関連審決 | 不服2003-15848 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 優先権 / 容易に想到(容易想到性) / 構成要件 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10203号
審決取消請求事件
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原告 カブドットコム証券株式会社 訴訟代理人弁護士 白石康広 訴訟代理人弁理士 土生哲也 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 竹中辰利 同 佐藤伸夫 同 佐藤智康 同 小曳満昭 同 宮下正之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2005/08/03 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2003-15848号事件について平成16年5月25日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「売買注文自動発注システム及び売買注文自動発注方法」とする発明について,平成12年9月13日に特許出願(平成12年特許願第277623号,優先権主張平成11年9月14日,日本)をし,平成15年4月4日付け手続補正書により願書に添付した明細書の補正(この補正後の請求項の数は8である。)をした(甲4号証)が,平成15年7月15日付けの拒絶査定を受けた。そこで,原告は,平成15年8月14日,拒絶査定に対する不服審判を請求するとともに,同日付け手続補正書をもって明細書の特許請求の範囲等の補正(以下,「本件補正」といい,本件補正後の明細書を「本願明細書」という。本件補正後の請求項の数は4である。)をした(甲6号証の2)。特許庁は,これを不服2003-15848号事件として審理した結果,平成16年5月25日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年6月3日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲(本件補正後の請求項1。下線部が本件補正により付加された部分である。) 「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システムであって, 前記売買注文についての注文伝票の内容を記憶する売買注文記憶手段と, 前記売買注文を取引市場システムに対して発注する発注執行手段と, 前記売買注文に付された発注条件をトリガとして記憶するトリガ記憶手段と, 前記トリガとして指定された条件項目を監視して,前記条件項目が前記トリガに合致したと判定すると,前記発注執行手段に対して前記売買注文を発注するための指示信号を送信する発注処理手段と, を備えていて, 前記売買注文記憶手段において ,発注条件 を付した 売買注文 を受け付けると 前記売買注文 についての ステイタス が発注処理待機 と記憶 され , 前記指示信号 には ,前記 ステイタス を発注処理可 と変更 する 指示 が含まれていて, 前記発注執行手段が前記指示信号を受信すると,前記売買注文記憶手段に記憶された注文伝票の内容に基づいて前記売買注文を発注すること を特徴とする売買注文自動発注システム。」(以下,「本願補正発明」といい,本件補正前の請求項1の発明を「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,特開昭61-86867号公報(以下,審決と同じく「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開平9-282376号公報に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本件補正を却下した上で,本願発明についても,同様に特許法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。 審決が本件補正を却下するに当たり認定した引用発明の内容,本願補正発明と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。 (引用発明の内容) 「指値を付した売買注文を証券取引所に発注する株式売買処理システムであって, 前記売買注文についての注文レコードを記憶するファイル(磁気ディスク装置)と, 前記売買注文を証券取引所4内に設置された市場端末装置に対して発注するホストコンピュータ2とを備え, 前記ホストコンピュータが,前記ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて前記売買注文を発注すること を特徴とする株式売買処理システム。」 (一致点) 「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システムであって, 前記売買注文についての注文伝票の内容を記憶する売買注文記憶手段と, 前記売買注文を取引市場システムに対して発注する発注執行手段と, を備えていて, 前記発注執行手段が,前記売買注文記憶手段に記憶された注文伝票の内容に基づいて前記売買注文を発注すること を特徴とする売買注文自動発注システム」である点 。 (相違点) (1) 本願補正発明は,「売買注文に付された発注条件をトリガとして記憶するトリガ記憶手段と,前記トリガとして指定された条件項目を監視して,前記条件項目が前記トリガに合致したと判定すると,発注執行手段に対して前記売買注文を発注するための指示信号を送信する発注処理手段とを備えていて,前記発注執行手段が,前記指示信号を受信すると,売買注文記憶手段に記憶された注文伝票の内容に基づいて前記売買注文を発注する」のに対し,引用発明には記載がない点。 (2) 本願補正発明は,「売買注文記憶手段において,発注条件を付した売買注文を受け付けると前記売買注文についてのステイタスが発注処理待機と記憶され,指示信号には,前記ステイタスを発注処理可と変更する指示が含まれている」のに対し,引用発明は,ステイタスについて明確にしていない点。 |
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原告主張の取消事由の要点
審決は,引用発明の内容,引用発明と本願補正発明との一致点の認定を誤って相違点を看過して,本願補正発明が容易想到であるとし,本件補正を誤って却下したものであり,また,上記相違点の看過は,本願発明についてもそのまま当てはまるものであって,これらの誤りがそれぞれ結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用発明認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法) 審決は,引用例1に「前記ホストコンピュータが,前記ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて前記売買注文を発注する」という構成が開示されていないのに,これが開示されていると誤った認定をし,これを前提に,「前記発注執行手段が,前記売買注文記憶手段に記憶された注文伝票の内容に基づいて前記売買注文を発注すること」が本願補正発明と引用発明との一致点であると誤認して,かかる部分が相違点であることを看過したものである。 すなわち,引用例1には, @「証券会社2のホストコンピュータは注文メッセージを受信すると,ファイル(磁気ディスク装置)上に,株式売買注文レコードを書込み,上述のCAT10に売買注文のメッセージを伝送する。CAT10はメッセージを受信すると注文伝票を印字して発行する。」(甲2号証の2,3頁左上欄8〜14行)という,顧客から受信した注文メッセージに関する注文伝票を顧客端末で印字する第1の動作と, A「証券会社2のホストコンピュータは証券取引所4内に設置された市場端末装置に対して,売買注文のメッセージを送信する。」(同3頁左上欄14〜16行)という,顧客から受信した注文メッセージを市場に送信する第2の動作と, B「証券会社2のホストコンピュータは約定メッセージを受信すると,注文処理時に作成しておいた注文レコード中に約定成立情報を書込んだ後,投資家のCAT10に出来通知をする。」(同3頁左上欄20行〜右上欄3行)という,市場からの約定メッセージを受けて顧客に出来通知を送信する第3の動作 という3つの動作についての記載がある。 この第1の動作及び第3の動作においては「注文レコード」について明示されているものの,第2の動作においては「注文レコード」には一切言及されておらず,注文メッセージを市場に送信する第2の動作において「ファイルに記憶された注文レコードのデータに基づいて発注する」ことは一切記載されていない。 つまり,引用例1には,「前記ホストコンピュータが,前記売買注文を発注する」ことについては記載されているものの,「前記ホストコンピュータが,『前記ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて』前記売買注文を発注する」とは明示されておらず,「前記ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて」売買注文を発注するという審決の引用発明の認定は,根拠を欠くものであって,明らかに誤りである。 また,第2の動作では,注文の受付から市場への発注までに時間差がほとんど生じないため,受け付けた注文メッセージをそのまま市場端末送信すればよく,受け付けた注文メッセージを一旦ファイルに注文レコードの形式で記憶させ,ファイルから注文レコードの内容を読み出して発注する必然性に乏しいことが明らかであることを考慮すると,第2の動作において注文レコードとの関係が明記されていない理由は,ファイルに記憶された注文レコードを用いることが必須の構成要件でないためであることは明らかである。したがって,引用発明に「ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて売買注文を発注する」との構成が含まれるとの審決の認定は誤りである。 2 取消事由2(一致点認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法) 審決は,引用発明における「指値」が本願補正発明の「発注条件」に相当するとして,「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」である点を本願補正発明と引用発明との一致点であると誤って認定したことにより,この点についての相違点を看過したものである。 「指値」とは,売買価格を明示した注文のことをいうが,「指値」において指定される条件は,価格がいくらであれば約定してよいかを指定する価格を基準とする「約定の条件」であって,「発注についての条件」を指定するものではない。 すなわち,引用発明における「指値」注文は,「証券会社が証券取引所等に対して行う自己の名をもって投資者の計算で行う株式売買注文」として認められている注文であり,証券会社が投資者から指値注文を受ければそのままその注文を証券取引所に取り次ぐというものである。これに対し,本願補正発明の「発注条件」は,証券会社が証券取引所等に対して行う株式売買注文の注文内容に含まれる条件のことではなく,投資者が証券会社に対して行う株式売買取引委託注文において,前記株式売買注文に対して顧客が付した特殊な発注条件のことである。証券会社が証券取引所等に対して行う株式売買注文には,「指値注文」と「成行注文」の2種類の注文しか存在しないが,本願補正発明においては,この2種類の形態による注文の発注のタイミングについて,価格,時間等の様々な条件を設定することができるのであり,これを「発注条件」としているものである。 以上のように,本願補正発明における「発注条件」とは,「指値」等の証券取引所等で受け付け可能な通常の株式売買注文の注文形態をいうものではなく,株式売買注文についての株式売買取引委託注文において,価格,時間等について設定された特殊な条件であることが明らかである。 したがって,引用発明の「指値」は本願補正発明の「発注条件」に相当するものではなく,「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」の点で,本願補正発明と引用発明とが一致するとした審決の認定は誤りである。 3 取消事由3(本願発明についての判断の違法) 前記1及び2の相違点の看過は,引用発明と本願発明との相違点の看過としてもそのまま当てはまるものであるから,かかる相違点を看過してされた審決の本願発明についての判断もまた違法である。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(引用発明認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)について 引用例1に「証券会社のホストコンピュータが,『ファイルに記憶された売買注文のデータに基づいて』前記売買注文を証券取引所に発注すること」についての明示的記載がないことは,原告の主張するとおりである。 しかしながら,引用例1に接した当業者は,引用発明において,「証券会社のホストコンピュータが,『ファイルに記憶された売買注文のデータに基づいて』前記売買注文を証券取引所に発注すること」の点をも当然に読み取り得るといえるから,引用発明についての認定に誤りはなく,原告主張の一致点認定の誤り,相違点の看過はない。 2 取消事由2(一致点認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)について 本願補正発明は,請求項1の記載によれば,「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」であるから,「発注条件を付した売買注文」は「取引市場」に発注されるものであり,取引市場での発注が許される形態でなければならない。すると,原告の説明では,この注文形態は「指値注文」か「成行注文」しか存在しない。よって,「発注条件」が上記2種類以外の特殊な発注条件も可能とする原告の主張は,原告の上記説明と自己矛盾をきたすものであり,失当である。 また,原告は,本願補正発明の「発注条件」が特殊な発注条件であると主張しているが,請求項1の記載を見ても,特殊であることは記載されておらず,根拠のない主張である。 なお,仮に原告が主張するように,本願補正発明の「発注条件」が,「投資者が証券会社に対して行う株式売買取引委託注文」に付される条件のことであり,「特殊な発注条件を含むもの」と解したとしても,引用発明の「指値」が「投資者が証券会社に対して行う株式売買取引委託注文に付される条件」でもあり,「発注条件」の概念に含まれるものであることは明らかであるから,「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」である点を本願補正発明と引用発明との一致点と認定することに問題はない。 3 取消事由3(本願発明についての判断の違法)について 前記のとおり,取消事由1及び2が失当である以上,それと同一の内容である取消事由3も失当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)について (1) 原告は,引用例1には「ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて売買注文を発注する」との構成が開示されていないのに,審決が,これを引用発明の内容として認定し,「前記発注執行手段が,前記売買注文記憶手段に記憶された注文伝票の内容に基づいて前記売買注文を発注すること」を本願補正発明と引用発明との一致点と認定したのは誤りである旨主張する。 (2) 確かに,引用例1(甲2号証の2)には,審決が認定した引用発明の構成のうち,「指値を付した売買注文を証券取引所に発注する株式売買処理システムであって,前記売買注文についての注文レコードを記憶するファイル(磁気ディスク装置)と,前記売買注文を証券取引所4内に設置された市場端末装置に対して発注するホストコンピュータ2とを備え,前記ホストコンピュータが,前記売買注文を発注することを特徴とする株式売買処理システム」との構成は明記されているが(この点は原告も争っていない。),「証券会社のホストコンピュータが,『ファイルに記憶された売買注文のデータに基づいて』前記売買注文を証券取引所に発注すること」という点は,明示的には記載されていない。 ア しかしながら,引用例1(甲2号証の2)には,「前記ホストコンピュータは,前記端末装置から伝送された注文データに基づいて受注処理をする手段と,前記受注処理手段の受注処理に応答して,株式売買の承認メッセージを前記端末装置に伝送する手段とを備える・・・・。」(1頁左欄16行〜右欄1行),「証券会社2のホストコンピュータは注文メッセージを受信すると,ファイル(磁気ディスク装置)上に,株式売買注文レコードを書込み,上述のCAT10に売買注文の承認のメッセージを伝送する。CAT10はメッセージを受信すると注文伝票を印字して発行する。証券会社2のホストコンピュータは証券取引所4内に設置された市場端末装置に対して,売買注文のメッセージを送信する。・・・」(3頁左上欄8行〜16行)との記載があり,これによると,引用発明においては,ホストコンピュータに売買注文についての注文レコードを記憶するファイルがあることを前提として,端末装置から伝送された注文データに基づいて受注処理をする構成が含まれており,かかる処理をした上で,注文データが市場に送信されることとなっていると理解することができる。注文を受け付けてから送信するまでの間に,ホストコンピュータ内では受注処理という作業が行われ,その間,データの記憶が保持されていなくてはならないのであり,このような構成を前提とすれば,引用発明において,注文は,ホストコンピュータ内の記憶するファイルに記憶された上で,ここから市場端末装置に送信されるものであると解するのが最も自然である。 イ また,原告も主張するように,投資者が株式を売買するためには,投資者が証券会社に対して株式売買の委託注文を出し,当該投資者(顧客)の委託注文を受けた証券会社が自己の名をもって証券取引所に対して株式の売買注文を出すという2つの手順を踏むことになる。そして,証券取引所における取引に参加できる者は一定の証券会社に限られている(甲9,10号証)。 そうだとすれば,原告が主張する引用例1の第1の動作(証券会社が顧客から売買注文を受信し,受信した注文メッセージに関する注文伝票を顧客端末で印字する動作)と,第2の動作(証券会社が証券取引所の市場端末装置に対して売買注文のメッセージを送信する動作)とでは,注文者名が異なることになるから,第1の動作により顧客から受信した売買注文メッセージをそのままの形で証券取引所へ送信することは通常考えられず,少なくとも注文者名を変更する必要性があることは明らかであり,そのためには,顧客からの注文メッセージはホストコンピュータにおいて何らかの形で記憶され(この記憶に際してファイル(磁気ディスク装置)を利用すること自体は,慣用手段に過ぎないことは明らかである。),そこで必要なデータ変換等を経て証券取引所へ送信されるものと捉えることが合理的である。 ウ 以上からすると,「証券会社のホストコンピュータが,ファイル(磁気ディスク装置)に記憶された売買注文のデータに基づいて前記売買注文を発注すること」という構成は,引用例1の記載から十分に示唆されているということができ,引用例1に接した当業者であれば,そこから上記構成の点も理解し得るものである。 なお,原告は,引用発明においては,注文の受付から市場への発注までに時間差がほとんど生じないため,受け付けた注文メッセージをそのまま市場端末送信すればよく,受け付けた注文メッセージを一旦ファイルに注文レコードの形式で記憶させてファイルから注文レコードの内容を読み出して発注する必然性に乏しいと主張するが,前記のとおり,顧客からの売買注文メッセージを受け付けて,証券取引所へ売買注文を送信する際には,少なくとも注文者名を変更する必要性があるのであって,原告の上記主張は採用できない。 (3) したがって,審決の引用発明の認定に誤りはなく,「前記発注執行手段が,前記売買注文記憶手段に記憶された注文伝票の内容に基づいて前記売買注文を発注すること」を本願補正発明と引用発明との一致点としたことに誤りはないのであって,この点について審決に相違点を看過した違法はない。 2 取消事由2(一致点認定の誤りに基づく相違点の看過による補正却下決定の違法)について 原告は,審決が,引用発明における「指値」が本願補正発明の「発注条件」に相当するとして,「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」である点を本願補正発明と引用発明との一致点であると認定したのは誤りであると主張する。 (1) その理由として,原告は,「指値」において指定される条件は,価格を基準とする「約定の条件」であって,「発注についての条件」を指定するものではないと主張する。 しかしながら,本願補正発明においては,発注条件をトリガとして設定するものであるところ,本願明細書には,「トリガ項目としては上述の「価格」,「時間」等のほか,「出来高」,「約定」等のいろいろな条件をトリガ項目として設定することができる。」(甲1号証6頁10欄30〜33行),「前記発注条件には,前記取引市場における取引価格,前記取引市場における出来高,時間,売買注文の約定の少なくとも一つに関する条件が含まれており・・・・」(甲6号証の2【請求項2】,本件補正前の【請求項3】(甲4号証))との記載があり,これらによれば,「約定の条件」が「発注条件」に含まれていることが明らかである。 また,「指値」とは,一般に,「客が取引所や一般市場で売買注文をする場合に指定する希望の値段,指定値段」(広辞苑第5版)を意味するものであり,通常の用法として,「指値」が発注の際に付される条件,すなわち発注条件であることを否定することはできない。 したがって,「指値」は「発注条件」に含まれない旨の原告の上記主張は採用することができない。 (2) また,原告は,本願補正発明の「発注条件」は,証券会社が証券取引所等に対して行う株式売買注文の注文内容に含まれる条件のことではなく,投資者が証券会社に対して行う株式売買取引委託注文において付した特殊な発注条件のことであると主張する。 しかしながら,本願補正発明においては,請求項1に「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」「前記売買注文に付された発注条件」「発注条件を付した売買注文」というように,発注条件は売買注文に付されるものとして特定されていることが明らかである。そして,「売買注文を取引市場に発注する・・・・」とあることから,「売買注文」には取引市場すなわち証券取引所に対するものを含んでおり,顧客から証券会社への注文に付される条件に限られるものではないことが明らかである。したがって,この「発注条件」には,「取引市場に発注」される売買注文に付される条件,すなわち売買注文のための条件を含むと解するのが相当であり,株式をいくらで売り,いくらで買うといった「指値」を含むものであるというべきである。 原告は,本願補正発明の「発注条件」は売買注文の発注のタイミングについて設定した様々な条件を意味するもので,引用例1の「指値」と異なる旨主張しているが,本願補正発明の特許請求の範囲には,単に「発注条件」という記載があるだけであり,また,上記のとおり「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する」と記載されていることに照らしても,その「発注条件」を原告主張のような条件のみを意味するものと限定して解釈することはできないといわざるを得ない(なお,審決は,本願補正発明が原告の主張する「発注のタイミングについて設定した様々な条件」に対応可能な構成を有している点について,引用発明との相違点としてこれを認定し,その容易想到性について判断している。)。 したがって,本願補正発明の発注条件に関する原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものといわざるを得ず,これを採用することはできない。 (3) 以上のとおり,引用発明における「指値」が本願補正発明における「発注条件」に相当するとして,「発注条件を付した売買注文を取引市場に発注する売買注文自動発注システム」の点を本願補正発明と引用発明との一致点とした審決の認定に誤りはなく,この点について審決に相違点を看過した違法はない。 3 取消事由3(本願発明についての判断の違法)について 取消事由1及び2が理由のないことは前記のとおりであるから,これらと同様の相違点の看過をいう取消事由3もまた理由がない。 4 結論 以上のとおりであって,原告が主張する取消事由は理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 佐藤久夫 |
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裁判官 | 若林辰繁 |
裁判官 | 沖中康人 |