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関連審決 審判1999-17782
関連ワード 技術的思想 /  創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  出願公開 /  技術常識 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  混同 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 12年 (行ケ) 342号 審決取消請求事件
原告 セイコーエプソン株式会社
訴訟代理人弁護士 吉武賢次
同 神谷巌
訴訟代理人弁理士 中村行孝
被告 特許庁長官及川耕造
指定代理人 水垣親房
同 山口由木
同 大橋良三
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/06/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成11年審判第17782号事件について平成12年7月24日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成3年2月25日,発明の名称を「画像形成方法」とする発明について特許出願(平成3年特許願第30369号)をしたが,同11年9月24日拒絶査定を受けたので,同年11月4日,拒絶査定不服の審判をした。特許庁は,この請求を平成11年審判第17782号として審理した結果,同12年7月24日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決の謄本を,同年8月21日,原告に送達した。
2 特許請求の範囲の請求項1(以下,この発明を「本願発明」という。) 感光体に静電潜像を形成し,この静電潜像を現像することにより画像を形成する電子写真プロセスによる画像形成方法であって, 前記感光体が,光減衰特性として,表面電位を25%減衰させるのに必要な露光量E25 ,表面電位を50%減衰させるのに必要な露光量E 50 ,および表面電位を75%減衰させるのに必要な露光量E75 の関係が,下記の関係, E25 ≧0.5・E 50 E 75 ≦2・E 50 を有し,かつ,現像電極を前記感光体に2g/mm以上,20g/mm以下の圧接圧力で圧接する圧接現像法によって現像することを特徴とする,画像形成方法。
3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおり,本願発明は,特開昭54-149632号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び特開平1-169454号公報(以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)並びに周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,と認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由1(出願の経緯・本願発明),2(引用例)は認める。同3(対比・判断)は,3頁19行から4頁下から14行の「記載されており」まで認め,その余は争う。同4(むすび)は争う。
審決は,本願発明と引用発明1との相違点1及び同2についての判断を誤り(取消事由1,2),本願発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由3)ものであり,これらの誤りはいずれも結論に影響を与えるものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り) (1) 審決は,「本願発明が,「感光体が,光減衰特性として,表面電位を25%減衰させるのに必要な露光量E25 ,表面電位を50%減衰させるのに必要な露光量E 50 ,および表面電位を75%減衰させるのに必要な露光量E 75 の関係が,下記の関係, E25≧0.5・E50 E75≦2・E50を有し,」を構成としているのに対し,引用例1には,かかる構成が記載されていない点。」(審決書3頁36行〜4頁2行)を相違点として認定したうえ,「引用例1に引用例2を適用して上記相違点1の構成を想到することに何等困難性は認められない。」(同4頁33行〜34行)と判断した。審決の相違点1の認定は正しいが,想到の困難性についての上記判断は,誤りである。
引用例1が圧接現像法について開示しているのは事実である。しかし,エッジ効果の異常発生に伴う問題を解決するという本願発明の技術的課題については,課題自体,そこには記載されておらず,ましてその解決を動機付ける記載をそこに見出すことはできない。むしろ,本願出願当時には,エッジ効果の発生は当業者においては好ましい現象として認識されていたのである。また,引用例2には,6以上のγ特性を有する感光層を備えた感光体を得る技術自体は開示されているものの,そこにも,高γ型感光体は特にエッジ効果が発生しやすいという認識について示唆する記載はない。このように,両引用例中にこれらの技術を組み合わせるべきことについて示唆するものがない以上,両者を組み合わせることを容易とすることはできないというべきである。
(2) 審決は,上記の判断をするに当たり,「引用例2と同様な高γ型光減衰特性を示す感光体が,トナーを感光体の潜像面に垂直方向に押し付けて現像を行う接触反転現像方法に用いられることは,例えば特開平2-207260号公報(判決注:本訴の甲第6号証。以下「甲第6号証刊行物」という。),特開平2-207261号公報(判決注:本訴の甲第7号証。以下「甲第7号証刊行物」という。)に記載のように周知技術に過ぎない」(審決書4頁29行〜32行)と認定したが,これも誤りである。甲第6,第7号証刊行物は,いずれも本願出願日のわずか6か月前に出願公開された公開公報にすぎず,上記事項がこれらに記載されているからといって,それを本願出願時において周知技術であったとすることはできない。
また,審決は,甲第6,第7号証刊行物に記載されている接触反転現像方法が本願発明において採用されている圧接現像に該当すると認定しているが,接触反転現像方法とは,本願発明に係る明細書(以下,願書添付図面も含めて「本願明細書」という。)の冒頭において従来技術として説明されている磁気ブラシ現像法のような現像法であって,本願発明のように感光体と現像ローラーとが特定圧力で相互に加圧された状態で圧接される現像法ではない。審決は,単にトナーを接触させることと,本願発明のように現像電極を感光体に対して最近接させることとを混同し,圧接現像により現像電極を感光体に対して最近接させることの技術的意義を看過しているのである。
さらに,甲第6,第7号証刊行物の記載についていえば,高γ型光減衰特性を示す感光体に対して上記磁気ブラシ現像法のような接触現像法を適用した場合には,現像時にエッジ効果が異常発生する現象がみられるのである。このことは,本願発明の技術的課題に関して逆の教示をなすものであり,むしろ,本願出願当時における本願発明の推考困難性を示しているのである。
(3) 被告が乙第1号証ないし乙第4号証として提出した各刊行物に,圧接現像を採用することが開示されているのは事実である。しかし,これらの刊行物には,圧接現像を採用することに伴う種々の技術的問題点についても開示されている。たとえば,特開昭53-3233号(以下「乙第1号証刊行物」という。)には,非現像時にトナーが感光体に付着して地汚れが発生しやすくなること,潜像にトナーが保持されにくく,トナーが乱れたり固化したりしてトナー補給や帯電に不都合が生じること,ローラー又は感光体が塑性変形を起こしやすいこと等の問題点が開示されている(乙第1号証,1頁右下欄,2頁左上欄)。また,実願昭62-40007号(実開昭63-148956号)のマイクロフィルム(以下「乙第2号証刊行物」という。)にも,画像品質を低下させる要因となる,従来の圧接現像法における様々の問題点が記載されている(乙第2号証,6頁13行〜7頁16行)。さらに,特開平2-245777号(以下「乙第3号証刊行物」という。)には,圧接現像法においては,ニップ幅の制御の困難性にともなう印字品質の変動や印字品質の劣化の問題が記載されている(乙第3号証,2頁右上欄)。さらにまた,特開平2-287576号公報(以下「乙第4号証刊行物」という。)においても,圧接現像によるトナー搬送の不具合にともなう画像品質の低下が指摘されている(乙第4号証,2頁右下欄,3頁左上欄)。
要するに,本願出願当時においては,圧接現像法は,画像品質の向上のためには必ずしも有効な方法ではないと認識されていたのである。
(4) 被告は,乙第5号証の電子写真学会編「電子写真技術の基礎と応用」(以下「乙第5号証刊行物」という。)を引用して,エッジ効果の抑制に関する本願発明の作用効果が一般的技術的事項であるかのように主張している。しかし,乙第5号証刊行物の「2.4.2静電潜像の電場構造」の項をみると,その前段部分に,静電潜像上に現像電極を設けることによってエッジ効果を抑制できることが記載されているとはいうものの,後段部分(59頁4行〜9行)には,感光体表面と現像電極間の電場が感光体表面の電荷に比例しかつ両者間の距離に反比例することの帰結として,現像電極を感光体に接近させると電場が増加することが記載されているにすぎず,エッジ効果の抑制に関することは記載されていない。このように,乙第5号証刊行物には,結局のところ,本願発明のように現像電極を感光体に一定圧力で圧接させることによってエッジ効果を解消させることについては記載されてはおらず,まして,高γ型感光体においてエッジ効果が異常発生することやこの異常発生が本願発明の方法によって解消できる点については,これを教示する記載はないのである。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り) 審決は,「本願発明が,現像電極を感光体に圧接する圧接圧力に関し「2g/mm以上,20g/mm以下の圧接圧力で」を構成としているのに対し,引用例1には,かかる構成が記載されていない点。」(審決書4頁4行〜6行)を相違点2として認定したうえ,「現像バイアス電圧が印加された現像ローラーを感光体ドラムに22〜50g/cm,即ち2.2〜5.0g/mmの圧接圧力で圧接することは,例えば特開平2-296267号公報(判決注:本訴の甲第8号証。以下「甲第8号証刊行物」という。)に記載のように周知技術である。」(審決書4頁37行〜5頁1行),「上記周知技術における現像バイアス電圧が印加された現像ローラーは,引用例1の現像ローラと同様に現像電極として理解されるものである。」(審決書5頁4行〜6行)と認定し,この認定に基づき,「引用例1に上記周知技術を適用して上記相違点2の構成を想到することに何等困難性は認められない。」(審決書5頁7行〜8行)と判断した。
審決の相違点2の認定は正しいが,判断の根拠とした認定は,誤りであり,したがって,これに基づく判断も誤りである。
第1に,甲第8号証刊行物は,本願発明の出願日のわずか2か月半程度前に出願公開されたものにすぎず,したがって,これをもってこの公開公報に記載されている技術が出願当時周知であったとすることはできない。
第2に,甲第8号証刊行物に,そこに示される現像ローラ7の体積抵抗値が104〜1010Ω・mであることが記載されていることは事実であるものの,このような体積抵抗値の値から直ちにローラ表面が現像電極として作用するとすることはできない。また,甲第8号証刊行物の記載においては,現像ローラの体積抵抗値が専ら地カブリの防止やジュール熱発生によるローラ破損の防止の観点から設定されるものとされており,このような記載からも,甲第8号証刊行物中にはローラ表面を現像電極として機能させる旨の認識は示されていないことが明らかである。
結局,甲第8号証刊行物記載の技術は,長期間にわたって所定のニップ幅を維持するためのトナー担持体の改良に向けられたものであり,その技術的課題が本願発明におけるものと本質的に相違している以上,そこに本願発明を教示するものを見いだすことはできない。このように,甲第8号証刊行物記載の技術は,本願発明とは技術的課題が全く異なるものである以上,これと引用発明1とを組み合わせて相違点2に係る本願発明の構成に想到することに何等困難性は認められない,とする審決の認定は失当である。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過) (1) 審決は,「本願発明の奏する作用効果として,上記各引用例及び周知技術から予測される以上のものは認められない。」(審決書5頁9行〜10行)と判断したが,誤りである。
本願発明は,感光体として高γ型感光体を用いた場合の問題,すなわちエッジ効果(現像時に形成画像のエッジ部にトナーが過剰堆積する現象)の異常発生に起因する問題を,特定圧力範囲での圧接現像法と組み合わせることによって解決したのである。本願明細書の第1表に記載されたその作用効果は,予想外で格別のものであり,同表は,審決において引用された引用例の開示技術に対しても本願発明が予想外の顕著な作用効果を奏することを立証するものである。
(2) 被告は,本願明細書の第1表のNo.3,4,7における結果は,本願発明に包含されるものに係るものであるのに,本願発明に包含されないものに係るNo.8,9の場合と比較して,予想外の顕著な作用効果を奏するとは認められないと指摘している。しかしながら,同第1表において,本願発明の実施例に該当するものは表中のNo.1,2,5,6,13ないし16であってそれ以外は比較例であることが明記されている(甲第3号証7頁下から3行〜同2行)。したがって,同第1表の記載と請求項1の記載は何等矛盾するものではない。
被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について (1) 審決は,引用例1には感光体として種々の感光体が使用可能である旨の事項が示唆されていることが明らかであることと,同引用例には,引用例2に開示されている高γ型感光体を適用することを阻害する事項は記載されていないこととから,引用例1に引用例2を適用することは容易であると判断することができ,また,引用例1に引用例2を適用することの容易性を従来技術の面から検討しても,引用例2と同様な高γ型光減衰特性を示す感光体が,トナーを感光体の潜像面に垂直方向に押し付けて現像を行う接触反転現像方式に用いられることは甲第6号証刊行物の12頁及び甲第7号証刊行物の9頁に記載されているように周知技術であり,この周知技術は,高γ型光減衰特性を示す感光体を圧接現像に用いることができることを示唆していることから,「引用例1に引用例2を適用して上記相違点1の構成を想到することに何等困難性は認められない。」と判断したものであって,この判断に誤りはない。
原告は,本願発明の技術的課題の独自性を強調しているが,解像度などの画像特性を向上させる技術的課題は,画像形成方法においては,むしろ必然的な課題にすぎない。
(2) 原告は,わずか二つの,しかも,本願発明の出願日のわずか6か月前に出願公開された公開公報(甲第6,第7号証刊行物)に記載されているにすぎない技術を周知技術とすることはできない旨主張するが,周知技術であるか否かは,単に公開公報の数や公開後の期間のみによるものではなく,技術分野の技術進歩の速度にもよることは当然のことである。そして,上記公開公報の技術分野である電子写真技術は,技術革新が速く,電子写真技術に関する公開公報は,電子写真技術を扱う業界において遅滞なく知れ渡る性質のものであることから,審決は上記二つの公開公報に記載されている技術を周知技術としたものであって,審決に誤りはない。
(3) 原告は,甲第6,第7号証刊行物に記載されている接触反転現像方法が本願発明において採用されている圧接現像に該当するとした本件審決の認定は誤りである旨主張する。しかし,甲第6,第7号証刊行物には,一成分系現像剤を用いて現像する接触反転現像方式とともに,トナーを感光体の潜像面に垂直方向に押し付けて現像を行う技術も開示されていることから,審決は,甲第6,第7号証刊行物には,トナーを感光体の潜像面に垂直方向に押し付けて現像を行う接触反転現像方式が示されていると認めたのであり,審決のこの認定に誤りはない。そして,審決の認定したこの方式が,原告の主張する磁気ブラシ現像法とは異なるものであることは明らかである。
しかも,圧接現像が,一成分系現像剤を用いて現像する接触現像として,例えば乙第1号証刊行物及び乙第2号証刊行物に見られるように,一般的な技術であることを考慮すると,甲第6,第7号証刊行物に開示された技術が,高γ型光減衰特性を示す感光体を,圧接現像によりトナーを感光体の潜像面に垂直方向に押し付けて現像を行う方式に用いることができることを示唆していることは,明らかというべきである。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について 原告は,本願発明の出願日の2か月半程度前に出願公開された甲第8号証刊行物をもって同刊行物に記載されている技術を周知技術とすることはできない旨主張するが,同刊行物に記載された技術は,1で述べたと同様の理由により,周知技術といえるものであり,これを周知技術とした審決に誤りはない。
原告は,甲第8号証刊行物にはそこに記載された現像ローラの表面が現像電極として機能する事項は記載されていない旨主張する。しかし,甲第8号証刊行物には「この現像ローラ7は,例えば,直径20mm・・・の高分子発泡ポリウレタン(連泡状態)で形成される単一層7bと図示しない剛体より成る導電性の中心軸を含み,この中心軸を介して現像バイアス電圧(-300V)が印加されている。」(3頁右上欄13行〜20行)と記載されており,この記載は,現像ローラに印加された現像バイアス電圧が,現像ローラの表面と感光体表面との間に電位差を与えること,すなわち,現像ローラの表面が現像電極として機能することを開示するものである。
原告は,現像電極を感光体に2g/mm以上,20g/mm以下の圧接圧力で圧接する圧接現像により現像電極を感光体に対して最近接させ,この最近接した現像電極がエッジ効果の異常発生を解消する旨の効果を強調する。しかし,現像バイアスが印加されている現像ローラの表面が現像電極として機能することから,圧接現像の場合,現像電極が感光体に対して最近接することは自明である。そして,原告が主張する現像電極を感光体に圧接する圧力の値は,甲第8号証刊行物,乙第3号証刊行物,乙第4号証刊行物に開示されているように一般的な値であるばかりでなく,どのような圧接圧力にするかは,基本的に当業者が適宜採用する設計上の事項である。
しかも,感光体の静電潜像上に現像電極を設けた場合には,エッジ効果を抑制でき,現像電極は感光体に接近するほど効果があることは,乙第5号証刊行物に記載されているように,一般的な技術的事項にすぎない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 本願発明は,感光体の帯電電圧,現像バイアス電圧,速度比が特定された発明ではなく,本願明細書の第1表において実施例とされるNo.1,2,5,6,13〜16以外の同表No.3,4,7の構成をも包含するものである。
本願発明の明細書の第1表に示される事項は,本願発明の構成の範囲内でも,感光体の帯電電圧,現像バイアス電圧,速度比が異なれば,解像度が著しく異なることを示しており,また,本願発明に包含されるNo.3,4,7の例は,本願発明とは異なる構成であるNo.8,9の例と比較し,予想外の顕著な作用効果を奏するとは認められない。
以上のとおりであるから,本願発明の明細書の第1表は,本願発明の予想外の顕著な作用効果を立証するものではない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について (1) 審決が,「本願発明が,『感光体が,光減衰特性として,表面電位を25%減衰させるのに必要な露光量E25 ,表面電位を50%減衰させるのに必要な露光量E50 ,および表面電位を75%減衰させるのに必要な露光量E 75 の関係が,下記の関係, E25 ≧0.5・E 50 E 75 ≦2・E 50 を有し,』を構成としているのに対し,引用例1には,かかる構成が記載されていない点」(審決書3頁36行〜4頁2行)を本願発明と引用発明1との相違点1と認定したうえで,「引用例1に引用例2を適用して上記相違点1の構成を想到することに何等困難性は認められない。」(審決書4頁33行〜34行)と判断したことは,当事者間に争いがない。
(2) 引用例1(甲第4号証)には,「従来知られている1成分現像剤を用いた現像方法も・・・種々の欠点がある。例えば,・・・加圧現像方法では,・・・トナー担持体を感光体に加圧接触させ,かつ両者が実質的に零の相対周辺速度で移動するように構成して・・・この方法では・・・原稿が低コントラスト画像の場合には良好な現像を十分行うことが出来ない。・・・画像部と非画像部の電位差がほとんどないために文字部まで消えてしまい画像部の再現が出来ない。」(甲4号証1頁右下欄10行〜2頁左上欄8行)と従来技術の欠点が記載された後に,「低コントラストの原稿でも地肌汚れのない鮮明な複写画像を得ること」(同2頁左上欄16行〜18行)を目的として,「現像剤供与体を静電潜像の形成された感光体に押圧して現像する方法において,上記現像剤供与体と感光体はその接触部において同方向に移動し,かつ現像剤供与体の表面の移動速度は上記感光体の移動速度よりもわずかに大きい」(特許請求の範囲)との構成を採用したことが記載されている。
また同引用例には,「第3図には,感光体ドラム3と現像ローラー15との速度比VD/V pと画像反射濃度(I.D)との関係を示しており,実線は画像部,点線は非画像部の特性を示すものである。これによるとVD/V pが1に近いと,画像部の濃度が十分でないばかりでなく非画像部に付着したトナー量も多く,地肌汚れが著しいことがわかる。そして現像ローラー15の回転数を高め,速度比VD/V pを上げるにつれ,画像部の濃度が高くなると共に非画像部へのトナー付着が少なくなる傾向にあることがわかる。」(同3頁左下欄20行〜右下欄10行)と,速度比VD/V pを1より大きくしたことの作用効果が,第3図とともに示されている。
これらの記載からすると,引用発明1は,感光体ドラム3と現像ローラー15との速度比VD/V pが1である従来の圧接現像方法の欠点を解消すべく,速度比VD/V pを1より大きくすることにより,画像部の画像濃度を高めるとともに,非画像部の画像濃度を低くした圧接現像方法であるということができる。
そして,画像部の画像濃度を高め,非画像部の画像濃度を低くすることが,用いられる感光体の如何を問わず,すなわち用いられる感光体が高γ型であろうとなかろうと,現像方法一般に望まれることであることは,いうまでもないところである。
(3) 引用例1には,「画像部と非画像部の電位差がほとんどないために文字部まで消えてしまい画像部の再現が出来ない。」(甲4号証2頁左上欄6行〜8行)との記載があることから,引用発明1における感光体は高γ型ではないと認められ,引用例1に「感光体としてはセレン,酸化亜鉛,硫化カドミウム,有機光導電体等の感光体が使用可能である。また感光体の構成としては,導電性支持体の上に感光層を有する2層構成のものばかりでなく,感光層の上にさらに透明絶縁層を有する3層構成のものも使用可能である。」(同2頁右上欄5行〜10行)との審決摘示の記載があるとしても,これら種々の感光体が高γ型を包含するとまではいうことができない。
しかしながら,引用発明1において,画像部の画像濃度を高め,非画像部の画像濃度を低くするという作用効果は,専ら速度比VD/V pを1より大きくした圧接現像であることに由来するものとされていること,すなわち,使用する感光体に着目した場合には,使用する感光体の種類によるものではないとされていることは,引用例1の全趣旨に照らし明らかである(引用例が,審決が摘示した箇所において,使用すべき感光体として種々のものを列挙していることもこの事実を裏付けるものである。)から,引用発明1が高γ型感光体を想定していないとしても,そのことは,引用発明1を出発点としつつ,その感光体に代えて高γ型感光体を採用してみようと考えることの妨げとなるものではない。
(4) のみならず,甲第6,甲第7号証刊行物には,「本発明・・・の目的は・・・高ガンマ特性を有する・・・感光体を提供すること」(甲第6号証3頁左上欄5行〜10行,甲第7号証3頁左上欄5行〜10行)との記載と,「接触反転現像方式を採用する場合であっても現像領域に交流バイアスを印加して現像するのがよく,当該交流バイアスの作用によりトナーが感光体の潜像面に垂直方向から押し付けられて現像が行われ,潜像面の全体が均一でかつシャープに現像される利点がある。」(甲第6号証12頁左上欄14行〜19行,甲第7号証9頁左上欄19行〜右上欄4行)との記載があり,これらの記載から,高γ型の感光体について,トナーを感光体の潜像面に垂直方向から押し付けて現像を行う方法により,潜像面の全体が均一にかつシャープに現像されるとの技術が開示されていることが明らかである。そして,甲第6,第7号証刊行物は,圧接現像を記載したものとはいえないが,トナーを感光体の潜像面に垂直方向から押し付ける点では,圧接現像と軌を一にするものであるから,高γ型の感光体に,圧接現像を採用した場合においても,これら刊行物の記載と同様に,「潜像面の全体が均一でかつシャープに現像される」ことを十分に期待させるというべきである。
この点について,原告は,甲第6,第7号証刊行物によっては,そこに記載された技術が周知であるとはいえない旨の主張,及び,甲第6,第7号証刊行物に記載されている接触反転現像方法が本願発明において採用されている圧接現像に該当すると審決が認定したことが誤りであるとの主張をしている。しかし,ある技術が周知か否かは,単にその技術を記載した文献数やその文献の頒布時期によって決せられるものではなく,技術革新の速さにも依存するものであることは当然である。そして,本願発明の属する現像方法及び電子写真技術の技術革新が速いことは,周知の事実といえるから,本願発明出願の約6か月前に公開された公開特許公報である甲第6,第7号証刊行物記載の前記技術は,本願出願当時既に周知であったと認めることができ,これに反する原告主張は採用することができない。また,審決は「高γ型光減衰特性を示す感光体が,トナーを感光体の潜像面に垂直方向に押し付けて現像を行う接触反転現像方式に用いられることは,例えば特開平2-207260号公報,特開平2-207261号公報に記載のように周知技術に過ぎない。」(審決書4頁29行〜32行)と認定したのであって,甲第6,第7号証刊行物に記載された技術が本願発明において採用されている圧接現像そのものであると認定したのでないことは,審決の記載自体から明らかであり,原告の上記主張は,その前提を欠くものである。
(5) 加えて,乙第5号証によれば,同号証刊行物(昭和63年6月15日発行,電子写真学会編「電子写真技術の基礎と応用」)には,「現像プロセスでは,トナーに働く潜像電場がきわめて重要である。図2.15に静電潜像の電場の様子を電気力線でモデル的に示す。図(a)のように線画や画面の潜像の境界部分では,強い静電的な電場が作用する。これがエッジ効果である。一方,広い面積の潜像部においては電場が弱くなり,画面が現像されにくい原因となる。図(b)のように静電潜像上に現像電極を設けた場合には,このエッジ効果を抑制できる。この現像電極は,静電潜像による電場の様子を変え,画面の電場を増加させる働きがある。現像電極を用いると,静電潜像の各部は,感光体表面の電荷密度にほぼ比例して現像される。感光体表面と現像電極間の電場は,感光体表面電荷に比例し,感光体と電極間の現像距離に反比例する。したがって,現像電極は,感光体に接近するほど効果がある。この現像電極は,階調性のある現像とベタ現像には欠かせないものである。」(乙第5号証58頁下から4行〜59頁8行)との記載とこれに対応する図(同58頁図2.15静電潜像の電場構造)の記載があることが認められ,これらの記載によると,現像電極は,エッジ効果を抑制するものであること,及び,現像電極は,感光体に接近するほど効果があることが,いずれも本願出願当時既に周知の技術であったと認めることができる。そして,圧接現像において,現像電極と感光体が接近することはその原理上自明といえるから,エッジ効果を抑制する点で圧接現像が有利であることも周知の技術であったということができるのである。
そうである以上,たとい引用例1にエッジ効果について特段の記載がないとしても,引用発明1が圧接現像を採用している以上,同発明がエッジ効果を抑制する現像方法であることは,当業者にとって自明といえる事項であったのである。
そして,エッジ効果の抑制が,感光体が高γ型であるか否かにかかわらず望まれることであることは,明らかなことであるから,エッジ効果の点からも,高γ型の感光体に引用発明1の圧接現像方法を採用することは容易に想到し得ることであったということができるのである。
原告は,「本願出願当時には,エッジ効果の発生は当業者においては好ましい現象として認識されていた」と主張するが,そのことを認めるに足りる証拠はないばかりか,かえって乙第5号証によれば,従来もエッジ効果は抑制すべき現象として認識されていたと認められるのである。
原告は,乙第5号証刊行物の「現像電極は,感光体に接近するほど効果がある。」との記載は,エッジ効果とは無関係であると主張するが,その直前の記載における,「静電潜像の各部は,感光体表面の電荷密度にほぼ比例して現像される」のはエッジ効果が抑制されているためと認められ,またエッジ効果を抑制したからこそ「現像電極は,階調性のある現像とベタ現像には欠かせないものである。」と記載されていると認められることから,原告の上記主張は失当である。
(6) 原告は,乙第1号証ないし乙第4号証は,本願出願当時においては,圧接現像法は,画像品質の向上のためには必ずしも有効な方法ではないと認識されていた,と認めさせるものであると主張する。しかし,原告が乙第1号証刊行物について指摘する点は,「感光体と現像ローラーがともに弾性を有しない場合」に限った不都合であり,乙第2号証刊行物及び乙第4号証刊行物について指摘する点は,現像ローラとブレードとの間に関する問題にすぎず,これと圧接現像との関連を認めることはできないものであり,乙第3号証刊行物について指摘する点は,「前者の現像装置にあっては,」との前提があるように,「導電性のシリコーン系ゴムの単一層で形成されたトナー担持体」に限ってのことであり,しかも「印字品質が変動する」との記載があっても印字品質が悪いとの記載はないのであるから,これら原告指摘の記載によっても,「本願出願当時においては,圧接現像法は,画像品質の向上のためには必ずしも有効な方法ではないとの認識があった」と認めることはできない。かえって,(5)で述べたように,圧接現像はエッジ効果抑制のうえで有効であり,したがって画像品質の向上にも有効と認識されていたばかりか,乙第1号証刊行物の「現像むらを防止するためには,感光体と現像ローラー間に強い圧力を加えて現像幅を広くとればよい」(乙第1号証1頁右下欄10行〜12行)との記載も,圧接現像が画像品質の向上に有効であることを述べていると解されることから,原告の主張はいずれも失当である。
(7) 以上のとおりであるから,「引用例1に引用例2を適用して上記相違点1の構成を想到することに何等困難性は認められない。」(審決書4頁33行〜34行)との審決の判断に誤りはなく,取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について (1) 引用発明1は,圧接現像を採用したものであり,圧接によるものである以上,その圧接圧力が所定値以上であることを前提とすることは明らかである。また,同発明は,感光体ドラムと現像ローラーとの速度比VD/V pが1ではなく,両者が相対速度を持ちながら回転するものである。この場合,圧接圧力が大きすぎれば,感光体ドラムと現像ローラー間の摩擦力が大きくなり,相対移動を困難ならしめることは自明というべきであり,したがって,圧接圧力が所定値以下であることをも当然の前提とするものである。この場合,圧接圧力をいくらにすべきかは,適宜実験等により定めるべき事項であって,その圧力がいくらであるかについては,その値が従来の技術常識とかけ離れた値でない限り,これを技術的思想創作ということはできない。
このことは,本願明細書の「圧接圧力が2g/mm未満では安定な圧接状態が保持され難く,解像度が低下する傾向が見られる・・・一方,20g/mmを超える圧力で圧接すると,逆にトナーにダメージを与え,現像ローラーにフィルミングを起こしたり,さらには過大な駆動トルクを必要とするなどの問題が生じるので好ましくない。」(甲第3号証5頁24行〜28行)との記載ともむしろ整合するものであり,本願発明における圧接圧力も,前記説示と同様の理由により,当業者の技術常識の範囲内で適宜選択された数値にすぎないと認められる。
以上のとおりであるから,本願発明における圧接圧力の数値は,自明な事項であり,それが周知であるか否かは,相違点2の判断をなすに当たり,検討する必要すらない事項ということができるのである。
(2) 実際に,甲第8号証刊行物によれば,「現像ローラ7は・・・線圧22〜50g/cm(最適には43g/cm)で押圧され・・・感光ドラム1に対して・・・圧接される。」(甲8号証3頁左下欄1行〜7行)との記載があり,「線圧22〜50g/cm(最適には43g/cm)」とは「線圧2.2〜5.0g/mm(最適には4.3g/mm)」と同一であるから,本願発明の圧接圧力は従来の技術常識とかけ離れた値とはいえず,むしろ従来の技術常識の範囲内の値そのものなのである。すなわち,甲第8号証刊行物は,本願発明の圧接圧力が従来の常識とかけ離れたものでないことを立証する程度の意味合いで使用されるべき証拠であるから,そこに記載された具体的圧接圧力値が周知であるかどうかが問題となるものではない。これを周知でないとする原告の主張は,主張自体失当である。
(3) したがって,「引用例1に上記周知技術を適用して上記相違点2の構成を想到することに何等困難性は認められない。」との審決の判断は,その結論において誤りはない。
なお,原告は,甲第8号証刊行物記載の現像ローラ7は現像電極でない旨主張するが,甲第8号証に「現像ローラ7は・・・導電性の中心軸を含み,この中心軸を介して現像バイアス電圧(-300V)が印加されている。」(3頁右上欄13行〜20行)と記載されているとおり,現像ローラ7には現像バイアスを印加し,当然感光体との間に現像電界を生じせしめるものであるから,現像電極といい得るものであるばかりか,仮にこれが現像電極でないとしても,ここで問題とされているのは圧接圧力の大きさであって,その決定に当たり,現像ローラーが現像電極機能を有することが,圧接圧力の大きさを左右すると認めるに足りる証拠もないのであるから,原告の主張は採用できない。
(4) 以上のとおりであるから,取消事由2にも理由がない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について (1) 本願明細書において,「解像度」とは,「形成されたライン画像の光学反射濃度の最大値(Max)と最小値(Min)」(甲第3号証6頁15行〜16行)に対して,「解像度(%)=(Max-Min)/(Max+Min)」(同頁18行)で定義される量である。
引用例1には,1で述べたとおり,画像部の画像濃度を高め,非画像部の画像濃度を低くした圧接現像方法が記載されており,これは前記定義における「解像度」を大きくした圧接現像方法にほかならない。また,1でも述べたように,現像電極を感光体に接近させて設けることや,トナーを感光体に押し付けることも,画像品質を向上させるものと認められ,これも解像度を大きくすることと異なるものではない。実際,本願明細書の第1表においても,従来型感光体を用いたNo.10ないしNo.12を比較した場合,圧接・正規現像を採用したNo.10の解像度は,300DPI及び600DPIにおいて,それぞれ「40」及び「20」と表示されているのに対し,圧接・正規現像を採用していないNo.11では「20」及び「-」,及び同じくNo.12では「40」及び「-」と表示されており,No.10が最も高解像度を示しているのである。
他方,引用例2には「本発明は・・・静電潜像に於て6以上の潜像のγを有する感光体に関するものであり・・・本発明の感光体に於ては・・・高解力の潜像が形成され,従来得られなかった高品位の画像を形成する事が可能になった。」(甲第5号証17頁右上欄16行〜左下欄19行)との記載があり,引用発明2の感光体が高γ型であることは原告も認めるところであるから,引用例2の上記記載は,感光体を高γ型とすることが高解像度に結びつくことを期待させるものと解することが可能である。
(2) これらを総合すると,引用発明1の圧接現像及び引用発明2の高γ型感光体は,それぞれ現像法及び感光体という,異なる要因に着目して解像度を高める発明であると認められるのであり,これら発明を組合せたものにおいて,より一層解像度が高まることは,当然予測される事柄である。
したがって,本願発明の解像度が引用発明1や引用発明2に比して高いとしても,そのことをもって,顕著な作用効果ということはできない。取消事由3にも理由がない。
4 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,本訴請求は,理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担に
ついて行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 阿部正幸