運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 審判1999-35133
関連ワード 公然知られ(29条1項1号) /  公然実施(29条1項2号) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  訂正の許否 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  訂正明細書 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 12年 (行ケ) 324号 審決取消請求事件
原告 三谷セキサン株式会社
訴訟代理人弁護士 上村正二
同 石葉泰久
同 石川秀樹
同 松村武
同 弁理士 鈴木正次
同 涌井謙一
被告 株式会社ジオトップ
訴訟代理人弁護士 藤川義人
同 米田実
同 辻武司
同 松川雅典
同 四宮章夫
同 田中等
同 田積司
同 米田秀実
同 上甲悌二
同 浦中裕孝
同 軸丸欣哉
同 伊藤勝彦
同 藤田清文
同 名倉啓太
同 高島志郎
同 渡邊徹
同 弁理士 森治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/05/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成11年審判第35133号事件について平成12年7月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告(平成3年10月1日商号変更前の旧商号は「株式会社武智工務所」)は、名称を「基礎杭構造」とする特許第2651893号発明の特許権者である(以下、この特許を「本件特許」といい、本件特許に係る発明を「本件発明」という。)。
本件特許は、平成元年3月6日の特許出願に係る特願平1-53990号出願の一部を平成6年6月17日に新たな特許出願とした特願平6-135780号出願につき、平成9年5月23日に設定登録がされたものである。
本件特許につき、平成11年3月26日に原告が被告を被請求人として無効審判の請求をしたところ、被告は、平成12年3月27日に本件特許に係る明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正請求(以下、この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」といい、本件訂正後の明細書を「訂正明細書」という。)をした。
特許庁は、上記審判請求を平成11年審判第35133号事件として審理した上、平成12年7月18日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月7日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の明細書の特許請求の範囲の記載 【請求項1】基礎杭上部に既製の円筒パイルを、下部に円筒パイルの径と略同径の胴部を有する既製の節付きコンクリートパイルを配して、これら両パイルを連結して上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設したことを特徴とする基礎杭構造。
【請求項2】少なくとも円筒パイルの周囲に、砂、砂利、砕石等の充填材を充填してなる請求項1に記載の基礎杭構造。
【請求項3】基礎杭上部の既製の円筒パイルが杭の内外に連通する透水孔を有する孔明きパイルであって、円筒パイルの内外周に、砂、砂利、砕石等充填材を充填してなる請求項1に記載の基礎杭構造。
(2) 訂正明細書の特許請求の範囲の記載(訂正部分を下線で示す。以下、下記請求項1〜3記載の発明を総称して「訂正発明」といい、請求項1記載の発明を「訂正発明1」という。)。
【請求項1】基礎杭上部に既製の円筒パイルを、下部に円筒パイルの径と略同径の胴部を有する既製の節付きコンクリートパイルを配する基礎杭構造であって、前記円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用い、 これら両パイルを連結して上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設したことを特徴とする基礎杭構造。
【請求項2】少なくとも円筒パイルの周囲に、砂、砂利、砕石等の充填材を充填してなる請求項1に記載の基礎杭構造。
【請求項3】基礎杭上部の既製の円筒パイルが杭の内外に連通する透水孔を有する孔明きパイルであって、円筒パイルの内外周に、砂、砂利、砕石等充填材を充填してなる請求項1に記載の基礎杭構造。
3 審決の理由 審決は、別添審決謄本写し記載のとおり、@本件訂正は、特許請求の範囲減縮又は明りょうでない記載の釈明に当たり、願書に添附した明細書又は図面の範囲内のもので、実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものではなく、かつ、
訂正発明は、<ア>昭和60年10月〜12月ころ、福井県勝山市の越前大仏建立工事における寺務所、講堂、宝物殿の基礎工事において公然と実施された、基礎杭上部に原告製の既製の円筒コンクリートパイル(PHCφ400の7mB種)を、下部に被告製の既製の節付きコンクリートパイル(HC-TOPφ400〜500の10mB種)を用い、これら両パイルを溶接して連結した基礎杭構造の発明(以下「本件公然実施発明」という。)ではなく、本件公然実施発明及び請求人(注、原告)が提出した別紙文献目録記載の各公知文献(以下、個々の文献を表示するに当たって、同目録記載の略称を用いる。)から当業者が容易にし得たものと認めることもできず、<イ>同各公知文献から当業者が容易にし得たものと認めることもできないので、訂正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるとして、本件訂正を認めた上、A訂正発明は、上記@で示した理由により、本件公然実施発明であるとも、本件公然実施発明及び同各公知文献に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも、同各公知文献に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとも認められないから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を無効とすることはできないとした。
原告主張の審決取消事由
審決の理由中、本件訂正が特許請求の範囲減縮又は明りょうでない記載の釈明に当たり、願書に添付された明細書又は図面の範囲内のもので、実質的に特許請求の範囲拡張又は変更するものではないこと、訂正発明の認定、本件公然実施発明がされたこと、原告が提出した各公知文献の記載事項の認定、訂正発明1と本件公然実施発明との一致点の認定、訂正発明1と特開昭51-8709号公報(引用例16)記載の発明との一致点及び相違点の認定は認める。
審決は、本件訂正の許否についての判断において、訂正発明1と本件公然実施発明との相違点の認定を誤り(取消事由1)、また、当該相違点についての判断を誤って(取消事由2)、訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものである旨誤った判断をし、ひいて、本件訂正を認めて本件発明の要旨の認定を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点の認定の誤り) (1) 審決は、訂正発明1と本件公然実施発明とが、「訂正後の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)においては、円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用い、これら両パイルを連結して上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設したのに対して、公然実施された発明(注、本件公然実施発明)においては、円筒パイルと節付きコンクリートパイルの曲げ耐力については明らかでなく、円筒パイル及び節付きコンクリートパイルのそれぞれの杭部分と対応する地盤の性状が明確でない点」(審決謄本10頁13行目〜18行目)において相違する旨認定したが、この認定のうち、本件公然実施発明において「円筒パイル及び節付きコンクリートパイルのそれぞれの杭部分と対応する地盤の性状が明確でない」との点は誤りである。
(2) すなわち、越前大仏建立工事の地質調査の結果により、B-2地点(甲第3号証の1)及びB-4地点(同号証の2)において、地表からほぼ7m程度の深さまでの間にN値が小さい箇所があることが判明している。したがって、本件公然実施発明が、「上層が軟弱で、下層が支持力を有する地盤」に打設した基礎杭構造であることは明らかである。この点に関し、被告は、杭を設計する場合に、地層の評価は測定N値の平均値を基準とすることが一般的であると主張するが、ボーリングによる地質調査を参考にして安全側(N値の小さい側)の数値により杭種及び工法を決めることは当業者の常とう手段である。
(3) なお、審決は、訂正発明1における「軟弱地盤」の意義につき、訂正明細書(甲第33号証の2)の「殊に、軟弱な粘性地盤では上層地盤が圧密沈下すると、杭体上部に負の摩擦力が働くため、この部分の周面支持力が大きいと、杭体は構築物荷重による軸力以外に、前記の負の摩擦力による軸力を(注、「軸力も」の誤記と認める。)負担することとなる」(段落【0043】)との記載を引用して、「『軟弱地盤』とは、圧密沈下する地盤である」(審決謄本10頁38行目)と認定したが、訂正明細書に、「上層が軟弱な粘性地盤であって圧密沈下することがあっても」(段落【0048】)と記載されていることからうかがわれるように、訂正明細書は、訂正発明1の構成が、上層の軟弱地盤が圧密沈下しない場合も有効であるが、圧密沈下する場合に特に有効である旨を強調して記載しているにすぎず、「軟弱地盤」の意義を圧密沈下する場合のみに限定することは誤りである。
このことは、訂正明細書の「円筒パイルの周囲に、砂、砂利、砕石等の充填材を充填しておくことができる」(段落【0013】)との記載に照らしても明らかである。すなわち、円筒パイルの周囲に砂、砂利、砕石等を充填すると、円筒パイルと地盤との間の摩擦力が増大するから、地盤が圧密沈下する場合には円筒パイルに負の摩擦力が働く結果となるからである。
また、審決は、訂正発明1においては「軟弱地盤である上層と基礎杭上部の円筒パイルの外周面との間・・・の環状間隙に充填されるもの」(審決謄本11頁3行目〜5行目)が「円筒パイルの対応する地層が軟弱地盤であることを前提として設定されている」(同11頁28行目〜29行目)が、本件公然実施発明においては「円筒パイルの外周面と上層地盤との間・・・の環状間隙・・・に充填される充填物からみて・・・基礎杭上部の円筒パイルの対応する地層が軟弱地盤であることを前提としたものではなく」(同11頁30行目〜37行目)と認定した。しかしながら、訂正明細書に「上層地盤には円筒パイル(P)を用い、それより下方部の地盤には節付きパイル(F) を用いた基礎杭が地中に造築される・・・上記の基礎杭を、セメントミルク工法など低騒音の先掘り工法で行う」(段落【0032】〜【0033】)と記載されているとおり、訂正発明1は、セメントミルク工法を採用したものを実施例の一つとしているところ、越前大仏建立工事の施工報告書(甲第5号証)及び見積書(甲第6号証の2〜4)に記載されているように、本件公然実施発明もセメントミルク工法を採用したものであるから、訂正発明1と本件公然実施発明とは、円筒パイルの周面に充填されるものに関しては同一であり、審決の上記認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は、上記訂正発明1と本件公然実施発明との相違点につき、「公然実施された発明(注、本件公然実施発明)においては・・・環状空間に充填されるものは軟弱地盤に対応するものではなく、訂正後の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)と公然実施された発明は、実質的にその構成が相違する。そして、引用例12には、支持力を有する地層下部に対応する杭部分を摩擦杭の機能を有するものとし、圧縮しやすい軟弱土層である地層上部に対応する杭部分を摩擦杭の機能を有しないものとした基礎杭構造が記載されおり、引用例6、7、17〜23には、基礎杭上部には曲げモーメントが他の杭部分よりかかるため、基礎杭上部には曲げ耐力の大きい杭を使用する構成が記載されているが、前記各引用例には、軟弱地盤による負の摩擦力を軽減する基礎杭の構成と基礎杭上部の曲げモーメントに対する耐力を増加する基礎杭構成がそれぞれ独立して記載されているに過ぎず、前記公然実施された発明に、引用例12及び引用例6、7、17〜23の構成を適用して、前記相違点にあげた訂正後の請求項1に係る発明の構成のようにすることは、当業者が容易になしえるものとは認めることができない」(審決謄本12頁9行目〜26行目)と判断したが、次のとおり、誤りである。
(2) すなわち、引用例12(甲第19号証)には、軟弱地盤対策工法として、
軟弱地層に上杭として汎用パイルである円筒パイルを用い、下杭として摩擦杭を用いて支持させる継杭工法の記載(395頁図9.14.1の中央の図)があるところ、摩擦杭として通常用いられるのは、節付きコンクリートパイルである。
また、昭和53年3月25日社団法人日本建築学会第1版第6刷発行の「建築基礎構造設計規準・同解説」に記載されている(甲第32号証の2)ように、杭種にはA種、B種、C種の3種類があって、A種からC種に向かう程曲げ耐力が大きくなることが当業者に周知であったところ、上部のパイルと下部のパイルを連結杭として打設する場合に、上下部の各パイルをそれぞれどのような種類とするかは、専ら支持すべき建物の性質、重量、地盤の状態等を考慮して適宜選定採用することのできる設計事項である。特に、引用例18(甲第26号証の1)、同19(同号証の2)、同21(甲第27号証の2)、昭和58年2月社団法人土質工学会発行の「杭基礎の調査・設計から施工まで」(甲第30号証の1〜3)、1986年(昭和61年)10月発行の雑誌「基礎工」58頁〜65頁、89頁(甲第36号証)にそれぞれ記載されているように、上杭に曲げ耐力の大きい杭材種を使用する異種杭連結は、設計上の常とう手段とされている事項であり、上層がN値の低い場合の設計などで常時採用されていた。
したがって、本件公然実施発明においては、上部の円筒パイル及び下部の節付きコンクリートパイル双方にB種を用いているが、これを、円筒パイルにB種を用い、節付きコンクリートパイルにA種を用いる組合せとすることは当業者が極めて容易にし得ることである。
(3) 被告は、昭和56年12月15日付け建設省住指発第301号特定行政庁建築主務部長宛て建設省住宅局建築指導課長通知(乙第10号証)の「本くいは、
継ぐいとして使用しないものとする。」との記載を引用して、本件公然実施発明の実施当時及び本件特許の出願当時、円筒パイルと節付きコンクリートパイルを接続して使用することは、本件公然実施発明を除き、実用化されていなかったと主張する。しかしながら、上記建設省住宅局建築指導課長通知は、被告の製造に係る節付きコンクリート杭(HC-TOPパイル)についてのものであって、すべての節付きコンクリートパイルの基礎杭に関するものではないのみならず、HC-TOPパイルであっても所定の試験の結果が規準に達していれば継杭としても使用できるものであり、かつ、本件公然実施発明において節付きコンクリートパイルとして使用されたのがHC-TOPパイルであることに照らせば、本件公然実施発明の実施当時においては使用できたものと推認される。
また、被告は、昭和50年3月25日発行の「建築基礎構造設計規準・同解説」(乙第9号証)の「同一の建築物または工作物に,支持ぐいと摩擦ぐいを混用してはならない」との記載を引用して、本件公然実施発明の実施当時及び本件特許の出願当時、円筒パイルと節付きコンクリートパイルを混用することは避けるべきものとされていたと主張するが、上記記載は、支持杭と摩擦杭の並列使用を禁止したもので、継杭を禁止したものではない。
したがって、上記各主張に基づいて、上杭に下杭よりも曲げ耐力の大きい杭を用いることは円筒パイルを連結して支持杭とする場合に限られ、訂正発明1の技術思想は当業者において容易に想到することはできなかったとする被告の主張も失当である。
被告は、さらに、本件公然実施発明の設計者である青山正巳作成の証明書(乙第7号証)の記載を引用して、本件公然実施発明は、地質調査未了時に、地盤の性状とは無関係に、基礎杭構造を構成する各杭の少なくとも節付きコンクリートパイルの長さを同一にし、杭の長さにばらつきが生じた場合でも、各杭の鉛直支持力に違いが生じないようにするという技術思想に基づいて設計されたものであり、
接続して使用する円筒パイルと節付きコンクリートパイルとは曲げ耐力の大きさを同一とすることが前提とされるものであるから、「前記円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用いる」訂正発明1の技術とは相容れないと主張する。しかしながら、同証明書に記載されているとおり、本件公然実施発明は周辺地盤の地質調査を参考にして設計されたもので、後に行われた地質調査の結果、設計変更を要しなかったにすぎない。そして、同証明書の記載によっても、公然実施発明が軟弱地盤工法であることは明らかであり、その場合に、上杭に下杭よりも曲げ耐力の大きいパイルを用いることは、上記のとおり設計事項である。
被告の反論
審決の認定及び判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について (1) 原告は、越前大仏建立工事の地質調査の結果、B-2地点及びB-4地点の地表からほぼ7m程度の深さまでの間のN値が小さかったから、本件公然実施発明が、「上層が軟弱で、下層が支持力を有する地盤」に打設した基礎杭構造であることが明らかであると主張する。しかしながら、上記地質調査の結果を記載した資料(甲第3号証の1、2)は、一般に公開することを目的として作成されたものではないから、一般第三者が各パイルと地質との対応関係を確認することはできない。
のみならず、「軟弱地盤」とは、1999年(平成11年)2月15日技報堂出版株式会社発行の社団法人土木学会編「土木用語大辞典」(乙第5号証)に、「建造物の基礎として十分な地耐力をもたない地盤.すべり破壊、過大沈下・変形、液状化等が問題となる.軟弱地盤の判定は建造物の種類、規模、重要度等の相対的関係で異なる.特殊な場合を除き通常はN値が4以下の粘性土や10以下の緩い砂地盤をさす.」とされているものである。そして、杭を設計する場合には、
地層の評価に当たって複数のボーリングデータによる総合的な判断が必要とされることから、測定N値の平均値を基準とすることが一般的であるところ、上記越前大仏建立工事に係るB-2地点、B-4地点及びB-5地点の地質調査の結果(甲第3号証の1〜3)に基づき、フーチング部(コンクリート基礎)の深さ(1.45〜3.60m)及びフーチング部の底面から5m程度までの地盤を上層として、そのN値の平均値を検討すると、上記限界値(粘性土(シルト)が4、礫質土が10)をはるかに超えているから、本件公然実施発明が、「上層が軟弱で、下層が支持力を有する地盤」に打設した基礎杭構造であるとする原告の主張は誤りである。
(2) 原告は、「『軟弱地盤』とは、圧密沈下する地盤である」との審決の認定が誤りであると主張するところ、上記(1)のとおり、「軟弱地盤」には、液状化等が問題となるN値10以下の緩い砂地盤も含まれるものの、その代表的なものは、圧密沈下するN値4以下の粘性土であり、訂正明細書(甲第33号証の2)の「上層が軟弱な粘性地盤であって圧密沈下することがあっても」(段落【0048】)等の記載に照らしても、審決の上記認定が誤りであるとまでいうことはできない。
また、原告は、訂正発明1がセメントミルク工法を採用したものを実施例の一つとし、本件公然実施発明もセメントミルク工法を採用したものであるから、
訂正発明1と本件公然実施発明とは円筒パイル外周面に充填される充填物に関しては同一であり、訂正発明1は「円筒パイルの対応する地層が軟弱地盤であることを前提として設定されている」が、本件公然実施発明は「基礎杭上部の円筒パイルの対応する地層が軟弱地盤であることを前提としたものではなく」とした審決の認定が誤りであると主張する。しかしながら、訂正発明1において採用されるセメントミルク工法は、一般的な「セメントミルク工法」を排除するものではないが、訂正明細書(甲第33号証の2)に「このミルク等の硬化液(M)は、節付きパイル(F)の周囲や先端根固め部分には強度の大きいものを・・・円筒パイル(P)の周囲には強度の低い液を・・・充填する等、杭の深さ方向で配合を変えることもできる。杭の鉛直支持力を期待する部分には大きな強度の発現できる充填液を用いるのが望ましい」(段落【0035】)と記載されているとおり、必ずしも一般的な「セメントミルク工法」と同一であるとはいえず、また、そもそも、本件公然実施発明において、一般的な「セメントミルク工法」が採用されているからといって、本件公然実施発明が「上層が軟弱で、下層が支持力を有する地盤」に打設した基礎杭構造であるということはできない。
(3) したがって、審決の訂正発明1と本件公然実施発明との相違点の認定に原告主張の誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は、引用例12(甲第19号証)の395頁図9.14.1の中央の図に、
軟弱地盤対策工法として、軟弱地層に上杭として汎用パイルである円筒パイルを用い、下杭として摩擦杭(節付きコンクリートパイル)を用いて支持させる継杭工法の記載がある旨主張するが、同図並びに図9.14.1の左側の図及び右側の図に示されているのは、同一種類、同一形状の杭が「支持杭」(左側の図)、「摩擦杭(下部)」(中央の図)、「摩擦杭(全長)」(右側の図)のいずれになるかは地層によって決定されるということであり、特に中央の図と右側の図は、上層が軟弱であればその部分は摩擦杭として機能せず(中央の図)、上層が摩擦抵抗で支持するための支持力を有する層であれば、その部分も摩擦杭として機能する(右側の図)ということを示したものであって、円筒パイルと節付きコンクリートパイルとを用いて支持させる継杭工法が記載されているものではなく、原告の上記主張は誤りである。
また、原告は、杭種にはA種、B種、C種の3種類があって、A種からC種に向かう程曲げ耐力が大きくなることが当業者に周知であったこと、引用例18、同19、同21等の公知文献に上杭に曲げ耐力の大きい杭材種を使用する異種杭連結が記載されていることを根拠として、上部のパイルと下部のパイルを連結杭として打設する場合に、上下部の各パイルをそれぞれどのような種類とするかは、
専ら支持すべき建物の性質、重量、地盤の状態等を考慮して適宜選定採用することのできる設計事項であり、本件公然実施発明において、上部の円筒パイルにB種を用い、下部の節付きコンクリートパイルにA種を用いる組合せとすることは当業者が極めて容易にし得ると主張する。
しかしながら、上記各公知文献には、既製の円筒コンクリートパイルを連結して支持杭とする場合に、上杭に下杭よりも曲げ耐力の大きい杭を用いることが記載されているにとどまっている。他方、「常圧蒸気養生されたプレテンション方式遠心力プレストレスト節付コンクリートくい(HC-TOPパイル)の取扱いについて」と題する昭和56年12月15日付け建設省住指発第301号特定行政庁建築主務部長宛て建設省住宅局建築指導課長通知(乙第10号証)に、被告の製造に係る節付コンクリート杭(HC-TOPパイル)につき「本くいは、継ぐいとして使用しないものとする。」との記載があるとおり、本件公然実施発明の実施当時(昭和60年10月〜12月ころ)及び本件特許の出願当時(平成元年3月6日)、円筒パイルと節付きコンクリートパイルを接続して使用することは、本件公然実施発明を除き、実用化されていなかっただけでなく、昭和50年3月25日社団法人日本建築学会第1版第2刷発行の「建築基礎構造設計規準・同解説」(乙第9号証)に「同一の建築物または工作物に,支持ぐいと摩擦ぐいを混用してはならない」と記載されているように、当時は、円筒パイルは専ら支持杭として使用されるものであり、節付きコンクリートパイルは専ら摩擦杭として使用されるものと考えられていたから、円筒パイルと節付きコンクリートパイルを混用することは避けるべきものとされていた。そうすると、このような状況下においては、たとえ、既製の円筒パイルを連結して支持杭とする場合に、上杭に下杭よりも曲げ耐力の大きい杭を用いることが公知であるとしても、それは円筒パイルを連結して支持杭とする場合に限られ、訂正発明1の「基礎杭上部に既製の円筒パイルを、下部に円筒パイルの径と略同径の胴部を有する既製の節付きコンクリートパイルを配する基礎杭構造であって、前記円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用い、これら両パイルを連結して上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設」するという技術思想は、当業者がこれを容易に想到することはできなかったことが明らかである。
(2) なお、本件特許出願当時、唯一円筒パイルと節付きコンクリートパイルを接続して使用した例である本件公然実施発明は、その設計者である青山正巳作成の各証明書(乙第7号証、第16号証)に記載されているように、地質調査未了時点に、地盤の性状とは無関係に、基礎杭構造を構成する各杭の少なくとも節付きコンクリートパイルの長さを同一にし、杭の長さにばらつきが生じた場合でも、各杭の鉛直支持力に違いが生じないようにするという技術思想に基づいて設計されたものであって、上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設するということが考慮されたものではない。そして、当該技術思想に基づけば、杭の長さにばらつきが生じた場合でも各杭の同一深さ位置での曲げ耐力に違いが生じないようにするため、接続して使用する円筒パイルと節付きコンクリートパイルとは、当然曲げ耐力の大きさを同一とすることが前提とされるものであるから、本件公然実施発明は、「基礎杭上部に既製の円筒パイルを、下部に円筒パイルの径と略同径の胴部を有する既製の節付きコンクリートパイルを配する基礎杭構造」であっても、「前記円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用いる」訂正発明1の技術とは相容れないものである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の認定の誤り)について (1) 本件公然実施発明が、昭和60年10月〜12月ころ、福井県勝山市の越前大仏建立工事における寺務所、講堂、宝物殿の基礎工事において公然と実施された、基礎杭上部に原告製の既製の円筒コンクリートパイル(PHCφ400の7mB種)を、下部に被告製の既製の節付きコンクリートパイル(HC-TOPφ400〜500の10mB種)を用い、これら両パイルを溶接して連結した基礎杭構造の発明であることは、当事者間に争いがない。
(2) 原告は、越前大仏建立工事の地質調査の結果により、B-2地点(甲第3号証の1)及びB-4地点(同号証の2)において、地表からほぼ7m程度の深さまでの間にN値が小さい箇所があることが判明しているから、本件公然実施発明が「上層が軟弱で、下層が支持力を有する地盤」に打設した基礎杭構造であることは明らかであり、審決の相違点の認定のうち、本件公然実施発明において「円筒パイル及び節付きコンクリートパイルのそれぞれの杭部分と対応する地盤の性状が明確でない」とした部分が誤りであると主張する。
N値とは、地層の堅さを示す指標であり、昭和53年3月25日社団法人日本建築学会第1版第6刷発行の「建築基礎構造設計規準・同解説」(甲第32号証の1〜4)によれば、原位置における土の硬軟、締まりぐあいの相対値を知るためのJIS規格である土の標準貫入試験方法において、「重量63.5sのハンマを75p自由落下させ、標準貫入試験用サンプラーを30p打ち込むのに要する打撃数をいう」(同号証の4第613頁)ものとされ、したがって、N値が小さいほど地盤が軟弱であることが認められる。そして、「越前大仏建立計画 附属伽藍・門前町・駐車場造営工事地質調査」との標題のある書面(甲第3号証の1〜3、なお、同号証の1には「ボーリング孔:B-2」との、同号証の2には「ボーリング孔:B-4」との、同号証の3には「ボーリング孔:B-5」との記載がそれぞれある。)は、越前大仏建立工事の地質調査の結果を記載したものと認められ、それぞれの書面には、1.5mから1mごとの深さの段階に対応したN値のグラフの記載があるから、越前大仏建立工事に係る上記各ボーリング地点(B-2地点、B-4地点、B-5地点)における地表からの深さに応じたN値は上記各グラフに記載されたとおりであるものと認められる。しかしながら、上記地質調査が越前大仏建立工事のために行われたものであることは明らかであるから、同各書面が、当該工事関係者以外の者に対しても当然に公開される性質のものとは認めることができず、かつ、本件特許の出願(平成元年3月6日)前に、同書面又はそのうちの少なくともN値が当該工事関係者以外の者に対して公開されたことを認めるに足りる証拠もない。そうすると、原告の主張に係るB-2地点及びB-4地点の地表からの深さに応じたN値は、公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況にあったものと認めることはできない。
そして、公然実施された発明(特許法29条1項2号)とは、公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施された発明を意味するものであるから、越前大仏建立工事に係る「寺務所、講堂、宝物殿の基礎工事において、基礎杭上部に原告製の既製の円筒コンクリートパイル(PHCφ400の7mB種)を、下部に被告製の既製の節付きコンクリートパイル(HC-TOPφ400〜500の10mB種)を用い、これら両パイルを溶接して連結した基礎杭構造の発明」(本件公然実施発明)は、上記構成の限度では公然実施された発明であっても、当該発明に係る基礎杭を打設した地盤のN値(地盤の硬軟、性状)に係る構成の部分においては公然実施されたものということはできず、その構成部分を本件公然実施発明に含めることはできない。したがって、仮に、B-2地点及びB-4地点の地表からほぼ7m程度の深さまでの間のN値によれば、本件公然実施発明における基礎杭を打設した地盤が客観的には「上層が軟弱で、下層が支持力を有する地盤」であると認められるとしても、審決が、訂正発明1と本件公然実施発明との対比において、訂正発明1が上部に既製の円筒パイルを下部に既製の節付きコンクリートパイルを連結したものを「上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設した」のに対して、本件公然実施発明が「円筒パイル及び節付きコンクリートパイルのそれぞれの杭部分と対応する地盤の性状が明確でない」こと相違点として認定したこと自体には誤りはない。
なお、原告は、相違点の認定に関連して、審決が、訂正発明1における「軟弱地盤」の意義につき「『軟弱地盤』とは、圧密沈下する地盤である」(審決謄本10頁38行目)と認定したことが誤りであると主張するが、審決の上記記載が、「軟弱地盤」の意義を圧密沈下する地盤に限定したものとまで解することはできず、上記主張は採用することができない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 審決が認定した訂正発明1と本件公然実施発明との相違点である「訂正後の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)においては、円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用い、これら両パイルを連結して上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設したのに対して、公然実施された発明(注、本件公然実施発明)においては、円筒パイルと節付きコンクリートパイルの曲げ耐力については明らかでなく、円筒パイル及び節付きコンクリートパイルのそれぞれの杭部分と対応する地盤の性状が明確でない点」(審決謄本10頁13行目〜18行目)とは、訂正発明1の「円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用い」る構成及び上部に既製の円筒パイルを下部に既製の節付きコンクリートパイルを連結したものを「上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設」する構成を、本件公然実施発明が備えていないことをいうものと理解される。
(2) しかしながら、引用例6(甲第13号証)に「基礎杭の上部には曲げモーメントが他の部分より多くかかるため、中空コンクリートパイルの上部を矩形断面とし、下部を前記矩形の辺の長さ以下の直径とした円環断面とした異形パイルが記載されている」(審決謄本7頁8行目〜10行目)こと、引用例7(甲第14号証)に「大径パイルを深く沈設する場合、パイルにかかる曲げモーメントは一様ではなく、一般に中心より上部にかかる。したがってまた最大の曲げモーメントも沈設されたパイルの上部に生じる。従来はこのような場合は、最大曲げモーメントに耐えうる大径のパイルを沈設していたが、かかる大径パイルは高価であるとともに、搬送および現場における施工が困難で不経済であった。本発明においてはパイルの上部を強度の高い角形パイルとし、下部を通常の円筒形パイル若しくは同小径パイルとするものである」 (同7頁13行目〜19行目)との記載があること、引用例22(甲第28号証)に「従来の技術 一般に既製コンクリート杭は全長にわたって各断面の外径と厚さがほぼ一定の製品を現場で接続して施工される。ところが埋設した杭に水平力が作用すると特に上杭部分に曲げモーメントが生ずるのでこの部分を補強する必要がある。 発明が解決しようとする問題点 このような場合の対応方法としてSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)を使用するとしても、上部から下部まで同一外径の既製コンクリート杭で設計しようとすると経済性の問題がある」(同9頁26行目〜32行目)との記載があること、引用例23(甲第29号証)に「PC杭を打撃工法で施工する場合、普通の曲げ強度を有するPC下杭(b)の上端に継接される上杭(a)として鋼管コンクリート杭等よりなる曲げ杭を使用する場合が一般的である」(同9頁35行目〜37行目)との記載があることは、いずれも当事者間に争いがないところ、これらの記載は、基礎杭の中心よりも上部に大きな曲げ応力が生ずるために、異なる種類の杭を連結して基礎杭とすること、その場合に、上杭の曲げ耐力を下杭の曲げ耐力よりも大きくすることが開示されているということができる。
他方、引用例14(甲第21号証)には「軟弱地盤で橋台などが基礎背面に盛土が行われる箇所では側方流動の可能性が高く」(10頁右欄33行目〜34行目)との記載が、引用例15(甲第22号証)には「通常、地表に近いところに存在する沈積層などの軟弱層を支持層になし得ないため」(1頁右欄6行目〜7行目)との記載があり、これらの記載によれば、軟弱地盤においては、通常、地表に近い地盤上層部が軟弱であって側方流動の可能性が高いことが開示されているということができる。
そして、1989年(平成元年)1月20日社団法人土質工学会第3刷発行の「基礎杭の設計法とその解説」(甲第31号証の1〜11)には、「軟弱地盤あるいは液状化する地盤では,地震時に計算で推定する以上の大きな変形が生ずる可能性があり,同様に軟弱地盤での橋台など偏荷重を受ける場合では,地盤の側方流動に伴い,杭基礎が大きな曲げを受けることもある(図-2.29)。これらの場合,あるいは杭体からその支持力が定められる場合には,杭体の耐力の高い杭種を選定するのが有利である」(同号証の5第106頁20行目〜107頁7行目)との記載及び地盤上層部の側方流動により杭体上部が曲げ変形を起こす図(同頁図-2.29)の表示があるとともに、「SC杭は曲げ耐力が大きく,一般に大きな応力が生じる上杭のみに用いられ,下杭にはPHC杭が用いられることが多い」(同号証の10第616頁18行目〜20行目)との記載があり、これらの記載及び図示は、上記引用例6、同7、同14、同15、同22及び同23の各開示事項と同旨であると認められるから、結局、本件特許出願当時(平成元年3月6日)、軟弱地盤においては、地表に近い地盤上層部が軟弱であって、側方流動や液状化の可能性が高く、これに対応するために、基礎杭として曲げ耐力の大きい杭を選択する必要があること、また基礎杭の中心よりも上部に大きな曲げ応力が生ずることに対応して、異なる種類の杭を連結して基礎杭とし、上杭の曲げ耐力を下杭の曲げ耐力よりも大きくすることが、当業者に周知であったものと認められ、そうすると、軟弱地盤において、異なる種類の杭を連結して基礎杭とする場合には、上杭に下杭よりも曲げ耐力の大きいものを選択することは、本件出願当時、当業者が基礎杭工事に当たり当然考慮すべき事項であったものと認められる。
ところで、本件公然実施発明は、上記のとおり、基礎杭上部に原告製の既製の円筒コンクリートパイル(PHCφ400の7mB種)を、下部に被告製の既製の節付きコンクリートパイル(HC-TOPφ400〜500の10mB種)を用い、これら両パイルを溶接して連結した基礎杭構造であり、異なる種類の杭を連結して基礎杭とした発明であるところ、これを、周知の地表に近い地盤上層部が軟弱である軟弱地盤に用いることができないと解する理由は特に見当たらない。そして、このような異なる種類の杭を連結した基礎杭を軟弱地盤において用いるときに、上杭に下杭よりも曲げ耐力の大きいものを選択することが、当業者の当然考慮すべき事項であったことは上記のとおりである。
他方、前掲「建築基礎構造設計規準・同解説」(甲第32号証の1〜4)には、「PCくいは,表1のようにひびわれ曲げモーメントの大きさにより,A種、B種およびC種に区分する.」(同号証の2第623頁)との記載とともに、
表1(同624頁)に、外径300o〜1200oの10種類の「PCくい」について、それぞれ種別に対応したひびわれ曲げモーメント等の具体的な値が掲載されており、これによれば、A種からC種に向かうほどひびわれ曲げモーメントが大きいこと、すなわち曲げ耐力が大きいことが示されているところ、「プレストレストコンクリートくい(以下PCくいという.)について規定する.」(同号証の2第623頁)との記載及び訂正明細書(甲第33号証の2)の「水平耐力が大きい既製杭として、下記の円筒パイルがあり、・円筒状のプリストレスコンクリートパイル・・・(PC杭・・・)」(段落【0004】)との記載に照らして、上記「PCくい」は、円筒パイルを意味するものと認められる。
また、被告の「HC-TOPパイル」のカタログ(甲第7号証)には、
「遠心力成形高強度節付コンクリート杭」である「HC-TOPパイル」にA種及びB種が存在し、具体的な値によって、B種の方が設計曲げモーメントが大きいこと、すなわち曲げ耐力が大きいことが示されている。
そうすると、本件公然実施発明ではともにB種であった円筒パイルと節付きコンクリートパイルとの組合せにおいて、例えば、円筒パイルにつきB種を、節付きコンクリートパイルにつきA種を選択して、円筒パイルの曲げ耐力を節付きコンクリートパイルより大きくすることは、何らの困難もなくできるものと認められる。
したがって、本件公然実施発明に、「上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設」する構成及び「円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用い」る構成を採用して、訂正発明1の構成とすることは、当業者が容易にし得たことといわざるを得ない。
(3) 被告は、「常圧蒸気養生されたプレテンション方式遠心力プレストレスト節付コンクリートくい(HC-TOPパイル)の取扱いについて」と題する昭和56年12月15日付け建設省住指発第301号特定行政庁建築主務部長宛て建設省住宅局建築指導課長通知(乙第10号証)に、被告の製造に係る節付コンクリート杭(HC-TOPパイル)につき「本くいは、継ぐいとして使用しないものとする。」との記載があること、昭和50年3月25日社団法人日本建築学会第1版第2刷発行の「建築基礎構造設計規準・同解説」(乙第9号証)に「同一の建築物または工作物に,支持ぐいと摩擦ぐいを混用してはならない」と記載されていることを根拠として、本件公然実施発明の実施当時(昭和60年10月〜12月ころ)及び本件特許の出願当時(平成元年3月6日)、円筒パイルと節付きコンクリートパイルを接続して使用することは、実用化されていなかったとか、円筒パイルと節付きコンクリートパイルを混用することは避けるべきものとされていたと主張し、それを前提として、そのような状況下においては、訂正発明1の「基礎杭上部に既製の円筒パイルを、下部に円筒パイルの径と略同径の胴部を有する既製の節付きコンクリートパイルを配する基礎杭構造であって、前記円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用い、これら両パイルを連結して上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設」するという技術思想は、当業者がこれを容易に想到することはできなかったと主張する。
しかしながら、本件公然実施発明において、上記建設省住宅局建築指導課長通知に係る被告製の節付コンクリート杭「HC-TOPパイル」を円筒コンクリートパイルと連結して基礎杭としたことは上記のとおりであるから、本件公然実施発明の実施当時(昭和60年10月〜12月ころ)においても、上記通知に係る行政上の規制が存続していたものとすれば、本件公然実施発明と当該規制との関係について主張立証を要するものというべきところ、本件において、そのような主張立証がないことに照らせば、本件公然実施発明の実施当時においては、既に当該規制がなかったものと推認するのが相当である。また、「建築基礎構造設計規準・同解説」の「同一の建築物または工作物に,支持ぐいと摩擦ぐいを混用してはならない」との記載は、同一の建築物又は工作物の建造に当たって杭を複数設ける場合に、支持杭としての作用をする杭と摩擦杭としての作用をする杭との混用を禁止することを述べたにとどまり、それに当たらない限り、種別を異にする杭の併用そのものが禁止されたものとは解されず、まして、種別を異にする杭を連結して1本の杭として使用することは上記記載と無関係であるというべきである。
したがって、上記通知や「建築基礎構造設計規準・同解説」の記載によって、被告主張のように、本件公然実施発明の実施当時、円筒パイルと節付きコンクリートパイルを接続して使用することが実用化されていなかったとか、避けるべきものとされていたと認めることはできない。
のみならず、上記のとおり、軟弱地盤においては、地表に近い地盤上層部が軟弱であって、側方流動や液状化の可能性が高く、これに対応するために、基礎杭として曲げ耐力の大きい杭を選択する必要があること、また基礎杭の中心よりも上部に大きな曲げ応力が生ずることに対応して、たとえ、円筒パイルと節付きコンクリートパイルとの組合せに限られないとしても、異なる種類の杭を連結して基礎杭とし、上杭の曲げ耐力を下杭の曲げ耐力よりも大きくすることが、当業者に周知であった状況下において、本件公然実施発明に係る上部に円筒パイルを、下部に節付きコンクリートパイルを用いて連結した基礎杭構造の存在を前提としたときに、
これを上層部が軟弱である軟弱地盤に用いることや、その際、上部の円筒パイルに下部の節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいものを選択することが、
当業者において容易に想到することができないとは到底認め難い。
したがって、被告の上記主張は採用することができない。
(4) また、被告は、本件公然実施発明は、地質調査未了時点に、地盤の性状とは無関係に、基礎杭構造を構成する各杭の少なくとも節付きコンクリートパイルの長さを同一にし、杭の長さにばらつきが生じた場合でも、各杭の鉛直支持力に違いが生じないようにするという技術思想に基づいて設計されたもので、当該技術思想に基づけば、各杭の同一深さ位置での曲げ耐力に違いが生じないようにするため、
接続して使用する円筒パイルと節付きコンクリートパイルとは、当然曲げ耐力の大きさを同一とすることが前提とされるものであるから、本件公然実施発明は「前記円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用いる」訂正発明1の技術とは相容れないものであると主張する。
しかしながら、本件公然実施発明の設計者である青山正巳作成の証明書(乙第7号証)には、「基礎杭構造を構成する各杭の少なくとも節付きコンクリートパイルの長さを同一(10m)にし、・・・杭の長さにばらつきが生じた場合でも、各杭の鉛直支持力に大きな違いが生じず、造営した寺務所等が不等沈下することを防止できるようにしました。・・・節付きコンクリートパイルの上に、円筒パイルを配するようにした理由は、専ら、杭の長さにばらつきが生じた場合に、節付きコンクリートパイルの長さを同一(10m)にするためにあります」(3頁2行目〜11行目)との記載はあるものの、各杭の同一深さ位置での曲げ耐力に違いが生じないようにするため、接続して使用する円筒パイルと節付きコンクリートパイルとは曲げ耐力の大きさを同一とすることが前提とされる旨の記載はない。そして、複数の杭が異なる場所に打設される場合に、地層の褶曲等により、それぞれの場所の同一深さ地点における地層が必ずしも同一とはいえないこと(公知の事実であると認められる。)を考慮すれば、基礎杭構造を構成する連結した各杭のうち、
節付きコンクリートパイルの長さを同一にして、杭の長さにばらつきが生じた場合でも、各杭の鉛直支持力に大きな違いが生じないようにしたからといって、各杭の同一深さ位置での曲げ耐力に違いが生じないようにしなければならない技術的な必然性は見いだせない。したがって、本件公然実施発明の技術思想に基づけば、各杭の同一深さ位置での曲げ耐力に違いが生じないようにするため、接続して使用する円筒パイルと節付きコンクリートパイルとは、当然曲げ耐力の大きさを同一とすることが前提とされるものとは認め難く、これを理由として、本件公然実施発明が「前記円筒パイルに節付きコンクリートパイルよりも曲げ耐力の大きいパイルを用いる」訂正発明1の技術とは相容れないものであるとする被告の上記主張は採用することができない。
なお、被告は、本件公然実施発明において、上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設するということが考慮されたものではないとも主張するが、本件公然実施発明が「上層が軟弱で下層が支持力を有する地盤に打設」する構成を備えない点を相違点とした審決の認定に誤りがないこと、本件公然実施発明を周知の地盤上層部が軟弱である軟弱地盤に用いることが容易であることは、いずれも上記のとおりである。
(5) そうすると、「公然実施された発明(注、本件公然実施発明)に、引用例12及び引用例6、7、17〜23の構成を適用して、前記相違点にあげた訂正後の請求項1に係る発明(注、訂正発明1)の構成のようにすることは、当業者が容易になしえるものとは認めることができない」(審決謄本12頁23行目〜26行目)とした審決の判断は誤りであるというべきである。
3 以上によれば、原告主張の審決取消事由2は理由があり、審決は、本件訂正の許否についての判断において、訂正発明1と本件公然実施発明との相違点についての判断を誤った結果、訂正発明1が特許出願の際独立して特許を受けることができるものである旨誤った判断をし、ひいて、本件訂正を認めることにより本件発明の要旨の認定を誤ったものといわざるを得ず、この瑕疵が、審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 宮坂昌利