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事件 平成 17年 (行ケ) 10320号 審決取消請求事件
原告 三菱電機株式会社
訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
被告 株式会社モリテックス
訴訟代理人弁理士 三觜晃司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/08/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2003-35484号事件について平成16年7月20日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
本件は,後記本件発明の特許権者である原告が,被告請求に係る無効審判において,本件発明1,2についての特許を無効とするとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本件特許 特許権者:三菱電機株式会社(原告) 発明の名称:「発光モジュールの組立方法および組立装置」 特許出願日:昭和61年2月18日(特願昭61-33187号) 設定登録日:平成8年11月21日 特許番号:第2112777号 訂正審判請求日:平成12年5月30日(訂正2000-39051号) 訂正認容審決日:平成12年8月1日(甲2の2) (2) 本件手続 審判請求日:平成15年11月25日(無効2003-35484号) 審決日:平成16年7月20日 審決の結論:「特許第2112777号の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達日:平成16年7月30日(原告に対し) なお,原告は,本訴提起後にも訂正審判請求をしたが,特許庁から拒絶理由通知を受け,同請求を取り下げた。
2 本件発明に関する特許請求の範囲の記載 (訂正2000-39051号の訂正審判(甲2の2)による訂正後の記載。以下,請求項番号に対応して,それぞれの発明を「本件発明1」などという。なお,本件発明は請求項3まであるが,本件無効審判請求は,請求項1,2に係る特許に対してされ,審決も請求項1,2に係る特許を無効としたものであるので,請求項3(組立装置の発明)の記載は省略する。また,上記訂正に係る全文訂正明細書は,甲2の3(特許審決公報)の5頁以下に記載されており,以下,これを「本件訂正明細書」という。) 【請求項1】 キャップ付発光器と,光ファイバーを保持したファイバー端末と,上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し, (a)上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合するように上記ファイバー端末を移動させる工程, (b)上記ファイバー端末を移動させることにより上記キャップ付発光器と光ファイバーとの最適光結合位置を検出し,その位置状態で上記ファイバー端末とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定する工程, (c)上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合する位置を,上記キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させることにより検出し,その位置状態で上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する工程の順序で組立てることを特徴とする発光モジュールの組立方法
【請求項2】 キャップ付発光器と,光ファイバーを保持したファイバー端末と,上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し, (a)上記キャップ付発光器をx軸,y軸方向に,また上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程, (b)上記(a)工程後に,上記ファイバー端末とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定する工程, (c)上記(b)工程後に,上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を,上記キャップ付発光器をx,yの二次元内に移動させて検出する工程, (d)上記(c)工程後に,上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のx,y軸方向を固定する工程の順序で組立てることを特徴とする発光モジュールの組立方法
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,刊行物1として特開昭60-136387号公報(審判甲1,本訴甲3。この記載に係る発明を「刊行物1発明」という。),刊行物2として国際公開WO79/00099パンフレット及び翻訳文(審判甲2,本訴甲4。この記載に係る発明を「刊行物2発明」という。)を摘示した。
(2) 審決は,本件発明1と刊行物1発明との一致点を次のとおり認定した。
「『キャップ付発光器と,光ファイバーを保持したファイバー端末と,上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し,上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記ファイバー端末をz軸方向に移動させるとともに,上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間でx,yの二次元内で移動させることにより,最適光結合位置を検出し,その位置状態で上記ファイバー端末とファイバーホルダー,及び上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する発光モジュールの組立方法。』である点で一致」 (3) 審決は,本件発明1と刊行物1発明との相違点を次のとおり認定した。
「相違点1:発光モジュールを組み立てる順序に関して,本件発明1は,『(a)ファイバー端末をファイバーホルダーに挿入した状態で,上記ファイバー端末を移動させ,z軸方向の位置を決める工程,(b)その位置で,光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程,(c)x,y軸方向の位置を決め,その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固定する工程,の順に組み立てる』のに対して,刊行物1発明は,特に位置決め及び固定(レーザ溶接)の順序を開示していない点。」 「相違点2:キャップ付発光器とファイバーホルダーとのx,y軸方向の位置決め時の移動に関して,本件発明1は,『キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる』のに対して,刊行物1発明は,ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させる点。」 (4) 相違点1について (4-1) 審決は,相違点1について次のとおり判断した。
「…刊行物1には,…光結合をなすため,x,y軸方向,z軸方向の位置調整を行い,次いでレーザ溶接により固定することは,記載されていても,位置調整及び溶接固定の順序を具体的に示す記載はないし,当然,その理由も記載されていない。
しかしながら,…刊行物2には,上記相違点1の『(a)ファイバー端末をファイバーホルダーに挿入した状態で,上記ファイバー端末を移動させ,z軸方向の位置を決める工程,(b)その位置で,光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程,(c)x,y軸方向の位置を決め,その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固定する工程,の順に組み立てる』ことが,記載されているといえる。
そこで,刊行物1に記載のものをレーザ溶接で組み立てるに際し,上記刊行物2に記載された位置調整及び固定の順序が,適用可能であるか否かについて,以下に検討する。 刊行物2には,z軸方向の位置調整と固定を,x,y軸方向の位置調整と固定より先に行う理由が次のように記載されている。 『z方向の調整は少しも重要でないので,ファイバーは,まずこの方向に固定される。』 …刊行物1に記載のものにおいては,z軸方向の位置合わせ精度は,x,y軸方向のそれに比べて1桁以上余裕があり,x,y軸方向の位置合わせほど慎重を要せず,固定時に,仮に誤差が生じたとしてもほとんど問題にならず,爾後に修正の必要がないものということができる。 このことは,刊行物2に記載のものにおいても同様であり,むしろ,レンズを有さない刊行物2に記載のものでは,位置合わせ精度の違いはさらに顕著であると解されるから,結局,光ファイバーと発光器の結合においては,「z方向の調整は少しも重要でない」ないしは「z方向の調整はほとんど臨界的ではない」ということができる。
…上記…から,z軸方向の位置合わせ精度は,x,y軸方向に比べてあまり重要ではなく,また,z軸方向の位置合わせは,後に修正する必要性がほとんどないことから,z軸方向の固定を先にしようが,後にしようが,z軸方向の位置合わせ精度の観点からはどちらでもよいことが理解できる。
そこで,x,y軸方向の位置合わせ,固定を精度良く行うには,どのような順序で組み立てればよいのか考えてみると,ファイバーホルダーにファイバー端末を挿入し,ファイバー端末をz軸方向にのみ移動可能にした構造のもの(本件発明及び刊行物1,2発明)においては,ファイバーホルダー内で,ファイバー端末をx,y軸方向に移動することは,構造的に無理であり,かかる移動によりx,y軸方向の位置ずれを精度良く修正することはほとんど不可能であるから,刊行物2発明のごとく,z軸方向の固定を先に行い,x,y軸方向の固定を後にして,x,y軸方向の位置ずれを修正できるようにすることが,むしろ,必然であると理解できる。
してみると,刊行物1,2発明のような発光モジュールを精度良く組み立てるためには,刊行物2発明のように,z軸方向の固定を先に行い,x,y軸方向の固定を後にすることが必然であり,しかも,このような組立順序は,固定手段がレーザ溶接であるか,接着であるかにかかわらず,組立精度を出すために必然であることが理解できる。
…以上のとおり,刊行物2に記載されたような順序で発光モジュールを組み立てることには,…組立精度を出すための十分な理由があり,しかも,このような組立順序は,固定手段がレーザ溶接であるか,接着であるかにかかわらず,組立精度を出すために必要な事項であること,また,刊行物1発明において,組立に際し,光の結合効率を良くするためには,x,y軸方向の精度が特に重要であること,が明らかであるから,刊行物2発明のものを刊行物1発明に適用するについて,十分な動機があるというべきであり,また,特段の阻害要因も存在しないから,相違点1は,刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整,組立順序を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものといえる。」 (4-2) 審決は,相違点1についての原告の主張を,次のように排斥した。
(A)「…YAG溶接と組立順序を組み合わせ…については,上記…のとおり…組合せには十分な動機がある…。」 (B)「刊行物2発明には,発光素子から出た光がレンズにより集光されるキャップ付発光器が存在せず,したがって『z方向の調整は少しも重要でない』のだから,z軸方向の最適結合の必要性が全くない構成であり,本件発明1とは前提が異なる,との主張については,…本件発明1には,単に『キャップ付発光器』と記載され,レンズについての明示の記載はないから,このものがレンズを備えると解することはできず,また,当該技術分野において『キャップ付発光器』なる用語が,レンズ付発光器を意味するものともいえないから,上記主張は,そもそもその主張の前提となる要件を欠いており,採用できない。」 (C)「刊行物2発明は,…z軸方向の固定に際してx,y軸方向のずれを生じない構成であり,本件発明1とは前提が異なる,との主張については,…『z方向の調整はほとんど臨界的ではない(z方向の調整は少しも重要でない)ので,ファイバーは,まずこの方向に固定される。』ことの技術的意義が,上記『嵌めあいが密着しているので,…ファイバーの位置には影響を与えない。』なる記載のいかんにかかわらず,組立精度を出すために最終的にx,y軸方向の調整を可能にすることにあるのは明らかであるから,上記主張は採用しない。」 (D)「本件発明1は,キャップ付発光器からの光が光ファイバーに最適結合する位置がz軸方向とx,y軸方向の影響をともに受け,かつ,z軸方向をレーザ溶接という手段で固定する際に,x,y軸方向にずれを生ずるという知見の下に,かかる組立順序を採用したのであるから,このような前提が存在しない刊行物2に記載のものに基づいて,本件発明1の構成を前提としてかかる組立順序を採用することは予測し得ない,との主張については,当該主張の前提となる上記における主張が採用できないのであるから,当然採用することができないというべきである。」 (5) 審決は,相違点2について次のとおり判断した。
「キャップ付発光器とファイバーホルダーとのx,y軸方向の位置決め時の移動に関して,本件発明1は,『キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる』のに対し,刊行物1発明は,ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させる点で,両者は一応相違する。
しかしながら,x,y軸方向の位置決めは,キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間で,両者が相対的に移動し,位置調整されれば達成可能であることは,いわば常識であるから,他方を固定し,一方を移動させることに,組立方法における特段の作用効果があるというのでない限り,これとは逆に,一方を固定し,他方を移動させることと技術的に等価であるといわざるを得ない。
そこで検討するに,本件訂正明細書の全記載を参酌しても,本件発明1において『キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる』ことに,組立方法における特段の作用効果があるとは見いだせないから,刊行物1発明のごとく,ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させることと実質的な差異があるとはいえず,上記相違点2は単なる設計的事項というべきである。」 (6) 審決は,本件発明1の効果について,次のとおり判断した。
「以上のとおり,相違点1に特段の困難性があるとはいえず,また,相違点2は実質的な相違とはいえないから,これらの相違点を組み合わせたとしても,相違点1に係る効果以上の,予期し得ない格別な効果を奏することがないことは明らかである。」 (7) 審決は,本件発明1について,次のとおり結論付けた。
「本件発明1は,刊行物1及び2の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (8) 審決は,本件発明2について,次のとおり認定判断した。
「本件発明2では,本件発明1の特定事項(a)を, (i)『(a)上記キャップ付発光器をx軸,y軸方向に,また上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程,』と変更し, さらに,本件発明1に記載された『最適結合』,『最適光結合位置』,『最適結合する位置』を, (A)『最大入射する位置』と変更している。 上記(A)の変更については,最大入射する位置が,最適結合位置にほかならないのは技術常識であるから,両者は単なる表現の相違にすぎず,実質的に同一である。
そこで,上記(i)について,本件発明2と刊行物1発明とを対比すると,…刊行物1発明には, (B)『上記ファイバーホルダーをx軸,y軸方向に,また上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で光軸(z軸)方向に移動させて上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最大入射する位置を検出する工程,』が開示されているといえる。
上記(i)と(B)とを対比すると,上記(i)が『キャップ付発光器をx軸,y軸方向に』移動するのに対し,上記(B)は,『ファイバーホルダーをx軸,y軸方向に』移動する点でのみ相違するが,これは上記相違点2にほかならない。
よって,本件発明2は,前述の相違点1及び2で,刊行物1発明と相違しているといえるところ,相違点1及び2については,既に…述べたとおりである。 したがって,本件発明2は,刊行物1及び2の発明に基づいて,容易に発明をすることができたものである。」 (9) 審決は,次のとおり総括した。
「本件発明1及び2は,本件の出願前に頒布された刊行物1及び2の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。」
原告の主張(審決取消事由)の要点
審決は,本件発明がレンズを有しないと事実誤認し(取消事由1),相違点1についての判断を誤り(取消事由2),相違点2についての判断を誤った(取消事由3)ものである。取消事由1は,取消事由2の原因となっているものであり,相互に関連する。しかし,取消事由3は,これらとは直接の関連性がなく一応独立した事由である。
1 取消事由1(本件発明に関する事実誤認) 本件発明のキャップ付発光器はレンズを有するものである。このことは,本件訂正明細書において,(1)「発光素子(4)から出た光は球レンズ(5)により集光されて光ファイバー端末(6)で保持された光ファイバー(3)へ入射して」との記載があること,(2)「光線捜索(11)で見つかった位置をスタート点にして,光ファイバー(3)へ光が最も大きく入射する位置をxyzの三次元内で見つける動作(xyzピークサーチ(12))を行う。」との記載があること,(3)「xyzピークサーチ(12)」と「xyピークサーチ(16)」とを明確に区別していること,及び,本件特許公報の第5図において,(4)レンズによる光の集光を示す点線が記載されていることなどを総合することにより,当業者が容易に理解できたことである。
したがって,審決の「(キャップ付発光器が)レンズを備えると解することはできず,また,当該技術分野において『キャップ付発光器』なる用語が,レンズ付発光器を意味するものともいえない」(甲1の18頁14〜16行目。判決注:前記第2,3(4)(4-2)(B))との認定は事実誤認であり,この誤認が審決の結論に影響を及ぼしたことは明らかである。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り) 刊行物1発明では,三次元内で最適結合位置を検出した後に,z軸方向もx,y軸方向も固定してしまうものである。この方法によれば,作業時間が長くなる,熟練作業者の経験が必要であるなどの問題点がある。
本件発明は,キャップ付発光器がレンズを有することを前提として,三次元内で最適結合位置を検出した後にz軸方向のみを固定し,さらにx,y面内で最適結合位置を再検出してからx,y軸方向を固定することにより,この問題を解決したものである。本件発明以前には,YAG溶接に伴う位置ずれについて検討されたことはなく,まして,YAG溶接に伴う位置ずれの大小関係をz軸方向の固定に伴うx,y軸方向のずれと,x,y軸方向の固定に伴うz軸方向のずれとに分けて比較することなど全く行われていなかった。本件発明の最大の特徴は,固定によるずれの発生という新たな課題を発見し,z軸方向を先に固定するという解決手段を提供したことにある。
一方,刊行物2発明では,レンズを有する発光器が存在しないから,三次元内で最適結合位置を検出することは行われていない。刊行物2発明では,光源からの光は直線的に進行して光ファイバーに入射するだけであるから,光源から遠くなることによって光が減衰することはあっても,z軸方向に入射する光のエネルギーが最大になるピーク位置は存在しない。したがって,三次元内で最適結合位置を検出することは行われない。製作上可能な範囲でz軸方向の位置を適当に決めて固定し,x,y面内で最適結合位置を検出すれば足りる。
このように,本件発明及び刊行物1発明は,光源から出た光がレンズによって集光されて光ファイバーに入射することを前提とする発明である。これに対して,刊行物2発明は,光源から出た光がそのまま直進して光ファイバーに入射するものである。したがって,刊行物2発明においては,「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作」を行う理由もなく,現実にも行われていない。
刊行物1発明と刊行物2発明とは前提を異にするから,そもそも,「刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整,組立順序を適用すること」はあり得ない。すなわち,刊行物2にはレンズを有するキャップ付発光器が記載されていないから,そもそも,本件発明の解決した課題自体が存在しないのであって,刊行物2発明においてz軸方向を固定してからx,y軸方向を固定しているからといって,その順番を刊行物1発明に適用する動機は存在しない。また,刊行物1には,YAGレーザ溶接によって生じる位置ずれについての示唆はなく,当業者は,z軸方向を固定してからx,y軸方向の位置を再調整してx,y軸方向を固定するという着想を刊行物1からは得られない。
しかし,あえて,刊行物2発明の発想を刊行物1発明に適用することを前提として刊行物2を理解するならば,刊行物2には,x,y面内での位置調整を行った後にx,y軸方向の固定を行うという当たり前のことが記載されているにすぎない。
この発想を刊行物1発明に適用するならば,「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作」を行った後に,x,y,z軸方向をいずれも固定するという発想しか生まれない。
これに対して,本件発明は,「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作」を行ったにもかかわらず,z軸方向のみを固定し,その後,さらに「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y面内で見つける動作」を行ってからx,y軸方向を固定することを構成要件とするものである。そして,本件発明は,甲8の実験報告書に記載されたような顕著な効果を奏するのである。
したがって,審決の「相違点1は,刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整,組立順序を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものといえる。」(甲1の17頁下から3〜1行目。判決注:前記第2,3(4)(4-1)末尾)との判断は,本件発明の進歩性の判断を誤ったものであり,この判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼしたことは明らかである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り) 審決は,「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」ことと,「ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させる」こととの相違を相違点2として認定しながら,「上記相違点2は単なる設計的事項というべきである。」(甲1の19頁19行目。判決注:前記第2,3(5)末尾)と判断した。しかし,「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」ことにより特有の効果が得られるから,審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼしたことは明らかである。
被告の主張の要点
1 取消事由1(本件発明に関する事実誤認)に対して 本件訂正明細書においては,原告が主張している「レンズ」に関する説明は,特許請求の範囲,発明の詳細な説明における産業上の技術分野,従来の技術,発明が解決しようとする課題,問題点を解決するための手段及び作用の項のいずれにも全く記載されていない。
キャップ付発光器に関するレンズについての説明は,本件訂正明細書実施例の項に「(5)は球レンズ」,「球レンズ(5)により集光されて」と2個所に記載され,また図面の簡単な説明の項に「(5)は球レンズ」として1個所に記載されているにすぎない。またこれらの記載は,「レンズ」ではなく,それよりも下位概念の「球レンズ」である。
また,原告は,レンズによる集光という問題がなければ,x,y平面内で光線を見出せばx,y,zピークサーチが不要であることは当業者に自明であるから,本件訂正明細書に「光ファイバー(3)へ光が最も大きく入射する位置をxyzの三次元内で見つける動作(xyzピークサーチ(12))を行う。」という記載があることから,当業者がレンズが本件発明の不可欠の要素であることを知ることは極めて容易であると主張しているが,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作を行うからといって,それが,直ちに「レンズ」が不可欠な要素ということはできない。
例えば,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作は,刊行物2(甲4)の装置においても行われている。
刊行物2には,x軸方向,y軸方向に調整を行うための微調整ねじ31,32とz軸方向に調整を行うための調整ねじ27を有するx,y,z軸方向の調整機構が記載され,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作が明確に記載されている。
したがって,本件訂正明細書の記載によって,本件の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された「キャップ付発光器」という用語を,原告主張のように「レンズ」を有するキャップ付発光器を意味するものであると限定して解釈すべきものと根拠付けることはできず,また,当該技術分野において「キャップ付発光器」という用語が,「レンズ」を有するキャップ付発光器を意味するものであるということもいえない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対して 原告は,審決の一致点の認定に対して,本件発明においては,最初の位置状態で固定されるのはz軸方向のみであり,その後,さらにx,y軸方向の位置の再調整が行われるので,「その位置状態で」の部分は一致点の認定に含まれるべきではない,と主張している。
しかしながら本件発明1も刊行物1発明も,工程の順序を考慮しなければ,「上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記ファイバー端末をz軸方向に移動させるとともに,上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間でx,yの二次元内で移動させることにより,最適光結合位置を検出」する工程と,最適光結合位置が検出された状態において,「上記ファイバー端末とファイバーホルダー,及び上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する」工程を有することは明らかであり,審決は,本件発明1と刊行物1発明の共通点を,工程の順序を考慮せずにとらえ,その上で,工程の順序を相違点1として取り上げて判断しているのであるから,一致点についての認定に誤りはない。
審決の相違点1についての判断に対し,原告は,刊行物2発明には,レンズを有するキャップ付発光器が記載されていないから,本件発明の解決した課題自体が存在せず,したがって,刊行物2に記載された順番を刊行物1発明に適用する動機は存在しないと主張する。
しかしながら,刊行物2には,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置,すなわち最適光結合位置をx,y,zの三次元内で見つけるための調整機構の構成及び調整動作が明確に記載されているとともに,調整後には,まずz軸方向を固定することが,明確に記載されており,さらに,z軸方向を固定した後に,x,y軸方向を調整し,その後にx,y軸方向を固定することが明確に記載されている。すなわち,刊行物2発明は,このように最適光結合位置をx,y,zの三次元内で見つける動作を行い,その最適光結合位置で,まずz軸方向を固定し,その後にx,y軸方向を調整するのであるから,このx,y軸方向の調整は,z軸方向の固定によって生じた最適光結合位置からのずれを補正することにほかならない。なぜならば,最適光結合位置でz軸方向を固定した際に,x,y軸方向にずれないのであれば,このx,y軸方向を調整する必要がないからである。
したがって,審決の認定判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対して 原告が「キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる」ことについて主張している作用効果は,単なる実施例として示された構造についてのものであって,本件発明の作用効果ではなく,また原告が主張している作用効果も本件訂正明細書中には全く記載されていない。
したがって,審決の認定判断に誤りは認められず,取消事由3は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明に関する事実誤認)について (1) 本件発明1の「キャップ付発光器」が「レンズを有するもの」であると認定されるべきか否かについて検討する。
(2) 発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないものというべきである(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。
(3) そこで,本件発明1の特許請求の範囲の記載をみるに,「キャップ付発光器と,光ファイバーを保持したファイバー端末と,上記ファイバー端末が挿入されるファイバーホルダーとを具備し,(a)上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合するように上記ファイバー端末を移動させる工程,(b)上記ファイバー端末を移動させることにより上記キャップ付発光器と光ファイバーとの最適光結合位置を検出し,その位置状態で上記ファイバー端末とファイバーホルダーとをレーザ溶接して光ファイバーとキャップ付発光器のz軸方向を固定する工程,(c)上記キャップ付発光器からの光が上記光ファイバーに最適結合する位置を,上記キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させることにより検出し,その位置状態で上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する工程の順序で組立てることを特徴とする発光モジュールの組立方法。」というものである。
(A) 上記記載によれば,単に「キャップ付発光器」と記載されているのみであり,「レンズ」との用語は全く存在せず,「キャップ付発光器」が「レンズを有する」旨の記載も存在しない。
「キャップ」との用語は,通常,「@縁なし帽子。A鉛筆・万年筆などの帽子状のふた。B瓶のふた。Cチームやグループの長」を,「発光器」は,「光を発する」「道具」を意味するとされるように(広辞苑第5版),これらの用語に「レンズを有する」との意味は全く存在しない。
(B) 原告が明確に主張するところではないが,特許請求の範囲の記載として,「最適光結合位置を検出」することや,「キャップ付発光器からの光が…最適結合する位置を…検出」することが記載され,上記(a)ないし(c)のような工程からなるものであることが記載されていることに照らして,本件発明1につき,「レンズを有するもの」に限定して解釈すべきことになるのか,そのような限定がない(「レンズを有しないもの」をも含む)ものと解釈しても矛盾はないのかを検討しておく。
「最適」とは,通常,「最も適していること。」(広辞苑第5版)を意味するものであり,無条件に絶対的な数値として最も適するという意味もあるが,技術分野に関して用いられる場合において,様々な条件や制約を伴うときには,許容された現実的な条件下で最も適するということを意味することが一般的であると解される。そして,「光結合」とは,光学分野における語義からしても,上記特許請求の範囲の記載の文脈に照らしても,「キャップ付発光器から出た光が光ファイバーに入射すること」という意味で使用されているものと認められる。そうすると,「最適光結合」とは,許容された条件の下において,「キャップ付発光器からの光」が「光ファイバー」に入射する光量が最大となることを意味するものと解される。
そこで,キャップ付発光器がレンズを有さず,集光されることなく,光源から出た光がそのまま直進する場合において,x,y軸方向についてみると,ファイバー端末の全面が光の入射範囲外である状態から,ファイバー端末の一部に光が入射する状態,さらに入射光量が最大となる状態まで様々な位置関係があり得ることが明らかであるから,x,y軸方向に関しては,上記の意味において,キャップ付発光器から光ファイバーへの入射光量が最大となる位置が,キャップ付発光器からの光が光ファイバーに「最適光結合」する位置であるといえる。
次に,z軸方向に関してみるに,キャップ付発光器がレンズを有さず,光源から出た光がそのまま直進する場合には,光は光源からの距離が離れるにしたがって減衰するので,この点だけを考えると,光ファイバーが発光器に近ければ近いほど望ましいことになる。しかし,このような光学的な条件だけでなく,「光ファイバー端末」,「光ファイバーホルダー」,「キャップ付発光器」等からなる製品の構成上の要請などから,光ファイバーと発光器との間隔,すなわちz軸方向の距離の設定には,一定の限界があることは技術常識上明らかである。よって,z軸方向に関しては,このような種々の要請に基づく制約の下で,できるだけ光ファイバーと発光器との間隔を小さくし,キャップ付発光器から光ファイバーへの入射光量を最大とした位置が,キャップ付発光器からの光が光ファイバーに「最適光結合」する位置であると理解される。
そうすると,本件発明1につき,キャップ付発光器が「レンズを有しないもの」をも含むものと解釈しても,x,y軸方向,z軸方向のそれぞれに「最適光結合位置」が存在し,「最適光結合位置を検出」し,上記(a)ないし(c)のような工程を経ることなど,特許請求の範囲の記載のすべての事項を矛盾なく明確に理解することができる。したがって,「レンズを有するもの」に限定して解釈すべきことにはならない。
以上のように,特許請求の範囲の記載について仔細に検討しても,本件発明1の「キャップ付発光器」を「レンズを有するもの」に限定して解釈すべき根拠はないというべきである。
(4) 原告は,本件訂正明細書発明の詳細な説明や図面の記載を根拠に,本件発明のキャップ付発光器はレンズを有するものであると主張する。
しかし,前記(3)に判示したところに照らせば,前記(2)の最高裁判例にいう「発明の要旨認定において,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される場合」に該当しないことは,明らかである(そもそも,原告が主張する本件訂正明細書の記載や図面の記載は,いずれも一実施例についての記載であるにすぎず,[問題点を解決するための手段],[作用],[発明の効果]などの欄における説明として記載されたものではない。なお,本件訂正明細書中には,「固定用対物レンズ」との記載があるが,請求項3に関する記載である上,原告主張に係る「レンズ」とは別の物である。)。
(5) 結局,「本件発明1には,単に『キャップ付発光器』と記載され,レンズについての明示の記載はないから,このものがレンズを備えると解することはできず,また,当該技術分野において『キャップ付発光器』なる用語が,レンズ付発光器を意味するものともいえない」などとした審決の本件発明に関する認定に誤りがあるとはいえず,原告主張の取消事由1は,採用することができない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明がレンズを有するにもかかわらず,審決がレンズを備えると解することはできないと誤認し(取消事由1),これが原因となって相違点1についての判断を誤った(取消事由2)ものであると主張する。すなわち,原告は,取消事由1の主張から導かれる事項,すなわち,本件発明が光源から出た光がレンズによって集光されて光ファイバーに入射することを前提とする発明であること,したがって,本件発明では,z軸方向に入射する光のエネルギーが最大になるピーク位置が存在すること,本件発明では,このような意味において,光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作(最適結合位置の検出)がされることなどを前提として,取消事由2の主張をするものである。
しかしながら,上記前提とされている事項についての主張が失当であることは,取消事由1について判示したとおりである。したがって,取消事由2としての原告の主張は,その前提を欠くものというべきである。
(2) 以下においては,本件発明の要旨認定につき既に判示したところを前提としつつも,原告の主張として善解し得る点を取り上げて,相違点1についての審決の判断に誤りはないかを検討しておく。
(A) 刊行物2発明についてみるに,審決は,刊行物2の摘記事項を引用した上,「刊行物2には,上記相違点1の『(a)ファイバー端末をファイバーホルダーに挿入した状態で,上記ファイバー端末を移動させ,z軸方向の位置を決める工程,(b)その位置で,光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程,(c)x,y軸方向の位置を決め,その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固定する工程,の順に組み立てる』ことが,記載されているといえる。」(前記第2,3(4)(4-1)の第2段落)と認定した。この認定は,証拠(甲4,甲2の1〜3)に照らして,是認し得るものである。
(B)(B-1) 刊行物1(甲3)には次のような記載がある。
「〔発明の背景〕…半導体発光素子…と光ファイバーを高効率で光結合した光素子モジュールは,…光半導体素子と光ファイバーとが高効率で光結合するよう結合光学系及び光ファイバーを高精度で位置合わせ調整した後,固定している。」(1頁右欄3〜12行) 「半導体レーザダイオード1に埋め込み型(BH)レーザ,光ファイバーにコア径50μm,屈折率差1%の集束形屈折率分布ファイバー,レンズ5に日本板硝子製セルフォックレンズを用いた場合,結合効率の劣化を最大結合効率の0.5dB以内とするには保持部材7,9及び8の位置合わせ精度は各々±3μm,±7μm,±80μmとなる。」(2頁右上欄15行〜左下欄2行) (B-2) 刊行物2(甲4の訳文による)には次のような記載がある。
「従来技術の説明 光ファイバーシステムにおいて,ファイバーをファイバーに,或いは,光電子変換装置,例えば,レーザーや発光ダイオードに結合させることがよくある。このような変換装置からの放射線図は,発光表面の前におけるファイバー端部の調整が非常に臨界的となるようなことがよくある。ガラスファイバーの端部は,数マイクロメーターの許容範囲で固定され,そして固定の長期安定性も同様な限度内にあることが望ましい。」(2頁12〜18行) (B-3) 特開昭60-221713号公報(甲5)には次のような記載がある。
「本発明によれば,グラスファイバー端部と光電素子との間の機械的,光学的な位置調節が簡単になり,また1μm以下の極めて高い精度が得られる。」(2頁右下欄19〜3頁左上欄2行) (B-4) 上記各記載によれば,発光モジュールの組立方法において,光ファイバーと光源とを固定して光結合させるに当たり,高精度での位置合わせをすることが,本件出願当時,周知の技術課題であったものと認められる。
他方,部材の固定に当たって高精度の位置調整が必要とされる場合,部材の位置調整を繰り返し行うことは,一般的に行われている程度の事項であることからすれば,特に上記のような高精度での位置合わせが要求される光ファイバーと光源との固定に当たり,位置調整を繰り返し行うことはむしろ当然といえる。
そうすると,原告が主張するように,刊行物1発明が一度位置決めした後は固定工程のみが存在し再度の位置決めは行われないものであるとしても,当業者としては,発光モジュールの組立方法に関する上記周知の技術課題を認識しているはずであるから,刊行物1発明の光ファイバーと光源との位置合わせにおいても,位置調整を繰り返し行う技術的選択肢を当然に理解するものというべきである。
(C) 前記(A)に認定のとおり,刊行物2には,「(a)ファイバー端末をファイバーホルダーに挿入した状態で,上記ファイバー端末を移動させ,z軸方向の位置を決める工程,(b)その位置で,光ファイバーと発光器のz軸方向を固定する工程,(c)x,y軸方向の位置を決め,その位置で光ファイバーと発光器のx,y軸方向を固定する工程,の順に組み立てる」構成が記載されているといえる。そして,この構成は,まさに「光ファイバーを光学活性素子に対して精度よくまた安定性よく固定する手順に関する」(甲4の翻訳文2頁25〜26行)ものである。
一方,刊行物1発明は,「上記ファイバー端末を上記ファイバーホルダーに挿入した状態で上記ファイバー端末をz軸方向に移動させるとともに,上記キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間でx,yの二次元内で移動させることにより,最適光結合位置を検出し,…上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する」構成を有するものである(甲3。この点は,審決が一致点として認定するところであり,上記の限度では原告も争わない。)。すなわち,刊行物1には,光結合をなすため,x,y,zの三次元内で位置調整を行って最適光結合位置を検出した上,レーザ溶接により固定することが記載されているといえる。
そこで,上記(B)に判示した点にもかんがみれば,刊行物1発明において,キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接して最適光結合位置に固定するに当たって,刊行物2に記載された,z軸方向の位置を決め,z軸方向を固定した後,x,y軸方向の位置を決め,x,y軸方向を固定するという手順を位置調整のために採用することは,当業者が容易に想到し得るものというべきである。
そうすると,相違点1は,刊行物1発明に刊行物2の上記の事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものというべきである。これと同旨の審決の判断は是認することができる。
(D) 原告は,刊行物2について,レンズを有さず,z軸方向に入射する光のエネルギーが最大になるピーク位置は存在しないから,三次元内で最適結合位置を検出することは行われず,製作上可能な範囲でz軸方向の位置を適当に決めて固定し,x,y面内で最適結合位置を検出すれば足りるものであると主張する。
検討するに,刊行物2発明においては,レンズが存在しないので,原告が主張するような意味での光エネルギーのピーク位置は存在しないとしても,z軸方向の設定においては,取消事由1の(3)(B)で判示したような種々の要請に基づく制約の下で,できるだけ光ファイバーと発光器との間隔を小さくし,キャップ付発光器から光ファイバーへの入射光量を最大とした位置が,キャップ付発光器からの光が光ファイバーに「最適光結合」する位置であると理解される。そして,刊行物2発明においても,少なくとも,上記のような意味での最適光結合位置を調整する必要があることが認められるのであって(甲4),z軸方向の位置を適当に決めて固定し,x,y面内で最適結合位置を検出すれば足りるというようなものとは解されない。
原告の主張は採用の限りではない。
(E) 原告は,刊行物1発明と刊行物2発明とは前提を異にし,刊行物1発明に刊行物2発明の固定の順番を適用することはあり得ないし,適用する動機が存在しないと主張する。
検討するに,原告の上記主張は,本件発明1について,光源から出た光がレンズによって集光されて光ファイバーに入射するもので,光エネルギーのピーク位置が存在するということを前提とする発明であるとの見解に立って,刊行物1発明に刊行物2発明を適用してなす本件発明1の容易想到性の判断を争うものである。しかし,本件発明1の要旨認定として,キャップ付発光器がレンズを有するものであるということができないことは,取消事由1について判示したとおりであるから,原告の本件発明1についての上記見解自体が採用し得ないものである。
この点をおくとしても,刊行物1発明及び刊行物2発明について既に判示したところに加え,前記(B)で判示したような当業者の認識,理解等を合わせて考慮するならば,刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整及び組立順序を適用することが可能であるとする審決の判断は,是認し得るものである。刊行物1発明と刊行物2発明がレンズの有無で異なるからといって,適用の阻害事由となるとはいえない。
原告の主張は採用することができない。
(F) 原告は,あえて,刊行物2発明の発想を刊行物1発明に適用することを前提としてみても,「光ファイバーへ光が最も大きく入射する位置をx,y,zの三次元内で見つける動作」を行った後に,x,y,z軸方向をいずれも固定するという発想しか生まれないと主張する。
しかし,前記(C)に判示したとおり,相違点1は,刊行物1発明に刊行物2に記載された事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものである。なお,前判示のとおり,本件発明1(本件発明2も同様)においては,「キャップ付発光器」を「レンズを有するもの」に限定して解釈すべき根拠はないのであるから,z軸方向を固定する工程の前に行う最適光結合位置の検出作業におけるz軸方向の最適光結合位置とは,取消事由1に関する(3)(B)において判示した意味における最適光結合位置であると解される。
(G) 上記争点に関連して,原告の審決に対する認否中には,本件発明1と刊行物1発明の一致点の認定に関し,「その位置状態で」の部分は一致点の認定に含まれるべきではないとし,相違点1の認定に関しても,相違点は単なる順序の開示の有無に尽きるものではなく,刊行物1では再度の位置決めが行われていないと主張する部分がある。
しかし,審決の一致点の認定は,z軸方向とともにx,y軸方向での部材の移動により最適光結合位置を検出し,その位置状態で溶接するという限度で一致することをいうものであり,相違点1の認定としては,本件発明1について,z軸方向の位置決めとz軸方向の固定,さらにx,y軸方向の位置決めとx,y軸方向の固定という二段階の位置決め及び固定の工程とその順序を記載した上で,刊行物1発明では,「特に位置決め及び固定(レーザ溶接)の順序を開示していない点」と認定しているのであり,表現上の疑義の余地はなくはないとしても,上記のような記載に照らせば,位置決め及び固定がz軸方向,x,y軸方向の順で二段階で行われる点をも含む趣旨で相違点1として認定しているものと理解される。したがって,審決の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとはいえない。そして,刊行物1発明に刊行物2に記載された位置調整及び組立順序(二段階で行われる点をも含む。)を適用することにより,上記相違点1の構成に想到し得るものであることは,前判示のとおりである。
(H) 原告は,本件発明が甲8の実験報告書に記載されたような顕著な効果を奏すると主張する。
刊行物1発明は,「上記キャップ付発光器とファイバーホルダーをレーザ溶接する発光モジュールの組立方法。」という点で本件発明1と一致するものであり(甲3,甲2の1〜3。この限度では原告も争わない。),「相違点1は,刊行物1発明に,刊行物2発明の位置調整,組立順序を適用することにより,当業者が容易に発明することができたものといえる。」との審決の判断が是認し得ることは既に判示したとおりである。そうすると,本件訂正明細書の[発明の効果]の欄に記載された「この発明は以上説明したとおり,光軸調整した後の固定作業を,エポキシ系の樹脂やハンダで作業者が固定した作業をレーザ溶接機を使って瞬時に固定する溶接へ変更すると共に,光軸調整装置と連動して,光軸調整作業から固定作業までを従来に比べて短時間で行えるようにしたことにより,従来は熟練作業者が長時間をかけて行っていた発光モジュールの組立作業が簡単に行えるようになった。」(甲2の3,9頁下から7〜4行)という効果は,上記のようにして刊行物1発明に刊行物2発明を適用した構成から当業者が予測し得るものにすぎない。そして,甲8の実験報告書を検討しても,上記の判断を覆すに足りるものではない。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について 審決は,「x,y軸方向の位置決めは,キャップ付発光器とファイバーホルダーとの間で,両者が相対的に移動し,位置調整されれば達成可能であることは,いわば常識であるから,他方を固定し,一方を移動させることに,組立方法における特段の作用効果があるというのでない限り,これとは逆に,一方を固定し,他方を移動させることと技術的に等価であるといわざるを得ない。」(前記第2,3(5)の第2段落)と説示したが,この点は,是認し得るものである。
原告は,キャップ付発光器の重心直下でステージが水平に移動し,キャップ付発光器を安定して移動させることで,x,yステージを使用したx,y軸方向の位置調整は短時間に行うことができるという作用効果を主張するが,この点は,本件訂正明細書に記載されていない。仮に,この点が当業者にとって自明なものであるとすれば,格別なものとはいえない。
そうすると,「本件訂正明細書の全記載を参酌しても,本件発明1において『キャップ付発光器をx,yの二次元内で移動させる』ことに,組立方法における特段の作用効果があるとは見いだせないから,刊行物1発明のごとく,ファイバーホルダーをx,yの二次元内で移動させることと実質的な差異があるとはいえず,上記相違点2は単なる設計的事項というべきである。」(前記第2,3(5)の第3段落)とした審決の判断は,是認することができるものである。
原告主張の取消事由3は理由がない。
4 結論 以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文
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