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事件 平成 11年 (ワ) 2931号 特許権侵害差止等請求事件
原告甲
原告乙
原告丙
原告ら訴訟代理人弁護士 奈良次郎
同 千原曜
同 町田弘香
同 木下直樹
同 松井清隆
同 泊昌之
同 松村昌人
同 蓮見和也
同 松尾慎祐
同 上田直樹
同 久保 健一郎
同 望月賢司
被告 株式会社トライテックス
被告訴訟代理人弁護士 岡田春夫
同 小池眞一
同 石井靖子
同 矢倉信介
被告補佐人弁理士 北村 修一郎
同 橋本薫
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2001/05/24
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの請求
1 被告は,別紙原告目録1,同2記載の物件を製造し又は販売してはならない。
2 被告は,原告甲に対し1億0700万円,原告乙及び原告丙に対しそれぞれ5700万円及びこれらに対する平成10年12月25日から各支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。
事案の概要
本件は,車輌在庫情報システムについての特許権を有する原告らが,被告の製造,販売する車輌在庫情報システムが原告らの特許発明技術的範囲に属し,その製造販売が原告らの特許権を侵害すると主張して,被告に対し,上記システムの製造販売の差止め並びに特許法65条1項に基づく補償金及び同法102条2項に基づく損害賠償の各支払(訴状送達の日の翌日である平成10年12月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求めている事案である。
1 当事者間に争いのない事実 (1) 原告甲は,自らの発明に係る次項記載の発明につき,出願公開後の平成9年9月20日,特許を受ける権利を,原告乙,同丙に各3分の1譲渡した。
(2) 原告らは,現在次の特許権(以下「本件特許権」という。)を共有している(持分各3分の1)。
特許番号 第2747477号 発明の名称 車輌在庫情報システム 出願年月日 平成5年5月28日 出願番号 特願平5-127527号 公開年月日 平成6年12月6日 公開番号 特開平6-338958号 登録年月日 平成10年2月20日 (3) 本件特許権に係る明細書(以下「本件明細書」という。本判決末尾添付の特許公報〔甲1の2。以下「本件公報」という。〕参照)の特許請求の範囲の記載は次のとおりである(以下,請求項1記載の特許発明を「本件発明1」,請求項2記載の特許発明を「本件発明2」といい,これらを併せて「本件各発明」という。) 【請求項1】 通信手段により複数の端末を接続するセンターに,所定の時間に前記端末を立ち上げこの端末から随時取り込まれた画像・文字情報の登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段と,前記各端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段と,前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後前記端末を再度立ち上げ,この端末に前記新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段とを備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム。
【請求項2】 通信手段によりセンターと複数の端末とを接続し,前記各端末は前記センターから更新作成されるマスターデータを前記通信手段を介して記憶する書替え可能な第1の端末側記憶手段と,画像・文字情報を取り込む端末側入力手段と,この端末側入力手段により取り込まれた画像・文字情報を登録データとして記憶する第2の端末側記憶手段と,前記第1の端末側記憶手段に記憶されたマスターデータから車輌の検索を行う車輌検索処理手段とを備えるとともに,前記センターは,所定の時間に前記端末を立ち上げ前記第2の端末側記憶手段に記憶された登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段と,前記端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段と,前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後前記端末を再度立ち上げ,前記第1の端末側記憶手段に新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段とを備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム。
(4) 被告は,コンピュータソフトウェアの開発,販売等を業とする株式会社である。
(5) 被告は「WIFE」という名称の車輌在庫情報システム(DOS版とWINDOWS版。以下,併せて「被告システム」という。)を製造し,販売している。
2 争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 被告システムの構成 (原告らの主張) 被告システムの構成は,別紙原告目録1,2のとおりである。
(被告の主張) 被告システムの構成は,別紙被告目録1ないし4のとおりである。
(2) 本件各発明の分説及び本件各発明と被告システムとの対比 (原告らの主張) ア 本件各発明の構成要件の分説 本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれを「構成要件A」などという。)。
(ア)本件発明1 A 通信手段により複数の端末を接続するセンターに, B 所定の時間に前記端末を立ち上げこの端末から随時取り込まれた画像・文字情報の登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段と, C 前記各端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段と, D 前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後前記端末を再度立ち上げ,この端末に前記新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輛情報配信処理手段と E AないしDを備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム。
(イ)本件発明2 F 通信手段によりセンターと複数の端末とを接続し, G 前記各端末は前記センターから更新作成されるマスターデータを前記通信手段を介して記憶する書替え可能な第1の端末側記憶手段と, H 画像・文字情報を取り込む端末側入力手段と, I この端末側入力手段により取り込まれた画像・文字情報を登録データとして記憶する第2の端末側記憶手段と, J 前記第1の端末側記億手段に記憶されたマスターデータから車輌の検索を行う車輌検索処理手段とを備えるとともに, K 前記センターは,所定の時間に前記端末を立ち上げ前記第2の端末側記憶手段に記憶された登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段と, L 前記端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段と, M 前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後,前記端末を再度立ち上げ,前記第1の端末側記憶手段に新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段と, N FないしMを備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム。
イ 被告システムのうちのDOS版(原告目録1)との対比 (ア)本件発明1について a 構成要件Aについて 構成要件Aは,「通信手段により複数の端末を接続するセンター」というものであるが,原告目録1にいう「センターシステム」は,同目録1記載の複数の端末「WIFE」に接続されたものであり,本件各発明にいう「センター」に相当する。原告目録1の車輌在庫情報システムは,センターシステムが新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)を各「WIFE」から吸い上げ,これら車輌情報につき更新処理を行い,マスターデータを更新し,かつ「WIFE」に新たなマスターデータ(差分情報)を送り出すという構成を特徴とするものであるから,原告目録1にいう「センターシステム」は,本件発明1の「センター」に相当する。
次に,「WIFE」は,車輌在庫情報システムの構成単位というべきものであって,情報システム業界の一般用語で説明すると,システムの端末を意味する。したがって,「WIFE」は,本件発明1の端末に該当する。また,「WIFE」はネットワークシステムに加入する各会社ごとに単独ないし複数の箇所に設置されているので,センターシステムに「複数の端末」が接続されている。そして,「センターシステム」と複数の「WIFE」はそれぞれISDN回線で接続されているので,両者は通信手段により接続されている。
以上のとおり,原告目録1のシステムは本件発明1の構成要件Aを充足する。
b 構成要件Bについて 構成要件Bは,「所定の時間に前記端末を立ち上げこの端末から随時取り込まれた画像・文字情報の登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段」というものである。
構成要件Bは次のような工程を意味する。
@ センターは,所定の時間に,ある端末を立ち上げる。
A センターは,この端末から随時取り込まれた画像・文字情報の登録データを吸い上げる。
B センターは,画像・文字情報の登録データを吸い上げた後,その端末の電源をオフにする。
原告目録1では,「センターは,所定の時間に,ある『WIFE』を立ち上げる。」とあるので,構成要件Bの@に該当する。次に,原告目録1では,「センターは,該『WIFE』のトランザクションデータ記憶部(第2の端末側記憶手段)に記憶された新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)を吸い上げ」とある。「WIFE」に記憶された新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)は画像・文字情報の登録データに該当するから,構成要件BのAに該当する。
さらに,原告目録1では,「該『WIFE』をスリープ状態にする。」とある。センターシステムは,「WIFE」に記憶された新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)を吸い上げた後に該「WIFE」をスリープ状態にするものであるが,このスリープ状態とは,後記のとおり微弱な電流が流れている状態であり,端末の電源がオフになっているという趣旨に解すべきであるから,構成要件BのBに該当する。
原告らが「端末の電源をオフにする」とあるのを,稼働状態にある端末を微弱な電流が流れている状態(スリープ状態ないしはサスペンド状態)にすることであると解する理由は,次のとおりである。
第1に,本件発明1の構成要件においては,端末から画像・文字情報の登録データを吸い上げるに先立って端末を立ち上げることを前提にしているところ,端末を立ち上げるためには,少なくとも当該端末に微弱な電流が流れていることが不可欠であって,これは情報システム業界の常識である。
第2に,本件明細書の「発明の詳細な説明」には「先ず,端末側にある登録データを吸い上げ,新たなマスターデータを送り出す際には,端末側は電源が自動的に立ち上がるが,センターに接続される端末が増えてセンター側の処理時間が長くなると,この間各端末は強制的にオン状態となり続ける。したがって,不必要に端末側が強制稼働されることになり,端末側の利用に制約を受ける。」(本件公報3欄39行ないし45行目)とあり,さらに「センターが新たなマスターデータを作成する際,各端末の電源はオフ状態となっているため,センターは各端末を不必要に強制稼働することがない。所定の時間になると端末側の登録データはそのまま吸い上げられてしまうので,端末側でマスターデータとの比較により登録データを作成する処理が不要となり,前記強制稼働の時間も短くなる。」(本件公報5欄11行ないし17行目)とあるように,本件各発明においては,端末を強制稼働する時間を短くする点に重点が置かれているのであるから,「端末の電源をオフする」とあるのは,単に端末が稼働状態ではないことを意味するのであって,微弱な電流が流れている状態を除外する趣旨ではない。
第3に,サスペンド状態は,CPUやハードディスク,ディスプレイなどの動作を一時停止し,電源を切ることを意味しており,「端末の電源をオフにする」ことにサスペンド状態が含まれることは明白である。
第4に,スリープ状態は,CPUやハードディスク,ディスプレイなどの動作を一時停止することを意味し,情報を処理する稼働状態ではないから,「端末の電源をオフにする」ことに含まれる。
以上によれば,原告目録1のシステムは,本件発明1の構成要件Bを充足する。
c 構成要件Cについて 構成要件Cは,「前記各端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段」というものである。他方,原告目録1では,「全『WIFE』の新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)の吸い上げが終了すると,新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)とマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成する。」とある。前記bのとおり,「WIFE」の新規在庫情報(面像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)の吸い上げが終了したときに,当該「WIFE」はスリープ状態になるのであり,このスリープ状態が「端末の電源をオフにする」状態に該当することは前述のとおりである。したがって,原告目録1のシステムは,「前記各端末の電源がオフしているとき」の要件を満たしている。
そして,新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)が画像・文字情報の登録データに該当することはbで述べたとおりであり,新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)とマスターデータとを比較することは,各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較に該当する。また,新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)とマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成するとあるが,これは,新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)とセンターに記憶されたマスターデータとを比較したうえ,既存のマスターデータ内にある既存の販売状況に関する情報については削除又は修正し,既存のマスターデータ内に同一の車輌情報が存在しない場合にはデータとして追加して記憶させることで新たなマスターデータ(差分情報)を作成することを意味する。したがって,上記の情報処理が,登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理することと同旨であることは言うまでもない。したがって,原告目録1のシステムは本件発明1の構成要件Cを充足する。
d 構成要件Dについて 構成要件Dは,「前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後前記端末を再度立ち上げ,この端末に前記新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段」というものである。
この構成要件の趣旨は次のとおりである。すなわち,「前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後」というのは,センターが,画像・文字情報とセンターに記憶されたマスターデータとを比較したうえ既存のマスターデータ内にある既存の販売状況に関する情報については削除又は修正し,既存のマスターデータ内に同一の車輌情報が存在しない場合にはデータとして追加して記憶させることで,新たなマスターデータ(差分情報)を作成した後の時間のことを意味する。「前記端末を再度立ち上げ」とあるのは,前述のとおり,微弱な電流が流れている状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)にある端末を,稼働状態にすることである。「この端末に前記新たなマスターデータを送り出し」とあるのは,前記更新処理等により作成した新たなマスターデータ(差分情報)を,センターから稼働状態にした端末に配信することを意味する。ここで,新たなマスターデータ(差分情報)とは,前記の更新処理等によって新たに生じた,販売状況や登録在庫に関するデータの修正事項及び新規在庫に関する事項のことである。本件明細書における「発明の詳細な説明」の記載によると,「新たなマスターデータは,共通する差分データとしてハードディスク装置16,32のマスターデータ記憶部16B,32Bに記憶される。」(本件公報8欄35行ないし37行目)とあり,新たなマスターデータが差分情報であることが明記されているから,「新たなマスターデータ」に「差分情報」が含まれることは明白である。そして,「前記新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段」とは,新たなマスターデータ(差分情報)をある端末に配信し,端末がこれを受信した後に,端末を稼働状態から微弱な電流が流れている状態(スリープ状態ないしはサスペンド状態)にすることである。
他方,原告目録1のシステムは,「センターの車輌情報配信処理手段は,ある『WIFE』を再度立ち上げ,新たなマスターデータ(差分情報)を配信し,該『WIFE』をスリープ状態にする。センターはまた別の『WIFE』を立ち上げ,同様の作業を行う。以下順次,その他すべての『WIFE』について同様の処理を行う。」とある。センターから端末である「WIFE」へ新たなマスターデータ(差分情報)を配信する作業内容は,構成要件Dの記載内容と全く同じ意味である。また,センターから各「WIFE」ヘ新たなマスターデータ(差分情報)が配信され該「WIFE」をスリープ状態にする点についても,構成要件Dと同様である。したがって,原告目録1のシステムは本件発明1の構成要件Dを充足する。
e 構成要件Eについて 構成要件Eは,「構成要件AないしDの構成を備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム」のことである。原告目録1はセンターと複数の端末である「WIFE」が通信手段で接統された車輌在庫情報システムであり,前述したとおり,構成要件AないしDの構成を備えている。
したがって,原告目録1のシステムは本件発明1の構成要件Eを充足し,結論として,本件発明1の技術的範囲に属する。
(イ)本件発明2について a 構成要件Fについて 構成要件Fは,「通信手段によりセンターと複数の端末とを接続し」というものであり,これは構成要件Aと同旨である。原告目録1が構成要件Aを充足することは前述のとおりであるから,同じ理由で構成要件Fを充足する。
b 構成要件Gについて 構成要件Gは,「前記各端末は前記センターから更新作成されるマスターデータを前記通信手段を介して記憶する書替え可能な第1の端末側記憶手段」を備えるというものである。原告目録1では,これに対応するものとして「各『WIFE』には,流通している各種車輌の仕様や見積に際し考慮すべき各種必要経費等に関する業務用情報を含んだ共通のマスターデータ(画像・文字情報)をあらかじめそれぞれの第1の端末側記憶手段に記憶しておく。」という記載があり,さらに「各『WIFE』は,受信した新たなマスターデータ(前記差分情報)をもって,マスターデータを更新する。」とされている。このうち前段は,「WIFE」がマスターデータ(画像・文字情報)を記憶する第1の端末側記憶手段を有していること,後段は,「WIFE」がセンターで作成された新たなマスターデータ(差分情報)を受信すると,マスターデータを更新処理することを意味する。このように,原告目録1の第1の端末側記憶手段は,書替え可能なものである。そして,センターと端末,センターシステムと「WIFE」がそれぞれ通信手段で接続されていることは,前述のとおりである。以上によれば,原告目録1のシステムは,本件発明2の構成要件Gを充足する。
c 構成要件Hについて 構成要件Hは,各端末が「画像・文字情報を取り込む端末側入力手段」を備えるというものである。原告目録1では,ネットワークシステムを構成する各「WIFE」には,ハードディスク,新規車輌の画像情報入力用のビデオカメラ,登録車輌の文字情報,見積伝票等の販売状況の文字情報入力用のキーボードが備えられているという趣旨の記載があるところ,これらの器具は,画像・文字情報を「WIFE」に取り込み入力するための手段である。したがって,原告目録1のシステムは,本件発明2の構成要件Hを充足する。
d 構成要件Iについて 構成要件Iは,各端末が「端末側入力手段により取り込まれた画像・文字情報を登録データとして記憶する第2の端末側記憶手段」を備えるというものである。これは,入力するツールを用いて端末に取り込んだ画像・文字情報を,第1の端末側記憶手段で記憶するのではなく,これとは別の第2の端末側記憶手段で記憶する,という点に特徴がある。この第2の端末側記憶手段に記憶された情報はセンターに吸い上げられるものである。このような機能をもった第2の端末側記憶手段は,情報システム業界における通常の用語でいうと,「トランザクションデータ記憶部」と呼ぶべきものである。
この点,原告目録1では,「新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)が,端末側入力手段により各『WIFE』のトランザクションデータ記憶部(第2の端末側記憶手段)に記憶される。」とある。新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報は,「WIFE」に備えられた新規車輌の画像情報入力用のビデオカメラ,登録車輌の文字情報,見積伝票等の販売状祝の文字情報入力用のキーボードの端末側入力手段によって取り込まれた情報であり,新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)は,画像・文字情報そのものである。
以上のとおり,原告目録1のシステムは本件発明2の構成要件Iを充足する。
e 構成要件Jについて 構成要件Jは,各端末が「前記第1の端末側記憶手段に記憶されたマスターデータから車輌の検索を行う車輌検索処理手段とを備える」というものである。
この点,原告目録1では,ネットワークシステムを構成する各「WIFE」には,ハードディスク,検索処理のキーワードの文字情報入力用のキーボード,検索結果を表示ないし印刷するディスプレイ及びプリンターが備えられており,各「WIFE」において,車輌を検索する場合には,入力されたキーワードにつき,制御処理部の車輌検索処理手段がマスターデータ(画像・文字情報)を検索の対象として読み出し,その内容を照合し,検索結果をディスプレイ上に表示したりプリンタを介して出力させることができるという趣旨の記載がある。そして,マスターデータ(画像・文字情報)が各「WIFE」の第1の端末側記憶手段に記憶されていることは,前記bで述べたとおりである。
したがって,原告目録1は,本件発明2の構成要件Jを充足する。
f 構成要件Kについて 構成要件Kは,「前記センターは,所定の時間に前記端末を立ち上げ前記第2の端末側記憶手段に記憶された登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段」を備えるというものである。
前記dで説明したとおり,第2の端末側記憶手段に記憶された登録データは,画像・文字情報である。したがって,構成要件Kは,構成要件Bと同旨であるところ,原告目録1が構成要件Bを充足することは前記のとおりであるから,原告目録1は,本件発明2の構成要件Kを充足する。
g 構成要件Lについて 構成要件Lは,センターは「前記端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段」を備えるというものである。構成要件Lは,構成要件Cと同旨であるところ,原告目録1が構成要件Cを充足することは前記のとおりであるから,原告目録1は,本件発明2の構成要件Lを充足する。
h 構成要件Mについて 構成要件Mは,センターは「前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後,前記端末を再度立ち上げ,前記第1の端末側記憶手段に新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段」を備えたというものである。前述のとおり,第1の端末側記憶手段は端末に備えられているものであるから,構成要件Mは,構成要件Dと同旨である。原告目録1が構成要件Dを充足することは前記のとおりであるから,原告目録1は,本件発明2の構成要件Mを充足する。
i 構成要件Nについて 構成要件Nは,「構成要件FないしMの構成を備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム」のことである。原告目録1は車輌在庫情報システムであって,かつ構成要件FないしMの構成を備えている。
したがって,原告目録1のシステムは本件発明2の構成要件Nを充足し,結論として,本件発明2の技術的範囲に属する。
ウ 被告システムのうちのWINDOWS版(原告目録2)との対比 (ア)本件発明1について a 構成要件Aについて 構成要件Aは,「通信手段により複数の端末を接続するセンター」というものであるが,原告目録2にいう「グループセンター」は,同目録2記載の複数の端末「WIFE」に接続されたものであり,本件発明1にいう「センター」に相当する。原告目録2の車輌在庫情報システムは,グループセンターが新規在庫情報(画像・文字情報),新規販売状況情報(文字情報)を各「WIFE」から吸い上げ,これら車輌情報につき更新処理を行い,新たなマスターデータ(差分情報)を作成し,各「WIFE」に新たなマスターデータ(差分情報)を送り出すという構成を特徴とするものであるから,原告目録2にいう「グループセンター」は,本件発明2の「センター」に相当する。
次に,「WIFE」は,車輌在庫情報システムの構成単位というべきものであって,情報システム業界の一般用語で説明すると,システムの端末を意味する。したがって,「WIFE」は,本件発明1の端末に該当する。また,「WIFE」はネットワークシステム(WANシステム)に加入する各会社ごとに単独ないし複数の箇所に設置されているので,センターシステムに「複数の端末」が接続されている。そして,「グループセンター」と複数の「WIFE」はそれぞれISDN回線で接続されているので,両者は通信手段により接続されている。
以上のとおり,原告目録2のシステムは本件発明1の構成要件Aを充足する。
b 構成要件Bについて 構成要件Bは,「所定の時間に前記端末を立ち上げこの端末から随時取り込まれた画像・文字情報の登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段」というものである。
構成要件Bは次のような工程を意味する。
@ センターは,所定の時間に,ある端末を立ち上げる。
A センターは,この端末から随時取り込まれた画像・文字情報の登録データを吸い上げる。
B センターは,画像・文字情報の登録データを吸い上げた後,その端末の電源をオフにする。
原告目録2では,「グループセンターは,所定の時間に,ある『WIFE』を微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態またはサスペンド状態)から稼働状態にする。」とあり,これが端末を立ち上げる趣旨であることは明らかであるから,構成要件Bの@に該当する。次に,原告目録2では,「グループセンターは,該『WIFE』のトランザクションデータ記憶部(第2の端末側記憶手段)に記憶された新規在庫情報(画像・文字情報)・新規販売状況情報(文字情報)を吸い上げ」とある。「WIFE」に記憶された新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)は画像・文字情報の登録データに該当するから,構成要件BのAに該当する。
さらに,原告目録2では,「その後,該『WIFE』を,微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態またはサスペンド状態)にする。」とある。
グループセンターは,「WIFE」に記憶された新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)を吸い上げた後に該「WIFE」を微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)にするものであり,これは後記のとおり端末の電源がオフになっているという趣旨であるから,構成要件BのBに該当する。
原告らが「端末の電源をオフにする」とあるのを,稼働状態にある端末を微弱な電流が流れている状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)にすることであると解する理由は,次のとおりである。
第1に,本件発明1の構成要件においては,端末から画像・文字情報の登録データを吸い上げるに先立って端末を立ち上げることを前提にしているところ,端末を立ち上げるためには,少なくとも当該端末に微弱な電流が流れていることが不可欠であって,これは情報システム業界の常識である。
第2に,本件明細書の「発明の詳細な説明」には「先ず,端末側にある登録データを吸い上げ,新たなマスターデータを送り出す際には,端末側は電源が自動的に立ち上がるが,センターに接続される端末が増えてセンター側の処理時間が長くなると,この間各端末は強制的にオン状態となり続ける。したがって,不必要に端末側が強制稼働されることになり,端末側の利用に制約を受ける。」(本件公報3欄39行ないし45行目)とあり,さらに「センターが新たなマスターデータを作成する際,各端末の電源はオフ状態となっているため,センターは各端末を不必要に強制稼働することがない。所定の時間になると端末側の登録データはそのまま吸い上げられてしまうので,端末側でマスターデータとの比較により登録データを作成する処理が不要となり,前記強制稼働の時間も短くなる。」(本件公報5欄11行ないし17行目)とあるように,本件各発明においては,端末を強制稼働する時間を短くする点に重点が置かれているのであるから,「端末の電源をオフする」とあるのは,単に端末が稼働状態ではないことを意味するのであって,微弱な電流が流れている省電力状態を除外する趣旨ではない。
第3に,サスペンド状態は,CPUやハードディスク,ディスプレイなどの動作を一時停止し,電源を切ることを意味しており,「端末の電源をオフにする」ことにサスペンド状態が含まれることは明白である。
第4に,スリープ状態は,CPUやハードディスク,ディスプレイなどの動作を一時停止することを意味し,情報を処理する稼働状態ではないから,「端末の電源をオフにする」ことに含まれる。
以上によれば,原告目録2のシステムは,本件発明1の構成要件Bを充足する。
c 構成要件Cについて 構成要件Cは,「前記各端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段」というものである。他方,原告目録2では,「全『WIFE』の新規在庫情報(画像・文字情報)・新規販売状況情報(文字情報)の吸い上げが終了すると,グループセンターは,当該新規在庫情報(画像・文字情報)・当該新規販売状況情報(文字情報)とマスターデータとの比較結果に基づき,マスターデータを更新し,『新たなマスターデータ(差分情報)』を作成する。」とある。前記bのとおり,「WIFE」の新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)の吸い上げが終了したときに,当該「WIFE」は省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)になるのであり,この状態が「端末の電源をオフにする」状態に該当することは前述のとおりである。したがって,原告目録2のシステムは,「前記各端末の電源がオフしているとき」の要件を満たしている。
そして,新規在庫情報(画像・文字情報)・新規販売状況情報(文字情報)が画像・文字情報の登録データに該当することはbで述べたとおりであり,新規在庫情報(画像・文字情報)・新規販売状況情報(文字情報)とマスターデータとを比較することは,各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較に該当する。また,新規在庫情報(画像・文字情報)・新規販売状況情報(文字情報)とマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成するとあるが,これは,新規在庫情報(画像・文字情報)・新規販売状況情報(文字情報)とグループセンターに記憶されたマスターデータとを比較したうえ,既存のマスターデータ内にある既存の在庫車輌・販売状況に関する情報については削除又は修正し,既存のマスターデータ内に同一の車輌情報が存在しない場合にはデータとして追加して記憶させることで新たなマスターデータ(差分情報)を作成することを意味する。したがって,上記の情報処理が,登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理することと同旨であることは言うまでもない。したがって,原告目録2のシステムは本件発明1の構成要件Cを充足する。
d 構成要件Dについて 構成要件Dは,「前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後前記端末を再度立ち上げ,この端末に前記新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段」というものである。
この構成要件の趣旨は次のとおりである。すなわち,「前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後」というのは,センターが,画像・文字情報とセンターに記憶されたマスターデータとを比較したうえ既存のマスターデータ内にある既存の販売状況に関する情報については削除又は修正し,既存のマスターデータ内に同一の車輌情報が存在しない場合にはデータとして追加して記憶させることで,新たなマスターデータ(差分情報)を作成した後の時間のことを意味する。「前記端末を再度立ち上げ」とあるのは,前述のとおり,微弱な電流が流れている状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)にある端末を,稼働状態にすることである。「この端末に前記新たなマスターデータを送り出し」とあるのは,前記更新処理等により作成した新たなマスターデータ(差分情報)を,センターから稼働状態にした端末に配信することを意味する。ここで,新たなマスターデータ(差分情報)とは,前記の更新処理等によって新たに生じた,販売状況や登録在庫に関するデータの修正事項及び新規在庫に関する事項のことである。本件明細書における「発明の詳細な説明」の記載によると,「新たなマスターデータは,共通する差分データとしてハードディスク装置16,32のマスターデータ記憶部16B,32Bに記憶される。」(本件公報8欄35行ないし37行目)とあり,新たなマスターデータが差分情報であることが明記されているから,「新たなマスターデータ」は「差分情報」である。そして,「前記新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段」とは,新たなマスターデータ(差分情報)をある端末に配信し,端末がこれを受信した後に,端末を稼働状態から微弱な電流が流れている状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)にすることである。
他方,原告目録2のシステムは,「グループセンターの車輌情報配信処理手段は,更新等処理後に,ある『WIFE』を再度微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態またはサスペンド状態)から稼働状態にし,『新たなマスターデータ(前記差分情報)』を配信し,その後,該『WIFE』を,微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態またはサスペンド状態)にする。グループセンターは,また別の『WIFE』を微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態またはサスペンド状態)から稼働状態にし,同様の作業を行う。グループセンターは,以下順次,その他すべての『WIFE』について同様の処理を行う。」というものである。グループセンターから端末である「WIFE」へ新たなマスターデータ(差分情報)を配信する作業内容は,構成要件Dの記載内容と全く同じ意味である。また,センターから各「WIFE」ヘ新たなマスターデータ(差分情報)が配信され,該「WIFE」を微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)にする点についても,構成要件Dと同様である。したがって,原告目録2のシステムは本件発明1の構成要件Dを充足する。
e 構成要件Eについて 構成要件Eは,「構成要件AないしDの構成を備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム」のことである。原告目録2はグループセンターと複数の端末である「WIFE」が通信手段で接統された車輌在庫情報システムであり,前述したとおり,構成要件AないしDの構成を備えている。
したがって,原告目録2のシステムは本件発明1の構成要件Eを充足し,結論として,本件発明1の技術的範囲に属する。
(イ)本件発明2について a 構成要件Fについて 構成要件Fは,「通信手段によりセンターと複数の端末とを接続し」というものであり,これは構成要件Aと同旨である。原告目録2が構成要件Aを充足することは前述のとおりであるから,同じ理由で構成要件Fを充足する。
b 構成要件Gについて 構成要件Gは,「前記各端末は前記センターから更新作成されるマスターデータを前記通信手段を介して記憶する書替え可能な第1の端末側記憶手段」を備えるというものである。原告目録2では,これに対応するものとして「各『WIFE』には,流通している各種車輌の仕様や見積もりに際し考慮すべき各種必要経費等に関する業務用情報を含んだ共通のマスターデータ(画像・文字情報)を,あらかじめ,それぞれの第1の端末側記憶手段に記憶しておく。」という記載があり,さらに「各『WIFE』は,受信した『新たなマスターデータ(前記差分情報)』をもって,第1の端末側記憶手段にあるマスターデータを更新する。」とされている。このうち前段は,「WIFE」がマスターデータ(画像・文字情報)を記憶する第1の端末側記憶手段を有していること,後段は,「WIFE」がグループセンターで作成された新たなマスターデータ(差分情報)を受信すると,マスターデータを更新処理することを意味する。このように,原告目録2の第1の端末側記憶手段が書替え可能なものであることは明らかである。そして,センターと端末,グループセンターと「WIFE」がそれぞれ通信手段で接続されていることは,前述のとおりである。以上によれば,原告目録2のシステムは,本件発明2の構成要件Gを充足する。
c 構成要件Hについて 構成要件Hは,各端末が「画像・文字情報を取り込む端末側入力手段」を備えるというものである。原告目録2では,WANシステムを構成する各「WIFE」には,ハードディスク,新規車輌の画像情報入力用のビデオカメラ,登録車輌の文字情報,見積伝票等の販売状況の文字情報入力用のキーボードが備えられているという趣旨の記載があるところ,これらの器具は,画像・文字情報を「WIFE」に取り込み入力するための手段である。したがって,原告目録2のシステムは,本件発明2の構成要件Hを充足する。
d 構成要件Iについて 構成要件Iは,各端末が「端末側入力手段により取り込まれた画像・文字情報を登録データとして記憶する第2の端末側記憶手段」を備えるというものである。これは,入力するツールを用いて端末に取り込んだ画像・文字情報を,第1の端末側記憶手段で記憶するのではなく,これとは別の第2の端末側記憶手段で記憶する,という点に特徴がある。この第2の端末側記憶手段に記憶された情報はセンターに吸い上げられるものである。このような機能をもった第2の端末側記憶手段は,情報システム業界における通常の用語でいうと,「トランザクションデータ記憶部」と呼ぶべきものである。
この点,原告目録2では,「新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)が,端末側入力手段により各『WIFE』のトランザクションデータ記憶部(第2の端末側記憶手段)に記憶される。」とある。新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報は,「WIFE」に備えられた新規車輌の画像情報入力用のビデオカメラ,登録車輌の文字情報,見積伝票等の販売状祝の文字情報入力用のキーボードの端末側入力手段によって取り込まれた情報であり,新規在庫情報(画像・文字情報)・販売状況情報(文字情報)は,画像・文字情報そのものである。
以上のとおり,原告目録2のシステムは本件発明2の構成要件Iを充足する。
e 構成要件Jについて 構成要件Jは,各端末が「前記第1の端末側記憶手段に記憶されたマスターデータから車輌の検索を行う車輌検索処理手段とを備える」というものである。
この点,原告目録2では,WANシステムを構成する各「WIFE」には,ハードディスク,検索処理のキーワードの文字情報入力用のキーボード,検索結果を表示ないし印刷するディスプレイ及びプリンターが備えられており,各「WIFE」において,車輌を検索する場合には,入力されたキーワードにつき,制御処理部の車輌検索処理手段がマスターデータ(画像・文字情報)を検索の対象として読み出し,その内容を照合し,検索結果をディスプレイ上に表示したりプリンタを介して出力させることができるという趣旨の記載がある。そして,マスターデータ(画像・文字情報)が各「WIFE」の第1の端末側記憶手段に記憶されていることは,前記bで述べたとおりである。
したがって,原告目録2は,本件発明2の構成要件Jを充足する。
f 構成要件Kについて 構成要件Kは,「前記センターは,所定の時間に前記端末を立ち上げ前記第2の端末側記憶手段に記憶された登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段」を備えるというものである。
前記dで説明したとおり,第2の端末側記憶手段に記憶された登録データは,画像・文字情報である。したがって,構成要件Kは,構成要件Bと同旨であるところ,原告目録2が構成要件Bを充足することは前記のとおりであるから,原告目録2は,本件発明2の構成要件Kを充足する。
g 構成要件Lについて 構成要件Lは,センターは「前記端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段」を備えるというものである。構成要件Lは,構成要件Cと同旨であるところ,原告目録2が構成要件Cを充足することは前記のとおりであるから,原告目録2は,本件発明2の構成要件Lを充足する。
h 構成要件Mについて 構成要件Mは,センターは「前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後,前記端末を再度立ち上げ,前記第1の端末側記憶手段に新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段」を備えたというものである。前述のとおり,第1の端末側記憶手段は端末に備えられているものであるから,構成要件Mは,構成要件Dと同旨である。原告目録2が構成要件Dを充足することは前記のとおりであるから,原告目録2は,本件発明2の構成要件Mを充足する。
i 構成要件Nについて 構成要件Nは,「構成要件FないしMの構成を備えたことを特徴とする車輌在庫情報システム」のことである。原告目録2は車輌在庫情報システムであって,かつ構成要件FないしMの構成を備えている。
したがって,原告目録2のシステムは本件発明2の構成要件Nを充足し,結論として,本件発明2の技術的範囲に属する。
以上によれば,被告システムは原告らの本件特許権を侵害するから,原告らは被告に対し,本件特許権に基づき被告システムの製造販売の差止めを求める。
(被告の主張) ア 本件各発明の構成要件の分説 (ア)本件発明1について 原告らの分説は,争う。
原告ら主張の構成要件AないしDは,1つの構成要件の構成要素として(例えば,構成要件αの@ないしCとして)理解されるべきである。また,原告ら主張の構成要件Eは「AないしD」という本件明細書の「特許請求の範囲」に記載のない事項を含む上に,「特許請求の範囲」に記載された各構成の結合関係を不明確にしている点で妥当でない(ただし,上記の点を除き,各構成要件の記載内容自体は認める。)。
(イ)本件発明2について 原告らの分説は,争う。
原告ら主張の構成要件GないしJ及びKないしMは,1つの構成要件の構成要素として理解されるべきである。また,原告ら主張の構成要件Nは「FないしM」という本件明細書の「特許請求の範囲」に記載のない事項を含む上に,「特許請求の範囲」に記載された各構成の結合関係を不明確にしている点で妥当でない(ただし,上記の点を除き,各構成要件の記載内容自体は認める。)。
イ 本件明細書に記載されている用語の技術的意義について (ア)「センター」について 本件明細書にいう「センター」は,通常の用語として「中央」「中心」という意味であり,技術用語としても「計算センタ」の意味を有している。そして,「センター」の類義語である「central site(中央側)」という用語が主として通信回線が介在するオンラインシステムなどでのホストコンピュータの設置してある場所(側)を指すと解されていること(乙13[コンピュータ用語大辞典]の146頁)などを考えれば,「センター」との用語が,少なくとも本件各発明の技術分野であるネットワークシステムにおいて中心的に位置づけられたホストコンピュータ等を備えたシステム装置という意味であることは明らかである。
(イ)端末の「立ち上げ」と「電源をオフする」ことについて 本件明細書にいう「吸い上げ処理手段」は,「登録データ」の吸い上げに前後して,「登録データ」を吸い上げるべき各端末を「立ち上げ」かつ「電源をオフする」との機能を実現する手段として特定されている。
そもそも,「電源」との用語は文字どおり「電力の生ずる源」又は「電力を得るもと」という意味であり,「端末の電源」を「オフする」という機能は,端末装置への電力の供給を遮断して,完全にその機能を停止させるという意味に理解するのが通常である。
そうであるからこそ,本件特許の公開特許公報(甲7)の実施例に記載された「ISDN回線1」に接続される「処理端末機21」の「インターフェース22」と「制御処理部23」との間に設けられた処理端末機21の自動立ち上げ用としての「リレーボックス31」の構成及び「登録データの吸い上げが終了すると,一旦処理端末機21はリレーボックス31を介してパワーオフされる」との記載が開示されていた点をもって,リレー装置が「一方の回線に電流が流れる際に発生する磁力を利用したスイッチであり,当該一方の回線に電流が流れると他方の回線の切断部分をつなぎ電流を流し,もとの回線に流れていた電流が止まると磁力の発生が沈むことにより他方の回路が直ちに再び切断される装置」であるとの当業者の技術常識を前提に,出願当初になかった「端末の電源をオフする」との機能を備えた「吸い上げ処理手段」との構成をも備えた特許発明が当業者に自明な形で開示されていたとして,平成5年法律第26号による改正前の特許法41条により特許請求の範囲を補正することが許されたのであり,このことは原告ら自らが十分理解しているはずである。
したがって,「センター」側の「吸い上げ処理手段」の「電源をオフする」機能に関して,これを端末側のコンピュータにインストールされたOSソフトであるWINDOWSが「センター」側との間で通信が切れた後,入力のない状態が一定の時間続いたと判断して省電力モードに復帰することまで含む技術的要素であるという原告らの主張は,事実としても,本件各発明の理解としても誤りである。
(ウ)「新たなマスターデータの作成処理」の機能を実現する「車輌情報マッチング処理手段」について 本件明細書にいう「車輌情報マッチング処理手段」は,「該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理」の機能を実現することによって,「新たなマスターデータ」を作成処理する。
ここでいう「登録データ」は,各端末から取り込まれ登録された車輌在庫データというマスターデータを更新すべきトランザクションデータとしての意義のある技術的要素であり,「マスターデータ」は,上記の「登録データ」と区別され異なる技術的要素として「特許請求の範囲」に位置づけられ,「処理操作をするために使われる基本データ」という意味を有する技術用語である。
そして,当業者の一般的な技術知識として,「過去のデータを集計したマスター・ファイルに対して,変形分のデータを付け加え,最新のデータに修正すること」に関し,「トランザクション処理」又は「マスター・トランザクション処理」と呼ばれており,当該トランザクション処理の具体的な手順としては,例えば,@ トランザクションデータの入力,A マッチするマスターレコードの呼出し,B メモリでマスターレコードの更新,C ディスクでマスターレコードの更新,といった手順が広く知られていた。
したがって,本件明細書にいう「車輌情報マッチング処理手段」が「新たなマスターデータを作成処理する」機能は,「該各端末より集められた登録データ」と既存の「マスターデータ」との比較結果に基づいたトランザクション処理という技法によって実現されるものであることは明らかである。
ウ 被告システムとの対比について (ア)原告ら主張の構成要件Bについて 原告らは,「センターシステム」又は「グループセンター」が,所定の時間にある「WIFE」を微弱な電流が流れている省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)から稼働状態にする等して「立ち上げる」ものと理解して,原告目録1,2にその旨を記載しているが,被告システムの構成の把握自体を誤っている。
現実の被告システムにおいては,ネットワークシステムとしてのシステムの安定性を高めるため,また店頭に設置する各「WIFE」は日中顧客に対して中古車輌に関する情報を表示する必要があるため,各「WIFE」のコンピュータは,ノートパソコン等とは異なり,業務用コンピュータとして一定の期間インターフェースを通じたデータの入力がなくとも,各コンピュータが省電力状態に移行しないように設定されている。
さらに言えば,「電源をオフする」ことによって発生した「端末」の状態には微弱な電流が流れている状態を含むという原告らの主張そのものが,通常の用語の意味の範囲外である上に,そもそも省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)への移行は,各端末が一定の期間インターフェースを通じたデータの入力がないという状態を判断して行うものであり,省電力状態にするのは各「端末」のコンピュータ自身であって「センターシステム」又は「グループセンター」でないことは,自明な技術常識である。
(イ)原告ら主張の構成要件Cについて 原告目録1における「マスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成する」との記載,原告目録2における「マスターデータとの比較結果に基づき,マスターデータを更新し,『新たなマスターデータ(差分情報)』 を作成する」との記載は,単なる表現方法の違いにとどまらず,被告システムの構成の把握自体を誤っている。
被告のネットワークシステムにおける「ファイルサーバーシステム」は,各「WIFE」から集信してきた「在庫差分ファイル」(販売状況ファイルの集計作業を依頼されている会社においては,同時に「ローカル販売状況ファイル」又は「ローカル販売状況差分ファイル」を集信する。)を対象データとし,「統合在庫差分ファイル」を統合して配信するものである(「集計販売状況ファイル」又は「統合販売状況差分ファイル」のそれぞれを独立に統合する場合もあり,さらに集計作業を依頼した会社が特に配信を依頼した場合に,会社内の2個以上の「WIFE」にこれらを配信する場合もある。)。
これら「ファイルサーバーシステム」側で作成して各「WIFE」に配信する情報は,集信作業を開始する以前から「ファイルサーバーシステム」内に存在する「マスターデータ」と比較することもなければ,差分情報である「登録データ」をマッチング処理して「新たなマスターデータ」を更新処理することもなく,単に集信してきた各情報同士を統合して作成するものであり,ましてや検索処理を行うべき各「WIFE」に存在する一方で,集信・配信処理を行っている「ファイルサーバーシステム」には存在しない検索処理対象である「マスターデータ」との比較結果に基づき「マスターデータを更新」するとのマッチング処理(トランザクション・マスター処理)を行う構成でもない。
(ウ)原告ら主張の構成要件Dについて 「新たなマスターデータ」は「差分情報」である旨の主張は否認する。
まず,通常の用語としても,科学用語としても,「マスターデータ」に「マスターデータ」を更新すべき「差分情報」が含まれると解釈する余地はない。
そもそも,本件明細書の「特許請求の範囲」の記載において,差分情報である「登録データ」と全体情報である「マスターデータ」とは対立する概念として記載されており,対立し合う意味内容を持つ用語を同一視した主張をすることは,本件各発明の技術的意義を無視するものである。
その上,原告の主張する差分情報はもともと検索処理の対象でない情報であることが明らかであって,「新たなマスターデータ」が「差分情報」であるとの主張自体が,本件各発明の属する分散データベース技術の本質から見て全く根拠がない。
さらに,本件明細書の「特許請求の範囲」を見ても,「更新作成されるマスターデータ」「マスターデータから車輌の検索を行う」「前記第1の端末側記憶手段に新たなマスターデータを送り出し」等と記載されているように,本件明細書は一貫して「マスターデータ」が検索処理の対象であることを特定しており,技術常識に照らして,検索処理の対象になるはずのない「差分情報」をもって「マスターデータ」である等と理解できる記載箇所は存在しない。
(エ)原告ら主張の構成要件Eについて 本件発明1の特許請求の範囲の記載は,「通信手段により複数の端末を接続する」という特定の付されたセンターに,原告ら主張の各構成要件(正確には構成要件Eのうち「を備えた」までの部分)に記載の各機能実現手段が存在して機能していることを特徴とする「車輌在庫情報システム」というのが正確な理解であり,原告らの理解は誤りである。
(オ)原告ら主張の構成要件Gについて 原告目録2の第1の端末側記憶手段が書替え可能なものであるという原告らの主張は,争う。
この構成要件にいう「前記通信手段を介して記憶する書替え可能な」という特定は,「センター」から更新作成された「(新たな)マスターデータ」が「送り出」されることにより,「通信手段を介して」第1の端末側記憶手段が当該「更新作成されるマスターデータ」を「記憶」することで,従前「記憶されたマスターデータ」が「書替え」られるという点に技術的意義を有する。
センターが新たなマスターデータを送り出すことに対応して,端末側が通信手段を介してこれをそのまま記憶することによって,既存のマスターデータの書換えが可能になるという機能を有する点に意味があるとすれば,「通信手段を介して・・・書替え」られるものではないことが明らかな各「WIFE」の行う更新処理をもって,第1の端末側記憶手段が書替え可能なものであるとする原告らの主張は,失当である。
(カ)原告ら主張の構成要件KないしMについて 仮に,原告目録1,2を前提にするとしても,前記(ア)ないし(ウ)で主張したのと同様の理由から,これらは原告ら主張の構成要件KないしMを充足しない。
なお,原告らは構成要件Kと構成要件Bは同旨であると主張するが,本件発明2においては,「センター」が「端末」から「マスターデータ」とは異なる(差分情報)「登録データ」をいかに吸い上げるかという点について,端末が「立ち上げ」られた後に2つのマスターデータを比較して差分情報たる「登録データ」を得るという作業をすることなく,吸い上げられるべき「登録データ」をあらかじめ記憶しておくという構成を端末側に設けてあることを前提に,第2の端末側記憶手段を「吸い上げ」先とした「処理手段」であることにその特徴があるのであるから,両者が「同旨」であるという原告らの理解は誤っている。
(原告らの再反論) ア 「センター」について 被告システムの「センターシステム」「グループセンター」が本件各発明の「センター」に該当することは,既に主張したとおりである。
被告の「WIFE」システムは,ファイルサーバーシステム及び当該システムに加入する端末である「WIFE」又は「WIFE」LANシステムによって構成されるものであり,「WIFE」LANシステム自体についても,サーバーマシン及びこれと接続された端末「WIFE」により構成されるものである。
被告が平成11年10月ころに作成した「WIFE」WINDOWS版の簡易マニュアル(乙32)においてすら,端末である「WIFE」がセンターコンピュータに接続されていることが明確に示されている。上記マニュアルが「WIFE」システムの「センター」を指す表現として用いている「センターコンピュータ」は被告目録にいう「ファイルサーバーシステム」又は「サーバーシステム」と同義である。
イ 「電源をオフする」には省電力状態を含むことについて 被告は,本件各発明において「電源オフ」には微弱な電流が流れている状態を含む省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)を含まない旨主張する。
しかし,@ 一般にパソコンにおいて「電源をオフする」との概念は多義的であり,「機能が停止されたスリープ状態」「主電源による電源供給が停止され,ハードディスク上にデータが待避されているサスペンド状態」「主電源及び内蔵電源のみならずパソコン内蔵時計への微弱電源供給も停止された状態」等のいずれもが「電源をオフする」ものと解されていること,A 本件各発明にいう「電源をオフする」の概念は「立ち上げ」に対する概念であるところ,「立ち上げ」の意味は端末を稼働状態にするものであるから,その反対概念である「電源をオフする」には,それ以外の状態を含むと解するのが合理的であること,B 仮に,吸い上げ処理後に完全に電源供給を遮断する状態にしたとすると,その後の配信処理の際に立ち上げ処理を行うことができなくなってしまうから,本件各発明においては元来吸い上げ処理後に再度立ち上げ処理をすることができる程度の「電源オフ」をも想定していること,からして上記被告の主張は誤りである。
ウ 「WIFE」WINDOWS版の各「WIFE」は省電力状態になることについて 「WIFE」WINDOWS版においては,端末である「WIFE」はWindows95をオペレーティングシステム(OS)として採用し,一般ユーザー用のパソコンを使用している。すなわち,被告の端末はサーバー機ではない。情報システム業界に属する通常の者の常識として,サーバー機は24時間ほぼ100%の状態で安定して稼働させるべく,一般の家庭用パソコンには見られない,@複数のCPU,A複数のハードディスクドライブ(これに伴い入力,配信された情報は常に複数のハードディスク上に蓄積される。),Bホットスワップ(電源を入れたままハードディスク等の周辺機器の取り外し取り付けを可能にする技術)対応のハードディスク,C複数の電源ユニット等の工夫がされている。
このような工夫が施されていない「WIFE」のような端末のコンピュータ(一般のユーザー用のパソコン)において,省電力状態は必要不可欠であって,被告の主張は事実に反し,コンピュータの性能,OSの安定性,メモリーの限界を全く無視した技術的にあり得ないものである。
(3) 原告らの求める補償金及び損害賠償の額 (原告らの主張) ア 補償金請求について 原告甲は,本件特許の出願公開後の平成7年5月,被告に対して本件各発明の内容を記載した書面を送付して警告をしたが,被告はその後も被告システムの製造販売を継続し,本件特許権の登録日である平成10年2月20日の前日(同月19日)まで被告システムの製造販売を行った。
平成7年5月から同9年9月までの被告の上記売上げは少なくとも2億5000万円を下ることはなく,このうちの20パーセントに当たる5000万円は,被告システムの製造販売により原告甲が受けるべき金銭の額に相当する。
原告甲が特許を受ける権利の3分の1ずつを他の原告らに譲渡した後である平成9年10月から同10年2月19日までの被告の売上げは,少なくとも1億0500万円を下ることはなく,上記売上げの20パーセントに当たる2100万円は,被告システムの製造販売により原告らが受けるべき金銭の額に相当する。
イ 損害賠償請求について 被告は,本件特許権の登録日である平成9年2月20日から現在まで被告システムを製造販売して原告らの本件特許権を侵害した。したがって,被告は原告らに対し上記侵害行為により原告らに加えた損害を賠償する義務を負うところ,被告の上記期間内の被告システムの製造販売による売上げは,少なくとも3億円を下らない。これにより被告の得た利益は,少なくとも上記売上げの50パーセントである1億5000万円を下らない。よって,原告らはこの金額と同額の損害を被ったことになる。
ウ まとめ よって,原告甲は特許法65条1項に基づく補償金5700万円と同法102条2項に基づく損害賠償金5000万円の合計である1億0700万円の,原告乙及び同丙はそれぞれ特許法65条1項に基づく補償金700万円と同法102条2項に基づく損害賠償金5000万円の合計である5700万円の各支払(訴状送達の日の翌日である平成10年12月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を含む。)を求める。
(被告の主張) ア 補償金請求について 原告甲が,本件特許の出願公開後の平成7年5月,被告に対して同月10日付け内容証明郵便(甲4)を送付したことは認めるが,その余は否認し,争う。
イ 損害賠償請求について すべて否認し,争う。なお,本件特許権の実施主体として想定できるのは,原告らではなく,原告甲が代表取締役を務める株式会社アレスであるから,特許法102条2項に基づく請求は理由のないことが明らかである。
当裁判所の判断
1 争点(2)について ア 本件各発明について 本件明細書の記載によれば,本件各発明の技術思想,従来技術との関係等は以下のとおりである。
(ア)本件各発明は,中古車販売などにおいて,センターと各フランチャイズ店との間で在庫車輌の情報管理を行う場合に,車輌の画像及び文字情報などの大量の情報を有するデータベースを検索処理するのに好適な車輌在庫情報システムに関するものである(本件公報3欄6行ないし8行目)。
(イ)上記の技術分野に関する従来技術としては,在庫車輌の画像及び文字情報をマスターデータとして汎用コンピュータに記憶し,この汎用コンピュータを端末側のフランチャイズ店との通信回線で接続されたセンター側に設置することで,センター側に記憶された共通のマスターデータを各フランチャイズ店で適宜呼び出し,顧客に必要な在庫車輌の情報提供を行うものがあった。この従来技術では,フランチャイズ店側から所望する情報を得るのに,いちいちセンターにある汎用コンピュータを呼び出さなければならず,車輌の検索や予約などを迅速に行うことができないという欠点があった。また,車輌の画像情報を伝達するのに膨大な通信コストがかかり,少ない資本で新たにシステム参入するのが難しいという問題もあった(本件公報3欄20行ないし28行目)。
(ウ)このような問題点に対して,別の技術としては,周期的に端末を順番にアクセスして各端末の差分情報をセンター側で収集し,この差分情報から得られた全体差分情報を各端末の記憶手段に盛り込むことでセンターと各端末とのデータを同一内容に維持することのできるシステムが存在した(特開平5-73393号の公開特許公報)。このシステムでは,いちいちセンター側を呼び出さなくても,各端末に記憶されたデータに基づき端末側で情報提供を行うことができるが,端末側にある登録データを吸い上げ,新たなマスターデータを送り出す際には,端末側は電源が自動的に立ち上がるが,センターに接続される端末が増えてセンター側の処理時間が長くなると,この間各端末は強制的にオン状態となり続けるために,不必要に端末側が強制稼働されることになり,端末側の利用に制約を受けるという欠点があった(本件公報3欄29行ないし46行目)。
(エ)このように,従来の技術では,車輌の登録から新たなマスターデータを送り出すまでの様々な制約を排除する点に格別な配慮がされておらず,これらの一連の処理を効率よく行うことができないという問題点があった。
本件各発明は,上記の問題点を解決し,車輌の登録から新たなマスターデータを送り出すまでの一連の処理を効率よく行うことの可能な車輌在庫情報システムを得ることを課題とするものである(本件公報4欄4行ないし12行目)。
イ 本件各発明の構成要件の分説 前記第2の1(3) の「特許請求の範囲」の記載及び本件明細書のその他の記載(特に「課題を解決するための手段」の項。本件公報4欄14行ないし47行目)によれば,本件各発明は次のような構成要件に分説することができる。
(ア)本件発明1 (A)通信手段により複数の端末を接続するセンターに, (B)所定の時間に前記端末を立ち上げこの端末から随時取り込まれた画像・文字情報の登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段と, (C)前記各端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段と, (D)前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後前記端末を再度立ち上げ,この端末に前記新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輛情報配信処理手段とを備えた (E)車輌在庫情報システム (イ)本件発明2 (F)通信手段によりセンターと複数の端末とを接続し, (G)前記各端末は前記センターから更新作成されるマスターデータを前記通信手段を介して記憶する書替え可能な第1の端末側記憶手段と, (H)画像・文字情報を取り込む端末側入力手段と, (I)この端末側入力手段により取り込まれた画像・文字情報を登録データとして記憶する第2の端末側記憶手段と, (J)前記第1の端末側記億手段に記憶されたマスターデータから車輌の検索を行う車輌検索処理手段とを備えるとともに, (K)前記センターは,所定の時間に前記端末を立ち上げ前記第2の端末側記憶手段に記憶された登録データを吸い上げた後該端末の電源をオフする吸い上げ処理手段と, (L)前記端末の電源がオフしているときに,該各端末より集められた登録データとマスターデータとの比較結果に基づき新たなマスターデータを作成処理する車輌情報マッチング処理手段と, (M)前記車輌情報マッチング処理手段で新たなマスターデータを作成した後,前記端末を再度立ち上げ,前記第1の端末側記憶手段に新たなマスターデータを送り出した後該端末の電源をオフする車輌情報配信処理手段とを備えた, (N)車輌在庫情報システム ウ 「前記端末を(再度)立ち上げ……該端末の電源をオフする」の要件について(構成要件(B),(D),(K),(M)参照) (ア)「電源をオフする」の意義について 省電力状態の種類としては,「スリープ」「ソフトオフ」「機械的オフ」といったものや,「Doze Mode」「Standby Mode」「Suspend Mode」といったものがある。しかし,一般に「電源をオフする」という場合には,国語の通常の用法としては,電源を切断すること,すなわち「機械的オフ」を意味するのが通常というべきである。そして,この点に関しては,現に,「遠隔電源制御装置」に関する発明に係る公開特許公報(特開昭52-79841号。乙45)には,「特許請求の範囲」が「主端局から送られ,従端局で処理されるデータを変調した搬送波をデータ受信キャリア検出回路で検出した信号を入力し,リレーを駆動させるリレー駆動回路及び前記従端局と前記従端局に電流を供給する供給電源との間にあって,前記リレー駆動回路により開閉するリレースイッチ回路を含み,前記搬送波の有無により前記データの情報処理を行なう従端局の電源を投入切断しうることを特徴とする遠隔電源制御装置」という発明が開示されているところ,「発明の詳細な説明」の欄には,「本説明は通信回線を介して接続される主端局装置と従端局装置がデータ通信システムを構成する時,主端局装置が従端局装置の電源をON-OFF制御する遠隔電源制御装置に関する。」「センタシステムから無人の端末装置の電源をON-OFFする事により人件費の節約および必要な時期に必要な時間だけ端末装置を運転し消費電力の節約が計れて非常に経済的である。」「この発明の目的は……通信回線を介して主端局装置から従端局装置の電源ON-OFF制御できると共に通信回線の切断を検出し,自動的に従端局装置の電源OFFを行なえる経済的で安価な遠隔電源装置を提供する事にある。」と記載されているものである。これらの点に照らせば,「電源をオフする」の語の本来の意味は,「機械的オフ」すなわち,電源を切断することのみを指し,スリープ状態ないしサスペンド状態はこれに含まれないと解するのが相当である。
そうすると,本件発明1の構成要件(B),(D),本件発明2の構成要件(K),(M)にいう「電源をオフする」の意義についても,「機械的オフ」,すなわち端末装置への電力の供給を遮断して,完全にその機能を停止させることを意味するものと解すべきである。
これを前提に被告システムについて検討すると,原告目録1,2を前提にしても,被告システムは稼働状態にある端末を微弱な電流が流れているスリープ状態ないしサスペンド状態にするものであって,上記の意味での「電源をオフする」ものではないから,本件各発明の上記各構成要件を充足しないことが明らかである。
(イ)被告システムと省電力状態への移行の有無について 上記のとおり,被告システムは電源を「機械的オフ」するものではなく,したがって「電源をオフする」ものということができないから,本件発明1の構成要件(B),(D),本件発明2の構成要件(K),(M)を充足せず,この点において,既に本件各発明の技術的範囲に属しないものということができるが,これに加えて,以下に説示する点に照らしても,被告システムは本件各発明の技術的範囲に属しないというべきである。
すなわち,原告らは,原告目録1,2記載のとおり,被告システムは端末を省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)にするものであると主張するが,本件全証拠によってもこの事実を認めることはできず,かえって,証拠によれば,以下のとおり,被告システムでは各端末が省電力状態にならないように設定されていることをうかがわせる事情が存在する(認定に用いた証拠を末尾に掲げる。)。
a 被告システムを利用している有限会社カーパルコにおいて稼働中の「WIFE」WINDOWS版では,WINDOWSの省エネモードは利用されておらず,BIOS上の省電力モードは「USER DEFINED」(顧客の側で省電力モードに設定することは可能であるが,それまではディフォルトの状態)に設定されている。その他の被告の顧客に納入されている他メーカーの製造に係る「WIFE」WINDOWS版の機器では,BIOS上の省電力モードは出荷の状態で「DISABLED」(無効)になるように設定されている。(乙33,38) b 被告作成の「WIFE for Windows」と題する「WIF E」WINDOWS版の簡易マニュアルには,「パソコン(Windows95)の終了作業」,「パソコン(Windows95)が止まったら」の各項目に「コンピュータが,日中・夜間常時作動していますのでコンピュータに負担が多くかかります。」との記載がある。(乙32) c 被告作成の「Wife for Windows 操作マニュアル Ver.1.0」と題する「WIFE」WINDOWS版の操作マニュアルには,スクリーンセーバーの項目に「※『メインメニュー』で,1分以上,マウスやキーボードの操作を行わないでいると,スクリーンセーバーが立ち上がり,在庫車輌画像を順番に表示しだします。」との記載がある。(乙31) d 被告システムを利用している有限会社カーパルコ,有限会社オートフレンドにおいて平成11年秋ころまで使用していた「WIFE」DOS版について,両者の責任者は,退社時に従業員がパソコン本体の電源を切ることはなく,また夜間に自動的にパソコンの電源が立ち上がることもなかったと記憶している。(乙33,38) 以上によれば,被告システムでは端末が省電力状態になるように設定されているという事実を認めることは困難である。
(ウ)省電力状態への移行の仕組みについて 加えて,原告らは,原告目録1,2において,被告システムの「センターシステム」又は「グループセンター」が各端末を省電力状態にしていると主張するが,このような事実は認められず,この点からしても,被告システムが本件各発明の構成要件を充足しないことは明らかである。
すなわち,本件各発明の出願時に公知であった「コンピュータ用の電源制御装置」に関する発明に係る公開特許公報(特開平5-35372号。公開年月日平成5年2月12日。乙46)には,「センタからの指示によりコンピュータの電源を投入し,コンピュータの指示により遮断するようにする。」という目的の発明が開示されているところ,上記公報には従来技術として「コンピュータと通信回線との間に介在するモデムを利用して,コンピュータの電源を投入,遮断するシステム」が示されている。そうすると,本件各発明の出願時の技術常識としては,センターからの指示により端末の電源をオフする方法と端末自身が電源を処理する方法とが知られており,上記公開特許公報の発明及び本件各発明は,いずれもセンターからの指示により端末の電源をオフする方法を採用した点に特色があるといえる。
よって,本件各発明の構成要件(B),(D),(K),(M)にある「端末の電源をオフする」行為の主体は「センター」であると解釈すべきである。
これを被告システムについてみると,被告システムはパソコンを用いたものであることころ,パソコンにおいて省電力状態(スリープ状態ないしサスペンド状態)への移行はパソコン自体が一定の期間インターフェースを通じた入力がないことを判断して行うものであることは一般の技術常識であるから,パソコンを端末に用いた被告システムにおいて,省電力状態に設定することができるのはコンピュータ自身である。
したがって,仮に被告システムの各端末が省電力状態になるように設定されていたとしても,「センター」又は「グループセンター」が各端末を省電力状態にするものではないから,被告システムが前記各構成要件の「端末の電源をオフする」という文言を充足しないことは,明らかである。
(エ)まとめ 以上によれば,被告システムが本件各発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。
2 原告らの文書提出命令,文書送付嘱託の各申立てについて なお,原告らは被告システムに関するシステム仕様書について文書提出命令を,被告システムにおけるリモート電源(RP-20)についてのサポート状況を示す書類一切について文書送付嘱託をそれぞれ申し立てている。
上記申立書によっても,当該文書と立証事項の関連は必ずしも明らかでないが,上述のとおり,被告システムが本件各発明の構成要件(B),(D),(K),(M)にある「端末の電源をオフする」との点を充足するものでないことは明らかであって,仮に当該文書を取り調べたとしても,原告ら主張のように被告システムが本件各発明の技術的範囲に属すると認める余地は全く存しない。加えて,当審における本件の審理経過においては,被告は,本件訴訟の審理の早期に原告らの当初の訴訟代理人(弁論終結前に辞任し,その後に現在の訴訟代理人が選任された。)及び原告らの関係者に対し,被告システムを実際に用いている中古車販売業者の営業店において被告システムの作動状況を検証する機会を与えていること(当裁判所に顕著である。)に加えて,被告システムについて,物件目録の対案(被告目録1ないし4)を示す形で自己の行為の具体的な態様を明らかにしている(特許法104条の2参照)。これらの点に照らせば,原告らの文書提出命令,文書送付嘱託の各申立てについては,その必要性が認められず,採用することはできない。
3 まとめ 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 三村量一
裁判官 村越啓悦
裁判官 和久田道雄