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事件 平成 12年 (ネ) 1016号 特許権侵害差止請求控訴事件

控訴人 大阪米穀株式会社
控訴人 三多摩食糧卸協同組合
控訴人 株式会社佐竹製作所
同控訴人ら訴訟代理人弁護士 池田 昭
同訴訟復代理人弁護士 牧野利秋
同 伊藤玲子
同 鈴木 修
同 補佐人弁理士 竹本松司
同 湯田浩一
同 増井忠弐
被控訴人 株式会社東洋精米機製作所
同訴訟代理人弁護士 藤田邦彦
同 補佐人弁理士 柳野隆生
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2001/07/12
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 原判決主文一,二項を次のとおり更正する。
(1) 控訴人大阪米穀株式会社及び控訴人三多摩食糧卸協同組合は,本判決添付別紙イ号物件目録記載の物件を製造,販売してはならない。
(2) 控訴人株式会社佐竹製作所は,本判決添付別紙ロ号物件目録記載の物件を製造,販売してはならない。
3 控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
原判決を取り消す。
被控訴人の請求をいずれも棄却する。
事案の概要
1 本件は,原判決添付別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい,その発明を「本件特許発明」という。また,本件特許発明に係る特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)の共有者である被控訴人が,控訴人大阪米穀株式会社(以下「控訴人大阪米穀」という。)及び控訴人三多摩食糧卸協同組合(以下「控訴人三多摩食糧」という。)に対し,同控訴人らは,本判決添付別紙イ号物件目録記載の物件(以下「イ号物件」又は「イ号」という。)を製造,販売しているところ,イ号物件は本件特許発明技術的範囲に属するとして,その製造,販売の差止めを求め,また,控訴人株式会社佐竹製作所(以下「控訴人佐竹」という。)に対し,同控訴人は,原判決添付別紙ロ号物件目録記載(ただし,「ジフライス設備JF3A型」とあるのを「ジフライス設備JF3A若しくはJF1B」と改める。)の物件(以下「ロ号物件」又は「ロ号」という。)を製造,販売しているところ,ロ号物件は本件特許発明技術的範囲に属するイ号物件の生産にのみ使用されるものであり,その製造,販売は本件特許権の間接侵害に当たるとして,その製造,販売の差止めを求めている事案である(以下控訴人らそれぞれ又は2名若しくは3名を「控訴人ら」ということがある。)。
2 争いのない事実 (1) 本件特許権 ア 被控訴人は本件特許権の共有者である。
イ 本件特許発明構成要件を分説すると,次のとおりである。
A 洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる, B 米肌に亀裂がなく, C 米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された, D 平均含水率が約13%以上16%を超えないことを特徴とする E 洗い米 (2) 控訴人らの行為 ア 控訴人大阪米穀は,平成3年12月ころから,控訴人三多摩食糧は,平成7年4月ころから,それぞれ肩書地において,業として,ロ号物件を使用して,あらかじめ糠粉等を除去して消費者が洗米せずに炊くことができる洗い米(商品名「ジフライス」,「きれいさん」等)を製造し,これを販売している(以下,控訴人大阪米穀及び控訴人三多摩食糧が製造,販売している洗い米を「控訴人洗い米」という。 被控訴人主張の控訴人洗い米の構成は,本判決添付別紙イ号物件目録記載のとおりであり,一部につき争いがあり,残部につき争いがない。控訴人ら主張の控訴人洗い米の構成は,本判決添付別紙控訴人物件目録記載のとおりである。)。
イ 控訴人佐竹は,平成3年12月ころから,業として,ロ号物件を製造し,販売している(なお,その構成は,原判決添付別紙ロ号物件目録別紙説明書記載のとおりであり,一部につき争いがあり,残部につき争いがない。また,控訴人らは,ロ号物件の作用は原判決添付別紙ロ号物件の作用記載のとおりであり,更に,ロ号物件にはオプションとして原判決添付別紙仕上研米装置記載の装置を付加したものも存在すると主張している。)。
(3) ロ号物件は,控訴人洗い米(あるいはこれと同等の性質を有する洗い米)を生産するためにのみ使用されるものである。
(4) 控訴人洗い米は,本件特許発明構成要件Dを充足する。
3 争点 (1) ロ号物件及びその構造 (2) 控訴人洗い米の構成 (3) 控訴人洗い米は,本件特許発明技術的範囲に属するか。
(4) 控訴人大阪米穀は,今後,控訴人洗い米を製造,販売するおそれがあるか。
(5) 本件特許権は,出願手続中にされた補正が要旨の変更に当たり,出願日が繰り下がることにより,控訴人らは,本件特許権につき先使用に基づく通常実施権を有するか。 (6) 無効等による権利濫用 4 当事者の主張 (1) 争点(1) ロ号物件及びその構造 【被控訴人の主張】 ア 原判決添付別紙ロ号物件目録記載(ただし,同目録1枚目の「ジフライス設備JF3A型」を「ジフライス設備JF3A若しくはJF1B」と,同目録説明書V2(1)@12行目記載の「該円筒への巻径」を「芯間隔」と,同(2)18行目記載の「第6図」を「第3図及び第5図」と各改める。)のとおりである。
イ(ア) 螺旋状部7における搬送ホースの巻回し回数は約0〜12回である。
(イ) 螺旋状部7における搬送ホースの芯間隔は428oである。
(ウ) 螺旋状部7における搬送ホースの全長は約0〜16mである。
(エ) 乾燥装置Cにおけるスクリュー64の巻き数はスクリーン90の内周面に対し18回分である。
【控訴人らの主張】 ア 被控訴人の主張アのうち,原判決添付別紙ロ号物件目録説明書V2(1)@の記載中,かっこ書き部分に「被告らは・・・と主張」及び「被告は・・・と主張」とある部分にかかる被控訴人の主張を否認し,その余を認める。
イ(ア) 搬送ホース13の巻回し回数は12回である。
ロ号設備の設置納入時においては全て12回巻きである。
ただし,巻回し回数はユーザー側で変更することも可能となっているため,異なる巻回し回数のものが存在することもあり,例えば1ユーザーたる控訴人三多摩食糧が使用しているロ号設備では,搬送ホース13の巻回し回数は2系統のうち,1方が9回巻き,他方が10回巻きとなっている。
螺旋状部7は,ロ号設備の図面に明確に示されており,全ての装置に存在している。
(イ) 搬送ホース13の芯間隔は430oである。
(ウ) 搬送ホース13の全長は16mである。
(エ) スクリュー64の巻き数はスクリーン90の内周面に対して36回である。
(2) 争点(2) 控訴人洗い米の構成 【被控訴人の主張】 アa 精米工程で除去しきれず米粒に残存する糠分を短時間洗米により歩留り減約2%程度にとどめ,洗米時に 吸水された水分が主に米粒の表層部に とどまっているうちに,強制的に遠心脱水,乾燥して得られる, b 肉眼で見る限り亀裂のない, c 炊飯に先立ち研ぎ洗いを要しない程度に米粒の糠分を除去した, d 含水率が16%以下の, e 無洗米。
イ 「遊離糠」とは,精白米に精白過程で生じた糠が付着しているものを指し,一般的にはこれを「付着糠」,「残留糠」,「残り糠」,「糠分」「糠粉」,「ヌカ」等々と呼称されているものである。他方,「糊粉層」とは,糠の主体となる部分であり,玄米に存在し,その糠の主体となる部分を除去したのが精白米であるから,精白米に糊粉層は存在しない。控訴人らが「糊粉層」と称しているものは,本来の「糊粉層」ではなく,「遊離糠」のことを指しており,「糠分」と表現すべきである。
水中搗精の「搗精」とは,玄米を搗(つ)いて白くすることであるから,精米機により,玄米の糠層を剥離し,白米に仕上げる用語である。それによって精白米に仕上がったものを,水洗いによって更に米粒表面に付着する遊離糠を除去する場合には,「搗精」といわない。現に控訴人らは,通常,「水中搗精による剥離」と称さず,「洗滌」,「水洗い」,「水中洗米」,「水洗処理」,「洗い落とす」,「洗ってある」,「水を使った洗米装置でとぎ」などと,いずれも「洗滌」として表現している。
控訴人らが米粒表面を約10μ程度削り取るので水中搗精であるといっている内容は,一般的に「洗米する」といっていることと変わりがなく,約10μ程度削り取るといっても,それは約2%の歩留り減の重量を米粒の表面の厚みに換算した単なる計算上のものにすぎない。米肌には無数で微細な山と谷(陥没部)があるから,谷に入りこんでいる糠分が除去されているだけで,山は,少しは削り取られるが,ほとんど削り取られていない。
ウ イ号に肉眼で観察できる程の亀裂粒は存在しない。控訴人佐竹のV技術部長は,ジフライスは亀裂が起こらないと説明し(甲50),幸福米穀株式会社(以下「幸福米穀」という。)は,ジフライス(商品名あらったくん)を「水で処理していますが,米粒には亀裂がありません。」と説明している(甲24)。
【控訴人らの主張】 ア 構成aは,傍線部分を否認し,その余を認め,構成bは否認し,構成cないしeは認める。
a,bの構成は次のとおりある。
a 精米工程で除去しきれず米粒に残存する糊粉層等を水中搗精により歩留り減2%程度,換言すれば,米粒の表面を約10μ程度(表層部に相当)削り取る際に ,吸収した水分が主として表層部を削り取られた後の表面より最深で約47μの部位(深層部上層に相当) にとどまっているうちに,強制的に遠心脱水,乾燥して得られる, b 亀裂粒の存在が一部認められ, イ ロ号では,原判決添付別紙ロ号物件の作用1加水攪拌装置A(2)加水攪拌部8記載のとおり,加水攪拌され,筒体21の終端部において攪拌バー26と同一の回転をする攪拌翼27によって仕上げ搗精が行われて搗精が完了する。供給部9における加水により米粒表面の糠分を湿潤軟化させた上で,加水攪拌室22にて米粒同士の粒々摩擦等により摩擦搗精を行う一連の工程が「水中搗精」であり,この結果,歩留り減が約2%となることから,本判決添付別紙1の「計算書」に示されるように,米粒の表面が約10μ程度(表層部に相当)削り取られることとなる。
(3) 争点(3) 控訴人洗い米は,本件特許発明技術的範囲に属するか。
ア 控訴人洗い米は,「洗滌」時に「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られた」ものか。(構成要件A・E) (ア) 洗滌 当事者の主張は,次に当審主張を付加するほか,原判決別紙の「事実及び理由」中の「第二 三 1 (一)」(原判決別紙4頁19行目から10頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
【控訴人らの主張】 a 本件特許発明における「洗滌」とは,精白米を大量の水に漬けて攪拌することにより,精白米に付着している遊離糠を浮遊させて除去することである。
本件明細書の【発明の詳細な説明】には(原判決添付特許公報の該当箇所を摘示する。以下同じ。甲1),水と米粒群との攪拌について,「『洗米』又は『水洗』の意味は,米粒群が水中に漬かる程の大量の水の中で攪拌して洗うことである。」(8欄25〜27行),「米粒が水中で攪拌される回数が少ないと,必要最小限の洗米効果が得られないから,前記の通り,短い在槽時間内で,充分な洗米に必要な数だけ攪拌を行おうとすれば,洗米機の攪拌体の回転数を速くする必要がある。」(6欄3〜7行),「澱粉粒や糠粉を除去するには,やはり,どうしても米粒群を水の中にザブンと漬けて,少なくとも30回以上は攪拌して洗米する必要がある。その理由は,糠粉等が入り込んでいる陥没部は,開口面よりも深みが長く,然も大半はミクロン単位の狭い開口面だから,その奥の方に入り込んでいる糠粉等を除去するには,水中に浸して激しく攪拌している間に,糠粉等を水に浮遊させて洗い流す以外にない。」(7欄42〜49行),「精白米は洗米槽の中で運動している注入水の中にザブンと入り,水中で攪拌され洗米され」(9欄49〜50行)との記載がある。
本件明細書中における米粒と水との関係に関する上記記載からだけでは,攪拌の直接の対象となるものが米粒なのか水なのか明白でないが,効果欄における「本発明品の米は洗米歩留りがよいので,社会的に有益である。これは従来の米の洗米は手作業でも機械式でも高圧でゴシゴシとやるので,本来米肌に残って欲しい物質も剥離され流失してしまうが,本発明品では洗米槽の水を高速攪拌で洗米するので,米粒には圧力がかからず,その結果,食味を低下させる残存糠以外の物質の剥離は少ない。」(15欄9行〜16欄3行)の記載を踏まえるなら,機械式で米粒に直に圧力をかけながら米粒同士の粒々摩擦(上記「ゴシゴシ」に相当)によって洗米をすると,米粒の表層部(上記「米肌」に相当)が削られて,糠粉以外の米粒の有効成分(上記「残って欲しい物質」に相当)も剥離されて流失してしまうといったデメリットが認められる。そこで,本件特許発明では,この米粒に直に圧力を加える粒々摩擦とは異なり,水を高速攪拌する方式を採用したのである。これによれば,攪拌体による圧力が米粒に直接作用しないことから(上記「米粒には圧力がかからず」に相当),糠粉等以外の米粒の有効成分の剥離流失が少ないといった効果を奏することになる。したがって,機械式で米粒に直に圧力をかけて米粒同士に粒々摩擦を生じさせ,もって米粒の有効成分が剥離,流失するような水中搗精方式で洗米された洗い米は,本件特許発明との関係においては,意識的に除外されたことになる。
従来,洗米において加工の対象となる米粒は,一般的には92〜91%歩留りまで搗精された精白米であり,糠層の大部分が除去され,その表面部に米粒の有効成分が露出している。精白後の米粒には糊粉層は存在せず,米粒の食味に悪影響をもたらす物質は,米粒表面に精白工程でいったん剥離された後,米粒表面に付着している糠粉のみで,本件特許発明は「洗滌」によってこの糠粉を除去し,「とがずに炊ける米」を得るものである。これらの「糠粉」はいったん除去された後,米粒に付着したものであるから,水流作用のみにより容易に除去可能なものであり,「糠粉等を水に浮遊させて洗い流す」といった本件特許公報の記載とも符合する。加えて,米粒表面にはうまみ成分たる「亜糊粉層」が露出していることからすると,水中搗精方式のように米粒同士を相互に摩擦させ,表面を搗精する(削り取る)と,うまみ成分を剥離,流出させ,食味を低下させてしまうことになるから,このような方法は回避しなければならず,本件特許発明の「洗滌」の手段として採用することはできないことになる。したがって,「洗滌」手段としては,水流作用にて洗い流す方式のみが採用されるべきである。
手作業による「洗米」には,攪拌により糠粉を大量の水で洗い流す「洗う」方式と,圧力をかけて粒々摩擦を生じさせ糠分を削り取る「研ぐ」方式とがあり,前者は米粒相互に接触圧がかからず,また圧力変動も生じないが,後者は接触圧がかかり圧力変動も生ずる(乙35,39)。機械式による「洗米」においても,攪拌により糠粉を大量の水で洗い流す方式(水洗方式。米粒を水に漬け攪拌することにより糠粉を浮遊させて除去する方式であり,この方式では,米粒相互に接触圧がかからず,また圧力変動も生じない。)と,水中にて圧力をかけて粒々摩擦を生じさせ糠分を削り取る方式(水中搗精方式。米粒相互の摩擦接触によって,米粒表面の糠分を削り取る方式であり,この方式では,当然のことながら米粒相互に接触圧がかかり,多くの場合,圧力変動が生じる。)とがある。研米であれ洗米であれ,「高圧でゴシゴシやる」ことは本件特許発明から意識的に除外されたものであるから,本件における「洗滌」を行う際に,「公知の連続洗米機」を改造し利用するとしても,米粒相互に接触圧がかかる連続洗米機は,本件特許発明技術的範囲には含まれない。甲55〜57の洗米機は米粒相互に接触圧がかかるもので,本件特許公報(甲1)にて示される「公知の連続洗米機」の例から除外されるべきものである。
以上をまとめると,本件特許発明の「洗滌」は,表面の亜糊粉層を傷つけないよう,圧力をかけずに水流作用のみで除去することが必要となるが,いったん米粒から剥離された糠粉を除去するには,それで必要にして充分である。
b ロ号物件は,精白米の背部及び縦溝内に糊粉層が一部残留していることを前提に,これらを除去することを目的とするものである。これらの糊粉層は,未だ米粒と一体をなした構成部分であることから,糠粉とは異なり水流で容易に剥離,流出するものではなく,圧力をかけ米粒相互を粒々摩擦させなければ除去できない。したがって,ロ号物件は圧力変動が始まる水中搗精方式,すなわち,米粒同士を相互に粒々摩擦させ,表面を搗精する(削り取る)方式を採用し,精白工程で除去することができなかった背部及び縦溝内に残留している糊粉層をも除去するものである。
試験結果(乙39)によると,控訴人洗い米を製造するロ号設備の定常負荷運転時(水及び精白米を通常運転のように定量供給)における試験結果は,最大圧力590gf/cm2,最小平均圧力250gf/cm2,最大最小圧力差340gf/cm2,最大変動周期0.025秒であり,最大圧力と最小平均圧力との最大最小圧力差は340gf/cm2にも達していることから,撹絆バー26の回転によって,加水攪拌室22内における米粒間圧力が瞬間的に上昇しているものである。そして,この圧力上昇の最大変動周期が0.025秒間隔となっていることは,撹絆バー26の回転数が毎分1200回転であることに符合している。試験結果からすると,ロ号設備によっては加水攪拌室22内において撹絆バー26の回転作用に基づき前記のような圧力の強弱変動が生じているもので,この圧力変動により米粒相互間において粒々摩擦作用が行われているものである。控訴人洗い米は,原料精白米に比して2%の歩留り減がある。この2%の歩留り減を米粒表層部の搗精された厚みに換算すると,10.7μとなる。この10.7μといった厚みは,米粒表層部の細胞層ほぼ1列がそのまま削り取られたことに相当する。したがって,細胞層ほぼ1列がそのまま削り取られたものであることから,米粒の有効成分も剥離,流失されたことになる。
c 控訴人洗い米を製造するロ号設備は,機械式で高圧でゴシゴシと水中搗精して,本来光肌に残ってほしい物質も剥離され流失してしまうような洗米方式を採用しているから,この設備によって製造される控訴人洗い米には意識的除外論が適用されるべきものである。本件特許発明における「洗滌」とロ号物件における「水中搗精」は,精白後の米粒表面に残存する物質に対する理解(除去されるべき糊粉層が残存するか否か)が異なることから,除去の対象となるものも相違(糠粉か糊粉層か)せざるを得ず,その結果,この除去についての技術的手段(『洗滌』,すなわち,水流作用の利用か,『水中搗精』による粒々摩擦の利用か)が異ならざるを得ない。イ号物件は本件特許発明構成要件Aの「洗滌」により得られるものでない。
【被控訴人の主張】 a 控訴人ら主張にかかる本件特許発明の「米粒同士を擦れ合わさずに,水流作用にて洗い流す『水洗式』によって既に糊粉層が剥離された完全精白米表面に付着された糠粉を除去すること」と,ロ号の「水中で米粒同士を圧力をかけて擦れ合わす『水中搗精方式』によって未だ剥離されていない中途精白米表面に残留する糊粉層を除去すること」とは,同じであり,控訴人らもこれを自認している。
本件明細書の実施例は,極めて高速回転であるから,仮に洗米槽内に多量の水がある場合でも,比重の重い米粒は遠心作用で外側に押しやられ,洗米槽内壁周面に集まり,加圧された状態で攪拌されるため,それだけでも米粒表面の摩擦はかなり行われる。凹んでいるため直接擦れ合わない肌の微細な陥没部の糠粉を除去できるのは,肌面の水が攪拌され,その結果,微細な陥没部の水も入れ替わり,糠粉を水に移転させ,除去できる。このように,被洗滌物を水と共に擦るのは,被洗滌物の肌面の水を攪拌することである。それが「洗滌」することなのである。
しかも,本件明細書の実施例説明に示されているのは,最もポピュラーであり,当業者なら,それを聞いただけで特定ができる「公知の攪拌式連続洗米機」である。当業者であれば,本件特許発明の洗米は特殊なものではなく,それら洗米機では必要に応じ,低圧でも高圧でも,いずれの「洗滌」も自由にできることは昔から知っている。例えば,昭和27年に公告された攪拌式連続洗米機には「廻轉體の廻轉に伴い起る機械的摩擦並に麥粒相互の粒々摩擦に使りて洗滌するを得べく其の重錘5の位置を代へて口蓋4の壓力を強化すれば水中搗精するを得べし」(甲78:1頁右欄14〜17行)と記されていて,特許請求の範囲に記されていないのであり,はるか昔から公知要件となっている。この種の攪拌式連続洗米機は,精米機を僅かに改造したもの(甲56:1頁右欄6〜9行)であるから,基本原理の粒々摩擦(ただし,搗精の場合は強圧,洗米の場合は低圧で)は,「洗米」でも「搗精」でも変わらないものである。
控訴人佐竹は,別件において,「『洗米』とは,歩留率が92%程度である精白米を,水を介在させることにより,食味に悪影響を及ぼす要因となる糠粉や残留糊粉層を除去することである。これにより得られる米粒は,そのまま浸漬,炊飯し食すことが出来るものである。この『洗米』は炊飯前の所謂『手洗い』は勿論,機械式による各種の手段(水中搗精方式,水洗方式等)を包含する広義の概念である。」(甲86:9頁13行〜10頁5行)と陳述しており,「水洗」と「水中搗精」は,いずれも「歩留りが92%程度の精白米」の糠粉や残留糊粉層を除去するもので,両者共に「洗米」の範疇に入ることを自認している。
本件明細書15欄前半部の「本発明品の米は洗米歩留りがよいので,社会的に有益である。これは従来の米の洗米は手作業でも機械式でも高圧でゴシゴシとやるので,本来米肌に残って欲しい物質も剥離され流出してしまうが・・・」の「従来の米の洗米」には,手作業と機械式とがある。手作業は,「何度も水を入れ替えて洗っている」(2欄3〜4行)とあるように,容器の中の水と米を手で攪拌する(研ぐ)。その場合,水に浸かった状態で攪拌し,更に水を捨てて水が飽和状に付着した米を攪拌し,それに水を加えて攪拌することを何度も繰り返すから,圧力変動がある。機械式とは,洗米機で洗米することである。甲55(特許公報:穀類水中処理装置)の場合は,金網からなる洗米槽(多孔筒2)の外側の水槽1内に溜められた水が,多孔筒2の網目を通じて洗米槽内に浸水し,洗米槽の底部には常に僅かの水が溜まった状態にあり,そこに送られてきた米粒群が攪拌され,甲56(実用新案公報:洗米機),甲57(実用新案公報:洗米装置)の場合,洗米槽内には水は溜まらず,いずれの場合も,米粒は,その表面に液状の水が飽和状に付着しただけで攪拌されるが,すべて洗米槽への注水は連続的に行われることから,その注水を受けた部分の米粒は一時的にはその表面に付着しきれない水,つまり「余剰水」の中で攪拌されて洗米され,洗米中には,攪拌体の回転により,米粒への圧力の強弱変動が生ずる。
このように,従来の洗米は,手作業であれ機械式であれ,洗米中は常に水と米粒とが共に攪拌され,この攪拌には,米粒と米粒とを軽く擦れ合わすことによって,米肌移動水を発生させ,糠を流し去る作用がある。本件特許発明の洗米も,水流だけの洗米でなく,従来と同様であることは,「精白米の洗滌に当っては,公知の連続洗米機を用いることも出来る」(5欄11〜13行)との記載からも明らかであり,本件明細書に「米粒群が・・・大量の水の中で攪拌して洗うことである」(8欄26〜27行),「米粒が水中で攪拌される回数が少ないと」(6欄3〜4行),「米粒群を・・・少なくとも30回以上は攪拌して・・・」(7欄42〜44行),「精白米は・・・,水中で攪拌され」(9欄49〜50行)といずれも米粒が水と共に攪拌されると明記され,いずれも米粒が攪拌されることを明確に表している。従来は,手作業でも機械式でも,攪拌がいずれも低速のため,必然的にゴシゴシとなる。この「ゴシゴシ」とは,いわゆる「きしみ現象」といわれるものであり,そのきしみの時,米粒には局部的に通常の圧力に比べて高圧の摩擦が生じ,その結果,米肌の残存糠以外の物質も米肌から剥離され,研ぎ汁となって流出する。したがって,15欄記載の前半部の「高圧のゴシゴシ」の「高圧」とは,低速攪拌時に必然的に生じる「きしみ現象」により,一過的かつ局部的に,通常の圧力以上の高圧がかかることを指しているのである。
15欄記載の後半部の「本発明品では洗米槽の水を高速攪拌するので,米粒に圧力はかからず,その結果食味を低下させる残存糠以外の物質の剥離は少ない」との記載は,「洗滌」は,基本的に従来と何ら変わるものではないが,唯一,短時間洗米が不可欠であるために高速回転による攪拌を行うことが望ましく,それに付随して,前記のような「きしみ現象」が生じないということを記載している。その結果,洗滌時の米粒には,「きしみ現象」による局部的な高圧がかからず,先に述べたように強弱の変動はあるものの,適圧の粒々摩擦により,更には実施例2の場合のように極めて短時間洗米(それを達成するためには高速攪拌となる。)の場合には,従来の長時間洗米のような「含水による米肌のふやけ」がなく,食味を低下させる残存糠を除去する際,それ以外の物質の剥離は少なく,洗米歩留りがよいということになる。
b 甲58(株式会社躍進機械製作所:特許公報)に記載の無洗米製造方法は,控訴人のいう「米粒を大量の水にザブンと漬ける洗滌手段」ではなく,「擦れ合ったり水に叩かれたりして洗滌が進む」(16欄42行)といった洗滌手段が採用されたものであるが,この発明に対する特許異議の決定において,特許庁審査官は,「後者(注:本件特許発明の親出願の公開公報に記載の発明)の『洗滌,除糠』及び『除水工程』は,前者(注:甲58に記載の発明)の『洗滌工程』及び『脱水工程』に相当する。・・・してみると両者は『精白米に水を加え混合して攪拌する洗滌工程と,該洗滌工程の直後に行い,水洗した精白米を脱水する脱水工程とを具備する無洗米の製造方法。』である点で一致し,・・・本願の請求項1に係る発明(注:甲58の発明)は,本願の出願日前の出願である甲1(注:本件特許発明の親出願の公開公報)に係る発明と実質的に同一であるから,特許法39条1項の規定により特許を受けることが出来ない。」と判断し(甲67:特許異議の決定謄本),控訴人佐竹は,この異議申立において,「本件特許発明(注:甲58に記載の発明)は,甲1公報(注:本件親出願の公開公報)に記載された発明と同一である。」と主張し,自身も,本件特許発明における「洗滌」に「米粒が擦れ合ったり水に叩かれたりして洗滌」することも含まれていることを認識していたのである。
よって,控訴人佐竹が,「洗滌」を,「米粒が大量の水の中にザブンと漬けて米粒の擦れ合いのしない洗滌」と限定解釈するのは,禁反言の法理により許されないものである。
c 通常の洗い米の歩留り減は,4%(本件特許発明分割出願前の親特許発明の出願当初の明細書〔以下「親の原明細書」という。〕乙1:22頁4行)あるいは3.5〜6.5%(甲49:12行)であるから,ロ号による2%の歩留り減が通常より少ないことは明白である。通常の洗米でも,ロ号による洗米でも,米粒表層部の細胞層のほぼ1列を削り取るというような不経済,かつ,著しく食味の落ちるようなことをしているわけではない。控訴人ら主張の計算書の計算が正しいものと仮定したとしても,10.7μという数値が,細胞層の厚みに相当するとの根拠は全く示されてはおらず,また,細胞層の厚みは,例えば20〜40μともいわれており(甲58:12頁9図),控訴人らの主張は事実ではない。控訴人らは,「精米機で精白された白米は,・・・まだ微細な糠がかなり白米に付着している。
それをそのまま炊飯すれば糠臭い米飯に炊き上ってしまうので白米を洗米してから炊飯する必要があった。」(甲85:1欄18〜22行)と,「米粒に付着した糠」を「洗米」により除去する旨を述べている。ロ号設備においては,通常の洗米をしているだけで,控訴人らの主張するような細胞層を削り取るようなことはあり得ないばかりか,本件明細書の実施例2の場合と同様の,高速攪拌(短時間洗米)による効果,すなわち「高圧のゴシゴシ」や「米肌のふやけ」がないことから従来より洗米歩留り減少が少ない,という効果も奏していることが明らかであり,本件特許発明における「洗滌」と異なるところはない。
また,百歩譲って,仮にロ号が未剥離の糊粉層を除去するものであったとしても,本件特許発明の「洗滌」と異ならない。何故ならば,本件明細書には,控訴人らの主張のごとき,高圧をかけて未剥離の糊粉層まで除去を要する中途精白米の洗米も排除はしていないからである。すなわち,本件明細書には,「『精白米』の意味であるが,完全精白米は勿論のこと,過剰精白米や中途精白米をも含めて指すのである。」(8欄23〜25行)と説明している。控訴人佐竹は,本件特許の無効審判事件において,本件特許発明の洗滌は,「『完全精白米は勿論のこと,過剰精白米や中途精白米をも含めて指す』(8欄24〜25行)ので,完全精白米及び過剰精白米における付着糠や残存糠の除糠と中途精白米における残存糠の精白除糠を目的とし,・・・」(甲81:11頁8〜11行)と記載し,そこで本件特許発明が中途精白米における残存糠の精白除糠,つまり水中搗精も目的としていることを自認している。
(イ) 表層部及び除水 当事者の主張は,次に付加するほか,原判決別紙の「事実及び理由」中の「第二 三 2」(原判決別紙13頁17行目から18頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
【控訴人らの主張】 a 「表層部」とは,水分吸収部位を規定するもので,原料精白米の表面から厚みにして約10μの部位,すなわち「第1層澱粉複粒体列」又は米粒の最外層のアミロプラスト(澱粉小粒が複数集まって構成される澱粉粒)を意味する。
そして,「洗滌」によって除去されるのは,付着した糠粉(一部澱粉粒も含む。)のみであるから,「表層部」は「洗滌」後においても,「洗滌」前と同様に「第1層澱粉複粒体列」とならざるを得ず,「洗滌」の前後において「表層部」に変化はない。
b 本件特許発明及び本件特許発明分割出願前の親特許発明出願経過等 親の原明細書によれば,水中洗米と除水については,短時間に行われることのみが明示されており,表層部にとどめるといった着想は何ら存在しなかった。審査官は,平成4年3月13日付「拒絶理由通知書」(乙54)で特公昭51-22063号公報(乙22),特開昭57-141257号公報(乙24),特開昭61-115858号公報(乙55)を引用して,上記親出願について新規性を否定するとともに,容易に推考できるものであるとした。被控訴人は,平成4年6月12日付「手続補正書」(乙56)により,一方で,吸水部位を規定する「表層部」をクレームの中に持ち込み,他方で,従前「短時間」としていたものを,「数分以内」と数値的に限定を加えた。審査官は,平成4年11月26日付「拒絶査定」(乙57)で,平成4年3月13日付拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶すべきものと査定した。被控訴人は,平成5年1月29日付をもって「拒絶査定不服審判」を提起し,同日付「審判請求書」(乙58),同日付「手続補正書」(乙59)により,浸漬から除水までの処理時間について,従前,処理所要時間を手がかりに「数分以内」としていたものを断念して,吸水部位の明確な限定といった観点から「米粒の表層部でとどめ」といった特徴付けを行った。その後,親特許発明クレームは,親特許の現行明細書(特許公報:乙60)に記載されているように,「精白米を水に漬け,洗滌,除糠を行い,吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法であって,水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし,かつ米粒の含水率が除水した時点でほぼ16%を超えないことを特徴とする米粒に亀裂を有さない洗い米の製造方法。」と補正された。
被控訴人は,親出願に関する平成4年6月12日付「手続補正書」(乙56)を提出するとともに,上記親出願から分割して発明の名称を「乾燥洗い米,及びその包装方法」として本件特許発明の出願(以下,この出願当初の明細書を「原明細書」という。乙2)をした。原明細書には,吸水部位を限定する「表層部」といった概念と処理所要時間に関して数値的限定を行った「数分以内」といった概念とが併用されている。審査官は,平成6年5月16日付「拒絶理由通知書」(乙61)で,特公昭51-22063号公報(乙22),特開昭57-141257号公報(乙24),特開昭61-115858号公報(乙55)を引用して,本件特許発明について容易に推考できるものであるとした。被控訴人は,平成6年7月18日,手続補正書(乙62)により,特許請求の範囲を現行の本件明細書に記載されているように補正した。その後,拒絶査定,拒絶査定不服審判を経て,平成8年9月12日,「原査定を取り消す。本願の発明は,特許をすべきものとする。」との審決がなされたものである。
親出願においては,当初,短時間に水中洗米と除水を行うと規定していたものの,審査官から上記「短時間」では処理時間が明確に特定できないと指摘されて,時間概念による規定を断念し,その代わりに吸水部位を「表層部」と特定したことが看取される。この親出願から分割された本件特許発明における表層部に関する上記位置付けは,親出願と同一に理解すべきである。
c 本件明細書における「表層部」に関する記載 本件明細書には,「表層部」に関して,「精白米を水中で洗滌,除糠を行い,更に強制的に除水を行い,この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり」(4欄22〜24行),「洗滌,除水の各工程での米粒の吸水部が米粒の表層部であるうちに洗滌と除水を行えば除水後に亀裂は入らない。このような米粒の平均含水率は16%以下である。従って米粒の深層部の含水率は通常の精白米と同じで表層部の含水率がこれより大となる」(同欄35〜40行),「洗滌時に水が米粒内部まで浸透した米は強制乾燥であれ,自然乾燥であれ乾燥した時に砕粒化の原因になる亀裂が生じ,炊いた時においしい米飯とならない」(同欄44〜47行),「水洗槽を通過する時の在槽時間が長いと,その間に米粒内に深く水が浸透し」(5欄32〜34行),「洗米時に米粒の内部にはほとんど水が浸透しない在槽時間とする」(6欄1〜2行),「洗米工程で,米粒内部に吸水させないようにしたのに,除水工程にて,洗滌水や付着水の除去に時間がかかり洗滌水や付着水が米粒内部に吸収されて無意味だからである」(同欄26〜29行),「精白米は極く短時間に洗滌,除水が行われるので,米粒内に水がほとんど浸透することなく」(同欄33〜35行),「表層部は内部(深層部)よりも含水率が高いことは想像に易いが」(同欄39〜40行),「表層部の含水率の高い部分は極めて薄いものであり,それゆえに亀裂さえも生じないのである」(同欄42〜44行),「表層部の極く僅かな水分は間もなく一部は蒸発し,一部は内部に移行して均衡する」(7欄2〜3行),「洗米時に水分が米粒内部に浸透することがなく,砕粒化はおろか米粒に亀裂のない整粒の洗い米が得られる」(8欄6〜8行)との記載がある。
これらの記載からすると,米粒の「表層部」とは,「米粒内部」(若しくは「深層部」)に対する概念と推察され,吸水が「米粒内部」にまで到達すると,亀裂発生の原因となることから,本件特許発明においては「米粒内部」の吸水は原則として許容されておらず,「表層部」の吸水のみが許容されていることが明白である。
以上によれば,本件明細書において,「表層部」は「米粒内部」に対する相対的な概念としてしか定義されておらず,吸水が具体的にいかなる深さまで到達することが許容されているのか,一義的に明確でない。
d 他の特許異議事件における被控訴人の主張等 被控訴人は,株式会社躍進機械製作所(以下「躍進機械」という。)の出願に係る平成6年特許出願公告51120号(以下「躍進無洗米発明」という。甲58)に対し,平成6年9月29日付をもって特許異議の申立をし(乙63),躍進無洗米発明の請求項1「精白米に水を加え混合して攪拌する洗滌工程と,該洗滌工程の直後に行い,水洗いした精白米が含有する水分の増加が1%を越えない範囲まで脱水する脱水工程とを具備し,処理する精白米に応じ,全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が進入しない短時間でなされる,ことを特徴とする,無洗米の製造方法。」に関し,平成8年4月12日付弁駁書(乙64)において,「本願の【請求項1】の発明の実施例及び【請求項5】では,水温10〜25℃の処理時間が10〜30秒としており,甲1(注:親の原明細書。乙1)の実施例2においても25℃の水で処理時間が5秒であるから,処理時間が同じであり『第1層澱粉複粒体列より深部にこれが侵入しない』とは甲1(同)でいう『米粒の内部にはほとんど水が浸透しない』(甲1)(同)ことと同等の意味と解される。したがって,甲1(同)には,『水分の増加が1%を越えない範囲まで脱水する脱水工程』の構成,及び,『処理する精白米に応じ全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない短時間でなされる。』構成が実質的に記載されており,本願の【請求項1】の発明と甲1(同)の発明,少なくとも実施例2に開示された発明とは異なるところが全くなく,本願の【請求項1】の発明は特許法29条の2に該当することは明らかである。」として特許法29条の2(先出願との同一性)に該当する旨主張し,平成6年11月5日付「特許異議申立理由補充書」(乙65)において,乙66を引用して,吸水部位を規定する第1層澱粉複粒体列の厚みを「せいぜい10μ程度」とした。
柳野隆生は,本件の無効審判事件の被控訴人側代理人であり,被控訴人のダミーとして,平成6年9月27日付をもって躍進無洗米発明に対し特許異議の申立をし(乙67),躍進無洗米発明における「第1層澱粉複粒体」と「表層部」との関係を平成6年11月4日付「特許異議申立理由補充書」(乙68)において,より具体的かつ直截に「本願(躍進無洗米発明)の発明の詳細な説明における第9図の説明では,第1層澱粉複粒体列は,米の表層部を示しており,そのことは甲1(前同)の・・・記載にある『極表面』は米の表層部を示しているので,甲1(同)と同一となる。また,甲2(注:乙69)の・・・記載があり,吸水する時間の調整によっては,水が内層まで浸透させずに精白米の表層に止めておくこともできることを意味し,・・・従って,本願請求項1に記載された内容は,甲1(同)または甲2(同)と同一である。従って相違点についてはない。」(33頁28行〜34頁10行),「『全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない』との記載は,米粒を短時間で水洗すると,水が侵入するのは,当然,米粒の表層部のみである。・・・従って甲9(注:乙70)のように,『短時間』で水洗から脱水,乾燥すればヒビ割れのない無洗米が製造できることは,水を米粒の表層部に留めることを意味しており,甲9(同)の内容とは実質的に同一である。よって,本願請求項2は,甲1(同)により当業者が容易に成しえることができる。」(40頁17〜26行)。審査官は,平成10年12月3日付をもって,「この特許異議の申立は,理由があるものと決定する。」旨決定した(乙71)。その理由の骨子は,躍進無洗米発明の「全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない短時間でなされる」という構成と,親出願の【請求項1】の「水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめる」という構成は,いずれも米粒にどの程度まで水が侵入するかにより全工程の時間を規定する構成であり,両者の構成は,いずれも全工程の時間を各工程において米粒に水が侵入することにより生ずる食味の低下を防止し得る時間内とする構成であると認められ,前者の『第1層澱粉複粒体列』は,後者の『表層部』をより具体的に表現した程度のものとしか認められないので,両者の全工程の時間を規定する構成の間には,単なる表現上の差異が存するのみであり実質的な差異は認められない。」というものである。
e まとめ 特許庁は,被控訴人の躍進無洗米発明における「第1層澱粉複粒体列」と本件特許発明の「表層部」とは,実質的に同一であるという主張・立証を認め,躍進無洗米発明について「異議の申立は,理由がある。」と決定した。
ところで,出願人の認識や意図を参酌すべきとの考え方の下に出願経過を考慮する立場において,同一出願人の先行明細書とか後行明細書に示された出願人の認識を参酌することは当然のこととして,同一種類の発明の分野において,出願人以外の者の出願に係る発明(以下「他発明」という。)について,出願人が自己の出願した発明と同一であると主張して,これにより他発明の出願が拒絶されたような場合においては,出願人が自己の出願した発明について開陳した見解も出願人の内心的意思が現れていると認められる資料として,上記先行明細書とか後行明細書と区別すべき理由はない。したがって,本件特許発明における水分吸収部位を特定する「表層部」とは,躍進無洗米発明における「第1層澱粉複粒体列」,すなわち,精白米の最外層のアミロプラスト(澱粉粒であって複数の澱粉小粒によって構成される。)を意味し,この厚さは米粒表面から約10μとなる。
f イ号物件は,原料精白米に比して約2%搗精されているものであるところ,これを原料精白米の表面から搗精された厚みに換算すると,約10.7μとなる。それ故,本件特許発明の「表層部」といった部位は,イ号物件にあっては搗精されてもはや存在しないものである。イ号物件の無洗米の最外層は,上記「表層部」の次層に位置していたアミロプラストであって,この第2層のアミロプラストが米粒の表面に露出し,吸収した水分はこの第2層のアミロプラスト表面より約10μを越えた内部(深層部)にまで到達するものである。したがって,イ号物件は,本件特許発明構成要件Aの「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部(原料精白米の第1層アミロプラスト)にとどまっているうちに強制的に除水して得られる」といった要件を充足するものではない。
【被控訴人の主張】 a 控訴人らが10μの根拠とする乙65には,明確に「第1層澱粉複粒体(但し,澱粉複粒の意味に理解する。)」(21頁8行)と記されているごとく,被控訴人はあくまでも「澱粉複粒」の大きさが10μ程度といっているのであって,表層部の厚みについて言及しているわけではない。
b 本件特許発明の「表層部」とは,「洗滌直後の米粒の表層部」のことである。
本件特許の構成要件Aの「洗滌時に吸水した水分が米粒の表層部にとどまっているうちに」との記載は,精白米粒を洗滌することで米粒表面の糠が取り去られるが,その間に糠が取り去られつつある米粒表面より水が浸透し,洗滌工程が終了した時,すなわち,米粒表面の糠が取り去られた時,表層部に吸水された水がそこにとどまっているうちにとの意味であるから,「表層部」なる意味は,洗滌による除糠後の米粒の表層部である。本件親出願明細書の「排出したての米粒は付着水を除去したとは云えその表面部は内部よりも含水率が高いことは想像に易い」(乙1:20頁9〜11行),「1粒の平均含水率が16%以下になっていると云うことは,表面部の含水率の高い部分は極めて薄いものであり」(同20頁11〜13行),「排出したての米粒表面部の水分は間もなく内部に移行し均衡する。」(同21頁4〜5行)との記載は,除水装置より排出したての米粒における表面部(表層部)のことをいっているのであるから,「表面部(表層部)」とは,洗滌により米粒表面の糠分が取り去られ,厳密にいうと米粒が小さくなった状態での表層部のことである。したがって,イ号物件が洗滌前の米粒より,どれだけ削り取られているかに関係なく,洗滌直後,すなわち,洗滌により除糠(控訴人ら流の表現の「表層部を削り取る」)をされた直後の米粒の「表層部」が対象となるのであり,それが有るとか無いとかの問題でない。
イ 控訴人洗い米は,「米肌に亀裂がない」か。(構成要件B・E) 当事者の主張は,原判決別紙の「事実及び理由」中の「第二 三 3」(原判決別紙19頁2行目から21頁4行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ウ 控訴人洗い米は,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」ものか。(構成要件C・E) 当事者の主張は,原判決別紙の「事実及び理由」中の「第二 三 1 (二)」(原判決別紙6頁18行目から7頁10行目まで及び10頁8行目から13頁13行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(4) 争点(4) 控訴人大阪米穀は,今後,控訴人洗い米を製造,販売するおそれがあるか。
当事者の主張は,原判決別紙の「事実及び理由」中の「第二 三 6」(原判決別紙25頁2行目から同頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(5) 争点(5) 本件特許権は,出願手続中にされた補正が要旨の変更に当たり,出願日が繰り下がることにより,控訴人らは,本件特許権につき先使用に基づく通常実施権を有するか。
当事者の主張は,次に当審主張を付加するほか,原判決別紙の「事実及び理由」中の「第二 三 5」(原判決別紙21頁6行目から24頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
【控訴人らの主張】 ア 本件特許発明で許容される除水後の米粒の含水率2%の増加分の全量が表面付着水であっても,米粒は水分16%以下に仕上がり,また,乙49の実験データによれば,米粒を水に3秒間浸漬したものも,45秒間浸漬したものも,含水率の差はほとんどなく,浸漬45秒までは米粒に吸収される水分は極めて微量である。したがって,短時間で洗滌と除水を完了する本件特許発明では,米粒に吸収される水分は皆無か,あるいはごく少量であり,除水後の増加した含水率2%のほとんどは表面付着水であって,この付着水を飛び越えて表層部に吸収された水分の除去などありえないから,吸収水を除去するとの補正は,要旨変更に当たる。
(ア) 吸収された水分が零の場合(乙49の「精白米の吸水試験」結果に基づき,水への浸漬時間3秒においては,米粒表層部への水の吸収は零とみなす。この浸漬時間3秒は本件明細書の実施例2に相応する。) ザルに入れた米を水に浸漬し,短時間経過後にザルを水から取り上げて,水切り後の状態で,精白米に付着している水の量は「米の重量の9.5%」である(甲36)が,前記の精白米について基礎データ,長さ5.11o,幅2.87o,厚さ2.48o,重量20.0rから,米粒を楕円球とみなすことにより体積19.04o3,表面積36.08o2が算出され,親明細書に「精白米に仕上った時の含水率は14%程度である。」(乙1:17頁4〜5行)との記載があることから,初期含水率を14%として,水切り後に精白米に付着している前記9.5%の水分の重量を求めると,20.0×0.095=1.9rとなる。精白米の表面積が36.08o2であることから,付着水分の厚さは近似的に(1.9×1000)÷36.08=52.7μと求められる。本件特許発明においては,「『除水』後の含水率が16%以下となる」から,この最大値である含水率16%の状態における付着水分の厚さを求める。まず,初期状態では含水率14%であることから,水の重さ20.0×0.14=2.8r,米粒の乾物部分の重さ20.0×(1-0.14)=17.2rが得られる。この状態から水が付着し,含水率が最大値である16%になったとすると,米の部分の重さが全体の84%になることから全体の重さが分かる。全体の重さ17.2÷0.84=20.476r,「除水」が完了するまでのごく短時間(約3秒間)では吸水は零と仮定した場合,この全体の重さのうち,元の重さから増えたものが付着水分となるから,付着水分量=20.476-20=0.476r,表面積で割ることによって厚さの最大値を求めると,付着水分の厚さ(最大値)=(0.476×1000)÷36.08=13.2μが得られる。
このように,吸水された割合を零とした場合,当初における付着水分の厚さ52.7μから含水率16%における付着水分の厚さ13.2μを控除した値は39.5μであるから,この膜厚39.5μが除水の対象となる付着水であることが判明する。したがって,水分の吸収を零とした場合,水切り後の付着水分の厚さは52.7μであり,本件特許発明において「除水後」として許容される状態は付着水分の厚さにして13.2μ以下であるから,水切り後の状態から付着水分を水腫の厚さにして約39.5μ取り去ることによって本件特許発明の「除水」は達成しうるものである。これによれば,除水後の米粒の表面には最大値で未だ厚さ13.2μの水分が付着しているから,米粒内部に吸収された水分を除去する必要は毛頭ない。
以上は,初期状態での含水率14%で考察したが,本件明細書記載の13〜14%の範囲の初期含水率の場合においても必然的に同様の結果となる。
(イ) 吸収された水分が若干ある場合 乙49の「精白米の吸水試験」によれば,吸収された水分の量は,水への浸漬時間45秒においては平均O.09%,同60秒においては平均O.14%という結果になっている(この吸収された水分割合に関する平均数値の算出については,別紙2参照)。浸漬時間45秒は,実施例1より浸漬時間を少々長くしたものであり,浸漬時間60秒は,本件明細書の「更に好ましくは1分以下」(4欄44行)にほぼ相応する。米粒の固有水分は,浸漬時間に関係なく一定とし,浸漬時間ごとに付着水分については重さと厚さ,吸収水分については重さを分かりやすく図示化すれば,別紙3のとおりとなる。
(ウ) 本件特許発明の「表層部」とは躍進無洗米発明の「第1層澱粉複粒体列」とほぼ同一であり,その厚さは米粒表面より約10μである。吸水部位たる「表層部」が飽和含水率である30%に達しているものとして算出すると,吸水された水分の量は0.113rである(別紙4)。本件特許発明では,洗滌時において0.113rの水分の吸収のみが許容されているのである。そこで,本件特許発明において,米粒の含水率を原料精白米のそれと製品段階のそれとにおいて比較すると,平均約14%の含水率であった原料精白米は,洗滌・除糠・除水の各工程を経た後,時間の経過とともに水分が移行,均衡し,含水率約16%の洗い米となるものである。確かに,全体として見れば,約2%の水分増加が認められる。しかしながら,「除水」直後の時点においては,全て米粒内に吸収されているわけではなく,本件特許発明では洗滌時において「表層部」より深部への吸水,すなわち,0.113r以上の吸水は許容されていないのである。これに対し,約2%の水分の量とは0.476r(別紙4)であり,本件特許発明の先に述べた吸水許容量を大幅に超えることになる。すなわち,除水後の時点において0.476r-0.113r=0.363rの付着水が米粒表面に残留していることになり,この表面に残留した水分は全工程終了後,ゆっくりと米粒内部に移行,均衡し,最終的に平均含水率16%の水分の一部になる。
イ 以上をまとめると,洗滌後,米粒表面には洗滌水及び付着水が存在しており,これを「除水」により除去するのであるが,付着水が0.363r(これを付着水の厚さに換算すれば,約10μ)となるところまで「除水」すれば「吸収した水分が主に米粒の表層部にとどまっている」含水率16%以下の洗い米が得られるのである。これは,本件特許発明クレームにおいて除水の対象は「洗滌水及び表面付着水」としていることとも合致する。したがって,本件特許発明においては,米粒に吸収された水分を除去するものではなく,本件明細書に記載されている除水後の米粒の含水率の2%といった増加分の全てが吸収されるのでないから,「洗米後,速やかに,洗滌水のみならず,表面付着水も完全に除去する必要があることは,原明細書及び親明細書の記載から明らかであるというべきである」とはいえない。
このように,本件特許発明において増加が許容されている約2%の水分は,水への浸漬時間が3秒においては吸収水分はほぼ零であって,O.42rの重さの付着水分の厚さは11.6μであり,この厚さの膜が米粒の表面に層を成しているものであり,水への浸漬時間が45秒の時はO.09rの水分が吸収されただけで,前記同じ厚さの膜が付着水分となって層を成しているものであり,また,水への浸漬時間が60秒の時は0.14rの水分が吸収されただけで,前記同じ厚さの膜が付着水分となって層を成しているものである。増加水分約1%において,米粒の表面に11.6μの厚さの付着水分の膜が存するとしたなら,この付着水分を飛び越えて,吸収された水分の除去を考えることは,物理的には矛盾している。遠心脱水であれ,乾燥手段であれ,あるいはこれらの組み合わせであっても,未だ付着水分が前述したように層を成して存在しているのであるから,吸収された水分の除去は毛頭必要ないものである。したがって,吸水された水分をも除去するように補正したのは,要旨変更に該当し,本件特許発明の出願日は上記補正の日に繰り下がる。
【被控訴人の主張】 ア 本件明細書には,「なお本発明で洗い米の『含水率』というのは付着水を除いた時の『平均含水率』のことである」(5欄2〜4行)と明確に記載され,除水後の米粒の増加した水分は,全て吸収された水分であることは明白である。しかも同明細書には,「表面付着水を除去する」との記載は各所にあり,例えば,「除水工程によって洗滌水と表面付着水の除水を行うのである」(8欄3〜4行)と記載されている。この「表面付着水」とは,米粒表面に極めて薄く密着している水のことである。「精白米の表面には肉眼では見えない無数で微細な陥没部があり・・・」(7欄40〜41行)と記され,微細な凹部が無数にあり,それらの全てが表面であるから,それら微細な凹部の表面に密着状に水が付着しているのである。米粒の表面付着水とは,米肌にしみている水のことであり,本件明細書には,そのような水まで「除去する」と記載されているが,「表面付着水は取りきらなくてもよい」との記載や,それを示唆するような記載は全くない。それどころか,本件明細書には,「除水後,即ち付着水分が除かれた時の水分・・・が16%以下の含水率になっているように」(5欄20〜22行)との記載がある。すなわち,ここには「付着水分」を除くと記載されている。そして,この「水分」とは,「@ものに含まれている水。みずけ。A湿気。」(広辞苑)であり,ものに付着している水ではない。一方,「表面」は「面」であるから厚みは零であり,水を含むことはできない。したがって,本件特許発明における「付着水分」とは,米粒の表面に付着して該表面より表面部(表層部)に含まれてしまった水,つまり表層部に吸収された水を指すのであり,本件明細書中の上記「付着水分が除かれた時」とは,「表面付着水を除去した結果,必然的に米粒表層部(特にその表面寄りの部分)に吸収された水分まで除去された時」を意味するのである。そして,そのような「付着水分」まで除去するには,当然のことながら,それよりも外側にある表面付着水を除去したうえでなければ達成することはできないのは自明の理である。以上のとおり,本件明細書の記載から,本件特許発明の「除水」は,表面付着水を除去し,その際に米粒表層部に吸収された水分が除去される。
本件明細書において,「本発明の洗い米は上記したように,約2%の水分を吸収するまでの極く短時間に,水洗から除水までの各行程を全部処理することにより製造されるものである。」(7欄5〜8行)と記載されており,2%は吸収される水分であり,この「約2%」には付着している水は一切含まれていない。控訴人らの除水後の米粒の約2%の含水率増加分が付着水であるとの主張は,本件明細書の「約2%の水分を吸収するまでの極く短時間に」との記載の意味を「除水後の米粒に約2%の水が付着する」と曲解したことに基づく誤ったものである。
控訴人らが,除水後の米粒の約2%の含水率増加分が付着水であるとの主張の根拠としている乙49の実験データは,控訴人佐竹が自ら行ったもので信憑性に乏しいだけでなく,そこに記載されている吸水曲線は,米粒が水に触れると同時に吸水を開始し,吸水速度は最初ほどが高く,時間の経過とともに徐々に鈍化するという知見に反しており,同知見は,本件明細書(甲1)の7欄22行以下に記載されているばかりでなく,当業界においても同様の米粒の吸水データは多数発表されており(甲58:12図,甲60〜63:文献),控訴人佐竹自らも同様の吸水データを公表している(甲31:8頁)当業界の技術常識であるから,乙49で示される吸水曲線が信憑性に乏しいことは明白である。また,甲64のとおり,公的機関である和歌山県工業技術センターにて,乙49を全く同じ実験器具および方式により3回の実験を行ったところ,平均で浸漬3秒間では処理前よりも2.23%水分が増加し,浸漬45秒間では2.71%水分が増加し,浸漬3秒から浸漬45秒までの間に0.48%も吸水していることが明らかとなり(3秒間の浸漬16.91,16.77,16.85の平均16.84-処理前14.61=2.23。45秒間の浸漬17.33,17.21,17.41の平均17.32-処理前14.61=2.71。2.71-2.23=0.48。),更に,最も除水効果のよい脱水実験(バッチ式であること,60秒もかけていること,米粒が少量であること等)であるにもかかわらず,3秒間浸漬でも16.84%(平均)にしか除水できないことも明らかとなり,乙49の実験値が信憑性がないことを示している。さらに,甲65:和歌山県工業技術センターの試験分析において,乙49と全く同じ実験条件及び方式により行った実験では,実験済の米粒には100%亀裂が発生した。この亀裂は,当然,同じ条件下の乙49の実験米にも生じているはずであり,同実験米は,「表層部の含水率の高い部分は極めて薄いものであり,それゆえに亀裂さえも生じないのである」(6欄42〜44行)との本発明の必須要件を具現しておらず,同実験米は,本件特許発明の「除水」を行っていないことが明らかである。よって,そのような乙49の実験データを根拠とする控訴人らの主張は全く理由がない。
イ 控訴人らの要旨変更との主張の対象となっている,本件明細書の「米粒表層部に付着吸収した水分を除去する」との記載内容は,原明細書や親明細書に記載されていなかったものを,補正により新たに追加したものではない。
半径(中心から表面までの距離)が僅か1oほどしかない小さな米粒では,その表面部(表層部)の厚さは,前記半径の10分の1の長さと仮定しても,0.1oしかない極めて薄いものである。その薄い表面部(表層部)に吸収された水分は,表面付着水の除去の際,少なくとも表面よりの吸収水も共に除去される。これは当然の自然現象である。また,このことは,親明細書には,「除水後,即ち付着水分を除かれた時」(乙1:16頁14〜15行)と,「除水」が「もの(米粒の表層部)に含まれている水分」の除去,すなわち,米粒表層部に吸収された水分を除去することが記載されている。このようにして表面付着水が除去される際,必然的に表面部(表層部)に吸収されていた水分も除去されるが,何しろ短時間処理であるから,表面部(表層部)の内,表面寄りでない部分に吸収されている水分まで除去されるとは限らず,むしろほとんどの場合は残留する。その吸収水分の残留した層の厚さは,1枚の紙ほどに薄い「表面部」の内から,更に水分が除去された表面寄りの部分を差し引いた残りの極めて薄い部分であるから,親明細書にも「表面部の含水率の高い部分は極めて薄いものであり」(乙1:20頁12〜13行,乙2:6頁3〜4行)と記載され,親明細書及び原明細書にも,表面部(表層部)の内,表面寄りの吸収水が除去されていることが示されていることは明らかである。さらに,「尚,排出したての米粒表面部の水分は間もなく内部に移行し均衡する」(乙1:21頁3〜5行,乙2:6頁10〜11行)と記載されて,表面付着水は勿論のこと,表面寄りの部分の吸収水は,すでに除去されていて存在しないため,表面寄りでない内部に近い部分に残存している吸収水は,米粒外部へ蒸発するのではなく「内部に移行」することをいっているのであり,表面部の内,表面寄りの吸収水が除去されていることが分かる。また,「僅かの吸水量,及び除水量に押える」(乙1:6頁9〜10行,乙2:6頁22行)との記載も,吸収水を除去することを示している。以上のように,親明細書及び原明細書にも,「表面部(表層部)に付着吸収した水分を除去する」ことは示されており,要旨変更には当たらない。
本件特許発明は,「表面付着水」の除去が絶対不可欠の要件であるが,控訴人らは,原審にて,遠心脱水機でも表面付着水が除去できるから,本件特許発明の「除水」は遠心脱水によるものであると主張していたところ,別件(東京高裁:審決取消請求事件)では,遠心脱水機では表面付着水が残留することを自認しており(甲66:控訴人佐竹の上申書2頁20〜24行),本件特許発明の具現が遠心脱水だけでは無理なことを認識していた。
甲58(躍進機械:特許公報)に記載の無洗米製造方法は,除水手段について,遠心脱水だけの除水手段ではなく,「始端から終端まで米穀粒を移動する間に遠心脱水と蒸発脱水との両方が作用し,終端の米粒出口39aでは米穀粒は蒸発脱水により十分乾燥した状態になる。」(17欄21〜24行)といった除水手段が採用されたものであるが,この発明に対する特許異議の決定において,特許庁審査官は,「後者(注:本件特許発明の親出願の公開公報に記載の発明)の『洗滌,除糠』及び『除水工程』は,前者(注:甲58に記載の発明)の『洗滌工程』及び『脱水工程』に相当する。・・・してみると,両者は『精白米に水を加え混合して攪拌する洗滌工程と,該洗滌工程の直後に行ない,水洗した精白米を脱水する脱水工程とを具備する無洗米の製造方法。』である点で一致し,・・・本願の請求項1に係る発明(注:甲58の発明)は,本願の出願日前の出願である甲1(注:本件特許発明の親出願の公開公報)に係る発明と実質的に同一であるから,特許法39条1項の規定により特許を受けることが出来ない。」と判断し(甲67:特許異議の決定謄本),控訴人佐竹は,この異議申立において,「本件特許発明(注:甲58に記載の発明)は,甲1公報(注:本件親出願の公開公報)に記載された発明と同一である。」と主張し,本件特許発明における「除水」に「蒸発脱水により十分乾燥した状態」も含まれることを認識していたのである。よって,控訴人らが,「除水」を「付着水が残存する除水」と限定解釈するのは,禁反言の法理により許されないものである。
(6) 争点(6) 無効等による権利濫用 【控訴人らの主張】 ア 本件特許発明は,本件出願時(本件特許発明に係る出願が分割される前の原出願の出願時)に,これを実施できる技術的手段が存在しない発明未完成のもの,もしくは明細書にこれが開示されていない実施不能のもの,明細書に記載不備のものであり,その内容は空虚であって,かかる発明に特許が与えられたことは過誤であり,明らかな無効理由を有しており,その無効性は明白である上,本件特許発明の出願過程において被控訴人の信義に反した行為に照らせば,被控訴人の控訴人らに対する本件特許権に基づく権利行使は,権利の濫用として許されない。仮に現在は特許権が形式的に存続しているとしても,その技術的範囲の確定には慎重な考慮が必要であり,実質的価値のない本件特許発明の実体からすれば,被控訴人主張のような解釈をとって,侵害の成立を認めることはできない。
(ア) 本件特許発明構成要件D,Eの「平均含水率が約13%以上16%を超えない洗い米」は,本件特許公報3欄7行目に公知の洗い米の例として挙げられている特開昭57―141257号公報(乙24),特開昭57―1448号公報(乙78)でも公知である。
(イ) 本件特許公報は,【0002】【従来の技術】の項において,「一度洗った後乾燥させた米で,水を加えて炊いた後,おいしく食べられる洗い米は今まで製造されなかった。」とし,その原因を「米を洗った場合,その間に吸水して含水率が高くなり,そのままでは腐敗したり,カビが生えたりしてしまうし,それを避ける為に乾燥させると,米にまず亀裂が入り,更に,砕粒化してしまうので,それを炊いてもダラダラの飯になり到底飯として通用しないものになってしまうのである。従って,精白米は一旦水に漬けたら,これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り,その内に砕粒化してしまうので,今までに知られている洗い米は炊いて食しても美味といえるものではなく,炊飯には適さなかった。」と指摘し,「精白米の洗滌,無数で微細な陥没部までの除糠,除水を数分間という短時間内で行い,且つ米肌に亀裂のない洗い米は現在提供されていない。」とし,さらに,【0003】【発明が解決しようとする課題】の項において,「精白米は除糠のため洗う場合,そのための充分な時間を必要とするから水分は米粒の表面からその内部(深層部)まで浸透して,これを乾燥する場合は,先ず吸水によって膨張した米粒の表面が急速に乾燥し収縮する。然るに内部に至る程乾燥に多く時間を要する。従って米粒の表面は乾いて収縮しても内部に至るにつれて含水量が多くなるから収縮しない。この膨張と急速な収縮による歪み現象及び含水量の多い米粒内部の組織と収縮した組織との調和即ち細胞組織の結合関係が崩壊して,米粒表面に亀裂が発生するという問題があり,この亀裂が原因となって砕米化し,炊飯しても美味な飯ができないという問題が生ずる。このような問題は,通常の方法で水を使用して洗米した場合,これを強制乾燥した場合でも自然乾燥した場合のいずれの場合も必ず生ずる問題なのである。従って運搬や保管中(炊飯前)に砕米化し,又は炊飯中に砕けてしまい美味な飯は絶対に炊けないという大きな問題を有しているのである。従来の乾燥洗い米と称する洗い米は,上記の問題点を解決した構成を有しないので砕米の飯となり美味な飯を得ることができなかったのである。」と説明し,「本発明はこのような点に鑑み,水洗,除水後も米粒に亀裂が入らず,しかも,炊いた米飯の食味が低下しない洗い米を得ることを目的とするものである。」として,次項の【0004】【課題を解決するための手段】に続けている。
ところで,本件特許発明が解決しようとした上記の問題点は,本件特許発明において初めて見出された問題点ではなく,従来から当業者には周知もしくは公知の知見にすぎない。すなわち,特開昭63―84642号公報(乙79),特開昭63―319057号公報(乙80),特開昭61―283359号公報(乙81),特開昭61―85155号公報(乙82)には,本件特許発明と同様な知見が記載されている。
したがって,水で精白米を洗浄するに際し,米粒の表面に付着し時間とともに内部に吸収される水分が表層部にとどまり米粒の内部に浸透するに至らないまでの短時間内に除水してしまうことが技術的に可能であれば,炊飯しても美味な飯ができない原因の一つである亀裂の発生が防止できることは,当業者にとって自明の事柄であることが明らかである。
(ウ) 本件特許発明が上記の問題点を解決するために採用した手段をみると,本件特許公報の【0004】【課題を解決するための手段】には,「精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行えば,米粒に亀裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られることを見出し,発明を完成した。前記目的を達成するため,本発明の洗い米は精白米を水中で洗滌,除糠を行い,更に強制的に除水を行い,この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり,水への浸漬から洗滌,除糠,除水までの数分以内に行ったものであって,米肌には亀裂が発生しておらず米肌面にある微細な陥没部の糠分がほとんど除去されており,平均含水率を約13%〜16%を超えないものとしたものである。」と記載されており,この記載によれば,本件特許発明構成要件Aの「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる」との要件,構成要件Bの「米肌に亀裂がなく」との要件は,「精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行(う)」ことの結果を記載したものにすぎず,構成要件Cの「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」との要件も,上記結果による性状を記載したものにすぎず,それ以上の技術的内容は皆無である。そして,前記のとおり,水で精白米を洗浄するに際し,米粒の表面に付着して時間とともに内部に吸収される水分が表層部にとどまり米粒の内部に浸透するに至らないまでの短時間内に除水してしまうことが技術的に可能であれば,炊飯しても美味な飯ができない原因の一つである亀裂の発生が防止できることは,当業者の常識であったのであり,米肌面にある陥没部の糠分が除去されていなければ,炊飯後に糠臭が残り美味な飯にならないことは,当業者のみならず一般の需要者にも周知のことであるから,この常識を発明の要件として記載しても,そこには,産業の発達に寄与する何らの技術的創作があるということはできない。
イ 以上のとおり,本件特許発明は,構成要件D,Eに示される従来公知の洗い米につき,当業者ないし一般需要者の常識というべき知見であるA〜Cの構成要件を加えたものにすぎない。すなわち,本件特許発明の洗い米は,本件出願時において,洗い米として望ましいものであることが当業者に自明な性質を備えた洗い米であり,それ以上の特段の性質を持つものではない。問題は,本件特許発明実施可能であったかであるが,本件特許公報の開示するところでは,本件特許発明の目的とする洗い米を得ることは実施不可能である。
(ア) 本件特許公報【0004】【課題を解決するための手段】の項に,「・・・本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠,除水できる方法であれば特に限定されない。精白米の洗滌に当っては,公知の連続洗米機を用いることも出来るが一部改造の要がある。即ち,洗米槽を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能となるように改造するのが望ましい。」としているが,短時間で洗滌する方法として公知の連続洗米機を一部改造して用いること以外は,短時間で洗滌除水すれば亀裂,腐敗が生じない洗い米ができることを繰り返して説明しているにすぎない。また,「以下,本発明洗い米の製造方法について更に詳しく説明する」として,述べられている【0005】においては,「洗米機で洗滌する場合,その機械の回転数や槽径は処理量との関係で定まるものだが,要は供給された精白米が,槽内で充分な洗米に必要な攪拌回数を受けるだけの時間を経ても,除水後,即ち付着水分が除かれた時の水分,いわゆる米粒体の平均含水率が16%以下の含水率になっているように洗米機が設計されることが重要である。」と指摘するだけであり,どのように設計すれば,このような充分な洗米が短時間(除水工程も併せて実施例1では45秒,実施例2では約5秒)で実現できるのかについては何ら記載されていない。ただ単に,「洗米機での米粒の在槽通過時間が短くなるよう考慮して,回転数や槽の大きさを定める必要があるということである。いずれにしても本発明の洗い米を製造するには連続洗米機の在槽通過時間を従来よりも桁違いに短時間にしなければならぬことはいうまでもない。又,在槽時間の設定は,精白米の吸水性のよしあし,及び洗滌水温によっても勘案する要がある。即ち,水温が高い程,吸水速度が早くなるので在槽通過時間を短くする要がある。要は,連続洗米機を用いる場合如何なる場合でも,洗米時に米粒の内部にはほとんど水が浸透しない在槽時間とすることである。次に洗米機の回転数であるが,米粒が水中で攪拌される回数が少ないと,必要最小限の洗米効果が得られないから,前記のとおり,短い在槽時間内で,充分な洗米に必要な数だけ攪拌を行おうとすれば,洗米機の攪拌体の回転数を速くする必要がある。要は,連続洗米機により洗滌を行う場合は従来とは桁違いに短い在槽通過時間内に,充分な洗米に必要な攪拌回数が行われる回転数を設定することである。」というにすぎず,具体的な開示は全くない。除水についても,「大抵の洗米機の場合,米粒は大量の洗滌水と共に排出されるので,これを間髪をいれず,直ちに前記洗米装置の後工程に設けた除水装置にて,洗滌水は勿論のこと,米粒表面に付着している付着水をも除去するのである。
尚,除水装置は,洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよいが,只,洗滌水や付着水の除去に時間がかかるものではいけない。・・・尤も公知の除水装置の中には,吸水の要因となる洗滌水や付着水の大部分を,瞬間に近い短時間に除去出来るものがあるから,それを選べばよいと云うことである。」というにすぎず,公知のいかなる除水装置を用いることができるのかは何ら開示されていない。その余の記載は,すでに記載されている短時間に洗滌,除水を行う必要性と行った場合の効果についての繰り返しにすぎない。【0008】実施例1は,「公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体を毎分600回転となし,その出口のところに連続して除水装置を設けてなる水洗行程と除水行程を構成する」こと,【0009】実施例2は,「上記洗米機の回転数を毎分1800回転となし,除水装置を高性能にした除水行程を構成し」たことが記載されているにすぎず,精白米の水への浸漬から除水まで45秒,約5秒という短時間内に行いながら,精白米の表面にある肉眼では見えない無数で微細な陥没部に入り込んでいる澱粉粒や糠分を除去できる公知の洗米機,除水装置の出所は,開示をはばかる何の理由もないのに,開示されていないし,図示もされていない。
従来の洗米とは桁違いの短時間で洗米し,しかも,そのような短時間に充分な除糠を果たすには,精白米が洗米槽を短時間に通過できるようにするための手段が必要であるが,それは単に公知の回転式連続洗米機の洗米槽を小径として容積の大きさを変え,攪拌体の回転の高速化だけで実現できるものではないことは当業者に自明の事柄である。従来は毎分数十回であった攪拌体を毎分約600回転,1800回転という約10倍,20倍のものに改造するためには,その精白米の搬送路,搬送翼,洗滌水の供給排出路(網状筒),洗米のための攪拌翼等の各部品につき,処理する精白米に亀裂の発生や砕粒化などの悪影響を与えないようにするための特段の考慮をしなければ,できることではない。洗米槽の容積を変えるにしても,処理する精白米に悪影響を与えないで短時間の洗滌を行うためには,精白米の投入量と排出速度,洗滌水の投入量と排水速度,搬送翼や攪拌翼の回転数等との相関関係を究明しなければならないし,さらに除水装置についても,洗米装置と除水装置との連結手段,処理される精白米に悪影響を与えないような除水装置における短時間除水のための具体的構成をどのようにするかを技術的に考察し完成させなければ,実現は不可能である。これらの事項はいずれも当業者において特段の工夫が必要なのであるから,明細書に装置の構造を具体的に記載し図面により説明するなどしなければ,当業者が容易に実施できないことは多言を要しないのである。
このような記載なくして,当業者が容易に実施できる程度に本件特許発明が開示されているとはいえない。いうまでもなく,発明が産業上利用することができる発明として完成していること,明細書にその発明を当業者が容易に実施できる程度に記載すべきことは,発明者ないし出願人においてなすべき事柄であり,これが争われたときの主張立証責任は発明者ないし出願人にあるのである。このことは,当該発明が特許されているか否かで変わらない(参照:松野嘉貞「審決取消訴訟における主張立証責任」三宅古希記念:特許争訟の諸問題〔1986年10月〕所収)。そして,本件特許発明発明者又は出願人において,本件出願時に真に公知の装置あるいはその改造装置により本件特許発明実施できていたとすれば,本件明細書にその公知の装置名を開示し,その改造例を図面に示して記載する程度のことは何の差し支えもなく容易にできたことである。
被控訴人が,本件特許発明に係る出願(特願平4-179248号)から分割出願した「洗い米の製造装置」(特願平7-20276号)の明細書(乙95:特許2711644号特許公報)においても,その特許請求の範囲(請求項1のみ)は,「連続洗米機と該洗米機の次工程に設けた除水装置とを備えた洗い米の製造装置であって,前記連続洗米機が,毎分600回転以上で回転する攪拌体を備え,かつ該連続洗米機に供給される精白米を前記連続洗米機と除水装置を極短時間で通過させることができ,前記連続洗米機と該除水装置とを通過させた洗い米の含水率を16%以下としうる除水能力を備えていることを特徴とする洗い米の製造装置。」というものであり,この特許請求の範囲及びその発明の詳細な説明にも,本件明細書や製造方法の発明についての明細書以上に装置の具体的構成は何ら記載されていないし,装置の発明においては通常添付される図面の添付もない。本件特許発明は,本件特許発明実施するため技術的に重要である事項を故意に明細書に開示されず,本件明細書には本件特許発明実施可能な程度に記載されていないことを正に裏付けている。
(イ) 本件特許発明の「米粒群が水中に漬かる程の大量の水の中で攪拌して洗う」方法により洗滌し,「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して」,「米肌に亀裂がなく,米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された,平均含水率が約13%以上16%を超えない」洗い米を得ることが可能であるような技術的手段を開示若しくは示唆する知見は皆無であり,本件出願後においても,特段の工夫をしなければ,このような洗滌,除水を極く短時間でおこなうことは技術的に困難であると当業者は認識していたのである。
例えば,洗米装置だけについても,本件出願後の平成4年1月27日に出願された特願平4―53053号[特開平5―207856号公報(乙84)]には,「洗浄水の水温や,原料となる精白米の性状にもよるが,精白米に浸入する水が精白米の1重量%内外になるような短時間の内に,水洗し,かつ,付着水を必要な程度にまで除去することを,既存の洗米装置や脱水(蒸発乾燥)装置を流用して行なうのは困難である。なぜなら,精白米を洗米せずに炊飯すると,米飯に糠臭があったり,米飯の色が黄色くなったり,粘りのないボソボソした米飯になったりするのは,玄米の糠層の最下層であるアリウロン層(糊粉層)に含まれていた油脂や蛋白質や糖質などから成る極めて粘度の高い半液体状の混合物(以下「アリウロン残留物」という)が,精白米の表面に付着しているのが主たる原因であって(特開平3―154643号公報参照),食味のよい無洗米にするためには,このアリウロン残留物をほぼ完全に除去しなければならないが,アリウロン残留物は,その粘度の高さゆえ,精白米を単に水中に浮遊させて攪拌するだけでは精白米から遊離しにくく,遊離させるには精白米と水を接触させた上で精白米の表面を摩擦することが必要である。しかし,精白米は吸水すると強度が低下し,特に表層の細胞組織が傷つきやすくなり,これを傷つけると亀裂と同様の食味上の悪影響を及ぼすことになるので,従来の洗米装置は,その方式(洗浄槽内で攪拌翼を回転させ水と精白米を攪拌する,内部に羽根を固設した洗浄槽に水と精白米を投入し洗浄槽自体を回転させる,スクリューコンベアにより精白米を搬送しながら精白米と水を攪拌する,および,水中の精白米に強い水流や空気流を噴射して攪拌する,等がある。)に係わらず,いずれも精白米を傷つけたり割ったりしないよう,精白米に強い摩擦力を加えず,そのかわり比較的長い洗浄時間を与えることにより充分な洗浄ができるようになっている。したがって,このような洗米装置を用いて無洗米製造に適するような短時間の内に,アリウロン残留物をほぼ完全に除去することは不可能に近いのである。」と記載され(同2欄19行〜3欄3行。上記に引用の特開平3―154643号公報につき乙85。),平成9年4月22日出願の特開平10―296100公報(乙86)には,「従来の洗米装置は,すべて渦流の中で白米を激しく泳がせ,水との接触による摩擦力で白米の表面を綺麗にしようとするものであった。ところが,実際には,主に水との接触による摩擦だけでは白米の表面に作用する摩擦力は非常に小さく,そのため短時間に米糠などを含む汚れを落すことは難い。」(同2欄23〜29行)と記載されている。
このように,本件特許発明の出願後においても無洗米製造に適するような極く短時間内に米肌面にある陥没部の糠分をほとんど除去できるような洗米装置を実現するには種々の工夫が必要とされていることから窺われるとおり,本件特許発明の出願時において,洗滌工程のみならず除水工程を含めてこれを本件特許公報がいうような極く短時間に行うことができるような装置は存在していなかった。
本件特許発明が未完成若しくは実施不能のものであり,発明の実体としておよそ空虚なものであったにもかかわらず,被控訴人があえて特許出願した動機は,控訴人佐竹の技術力からすれば洗い米及びその製造方法の発明が先に特許出願されることが十分あり得ることを被控訴人が懸念した点にある。未完成若しくは実施不能の技術をあたかも完成したものと偽って,特許出願することは許されず,これをあえてすることは社会的信義に反する行為というほかはない。
(ウ) この開示がないことは,被控訴人が別件訴訟(1審和歌山地裁平成4年(ワ)第458号・平成7年(ワ)第271号事件(その判決につき乙76)。控訴審大阪高裁平成10年(ネ)第2799号・第2800号事件(その判決につき乙77)。以下「和歌山事件」という。)において,本件特許発明及びその製造方法に係る発明につき,これを実現する技術的手段である装置は特許出願においては開示せず,これを営業秘密に属するノウハウとして保持していたとして,被控訴人自らが認めていた事実からも明らかであるのみならず,被控訴人が営業秘密として保持していたとする本件特許発明実施できる技術的手段が,本件出願当時,存在していなかった。
和歌山事件は,本件特許発明発明者である被控訴人代表者Z(以下「Z」という。)が,本件特許発明及びその親出願に係る洗い米の製造方法の発明実施できる装置を昭和55年4月ころには完成し,これを被控訴人が営業秘密として保持していたところ,被控訴人と業務上の関係の深い財団法人Z技術研究所(以下「Z技研」という。)の理事であったU(以下「U」という。)が,その職務に関連してこれを知り,同研究所退職後設立した株式会社クリキ(以下「クリキ」という。)と共謀して,この営業秘密を使用して,無洗米製造装置を製造販売しているとして,U及びクリキに対し,同装置の製造販売の差止,損害賠償を請求し,同装置の発明につき特許を受ける権利が被控訴人及びZ技研にあることの確認を求めた事案である。
和歌山事件において,被控訴人は,本件特許発明及びその製造方法に係る発明につき,これを実現する装置は特許出願においては開示せず,これを営業秘密として保持していたと主張し,この営業秘密につき,「営業秘密の内容は,無洗米(乾燥洗い米)の『製法』及び『装置』に関する開発事項であって,無洗米の『製法』は,@精白米を水で洗滌する。A洗滌で濡れた米を元の水分近くまで乾燥する。B上記の@Aの工程を数秒又は数十秒の短時間で行うという3事項が必須条件であるところ,上記無洗米を工業的に得る『機械装置』の構造における重要な点は,@については,容器内を,ほぼ定量の水と米が攪拌しながら,短時間に通過させるための連続洗米装置にする。Aについては,洗浄で濡れた米を早く乾燥するために,遠心分離装置と通風乾燥装置を併用する。上記通風乾燥は,即効的に行う必要があるため,米粒を通過させない網を用い,その網面に片面に米粒群を拡げ,その面より裏面に,常温又は温かい空気が貫通するよう送風又は吸風する装置とする。上記により米粒の含水率が元の含水率より1%以下のアップとなる程度に乾燥させる。Bについては,長くても1分以内とする。@〜Bと容器内をほぼ定量の水と米が攪拌しながら短時間に通過させるための連続洗米装置にすることは特許公開公報(親の原出願明細書(乙1))にて開示したが,他は公開していない。」と主張しており,被控訴人は,親の原出願明細書に営業秘密とされた本件洗い米を製造し得る装置が備えるべき不可欠な技術事項が開示されていないことを自認しているのである。親の原出願明細書にこの事項が開示されていない以上,これより分割出願された本件明細書(甲1),洗い米の製造方法の発明の明細書(乙60),更に分割された上記洗い米の製造装置の発明の明細書(乙95)にも,これら公開しないとした技術事項が記載されていないことは当然である。
そして,本件特許発明発明者であるZは,本人尋問の際,公知の装置で本件特許発明のいう洗滌,除水を極く短時間で行うことができるかについての質問に対し明確な回答をせず,「それを達成するためにやるんであれば,効率さえ無視すれば,何十馬力であろうと何百馬力掛けようがやれば,それはできるはずです。」と供述し,真に公知の装置若しくはこれを改良した装置を用いて本件特許発明の洗い米を製造できることを試したことがないことを自認している。
本件特許発明産業上利用できる発明として実施可能であるためには,この営業秘密とされた技術事項が不可欠であることは明白である。これが本件明細書に開示されていない以上,本件明細書には,本件特許発明を当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいうことができない。
ウ 本件特許発明実施に不可欠な糠で糠を取る方式が開示されていない。
(ア) 被控訴人が本件原出願につき平成4年1月21日に特許庁に提出した「早期審査に関する事情説明書」(乙88。以下「本件事情説明書」という。)において本件特許発明の洗い米を製造する方法として提示した実施方法は,本件明細書や洗い米の製造方法の発明の明細書(乙60),また,前示洗い米の製造装置の発明の明細書(乙95)に記載されているところとは全く異なり,洗米の前提として「糠で糠を取る」ことを必須のものとする方法である。被控訴人は,平成3年7月6日,朝日新聞の取材に応じて「糠で糠を取る方式」による無洗米を発売したことを明らかにした(乙89)のち,一貫して,被控訴人の製造販売に係る無洗米が,従来とは格段に異なる新しい精米方式によるものであることを具体的に明示し,その旨の報道がなされている(乙89〜93)。最近においても,Zは,テレビの取材に対して,糠で糠を取る方法により無洗米を製造していることを公言している(検乙1)。
この糠で糠を取る方式による洗い米の製造方法は,本件原出願の願書に最初に添付された明細書以降,補正された明細書を通じ,製造方法の発明についての特許明細書(乙60)及び分割された本件明細書(甲1)のいずれにも,一言たりとも述べられておらず,被控訴人が和歌山事件において本件特許発明の洗い米の製造方法であり,営業秘密として保持していたと主張した前示計画書に記載された方法とまったく別個の方法であるが,本件特許発明の洗い米の発明を実施するためには,不可欠な前提工程として存在する。精白米を本件特許発明により洗滌する前段階で糠で糠を取ることが必要であり,これを必ず行っているということは,本件特許発明の洗い米を得る出発物質としての精白米は,このように糠がほとんど除去された精白米に限定されるということを意味する。すなわち,本件特許発明に基づく水による除糠工程が対象とする米粒は,精白米に予め糠で糠を取る工程を施し,ほとんど糠がない精白米であることになる。ちなみに,被控訴人が本件特許発明実施する際に実施している糠を利用して米粒の糠を除去する技術として引用する各公報,すなわち,潤糠式精米装置に関する発明である特公平2-22704号(乙97),潤糠式精米機の攪拌・送穀装置に関する発明である特公平2-48302号(乙98),潤糠精米方法に関する発明である特公平4-79703号(乙99)は,いずれも精白米の糠層にある,非常に頑強で粘性が高く除去困難な糊粉層(アリューロン層)をほぼ完全に除去する効果を奏するものとされている。例えば,これら三つの発明のうち,特公平2-22704号は,その作用につき「このようにして,精白室内ではゆつくりと除糠が進行し,米粒は精白室排出口の方に徐々に送られ,排出口に到達する前に米粒表面の糠は完全に除去される。」(乙97:4欄28〜31行)と明記している。
ところが,本件明細書には,精白米を水により除糠しこれを除水するという工程しか記載されておらず,「『精白米』の意味であるが,完全精白米は勿論のこと,過剰精白米や中途精白米をも含めて指すのである」(【0006】【作用について】8欄23〜25行,乙60:7欄29〜31行)として対象となる精白米に限定は加えられていない。この点に関する記載を欠く本件明細書は,本件特許発明の洗い米を製造するについての必須の構成についての記載を欠いており,この工程の技術的手段の明確な具体的開示がされない以上,本件特許発明は,当業者に実施不能という以外にない。本件明細書における記載不備は明らかであり,明白な無効理由がある。
また,被控訴人は,Uに対して,営業秘密盗用したことを理由に提起した訴訟においては,本件特許発明に係る無洗米の製造法をUの発明に開示された方法とほぼ同様な方法であるとしながら,特許庁に対しては,上記方法とは異なる糠で糠を取る方式を本件特許発明の洗い米を製造する方法であると主張し,きわめて不誠実な態度が取られている。
そして,そればかりか,本件原出願は競業者である控訴人佐竹より先に出願しなければならないとして急いで被控訴人が平成元年3月にし,糠で糠を取る精米方式の開発の発表は,それより2年余過ぎた平成3年7月であり,本件原出願の当時,本件特許発明は未完成の発明といわなければならず,もし実施可能なものとして成立していたとすれば,それにもかかわらず,これに一言も触れることなく,公知の装置で実施できると本件特許公報に記載したのだとすると,公知の装置では実施できないことを知りながら,故意に事実に反する記載をしたことになり,信義に反する行為である。
【被控訴人の主張】 ア 控訴人らが「出願前公知」の根拠として提出した乙24,78〜82たるや,乙78以外はすべて過去の事件(甲18,17)において「出願前公知」の証拠として使われたものであり,特許庁審判官から排斥されたものばかりである。乙78は,控訴人らも自認しているごとく,単に「精白米の望ましい含水率は14〜16%である」ことを立証するというだけのことであり,そのようなことはすでに食糧庁の基準で「16%以下」となっていることからも,何の証拠価値もない。そして,それら以外の証拠は,亀裂対策のない単なる洗米と除水をしてパックの(乙24),精米中の米の乾燥防止(乙78),加湿精米(乙79,81),水飴等で米粒の表面処理(乙80),精白米の水分アップ(乙82)であり,本件特許発明とは分野が異なるだけでなく,それら証拠に,本件特許発明の重要な要件である従来では絶対にタブーとされていた「洗滌で濡れた米を,水分16%以下に短時間に除水する」との公知例などある訳がない。
本件特許発明は,有史以来,夢とされてきた「研がずとも炊ける米」を実現した発明である。従来,「研がずとも炊ける」との米は,炊飯すると,ザラザラの飯となったり,悪臭がしたりして,食味が極めて悪いため,実用化されたものは皆無であった。したがって,当業者においては,米粒の特性として洗米しないとほぼ完全に除糠ができないし,洗米すれば当然米粒が濡れるし,そのままでは腐敗するから乾燥させないといけないし,乾燥させると亀裂が発生し,その結果,食味がまずくなるというパターンは絶対に避けられない現実として認識され,昔から米粒より水分を除去するには長時間かけるほど亀裂が生じないとの常識が支配していたため,本件特許発明のごとく,約1分の間に米を洗滌し,ほぼ元の水分まで急激に乾燥させるなどは,それを聞いただけで,誰もが「とんでもない」と考えられていたのである。このことは,控訴人佐竹においても「特に本件特許発明のような1分以内の乾燥処理は,米穀業界においては胴割を発生させるものと認識されており,これを極力回避していた。換言すれば,熱を利用した送風乾燥の急速処理は,米については絶対タブー視されていたものである。」(甲71:11頁16〜20行)と陳述していることからも明らかである。
本件特許発明が公表された時,一般紙が取り上げ,米学界の大御所的な新潟大学名誉教授の倉沢文夫から「画期的だ」と賛称された(甲38)だけでなく,約1か月後,本件特許発明実施品(無洗米)が市場に出ると,その当時だけでも多くの報道が行われ,この無洗米生産プラントの需要が供給力の数100倍となった(乙93)。
イ 本件特許発明は未完成でなく,開示もされている。
(ア) 本件明細書には,洗米機に関して,「精白米の洗滌に当っては,公知の連続洗米機を用いることも出来るが一部改造の要がある。即ち,洗米槽を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能となるように改造するのが望ましい。」(5欄11〜15行)と記されているから,当業者はその記載だけで,「公知の連続洗米機」とは,甲55〜57のようなものであることを理解し得る。当業者は連続洗米機を知っているので,その洗米槽を小径にしたり,高速回転させればよいこと等を簡単に理解できる。さらに本件明細書の実施例1の説明文中には,@「公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体を毎分600回転となし」,A「その出口のところに連続して除水装置を取り付けてなる水洗行程と除水行程を構成し」,B「該洗米機に3℃の水を注入し乍ら水分14.2%の・・・精白米を連続的に毎分1sペースで投入する」,C「精白米は洗米機の洗米槽の中で運動している注入水の中にザブンと入り,水中で攪拌され洗米され乍ら洗米機の出口より洗滌水と共に排出され,直ちに次行程の除水装置に入る」,D「ここで洗滌水及び付着水が強制的に除去されて除水装置より排出される」,E「その間,即ち1粒当りの精白米が洗米槽の水に漬った時から除水装置より排出されるまでの時間は45秒(大半は除水行程での時間が占めている)であった。除水行程から出たての米は水分15.9%になって居り」と記されている。また,実施例2の説明文中には,F「上記洗米機の回転数を1800回転となし」,G「除水装置を高性能にした除水行程を構成し」,H「25℃の水を注入し乍ら・・・精白米を連続的に毎分10sペースの速さで投入する」,I「精白米が洗米槽の水に漬かった時から,除水装置から排出されるまでの時間は約5秒であった」,J「除水行程より出たての米は含水率14.5%になっており」と記されている。
それら@〜Jの記載から,当業者にとっては,洗米機(器)には,水圧で容器の中の水を水流させて洗米するタイプと機械的に何らかのものを回転させるタイプがあるが,前記@には「回転式」と記されているから後者であること,洗米機にはバッチ式(洗米機に一定の米を入れたり出したり入れ替えるタイプ)と連続式(洗米機に一方から米が連続して入り,他方から連続して排出されるタイプ)があるが,前記@には「連続洗米機」と記されているから後者のタイプであること,前記@に「攪拌体を毎分600回転となし」と記されているから洗米機で回転させるものは攪拌体であり,Cに「洗米槽の中で・・・攪拌されながら」と記されているから,攪拌体を洗米槽内で回転させる構成であること,前記Bには,「精白米を投入する」と記されているから洗米機には精白米を投入する投入口が設けられた構成であること,前記BCEの記載から,攪拌体には投入された精白米を出口に短時間に送る送米螺旋(スクリュー)が設けられていること,そのような洗米機には,停止中でも水を洗米槽内に溜めるタイプと,運転中の洗米槽に注水させるタイプがあるが,前記Bに「水を注入しながら」と記されているから,注水口より米粒に注水しているタイプであること,前記Cの記載から,米粒は注水された水と共に洗米槽の中を攪拌体の回転によって攪拌されながら,洗滌水と共に排出される構成であること,前記Cの記載から,排出された米粒及び洗滌水は直ちに次工程の除水装置に入れる構成であること,前記BCEIの記載から,米粒が洗米機の投入口記載から短時間に出口に出られる構成であること,前記@Fの記載から,攪拌体を高速回転させても米が飛散したりしないのは攪拌体の周囲は洗米槽で囲まれているタイプであること,前記Cの記載から,実施例1の場合では,米粒が洗米槽の中で水と共に攪拌されるタイプであること,前記FHの記載から,洗米機の構造及び水の注入量を実施例1のままにして,実施例2では,洗米機の回転数だけを高めて,米の投入量を10倍にしても洗米できるタイプであり,実施例1の加水率が,実施例2では10分の1に減少して洗米していることが明らかにされており,当業者にとっては,本件明細書の実施例の公知の洗米機は,甲55〜57に示されるような,最もポピュラーな,通称「攪拌式洗米機」に属するタイプであること,しかも,この種の「攪拌式洗米機」は古くから周知であり(甲78),その中でも本件特許実施例に示す「注水」するタイプは甲56のごときものであることが理解できる。
本件明細書には,「除水装置」について,「除水装置は,洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよいが,只,洗滌水や付着水の除去に時間がかかるものではいけない。何故ならば,せっかく洗米工程で,米粒内部に吸水させないようにしたのに,除水工程にて,洗滌水や付着水の除去に時間がかかり洗滌水や付着水が米粒内部に吸収されて無意味だからである。尤も公知の除水装置の中には,吸水の要因となる洗滌水や付着水の大部分を,瞬間に近い短時間に除去出来るものがあるから,それを選べばよいと云うことである。」(6欄23〜32行)と記され,本件特許発明を具現するための除水装置の必要な要件を開示し,更にそのためにどのような除水装置を選ぶべきかまで示唆し,その上,実施例の前記説明文により,当該実施例の除水装置を,(い)前記ACDの記載から,当該除水装置は,精白米とともに入ってきた洗滌水及び付着水を連続的に除去する,いわゆる連続式(バッチ式ではない除水装置)であること,(ろ)前記BEJの記載から,洗滌水及び付着水を極めて短時間に,しかもぼたぼたに濡れている精白米をほとんど元の状態の含水率14.5〜15.9%(サラサラに乾いた状態)まで水分を除去する装置であること,(は)前記Gの記載から,当該除水装置は実施例1の時より除水性能を高めることが可能なタイプであること,(に)前記BHの記載から,流量が自由に変えられる除水装置であること,(ほ)前記Aの記載から,当該除水装置は洗米機の米の出口のところに,連続して設けていることが明らかにされている。
したがって,当業者にとっては,本件明細書の実施例の除水装置の,少なくともその最終工程は,当業界では周知の,水分を蒸発させて除去する通風乾燥が最もポピュラーな方式であること,それもそれが単独か,若しくは遠心脱水機と組み合わされて用いられていることが把握できる。けだし,遠心脱水を連続的に行う装置(いわゆる連続式遠心脱水機)では,せいぜい水分18%程度にしか除水できないことは,当業界では常識化しており,当業者は,遠心脱水した場合,その後に乾燥手段が必要なことを知っていること,さらに前記(は)のごとく,除水性能を自由に高められるのは,風速,湿度,温度を自由に変えることによって,いわゆる乾燥条件(除水性能)を高められる乾燥手段が最も知られている(遠心脱水機では回転を早くしても,除水性能を高めることは僅かしかできず,それも米粒が傷んでできない)こと,乾燥手段を用いた装置も種々のタイプがあるが,前記(に)のとおり,流量が自由に変えられる機構の通風乾燥機としては,当業界では周知の送り速度を自由に変えられる通気バンド乾燥機が最も当業者の頭に浮かぶことからである。
以上により,当業者は,本件明細書の実施例の洗米機が甲55〜57,78に類するタイプであること,実施例の除水装置が単独若しくは併用のいずれの場合でも,最終工程は乾燥装置が用いられていることを知ることができ,洗米機と除水装置との組合せの構成は,洗米機の出口から排出された米が除水装置に直ちに入るように組み合わされていることも,前記(ほ)にて知ることができるのである。
なお,控訴人佐竹は,同理由による無効審判も申し立てたが(甲17:7頁16〜8頁13行),特許庁審判官より開示されているとして,同控訴人の主張は排斥されている(甲17:38頁3〜49頁6行)。また,クリキも,同理由による異議申立(甲18:7頁6〜13行)をしたが,同理由により排斥されている(甲18:37頁16〜20行)。
(イ) 和歌山事件の経緯の概略は次のとおりである。
Z(当時はZ技研理事長)は,昭和53年10月4日までに,無洗米の「製造方法」と,同方法を用いた最も効率のよい「製造装置」を発明した(甲80)。しかし,この発明は当時の被控訴人にとっては,釣り糸に予想外の巨大な魚がかかったような状況であったため,企業態勢がとれるまでZ技研と被控訴人とで同発明を秘匿するとともに,先使用権の主張ができるよう,その製造装置の製作図面の確定日付も得,その約2年後の昭和55年に僅かの改良を加えた実施品を開発し,それも先使用権に備えて確定日付を得た。被控訴人社長が病気で辞任したため,昭和60年からZはZ技研を退任し,被控訴人の社長に就任し,Z技研は昭和56年に入所していたUが後任の理事長に就任した。被控訴人は本件特許発明実施に向けて昭和63年に,躍進機械のT社長を,同社と兼務で被控訴人の社長に招聘したことから,Z(その時から会長)は,Tの紹介で,躍進機械の顧問弁理士に,上記無洗米に関する秘匿発明に関して相談をした後に,同弁理士が控訴人佐竹の元社員であること,さらに同控訴人を退職後も,同控訴人と懇意な間柄であることを他から耳にしたことから,同弁理士から上記秘匿発明の内容が同控訴人に漏れたら一大事と思い,Zは上記秘匿発明のうち,同弁理士に話した「製造方法」の発明のみ,平成元年3月14日にTにも知れぬよう,こっそりと特許出願をした。しかし,「製造装置」の発明は同弁理士に話していなかったため,秘匿を続けることとし,「製造方法」の出願に際しては,公知の製造装置を用いて,当業者が上記製造方法の発明容易に実施できるよう明細書に記した。その特許出願が平成2年9月27日付公開公報にて公開されたことから,その時から被控訴人らの秘匿発明は「製造装置」の技術情報だけとなった。したがって,それが当該事件で被控訴人が主張する「営業秘密」である。
「本件営業秘密」たる無洗米の製造装置の発明は,本件明細書に記載していない。しかし,それには,公知の装置を用いて本件特許発明を実現できる手段(装置)を開示しているから,何ら無効性を有するものではない。昭和53年10月当時,すでにZによって発明されていた無洗米の製造方法,及び当時被控訴人に存在していた無洗米装置は,基本的に控訴人佐竹にて現在製造販売されているスーパージフライス設備や,クリキ無洗米製造装置と変わらない構成を有し,しかもその製作図面(各部品の寸法まで記入され,それにて量産できる)が存在していた。
本件特許発明は昭和53年10月までに完成していながら,実施化を差し控えていたのは,被控訴人にとっては余りにも画期的な発明であったから,企業態勢を整えてからとするためであり,技術的に不完全であったからではない。
そのことは甲80(和歌山事件の甲44の2):2頁10行に「5条,両製品は革命的であり,社会に極めて衝撃を与えるものだけに,乙においては周到な計画や態勢を整えた上で,実施するものとする。」と記載されていることからも明らかである。被控訴人が実施化に向けて動きかけたのは,その実施化のために躍進機械のTを被控訴人社長に招聘することが決まってからである。しかし,そのTも動かなかったため,結果的に平成3年になってしまったのであり,決して製品が完成していないためではない。もともと被控訴人には無洗米の「製造方法の発明」と「製造装置の発明」の両発明を秘密にしていたが,「製造方法の発明」が他に漏れそうになったために,平成元年に「製造方法と洗い米の発明」のみを特許出願し,その後公開されたため,残りの「製造装置の発明」を「本件営業秘密」として秘匿していたのである。したがって,被控訴人特許(乙1,甲87,甲89)には「製造方法の発明」,「洗い米の発明」は記されているが,「製造装置の発明」については一切記されていないのは当然のことである。
本件特許発明や,製造方法特許発明について,それを実現すべき手段の開示は不可欠であるが,それを当業者が容易に実施できる程度に開示してあればよく,最も効率よく実現できる製造装置の発明まで開示する必要はない。むしろ,装置は方法とは別に出願されるべきである。したがって,本件特許は,公知のどのような機器を用いると実現できる旨が記載されているのであるから,それで充分である。その結果,当業者が米粒の除水に不向きな除水装置を選択したために,目的は果たせたものの,乾燥効率が悪く,高馬力の負荷が必要となる場合もあり得る。当業者であれば多少の差はあっても,常識外に効率の悪い装置を選択することはないが,もしもその場合でもロスを補うだけの高馬力をかければ実現できる理屈である。もちろんZもそこまで常識外の実験はしたことがないから,「できるはずです」と答弁したのである。
被控訴人が本件特許発明を出願したのは,控訴人佐竹の技術レベルを恐れたからでなく,同控訴人が自らの技術開発力を補うための情報収集力が異常に優れていることを恐れていたからである。それ故,Zは同弁理士に話した発明情報が同控訴人に流れることを憂慮し,直ちに同弁理士に,偽情報を流すとともに,自ら本件特許発明を出願した。ちなみに,本件特許出願日の約3か月後,それまで熱処理の方向を向いていた同控訴人から,突如として,本件特許発明に上記かっこ書き要件を加えたような特許出願(甲15)を始めとして,続々と本件特許発明と同じ「洗米,除水」の特許出願がなされた。
(ウ) 本件明細書には,本件特許発明の洗米を行うのに公知の連続洗米機を用いてもよいが,その場合は一部改造することを示唆し(5欄9〜15行),しかも,そのようにしなければならない理由についても,引き続き,本件明細書は「前記の洗米装置で水洗する時に,水洗槽を通過する時の在槽時間が長いと,その間に米粒内に深く水が浸透し,表面付着水が除去されても米粒体全体の含水率が高くなり,腐敗や発カビの因となる。そして,それを防ぐために水分を乾燥により除去せしめると,乾燥は米粒表面が急速に進み収縮し,次いで表層部から深層部へと進むから,この間に米粒体表面にひずみが生じて砕粒化の原因である亀裂が出来る。そこで,内部水分(深層部水分まで)を除去しなくともよいように,表面付着水が除去されたときの水分,即ち米粒全体の平均含水率を16%以下に押さえる必要があり,その為には,洗米機での米粒の在槽通過時間が短くなるよう考慮して,回転数や槽の大きさを定める必要があると云うことである。いずれにしても本発明の洗い米を製造するには,連続洗米機の在槽通過時間を従来よりも桁違いに短時間にしなければならぬことは云うまでもない。・・・次に洗米機の回転数であるが,米粒が水中で攪拌される回数が少ないと,必要最小限の洗米効果が得られないから,前記の通り,短い在槽時間内で,充分な洗米に必要な数だけ攪拌を行おうとすれば,洗米機の攪拌体の回転数を速くする必要がある。」(5欄32行〜6欄7行)と解説している。
このように,本件明細書には,亀裂の生じない洗米を行うには,従来とは桁違いに短時間処理をする必要があること,その短時間処理をするには,公知の連続洗米機の洗米槽を通過する時間,つまり在槽時間を短くすること,そのために洗米槽を小径とすること,さらに極めて短時間の在槽時間でありながら,充分な除糠ができるようにするため,攪拌体の回転数の高速化が必要であるとし,毎分600回転以上にするのが望ましいことなどが,るる開陳されているところである。さらに前記のとおり,具体的に実施例にて詳細に説明している。したがって,控訴人らの指摘のごとき,実施するには工夫が必要などあるわけがない。むしろ,乙84〜86には,問題点の解決を果たすべき手段が何ら開示されていないのである。すなわち,従来の洗米とは桁違いの短時間で洗米し,しかも,そのような短時間に充分な除糠を果たすには,洗米槽を短時間に通過させるための手段(洗米槽容積の大きさ)及び従来は毎分数十回だった攪拌体をすばやく撹絆させる高速化などは不可欠なところ,それか,それに代わる手段が乙84〜86に何ら示されていない。
しかも,それらの特許出願は,審査請求をしていないか,審査請求をしたものは拒絶査定になっているものであり,いずれも無意味な証拠である。
ウ 本件特許発明と糠で糠を取る方式 本件特許発明には,洗滌の前に粘着糠の除糠など要件ではないし,被控訴人はこれまでそれが要件である旨を述べたことも全くない。すなわち,乙88〜92に示される「糠で糠を取る」は,本件特許発明実施によるものではなく,本件特許発明実施することにより生じる汚水の発生に対処するための措置である。そもそも高度化した近代産業構造の中では,一つの商品を軌道に乗せるには数多くの発明を組み合わし駆使するのが一般的であり,当時被控訴人が商品化した乙88〜92の各資料に示す当該洗い米の場合も例外ではない。本件特許発明は,洗滌により生じる汚水(米のとぎ汁)を処理する新技術まで含まれていないことは明白であり,その汚水処理を行うには,控訴人佐竹やクリキがしているごとき無処理で垂れ流すとか,劇薬を用いるとか,大量の石油の燃焼熱で水分を蒸発させるとか,の環境等を無視した手段だけでなく,当時,環境にやさしい正式な汚水処理の手段があった。しかし,同手段を採用するとなると,膨大なスペースと極めて高額の建設費だけでなく,長時間の処理時間を要するという問題点があった。
そこで,被控訴人においては,古くよりその解決のため,とぎ汁中に含まれる混入成分を,短時間に水中より分離除去する装置を開発(以下「1次発明」という。)していたが,一部の混入成分だけはどうしても分離することができなかった。そこでその除去困難な成分が水中に溶け込むまでに,すなわち精白米を本件特許発明により洗滌するまでに,事前に除去することで,本件特許発明実施によって生じる米のとぎ汁処理は1次発明の分離装置にて汚水を1滴も排出することなく,全排水が清水となし,当該洗い米を生産できることとなった。その洗滌前の除去とは,糠を利用して除去することであり,その技術的手段は,古くよりZが開発してきた特公平4-79703号公報,特公平2-22704号公報,特公平2-48302号公報等の糠をもって糠を除去する技術を更に飛躍的に進化させ,更に精米機で発生直後の糠も利用して除去する新技術(以下「2次発明」という。)を開発した。
したがって,被控訴人が,平成3〜4年当時,本件特許発明実施する際,2次発明を実施し事前処理をし,その上で本件特許発明実施した後,そのとぎ汁を1次発明にて処理していたものである。しかし,当時すでに2次発明を更に進化させ,それだけで,とがずに炊けるほどの除糠可能な3次発明も完成していたが,用心のため未だ実施せず,上記期間では本件特許発明と併用して1次発明及び2次発明を非公開で実施していたのである。したがって,発明としては本件特許発明は1次発明及び2次発明とは別個のものであり,重要な要件が記載されていないのではない。甲76の2:2頁に記される被控訴人無洗米加工工程や,同頁の下から2行に「E洗浄水は別途の浄化装置が必要です。」と記載されていること等から,被控訴人が平成元年当時は本件特許発明のみ単独実施していることは明らかであり,それは,特許庁から控訴人佐竹に通知されている(甲76の3)。
争点に対する判断
1 争点(1) ロ号物件及びその構造 (1) ロ号物件がジフライス設備JF3A又はジフライス設備JF1Bであり,その構成が原判決添付別紙ロ号物件目録説明書V2(1)@の記載中,かっこ書き部分に「被告らは・・・と主張」及び「被告は・・・と主張」とある部分にかかる被控訴人の主張を除くその余の部分(ただし,同説明書V2(1)@13行目記載の「該円筒への巻径」を「芯間隔」と,同(2)18行目記載の「第6図」を「第3図及び第5図」と各改める。)のとおりであることは,当事者間に争いがない。
(2) ロ号物件の構成が原判決添付別紙ロ号物件目録説明書V2(1)@の記載中,かっこ書き部分に「被告らは・・・と主張」及び「被告は・・・と主張」とある部分は,次のとおりである。
証拠(甲73,乙72,73)によれば,螺旋状部7における搬送ホースの巻回し回数は,ロ号設備の設置納入時においては全て12回巻きであり,ただ,ユーザー側で巻回し回数を変更することが可能となっているため,異なる巻回し回数のものが存在することもあり,控訴人三多摩食糧が使用しているロ号設備では2系統のうち,一方が9回巻き,他方が10回巻きとなっており,幸福米穀が使用しているロ号設備では2系統とも7回巻きであることが認められる。
証拠(乙73)によれば,螺旋状部7における搬送ホース13の芯間隔は430o(搬送ホースが巻かれている円筒外径が382o,搬送ホースの外径は48o)であることが認められ,搬送ホース13の全長は,次の算式により,約16mであることが認められる。
(382o+48o)×3.14×12=16,202o 証拠(乙75の1なし3)によれば,乾燥装置Cにおけるスクリュー64の巻き数はスクリーン90の内周面に対し36回であることが認められる。
そうすると,ロ号物件及びその構造は本判決添付別紙ロ号物件目録記載のとおりとなる。
2 争点(2) 控訴人洗い米の構成 (1) 構成a 精米工程で除去しきれず米粒に残存する糠分又は糊粉層等を歩留り減約2%程度にし,吸水された水分が主に米粒の表層部又は主として表層部を削り取られた後の表面より最深で約47μの部位(深層部上層に相当)に とどまっているうちに,強制的に遠心脱水,乾燥して得られること(傍線部を除く。)は,当事者間に争いがない。
上記争いがない事実と前記ロ号物件の構造並びに証拠(甲19,22,24,25,27,28,30,31,45,46,47,49,50,51,52,59,61,75,85,乙11,27,28,29,34,35,39,66)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
玄米の組織は,粒の表面を包んでいるのが果皮で,その下に種皮があり,その中に胚,胚乳があり,糠層(果皮・種皮・糊粉層),胚及び胚乳の三部分の割合は,糠層5〜6%,胚2〜3%,胚乳91〜92%であり,全体の形状が楕円様形状で,長さ5〜5.5o,幅2.9〜5.5o,厚さ2.1〜3.0o,1000粒重20.0〜23.5gである。「搗精」とは,玄米を搗(つ)いて白くすることであり,精米機により玄米の胚乳の澱粉細胞層の外層にある糠層を糊粉層まで剥離し,白米に仕上げる。糠層の厚さは,側面中央,腹側で30〜38μ,背側が腹側の4〜5倍である。
「糊粉層」は糊粉細胞からなり,側面中央では1層,腹側では1又は2層,背側の特に通導組織に接する部分では5〜6層からなる。ただし,胚に接する部分,つまり胚盤の裏側には糊粉層はない。糊粉細胞は小型のほぼ立方形の細胞で,ここにはたんぱく性の糊粉粒,脂肪,酵素なとが蓄積されるが,澱粉粒は蓄積されない,糊粉細胞のすぐ内側に接する,普通,第1層の細胞は「亜糊粉層」と呼ばれるもので,糊粉細胞と澱粉貯蔵細胞との中間性質を有し,形もやや糊粉細胞に似,内容物もたんぱく質,脂肪などに富み,澱粉粒も貯蔵されるが,内部の細胞ほどは多くない。
胚乳の大部分を占める内部の澱粉組織を構成するのは,澱粉貯蔵細胞である。澱粉貯蔵細胞は,米粒の中心から放射状に並び,縦(長辺)方向にはほとんど同じ長さであり,横(背腹軸)方向にのみ肥大伸長しており,畳の目のように見え,背腹軸の方向に伸長し,長い円柱状となり,側面においては細胞は扇形つまり扁平なカワラ状に配列し,また,米粒の中心部で小さいものの,内部の方ほど大きくて長く,周辺部にいくほど小さく短くなり,糊粉層に接する細胞が一番小さくなっている。細胞の配列の数は,背腹軸方向は中心から腹面まで13〜14層,中心から背面まで13〜15層,側面までは13〜15層であり,また粒の縦方向には約150個の細胞が並んでいる。
各細胞に詰まっている澱粉粒は,コムギやジャガイモなど一般の澱粉粒と少し異なった,複粒というタイプである。1個のアミロプラスト(袋状の顆粒)の中にたくさんの小澱粉粒の結晶ができて,それがアミロプラスト1個分として,群塊をなして1個の複粒が作られる。この澱粉粒は,米粒の内部の方の細胞に貯まるものは直径40μ近くもあり,周辺部の細胞中に貯まるものほど小さくて,直径10μほどである。米1粒の細胞の数は糊粉層を含めて約15万個である。玄米の糠層と胚とを完全に取り除いて,胚乳だけにすれば精米(搗精)が完了したことになり,この工程が理想的に行われるならば,玄米重量の7〜10%減の白米が得られる。しかし,現実には,搗精による玄米重量の減少が必ずしも糠層や胚の除去の程度と並行して進むわけではない。完全精白といわれる精米の搗精歩留りは92%であるが,粒溝部分に糠層や胚が残存することがあり,通常,従来の洗米時に水と共に流出する米成分は米重量の3.5〜6.5%に当たる。糠層のある一部が剥離除去され,更にその下の胚乳部分まで削り取られても,糠層の他の部分はそのまま残っていることがあったり,一部の玄米粒のみ搗精が進行していったり,未熟米が粉砕されたり小砕米が生じて精米機の網目から落ちたり,あるいは搗精によって穀温が上昇して水分が盛んに蒸発したりということがあるからである。
ロ号物件において,精白米は,投入タンク5内に連続的に投入された後,原判決添付別紙ロ号物件の作用1加水攪拌装置A(1)供給部9記載のとおりの経過により,22〜23秒かけてポンプ6から圧送される水と共に定流量で連続的に螺旋状部7を経て供給口23から加水攪拌室22内に輸送され,加水攪拌部8に至る。
加水攪拌室22内において,先ず,精白米と水は,内径97oの筒体21内始端部で遠心力を受けて,比重が1.4と水より大きい精白米が外周部に偏積してその密度を増す。この精白米は,筒体21に設けられて毎分1200〜2600回転(毎秒20〜約43回転)で回転する外径87oの攪拌バー26によって攪拌される。筒体21内壁と攪拌バー26(直径10oの丸棒の部材)との間隙は最小寸法5oの楔状間隙となっている。ここでいう楔状間隙とは,先端が半円形状となっている攪拌バー26の回転により,米粒は半円の接線方向に誘導されるため,米粒から見ると,あたかも楔状の間隙であるかのように見えることを意味する。この狭い空間には,前述の遠心力の作用により米粒及び水が密集しており,そこを攪拌バー26が米粒を誘導しながら,一定周期で通過する。この攪拌バー26の回転に伴い,加水攪拌室22内は最大値を約590gf/cm2(攪拌バー26が近づいた時)とし,最小値を約250gf/cm2(攪拌バー26が遠ざかった時)とした圧力の強弱変動が生じる。密集した米粒群に圧力の強弱変動が作用することにより,米粒群は,激しく凝集と拡散を繰り返す。そして,個々の米粒はこの移動中に,衝突したり,擦れ合ったり(粒々摩擦),あるいは互いに押し合ったり(米粒相互の接触圧の強弱変動)する。これらの作用により,精白米は揉まれて,精白工程を経ても精白米に残留していた糠,すなわち米粒表面の糠(糊粉層)や縦溝部の糠(糊粉層)等が削り取られる作用を受ける。また,運動する米粒には,無数の微小孔をもつ筒体21内壁に擦りつけられて切削作用を受けるものや,先端部の接線方向が楔形状である攪拌バー26の押圧作用を受けるものも存在し,これらの米粒も同様の作用を受ける。さらに,筒体21の終端部において,攪拌バー26と同一の回転をする攪拌翼27によって攪拌される。処理された精白米は,連続して供給される精白米と水に押し出され,供給口23に供給されてから約2秒後に筒体21終端部のオリフィス30とコイルばね29によって弾性支持されている抵抗体28との間の排出通路を通り,排出口24から排出され(加水攪拌室22内における洗米に要する時間は約2秒間である。),その後,原判決添付別紙ロ号物件の作用1(2)記載の脱水装置Bで約2秒間で強制的に遠心脱水され,この段階で原料精米に対し約2%の水分の増加があり,同別紙ロ号物件の作用1(3)記載の乾燥装置Cで強制的に乾燥され,スクリーン90を約90秒かけて通過して約1%の水分が除去される。精白米の性状により,その後,オプションとしての仕上げ研米装置Dの工程を経ることもある。乾燥装置Cから排出された後の洗い米は,濁度が42〜55ppm,歩留り減が約2%となる。
控訴人佐竹は,自らが発行した解説書に「無洗米加工は,遊離糠(糊粉層)を澱粉細胞を傷つけずに取り去っている様子がよくわかる。」(甲30:3頁末〜4頁1行)と記載し,「ジフライスの製造方法は(中略)精白米を水で洗浄,除糠して,吸水部分が主に米粒の表層部にあるうちに,脱水して温風で乾燥させた後・・・」(甲19:2枚目6〜7行),「弊社が納入設置している前記『ジフライス設備』は,洗滌時に米の表面に付着した水分のみならず,米の表層部に吸水した水分をも除去しているものであります・・・」(甲19:4枚目9〜11行)と表現し,カタログに「ジフライス設備で処理した米は,手で5〜6回洗ったのと同じ状態に糠,糊粉層を取り除いてあるため,水をいれればそのまま炊飯できる。」(甲51)と記載し,公開特許公報特開平5ー68897号で「精米機で精白された白米は,・・・まだ微細な糠がかなり白米に付着している。それをそのまま炊飯すれば糠臭い米飯に炊き上ってしまうので,白米を洗米してから炊飯する必要があった。」(甲85:1欄18〜22行),「表面の遊離糠を・・・取り除いてあります」(甲22:最終頁)と述べている。
精米業界の技術指導機関である社団法人日本精米工業会(以下「精米工業会」という。)も,「ジフライス設備とは精米を瞬間的に水洗いし,脱水乾燥する方法による精洗米の製造装置である」(甲22:14頁右欄7〜8行)と紹介し,控訴人洗い米の生みの親と称する全国食糧事業協同組合(以下「全糧連」という。)も,「糊粉層の一部を残し,澱粉の貯蔵細胞をきずつけないよう遊離糠等を取り去る」(甲25:10頁)と図解説明し,ロ号設備を導入し洗い米を製造販売している幸福米穀も,「上記装置(本機の入口より出口まで)を米粒が通過する時間が約1分ですから,その間に水中洗米と,脱水乾燥を超短時間にて行なうものであります」(甲24:10〜12行),「米粒はヌカがよく除去されていますので・・・」(甲24:17行)と同装置によるイ号物件について説明し,控訴人佐竹は,被控訴人に対して差し出した内容証明郵便(通告書)の中で,本件特許登録までは「水のみによって洗滌されている・・・」(甲59:3頁)と主張し,控訴人大阪米穀は,自らのイ号物件のカタログに「残り糠等を完全に洗い落してあります」など(甲27,28)と記載し,控訴人三多摩食糧は,自らが製造したイ号の商品の容器に「このお米は水を使った洗米装置でとぎ,ヌカを衛生的に除去してあります。」(甲52:2枚目右欄1〜2行)と説明し,精米工業会は,「ジフライス設備とは精米を瞬間的に水洗いし,脱水乾燥する方法による精洗米の製造装置である。当技術はこれまで難しいとされてきた水処理によるもので,高速で回転するドラムの中に米とほぼ同量以下の水を入れ,一瞬のうちに米の糊粉層を取り去り,表面に残る水分を一気に脱水乾燥させて仕上げるものである。短時間の処理加工によって米の内部に水が入ることなく製品化できる。」(乙27)と紹介している。
また,洗うと研ぐとの方法の違いにより,研ぐと表面が削られるため,洗い液中に溶出する固形分量が多くなるとともに,米が砕ける割合も増加したが,官能検査における総合的な評価には有意差がなく,飯の食味に大きな影響は与えないとの研究結果がある。米の水漬けにより米の重量の20〜30%の水を吸い,最初の30分で大部分の水を吸う。
上記争いのない事実及び認定事実によれば,被控訴人主張の構成aが認められる。
控訴人らは,供給部9における加水により米粒表面の糠分を湿潤軟化させた上で,加水攪拌室22にて米粒同士の粒々摩擦等により摩擦搗精を行う一連の工程が「水中搗精」であると主張するが,以下の理由により,採用することができない。
前記事実からすると,「搗精」とは,玄米を搗(つ)いて白くすることであり,精米機により玄米の胚乳の澱粉細胞層の外層の糠層を糊粉層まで剥離し,白米に仕上げることを指す用語というべきであり,あえて「水中搗精」という用語表現を使用するのは相当でない。前記認定の洗米により,精白米は揉まれて,精白工程を経ても精白米に残留していた糠,すなわち米粒表面の糠(糊粉層)や縦溝部の糠(糊粉層)等が削り取られる作用を受けるところ,これをもって「搗精」という用語を使用するというのであれば,単に用語だけの問題であり,前記認定の洗米と内容に変わりがない。このことは,削り取られるものに後記するイ号物件の無洗米の最外層のアミロプラストの一部が含まれるとしても変わりがない。
次に,控訴人らは,歩留り減が約2%となるイ号物件を原料精白米の表面から搗精された厚みに換算すると約10.7μとなるから,「表層部」といった部位が搗精されてもはや存在しないところ,イ号物件の無洗米の最外層は,上記「表層部」の次層に位置していたアミロプラストであって,この第2層のアミロプラストが米粒の表面に露出し,吸収された水分はこの第2層のアミロプラスト表面より約10μを超えた内部(深層部)にまで到達すると主張するが,以下の理由により,採用することができない。
前記事実からすると,完全精白といわれる精米の搗精歩留りは92%であるが,粒溝部分に糠層や胚が残存することがあり,通常,従来の洗米時に水と共に流出する米成分は米重量の3.5〜6.5%に当たる(糠層のある一部が剥離除去され,更にその下の胚乳部分まで削り取られても,糠層の他の部分はそのまま残っていることがあったり,一部の玄米粒のみ搗精が進行していったり,未熟米が粉砕されたり小砕米が生じて精米機の網目から落ちたり,あるいは搗精によって穀温が上昇して水分が盛んに蒸発したりということがあるからである。)のであって,剥離されるべき糠層の厚さは,側面中央,腹側で30〜38μ(糊粉層を構成する糊粉細胞が1又は2層),背側が腹側の4〜5倍(糊粉層を構成する糊粉細胞が5〜6層)であり,糊粉細胞にはたんぱく性の糊粉粒,脂肪,酵素などが蓄積され,これらが一部残存し,糊粉細胞のすぐ内側の亜糊粉層と呼ばれるたんぱく質,脂肪などに富み,澱粉粒も貯蔵される部分も一部残存するというべきところ,前記認定の洗米により,精白米は揉まれて,精白工程を経ても精白米に残留していたこれらの糠,すなわち米粒表面の糠(糊粉層)や縦溝部の糠(糊粉層)等が削り取られるのであるから,約2%の歩留り減の重量の中には上記の糠層等が含まれている。
しかるところ,別紙1「計算書」は,米粒の長さ5.11o,幅2.871o,厚み2.48oという数値自体,前記玄米の長さ5〜5.5o,幅2.9〜5.5o,厚さ2.1〜3.0oの範囲内にあるが,精白工程で除去された糠層(果皮・種皮・糊粉層),更に残留,除去された米粒表面の糠(糊粉層)や縦溝部の糠(糊粉層)等の数量をどのように設定するか,計算上,重量を単位としている歩留り減を体積の単位へ変換するのをどのようにしたのか等の点において,明確になっておらず,どの程度正確に削り取り量を算定し得ているのか問題があり,控訴人ら主張の第2層のアミロプラスト表面より約10μという数値は,数字としての正確性に疑問が残る。
また,後記のとおりの「表層部」の意義を前提にすると,控訴人洗い米は,精白工程を経ても精白米に残留していた米粒表面の糠(糊粉層)や縦溝部の糠(糊粉層),これに含まれる亜糊粉層(たんぱく質,脂肪などに富み,澱粉粒も貯蔵される。)を一部残存させた複粒澱粉粒からなるアミロプラストの層を最外層として以下同様のアミロプラストからなる澱粉組織から構成されている精白米が,投入タンク5内に連続的に投入された後,22〜23秒かけて加水攪拌部8に至り,約2秒間加水攪拌され,約2秒間で強制的に遠心脱水され,スクリーン90を約90秒かけて通過して強制的に乾燥されるのであるから,約2秒間加水攪拌後直ちに遠心脱水,乾燥されることに照らし,洗米時に吸収された水分が表層部といい得る最外層のアミロプラストの層にとどまっているうちに強制的に遠心脱水,乾燥して得られるものといい得るが,洗米時に吸収された水分が米粒の表面に露出するとされる第2層のアミロプラストより最深で約47μの部位(深層部上層に相当)にまで至っていて,そこにとどまっているうちに,強制的に遠心脱水,乾燥して得られるとの控訴人ら主張事実を直接認めるに足りる証拠はない。
そして,控訴人佐竹は,自らが発行した解説書に「無洗米加工は,遊離糠(糊粉層)を澱粉細胞を傷つけずに取り去っている様子がよくわかる。」と記載し,「ジフライスの製造方法は(中略)精白米を水で洗浄,除糠して,吸水部分が主に米粒の表層部にあるうちに,脱水して温風で乾燥させた後・・・」,「弊社が納入設置している前記『ジフライス設備』は,洗滌時に米の表面に付着した水分のみならず,米の表層部に吸水した水分をも除去しているものであります・・・」と表現し,カタログに「ジフライス設備で処理した米は,手で5〜6回洗ったのと同じ状態に糠,糊粉層を取り除いてあるため,水を入れればそのまま炊飯できる」と記載し,公開特許公報特開平5ー68897号で「精米機で精白された白米は,・・・まだ微細な糠がかなり白米に付着している。それをそのまま炊飯すれば糠臭い米飯に炊き上ってしまうので白米を洗米してから炊飯する必要があった。」,「表面の遊離糠を・・・取り除いてあります」と述べ,精米工業会も,「ジフライス設備とは精米を瞬間的に水洗いし,脱水乾燥する方法による精洗米の製造装置である」と紹介し,全糧連も,「糊粉層の一部を残し,澱粉の貯蔵細胞をきずつけないよう遊離糠等を取り去る」と図解説明していることをも勘案すれば,控訴人らの前記主張は採用し得ない。
(2) 構成b 証拠(甲24,31,50)及び弁論の全趣旨(被控訴人の原審準備書面(9))によれば,控訴人洗い米は,肉眼で見る限り亀裂のないことが認められる。
証拠(乙25の1,2)によれば,ロ号物件で製造した洗米の亀裂粒率が,洗浄前の原料白米で15.64〜18.35%,脱水直後で66.53〜72.67%,乾燥後で17.21〜23.65%である旨の実験結果があるが,当該実験に用いた精白米の洗米方法が明らかでなく,また,脱水直後の亀裂粒率が異様に高く,その理由が明らかでないことからも,これをにわかに信用することができない。
したがって,被控訴人主張の構成bが認められる。
(3) 構成c〜eは当事者間に争いがない。
3 争点(3) 控訴人洗い米は,本件特許発明技術的範囲に属するか。
(1) 控訴人洗い米は,「洗滌」時に「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られた」ものか。(構成要件A・E) ア 「洗滌」の意義について 「洗滌」とは,「洗浄」と同義であり,一般的には「洗いすすぐこと」を意味する用語である(岩波書店「広辞苑」第5版)。
本件特許発明の特許請求の範囲の記載には,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」との構成(構成要件C)が示されていることから,「洗滌」は上記構成を具現するためのものであることは看取されるが,それ以上に,通常の意味と異なる意義を有するものであることを示唆する記載はなく,本件明細書の特許請求の範囲以外の部分を見ても,以下に述べるとおり,通常の精白米の洗滌と異なる意義を有するものとは認められない。
本件明細書の【発明が解決しようとする課題】の項に,「本発明はこのような点に鑑み,水洗,除水後も米粒に亀裂が入らず,しかも,炊いた米飯の食味が低下しない洗い米を得ることを目的とするものである。」(4欄11〜14行)と記載されており,また,【課題を解決するための手段】の項に,「本発明は・・・精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行えば,米粒に亀裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られることを見出し,発明を完成した。」(4欄16〜21行)と記載されていることからも明らかなとおり,精白米を洗滌するに当たって,洗滌,除糠工程及び除水工程を極めて短い時間内に行うことにより,米粒に亀裂が入らず,かつ,炊いた米飯の食味が低下しない洗い米を得ることを実現したことにその特徴がある。
そして,このような特徴を有する発明を実現するための方法としての「洗滌」について,本件明細書中の関連性を有する記載を見ると,【課題を解決するための手段】の項に,「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠,除水できる方法であれば特に限定されない。精白米の洗滌に当っては,公知の連続精米機を用いることも出来るが一部改造の要がある。即ち,洗米槽を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能となるように改造するのが望ましい。」(5欄9〜15行),「ここに云う充分な洗米とは,そのまま炊飯した場合,飯が糠臭くない程度,即ち,現在一般的に消費者で洗米している程度を意味するものであり,物理的には精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部や,胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を,ほとんど除去している程度,即ち,再びそれを洗米した場合,洗滌水がほとんど濁らない状態を指すものである。」(6欄10〜17行)と記載されている。
これらの記載からすれば,本件特許発明における「洗滌」とは,従来の洗米方法と比較して,極めて短い時間で行われる必要があると解されるものの,それ以外は従来の洗米方法と特に異なるものではなく,公知の連続精米機で行われる程度,あるいは一般的に消費者で洗米している程度で足り,具体的には,精白米表面の微細な陥没部や胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等を除去し,再び洗米した場合に洗滌水がほとんど濁らない程度に「洗滌」すれば足りるものと解される。
控訴人らは,本件明細書の「本発明品の米は洗米歩留りがよいので,社会的に有益である。これは従来の米の洗米は手作業でも機械式でも高圧でゴシゴシとやるので,本来米肌に残って欲しい物質も剥離され流失してしまうが,本発明品では洗米槽の水を高速攪拌で洗米するので,米粒には圧力がかからず,その結果,食味を低下させる残存糠以外の物質の剥離は少ない。」(15欄9行〜16欄3行)との記載を根拠に,本件特許発明にいう「洗滌」とは,米粒相互間において接触圧力が生じるのを阻害するのに必要な量の水を攪拌体により高速攪拌させ,これによって発生する水流の動きに米粒を追随させながら,水流作用を通じて米肌面に無数に存在する陥没部に入り込んでいる糠粉を水に浮遊させて洗い流すことをいい,機械式で米粒に直に圧力をかけながら米粒同士の粒々摩擦(上記「ゴシゴシ」に相当)によって洗米をすると,米粒の表層部(上記「米肌」に相当)が削られて,糠粉以外の米粒の有効成分(上記「残って欲しい物質」に相当)も剥離されて流失してしまうといったデメリットがあるから,機械式で米粒に直に圧力をかけて米粒同士に粒々摩擦を生じさせ,もって米粒の有効成分が剥離,流失するような水中搗精方式で洗米された洗い米は,本件特許発明との関係においては,意識的に除外されたことになる旨主張するが,以下の理由により採用し得ない。
本件明細書において,「精白米の洗滌に当っては,公知の連続洗米機を用いることも出来る」(5欄11〜13行),「米粒群が水中に漬かる程の大量の水の中で攪拌して洗うことである」(8欄26〜27行),「米粒が水中で攪拌される回数が少ないと,必要最小限の洗米効果が得られないから」(6欄3〜5行),「米粒群を水の中にザブンと漬けて,少なくとも30回以上は攪拌して洗米する必要がある。」(7欄42〜44行),「精白米は洗米槽の中で運動している注入水の中にザブンと入り,水中で攪拌され」(9欄49〜50行)と,公知の連続洗米機を用い米粒が水の中で攪拌されることが明記されている。
公知の連続洗米機において,甲78(特許公報:穀類洗滌装置)は,特許請求の範囲を「多孔筒内に移送攪拌翼を具備する豫備脱水機の1端を洗滌機又は水中搗精機に又其の他端を遠心脱水機の多孔筒内に夫々連絡せしめ該多孔筒内に清水噴出管を装備したることを特徴とする穀類洗滌装置」とするもので,「先水槽1内に貯留せる水は多孔筒2の通孔を経て多孔筒内に流入し廻轉體の廻轉に伴い起る機械的摩擦並に麥粒相互の粒々摩擦に使りて洗滌するを得べく其の重錘5の位置を代へて口蓋4の壓力を強化すれば水中搗精するを得べし 」(1頁右欄12〜17行。傍線部分は重要部分。以下同じ。)とし,甲55(特許公報:穀類水中処理装置)は,特許請求の範囲を「水が流通する多孔筒を水槽に架設し該多孔筒内に装備した転軸部の一側に移送螺旋を又その他側に数多の突起を螺旋状に鋳設しそのピツチを前の移送螺旋の夫れよりも大に構成した攪拌移送翼を設けたことが特徴である殻類水中処理装置」とするもので,「突起4と多孔筒2間に起る摩擦並に圧力蓋5の圧力に依り麦粒相互の粒々摩擦と相俟って水中搗精する」(1頁右欄16〜18行)とし,甲56(実用新案公報:洗米機)は,実用新案登録請求の範囲を「箱型室1の上部に貯水室2を設け,これを貫通して米の供給筒3を設け,貯水室2の下方に横方向に筒体4を設け,その中に中空回転スクリユー5,その先に軸線方向に翼6を有し翼の根部に通孔7を設けた中空回転筒8を連設したものを収め,スクリユー端に前記中空部に開口する給水孔9を設け,これに向け貯水室を開口させ,前記回転筒8の存在する個所に相対する位置において筒体4に数多の小孔10を穿設し,小孔10のある部分を囲んで空室11を区劃形成させ,この空室に糠水排出管12を穿設し,筒体4の外端に洗米排出管13を連結し,これを前記空室11外に導出し,箱型室1に設けた開口部14から洗米受箱15を前記排出管13の開口部下方へ出入できるように挿入した洗米機の構造。」とするもので,精米機を僅かに改造したもの(1頁右欄6〜9行)とし,甲57(実用新案公報:洗米装置)は,実用新案登録請求の範囲を「軸線が水平方向にされ,上部を開放しかつ通水孔が設けられた半円筒状の米容器を有し,前記米容器内に米移送用のスクリユーが配置され,スクリユーの送り羽根が軸線方向の2箇所で除かれ且つ基端側の送り羽根が除かれた部分には,送り羽根と逆の方向に巻かれ且つ円周方向で互いに間隔をあけて扇形の洗い羽根9を放射状に配され,又先端側の送り羽根が除かれた部分には送り羽根と逆の方向に巻かれた洗い羽根10と軸の周面に放射状に立設した棒状のかくはん体11を並設してなるとともに,米容器の上部には米容器内に水を供給するノズルを配置されてなることを特徴とする洗米装置。」とし,「洗い羽根9の位置では米は停滞する状態になり,かつこの米を複数個に分割された洗い羽根9が切るようにかくはん(注:攪拌)するから,米は互いの,又は羽根7,9,10や米溶器(注:容器)1と摩擦しながら水で洗われる。 」(4欄26〜31行),「ここでも米は停滞し,それをかくはん体11がかくはんすることで,ノズル14からの水で洗米をする。更に,洗い羽根10はその円周方向に連続しているから,洗い羽根9よりも強く米を逆に移動させる。したがって,米は互いに逆の方向に移動させられて衝突し,かつスクリュー8の回転に伴なってシャフト6の円周方向にも動くから,米をあたかももむ状態になり,効率よく洗米する 」(4欄36〜44行)とするものである。
そうすると,本件特許発明において,「精白米の洗滌に当っては」,「機械的摩擦並に麥粒相互の粒々摩擦に使りて洗滌するを得べく其の重錘5の位置を代へて口蓋4の壓力を強化すれば水中搗精するを得」,「麦粒相互の粒々摩擦と相俟って水中搗精する 」,「米は互いの,又は羽根7,9,10や米溶器(注:容器)1と摩擦しながら水で洗われ 」,「米は互いに逆の方向に移動させられて衝突し,かつスクリュー8の回転に伴なってシャフト6の円周方向にも動くから,米をあたかももむ状態になり,効率よく洗米する 」機能を有するものもある「公知の連続洗米機を用いることができ」,「米粒が水中で攪拌される回数が少ないと,必要最小限の洗米効果が得られないから」,「米粒群を水の中にザブンと漬けて,少なくとも30回以上攪拌して洗米する必要があ」り,「精白米は洗米槽の中で運動している注入水の中にザブンと入り,水中で攪拌され」,「米粒群が水中に漬かる程の大量の水の中で攪拌して洗う」のであるから,米粒は,水中で攪拌され,洗米中は常に水と米粒とが共に攪拌され,攪拌により,洗米槽の水を移動させ,米肌の糠粉等を浮遊させて流し去ることで洗米する一方,米粒と米粒とが擦れ合い,攪拌体の回転により,米粒への圧力の強弱変動が生じ,圧力の変動があることが当然にあり得るといえ,そのような態様の洗滌も含まれるというべきである。
ただ,「本発明品の米は洗米歩留りがよいので,社会的に有益である。
これは従来の米の洗米は手作業でも機械式でも高圧でゴシゴシとやるので,本来米肌に残って欲しい物質も剥離され流失してしまうが,本発明品では洗米槽の水を高速攪拌で洗米するので,米粒には圧力がかからず,その結果,食味を低下され残存糠以外の物質の剥離は少ない。 」との発明の効果が発生するものであるから,「洗滌」時に「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られ」ることが必要となる「桁違いに短い時間内に行」う(4欄19〜20行)ことを可能とする高速攪拌が必要となろう。
そうすると,本件特許発明は,洗米につき,水流だけの洗米でなく,従来の連続洗米機と同様,米粒が水と共に攪拌され,洗米中には米粒への圧力の強弱変動が生ずるものも含むところ,吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られることが必要となる極めて短時間の洗米,それを達成するための高速攪拌により,その結果,「食味を低下させる残存糠以外の物質の剥離は少な」く,「洗米歩留りがよいので,社会的に有益である」との発明の効果を発生させるといえる。
すなわち,上記作用効果は,従来の洗米と比べ何ら異なるところのない洗米方法を前提とする本件特許発明の製法により生じるものであり,本件特許発明にいう「洗滌」につき控訴人らの主張するような限定を加える根拠とならない。
本件特許請求の範囲には,「洗滌」につき,「洗滌時に吸収した水分」と記載するのみで何らの限定もなさず,本件明細書には,「洗滌」につき,控訴人らの主張するような限定を加える構成に言及した記載は全くなく,また【発明が解決しようとする課題】の項にも,この点に関する記載は全くない上,いずれも,このことを示唆する記載もない。
したがって,前記控訴人らの主張は採用し得ない。
イ 「表層部」の意義について (ア) 出願経過 親の原明細書の特許請求の範囲には,【請求項1】「精白米を水洗し,かつ,含水率が16%以下に除水処理した乾燥洗い米」,【請求項2】「精白米を,水中にて攪拌洗米する行程と,該水洗行程の直後に設けた除水行程とを具備し,該水洗行程及び除水行程を通過せしめた時の米粒の含水率が16%以下になるよう,短時間に水中洗米と除水を行うことを特徴とする乾燥洗い米の製造方法」と記載されているところ,これによれば,水中洗米と除水については,短時間に行われることのみが明示されており,表層部にとどめるといった表現は何ら存在しなかった。
特許庁審査官は,平成4年3月13日付「拒絶理由通知書」(乙54)により,特公昭51ー22063号公報(乙22),特開昭57ー141257号公報(乙24),特開昭61ー115858号公報(乙55)を引用して,【請求項2,3】に関し,「精白米を水中にて攪拌洗米し次いで除水する工程を含む乾燥洗い米の製法及び該洗い米の含水率が14.7%までであることが引用例に示されている。水中洗米と除水に要する時間は製品の特性等を考慮して適宜特定できるものである。また『短時間』との構成は,時間を明確に特定するものではないので格別の意味があるものとは認められない。(引用文献2,3)」として,新規性を否定するとともに容易に推考できるとして,拒絶した。
被控訴人は,平成4年6月12日付「手続補正書」(乙56)により,特許請求の範囲を「精白米を水に浸け,洗滌,除糠を行い,吸水部分が主に米粒の表層部 である洗米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,乾燥洗い米を製造する方法であって,水中への浸漬から除水までの時間が数分以内 であり,かつ米粒の平均含水率が除水した時点でほぼ16%を超えないことを特徴とする乾燥洗い米の製造方法。」(重要な補正箇所について傍線を付した。)と補正した。審査官は,平成4年11月26日付「拒絶査定」(乙57)により,平成4年3月13日付拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶すべきものと査定し,備考欄に「水中への浸漬から除水までの時間は,洗米の状況,洗米後の米の特性等を考慮して当業者が適宜決定できるものと認められる。」と記載した。
被控訴人は,平成5年1月29日付「拒絶査定不服審判」を提起し,同日付「審判請求書」(乙58)において,「従って,本願発明は米粒に水を吸収させないで洗うことを可能にして亀裂及び味の問題を解決しようとするものである。本発明者はこのことを可能にすべく研究を重ねた結果,米の水中での洗滌及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間で行えば米粒は僅かしか含水しないこと,また許容される洗米時間は洗滌条件によって変わるが,水の浸透が米粒の心(芯?)部まで行われないうちに洗滌,脱水すれば米粒に亀裂が入らないこと,を見出し本発明を完成した。」(5頁1〜11行)と主張し,同日付「手続補正書」(乙59)により,特許請求の範囲を「精白米を水に漬け,洗滌,除糠を行い,吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,乾燥洗い米を製造する方法であって,水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめるようにし, かつ米粒の含水率が除水した時点でほぼ16%を超えないことを特徴とする米粒に亀裂を有さない乾燥洗い米の製造方法。」(重要な補正箇所について傍線を付した。)と補正した後,最終的に「精白米を水に漬け,洗滌,除糠を行い,吸水部分が主に米粒の表層部である洗い米を得,更に除水工程において洗滌水と表面付着水の除水を行い,洗い米を製造する方法であって,水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめる ようにし,かつ米粒の含水率が除水した時点でほぼ16%を超えないことを特徴とする米粒に亀裂を有さない洗い米の製造方法。」と親特許発明の現行明細書(特許公報:乙60)に記載されているとおりに補正した。
被控訴人は,親出願に関する平成4年6月12日付「手続補正書」(乙56)を提出するとともに,上記親出願から分割して本件特許発明の出願をした。この出願当初の原明細書(乙2)の特許請求の範囲には,【請求項1】「精白米を水中で洗滌,除糠を行い,更に除水を行い,この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部であり, かつ水中に浸してから除水までが数分以内 に行われてなる,米肌に亀裂がなく,米肌面にある陥没部の糠分が十分に除去された,平均含水率が約13%〜16%をこえないことを特徴とする乾燥洗い米。」と記載されている。審査官は,平成6年5月16日付「拒絶理由通知書」(乙61)により,特公昭51ー22063号公報(乙22),特開昭57ー141257号公報(乙24),特開昭61ー115858号公報(乙55)を引用して,請求項1及び2に関し,「含水率が本願発明の範囲にある乾燥洗い米は引用例1,2に記載されている。米肌に亀裂がないこと,米肌にある陥没部の糠分が十分に除去されていることが洗い米の望ましい状態であることは,当業者の熟知しているところであり,こうした性状を特定することは当業者が適宜成し得るものと認められる。水洗のさい,水分は米粒の表面から吸収されるのであるから,引用例においても水分は米粒の表層部に吸収されているものと認められる。『水中に浸してから除水までが数分以内におこなわれる』との構成は,製法に関するものであり本願の『洗い米』を特定するには不適当である。」として容易に推考できるものであるとした。被控訴人は,平成6年7月18日,手続補正書(乙62)により特許請求の範囲を現行の本件明細書に記載されているとおり補正し,その後,拒絶査定,拒絶査定不服審判を経て,平成8年9月12日,特許査定の審決がされた。
上記出願経過から見ると,親出願においては,当初,短時間に水中洗米と除水を行うと規定していたものの,審査官より上記「短時間」では処理時間が明確に特定できないと指摘されて,時間概念による規定を断念し,その代わりに吸水部位を「表層部」と特定したことが看取され,分割された本件特許発明における表層部に関する上記位置付けも同様に理解すべきである。
(イ) 本件明細書における「表層部」に関する記載 本件明細書には,「表層部」に関し,「精白米を水中で洗滌,除糠を行い,更に強制的に除水を行い,この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり」(4欄22〜24行),「洗滌,除水の各工程での米粒の吸水部が米粒の表層部であるうちに洗滌と除水を行えば除水後に亀裂は入らない。このような米粒の平均含水率は16%以下である。従って米粒の深層部の含水率は通常の精白米と同じで表層部の含水率がこれより大となる」(同欄35〜40行),「洗滌時に水が米粒内部まで浸透した米は強制乾燥であれ,自然乾燥であれ乾燥した時に砕粒化の原因になる亀裂が生じ,炊いた時においしい米飯とならない」(同欄44〜47行),「水洗槽を通過する時の在槽時間が長いと,その間に米粒内に深く水が浸透し」(5欄32〜34行),「洗米時に米粒の内部にはほとんど水が浸透しない在槽時間とする」(6欄1〜2行),「洗米工程で,米粒内部に吸水させないようにしたのに,除水工程にて,洗滌水や付着水の除去に時間がかかり洗滌水や付着水が米粒内部に吸収されて無意味だからである」(同欄26〜29行),「精白米は極く短時間に洗滌,除水が行われるので,米粒内に水がほとんど浸透することなく」(同欄33〜35行),「表層部は内部(深層部)よりも含水率が高いことは想像に易いが」(同欄39〜40行),「表層部の含水率の高い部分は極めて薄いものであり,それゆえに亀裂さえも生じないのである」(同欄42〜44行),「表層部の極く僅かな水分は間もなく一部は蒸発し,一部は内部に移行して均衡する」(同7欄2〜3行),「洗米時に水分が米粒内部に浸透することがなく,砕粒化はおろか米粒に亀裂のない整粒の洗い米が得られる」(8欄6〜8行)との記載がある。
これらの記載からすると,米粒の「表層部」は,「米粒内部」(若しくは「深層部」)と対になる概念と推察され,吸水が「米粒内部」にまで到達すると,米粒の亀裂発生の原因となることから,本件特許発明においては「米粒内部」の吸水は原則として許容されておらず,「表層部」の吸水のみが許容されているが,「米粒内部」に対する相対的な概念としてしか定義されておらず,吸水が具体的にいかなる深さまで到達することが許容されているのか,一義的に明確でない。
(ウ) 他の特許異議事件における被控訴人の主張及び特許庁の決定 躍進機械の出願に係る躍進無洗米発明(平成6年特許出願公告51120号。請求項1「A.精白米に水を加え混合して攪拌する洗滌工程と,B.該洗滌工程の直後に行ない,水洗した精白米が含有する水分の増加が1%を越えない範囲まで脱水する脱水工程とを具備し,C.処理する精白米に応じ,全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない短時間でなされることを特徴とする無洗米の製造方法。」。甲58)に対して,被控訴人は,平成6年9月29日付をもって特許異議の申立をし(乙63),平成8年4月12日付弁駁書(乙64)において,「本願の【請求項1】の発明において,『第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない短時間』との記載の意味するところが,必ずしも明確でない・・・この意味するところを類推すれば,本願の【請求項1】の発明の実施例及び【請求項5】では,水温10〜25℃の処理時間が10秒〜30秒としており,甲1(注:親の原明細書。本件乙1)の実施例2においても25℃の水で処理時間が5秒であるから,処理手段が同じであり『第1層澱粉複粒体列より深部にこれが侵入しない』とは,甲1(同)でいう『米粒の内部にはほとんど水が浸透しない』(省略)ことと同等の意味と解される。 従って,甲1(同)には,『水分の増加が1%を越えない範囲まで脱水する脱水工程』の構成,及び,『処理する精白米に応じ,全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない短時間でなされる』構成が実質的に記載されており,本願の【請求項1】の発明と甲1(同)の発明,少なくとも実施例2に開示された発明とは異なるところが全くなく,本願の【請求項1】の発明は特許法29条の2に該当することは明らかである。」旨主張し,平成6年11月5日付「特許異議申立理由補充書」(乙65)において,乙66を引用して,「出願人は第1層澱粉複粒体(但し,澱粉複粒の意味に理解する。)の厚みを40〜20μと記しているが,確かに米粒の内部では澱粉複粒が40μの大きさのものもあるが,米粒の表層部(周辺部)では,実はそれよりはるかに小さく,せいぜい10μ程度なのである。」と主張した。
柳野隆生(特許庁における本件特許発明にかかる無効審判事件の被控訴人側代理人)は,平成6年9月27日付をもって躍進無洗米発明に対して特許異議の申立をし(乙67),同年11月4日付「特許異議申立理由補充書」(乙68)において,「Cの点の『処理する精白米に応じ,第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない』との記載については,本願の発明の詳細な説明における第9図の説明では,第1層澱粉複粒体列は,米の表層部を示しており,そのことは甲1の6頁上段右欄18行〜6頁下段左欄2行(注:親の原明細書,本件乙1:20頁18行〜21頁2行)には『本発明では,洗米しても高含水化するのは極表面だけで,内部まで高含水化させないから,1粒全体としては,僅かに含水率が高くなるだけで,ほとんど元の乾燥した状態のままになっているのである。』との記載にある『極表面』は米の表層部を示しているので,甲1(同)と同一となる。また,甲2(本件乙69)の2頁下段左欄の2〜3行にも『水分が米粒内層まで急速に浸透することがなく』との記載があり,吸水する時間の調整によっては,水が内層まで浸透させずに精白米の表層に止めておくこともできることを意味し,本願のCの点とは一致する。従って,本願請求項1に記載された内容は,甲1(同)又は甲2(同)と同一である。従って相違点についてはない。 」(33頁26行〜34頁10行),「Cの点の『全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない』との記載は,米粒を短時間で水洗すると,水が侵入するのは,当然,米粒の表層部のみである。 従って,本願の短時間より長く水に接すると水は当然表層部を越えて深部に侵入し,米粒はヒビ割れを起こす原因となることは,当業者では周知の事実であり,短時間で処理すれば表層部に水を留めることは当然のことである。したがって甲9(本件乙70)のように,『短時間』で水洗から脱水,乾燥すればヒビ割れのない無洗米が製造できることは,水を米粒の表層部に留めることを意味しており,甲9(同)の内容とは実質的に同一である。よって,本願請求項2は,甲9(同)により当業者が容易に成しえることができる。」(40頁17〜26行)旨,「第1層澱粉複粒体」と「表層部」との関係をより具体的かつ直截に主張した。
上記特許異議申立に対し,審査官は,平成10年12月3日付をもって「この特許異議の申立は,理由があるものと決定する。」旨決定した(乙71)。その理由の骨子は,次のとおりである。
「躍進無洗米発明の『全工程が第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない短時間でなされる』という構成と,親特許発明の現行明細書(特許公報:乙60)の【請求項1】に記載の『水中への浸漬から除水までの工程を米粒の吸水量が極くわずかであるうちに完了し,水の浸透を主に米粒の表層部でとどめる』という構成は,いずれも米粒にどの程度まで水が侵入するかにより全工程の時間を規定する構成である。そして,前者(注:躍進無洗米発明)の『第1層澱粉複粒体列』と後者(注:親特許発明)の『表層部』との関係は不明であり,特許請求の範囲の記載からだけでは両者の構成の関係が明確でない。そこで,両者の発明の詳細な説明をみると,前者の発明の詳細な説明には,第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入すると第1層澱粉複粒体列が傷つき食味が低下するので,食味を保つためには水の侵入が第1層澱粉複粒体列までの時間で各工程を完了させなければならない旨の記載(特許公報〔注:甲58〕6欄39行〜7欄22行及び18欄22〜25行)があり,後者の発明の詳細な説明には,内部まで水が浸透した米粒には亀裂が生じるので,水の浸透が米粒の表層部までであるうちに各工程を完了させなければならない旨の記載(親特許発明の現行明細書〔特許公報:乙60〕5欄15〜36行,6欄7〜41行及び7欄34行〜8欄5行)がある。これらの記載からすると,両者の構成は,いずれも全工程の時間を各工程において米粒に水が侵入することにより生ずる食味の低下を防止し得る時間内とする構成であると認められる。 また,各工程中において米粒に水がどの程度まで侵入するかは,米粒の性状や水温等の条件により異なり,全ての米粒について同程度でないことは,両者の発明の詳細な説明にも記載されているように自明である。してみると,前者の『第1層澱粉複粒体列』は,後者の『表層部』をより具体的に表現した程度のものとしか認められない ので,両者の全工程の時間を規定する構成の間には,単なる表現上の差異が存するのみであり実質的な差異は認められない。」 (エ) まとめ 上記異議申立事件における異議申立人であった被控訴人の躍進無洗米発明における「第1層澱粉複粒体列」と本件特許発明の「表層部」とは,実質的に同一であるといった主張・立証,すなわち,躍進無洗米発明の「第1層澱粉複粒体列より深部に水が侵入しない」は,親の原明細書の「米粒の内部にはほとんど水が浸透しない」と同等の意味とされ,躍進無洗米発明の深部ではない「第1層澱粉複粒体列」と,本件特許発明の米粒内部とは対概念の「表層部」とは,同一のものに理解すべきことになるとの主張・立証に基づき,特許庁は,これを認め,躍進無洗米発明について「異議の申立は,理由がある。」と決定したものである。
ところで,出願人の認識や意図を参酌すべきとの考え方の下に出願経過を考慮する立場において,同一出願人の先行明細書とか後行明細書に示された出願人の認識を参酌することと同様に,同一種類の発明の分野において,他発明(出願人以外の者の出願に係る発明)について,出願人が自己の出願した発明と同一であると主張して,これにより他発明の出願が拒絶されたような場合においては,出願人が自己の出願した発明について開陳した見解も出願人の内心的意思が現れていると認められる資料として,上記先行明細書とか後行明細書と区別すべき理由はない。そうすると,本件特許発明における水分吸収部位を特定する「表層部」とは,躍進無洗米発明における「第1層澱粉複粒体列」,すなわち,精白米の最外層のアミロプラスト(複粒澱粉粒によって構成される。)を意味することとなる。
控訴人らは,「表層部」の厚さが米粒表面から約10μと主張するが,以下の理由により採用し得ない。
被控訴人は,平成6年11月5日付「特許異議申立理由補充書」(乙65)において,乙66を引用して,「出願人は第1層澱粉複粒体(但し,澱粉複粒の意味に理解する。)の厚みを40〜20μと記しているが,確かに米粒の内部では澱粉複粒が40μの大きさのものもあるが,米粒の表層部(周辺部)では,実はそれよりはるかに小さく,せいぜい10μ程度なのである。」と主張したのであって,「澱粉複粒の意味に理解する」という留保付きで10μ程度といっているとも解され,特許庁の決定も「表層部」の厚みが米粒表面から約10μという趣旨を述べておらず,いずれにしろ,被控訴人が控訴人ら主張の認識を明らかにしたとはいい難い。
ウ 「除水」の対象となる水分について (ア) 本件特許請求の範囲には,「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに 強制的に除水して得られる」との構成が記載されているところ,上記特許請求の範囲の記載からは,「除水」の対象となる水分は,米粒を洗滌する際の洗滌水及び米粒の表面に付着した付着水のみならず,米粒の表層部に吸収された水分を含むものと理解される。
本件明細書には,「本発明の洗い米は上記したように,約2%の水分を吸収するまでの極く短時間に,水洗から除水までの各行程を全部処理することにより製造されるものである。」(7欄5〜8行),「本発明で除水とは米粒表層部に付着吸収した水分 を除去することであって,米粒がもともと有している水分を乾燥させることでない。」(4欄28〜31行),「洗滌,除水の各工程での米粒の吸水部が米粒の表層部であるうちに洗滌と除水を行えば除水後に亀裂は入らない。」(4欄35〜37行),「一般的に,洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は,ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水,除水の際,その都度,部分的(米粒表面と深層部)に膨張と収縮が生じ,ひずみが出来るからである。然らば,洗米時や除水時に,ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の,僅かの吸水量,及び除水量に押さえることが出来れば,精白米をたとえ水中へ漬けて洗米し,乾燥させても亀裂が生じないことになる。」(7欄14〜22行),「本発明で洗い米の『含水率』というのは付着水を除いた時の『平均含水率』のことである」(5欄2〜4行),「除水後,即ち付着水分が除かれた時の水分,いわゆる米粒体の平均含水率が16%以下の含水率になっているように」(5欄20〜22行),「除水工程によって洗滌水と表面付着水の除水を行うのである」(8欄3〜4行),「精白米の表面には肉眼では見えない無数で微細な陥没部があり,・・・」(7欄40〜41行)と記載されているが,他方,「表面付着水は取りきらなくてもよい」との記載や,それを示唆するような記載は全くない。
そして,証拠(乙17〜24)及び弁論の全趣旨によれば,洗い米に付着した水分の除去方法として遠心脱水の技術を採用することが周知であり,遠心脱水の技術は,遠心力を用いて充填状態や堆積状態にある濡れた粉粒体からその表面に付着している液体を除去する脱水操作であって,粉粒体粒子の内部に存在する液体を除去することができなかったこと,水分の除去方法として送風乾燥等の手段が周知であったことが認められる。
上記明細書の各記載及び周知事項からすれば,本件特許発明における「付着水分」を除去するには,それよりも外側にある表面付着水を除去したうえでなければ達成することができないのは自明の理である。そして,原明細書及び親明細書に開示されている除水を達成する手段としては,上記出願当時に公知であった遠心脱水の技術,送風乾燥等の手段を用いるべきこと,このような除水手段を採用した場合に,洗滌水及び表面付着水のみならず,米粒の表層部に吸収された水分も除去されることになることは,当業者にとって自明の事項であるというべきである したがって,本件特許発明において,「除水」の対象となる水分は,洗滌水及び付着水のみならず,米粒の表層部に吸収された吸収水をも含むことは明らかである。
(イ) 控訴人らは,本件特許発明における「除水」の対象については,親明細書及び原明細書においては洗滌水及び付着水に限定されているとし,このことから,本件特許発明の「除水」は,米粒との関係では,外部水分たる「洗滌水及び付着水」を除くものであって,内部水分たる表層部に吸収された水分を除くものではなく,かつ,その手段は遠心脱水に限定されるものであると主張する。
しかし,上記本件明細書の記載から,本件特許発明における「除水」の対象に米粒の表層部に吸収された水分をも含むことは明らかであり,控訴人らの主張を採用することはできない。
また,乙49は上記控訴人らの主張に沿うようであるが,後記で判断するとおり,乙49の証明力には疑問があり,採用できない。
なお,上記控訴人らの主張を,明細書の要旨の変更に当たることから本件特許発明は無効原因を包含し,これにより本件特許発明技術的範囲は限定的に解釈されるべきものであるとの主張であると解しても,後記で判断するとおり,控訴人ら指摘の点は,明細書の要旨の変更には該当しないと解すべきものであるから,採用できない。
エ 控訴人洗い米について 控訴人洗い米の構成aは,「精米工程で除去しきれず米粒に残存する糠分を短時間洗米により歩留り減約2%程度にとどめ,洗米時に吸水された水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに,強制的に遠心脱水,乾燥して得られるもの」である。
そうすると,控訴人洗い米は,ロ号物件において,洗滌後の精白米及び洗滌水が遠心脱水作用を受けて洗滌水が除去され,その後,温風による乾燥作用によって,付着水及び吸収水が除去され,洗滌時に吸収した水分が精白米の表層部にとどまっているうちに強制的に除水されるものと認められる。
したがって,控訴人洗い米は,本件特許発明にいう「洗滌」時に「吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られた」もの(構成要件A・E)との要件を充足する。
(2) 控訴人洗い米は,「米肌に亀裂がない」か。(構成要件B・E) ア 「亀裂がない」の意味について (ア) 本件特許発明は,「米肌に亀裂がな」いことが要件とされているところ(構成要件B),もともと,洗米を行う前の精白米においても米粒中には米肌に亀裂のあるものが混入しているものであり(弁論の全趣旨),本件特許発明における上記構成をいかなる意味に解すべきかは,特許請求の範囲の記載のみからは明確でない。
(イ) 本件明細書には,【従来の技術】の項に,「米を洗った場合,・・・乾燥させると,米にまず亀裂が入り,更に,砕粒化してしまうので,それを炊いてもダラダラの飯になり到底飯として通用しないものになってしまうのである。従って,精白米は一旦水に漬けたら,これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り,その内に砕粒化してしまうので,今までに知られている洗い米は炊いて食しても美味といえるものではなく,炊飯には適さなかった。」(2欄10行〜3欄4行),【発明が解決しようとする課題】の項に,「米粒表面に亀裂が発生するという問題があり,この亀裂が原因となって砕米化し,炊飯しても美味な飯ができないという問題が生ずる。」(4欄1〜3行),「本発明はこのような点に鑑み,水洗,除水後も米粒に亀裂が入らず,しかも,炊いた米飯の食味が低下しない洗い米を得ることを目的とするものである。」(4欄11〜14行),【課題を解決するための手段】の項に,「本発明は,洗米後も亀裂が入らず,炊いた米飯の食味も優れている洗い米を得るべく鋭意研究を重ねた結果,精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行えば,米粒に亀裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られることを見出し,発明を完成した。」(4欄16〜21行),「洗滌時に水が米粒内部まで浸透した米は強制乾燥であれ,自然乾燥であれ乾燥した時に砕粒化の原因になる亀裂が生じ,炊いた時においしい米飯とならない。」(4欄44〜47行),【発明の効果】の項に,「又,米肌面に亀裂がなく,米肌面陥没部の糠分がほとんど除かれているので,炊き上がった飯は糠の臭みがなく,光沢があり,おいしいご飯である。」(14欄49〜15欄2行),【作用について】の項に,「本明細書で,米粒の『亀裂』の意味は,肉眼でも明確に確認出来る亀裂のことを指すのである。」(8欄21〜23行),【実施例1】の項に,「又10粒に1粒の割合でしか亀裂が入らず(元の精白米が約50粒に1粒の割合で亀裂の入った米であった)」(10欄8〜10行),【実施例2】の項に,「又亀裂の入った米粒は1粒もなく(当初からの亀裂米を除く)」(10欄32,33行)の各記載がある。
そこで検討するに,前記のとおり,通常の精白米においては,洗米を行わないものについても亀裂の入った米粒が混入しており,洗米前から亀裂の入った米については,洗米の有無,方法にかかわらず混入することになるから,このような米粒の米肌の亀裂のみをもって,本件特許発明の特許請求の範囲における「亀裂」があると解釈し得ないことは明らかである。そして,本件明細書の特許請求の範囲以外の記載のうち,上記の記載からすれば,本件特許発明において,「米肌に亀裂がない」ことが要件とされているのは,もっぱら砕粒化を予防するとともに洗い米を炊飯したときの食味を悪くしないためであり,また,上記の記載を考慮すれば,本件特許発明における「米肌にほとんど亀裂がなく」とは,肉眼でも明確に確認できる程度の亀裂が米粒の大部分になく,炊飯した際の食味に影響を与えるものではないことを指すものであると解するのが相当である。
証拠(甲53)によれば,米粒の亀裂について,炊飯した際に食味に有意差が生じるのは,新米においてひび割れ粒の混入率が20%以上,古米においてひび割れ粒の混入率が30%以上となる場合であることが認められる。そうすると,本件特許発明における「亀裂がない」とは,米肌に肉眼でも明確に確認できる程度の亀裂が入った米粒の混入率が,食味において有意差が生じない概ね20%以下の割合であることを指すものと解するのが相当である。
イ 控訴人洗い米について 控訴人洗い米は,肉眼で見る限り亀裂のないものである(構成b)。
証拠(甲24,50,乙40)によれば,少なくとも,控訴人洗い米においては,食味に影響を与えるような亀裂が生じていないものと認められる。
したがって,控訴人洗い米は,「米肌に亀裂がない」ものとの要件(構成要件B・E)を充足する。
(3) 控訴人洗い米は,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」ものか。(構成要件C・E) ア 「糠分がほとんど除去された」の意義について 本件特許発明構成要件Cにいう「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」とは,糠分の大部分が除去された状態を指すことは明らかであるが,具体的にいかなる程度の糠分が除去されればこの状態に当たるかは,特許請求の範囲の記載自体からは明確ではない。
本件明細書には,【作用について】の項に,「又,それは再び水に漬けて洗米しても水が濁らず,濁度76P.P.M以下である。尚,この76P.P.M以下と云う濁度数値は,精米工業会の測定方法に於ける数値の最下限で,これ以下の濁度数値のもの,即ち洗滌水のきれいな場合は測定不能と云うことにもなる。
尤も,今までこの測定方法で測定出来ない程の除糠度の高い米と云うものは存在しなかったから,この測定方法で充分測定できたわけであるが,本発明の洗い米は濁度数値が余りにも低く過ぎ,この測定方法では到底計測できない。従って本明細書において,『76P.P.M以下』と表現しているところは,従来の測定方法では測定出来ないくらい,桁違いに濁度が低いのだと云うことを意味しているのであり,かなりの下を意味した『以下』なのである。」(8欄8〜21行),【実施例1】の項に,「然もその洗い米を再洗米すると,その洗滌水は濁度76P.P.M以下であり,洗わずに水だけ入れて炊いたが,よく洗米されているので通常の米よりも糠臭もなく鮮度も落ちずおいしいご飯になった。」(10欄12〜15行),【実施例2】の項に,「その洗い米を再洗すると濁度76P.P.M以下であり,洗わずに水だけ入れて炊いても鮮度もよく通常よりややおいしいご飯になった。」(10欄35〜37行)との記載がある。
そうすると,本件明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載を総合考慮すれば,本件特許発明における「糠分がほとんど除去された」とは,一般的に消費者が洗米を行って糠を除去し,そのまま炊飯した場合,飯が糠臭くない程度に糠が除去された状態であり,また,精白米表面にある肉眼では見えない無数の微細な陥没部や胚芽の抜け跡に入り込んでいるミクロン単位の糠粉等をほとんど除去しており,再びそれを洗米した場合,洗滌水がほとんど濁らない状態を指すものであると解される。
控訴人らは,本件明細書に「本件明細書において,『76P.P.M以下』と表現しているところは,従来の測定方法では測定出来ないくらい,桁違いに濁度が低いのだと云うことを意味している。」と記載されていることをもって,「糠分がほとんど除去された」とは,その洗滌水が76ppmよりも1桁低い7.6ppm程度の濁度となるまで洗米することを意味するものであると主張するが,以下の理由により,採用することができない。
一般的に,「桁違い」とは,「等級・価値などが他と非常にかけはなれているさま」(岩波書店「広辞苑」第5版)を指す語であり,必ずしも厳密な意味で10分の1あるいは10倍を指すものではないこと,本件明細書の上記記載の前後の記載を併せ検討すれば,当時の精米工業会の測定方法における数値の最下限であった76ppmを大幅に下回るものであることは示唆されるものの,控訴人らの主張するように洗滌水が1桁低い7.6ppm程度の濁度であることを支持する具体的な記載は一切なく,他方,前記のとおり,本件明細書の他の記載からすれば,本件特許発明における「洗滌」は,従前から行われていた通常の洗米作業における除糠の程度と同様に,そのまま炊飯しても糠臭くない程度に除糠することを意味するものと解されることからすれば,控訴人らの主張を採用することはできない。
イ 控訴人洗い米について 控訴人洗い米は,炊飯に先立ち研ぎ洗いを要しない程度に米粒の糠分を除去したものである(構成c)。
したがって,控訴人洗い米は,「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」もの(構成要件C・E)を充足する。
4 争点(4) 控訴人大阪米穀は,今後,控訴人洗い米を製造,販売するおそれがあるか。
(1) 証拠(乙41〜44)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人大阪米穀は,大阪市以下略所在の自社工場にロ号物件を設置してイ号物件を製造,販売していたところ,平成11年2月4日に同工場から出火して,同装置が使用不能となり,同月26日その廃棄処分をしたことが認められる。
(2) しかし,弁論の全趣旨によれば,控訴人大阪米穀は,少なくとも上記火災によりロ号物件が廃棄処分されるまでは,イ号物件が本件特許権の技術的範囲に属することを争い,これを継続的に販売してきたものであって,上記火災発生後も,その基本的態度に変更はないものと認められる。
そうすると,控訴人大阪米穀に現に設置されていたロ号物件が平成11年2月26日に廃棄処分されたことを考慮に入れたとしても,なお,少なくとも当審口頭弁論終結時において,控訴人大阪米穀が将来再びロ号物件を導入してイ号物件を製造,販売するおそれは失われていないものと認めるのが相当である。
5 争点(5) 本件特許権は,出願手続中にされた補正が要旨の変更に当たり,出願日が繰り下がることにより,控訴人らは,本件特許権につき先使用に基づく通常実施権を有するか。 (1) 控訴人らは,出願人(被控訴人)が,平成8年7月3日付手続補正書(乙4)において,「除水」を「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」とした補正について,除水概念の拡大により明細書の要旨を変更するものであり,本件特許発明の出願日は,上記手続補正書が提出された平成8年7月3日に繰り下がると主張するが,以下の理由により,採用することができない。
ア 本件特許権は,平成元年3月14日に出願された特願平1-62648号の特許出願の一部を,特許法44条1項の規定に基づくとして,新たに平成4年6月12日に特願平4-179248号として分割出願し,これが登録されたものである(乙1,2)。
前記分割出願時の当初の明細書(原明細書:乙2)には,「除水」に関し,次のとおりの各記載がある。
「精白米は一旦水に漬けたら,これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り,その内に砕粒化してしまうので,今まで知られている乾燥洗い米は炊いて食しても美味といえるものではなく,炊飯には適さなかった。」,「本発明はこのような点に鑑み,水洗,乾燥後も米粒に亀裂が入らず,しかも,炊いた米飯の食味が低下しない乾燥洗い米を得ることを目的としており,更にその包装方法を提供することを目的とするものである。」,「一般的に,洗米によって含水してから乾燥させた米にまず亀裂が入る原因は,ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水,除水の際,その都度,部分的に膨張と収縮が生じ,ひずみが出来るからである。然らば,洗米時や除水時に,ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の,僅かの吸水量,及び除水量に押えることが出来れば,精白米をたとえ水中へ漬けて洗米し,乾燥させても亀裂が生じないことになる。」,「本発明の乾燥洗い米を製造する場合は,洗米工程で,極く短時間に精白米を水の中に付けた状態で洗米して除糠を行い,直ちに除水工程によって洗滌水と表面付着水の除水を行おうのである。」,「本明細書で,乾燥洗い米と表現している『乾燥』なる意味であるが,米粒を常温で保存していても,腐敗したり発カビしない限度,なること,即ち,含水率がほぼ16%をこえない含水状態を指すのである。」 イ 上記原出願の願書に最初に添付された明細書(親明細書:乙1)においても,「除水」に関連性を有するものとして,次のとおり,原明細書の記載とほぼ同一の各記載があった。
「精白米は一旦水に浸けたら,これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り,その内に砕粒化してしまうので,今まで洗米した後,乾燥させた米,即ち『乾燥洗い米』と云えるものは全く存在しなかった。」,「本発明は,このような点に鑑み,消費者が洗わずに炊け,然も食味が落ちない『乾燥洗い米』及びその製造方法を開示するものである。」,「一般的に,洗米によって含水してから乾燥させた米に先ず亀裂が入る原因は,ひずみに弱い特性を有する米粒が吸水,除水の際,その都度,部分的に膨張と収縮が生じ,ひずみが出来るからである。然らば,洗米時や除水時に,ひずみの因子となる膨張と収縮が生じない程度の,僅かの吸水量,及び除水量に押えることが出来れば,精白米をたとえ水中へザブンと漬けて洗米し,乾燥させても亀裂が生じないことになる。」,「本発明は,高速度で攪拌する洗米行程で,極く短時間に精白米を水の中に漬けた状態で洗米して除糠を行い,直ちに除水行程によって洗滌水と表面付着水の除水を行なうのである。」,「本明細書で,乾燥洗い米と表現している『乾燥』なる意味であるが,米粒を常温で保存していても,腐敗したり発カビしない限度,即ち,含水率が16%以下の含水状態を指すのである。」 ウ 上記のとおり,原明細書及び親明細書は,その発明として,従来存在しなかった,消費者が洗わずに炊け,食味が落ちない「乾燥洗い米」及びその製造方法を開示するものであり,従来の洗い米においては,洗米の際の吸水,乾燥に伴う膨張,収縮により,ひずみを生じて米粒に亀裂が生じることから,これを生じないほどのごく短い時間に洗滌,除糠と除水を行うという方法により実現するものであることが記載されているということができる。このように,原明細書及び親明細書に開示されている技術は,極めて短い時間内に米粒の洗浄及び除水を行うことによって,米粒の吸水を最小限に抑えることにより米粒のひずみが発生しないようにし,これにより米粒のひび割れ,砕粒の発生を防止するという作用効果を奏するものであることは明らかである。そうすると,その作用効果を奏するためには,洗米後,速やかに,洗滌水のみならず,表面付着水も完全に除去する必要があることは,原明細書及び親明細書の記載から明らかであるというべきである。
そして,証拠(乙17〜24)及び弁論の全趣旨によれば,洗い米に付着した水分の除去方法として遠心脱水の技術を採用すること,そして,遠心脱水の技術は,遠心力を用いて充填状態や堆積状態にある濡れた粉粒体からその表面に付着している液体を除去する脱水操作であり,粉粒体粒子の内部に存在する液体を除去することができなかったこと及び水分の除去方法として送風乾燥等の手段を採用することが周知であったことが認められる。
前記明細書の各記載及び周知事項からすれば,原明細書及び親明細書に開示されている除水を達成する手段としては,上記出願当時に公知であった遠心脱水の技術,送風乾燥等の手段を用いるべきことは,当業者にとっては自明の事項であると認められる。したがって,また,このような除水手段を採用した場合には,洗滌水及び表面付着水のみならず,米粒の表層部に吸収された水分も除去されることになるのは,当業者にとって自明の事項であるというべきであるから,原明細書及び親明細書に記載された「除水」を「米粒表層部に付着吸収した水分を除去すること」と補正したことは,明細書の要旨を変更するものとは認められない。
(2) 控訴人らは,乙49等を根拠に要旨変更があると主張するが,以下の理由により採用し得ない。
ア 本件明細書には,「本発明の洗い米は上記したように,約2%の水分を吸収するまでの極く短時間に,水洗から除水までの各行程を全部処理することにより製造されるものである。」(7欄5〜8行),「本発明で洗い米の『含水率』というのは付着水を除いた時の『平均含水率』のことである」(5欄2〜4行),「除水後,即ち付着水分が除かれた時の水分,いわゆる米粒体の平均含水率が16%以下の含水率になっているように洗米機が設計される」(5欄20〜22行),「除水工程によって洗滌水と表面付着水の除水を行うのである」(8欄3〜4行),「精白米の表面には肉眼では見えない無数で微細な陥没部があり・・・」(7欄40〜41行)と記載され,他方,「表面付着水は取りきらなくてもよい」との記載や,それを示唆するような記載は全くない。したがって,約2%は吸収される水分であり,この約2%には付着している水は含まれていないといえる。控訴人らの主張は,除水後の米粒の約2%の含水率増加分がほとんど付着水であるとするものであり,上記本件明細書の記載に照らし,採用し得ない。
イ 乙49に記載された吸水曲線は,米粒が水に触れると同時に吸水を開始し,吸水速度は最初ほどが高く,時間の経過とともに徐々に鈍化するという知見に反しており,同知見は,本件明細書(甲1)の7欄22行以下に記載されているばかりでなく,当業界においても同様の米粒の吸水データは多数発表されており(甲58:12図,甲60〜63),控訴人佐竹自らも同様の吸水データを公表している(甲31:8頁)当業界の技術常識であるから,信憑性に乏しい。さらに,乙49を全く同じ実験器具及び方式により3回の実験を行った和歌山県工業技術センターの試験分析である甲64によれば,平均で浸漬3秒間では処理前よりも2.23%水分が増加し,浸漬45秒間では2.71%水分が増加し,浸漬3秒から浸漬45秒までの間に0.48%も吸水しているという結果が出ており(3秒間の浸漬16.91,16.77,16.85の平均16.84-処理前14.61=2.23。45秒間の浸漬17.33,17.21,17.41の平均17.32-処理前14.61=2.71。2.71-2.23=0.48。),また,最も除水効果のよい脱水実験(バッチ式であること,60秒もかけていること,米粒が少量であること等)であるにもかかわらず,3秒間浸漬でも16.84%(平均)にしか除水できないことも明らかとなり,他方,同様の甲65の実験では,実験済みの米粒に100%亀裂が発生しており,「表層部の含水率の高い部分は極めて薄いものであり,それゆえに亀裂さえも生じないのである」(6欄42〜44行)との本発明の必須要件を具現していない可能性があり,乙49の実験値の信憑性に疑問を抱かせる。したがって,乙49の実験データを根拠とする控訴人らの主張は,採用し得ない。
6 争点(6) 無効等による権利濫用(権利濫用の主張であることにかんがみ,実施不能,未完成の事実を含め,控訴人らの主張・立証責任となる。) (1) 本件特許発明構成要件D,Eの「平均含水率が約13%以上16%を超えない洗い米」は,特開昭57―141257号公報(乙24)に,「精米処理のみを施した米の含水量は通常12.4%であるが,上記の米は含水量が14.7%まで乾燥した・・・」(同公報1頁右欄17行〜2頁左上欄1行),「前述のように含水量を14.7%とするのが適当であるが,この含水量は通常の精米の含水量(12.4%)より多ければ,若干上下したものであってもよい。」(同公報2頁右上欄2〜6行)と記載されているとおり,従来公知の洗い米であり,特開昭57―1448号公報(乙78。同公報1頁右欄1〜3行)でも公知である。構成要件Cの「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」との要件についても,米肌面にある陥没部の糠分が除去されていなければ,炊飯後に糠臭が残り美味な飯にならないことは,当業者のみならず一般の需要者にも周知のことである(家庭においても通常の精白米を糠分を除去するために洗って炊飯しており,弁論の全趣旨から明らかである。)。
本件特許発明は,従来の技術につき,本件明細書には,「一度洗った後乾燥させた米で,水を加えて炊いた後,おいしく食べられる洗い米は今まで製造されなかった。」とし,その原因を「米を洗った場合,その間に吸水して含水率が高くなり,そのままでは腐敗したり,カビが生えたりしてしまうし,それを避ける為に乾燥させると,米にまず亀裂が入り,更に,砕粒化してしまうので,それを炊いてもダラダラの飯になり到底飯として通用しないものになってしまうのである。従って,精白米は一旦水に漬けたら,これを乾燥せしめると必ず亀裂が入り,その内に砕粒化してしまうので,今までに知られている洗い米は炊いて食しても美味といえるものではなく,炊飯には適さなかった。」と指摘し,「精白米の洗滌,無数で微細な陥没部までの除糠,除水を数分間という短時間内で行い,かつ米肌に亀裂のない洗い米は現在提供されていない。」(【0002】【従来の技術】)とし,さらに,「精白米は除糠のため洗う場合,そのための充分な時間を必要とするから水分は米粒の表面からその内部(深層部)まで浸透して,これを乾燥する場合は,先ず吸水によって膨張した米粒の表面が急速に乾燥し収縮する。然るに内部に至る程乾燥に多く時間を要する。従って米粒の表面は乾いて収縮しても内部に至るにつれて含水量が多くなるから収縮しない。この膨張と急速な収縮による歪み現象及び含水量の多い米粒内部の組織と収縮した組織との調和即ち細胞組織の結合関係が崩壊して,米粒表面に亀裂が発生するという問題があり,この亀裂が原因となって砕粒化し,炊飯しても美味な飯ができないという問題が生ずる。このような問題は,通常の方法で水を使用して洗米した場合,これを強制乾燥した場合でも自然乾燥した場合のいずれの場合も必ず生ずる問題なのである。従って運搬や保管中(炊飯前)に砕米化し,又は炊飯中に砕けてしまい美味な飯は絶対に炊けないという大きな問題を有しているのである。従来の乾燥洗い米と称する洗い米は,上記の問題点を解決した構成を有しないので砕米の飯となり美味な飯を得ることができなかったのである。」と説明し,「本発明はこのような点に鑑み,水洗,除水後も米粒に亀裂が入らず,しかも,炊いた米飯の食味が低下しない洗い米を得ることを目的とするものである。」(【0003】【発明が解決しようとする課題】)としているところ,本件特許発明が解決しようとした上記の問題点にかかる米粒への水分添加と亀裂発生のメカニズムについては,特開昭63―84642号公報(乙79)に,「一般に米粒は毎時0.4%以上の速度で水分添加を行うと澱粉層内部に亀裂を発生する・・・」(同公報1頁左欄14,15行),「5分間を越えると短時間でも水分が澱粉質に浸透して米粒澱粉質に亀裂を発生するので通過時間を5分間を限度に止めて亀裂発生を防止し・・・」(同公報2頁右下欄10〜13行)と記載され,特開昭63―319057号公報(乙80)に,「米粒表面に付着残留した水分が米粒内に浸透し,その後の乾燥によって米粒表面にひび割れが生じ,炊飯時に花咲き米となって食味の低下を招くという問題がある。」(同公報2頁左上欄13〜16行),「本発明の処理方法では,・・・水分が米粒内部に浸透するのを防止でき,或は米粒表面の乾燥を防ぎ,米粒表面にひび割れが発生するのを防止することができ・・・」(同公報3頁左下欄15〜右下欄1行)と記載され,特開昭61―283359号公報(乙81)に,「水分量が過剰なときは白米粒に水分が厚層に浸透し,しかもこの浸透量が極めて僅かでも適当な厚さの限界を超えると,直ちに米粒表皮に著しい亀裂を発生し・・・」(同公報2頁右上欄4〜8行)と記載され,特開昭61―85155号公報(乙82)に,「・・・精白米は,胚乳中の澱粉層(澱粉貯蔵組織)で参考図1,同2で示すように澱粉粒が充実した澱粉細胞が緻密に整然と配列し,澱粉層の配列特性から亀裂を生じやすい性質がある。澱粉粒は一様に糊化温度以下の常温でも,吸水(加湿)すると膨張し,脱水(乾燥)すると収縮する性質があり,澱粉層内に水が浸透すると吸水した部分の澱粉細胞は当然体積が膨張する。・・・出願人は,衝撃等の外力が働かないで割れ目(亀裂)を発生する現象は一般にその物質の不均等収縮により,引張応力の作用に基くものであるにもかかわらず精白米の加湿の場合は吸湿膨潤,加湿により体積膨張して亀裂を生じる矛盾に着目して,精白米の加湿原因の胴割れ亀裂の発生は加湿膨潤の米粒の部分的な膨張率の差異に基くものであるとの見地により,亀裂が加湿後2〜3分後に始り,1〜2時間後に終り,亀裂発生後時間が経過すると亀裂が縮少し不鮮明となる現象が観察されること,および精白米は部位により吸水率に差があって表層部は小さく内部程大きい性質があることから,精白米の加湿原因の胴割れ亀裂発生は,米粒内の局部的な不均等吸湿に基くもので,主として外層が内層よりも吸湿膨張の膨張率が小さいとき膨張差に基き外層に内層の膨張力による引張力が働き,破壊されて割れ目を生じるものとの見解に到達し,・・・」(同公報2頁左下欄4行〜右下欄18行),「米粒の表面に付着した水は澱粉細胞をつぎつぎと浸透する浸透濡れよりも,表面に付着濡れとして拡がる速度が早いのでおおむね30秒以内に加湿工程が終ると,米粒内に浸透がなく表面が均等に湿潤し,米粒の表面を均等に湿潤した水は徐々に均一な速度で米粒内に浸透し,1粒毎の米粒に於て,胴割れ亀裂の主因となる局部的な多量の水を吸収して発生する不均等膨張を防止する。」(同公報3頁右下欄5〜13行)と,本件特許公報と同様な知見が記載されており,当業者には周知若しくは公知であった。
しかしながら,本件特許発明が上記の問題点を解決するために採用した手段は,「精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行えば,米粒に亀裂が入らず炊飯に適する洗い米が得られることを見出し,発明を完成した。前記目的を達成するため,本発明の洗い米は精白米を水中で洗滌,除糠を行い,更に強制的に除水を行い,この間米粒の主な吸水部は米粒の表層部にとどまり,水への浸漬から洗滌,除糠,除水までの数分以内に行ったものであって,米肌には亀裂が発生しておらず米肌面にある微細な陥没部の糠分がほとんど除去されており,平均含水率を約13%〜16%を超えないものとしたものである。」(【0004】【課題を解決するための手段】)であり,上記構成による解決手段が公知であることを認めるに足りる証拠はない。
上記構成による解決手段は,本件特許発明構成要件Aの「洗滌時に吸水した水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに強制的に除水して得られる」との要件,構成要件Bの「米肌に亀裂がなく」との要件,そして,構成要件Cの「米肌面にある陥没部の糠分がほとんど除去された」との要件も,「精白米の水中での洗滌,除糠工程及び除水工程を従来とは桁違いに短い時間内に行(う)」ことの結果を記載したものであると評価することができるが,それは,物質特許制度が採用され,飲食物,嗜好物の発明の特許請求の範囲の記載が物の発明の形式で記載されなければならず,原則的に物の形状,構造,組成,組み合わせ又はそれらの結合として記載し,製造方法若しくは処理方法にのみ特徴を有する公知飲食物,嗜好物の発明は,製造方法若しくは処理方法の発明として記載されていなければならないという運用の当然の反映であって,上記記載から,それ以上の技術的内容が皆無であるとか,産業の発達に寄与する何らの技術的創作がないとはいえない。なお,それが特許されるためには,技術的に実施可能であることが必要なことはいうまでもない。
(2) 本件明細書には,洗米機に関して,「本発明の洗い米を得るための洗滌方法は短時間で効率よく除糠,除水できる方法であれば特に限定されない。精白米の洗滌に当っては,公知の連続洗米機を用いることも出来るが一部改造の要がある。
即ち,洗米槽を小径となし回転数も毎分600回転以上が可能となるように改造するのが望ましい。」(5欄9〜15行)と記載し,そのようにしなければならない理由につき,「前記の洗米装置で水洗する時に,水洗槽を通過する時の在槽時間が長いと,その間に米粒内に深く水が浸透し,表面付着水だけが除去されても米粒全体の含水率が高くなり,腐敗や発カビの因となる。そして,それを防ぐために水分を乾燥により除去せしめると,乾燥は米粒表面が急速に進み収縮し,次いで表層部から深層部へと進むから,この間に米粒体表面にひずみが生じて砕粒化の原因である亀裂が出来る。そこで,内部水分(深層水分まで)を除去しなくともよいように,表面付着水が除去された時の水分,即ち米粒全体の平均含水率を16%以下に押さえる必要があり,その為には,洗米機での米粒の在槽通過時間が短くなるよう考慮して,回転数や槽の大きさを定める必要があると云うことである。
いずれにしても本発明の洗い米を製造するには連続洗米機の在槽通過時間を従来よりも桁違いに短時間にしなければならぬことは云うまでもない。・・・次に洗米機の回転数であるが,米粒が水中で攪拌される回数が少ないと,必要最小限の洗米効果が得られないから,前記の通り,短い在槽時間内で,充分な洗米に必要な数だけ攪拌を行おうとすれば,洗米機の攪拌体の回転数を速くする必要がある。」(5欄32行〜6欄7行)と記述しているから,当業者は,その記載だけで,「公知の連続洗米機」とは,古くから周知であって(甲78),甲55〜57に示されるような,最もポピュラーな,通称「攪拌式洗米機」に属するタイプであること,その洗米槽を小径にしたり,高速回転させればよいこと等を簡単に理解できる。
さらに,本件明細書の実施例1の説明文中には,@「公知の構造の回転式連続洗米機の攪拌体を毎分600回転となし」,A「その出口のところに連続して除水装置を設けてなる水洗行程と除水行程を構成し」,B「該洗米機に3℃の水を注入し乍ら水分14.2%の・・・精白米を連続的に毎分1sペースで投入する」,C「精白米は洗米槽の中で運動している注入水の中にザブンと入り,水中で攪拌され洗米され乍ら洗米機の出口より洗滌水と共に排出され,直ちに次行程の除水装置に入る」,D「ここで洗滌水及び付着水が強制的に除去されて除水装置より排出される」,E「その間,即ち1粒当りの精白米が洗米槽の水に漬かった時から除水装置より排出されるまでの時間は,45秒(大半は除水行程での時間が占めている)であった。除水行程から出たての米は,水分15.9%になって居り」と記されている。また,実施例2の説明文中には,F「上記洗米機の回転数を1800回転となし」,G「除水装置を高性能にした除水行程を構成し」,H「25℃の水を注入し乍ら・・・精白米を連続的に毎分10sペースの速さで投入する」,I「精白米が洗米槽の水に漬かった時から,除水装置から排出されるまでの時間は約5秒であった」,J「除水行程より出たての米は含水率14.5%になって居り」と記されている。
それら@〜Jの記載から,当業者にとっては,洗米機には水圧で容器の中の水を水流させて洗米するタイプと,機械的に何らかのものを回転させるタイプがあるが,前記@には「回転式」と記されているから,後者であること,洗米機にはバッチ式(洗米機に一定の米を入れたり出したり入れ替えるタイプ)と連続式(洗米機に一方から米が連続して入り,他方から連続して排出されるタイプ)があるが,前記@には「連続洗米機」と記されているから,後者のタイプであること,前記@に「攪拌体を毎分600回転となし」と記されているから,洗米機で回転させるものは攪拌体であり,前記Cに「洗米槽の中で・・・攪拌され洗米され乍ら」と記されているから,攪拌体を洗米槽内で回転させる構成であること,前記Bには「精白米を投入する」と記されているから,洗米機には精白米を投入する投入口が設けられた構成であること,前記BCEの記載から,攪拌体には投入された精白米を出口に短時間に送る送米螺旋(スクリュー)が設けられていること,そのような洗米機には,停止中でも水を洗米槽内に溜めるタイプと,運転中の洗米槽に注水させるタイプがあるが,前記Bに「水を注入し乍ら」と記されているから,注水口から米粒に注水しているタイプであること,前記Cの記載から,米粒は注水された水と共に洗米槽の中を攪拌体の回転によって攪拌され洗米されながら,洗滌水と共に排出される構成であること,前記Cの記載から,排出された米粒及び洗滌水は直ちに次工程の除水装置に入れる構成であること,前記BCEIの記載から,米粒が洗米機の投入口から短時間に出口に出られる構成であること,前記@Fの記載から,攪拌体を高速回転させても米が飛散したりしないのは攪拌体の周囲は洗米槽で囲まれているタイプであること,前記Cの記載から,実施例1の場合では,米粒が洗米槽の中で水と共に攪拌されるタイプであること,前記FHの記載から,洗米機の構造及び水の注入量を実施例1のままにして,実施例2では,洗米機の回転数だけを高めて,米の投入量を10倍にしても洗米できるタイプであり,実施例1の加水率が,実施例2では10分の1に減少して洗米していることが明らかにされており,当業者にとっては,本件明細書の実施例の公知の洗米機は,前記のとおり最もポピュラーな,通称「攪拌式洗米機」に属するタイプであって,そのうち,甲56のごとき「注水」するタイプのものであり,その具体的態様を上記実施例のようにすればよいことが理解できる。
本件明細書には,「除水装置」について,「除水装置は,洗滌水及び付着水を除去出来る機能さえあれば公知の機器でよいが,只,洗滌水や付着水の除去に時間がかかるものではいけない。何故ならば,せっかく洗米工程で,米粒内部に吸水させないようにしたのに,除水工程にて,洗滌水や付着水の除去に時間がかかり洗滌水や付着水が米粒内部に吸収されて無意味だからである。尤も公知の除水装置の中には,吸水の要因となる洗滌水や付着水の大部分を,瞬間に近い短時間に除去出来るものがあるから,それを選べばよいと云うことである。」(6欄23〜32行)と記され,本件特許発明を具現するための除水装置の必要な要件を開示し,更にそのためにどのような除水装置を選ぶべきかまで示唆し,その上,実施例の前記説明文により,当該実施例の除水装置を,前記ACDの記載から,当該除水装置は,精白米と共に入ってきた洗滌水及び付着水を連続的に除去するいわゆる連続式(バッチ式ではない除水装置)であること,前記BEJの記載から,洗滌水及び付着水を極めて短時間に除去して濡れている精白米をほとんど元の状態の含水率14.5〜15.9%にまでする装置であること,前記Gの記載から,当該除水装置は実施例1の時より除水性能を高めることが可能なタイプであること,前記BHの記載から,流量が自由に変えられる除水装置であること,前記Aの記載から,当該除水装置は洗米機の米の出口の所に連続して設けていることが明らかにされている。
そして,前記のとおり,洗い米に付着した水分の除去方法として遠心脱水の技術を採用すること,そして,遠心脱水の技術は,遠心力を用いて充填状態や堆積状態にある濡れた粉粒体からその表面に付着している液体を除去する脱水操作であって,粉粒体粒子の内部に存在する液体を除去することができなかったこと及び水分の除去方法として送風乾燥等の手段を採用することが周知であったことが認められる。そうすると,本件明細書に開示されている除水を達成する手段としては,公知の送風乾燥等の手段を用い,あるいはこれと組み合わせて他の脱水手段を用いるべきことは,当業者にとって自明の事項と認めることができる。本件特許発明の除水は,従来よりも短時間に行うだけのことであるから,公知の除水装置であっても,乾燥条件の一部又は全部を高めるだけで本件特許発明における除水の目的を達成し得ることは,当業者には容易に理解可能なものといえる。
したがって,当業者にとっては,本件明細書の実施例の除水装置の,少なくともその最終工程は,当業界では周知の水分を蒸発させて除去する通風乾燥が最もポピュラーな方式であること,それも,それが単独か,若しくは遠心脱水機と組み合わされて用いられていることが把握できる。けだし,遠心脱水を連続的に行う装置(いわゆる連続式遠心脱水機)では,せいぜい水分18%程度にしか除水できないことは,当業界では常識化しており,当業者は,遠心脱水した場合,その後に乾燥手段が必要なことを知っていること,更に,除水性能を自由に高められるのは,風速,湿度,温度を自由に変えることによって乾燥条件(除水性能)を高められる乾燥手段が最も知られている(遠心脱水機では回転を早くしても,除水性能を高めることは僅かしかできず,それも米粒が傷んでできない)こと,乾燥手段を用いた装置も種々のタイプがあるが,流量が自由に変えられる機構の通風乾燥機としては,当業界では周知の送り速度を自由に変えられる通気バンド乾燥機が最も当業者の頭に浮かぶことからである。
そして,本件明細書の【0010】【実施例3】に,「本発明の洗い米を炊いたときの食味を評価するためにサンプル1〜4について24名のパネルに味覚テストを行った。・・・以上の結果から明らかなごとく,本発明の洗い米(サンプル4)は対照品(サンプル2,3)より大変美味であった。また,通常の方法で洗米した米よりも本発明の洗い米の方が炊いたとき食味が優れている。」(10欄39行〜13欄48行)と,本件洗い米を炊いたときの食味を評価するための味覚テストを行った結果,大変美味であり,通常の方法で洗米した米よりも食味が優れているとの結果が出ている旨が記載されている。
そうすると,当業者は,本件明細書の実施例の洗米機が甲55〜57,78に類するタイプであること,実施例の除水装置が単独若しくは併用のいずれの場合でも,最終工程は乾燥装置が用いられていることを知ることができ,洗米機と除水装置との組合せの構成は,洗米機の出口から排出された米が除水装置に直ちに入るように組み合わされていることも知ることができ,実施可能な程度に製法が開示されているということができ,これにより得られた洗い米が大変美味であって通常の方法で洗米した米より食味が優れているとの結果が出ているといえるから,完成しているといえる。
(3) 乙84〜86には,控訴人ら主張のとおり,精白米を洗米せずに炊飯すると,米飯に糠臭があったり,米飯の色が黄色くなったり,粘りのないボソボソした米飯になったりするのは,玄米の糠層の最下層である糊粉層に含まれていた油脂や蛋白質や糖質などから成る極めて粘度の高い半液体状の混合物(アリウロン残留物)が,精白米の表面に付着しているのが主たる原因であって,食味のよい無洗米にするためには,このアリウロン残留物をほぼ完全に除去しなければならないが,アリウロン残留物は,その粘度の高さゆえ,精白米を単に水中に浮遊させて攪拌するだけでは精白米から遊離しにくいとの趣旨が記載されているが,本件明細書にはアリウロン残留物に言及する記載がない一方,前記のとおり,前記開示にかかる製法により得られた洗い米が大変美味であって通常の方法で洗米した米より食味が優れているとの結果が出ているというのであり,平成元年3月頃記述された被控訴人の洗い米についての説明書には,食味にとってマイナス物質となるアリューロン顆粒の残片の存在を指摘しつつも,「従来の洗米よりはるかにシビアな糠粉の除去をしていますので,同じ原料でも従来よりかなりおいしいご飯になるのです。」との記載がされていること(乙70,87)に照らし,また,乙84〜86が未だ特許査定されていないことなども考慮すると,これにより本件特許発明が未完成であったとまでは認めることはできない。
次に,証拠(甲80,乙1,60,87,95)及び弁論の全趣旨によれば,和歌山事件につき,次のとおりの事実が認められるが,本件特許発明が未完成であったとまでは認めることができず,直接それを確認しうる証拠はなく,Z本人尋問の供述をもってしてもそれを認めることはできず,また,本件特許発明を特許出願したことが信義に反するということもできない。
Z(当時はZ技研理事長)は,昭和53年10月4日までに,無洗米の製法を発明したが,企業態勢がとれるまでZ技研と被控訴人とで同発明を秘匿した(甲80)。被控訴人社長が病気で辞任したため,昭和60年からZはZ技研を退任し,被控訴人の社長に就任し,Z技研は昭和56年に入所していたUが後任の理事長に就任した。被控訴人は本件特許発明実施に向けて昭和63年に,躍進機械のT社長を同社と兼務で被控訴人の社長に招聘し,Z(その時から会長)は,秘密にしていた無洗米の「製造方法の発明」と「製造装置の発明」の両発明のうち,「製造方法の発明」が他に漏れることを懸念して,平成元年,「製造方法と洗い米の発明」のみを特許出願し,その後公開(乙1)されたため,残りの「製造装置の発明」を「本件営業秘密」として秘匿していた。原出願明細書(乙1)には「製造方法の発明」と「洗い米の発明」は記されているが,本件営業秘密事項が開示されておらず,これより分割出願された本件明細書(甲1),洗い米の製造方法の発明の明細書(乙60),更に分割された上記洗い米の製造装置の発明の明細書(乙95)にも,これら公開しないとした技術事項が記載されていない。そして,Zは,本人尋問の際,公知の装置で本件特許発明のいう洗滌,除水をごく短時間で行うことができるかについての質問に対し明確な回答をせず,「それを達成するためにやるんであれば,効率さえ無視すれば,何十馬力であろうと何百馬力掛けようがやれば,それはできるはずです。」と供述した。
以上のとおりであって,控訴人らの主張は採用し得ない。
(4) 証拠(乙1,2,60,88〜93,95,検乙1)によれば,次のとおりの事実が認められる。
被控訴人は,本件原出願につき平成4年1月21日に特許庁に提出した本件事情説明書(早期審査に関する事情説明書。乙88)において,本件特許発明の洗い米を製造する方法として提示した実施方法は,洗米の前提として「糠で糠を取る」ことを内容とする方法であると受け取れる資料を添付し,平成3年7月6日,朝日新聞の取材に応じて「糠で糠を取る方式」による無洗米を発売したことを明らかにした(乙89)のち,一貫して,被控訴人の製造販売に係る無洗米が従来とは格段に異なる新しい精米方式によるものであることを具体的に明示し,その旨の報道がなされている。本件事情説明書添付資料1の平成3年7月6日付け朝日新聞の記事(乙89)は,「従来の精米では取り切れなかった米ぬか残留分を完全に除去したうえで,数秒間で高速洗米,脱水して出荷する新精米方式を開発した。・・・米ぬか層の一番内側にある脂肪やたんぱく質に富んだ部分はねばねばしていて落ちず,この中に味を落とす性質があるのに,白米の表面に張り付いていた。同製作所のZ社長が,他の米からねばねば部分を分離,微細粒にして精米段階で混ぜれば,お互いに吸着し合ってはがれることを発見した。米は普通に洗って保存したのでは水を含んで腐りやすくなるが,高速で洗って脱水すれば,水をわずかしか吸収しないことがわかり,これら2工程を,従来の精米工程に組み入れた。」というものであり,資料4の平成3年9月21日付けの朝日新聞の記事(乙90)は,「今回の米の表面につくねばねば部分の取り除きには,茶がらを畳にまいて掃除する方法がヒントになった。取り切れないねばねばに,すでに取れたねばねばをつけてやると,いっしょに落ちてきた。」というものである。出願過程において被控訴人が提出した平成4年6月12日付け意見書に資料として添付された「新しい『米』説明書」(乙91)においても,「新しい米は,精米加工の際,特殊な方法で従来の洗米よりもはるかにシビアな糠粉の除去をしている。従来の洗米以上の洗米をしているわけで・・・」(同4頁)とされ,「洗っているお米精米フローチャート」として「原料」→「前処理装置」→「精米機」→「後処理装置」→「無洗加工装置」→「計量包装機」→「出荷へ」の流れが明示され,上記フローチャートは「精米機」で取り出される糠粉を「糠ダクト」で「無洗加工装置」に送り込み,この「無洗加工装置」から更に別の「糠ダクト」を経て,「無洗加工装置」で利用した糠粉と精白米から除糠した残留糠の糠分とを同時に糠タンクに排出させる流れを示している(乙92の記載も同様)。この糠で糠を取る方式には,親の原明細書,本件原出願の願書に最初に添付された明細書以降,補正された明細書を通じ,本件明細書にも,親特許発明の現行明細書(特許公報:乙60)や洗い米の製造装置の発明の明細書(乙95)にも,何らの言及がない。
なお,潤糠式精米装置に関する発明である特公平2-22704号(乙97),潤糠式精米機の攪拌・送穀装置に関する発明である特公平2-48302号(乙98),潤糠精米方法に関する発明である特公平4-79703号(乙99)は,いずれも精白米の糠層にある,非常に頑強で粘性が高く除去困難な糊粉層(アリューロン層)をほぼ完全に除去する効果を奏するものとされている。
上記事実によると,糠で糠を取る方式は,非常に頑強で粘性が高く除去困難な糊粉層(アリューロン層)を除去する方法であって,本件特許発明実施する前提として必要な工程であるといえなくもないが,本件明細書には糠で糠を取る方式や糊粉層(アリューロン層)に言及する記載がない一方,前記のとおり,前記開示にかかる製法により得られた洗い米が大変美味であって通常の方法で洗米した米より食味が優れているとの結果が出ているというのであり,平成元年3月頃記述された被控訴人の洗い米についての説明書には,食味にとってマイナス物質となるアリューロン顆粒の残片の存在を指摘しつつも,「従来の洗米よりはるかにシビアな糠分の除去をしていますので,同じ原料でも従来よりかなりおいしいご飯になるのです。」との記載がされていることに照らし,糠で糠を取る方式をも採用することで美味で良質の洗い米を得ることができるとしても,それはそれで別個の有用な発明であるということであって,その方式と本件特許発明の方法とを別個に行うか併用するかの問題があるにすぎないとも考えられ,糠で糠を取る方式が本件特許発明の洗い米の発明を実施するための不可欠な前提工程となっていると断定することはできない。
したがって,実施不能であるとか,明細書の記載不備があるとか,故意に事実に反する記載をしたとかの控訴人らの主張は採用し得ない。
結論
そうすると,本判決添付別紙イ号物件目録記載の物件は,本件特許権の技術的範囲に属し,控訴人大阪米穀,控訴人三多摩食糧が業としてこれを製造,販売する行為は,本件特許権の侵害に該当し,本判決添付別紙ロ号物件目録記載の物件は,本件特許権の技術的範囲に属する本判決添付別紙イ号物件目録記載の物件(あるいは同様に本件特許権の技術的範囲に属するといい得るこれと同等の性質を有する洗い米)の生産にのみ使用されるものであり,控訴人佐竹が業としてこれを製造,販売する行為は,本件特許権の間接侵害に該当するから,被控訴人の本件請求は理由があるので,これを認容すべきである。
よって,原判決は正当であり,本件控訴は理由がなく,なお,イ号物件,ロ号物件につき一部訂正があるので原判決を一部更正し,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成13年4月19日)
追加
イ号物件目録ロ号物件たる「ジフライス設備JF3A若しくはJF1B」で製造され,かつ,下記特性を有する無洗米。
記a精米工程で除去しきれず米粒に残存する糠分を短時間洗米により歩留り減約2%程度にとどめ,洗米時に吸水された水分が主に米粒の表層部にとどまっているうちに,強制的に遠心脱水,乾燥して得られる,b肉眼で見る限り亀裂のない,c炊飯に先立ち研ぎ洗いを要しない程度に米粒の糠分を除去した,d含水率が16%以下の,e無洗米。
ロ号物件目録ジフライス設備JF3A若しくはJF1Bその構成は次のとおりT図面の簡単な説明第1図はロ号物件の全体を示す正面図(但し,側板を外した状態で,細部については省略してある。),第2図は,第1図における加水攪拌部の拡大縦断面図・第3図は同遠心脱水部の拡大縦断面図,第4図は同温風乾燥部の拡大縦断面図,第5図は精白米と水の移動経路を示す図である。
U符合の説明A…加水攪拌装置B…脱水装置C…乾燥装置1…調整タンク2…分配シュート3…ロータリーバルブ4…パルプ用ギアドモータ5…投入タンク6…ポンプ7…螺旋状部8…加水攪拌部9…供給部10…バケットエレベータ11…給水管12…溢水管13…搬送ホース14…(欠番)15…排水樋16…主軸用電動機17…主軸用駆動調車18…主軸用被動調車19…主軸用ベルト20…(欠番)21…筒体22…加水攪拌室23…供給口24…排出口25…主軸26…攪拌バー27…攪拌翼28…抵抗体29…コイルばね30…オリフィス31…抵抗体軸32…ローレットボルト33…ばね受け34…竪軸用ベルト35…ベアリングケース36…中空軸37…脱水槽用駆動調車38…脱水槽用ベルト39…(欠番)40…連絡ホース41…投入パイプ42…竪軸43…下送スクリュー44…スクリュー用被動調車45…張り車46…脱水用電動機47…スクリュー用駆動調車48…脱水槽用被動調車49…脱水槽50…開口部51…上送スクリュー52…排出口53…排出樋54…集水室55…排水口56…排水パイプ57〜60…(欠番)61…隔壁62…スクリーン用回転軸63…スクリーン用被動調車64…スクリュー65…ホッパー66…排出樋67…温風供給ダクト68…ヒーターエレメント69…送風機70…分岐管71…フード72…角度変更ハンドル73…清掃体用回転軸74…ウレタンゴム板75…清掃体用被動調車76…砕粒用スクリュー77…(欠番)78…コンベアケース79…スクリュー用被動調車80…スクリーン用ギアドモーター81…砕粒用スクリュー駆動調車82…モータベルト83…スクリーン用駆動調車84…張り車85…スクリーン用ベルト86…排風口87…排風管88…集合ダクト89…砕粒排出樋90…スクリーン91…供給口92…排出口93…ポンプ94a,94b…水槽95a,95b…ポンプ96…ポンプV構造の説明1全体の構造加水攪拌装置Aは,第1図に示すロ号物件正面図の上部に位置し,加水攪拌部8と,これに原料精白米と水とを供給する供給部9とからなる。加水攪拌部Aの下方には脱水装置Bと乾燥装置Cとを併置し,乾燥装置Cの下流側はバケットエレベータ10に接続している。
2各装置の構成(1)加水攪拌装置A@供給部9調整タンク1の底部に,2方向に分岐した分配シュート2を接続し,分配シュート2の各分岐部は,バルブ用ギアドモータ4によって駆動するロータリーバルブ3にそれぞれ接続する。各ロータリーバルブ3はそれぞれ投入タンク5に連結される(投入タンク5から,後述する乾燥装置Cまでは同一構成で一系列に形成されるが,一系列のみを説明する。)。投入タンク5には吸水管11及び溢水管12を接続する。投入タンク5の底部は漏斗状に形成されて搬送ホース13の始端側に接続される。搬送ホース13の終端側は,加水攪拌部8に接続される。該搬送ホースを円筒体(図示省略)の外周に螺旋状に12回巻回して(2系統のうち一方が9回巻きで他方が10回巻きとなっているもの,2系統とも7回巻きであるものもある。)螺旋状部7を形成する。搬送ホース13の内径は38oで,全長は約16mであって,搬送ホース芯間隔は430oである。
A加水攪拌部8内部を中空にして横型の加水攪拌室22となした筒体21に,主軸25の一端を回転自在に押通して加水攪拌室22内に臨ませる。加水撹絆室22の,主軸25基端側上部寄りに供給口23を設けて搬送ホース13の終端部をこれに接続するとともに,同自由端側底部に排出口24を設けて排出樋15を設ける。加水攪拌室22内の主軸25には鎹(かすがい)状の攪拌バー26を複数個植設するとともに,その自由端部に複数の攪拌翼27を軸着する。筒体21外の主軸25他端には主軸用被動調車18を軸着し,該主軸用被動調車18と,主軸用電動機16の主軸用駆動調車17とを主軸用ベルト19によって連動連結する。
加水攪拌室22の端部には,加水攪拌室22から排出口24に向け,またそれとは逆に向けてそれぞれ漸次内径が縮小するよう,その内周面がテーパ状に形成されたオリフィス30を嵌入し,前記攪拌翼27の先端部はこのオリフィス30内に臨ませてある。一方,円錐形の抵抗体28を,前記攪拌翼27の反対側からオリフィス30内に臨ませ,その頂部を攪拌翼27と対時させる。一端で抵抗体28を支持する抵抗体軸31の他端は外部に突出させるとともにローレットボルト32に係合させ,このローレットポルト32を筒体21端部に螺合して回動させることにより抵抗体軸31を介して抵抗体28を軸方向に移動させ,抵抗体28とオリフィス30内周面との間隔を調整可能に形成する。抵抗体軸31の段部に係止したばね受け33とローレットボルト32との間に緩衝手段としてコイルばね29を介在させる。
(2)脱水装置B立設した投入パイプ41の上端は,連結ホース40により加水攪拌装置Aの排出樋15と連結される。投入パイプ41の下端は,下送スクリュー43を経て脱水槽49の底面部付近に位置する。脱水槽49の局面部には多数の開口部50を形成するとともに,この開口部50には精白米が漏出しない程度の金網を設ける。脱水槽49内には該周面部の内周に沿って駆動する上送スクリュー51を設け,上送スクリュー51は,その内部に設けた前記下送スクリュー43を介して竪軸42と一体に回転自在に設ける。竪軸42の下端にスクリュー用被動調車44を軸着し,スクリュー用被動調車44と脱水用電動機46のスクリュー用駆動調車47とは張り車45を介して竪軸用ベルト34により連動連結する。
立設した筒状のベアリングケース35と竪軸42との間に回転自在に中空軸36を設ける。中空軸36の上端は脱水槽49の底面部に連結するとともに,その下端に軸着した脱水槽用被動調車48と脱水用電動機46の脱水槽用駆動調車37とを脱水槽用ベルト38によって連結する。脱水槽49の上端部には,上送スクリュー51によって上送される脱水済み精白米の排出口52を設けるとともに,排出口52に排出樋53を接続する。脱水槽49の周囲には集水室54を形成し,集水室54の底部に排出口55を設けて排水パイプ56に連絡する。
排水パイプ56は,第3図及び第5図に示すようにポンプ93を介して一対の水槽94a,94bの各吸水口に通じ,水槽94a,94bの各排水口は,それぞれのポンプ95a,95bを介して投入タンク5の給水管11に連結する。
(3)乾燥装置C隔壁61内に横架したスクリーン用回転軸62により円筒状のスクリーン90を横設する。スクリーン90の全周壁には砕粒を漏出させるためのスリットが形成され,その内周面に,精白米を搬送するスクリュー64を備える。スクリュー64は二重螺旋になっていることからスクリーン90の内周面に対し36回分巻かれている。スクリュー64の搬送始端側を精白米の供給口91に,同搬送終端側を排出口92に各々形成し,供給口91にはホッパー65を設けるとともに,該ホッパー65は排出樋53により脱水装置Bの排出口52に連絡される。排出口92に近接して排出樋66を設け,該排出樋66はバケットエレベータ1Oの投入口に連絡する。スクリーン90内に,送風機69の吐出口に始端を接続した温風供給ダクト67の終端部を臨ませ,該終端部をスクリーン用回転軸62に摺動自在に支持させる。温風供給ダクト67の終端部には,複数の分岐管70によって連結されたフード71を垂下して設ける。フード71は,スクリーン用回転軸62に沿って下向きの開口を有し,角度変更ハンドル72によってスクリーン用回転軸62を中心に回転可能に設ける。温風供給ダクト67には複数のヒータエレメント68を装着する。スクリーン90上方の隔壁61に複数の排風口86を開口してこれら各々の排風管87を接続し,各排風管87の終端部は集合ダクト88に連結する。
スクリーン90下方の隔壁61底壁をコンベアケース78に形成し,コンベアケース78内に砕粒用スクリュー76を横設する。コンベアケース78の終端側は砕粒排出樋89に接続する。スグリーン90の上方に清掃体用回転軸73を横架し,清掃体用回転軸73には,スクリーン90外周面に当接してスクリーン90を清掃するウレタンゴム板74をスクリーン90の全長に対応して軸着する。コンベアケース78の下方一側にスクリーン用ギアドモータ80を配設し,スクリーン用ギアドモータ80の砕粒用スクリュー駆動調車81と,砕粒用スクリュー76の軸端に設けたスクリュー用被動調車79とはモータベルト82によって連動連結される。スクリュー用被動調車79と同軸に軸着された小径のスクリーン用駆動調車83と,スクリーン用回転軸62軸端に軸着したスクリーン用被動調車63と,清掃体用回転軸73の軸端に軸着した清掃体用被動調車75とは,張り車84を介してスクリーン用ベルト85によって連動連結される。
以上(図面)第1図第2図第3図第4図第5図控訴人物件目録ロ号物件たる「ジフライス設備JF3A若しくはJF1B」で製造され,かつ,下記特性を有する無洗米。
記a精米工程で除去しきれず米粒に残存する糊粉層等を水中搗精により歩留り減2%程度,換言すれば,米粒の表面を約10μ程度(表層部に相当)削り取る際に,吸収された水分が主として表層部を削り取られた後の表面より最深で約47μの部位(深層部上層に相当)にとどまっているうちに,強制的に遠心脱水,乾燥して得られる,b亀裂粒の存在が一部認められ,c炊飯に先立ち研ぎ洗いを要しない程度に米粒の糠分を除去した,d含水率が16%以下の,e無洗米。
別紙1別紙2別紙3別紙4
裁判長裁判官 竹原俊一
裁判官 若林諒
裁判官 山田陽三
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