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関連審決 審判1997-14507
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  名義変更 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 121号 審決取消請求事件
原告 ビーティージーインターナショナル リミテッド (審決上の表示) ブリティッシュ・テクノロジー・グルー プ・リミテッド
訴訟代理人弁理士 志賀正武
同 船山武
同 渡邊隆
同 村山靖彦
同 藤田考晴
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 森正幸
同 志村博
同 小林信雄
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成9年審判第14507号事件について平成10年11月30日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 ナショナル・リサーチ・デベロップメント・コーポレーションは、昭和63年8月15日(優先権主張、1987年8月14日・英国)、名称を「核磁気共鳴イメージング方法」(平成9年4月1日付け手続補正書により「核磁気共鳴システム及び核磁気共鳴イメージング・システムの波形発生方法」、同年9月29日付け手続補正書により「核磁気共鳴システム」と補正)とする発明について特許出願(特願昭63-203069号)をした。英国公企業であるブリティッシュ・テクノロジー・グループ・ピーエルシーは、1992年(平成4年)1月6日、本件特許を受ける権利を譲り受け、同年3月31日、私企業であるブリティッシュ・テクノロジー・グループ・リミテッドとして再登記され、本件特許を受ける権利承継し、平成4年9月25日、特許出願人の名義変更届を提出したところ、平成9年5月13日、拒絶査定を受けたので、同年8月29日、これに対する不服の審判の請求をし、さらに、平成10年5月27日、原告に商号変更した。特許庁は、同請求を平成9年審判第14507号事件として審理した結果、平成10年11月30日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成11年1月6日、原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付された明細書(平成10年7月17日付け手続補正書による補正に係るもの、以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項(1)に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨 MRI装置内に位置する対象物の限定部分のスピンパラメータマップに従って画像を生成する核磁気共鳴システムであって、
a)定常磁界を維持し、
b)前記限定部分を定義するスピンの薄い断面を選択するための第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加え、
c)エコープレイナー法によって画像を取得するように変調された第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)を加え、
d)前記第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的伸張を与えるために、第2, 3の磁場勾配(Gx,Gy)が加えられている間に第1の磁場勾配(Gz)を加え、
e)このようにして生成された核磁気共鳴信号を検出かつ処理し、
f)処理信号に含まれるデータをスピンパラメータマップに従って表示する、
手段を具備することを特徴とする核磁気共鳴システム。
3 審決の理由 審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、特開昭61-86641号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本件特許出願は拒絶すべきであるというものである。
原告主張の審決取消事由
審決は、本願発明と引用例発明との一致点の認定を誤り(取消事由1)、相違点の判断を誤り(取消事由2)、本願発明の顕著な効果を看過した(取消事由3)結果、本願発明が引用例発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) 審決は、「両者(注、本願発明及び引用例発明)は、・・・b)選択的RFパルスを加え、c)エコープレイナー法によって画像を取得するように変調された第2、3の磁場勾配(Gx,Gy)を加え、・・・の点で一致し」(審決書12頁1行目〜13行目)と認定するが、「選択的RFパルスを加える」点及び「エコープレイナー法を用いる」点は、いずれも引用例に記載がないから、審決の認定は誤りである。
(1) 選択的RFパルスを加える点 本願発明は、MRI装置内に位置する「対象物の限定部分」のみを励起し、それ以外の部分は励起されず妨害信号を発生しないので、鮮明な3次元マップを得ることができ、また、「対象物の限定部分」とは、心臓のような3次元空間を意味する。これに対し、引用例発明では、磁場勾配(Gz)が存在しないので、「対象物の限定部分」ではなく「対象物全体」を励起し、対象物の限定部分以外の部分の妨害信号をも検出してしまい、鮮明な3次元マップを得ることができない。
本願発明では、MRI装置内に位置する「対象物の限定部分」を選択するために、磁場勾配(Gz)が存在する状態で「選択的RFパルス」を加えるところ、
「選択的RFパルス」は、周波数帯域が制限されたRFパルスであることが必須である。なお、「選択的RFパルス」が周波数帯域が制限されたRFパルスであることは、周知の事項であるが、それは、2次元平面の選択についてであって、3次元部分の選択については周知ではない。これに対し、引用例発明では、対象物全体が励起され、選択的RFパルスを用いる必要はないから、引用例の「90°パルスP1」は、周波数帯域が制限されたRFパルスではない。なお、引用例の図3aに「90°パルスP1」の包絡線が矩形波形に画かれており、sinc関数の波形で描かれていないことは、「90°パルスP1」が周波数帯域の制限されないRFパルスであることを示している。
以上のとおり、本願発明の「選択的RFパルス」は周波数帯域が制限されたRFパルスであるのに対して、引用例発明の「90°パルスP1」は周波数帯域が制限されたRFパルスではないので、両パルスが同じものであるとし「選択的RFパルスを加える」点で一致点するとした認定は、誤りである。
(2) エコープレイナー法を用いる点 審決は、「引用例のものも、『エコー共鳴信号は、実線G2及びG4でそれぞれ示した交番傾斜磁場の存在する状態において』サンプリングされるから、NMR映像法におけるエコープレイナー法に属するものである。」(審決書11頁16行目〜末行)と判断し、上記のとおり、エコープレイナー法を用いる点を一致点として認定するが、誤りである。
すなわち、本願発明は、「エコープレイナー法によって画像を取得するように変調された第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)を加え、前記第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的伸張を与えるために、第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)が加えられている間に第1の磁場勾配(Gz)を加え、」との構成により、1回の選択でマップの表示に必要なデータを収集することができ、待機期間を設ける必要がない。また、エコープレイナー法では、データ収集時間が短い上、これをスピン-スピン緩和時間T2よりも小さくすることができる。これに対し、引用例発明では、多数回の待機期間を設けて、その都度、対象物の核スピンを励起する過程、及び共鳴信号を検出する過程を繰り返すこと、待機期間後の準備期間に調整磁場を用いることが必須である。以上のとおり、引用例発明が多数回の待機期間を設けた上その都度励起することを必須とするのに対して、本願発明が一度の励起で足り待機期間を設けないという相違点は、エコープレイナー法を採用するかどうかによるのであるから、「エコープレイナー法によって画像を取得するように」との点は両発明の相違点である。
同様に、本願発明の「第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的伸張を与えるために、第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)が加えられている間に第1の磁場勾配(Gz)を加え」は、「エコープレイナー法によって画像を取得するように」3次元の画像取得をするものであるから、両発明の相違点であり、これを一致点としたことも誤りである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 審決は、本願発明が第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加えるのに対して、引用例発明では核の磁化の歳差運動を生じさせる高周波磁場パルスを加えるとき第1の磁場勾配(Gz)が存しない点を[相違点1]とした上、
「まず、[相違点1]について検討するに、核磁気共鳴信号を得て、それ(注、
「それを」の誤記と認める。)表示するシステムにおいて、検体の特定のxy平面のスライスを行うために、第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加えることは、原審の平成8年8月28日付け拒絶理由通知書にて指摘した特開昭61-13143号公報、特開昭61-234342号公報、特開昭62-88949号公報にも示されているように、この出願前に周知の事項である。従って、検体の特定のxy平面のスライスを行うために、第1の磁場勾配(Gz)を存在させることは、当業者が格別困難なく想到できた事項である。」(審決書13頁14行目〜14頁6行目)と判断するが、誤りである。
(1) 引用例発明は、共鳴信号の検出の段階では対象物の限定部分の共鳴信号を検出するものの、核スピンの選択の段階では対象物の全体を励起する。対象物の限定部分を選択するには、第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加えることが必要であるところ、引用例発明の「90°パルスP1」は選択的RFパルスではないので、仮に、第1の磁場勾配(Gz)を存在させたとしても、対象物の限定部分を選択することはできない。したがって、引用例には、核スピンの選択の段階において対象物の限定部分を選択することの動機付けがない。
(2) 審決が周知の事項であると認定した「検体の特定のxy平面のスライスを行うために、第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加えること」(以下「本件周知事項」という。)は、2次元の画像取得に関するもので、3次元の画像取得に関するものではないから、本願発明の技術分野である3次元の画像取得とは関連のない技術分野の事項である。
(3) 以上のとおり、引用例には、対象物の限定部分を選択することの動機付けがないばかりか、本件周知事項も本願発明と関連する技術分野のものではないから、引用例発明において第1の磁場勾配(Gz)を存在させることは、当業者にとって格別困難なく想到し得たものということはできない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過) 審決は、本願発明が180°パルスを印加することについて明示していないのに対して、引用例発明の実施例にはその記載がある点を[相違点2]とした上、「前記[相違点1]及び[相違点2]での第1発明(注、本願発明)の構成によってもたらされる効果は、引用例及び周知の事項から予測される範囲のものである。」(審決書14頁13行目〜15行目)と判断するが、本願発明の顕著な効果を看過した誤りがある。
(1) 本願発明では、心臓、冠状動脈、呼吸動作を行う胸部などの3次元で動く対象物の限定部分の3次元マップを、短いデータ収集時間でその動きを追跡して得ることができる。また、励起電磁エネルギーを対象物の限定部分にのみ集中的に印加することにより、信号対雑音比の高い共鳴信号を得ることができるとともに、他の部分からの妨害信号も検出しないので、鮮明な画像を得ることができる。
(2) これに対して、引用例発明は、操作が遅く、3次元で動く対象物の3次元スピンパラメータマップを得ようとしても、動きによるぼやけを避けることができず、信号対雑音比の低い信号しか得られない。しかも、不要部分からの妨害信号も検出するので、鮮明な画像を得ることができない。
被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 選択的RFパルスを加える点 原告は、引用例発明の「90°パルスP1」は選択的RFパルスではないと主張するが、磁場勾配(Gz)の存在の有無に関わらず、引用例発明の「90°パルスP1」は本質的に本願発明の「選択的RFパルス」と同じ電気的特性及び物理的特性を有するものであるから、両発明が選択的RFパルスを加える点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
すなわち、引用例(甲第3号証)には、静磁場と傾斜磁場の存在下で、式ωo=γBo…(以下「式(1)」という。)を満たす角周波数の高周波を印加することにより、特定種類の核スピン(特定の核磁気回転比)を選択して励起することができること、また、磁場の強さ(磁場の勾配)を変えることにより、特定種類の核スピンが励起される位置や励起領域の厚さを変えることができることが示されている。ここで、磁場は装置によって定まる特定の値であり、核磁気回転比も選択しようとする核の種類に対応して特定の値に一義的に定まるから、引用例の「90°パルスP1」は、磁場、核磁気回転比及び式(1)により定まる特定の角周波数を有するRFパルスである。一方、本願発明の「選択的RFパルス」も、特定種類の核スピンを励起するものであるから、磁場、核磁気回転比及び式(1)から定まる特定の角周波数を有するRFパルスである。したがって、両者のパルスの間には、パルスの電気的特性及び物理的特性において本質的違いはない。また、「対象物の限定部分」を励起する作用は、磁場勾配が存在する状態で周波数帯域が制限されたRFパルスを加えることによって生ずるのであって、電気的特性又は物理的特性などRFパルスの性状が異なることにより生ずるのではない。
原告は、引用例の「90°パルスP1」は、sinc関数として画かれていないから周波数帯域が制限されていないと主張するが、特開昭61-13143号公報(甲第4号証、以下「周知例1」という。)の第3図、特開昭61-234342号公報(甲第5号証、以下「周知例2」という。)の第1図においても、傾斜磁場の存在下で核スピンの励起領域を限定する周波数帯域が制限されたパルスは、sinc関数として忠実に表現されるのではなく模式的に表現されており、引用例の「90°パルスP1」も模式的に表現されたものである。したがって、パルスの形状を根拠として、引用例における「90°パルスP1」の周波数帯域が制限されていないとする原告の主張は失当である。
(2) エコープレイナー法を用いる点 原告は、引用例発明もエコープレイナー法を用いているとする審決の認定は誤りであると主張するが、引用例発明のパルスシーケンスはエコープレイナー法に属するものであるから、原告の主張は失当である。
本件明細書には、エコープレイナー法の定義がなく、また、待機期間を必要としない1ショット技術であることがエコープレイナー法の要件であるとの記載もない。さらに、出願当初の本件明細書には、エコープレイナー法の性能に関する記載はあるものの、発明を特定する用語としては記載されておらず、平成10年7月17日付け手続補正書において、初めて発明を特定する用語として記載された。
エコープレイナー法の本質は、信号のサンプリング時に傾斜磁場の極性を高速に反転することにより複数のエコーを発生させる点にあり、イメージングの完了までの励起の数やサンプリングする領域が2次元か3次元かには関係がない。一方、引用例の「交番Gx傾斜磁場(実線G2)」及び「交番Gy傾斜磁場(実線G4)」は、1回の励起の後複数のエコーを発生させるために極性を高速に反転する傾斜磁場であるから、引用例記載のサンプリングの仕方は「エコープレイナー法」に属する技術である。
原告は、本願発明は、エコープレイナー法によって3次元の画像を取得する点で引用例発明と異なる旨主張する。しかしながら、本願発明の「第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的伸張を与える」との構成は、核スピンを第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的に伸張を与えることを意味するところ、引用例には「一定のGz傾斜磁場」が磁場勾配(Gz)の方向にスピンを空間的にコーディングすることが記載され、引用例の「交番Gy傾斜磁場、交番Gx傾斜磁場及び一定のGz傾斜磁場を印加すること」は、一定のGz傾斜磁場の方向に空間的伸張を与えるものでもあり、エコープレイナー法を3次元に適用するものということができる。したがって、引用例も「第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的伸張を与えるために、第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)が加えられている間に第1の磁場勾配(Gz)を加える」構成を備えており、
審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 原告は、引用例には対象物の限定部分を選択することの動機付けはない上、傾斜磁場を存在させるという周知事項は3次元の画像の取得に関するものではないので、引用例発明に本件周知事項を適用する動機付けがないと主張する。
しかしながら、特定のxy平面のスライスを行うために磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加えることは周知の事項であり、また、検体の特定のxy平面のスライスとは、幾何学的平面を意味するものではなく、所定の厚さを有すること、その厚さや位置を変えることができることは、当業者にとって自明の事項である。引用例は、励起領域を限定するために、傾斜磁場が存在する状態で励起することは記載するものの、具体例において傾斜磁場を存在させることを明示しない。このため、引用例発明では、対象物の限定部分の共鳴信号を検出することを意図しているにもかかわらず、対象物の全体を励起し、対象物の限定部分以外の部分の共鳴信号をも検出してしまうことになり、ノイズが発生する可能性がある。このような、ノイズが発生する可能性の予見やその原因の熟知は、当業者にとって、引用例においてノイズが発生する原因を除去しようと試みる動機となり、励起領域を限定する手段として磁場勾配(Gz)を存在させることは、当業者にとって周知の事項であるから、引用例発明に磁場勾配(Gz)を存在させることは、容易に想到し得るというべきである。また、本件周知事項を適用するに当たっては、「90°パルスP1」を印加する際に磁場勾配(Gz)を存在させるだけでよいから、その適用を困難にする格別の阻害要因は存在しない。
(2) 原告は、引用例発明の「90°パルスP1」は選択的RFパルスではないので、対象物の限定部分を選択することはできないと主張する。しかしながら、引用例の「90°パルスP1」の角周波数は、磁場、核磁気回転比及び式(1)により定まる特定の角周波数である。よって、「90°パルスP1」を印加する際に単に磁場勾配(Gz)を付加するだけで、対象物の限定部分を選択することができる。
3 取消事由3(顕著な効果の看過)について (1) 原告は、本願発明は、3次元で動く対象物の3次元マップを短いデータ収集時間でその動きを追跡して得ることができると主張する。
しかしながら、引用例にも、引用例発明が3次元マップを得るとの効果を奏することが記載されているところ、動きを追跡して得ることができるかどうかは、測定時間と動きの速さとの相対的関係で決まり、引用例発明が本願発明よりサンプリングに余計の時間がかかるからといって、動きを追跡して得ることができない根拠とはならないから、3次元で動く対象物の3次元マップを短いデータ収集時間でその動きを追跡して得るとの効果は、引用例発明に比べ格別顕著なものであるということはできない。
(2) 原告は、本願発明では、励起電磁エネルギーを対象物の限定部分にのみ集中的に印加することにより信号対雑音比の高い共鳴信号を得ることができ、他の部分からの妨害信号も検出しないので、鮮明な画像を得ることができると主張する。
しかしながら、上記妨害信号を検出しないために鮮明な画像を得ることができるという効果は、周知の事項である、検体の特定のxy平面のスライスを行うために第1の磁場勾配を存在させることから当然に生ずる効果にすぎない。
(3) 本願発明の以上の効果は、引用例及び周知の事項から予測される範囲のものであって、顕著な効果ということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 選択的RFパルスを加える点 ア 引用例(甲第3号証)には、以下の記載がある。
(ア) 「測定サイクル中には検体中に存在する核スピンの一部が共鳴励振(注、「励起」と同義である。)される。・・・コイル1が励磁され・・・均一な静磁場Boが発生する。更に、・・・コイル11が高周波電磁場(無線周波(R.F.)磁場)を発生する。検体20中の核スピンは印加された磁場により励振させることができ、励振された核磁化は均一磁場Boに対して所定の角度、例えば90°(90°R.F.パルス)を成す。」(5頁右下欄6行目〜18行目) (イ) 「励振される核スピンの検体中の位置及びどのスピンが励振されるかは特に磁場Boの強さと、印加される傾斜磁場と、高周波電磁場の角周波数ωoに依存し、」(5頁右下欄18行目〜6頁左上欄1行目) (ウ) 「これは共鳴励振を起こすためには式ωo=γBo…(1)が満足されなければならないからであり、ここで、γは核磁気回転比である(自由プロトン、
例えばH2Oプロトンに対してはγ/2π=42.576MHz/T)。」(6頁左上欄1行目〜5行目) イ 上記(ア)によれば、均一磁場Boの存在下で「90°R.F.パルス」を印加することにより核スピンの一部を共鳴励起させることが認められ、(ウ)によれば、均一磁場Boの存在下で角周波数ωoの高周波を印加することにより核スピンを共鳴励起させるには、角周波数、磁場及び核磁気回転比は式(1)を満たす必要があることが認められ、(ア)(イ)によれば、核スピンの一部とは、励起される核スピンの検体中の位置及びどの元素の核スピンが励起されるかであり、これらは式(1)により算出することができると認められる。
ウ そうすると、特定の元素の核スピンを選択的に励起することは、所与の均一磁場Bo、既知の特定の元素の核磁気回転比γ及び式(1)から算出される特定の角周波数ωoの高周波を印加することにより行われるから、引用例の「90°R.F.パルス」がこのような角周波数を有し特定の元素の核スピンを選択的に励起するRFパルスであることは、明らかである。
引用例図3aの「90°パルスP1」が幅を有する矩形状パルスとして画かれ、また、周知例1(甲第4号証)には、「z方向勾配磁場を印加するとともに90°高周波磁場パルスを印加して上記平面の核スピンを選択励起し」(2頁左上欄19行目〜右上欄1行目)、「振幅変調された高周波電流パルスが高周波コイル134に供給されることにより高周波磁場(H1)が対象物体20に印加される。」(3頁左上欄16行目〜19行目)と記載され、その第1図及び第3図のH1の波形が振幅変調された高周波電流パルスの包絡線形状を示していることに照らすと、引用例の「90°パルスP1」が矩形状に振幅変調された高周波の「選択的RFパルス」であると認められる。
エ 同じく、上記イによれば、「励起される核スピンの検体中の位置」すなわちz軸方向の位置Zにある特定の元素を選択的に励起するには、均一磁場Boに磁場勾配Gzを加えた磁場(Bo+Gz・Z)、特定の元素の核磁気回転比γ及び式(1)から算出される角周波数ωzの高周波を印加すること、この場合において、高周波の角周波数ωz又は磁場勾配Gzの値を変化させることにより位置Zを変更することができること、また、高周波の角周波数ωzを周波数ωoを含み幅を有する帯域周波数としたときは、ωoに対応する位置Zoの前後の幅に対応した厚さの領域にある特定の元素が選択的に励起されることが明らかである。
オ したがって、引用例の「90°パルスP1」は、磁場勾配(Gz)が存在しないとき、励起しようとする特定の元素を選択的に励起することは明らかであり、特定の角周波数を有すること及び特定の元素を選択的に励起することにおいて「選択的RFパルス」であるということができる。一方、本願発明の「選択的RFパルス」も、特定の元素の核スピンを励起する特定の角周波数を有するRFパルスである。したがって、本願発明と引用例発明が「選択的RFパルスを加える」点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
カ 原告は、本願発明が、磁場勾配(Gz)が存在する状態で周波数帯域が制限されたRFパルスを印加することにより対象物の限定部分を選択的に励起するのに対して、引用例発明は、磁場勾配(Gz)が存在しない上、印加するRFパルスも周波数帯域が制限されていないので、対象物の全体を励起する点で異なると主張する。
審決は、本願発明の対象物の限定部分を励起する作用は、第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加えることによるものであるとし、選択的RFパルスを加える点は一致点とした上で、第1の磁場勾配(Gz)が存在する点を相違点1と認定している。一方、定常磁界の存在と選択的RFパルスの印加により特定の元素の核スピンを選択的に励起することができる一方、これらに加え傾斜磁場を存在させることにより、特定の位置と厚さの核スピンを選択的に励起することができる。そうすると、「第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で」の要件と「選択的RFパルスを加える」の要件とは、それぞれ独立して採用し得るものであり、
一体不可分の要件ではない。したがって、磁場勾配の有無及び励起領域の差異を根拠として、本願発明の「選択的RFパルス」と引用例の「90°パルスP1」とが一致しないとする原告の主張は、採用することができない。
なお、本願発明は、「選択的RFパルス」の周波数帯域を制限する構成を有しないから、周波数帯域の制限の有無を「選択的RFパルス」であるか否かの判断基準とすることはできない。また、周波数帯域の制限の有無を「選択的RFパルス」であるか否かの判断基準としたとしても、引用例発明の「90°パルスP1」は周波数帯域が制限されているRFパルスであると認められるので、原告の主張は当を得ない。一般に、高周波ωoを所定波形で振幅変調した波の周波数分布は、ωoを中心とした所定波形の周波数分布となるところ、「90°パルスP1」は矩形状に振幅変調された高周波パルスであるから、その周波数分布はωoを中心とする矩形波の周波数分布となる。矩形波の周波数分布(sinc関数)は、中心周波数の両側に帯域が制限されているといえるから、「90°パルスP1」の帯域が制限されていないとする原告の主張は、採用することができない。
キ 原告は、引用例の「90°パルスP1」は、「sinc関数」として画かれていないから周波数帯域が制限されていないと主張するが、上記のとおり「90°パルスP1」は矩形状に振幅変調された高周波パルスであり、周波数帯域が制限されていないということはできない。
(2) エコープレイナー法を用いる点 ア 本願発明のエコープレイナー法 平成9年4月1日付け手続補正書による補正前の本件明細書(甲第2号証の1)の特許請求の範囲には、エコープレイナー法に関連する記載がなく、その発明の詳細な説明の欄には、エコープレーナー法について、「現在では、超高速エコープレイナーイメージング(EPI)・・・は、小児、大人を問わず臨床研究に広く用いられている。」(2頁左下欄10行目〜15行目)、「これ(注、エコープレイナー法)は1枚の薄いスライスを励起している。」(3頁左上欄19行目〜20行目)と記載されているが、いずれも性能に関するもので、エコープレイナー法の構成を開示するものではない。その実施例には、画像を取得することにつき、
「第1図(a)は、同図(b)に示す選択的RFパルスとともにGz内での厚スライス選択過程の最初の段階を示している。」(4頁右上欄4行目〜6行目)と記載された「最初の段階」に続き、「z軸の広幅化勾配Gzが同図(a)に示され、周期的に変調された勾配Gx,Gyが同図(c),(d)に示されている。」(4頁右上欄6行目〜8行目)として、周期的に変調された磁場勾配Gx、Gyを印加することが記載されており、また、図1(e)には、x軸磁場勾配Gxの半周期τxごとに自由誘導減衰信号が発生することが記載されている。そして、本件明細書には、他にエコープレイナー法の具体的内容を開示する記載は見当たらない。
ここで、上記の「最初の段階」は、本願発明の「定常磁界を維持し、限定部分を定義するスピンの薄い断面を選択するための第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加え」の構成に相当するから、上記の「周期的に変調された磁場勾配Gx,Gyを印加することにより周期的に自由誘導減衰信号を発生させ、
サンプリングを行うこと」が本願発明における「エコープレイナー法によって画像を取得するように変調された第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)を加え」の構成に相当すると認められる。
このことは、以下の証拠からも裏付けられる。すなわち、昭和60年4月1日株式会社秀潤社第1版第2刷発行の真野勇「NMR診断法-基礎から臨床まで-」(乙第1号証)には、エコー・プラナー法について、「次いでy軸に線形勾配磁場を切り換え,FIDを短いτ時間で検出する.そしてただちに,勾配磁場を,y軸について反対方向となるように急速に切り換える.この切り換えによって,τ時間後にスライス全体からエコーが出る.その後τ時間経ったら,y軸の勾配磁場をまた急速に切り換え,エコーを発生させるといった具合に,この操作を繰り返して多数のエコーを得る.なお,この勾配磁場の操作中は,x軸方向にゆるやかな線形勾配磁場を持続的にかけ,位置情報の算出に利用する.」(57頁末行〜58頁末行)との記載があり、図2-43「エコープラナー法のパルス系列」は、
これに沿った記載となっている。
イ 引用例の方法 引用例(甲第3号証)には、「次のステップにおいて、サンプル信号を集収する。この目的のために中央制御装置45の制御の下で電流発生器19,21及び23によって発生する傾斜磁場を使用する。共鳴信号(FID信号と称されている)の検出は高周波検出器27、復調器28、サンプリング回路29、アナログ-デジタル変換器31及び制御装置37をスイッチオンすることにより行われる。」(6頁左上欄18行目〜右上欄5行目)、「エコー共鳴信号は、実線G2及びG4でそれぞれ示した交番傾斜磁場の存在する状態においてサンプリング時間間隔tm(図示せず)後毎にサンプリングされる。」(6頁右下欄3行目〜6行目)と記載されるとともに、図3aには、交番Gy傾斜磁場の半周期ごとに共鳴信号が記載され、また、交番傾斜磁場が印加された場合、その半周期内に信号サンプルが得られる旨(6頁右下欄19行目〜7頁左上欄4行目)記載されている。
これらの記載によれば、引用例には、「交番Gx傾斜磁場と交番Gy傾斜磁場を印加することにより周期的に共鳴信号(FID)を発生させ、サンプリングを行うこと」が記載されていると認められる。
ウ したがって、本願発明と引用例発明は、ともに「周期的に変調された磁場勾配Gx,Gyを印加することにより周期的に自由誘導減衰信号(FID)を発生させ、サンプリングすること」において共通すると認められるから、両発明について「エコープレイナー法によって画像を取得するように変調された第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)を加え」において一致するとした審決の認定に誤りはない。
エ 原告は、マップの表示に必要なデータを収集するのに、本願発明の「エコープレイナー法」は1回の励起で足りるのに対して、引用例発明においては、多数回励起するばかりか、励起後の準備期間に調整用磁場を用いることも必要とするので、本願発明の「エコープレイナー法」とは異なると主張する。
マップの表示に必要なデータは、対象物の励起と共鳴信号のサンプリングとから成る一連のシーケンスを1回又は複数回繰り返して収集されるが、ここでシーケンスを繰り返すのは、サンプリングデータを増加するためである。一方、
「エコープレイナー法によって画像を取得するように変調された第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)を加え」の構成は、このようなシーケンスの一部である共鳴信号のサンプリングの過程を規定する事項にすぎないので、シーケンスの回数とは直接関係のない事項である。したがって、1回の励起でマップの表示に必要なデータをすべて収集することが「エコープレイナー法」の要件であるとは認められない。同様に、データ収集時間の長短が「エコープレイナー法」の要件であるとも認められないから、引用例発明のデータ収集時間が本願発明に比べて長い点は、引用例発明がエコープレイナー法に属する技術であるということの妨げにならない。引用例(甲第3号証)の「準備期間tV1 に当りGx及び/或はGy準備傾斜磁場G 1及び/又はG 3を印加することにより帯状面Lを・・・推移できるので、前記像周波数領域又は像周波数-時間領域を規則的に満たすことができる。」(7頁右上欄4行目〜10行目)との記載によれば、準備期間の傾斜磁場G1及び/又はG 3は、交番傾斜磁場Gx、Gyを印加する前に像周波数をあらかじめ調整してサンプリング範囲を調整するものであり、「交番Gx傾斜磁場と交番Gy傾斜磁場を印加することにより周期的にFID(共鳴信号)を発生させること」とは直接の関係は認められないから、この点も、
引用例発明がエコープレイナー法に属する技術であるということの妨げとならない。
オ 原告は、本願発明は、エコープレイナー法を3次元の画像取得に拡張するものであるから、「第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的伸張を与えるために、第2,3の磁場勾配(Gx,Gy)が加えられている間に第1の磁場勾配(Gz)を加える」点が一致点であるとする審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら、引用例には、「一定のGz傾斜磁場」を印加することにより信号サンプルが位置する通路Sはz方向にも伸張しており、自由度3(kx,ky,kz)でサンプリングが行われることが記載されている(6頁左下欄9行目〜7頁右上欄4行目、図3a、3b)。ここにいう、「自由度3(kx,ky,kz)でサンプリングが行われる」とは、x方向及y方向に加えz方向にもサンプリングを行うことであるから、本願発明の「第1の磁場勾配(Gz)の方向に空間的伸張を与える」ことにより3次元画像を取得する構成に相当する。したがって、原告の主張は、採用することができない。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 原告は、引用例には対象物の限定部分を選択する動機付けがないばかりか、本件周知事項も本願発明の技術分野である3次元技術ではないので、引用例発明に本件周知技術を適用することは、当業者にとって格別困難なく想到し得たということはできないと主張するので、この点につき判断する。
ア 引用例(甲第3号証)には、「測定サイクル中には検体中に存在する核スピンの一部が共鳴励振される。」(5頁右下欄6行目〜8行目)との記載があり、その「核スピンの一部」とは、空間的な一部を選択励起することを妨げる記載ではない。また、上記1(1)エのとおり、引用例には、角周波数ωz又は傾斜磁場Gzの値を変化させることにより位置Zを変更することができ、また、角周波数ωzを、周波数ωoを含む幅を有する帯域周波数としたときは、ωoに対応する位置Zoの前後の幅 に対応した厚さ の領域にある特定の元素が選択的に励起されることが示唆されている。さらに、上記1(2)オのとおり、引用例には、「自由度3(kx,ky,kz)でサンプリングが行われる」ことが記載され、その3次元のイメージングでは、「自由度3(kx,ky,kz)でサンプリングが行われる」程度の厚さを有する面が1回で励起されていなければならないことは明らかである。一方、核磁気共鳴システムのような微弱な検出信号を取り扱う技術分野では、信号雑音比の向上は普遍的な技術課題であるところ、試料についても、最小限の信号源から最大限の信号を得るべく、必要とする信号の獲得を損なわない範囲において、雑音源となる試料部分を可能な限り排除しようと企図することは、当業者として当然に想起する事柄である。そうすると、引用例には、対象物の限定部分を励起するとの動機付けがあるというべきである。
イ 周知例1(甲第4号証)には、「z方法勾配磁場を印加するとともに90°高周波磁場パルスを印加して上記平面の核スピンを選択励起し」(2頁左上欄19行目〜右上欄1行目)、「振幅変調された高周波電流パルスが高周波コイル134に供給されることにより高周波磁場(H1)が対象物体20に印加される。」(3頁左上欄16行目〜19行目)、「サンプリング開始までには、帯域制限高周波パルスとGzとの組合せにより特定のxy平面のスライスを行なうことは第1図で示した従来技術と同様である。なお、本例では帯域制限された90°,及び180°高周波磁場パルスを用いたが、これらは帯域制限のない高周波磁場パルスでも良い。」(3頁左下欄3行目〜9行目)との記載があり、第1図及び第3図には、H1について「振幅変調された高周波電流パルス」の包絡線形状が示されている。
さらに、引用例(甲第3号証)には、「第1図は検体20の一部分内のNMR分布を決定するのに使用する装置15(第2図)の一部を構成するコイル装置10を示す。この被検部分は例えばの厚さを有し、x-y-z座標系のx-y面に位置するものとする。」(5頁左上欄20行目〜右上欄4行目)との記載がある。
これらの記載から、2次元の選択的励起は勾配磁場の存在と振幅変調された帯域制限90°高周波パルスの印加により行われること、2次元の選択的励起であっても励起される面には厚さのあることが認められるから、「検体の特定のxy平面のスライスを行うために、第1の磁場勾配(Gz)が存在する状態で選択的RFパルスを加える」ことは周知の技術事項であると認められる。
ウ 一方、本件明細書には、「MRI装置内に位置する対象物の限定部分のスピンパラメータマップに従って画像を生成する・・・前記限定部分を定義するスピンの薄い断面を選択する」(甲第2号証の4、請求項1)と記載され、「実際に開発されたのは、一例として取り上げられている2次元の場合であり、これは1枚の薄いスライスを励起している。」(甲第2号証の1、3頁左上欄18行目〜末行)、「これらは対象物中の厚いスライスを部分的に励起する方法に依存し、このスライスは対象となるボリュマー領域を囲むように選ばれている。」(3頁右下欄12行目〜14行目)、「第1図(a)は、同図(b)に示す選択的RFパルスとともにGz内での厚スライス選択過程の最初の段階を示している。」(4頁右上欄4行目〜6行目)、「上で提案したボリュマーイメージングの変形例として、・・・RF励起パルスは、非選択性のものでもよいし、あるいは厚い材料の3次元イメージングのために幅の広いスライスを選択するものでもよい。」(8頁左上欄7行目〜17行目)と記載されている。
これらの記載によれば、対象物の限定部分を定義するスピンの薄い断面の厚さは、2次元の場合の1枚の薄いスライスではなく、それより厚い第3軸方向の空間的エンコーデイングを導入することが可能な程度のものと認められ、そのほか、上記厚さにつき格別の記載は見当たらない。
そうすると、本願発明の「第3軸方向の空間的エンコーデイングを導入する」厚さと、引用例発明の「自由度3(kx,ky,kz)でサンプリングが行われる」厚さとに差はなく、厚さの意義についても両者に格別の相違は認められない。
エ したがって、引用例発明において共鳴励起時に磁場勾配(Gz)を存在させることは、引用例及び周知の技術に基づいて当業者が格別困難なく想到し得た事項であると認められるから、審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は、本件周知事項は、2次元技術であって3次元技術ではないので、
引用例発明に適用することはできないと主張する。しかしながら、上記(1)イのとおり、2次元の選択的励起であっても、励起される面には厚さがあり、その厚さは勾配磁場の存在と印加される90°高周波パルスの帯域制限によるものであり、勾配又は帯域の設定いかんにより3次元的な厚さの励起も可能であるから、本件周知事項が3次元にも適用できることは当業者には自明であるということができる。原告の主張は採用することができない。
3 取消事由3(顕著な効果の看過)について (1) 原告は、本願発明は、3次元で動く対象物の3次元マップを短いデータ収集時間でその動きを追跡して得ることができると主張するが、動きを追跡して得ることができるかどうかは、測定時間と動きの速さとの相対的関係で決まるところ、
3次元で動く対象物の3次元マップを短いデータ収集時間でその動きを追跡して得るとの効果は、引用例発明に本件周知事項を適用することにより予想されるものであって、当業者が予測し得ない格別顕著なものであるということはできない。
(2) 原告は、本願発明の「MRI装置の高周波コイルの外の部分からの妨害信号を検出することがないので、鮮明な画像を得ることができる」という効果についても主張するが、「検体の特定のxy平面のスライスを行うために第1の磁場勾配を存在させる」という周知の技術事項から当然に生ずる効果にすぎない。
(3) 以上のように、原告の主張する本願発明の効果は、いずれも引用例及び周知の事項から予測される範囲のものであり、審決に、本願発明の顕著な効果を看過した誤りはない。
4 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男