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関連審決 異議1998-75473
関連ワード 29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  実施 /  加工 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  独立特許要件 /  取消決定 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 166号 特許取消決定取消請求事件
原告 日本メクトロン株式会社
訴訟代理人弁理士 吉田俊夫
同 吉田和子
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 中島次一
同 柿崎良男
同 森田ひとみ
同 宮川久成
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年異議第75473号事件について平成12年3月21日にした決定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「アクリル系エラストマー組成物」とする特許第2748866号発明(平成6年10月13日出願、平成10年2月20日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者である。
設定登録後、本件特許に対する異議の申立てがされ、同申立ては、平成10年異議第75473号事件として特許庁に係属した。原告は、平成11年4月30日、本件特許出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、平成12年3月21日、「特許第2748866号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、同年4月19日、原告に送達された。
2 本件明細書の特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前のもの(以下、請求項1、2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。) 【請求項1】アクリル系エラストマーに、pHが6.5〜8.5でかつ比表面積が約150u/g以上のシリカを配合してなるアクリル系エラストマー組成物。
【請求項2】アクリル系エラストマーに、pHが6.5〜8.5でかつ比表面積が約150u/g以上のシリカおよびポリアルキレングリコールを配合してなるアクリル系エラストマー組成物。
(2) 本件訂正に係るもの(訂正部分に下線を付す。以下、請求項1、2に係る発明をそれぞれ「訂正発明1」、「訂正発明2」という。) 【請求項1】アクリル系エラストマー100重量部 に、pHが6.5〜8.5でかつ比表面積が約300 u/g以上の表面処理 を施さない シリカ5 〜100 重量部 を配合してなる押出加工用 アクリル系エラストマー組成物。
【請求項2】アクリル系エラストマー100重量部 に、pHが6.5〜8.5でかつ比表面積が約300 u/g以上の表面処理 を施さない シリカ5 〜100 重量部 およびポリアルキレングリコール0.1〜10重量部 を配合してなる押出加工用 アクリル系エラストマー組成物。
3 本件決定の理由 本件決定の理由は、別添決定謄本記載のとおり、訂正発明1は、本件出願前に頒布された刊行物である「合成ゴム加工技術全書K アクリルゴム エピクロルヒドリンゴム」(紙屋南海夫他著、昭和55年1月31日株式会社大成社発行、27〜35頁、甲第3号証、以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)であるから特許法29条1項3号により、訂正発明2は、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから同条2項により、いずれも出願の際独立して特許を受けること(以下「独立特許要件」という。)ができないものであって、本件訂正は認められないとし、本件発明の要旨を本件訂正前の本件明細書の特許請求の範囲記載のとおり認定した上、本件発明1は引用例発明と同一であり、本件発明2は引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから、本件発明1に係る特許は、特許法29条1項3号に違反してされたものであり、本件発明2に係る特許は、同条2項に違反してされたものであるから、本件発明1及び2に係る特許は、同法113条1項2号に該当するので取り消されるべきであるというものである。
原告主張の決定取消事由
1 本件決定は、訂正発明1及び2と引用例発明との相違点の認定を誤った(取消事由)結果、訂正発明1及び2が独立特許要件を具備しないとして、本件発明の要旨の認定を誤ったものであるから、取り消されるべきである。
2 取消事由(相違点の認定の誤り) 本件決定は、「両発明において、前者(注、訂正発明)が・・・組成物について、『押出加工用』としている(相違点2)のに対し、後者(注、引用例発明)が、これらについて特に何も規定されていない点で、一応相違する。」(決定謄本4頁19行目〜22行目)との相違点(以下「相違点2」という。)を認定した上で、「刊行物1(注、引用例)の表4-3に記載された組成物は・・・該表中にガーベイダイスエル(注、(押出物断面積-口金面積)÷口金面積×100。「ダイスエル」、「ダイスウェル」及び「スエル」と同義。)の測定値が記載されていることから・・・押出成形しているものと認められる。そして、表4-3と表4-2とを対比すると、プレスキュア(注、プレス加硫)、ポストキュア時の物性値について、同一の項目を測定しており、このことから、物性値の測定は、同一の成形方法を用いて作成した試験片を用いているものと解することが相当である。そうすると、この相違点2も、両発明の相違点ではないことになる。」(決定謄本4頁35行目〜5頁5行目)と認定するが、誤りである。
(1) 加硫は、一般に、金型を用いて加熱加圧するプレス加硫及び加熱オーブンなどを用いて加硫を完結させるポストキュアの2段階で行われており、引用例の表4-2に記載されている常態値物性は、このようにして行われたプレス加硫時及びポストキュア時における加硫ゴム特性の試験結果を示している。また、こうした加硫ゴム特性の試験とは別に、押出し速度、ダイスエル、押出し物の形状などに対応したゴムの加工性試験がある。
そして、表4-3は、ポストキュア時の測定項目の一つとしてゴムの加工性を示すガーベイダイスエルの値が測定されたような表となっているが、加硫ゴム特性の試験とゴムの加工性試験とは別のものであって、同表に記載されているガーベイダイスエルは、加硫ゴム特性の試験項目ではなく、ゴムの加工性試験の項目である。したがって、同表では、加硫ゴム特性の試験とゴムの加工性試験という二つの試験に対応して、2種類の異なる試験片が用いられているのである。
これに対し、表4-2に記載されているのは、加硫ゴム特性を示す試験結果のみであって、この試験項目については表4-3と同一の成形方法を用いて作成した試験片が用いられているといえるものの、表4-2に記載のないガーベイダイスエルのようなゴムの加工性試験がここに記載されたアクリル系エラストマー組成物に対して当然に行われていると解することはできず、引用例に上記組成物を押出成形用とすることが記載されているとはいえない。
(2) 被告は、訂正発明と引用例発明の一応の相違点である「押出加工用であること」は、引用例に実質的に開示されていると主張するが、被告の主張は、決定の理由を変更し、又は理由の範囲を著しく逸脱するもので不当であり、また、その主張は理由がない。
引用例(甲第3号証)の「アクリルゴムのシートの平滑性やダイスエルは補強剤の種類、添加量によって顕著に変化する。」(30頁14行目〜15行目)との記載(以下「記載A」という。)は、それに続く記載によってその内容が説明されている。すなわち、一般に、ゴムにはその加硫物の補強性を高めるためにカーボンブラックが補強剤として添加され、カーボンブラックにはその粒径に応じて多くの種類があるが、凝集又は結合力の大きいカーボンブラックや、粒子径の大きい充填剤とHAF、IS-AFブラックの併用などが好ましいとされ、カーボンブラックの種類や性状によってダイスエルや押出特性が大きく左右されることが示されている。そして、表4-3には、ダイアブラックHという特定の種類のカーボンブラックを充填剤として用いた場合の例が示されているのである。また、このような記載に続き、シリカ系補強剤について別途に記載していることからしても、記載Aには、少くとも、カーブレックス#67などのシリカ系補強剤に関するものは含まれない。そうすると、記載Aは、カーボンブラック充填剤の種類によって押出特性が変化することを述べているにすぎない。
被告は、表4-2に記載した補強剤につき、表4-3のように補強剤の濃度を変化させてガーベイダイスエルの値を調べた結果、カーボンブラックが他の添加剤よりも効果的であることが分かったので、カーボンブラックの例を表4-3に示したという経緯が読み取れると主張する。しかしながら、このような経緯があるならば、そこで用いられるアクリル系エラストマーが同一でなければならないが、
表4-2ではノックスタイトA5098が、表4-3ではノックスタイトA1095が、それぞれアクリル系エラストマーとして用いられ、前者はエポキシ基を、後者は活性塩素基を架橋性基とするものであって、両表の間では架橋性基の種類による常態値物性への影響が考慮されておらず、被告主張のような経緯でないことは明らかである。また、表4-2に記載されているカーブレックス#67は、50重量部用いられているのであって、この場合には押出特性が満足される結果が得られてしかるべきであるが、被告の指摘箇所には、そのような記載はなく、このことは、
少なくともカーブレックス#67についてはガーベイダイスエルの測定が行われていなかったことを裏付けるものである。
被告の反論
1 本件決定の認定に誤りはなく、原告主張の決定取消事由は理由がない 2 取消事由(相違点の認定の誤り)について (1) 原告は、相違点2が実質的相違点ではないとした本件決定の認定が誤りであると主張するが、訂正発明と引用例発明の一応の相違点である「押出加工用であること」は、引用例に実質的に開示されている。
引用例の記載A、すなわち、アクリルゴムのシートの平滑性やダイスエルは、補強剤の種類、添加量によって顕著に変化すること、特に、添加量は効果的で、60部以上ではスエルは小さく、当量の添加ではポリマーとの凝集又は結合力の大きい活性なカーボンブラックが効果的で、ダイスエルは小さくなること、したがって、シート表面を平滑にするとか押出特性のよいコンパウンドにするには、カーボンブラックを60部以上添加して配合設計すること、表4-3にはその一例を示したことが記載されている。そして、この記載における「補強剤の種類」は、カーボンブラックのみならず、表4-2に記載されている補強剤をも念頭に置いて理解されるべきである。このことは、上記の記載中に、当量の添加ではポリマーとの凝集又は結合力の大きい活性なカーボンブラックが効果的で、ダイスエルは小さくなるとして、カーボンブラックが他の添加剤より効果的であることが記述されていることからも理解することができ、表4-2に記載された補強剤につき、表4-3のように補強剤の濃度を変化させてガーベイダイスウェルの値を調べた結果、カーボンブラックが他の添加剤よりも効果的であることが分かったので、カーボンブラックの例を表4-3に示したという経緯のあることが読み取れる。
そうすると、記載A、すなわち、アクリルゴムのシートの平滑性やダイスエルは補強剤の種類によって顕著に変化するとの記載は、表4-2に記載されたカーブレックス#67を始め種々の補強剤を含む組成物の平滑性及びダイスエルを測定し、その結果得られた知見を記載しているものと解される。そして、上記組成物のダイスエルが測定されていることは、押出加工されていることにほかならないから、上記組成物が押出加工されたことを十分に理解することができる。
(2) 原告は、記載Aが、カーボンブラック充填剤の種類によって押出特性が変化することを述べているにすぎない旨主張する。
しかしながら、アクリルゴムが押出加工用にも適することは周知であるから、引用例の記載A、すなわち、アクリルゴムのシートの平滑性やダイスエルは補強剤の種類、添加量によって顕著に変化すること、特に、添加量は効果的で、60部以上ではスエルは小さいとの記載は、アクリルゴムが本来有する押出加工性に対する補強剤の影響を一般的に論じているのであって、特に例示のカーボンブラックに限定して解すべき理由はない。
当裁判所の判断
1 取消事由(相違点の認定の誤り)について 原告は、訂正発明と引用例発明との一応の相違点である「押出加工用であること」が実質的相違点ではないとした本件決定の認定は誤りであると主張するので、この点について検討する。
(1) 「ゴム技術ガイドブック」(古谷正之他編、昭和53年11月10日、日刊工業新聞社8版発行)(甲第8号証)には、以下の記載がある。
ア 「9.2 ゴムの加工性試験 加硫物特性というと引張強さ,反ぱつ弾性,耐寒性,永久ひずみなど……数多くの性質を考え,すぐにおのおのの特性を示す試験法が思い浮かぶ.しかし,加工性というと流れやすさということからムーニー粘度計などがまず頭に浮かび,加工性のすべてがムーニー粘度と相関があるかのごとき錯覚をしやすい.“加工性”という言葉は“加硫物特性”という言葉に相当する広い意味をもつものである.そのなかにはたとえば素練りやすさ,混練時間,配合剤の分散のしやすさ,加工機に所要する電力,押出しやすさ,カレンダーシートはだなどをはじめとして数多くの特性を含むうえ,加工工程という1つの流れのなかでの相互の結びつきやすさまでを含んだきわめて広い意味をもっている.これらの現象について,正しい認識をもたねば加工性が認識されたとはいえない.・・・9.2.1 加工性試験 通常,加工性の試験法としては粘度や可塑度の測定法が第1にでてくるが,これらの測定の目的が“加工性”にあるならば,まずそのものの認識を明確にせねばならない.しかし,さきにも述べたごとく加工性は複雑な個々の現象とそれの結び合わせられたものであるから,詳しい説明には紙数が不足する.そこで,通常行なわれている加工性試験を通して加工性の一端を説明する. (1) ロール操作・・・(2) バンバリー混練り・・・(3) 押出し試験 チューブなどの押出し試験では,押出し速度(単位時間に押し出される容量,長さなど)ダイスエル,押出し物の形状などが問題となる.・・・ダイスエルは押出したとき,押出し物の断面がダイの大きさよりふくれる現象である」(275頁1行目〜277頁21行目) イ 「9.4 加硫ゴム特性の試験 前にも引用した書物「ゴム試験法」の本文中,約2/3が加硫ゴム特有の試験法で占められているが(約1/10が加工性試験,残りは実験計画法,分析法などを含む一般論),その数多い項目の一部を列挙すると,引張試験,かたさ,クリープ,応力緩和,永久ひずみ,引裂抵抗,耐寒性,動的特性,耐疲労性,耐摩耗性,耐劣化・薬品性,気体透過性,電気特性,接着試酸などである.本章では,このうちのいくつかを簡単に説明する. 9.4.1 引張試験 ゴム製品の耐久性にとって強さが重要な因子と考えられる一方,試験法として手軽であるため,ゴム工業ではもっとも広く実施され,重要視される習慣があるのが引張試験である.3.9節も参照されたい.・・・ゴムのデータにしばしば見られる特性で,100%引張応力(モジュラス)という表現がある.これは2倍に伸びたときを100%,3倍,4倍……をそれぞれ200%,300%……とし,引張る前の断面積でそのときの応力を割った値である.『伸び』というのは切断時の伸びであり,同様に-%という表現を用いる.引張強さも切断時の応力を伸張前の断面積で割った値である.試験機も自動化や測定条件の変更などの改善が望まれる. 9.4.2 かたさ かたさの測定も,もっとも広く行なわれるゴム試験である.」(283頁1行目〜284頁2行目) これらの記載によると、加硫ゴムの特性には、押出し速度、ダイスエル、
押出し物の形状など、その加工性に注目したもの(以下「加工特性」という。)と、引張応力、伸び、引張強さ、固さなど、その物の性状に注目したもの(以下「性状特性」という。)があって、これらの特性が加硫ゴムを理解する上で重要な指標となっており、このことは、加硫ゴムに関する技術分野において技術常識であったこと、また、ダイスエルが押出成形する際の加工性に関する加工特性であることが認められる。
(2) 引用例(甲第3号証)には、以下の記載がある。
「4・2 補強剤,充填剤の効果・・・表4-2は代表的な補強剤について,硬さを60前後に添加量を調整したプレスキュア,ポストキュア時の常態値物性を示したもので,HAL-LSタイプのシーガル#300,ISAFタイプのショウブラックIは高い破断強度を示す。またSRFタイプのシーストSは充填量も多く,高強度が得られる。シリカ系の補強剤は橋かけ剤の消費がいちじるしく,橋かけ速度が小さいので,添加量を増やす必要がある。アクリルゴムのシートの平滑性やダイスエルは補強剤の種類,添加量によって顕著に変化する(注、記載A)。特に添加量は効果的で,60部以上ではスエルは小さい。当量の添加ではポリマーとの凝集または結合力の大きい活性なカーボンブラックが効果的で,ダイスエルは小さくなる。したがってシート表面を平滑にするとか押出特性のよいコンパウンドにするには,カーボンブラックを60部以上添加して,可塑剤により硬さを調整する・・・表4-3にその一例を示した。」(29頁1行目〜31頁6行目) この記載によると、「4・2 補強剤,充填剤の効果」は、アクリルゴムに補強剤や充填剤を添加した際の効果を説明する章であり、表4-2には、アクリルゴムであるノックスタイトA5098に対して代表的な補強剤7種を添加した場合の効果に関して、プレスキュア後及びポストキュア後の硬さ、引張応力、引張強さ、伸びなどの性状特性が示され、同表に基づき上記補強剤7種の性状特性に及ぼす添加効果について注釈がされている。そして、注釈に引き続いて、アクリルゴムのシートの平滑性やダイスエルが補強剤の種類や添加量によって顕著に変化する旨の記載Aがあるところからすれば、この記載Aが加工特性に関するものであることは明らかである。
そこで、記載Aについて検討すると、上記(1)のとおり、加工特性と性状特性とが加硫ゴムを理解する上で重要な指標であることは技術常識であり、加工特性に関する記載Aに先立って、まず、代表的な補強剤7種を添加した場合の性状特性に及ぼす添加効果について注釈がされているのであるから、記載Aは、この代表的な補強剤7種を念頭に置いて、性状特性と同様に重要な指標である加工特性、具体的には、シートの平滑性やダイスエルについて、補強剤の種類や添加量による添加効果を説明しているものと理解することができる。そうすると、記載Aの補強剤の種類は、少なくとも上記代表的な補強剤7種を含んでいると認められる。そして、
表4-2には、ノックスタイトA5098(アクリル系エラストマー)100重量部に対してカーブレックス#67を50重量部を配合して成る組成物が記載され、
これについて、ダイスエルに関する効果が認識されていることが明らかであるから、引用例には、上記組成物を押出加工用とすることが示唆され、実質的に開示されているものと認めるのが相当である。
したがって、「押出加工用であること」が訂正発明1と引用例発明における相違点ではないとする本件決定の認定に誤りはなく、この点に関する原告の主張は採用することができない。
(3) ところで、原告は、記載Aがカーボンブラック充填剤の種類によって押出特性が変化することを述べているにすぎない旨主張する。しかしながら、引用例(甲第3号証)には、記載Aに続けて、上記のとおり、「特に添加量は効果的で,60部以上ではスエルは小さい。当量の添加ではポリマーとの凝集または結合力の大きい活性なカーボンブラックが効果的で,ダイスエルは小さくなる。したがってシート表面を平滑にするとか押出特性のよいコンパウンドにするには,カーボンブラックを60部以上添加して,可塑剤により硬さを調整する・・・表4-3にその一例を示した。」(30頁15行目〜31頁6行目)と記載されている。この記載は、記載Aが補強剤の種類及び添加量によってダイスエル等が変化することを示したのに続けて、添加量に注目し、その具体的な量が60部以上であるとダイスエルは小さいこと、補強剤の種類に注目し、その具体的な種類としてカーボンブラックが好適であることを示し、この具体的な量や種類を受けて、「カーボンブラック」を「60部以上」添加して配合設計が具体的にとられる旨を述べているのであるから、記載Aは、カーボンブラック充填剤に限定されない補強剤の種類や添加量による添加効果を説明しているものと認めるのが相当である。
(4) 原告は、さらに、被告の主張は、本件決定の理由を変更し、又は理由の範囲を著しく逸脱するものであると主張する。確かに、本件決定が相違点2を実質的な相違点ではないと認定した理由は、引用例の表4-3の記載を参酌して表4-2に記載された技術的事項を理解したことに基づくものであるから、記載Aを技術的に理解すると、表4-2に記載されたカーブレックス#67の添加されたアクリル系エラストマー組成物を押出加工用とすることが実質的に開示されているという、
当審における被告の主張とは異なる。しかしながら、この点に係る本件決定の認定過程に適切でない部分があっても、上記のとおり、訂正発明1と引用例発明が「押出加工用であること」において一致するとした本件決定の認定が誤りでない以上、
本件決定の結論に影響を及ぼすべき誤りがあるということはできず、また、そうである以上、当裁判所の判断が本件決定の理由の範囲を逸脱するものでもない。
2 以上のとおり、原告主張の決定取消事由は理由がなく、他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 石原直樹
裁判官 長沢幸男