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関連ワード 製造方法 /  新規性 /  公然知られ(29条1項1号) /  技術的範囲 /  援用権(援用) /  存続期間 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  差止請求(差止) /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  変更 / 
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事件 平成 12年 (ネ) 3836号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(1審原告) シルバー株式会社
同訴訟代理人弁護士 岩田喜好
同 杉本啓二
被控訴人(1審被告) 日本コントロール工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 安原正之
同 佐藤治隆
同 小林郁夫
同補佐人弁理士 大貫和保
同 小竹秋人
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/06/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を取り消す。
(2) 差止請求(主位的) ア 被控訴人は,原判決別紙イ号物品説明書,同ロ号物品説明書,同ハ号物品説明書及び同ニ号物品説明書各記載の電磁ポンプを製造し,譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。
イ 被控訴人は,前項の電磁ポンプを廃棄し,原判決別紙機械目録記載のロータリー機10台を除却せよ。 (3) 差止請求(予備的) ア 被控訴人は,原判決別紙原告主張方法目録記載の製造方法を使用して電磁ポンプを製造してはならない。
イ 被控訴人は,原判決別紙イ号物品説明書,同ロ号物品説明書,同ハ号物品説明書及び同ニ号物品説明書各記載の電磁ポンプを譲渡し,貸し渡し,又はその譲渡若しくは貸渡しのための展示をしてはならない。
ウ 被控訴人は,前項の電磁ポンプを廃棄し,原判決別紙機械目録記載のロータリー機10台を除却せよ。
(4) 被控訴人は,控訴人に対し,6796万5000円及びこれに対する平成11年3月1日から支払済まで年5%の割合による金員を支払え。
(5) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人 主文と同旨
事案の概要
1 本件は,控訴人が,被控訴人に対し, (1) 控訴人の有する本件特許権(特許番号 第2080163号)に基づき,@主位的に,特許法104条により被控訴人が製造する原判決別紙イ号物品説明書,同ロ号物品説明書,同ハ号物品説明書及び同ニ号物品説明書各記載の電磁ポンプ(以下,それぞれ「イ号製品」,「ロ号製品」,「ハ号製品」,「ニ号製品」といい,イ号ないしニ号製品を総称するときは「被告製品」という。)は本件発明(本件特許権に係る発明)の方法により生産したものと推定されるとして,被告製品の製造,譲渡等の差止めと製造のための機械の除却を,A予備的に,被控訴人は,原判決別紙原告主張方法目録記載の方法(以下「原告主張方法」という。)により電磁ポンプを製造しているとし,原告主張方法は本件発明の技術的範囲に属するとして,原告主張方法による電磁ポンプの製造の差止め,被告製品の譲渡等の差止め及び同製造のための機械の除却を求めるとともに,B被告製品の製造が本件特許権ないし仮保護の権利侵害不法行為に当たるとして,5972万6400円の損害賠償をそれぞれ求め, (2) さらに,控訴人の有する本件実用新案権(実用新案登録番号 第2541234号)に基づき,被告製品のうちイ号ないしハ号製品の製造,販売行為が本件実用新案権侵害不法行為に当たるとして,823万8600円の損害賠償ないし補償金を求めている事案である(なお,本件実用新案権は,本訴提起後,存続期間が満了した。)。
原判決は,本件について特許法104条の適用はないとした上,被控訴人が原告主張方法により被告製品を製造している事実を認めることができないとし,さらにイ号ないしハ号製品は本件考案の技術的範囲に属さないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
2 争いのない事実及び争点 争いのない事実及び争点は,原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」一,二に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決7頁3行目の「基準流量と」の次の「、」を削り,同13頁1行目の「生産したものか」の次に「。」を,9行目の「小寸法」の次に「の第3の端子」を各加える。)。
争点に関する当事者の主張
1 争点に関する当事者の主張は,後記2,3を付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決29頁1行目の「一体連設」を「一体連接」と,同33頁末行の「28」を「27」と各改める。)。
2 当審における控訴人の主張 (1) 本件発明の方法により生産された物が公然知られた物でないか否かについて 原判決は,本件発明の方法によって生産される物の構造を,@フリーピストン状のプランジャと,A該プランジャを収めたシリンダと,B該シリンダの外周に設けられた電磁コイルと,C該電磁コイルからの2本のコイル端末を固定する第1,第2の端子と,D第1の端子との間で固定抵抗器が接続される第3の端子とからなる電磁ポンプの構造を出るものではないと認定しているが,この認定は誤りである。
すなわち,本件発明の方法により生産された電磁ポンプは,個々のポンプごとに選定された抵抗値を有する固定抵抗器という特徴を有しており,上記の構造@ないしDに加え,E固定抵抗器を介在しない回路の状態で駆動したときの吐出量が所定の吐出量よりも多量となる構造のポンプを有し,F個々のポンプごとに測定した吐出量と基準流量との偏差に応じて所定の吐出量の許容範囲内に収まる吐出量に調整する抵抗値を有し,第1,第3の端子間に接続された固定抵抗器を有するところ,上記DないしFは新規なものであり(多数個のポンプの各ポンプごとに,それぞれの抵抗値の異なる固定抵抗器を一体に接続した構造は,当業者に知られておらず,その構造を得る手がかりが得られる程度に知られた事実もない。),本件発明の目的物は公然知られた物ではなく,特許法104条の適用がある。
(2) 被告主張方法(2回法)の効果について 原判決は,乙31の試験報告書をもとに,争点2に関する被告主張方法の2回測定が,より適切な固定抵抗器を選定できる効果があると認定しているが,この認定は誤りである。
すなわち,乙31の記載によると,原告主張方法と被告主張方法とで,選定される固定抵抗器の抵抗値は,118台中62台が異なり,56台が同じであるが,上記62台中2台は,その吐出量の変化と抵抗値の変化が,他のポンプと比べ,孤立して飛び離れた状態を示しているので除外されるべきであり,この2台を除いた60台について,平均吐出量,平均偏差量,平均偏差率をみると,原告主張方法では,平均吐出量16.885(g/4min),平均偏差量プラス0.055(g/4min),平均偏差率0.33%であり,被告主張方法では,平均吐出量16.539(g/4min),平均偏差量マイナス0.291(g/4min),平均偏差率マイナス1.73%であって,原告主張方法の方が,被告主張方法よりも平均偏差量,平均偏差率が小さく,基準吐出量に近い。
被告主張方法による固定抵抗器の選定方法は,本件発明の技術思想と同じくするものでありながら,本件発明の方法に無用無益な2回目の測定作業の工程を加えて,いたずらに迂回の途をとるだけで,結局,本件発明の技術的範囲に属するものである。
(3) 本件考案のヨークの立直部について 原判決は,イ号ないしハ号製品が,ヨークの立直部が正面側から見て,左右側(2方向)に形成されていることを理由として,本件考案の構成要件B'の「一方側に形成された立直部を介して‥‥形成するヨーク」を備えていないと判断したことは誤りである。
すなわち,本件考案の構成要件B'の「コイルボビンの前後左右の一方側」について,「一方」は「一つの方向」という意味のみでなく,「ある方向」という意味も含むので,前後左右の4方向のうちの1方向の側と限定して解する必要はない。
また,本件実用新案公報には,端子板がコイルボビンの上端の鍔の前後左右の,ヨークの立直部と異なる方向となる周縁に延設されている構造(本件考案の構成要件C')とすることによってもたらされる効果が記載されているが,ヨークの立直部が二つの方向の側にあるときは,立直部と異なる方向としては二つの方向が残っていて,二つの方向のうちのある一つの方向に延設する場合も本件考案の構成要件C'に該当し,その場合でも考案の効果欄記載と同じ効果があるから,立直部が二つの方向側にある場合も本件考案の技術的範囲にあると解釈される。
3 控訴人の上記主張に対する被控訴人の反論 (1) 本件発明の方法により生産された物が公然知られた物でないか否かについて 本件発明が公然知られた物でないか否かの判断においては,従前公知の電磁ポンプに,固定抵抗器が存在する客観的事実があるか否かが問題であり,本件発明の方法で「選定した」固定抵抗器か否かというような,Dの方法的要件を加えて判断されるべきものではない。電磁ポンプの能力制御のために固定抵抗器を用いることは,当業界では当然の事実であり(乙35),したがって,本件発明の方法により生産された物は,公然知られた物でないとはいえない。
また,公然知られた物でないか否かは,その物単体で判断されるべきで,複数の物を比較し,その複数の物の間に相違があることから公然知られた物でないということはできない。
(2) 被告主張方法(2回法)の効果について 上記62台中2台の数値を除外したことは不当である。
被告主張方法(2回法)の方が,原告主張方法(1回法)に比べ,基準流量に対する偏差率が大きいが,これは,抜取り出荷検査装置との相関と経験から,被告主張方法では,2回目の測定値における選定幅(2〜3%)を基準流量のプラス側よりマイナス側に広く設定されていることに起因する。むしろ,最大吐出量と最小吐出量の幅,ばらつき幅は,原告主張方法より被告主張方法の方が小さい。したがって,被告主張方法の方が,各電磁ポンプごとの吐出量の能力に応じた適切な固定抵抗器が選別される。
(3) 本件考案のヨークの立直部について 本件考案の構成要件中B'の「一方側」という用語は,それ自体不明確な文言ではなく,ヨークの構成は補正により限定されていることを考えても,拡大解釈することは許されない。
争点に対する判断
1 当裁判所も,被告製品は特許法104条にいう「特許出願前に日本国内において公然知られた物でない」とはいえないから,同条の適用はなく,また,被控訴人が,原告主張方法により電磁ポンプを製造していると認めることはできないと判断する。さらに,イ号ないしハ号製品は本件実用新案権の技術的範囲に属するとも認めることができないと判断する。
その理由は,後記2ないし5のとおり付加,訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の訂正 (1) 原判決50頁6行目の「接続し」を「接続した」と改める。
(2) 同52頁10行目の「その者」を「その物」と改める。
(3) 同54頁4行目の次に改行して次のとおり加える。
「 それだけでなく,後述のとおり,証拠(乙15ないし33,原審検証の結果)及び被告製品がダミー抵抗を接続できる端子固定用の孔54を備えている事実からすると,被告製品は被告主張方法によって製造されていることが認められ,それ以前についても,同様の方法で製造されていたと推認することができる。したがって,仮に,本件発明の方法により生産された物が特許法104条の『公然知られた物でない』としても,同条の推定は覆されているというべきである。さらに,被告主張方法が本件発明の技術的範囲に属するか否かについては,後記二2記載のとおり,これを否定することができる。」 (4) 同56頁3行目の「固定抵抗」を「固定抵抗器」と改める。
(5) 同62頁3行目の「C'」を「B'」と改める。
3 本件発明の方法により生産された物が公然知られた物でないか否かについての補足説明 控訴人は,被告製品が,個々のポンプごとに異なる抵抗値を選定された固定抵抗器を有することが,本件発明の方法により生産された物の構造における特徴であり,前記第3の2(1)のうち,Dの第三の端子,Eのポンプ,Fの固定抵抗器は新規なものであり,本件発明の目的物は公然知られた物ではないと主張する。
しかし,前記Dの点については,抵抗器を備えた電磁ポンプにおいて,電磁コイルからのコイルの端末を固定する端子と駆動パルスの供給を受ける端子との間に抵抗器を接続することは一般的なことであると認められる(甲5,6)。
また,前記Eの点については,抵抗器を介在しない回路の状態で駆動したときの吐出量が所定の吐出量より少なくなるというポンプでは,所定の目的を達することができないことを意味し,むしろ,そのようなポンプが製作されるということ自体考えられないというべきである。
控訴人の主張の要点は,前記Fの点にあると考えられるところ,実開53-31303号公報(甲5,乙11)によると,本件特許出願当時,電磁ポンプの流量のばらつきを調整するため,電磁コイルに直列に接続した可変抵抗器を取り付け,その後に,可変抵抗器の抵抗値を調整することにより,上記電磁コイルに流れる電流を調整し,所定流量を得るようにする技術が公知であったことが認められるが,可変抵抗器の抵抗値をカットアンドトライ方式により調整する代わりに,適切な抵抗値の固定抵抗器をカットアンドトライ方式で選定すること自体は,煩瑣であったとしても,容易に想到でき,上記Fの点についても,本件特許出願時において,当該技術分野における通常の知識を有する者においてその物を製造する手がかりが得られる程度に知られていたというべきである。
本件特許公報には,新規性の認められた本件発明による方法に比べ,非能率的な方法として「電磁ポンプと駆動回路部とが対の関係にある構成を前提とするものにおいて,ポンプ流量を所定流量に設定するには,@(略),A一方,予めポンプに可変抵抗器を取付けていない後付けの場合を考慮しても,ダミーの抵抗を用いてカットアンドトライの方法により最適の抵抗値を求め,可変抵抗器をこの求めた抵抗値に調整設定してからポンプに後付けすることになるが,この場合にも上記同様,非能率的である」(4欄45行ないし5欄10行)という方法が記載されている。
この可変抵抗器を最適の抵抗値に調整設定する代わりに,最適の抵抗値に最も近い抵抗値の固定抵抗器を後付けすることによって同様の効果を得ることができると考えられるが,このことからも上記の認定を裏付けることができる。
4 被告主張方法(2回法)の効果についての補足説明 控訴人は,被告主張方法がより適切な固定抵抗器を選定できる効果があるとは認められず,むしろ,原告主張方法よりは,基準流量からの偏差は少ないと主張する。
確かに,原告主張方法による場合の方が,基準吐出量(16.83g/4min)に近いことが認められるが(甲38,乙31),乙31の実験結果によると,原告主張方法によった場合の最大吐出量は17.15g/4min,最小吐出量は15.83g/4minであり,一方,被告主張方法によった場合の最大吐出量は17.07g/4min,最小吐出量は16.35g/4minであり,最大吐出量と最小吐出量の差は,被告主張方法が原告主張方法より小さく,ばらつき幅も小さいことが認められる。
被控訴人は,被告主張方法では,抜取り出荷検査装置との相関と経験に基づき,意識的に,2回目の測定における選定幅を基準吐出量のプラス側よりマイナス側に広く設定されているためであると主張するが,上記実験結果によると,被控訴人の主張するとおり,意図的にマイナス側に広く設定されたと推認することができ(原判決被告主張方法目録におけるポンプ一次層別区分における重力区分の数値,二次抵抗選定基準における選定範囲の数値を変更することによって,最終的な吐出量を設定することができる。),さらに,被告主張方法の方が,より個々のポンプごとの吐出量の能力の差に応じた固定抵抗器を選定することができるといえる。
そうすると,乙31の実験結果に対する控訴人の上記批判によっては,被告主張方法についての評価を左右するには至らない(なお,55番と85番のポンプについては,本来であれば,これらのポンプについてもそれぞれの方法に従い測定した上,固定抵抗器が選定されるのであるから,事後的な測定の結果を理由にこれらを除外した上,検査結果を算定し直し,それぞれの方法の優劣を判断することは相当でないと考える。)。
5 本件考案のヨークの立直部についての補足説明 控訴人は,本件考案の構成要件B'の「一方側」とあるのは,「一つの方向」という意味のみでなく,「ある方向」という意味も含むなどと主張する。
しかし,文言上,「一方側」が二つの方向の意味をも含むと解するとは考えられず,本件考案に係る明細書にも,二つの立直部を備えたヨークに関する記載は全く窺えず,控訴人の上記主張は理由がないというべきである。
6 その他,原審及び当審における控訴人提出の各準備書面記載の主張に照らして,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,当審の認定判断を覆すほどのものはない。
結論
以上によると,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は相当である。よって,本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。
(当審口頭弁論終結日 平成13年4月19日)
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 小野洋一
裁判官 山田陽三