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関連審決 審判1997-12277
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  手続違反 /  発明の詳細な説明 /  明瞭でない記載 /  参酌 /  実施 /  設定登録 /  請求の理由 /  訂正の目的 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  釈明 /  独立特許要件 /  訂正明細書 /  訂正要件 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 378号 審決取消請求事件
原告株式会社タダノ
訴訟代理人弁理士 大浜博
被告 株式会社加藤製作所
訴訟代理人弁理士 御園生芳行
訴訟代理人弁護士 多田武
同 今井博紀
同 伊豆田悦義
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/07/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が平成9年審判第12277号事件について平成11年9月17日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,発明の名称を「車両形クレーンのジブ格納装置」とする特許第2129544号の特許(昭和59年6月13日出願,平成9年5月16日設定登録,以下「本件特許」といい,その発明を「本件発明」という。)の特許権者である。
原告は,平成9年7月14日,本件特許を無効とすることについて審判を請求し,特許庁は,これを平成9年審判第12277号事件として審理した。被告は,上記審判手続において,平成11年1月19日に特許庁から特許無効理由通知を受け,同年2月4日付けで訂正請求書(以下「本件訂正請求書」といい,同請求書添付の訂正明細書を「本件訂正明細書」という。)を,同年3月19日付けで,本件訂正請求書の補正書を,それぞれ特許庁に提出した(以下,上記訂正請求及び手続補正に係る訂正を併せて,「本件訂正」という。)。特許庁は,同年9月17日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年11月1日にその謄本を原告に送達した。
2 本件訂正前の特許請求の範囲請求項1 「ジブの格納時には,その基端をブームの先端側に,また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し,上記ジブの使用時には,ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて,ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に,枢軸(判決注・「枢動」の誤記であると認める。)可能に取付けられたジブホルダと,上記ブームに設けられ,上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと,上記ブームに設けられ,上記ジブホルダをロック可能とする部材とを,備えたことを特徴とする車両用クレーンのジブ格納装置。」 3 本件訂正請求に係る特許請求の範囲請求項1(下線部が訂正個所である。) 「ジブの格納時には,その基端をブームの先端側に,また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し,上記ジブの使用時には,ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて,ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に,枢動可能に取付けられ,上記ジブの重心より基端側を保持する ジブホルダと,上記ブームに設けられ,上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと,上記ブームに設けられ,上記ジブホルダを,当該ジブホルダにより保持したジブの,前記ブームの側面側の横抱き位置において ロック可能する部材とを,備えたことを特徴とする車両形クレーンのジブ格納装置。」 4 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,@本件訂正により,上記特許無効理由通知に係る無効事由は解消した,A本件訂正後の発明は,審判甲第1号証の1,第2,第3号証,第4号証の1及び審判甲第8,第9号証,第10号証の1(本件訴訟における甲第15,第18,第19号証,第20ないし第23号証)記載の発明と同一であるとも,また上記各号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとも認められない,とするものである。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由A(手続の経緯)のうち,本件特許の出願,設定登録,無効審判請求,平成9年になされた訂正請求が却下され確定したこと(審決書2頁3行〜11行),被告が訂正請求書及び意見書並びに訂正請求書の補正書を提出したこと(2頁17行〜19行)は認め,その余(2頁12行〜17行)は争う。B(訂正請求)のB-1(訂正の内容)のうち,補正書によって訂正請求書が補正されたこと(審決書3頁3行)は争い,訂正請求書に添付された訂正明細書に訂正事項aないし訂正事項cの記載があること(3頁5行〜7頁10行。ただし,3頁6行に「18日」とあるのは「13日」の,7頁6行に「平成6年6月13日」とあるのは,「平成4年6月4日」の誤りである。),訂正事項e(7頁17行〜8頁1行),訂正事項f(8頁2行〜6行),訂正事項h(8頁13行〜17行),訂正事項i(8頁18行〜9頁2行)は認め,訂正事項d(7頁11行〜16行),訂正事項g(8頁7行〜12行),訂正事項j(9頁3行〜10行),訂正事項k(9頁11行〜14行)は否認する。B-2(訂正の目的の適否及び拡張変更の存否)のうち,訂正事項aについては,(a2)の訂正に関する認定判断(10頁7行〜11行)は認め,(a1)の認定判断(10頁3行〜7行)は争う。訂正事項b(10頁16行〜末行),同c(11頁1行〜4行),同d(11頁5行〜8行),同g(11頁15行〜18行),同j(12頁3行〜6行)が「明瞭でない記載釈明に当たる」ものであることは争う。訂正事項e(11頁9行〜10行),同f(11頁11行〜14行),同h(11頁19行〜末行),同i(12頁1行〜2行),同k(12頁7行〜10行)は認める。B-3(独立特許要件)のうち,本件訂正後の本件発明の要旨が審決認定のとおり(12頁15行〜13頁14行)であることは認め,訂正それ自体の法的効力は争う。B-3-2(特許法第36条第5項の規定の違反に関して)は争う。B-3-3(特許法第29条第1項又は2項の規定の違反に関して)のうち,審判甲号各証に審決認定の記載(15頁9行〜22頁5行)があることは認め,「対比・判断」(22頁6行〜28頁11行)は争う。B-3-4(結論)は争う。C(無効理由について)のうち,C-1(請求人の主張の概要)は認め(ただし,原告が審判手続において主張したのは,これだけではない。),C-2(当審の判断),D(むすび)は争う。
審決には,手続上の誤り(取消事由1),明細書の記載不備についての認定判断の誤り(取消事由2),平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書違反(取消事由3),独立特許要件についての認定判断の誤り(取消事由4)があり,違法であるから取り消されるべきである。
1 取消事由1(手続上の誤り) 審決には,次のとおり手続上の誤りがある。
(1) 本件訂正請求は,特許法153条2項に定める要件に適合しない特許無効理由通知書に対してなされたものであって,特許法134条2項に違反する。
(2) 本件訂正請求書(甲第9号証)に添付された本件訂正明細書には,12頁以下が欠落しており(別紙1参照),手続補正指令書に基づき手続補正書(別紙2参照)が提出されたものの,当該補正書による補正の内容は,もともと存在しない12頁の内容を補正しようとするものであって,補正は,実現不可能である。審決は,期間内に補正がなされなかったものとして,本件訂正請求書を特許法133条2項,3項に基づき却下すべきであったのにこれを却下せず,採用したものであって,明らかな手続違反を犯している。
(3) 訂正請求書には,「請求の趣旨及びその理由」を記載しなければならないとされている(特許法134条5項において準用する同法131条1項3号)。ところが,本件訂正請求書においては,請求の趣旨は「特許第2129544号の明細書及び図面を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正図面のとおりに訂正することを求める。」というものであり,請求の理由に挙げられている訂正事項は,訂正事項aないしkだけであるのに,本件訂正明細書には,上記aないしkの訂正事項以外にも多数の訂正事項が含まれている。審決は,本件訂正請求書に上記aないしk以外の訂正事項についての理由の記載がないにもかかわらず,特許法133条1項に規定する補正を命じないまま,本件訂正請求書を採用したものであって,この点でも手続違反が明らかである。
本件訂正請求書の請求の理由中に挙げられている「訂正事項d,g」は,請求の趣旨に掲げられている訂正内容,すなわち本件訂正明細書における訂正内容と異なる内容のものであるにもかかわらず,これに従って訂正の理由が記載されているため,請求の趣旨の訂正内容に対応した正しい訂正の理由が記載されていないことになる。本件訂正請求書の上記記載状況は,同法134条5項において準用する同法131条1項3号に違反している。審決は,この点についても同法133条1項に規定する補正を命じないまま,本件訂正請求書を採用したものであって,ここでもまた,手続違背を犯している。
(4) 本件訂正の請求の趣旨を構成する本件訂正明細書には,上記のとおり,本件訂正請求書の請求の理由中に記載のない訂正事項や,本件訂正請求書の理由中の記載とは異なる訂正事項が記載され,かつ訂正前の明細書の末尾部分を削除する訂正事項(本件訂正請求書添付の本件訂正明細書において,本文の12頁以下を削除した。別紙1参照)があるにもかかわらず,審決は,これらの点について特許法134条5項において準用する同法165条に基づく意見書提出の機会を与えなかった。これも審決の犯した手続違背である。
(5) 審決は,結論を導くのに必要な次の各判断を遺脱している。これは,特許法157条2項4号の「理由」を示さなかった手続違背に当たる,というべきである。
@ 本件訂正請求書は法的根拠のないものであるから採用すべきでないとの原告の主張に対する判断 A 被告が提出した平成11年3月19日付け手続補正書を採用した理由及びそこでの採用の範囲(12頁以下全部を採用したのか,「図面の簡単な説明」の部分だけを採用したのか。)についての判断 B 請求の趣旨を構成する本件訂正明細書に記載された,本件訂正請求書の請求の理由中に記載のない訂正事項や,本件訂正請求書の請求の理由中の記載とは異なる訂正事項が、特許法134条2項ただし書各号に規定する訂正要件及び同法134条5項において準用する同法126条2項から5項までに規定する訂正要件に適合しているか否かについての判断 C 原告の平成10年11月25日付け審判事件弁駁書(甲第6号証9頁7行〜末行)記載の主張に対する判断 2 取消事由2(明細書の記載不備についての認定判断の誤り) 本件訂正前の明細書には,@ジブホルダの位置を特定していないので,目的を達成し効果を奏することができない,という記載不備,A審判請求弁駁書(甲第6号証4頁10行〜17行,9頁7行〜末行,12頁12行〜21行)記載の明細書の記載不備があるにもかかわらず,審決は,@については,本件訂正によって記載不備が解消されたとの誤った認定判断をし,Aについては,認定判断を示さないまま,本件訂正請求書を採用した違法がある。
3 取消事由3(平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書違反) (1) 本件訂正について適用される平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書は,願書に添付した明細書又は図面の訂正は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないと規定している。
本件訂正明細書に記載された訂正事項のうち,本件特許請求の範囲請求項1中の「ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に,枢動可能に取付けられたジブホルダと,」を,「ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に,枢動可能に取付けられ,上記ジブの重心より基端側を保持するジブホルダと,」と訂正する訂正事項は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正ではない。
審決は,上記訂正は,本件訂正前の明細書中の,「このホルダ取付け用ブラケット15とブラケット取付け板16は,ジブ10の重心(2段目ジブ10aを引き込んだ状態での重心)をはさんでその基端側と先端側に設けられている。」との記載に基づくものであり,訂正前の特許請求の範囲の記載では特定されていなかったジブホルダの位置を特定するものであって,本件特許の願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内の訂正であるとする。しかし,この認定判断は誤りである。
本件訂正前の明細書中の上記記載は,ホルダ取付け用ブラケットとブラケット取付け板が,ジブの重心を挟んで,その基端側と先端側に設けられているという両者の関係を述べたものであり,ホルダ取付け用ブラケットが,単体でジブの重心の基端側に設けられていることを述べたものではない。したがって,上記訂正は,本件特許の願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではないから,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書の規定に違反する。
(2) 本件訂正明細書の詳細な説明の款に記載された「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」(甲第10号証4頁19行),「ジブホルダに前記ジブの重心より基端側を保持させたジブ」(同5頁3〜4行),「ジブ10の重心より基端側を保持するジブホルダ11」(同6頁1〜2行),「ジブ10の重心より基端側で,当該ジブ10の重心近傍を保持するジブホルダ11」(同9頁13〜14行),「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」(甲第12号証12頁15行)は,いずれも本件特許の願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではないから,平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書の規定に違反する。
4 取消事由4(独立特許要件についての認定判断の誤り) 審決は,本件訂正後の発明が,特許出願の際,独立して特許を受けることができるものであると認定判断した。しかし,本件訂正明細書に記載された特許請求の範囲に記載されている発明は,甲第15号証,第18ないし第23号証記載の発明と同一であるか,これらの発明に基づいて容易に発明することができたものかのいずれかであるというべきであり,特許法29条1項又は2項に該当するから,審決の上記認定判断は誤りである。
本件訂正前の発明と,甲第15,第18,第19号証記載の発明とは,本件訂正前の発明に「ジブホルダをシリンダによって駆動する」という技術が採用されている点を除き、同じである。ある機械装置において,駆動手段として「シリンダ」を採用した点には何らの発明的価値はなく,本件訂正前の発明には,その構成においても,効果においても,従来の同種装置を超えるものは何ら存在しない。
審決は,「本件訂正後の発明のジブホルダはブームの側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に枢動可能に取付けられ,かつジブの重心より基端側を保持するとともに,上記ブームに設けられた駆動シリンダによりジブホルダを枢動する構成」(審決書22頁7行〜11行)と訂正後の発明の構成を認定し,この構成による効果につき「この構成により,ジブの引き上げ時該ジブはジブホルダによりジブの重心より基端側を引き上げられることとなり,ジブにねじれモーメントが作用しないという効果を奏するものと認められる。」(審決書22頁11行〜15行)と認定した。しかし,上記構成のうち本件訂正に係る「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」の部分は,技術的に意味のない限定であり,上記構成と効果との間には何らの関連性もないというべきであるから,審決の上記認定判断は誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(手続上の誤り)について (1) 本件特許に対する特許無効理由通知書は,特許法153条2項に基づく適法な通知である。
(2) 本件訂正明細書の12,13頁の欠落については,手続補正書(甲第12号証)により,補正されたというべきである。
(3) 本件訂正請求書に添付された本件訂正明細書に,訂正前の明細書との対比において,本件訂正請求書に記載された訂正事項aないしkによる訂正と相違する点があるとしても,本件訂正請求書の全趣旨及び同訂正請求書と同時に提出した意見書の主張の趣旨に照らすと,被告が真に訂正を求めたのは,本件訂正請求書に記載された訂正事項aないしkのみにあることは疑いの余地がなく,上記相違点は,誤記にすぎないことが明らかである。
(4) 原告は,審決が原告の主張を採用しなかった理由を説示していない旨主張する。しかし,仮に,原告の主張に理由がない旨の積極的な説示がなくとも,そのことは,審決の全趣旨から読み取ることができるから,原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(明細書の記載不備についての認定判断の誤り)について (1) 原告は,本件訂正のうち,単に「ジブの重心より基端側」とする訂正によっては,ジブホルダの位置が特定されていないので,目的を達し効果を奏することができないという記載不備は解消されていない旨主張する。
しかしながら,車両用クレーンの通常の形状(ジブを水平倒伏状態のブームまわりに格納するに当たり,ジブの基端部ないし基端は,ブームの外筒よりもブームの先端側に突出する。)からして,ジブの基端部ないし基端にジブホルダを取り付けることが物理的に不可能であることは明らかである。
本件発明にかかる車両用クレーンのジブ格納装置は,ジブホルダで保持した,通常長さが10メートル近くにも達する長大ジブを,ねじれが発生しないように,ブームの下抱き位置から横抱き位置へ,又はその逆に移し替えることを目的とするものである。仮に,ジブホルダにより,ジブの基端部を保持することが可能であるとしても,そのような構成を採れば,当該ジブに,その自重により,ジブホルダで保持した基端部まわりにねじれが発生することは,当業者であれば直ちに予測できるから,ジブの基端部ないし基端をジブホルダで保持することなど当業者には到底考えられず,本件訂正にいう「ジブの重心より基端側」が,当該ジブの基端部ないし基端からかなり離れる,例えばジブの重心近傍を予定していることは,当業者であれば,直ちに読み取ることのできる事柄であるというべきである。このことは,本件発明の実施例を示す図面(甲第3号証の特許公報の第1図)に,ジブホルダをジブの長さの方向の中央部,すなわち,重心近傍に配するものが図示されていることからも裏付けられる。ジブの基端部ないし基端以外のどこにジブホルダを配設するかは,ジブの長短,形状,断面積,重量分布や,ジブ,ジブホルダ,駆動シリンダ,支軸,ブームの縦材等の各部材の強度・剛性などを考慮しつつ,当業者がねじれの生じない適所を決定することのできる設計的事項に属することであるにすぎない。
原告の主張は理由がない。
(2) 原告は,審決が,その他の記載不備に関する原告の主張について判断を示していない旨主張する。しかし,審決は,審判の過程で,原告が審判請求書で主張した本件訂正前の明細書の記載不備に関する原告の主張を審理し,その主張に理由がないと判断したからこそ,職権により当事者の主張しない記載不備があるとして特許無効理由通知を発したものであるから,仮に審決に原告の記載不備に関する主張を採用しない理由についての積極的理由がないとしても,審決は,原告の同主張に理由がないことを間接的に説示しているものということができるのである。
3 取消事由3(平成6年法律第116号による改正前の特許法134条2項ただし書違反)の主張について 原告は,原告の主張3(1)記載の訂正(「ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に,枢動可能に取付けられたジブホルダと,」を,「ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に,枢動可能に取付けられ,上記ジブの重心より基端側を保持する ジブホルダと,」とする訂正)が,本件発明の願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではないと主張する。
しかし,上記訂正は,本件特許の願書に添付された明細書中の「このホルダ取付け用ブラケット15とブラケット取付け板16は,ジブ10の重心(2段目ジブ10aを引き込んだ状態での重心)をはさんでその基端側と先端側に設けられている。」との記載に基づくものである。この記載が,「ホルダ取付け用ブラケット15(すなわち,ジブホルダの取付位置)は,ジブの重心より基端側に位置する」との技術内容を含むことは明らかであり,この記載からジブホルダの取付位置を読み取ろうとすれば,それが上記の位置となるのは当然である。
4 取消事由4(独立特許要件についての認定判断の誤り)について 本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明は,甲第15号証,第18ないし第23号証記載の発明とは,構成及び効果において相違し,しかも,後者から前者を推考することは容易でない。したがって,上記発明は,これらによって,その新規性,進歩性は否定されず,出願の際独立して特許を受けることができるものであるというべきである。
甲第15,第18号証記載の発明の支持アーム及びリンクと,本件発明のジブホルダとは,その構造を著しく異にする。また,甲第15,第18,第19号証には,ワイヤ等を介することなく,駆動シリンダでジブホルダを駆動する思想は開示されておらず,これらの発明の構成に甲第20号証等に開示された駆動シリンダの構成を適用することは容易とはいえない。
原告は,本件訂正に係る「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」の部分は,技術的に意味のない限定であり,上記構成と,ジブにねじれモーメントが作用しないという効果との間には何らの関連性もない旨主張する。しかし,上記訂正部分が,ジブの基端部ないし基端を保持することを予定するものではなく,ジブの基端部ないし基端からかなり離れた,ジブの重心の近傍部分を予定することを意味することは,当業者であれば容易に理解することができることは前記のとおりであるから,このような構成が上記効果と関連することは明らかであるというべきである。
当裁判所の判断
1 取消事由4(独立特許要件についての認定判断)について (1) 本件訂正請求に係る本件訂正明細書の特許請求の範囲において,ジブホルダの位置(ジブホルダがジブを保持する位置)が,「ジブの重心より基端側を保持する」とされていることは,当事者間に争いがない。
ここにいう,「ジブの重心より基端側」とは,ジブの重心近くの基端側の部分から,ジブの基端部までの間の,幅をもつ範囲を指すものであることは,その文言から,一義的に明らかであるというべきである。
(2) これに対し,審決は,「訂正されたジブホルダの位置は明細書の詳細な説明および添付図面から,ジブホルダにねじれを生じさせない位置,即ちジブの重心近傍での基端側を意味することは明らかであり,そして,この構成を採用することにより本件明細書で本件発明の目的としている「ジブにねじれ変形を生じされる(判決注・「生じさせる」の誤りであると認める。)ことなく移し替える」ことが可能となるものである。」(審決書14頁13行〜20行)と認定判断し,この認定判断を前提として,独立特許要件があるとの判断を導いた(審決書22頁7行〜15行,23頁16行〜19行,25頁6行〜11行参照。)。
しかしながら,本件訂正明細書の特許請求の範囲中の上記文言の意味が一義的に明らかであることは前記のとおりであるから,発明の詳細な説明の記載を参酌して上記文言の意義を限定して解釈することは許されないと解するのが相当である(最高裁判所第二小法廷平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁参照)。
被告は,「ジブの重心より基端側」の文言から,当該ジブの基端部ないし基端からかなり離れる,例えばジブの重心近傍を予定していることは,当業者であれば,直ちに読み取れることである旨主張する。しかしながら,上記文言から,審決のいう「ジブの重心近傍での基端側」といった特定の位置を読み取ることは到底できないものというべきである。被告の主張は採用できない。
仮に,上記文言の解釈に当たり,本件訂正明細書発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるとしても,上記審決のように解釈することはできないというべきである。証拠(甲第10,第12号証)によれば,本件訂正明細書発明の詳細な説明の「実施例」の欄に,「ジブ10の重心より基端側で,当該ジブ10の重心近傍を保持するジブホルダ11」(甲第10号証9頁13行〜14行)との記載があること(なお,甲第9号証によれば,本件訂正請求書には,同個所を「ジブ10の重心より基端側を保持するジブホルダ11」(5頁5行ないし8行。
下線部が訂正請求に係る個所)と訂正するとの記載があり,本件訂正明細書の記載と齟齬していることが認められる。被告は本件訂正明細書の記載は誤記であると主張するが,本件訂正請求書の請求の趣旨は,訂正前の明細書及び図面を本件訂正明細書記載のとおりに訂正することを求める,というものであるから,訂正後の明細書及び図面の内容は,明らかな誤記であると認められる場合を除き,訂正請求人の主観的意図にかかわらず,本件訂正明細書の記載によって定まるものと解するのが相当である。ジブの位置に関する上記訂正明細書の記載は,本件において重要な点であるから,明らかな誤記とみることはできない。仮に,本件訂正明細書の記載が誤記であると解したとしても,「ジブ10の重心近傍を保持する」との記載を欠くことになり,同記載部分を審決の上記限定解釈の根拠として取り上げるまでもないことになるだけである。),同明細書添付の第1図に実施例として示されたジブを備えた車両形クレーンのジブ格納状態の側面図に,格納されたジブの中間点付近(同図面にA-A線が示された付近)にジブホルダが表示されていることが認められる。しかしながら,上記明細書及び図面の記載は,単に1実施例を説明する記載にすぎず,特許請求の範囲の文言を上記実施例に記載されたものに限定して解釈すべき根拠は,本件全証拠を検討しても見いだすことができない。
そうすると,審決は,本件訂正後の発明につき,1実施例の構成にすぎないものを,誤って,本件訂正後の発明そのものの構成であると認定判断したものであり,審決がこの誤った認定判断を前提に,同発明の新規性,進歩性を判断し,独立特許要件を認めたものであることは,審決の説示自体から明らかであるから,上記認定判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことも明らかである。
2 以上のとおりであるから、審決は、その余の点につき判断するまでもなく、
取消しを免れないことが明らかである。
よって,審決を取り消すこととし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法
7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸
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