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関連審決 異議1998-74646
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  援用権(援用) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 252号 特許取消決定取消請求事件
原告 モバイル・ストーレッジ・テクノロジー・インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 大島陽一
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 川名幹夫
同 小林信雄
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年異議第74646号事件について平成12年2月29日にした決定中、特許第2731033号の請求項7、請求項20、請求項26及び請求項28に係る発明についての特許を取り消すとの部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文第1、2項と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「ダイナミックヘッドローディング装置を備えた硬質ディスクのドライブ装置」とする特許第2731033号発明の特許権者である(以下、
この特許を「本件特許」という。)。なお、本件特許は、1990年(平成2年)12月19日及び1991年(平成3年)9月25日に米国においてした特許出願に基づく優先権を主張して平成3年12月13日にされた特許出願に係り、平成9年12月19日に設定登録を受けたものである。
平成10年9月25日、本件特許につき特許異議の申立てがされ、平成10年異議第74646号事件として特許庁に係属したところ、原告は、平成11年6月30日に明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の各記載を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。
特許庁は、同特許異議の申立てにつき審理した上、平成12年2月29日、
「特許第2731033号の請求項7、請求項20、請求項26、請求項28に係る発明についての特許を取り消し、請求項8、請求項13、請求項19、請求項29、請求項31乃至33、請求項38、請求項41、請求項50、請求項54に係る発明についての特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は同年3月24日原告に送達された。
2 設定登録時の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項7、20、26及び28の記載 【請求項7】硬質ディスクのドライブ装置であって、底板と、前記底板に回転可能に支持された硬質ディスクと、その外側端部にリフトタブを備えたロードビームを含み、前記硬質ディスクの表面と概ね平行な平面内で前記ロードビームの一方の端部が回動可能なように前記底板上に設けられた回動中心に枢支された長寸のアクチュエータアームと、読み出し/書き込み記録素子を含むスライダ本体と、前記ロードビームと前記スライダ本体とに取り付けられ、前記リフトタブと前記回動中心との間の位置に前記スライダ本体を支持する支持手段と、前記リフトタブと前記ディスクのエッジ部分とに隣接し、前記底板に支持されたカムアセンブリであって、前記リフトタブと共に作用する関係に配置され前記リフトタブと接触して前記ロードビームへ持ち上げ力を提供するカム表面を含み、前記カム表面は移動止めを含んでいる該カムアセンブリとを有することを特徴とする硬質ディスクのドライブ装置。
【請求項20】前記リフトタブが、曲面の形状が部分を有することを特徴とする請求項1乃至5、
又は7の何れかに記載の硬質ディスクのドライブ装置。
【請求項26】硬質ディスクのドライブ装置の製造方法であって、(a)底板を提供する課程と、(b)硬質ディスクを提供し、前記硬質ディスクを前記底板上に回転可能に支持する過程と、(c)ロードビームを有する長寸のアクチュエータアームを提供し、前記アクチュエータアームを前記底板上に設けられた回動中心に回動可能なように枢支する過程と、(d)前記ロードビームの端部にリフトタブを設ける過程と、(e)読み出し/書き込み記録素子を提供し、前記読み出し/書き込み記録素子を前記ロードビームによって前記回動中心と前記リフトタブとの間の位置に支持する過程と、(f)カム表面を有するカムアセンブリを提供し、前記ディスクのエッジ部分に隣接する位置であって且つ前記リフトタブが前記カム表面と接触することが可能な位置において前記カムアセンブリを前記底板上に配置する過程と、(g)移動止めを前記カム表面に設ける過程とを有することを特徴とする硬質ディスクのドライブ装置の製造方法
【請求項28】前記過程(d)が、前記リフトタブの前記カム表面と接触し得る部分に曲面の形状を与える過程を更に有することを特徴とする請求項22若しくは26 に記載の方法。
なお、本件訂正請求における上記各請求項の記載に係る訂正内容は、請求項26の下線部の「課程」を「過程」に訂正するとともに、請求項20及び28の各下線部を削除するというものである。
3 本件決定の理由 本件決定は、別添決定謄本写し記載のとおり、@本件訂正請求は、特許法120条の4第3項において準用する同法126条4項の規定に適合しないから認められないとし、A本件発明の要旨を本件明細書の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上、その請求項7、20、26及び28記載の各発明(以下、請求項の番号に対応して「本件第7発明」などと表記する。)は、いずれも米国特許第4933785号明細書(本訴甲第3号証の1、以下「刊行物1」という。)、米国特許第3984873号明細書(本訴甲第3号証の2、以下「刊行物2」という。)及び特開昭64-37784号公報(本訴甲第3号証の3、以下「刊行物3」という。)記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7、20、26及び28に係る発明についての本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたもので、同法113条1項2号に該当し、取り消すべきものとした。
原告主張の本件決定取消事由
1 本件決定の理由中、本件第7発明と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点(a)、(b)の認定(決定謄本8頁33行目〜9頁6行目)、同相違点(b)についての判断(同9頁18行目〜22行目)は認める。なお、本件訂正請求の適否の判断(同2頁1行目〜4頁37行目)は争うが、本件決定取消事由とはしない。
本件決定は、本件第7発明と刊行物1記載の発明との相違点(a)についての判断を誤り(取消事由)、本件第7発明、本件第20発明、本件第26発明及び本件第28発明が、刊行物1〜3記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点(a)についての判断の誤り) (1) 本件決定は、本件第7発明と刊行物1記載の発明との相違点(a)、すなわち「本件第7発明においては、リフトタブをロードビームの外側端部に設けているのに対し、上記刊行物1記載の発明においては、カム追従部材(本件第7発明のリフトタブに相当する。)をロードビームの内側に設けるようにしている点」(決定謄本8頁末行〜9頁3行目)について、「刊行物2には、カム部材と接触する延長部(上記刊行物1のカム追従部材に相当する。)をアーム(上記刊行物1のロードビームに相当する。)に取り付けられた弾性部材の外側端部に設けることが記載されており・・・同一技術分野に属する上記刊行物1記載の発明において、カム追従部材をロードビームの外側端部に設けるとすることは、上記刊行物2の記載に基づき当業者が容易に導き出せることにすぎない」(同9頁9行目〜17行目)と判断するが、以下のとおり、誤りである。
(2) 技術分野の同一性について 刊行物2(甲第3号証の2)は、ヘッドのロード/アンロードのために外的に駆動される外部の部材を用いる外的駆動式の実施例を開示するものであるのに対し、刊行物1(甲第3号証の1)記載の発明は、そのような外部駆動部材を必要としない自立駆動式の構造を採用したものであって、両者は技術分野を異にする。
すなわち、刊行物2記載の発明の第1実施例(図1、2、3A及び3B)においては符号27、27A、27B及び27Cで示された部材が、第2実施例(図4A〜4D)においては符号36で示された部材が、いずれもヘッドをロード/アンロードするために外的に駆動される部材である。第3実施例(図5)についても、「ヘッドが記録領域の外縁54へと移動されるときカム部材55がばね部材の延長部48Aに当接することが可能となり、それによってヘッドはディスク表面から離れるように垂直に持ち上げられアンロードされる」(明細書5欄46行目〜50行目、訳文9頁16行目〜19行目)との明細書の記載があるところ、ここで延長部48Aに当接する主体はカム部材55とされていること、ヘッドが「ディスク表面から離れるように」に続いてあえて「垂直に(perpendicularly)」という言葉を加えていることからすれば、延長部48Aがカム部材55に設けられた傾斜面にアームの回転に伴って乗り上げることで斜め上向きに移動していくのではなく、
可動であるカム部材55の働きによって延長部48Aが「垂直に」移動されることを示すものというべきである。また、第3実施例が第1実施例及び第2実施例と異なる動作をすると見るべき理由もないことからすると、第2刊行物記載の発明は、
第3実施例も含めて、外的駆動式の構造を採用するものと解すべきである。
したがって、刊行物1、2記載の各発明は、その技術分野を異にするものであって、技術分野の同一性を理由に両者の組合せをいう本件決定の判断は誤りである。
(3) 組合せの阻害要因について 刊行物1(甲第3号証の1)記載の発明は、「よりコンパクトで軽量のコンピュータ装置に対する要求の増大は、そのようなコンピュータ装置によって用いられるデータ及び他の情報を格納するための、より小さなディスクドライブ及び付随するハードディスクに対する必要を生んでいる」(明細書1欄12行目〜16行目)との記載にあるように、よりコンパクトなディスクドライブ装置を提供することを重要な課題の一つとするものである。
ところが、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用し、アクチュエータ上のへッドの位置を変えることなくカム追従部材をヘッドの外側に設けようとすると、カム面傾斜部材50をアクチュエー夕・ピボットから離れる方向に移動させなければならず、それを収容するコンピュータ装置もより大きくなるから、上記の課題と矛盾することとなる。したがって、刊行物1記載の発明の課題は、当業者が刊行物1記載の発明においてヘッドの外側にカム追従部材を設けた構造を適用することを阻害するものというべきである。
(4) 顕著な作用効果の看過 本件第7発明は、「カム表面は移動止めを含んでいる」構成及び「外側端部にリフトタブを備えたロードビーム」という構成を備えることにより、リフトタブとカム表面との接触応力などの点で有利であるだけでなく、ロードビームとカム表面の間の干渉によって制約されることなくリフトタブをカム表面との係合に適した最適な形状に設計することが可能となるという顕著な作用効果を奏する。
他方、刊行物1に「カム表面は移動止めを含んでいる」構成が、刊行物2に「外側端部にリフトタブを備えたロードビーム」という構成が個別に開示されているとしても、これら両刊行物には上記両構成を組み合せることは記載されていないから、本件第7発明の奏する上記の作用効果は、刊行物1、2記載の各発明から容易に予測することのできるものではない。すなわち、刊行物1記載の発明では、
カム表面に移動止めを設けたディスクドライブ装置において、カム追従部材がヘッドとアクチュエーターアームの回転中心との間に設けられているため、カム追従部材と接触するカム表面とロードビームとの間の干渉を考慮しなければならず、カム追従部材、カム表面、ロードビームの設計における自由度が著しく損なわれている。
(5) 以上のとおり、本件第7発明と刊行物1記載の発明との相違点(a)についての本件決定の判断は誤りというべきところ、本件決定は、本件第20発明、本件第26発明及び本件第28発明についても、本件第7発明における上記の誤った判断をそのまま援用して、刊行物1〜3記載の各発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、いずれの発明についても本件決定は取消しを免れない。
被告の反論
1 本件決定の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
2 取消事由(相違点(a)についての判断の誤り)について (1) 技術分野の同一性について 刊行物2の第1実施例(図1、2、3A及び3B)及び第2実施例(図4A〜4D)については、原告主張のように、ヘッドのロード/アンロードのために外的に駆動される外部の部材(第1実施例の部材27、第2実施例の部材36)を用いるものということはできるが、第3実施例(図5)については、第1実施例及び第2実施例のものとは、用いる部材、機構、動作において異なるものであるから、刊行物2記載の発明において、第3実施例も含めて外的駆動方式が採用されているということはできない。原告の引用する明細書の記載も、図5のカム部材55が可動であることを示すものとはいえず、むしろ、図5に示されるカム部材55の形状及び大きさからして、これが外的に駆動され、垂直にヘッドを持ち上げると考えるのは不自然である。仮に、原告主張のように、カム部材が可動であるとすれば、発明の課題であるアンロード動作に関し、明細書の中で説明されているはずである。
したがって、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明(第3実施例)とは、同一のロード/アンロード機構に係る技術分野に属するものというべきである。
(2) 組合せの阻害要因について 原告は、よりコンパクトなディスクドライブ装置を提供するという刊行物1記載の発明の課題が、カム追従部材40をヘッドの外側に位置するように配置することの阻害要因となる旨主張するが、「よりコンパクト」という課題は、従来の装置と比べてよりコンパクトな装置を実現するといった一般的な課題であり、カム追従部材40をヘッドの外側に位置するように配置したからといって、刊行物1記載の発明の課題と何ら矛盾するものではない。
また、刊行物1(甲第3号証の1)の「好ましくは、カム追従部材40全体はアクチュエータアーム32全長に対しての中央部分と読取/書込ヘッド36の内側エッジとの間に配置される。このように配置することで、読取/書込ヘッド36の動作中に、読取/書込ヘッドの制御において、カム追従部材40がアクチュエータ・ピボットに相対的に接近して配置された時に問題となるように、エラーが拡大されることはなく好ましい」(7欄43行目〜50行目、訳文2頁15行目〜20行目)との記載から明らかなように、カム追従部材をアクチュエータの枢支部(アクチュエータ・ピボット)の比較的近くに配置すると問題があるから、カム追従部材をヘッドに近い内側に配置したとしているだけであり、カム追従部材をヘッドの外側に位置するように配置することを否定するものではない。
(3) 顕著な作用効果の看過について 原告が本件第7発明の顕著な作用効果として主張する「リフトタブ、カム表面、ロードビームの設計の自由度が大きく」といった記載は本件明細書になく、
原告の主張は根拠がない。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点(a)についての判断の誤り)について (1) 技術分野の同一性について 原告は、ヘッドのロード/アンロードのための構成に関し、刊行物1記載の発明では自立駆動式の構造が採用されているのに対し、刊行物2記載の発明は外的駆動式であって、両者は技術分野を異にする旨主張するところ、刊行物2記載の発明中、第1実施例及び第2実施例のものが原告のいう外的駆動式を採用するものであることは当事者間に争いがないので、刊行物2記載の発明中第3実施例のものが、原告主張のように外的駆動式のものといえるかどうかについて、以下判断する。
刊行物2(甲第3号証の2)の第3実施例に関する記載としては、「図5には本発明の更に別の実施例が示されており、この実施例では、ヘッドがディスク表面の近傍から離れるよう移動されるときのみヘッドをアンロードすることができる。・・・アクチュエータ50の励起によってヘッドアームアセンブリは軸51の回りに回転し、ディスク52の近傍に対して近づくように或いは離れるように移動する。しかしながら、この実施例では、ヘッドがディスク表面から離れるよう移動されるときのみヘッドをアンロードすることが望まれている。この目的のため、ばね48は延長部48Aを含んでおり、そのため、ヘッドが記録領域の外縁54へと移動されるときカム部材55がばね部材の延長部48Aに当接することが可能となり、それによってヘッドはディスク表面から離れるように垂直に持ち上げられアンロードされる」(明細書5欄33行目〜49行目、訳文9頁7行目〜19行目)との記載が認められる。そうすると、第3実施例では、「ヘッドがディスク表面から離れるよう移動されるときのみヘッドをアンロードすることが望まれている」のであって、ヘッドがディスク面内にあるときにヘッドをアンロードすることはないのであるから、これに5図の図示も併せ考えれば、「ヘッドが記録領域の外縁54へと移動されるときカム部材55がばね部材の延長部48Aに当接することが可能となり、それによってヘッドはディスク表面から離れるように垂直に持ち上げられ」るとは、ヘッドが外縁に水平方向に移動し、カム部材と延長部とが当接する際、カム部材の表面形状に対応して、カム部材表面と延長部との当接位置が垂直方向に変位し、その結果、ヘッドが垂直方向にも持ち上げられるようにしてアンロードされることをいうものと認めるのが相当である。
この点について、原告は、「当接」の主体が「カム部材」であること及び「ディスク表面から離れるように」に続いて「垂直に(perpendicularly)」との表現が加えられていることを根拠に、ヘッドをアンロードするために移動するのはカム部材である旨主張するが、「カム部材55がばね部材の延長部48Aに当接する」との記載から理解されるのは、「カム部材とばね部材の延長部が接触すること」にとどまるというべきであって、いずれの部材が移動することによって「当接」が実現されているかについてまで含意されているものと解することはできない。また、「垂直に(perpendicularly)」との表現は、ヘッドが「ディスク表面から離れる」際の方向が、アームの回転による水平方向だけでなく、当接したカム部材の表面形状に対応した垂直方向への移動をも伴うことを明確にした趣旨にすぎないというべきである。このことは、図5において、カム部材55が、ばね部材の延長部48Aのアームの回転による水平方向の移動軌跡に沿って長く延びた部材として図示されていることからも明らかというべきである。
したがって、刊行物2記載の発明の第3実施例が外的駆動式であるとは認められないから、これを前提に刊行物1、2記載の各発明の技術分野の相違をいう原告の主張は理由がない。
なお、仮に、刊行物2記載の発明の第3実施例が外的駆動式のものであるとしても、硬質ディスクのドライブ装置に係る技術という点で刊行物1記載の発明と技術分野を共通にするということができ、この点からも原告の主張は採用することができない。
(2) 組合せの阻害要因について 原告は、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を組み合わせて、カム追従部材をヘッドの外側に設けることは、コンパクトなディスクドライブ装置の提供という刊行物1記載の発明の課題に反することになるから、当該課題は両者の組合せの阻害要因となる旨主張する。
確かに、刊行物1(甲第3号証の1)の「よりコンパクトで軽量のコンピュータ装置に対する要求の増大は、そのようなコンピュータ装置によって用いられるデータ及び他の情報を格納するための、より小さなディスクドライブ及び付随するハードディスクに対する必要を生んでいる」(明細書1欄12行目〜16行目)との記載によれば、刊行物1記載の発明は、よりコンパクトなディスクドライブ装置を提供することを課題の一つとしていることが認められ、かつ、カム追従部材をヘッドの外側に設けた場合、ヘッドの内側に設けたものとの比べてコンパクト性においては劣るということはできる。
しかし、刊行物1(甲第3号証の1)には、「カム追従部材40はヘッド36を妨げないように出来るだけヘッドに接近して読取/書込ヘッド36の内側に配置されるのが好ましい。好ましくは、カム追従部材40全体はアクチュエータアーム32全長に対しての中央部分と読取/書込ヘッド36の内側エッジとの間に配置される。このように配置することで、読取/書込ヘッド36の動作中に、読取/書込ヘッドの制御において、カム追従部材40がアクチュエータ・ピボットに相対的に接近して配置された時に問題となるように、エラーが拡大されることはなく好ましい」(明細書7欄40行目〜50行目、訳文2頁13行目〜20行目)との記載もあり、この記載によれば、カム追従部材40をアクチュエータ・ピボット近くに配置するとヘッド36の制御においてエラーが拡大されるので、カム追従部材40をアクチュエータ・ピボットから離して配置するとの課題も記載されているものと認められる。
そこで、コンパクト性の要求に係る前者の課題と、ヘッドの制御におけるエラーが拡大しないようにカム追従部材40をアクチュエータ・ピボットから離して配置するとの後者の課題の関係について見るに、刊行物1記載の発明において、
カム追従部材をヘッドの内側に配置したのは、前者の課題の解決を優先したものと解されるが、コンピュータの種類によっては、コンパクト性の要求が優先されるものと、その要求が比較的乏しいものがあることは明らかである。そうすると、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の発明を適用して、カム追従部材をアクチュエータ・ピボットから最も離れた位置であるヘッドの外側に配置することは、前者の課題からは不利であっても、後者の課題の解決には資するものであるから、前者の課題のみを取り上げて、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明との組合せを阻害すると解することはできないというべきである。
したがって、この点の原告の主張は理由がない。
(3) 顕著な作用効果の看過について 原告は、本件第7発明は、「カム表面は移動止めを含んでいる」構成及び「外側端部にリフトタブを備えたロードビーム」という構成を備えることにより、
リフトタブとカム表面との接触応力及びリフトタブをカム表面との係合に適した最適な形状にする設計の自由度において顕著な作用効果を奏する旨主張するが、本件第7発明は、本件明細書の記載において、リフトタブ、カム表面及びロードビームの形状については、カム表面が移動止めを含んでいることを除き、特段の規定を設けるものではないから、明細書の記載に基づかない主張であるばかりでなく、原告の主張する上記の作用効果が本件第7発明によって奏されるものであると認めることはできない。仮に、本件第7発明が上記の作用効果を奏するとしても、「カム表面は移動止めを含んでいる」構成を開示する刊行物1記載の発明及び「外側端部にリフトタブを備えたロードビーム」という構成を開示する刊行物2記載の発明に基づいて、当業者が容易に予測することのできる作用効果にすぎないというべきである。
したがって、顕著な作用効果の看過をいう原告の主張も採用することはできない。
(4) 上記(1)〜(3)のとおり、本件第7発明と引用例1記載の発明との相違点についての本件決定の判断に誤りはないというべきであり、本件第7発明についての原告主張の取消事由は理由がない。そして、本件第20発明、本件第26発明及び本件第28発明に関する原告の主張は、本件第7発明についての本件決定の上記判断の誤りを前提とするものであるから、当該判断に誤りがない以上、原告の主張はいずれも理由がないというべきである。
2 以上のとおり、原告主張の本件決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのため付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 長沢幸男
裁判官 宮坂昌利