関連審決 | 審判1999-35369 |
---|
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 上位概念 / 技術常識 / 先行技術 / 登録実用新案 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
12年
(行ケ)
401号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告A 訴訟代理人弁理士 小林良平 被告 東亜コルク株式会社 訴訟代理人弁理士 辻本一義 同 吉田哲 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/06/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が平成11年審判第35369号事件について平成12年9月5日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文と同旨 |
|
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「畳」とする特許第2874841号の特許(平成7年6月2日出願,平成11年1月14日設定登録。以下「本件特許」といい,その請求項1の発明を「本件発明1」,請求項2の発明を「本件発明2」といい,まとめて「本件発明」という。)の特許権者である。 被告は,平成11年7月15日,本件発明1及び同2に係る特許を無効にすることについて審判を請求し,特許庁は,この請求を平成11年審判第35369号事件として審理した結果,平成12年9月5日,「特許第2874841号発明の明細書の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本を同年10月4日原告に送達した。 2 特許請求の範囲 【請求項1】炭化した木質ボード層と,わらマット,木質系インシュレーションボード等の層とを含むことを特徴とする畳。 【請求項2】炭化木質ボードが炭化コルクボードである請求項1記載の畳。 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり,本件発明1及び同2は,いずれも実公平6-24514号公報(以下「引用例」という。)に記載された考案及び周知の技術的事項から当業者が容易に発明できたものであるから,本件特許は,特許法29条2項に違反して特許されたものであり,特許法123条1項2号に該当するので,これを無効とする旨判断した。 |
|
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由5(請求人の提出した証拠について)は認める。同6(本件特許発明1について)及び7(本件特許発明2について)は全体として争う。ただし,相違点の認定は認める。 審決は,引用例の第1図に記載された考案(以下「引用考案」という。)と本件発明1とを比較するに当たり,両者の一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点についての判断を誤り(取消事由2),さらに,本件発明の奏する顕著な作用効果についての判断を誤り(取消事由3),その結果,誤った結論に至ったものであるから,違法なものとして取り消されなければならない。 1 取消事由1(一致点認定の誤り) 審決は,本件発明1と引用考案とを対比し,「両者は,「炭化した木質ボード層と,木質系のボードの層とを含むことを特徴とする畳。」において一致し,本件特許発明1の畳の木質系のボードは木質系インシュレーションボードであるのに対し,甲第4号証(判決注:引用例)に記載されたもののには(判決注:「もののには」は「ものには」の誤記と認める。)そのようなボードは記載されていない点でのみ相違していると認められる。」(審決書5頁11行〜15行)と認定している。しかし,審決の上記一致点の認定は誤りである。 (1) 技術分野の相違 引用考案は,「暖房畳床」であるから,畳ではなく暖房器具ととらえるべきものである。したがって,審決の上記一致点認定は,引用考案が畳の技術分野に属するとの誤った認定に基づくものとして,出発点において既に重大な誤りを犯すものというべきである。 (2) 「木質系のボードの層」という概念の導入の誤り 上記のとおり,審決は,本件発明1と引用考案との一致点の一つとして,「木質系のボードの層」を含むことを認定している。すなわち,審決では,「木質系のボードの層」という概念を導入し,「木質系のボードの層」は,本件発明1では「木質系インシュレーションボード等の層」であり,引用考案では「コルクボードやベニヤ板の層」であると考え,両者を包摂する概念を表すものとして使用している。しかしながら,審決が用いた「木質系ボードの層」という概念は,もともと本件特許の願書に添付した明細書(以下,その添付図面も含め,「本件明細書」という。)にはないものである。 また,本件発明1の「木質系インシュレーションボード」は,正確に表現すると「木質系繊維を原料とするインシュレーションボード」ないし「木質系の繊維板」(「畳の専門知識」(甲3号証の3)157ないし158頁「(3)合成床の種類」)あるいは「主に木材などの植物繊維を成形した繊維板」(JlS-A5905(甲3号証の6))である。これに対して,引用考案のコルクボードやベニヤ板は,「木質系」というよりは「木材」そのものであるから,「木質系インシュレーションボード」とは全く異なるものであり,これを「木質系のボードの層」と呼ぶことは適切でない。 しかも,「コルクボードやベニヤ板」は,種々の特許・実用新案登録出願の書類に,畳を構成する材料として使用することが可能であると記載されてはいるものの,実際に畳を構成する材料として一般に用いられているものではない(甲3号証の4には多数の種類の畳床が紹介されているが,その中には「コルクボードやベニヤ板」を用いたものは一つもない。)。すなわち,「コルクボードやベニヤ板」は,畳床の技術分野には属さないものなのである。 上記状況の下では,本件発明の技術分野における当業者の観点からは,本件発明の「木質系インシュレーションボード等の層」と引用考案の「コルクボードやベニヤ板の層」とは全く別異のものであり,これらを「木質系のボードの層」という同一概念の下に把握することは許されず,したがって,両者が「木質系のボードの層」である点で一致するとみるのは誤りである。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 審決は,審決の認定した前記相違点につき「甲第4号証(判決注:引用例)に記載された木質系のボードであるコルクボードやベニヤ板に換えて,該周知の木質系インシュレーションボードを適用することにより,本件特許発明1の上記相違点に係る構成とすることは,両者がともに畳床の技術分野に属することから,当業者が容易に想到できたことと認められる。」(審決書5頁22行〜26行)と判断したが,誤りである。 審決は,「甲第4号証(判決注:引用例)において,わらを用いないようにしたのは,発熱体と共に用いた場合には,わらがバラバラになるという問題があるからであって,本件特許発明1のように発熱体を用いることを必須の構成要件としない場合までその使用を排除したとは考えられない。」(審決書6頁24行〜27行)と説示する。 しかしながら,引用考案は,暖房畳床であり,「発熱体を用いることを必須の構成要件としない場合」はあり得ず,必ず発熱体を使用するものであることから,そこでは,わらマットの使用は積極的に排除されているのである。また,その技術的課題を勘案すれば,単に植物繊維を固めた(成形した)にすぎない木質系インシュレーションボードも,発熱体とともに用いられるときには,コルクボードやベニヤ板とは異なり,わらマットと同様にバラバラになる可能性が高い。 このように,本件発明1で使用される「わらマット,木質系インシュレーションボード等の層」が,引用考案においては使用することの不可能なものである以上,当業者が引用考案から容易に本件発明1に想到することができたということはあり得ないことである。 3 取消事由3(作用効果についての判断の誤り) 審決は,本件発明の奏する作用効果は,当業者の予測の範囲内のものであるとしたが,誤りである。 (1) 引用例によれば,引用考案においては,炭化コルクボードは,厚さ調整用にのみ使用されるものである(引用例には,炭化コルクボードの作用効果につきそれ以上の記載はない。)。審決は,「コルクボードは,断熱性,吸音性,耐振性,防虫効果を有し,比重が1よりも小さいものであることは本件特許出願前によく知られた事項であり(例えば甲第10号証参照),コルクボードに換えて炭化コルクボードとしても同様の特性や効果を有すると考えられる。」(審決書5頁27行〜30行)としているが,これは,証拠に基づかない判断である。「炭化」という処理が素材の特性を大きく変化させるものであることは,技術常識である。また,コルクボードが防虫効果を有することが,本件出願前によく知られていたという事実はない。 (2) 審決は,炭化コルクと木炭との間の類推からも,本件発明の作用効果は当業者において予測の範囲内であると考えられる,としている。しかし,木炭から「自然な踏足感」という本件発明にとって非常に重要な作用効果が当業者において予測できたとは考えられない。 (3) 審決は,「乙第1号証が本件特許の出願後に発行されたものであったとしても,炭化コルクの特長が本件特許の出願前後で変わるとも考えられない。」(審決書6頁6行〜8行)としているが,出願後に発行された刊行物に記載された作用効果を進歩性の判断の基礎としたのは,明らかに誤りである。 |
|
被告の反論の要点
1 取消事由1(一致点認定の誤り)について (1) 技術分野の相違,について 引用考案の畳は,それが,冬季を除く長期間,通常の畳として使用される状況を考えると,暖房器具としての使用だけではなく,通常の畳としての使用をも前提に開発されたものといえるから,そこに示される技術は,暖房器具としての畳に係るものに限定されるものではなく,畳床の分野に広く用いられるものとして把握すべきである。この点は,引用例の2頁右欄(考案の効果)の項に「炭化コルクボードを介装することにより畳床の厚さを調整し,表面側にコルクシートを層着すれば畳表を装着した際適度の弾力を発揮する効果がある。」と暖房器具としては不要な効果である畳表面の弾力を考慮している記載があることからも明らかである。 (2) 「木質系のボードの層」という概念の導入の誤り,について 原告は,「コルクボードやベニヤ板」は,畳の材料として一般に用いられていない旨主張する。しかし,乙第1号証のパンフレットには「トコルーク畳」の断面が示され(乙第1号証4頁),コルクボードの間にベニヤ板が挟まれている様子が示されている。また,乙第2号証の1・2の新聞の記事には,「コルク畳(トコルーク畳)が平成3年に販売され,売れている事実」,「コルク材と合板を重ね合わせ…製造,」する旨及びコルク畳の様々な効果(防虫効果,断熱性,防湿など)が記載されている。 したがって,コルクボードやベニヤ板を畳の材料として用いることは一般的なことといい得るから,「コルクボードやベニヤ板」も,「わらマット,木質系インシュレーションボード等」と同様,畳床の技術分野に属するということができる。そうである以上,本件発明における「わらマット,木質系インシュレーションボード等」と従来技術における「コルクボードやベニヤ板」の双方を含む上位概念として「木質系のボード」との概念を導入した審決の判断には,何ら誤りはない。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 引用考案は,畳材に関する先行技術であるから,本件発明1の進歩性を判断するに当たって,引用考案の構成を出発点としつつ,そこでは用いられている発熱体を用いないことにした構成を検討すること,あるいは,公知材料である木質系インシュレーションボードを用いる構成を考えることは当然である。また,厚さ調節用材として炭化コルクボードを用いるとした記載が,畳の材料に炭化コルクボードを用いる技術を記したものとして,本件発明の先行技術としての意味を有することは,当然である。 3 取消事由3(作用効果についての判断の誤り)について (1) 従来技術において用いられている「コルクボード」の概念には,非炭化コルクボードのほか,炭化コルクボードが含まれる。そして,コルクボードを畳に用いた効果として,比較的安価であり,断熱性,防音・遮音性,防水性,防虫性に優れる点が認められることは,乙第4号証の第3006402号登録実用新案公報の【0016】【考案の効果】の項に記すとおりである。また,乙第5号証の昭62-35793実用新案公報第4欄にも,コルク板の効果として「断熱・防音効果に優れる」旨の記載がされている。 (2) 乙第1号証のパンフレット4頁には「トコルーク畳」の断面が示され,そこでは,色の薄いコルクボードは非炭化コルクボードを,色の濃いコルクボードは炭化コルクボードをそれぞれ示している。この両コルクボードを用いるトコルーク畳の効果が,「@ダニを寄せ付けない(防虫性),A耐火性,B断熱性,C防湿性,D防音性,E耐震性…」であることは,同号証の2ないし3頁に記されるところである。 (3) 原告は,従来技術からは,本件発明の作用効果である自然な踏足感が予測できない旨主張する。 しかし,畳材としてコルクボード(炭化コルクボードを含む。)を用いたときに適度な弾力が発揮されることは,乙第1号証のパンフレット3頁に「Eコルクは優れた耐震材です。ガラスコップを落としても割れないほどのほどよい弾力性があり…」と記載されるとおり,従来からよく知られたことであり,本件発明の特徴のある作用効果となり得るものではない。 また,本件明細書によると,この自然な踏足感が得られるとの効果は,畳に仕切板を用いないとの構成によるものであるにすぎない(本件公報【0010】欄参照)。 本件発明は,「炭化した木質ボード層」と「わらマットなど」を組み合わせることを構成要件とするものであり,自然な踏足感を奏するための具体的構成は全く要件としていない。したがって,本件発明における「自然な踏足感」の作用効果は,従来から畳に用いられるコルクボードの効果そのものであり,そこに新規なものは何もない。本件明細書には,炭化コルクボードと非炭化コルクボードとの踏足感の違いも記載されてない。 |
|
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り)について (1) 技術分野の相違について 原告は,引用考案は,暖房器具であって畳ではないという。しかし,甲第3号証の2,乙第3号証によれば,引用考案は,考案の名称を暖房畳床とする考案であること,同考案は,内部に発熱体を設けた暖房畳床に関するものであって,その効果として,「耐久性があり・・・炭化コルクボードを介装することにより畳床の厚さを調整し,表面側にコルクシートを層着すれば畳表を装着した際適度の弾力を発揮する効果がある。」(甲第3号証の2,乙第3号証4欄29行〜34行以下)こと,同考案においては,「面状発熱体のON,OFFによって加熱と冷却を繰返しても,藁のように変性する材料は無いので,耐久性を増すことができる。」(同3欄23行〜25行)ことが認められ,こらのことから,引用考案は,1年を通じて使用することもできる畳床であり,暖房が必要な場合には,面状発熱体をONにして暖房畳床として使用するものの,暖房の必要性がない限り,発熱体をOFFにして単なる畳として使用するものであり,また,畳である以上,耐久性や畳表を装着した際の弾力性等,畳として求められる性質が必要となるものであることが明らかである。したがって,引用考案は,暖房器具としての側面も有するものの,それ以前に畳床であり,畳床の技術分野に属するものであることが明らかである。 本件発明と引用考案がいずれも畳床の技術分野に属するとした審決は正当であり,引用考案を単なる暖房器具であるとする原告の主張は採用し得ない。 (2) 「木質系のボードの層」という概念の導入について 原告は,審決が,本件発明1と引用考案とを対比し,「両者は,「炭化した木質ボード層と,木質系のボードの層とを含むことを特長とする畳」において一致すると認定したことについて,「木質系ボードの層」という本件明細書にない概念を導入している旨主張して,審決を非難する。しかし,「木質系のボードの層」の語に最もふさわしい定義が何であるにせよ,審決がこの語に与えているのが,本件発明1の「木質系インシュレーションボード等の層」及び引用考案の「コルクボードやベニヤ板の層」に共通する,「木材に由来するボードの層」程度の意味であるのは,審決書の記載に照らして明らかであり,審決の行ったこの一致点認定に何ら誤りは存在しない。本件発明と引用考案を対比するに当たり採用する概念だからといって,それが本件明細書に記載されていなければならないものではないことは,当然である。審決は,このように一致点を認定しただけでなく,この一致点の下で,本件発明を構成する「わらマットや木質系インシュレーションボード」が引用考案では用いられていないこと,すなわち,両者には具体的にはこの点で相違があることを認め,そのうえで引用考案から本件発明の構成に想到することが容易であるか否かを検討しているものであり,その判断手法自体に,何ら問題となるところはない。残るのは,容易想到性の判断の当否のみである。 2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について 本件発明1は,炭化した木質ボード層(その代表的なものが本件発明2の炭化コルクボードである。)とわらマットないし木質系インシュレーションボード等の層から構成される畳であるのに対し,引用考案は,積層体内部に介装される発熱体の構成を除けば,炭化コルクボードとコルクボードやベニヤ板の層からなる畳床である(当事者間に争いがない。)。したがって,本件発明と引用考案とを比較すると,審決認定のとおり,両者は,炭化コルクボードの層を有する点でその構成を共通にしているものの,引用考案は,畳床を構成する層として「わらマットないし木質系インシュレーションボード」との構成を備えておらず,その代わり,「コルクボードやベニヤ板」との構成を有しており,この点で,引用考案と本件発明とは異なるものである。 しかし,まず,引用考案が暖房器具としての側面を有するものの,それ以前に畳であることは前述のとおりであるから,これを出発点としつつ,これから暖房器具のないものに想到することは,反対の結論に導く特別の事情がない限り,何の困難もなくなし得ることというべきである。ところが,そのような事情は本件全証拠によっても認めることができない。 次に,畳床を構成する層として「わらマット」を用いることも,「木質系インシュレーションボード」を使用することも,本件発明の出願時の畳床の技術分野においては,周知の技術であったことが認められるから(甲第3号証の3・4),畳床の技術分野における当業者が,「炭化コルクボード,コルクボードやベニヤ板」の層から成る暖房畳床である引用考案から,発熱体を使用しない単なる畳床に想到する場合に,引用考案の「コルクボードやベニヤ板」の構成に代えて,畳床を構成する層として周知の技術である「わらマット」や畳床を構成する木質系のボードとして周知の技術である「木質系インシュレーションボード」を使用し,これと炭化コルクボードとを組み合せた構成から成る本件発明の畳床を想到することは容易であったものと認められる。 また,原告は,当業者の観点からは,本件発明の「わらマット,木質系インシュレーションボード」と引用考案の「コルクボードやベニヤ板」は全く別異のものである旨主張するが,両者が畳床を構成する層として炭化コルクボードと併用したときに全く異なる作用効果を奏するなど,炭化コルクボードについて,畳床を構成する層として周知の技術である「わらマット,木質系インシュレーションボード」との併用を排除すべき特段の事情を認めるに足りる証拠はない以上,原告の上記主張は採用し得ない。また,原告は,引用考案における「コルクボードやベニヤ板」は,実際に畳床を構成する材料として一般に用いられているものではないから,畳床の技術分野に属さないものである旨主張するが,コルクボードと合板とを重ね合わせ,畳表を張って製造したコルク製の畳が,既に平成3年ころには製造販売されていたことが認められるから(乙第2号証の1及び2),原告の上記主張も採用し得ない。 なお,原告が指摘するとおり,引用例には「畳床の藁が発熱体のON,OFFによる加熱と冷却を繰返し受けて脆くなり,およそ1年でバラバラになる為,畳床としての機能を維持できなくなる問題点があった」との記載がある(甲第3号証の2,乙第3号証1頁右欄下から7行〜4行)が,わらマットが不適当であるとの上記記載は,発熱体を使用した暖房畳床についてのみいえるものであることは上記記載自体から明らかであるから,当業者が,引用考案から,暖房畳床ではなく,単なる畳床の構成を考えるに当たって,畳床の周知技術であるわらマットの層を排除して考えるものとは認められず,引用例における上記記載は,容易想到性についての前記判断を左右するものではない。 3 取消事由3(作用効果についての判断の誤り)について 引用考案の構成から本件発明1の構成に想到することが当業者にとって容易であったことは,上述のとおりである。本件発明2は,同1の炭化木質ボードを炭化コルクボードに限定しただけであるから,炭化コルクボードを用いる引用考案から本件発明2に想到することが容易であったことも,上述したところから明らかである。 本件明細書に本件発明の作用効果として記載されているものは,本件発明の構成を前提にした場合,その作用効果として自明といってよいものばかりであり,構成と離れて特許性の根拠になり得るようなものではない。原告の主張に則して,いくつかについて具体的に述べれば次のとおりである。 原告は,引用考案においては,炭化コルクボードは,厚さ調整用としてのみ使用されており,引用例にはそれ以上の作用効果の記載はない旨主張する。しかし,審判において提出されている甲第2号証(「商品大辞典」昭和44年3月10日発行)の512頁左欄下から7行ないし同頁右欄4行に,板状のコルク板の大部分を占めるのが炭化コルク板である旨の記載があることからすれば(この点は争いがない。),炭化コルクボードは,コルクボードの一種であることが認められ,また,本件発明の出願時において,コルクボードが畳を構成する層として既に使用されており,かつ,コルクボードを使用した畳については,断熱性,防音・遮音性,防水性,防虫効果,防湿,耐久性,耐火性に優れているとの効果があると認識されていたものであること(乙第2号証の1及び2,第4,第5号証),並びに,木炭が脱臭機能を有することは当裁判所にも顕著な事実であることからすると,炭化コルクボードが本件発明において指摘されているような防臭,防虫,防湿効果を有することも,畳床の技術分野においては,本件発明の出願時において当然に予測される効果であると認められる。 また,原告は,本件発明の「自然な踏足感」については,当業者において予測できたとは考えられない旨主張するが,本件発明のような構成を採用した場合に,従前の木炭収納用の仕切り板を使用した構成の畳に比べて,「自然な踏足感」が生じるのは,当業者において十分に予想できたものといえるから,原告の同主張も失当である。 なお,原告は,審決が本件特許の出願前に頒布されたかどうか不明である乙第1号証を引用して述べている点も論難しているが,審決は,乙第1号証を根拠として炭化コルクの特徴を認定しているわけではなく,むしろ他の証拠により認定される炭化コルクの特徴が乙第1号証にも記載されていることを述べているにすぎないから,この点も審決の違法を根拠づける主張とはなり得ない。 4 以上によれば,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見あたらない。 |
|
よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟
法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
---|---|
裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 阿部正幸 |