関連審決 | 審判1991-753 |
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関連ワード | 反復(反復可能性) / 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 29条の2(拡大された先願の地位) / 出願公開 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 抵触 / 参酌 / 不存在 / 特許発明 / 加工 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 取消判決 / 判決の拘束力 / |
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事件 |
平成
10年
(行ケ)
267号
審決取消請求事件
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原告A 訴訟代理人弁護士 鈴木修 同 矢部耕三 同弁理士 伊藤茂 被告 エヌ・ディ・シー株式会社 訴訟代理人弁護士竹内裕詞 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/05/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成3年審判第753号事件について平成10年4月10日にした審決のうち,「特許第1088393号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第6項に記載された発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,発明の名称を「複合シートによるフラッシュパネル用芯材とその製造方法」とする特許第1088393号の特許(昭和52年12月29日出願,昭和56年7月20日出願公告,昭和57年3月23日設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。 (2) 被告は,平成3年1月14日,本件発明は特許法29条の2,同29条2項,同36条5項に該当し特許を受けることができないとして,これを無効とすることについて審判の請求をし,特許庁は,同請求を平成3年審判第753号事件として審理した結果,平成4年11月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(以下「前審決」という。)。被告は,前審決の取消しを求めて当庁に訴えを提起した。当庁では,これが平成5年(行ケ)第13号事件(以下「前件訴訟」ということがある。)として審理され,平成7年7月11日,前審決を取り消す旨の判決がなされた(以下「前判決」という。)。原告は,これを不服として上告したものの,平成9年7月3日,上告棄却の判決を受け,前判決が確定した。 (3) 特許庁は,平成3年審判第753号事件を更に審理したうえ,平成10年4月10日,「特許第1088393号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第6項に記載された発明についての特許を無効とする。特許第1088393号発明の明細書の特許請求の範囲第7項,第8項に記載された発明についての審判請求は,成りたたない。」との審決をし(以下「本件審決」という。),同年7月29日,原告にその謄本を送達した。 2 特許請求の範囲(第1項) 「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由坦持状態にあるように互い違いにずらして接着されていることを特徴とする複合シートによるフラッシュパネル用芯材。」(以下,特許請求の範囲の第1項に係る特許発明を「本件第1発明」という。別紙図面(1)参照) 3 本件審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
本件審決の理由中,2頁2行ないし6頁17行(発明の要旨及び手続の経緯)は認める。請求人(原告)の主張(1)(特許法29条1項に係る主張)に対する認定判断のうち,9頁2行の「先願発明において」ないし8行,10頁10行ないし17行,12頁15行ないし13頁12行,14頁18行ないし20頁4行,20頁5行ないし21頁1行を争い,その余を認める。 本件審決は,本件第1発明の進歩性判断の前提として,昭和52年特許登録願第82353号の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下,両者を併せて「先願明細書等」という。昭和54年特許出願公開第17983号公報(甲第3号証)参照)に記載された発明(以下「先願発明」という。)について検討するに当たり,@先願明細書等には,ペーパーコア用シートとして「クラフト紙等の丈夫な方形の紙」としか記載されていないにもかかわらず,特公昭29-2200号公報(本訴の甲第4号証,審決の甲第9号証。以下「甲第4号証刊行物」という。)から,本件出願当時,「段ボール」等をフラッシュパネル用芯材とすることが当業者に周知であったと認定し,この認定と特公昭50―24534号公報(本訴の甲第5号証,審決の甲第3号証。以下「甲第5号証刊行物」という。)とから,本件出願当時,フラッシュパネル用芯材の技術分野で,その芯材を「複合シート」とするものは周知であったと認定し,その結果,先願発明は,芯材として「複合シート」を用いることが技術的に自明であったと認定し(取消事由1),Aそのうえ,先願明細書等には,糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されていることを当然の前提として,本件第1発明にいう「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネル用芯材」との構成が記載されていると認定したが(取消事由2),上記各認定は,すべて誤っているものである。そして,このように先願発明の認定を誤った結果,本件第1発明と先願発明との相違点を看過し,進歩性の判断を誤るに至っているのであり,本件審決の結論に重大な影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は取消しを免れない。 1 取消事由1(先願発明に「複合シート」の記載があるとの誤認) (1) 本件審決は,本件出願当時,フラッシュパネルにおいて,「段ボール」等を芯材とするものが当業者に周知であったと認定するが(審決書10頁10行〜17行参照),この認定は誤っている。 (イ) 当業者に周知な技術とは,当該技術分野において一般的に知られている技術であって,より具体的には,相当多数の公知文献が既に存在するか,業界に知れ渡るか,あるいは例示する必要がないほどよく知られているか,のいずれかの技術をいうのである。ところが,「段ボール」をフラッシュパネル用芯材の素材として使用することについて記載された文献は,審決において引用した甲第4号証刊行物(特公昭29-2200号公報)以外に全く示されていない。したがって,同刊行物により,「段ボール」を素材として芯材とすることが先願発明より約23年も前に公告されていたとしても,直ちに,このような素材を用いることが「当業者に周知」であったとはいえない。また,23年前の文献しか示せないということは,逆に23年間いずれの文献にも記載されたことがないことを端的に示しているというべきであろう。これほどまでの長期間にわたって,段ボールはフラッシュパネル用芯材としては省みられていなかったのである。このような素材が,当業者にとってフラッシュパネルの芯材として「自明」なものであるはずがない。 さらに,甲第4号証刊行物においては,芯材としての段ボールが示されているというより,樹脂を含浸させるための素材としての段ボールが示されているにすぎないのであり,しかも,いったん,段ボールに樹脂を含浸してしまえば,芯材としての強度は得られるものの,もはやこれを折り畳むことは不可能である。したがって,同刊行物が,樹脂を含浸させることを予定しない「芯材」として,段ボールを使用することを開示している,とすることはできない。 (ロ) 甲第5号証刊行物においては,「樹脂含浸のクラフト紙」又は「金属,合成樹脂材」のほかに芯材の素材として記載されているのは,「ボール紙その他の紙質の資材」のみであり,「段ボール」紙は,ここにいうような「ボール紙その他の紙質の資材」には当たらない。また,同刊行物には,その他,「段ボール」等といった一定の堅牢性を有する「複合シート」については全く記載されていない。また,同号証の技術においては,補強材が挿通されることを前提としていて,シートそのものの強度は何ら問題とされておらず,かえって,「段ボール」などよりももっと薄い層を形成することが求められているといってもよいのである。 本件審決は,甲第5号証刊行物の記載から,先願発明の出願当時,「布帛に紙を添着したものも材料として可能であると考えられていたことが認められる」(審決書12頁末行〜13頁2行)とし,この認定から直ちに,金網に紙を添着したものや布帛に紙を添着したものが複合シートに該当するから,先願発明の出願当時において,フラッシュパネル用芯材の技術分野で,その芯材を複合シートとするものは周知であったと結論づけるが,その論理には飛躍がありすぎ,失当である。 (2) 本件審決は,本件出願当時の当業者にとって,先願明細書等の記載内容は,本件第1発明でいう「複合シート」が記載されているに等しいものであった旨認定しているが(13頁13行〜16頁8行),この点でも誤っている。 審決の上記認定は,先願発明にいう「ペーパーコア用シート」が,「折目」を設けるものであり,さらにこの折目に「ミシン目穴を多数形成する」ものであることを看過してなされたものである。 先願発明の特徴は,その構造にある。そのため,そこでは,材料には重点が置かれておらず,材料については「クラフト紙等の丈夫な方形の紙を多数枚用意する」との記載があるのみである。ところが,本件審決は,この「クラフト紙等の丈夫な方形の紙」が,当業者からみると,クラフト紙を例示とする同分野で慣用されているシート材のすべてを包含することになるとし,その結果,「複合シート」をシート材とすることが技術的に自明であったとしているのであって,論理が飛躍しており,失当である。 結局,先願明細書等に,シート材の素材としては,「クラフト紙等の丈夫な方形の紙」という記載しかない以上,先願発明の出願当時,当業者は,同発明のシート材の素材を,「クラフト紙」及びそれと同程度に「丈夫」な「紙」としか理解し得なかったものというべきであり,先願明細書等に,先願発明の,シートとして複合シートが記載されているに等しい,とした本件審決の認定は,先願発明出願当時の技術常識を看過してなされた違法なものである,というしかないのである。 (3) 被告は,前判決において,原告主張の上記事項につき既に判断がなされ,これが確定しており,本件審決の認定判断は,その拘束力を前提としてなされたものであるから,何ら違法とすべき事由はない旨主張するが,同主張は,行政事件訴訟法33条1項を不当に拡大して解釈するものであって誤りである。 (イ) 行政処分の取消判決の効力は,取消判決本来の形成力の作用そのものではない。それを補完して原告の権利救済を実行あらしめるために認められた特殊な効力である。したがって,その目的としては,取消判決の主文を導くのに不可欠な主要事実について裁判所がなした具体的な認定・判断の限りで生じるものである。そのため,判決中の傍論や主要事実を認定する過程での間接事実についての認定判断については,いかに明示的に説示されていても,これについて拘束力が生じることはない。また,主要事実を認定する過程において,審理・認定されるべきにもかかわらず全く看過され,あるいは遺漏のあった事実についてまで,このような拘束力が及ぶべきではないことも,その効力の趣旨からして当然といわなければならない。 (ロ) そもそも,特許法上,特許権の有効性の判断は,特許庁の専権に属するものであり,審決取消訴訟における審理対象は,特許庁のなした判断の当否に限定されるものであって,これを超えて裁判所が特許権の有効性を直接判断することが許されるわけではない。したがって,審決取消訴訟における主要事実は,特許庁のした審決の当否であり,より具体的には,審決の判断が,審判において提出された証拠に基づくものとして妥当であるか否かという点である。無効審判請求事件につき,これを否定した審決についていえば,審決が無効請求を否定した理由が,提出された証拠から是認し得るか否かという点である。したがって,審決取消訴訟において無効請求を否定した審決の判断が違法とされたということは,単に,審判において提出された証拠に基づく限り審決の認定では無効理由を否定しきれない,ということを意味するだけであり,対象となる特許権について無効理由が存在することが確定されるものでないことは当然である。なぜならば,審決取消訴訟においては,無効理由の有無自体が審理の対象となるのではなく,無効理由の不存在を認定した審決の理由の当否こそが審理の対処となるからである。 2 取消事由2(先願発明に糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されているとの誤認) 本件審決は,先願明細書等には,糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されていることを当然の前提として,「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネル用芯材」が記載されていると認定したが,この認定は誤っている。 (1) 先願明細書等の第4図は,「複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネル用芯材」との技術が記載されていることの根拠とはなり得ない。 (イ) 甲第7号証(特開昭50-27876号公報)に記載されている技術は,先願明細書等に記載されている芯材と同一形状のシートを使用していないにもかかわらず,その第5図に示されるように,上記第4図のそれと酷似した平面形状を呈している(別紙図面(2)の第4図及び別紙図面(3)の第5図参照)。したがって,先願明細書等の第4図から,「同一形状のシートを並列かつ相互に接着してセル構造を形成した芯材が示されている」との結論を導くことはできない。 (ロ) また,先願明細書等の第4図(別紙図面(2)参照)においては,最上層シート(第1枚目)の上向きの折目を基準にしてみた場合,第2枚目の上向きの折目は「右」にずれているといえるものの,第3枚目の上向きの折目は,第2枚目の上向きの折目に対し,「左」にずれている。したがって,その最上層シートを第1枚目と考えると,審決のいうように第2枚目以下の上向きの折目が右側へ,右側へとおおむね2分の1だけずれて形成されているとはいえない。したがって,上記第4図の形状は,先願明細書等の特許請求の範囲の欄の「以下上記の工程により第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のぺーパーコア用シートの糊代部に接着してなる」との記載と矛盾している。 (ハ) さらに,先願明細書等の第4図の最上層(第1枚目)のシートの上向きの折目に対し,第2枚目の上向きの折目を右にずらして接着したと仮定して,第2枚目の先を図の左へ辿っていくと,上向きの折目が全く重なり,第1枚目と第2枚目が完全に重なって接着されていると考えざるを得ない辺がある。つまり,第4図の第2枚目以下には,どうしても自由担持部分を持たず,全面で重なる辺が生じてしまう。また,第2枚目,第3枚目,第4枚目と重ねてみていくとすると,いかなる観点からみても,第2枚目,第3枚目,第4枚目等のいずれにも属さない部分すら生じる。この点でも,先願明細書等の特許請求の範囲の欄の記載と矛盾する。 (2) 先願明細書等の第2図に従ってペーパーコア用シートを積み重ねていくと,到底,第4図のような構造を作り出すことはできず,全く伸張不能な芯材を得ることしかできないことになる。 先願明細書等の図面においては,その第1図ないし第3図によって,先願発明に係るペーパーコア用シートの正面図,平面図等を示し,発明の詳細な説明の欄においては,第2図に関して,「これらのペーパーコア用シート1の多数枚のうち第2図に示すようにその第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着剤を塗布し,第2枚目のペーパーコア用シート1bの多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着する」(2頁左上欄14行〜右上欄8行)と記載され,具体的なずらし方としては,「第1枚目のペーパーコア用シート1aに対して第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返して引き揃えた上接着しさえすればよい」(2頁右下欄5行〜7行)と記載するのみである。第2図及び上記記載に従ってペーパーコア用シートを順次積み重ねていくと,積み重ねられたペーパーコア用シートの糊代部は,全く一直線に重なってしまい,フラッシュパネル用芯材として伸張できないばかりか,第4図における糊代部の位置とは全く齟齬するものが形成されることになる。したがって,先願明細書等の第4図は,同図以外の図面(第1図ないし第3図)と整合性を有していない矛盾に満ちたものである。 本件審決は,このように矛盾に満ちた先願明細書等の第4図にのみに依拠し,他の図や明細書の詳細な説明の項の記載を無視し,先願発明の内容を把握しているのであって,このようなことは,許されるものではない。先願明細書等から,「互い違いにずらして接着されている複合シート」との技術を読み取ることができ,本件第1発明と先願発明とは同一であるとした本件審決の認定判断は,明白な誤りを犯したものといわざるを得ない。 (3) 被告は,前判決は,特許法29条の2該当性を審理対象としており,先願発明と本件第1発明の構成は同一であると認定しているのであるから,前判決の確定により,関係当事者は,先願発明と本件第1発明との同一性について争うことができない旨主張するが,失当である。仮に,確定した前判決の拘束力が原告の取消事由1に係る事項に及ぶと認められたとしても,それが,先願発明と本件第1発明との同一性一般に及ぶなどということはあり得ない。 本件において,前審決は,被告の29条の2違反の主張に対し,先願明細書等のフラッシュパネルの芯材として記載されている「クラフト紙等の丈夫な紙」は複合シートを含むものでなく,また,複合シートをコア材料として用いることが当業者にとって自明でないとの判断をして,本件第1発明の構成要件のうち,芯材の材料に関するものについて検討し,先願発明にはそれが欠けているとして,それだけを根拠に,被告の主張を退けたものであって,本件第1発明のその他の構成要件については全く判断をしていない。つまり,前審決は本件第1発明の構成要件のうち,最も重要なシートの貼合せに関する構成については,これが先願明細書等に記載されているともいないとも判断していない。したがって,前件訴訟においても,審理の対象は,特許庁のなしたフラッシュパネルの芯材の材料についての審決の認定の当否であり,当事者の主張もその点に集中されていたのであって,当然のことながら,前判決の判断内容も,特許庁がなした,フラッシュパネルの芯材の材料の相違についての判断を,特許庁が参酌した証拠に基づいて,違法としたことに尽きるものである。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(先願発明に「複合シート」の記載があるとの誤認)について 審決を取り消す判決には,行政事件訴訟法33条1項の規定の適用がある。 したがって,その判決は,その事件について,当事者たる行政庁である特許庁を拘束するから,更に審理を行う審判官は,再度の審決をするに当たって,判決の理由中の判断において否定された前審決と同一の理由により前審決と同一の判断をすることは許されない。すなわち,取消判決の理由中の判断に拘束される。確定した前判決は,特許法29条の2該当性を審理対象としており,@先願発明と本件第1発明の構成は同一である,A先願発明の出願時において,フラッシュパネル用芯材として「複合シート」(「段ボール」を含む。)を利用することは当業者にとって周知であった,B先願発明に「複合シート」が記載されているに等しい,などと認定しているのであるから,これを受けてなされた本件審決は,上記判決のA及びBの認定に反する判断をすることは許されない。本件審決は,前判決の認定に従ってなされたものであり,正当である。 2 取消事由2(先願発明に糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されているとの誤認)について (1) 原告は,本件審決が,先願明細書等には糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されていることを当然の前提として,先願発明を認定したことを,誤りであると主張する。 しかし,前述したとおり,前判決は,特許法29条の2該当性を審理対象としており,先願発明と本件第1発明の構成は同一であると認定しているのであるから,前判決の確定により,関係当事者は,先願発明と本件第1発明とに同一性が認められることについて争うことができなくなったのであり,この拘束力に従ってなされた本件審決につき,更に先願発明と本件第1発明の同一性について争うことはできないというべきである。このように解さないと,同一の引用例に関して,無効審判及び審決取消訴訟を際限無く続けられることとなってしまい不都合である。 (2) 仮に上記主張が認められないとしても,先願明細書等には,糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されており,そこから,「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されていることを特徴とする複合シートによるフラッシュパネル用芯材」との構成を読み取ることができる。 (イ) 原告は,甲第7号証(特開昭50-27876号公報)の第5図を挙げ,同図には,先願明細書等の第4図と酷似した平面形状を呈しているものが掲載されているから,上記第4図から,「同一形状のシートを並列かつ相互に接着してセル構造を形成した芯材が示されている」との結論を導くことはできない旨主張する。 しかし,上記第4図を中心に,先願明細書等のこれに関連する記載部分や同図以外の図面をも併せて検討すれば,第4図は,各層の左端から右端までが一つのシートであり,これらのシートが同一形状をしているものであることを容易に理解することができるのであり,したがって,先願発明の芯材の構成についても,容易に読みとることができるのである。 (ロ) また,原告は,先願明細書等の第4図においては,最上層シート(第1枚目)の上向きの折目を基準にしてみた場合,第2枚目の上向きの折目は右にずれているといえるものの,第3枚目の上向きの折目は,第2枚目の上向きの折目に対し,「左に」にずれている,したがって,その最上層シートを第1枚目と考えると,審決のいうように第2枚目以下の上向きの折目が右側へ,右側へとおおむね1/2だけずれて形成されているとはいえないとし,第4図の形状は先願明細書等の特許請求の範囲の欄の「以下上記の工程により第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のぺーパーコア用シートの糊代部に接着してなる」との記載と矛盾している旨主張する。 確かに,最上層シートを第1枚目と考えると,本件審決が,第2枚目以下の上向きの折目が右側へ,右側へとおおむね1/2だけずれて形成されている,としたのは,誤っている。しかし,これは単なる誤記という程度のものであり,審決の認定の正しさを左右するものではない。 本件審決が,先願発明で第3枚目のシートが第2枚目のシートに対して,どちら側にどれだけずれているかを検討しているのは,「シートが互い違いにずらして接着されている」という本件第1発明の構成と対比をするためにすぎない。本件審決は,本件第1発明と先願発明の構成が同一であるかどうかを検討するに当たって,「互い違いにずらして接着されている」と記載すべきところ,誤って,すべて「右側に」(審決書17頁)と記載してしまったのである。これが単なる誤記にすぎないことは,本件審決が,結論部分で,「互い違いにずらして接着されていることは明らかである」(審決書18頁末行)と認定していることからも明らかである。 (3) 原告は,本件審決は,矛盾に満ちた先願明細書等の第4図のみに依拠し,他の図や明細書の詳細な説明の項の記載を無視し,先願発明の内容を把握している旨主張するが,失当である。 先願明細書等の明細書の文言及び他の図を併せ見れば,第4図は,各層の左端から右端までが一つのシートでなり,これらシートが同一形状をしていることは容易に知ることができるというべきであり,したがって,先願発明の芯材の構成も容易に読みとることができるというべきである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(先願発明に「複合シート」の記載があるとの誤認)について (1) 原告の取消事由1に係る主張は,確定した前判決による拘束力の及ぶ事項について,本訴において再度これを蒸し返えそうとするものであって,そもそも,本訴における本件審決の取消事由とはなり得ないものである。すなわち次のとおりである。 (2) 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は,特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることになり,その際,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶこととなる。そして,この拘束力は,判決主文のみならず,判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対しても及ぶものと解すべきであるから,審判官は,上記事実認定及び法律判断に抵触する認定判断をすることは許されないことになる(最高裁判所昭63(行ツ)10号平成4年4月28日第3小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。 (3) 証拠(乙第1号証,第2号証)及び弁論の全趣旨によれば,前判決が確定するまでの経緯は,次のとおりである。 (イ) 被告は,平成3年1月14日,本件第1発明が特許法29条の2,同29条2項,同36条5項に該当して特許を受けることができないものであるとして,これを無効とすることについて審判の請求をし,特許庁は,同請求を平成3年審判第753号事件として審理し,平成4年11月25日,@本件第1発明においては,複合シートを利用することがその構成要件の一つとされているのに,先願明細書等には複合シートについて何ら記載はなく,複合シートを利用することが先願発明において自明ともいえないから,本件第1発明と先願発明とは同一ではない,A本件第1発明と昭和50年特許出願公開第27876号公報に記載された技術とは,その構成を異にするから,複合シートの材質が同じであっても,これをもって,当業者が後者から前者を容易に発明することができたとはいえない,B「芯材に使用するシートに対し,その材質によって必要となる加工をすること」は,技術常識に従って行うのが当然のことと考えられるから,特許請求の範囲にその記載がないからといって,特許請求の範囲に記載不備があるとはいえない,との理由で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(前審決)。 (ロ) 被告は,前審決の取消しを求めて当庁に訴えを提起し,当庁は,これを平成5年(行ケ)第13号事件(前件訴訟)として審理した結果,平成7年7月11日,次のとおり認定判断し,前審決を取り消した(前判決)。 @ 被告(前件訴訟の原告)は,複合シートをコア材料として用いることが先願発明において自明のことであると認めることもできない,とした前審決の判断は誤りである旨主張する。 A 段ボールが本件第1発明にいう「複合シート」に含まれることは,当事者間に争いがない。 B 先願発明は,べーパーコアによる芯材に関するものであるから,本件第1発明のフラッシュパネルと対象物品を共通にするものであり,また,先願発明においてはぺーパーコア用シートとして「クラフト紙等の丈夫な方形の紙」を用いることは明らかであるものの,先願明細書等を精査しても,クラフト紙以外に具体的にどのようなものを用いるかについては記載がないので,複合シートを含むか否かはその記載自体からは明らかでない。 C 昭和29年特許出願公告第2200号公報(甲第4号証)においては,本件第1発明や先願発明と同じ種類の物品であるフラッシュパネルにおいて,芯材を段ボールとしたものが示されているということができる。そして,同刊行物が先願発明の出願時より約23年も前に刊行されたものであることを考えれば,この記載事項は先願発明の出願時に,当業者に周知のことであったと認められる。 D 昭和50年特許出願公告第24534号公報(甲第5号証)によれば,甲第4号証に記載された技術における段ボール,甲第5号証に記載された技術における金網に紙を添着したものや,布帛に紙を装着したものは,本件第1発明における「複数の板材が層をなして接着されかつ一定の厚みを有する」という「複合シート」に相当するものということができ,そうすると,先願発明の出願時において,本件第1発明と同じフラッシュパネル用芯材の技術分野で,その芯材を複合シートとするものは周知であったと認められる。 E 上記C及びDによれば,当業者が先願発明をみた場合,その材料として,「クラフト紙等の丈夫な方形の紙」を1例とするような,従来のこの分野,すなわち,ぺーパーコアの芯材の分野で材料として慣用されているシート材を,おのずから想起するというべきである。しかも,先願発明は,芯材が抗圧性を有することも目的の一つとしているから,フラッシュパネル用芯材として周知であって,抗圧性の点でも有利であることが自明である「複合シート」について,当業者は,先願発明の材料として当然これを用いることができると理解するというべきである。 F そうすると,先願発明においては,芯材として,複合シートを用いることが技術的に自明であるというべきである。したがって,複合シートをコア材料として用いることが,先願発明において自明のことであると認めることもできないとした審決の判断は誤りであり,この誤りは,本件第1発明と先願発明は同一ではないとした審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,審決は,違法として取消しを免れない。 (ハ) 原告は,これを不服として上告したものの,平成9年7月3日,上告棄却の判決を受け,判決が確定した。 (4) 上記認定の事実によれば,本件第1発明は,複合シートを利用することが要件とされているのに,先願明細書等には複合シートについて何ら記載はなく,先願発明において複合シートを利用することが自明ともいえないから,本件第1発明と先願発明は同一とは認められない,との前審決の認定判断に対して,前判決は,先願発明においては,芯材として,複合シートを用いることが技術的に自明であると認定し,同認定を前提として,複合シートをコア材料として用いることが,先願発明において自明のことであると認めることもできないとした審決の認定判断は誤りであると判断したことが明らかである。そして,上記の,先願発明においては,芯材として,複合シートを用いることが技術的に自明である,との認定をするに当たって,先願発明の出願時において,本件第1発明と同じフラッシュパネル用芯材の技術分野で,その芯材を複合シート(段ボール)とするものが周知であったこと,先願発明において,当業者がこれをみた場合,その材料として,当然に「複合シート」を用いることができると理解すること,を認定しているのであるから,上記事実は,取消判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定であったことが明らかである。そうすると,確定した前判決の拘束力は,上記事実認定に及ぶことが明らかである。 (5) 本件審決が,上記拘束力に従って,本件出願当時,「段ボール」等を芯材とするものが「当業者に周知」であったと認定し,また,本件出願当時,当業者が,先願発明には,本件第1発明でいう「複合シート」が記載されているに等しいと認定したものであることは,審決の記載自体から明らかであり,原告は,この認定について,違法であるとして非難することはできないのである。 取消事由1に係る原告の主張は,失当である。 2 取消事由2(先願発明に糊代部の位置が当業者に読み取れる程度に記載されているとの誤認)について (1) 被告は,原告主張の取消事由2もまた,前判決の確定によって争うことができない旨主張するが,失当である。 前述したとおり,前判決は,先願発明においては,芯材として,複合シートを用いることが技術的に自明であると認定し,同認定を前提として,複合シートをコア材料として用いることが先願発明において自明のことであると認めることもできない,とした審決の認定判断は誤りであるとの判断はしたものの,先願発明と本件第1発明の構成が同一であるか否かについて,それ以上には何らの認定判断もしていない。 そうである以上,この点について,本件審決が前判決の拘束力を受けることはあり得ない。前審決が,本件第1発明においては,複合シートを利用することがその構成要件の一つとされているのに,先願明細書等に複合シートについて何ら記載はなく,先願発明において複合シートを利用することが自明ともいえないから,本件第1発明と先願発明は同一ではない,と認定判断したのに対して,上記認定判断のうち理由となる部分(甲)を否定してそれに基づいてその結論の部分(乙)を否定したとしても,そこで示された前判決の内容は,甲を理由に乙の結論を導くことはできない,ということに尽き,甲以外の理由で乙の結論が導かれるか否かについては何も述べるわけではないことは,当然であるからである。 (2) 甲第3号証によれば,先願明細書等には,特許請求の範囲の欄に,「(1)一定の間隔により平行な折り目を多数本設け,多数本の折目のうち一本置きの一側に折目に沿って糊代部を形成してなるぺーパーコア用シートを多数枚設け,第1枚目のぺーパーコア用シートの糊代部に接着剤を塗布し,第2枚目のぺーパーコア用シートの多数本の折目のうち一本置きの折目を第1枚目のぺーパーコア用シートの糊代部側の折目に対して糊代部の幅の分だけ一側にかつ平行に位置をずらして第2枚目のぺーパーコア用シートの裏面を第1枚目のぺーパーコア用シートの糊代部に接着し,以下上記の工程により第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のぺーパーコア用シートの糊代部に接着してなるぺーパーコアによる芯材の製造方法。(2)特許請求の範囲第1項において,多数枚のぺーパーコア用シートを接着させた後,一定の幅によりぺーパーコア用シートの折目と直角方向に切断してなるぺーパーコアによる芯材の製造方法。(3)特許請求の範囲第2項において,ぺーパーコア用シートの折目にミシン穴を多数形成してなるぺーパーコアによる芯材の製造方法。」(1頁左下欄12行〜右下欄8行)との記載が,発明の詳細な説明の欄には,「次にこれらのぺーパーコア用シート1の多数枚のうち第2図に示すようにその第1枚目のぺーパーコア用シート1aの糊代部3に接着剤を塗布し,第2枚目のぺーパーコア用シート1bの多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第1枚目のぺーパーコア用シート1aの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして第2枚目のぺーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のぺーパーコア用シート1aの糊代部3に接着する。以下上記の工程を反復して第3枚目以下のペーパーコア用シート1を順次積重さね接着させる。その要領は第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた第2枚目のペーパーコア用シート1bの表面における糊代部3に接着剤を塗布し,ついで第4枚目のペーパーコア用シート1dを上記の第2枚目のペーパーコア用シート1bを第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた場合と同様に多数本の折目3のうち1本置きの折目2を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第4枚目のペーパーコア用シート1dの裏面を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3に接着する。」(2頁左上欄14行〜左下欄6行),「第4図は本発明による芯材を伸張させた状態を示す平面図である。」(3頁右上欄3行,4行)との記載があること,先願明細書等の第4図には,上記記載に従って接着したぺーパーコア用シートを伸張させた状態図が示されていることが認められる。 上記認定の各記載を前提に,先願明細書等の第4図をみると,第2枚目のペーパーコア用シートは,第1枚目のペーパーコア用シートの折目2(上向きの折目)とその折目に一番近い折目2(下向きの折目)との間隔の約2分の1だけ右側にずれており,第3枚目のペーパーコア用シートは第2枚目のペーパーコア用シートの折目2(上向きの折目)とその折目に一番近い折目2(下向きの折目)との間隔の約2分の1だけ左側にずれており,第4枚目以降も,同様にその前のペーパーコア用シートの隣接する折目の間隔の約2分の1だけ右,左の順で交互に一方の側にずれていることが認められる。 以上によれば,先願明細書等には,本件審決が認定したとおり,「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネル用芯材」との構成が記載されていることを優に認めることができる。 (3) 原告は,甲第7号証(特開昭50-27876号公報)に記載されている技術は,先願明細書等に記載されている芯材と同一形状のシートを使用していないにもかかわらず,その第5図に示されるように,先願明細書等の第4図のそれと酷似した平面形状を呈しているから,先願明細書等の第4図から,「同一形状のシートを並列かつ相互に接着してセル構造を形成した芯材が示されている」との結論を導くことはできない旨主張する。 しかしながら,本件審決が,先願明細書等の第4図のみならず,先願明細書等の特許請求の範囲の欄,発明の詳細な説明の欄等をも参酌して,第4図に係る糊代部の位置を認定していることは,本件審決の記載自体から明らかである。したがって,本件審決が,先願明細書等の第4図のみから,「同一形状のシートを並列かつ相互に接着してセル構造を形成した芯材が示されている」との結論を導いたとする原告の主張は,誤った前提に立つものであり,失当である。 また,原告は,先願明細書等の第4図をみると,最上層シート(第1枚目)の上向きの折目に注目すると,第2枚目の上向きの折目は右にずれているといえるものの,第3枚目の上向きの折目は,第2枚目の上向きの折目に対し,「左に」にずれているから,その最上層シートを第1枚目と考えると,審決のいうように第2枚目以下の上向きの折目が右側へ,右側へとおおむね2分の1だけずれて形成されているとはいえない旨主張する。 最上層シートを第1枚目と考えると,本件審決が,第2枚目以下の上向きの折目が右側へ,右側へとおおむね2分の1だけずれて形成されている,としたことが誤っていることは,被告も認めるところである。 しかしながら,前述したとおり,本件で論議されるべきは,先願明細書等に,本件第1発明と同様の「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シートを並列しかつ相互に接着してセル構造を形成したフラッシュパネル用芯材であって,前記複合シートの各辺はそれぞれ概ね1/2の部分が隣接する複合シートと接着され,かつ残りの概ね1/2の部分が自由担持状態にあるように互い違いにずらして接着されている複合シートによるフラッシュパネル用芯材」が記載されているかどうかということであるから,取り上げるべきであったのは,先願明細書等に「概ね等角等辺の山形に屈曲させた同一形状の多数の複合シート」が「互い違いにずらして接着されている」という構成を有するものが記載されているか否かであって,それを判断するに必要な限度を超えて右側にずれているか左側にずれているかまでも検討することは,本来,無用の事柄であったのである。そして,本件審決自体も,結論において,「互い違いにずらして接着されていることは明らかである」(審決書18頁末行〜19頁1行)としているのであるから,本件審決のずれの方向についての上記認定の誤りは,結論に影響するところのない軽微な瑕疵にすぎないということができる。 (4) 原告は,先願発明は,先願明細書等の第2図に従ってペーパーコア用シートを積み重ねていくと,到底,第4図のような構造を作り出すことはできず,全く伸張不能な芯材を得ることしかできないことになるとし,本件審決は,このように矛盾に満ちた先願明細書等の第4図にのみに依拠し,他の図や明細書の詳細な説明の項の記載を無視し,先願発明の内容を把握しているのであって,このようなことは,許されるものではない旨主張する。 確かに,先願明細書等の第2図には,各シートの糊代部3を一直線に重ねた図が示されていることが認められ,このような接着でペーパーコア用シートを重ねると,第4図のような状態に伸張することができないことは明らかであり,第2図と第4図とは両立し得ないものと認められる。 しかしながら,先願発明に係る芯材は,特許請求の範囲の記載からも明らかなとおり,極めて規則的で単純な構造のものであり,接着の工程を終えた後にこれを伸張した状態を示す第4図をみれば,容易にそのことを理解することができるものである。このような場合に,第2図の記載が誤っているとしても,先願明細書等の全体をみれば,当業者であれば,直ちにその誤りに気付いて,同図においても,特許請求の範囲の欄や発明の詳細な説明の欄に記載されているとおり,各シートを接着するに際し「糊代部の幅の分だけ一側にかつ平行に位置をずらす」べきことを理解し,この点に留意して先願明細書等をみることになり,第4図に示される芯材の製造方法を明確に理解することができることが明らかである。 したがって,先願明細書等の第4図を合理的に理解することのできないものということはできず,同図によって先願発明の内容を把握した本件審決の手法には,何らの誤りも見いだすことはできない。 原告の上記主張も,採用できない。 (5) その余の原告の主張も,上述したところに照らし,採用できない。 3 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 阿部正幸 |