運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1996-15863
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  発明の概要 /  優先権 /  名義変更 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 230号 承継参加申立事件
参加人 デイド・べーリング・マルブルク・ゲゼルシャフト・ ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
同訴訟代理人弁理士 青山葆
同 中嶋正二脱退原告 ベーリングヴェルケ・アクチエンゲゼルシャフト
被告 特許庁長官及川耕造
同指定代理人 後藤 千恵子
同 森田 ひとみ
同 廣田米男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/10
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成8年審判第15863号事件について平成9年3月25日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 参加人 主文と同旨 2 被告 参加人の請求を棄却する。
訴訟費用は参加人の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 脱退原告は,発明の名称を「免疫クロマトグラフィー方法および装置」とする発明につき,1986年(昭和61年)11月7日に米国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,昭和62年11月5日に特許出願をしたが,平成8年5月27日,拒絶査定を受けたので,同年9月20日に拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は,これを平成8年審判第15863号事件として審理した結果,平成9年3月25日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年4月10日にその謄本を脱退原告に送達した。なお,出訴期間として90日が付加された。
脱退原告は,平成9年7月27日,参加人(旧商号「べーリング・ディアグノスティクス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング」)に対し,上記発明についての特許を受ける権利を譲渡した。参加人は,平成10年2月17日,その商号を現商号に変更したうえ(その登記は平成10年2月17日),平成11年11月22日,上記譲渡に伴う名義変更の届出をした。
2 本願発明に係る特許請求の範囲(第1項。以下「本願発明」という。) 「リガンドおよびそれに相補的なレセプターから成る特異的結合対(「sbp成分」)の一員であるアナライトの含有が疑われる試料中のアナライトの存在の測定方法であって,(a) 前記試料および前記アナライトと類似した第1sbp成分を含む試験溶液と,毛管移動によって前記試験溶液を少なくとも一方向に浸透させ得る吸収性(bibulous)材料片の接触部分とを接触させ,ただし前記吸収性材料は前記アナライトおよび第1sbp成分に結合し得る第2sbp成分を含み,この第2sbp成分は前記接触部分およびこの接触部分から離れた前記吸収性材料上の小部位間の少なくとも1部分で吸収性材料片に非拡散結合しており,前記部位の表面積は実質的に前記吸収性材料片の表面積よりも小さく,前記部位は第1sbp成分と結合し得るものとし,(b) 毛管移動によって少なくとも試験溶液の一部を前記吸収性材料片に浸透させることにより前記部位と接触させ,(c) 前記部位において第1sbp成分を検出することを含んで成る方法。」(判決注・「sbp」とは,「specific binding pair」の略である。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,審決は,特開昭59-28662号公報(甲第3号証。以下「引用刊行物」といい,これに記載された技術を「引用発明」という。)には,「リガンドおよびそれに相補的なレセプターから成る特異的結合対(「sbp成分」)の一員である,アナライトの含有が疑われる試料中のアナライトの存在の測定方法であって,(a)前記試料および前記アナライトと類似した第1sbp成分を含む試験溶液と,毛管移動によって前記試験溶液を少なくとも一方向に浸透させ得る吸収性(bibulous)材料片の接触部分とを接触させ,ただし前記吸収性材料は前記アテライトおよび第1sbp成分に結合し得る第2sbp成分を含み,この第2sbp成分は吸収性材料片に非拡散緒合しており,前記小部位の表面積は実質的に前記吸収性材料片の表面積よりも小さく,前記小部位は第1sbp成分と結合し得るものとし,(b)毛管移動によって少なくとも試験溶液の一部を前記吸収性材料片に浸透させることにより『検出領域』と接触させ,(c)『検出領域』において第1sbp成分を検出することを含んで成る方法。」(審決書11頁5行〜12頁5行)との技術が記載されており,この点で本願発明の構成と一致する,と認定し,この認定を前提に,摘示した相違点のみについて判断しただけで,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められるから,特許法法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,と判断したものである。
4 引用刊行物の記載 引用刊行物(特開昭59-28662号公報)には,次の事項が記載されている(以下,順に「引用事項A」・・・「引用事項F」ということがある。)。
A「被検体- 配位体であってよいモノ-又はポリ-エピトピック(epitopic),普通抗原又は付着体である測定すべき化合物又は組成物。この化合物の単数又は複数は少くとも1つの共通のエピトピック点或いは受体を分けあう。」(引用刊行物4頁右上欄2行〜6行) B「特異的結合対(「mip」)- 分子の一方が他の分子の特別な空間的及び極性組織に特異的に結合する領域を表面又は空洞中に有する2つの異なった分子。特異的結合対の員は配位体及び受体(抗配位体)として言及される。多くの場合,受体は抗体であろうし,配位体は抗原又は付着体として役立つであろうし,その程度まで免疫学的対の員である。それ故に,員の各々はmipとして言及される。「mip」はすべての配位体及びすべての受体を含むことが意図されていることが理解されよう。」(同4頁右上欄7行〜17行) C「信号発生系- 信号発生系は1つ又はそれ以上の成分を有するが,少くとも1つの成分はmipに共役する。信号発生系は外部的手段により,普通電磁照射の手段により,望ましくは肉眼的検査により検知しうる測定可能な信号を発生する。多くの場合,信号発生系は発色団及び酵素を含む。この場合発色団は紫外又は可視域で光を吸収する染料,燐光体,蛍光体及び化学発光体を含む。」(同4頁左下欄11行〜18行) D「本方法は静置固体相と移動液体相を含む吸収性支持体で行なわれる。静置固体相は連続して異なる溶液中の複数の試薬と接触させることができる。この時連続した試薬組成物との接触間では洗浄工程が普通省略される。mipが無拡散的に吸収性支持体に結合する領域は免疫吸着域として言及される。試料からの被検体は域の前端を進む溶媒と一緒に運ばれて吸着域を横切るであろう。支持体に結合したmipに対して同族の又は補足的なmipである被検体はmip複合体形成を介して支持体に結合するようになる。信号発生系は,被検体が結合する免疫吸着域の区域がそれが存在しない区域と区別できる手法を提供する。この時免疫クロマトグラフ上の予じめ決められた点からの距離は試料中の被検体の量の1つの尺度である。
免疫吸着域を通る試料の量は,試料を適当な溶媒に溶解すること及び溶液を毛管現象によって免疫吸着域を移動させることによって増加せしめられる。」(同4頁右下欄9行〜5頁左上欄9行) E「分析を行なう場合,工程手順は通常試料を溶出溶媒に溶解することを含む。試料は多種類の起源,例えば生理学的液体,例えは血液,血清,血漿,尿,目のレンズの体液,髄液など,化学工程流,食品,殺虫剤,汚染物などに由来しうる。次いでクロマトグラフの一端を,普通緩衝された水性媒体であって,信号発生系の1種又はそれ以上の員を含有していてよい溶出試料を含む溶媒と接触させる。
信号発生系の員が存在する場合,少くとも1つの員はmipに共役してmip-標識共役体を与えるであろう。」(同5頁右下欄18行〜6頁左上欄9行) F「標識されたmipは3つの異なる方法で使用しうる。この方法の2つは標識されたmipを溶出溶媒中に存在させるものであり,第3の方法は試料の溶出後に使用される試薬溶液中に標識されたmipを存在させることを含む。溶出溶媒を合む2つの方法は,mip標識が被検体と並流的に免疫吸着域を横切って存在する結合点に対して被検体と実際に競合する,或いはmip標識が見かけの競争を示さずに,主に被検体が結合する域を越えたすぐの域に結合しているものである。1つの場合には試料含有の溶媒と免疫クロマトグラフとの最初の接触線から延びる域を得,一方他の場合には被検体が結合する域と被検体の存在しない域との間を区別する境界が生成する。」(同6頁左上欄15行〜右上欄9行)
原告主張の審決取消事由の要点
1 引用発明が「小部位」の構成を有するとの誤認 審決は,引用発明の「免疫吸着域」が本願発明の「小部位」に相当する旨認定しているが,この認定は誤っている。
本願発明においては,未知量のアナライトとアナライト類似の第1sbp成分とが,吸収性材料上の所定量の第2sbp成分(アナライトともアナライト類似の第1sbp成分とも結合し,他のものとは結合しない。)と競合反応を行い,アナライトが存在する場合には,アナライトの存在量に応じて未結合の第1sbp成分が部分的に生じるようにし,この未結合の第1sbp成分が,競合反応の部位とは別の部位である「小部位」へ移動し,そこで検出されるように構成されているものである。つまり,本願発明の「小部位」とは,競合反応の部位とは別の部位であり,競合反応において結合し得なかった未結合の第1sbp成分が移動して検出される部位なのである。
他方,引用発明の場合は,いわゆるサンドイッチ法の原理を採用しており,第1段階で,免疫吸着域において,吸収性材料上の無標識mipにアナライトを結合させてアナライト-mip結合体を形成し,第2段階で,同じ免疫吸着域において,アナライト-mip結合体と標識mipとを結合させて,サンドイッチ型の無標識mip-アナライト-標識mipの二重結合体を形成し,この二重結合体の標識を,これが形成された部位において検出し,その標識境界の位置によりアナライトの存在を検知する手法である。つまり,引用発明においては,「免疫吸着域」の部位でアナライトと標識mipのどちらもが結合反応をし,標識mipの検出が行われるものである。
したがって,引用発明の測定原理は,本願発明のそれと根本的に異なっており,引用発明の「免疫吸着域」を,本願発明の「小部位」と同一視できるものではない。
2 引用発明に関するその余の誤認 本願発明においては,前記のとおり,未知量のアナライトとアナライト類似の第1sbp成分とが,吸収性材料上の所定量の第2sbp成分と競合反応を行い,アナライトが存在する場合には,アナライトの存在量に応じて未結合の第1sbp成分が部分的に生じるようにし,この未結合の第1sbp成分が,競合反応の部位とは別の部位である「小部位」へ移動し,そこで検出されるように構成されているのに対して,引用発明においては,第1段階で,吸収性材料上の無標識mipにアナライトを結合させてアナライト-mip結合体を形成し,第2段階で,アナライト-mip結合体と標識mipとを結合させて,サンドイッチ型の無標識mip-アナライト-標識mipの二重結合体を形成し,この二重結合体の標識を,これが形成された部位において検知するものである。
したがって,本願発明においては,アナライトとアナライト類似の第1sbp成分に対し第2sbp成分によって競合反応を行い,この競合反応が第1段階で終了するのに対し,引用発明においては,競合反応はせずに,第1段階と第2段階の2段階に分けて反応を行うものであり,原理的にも,競合反応をすることはあり得ないのである。また,引用発明の標識mipをもって,本願発明の「第1sbp成分」と同視することはできないものである。
引用発明においては,標識mipは,アナライトと混在させると,相互に結合してしまうものであるから,本願発明のように,別の何かに対してmipとアナライトとを「競合反応」させるということは,原理的に考えられないのであり,このような特性の標識mipを使用する引用発明の場合,測定操作としては,アナライトを中間に挟んだサンドイッチ型結合体の形成を利用するいわゆる「サンドイッチ法」によってしか実施できないことが明白である。
被告の反論の要点
1 引用発明が「小部位」の構成を有するとの誤認,について 引用刊行物には,標識mipが,「主に被検体が結合する域を越えたすぐの域」に,見かけ上の競争を示さずに結合するということが記載されており,その結果,標識mipにより,被検体が結合する域と被検体が存在しない域との間を区別する境界が生成することになる。したがって,引用発明の上記「越えたすぐの域」は,本願発明の「小部位」に対応するものであり,引用発明には,本願発明の「小部位」に相当する構成が記載されているということができる。
2 引用発明のその余の誤認について 引用発明の分析方法は,クロマトグラフの一端を溶出試料を含む溶媒と接触させるものである。そして,引用事項Fには,標識mipは三つの異なる方法で使用しうることが記載されている。この三つの異なる方法のうちの二つ(第1方法,第2方法)は,標識mipを「溶出溶媒」,すなわち,溶出試料を含む溶媒中に存在させるというものであるから,標識mipとアナライトとが一つの溶媒に存在することを示しているものであり,クロマトグラフとの接触も一つの段階で行われることになるのである。
したがって,引用発明の方法では,標識mipがアナライトと実際に競合するものであり,本願発明において,第1sbp成分がアナライトと競合するのと差異はない。
また,本願発明の第1sbp成分と引用発明の標識mipとは,ともにアナライトと競合する特異的結合対の成分であるという点で一致しているものである。この点については,審決でも,本願発明の第1sbp成分と対比する引用発明のものとして「(被検体と競合する)mip標識」と記載しているものである。
したがって,審決が,本願発明の「第1sbp成分」と引用発明の「mip標識」とが一致していると認定した点に誤りはない。
当裁判所の判断
1 発明の概要 甲第2号証によれば,本願明細書には,本願発明について次の記載があることが認められる。
(1) 〔発明の背景〕の(発明の分野)の項 「特定の化合物のアッセイにおいて,その化合物に対応する天然のレセプターまたは抗体を使用することが可能であるということが,イムノアッセイ研究の発展をもたらした。各アッセイでは,リガンドおよびレセプター(アンチリガンド)を含む特異的結合対(「sbp成分」)成分の相同対,通例,免疫対を用い,そのsbpの一方を検出可能なシグナルを発生する標識で標識する。イムノアッセイ法を行うと,sbp成分の複合体と結合したシグナル標識および未結合シグナル標識間にシグナル標識の分布が生じる。結合シグナル標識と未結合シグナル標識の識別は,未結合シグナル標識から結合シグナル標識を物理的に分離するか,または結合および未結合シグナル標識の検出可能なシグナルを変調することにより行うことができる。通例,イムノアッセイは,臨床研究室において関心の対象である多種の化合物の定量に供されており,比較的精巧な装置および慎重な技術を必要とする。イムノアッセイは,半定量的または定性的結果を目的とし,測定に非実験技術者があたる場合(例えば,家庭または病院において)広くは実用化されていない。臨床研究室においても,非熟練者でも実施し得る簡単で迅速なスクリーニング試験があれば,多くの費用を節約することができる。」(16頁9行〜17頁13行) 「一般に,2種またはそれ以上のアナライトの同時測定が可能な免疫検定法の計画を立てるのは困難であり,実施された免疫検定法では別々のアナライト類似体に対して相異なる放射性標識を使用している。」(18頁19行〜19頁3行) (2) 〔発明の要約〕の項 「この発明の方法および装置は,特に個々に同定すべき複数のアナライトが存在する場合において,アナライトの含有が疑われる試料中のアナライトの存否の測定に有用である。この装置は毛管移動によって少なくとも一方向に試験溶液を浸透させ得る吸収性材料片である。試験溶液は試料およびアナライトと類似した第1sbp成分を含む。吸収性材料は,接触部分および接触部分から離れた片の小部位の間の少なくとも一部分に非拡散結合した第2sbp成分を有する。第2sbp成分はアナライトおよび第1sbp成分と結合し得る。前記部位は,第2sbp成分に結合していない第1sbp成分と結合し得る。通常,第2sbp成分または第1sbp成分の他のレセプターのような結合成分は,この部位に近接した片の部分よりも高い密度で吸収性材料の前記部位と非拡散結合する。この方法では,前記部位から離れた吸収性材料片の接触部分と前記試験溶液を接触させると,試験溶液は毛管移動によって吸収性材料に浸透する。少なくとも試験溶液の一部を吸収性材料に浸透させて前記部位と接触させる。この部位を第1sbp成分の存在について検査するが,通常前記部位における検出可能なシグナルの存在により示される。そのようなシグナルは直接検出され得るか,または部位を第1sbp成分と相互作用し得るシグナル発生手段に曝すことにより試験溶液中のアナライトの量に応じて検出可能なシグナルを発生させることができる。前記部位で検出されるシグナルは,吸収性材料の前記部位以外の部分で検出可能なシグナルと識別され得る。1個またはそれ以上の部位にシグナルが存在するということは,試料中に1個またはそれ以上のアナライトが存在することを示す。この発明の一態様において,アナライトが試験溶液中に存在する場合,小部位で発生するシグナルは,前記部位以外の片の部分で発生するシグナルとは明らかな対照をなす縁の鋭い明瞭なパターンを有する。この発明の別の態様において,結合部分は,小部位に非拡散結合した粒子を介して吸収性材料上の前記小部位に非拡散結合する。この発明の方法および装置は,使用法が簡単で単一試験溶液または複合試験溶液中の複数のアナライトに適用され得るため有利なものである。試験溶液中の1種またはそれ以上のアナライトの存否の測定および同定は,単一吸収性材料片並びに適当な第1および第2sbp成分を用いることにより容易に行うことができる。普通,各々別々の第1sbp成分と結合し得る各アナライトに対して別々の部位が用いられる。さらに,この発明の方法により,レファレンス物質または器械の使用を必要とせずに薬剤のようなアナライトを検出することができる。」(21頁16行〜24頁8行) (3) 本願発明に係る用語の定義 「アナライト(分析質)…抗体に特異的に結合し得る測定すべき化合物または組成物,通常は抗原または薬剤。」(27頁6行〜8行) 「特異的結合対の成分(「sbp成分」)…2種の相異なる分子の一員であって,他方の分子の特定の空間的および極性構成と特異的に結合するためそれに相補的であると定義される領域を表面または空洞部に有する分子。特異的結合対の成分とはリガンドおよびレセプター(アンチリガンド)を指す。」(同32頁17行〜33頁2行) 「リガンド…レセプターが天然に存在するかまたは製造され得る有機化合物。」(33頁9行及び10行) 「レセプター(アンチリガンド)…分子の特定の空間的および極性構成,例えばエピトープまたは決定部位を認識し得る化合物または組成物。」(33頁11行〜13行) 「標識sbp成分…第1sbp成分に結合した,一般に電気化学的検出または電磁放射線の吸収もしくは放射が可能な標識,触媒,多くの場合酵素。標識sbp成分はシグナル発生系の一員であり,アッセイの特定のプロトコルに従って第1sbp成分を選択して第2sbp成分に結合させる。」(33頁17行〜34頁2行) 「抗体…他方の分子の特定の空間的および極性構成と特異的に結合するためそれに相補的であると定義される領域を表面または空洞部に有する免疫グロブリンまたはその誘導体もしくはフラグメント。」(34頁3行〜7行) 「第1sbp成分…第2sbp成分,通常レセプターまたは抗体との結合に関して類似アナライトと競合し得る修飾アナライトまたはアナライト類似体もしくは代用物であって,修飾により標識とアナライト類似体を連結して標識sbp成分を提供する手段が得られる。」(34頁12行〜17行) 「第2sbp成分…アナライトおよび第1sbp成分に結合し得るsbp成分。第2sbp成分はアナライトの決定部位および第1sbp成分の決定部位に結合し得る。」(36頁11行〜14行) 「吸収性材料…少なくとも0.1μ,好ましくは少なくとも1.0μの孔を有する多孔質材料であり,毛管現象に応じて水性媒質を浸透させ得る。」(37頁9行〜11行) 2 引用発明が「小部位」の構成を有するとの誤認,について (1) 本願発明の「小部位」 (イ) 本願発明の特許請求の範囲第1項には,「(a) 前記試料および前記アナライトと類似した第1sbp成分を含む試験溶液と,毛管移動によって前記試験溶液を少なくとも一方向に浸透させ得る吸収性(bibulous)材料片の接触部分とを接触させ,ただし前記吸収性材料は前記アナライトおよび第1sbp成分に結合し得る第2sbp成分を含み,この第2sbp成分は前記接触部分およびこの接触部分から離れた前記吸収性材料上の小部位間の少なくとも1部分で吸収性材料片に非拡散結合しており,前記部位の表面積は実質的に前記吸収性材料片の表面積よりも小さく,前記部位は第1sbp成分と結合し得るものとし,」,「(b) 毛管移動によって少なくとも試験溶液の一部を前記吸収性材料片に浸透させることにより前記部位と接触させ,」,「(c) 前記部位において第1sbp成分を検出する」との記載があることは,前記(第2の2)のとおりである。
同記載によれば,本願発明においては,アナライト及びこれと類似する第1sbp成分を含む試験溶液を,第2sbp成分(アナライトとも第1sbp成分とも結合し,その他の成分とは結合しない。)の非拡散結合している吸収性材料片に浸透させ,その試験溶液が毛管移動によって吸収性材料片を移動して,上記試験溶液の接触部分から離れた「小部位」と接触し,その「小部位」において第1sbp成分が検出されるというものであり,「前記部位と接触させ」,「前記部位において第1sbp成分を検出」とされている以上,「小部位」は,試験溶液が接触し,検出されるより前に特定されていなければならず,そうすると,「小部位」とは,吸収性材料片上において,試験溶液の接触部分から離れ,試験溶液中の第1sbp成分がそこに移動し,かつ,検出される予定となっている固定された位置をいうものであると認められる。
(ロ) 以上の事実は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載からも裏付けることができる。すなわち,以下のとおりである。
本願明細書には,前記1(発明の概要)のとおり,〔発明の要約〕の項に,「吸収性材料は,接触部分および接触部分から離れた片の小部位の間の少なくとも一部分に非拡散結合した第2sbp成分を有する。第2sbp成分はアナライトおよび第1sbp成分と結合し得る。前記部位は,第2sbp成分に結合していない第1sbp成分と結合し得る。・・・この部位を第1sbp成分の存在について検査するが,通常前記部位における検出可能なシグナルの存在により示される。」(甲第2号証22頁2行〜18行),「前記部位で検出されるシグナルは,吸収性材料の前記部位以外の部分で検出可能なシグナルと識別され得る。1個またはそれ以上の部位にシグナルが存在するということは,試料中に1個またはそれ以上のアナライトが存在することを示す。この発明の一態様において,アナライトが試験溶液中に存在する場合,小部位で発生するシグナルは,前記部位以外の片の部分で発生するシグナルとは明らかな対照をなす縁の鋭い明瞭なパターンを有する。」(23頁3行〜13行)との記載がある。
また,甲第2号証によれば,本願明細書の〔実施態様の記載〕の項には,「部位(または複数も可)の位置は,複数のアナライトを測定する場合,この発明に係る基礎原理により決定される。アナライトが存在しない場合,第1sbp成分は接触部分からある程度距離をおいたストリップの部分で第2sbp成分と結合する。アナライトが存在する場合この距離は増すため,明らかに,部位の位置は,不正確な実証的測定結果を避けるために接触端部からさらに距離をあけなければならない。非常に高感度の検出が要求される場合,さらに僅かだけ距離をあけて部位を定めるのが望ましい場合もあり得る。感度が厳密ではない場合,ストリップの接触部分と反対のストリップ端部の近くに部位を定めるのが望ましい。・・・こうして,部位を端部から「離す」。」(63頁4行〜64頁3行)との記載があることが認められる。
上記記載によれば,本願明細書には,本願発明が,アナライトが存在する場合に,第1sbp成分が固定された「小部位」に移動し,この固定された「小部位」において「第1sbp成分が検出される」ことが,繰り返し記載されていることが明らかである。
(ハ) さらに,甲第2号証によれば,本願明細書には,本願発明の実施例として,「この発明の一態様では,1価の薬剤である2種のアナライトが存在する。
薬剤の含有が疑われる試料を酵素と各薬剤の1つとのコンジュゲートと混合して水性試験溶液を生成する。吸収性ストリップにおいて,各薬剤に対する抗体を下部セグメントに均一に結合させる。ストリップの上部セグメントを下部セグメントと接触させる。・・・その結果,接触部分を試験溶液と接触させた場合,試験溶液が部位へ達する前に,薬剤およびコンジュゲートは捕らえられる。均一に結合した薬剤の抗体の量を選択して各コンジュゲート全部と結合させる。試料およびコンジュゲートを一緒に混合して試験溶液を生成し,薬剤が試料中に存在する場合,溶液がストリップに浸透するとストリップ上で抗体の奪い合いが起こる。試料中に薬剤が多いとき,薬剤の抗体に結合するコンジュゲートは少ない。未結合コンジュゲートは,上部セグメントに達するまで吸収性ストリップに沿って移動し,それに結合する。次いでそれは薬剤に対応する部位に到達するまでセグメントに沿って移動し,前記部位において抗体との結合により結合する。薬剤が試料中に存在しない場合,各コンジュゲートは全部薬剤の抗体と結合し,部位に到達する前に捕らえられる。
薬剤が共に存在する場合,各コンジュゲートはその対応する部位に結合する。」(71頁2行〜72頁11行)との記載があることが認められる。
上記記載に,前記(ロ)認定の記載を併せ考えれば,本願発明においては,試料に含まれる未知量のアナライトとアナライト類似の第1sbp成分とが,吸収性材料上の所定量の第2sbp成分(アナライトともアナライト類似の第1sbp成分とも結合し,それ以外の成分とは結合しない。)と競合反応を行い,資料中にアナライトが存在しない場合には,小部位に到達する前に,すべての第1sbp成分が捕獲され,アナライトが存在する場合には,アナライトの存在量に応じて未結合の第1sbp成分が生じ,この未結合の第1sbp成分が,アナライトと第1sbp成分と第2sbp成分とが競合反応をして結合している部位とは別の部位へ移動し,そこで検出されること,ここを「小部位」といっていることが認められる。
(2) 引用発明の「免疫吸着域」 前記認定のとおり,引用刊行物に記載された引用発明は,クロマトグラフの一端から,アナライトの含有が疑われる試験溶液を毛管現象により移動させ,アナライトが結合した領域とアナライトのない領域との境界を区別することによって,被検体が接触した位置から免疫クロマトグラフに沿って移動した距離を検知し,この距離の大小によって試料中のアナライトの量を測定するという技術であるから,引用発明にいう「免疫吸着域」とは,アナライトと特異的結合対(mip)とが結合する部位であり,かつ,その部位で標識mipが検出されるところであることが明らかである。
そうすると,本願発明の「小部位」においては,アナライトは存在せず,第2sbp成分(アナライトとも第1sbp成分とも結合し,それ以外の成分とは結合しない。)と結合し得なかったアナライト類似の第1sbp成分が存在するのみであって,同所で,上記第1sbp成分が検出され,その結果,アナライトの存在を測定することができるというのであるから,引用発明の「免疫吸着域」が本願発明の「小部位」と相違するものであることは明らかである。
(3) 被告は,引用刊行物には,標識mipが,「主に被検体が結合する域を越えたすぐの域」に,見かけ上の競争を示さずに結合するということが記載されており,その結果,標識mipにより,被検体が結合する域と被検体が存在しない域との間を区別する境界が生成することになる。したがって,引用発明の上記「越えたすぐの域」は,本願発明の「小部位」に対応するものであり,引用発明には,本願発明の「小部位」に相当する構成が記載されている旨主張する。
本願発明の「小部位」は,引用発明の「免疫吸着域」の一部を区切った領域に相当するものということはできる。その意味で,引用発明における「免疫吸着域」は,本願発明における「小部位」に対応する部位が存在する,という被告の主張は,その限度では正しい。
しかしながら,引用発明には,「免疫吸着域」に存在する「小部位」に関する技術的思想が存在せず,そのため,「免疫吸着域」中の「小部位」と他の部位とを区別せず,クロマトグラフ上の標識mipが結合する全領域を「免疫吸着域」としているものである。ところが,本願発明においては,前記認定のとおり,資料に含まれるアナライトとアナライト類似の第1sbp成分とが,吸収性材料上の所定量の第2sbp成分と競合反応を行い,アナライトが存在する場合には,アナライトの存在量に応じて未結合の第1sbp成分が生じ,この未結合の第1sbp成分が,アナライトと第1sbp成分と第2sbp成分とが競合反応をして結合している部位とは別の部位である「小部位」に移動し,検出されるものである。要するに,引用発明と本願発明とは,免疫分析の方法における測定原理が異なるものといわざるを得ないのである。
被告の主張は,結局,採用することができない。
3 結論 以上,検討したところによれば,審決は,引用発明が本願発明における「小部位」に相当する構成を有すると認定した点で誤っており,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは,明白である。
そうすると,審決の取消しを求める原告の本訴請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由があることが明らかである。そこで,これを認容することとし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸