関連審決 | 審判1996-5826 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 慣用技術 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
10年
(行ケ)
373号
審決取消請求事件
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原告 ソニー株式会社 訴訟代理人弁理士 杉浦正知 同 秋山高 被告 特許庁長官及川耕造 指定代理人 内藤二郎 同 井上正 同 小林信雄 同 宮川久成 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/05/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成8年審判第5826号事件について平成10年9月7日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和61年8月15日、名称を「ディジタル画像信号の補間回路」(平成8年1月29日付け手続補正書により「ディジタル画像信号の補間装置及び補間方法」と補正)とする発明につき特許出願をした(特願昭61-191431号)が、平成8年3月5日に拒絶査定を受けたので、同年4月24日、これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を平成8年審判第5826号事件として審理した上、平成10年9月7日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年10月28日原告に送達された。 2 平成8年1月29日付け及び平成10年7月7日付け各手続補正書により補正された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 実在する入力画像データと対応する画素間の所定の画素の画素データを上記実在する入力画像データによって補間生成するためのディジタル画像信号の補間装置において、 上記所定の画素の周辺位置に存在するパターンを検出するための複数の画素データを用いて、上記所定の画素に対するパターンを検出し、その検出されたパターンを示すパターンデータを発生する手段と、 係数を求めるための画像データの上記所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素データを用いて、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法により予め定められた所定数の係数が上記パターン毎に格納された格納手段と、 入力画像データの上記所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素データと、上記パターンデータに基づいて上記格納手段から読み出された上記パターンデータに対応する上記所定数の係数とを受け取り、上記所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素データと、上記読み出された上記所定数の係数との線形1次結合により、上記所定の画素の画素データを補間生成する手段と からなることを特徴とするディジタル画像信号の補間装置。 3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、特開昭61-2482号公報(本訴甲第4号証。以下「第1刊行物」といい、同記載の発明を「第1刊行物発明」という。)及び昭和55年12月30日株式会社オーム社発行「テレビジョン・画像工学ハンドブック」472頁〜475頁(本訴甲第5号証。以下「第2刊行物」といい、同記載の発明を「第2刊行物発明」という。)記載の各発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本願発明の要旨の認定(審決書2頁末行〜4頁3行目)及び第1刊行物の記載事項の認定(同4頁7行目〜6頁9行目)は認める。 審決は、本願発明と第1刊行物発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、また、相違点についての認定判断を誤った(取消事由2)結果、本願発明は、第1、第2刊行物発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 審決は、「第1刊行物発明と本願発明とでは、共に、画素の・・・補間値と真値との誤差が最小となるように補間係数を決定することでは同じである」(審決書7頁17行目〜8頁1行目)と両者の一致点を認定するが、誤りである。 すなわち、本願発明は、補間演算に使用する係数を決定するための構成及び方法に特徴を有するものであって、具体的には、所定の画素の周辺位置に存在するパターンを検出し、その検出されたパターンを示すパターンデータを発生し、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法によりあらかじめ定められた所定数の係数が上記パターンごとに格納され、このように決定された係数によって補間演算を行うものである。そして、この係数の決定について、本件明細書の実施例では、実際にビデオカメラによって複数の画像を撮影し撮像信号をディジタル信号に変換し、この信号のすべての画素のデータを1024通りのパターンデータに分類し、各パターンデータごとに最小自乗法により係数を決定することが記載されている。 これに対し、第1刊行物発明は、6個の方向に対応する6通りのアクティビティの演算式と6通りの補間演算式とが用意され、アクティビティが最小のものに対応する補間演算式の一つが選択され、当該選択された補間演算式によって補間画像信号が生成されるものであるが、補間演算式中の係数は1/2に固定されているので、画像信号を使用して係数をあらかじめ求めることは一切記載されていない。 したがって、第1刊行物は、補間に使用する周辺画素群をどのように選択するかを示すものにとどまり、審決の認定するような「補間係数を決定する」ことが示されているものではない。 被告は、「補間係数を決定する」ことについて、審決は第2刊行物の記載に基づいて実質的にこれを相違点として判断しているから審決の結論に影響を及ぼさない旨主張するが、そのようにいうことができるのは、当該相違点についての判断が誤りでないときに限られるところ、下記2のとおり、当該相違点についての審決の判断に誤りがある以上、一致点の認定を誤った瑕疵は治癒されない。 2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り) (1) 審決は、本願発明と第1刊行物発明との相違点、すなわち、第1刊行物発明は、「間引かれた画素の周辺の画像信号レベル変化度が最小となる方向の周辺の画像信号から補間信号を形成」するものであるのに対し、本願発明は、「所定の画素の周辺位置に存在するパターンを検出するための複数の画素データを用いて、上記所定の画素に対するパターンを検出し、その検出されたパターンを示すパターンデータを発生する手段」、「係数を求めるための画像データの上記所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素データを用いて、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法により予め定められた所定数の係数が上記パターン毎に格納された格納手段」、「所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素の画像データと、上記読み出された上記所定数の係数との線形1次結合により、上記所定の画素の画素データを補間生成する手段」という構成を有する点(審決書8頁3行目〜9頁3行目)について、第2刊行物発明及び周知慣用のテーブル技術に基づいて、当業者が容易にし得たところであると判断する。しかし、以下のとおり、この判断は、@第2刊行物の記載事項の誤った認定を前提とするとともに、A第1、第2刊行物発明にテーブル技術を適用すれば本願発明の上記相違点に係る構成を得ることができるとの誤った判断に基づくものであり、さらに、B本願発明の格別な作用効果を看過するものであって、その結果、容易想到性の判断を誤ったものである。 (2) 第2刊行物の記載事項の認定の誤り 審決は、「雑音低減処理において、用いる周辺の画素群を決定するに際して最小自乗法により誤差が最小になる画素群を選択することが第2刊行物発明に記載されている」(審決書9頁9行目〜12行目)と認定するが、誤りである。 すなわち、第2刊行物(甲第5号証)の「3・2・4 適応形処理」の項には、水平方向の変化の度合いと、垂直方向の変化の度合いをパラメータとし、パラメータとスレシホールドδとの比較結果に応じて式(1)〜式(4)に示される4モードの再生値を演算すること、当該式(1)〜(4)は平均値を演算するものであることが記載されているが、平均値を求める対象としての画素群の選択の基準は、変化の度合いであって、審決の認定するような「最小自乗法により誤差が最小になる画素群」ではなく、第2刊行物に当該記載はないというべきである。 (3) 組合せに係る容易想到性の判断の誤り 審決は、上記相違点に係る本願発明の構成である「係数を求めるための画像データの上記所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素データを用いて、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法により予め定められた所定数の係数が上記パターン毎に格納された格納手段」(以下「係数格納手段の構成」ということがある。)について、第2刊行物記載の最小自乗法及び周知慣用のテーブル技術の適用により「当業者が容易になし得たところ」(審決書11頁1行目)と判断するが、誤りである。 まず、第2刊行物発明は、すべてのモードにおいて平均値を計算するための固定係数を使用しているのであって、本願発明のようにパターンで特定される係数を使用するものではない。さらに、そもそも審決が第2刊行物発明の記載事項として認定する「画素群を選択すること」(同9頁11行目)は、本願発明の要旨と何ら関係がない。本願発明では、補間演算に使用する画素群は固定されており、適応的に選択されるのは補間係数である。 次に、審決は、「補間処理の高速化を図るため」(同10頁9行目〜10行目)の周知慣用のテーブル技術の適用をいうが、本願発明の技術思想は、真値に近い補間値を得ることができる確率を高くすることにあり、そのために係数格納手段の構成を採用したものであって、単に高速化のみを意図したものではない。本願発明は、格納される係数がどのような構成及び方法によって決定されたかに特徴があるものであることは上記1で述べたとおりであり、この点について、第1、第2刊行物にもテーブル技術にも何らの開示も示唆もない。 そうすると、第1刊行物発明に、第2刊行物記載の「画素群の選択」に係る処理及び周知慣用のテーブル技術を適用したとしても、本願発明の係数格納手段の構成を得ることはできない。 (4) 格別な作用効果の看過 本願発明は、補間係数をあらかじめパターンデータごとに決定し、補間時にはパターンデータで特定される係数を使用するものであるから、係数が固定されている平均値補間の技術と比較して、真値により近い画素値を得ることが可能である。この点、本件明細書の実施例では、実際の画像信号を用いて重み係数を決定することが記載されており、このように実際の画像に基づいて得られた様々な重み係数に基づいて、例えば、エッジの鋭い画像や逆になだらかな画像に補間したり、あるいは平均値補間とは逆のベクトルを有する画像に補間することも可能である。このように、本願発明の係数は、平均値補間によるものよりも幅広い補間係数を得ることができ、補間の精度を向上させることができるものである。 本願発明の奏するこのような作用効果は、第1、第2刊行物発明に上記テーブル技術を組み合わせたとしても得ることのできない格別のものである。審決は、係数格納手段の構成に関し、単に高速化という側面に触れているだけで、このような格別の作用効果を看過し、ひいて容易想到性の判断を誤ったものである。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は、本願発明と第1刊行物発明とは「補間値と真値との誤差が最小となるように補間係数を決定する」点で一致するとした審決の認定の誤りを主張するところ、確かに、第1刊行物に「補間係数を決定する」ことまでの記載はなく、審決が、本来相違点とすべき事項を一致点に含めたことは認める。 しかしながら、審決は、「4、相違点に対する当審の判断」の項において、 「最小自乗法を用いることができる以上『所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素データを用いて、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法により』評価計算を行って係数を演算する必要があることは第2刊行物発明から明らかである」(審決書10頁2行目〜7行目)と判断しており、これは「補間係数を決定する」構成に対応する判断である。したがって、審決は、「補間係数を決定する」構成については、実質的に相違点として判断を行っており、これを本願発明と第1引用例発明との一致点であると認定した過誤は、審決の結論に影響を及ぼすものでない。 2 取消事由2(相違点についての認定判断の誤り)について (1) 原告は、第2刊行物には、「雑音低減処理において、用いる周辺の画素群を決定するに際して最小自乗法により誤差が最小になる画素群を選択すること」が記載されていない旨主張するが、第2刊行物(甲第5号証)の「3・2・4 適応形処理」の項には、「平たん部とエッジ部とでは信号分布の性質、更に人間に与える視覚特性が大きく異なる。特にエッジ部は鮮明であることが重要なので、エッジ部をぼかすことなく平たん部では十分な平滑化効果が得られる処理が必要となる。古くから知られたこのような適応形処理には次のGrahamの処理がある。・・・石塚により連続する差信号間の分布関数を用いることにより、MSEを最小にする処理として適応性を持つ非線形処理が解析的に導かれることが示されている」(474頁右欄27行目〜475頁右欄2行目)と記載されており、ここでいう「MSE」とは「平均2乗誤差」であるから(472頁右欄末行)、「MSEを最小にする処理」が最小自乗法を指すことは明らかである。 (2) 次に、原告は、本願発明の係数格納手段の構成を、第2刊行物発明及びテーブル技術から得ることはできない旨主張する。 しかし、第2刊行物発明は、 をスレシホールドδと比較して、 3×3画素の9画素の画素分布を(1)〜(4)のモードに分離して相関度の強い方向を検出し、その相関の強い方向のいくつかの画素を用いて演算式も変えて補間すべき位置の画素値を決定するものであって、このモード分離は、本願発明が、周辺に存在する画素群からパターンを決定することに対応する構成である。したがって、第2刊行物に記載されている「モード」、「モード分離」は、本願発明の「パターン」、「パターン検出」と同じ技術的意味を示すものである。 そして、第2刊行物には、再生値と真値との差の平均2乗誤差(MSE)が最小となる再生値を適応性を持つ非線形処理で解析的に導くことが記載され、ここで「解析的に導く」との技術的意味は、MSEが最小となるように解析的にフィルタ関数を決定するもので、そのMSEが最小となるときの再生値をを与えるフィルタ関数に用いた画素とその重み係数が最小自乗法で確定した適応型フィルタ関数となるものである。そして、第1刊行物や第2刊行物のアクティビティないし水平垂直の2次微分による画像方向の相関を求めてその方向の画素を用いるフィルタ処理においては、あらかじめ係数が定められているから、第2刊行物には、本願発明の係数格納手段の構成に規定する「最小自乗法により予め定められた所定数の係数」が記載されているといい得る。 なお、原告は、本願発明がテーブル技術を用いたのが単に高速化のみを意図したものではない旨主張するが、本願発明の係数格納手段の構成が少なくとも高速化という目的と効果を有していることは原告も自認するところであるから、この点の審決の判断が誤りということはできない。 (3) 次に、原告は、審決が本願発明の格別な作用効果を看過している旨主張するが、第2刊行物の「3・2・4 適応形処理」の上記記載には、再生値と真値との差の平均2乗誤差(MSE)が最小となる再生値を適応性を持つ非線形処理で解析的に導くこと、エッジ部をぼかすことなく平たん部では十分な平滑化効果が得られることが示されており、これは、原告が格別な作用効果として主張するところと何ら異なるものではない。 したがって、これを格別な効果であるとしてその看過をいう原告の主張は理由がないというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は、本願発明と第1刊行物発明との対比において「補間値と真値との誤差が最小となるように補間係数を決定すること」を一致点であるとした審決の認定は誤りである旨主張し、これに対し、被告も、第1刊行物に「補間係数を決定すること」までの記載がないことは自認するところである。 確かに、第1刊行物(甲第4号証)には、適応形補間フィルタを備えたディジタル画像信号の補間装置において、補間信号の形成のために、間引かれた画素の周辺の画像信号レベル変化度が最小となる方向の画素を選択し、その選択された画素データに基づいて平均値補間を行うことは記載されているものの、適用すべき補間係数を「補間値と真値との誤差が最小となるように」定めるとの明らかな記載はない。 そうすると、上記一致点に関する審決の認定は誤りというべきであるが、他方、審決は、上記一致点の認定に続いて、本願発明と第1刊行物発明との相違点として、「係数を求めるための・・・画素データを用いて、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法により予め定められた所定数の係数」(8頁12行目〜16行目)について摘示しており、これが上記「補間値と真値との誤差が最小となるように補間係数を決定すること」を含むことは明らかである。そして、審決は、この相違点につき「4、相違点に対する判断」の項で、「第1刊行物発明の補間技術においても第2刊行物発明の最小自乗法の技術思想が採用できるものと認める・・・。してみれば、最小自乗法を用いることができる以上『所定の画素の周辺位置に存在する複数の画像データを用いて、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法により』評価計算を行って係数を演算する必要があることは第2刊行物から明らかである。この係数を決定するために実際の補間処理において、画素毎に毎回計算を行わせるのではなく、補間処理の高速化を図るために予め補間すべき画素の周辺画素をモデル化して最小自乗法でモデル毎に補間係数を予め決定しておき、これを周辺画素モデルと係数との対応参照テーブルとして使用するように・・・(注、係数格納手段の構成)を設け、実際の画素データと該格納手段に格納された係数とから線形一次結合で補間データを生成することは当業者が容易になし得たところと認める」(審決書9頁17行目〜11頁1行目)との検討が行われているのであるから、一致点の認定において審決に形式的な誤りがあるにせよ、当該一致しない構成は、審決が相違点として判断を示しているということができる。 この点について、原告は、当該相違点についての判断が誤りである以上、一致点の認定を誤った瑕疵は治癒されない旨主張するが、当該相違点について審決が判断を示しており、その判断に誤りがないことは後記2で述べるとおりであって、 一致点の認定における審決の上記誤りは、審決の結論に影響を及ぼすものでないというべきであるから、原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 2-1 第2刊行物の記載事項の認定の誤りについて (1) 原告は、「最小自乗法により誤差が最小になる画素群の選択」は第2刊行物に記載されておらず、この点の審決の認定は誤りである旨主張するが、第2刊行物(甲第5号証)の「3・2・1 近傍画素間での処理」の項には下記アの、「3・2・4 適応形処理」の項には下記イ、ウの各記載があることが認められる。 ア 「画像の雑音は平滑化のフィルタリングによって低減を図ることができる。この解析にはモデル化が必要である。・・・図5.13のように原画像をf、雑音をn、雑音を含んだ画像をg=f+n、処理による再生画像をとする。 の品質評価の定量的基準はまだ一義的なものはないが、 の平均2乗誤差(MSE)を最小にする処理がよく用いられる」(472頁右欄27行目〜473頁左欄1行目) イ 「実際の画像では濃度変化の平たん部とエッジ部とでは信号分布の性質、 更に人間に与える視覚特性が大きく異なる。特にエッジ部は鮮明であることが重要なので、エッジ部をぼかすことなく平たん部では十分な平滑化効果が得られる処理が必要となる。古くから知られたこのような適応形処理には次のGrahamの処理がある。図5.15に示すように、T〜Yを雑音を含む3画素の和(例えばI=g(x-1,y-1)+g(x-1,y)+g(x-1,y+1))とし、水平・垂直方向の二次微分に相当するを計算する。各点でスレシホールドδと比較を行い、次の4モードに分離して再生値を得る。 」(474頁右欄26行目〜475頁左欄14行目) ウ 「以上はいずれも試行的なものであったが、石塚により連続する差信号間の分布関数を用いることにより、MSEを最小にする処理として適応性を持つ非線形処理が解析的に導かれることが示されている」(475頁左欄26行目〜右欄2行目) (2) 上記認定に基づいて検討するに、まず、上記イの記載及び図5.15に示されている発明は、 をスレシホールドδと比較して、雑音低減処理をする対象画素の周辺の画素分布を上記イ(1)〜(4)の4モードに分離し、各モードに対応する画素群を選択した上、当該選択された画素データを処理する演算式も変えて対象画素値を決定するものであると認められる。そして、ここでいう「画素群の選択」とは、雑音低減の対象画素(x,y)及びその周辺画素である(x-1,y-1)ないし(x+1,y+1)の8個の画素群のうち選択しない画素データに係数ゼロを乗じる手法と同義というべきである。例えば、その全9画素の画素値に乗じる係数を1/9とする場合(上記式(1))、符号Uとして示されている画素群である(x,y-1)、(x,y)、(x,y+1)に乗じる係数を1/3とし、残余の画素群を使用しない、すなわち係数ゼロとする場合(上記式(2))等が示されているということができる。したがって、第2刊行物発明も、本願発明と同様、周辺画素データ特性に基づいて検出されるモード(注、本願発明の「パターン」に相当する。)に対応して、適応的にあらかじめ係数が定められていると認められる。 他方、上記ア及びウに記載されているとおり、 の品質評価の定量的基準として、 の平均2乗誤差(MSE)を最小にする処理、すなわち最小自乗法が周知の手法として示されており、かつ、適応形処理における最小自乗法の適用までが記載されているのであるから、適応形処理として示されている上記技術、 すなわち、周辺の画素分布に対応して適応的にあらかじめ係数を定める処理を行うに際して、最小自乗法によって当該係数を決定することは、第2刊行物に実質的に開示されているということができる。 そして、第2刊行物において、画素群の決定自体について最小自乗法が用いられていることまでは必ずしも明示されているとはいえないものの、本願発明の要旨が、「画素群の選択」について何ら規定するものでないことは、原告も主張するところであり、現に、審決は、第2刊行物の記載事項の認定に続いて、「最小自乗法を用いることができる以上『所定の画素の周辺位置に存在する複数の画素データを用いて、補間値と真値との誤差の自乗和が最小となるように、最小自乗法により』評価計算を行って係数を演算する必要があることは第2刊行物発明から明らかである」(審決書10頁2行目〜7行目)と論旨を進めているのであるから、審決が第2刊行物の記載事項として認定する「周辺の画素群を決定するに際して最小自乗法により誤差が最小になる画素群を選択すること」とは、周辺画素データに乗ずるべき係数について最小自乗法を用いるとの趣旨をいうものと理解するのが相当である。 原告は、第2刊行物における画素群の選択の基準は、変化の度合いであって、「最小自乗法により誤差が最小になる画素群」ではない旨主張するが、上記のような審決の趣旨を正解しないものといわざるを得ない。 そうすると、審決の第2刊行物の記載事項の認定が誤りであるということはできないというべきである。 2-2 組合せに係る容易想到性の判断の誤りについて (1) 原告は、本願発明の係数格納手段の構成を、第2刊行物発明及びテーブル技術から得ることはできない旨主張し、その理由として、第2刊行物発明は固定係数が使用されており、本願発明のようにパターンで特定される係数を使用するものではないこと、他方、本願発明では補間演算に使用する画素群は固定されていることを挙げる。 しかし、第2刊行物に記載されている画素群の選択が、選択しない画素の画素データに係数ゼロを乗ずる処理と同義であることは前示のとおりであるから、 画素群が固定されているか、選択的に使用されるかという原告主張の相違点は、係数としてゼロを用いるかどうかの問題に帰着するものである。そして、本願発明の要旨は、係数について、「最小自乗法により予め定められた所定数の係数」と規定するだけであって、これが係数としてゼロを用いることを排除する趣旨であると解すべき根拠はないから、画素群の固定の有無について、第2刊行物に記載されている技術と本願発明の構成に相違はないというべきである。 そして、第2刊行物発明は雑音低減を目的とするの対し、第1引用例発明は、間引かれた画素の補間生成を目的とするものであるが、所定の画素の画素データを真値に近いものとするため、その周辺画素の画素データに係数を乗じて適応形処理を行う点で軌を一にするものであるから、これを組み合わせることに格別の困難性も認められない。 (2) 次に、原告は、本願発明の技術思想は単に高速化のみを意図したものでないから、補間処理の高速化を図るためのテーブル技術を適用しても、本願発明の係数格納手段の構成は得られない旨主張する。 しかし、あらかじめ周辺画素をモデル化して最小自乗法で補間係数を決定しておき、これを周辺画素モデルと係数との対応テーブルとすることは、周知慣用のテーブル技術(昭和60年3月25日日刊工業新聞社発行の「マグローヒル科学技術用語大辞典」第2版1370頁〔乙第3号証〕、昭和53年8月25日日本規格協会発行の「情報処理用語」〔乙第4号証〕、昭和57年12月6日日本規格協会発行の「JIS工業用語大辞典」1017頁〔乙第5号証〕及び特開昭61-175862号公報〔乙第7号証〕参照)を適用することにより、容易に想到し得たものというべきである。 原告は、本願発明は、格納される係数がどのような構成及び方法によって決定されたかに特徴がある旨主張するが、第2刊行物発明が、本願発明の係数格納手段の構成のうち、格納される係数を決定する構成及び方法において、本願発明と異ならない内容が記載されていることは前示のとおりであるから、原告の上記主張も採用の限りでない。なお、原告は、「実際にビデオカメラによって複数の画像を撮影し撮像信号をディジタル信号に変換し、この信号の全ての画素のデータを1024通りのパターンデータに分類し、各パターンデータごとに最小自乗法により係数を決定する」方法についても主張するが、これは本件明細書の実施例に記載されたものにすぎず、本願発明の要旨ということはできないから、上記の判断を左右するものではない。 (3) 以上のとおり、第1刊行物発明に、第2刊行物発明及び周知慣用のテーブル技術を適用することにより、本願発明の係数格納手段の構成を得ることができるというべきであって、その組合せを阻害すべき事情も見当たらないから、これらの発明及び周知慣用技術に基づく審決の容易想到性の判断に誤りはない。 2-3 格別の作用効果の看過について 原告は、本願発明は幅広い補間係数を得ることによって補間の精度を向上させるとの格別な作用効果を奏するにもかかわらず、審決はこれを看過した旨主張するが、第2刊行物(甲第5号証)が、モード(パターン)に応じた複数の係数を使用して「エッジ部をぼかすことなく平たん部では十分な平滑化効果が得られる処理」(474頁右欄30行目〜31行目)を図っていることは前示のとおりであって、しかも、これを間引かれた画素の生成補間を目的とする第1刊行物に適用することが容易であることは前示のとおりである以上、原告の主張する作用効果は、第1、第2刊行物発明から当業者が当然に予測することができる程度のものというべきであって、これを格別なものと認めることはできない。 2-4 本願発明と第1刊行物発明との相違点についての審決の認定判断に誤りはなく、原告の取消事由2の主張は採用することができない。 3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 長沢幸男 |
裁判官 | 宮坂昌利 |