(行ケ)第33号事件(以下「前件訴訟」という。)として審理した結果,平成10年6月24日,同審決を取り消す旨の判決をし(以下「前判決」という。),その後,同判決が確定した。
(2) 特許庁は,平成7年審判第12218号事件を更に審理したうえ,平成11年8月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(以下「本件審決」という。),同年9月6日,原告にその謄本を送達した。
2 特許請求の範囲 「内周面に流体管の一端押し込み部が挿入される流体通路より大径の受口を有するとともに外周面に雄ねじ部を有し,耐薬品性および耐熱性に優れた特性をもつ弗素樹脂により形成された流体機器本体の流体通路端部に一体形成された筒状の継手本体部と,この継手本体部の受口に軸線に対して傾斜させて形成されたシール部と,このシール部に当接するシール部を有する樹脂製シールリングと,上記継手本体部の外周雄ねじ部に螺合可能で,螺進により上記両シール部に密封力を与える押輪とを備え,かつ,上記シールリングが,流体の流動を妨げない状態で弗素樹脂製流体管の一端部に圧入することにより該流体管の一端押し込み部を拡径するインナリングからなり,このインナリングの内端部および外端部にそれぞれ,上記継手本体部における受口の奥部および入口部に軸線に対して傾斜させて形成された一次および二次シール部に当接するシール部が形成されているとともに,上記インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されていることを特徴とする流体機器の管継手構造。」(別紙図面(1)参照) 3 本件審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願平1-69378号(実開平2-117494号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用刊行物1」という)に記載された技術(以下「引用発明1」という。),実願昭47-25660号(実開昭48-102624号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(以下「引用刊行物2」という)に記載された技術(以下「引用発明2」という。)及び特開昭63-57882号公報(以下「引用刊行物3」という)に記載された技術(以下「引用発明3」という。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
本件審決の理由中,T(手続の経緯・本願発明)を認める。U(引用例)のうち,引用発明1の認定の部分(審決書6頁11行〜7頁13行)を争い,その余を認める。V(対比)のうち,本願発明と引用発明1との一致点の認定の部分(9頁10行〜10頁8行)を争い,その余は認める。W(判断)及びX(むすび)を争う。
本件審決は,引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),進歩性についての判断を誤り(取消事由2),そのうえ,行政事件訴訟法33条1項,2項に違背しているものであり(取消事由3),これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は取り消されなければならない。
1 取消事由1(引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定の誤り) (1) 引用発明1の認定の誤り 審決は,引用刊行物1について,「引用例1には,内周面に流体管の一端押し込み部が挿入される流体通路より大径の受口を有するとともに外周面に雄ねじ部13を有し,耐薬品性および耐熱性に優れた特性をもつ弗素樹脂により形成された筒状の継手本体1と,この継手本体1の受口に軸線に対して傾斜させて形成されたシール部と,このシール部に当接するシール部を有する樹脂製シールリングと,上記継手本体1の外周雄ねじ部13に螺合可能で,螺進により上記両シール部に密封力を与える押輪4とを備え,かつ,上記シールリングが,流体の流動を妨げない状態で管材5の一端部に圧入することにより該号材5の一端押し込み部を拡径するインナリング2からなり,このインナリング2の内端部および外端部にそれぞれ,上記継手本体1における受口の奥部および入口部に軸線に対して傾斜させて形成された一次および二次シール部11,12に当接する内端シール部22,外周シール面25が形成されているとともに,上記インナリング2の内径が上記継手本体1の流体通路の内径と同一径に設定されている管継手構造が,記載されている」(審決書6頁11行〜7頁13行)と認定した。
しかしながら,引用発明1は,本願発明にいう「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」の構成を有していない。現に,引用刊行物1には,「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」との用語は記載されていない。したがって,引用発明1が上記構成を有することを前提とした,審決の引用発明1についての上記認定は,誤っている。
(2) 引用発明1と本願発明との相違点の看過 (イ) 引用発明1は,樹脂製管継手における継手本体の一部分の胴部14の内径と,インナリングの内径とを同一径にしているものであるのに対して,本願発明は,引用刊行物1に全く記載されていない流体機器を対象とし,流体機器本体の流体通路の内径と,インナリングの内径とを同一径にしているものであり,かつ,樹脂製管継手と流体機器本体の流体通路との接続を構成要素としているものである。したがって,本願発明と引用発明1とは,本件審決が認定した相違点のほか,@インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径にするために流体機器本体の流体通路より大径の受口を有するように継手本体部を構成すること,Aその継手本体部を流体機器本体の流体通路に一体形成で組み合わせること,という点においても相違しているものである。
(ロ) 被告は,上記相違点が,本件審決認定の「(1)本願発明は,継手本体部が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されていて,インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されているのに対し,上記引用例1記載の発明は,前記構成が不明である」との相違点と同じであるとの趣旨の主張をしている。
しかし,本願発明にいう「流体通路」とは,流体機器本体の流体通路のことであり,引用例1のように,樹脂製管継手(継手本体1)の胴部14の流体通路のことを意味するのではない。被告の上記主張は,本願発明にいう流体機器本体の「流体通路」と,引用例1にいう樹脂製管継手における継手本体1の胴部14の「流体通路」とを同一視し,本願発明の流体機器の継手本体部が引用例1の樹脂製管継手に記載されているとしているものであり,失当である。
2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り) (1) 推考困難性についての判断の誤り (イ) 本件審決は,引用発明1に,樹脂製管継手における継手本体1の胴部14と管材5との間において流体の移動を円滑にする技術思想が示されていることから,直ちに,同発明には,本願発明の樹脂製管継手と流体機器との接続との関連でも,「各構成部材の流体通路の内径を同一に設定して流体の移動を円滑に行うようにする技術思想が開示されて」いると認定したが,誤っている。
引用発明1には,単に,樹脂製管継手における継手本体1の一部分の胴部14と管材5との間において流体の移動を円滑にする技術思想しか示されていないから,当業者において,同発明から,樹脂製管継手と流体機器がどのような状態で接続されているとか,その接続においてどのような問題が生じるとかを把握することはできないのである。
(ロ) その他,引用刊行物2(甲第5号証,特に第1図)をみても,チューブ14の外周に,おさえピース12を配置してチューブ14を流体機器の継手本体部の先端部外周に接続する管継手構造であり,そこには,単に異なるタイプの継手本体部を流体機器に一体形成することだけが示されているにすぎない。また,引用刊行物3(甲第6号証,特に第7図)をみても,吐出管77の外周にフェルール75を配置させて吐出管77を流体機器の継手本体部の先端部外周に接続する管継手構造であり,これも単に異なるタイプの継手本体部を流体機器に一体形成することだけが示されているにすぎない。
このように,引用刊行物2及び同3においても,本願発明に係る樹脂製管継手と流体機器の接続状態に関する問題点及びその解決策は示されていない。
(ハ) したがって,本件審決が,「上記の技術思想を適用して両者の内径を同一に設定し,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定することは当業者が容易に推考し得ることである。」(11頁12行〜16行)と判断したことは,その前提において誤っている。
(2) 顕著な作用効果の看過 本願発明は,その構成を採用することによって,インナリングを用いて流体管を流体機器に接続しても,@弗素樹脂よりなる流体管が抜けるのを強力に防止できる,A流体の漏洩を防止できる,B樹脂製管継手における継手本体の脱落を防止できる,C樹脂製管継手の継手本体と流体機器の本体との間に形成される流体の変質をもたらす滞留段部もなくすことができる,D流体管の接続の作業性を向上させることができる,という作用効果を達成することができる。そして,特に,本願発明においては,流体管の一端押し込み部に圧入したインナリングの内径を流体機器本体の流体通路と同一内径にさせる受口を有する継手本体部を流体機器本体の流体通路端部に一体形成し,この継手本体部の受口に上記流体管の一端押し込み部に圧入したインナリングを挿入して,そのインナリングの内径と上記流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に構成させることによって,流体管から流体機器本体の流体通路まで流体の変質をもたらす滞留段部をなくし,流体の純度を高レベルに確保できるという特有の効果を達成し得るのである。
以上のような効果は,当業者において,引用発明1ないし同3から,到底予測し得なかったものである。
3 取消事由3(行政事件訴訟法33条違背) (1) 行政事件訴訟法33条1項違背 前判決は,引用刊行物1には,「インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定した構成が,開示されていない」と認定し,これが確定している。ところが,被告は,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定した前提技術すら示さずに,前判決と同一の証拠である引用刊行物1のみを前提にして,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径であると推認し,結局,本願発明の進歩性を否定している。
本件審決の上記認定は,前判決の拘束力を無視するものであり,行政事件訴訟法33条1項に違反している。
(2) 行政事件訴訟法33条2項違背 前判決が前審決を取り消した趣旨は,本願発明と引用発明1との相違を明示したうえで,本願発明の特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径である点について,そのタイプの継手の従来の周知技術等を考慮し,当該構成の有する進歩性ないし容易推考性を検討すべきである,というものであり,単に,本願発明における特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径である点について,その相違を明示して進歩性ないし容易推考性を検討すればよいというものではなかった。ところが,本件審決は,従来の周知技術等を考慮せず,引用刊行物1のみから,本願発明における特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径であるという事実を推認し,この推認に基づいて本願発明の進歩性ないし容易推考性を検討している。
本件審決は,前判決の趣旨に従わず,前審決と同様の認定判断を繰り返しているのであり,このような認定判断は,行政事件訴訟法33条2項に違反するものである。
被告は,相違点について,引用刊行物2及び同3を追加して構成の有する進歩性ないし容易推考性を検討しているという。しかし,引用刊行物2及び同3は,本件審決認定の相違点(1)のうち,本願発明が「継手本体部が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されて」いるのに対して,引用発明1では,これが不明であるという相違点に関するものであり,「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されている」という相違点に関するものではない。したがって,引用刊行物2及び同3は,前判決の趣旨に沿った引用例とはいえない。
被告の反論の要点
本件審決の認定判断は,すべて正当であり,同審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定の誤り)について (1) 引用発明1の認定の誤りについて 原告は,引用刊行物1に,「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」という用語が記載されていないことを,引用発明1が,本願発明にいう「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」との構成を有していないことを裏付ける旨主張する。
確かに,引用刊行物1には,「流体管」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」という用語自体は記載されていない(「押し込み部」は記載されている。)。しかし,引用刊行物1にいう「胴部14の内周」部分は,流体が流れるのであるから「流体通路」であり,また,引用刊行物1の記載から,引用刊行物1にいう「管材」,「挿し込み部」は,それぞれ本願発明における「流体管」,「押し込み部」と同じであり,「インナーリング」は,その機能からみて「シールリング」に相当することが明らかであり,さらに,引用刊行物1に「管継手構造」が記載されていることは,引用刊行物1の記載自体から明らかである。
(2) 引用発明1と本願発明との相違点の看過について 引用発明1に樹脂製管継手と流体機器との接続について記載されていないことは,事実である。
原告主張の本願発明と引用発明1との相違点@は,本願発明の特許請求の範囲の「内周面に流体管の一端押し込み部が挿入される流体通路より大径の受口を有する・・・継手本体部」,「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されている」の記載に基づくものと,また,相違点Aは,同特許請求の範囲の「流体機器本体の流体通路端部に一体形成された筒状の継手本体部」の記載に基づくものと思われる。
そして,上記「内周面に流体管の一端押し込み部が挿入される流体通路より大径の受口を有する・・・継手本体部」との構成は,引用発明1に存在するから,結局,本願発明は,材質に関する相違点(本件審決の把握する相違点(2))を別にすれば,「流体機器本体の流体通路端部に一体形成された筒状の継手本体部」との構成及び「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されている」との構成においてのみ,引用発明1と相違することになる。
そこで,本件審決は,本願発明と引用発明1との相違点を,「(1)本願発明は,継手本体部が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されていて,インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されているのに対し,上記引用例1記載の発明は,前記構成が不明である点」(審決書10頁9行〜13行)として把握しているのである。
本件審決は,本願発明と引用発明1との相違点について看過していない。
2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について (1) 推考困難性についての判断の誤りについて 流体通路を形成する各構成部材の流体通路の内径を同一に設定して流体の移動を円滑に行うようにする技術思想は,引用刊行物1に開示されている。
流体機器本体の流体通路端部に継手本体部を一体に形成することは,引用刊行物2及び同3に記載されている。
引用発明1と同2及び同3とを組み合わせることを阻害するような要因もない。
そうである以上,引用発明1を出発点として,継手本体部を流体機器本体の流体通路端部に一体形成し,その際,流体の移動(流動)を妨げないように,インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定するようにすることは,当業者であれば容易に想到し得たことというべきである。
(2) 顕著な作用効果の看過について 本件審決が,「本願発明が奏する効果は引用例1ないし3に記載された発明及び周知事項から当業者が予測できる程度のことであって格別のものではない。」とした点に誤りはない。
3 取消事由3(行政事件訴訟法33条違背)について 本件審決は,前判決の拘束力及び判決の趣旨に従って,本願発明における特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径である点を相違点として明示し,当該相違点について,引用刊行物2及び同3を追加して,本願発明の有する進歩性ないし容易推考性を検討しているのであるから,本件審決は,行政事件訴訟法33条1,2項に違反しているものでない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定の誤り)について (1) 引用発明1の認定の誤りについて (イ) 原告は,引用発明1は,本願発明にいう,「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」に係る構成を有していない旨主張し,引用刊行物1において,「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」という用語が用いられていないことをその根拠として挙げる。
しかし,引用刊行物1において,「流体管」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」という用語が用いられていないからといって(「押し込み部」は用いられている。),直ちに,引用発明1が,本願発明にいう,「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」に係る構成を有しないことになるわけではないことは,論ずるまでもないところである。
(ロ) 甲第4号証によれば,引用刊行物1は,本願発明の出願人である原告の出願によるものであることが認められる。
そして,本願明細書等の図面,特に第3図(別紙図面(1)参照)と引用刊行物1の図面,特に第1図(別紙図面(2)参照)を比較しながら,本願明細書等の発明の詳細な説明の欄の記載,引用刊行物1の考案の詳細な説明の欄の記載をよく読めば,引用発明1が,本願発明にいう「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」と同様の構成を有していることを優に認めることができる。別紙図面(1)と同(2)とを比較すれば明らかなとおり,引用刊行物1の第1図は,流体機器本体が表示されていないことを除けば,本願発明と同一であるということの許される構成なのである。
(ハ) したがって,引用発明1の認定の誤りをいう原告の主張は,失当であることが明らかである。
(2) 引用発明1と本願発明との相違点の看過について (イ) 原告は,本願発明と引用発明1とは,本件審決が認定した相違点のほか,@インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径にするために流体機器本体の流体通路より大径の受口を有するように継手本体部を構成させること,Aその継手本体部を流体機器本体の流体通路に一体形成で組み合わせること,という点においても相違している旨主張する。
しかしながら,原告がいわんとするところは,結局,本願発明は,流体機器を対象とし,その内径とインナリングの内径とを同一径にし,樹脂製管継手と流体機器本体の流体通路とを接続することを構成要素としているということに帰するのであり,本件審決が認定した相違点,すなわち,「(1)本願発明は,継手本体部が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されていて,インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されているのに対し,上記引用例1記載の発明は,前記構成が不明である点」(審決書10頁9行〜13行)をよく読めば,同審決が原告主張の相違点を相違点として把握していることが明らかである。
(ロ) この点について,原告は,上記のような見解は,本願発明にいう流体機器本体の「流体通路」と,引用発明1にいう樹脂製管継手における継手本体1の胴部14の「流体通路」とを同一視するものである旨主張する。
原告の主張は,その趣旨が必ずしも明らかではないものの,もし,そのいわんとするところが,引用発明1は,本願発明の有する「流体機器本体」の構成を持たず,したがって,「流体機器本体」の流体通路という構成を持つこともない,というところに尽きるならば,無意味な主張という以外にないものである。また,「流体通路」は,通常の用語法に従えば,流体の流れる通路を意味するものであり,このような「流体通路」の有する技術的な意味が,本願発明にいう流体機器本体の場合と,引用発明1にいう樹脂製管継手における継手本体1の胴部14の場合とで差異があるとしなければならない格別の事情は,本件全証拠によっても見いだすことができない。
いずれにせよ,原告の上記主張は採用できない。
2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について (1) 推考困難性についての判断の誤りについて (イ) 引用刊行物2(甲第5号証,特にその第1図)には,チューブ14の外周に,おさえピース12を配置してチューブ14を流体機器の継手本体部の先端部外周に接続する管継手構造が示されており,異なるタイプの継手本体部を流体機器に一体形成することも示されていること,また,引用刊行物3(甲第6号証,特にその第7図)には,吐出管77の外周にフェルール75を配置させて吐出管77を流体機器の継手本体部の先端部外周に接続する管継手構造であり,異なるタイプの継手本体部を流体機器に一体形成することが示されていることは,原告自身が認めるところである。
そうだとすれば,引用発明1を出発点として,引用発明2及び同3にあるように,継手本体部を流体機器本体に一体に形成するようにすることを,当業者が容易に推考し得たことは,明らかというべきである。
(ロ) 流体通路のための接続構造について,段差がない方が流体の移動が円滑となって好ましいことは,当業者のみならず一般通常人であっても,常識として理解している事項である。
引用刊行物1(甲第4号証)をみても,考案の詳細な説明の欄には,「このインナリング2の内径は管材5の内径および継手本体1の胴部14の内径と同一に設定して流体の移動(流動)を妨げないようにしている。」(11頁2行〜5行),「インナリング2の内径寸法を管材5の内径寸法および継手本体1の胴部14の内径寸法と同じ大きさに設定して,流体の移動を妨げないようにしているから,流路断面が一様になって,流体を滞留させることなく円滑に移動させる流路特性を確保できるので,高純度液や超純水用配管の継手としても適用できる。」(15頁19行〜16頁5行)との記載があり,出願人である原告自身が,流体の移動(流動)を妨げないようにするため,二つの管の内径を同一にすることを,自明のことと考えていることが明らかである。
そうすると,引用発明1を出発点として,継手本体部を流体機器本体に一体に形成するようにする際に,上記周知の技術を適用して接続部の内周面の段差をなくすことにし,継手本体部と流体機器本体の内径を同一に設定し,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定することは,当業者が容易に推考し得たことというべきである。
(ハ) 原告は,引用発明1には,単に,樹脂製管継手における継手本体1の一部分の胴部14と管材5との間において流体の移動を円滑にする技術思想しか示されていないから,当業者において,同発明から,樹脂製管継手と流体機器がどのような状態で接続されているとか,その接続においてどのような問題が生じるとかを把握することはできない旨主張する。
しかしながら,上述したとおり,継手本体部と流体機器本体の内径を同一に設定し,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定すれば,段差がなくなって流体の移動が円滑となることが周知の技術事項であることからすれば,引用発明1自体から,樹脂製管継手と流体機器がどのような状態で接続されているとか,その接続においてどのような問題が生じるとかを把握することができるかどうかは,もともと論ずる必要のないことなのである。
(2) 顕著な作用効果の看過について 原告主張の作用効果は,本願発明の構成を採用した場合のものとして自明の作用効果である。
原告主張の取消事由2も採用できない。
3 取消事由3(行政事件訴訟法33条違背)について (1) 行政事件訴訟法33条1項違背について (イ) 甲第7号証によれば,前判決は,本願発明と引用発明1との一致点の認定に関して,「本願明細書の図4における従来技術の構成が,インナリングの内径,継手本体の内径及び流体機器本体の内径を,すべて同一径に設定しているのとは異なり,引用例自体においては,被告も自認するとおり,インナリングの内径と流体機器本体の内径とを同一径に設定する構成が,開示されていないことが明らかである。したがって,審決が,本願発明と引用例発明との一致点として,何の根拠も示すことなく,「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されている」(審決書8頁8〜9行)と認定したことは,誤りというほかない。」(15頁4行〜15行),「被告は,引用例において,インナリングの内径が流体機器本体の内径と同一径に設定されているか否かが不明であることを認めながら,継手本体が設けられた流体機器本体において,流体機器本体と継手本体との流体通路を同一径に形成することが周知技術であるとして,引用例発明においては,インナリングの内径が継手本体の流体通路の内径と同一径に設定されているので,上記周知技術を適用すれば,インナリングの内径は,当然,流体機器本体の流体通路の内径と同一径に形成されているとみることができるし,本願発明のこのような構成が,進歩性を有するものでもないと主張する。しかし,本願発明は,前示のとおり,インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径にして,管継手部の全長に亘る流路断面を一様にすることにより,流体の円滑な流動性を保つことを,その重要な作用効果の1つとするものであり,このような本願発明における特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径である点について,引用例発明の構成が不明であるならば,まず,そのことを相違点に明示した上で,従来の周知技術等を考慮し,当該構成の有する進歩性ないし容易推考性を検討すべきものといわなければならない。このような相違点の認定を行うことなく,しかも,審決で示されていない,流体機器本体と継手本体との流体通路を同一径に形成するという周知技術を適用して,引用例発明の構成を推認したり,当該構成の進歩性等を検討することは,許されるものではないから,被告の上記主張を採用する余地はない。以上のとおり,審決は,上記の相違点の認定及びそれについての検討を全く行っておらず,このことが審決の結論に影響を及ぼすおそれがあることは明らかであるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。」(15頁16行〜17頁7行)と判断して,前審決を取り消したことが認められる。
上記認定の記載によれば,前判決は,引用発明1には,インナリングの内径と流体機器本体の内径とを同一径に設定する構成が開示されていないと認定し,この認定を前提に,前審決が,上記相違点を看過したところに違法があるとし,上記相違点を,相違点として認定したうえで,本願発明の進歩性ないし容易推考性を検討すべきである旨判断したものであることが明らかである。
(ロ) これに対して,本件審決が,本願発明と引用発明1との対比において,「本願発明は,継手本体部が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されていて,インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されているのに対し,上記引用例1記載の発明は,前記構成が不明である点」(審決書10頁9行〜13行)で相違していると認定し,その後に上記相違点について進歩性ないし容易推考性の判断をしていることは,本件審決の説示自体から明らかである。
そうすると,本件審決が,正しく相違点を認定し,その相違点について進歩性ないし容易推考性を検討していることは,明らかである。
(ハ) したがって,行政事件訴訟法33条1項違背を問題とする余地はなく,この点についての原告の主張は,失当というほかない。
(2) 行政事件訴訟法33条2項違背について 原告は,前判決が前審決を取り消した趣旨は,本願発明と引用発明1との相違を明示したうえで,本願発明の特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径である点について,そのタイプの継手の従来の周知技術等を考慮し,当該構成の有する進歩性ないし容易推考性を検討すべきである,というものであるのに,本件審決は,前判決の趣旨に従わず,前審決と同様の認定判断を繰り返しているのであり,このような認定判断は,行政事件訴訟法33条2項に違反する旨主張する。
本件審決が,前判決が指摘した相違点を認定していることは,前述のとおりである。また,同審決が,同相違点について,「引用例1には,「インナリング2の内径は管材5の内径および継手本体1の胴部14の内径と同一に設定して流体の移動(流動)を妨げないようにしている」ことが記載されており,このように各構成部材の流体通路の内径を同一に設定して流体の移動を円滑に行うようにする技術思想が開示されており,」(11頁1行〜7行)とし,「引用例1記載の発明において・・・上記の技術思想を適用して両者の内径を同一に設定し,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定することは当業者が容易に推考し得ることである。」(11頁10行〜16行)と判断していることは,審決の説示自体から明らかである。
そうすると,本件審決は,引用刊行物1に開示されている「各構成部材の流体通路の内径を同一に設定して流体の移動を円滑に行うようにする技術思想」を考慮し,当該構成の有する容易推考性を検討しているのであるから,行政事件訴訟法33条2項違背が問題となる余地はなく,この点についての原告の主張は,失当というほかない。
原告は,本件審決は,従来の周知技術等を考慮せず,引用刊行物1のみから,本願発明における特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径であるという事実を推認していると主張し,本件審決が引用刊行物1のみにより本願発明の進歩性ないし容易推考性を判断したことを非難する。
しかしながら,前述したとおり,本願発明における,インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一とする構成は,引用刊行物1によるまでもなく,一般通常人の常識からも容易に推考し得たものであるから,本件審決が内径の同一性という構成との関連においては,引用刊行物1のみにより本願発明の容易推考性を肯定したとしても,そこには,何ら非難されるべきところはないのである。
4 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸