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関連審決 不服2002-14094
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10363号 審決取消請求事件
原告 小林製薬株式会社
訴訟代理人弁理士 大島泰甫,稗苗秀三,後藤誠司,小原順子
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 南澤弘明,山田忠夫,高木彰,高橋泰史,井出英一郎,伊波猛
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/08/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-14094号事件について平成16年12月1日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成10年特許願第223091号「ウェットティッシュ用容器」の出願人である。本件出願は,平成10年8月6日の出願であって,平成14年6月14日付けで拒絶査定となり,それに対する審判が平成14年7月25日に請求され,平成14年8月26日に手続補正書が提出され,審判において平成16年4月30日付けで拒絶理由が通知され,平成16年12月1日,審判請求不成立の審決があり,その謄本は同月14日原告に送達された。
2 本願発明(請求項1に記載された発明)の要旨 長さ方向に一定間隔をおいてミシン目を施した帯状のウェットティッシュが収容された容器本体と,該容器本体に着脱可能に被嵌される合成樹脂製の蓋体と,該蓋体に一体的に穿設されたウェットティッシュの取出孔とを備えたウェットティッシュ容器であって,前記蓋体の取出孔周辺に他の部分よりも容器厚を厚くした厚肉部が形成され,この厚肉部にミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出すことのできるだけの開口面積と,孔壁全体から受ける摩擦抵抗によってウェットティッシュに施したミシン目を切断分離せしめるのに必要な抵抗を与え,かつ通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して取出孔形状が変形しない所定の孔長さとを備えた取出孔が穿設されたことを特徴とするウェットティッシュ用容器。
3 審決の理由の要点 (1) 引用例 審判において通知した拒絶理由に引用され,本願の出願前に国内において頒布された刊行物である,実願平5-45145号(実開平7-13777号)のCD-ROM(引用文献1。本訴甲2)には,実用新案登録請求の範囲に「長さ方向に一定間隔を置いてミシン目を付しジグザグに折り畳んだ帯状のウェットティッシュ・・・を容器本体に収納したウェットティッシュ用箱型容器において,容器本体の口縁部に蓋を着脱可能に嵌着し,蓋の上面に形成したウェットティッシュの取出口に,小孔を穿設した弾性部材からなる取出板を取り付け,取出口を気密に覆うキャップを備えていることを特徴とするウェットティッシュ用容器。」,段落【0002】に「【従来の技術】・・・狭小な取出口から取り出すので,比較的強く引っ張らなければならないばかりでなく,取り出す途中でウェットティッシュが切断することがあり,再度取り出すことができる状態に修復するのが困難であるなどの問題がある。」,段落【0007】に「合成樹脂からなる箱型容器本体」,段落【0008】に「蓋4の上面には,ウェットティッシュ2を取り出すための取出口5を形成し,取出口5の凸部6には,小孔7を穿設した弾性部材からなる取出板8を挿嵌したり,接着剤で接着するなどの適宜な方法で取り付ける。小孔7の形状は,・・・比較的大きく形成すれば強く引っ張らなくても取り出せ,また,取り出した後に広げ直さなくてもよい。なお,小孔7を上記のように形成することにより,容器本体1内部の液の蒸発を防ぐ。」,段落【0012】に「本考案のウェットティッシュ用容器は,箱型で安定しており,蓋の上面に形成した取出口に小孔を穿設した弾性部材からなる取出板が取り付けられているので,ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せ」と記載されており,これらの記載及び図1〜3を参照すると,引用文献1には,「長さ方向に一定間隔をおいてミシン目を施した帯状のウェットティッシュが収納された合成樹脂製容器本体と,該容器本体に着脱可能に被嵌される蓋と,該蓋に穿設されたウェットティッシュの取出口とを備え,該取出口周辺の凸部に,ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさの小孔を穿設した弾性材料からなる取出板を接着等の方法で取り付けたウェットティッシュ用容器」という発明が記載されている。
(2) 対比 本願発明と引用文献1記載の発明を比較すると,引用文献1記載の発明の「蓋」,「小孔」は,それぞれ,本願発明の「蓋体」,「取出孔」に相当し,引用文献1記載の発明において,小孔が「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさ」であることは,「ミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出すことのできるだけの開口面積」といえ,また,引用文献1記載の発明において,蓋の取出口周辺の凸部に,小孔を穿設した弾性材料からなる取出板を接着等の方法で取り付けているから,図3をみても明らかなように,小孔周辺には取出板により蓋の他の部分の容器厚よりも厚い厚肉部が形成され,この厚肉部に小孔が穿設されているといえるから,両者は,「長さ方向に一定間隔をおいてミシン目を施した帯状のウェットティッシュが収容された容器本体と,該容器本体に着脱可能に被嵌される蓋体と,該蓋体にウェットティッシュの取出孔とを備えたウェットティッシュ用容器であって,前記蓋体の取出孔周辺に他の容器厚よりも厚くした厚肉部が形成され,この厚肉部にミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出すことのできるだけの開口面積を備えた取出孔が穿設されたウェットティッシュ用容器」の点で一致し,下記の点で相違している。
相違点1:本願発明では,蓋体が合成樹脂製で,該蓋体に一体的に穿設されたウェットティッシュの取出孔を備え,厚肉部が容器厚を厚くして形成されているのに対し,引用文献1記載の発明では,そのようにはなっていない点。
相違点2:取出孔が,本願発明では,ミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出すことのできるだけの開口面積と,孔壁全体から受ける摩擦抵抗によってウェットティッシュに施したミシン目を切断分離せしめるのに必要な抵抗を与え,かつ通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して取出孔形状が変形しない所定の孔長さとを備えているのに対し,引用文献1記載の発明では,そのような事項が明記されていない点。
(3) 相違点についての判断 相違点1について検討すると,引用文献1記載の発明の容器本体は合成樹脂製であり,また,上記審判における拒絶理由に引用文献2として引用した,実願昭59-119002号(実開昭61-35148号)のマイクロフィルム(本訴甲3)にも記載されているように,ウェットティッシュ用容器の蓋体を合成樹脂製とすることは周知技術にすぎないから,蓋も合成樹脂製とすることは設計的事項にすぎない。また,引用文献1記載の発明においては,厚肉部を容器と別体の取出板を用いて,蓋の取出口周辺の凸部に取出板を接着等の方法で取り付けて形成しているが,これを,容器厚そのものを厚くして一体に形成すること,さらに,蓋体そのものにウェットティッシュの取出孔を穿設するようにすることは当業者が容易に想到できたことにすぎない。
次に相違点2について検討する。
請求人(原告)は,本願発明の相違点2に係る構成の補足説明として,審判での審尋に対し,「本願発明における取出孔は,途中でミシン目が切断分離されることなくウェットティッシュがスムーズに孔内を通過できる程度の開口面積・・を設定しています。そして,ウェットティッシュと取出孔の孔壁との接触圧が低下して不足することになった摩擦抵抗は,孔長さを長くすること・・によって補うこととし,具体的には厚肉部を形成し,この厚肉部に取出孔を穿設するようにしたものです。」と回答している。つまり,取出孔の開口面積と長さは,取出孔の開口面積を大きくすることによって,ウェットティッシュが取出孔を通過するに当たってはスムーズに通過できるが,その代わりに孔の側壁を長くして摩擦抵抗を大きくすることによって,ミシン目において切断できる抵抗力となっていることを意味していると解される。
一方,引用文献1記載の発明においても,小孔を,従来のものよりも大きくすることによって,途中でミシン目が切断されることなくウェットティッシュがスムーズに孔内を通過できる程度の開口面積に設定しており,また,小孔の孔長さは,小孔が,蓋の取出口周辺の凸部に接着等の方法で取り付けた弾性材料からなる取出板に穿設されているから,蓋に穿設された取出口の穴長さより長くなっていて,小孔の孔壁における摩擦抵抗を大きくしており,明記されてはいないが,当然小孔は,孔壁全体から受ける摩擦抵抗によってウェットティッシュに施したミシン目を切断分離せしめるのに必要な抵抗を与えていると解される。
さらに,本願発明の「通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して取出孔形状が変形しない」という事項に関しては,明細書の段落【0013】に「取出孔は,前述の従来容器のように薄肉突片を使用しておらず,取出孔自体が単純な形状で,かつ十分な長さを有しているため,ウェットティッシュ引き出しによって塑性変形を生じることがなく,何回でも繰り返し使用が可能という大きな利点を有する。」,段落【0017】に「取出孔の長さ方向に十分な厚みを備えることにより,抵抗を与える際に突条部自身が撓んだり変形することがない点で,従来の薄肉状突片とは明らかにその作用効果を異にするものである。」,段落【0028】に「突条部14の厚みは,膨出部11の厚み1.7mmに等しく,十分な厚みを有しているため通過するウェットティッシュによって生じる応力に対して変形することはない。」,段落【0031】に「突条部は,通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して変形しない厚みを備えているため,ウェットティッシュ引き出しによって塑性変形を生じず,何回でも繰り返し使用が可能という大きな利点を有する。」と記載されており,これらの記載からみると,「変形しない」とは撓んだり塑性変形をしないことを意味していると解され,一方,引用文献1記載の発明の小孔も,そういう意味で通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して孔形状が変形しない所定の孔長さを備えていると解される。仮にそうでないとしても,そのような孔長さとすることは,当業者が容易に想到できる事項にすぎない。
したがって,上記相違点2に係る構成は,引用文献1記載の発明から当業者が容易に想到することができた構成にすぎない。
そして,本願発明によってもたらされる全体的効果も,引用文献1記載の発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって,格別なものとはいえない。
(4) 審決のむすび 以上のように,本願発明は,引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用文献1記載の発明の認定の誤り) 審決が,取出板の小孔を,「取出口周辺の凸部に,ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさの小孔」と認定したのは誤りである。
当業者の技術常識(広辞苑第5版の「弾性」の項(甲5),実公昭55-13246号公報(甲6)及び実開平3-11889号(甲7))からすると,引用文献1記載の発明において,ウェットティッシュを小孔に保持している状態では,弾性部材からなる取出板がウェットティッシュから外力を受けて弾性変形し,取出板の弾性力がウェットティッシュに作用していること,ウェットティッシュを小孔から引き出す際には,取出板の弾性力が抵抗力として作用していることは明らかである。
そうすると,引用文献1記載の小孔について,取出板の自由状態(ウェットティッシュが小孔に保持されていない状態)では,小孔は,ウェットティッシュを保持しているときよりも,その開口面積が小さくなっているのであるから,小孔そのものの大きさは,審決で認定しているような「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさ」ではないのである。
このように,引用文献1記載の発明は,弾性部材からなる取出板による弾性機能によってウェットティッシュを挟圧保持しているにもかかわらず,審決では,取出板の弾性変形を無視して取出板の小孔を,「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさ」と認定しており,当業者の技術常識から逸脱した重大な誤りがある。
2 取消事由2(対比判断・進歩性判断の誤り) (1) 小孔・取出孔の開口面積の対比判断の誤り 審決では,「引用文献1記載の発明において,小孔が「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさ」であることは,「ミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出すことのできるだけの開口面積」といえ」とし,本願発明と引用文献1記載の発明との一致点を,「厚肉部にミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出すことのできるだけの開口面積を備えた取出孔が穿設されたウェットティッシュ用容器」と認定しているが,誤りである。
引用文献1記載の発明は,弾性部材からなる取出板の弾性変形によってウェットティッシュを保持しているのであるから,取出板の自由状態(ウェットティッシュが小孔に保持されていない状態)では,小孔は,ウェットティッシュを保持しているときよりも,その開口面積が小さくなっており,本願発明の取出孔の開口面積に比べて小さいものである。したがって,引用文献1記載の小孔の開口面積と本願発明の取出孔の開口面積とを同一視するのは誤りである。
(2) 相違点1についての判断の誤り 引用文献1記載の取出板は弾性部材であるが,蓋体は弾性機能を備えていない合成樹脂製であり,蓋体の容器厚そのものを厚くしても,その厚肉部では弾性機能を発揮できないのは明らかであるから,引用文献1記載の発明では,弾性部材からなる取出板を蓋体の容器厚そのものを厚くして形成することはできない。審決は,根拠を示すことなく,取出板を「容器厚そのものを厚くして一体に形成」することは容易に想到し得ると誤って判断している。
これに対し,本願発明は,開口面積と孔長さの取出孔を確保できる厚肉部を設け,この厚肉部として蓋体の容器厚そのものを厚くして一体に形成したものである。
本願発明のように,弾性機能を備えた素材を使用しないならともかく,引用文献1記載の発明のように,弾性部材からなる取出板を,弾性機能を備えていない蓋体の容器厚そのものを厚くして一体に形成するといった点は,当業者の技術常識に反しており,相違点1に対する審決の判断には誤りがある。
(3) 相違点2についての判断の誤り 引用文献1記載の発明の小孔は,弾性部材からなる取出板に形成されており,ウェットティッシュが孔内を通過する際には,取出板の弾性機能によりウェットティッシュは取出板から挟圧力を受けていることは明らかであるから,ウェットティッシュの存在しない取出板の自由状態において,小孔の開口面積そのものは,ウェットティッシュをスムーズに孔内を通過できる程度の大きさにはなっていない。
しかも,ウェットティッシュに施したミシン目を切断分離せしめるのに必要な抵抗は,取出板の弾性機能により,取出板側からウェットティッシュに与える挟圧力と,この挟圧力をウェットティッシュに伝達する小孔の孔壁全体とから発生するものである。
また,審決は,本願発明の取出孔が変形しない点について,「引用文献1記載の発明の小孔も,そういう意味で通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して孔形状が変形しない所定の長さを備えていると解される。」と認定しているが,引用文献1記載の発明の小孔は,取出板の弾性機能により,通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して変形する(撓む)ことは明白であり,孔形状が変形しないとする審決の認定は誤りである。
確かに,蓋体は合成樹脂製であり,容器本体に被せられるものである以上,ある程度の応力が加われば,弾性変形(撓み変形も含む。)する点については異論はないが,本願発明において,ウェットティッシュの引き抜き等によって取出孔が一体成形された蓋体に応力が加わった場合,変形するとすれば,当然ながら,蓋体のうち,より薄く形成された厚肉部周辺の他の(薄肉)部分であり,厚肉部に影響を及ぼさない。つまり,技術常識に照らし至極当然のことながら,本願発明の取出孔形状は変形しないのである。「取出孔形状が変形しない」とは,まさに文言どおりに解釈すべきである。
審決は「仮にそうでないとしてもそのような孔長さとすることは当業者が容易に想到できる事項にすぎない。」と判断しているが,その根拠は示されていない。
したがって,審決の「相違点2に係る構成は,引用文献1記載の発明から当業者が容易に想到できる事項にすぎない。」との判断は,誤りである。
(4) 効果についての判断の誤り 本願発明は,出願時における技術常識とは逆の発想により,引用文献1記載の発明のような弾性部材からなる取出板を使用せずに,塑性変形しない取出孔形状を確保し,かつ取出孔の開口面積と孔長さとにより,ミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出し,かつウェットティッシュに施したミシン目を切断分離せしめるのに必要な抵抗を与えているのであって,ウェットティッシュの引き出しによって塑性変形を生じることがなく,何回でも繰り返し使用が可能であるという効果を奏するものであるが,このような効果は,弾性部材を使用することにより弾性変形が生じ,繰り返し使用に限度が生じる引用文献1記載の発明から予測できるものではない。
(5) 進歩性の判断の不明瞭さ 審決においては,本願発明と引用文献1記載の発明との相違点について,動機づけとなる記載の根拠を示すことなく,本願発明を容易に想到し得るとしている。この点,審決の判断に重大な遺漏がある。
当裁判所の判断
1 取消事由1について 原告は,引用文献1記載の小孔について,取出板の自由状態(ウェットティッシュが小孔に保持されていない状態)では,小孔は,ウェットティッシュを保持しているときよりも,その開口面積が小さくなっているのであるから,小孔そのものの大きさは,審決で認定しているような「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさ」ではない,と主張する。
しかし,引用文献1(甲2)には,小孔を穿設した取出板から,ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せることが明確に記載されており(【0001】【0003】【0005】【0012】),審決が,引用文献1記載の発明の構成として「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさの小孔」を認定した点に誤りはない。
仮に,引用文献1記載の発明において,取出板の自由状態では,ウェットティッシュを保持しているときよりも,小孔の開口面積が小さくなっているとしても,そのときの開口面積の大きさ自体,ウェットティッシュを取り出す際には「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさ」であるということができるから,自由状態とそうでない状態の開口面積の違いに意味はない。
審決には,取消事由1に関する誤りはない。
2 取消事由2について (1) 小孔・取出孔の開口面積の対比判断について 前記1で示したとおり,審決が,引用文献1記載の発明として「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさの小孔」を認定したのに誤りはない。
そして,引用文献1記載の発明は,「狭小な取出口から取り出すので,比較的強く引っ張らなければならないばかりでなく,取り出す途中でウェットティッシュが切断することがあり」(【0002】)とする従来の技術の問題点を解決すべくなされたものであるから,小孔が「ウェットティッシュを軽い力で片手で取り出せる大きさ」であることは,「ミシン目を切断分離せずにウェットティッシュを取り出すことのできるだけの開口面積」といえる,との審決の判断は是認し得るものである。
(2) 相違点1の判断について 実願昭59-119002号(実開昭61-35148号)のマイクロフィルム(甲3)及び実公昭55-13245号公報(乙1)には,合成樹脂製の蓋自体に内容物取出口や丸孔を設けることが記載されていて,取出口と蓋とを一体に形成することは本件出願前周知であったと認められる。
原告は,引用文献1の蓋体は弾性機能を備えていない合成樹脂製であることを前提にして,蓋体の容器厚そのものを厚くしても,その厚肉部では弾性機能を発揮できないのは明らかであると主張する。なるほど,引用文献1には,取出板8と蓋4とによって,本願発明の蓋体に相当する構成を成しているが,この引用文献1記載の発明の構成を取出口と蓋とを一体に形成する際には,この一体となるものの弾性機能をほぼ同一の素材とすればよいことであり,原告のこの主張は理由がない。
したがって,相違点1について,「引用文献1記載の発明においては,厚肉部を容器と別体の取出板を用いて,蓋の取出口周辺の凸部に取出板を接着等の方法で取り付けて形成しているが,これを,容器厚そのものを厚くして一体に形成すること,さらに,蓋体そのものにウェットティッシュの取出孔を穿設するようにすることは当業者が容易に想到できたことにすぎない」と審決が判断した点に,原告主張の誤りはない。
(3) 相違点2の判断について (3)-1 原告は,引用文献1記載の発明において,ウェットティッシュの存在しない取出板の自由状態において,小孔の開口面積そのものは,ウェットティッシュをスムーズに孔内を通過できる程度の大きさにはなっていない,と主張するが,前記1で示したとおり,自由状態とそうでない状態の開口面積の違いには技術的意味は認められない。
そして,前記のように,小孔を「比較的大きく形成すれば強く引っ張らなくても取り出せ」(【0008】)と記載されているとおり,小孔を大きくすることも示唆されているのであるから,審決が「引用文献1記載の発明においても,小孔を,従来のものよりも大きくすることによって,途中でミシン目が切断されることなくウェットティッシュがスムーズに孔内を通過できる程度の開口面積に設定しており」と認定した点に誤りはない。
また,取出板の弾性機能により,取出板側からウェットティッシュに挟圧力を与えるとしても,ウェットティッシュを引き出す際には,この挟圧力が摩擦抵抗を生じさせることによってミシン目が切断されるものと認められるから,審決が「当然小孔は,孔壁全体から受ける摩擦抵抗によってウェットティッシュに施したミシン目を切断分離せしめるのに必要な抵抗を与えていると解される。」と判断した点にも誤りはない。
(3)-2 次に,「一方,引用文献1記載の発明の小孔も,そういう意味で通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して孔形状が変形しない所定の孔長さを備えていると解される。仮にそうでないとしても,そのような孔長さとすることは,当業者が容易に想到できる事項にすぎない。」との審決の判断中の「所定の孔長さ」の部分の構成の容易想到性についてみるに,本願明細書(甲4及び12の2)には,この「孔長さ」について具体的な説明はなく,発明の詳細な説明に「ミシン目が切断分離されずにそのまま通過することのできる開口面積を確保した上で,取出孔長さを調整することで孔壁の摩擦抵抗によってミシン目を切断するものである。」(【0010】)などと記載されているのみである。
他方,引用文献1記載の発明においても,取出板8に設けられた小孔は,ウェットティッシュを切断することなく取り出せ,ウェットティッシュと密着する大きさであって,「所定の厚み(孔長さ)を有することが見てとれる」のであり,この孔長さを,上記のような発明の詳細な説明の記載によって理解される程度の技術的意義のものにとどまるところの,「孔壁全体から受ける摩擦抵抗によってウェットティッシュに施したミシン目を切断分離せしめるのに必要な抵抗を与え」,かつ,「通過するウェットティッシュによって生ずる応力に対して取出孔形状が変形しない所定の孔長さとを備えている」取出孔とすることは,当業者にとって容易に想到することのできる事項に属するものというべきである。
(3)-3 「取出孔形状が変形しない・・・取出孔」の構成についてみるに,本願発明における「取出孔形状が変形しない」とは,撓んだり塑性変形をしないことを意味しているものと認めることができる。この点は審決が認定し,原告も争っていないところである。
引用文献1の記載をみると,請求項1に「弾性部材からなる取出板を取り付け」と規定されているものの,他方で【0008】には,取出板8に穿設される小孔7について,「比較的大きく形成すれば強く引っ張らなくても取り出せ,また,取り出した後に広げ直さなくともよい。」との前提の下,このように小孔7を形成することにより,容器本体1内部の液の蒸発を防ぐ,取出板8の材料としては,シリコーンゴムなどの弾性を有するものが好ましい,との趣旨の記載がある。これらの引用文献1の記載からは,塑性変形は生じない程度の取出板8の素材が使用されることも示唆されているものということができ,この示唆からすると,「取出孔形状が変形しない・・・取出孔」との本願発明の構成は容易に想到することができるものといわなければならない。なお,本願明細書には,本願発明の構成そのものについて記載した箇所ではない発明の詳細な説明中の【0013】に,「取出孔は,・・・ウェットティッシュ引き出しによって塑性変形を生じることがなく」とされているものの,特許請求の範囲においては,「取出孔形状が変形しない・・・取出孔」との構成において,撓んだり塑性変形をしないことを越え,変形の程度を規定しているものではない。
(3)-4 以上のとおりであって,相違点2に関する審決の判断にも誤りはない。
(4) その余の原告の主張について 相違点1,2を含む本願発明の構成が,引用文献1記載の発明から容易に想到することができる以上,本願発明の奏する効果も引用文献1に記載のところから容易に想到することができるものにすぎないというべきである。また,以上説示したところによれば,審決の判断に重大な遺漏があるということもできない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 野輝久
裁判官 塩月秀平